デグラ※4はズィンディ評議会に入った。「ほかの者は。」
人間ズィンディ※5:「遅れている。」
「言ったろ、事態は切迫している。」
爬虫ズィンディ※6:「またヒト族※7に典型的な傲慢振りだ。呼びつければ、いつでも全員イソイソ駆けつけると思っている。」
「突然呼びつけて申し訳なかったな。…だが駆けつけてもらう価値はあると思うがね。」
毛長ズィンディ※8:「兵器完成か。」
「いやまだだ。」
爬虫ズィンディ:「だったら我々の時間を無駄にするな。」
「最新のプロトタイプが完成した。テストを予定している。」
「いつだ。」
「3日後だ。…この部屋から中継でテストの様子を見られる。テストが全て予定通りにいけば、最終完成版を 1ヶ月後には配備できる。もっと早いかもしれん。」
毛長ズィンディと顔を見合わせる爬虫ズィンディ。
人間ズィンディ:「そうなれば人間の脅威を遂に排除できるな。」
デグラ:「時間を割いて来ていただいた価値はあったと思うのだがね。」
無言の爬虫ズィンディ。
エンタープライズ。
波形が表示されている。
サトウ:「とても弱いシグナルで、最初はわからなかったんですが。」
アーチャー:「はっきりしたのか。」
「はい船長。船長がズィンディ船に仕掛けた、キモサイトのアイソトープ痕跡です。」
「コースをセット。トリップにエンジンのパワーを振り絞れと言え。」
トゥポル:「船長。…私とサトウ少尉は、これまでデータベースの復旧をしてきました。」
「それで?」
サトウ:「失われたデータの 3割ほどを、余剰メモリーコアから既に回収済みです。」
トゥポル:「それを使い空間異常の発生場所の地図を作りましたが、シグナルの発生源は多発区域の向こうです。」 空間異常の図を重ね合わせる。
「ここです。」
アーチャー:「迂回にかかる時間は?」
トゥポル:「広大な区域で、ワープ5 でも 17日です。」
「…この先荒れるとクルーに伝えろ。」 司令センターを出るアーチャー。
ワープをやめるエンタープライズ。
機関室から連絡するタッカー。「タッカーよりブリッジ。」
アーチャー:『何だ。』
「ワープリアクターは準備万端。いつでもこいです。」
アーチャー:「わかった。トゥポル。」
トゥポル:「大きな空間異常は入力済みですが、非常に数が多いため全部は避けられないかもしれません。」
「ベストを尽くせ。…トラヴィス。突入だ。インパルス 2分の1。」
メイウェザー:「了解。」
進むエンタープライズ。
トゥポル:「針路変更、275 マーク 8 へ。」 スコープを覗いている。「左舷へ旋回!」
右舷の船体を空間異常がかすめていく。
少し揺れた。
リード:「かすっただけです。損傷はなし。」
アーチャー:「空間異常の地図は正確なのか。」
トゥポル:「復旧できたデータベースは、ほんの 3割ですから。…真正面に空間異常発生中。」 揺れが起こる。「膨張しています。」
アーチャー:「膨張?」
「こんな現象は初めて見ます。合体しています。」
メイウェザー:「どっちです、副司令官。」
「予想不可能です。」
アーチャー:「防御プレートに非常パワー! 衝撃に備えろ!」
スクリーンの正面から、緑色の空間異常が襲ってきた。ブリッジを通過する異常に、船長席に吹き飛ばされるアーチャー。
それは船内を通過し、コンソールを爆発させていく。
さらに空間異常がクルーを飛ばし、2階から落ちる。
リード:「船体に亀裂、Dデッキで空気漏れです。」
アーチャー:「旋回だ。脱出する。」
メイウェザー:「舵が利きません!」
トゥポル:「完全に飲み込まれました。」
リード:「メインパワーがダウン。」
メイウェザー:「センサーが、何か感知しています。恐らく船です。」
アーチャー:「船籍は。」
「干渉がありすぎて。」
衝撃が走る。
トゥポル:「……トラクタービームに引っ張られています。…空間異常をクリア。」
サトウ:「…呼びかけです。」
アーチャー:「礼を言うべきなんだろうな。」 サトウにうなずく。
サトウが操作すると、スクリーンに映った触角がアーチャーの頭から飛び出した。
シュラン:『アーチャー船長。…ピンクスキンが、またトラブルに巻き込まれているようだな。』
アーチャーはシュランを見てため息をついた。
アンドリア船と並行して飛ぶエンタープライズ。
シュラン:「思ったより勇敢だな。…こんな脆弱な船で、空間異常の区域を突っ切るだなんて。」 作戦室の梁に当たらないよう、触角が曲がった。
アーチャー:「君らの船は無事なようだな。」
「いくつかコツをつかんだからな。」
トゥポル:「なぜここがわかったんです。」
「前回の遭遇で、この船のワープ特性はわかっている。我々の船は、エンタープライズよりかなり速い。追いつくのは簡単だったよ。」
アーチャー:「どう来たかより、なぜ来たかを聞きたい。」
「地球は残虐な攻撃を受けた。アンドリア帝国防衛軍と同盟を組みたくはないか。ほかの誰も助けに来ていないようだしな。」 トゥポルを見るシュラン。
トゥポル:「地球が攻撃されたのをどうして知っているんですか。」
「死者 700万人だ、話はすぐ伝わる。」
「艦隊とヴァルカン最高司令部の通信を傍受していればなおでしょうね?」
「…その制服はどうした、副司令官。新しいのが似合ってないというわけじゃないが…ヴァルカンのとは、どうも違うように見えるな。」
「あちらは辞職しましたので。」
「そうだ、そんなようなことを聞いたな。」
アーチャー:「なぜ、ここへ来たんだ。」
「…地球が危機に瀕しているんだろ? 君らの仲間はどこだ? ヴァルカンだよ。連中の偉大な艦隊はどこだ? 士官をたったの一人貸すことさえしない。…彼女はこの船に残るために、キャリアをふいにしてる。ヴァルカンが無償の行為とは。珍しいな。…だが我々が来た。ヴァルカンが拒否したこの領域へ来た。…君らを助けに来たんだ。…助けなど無用というなら、それもいいだろう。我々は去る。ヴァルカンと同じようにな。」
兵器室では溶接作業が行われている。
リード:「ターゲットセンサー、防御プレート使用不能。魚雷がセーフモードになっててよかったですよ。爆発してたとこです。」
アーチャー:「フェイズ砲は?」
「パワー不足で、キャンプファイヤーもできませんねえ。」
「修理期間は。」
「詳しく調べてみるまでは、何とも。」
「シュラン司令官が、修理に戦略士官を貸してもいいと言ってる。」
「主要システムにアクセスされます…」
「ズィンディの兵器にたどり着けるかもしれない大きなチャンスなんだ。防衛システムが不可欠だ。……アンドリア人を乗船させるのは、私も気が進まない。だが助けが必要だ。」
「…了解。」
リードの肩に触れ、歩いていくアーチャー。リードはため息をついた。
廊下でも溶接が進んでいる。
アーチャーに合流するトゥポル。「いま、アンドリアのシャトルが。」
アーチャー:「早速働いてもらおう。」
「修理班ごとに、保安要員をつけた方がいいかと。」
「リード大尉に吹き込まれたか? …彼らは手伝いに来たんだ。」
「警戒は緩めるべきではありません。」
「君が嫌いだからってだけで、銃を突きつけて仕事をさせるつもりはない。」
「これは好き嫌いの問題ではありません。彼らとの歴史が長いだけです。」
「それは認めよう。だがヴァルカンとアンドリアの問題は、我々には全く関係ない。」
「今はそうです。…我々も最初は友好的でした。彼らは感情を高ぶらせがちですが、アンドリアとのファースト・コンタクトは順調だったんです。」
「なのにどうして。」
「彼らは二枚舌です。自分たちの利益を損なわない協定にしか従いません。」
「君の意見か、それとも最高司令部か。」
「この任務は重大です。経験からいって、彼らは信頼できないと指摘すべきだと思いまして。」
「…彼らを信頼してはいないが、私の経験からいって…シュラン司令官は信頼できる。」 歩いていくアーチャー。
食堂の機械にカップを置くリード。「コーヒー。ブラック。」
タッカー:「紅茶は?」
「…イングリッシュ・マフィン※9もいりません。…いま欲しいのはカフェインだけ。機関室の方はどうです。」
「ひどい。そっちは。」
「…最悪。」
タラスがやってきた。「誰がリードなの?」
リード:「リードですが?」
「兵器室にいるもんだと思ったら、のんきに休憩中。そう。…何それ。」 コーヒーに触角が向けられる。
「…コーヒーです。一つ言っとくとここ 12時間兵器室にこもりきりで、用足しにも行ってませんよ。それで? そちらは。」
「帝国戦艦クマリ※10の、タラス大尉よ。」
「ああ。こちら、タッカー少佐。機関主任です。」
タッカー:「どうも。」
タラス:「あなたの手伝いを命じられたの。」
リード:「そうですか。では、あなたにできそうなことを何か探してみましょう。」
「私にも仕事があるのよ。ここの修理をさっさと終えて、早く船に戻りたいわ。」
タッカー:「…仲良くな、お二人さん。」 出ていく。
船長用食堂のシュラン。「ここで生きてはいまいと思ったよ。…だが君らは無事だった。これは是非、祝杯を挙げないとな。」 ボトルを取り出す。
アーチャー:「気持ちはありがたいが、まだ修理が山積してる状況だ。」
「優秀なクルーに任せておけばいいだろう。いいから一杯やろう。…一息入れる資格はある。…アンドリアン・エール※11だ。…前に飲んだときは、気に入ってただろ。ハ。2、3本余分に、もってきたから置いていくよ。」
グラスを受け取るアーチャー。「すまない。」
シュラン:「早期の勝利に。」
一気に飲むシュラン。
アーチャーも飲んだが、苦しそうだ。「じゃあ…同盟推進に抜擢されたか。」
「志願したんだ。…適任だろ? 一番多く接触してる。ピンク……人間と。前回あんたは戦争勃発の危機を、救ってくれたしな。借りは早く返したい。」
「確かにお互い助け合ってるな。」
「そうやって同盟が生まれる。」
また口にする 2人。
機関室に入るトゥポル。
タッカー:「しばらく顔を出さなかったな。来たついでだ、手貸してくれよ。これを、レギュレーターにつけてくれ。ここだ。極性をチェックするから。…避けてんのかと思ったよ※12。」 口に道具をくわえる。
トゥポル:「週 3回一緒に神経マッサージをしていてですか?」
笑うタッカー。
トゥポル:「…修理の進捗状況を確認しに来ました。」
タッカー:「ま、インジェクターが 3本焼き切れ、絞り弁コイルは完璧にイカレてるし。」
「ワープの回復は、いつ。」
「最低 2日かかると言いたいところだが、青い連中かなり腕がいい。」 機関部員と共同作業しているアンドリア人を見るタッカー。「12時間ぐらいで無事に、ワープで飛べるだろう。…どうかしたか?」
「…いえ。また状況を報告してください。」 出ていくトゥポル。
修理中のリード。「マイクロスパナを取って。」
タラス:「リレーの調整をもっと正確にできる装置をもってきてるけど。」
「マイクロスパナで十分です。…取ってもらえます?」
渡すタラス。「ほかに何か手渡す物は? コーヒーでも入れてくる?」
リード:「ああ、それはいいな。」
「私の助けはいらないようだから船へ戻るわ。歓迎してもらってどうも。」
「シュラン司令官によろしく。」
「大尉、言っとくけど私はスパイに来たわけじゃないから。それほどの価値もないし。」
リードは振り返った。「聞き捨てならないな。」
光子性魚雷を見るタラス。「こんな武器見たの新人時代の戦略訓練以来だわ?」
リード:「ハ、原始的なシステムで時間を無駄にして悪かったですね。」
「とんでもない。何だか懐かしい。」
「ハ!」
「パワーグリッドに再接続するとき、気をつけるのね。…シンクロナイザーをリセットし忘れてる。そのままオンラインにすると、眉毛焦がすわよ。」 兵器室を出るタラス。
「タラス大尉?」
タラスは中に戻った。
リード:「失礼な振る舞いを、謝ります。…コーヒーでも飲んで、それからリレーの調整をしませんか。一緒に。」
『航星日誌、2153年12月6日。アンドリア人の助けを得て、空間異常の区域を何とかくぐり抜けた。』
ブリッジ。
トゥポル:「現在、距離 2億キロ。」
アーチャー:「かなり近づいたな。見つかるな、トラヴィス。」
メイウェザー:「了解。」
トゥポル:「…G型の、恒星系です。惑星が 6、衛星は 100以上。」
アーチャー:「生体反応は。」
「かなりの量の宇宙ゴミがあり、この距離ではわかりません。」
シュラン:「我々のセンサーの方が精度が高い。存在も知られずにスキャンできる。よければやらせるが?」 通信機を取り出す。
アーチャーはうなずいた。
シュラン:「司令官シュランだ。」
アンドリア人:『どうぞ。』
「長距離センサーのデータを、エンタープライズに送れ。」
『了解。』
サトウ:「…受信中。」
スクリーンに表示された。惑星の周りに散らばる衛星のそばに、船が見える。
球状の兵器が拡大された。
トゥポル:「船が 4隻。ズィンディです。」
アーチャーはシュランを見た。
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※4: Degra (ランディ・オグルスビー Randy Oglesby) ENT第59話 "The Shipment" 「兵器工場潜入」以来の登場。声:木村雅史
※5: Xindi-Humanoid (Xindi-Primate) (タッカー・スモールウッド Tucker Smallwood) ENT第56話 "Rajiin" 「美しき潜入者」以来の登場。声:竹田雅則
※6: Xindi-Reptilian (スコット・マクドナルド Scott MacDonald) ENT "Rajiin" 以来の登場。声:白熊寛嗣
※7: (Xindi-) Humanoid に対して、「ヒト族」という訳語が使われたのは初めて
※8: Xindi-Sloth (Xindi-Arboreal) (リック・ワーシー Rick Worthy) ENT "Rajiin" 以来の登場。声:田中英樹
※9: クランペット crumpet 米語ではクランペットのことを English muffin と表現するそうですが、本来は異なる菓子のようです。それにリードは英国人ですし…
※10: Kumari
※11: Andorian ale ENT "Cease Fire" など。その際は名前は言及されていませんでした
※12: ENT第62話 "Similitude" 「ライサリア砂漠幼虫」での、シムとの出来事が関係していると思われます
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