荒涼とした岩場地帯の遠くに、町並みが見える。
殺された異星人が、棺に入れられている。首には縄の跡。
ヒゲを生やした男、マクレイディ※6は尋ねた。「棺桶は誰が買ったんだ。」
葬儀屋はチラリと後ろを見た。
そこにいた女性に話すマクレイディ。「まさか共同墓地に入れようとでも考えてるのか。」
女性:「彼らに埋葬の習慣はないわ。興味ないでしょうけど。」
「私がもっと早く駆けつけていれば。」
「結果は同じだわ。」
「裁判に持ち込めた。」
「彼を殺した奴らが陪審員の席に座るのよ。」
「…ベサニー※7。…彼は人を殺した。正当防衛でもスキャッグなら、絞首刑は免れん。」
首を振り、歩いていくベサニー。
外れの木のそばに、当時の服装をしたアーチャーがいた。歩いていくベサニーに会釈する。
アーチャーはトゥポルに近づいた。「どうだった。」
耳を隠しているトゥポル。「やはり間違いありません。地球人の DNA でした。」
合流するタッカーもアーチャー同様、帽子を被っている。「疑いようがありません。徹底して調べました※8。」
アーチャー:「絞首刑か。」 近くを馬が歩いていく。「本当に地球人なら…どうやってここへ来た。」
アーチャーはコミュニケーターを取り出した。「アーチャーだ、報告しろ。」
リード:『ほぼ全域をスキャンしました。地球人の居住地は、そこから数百キロの範囲に固まっています。人口は約6,000人です。』 サトウと地図を見る。
アーチャー:『先住民は。』
リード:「1,000人以下です。一番近い居住地は、そこから 10キロ北西に行った場所です。」
アーチャー:「技術はどうだ。エネルギー反応や、船は。」
リード:「ありません。量子スキャンによれば、最も古い建物は 250年以上前のものです。」
タッカー:「そんな感じです。」
リード:『しかし使われてる材質は、惑星固有のものだけです。』
アーチャー:「わかった。…先住民の居住地へ行ってくれ、調査を頼む。もし我々の正体がバレたら、どうなるかわからん。目立たんようにな。」
タッカー:「了解。」 トゥポルと歩いていく。
厩舎に入るタッカー。「どうも。」
馬屋※9:「何か、用かな。」
「ああ実は…馬がいるんだ。」
「自分のは。」
「…自分の?」
「隣町は遠いだろう。何で来た。」
トゥポル:「…私達の馬は、死んだんです。ここから数キロ※10北で、砂漠の…暑さにやられて。」
「そうか。ああ毒ヘビ※11に遭わなくてよかったな、ヘヘ。スキャッグにも。」 馬を一頭出す馬屋。「来い! こいつは、4歳のメス馬だ。よく走る。…売るなら、20ドルだ。」
タッカー:「結構高いなあ。…物々交換でどうかなあ。」
「交換する物による。」
タッカーは取り出したハーモニカを吹いた。
馬屋:「何年ぶりかなあ。」 吹いてみる。
タッカー:「まあ…馬ほどの価値はないけど、2、3時間でいいんだ。ちょっと買い物に出たいだけだから、済んだらすぐ返すよ。」
「うーん。」
「じゃ、担保にこの銃を置いていこう。」
確かめる馬屋。「いいだろう。乗ってけ。ほーら、行け!」
馬から少し離れるトゥポル。
馬屋はまたハーモニカで遊ぶ。
タッカーは馬に乗り、トゥポルに手を差し出した。
トゥポル:「…この動物に乗った経験はあるんですか。」
タッカー:「ジョン・フォード※12のウエスタンで観た。」
「誰?」
「ほら。何とかなるって。」
トゥポルは仕方なくタッカーの腕をつかみ、後ろに座った。
タッカー:「つかまってろー。」
タッカーの胸に手を回すトゥポル。タッカーは手綱を使うが、走り出さない。
やっとでゆっくりと歩き出した。
酒場に入るアーチャー。バーテンダー※13やウェイターが見る。
カウンターに近づくアーチャー。「どうも。」
バーテンダー:「何にする?」
「旅の途中なんだが、ここでしばらく休憩させてもらえないかな。」
「コーヒーはおごりだ。」
「ありがとう。」
「目的地は。」
「南に兄貴の牧場があって、そこで働くんだ。」
「ブルーホーン※14でも飼うのか。」
「…何でわかる。」
「南じゃそのぐらいしか育たん。」
笑うアーチャー。飾られている肖像画に気づいた。
バーテンダー:「似てるだろ。」 絵と同じ向きに、顔を構える。
アーチャー:「…ああ。似てるよ。」 絵の下にある名前を見る。「まさかクーパー・スミス※15と、関係あるんじゃないよな。」
「俺の先祖だ。」
「ほんとに?」
「ああ、俺はスキャッグを制圧した偉人のただ一人の子孫だよ。」
ウェイターが話を聞いている。彼は異星人だ。
アーチャー:「裏話を聞きたいねえ。」
バーテンダー:「まあ、少しならな。」
笑いながら、店にベニングスたちが来た。「やってるなあ。」
客:「始めたとこだ。」
「相変わらずだな…」
アーチャー:「友達かな?」
バーテンダー:「いやあ、別に。」
テーブルにつくベニングス。「サービスしてくれよ。」
バーテンダー:「何をだ。」
「昨日の安酒以外なら何でもいいさ。」
グラスと瓶を運ぶウェイター。
ベニングス:「お前も飲めよ。」
ウェイター:「禁じられてます、ベニングスさん。」
「保安官代理と呼べ。…安心しろ。法律なら俺が変えてやる。」 椅子を押し出すベニングス。「座れよ。」
従うウェイター。
ベニングス:「お前だって、飲みたい気分だろ? あんなことがあった後だ。…よし、グラスを持て。乾杯といこうか。亡きスキャッグに。」
笑う仲間。ウェイターは動かない。
ベニングス:「飲めよ。」
グラスを手にし、少し口にするウェイター。咳き込んだ。
ベニングスたちは笑う。不満そうなアーチャー。
ベニングス:「…スキャッグに飲ませるもんじゃないなあ。奴も酒に酔って、クレイ・スタントン※16を殺しやがった。」
ウェイター:「彼は飲んでない。」
「…何だと?」
「…仕事があるので。」
「おいおい、ちょっと待てよ。よく聞こえなかったなあ。スキャッグにも素面で引き金を引くだけの度胸があるってのか? …そりゃ信じられんな。証明してみせてくれよ。」
ベニングスは銃を取り出し、テーブルに置いた。銃口を自分の方に向ける。
アーチャーは自分の銃に手を伸ばす。
ベニングス:「早くしろ! …撃ってみろよ。ここだ。眉間に一発。」
静かに店を出る他の客。
ベニングス:「こんなチャンスはもう二度とないぞ? 無駄にするな。俺を殺したいんだろ? スキャッグなら当然だよなあ。だろ? …撃てよ。それともやっぱり、一杯飲み干さなきゃ無理か?」
アーチャーは立ち上がった。「失礼? その前にコーヒーをもう一杯もらえるかな。」
ウェイターは従う。
ベニングス:「お前何もんだあ。」
アーチャー:「アーチャーだ。」
「…アーチャーさんよう、マナーってもんを知らねえようだな。」 ベニングスは銃を手にし、納めた。「話の途中に割り込んでくるのは失礼だぞ?」
「覚えておこう。」
マクレイディがやってきた。「何の騒ぎだ。」 後ろにはバーテンダーがいる。
ベニングス:「親友のドレイシク※17と仲良く飲んでたのに、こいつが割り込んできやがった。」
アーチャーを見るマクレイディ。「今朝、葬儀屋の辺りで見かけたな。…この町に用か。」
アーチャー:「旅の途中でね。」
「…スキャッグの仲間か。」
アーチャーはドレイシクを見る。「彼にはコーヒーを頼んだだけだ。」
マクレイディ:「コーヒーを飲むには今日はちょっと、暑いんじゃないか?」
「……かもしれん。」 ベニングスを見るアーチャー。「失礼。」
アーチャーは酒場を後にした。
マクレイディ:「奴を見張れ。町を出るかどうか。」
うなずくベニングス。
マクレイディ:「…それから、ベニングス。スキャッグにちょっかい出すな。」 出ていく。
客:「気にすることない、戻れ。よーし、続きだ。次は、誰からだ。」
夜の森。小さな集落がある。
隠れているトゥポル。「…この船はここに放置されて、200年以上経っています。」
タッカー:「…どこへ行く。」
「…船長は徹底して調べろと。」
「目立つなとも言われただろ。」
「わかっています。」
ついていくタッカー。
町。
ドアが開く音に驚くベサニー。
アーチャー:「…おどかしてすまない。」
ベサニー:「何か御用?」
「…私はアーチャー。今朝君は、あの男の棺を買ってたねえ。」
「あなたがどこの人か知らないけど、スカゴラ人※18はスキャッグと呼ばれて人間扱い…されないのよ※19。」 荷物をまとめるベサニー。
「ああ、手伝おう。」
「いいえ結構よ。」
「怪しい者じゃない。」
「もう一度聞くけど、何の用?」
「スカゴラ人のことを、詳しく知りたい。」
「誰だって知ってるわ。」
「故郷では見かけなかった。」
「どこなの?」
「北の方だよ。遠いところだ。」
「放っておけばこの町にもいなくなるでしょうね。……酒場であったことは聞いてるわ。ベニングスを挑発したって。わかってるの、下手したら牢屋じゃ済まないわよ?」
「スカゴラ人も、同じ人間だ。見過ごせないだろ。」
「…それで、私にどうしろと?」
「ああ。君は教師をしてるそうだね。…スカゴラ人を初めて見たのは、棺に入った姿だった。彼をそんな目に遭わせた連中の言葉より私は、君を信用したい。」
「…スカゴラ人に会いたい?」
うなずくアーチャー。ベサニーはランプを消した。
馬車が通っていく。アーチャーとベサニーが乗っていた。
その様子を、ベニングスたちが見ていた。
|
※6: マクレイディ保安官 Sheriff MacReady (グレン・モーシャワー Glenn Morshower TNG第47話 "Peak Performance" 「限りなき戦い」のバーク少尉 (Ensign Burke)、第144話 "Starship Mine" 「謎の潜入者」のオートン (Orton)、VOY第28話 "Resistance" 「レジスタンス」の看守その1 (Guard #1)、映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」のエンタープライズ-B 操舵士官 (Enterprise-B Conn Officer) 役) 声:稲葉実、DS9 クワークなど
※7: Bethany (エミリー・バーグル Emily Bergl ドラマ「TAKEN」(2002)、「プロビデンス」(01)、"Gilmore Girls" (01〜03) などに出演) 声:小林優子、VOY ケスなど
※8: 原語では「痰壺も (本物) です」
※9: Stablehand (Gary Bristow)
※10: 原語では「数マイル (several miles)」
※11: 太陽毒ヘビ sun viper
※12: John Ford (1894〜1973年) 監督・俳優。「男の敵」(1935) でアカデミー監督賞を受賞
※13: Bartender (Paul Rae) 声:島香裕、旧ST5 スコットなど
※14: bluehorn
※15: Cooper Smith
※16: Clay Stanton
※17: Draysik (Steven Klein)
※18: Skagaran
※19: 原語ではアーチャーがスカゴラ人を「男 (man)」と呼んだことに対し、「あなたがどこの人か知らないけど、この辺では誰もスカゴラ人を "man" (男、人間) とは呼ばないのよ」
|