エンタープライズ エピソードガイド
第66話「策略」
Stratagem
イントロダクション
激しい音と揺れに、デグラ※1は目を覚ました。髪が乱れている。 立ち上がるデグラ。小さな船の中におり、誰かが操縦席にいる。 窓の外には宇宙空間が広がっている。 デグラ:「お前は誰だ。」 振り返ったのはアーチャーだ。「エンジンが狙われてる。」 やはり乱れた髪と服装。 デグラ:「私にどうしろと言うんだ。」 窓の外に、こちらを攻撃してくる複数の船が見えた。 アーチャー:「武器に詳しいんだろ? シールドをオンラインにできるか、見てくれ。…シールドを起動できなきゃ、この船は蒸気となって消えるだけだ。」 アーチャーはデグラをどけ、自分で操作する。 攻撃してくる 2隻の船を窓から見るデグラ。「昆虫族※2じゃないか。」 アーチャー:「これがシールドエミッターだ。」 モニターの船体の図の周りに、シールドが張られる様子が表示された。 アーチャー:「…今のうちに逃げよう。」 デグラ:「彼らの船に呼びかけてくれ。」 「何?」 「ズィンディだ、私が発砲を止めさせる。」 「あんたが指揮権をなくしてからもう随分経つ。」 また隣のモニターを見るアーチャー。「右舷のタンクにワーププラズマが、500リットル積んである。こいつを使おう。合図でレバーを下ろせ! …このままじゃ殺される! …今だ!」 動かすデグラ。 プラズマが排出される様子を、モニターで確認するアーチャー。 2つの光点はプラズマに巻き込まれ、後方に消えていった。 ため息をつくアーチャー。 デグラ:「どうなった。」 アーチャー:「プラズマが奴らのマニホールドに入った。エンジンがオーバーヒートしてる!」 喜ぶ。 「お前は何者なんだ。…なぜ私を拉致した。」 「覚えてないのか。…この時を恐れてた。私だよ。アーチャーだ!」 「お前の種族は何だ。」 「この 2日間、いろいろなことがあった。…まずは、説明を…」 「種族を聞いているのだ!」 「……人間だ。」 後ずさりするデグラ。「あの地球の船に。」 アーチャー:「デグラ、話を聞いてくれ。私はもう敵じゃない。…あんたはこの 2日間、昆虫族に尋問を受けてた。そこで使われた自白剤か何かで、記憶が途切れたんだ。…私の名は、ジョナサン・アーチャーだ。一緒に昆虫族の捕虜収容所から逃げ出してきた。」 「収容所?」 「私達は 3年近くも同じ監房に入れられていたんだよ。」 「…そんなことあるはずがない!」 「袖をまくれ。」 アーチャーも腕を見せる。引き寄せるデグラ。 2人には、似たような模様が刻まれていた。 アーチャー:「…我々の間の戦いは、終わったんだ。どちらも負けた。」 離れるデグラ。 アーチャー:「後で何もかも説明する。だが今はここから脱出しなきゃならん。奴らがエンジンを直す前にな!」 デグラ:「行き先は。」 「一週間の距離に星系がある。孤立してるから、簡単には見つからない。」 船が揺れ出した。デグラが窓を見ると、ワープに突入して星が流れ出した。 髪に触れ、また腕の模様を見たデグラ。 |
※1: Degra (ランディ・オグルスビー Randy Oglesby) 前話 "Proving Ground" 「アンドリア人の協力」に引き続き登場。声:木村雅史 ※2: このタイプの昆虫ズィンディ船が登場するのは初めて。ENT第10話 "Fortunate Son" 「復讐の連鎖」に登場した、ノーシカン船の使い回し |
本編
尋ねるデグラ。「同胞が私を収容所に放り込んだと?」 笑うアーチャー。 デグラ:「おい何がおかしい。」 アーチャー:「あんたがあの太りかえったコオロギ※3どもを同胞なんて呼ぶのは久しぶりだよ。」 「なぜ私はお前を覚えていない。」 「恐らくアカムシのせいだろう。」 「…『アカムシ』。」 「尋問中に使われてた。分泌物が、自白剤の代わりになるんだ。捕虜によく使う。…だが副作用があって、時々記憶をなくすことがあるんだよ。…私も記憶を失った。飛行学校以降の記憶を。…何日かすれば自然に戻るさ。」 「私が 3年も捕虜でいたと?」 「その通り。」 「それが本当なら、なぜ今さら尋問する。」 「情報が欲しいんだ。兵器のな。」 「…兵器のどんな情報だ。」 「……長い話だ。最後に覚えているのは。」 「私は自分の船で、カリンドラ星系※4に向かっていた。」 「兵器テストは…破壊工作のせいで失敗した※5。」 「なぜお前にわかる。」 「私がその原因だ。人を使ってキモサイトに、細工させた。」 「グレイリック。」 「キモサイトの用途を話してやったら、すぐに寝返った※6。」 「許せん! 奴を死刑にすべきだ。」 「…なったよ。……結果は、大して変わらなかった。…我々は、あんたたちを止められなかったんだ。…数週間後、兵器は発射され地球は破壊された。」 「……成功したのか。」 「あれが成功と呼べるかどうか。…地球を破壊した後…ズィンディ同士の争いが、再燃した。…昆虫族がほかのズィンディを攻撃し始めたんだ。何万という同胞を殺した。」 「そんなこと、爬虫類族と水棲族が許すはずがない!」 「なす術はなかった。あんたたちが夢中で兵器を…造っている間、奴らは何百という船を造ってたんだ。…地球攻撃はただの目くらましで、奴らの本当の目的はズィンディを支配することだった。」 声を上げるデグラ。 アーチャー:「痛むか。」 デグラの腕の下で、細長い生き物がうごめいている。 アーチャー:「それがアカムシだ。そのうち出る。」 デグラ:「……取り出せないか。」 アーチャーは立ち上がり、後方を探る。ケースを取り出し、中の道具を持ってきた。 ナイフを手にした。「動くな?」 デグラの腕を切るアーチャー。 痛みに声を上げるデグラ。傷口の周りを押すと、生物の一部が見える。 アーチャーはそれをつかみ、引き抜いた。傷口を押さえるように指示する。 生き物をケースの中に入れるアーチャー。 デグラの様子を見るアーチャー。荷物の一つから、ボトルを出した。 中を臭ってみる。「…あんたの方が必要そうだ。」 首を振るデグラ。 アーチャー:「好きにしろ。」 口にした。 デグラ:「…とても信じられんよ。ズィンディと人間が…こんなに急速に歩み寄れるものなのか。」 「ヘ、急速ってわけじゃない。」 額の傷を指さすアーチャー。「初対面であんたにやられた傷だ。…看守はわざと私たちを同じ房にし、退屈しのぎにどちらが生き残るか賭けていた。私は弱ってたから、本命はあんただったよ。…私の大切な人はみんな死んだ。…その敵のあんたを許せるわけがない。…最初は、争いが絶えなかった。だが私は、徐々に悟ったんだ。『この男を殺したところで何も、変わりはしない』と。私の世界は消えたが…あんたも同じだ。だから私は申し出た。2人で手を組んでここから逃げ出さないかって。…予想より時間はかかったが、ヘ…この通りだ。」 「…こんな様式の船は見たことがないが。」 「マロージアン※7の貨物船だ。」 「マロージアン?」 「商人だよ。月に 2、3度、収容所に物資を運んでる。…武器はないが、目的地にはたどり着ける。」 「目的地っていうのはあんたの船か。…まだデルフィック領域に?」 「残念だが……もう少しで兵器発見って時に、昆虫族が船を追ってきて…私を捕虜として連れ去った。土産に、ワープリアクターに爆弾を仕掛けてな。船は、クルーもろとも吹き飛ばされたよ。」 「……確かに昆虫族は攻撃的な種族だが、そんなことまでやってのけるとは。これまでの評議会の努力が台無しだ。」 「評議会?」 「全ズィンディが属する、新たな母星を作り出すために組織されたんだ。何年かの探査の末我々は複数の候補地を見つけたが、最終段階で決裂した。…そのまま、再統一は凍結されたよ。地球からの脅威を知ったからな。私は、兵器の設計を命じられた。」 デグラを見るアーチャー。 デグラ:「何年も研究を続け、その間多くの犠牲を払った。私の妻もだ。…私は、家族が…どうなったか話したか。」 アーチャー:「捕まる前にナーラ※8から、連絡があったと。家族は無事だ。」 ため息をつくデグラ。 アーチャー:「……家族を捜そう。どこにいるんだ。」 デグラ:「…赤色巨星近くのコロニーだ。」 コンピューターを操作するアーチャー。「この近くにはない。座標を覚えてるか。」 デグラ:「無事なわけがない、真っ先に狙われてもおかしくないコロニーだ。」 「行ってみる価値はある。」 「…危険すぎる。…パトロール船に追われてる身だ。万一に備えて避難場所を…」 大きな音が響いた。 アーチャー:「冷却剤だ。コンジットに亀裂が入ったんだろう。」 船体の一部が破れ、白い気体が流れ込んでいる。 咳き込むデグラ。 道具を取り出すアーチャー。別の場所には同じ物はない。 アーチャー:「…使え。」 マスクを差し出す。 デグラ:「あんたはどうする。」 「家族のためだ。会いたくないのか。」 マスクを被るデグラ。 アーチャー:「裂け目を、ふさいでくれ。…私はタンクを…閉じられるか見てみる。」 裂け目に沿って道具を使うデグラ。ふさがっていく。 咳を続けるアーチャー。気体が充満し、アーチャーは倒れ込んだ。 デグラは裂け目をふさぎ終わった。アーチャーにマスクを当てる。 互いに呼吸する。 簡素なベッドで眠っているデグラ。アーチャーは様子をうかがうように、起き上がった。 もう一度デグラが寝ていることを確認する。密かにハイポスプレーを取り出し、デグラに注射した。 その様子がモニターに映っている。アーチャーは話しかけた。『トゥポル。』 操作されるボタン。 ハッチが開き、アーチャーが出てきた。「マロージアン船」の隣に、タッカーやメイウェザーがいる。 MACO が護衛についている。 ハイポスプレーを渡されたフロックス。「あと 2時間は意識が戻りません。」 偽の船の窓にあたるところには、星の流れを映す大きなモニターが置かれている。 タッカー:「…あいつが兵器の設計を。」 アーチャー:「…目を離すな。トリップ。」 貨物室を出て行く 2人。 |
※3: 原語では grasshopper。バッタ、イナゴなどの総称 ※4: Calindra system ENT第59話 "The Shipment" 「兵器工場潜入」より。このセリフにより、前話 "Proving Ground" の惑星が同星系のものだと判明しました ※5: 前話 "Proving Ground" より ※6: ENT "The Shipment" より ※7: Malosian ※8: Naara |
サトウがデグラをモニターしている司令センターに、アーチャーが入った。「報告を。」 トゥポル:「赤色巨星を、7個発見。しかし、約40光年に渡って散らばっています。」 星図を見る。 「…兵器の施設をスキャンできるか。」 「…距離がありすぎます。」 タッカー:「固執するのは危険では?※9 奴は家族がいると言っただけです。兵器があるとは限らない。」 アーチャー:「デグラは上級士官だ。兵器の設計者でもある。家族をそばにおく可能性は大だ。」 サトウ:「てっきり座標を教えると思いましたが。」 タッカー:「酒※10を飲んでりゃ舌の滑りも、良くなったろうに。」 トゥポル:「信用を得ているのは確かです。思い切って、直接聞いてはどうでしょう。」 アーチャー:「直接?」 「兵器の製造施設はどこかと。」 「危険すぎる。少しでも疑われたら、また振り出しに逆戻りだ。待ってろ?」 船内モニターを見るアーチャー。「必ず落としてみせる。」 3日前。 『航星日誌、2153年12月12日。ズィンディが兵器のプロトタイプを試した場所に引き返した。残骸を分析すれば何かわかるかもしれない。』 エンタープライズは、カリンドラ星系の惑星へ近づく。 メイウェザー:「星系の境界で船を感知。」 トゥポル:「…ズィンディです。」 アーチャー:「突然来たのか。」 「彼らがよく使う、亜空間の渦を通って来たんでしょう。…2日前にここにいたズィンディ船と、同じサインです。」 リード:「船長。3名乗船しているようです。」 アーチャー:「我々には。」 トゥポル:「…気づいていません。」 惑星に近づくデグラの船。 デグラ:「月に向けコースセット。無人感知装置配備スタンバイ。」 いきなり船が揺れた。「どうした。」 デグラの部下。「攻撃されました。」 デグラ:「どこから!」 「船が接近中。人間の船です!」 「この星系は無人だと言ったはずだ!」 「残骸の陰にいたんでしょう。」 火花が飛ぶブリッジ。 デグラ:「…評議会へ連絡しろ。」 部下:「亜空間通信機がやられました!」 メイウェザー:「慌てて逃げてます。」 アーチャー:「エンジンに何かできないか。」 操作するリード。 エンタープライズのフェイズ砲が命中し、さらに何発も注がれる。 リード:「もうどこへも行けません。」 アーチャー:「呼びかけろ。…降伏し乗船に備えろ。」 デグラ:「ターレン※11。」 コンピューターを操作するターレン。画面が乱れる。 エンタープライズとドッキングしているデグラの船※12。 船内にいるトゥポル。 アーチャーがやってきた。「どうだ。」 トゥポル:「乗船したときには、データを消そうとしていました。ほとんど残っていません。」 「航行データは。」 「…消えています。」 サトウ:「船長、見て下さい。」 データが表示されているが、乱れている。「個人ファイルに入っていたデータの一部です。手紙のようだわ? 差出人は…デグラ。」 アーチャー:「兵器については。」 「いいえ。最近訪れた星について記述してあります。…アザティ・プライム※13。」 「分析を続けろ。」 機械を覗き込むタッカー。「相当複雑なエンジンを使ってます。」 アーチャー:「通常と構造が違うのか。」 「全く。全部メインディフレクターを通してます。」 「続けてくれ。」 独房の中で顔を洗ったデグラ。部下の人間ズィンディたちもいる。 アーチャーが拘束室に入った。会話スイッチを押す。「兵器はどこで造っている。」 デグラ:「何を言ってるのかわからん。」 「そんなはずはない。…お前はデグラだ。…ズィンディのコロニーでキモサイトを受け取るところを、この目で見ている。」 微笑むデグラ。 アーチャー:「更なる攻撃を計画しているようだが、そんなことはさせない。」 デグラ:「我々を捕らえたところで、何も得られんよ。」 「兵器はどこだ。」 ライトが明滅する。 アーチャー:「ブリッジ、報告しろ。」 船長席のリード。「プラズマネットワークにサージが。」 アーチャー:『原因は。』 メイウェザー:「残骸が発する放射線が、星系を汚染し始めています。」 リード:「船長、安全圏まで離れた方がいいのではないでしょうか。」 アーチャー:『わかった、ただしギリギリのポイントまでだ。』 「了解。」 明滅は続く。 アーチャー:「お前が口を割らなくても、お前の部下が吐いてくれるだろう。」 目を逸らすターレン。 デグラ:「我々が姿を消せば、仲間がこの船を破壊する。」 医療室のフロックス。「自白剤を試してもいいですが、適量を精製するまでに数週間かかる。」 脳の構造を表示させる。「ズィンディの神経生理学からして、デグラの最新の記憶を消すことは可能です。そうすれば彼は、我々に出会ったいきさつをすっかり忘れてしまう。」 アーチャー:「これは爬虫類族だ。ヒト族にも通用するのか。」 2つの図を並べるフロックス。「両者の神経経路はよく似ています。若干のテストは必要ですが、別段問題はないでしょう。」 アーチャー:「ほかに選択の余地はなさそうだ※14。」 司令室に集まったクルー。 タッカー:「飛行シミュレーターなら組んだことがあります。…問題はない。」 リード:「しかし『船体』だけ造ればいいわけじゃない。…裏づけが必要です。どの種族の船か、使用言語は何かなどの。」 アーチャー:「ホシは、何か。」 サトウ:「デグラが妻に宛てた手紙を復元しました。名前はナーラ、子供は 2人。」 トゥポル:「シミュレーター内の船長と連絡を取り合うことも必要です。」 リード:「…皮下トランシーバーを使ってはどうでしょうか※15。」 フロックス:「比較的容易に埋め込めます。」 アーチャー:「始めよう。…トゥポル、詳細は君が頼りだ。」 トゥポル:「詳細?」 「記憶をなくしたデグラは、過去 3年間に起きたことを知りたがる。独りではとても作り切れん。」 眠っているデグラの腕に、道具で模様が刻まれていく。 医療室に来ているアーチャー。「上手いもんだ。」 フロックス:「どうも。タトゥーは、デノビュラ人ではポピュラーでねえ。私も親に勧められて学びました、フン。よし、頭髪の色も変えておきました。」 アーチャーは着替えている。「ずいぶん白くしたなあ。たった 3年間でこんなに変わるものか?」 フロックス:「彼は投獄され拷問を受けてるんですよ、相当なストレスだ。頭髪は影響を受けやすいんです。」 筒を持ってくる。 「本当に安全なんだろうな。」 「もちろんです。このレグランのアカムシ※16を使って、もう何年も患者を治療してますから。」 フロックスは一匹を取り出した。「リンパ系を徹底的に浄化するだけで、副作用はありません。…あ、傷をつけないように? 貴重な生物です。」 「気をつけるよ。」 フロックスはアカムシをデグラの頭に近づけた。顔をしかめるアーチャー。 眠っていたデグラは、揺れに目を覚ました。「今のは。」 アーチャー:「空間のゆがみだ。多発区域を通ってる。…つかまれ!」 その様子を見ている、司令センターのトゥポル。「…トゥポルから貨物室。シャトルの揺れを、レベル6 にして。」 操作するタッカーとメイウェザー。シャトルにつけられた棒が激しく動く。 デグラ:「トレリウムD で保護は。」 アーチャー:「していないらしい。」 トゥポル:「レベル7 に上げて。合図で、右舷に強い衝撃を与えて下さい。」 タッカー:「どのぐらい強くです?」 トゥポル:「…強くです。」 メイウェザーと顔を見合わせるタッカー。「だそうだ。」 トゥポル:「船長に知らせて。」 サトウ:「次は強く揺れます。」 大きく揺れ、デグラは床に転がった。 アーチャー:「…隔壁がもろくなってきてる。…ワープを解除するぞ。」 星の流れが止まった。 船の周りに、ゆがみがあることが表示される。 アーチャー:「ここから無傷では抜け出せない。」 デグラ:「…迂回したらどうだ。」 「…燃料が足りない。……救難信号を送ろう。あんたの仲間がいるかもしれない。」 「昆虫族に気づかれたら。」 「…選択の余地はない。」 「…ヒト族の幹部が使う専用回線なら、昆虫族には知られていまい。」 「…周波数は。」 「私が直接送信した方が早いだろう。」 コンソールを交代するデグラ。入力する。 コンピューターを操作するトゥポル。「少尉。」 サトウは波形を表示させる。「来ました。」 トゥポル:「応答スタンバイ。」 リード:『ブリッジから、司令センター※17。』 「どうぞ。」 『亜空間のひずみを感知しました。恐らくズィンディ船です。』 「…到着時間は。」 リード:「6時間後です。」 サトウ:「センサーは高性能です、その前に気づかれるかと※18。」 トゥポル:「…大尉、残骸の散乱場所に戻ります。」 リード:『船が放射線に、耐えられるでしょうか。』 「危険は承知です。…ただちに発進。」 『わかりました。』 |
※9: 原語では "The red giant may be a red herring." 「赤色巨星はおとりかもしれません」。"red herring" (薫製ニシン) で「おとり、惑わせる情報」という意味があります ※10: 原語ではアンドリアン・エール (Andorian ale)。前話 "Proving Ground" など ※11: Thalen (Josh Drennen) 前話 "Proving Ground" に引き続き登場。今回、名前が設定されました。声:白石充、前回の高階俊嗣から変更 ※12: この様子から、デグラの船は 65m ほどと推察できるそうです ※13: Azati Prime ※14: 原語では「その記憶消去は、範囲をどれぐらい選べるんだ」と尋ねています ※15: 原語では「軍事部隊 (MACO) は皮下トランシーバーを使っています」 ※16: レグラスのアカムシ Regulan blood worms TOS第42話 "The Trouble with Tribbles" 「新種クアドトリティケール」など。初登場 ※17: 吹き替えでは全て「司令室」。この訳語が使われる区画はブリッジ後部の Situation Room であり、第3シーズンになって導入された司令センター (Command Center) とは別です ※18: 吹き替えでは「既に気づかれているかと」。到着予定の 6時間より前にセンサーで発見されるという意味であって、もうズィンディに見つかっているなら今さら隠れても遅いでしょう |
酒を飲むアーチャー。「…囚人の一人が絶賛してたよ。マーレク3号星※19って星を。ダイリチウムの密輸基地に使ってたそうだ。」 デグラ:「何て言ってたんだ?」 「…美しいって。」 瓶を受け取ったデグラも、口にする。 アーチャー:「海岸線がどこまでも続いているらしい。…もしも行けたら、冷たい湖でいつまでも行水をし続けたいよ。」 モニターに映るアーチャー。『話だけ聞いていると、地球のようだ。』 酒を飲む様子が、さらに別角度で映される。 サトウ:「船長かなり飲んでるようです。」 トゥポル:「酒の効き目を消す薬を飲んでいます。」 アーチャー:『それで? あんたのコロニーは、どんなところだ。』 デグラ:『荒涼とした星だよ。人が住むところじゃない。』 アーチャー:「何で住んでた。」 デグラ:「選択の、余地はないさ。ナーラは早く出たがってた。軍用基地は子供を育てる環境じゃないと言ってな。…あんた、家族はあるか船長?」 「…フン。『船長』なんてもう長いこと呼ばれてない。ジョナサンだ、そう言ったろ? …家族をもつ時間なんかなかったよ。…仕事仕事で。」 「時間は、作るものだ。…我々の仕事など取るに足りんよ。大事にすべきは子供だ。…守るためなら、何だってする。…地球からの脅威が、迫ってる。そう聞いて私は兵器のプロトタイプを設計することに、即同意した。…兵器が地球近くに達すると、評議員たちはそろって地球からのデータを見守ったよ。」 顔を押さえるアーチャー。 デグラ:「700万人の命が…私の目の前で消えていった。…自分に問うた。あの中の、何人が子供かと。…これも前に話したろ。」 アーチャー:「……いや、初めてだ。」 「…3年か! もう子供たちは、私を忘れているかもな。」 コンピューターに反応がある。 アーチャー:「呼びかけてる。」 ノイズが聞こえた。「誰か知らんが、かなり遠くからのようだ。ノイズをなくす。」 ターレン:『この通信が聞こえますか、どうぞ。…こちらターレン、救難信号を受信した。応答して下さい。』 デグラ:「私の仲間だ。ターレン。おい聞こえるか、デグラだ。」 『デグラ? 声が聞けて嬉しいよ。味方の情報筋から…』 話しているのはサトウだ。「昆虫族に捕らえられたと聞いていた。死刑になったという報告も入っているが。」 デグラ:『この通り生きてる。助けてくれ。友人と昆虫族の収容所を脱走した。パトロール船に追われている。』 ターレン/サトウ:『通信が消えかかってる。繰り返してくれ。』 アーチャー:「早くしろ。」 デグラ:「ターレン、場所は。どこにいる。」 ターレン/サトウ:『アザティ・プライムだ。敵の脅威はない。』 「私の家族は。みんな無事か。…ターレン!」 『ナーラも子供も、無事ここにいる。君が来ると伝えておくよ。』 通信は終わった。 アーチャー:「家族は無事らしい。」 デグラ:「1,000人以上のヒト族と毛長族がいるコロニーだぞ。なぜ真っ先に破壊されなかったんだ。」 モニターのアーチャー。『とにかく、アザティ・プライムに向かおう。座標はわかるか。』 サトウはトゥポルを見る。 アーチャー:「…どうした。」 デグラ:「許して欲しい。あんたは、私にとって昨日まで敵だった男だ。極秘軍事施設の座標は…言えんよ。」 「好きにしろ。」 立ち上がるアーチャー。 操縦するデグラ。 サトウ:「来ました。1127 ポイント 4 経由、4052 ポイント 0 経由、3901 ポイント 1 です。」 表示される数字を読み上げる。 モニターの恒星が一つ、拡大された。 トゥポル:「赤色巨星。船長との回線を、オンに。」 アーチャーが座り直すのが見える。『暗号化した座標を打ち込んだのか。』 デグラ:「そうだ。」 トゥポルの声はアーチャーにだけ届いている。『船長、座標が赤色巨星の一つと一致しました。』 アーチャー:「到着予定時間くらい聞いてもいいかな。」 デグラ:「…すぐ着く。」 トゥポル:『ワープ最大で、約3週間後。兵器がないとしたら、相当な無駄骨です。』 デグラを振り返り、密かにコンピューターを操作するアーチャー。 司令センターのモニターに、「待機しろ」と表示された。 アーチャー:「私は受け入れてもらえるだろうか。…歓迎される種族ではないからな。」 デグラ:「私の恩人だと話すよ。上級士官の、命の恩人だと。」 また酒を飲む。 「…感謝する。」 「いいところだぞ? ほかの軍用地の何倍もマシなとこだ※20。」 船が揺れ出した。 貨物室に警報が鳴る。 タッカー:「トラヴィス!」 メイウェザー:「左舷の油圧機に、異常発生。」 直接操作するタッカー。「早く止めろ!」 メイウェザー:「…応答しません。」 通信が入る。『トゥポルから第2貨物室。報告。』 タッカー:「放射線のせいで、油圧システムがオーバーロードを。」 トゥポル:「シミュレーターを安定させて。」 タッカー:『今やってます。』 デグラ:「また空間異常か。」 アーチャー:「よくわからない。」 トゥポル:「船長、問題が発生しました。お待ちを。」 揺れ続けるシャトル。 トゥポル:「トゥポルからブリッジ、残骸エリアから脱出。」 リード:『了解。』 操舵士官は、コンソールに触れた。 デグラは一瞬、窓の外の星が乱れたのに気づいた。 貨物室の揺れは収まる。 リード:『ブリッジから司令センター。残骸エリアから出ました。』 トゥポル:「…了解、大尉。」 デグラ:「何が起きた。」 アーチャー:「亜空間の乱れだ。」 「本当に? ……聞いてもいいか。ジョナサン。…本当に我々がそんなに親しいなら、私は子供の名前を言ったはずだよな。」 モニター上のアーチャー。『まだ信用してないのか。』 サトウ:「何か持っています。」 トゥポル:「拡大。」 アーチャー:『…こんな風に試されるのは不本意だ。』 デグラは、後ろ手にナイフを隠していた。 サトウ:「船長、武器を持っています!」 デグラ:「いいから早く言ってみろ。私の子供の名前は!」 トゥポル:「いま行きます。」 アーチャー:『待ってくれ、そんな必要ないだろ。』 サトウ:「ピラル※21とジェイナ※22。」 アーチャー:「ヘ、ピラルとジェイナだ。」 デグラ:「…どっちが上だ。」 サトウ:「…載っていません。」 デグラは襲いかかってきた。腕を切られるアーチャー。 2人は床に倒れ込む。アーチャーはナイフを奪い、デグラの首に突きつけた。 すると三方のハッチが開き、メイウェザーたちや MACO が中に入った。 立たされるデグラ。「兵器は絶対に見つからん!」 アーチャー:「…拘束室へぶち込め!」 連行されるデグラ。タッカーはアーチャーを見た。 息を切らし、腕の傷を見るアーチャー。 |
※19: Maarek III 実在するかは不明 ※20: 吹き替えでは「ほかの」という類の言葉は言っていません。今から行くコロニーも軍用地なのに、矛盾しています ※21: Piral ※22: Jaina |
拘束室に戻されたデグラ。身なりを整えたアーチャーが入る。 デグラ:「人間は冷酷だと聞いていた。」 アーチャーが会話スイッチを押すと、声が聞こえやすくなる。「だがまさか、欺く才にも長けていたとは。」 アーチャー:「いつだまされていると気づいた。」 「無論最初から疑っていたさ。だがはっきり確信したのは、ナーラ※23がアザティ・プライムにいると聞いたときだ。」 「お前たちは、最近行ったはずだ。違うか。」 「いいか? あのアザティ・プライムには、昆虫族のデューテリアム施設があるんだ。間違っても我々があそこに身を隠すことはありえん! …そのミスがなければ、お前らが勝っていたかもな?」 「赤色巨星の座標を打ち込んでたが?」 「あれは、嘘っぱちだよ。私が兵器のありかを、言うと思うか。」 「……では、もう一度お前の記憶を消すとしよう。…シミュレーターに戻ってまた最初からやり直すとするよ。」 「そんな時間はあるかな? 仲間が私を捜していると言ったはずだ。」 「芝居に気づいたのは子供の名を聞く寸前だろ? …お前が打ち込んだ座標こそ兵器のありかなのでは?」 「そう思うならすぐに向かった方がいいんじゃないのか? ワープ速度最大でな!」 司令センターのサトウ。「正しい座標でないならなぜ暗号化を?」 トゥポル:「より説得力をもたせるためでしょう。」 タッカー:「奴は嘘をついてます。やはり、放射線サージが起きたときに気づいたのでは?」 赤色巨星の星図を見るアーチャー。「兵器がないのなら、3週間の無駄は大きすぎる。…奴らがどうやって亜空間の渦を タッカー:「使ってるのは、フェイズ・ディフレクターパルスです。一度入れば、ほんの 4、5分※24で 5光年ほど進むことができます。」 「…集めたデータを全て見せろ。」 機関室。 連絡するアーチャー。「アーチャーからブリッジ。準備完了。」 船長席のトゥポル。「戦術警報発令。…始めて下さい。」 船が揺れだした。 拘束室にも伝わる。 操作を続けるメイウェザー。 アーチャーも身を支える。 ベッドから落ちたデグラ。 廊下を歩いてきたリード。「開けろ。」 保安部員:「どうぞ。」 リードは拘束室のドアを開け、人間ズィンディを押しのけた。「2人は一緒に来い。来いと言ってるんだ!」 デグラとターレンを連れて行く。 機関室のアーチャー。「このままだと、船がバラバラになる。」 デグラが連れてこられた。火花が散る。 サトウの通信。『D、Eデッキで船体に亀裂。』 アーチャー:「非常用隔壁※25! …機関士か。」 ターレン:「そうだ。」 「力を貸せ。お前らの技術を導入した。この船で亜空間に入るためにな!」 デグラ:「そんなこと不可能だ!」 タッカー:「…渦が崩壊し始めてる。安定させてくれ。」 アーチャー:「彼に手を貸せ。じゃなきゃ木っ端微塵だ。」 動こうとしないターレン。 アーチャー:「銃を貸せ。」 リードからフェイズ銃を受け取り、デグラに突きつける。「奴に言え、私に従えと。」 デグラ:「手を貸してはならん、ターレン!」 タッカー:「早くしろ、ターレン※26!」 火が巻き起こった。消火器が使われる。 サトウ:『機関室。構造維持力が失われています。』 みな倒れる。揺れは収まった。 アーチャー:「トリップ。」 タッカー:「…私じゃありません。…トラヴィスだ。…ワープフィールドを反転させた。…通常空間に戻りました。」 通信が入る。『トゥポルからアーチャー船長。』 アーチャー:「…どうした。」 『ブリッジにおいで下さい。』 ターレンを指さすアーチャー。「…拘束室に戻せ!」 デグラは連行される。 ブリッジでも消火器が使われる。スクリーンには赤色巨星が映っている。 治療されるクルー。 ブリッジに入るアーチャー。「報告を。」 トゥポル:「座標につきました。」 まだ火花が散る。「少尉、拡大して。」 恒星が大きくなる。 リード:「数隻のズィンディ船を感知。キモサイトの量も半端じゃありません。」 アーチャー:「こちらの状況は?」 「…被害最小。…防御プレートは復旧済みです。」 「武器を装填しろ。…キモサイト方向にコースをセット。フルインパルス!」 デグラを見るアーチャー。「奴を追い出せ!」 デグラ:「…兵器に近づくことはできん! …我々の防衛軍が、この船を破壊する!」 アーチャーはその言葉を聞き、振り返った。トゥポルを見る。 操作するトゥポル。乱れていたモニターの映像が、全て元に戻った。 アーチャー:「見せてやれ。」 サトウが操作すると赤色巨星の姿は消え、カリンドラ星系の惑星軌道上になった。 無言のデグラ。 アーチャー:「協力感謝する。…医療室へ連れて行け。」 微笑む MACO は、デグラをターボリフトに入れた。 うなずくリード。 アーチャー:「…あの揺れは少々やり過ぎだぞ、少尉?」 メイウェザー:「次からは気をつけます。」 デグラの船。 コンソール席についたまま、眠らされている人間ズィンディたち。アーチャーがやってきた。 デグラも席に運ばれている。 アーチャー:「順調か?」 機械を覗き込んでいたトゥポル。「プラズマコンジットに亀裂が入ったために…意識を失ったと思わせます。」 フロックス:「少量のプラズマを注入しておきます。害はありません。」 デグラにハイポスプレーを打つ。 トゥポル:「…コンピューターのデータが消えていることは、どう説明を。」 アーチャー:「…我々との遭遇は忘れてる。謎のままでいいだろう。」 コミュニケーターを取り出す。「どうした。」 リード:『ズィンディ船が、一時間未満の距離にいます。』 ハイポスプレーを他のズィンディにも打つフロックス。 デグラの船とのドッキングが解除された。 『航星日誌、補足。アザティ・プライムへの旅がズィンディの兵器発見の、最後の旅になることを祈る。』 エンタープライズはワープに入る。 |
※23: 吹き替えでは、ここだけ「ターラ」と言っているような… ※24: "a couple of minutes" なので、「2、3分」が適当かもしれません ※25: 吹き替えでは「隔壁損壊」 ※26: 原語では「パイロンが曲がります」 |
感想
最初の展開からすると、6話前にあったばかりの "Twilight" 「留められない記憶」のように、また可能性の未来かと思ってしまいます (ちなみに、どちらも共同製作者 Mike Sussman が脚本に関係)。実際は視聴者もだますような、「スパイ大作戦」型の話でした。ホロデッキがない中でクルーも (たった 3日で準備!) 製作陣も苦労したのはわかりますが、まあ…そこそこでしょうか。まぎれもなく重要な話ではありますが。 原案は製作協力者 Terry Matalas で、"Impulse" 「幽霊船」以来のクレジット。あと今回直訳の邦題は、TNG「疑惑」、DS9「過信」、VOY「反乱」と並ぶ最短タイ記録ですね。 |
第65話 "Proving Ground" 「アンドリア人の協力」 | 第67話 "Harbinger" 「新たなる脅威の兆し」 |