司令センターのモニターに映った、球体の分布図を見ているアーチャー。
トゥポル:「これで、ひずみの位置をより正確に予測できます。…領域内の球体の数も、厳密に割り出せるでしょう。」
アーチャー:「造られた目的は?」
「まだ不明です。」
リードの通信。『ブリッジより船長。』
アーチャー:「…どうした。」
『船が 1隻向かってきます。救難信号を発しています。」
戻ったアーチャーに報告するリード。「ひずみの塊にはまったようです。エンジンに被害。」
アーチャー:「映像を。」
スクリーンに船が映される。
トゥポル:「生体反応は、23。」
アーチャー:「呼び出せ。…こちらは、エンタープライズ※5のアーチャー船長だ。救援が必要か?」
乱れたリーダーの声が聞こえた。『エンタープライズ。ダメージがひどい。エンジンが故障して生命維持装置も使えない。救助を頼む。』
アーチャー:「相手の武器は。」
リード:「わずかです。」
「…ひずみを抜けられるか?」
トゥポル:「安全なコースを割り出します。」
「フルインパルス。」
異星人船に近づくエンタープライズ。
リード:「…生命維持はダウンしてます。」
アーチャー:「万全の警戒態勢を取れ。…武装していないか、確認しろ。」 ブリッジを出ていく。
船はエンタープライズとドッキングしている。
医療室の異星人に話すフロックス。「すぐに良くなる。ちょっと失礼?」
異星人:「ありがとうございます。」
「船長。」
アーチャー:「どうだ。」
「バイオ・スキャンができないのが困りものです。」
「なぜ。」
「彼らは未知の医療行為を一切拒否する。何か、宗教的な理由だとか。…しかし一部の軽傷者を除いては、どうやらほとんどが軽い栄養失調のようですから? すぐに回復します。」
異星人の一人の顔に刻まれた跡を見るアーチャー。「ひずみにはまったのは初めてじゃないな、古い傷跡が。」
フロックス:「何人かに同じような傷があった。数ヶ月は、球体の付近にいるんじゃないでしょうか。」
「船長は誰だ。」
「…船長ではなく、プリナム※6です。やはり、宗教的な呼び名だと。」
アーチャーはそのリーダーに話しかける。「船長のアーチャーです。ようこそ。」
リーダー:「ディジャマットです。」 握手する。「もう、何と御礼を言っていいか。命の恩人だ。」
「長い間この辺りにいるようですが?」
「第12の球体へ巡礼に行く途中で。1年ほど旅をしています。」
「技術士官に船を見せたが、損傷が激しい。」
「うーん、古い船だが造りは丈夫です。あいにく我々は巡礼者で…機械には詳しくありませんが。」
「球体に関する情報なら、交換できるかもしれない。…もしよければ、うちの科学士官を呼ぶので一緒に夕食でも。」
「喜んで御一緒させていただきます。」
船長用食堂のディジャマット。「母星はトリアノン※7という星で、ここから 6.3光年先のマラタス星団※8にあります。ご存知ですか。」
アーチャー:「我々は、デルフィック※9のことはあまり。」
「デルフィック。…選ばれし領域※10ですね。」
「恐らく、同じものでしょう。」
笑うディジャマット。
アーチャー:「ある種族について、調べてましてね。ズィンディという名を、聞いたことは?」
ディジャマット:「…初めて聞きますね。我々はほかの種族のことにあまり、その…関心がないもので。…宇宙船で旅をするのも、単なる巡礼のための手段でしかないんです。」
トゥポル:「ずっと球体の研究を?」
「研究などしていません。祈りを捧げるだけです。…祈りと瞑想こそが創造者※11を聖域に呼び戻せるすべだと、信じています。」
アーチャー:「創造者?」
「球体を創った主です。…ここに、その存在の証が。」
腕をめくり、傷跡を見せるディジャマット。
トゥポル:「空間のひずみのことですか?」
ディジャマット:「創造者の息吹だ。…真実を形作り、神の世界へと…我々を、導いてくれる。」
「自分の船を破壊されかけたんですよ。」
「注意を怠ったせいだ。球体の付近では心が乱れやすい。」
アーチャー:「我々も驚いた。見つけたのはまだ 3つですが。」
「…こんな速い船があってうらやましい。私が目にすることができるのは数千の内のごくわずかだろう。」
トゥポル:「…計算によれば、領域に存在する球体の数は 59 です。」
「それはちょっと計算が甘い。」
「そうでしょうか。」
「創造者に疑いは無用だ。」
「科学の進歩には疑問をもつことが不可欠です。」
「科学の進歩は、人々を駄目にするだけだ。」
アーチャー:「まあ…この話は、また今度にするとしよう。」
ディジャマットを見るトゥポル。
ディジャマット:「そうですね。」
アーチャー:「うちの技術士官が、あなた方の船を直せそうだと言っています。…2、3日もあれば修理は済む。」
「それはありがたい。…もし機会があれば、ぜひこの御恩をお返ししたいものです。」
医療室に、トリアノン人の女性※12が入った。
フロックス:「ご用ですか?」
女性:「話したいことがあって。」
「…何でしょう。…どこか具合でも?」
「実はある処置について、聞きたいことが。…ごめんなさい? ちょっと、話しづらいことなの。」
「…まあ、かけたらどうです? うん? もしよければ、ジャナラン・ティー※13でもどうです?」
「ええ。いただくわ。」
食堂にいるディジャマット。
トリアノン人※14:「配置は万全か。」
船にいたトリアノン人のヤリック。「ああ。全員指示を待っています。」
ディジャマット:「…迷いがあるようだな。」
「…すみません。ですが…本当にこれが正しいんでしょうか。」
「…この船に遭遇したのは偶然だと思うか。これは創造者の御意思にほかならない。」
「でも彼らは、命の恩人ですよ。」
「聖なる球体を汚したのだぞ!」 エンタープライズのクルーに気を遣うディジャマット。「こうして罪を清めてやることは彼ら自身を救うことにもなる。…不安な気持ちはわかる。我々も母星を離れて久しい。だが悲劇の時代を、終わらせるためには今やらねばならないのだ。…創造者を疑うな。」
「疑いません。」
作戦室。
アーチャー:「創造者は彼らにとって神のような存在だ。1,000年前に球体を創り出したと。」
トゥポル:「確かに球体が造られたのは、およそ 1,000年前です。」
「その球体の力で創造者は領域を再構築して楽園にし、そこに戻ってくるということらしい。」
「…神話の多くは、事実に基づいています※15…」
ドアチャイムに応えるアーチャー。「どうぞ。」
ディジャマット:「お邪魔でしたか。」
「いや?」
トゥポル:「失礼します。」 出ていく。
ディジャマット:「…助けていただいた御恩をお返ししようと思いまして。」
アーチャー:「その必要はない。」
「もう始まっています。…アーチャー船長。あなたと、この船のクルーにはこれから名誉ある任務を遂行していただく。…実は今、私の部下たちを船中に配備してあるんです。我々の体内には、強力な有機爆弾が仕込まれている。…私の命令一つで、彼らは喜んで命を捧げます。」 通信機を取り出すディジャマット。「ヤッシ・ミリク・オカーラ。」
廊下を歩いていたトリアノン人※16。「カラ デターシュ。」 床にひざまづく。
通りかかったクルー※17は、その様子に足を止めた。
トリアノン人は何かを唱えながら、服につけていた道具を手にした。先が尖っており、そのまま左腕に突き刺す。
道具を回転させると、腕の血管が太く見えるようになった。見つめ続けるクルー。
変色していく血管は、首から頭に達する。目をつぶるトリアノン人。
クルーはまだ動かない。トリアノン人の顔の血管が変色し、目を薄く開いた。
船外に達する爆発。船体の一部が吹き飛ばされる。
揺れるブリッジに戻るアーチャー。
リード:「Cデッキで爆発。船体が破損!」
アーチャー:「デッキを封鎖しろ。保安部員を!」
続いて出てきたディジャマット。「待て。ワープリアクター※18の付近にも 2人配備した。私に指揮権を渡さなければ、船を破壊する。」
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※5: 吹き替えでは「エンタープライズ号」
※6: Pri'Nam
※7: Triannon
※8: Muratas Star Cluster
※9: 原語では「領域 (The Expanse)」。次の脚注の "Realm" も「領域」という同じ訳語を使っています
※10: Chosen Realm 原題
※11: Makers
※12: 名前は Indava (Lindsey Stoddart) ですが、言及されていません。声:引田有美
※13: Janaran tea
※14: 名前は Jareb (Tayler Sheridan) ですが、言及されていません。声:高階俊嗣、大久保利洋のどちらか?
※15: これとほぼ同じセリフを、TOS第33話 "Who Mourns for Adonais?" 「神との対決」でスポックが話しています
※16: ND トリアノン人 ND Triannon (Matt Huhn) 声優なし
※17: 乗組員 Crewman (Kim Fitzgerald) セリフなし
※18: 「ワークリアクター」と吹き替えされているような…
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