エンタープライズ エピソードガイド
第61話「ウエスタン」
North Star
イントロダクション
夜の町※1。たいまつを掲げた者を先頭に、馬で駆けてくる男たち※2がいる。 そこはアメリカ旧西部に似た通りだ。男はたいまつを捨て、木に縄をかける。 馬に乗ったままで、一人の人物※3の首に縄がかけられた。異星人らしい。 男の一人、ベニングス※4が言った。「言い残すことは。」 異星人:「地獄へ堕ちろ。」 「スキャッグ※5でも地獄を信じるのか。」 ベニングスは銃を取り出し、空に向けて撃った。異星人を乗せていた馬が驚き、走り出す。 他の男もその場を離れた。首吊り状態になり、足を動かす異星人。 しばらくすると、その足は動かなくなった。 |
※1: Universal Studios の「西部の町」撮影用セットで、(一種の) ロケ撮影 ※2: カウボーイその1 Cowboy #1 (Jeff Eith) カウボーイその2 Cowboy #2 (Cliff McLaughlin) カウボーイその3 Cowboy #3 (Tom Dupont) いずれもノンクレジットであり、ここで登場しているキャラクターかどうかは未確認 ※3: スカゴラ人 Skagaran (Mike Watson) ノンクレジット ※4: ベニングス保安官代理 Deputy Bennings (ジェイムズ・パークス James Parks VOY第45話 "The Chute" 「地獄星からの脱出」のヴェル (Vel) 役) 声:後藤哲夫 ※5: Skag |
本編
荒涼とした岩場地帯の遠くに、町並みが見える。 殺された異星人が、棺に入れられている。首には縄の跡。 ヒゲを生やした男、マクレイディ※6は尋ねた。「棺桶は誰が買ったんだ。」 葬儀屋はチラリと後ろを見た。 そこにいた女性に話すマクレイディ。「まさか共同墓地に入れようとでも考えてるのか。」 女性:「彼らに埋葬の習慣はないわ。興味ないでしょうけど。」 「私がもっと早く駆けつけていれば。」 「結果は同じだわ。」 「裁判に持ち込めた。」 「彼を殺した奴らが陪審員の席に座るのよ。」 「…ベサニー※7。…彼は人を殺した。正当防衛でもスキャッグなら、絞首刑は免れん。」 首を振り、歩いていくベサニー。 外れの木のそばに、当時の服装をしたアーチャーがいた。歩いていくベサニーに会釈する。 アーチャーはトゥポルに近づいた。「どうだった。」 耳を隠しているトゥポル。「やはり間違いありません。地球人の DNA でした。」 合流するタッカーもアーチャー同様、帽子を被っている。「疑いようがありません。徹底して調べました※8。」 アーチャー:「絞首刑か。」 近くを馬が歩いていく。「本当に地球人なら…どうやってここへ来た。」 アーチャーはコミュニケーターを取り出した。「アーチャーだ、報告しろ。」 リード:『ほぼ全域をスキャンしました。地球人の居住地は、そこから数百キロの範囲に固まっています。人口は約6,000人です。』 サトウと地図を見る。 アーチャー:『先住民は。』 リード:「1,000人以下です。一番近い居住地は、そこから 10キロ北西に行った場所です。」 アーチャー:「技術はどうだ。エネルギー反応や、船は。」 リード:「ありません。量子スキャンによれば、最も古い建物は 250年以上前のものです。」 タッカー:「そんな感じです。」 リード:『しかし使われてる材質は、惑星固有のものだけです。』 アーチャー:「わかった。…先住民の居住地へ行ってくれ、調査を頼む。もし我々の正体がバレたら、どうなるかわからん。目立たんようにな。」 タッカー:「了解。」 トゥポルと歩いていく。 厩舎に入るタッカー。「どうも。」 馬屋※9:「何か、用かな。」 「ああ実は…馬がいるんだ。」 「自分のは。」 「…自分の?」 「隣町は遠いだろう。何で来た。」 トゥポル:「…私達の馬は、死んだんです。ここから数キロ※10北で、砂漠の…暑さにやられて。」 「そうか。ああ毒ヘビ※11に遭わなくてよかったな、ヘヘ。スキャッグにも。」 馬を一頭出す馬屋。「来い! こいつは、4歳のメス馬だ。よく走る。…売るなら、20ドルだ。」 タッカー:「結構高いなあ。…物々交換でどうかなあ。」 「交換する物による。」 タッカーは取り出したハーモニカを吹いた。 馬屋:「何年ぶりかなあ。」 吹いてみる。 タッカー:「まあ…馬ほどの価値はないけど、2、3時間でいいんだ。ちょっと買い物に出たいだけだから、済んだらすぐ返すよ。」 「うーん。」 「じゃ、担保にこの銃を置いていこう。」 確かめる馬屋。「いいだろう。乗ってけ。ほーら、行け!」 馬から少し離れるトゥポル。 馬屋はまたハーモニカで遊ぶ。 タッカーは馬に乗り、トゥポルに手を差し出した。 トゥポル:「…この動物に乗った経験はあるんですか。」 タッカー:「ジョン・フォード※12のウエスタンで観た。」 「誰?」 「ほら。何とかなるって。」 トゥポルは仕方なくタッカーの腕をつかみ、後ろに座った。 タッカー:「つかまってろー。」 タッカーの胸に手を回すトゥポル。タッカーは手綱を使うが、走り出さない。 やっとでゆっくりと歩き出した。 酒場に入るアーチャー。バーテンダー※13やウェイターが見る。 カウンターに近づくアーチャー。「どうも。」 バーテンダー:「何にする?」 「旅の途中なんだが、ここでしばらく休憩させてもらえないかな。」 「コーヒーはおごりだ。」 「ありがとう。」 「目的地は。」 「南に兄貴の牧場があって、そこで働くんだ。」 「ブルーホーン※14でも飼うのか。」 「…何でわかる。」 「南じゃそのぐらいしか育たん。」 笑うアーチャー。飾られている肖像画に気づいた。 バーテンダー:「似てるだろ。」 絵と同じ向きに、顔を構える。 アーチャー:「…ああ。似てるよ。」 絵の下にある名前を見る。「まさかクーパー・スミス※15と、関係あるんじゃないよな。」 「俺の先祖だ。」 「ほんとに?」 「ああ、俺はスキャッグを制圧した偉人のただ一人の子孫だよ。」 ウェイターが話を聞いている。彼は異星人だ。 アーチャー:「裏話を聞きたいねえ。」 バーテンダー:「まあ、少しならな。」 笑いながら、店にベニングスたちが来た。「やってるなあ。」 客:「始めたとこだ。」 「相変わらずだな…」 アーチャー:「友達かな?」 バーテンダー:「いやあ、別に。」 テーブルにつくベニングス。「サービスしてくれよ。」 バーテンダー:「何をだ。」 「昨日の安酒以外なら何でもいいさ。」 グラスと瓶を運ぶウェイター。 ベニングス:「お前も飲めよ。」 ウェイター:「禁じられてます、ベニングスさん。」 「保安官代理と呼べ。…安心しろ。法律なら俺が変えてやる。」 椅子を押し出すベニングス。「座れよ。」 従うウェイター。 ベニングス:「お前だって、飲みたい気分だろ? あんなことがあった後だ。…よし、グラスを持て。乾杯といこうか。亡きスキャッグに。」 笑う仲間。ウェイターは動かない。 ベニングス:「飲めよ。」 グラスを手にし、少し口にするウェイター。咳き込んだ。 ベニングスたちは笑う。不満そうなアーチャー。 ベニングス:「…スキャッグに飲ませるもんじゃないなあ。奴も酒に酔って、クレイ・スタントン※16を殺しやがった。」 ウェイター:「彼は飲んでない。」 「…何だと?」 「…仕事があるので。」 「おいおい、ちょっと待てよ。よく聞こえなかったなあ。スキャッグにも素面で引き金を引くだけの度胸があるってのか? …そりゃ信じられんな。証明してみせてくれよ。」 ベニングスは銃を取り出し、テーブルに置いた。銃口を自分の方に向ける。 アーチャーは自分の銃に手を伸ばす。 ベニングス:「早くしろ! …撃ってみろよ。ここだ。眉間に一発。」 静かに店を出る他の客。 ベニングス:「こんなチャンスはもう二度とないぞ? 無駄にするな。俺を殺したいんだろ? スキャッグなら当然だよなあ。だろ? …撃てよ。それともやっぱり、一杯飲み干さなきゃ無理か?」 アーチャーは立ち上がった。「失礼? その前にコーヒーをもう一杯もらえるかな。」 ウェイターは従う。 ベニングス:「お前何もんだあ。」 アーチャー:「アーチャーだ。」 「…アーチャーさんよう、マナーってもんを知らねえようだな。」 ベニングスは銃を手にし、納めた。「話の途中に割り込んでくるのは失礼だぞ?」 「覚えておこう。」 マクレイディがやってきた。「何の騒ぎだ。」 後ろにはバーテンダーがいる。 ベニングス:「親友のドレイシク※17と仲良く飲んでたのに、こいつが割り込んできやがった。」 アーチャーを見るマクレイディ。「今朝、葬儀屋の辺りで見かけたな。…この町に用か。」 アーチャー:「旅の途中でね。」 「…スキャッグの仲間か。」 アーチャーはドレイシクを見る。「彼にはコーヒーを頼んだだけだ。」 マクレイディ:「コーヒーを飲むには今日はちょっと、暑いんじゃないか?」 「……かもしれん。」 ベニングスを見るアーチャー。「失礼。」 アーチャーは酒場を後にした。 マクレイディ:「奴を見張れ。町を出るかどうか。」 うなずくベニングス。 マクレイディ:「…それから、ベニングス。スキャッグにちょっかい出すな。」 出ていく。 客:「気にすることない、戻れ。よーし、続きだ。次は、誰からだ。」 夜の森。小さな集落がある。 隠れているトゥポル。「…この船はここに放置されて、200年以上経っています。」 タッカー:「…どこへ行く。」 「…船長は徹底して調べろと。」 「目立つなとも言われただろ。」 「わかっています。」 ついていくタッカー。 町。 ドアが開く音に驚くベサニー。 アーチャー:「…おどかしてすまない。」 ベサニー:「何か御用?」 「…私はアーチャー。今朝君は、あの男の棺を買ってたねえ。」 「あなたがどこの人か知らないけど、スカゴラ人※18はスキャッグと呼ばれて人間扱い…されないのよ※19。」 荷物をまとめるベサニー。 「ああ、手伝おう。」 「いいえ結構よ。」 「怪しい者じゃない。」 「もう一度聞くけど、何の用?」 「スカゴラ人のことを、詳しく知りたい。」 「誰だって知ってるわ。」 「故郷では見かけなかった。」 「どこなの?」 「北の方だよ。遠いところだ。」 「放っておけばこの町にもいなくなるでしょうね。……酒場であったことは聞いてるわ。ベニングスを挑発したって。わかってるの、下手したら牢屋じゃ済まないわよ?」 「スカゴラ人も、同じ人間だ。見過ごせないだろ。」 「…それで、私にどうしろと?」 「ああ。君は教師をしてるそうだね。…スカゴラ人を初めて見たのは、棺に入った姿だった。彼をそんな目に遭わせた連中の言葉より私は、君を信用したい。」 「…スカゴラ人に会いたい?」 うなずくアーチャー。ベサニーはランプを消した。 馬車が通っていく。アーチャーとベサニーが乗っていた。 その様子を、ベニングスたちが見ていた。 |
※6: マクレイディ保安官 Sheriff MacReady (グレン・モーシャワー Glenn Morshower TNG第47話 "Peak Performance" 「限りなき戦い」のバーク少尉 (Ensign Burke)、第144話 "Starship Mine" 「謎の潜入者」のオートン (Orton)、VOY第28話 "Resistance" 「レジスタンス」の看守その1 (Guard #1)、映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」のエンタープライズ-B 操舵士官 (Enterprise-B Conn Officer) 役) 声:稲葉実、DS9 クワークなど ※7: Bethany (エミリー・バーグル Emily Bergl ドラマ「TAKEN」(2002)、「プロビデンス」(01)、"Gilmore Girls" (01〜03) などに出演) 声:小林優子、VOY ケスなど ※8: 原語では「痰壺も (本物) です」 ※9: Stablehand (Gary Bristow) ※10: 原語では「数マイル (several miles)」 ※11: 太陽毒ヘビ sun viper ※12: John Ford (1894〜1973年) 監督・俳優。「男の敵」(1935) でアカデミー監督賞を受賞 ※13: Bartender (Paul Rae) 声:島香裕、旧ST5 スコットなど ※14: bluehorn ※15: Cooper Smith ※16: Clay Stanton ※17: Draysik (Steven Klein) ※18: Skagaran ※19: 原語ではアーチャーがスカゴラ人を「男 (man)」と呼んだことに対し、「あなたがどこの人か知らないけど、この辺では誰もスカゴラ人を "man" (男、人間) とは呼ばないのよ」 |
暗い中で仕事をしているスカゴラ人たち。ベサニーとアーチャーが来たことに気づき、不安そうだ。 ベサニー:「大丈夫よ。」 焚き火を囲み、食事している者もいる。 建物として使っている構造物を見るアーチャー。 トゥポル:「船長。」 脇にいた。タッカーも現れる。 アーチャー:「ベサニー。さっき話した仲間だ。」 ベサニー:「あなたたちも『北』から?」 トゥポル:「……その通りです。」 「子供たちが来る頃よ。彼らのことを知りたいなら、授業を見ていったら?」 アーチャー:「ありがとう。」 タッカー:「…こんな時間に授業するの。」 ベサニー:「スカゴラ人の教育は違法なの。」 歩いていく。 アーチャー:「…船か。」 タッカー:「中にこれが。」 部品を見せるトゥポル。「データモジュールに入っていました。」 アーチャー:「エンタープライズで、分析しろ。」 タッカー:「船長はここに。」 「…授業があるからな?」 タッカーとトゥポルは離れた。 ベサニーの授業が行われている。「9 かける 12 は? 1 繰り上げてね。イラル※20。」 スカゴラ人の子供。「はい。9 かける 12 は 108 です。」 ベサニー:「そうです。九九をちゃんと覚えてきたみたいね? 明日の夜はもう少し難しい問題をやります。いよいよ割り算※21です。」 微笑む少女。 ベサニー:「クレット※22、ボードを集めて? …今日は、みんなのことを知りたいという人が来ています。地球人とスカゴラ人がなぜ一緒に暮らすことになったか、説明できる人。…タリア※23?」 少女は答えた。「それは、私達の御先祖様が地球人をここに連れてきたからです。」 ベサニー:「なぜ連れてきたの?」 タリア:「働かせるため。」 「地球人はスカゴラ人のために働きたがった?」 首を振るタリア。 ベニングス:「まさか! 冗談じゃない。」 後ろから現れた。 驚く子供たち。 ベサニー:「みんな帰って。さあ。急いで。」 スカゴラ人は全員逃げた。 ベニングス:「忠告したはずだぞ。これは違法行為だ、わかってるだろ。」 ベサニー:「迷惑はかけてないわ。」 「そうは言っても、残念ながら法律だからな。」 アーチャー:「あんたなら法律なんて変えられるんだろ?」 「もちろん。だが、この法律を変える気はないさ。」 身体をつかまれるベサニー。「離してよ!」 相手の男を殴るアーチャー。だがベニングスに倒された。 ベニングス:「…保安官がチャンスをくれたのにな。すぐ町を出てりゃよ。」 アーチャーを連行する。 ベサニーもだ。 外で子供たちの声が聞こえる。「いいよー。はーい…」 そこは牢屋だ。 看守:「ここで遊ぶな…あっち行け!」 独房の中で、アーチャーの血をぬぐうベサニー。「今はこのくらいしか。」 アーチャー:「ありがとう。君はどうなるんだ。」 「…大丈夫よ、別にこういうことは初めてじゃないから。」 「…授業が途中だったな。…続きを聞かせてくれ。」 「後はみんなから聞いてるでしょ。」 「人によって話が違うんだ。君が子供たちにどう教えてるのか、知りたい。あの…居住地の壊れた船は、やはりスカゴラ人の?」 「300年前にあの船で地球へ行って、私達の祖先を拉致したの。自分たちのコロニーを作るためにね。」 「働き手として?」 「絶対に許されない犯罪行為だわ。」 「…クーパー・スミスのことを聞きたい。」 「…その解釈は立場によって違うわ。地球人にとっては、人々を解放した正義のヒーロー。そう聞いたでしょ? でもスカゴラ人は、ロックドーア※24と呼んでる。…『残虐な、殺人者』よ。…スミスたちは船を焼き払い武器を破壊し尽くして、スカゴラ人たちを無差別に殺していったの。そう聞いたことはあった?」 首を振るアーチャー。 ベサニー:「スミスが定めた法のせいでスカゴラ人たちは学校にも行けず、財産の所有や結婚の自由もない。」 アーチャー:「二度と地球人を支配できないように?」 「表向きはね。…ベニングスたちは歴史を利用してるだけよ。」 独房のドアが開けられた。 ベニングス:「保安官がお呼びだ。」 ベサニーの方を振り返り、出るアーチャー。 ヒゲを剃られているマクレイディ。アーチャーが来た。 マクレイディ:「君もついでに剃っていくか。」 アーチャー:「いや結構。」 「そうか。理髪師にヒゲを剃らせるのは、文化的な気分だぞ?」 「もう十分文化的だ。」 「ま、いいがね。ありがとう※25。」 理髪師:「いつでもどうぞ。」 「座ってくれ。…スカゴラのウイスキー※26だ。本来は禁制品だが、歯を抜くときの麻酔用として特別に置かせてる。…なかなか強いぞ。」 口にするマクレイディ。「…ブルーホーンを育てに、南へ行くんだろ。」 アーチャー:「その予定だが?」 「じゃあ何で夜中にスキャッグの町なんぞに寄り道してた。」 「違法かな。」 「スキャッグの子供を教育してたと聞いたが、それは違法だ。」 「それじゃスカゴラ人をリンチするのは…合法なのか。」 「我々地球人を守るために定められた法律だ。」 「何から守る。子供か?」 「スキャッグが読み書きを覚えたら、どうなる。計算を覚えたら。そのうち祖先がどうやって地球人を支配していたか、調べるだろう。そして光線銃で地球人を殺す方法を学び、我々はまたスキャッグの所有物に成り下がるんだ。子供たちにそんな知恵を、つけさせたいか?」 理髪師がカミソリを研いでいるのが見える。 「300年近く前のことだけで、判断するのか。」 「過ちを繰り返させないのが私の務めだ。…公平なやり方だとは思わんが、ずっとこうしてやってきた。一時間以内に、町を出ろ。」 「……ベサニーはどうなる。」 「警告はした。覚悟はできているだろう。最低でも懲役、10年だ。」 アーチャーはうなずいた。もう一度マクレイディを見て、保安官のオフィスを出て行く。 馬車が通る。 建物の影に隠れているアーチャーは、コミュニケーターを取り出した。「エンタープライズ。」 タッカー:『どうぞ、船長。』 司令室に流れるアーチャーの声。『データの分析の方は。』 トゥポル:「…破損したものもありましたが、いくつか記録を引き出せました。」 タッカー同様、制服に戻っている。 サトウ:「内容は現在解析中です。」 アーチャー:『一時間以内に上陸地点に戻るが、少し寄り道する。』 アーチャーは歩き出した。 牢屋のベサニー。独房の外から、ベニングスが見ている。 ドアを叩く音。また鳴った。 開けると、アーチャーがいた。「町を出る前に、一つやり残したことがある。」 突然ベニングスを殴った。 鍵を取るアーチャー。気を失ったベニングスの銃を脇へ置き、身体を引きずる。 ベサニー:「何をするの。」 鍵を使うアーチャー。「故郷では脱獄という。」 ベサニー:「それはわかるけど。」 ベニングスを独房の中に入れるアーチャー。 ベサニー:「どこへ行けって言うの?」 アーチャー:「…ほかの町は? …教師は歓迎される…」 「どこへ行っても同じよ。」 「そうかな? 檻の中で暮らすよりマシだ。」 外へ出るベサニー。アーチャーは独房を閉めた。 保安官のオフィスを出るアーチャー。周りを確かめる。 ベサニーも外へ出た。 マクレイディが戻ってきた。 ベニングスが咳き込んでいる。「アーチャーだ。」 ため息をつく。 マクレイディは独房を開ける。 銃を持ち、外に出るマクレイディ。「そう遠くへは行ってない。」 ベニングスに命じる。「ナッシュ※27とフランクリン※28を。」 馬車が通りを走ってきた。驚く人々。 アーチャーが操っている。 ベニングスは銃を構えた。 馬車の上で、身をかがめているベサニー。 発砲するベニングス。 ベサニーに命中し、馬車から落ちた。無言で見ているマクレイディ。 アーチャーは馬車を止め、駆け寄った。微笑むベニングス。 アーチャーはコミュニケーターを取りだした。「エンタープライズ。私の座標にロックしろ。2名転送だ。」 ベニングス:「持ってるもんを捨てろ!」 アーチャーとベサニーは転送された。 うろたえ、その場所に近づくベニングス。砂をつかむ。「クソッ!」 部下に八つ当たりし、叩いた。 |
※20: Yral クレジットではスカゴラ人の少年 Skagaran Boy (Jon Baron) ※21: 原語では「長除法」。筆算による割り算のこと ※22: Kret エキストラ ※23: Taliyah クレジットではスカゴラ人の少女 Skagaran Girl (Alexandria M. Salling) 声:椿理沙 ※24: Rokdar ※25: 原語では「ヘンリー (Henry)」と、理髪師の名前を言っています。エキストラ ※26: Skagaran whiskey ※27: Nash ※28: Franklin 共に脚注※2 の、カウボーイである可能性もあります |
惑星軌道上のエンタープライズ。 弾が取り出される様子が、モニターに映っている。手術着のフロックス。 トゥポル:「転送の瞬間を見られたんですか。」 アーチャー:「隠れる場所を探してる暇はなかった。」 「…警戒心の強い人々です。何らかの影響があるでしょう。」 フロックス:「銃弾は取りました。しかし傷が深い。」 アーチャー:「助かるか。」 「とは思いますが、彼女の生理機能には謎の部分もある。」 「というと?」 「何も、ご存知ないんですか? …遺伝子の影響が弱く結果的に地球人の姿をしていますが、恐らく母方の祖母が…スカゴラ人ではないかと。」 保安官のオフィスにいるベニングス。「話は聞いたことあるだろう。スキャッグが瞬間移動できるってのは、クーパー・スミスの言い伝え通りだ。」 マクレイディ:「そんなもんは単なる目の錯覚だろう。アーチャーは地球人だ。」 「スキャッグとつるんでた…」 「言い切れるのか。」 「スキャッグの町にいただろう。…奴は昨日酒場でドレイシクのこともかばった。」 「お前が下らんちょっかいを出すからだ。」 「消える直前妙な箱で、誰かと連絡を取ってた。…きっとスキャッグだ。奴らに手を借りたんだよ! 恐れてたとおりになったなあ※29。奴らは復讐する気なんだ。だが、先手を打つ。」 「何か考えがあるのか。」 「ヘ…一斉に乗り込んで町を焼き払う。今夜だ。協力したがる奴は五万といるだろう。」 「まあ、落ち着け。よそものが妙なトリックで姿を消したくらいで、スキャッグを殺すのはいきすぎだ。もし彼らが関わっていたという証拠が出たら、その時は私が対処する。」 「いつも奴らを甘やかしすぎなんだよ。」 「お前はいつもスキャッグに、ちょっかいを出し過ぎる。もう、今までのようにはいかんぞ。…保安官代理になった以上、法律は全て守ってもらう。いいな。」 「…なるほど?」 ベニングスは保安官代理のバッジを取り、その場に落とした。 外へ出ていく。 司令室のモニターに情報が表示されている。 サトウ:「大筋はほぼ彼女の話通りでした。…スカゴラ人はコロニーを作るために、地球人を拉致してきたんです。」 トゥポル:「地球人の生態が、環境に適していたんでしょう。」 「懲罰を与えるようなことは、頻繁にあったようです。…でも記録は 6ヶ月しか残っていません。」 制服に戻ったアーチャー。「…地球人が タッカー:「どうするんです? もしほんとなら、放ってはおけない。」 メイウェザー:「6,000人を地球に送るのは不可能です。」 アーチャー:「ズィンディの件が済んだら、戻ってきて…手だてを講じよう。とりあえず…見捨てたわけではないと、伝えておきたい。」 地表の町。 ドレイシクが外を掃除している。高い音が響いてきた。 空を見上げ、驚く人々。エンタープライズのシャトルポッドが飛んできた。 旋回し、降下してくる。 馬が驚き、身体を起こした。「暴れるな。」 マクレイディも見ている。シャトルが着陸し、砂煙が舞う。 銃に手をかけるマクレイディ。ハッチが開き、アーチャーが出てきた。 MACO もだ。集まる人々。 アーチャー:「話がある。」 マクレイディはうなずいた。 オフィスのマクレイディ。「地球の出身なのか。」 アーチャー:「生まれはニューヨーク※30だ。だが、サンフランシスコの方が長い。聞いたことは?」 「西海岸の街だなあ。何で正体を隠してた。」 「反応が心配でね? 状況を調べてからと思ったんだ。」 「確かに、驚いたよ。私も心のどこかでもはや地球の存在を疑ってた。ここの暮らしに嫌気が差した奴らの、作り話だとね。我々を地球に?」 「いや。今は無理だ。…船では運びきれない。だが、必ず戻る。……恐らく承知だろうが、地球もあなた方の祖先がいた 300年前とは変わっている。」 「そうだろうな。」 「醜い差別や争いの時代は、もう終わった。」 「スカゴラ人は、我々の祖先を拉致したんだぞ。自分たちの勝手で。」 「それも過去のことだ。」 「その手の記憶は、なかなか消えないもんなんだ。」 シャトルポッドのそばにいるリード。「ずいぶん時間がかかるなあ。」 トゥポル:「保安官にいろいろ聞かれているのでしょう。」 「ああ。」 マクレイディ:「我々はすべきことをしてきた。」 アーチャー:「ああ。だが地球へ戻るなら、過去は全て精算するしかない。」 振り向くドレイシク。マクレイディとアーチャーが出てきた。 話す人々。「来たぞ…」 マクレイディ:「大丈夫だ。安心しろ、彼らは敵じゃない。」 アーチャー:「彼女は副司令官※31のトゥポル。ヴァルカンという星の出身だ。」 トゥポル:「はじめまして。」 マクレイディ:「どうも。」 「ドクターから、患者は快方に向かっていると。」 アーチャー:「そうか。それじゃ、ミスター・マクレイディを…」 突然銃声が響いた。倒れるマクレイディ。 逃げ出す人々。リードや MACO は武器を構える。 ベニングスがライフルを構えていた。「そいつに銃を下ろさせろ。」 アーチャー:「その前に話し合おう。」 「話し合いなんぞクソ食らえ!」 ベニングスの仲間たちも、銃を向ける。 |
※29: 原語ではこの個所などで、マクレイディを愛称の「マック (Mac)」と呼んでいます ※30: 原語では「ニューヨーク北部」と言っています ※31: 原語では「副長 (first officer)」。副司令官=subcommander は、役職ではなく階級です |
話すアーチャー。「考え直した方が身のためだぞ。」 ベニングス:「スキャッグと手を組んだのが間違いだったなあ。」 「我々は中立だ!」 「じゃああの妙な機械は何だ。その武器も。」 横になったまま話すマクレイディ。「アーチャーたちは地球から来たんだ。」 ベニングス:「地球だと? …信じられん。」 アーチャー:「証明しよう。チャンスをくれ。」 2階からアーチャーを密かに狙う者がいる。リードが気づき、フェイズ銃を撃った。 落ちてくる男。逃げ出すベニングス。 撃ち合いが始まった。アーチャーとトゥポルはマクレイディを運ぶ。 MACO※32 は銃のスコープを出した。相手に命中する。 MACO に命じるアーチャー。「行け!」 リードが撃ったビームが、桶の水に当たる。 アーチャー:「撃ち続けろ!」 アーチャーはその隙に走り出した。敵を撃ち、すぐにフェイズ銃の設定を変え 2階に向けて撃つ。 足下の木が崩れ、男が落ちた。また麻痺に戻し、撃つアーチャー。 その時、アーチャーは背中から肩を撃たれた。血が見える。 ベニングスだ。ライフルは使えなくなったらしく、追いかけてくる。 建物に逃げ込むアーチャー。すぐにベニングスも来る。 その厩舎の 2階から、アーチャーはベニングスに向かって飛び降りた。殴り合う 2人。 MACO が再び敵を倒した。撃ってくる者はいなくなったようだ。 確認するリード。 だが声が聞こえた。トゥポルが羽交い締めにされている。 男:「動くな!」 銃をトゥポルに向ける。「こいつが死ぬぞ。」 リードはフェイズ銃を発射した。トゥポルに向けて。 倒れるトゥポル。男は驚く。 リードは首を傾け、もう一発男に向けて発射した。 男が落とした銃を投げ、トゥポルが無事なことを確認するリード。MACO に命じる。「この周辺を守れ。船長を探せ!」 アーチャーとベニングスは、取っ組み合ったまま馬の下を転がる。そばにあった金属を手に取り、振り下ろしてくるベニングス。 だが柱に突き刺さり、取れなくなった。その隙にベニングスを倒すアーチャー。 銃を拾う。ベニングスは起きあがれない。 エンタープライズ。 惑星の姿を、窓からベサニーが見ていた。 アーチャーが食堂に来ていた。「遠くて見えないが、君の町もある。あの山脈の、右の方だ。…気分は?」 ベサニー:「良くなったわ。傷も治ったし。」 「ドクターは優秀だからな。」 「……ほんとに下等な人間よね。…だってあなたたちはこんな…立派な船を造って宇宙を旅してるのに、まだ醜い争いを続けてる。」 「だがここまでは、長い道のりだった。」 「それでも進歩してきたでしょ。だけど私達は、昔のまま。こんな状態じゃ地球には戻れないわ。」 「…迎えに来られるのは、しばらく先になるだろう。その頃までには、きっとこの星でも何かが変わっているはずだ。」 「あまり期待しない方がいいわ?」 「だが既に、変化は始まっている。保安官も、やっと気づいたようだ。時代遅れの法律を見直すと言ってた。」 微笑むベサニー。 惑星を離れるエンタープライズ。 地上の町。 ベサニー:「宇宙の旅に出るためには、まず空を飛ぶ方法を考えなければなりません。」 学校には、スカゴラ人の子供も座っている。 ベサニー:「地球人が最初にこの星にやってきてから 40年後、オハイオというところに住んでいたある兄弟が、初めて飛行機という乗り物を発明しました。彼らの名前はオーヴィル・ライトとウィルバー・ライト※33。」 ベサニーは宇宙艦隊のパッドを使っている。マクレイディも授業を見に来た。 ベサニー:「飛行機の写真を見たい人。」 生徒:「見たーい。」「はーい。」 マクレイディも小さく手を挙げる。 「そう、じゃあみんなで見ましょう。これがその写真。この人がオーヴィル・ライト。こっちの飛行機を操縦しているのがウィルバー・ライトです。それまでにも、地球の人々は何度となく空を…」 |
※32: MACO その1 MACO #1 (Dorenda Moore) ノンクレジットでセリフなし。後にも登場。左肩の名札には、「S・マネー (S. Money)」と書かれています もう一人 MACO その2 MACO #2 (Kevin Derr) が判明していますが、2人いると思われる男性のどちらかは未確認。ノンクレジットでセリフなし。後にも登場 ※33: Orville and Wilbur Wright 兄ウィルバー (1867〜1912年)、弟オーヴィル (1871〜1948年) のライト兄弟。VOY第31話 "Threshold" 「限界速度ワープ10」でも言及 |
感想
ホロデッキが使えない設定では、このような旧西部を出すにも一工夫必要になります。TOS に多くあった「なぜだか地球に似ている惑星」も意識してるんでしょうね。VOY "The 37's" 「ミッシング1937」と似通っている部分も多々あります。それにしても米国人にとって西部劇というのは、日本の時代劇 (江戸) のようなものなんでしょうか。 差別問題を絡めていて、言いたいことはわかるのですが…どうも今ひとつ抜け出せない印象のまま終わってしまいました。舞台として 300年間全く進歩してないことは目をつぶるとしても、スカゴラ人が逆制圧されたのが不可解です。「コロニーを作る」と言っていましたが、それは母星が別にあって今回の惑星に作ろうとしたのか、それともここが母星でその中に設けようとしたんでしょうか。いずれにせよスカゴラ側の応援がないのが説明不足ですね (相当人口が少ない?)。わざわざデルフィック領域の外から奴隷を連れてきたのも謎です。 脚本は顧問製作の David A. Goodman。第2・3シーズンの計4話だけ関わっています。メインゲストの 2人が旧レギュラーの声優という点は印象に残りました。特にベサニー=ケス役の小林さんは珍しい起用ですね。 |
第60話 "Twilight" 「留められない記憶」 | 第62話 "Similitude" 「ライサリア砂漠幼虫」 |