サトウがデグラをモニターしている司令センターに、アーチャーが入った。「報告を。」
トゥポル:「赤色巨星を、7個発見。しかし、約40光年に渡って散らばっています。」 星図を見る。
「…兵器の施設をスキャンできるか。」
「…距離がありすぎます。」
タッカー:「固執するのは危険では?※9 奴は家族がいると言っただけです。兵器があるとは限らない。」
アーチャー:「デグラは上級士官だ。兵器の設計者でもある。家族をそばにおく可能性は大だ。」
サトウ:「てっきり座標を教えると思いましたが。」
タッカー:「酒※10を飲んでりゃ舌の滑りも、良くなったろうに。」
トゥポル:「信用を得ているのは確かです。思い切って、直接聞いてはどうでしょう。」
アーチャー:「直接?」
「兵器の製造施設はどこかと。」
「危険すぎる。少しでも疑われたら、また振り出しに逆戻りだ。待ってろ?」 船内モニターを見るアーチャー。「必ず落としてみせる。」
3日前。
『航星日誌、2153年12月12日。ズィンディが兵器のプロトタイプを試した場所に引き返した。残骸を分析すれば何かわかるかもしれない。』
エンタープライズは、カリンドラ星系の惑星へ近づく。
メイウェザー:「星系の境界で船を感知。」
トゥポル:「…ズィンディです。」
アーチャー:「突然来たのか。」
「彼らがよく使う、亜空間の渦を通って来たんでしょう。…2日前にここにいたズィンディ船と、同じサインです。」
リード:「船長。3名乗船しているようです。」
アーチャー:「我々には。」
トゥポル:「…気づいていません。」
惑星に近づくデグラの船。
デグラ:「月に向けコースセット。無人感知装置配備スタンバイ。」 いきなり船が揺れた。「どうした。」
デグラの部下。「攻撃されました。」
デグラ:「どこから!」
「船が接近中。人間の船です!」
「この星系は無人だと言ったはずだ!」
「残骸の陰にいたんでしょう。」
火花が飛ぶブリッジ。
デグラ:「…評議会へ連絡しろ。」
部下:「亜空間通信機がやられました!」
メイウェザー:「慌てて逃げてます。」
アーチャー:「エンジンに何かできないか。」
操作するリード。
エンタープライズのフェイズ砲が命中し、さらに何発も注がれる。
リード:「もうどこへも行けません。」
アーチャー:「呼びかけろ。…降伏し乗船に備えろ。」
デグラ:「ターレン※11。」
コンピューターを操作するターレン。画面が乱れる。
エンタープライズとドッキングしているデグラの船※12。
船内にいるトゥポル。
アーチャーがやってきた。「どうだ。」
トゥポル:「乗船したときには、データを消そうとしていました。ほとんど残っていません。」
「航行データは。」
「…消えています。」
サトウ:「船長、見て下さい。」 データが表示されているが、乱れている。「個人ファイルに入っていたデータの一部です。手紙のようだわ? 差出人は…デグラ。」
アーチャー:「兵器については。」
「いいえ。最近訪れた星について記述してあります。…アザティ・プライム※13。」
「分析を続けろ。」
機械を覗き込むタッカー。「相当複雑なエンジンを使ってます。」
アーチャー:「通常と構造が違うのか。」
「全く。全部メインディフレクターを通してます。」
「続けてくれ。」
独房の中で顔を洗ったデグラ。部下の人間ズィンディたちもいる。
アーチャーが拘束室に入った。会話スイッチを押す。「兵器はどこで造っている。」
デグラ:「何を言ってるのかわからん。」
「そんなはずはない。…お前はデグラだ。…ズィンディのコロニーでキモサイトを受け取るところを、この目で見ている。」
微笑むデグラ。
アーチャー:「更なる攻撃を計画しているようだが、そんなことはさせない。」
デグラ:「我々を捕らえたところで、何も得られんよ。」
「兵器はどこだ。」
ライトが明滅する。
アーチャー:「ブリッジ、報告しろ。」
船長席のリード。「プラズマネットワークにサージが。」
アーチャー:『原因は。』
メイウェザー:「残骸が発する放射線が、星系を汚染し始めています。」
リード:「船長、安全圏まで離れた方がいいのではないでしょうか。」
アーチャー:『わかった、ただしギリギリのポイントまでだ。』
「了解。」
明滅は続く。
アーチャー:「お前が口を割らなくても、お前の部下が吐いてくれるだろう。」
目を逸らすターレン。
デグラ:「我々が姿を消せば、仲間がこの船を破壊する。」
医療室のフロックス。「自白剤を試してもいいですが、適量を精製するまでに数週間かかる。」 脳の構造を表示させる。「ズィンディの神経生理学からして、デグラの最新の記憶を消すことは可能です。そうすれば彼は、我々に出会ったいきさつをすっかり忘れてしまう。」
アーチャー:「これは爬虫類族だ。ヒト族にも通用するのか。」
2つの図を並べるフロックス。「両者の神経経路はよく似ています。若干のテストは必要ですが、別段問題はないでしょう。」
アーチャー:「ほかに選択の余地はなさそうだ※14。」
司令室に集まったクルー。
タッカー:「飛行シミュレーターなら組んだことがあります。…問題はない。」
リード:「しかし『船体』だけ造ればいいわけじゃない。…裏づけが必要です。どの種族の船か、使用言語は何かなどの。」
アーチャー:「ホシは、何か。」
サトウ:「デグラが妻に宛てた手紙を復元しました。名前はナーラ、子供は 2人。」
トゥポル:「シミュレーター内の船長と連絡を取り合うことも必要です。」
リード:「…皮下トランシーバーを使ってはどうでしょうか※15。」
フロックス:「比較的容易に埋め込めます。」
アーチャー:「始めよう。…トゥポル、詳細は君が頼りだ。」
トゥポル:「詳細?」
「記憶をなくしたデグラは、過去 3年間に起きたことを知りたがる。独りではとても作り切れん。」
眠っているデグラの腕に、道具で模様が刻まれていく。
医療室に来ているアーチャー。「上手いもんだ。」
フロックス:「どうも。タトゥーは、デノビュラ人ではポピュラーでねえ。私も親に勧められて学びました、フン。よし、頭髪の色も変えておきました。」
アーチャーは着替えている。「ずいぶん白くしたなあ。たった 3年間でこんなに変わるものか?」
フロックス:「彼は投獄され拷問を受けてるんですよ、相当なストレスだ。頭髪は影響を受けやすいんです。」 筒を持ってくる。
「本当に安全なんだろうな。」
「もちろんです。このレグランのアカムシ※16を使って、もう何年も患者を治療してますから。」 フロックスは一匹を取り出した。「リンパ系を徹底的に浄化するだけで、副作用はありません。…あ、傷をつけないように? 貴重な生物です。」
「気をつけるよ。」
フロックスはアカムシをデグラの頭に近づけた。顔をしかめるアーチャー。
眠っていたデグラは、揺れに目を覚ました。「今のは。」
アーチャー:「空間のゆがみだ。多発区域を通ってる。…つかまれ!」
その様子を見ている、司令センターのトゥポル。「…トゥポルから貨物室。シャトルの揺れを、レベル6 にして。」
操作するタッカーとメイウェザー。シャトルにつけられた棒が激しく動く。
デグラ:「トレリウムD で保護は。」
アーチャー:「していないらしい。」
トゥポル:「レベル7 に上げて。合図で、右舷に強い衝撃を与えて下さい。」
タッカー:「どのぐらい強くです?」
トゥポル:「…強くです。」
メイウェザーと顔を見合わせるタッカー。「だそうだ。」
トゥポル:「船長に知らせて。」
サトウ:「次は強く揺れます。」
大きく揺れ、デグラは床に転がった。
アーチャー:「…隔壁がもろくなってきてる。…ワープを解除するぞ。」
星の流れが止まった。
船の周りに、ゆがみがあることが表示される。
アーチャー:「ここから無傷では抜け出せない。」
デグラ:「…迂回したらどうだ。」
「…燃料が足りない。……救難信号を送ろう。あんたの仲間がいるかもしれない。」
「昆虫族に気づかれたら。」
「…選択の余地はない。」
「…ヒト族の幹部が使う専用回線なら、昆虫族には知られていまい。」
「…周波数は。」
「私が直接送信した方が早いだろう。」
コンソールを交代するデグラ。入力する。
コンピューターを操作するトゥポル。「少尉。」
サトウは波形を表示させる。「来ました。」
トゥポル:「応答スタンバイ。」
リード:『ブリッジから、司令センター※17。』
「どうぞ。」
『亜空間のひずみを感知しました。恐らくズィンディ船です。』
「…到着時間は。」
リード:「6時間後です。」
サトウ:「センサーは高性能です、その前に気づかれるかと※18。」
トゥポル:「…大尉、残骸の散乱場所に戻ります。」
リード:『船が放射線に、耐えられるでしょうか。』
「危険は承知です。…ただちに発進。」
『わかりました。』
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※9: 原語では "The red giant may be a red herring." 「赤色巨星はおとりかもしれません」。"red herring" (薫製ニシン) で「おとり、惑わせる情報」という意味があります
※10: 原語ではアンドリアン・エール (Andorian ale)。前話 "Proving Ground" など
※11: Thalen (Josh Drennen) 前話 "Proving Ground" に引き続き登場。今回、名前が設定されました。声:白石充、前回の高階俊嗣から変更
※12: この様子から、デグラの船は 65m ほどと推察できるそうです
※13: Azati Prime
※14: 原語では「その記憶消去は、範囲をどれぐらい選べるんだ」と尋ねています
※15: 原語では「軍事部隊 (MACO) は皮下トランシーバーを使っています」
※16: レグラスのアカムシ Regulan blood worms TOS第42話 "The Trouble with Tribbles" 「新種クアドトリティケール」など。初登場
※17: 吹き替えでは全て「司令室」。この訳語が使われる区画はブリッジ後部の Situation Room であり、第3シーズンになって導入された司令センター (Command Center) とは別です
※18: 吹き替えでは「既に気づかれているかと」。到着予定の 6時間より前にセンサーで発見されるという意味であって、もうズィンディに見つかっているなら今さら隠れても遅いでしょう
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