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エンタープライズ エピソードガイド
第62話「ライサリア砂漠幼虫」
Similitude

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・イントロダクション
※1※2集まったクルーに対し、アーチャーが話す。「船長にもクルーにとっても最大の試練は、仲間を失うことだ。今日仲間を見送らねばならない。彼は身をもって、一つの命がどれほど大切かを示してくれた。」
フロックスの隣にいるトゥポル。
アーチャー:「愛する船のために彼がしたことを、我々は決して忘れない。そして更に、強い決意で任務を全うすべく進んでいこう。彼の貴い犠牲を無駄にせず、この船だけでなく地球の全員を救うために。」
兵器室の棺に入っているのは、タッカーだ。


※1: このエピソードは、TNG ラフォージ役レヴァー・バートンの監督作品です。ENT で担当した 9話のうち、第55話 "Extinction" 「突然変異」に続いて 6話目となります (参考)

※2: 2004年度エミー賞で、音楽作曲 (劇中背景曲) 賞を受賞しました

・本編
2週間前。
トゥポルの部屋。
トゥポルの足をマッサージしているタッカー。「システムの流れを変えるのさ。反物質ストリームをインジェクターの手前で、圧縮するんだ。」
トゥポル:「ワープフィールド安定のために?」 反対側に同じ姿勢で横になっている。
タッカーは上半身裸だ。「シミュレーションの度に同じ結果が出てるからな。ワープ5 でも、フィールド変動なしに飛べるようになるはずだ。揺れがほとんどないんだぜ? トランプのピラミッドも余裕で作れる。」
トゥポル:「…ハイワープで長く飛べれば、領域内の捜索が早く進みますね。」
「つまり、ズィンディの兵器が見つかる確率も上がるってわけだ。」 トゥポルの足を押すタッカー。
「…もっと左です。」
「あ、悪い。…エンジンの話をさせるからこうなるんだぞ、ヘ。…機械の調整と同じで、集中力がいるからな。」
「仰向けになって。」
トゥポルの足の間に頭を置くタッカー。「…最初、難しいって随分おどしてくれたよな。」
トゥポル:「上級神経マッサージには技術が必要です。」
「でも、今んところはどれも全部楽勝だ。」
「まだ難しい姿勢に、進んでいないからです。」 トゥポルは身体を倒し、脇腹を押す。
「まあ…どんと来いってとこだな。」
「息を吸って?」

機関室。
モニターを見るタッカー。「タッカーよりブリッジ。」
パッドを渡す機関部員。「少佐。」

アーチャー:「アーチャーだ。」

タッカー:「こっちは準備完了。ストリームを圧縮するには、最低 4 ポイント 9 必要ですねえ。」

アーチャー:「聞こえたな、4 ポイント 9 だ。」
メイウェザー:「了解。」

エンタープライズはワープに入る。
モニターを見るタッカー。

メイウェザー:「ワープ 4 ポイント 5。…ポイント 6。」

機関室にも声が流れる。『ポイント 7。』

メイウェザー:「…ポイント 8。」

機関室に警告音が鳴る。

トゥポル:「ワープフィールド不安定です。」
揺れが激しくなる。
メイウェザー:「4 ポイント 9 です。」

タッカー:「ストリーム圧縮開始しました。」
図上の乱れていた模様が、一直線になった。同時に揺れが消える。
タッカー:「やったぞ。気持ちいい音だ。」

トゥポル:「ワープフィールドの変動、ゼロに低下。」
アーチャー:「パワーアップ成功だな?」
うなずくリード。
だがいきなり大きく揺れた。

モニターのフィールドも、前より乱れが大きくなっている。

トゥポル:「吸気マニフォルドに、何らかの異物が。」
アーチャー:「ワープ解除だ!」
メイウェザー:「コントロール不能。」
「トリップ、状況は。」
タッカー:『メインインジェクターから出火。停止します。』

レバーを下げるタッカー。

アーチャーはどうすることもできない。

タッカー:「船長、止まりません!」
ワープコアから離れるタッカー。火が巻き起こる。
今度はコアの上に登る。

火花が散るブリッジ。炎も噴き出す。
トゥポル:「システム全体にオーバーロードが起きています。」

パネルを開け、操作するタッカー。だがコアを降りようとしたとき、脇の壁が爆発した。

揺れはブリッジにも伝わる。

そのまま落とされるタッカー。頭を打った。
粉が降ってくる。

通常空間に出てくるエンタープライズ。辺りは星雲のようにも見える。
リード:「B、Cデッキで火災発生の報告。救急班向かってます。」
メイウェザー:「操舵コントロール依然不能。」
アーチャー:「分析を。」
スコープを覗くトゥポル。「何らかの、極性フィールドと思われます。直径およそ 11,000キロ、成分や構造は不明。詳細なスキャンの必要があります。」
アーチャー:「これが原因なのか?」
「そう考えるのが論理的です。」
茶色い砂煙のような物質が、スクリーンに広がっている。
アーチャー:「スキャン続行だ。」
サトウ:「船全体で負傷者多数。うち 1名が重傷です。…タッカー少佐です、いま医療室に。」

溶接作業が行われている。機関室の壁だ。
アーチャー:「報告を。」
トゥポル:「極性フィールドに突入した際核粒子※3がマニフォルドを満たし、発火したようです。少佐がリアクターを停止していなければ、破裂していたでしょう。」
「エンジンを起動できるまで、どのくらいかかる。」
「被害はかなり深刻です。数週間かかる可能性もあるでしょうね。タッカー少佐は修理に忙殺されるでしょう。」
「…修理の監督は君に頼む。いま医療室に行ってきたが、意識不明だ。神経にかなり傷を受けてる。最悪の事態を覚悟しておくようにと、フロックスは言っている。」

医療室。
頭に布を巻いた状態で、ベッドにいるタッカー。
アーチャー:「様子は。」
タッカーの頭には機械がつけられ、鼻には管が入れられている。
フロックス:「変化はありません。…お見せしたいものが。私の動物園の中でも、珍しい生き物です。」 黄色い液体の中に、丸い影が見える。「ライサリアの、砂漠幼虫※4です。ウィルス性の抑止剤を分泌するので、切り傷や打撲の軟膏として使っています。」
アーチャー:「トリップと何の関係があるんだ!」
「この幼虫には、もう一つ論議を呼ぶ性質がある。別の種族の DNA を移植すると、その種のライフサイクルを正確に繰り返します。ただし、成長速度は極めて速い。」
「クローンになるのか。」
「近いですね。ただ急速に歳を取り、寿命は…15日です。擬態共生物 (ミメティック・シムビオット) ※5と、呼ばれています。存在は秘密にされ、ほとんど知られていません。」
「トリップの DNA で…この共生物を育てようというのか?」
「移植用神経組織の、摘出のためです。」
タッカーを見るアーチャー。
フロックス:「人間の DNA で、幼虫が成長するという保証はありませんが…タッカー少佐が助かる可能性は…それしかありません。適合性を高めるために、移植は共生物が少佐の年齢に達するまで待ちます。それから共生物の大脳から、組織を摘出しますが共生物の命に別状はありません。特に目立った副作用もなく、寿命を全う…できます。」
アーチャー:「15日間の、寿命をか?」
「安易に提案できませんが、あらゆる選択肢を提示する義務がありますので。」
ため息をつくアーチャー。

パッドを見ているアーチャーは、ドアチャイムに応えた。「入れ。」
トゥポル:「船外の作業チームが、船体に付着している物質を採集してきました。プラズマ・ライフルで何度も撃って、やっと剥がれたそうです。…高度に帯電した粒子でできています。ほとんどは鉄イオンですが、特定できない物質もいくつか含まれています。」
アーチャーが作戦室のテーブルにその板を置くと、そばのカップが吸い寄せられた。
トゥポル:「磁気も帯びているようですね? …当面、船への危険はほとんどないようです。」
アーチャー:「だがこのフィールド内に留まれば、付着物は増え続ける。…手を尽くしてくれ。エンジンを起動させるんだ。」
「はい。……ドクターが提案した、クローンを使っての移植ですが。結論は出されたんでしょうか。」
「もう承認した。」
「ライサリア中央会議※6でクローンを創るのが禁じられていることは御存知ですか。」
「我々がライサリア当局に従う義務はない。」
「生まれるクローンにも、知性があるんです。組織摘出のためだけに、知性ある存在を生み出すんですか。」
「倫理上の問題があることはわかっている。…ここがデルフィック領域でなければ別の決断を下していたろうが…何としても任務を果たさねばならない。…地球を救うためこの船には、トリップが必要なんだ。…明白なことだ。」

タッカーの血液が、ハイポスプレーで採られる。手術着姿のフロックス。
容器から取り出したライサリア砂漠幼虫に、それが打たれた。管を挿入する。
モニターに細胞分裂の様子が映る。

船体の至るところに、黒い物質が付着し始めている。
『航星日誌、補足。エンジンは未だ不能。船体には核粒子が付着し続けている。フロックスが共生物に処置を施し、2日になる。』
医療室のフロックス。「この段階では光に、敏感です。ああ…明日の朝には、順調にいけばとても健康な男の子が生まれますよう?」
容器の布を取ると、黄色い液の中に人間の胎児がいた。横から見るアーチャー。
胎児は動いている。


※3: nucleonic particles

※4: Lyssarian Desert Larvae
Lyssarrian という綴りもあります。また、クローズドキャプションでは Desevae になっていますが、原語でも Desert Larvae と聞こえます

※5: mimetic simbiot

※6: Lyssarian Prime Conclave
吹き替えでは「ライサリア」のみ。次のアーチャーのセリフでは「ライサリア当局」となっています

赤ん坊※7の泣き声。ケースの中にいる。
フロックス:「遺伝子的に完璧な複製です。あざまで同じだ。」
トゥポル:「泣き声は元気そうね。」
「ミルクです。これ、すいません。」 トゥポルに哺乳瓶を渡すフロックス。「ほーら、ほーら。」
赤ちゃんを抱き上げた。「ああ…新生児を抱くのは久しぶりですからねえ? ああ。ああ?」
ミルクを飲み始めた赤ん坊。
フロックス:「でも、コツは忘れていないようだ。」
アーチャー:「3日前は、ドクターが棚で飼育していた…妙な生き物だったのになあ?」
「数日で大きな変貌を遂げましたねえ。」
トゥポル:「そして数日で大きくなるのでしょ? どこで生活させるんです?」
「ここでいいでしょう。成長過程の子供に、これ以上刺激になる場所もない。成長具合に、目を配ることもできますしね?」
アーチャー:「ドクターに新しいルームメイトができたな。」
「後は名前をつけるだけです。」
立ち止まるアーチャー。
フロックス:「クルーからの案もありますが、どれもしっくりこない。スティーヴン、エンリケ、ん? デニス? デニスか、フフン。難問でしてねえ、うん。」
アーチャーは医療室のドアを開ける。「今に思いつくよ。」

フロックス:『医療主任日誌。熟考の末、この新加入のクルーの名前を遂に思いついた。』
夜泣きする赤ちゃんをあやすフロックス。「どうしたんだ、シム※8。泣くんじゃない。」
フロックス:『幸いデノビュラ人は睡眠時間が短いが、人間はどうやってこの頻繁なレムサイクルの中断を乗り切るのだろうか。』

オムツを替えるフロックス。
フロックス:『わかってはいたことだがシムの成長の早さには全く驚かされる。追記、運良くオーシック・シダ※9にとてもよく効く肥料が見つかった。』

パッドを読むシム※10は、4歳ぐらいに成長していた。「『火星人を見たことがない者は、その奇妙な恐ろしい外見をそう…想像できない。』※11
サトウ:「よく読めたわねえ。」
「ねえ、火星人のマシンが襲ってくるとこまで飛ばしちゃダメ?」
「本渡したばかりなのに、なぜマシンのこと知ってるの?」
「ママが読んでくれた。」
「ママが?」
「うん。第10章だと思うよ。」
フロックス:『シムの学習能力の高さは、学ぶ意欲のせいだけではないことが明らかになってきた。』

ハサミを使うシム※12は、8歳ほどになっている。
フロックス:「トリップの、あの年頃までの記憶があるようです。」
アーチャー:「じゃ大きくなれば、トリップの体験をもっと思い出すってことか。」 食堂でシムと離れて座っている。
「遺伝子の配列だけで、自分の記憶を次世代に伝える種がある。それと、似たケースのようです。遺伝学上の発見だ。シムには少佐の好奇心もあり、今朝も医療トリコーダーを分解しました、フン。」
「顔もトリップに似てきた。」
「そのうち質問が始まりますよ? 『僕はどこから来たの?』 『パパとママはどこ?』 『僕はなぜここにいるの。』」
「まだ 3日目なのに、自分がほかのみんなと違うと気づき始めてる。」
「真実を告げるべきです。早めに。」
「…私が決定したことだ。…私が説明すべきだろうな。」

船体は物質で半分ほど覆われた。
自室に戻るアーチャー。「ポートスは餌の時間が一番好きでねえ。」
シムはポートスを降ろした。「何か芸できる?」
アーチャー:「いや、教えてない。たいてい寝るか食べるかだけで、何か投げても取りにも行かない。器に半分くらいだ。」
餌を開けるシム。「OK。僕もベッドフォード※13って名前の、犬飼ってたよ? …すごく大きくて、馬みたいに乗れたんだ。」
アーチャー:「すっごいな。」
「…ゼフレム・コクレインだ。」
像を見るアーチャー。
シム:「ワープエンジン発明した人。」
アーチャー:「ああ、その通りだ。」
「船長のお父さん、ワープ5 エンジン造ったんでしょ?」
「その写真が父だ。…こっちは私。航空学校の時のだ。」
「ずっと宇宙船に乗りたかったの?」
「子供の頃からな。」
「何で?」
「そういう運命なんだろう。」
「でも楽しいでしょ?」
「…素晴らしい体験だ。…見せたい物がある。」

ポートスが宙を見ている。
アーチャー:「機首を上げて?」
シムが発着ベイで、宇宙船の模型※14を飛ばしていた。
アーチャー:「そうだ。」
シム:「ちゃんと曲がってくれないよ?」
「補助翼を調整して。」
「…よくなった。…パパはエンジニアになれって言うんだ。ママは建築の勉強がいいって言うし。…だけど僕はこれがいいな。宇宙船の船長。…でも変なんだ。」
「何が。」
「僕の名前『トリップ』なのに、ここのみんなは『シム』って呼ぶ。……パパとママはどこ? 地球にいるの?」
「それは難しい質問だな。」
アーチャーを見るシム。模型が手すりにぶつかった。
吠えるポートス。模型は床に落ちてしまった。
すぐに向かうシム。「…壊れちゃった。」
アーチャー:「接着剤で、すぐ直るよ。私も子供の頃、何度も壊した。」
「…パパとママに会いたい。」
「…ついておいで。」 模型を拾うアーチャー。

医療室に入るアーチャーとシム。
シム:「ドクターがそこに入っちゃいけないって。」
アーチャー:「いや、いいんだ。」 カーテンを開ける。
シムはタッカーを見つめた。「…トリップ?」
アーチャー:「そうだ。」
「僕の親って…本当は僕のじゃない。トリップのだ。」
「ああ。」
「じゃあ……前に、リジー※15のドールハウスにヘビ入れたのは…僕じゃないんだ。」
「ああ。」
「僕はトリップのコピーなんだね。」
「ただのコピーじゃない。」
フロックスも来ていた。
アーチャー:「トリップの記憶もあるが、シム自身の記憶もあるだろう。ここで今体験していることのね。」
シム:「僕いつからここにいるの?」
「4日前に生まれたばかりだ。」
「…僕赤ん坊じゃない。」
「ああ、理解しにくいだろう。君の体内に、トリップの治療に…必要な、ものがある。ドクター・フロックスが、手術をすることになっている。」
「痛いの?」
フロックス:「ちっとも。チクリともしない。」
「お医者さんはみんなそう言う。」
アーチャー:「フロックスは嘘は言わないよ。」
うなずくシム。「模型直しに行ってもいい?」
アーチャー:「…ああ。」 フロックスを見てから、シムを追いかけた。
カーテンを閉めるフロックス。

『航星日誌、補足。エンタープライズが動けなくなって、7日経つ。そしてその間に、シムは文字通りクルーの一員となった。彼を機関部に配属、エンジンの修理を続けているトゥポルの助手をさせている。』
廊下。
シム※16は 17歳ほどの若者に成長しており、通りかかるクルーと礼を交わす。機関部の作業着を着ている。
機関室に入り、パッドを渡すシム。「導波回路です、左舷メインバイパス用の。良くなったと思うけど?」
トゥポル:「使えそうですね。」
「映画会、オペラは踊る※17だよ。マルクス兄弟※18の。…トゥポルは見に行かないの。」
「フィールドコイルの方程式を、再チェックしないと。明日のリアクターテストまでに終えないといけませんから。」
「そう。…じゃあ食事はどう。軽く食べない?」
「せっかくですが、今夜は夜遅くまで仕事になりそうなので。…それより、マッサーラ少尉※19がプラズマアセンブリを点検中です。彼女を手伝ってください。」
「はい、了解。…普通じゃないからでしょ。…だから俺とは関わりたくないんだ。…俺みたいなのといると、きっと落ち着かないんだよね。5日前はオシメしてたんだもんな。」
「今はエンジンの修理を何よりも最優先にすべきで、それだけのことです。少なくとも現状が改善されるまでは。」
「現状が改善される頃には、俺はもういないんだろうな。」
通信が入る。『アーチャーよりトゥポル。』
トゥポル:「…何でしょう。」
『作戦室へ来てくれ。』
「すぐ行きます。」

作戦室の窓は、付着物のせいで外が全く見えない。
トゥポル:「ワープエンジンは、2週間で機能を回復します。」
アーチャー:「それでは間に合わない。」
「え?」
「マルコムによれば、船に付着した物質に逆磁気フィールドが発生し始めてる。これはパワーを奪う作用がある。付着物が増えれば増えるほど、フィールドの力は強くなる。4日後にはこの船の全てのシステムが、停止するだろう。それまでにここを出なければ、二度と出られない。」


※7: ハリウッドの慣習に従い、生後 8週間の三つ子が撮影に呼ばれました。後に 8ヶ月時点のを表すために、別の双子も

※8: Sim
日本語でわかりにくくなっているのは仕方ないですが、擬態共生物 (mimetic simbiot) が由来

※9: Orsic fern

※10: 4歳のシム・トリップ Sim-Trip at 4
(Maximillian Orion Kesmodel) 声は 8歳役の本井さんが兼任しているようです

※11: 「宇宙戦争」 "The War of the Worlds"
H・G・ウェルズ作、1897年

※12: 8歳のシム・トリップ Sim-Trip at 8
(Adam Taylor Gordon ENT第53話 "The Xindi" 「トレリウムD」の幼いトリップ (Young Trip) 役) 声:本井えみ

※13: Bedford

※14: ENTパイロット版 "Broken Bow" 「夢への旅立ち」で、少年時代のアーチャーが遊んでいたもの

※15: Lizzie
エリザベスのこと。ENT第52話 "The Expanse" 「帰還なき旅」より

※16: 17歳のシム・トリップ Sim-Trip at 17
(Shane Sweet) 声:青木誠

※17: マルクス兄弟オペラは踊る A Night at the Opera
1935年

※18: Marx Brothers
チコ、ハーポ、グルーチョ、ゼッポ (「オペラは踊る」には出演なし)

※19: Ensign Massaro

タッカーと同じ外見になったシムが、食堂で食事している。
リードがやってきた。「キーライム・パイ※20か。」
シム:「好物だったの思い出してさ。フロリダ名物だ。」
「…記憶は突然、戻るんですか?」
「うーん、成長に連れて次々とな。まるで、別の人生みたいだ。上手く言えない。」
「想像できないな。私に話って何です?」
「うん、そうそう。…フェイズ砲を逆に向けて、船体に向かって発射することはできるか。」
「できますけど、どうして。」
「いや、弱めのフェイズ砲で付着物を吹っ飛ばして出発ベイの扉を開けたい。」
「シャトルで、どこかへ行くんですか。」
「船をフィールド外へ出すだけのモーメントがありゃ、いいわけだろ?」
「ええ。」
「なら、出発ベイに何の問題もないエンジンが 2つある。…シャトル 2機をグラップラーラインでそれぞれ船とつなぎ、牽引すりゃいいんだよ。」
「ああ、シャトルではとてもパワーが足りませんよ。フィールドの外へ出られるほどのモーメントは得られませんね。」
「それは任せろ。」 パッドを渡すシム。

寝間着姿で本を読んでいたトゥポル。ドアチャイムが鳴り、ドアを開ける。
シム:「入っていいかな。…渡しといた計算、見てくれたか。」
トゥポル:「つぶさに検証しました。」
「それで?」
パッドを手にするトゥポル。「過去にシャトルのエンジンで過燃焼を試したことはありません。」
シム:「だから無理とは限らない。」
「そうですね? …リスクはありますが、これが最善策でしょう。」
「じゃあ、船長に掛け合ってくれるのか。」
「もう話しました。…ほかに何かあるんですか。」
「…トリップはよくここへ来てたんだろ。」
「少佐にヴァルカンの神経マッサージを指導していたんです。」
「覚えてるよ。…そこで横になって、足の神経節を揉みほぐしてた。だけど俺はエンジンの…改良の話に夢中になって。」
「その話をしたのはタッカー少佐です。」
「ああ。タッカー少佐だ。…あいつ、あなたとのひとときを楽しみにしてたよ。」
「よく眠れるからでしょうね。」
「いや、それだけじゃないと思うな。」
「どういう意味です?」
「…トリップとの間に、何かあったのか。」
「…もしも恋愛関係のことを意味しているのなら、いいえ。」
「聞いた理由は…その…あなたのことが、頭から離れない。思春期の憧れとか、そんなんじゃない。それは…それは 2日前までだ。俺が今感じてる気持ちはもっと深いものだ。…とにかく、わからなくて変になりそうなんだ。これが俺の気持ちなのか…奴のか。」
「私にはわかりません。」
「…困らせるつもりはなかったんだ。」
「別に困ってはいません。」
「ただ伝えておきたかった。時間があるうちに。」

作戦室でシャトルの構造を見ていたアーチャー。「入れ。」
シム:「シャトルを操縦させてください。」
「それは問題外だな。」
「俺の立案です、参加させてもらってもいいはずだ。」
「この作戦には危険が伴うんだ。君はシャトルで飛んだこともないだろ…」
「ありますよ。トリップは何千時間も飛んでるんだ。…その記憶があります。」
「単なる記憶に船の命運を委ねることなどできないんだよ。…メイウェザーとリードが、シャトルを操縦する。君はブリッジから指示を出せ、トゥポルが補助する。」
「俺に何かあったら困るからなんでしょ。……俺の脳みそが、必要だからここで死なれちゃ困るんだ。」
「ああ、それもあるな。」
「俺への心配も、ほんとはトリップを助けるためなんだ。」
「この計画の成否が最大の問題だ。6時間以内に脱出しないと、トリップが助かるかどうかなんてもう関係ない。我々みんなが死ぬんだ!」

ブリッジのシム。「ターゲットスキャナー、調整済み。近距離にセットしてあります。」
トゥポル:「…フェイズ砲装填、準備 OK。」
うなずくアーチャー。操作するシム。
2つのフェイズ砲が、船体に向かって発射された。
アーチャー:「扉を開けろ。」
トゥポル:「…まだ動きません。」
シムはもう一度操作する。
今度は 2つのドアが開いた。
アーチャー:「アーチャーよりシャトルポッド1、2。発進を許可する。」

リード:「了解。」

メイウェザー:「シャトルポッド2、了解。」
発進するシャトルポッド。

アーチャーはシムを見た。
シャトルポッドからのグラップラーが、エンタープライズにつながる。2隻ともだ。
アーチャー:「いいぞ、始めろ。」
シム:「過燃焼率セット。…まず 0.175 から開始する。」

リード:「了解。」

メイウェザー:「0.175、セット。」

シム:「俺の合図で、エンジンスタートだ。…今だ。」
エンジンを起動させるシャトル。通常より激しい。

リード:「1,000キロダイン※21。」

メイウェザー:「スラストベクトル安定。」

スクリーンに映る 2隻のシャトルポッド。
アーチャー:「動け!」

シャトルポッド2 が揺れ出した。

リード:「2,000キロダイン。エンジン温度上昇中。」

エンタープライズは全く動かない。
トゥポル:「現在前進のモーメントはゼロ。」
リード:『2,500キロダイン。エンジン臨界温度です!』
「まだ動いていません。」
アーチャー:「動け!」
シム:「過燃焼率を更に 30%上げろ。」

リード:「…船長?」

アーチャー:「…やれ!」

リード:「30%増加!」
さらに強く噴き出すシャトルのエンジン。

メイウェザー:「過熱警告ライトがついてます。」

リード:「臨界温度を 500度超えてます!」 火花が散る。

シャトルポッド2 も同様だ。

トゥポル:「システムがオーバーロードしています。」
アーチャー:「シム。」
シム:「あと何秒か。」
トゥポル:「あと何秒ももちません。」
アーチャー:「…仕方ない。アーチャーよりシャトルへ。」
その時、ブリッジが小刻みに揺れ出した。
シャトルに引っ張られるエンタープライズ。
トゥポル:「動いています。…時速、0.62キロですが。」

操縦を続けるリード。

メイウェザー:「…現在時速 12キロ。さらに加速中。」

進み続ける船。
アーチャー:「これで間に合うか。」
トゥポル:「このスピードなら、6.1時間後にフィールドの外へ出られます。」
「十分だな。アーチャーよりシャトルポッド1、2。…帰ってこい。」 シムを見るアーチャー。「よくやった。」
シム:「はい船長。」

医療室。
アーチャーが来た。「用があるって。」
フロックス:「……状況に変化が。」
「聞こう。」
「…シムは移植に耐えられません。」
「……手術しても、命に別状はないと言ったはずだ!」
「その通りです。ライサリア人の DNA から成長した場合、そのはずでした。人間からだと耐久力が弱いようです。少佐を救うのに必要な量の組織を摘出すれば、シムは死にます。…申し訳ありません。」
無言で出ていくアーチャー。


※20: key lime pie

※21: 力の SI単位であるニュートンに換算すると、1,000キロダイン=10ニュートン。22世紀の設定でダインを使うとは、いかにも単位に無頓着・旧態依然な米国の番組らしいという気もします (日本ではとっくに廃止)

ベッドに座っているシム。「死んだっていいですよ。…どうせ後、一週間程度しかない。」
アーチャー:「そう簡単にはいかない。」
「ドクターに一つ聞きたい。…ライサリア幼虫のこと調べたなら、多分ヴェランドラン・サークル※22のことも…知ってるはずだよな。」
フロックス:「…ライサリアの科学者のグループで、共生物で不法な実験をしました。彼らは、急速な老化を止める酵素を作ったと言っています。」
アーチャー:「…それ本当なのか。」
シム:「…なぜそのこと黙ってたと思います。」
「ドクター。」
フロックス:「まだ試験的なもので、効果があるという実験結果も数例しかありません。だから言わなかったんだ。」
シム:「ほんの数例でも実際にあるんだろ。…つまりは、あと一週間後に死なずに済むかもしれない。…俺にも、普通の寿命を生きられるチャンスがあるんですよ。…奴に起きたことは変えられない。でも俺に起きることは変えられるかもしれない。」

核粒子フィールドを抜けるエンタープライズ。外壁からも粒子が離れていく。
幼いタッカーとエリザベスの写真が飾られている。ドアチャイムに応えるシム。「どうぞ。」
アーチャー:「…いつからここにいるんだ。」
「夕べ自分の部屋へ行こうとして、ここへ来ちまったんです。」※23
エリザベスの写真を上に戻すアーチャー。「ここはトリップの部屋だ。」
シム:「俺のでもあります。…記憶があるんですよ! 奴の感情があり身体がある! 俺はトリップですよ。」
「タッカー少佐は、医療室で眠ってる。」
「じゃあ俺は何です。ただの実験動物か何かですか? …なら罪の意識もなく殺せますよね。」
「もし移植を拒絶するのなら、君がトリップを殺すことになる。」
「俺は何もしてない。」
「ああ。だが助けられる。」
「ええ助けますよ。…俺自身を救うことでね。」
「酵素が効く可能性はほとんどないそうじゃないか。」
「俺の命が懸かってる! やってみる価値はありますよ!」
「犠牲を考えろ! …酵素を作るには一日かかるんだ! その頃には、君の神経組織はトリップと適合しない! 彼は死ぬ!」
「わかってます!」
「…そんなことはさせられない。」
「じゃあどうするんです。銃でも突きつけて、無理矢理バイオベッドに乗せるんですか。」
「トリップの記憶を本当に全てもっているなら、答えはわかっているはずだ。…この任務の意味を知っているはずだ! 必ず、やり遂げなければならない。…そのためにトリップが必要なんだ。トリップが! …彼を助けるためなら、どんなことでもする!」
「俺を殺すことになっても?」
「たとえ君を殺すことになってもだ。」
「…船長には殺せない。」
「…殺させるな。」 出ていくアーチャー。

トゥポルがいる機関室に、シムが来た。「まだ、何か俺にできることないかなあ。何でもいい。パネルの取り付けか何か。…手術まで、2、3時間暇だからさ。」
トゥポル:「最期の時間を機関室で過ごすんですか。」
「いいだろ? 好きな場所で、大事な人といられる。」
「…よければ、A-3 インジェクターポートを交換してください。」
「ああ、すぐやる。」
トゥポルの方を振り返るシム。コンピューターに近づき、密かに操作を始めた。

ブリッジ。
作戦室から出てくるアーチャー。「どうしたんだ。」
リード:「誰かが出発ベイのコントロールを奪いました。」
「アーチャーより出発ベイ、応答を。」
サトウ:「船長、中に 1名いるようです。」

発着ベイのシャトルポッド。ハッチを開け、そこにシムが腰掛けていた。
アーチャーが来た。
シム:「絶対逃げる気だった。」
アーチャー:「なぜやめた。」
「どこに逃げられます。人が住める星は近くにない。死ぬまでシャトルで漂うなんてのも、嫌じゃないですか。トイレだってありませんしね。年寄りになってそんなの惨めでしょ。こん中で丸まって、瓶に小便。…いやあもっとひどいのもありえるな。」
「どんなのだ。」
「…さらにマルコムと一緒※24。」
無言のアーチャー。
笑うシム。「クソー。もう最悪の状況だ。」
アーチャー:「それは同感だな。」
「あと 8日の命だ。…死ぬことは怖くないんです。ただ…明日ここにいないのが信じられない。……やめた本当の理由は…」
「何だ。」
「妹です。…リジーは俺にとっても妹ですから。」
「…ああそうだな。」
「もう誰にもあんなことは、起きて欲しくない。」
「だから君を生み出すことを、命じたんだよ。」
「…一つ頼みがあります。…タッカー少佐がまたエンジンを改良しようとしたら、言って下さい。ヘマすんなよって。」 歩いていくシム。

タッカーの部屋で、シムはポートスをなでていた。呼び出しだ。
シム:「はい。」
フロックス:『準備できました。』
「…いま行く。」
ドアチャイムが鳴った。
開けると、トゥポルがいた。「いいですか。…あなたがいなくなると、クルーは全員とても悲しむでしょう。…私も含め全員が。」
シム:「そいつは嬉しいな。…いろいろあったけど、まあいい人生だったよ。」
トゥポルはシムに近づくと、口づけをした。
シム:「…最高のお別れのプレゼントだ。」

シムは医療室に入る。既に手術着のフロックスが待っていた。
シム:「ドクター、疑ってごめん。」
「…いいんですよ。」
「よくないよ。子供時代の記憶はトリップのと…俺のもある。いい父さんだった。」
「いい息子でした。」
「船長、言いましたよね。宇宙船の船長になるのが運命だったって。俺の運命はこれなんです。地球を頼みます。」
アーチャー:「ああ。」
シムはカーテンを開けた。「一つ貸しだぞ。」 眠ったままのタッカー。
自らベッドに横になるシム。ハイポスプレーを打たれる。
目を閉じた。

機関部員の制服を着て、横になっているシム。
アーチャー:「愛する船のために彼がしたことを、我々は決して忘れない。そして、さらに強い決意で任務を全うすべく進んでいこう。彼の貴い犠牲を無駄にせず、この船だけでなく…地球の全員を救うために。」
タッカーも参列している。うなずくアーチャー。
光子性魚雷の器が閉められる。発射管に納められた。
宇宙艦隊の旗が掲げられている。
発射される棺は、宇宙空間へ飛んでいった。


※22: Velandran Circle

※23: 窓から見える星が左から右に流れているため、タッカーの部屋は右舷側にあることがわかります

※24: ENT第16話 "Shuttlepod One" 「引き裂かれたクルー」の出来事を意識したものだと思われます

・感想
今シーズン共同製作総指揮になり、次の最終シーズンでは牽引役となったマニー・コトの初脚本作です。クローンのネタ自体はもはやありがちであり、強引な展開も見られますが、今回のストーリーは私は是としたいですね。特に最後の医療室での会話だけでもポイントが上がりました (吹き替えでは単に「いい」だけでしたが、シム "You made a damned good father." フロックス "You were a damned good son." の "damned" が何とも)。今後起こりうる、クローンによる臓器移植の「倫理」に踏み込んでいるのも注目すべきですね。VOY "Tuvix" 「トゥーヴィックス」と似ている点もあるにはありますが、私はさほど感じませんでした。そちらはあまり評価していませんし。
よく考えれば定例セットしか出てこないボトルショーではありますが、そんなことは感じさせませんでした。バートンは第3シーズン 2度目の監督。コトは以前、SFシリーズ「オデッセイ5」を手がけました。


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