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エンタープライズ エピソードガイド
第31話「小さな生命の灯」
A Night in Sickbay

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・イントロダクション
※1惑星軌道上のエンタープライズ。
除菌室で、サトウがトゥポルにジェルを塗っている。
午後 8時47分。
アーチャー:「こんな辱めを受けるために宇宙探査に出たんじゃないぞ。」
トゥポルはアーチャーに塗っている。
アーチャーはポートスに塗っている。「…軌道上で平謝りだ。6日間か。」
サトウ:「5日です。平謝りってわけじゃ。」
「お許しをと謝り続けた。何ヶ月か前、彼らの前で飯を食っただけでな? 平謝りじゃなくて何だ。」
「でも怒らせましたし。」
トゥポル:「クリタサン人※2からプラズマ注入装置を、譲り受けないと。」
アーチャー:「だから 6日間も平謝りしたんだ。」
サトウ:「5日です。」
「連中がやっと話に応じ、上陸したら、今度はどうなった。12時間も延々、待たされたその挙げ句に、いきなり帰れだぞ? 説明もなく、プラズマ注入装置も譲らず、いきなり『船へ帰れ』だ!」
トゥポル:「また怒らせたようですね。」
「髪の分け目でも逆でしたかねえ? 疲れ果てたよ、あの連中にはウンザリだ。」
呼び出しに応えるサトウ。「はい。」
フロックス:『3人は出て構いませんが、ポートスはもうしばらく残して下さい。』 青いライトが消える。
アーチャー:「問題があるのか。」
『地上で何か、病原体を拾ったようですねえ。除菌ジェルも効いていません。』
「どうする。」
『わかりません。いくつかテストをしてから連絡します。』
サトウ:「お大事に、ポートス。」
アーチャー:「ドクターがすぐ元気にしてくれる。今夜は特別に、チーズ解禁だぞ?」
出ていくアーチャーに、ポートスは一声鳴いた。
アーチャー:「ごめんな、お前は居残りだ。」 ドアが閉まり、再びライトが灯る。
ポートスは座った。


※1: このエピソードは、2003年度ヒューゴー賞の短編部門にノミネートされました

※2: クリタサン Kreetassan
ENT第22話 "Vox Sola" 「漂流生命体の叫び」より

・本編
機関室。
タッカー:「綱渡り状態ですよ。この注入装置がオッチヌのも、時間の問題です。」
午後 9時9分。
アーチャー:「あと 4本ある。4本で十分飛べるだろ。」
タッカー:「ええ、でも 3本になったら無理です。ワープの時 3本しか動いてなかったらどうなるか、知ってますよね。」
「交換前にもう一本いかれる可能性がどれくらいある。」
「…4本じゃ安心できません。5本いります。」
「うーん…。」
「地上で何があったんです?」
「また彼らを侮辱したらしいよ。」
「何で! 行く前、イモ※3でも食ったんですか?」
「礼儀は完璧だった。注入装置はよそで調達するしかないぞ、あの連中には付き合いきれんからな!」
「彼らのは素材の点でも強固で、信頼できます。半年探しても、半分の性能のだって見つかりませんよ。船長は外交も、訓練受けてるんだし。何とか御機嫌取れるんじゃないですか?」
「うーん。トゥポルに、連中を怒らせた原因を、確認させよう。…だが約束はできないぞ。」
パネルを戻すタッカー。

医療室に入るアーチャー。「ポートスは除菌室だと思ってたのに大丈夫か。」
ケースに入れられたポートス。
フロックス:「撫でていいですよ? その手袋を、通してですが。」
アーチャー:「テストはしたのか。」
「…自己免疫力が、弱くなっています。病原体のタンパク配列まで解明しましたが、説明が尽きません。問題はないはずなのに。…こうです。」
「…それで今は。」
「さらに検査です。きっとわかりますよ。」
「確かか。命の…危険は、あるのか?」
「今はまだ何とも。」
「……クリタサンには我々とポートスのゲノムを送ったんだろ。」
「皆さんの出発前に、送ってあります。」
「ならポートスの免疫力で対応できない菌があるのを向こうはわかったはずだろ。」
「そのはずです、ちゃんとチェックしたならですが?」
「…私は二度も連中を侮辱したらしい。最初はものを食べたこと。今度は何だかさっぱりわからん。だがもし連中の…怠慢のせいで、ポートスが死にでもしたら……本当の侮辱を教えてやるつもりだ。」
「ポートスはあきらめる気はありませんよう? 私も同じです。」
アーチャーは静かなポートスに顔を近づけた。「おい聞いたか? うん?」 手袋で触れる。「みんな応援してる。」
足を手袋に載せるポートス。

ブリッジに戻るアーチャー。「連絡取れたか。」
トゥポル:「はい。」
「それで?」
「…作戦室でお話しした方が。」
向かうアーチャー。
サトウは笑みを浮かべている。

部屋に入るアーチャー。「何だ。」
トゥポル:「迎賓館の外に木があったのを覚えていますか。」
「何の話だ。」
「アルヴェラの木※4です。樹齢 300年以上で…」
「そいつはすごいな! 何が悪かったか知らんが謝ったのか? 注入装置は手に入るのか。」
「…クリタサンではアルヴェラの木は文化財なんだそうですが、ポートスがその木に排尿したようです。」
「それで侮辱されたってのか!」
「十分理解できます。」
「送った遺伝子情報を連中がもしチェックしてれば、犬は連れてくるなと言ってたはずだ! そしたらポートスもありがたい木に小便することはなかったろうさ!」
「…船長が心から謝罪していると伝えました。対策を協議するそうです。」
「私が『心から謝罪』だと? 何でそんなことになる。謝るべきなのは向こうだ!」
「タッカー少佐が心待ちにしているのは御存知ですね?」
「プラズマ注入装置より大事なものもある。」
「…船長のプライドですか。」
「…一つ言っておくぞ、副司令官。ポートスに、もし何かあったら…今度は俺がアルヴェラの木に水をかけてやる。」 出ていくアーチャー。

水球の映像がモニターに映っている。
壁に乱暴にボールを投げつけるアーチャー。
午後 10時32分。
毛布を取るが、いつもはポートスがいる場所を見つめた。

毛布と枕を持って医療室に入るアーチャー。ケースの中で寝ているポートスを見る。既に室内は暗い。
フロックス:「船長が既婚者なら、奥方に追い出されたのかと思いますよ。」
アーチャー:「ここで寝てやったらポートスも、元気が出るだろう。ドクターさえよければだが?」
「船長がいるかどうかも、わからない状態だと思いますが?」
「…それでも、俺の方が元気が出る。」
「うん、お好きなベッドへ。」
毛布と枕を置くアーチャー。「…検討ついたか。」
フロックス:「小型哺乳類のデータベースに、『ビューグル』のデータはないんですが。似た、脊索動物の情報はあります。」
「…『ビーグル』だ。」
「…ああ!」
「一つ聞いてもいいか。単なる好奇心だ。犬は、ドクターの星にいるのか?」
「…デノビュラ・キツネザル※5は、珍重されますが…犬とは少し違いますねえ。でも尻尾や毛があり、頭は大抵一つ。」
「…ドクターは、犬を治療したことは…」
「心配いりません。私は、異種族獣医学で、6つ学位をもっているんですからねえ。」
「いやあ、ドクターは…人間の、医者かと思って。」
「もっと言うなら、歯科学に血液学に、植物薬理学の学位も…」
「脱帽だ。……で? ポートスは?」
「病原体は除去しました。ただ問題は投与した薬で、自己免疫機能が安定するかどうかです。間に合うか。」
「間に合うって?」
「…2、3時間で詳しいことがわかります。」
「間に合うって、何にだ。」
「……免疫力が十分回復しない場合、無害のバクテリアが命取りになることもあります。でも、そんな心配はまだ早すぎるでしょう。ん?」
うなずくアーチャー。
フロックス:「二人とも少し、休まないと。もしヴァイタルに変化があれば、アラームが鳴り響きますから。…おやすみなさい?」
ポートスに話すアーチャー。「うん。チーズ持ってきたかったが、きっとドクターに止められるからな?」
カーテンを閉めるアーチャー。ライトを消し、ベッドで横になる。
だが変な音が聞こえてきた。身体を起こし、音のする方を見る。
カーテンの向こうにフロックスがいるらしい。
そこでは、フロックスが足の爪を切っていた。奇妙な色をした長い爪を、棒状の機械で次々と手早く切り落としている。
アーチャーはカーテン越しに聞いた。「ドクター、大丈夫か。」
フロックス:「…すいません、起こしましたか。」
「あ…」
「爪を切っているんです。伸びが早くて。週に一度は切らないとね。」
「大丈夫なら、それでいいんだ。」
「恐縮です。おやすみ。」
ベッドに戻るアーチャー。
フロックスは切った爪を、置いてあるケースに振り入れた。
中に入っていた生物が食べたらしい。
アーチャーは横になったが、また別の音がする。
フロックスが今度は、首の下まで伸びた長い舌を磨いている。垂れる唾液。
寝つけないアーチャー。

アーチャーは高い動物の声で飛び起きた。カーテンを開ける。
フロックス:「また起こしてしまいましたか、ハ。」
アーチャー:「何の騒ぎなんだ。」
「餌やりです、フフン。」 水槽に餌を振りかけるフロックス。※6「仲良く分け合え?」
「…どれくらい寝てた。」
「一時間近く。」
「…毎晩こうなのか?」
「私がいる時だけです。ハ…ああ、私がいるとわかると要求が多くて。」
「ああ…そうか。うーん。ポートスは。」
「あと、2時間は様子を見ないと。」
「苦しんでないか。」
「グッスリ寝てます。」
「…そりゃうらやましい、ハ。」
「フーン。」
「2時間後に、また見に来る。」 医療室を出るアーチャー。


※3: 原語ではキャベツ

※4: Alvera trees

※5: Denobulan lemur

※6: ENT第13話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」でも、同じ生物に餌をあげていました

船内ジム※7
たくさんの運動具が並んでいる。独り走っていたのは、トゥポルだった。
午前 12時9分。
アーチャーも身軽な服装になり、走り出した。
トゥポル:「犬はどうです?」
アーチャー:「気遣いをどうも? 2時間後にわかる。」
ランニングマシーンの速度を上げるトゥポル。
アーチャーも真似する。「…地上の御仲間から連絡は?」
トゥポル:「いえ、まだ。」
「どうせ多すぎてまとめきれないんじゃないのか。罰のリストを。」
「罰しようとしているわけではありません。適切な謝罪を求めているだけです。」
「ハ、悪いな!」
「何がです。」
「謝る練習だ、フン。」
トゥポルはまたスピードを速くした。それを見てアーチャーも同じ速度にする。
トゥポル:「外交の場に、犬を連れて行くべきではありませんでしたね。以前にも怒らせているのですから。」
アーチャー:「連れてくと予告した。その上、ゲノムまで送ったんだ。…迷惑ならそう、言えたのに、言わなかった。ポートスも新鮮な…空気を吸う権利がある。あ…」 疲れている。
「ご自分の行為が招いた結果なのをまた無視しています。」
「どういう意味だ。」
「船の航行に不可欠なプラズマよりも、ペットが吸う空気の方に、重きをおいた結果だということです。」 またも速度を上げるトゥポル。
「その二つは別のことだ。船と、ペットの両方を大事にするっていうのは、論理的だろ?」 やっとで追いつくアーチャー。
「どちらかにしろとは言っていません。問題なのは優先順位です。」
「…人間の感情を、多少わかり始めたと、思ってたんだがな。」
「原始的な動物への愛着は理解不能です。しゃべれもしないし、トイレのマナーもないのに。」 トゥポルは機械から降りた。
「もう終わりか?」
「…船長にはついていけませんので。」 呼び出しに応えるトゥポル。「トゥポルです。」 速度を落としていくアーチャー。
サトウ:『今クリタサンからメッセージが入りました。和解のための条件です。船長きっとカンカンよ?』

ブリッジにアーチャーの声が響いた。『今更驚かないね。』
サトウ:「船長、あの…」
『いいんだ、少尉。すぐ向かう。』

疲れ果てたアーチャー。

ターボリフトを降りたアーチャーは、サトウからパッドを受け取った。
読み始め、サトウを見た。「ハ…そう悪くもないな。目をつぶって片足で、『クリスマスの前の晩』※8の詩を暗唱しろってのがあると思ってた。…医療室へ戻る。ポートスの診断結果が出るまで一時間ほど眠れるだろ。これが適切な謝罪の定義にはまるかどうか確認してくれ。」 ターボリフトに戻るアーチャー。
ため息をつくサトウ。トゥポルはパッドを読み続けている。
サトウ:「船にチェーンソーあったかなあ。」 向かう。

医療室で寝ているアーチャー。
午前 1時32分。
アラームが鳴り響く。すぐに飛び出すアーチャー。「どうした!」
ポートスを診ているフロックス。「アナフィラキシーショックを起こしそうです。投与した薬への、拒絶反応です。」
アーチャー:「2、3時間で結果が出ると言ったろ。」
「出たんです。効かなかった。」
「…ポートスは死ぬのか。」
ハイポスプレーを差し出すフロックス。「これに、テトラセル※9を 5cc。青い液です。デスクの上、5cc です。」
セットするアーチャー。「5cc だ。」 ケースの中に入れる。
フロックスが注射すると、モニターの状態が安定していく。「それはないかと。」
アーチャー:「何が。」
「死ぬのかと聞きましたよね。」
「ああ…。別の薬を試すのか。」
うなずくフロックス。「フーン…」
アーチャー:「今度も 2時間後に…」
「結果が出ます、ええ…。…クリタサンの方はどうなっているんです?」
「どっかの棚に、いつでも使えるプラズマ注入装置が載っかってるんだ! だが分けてくれるかって言うと、ヘ! ダメだ。私がバカバカしい謝罪の儀式ってのを、長々と…やってみせるまではな! ポートスがここで死にかけてるってことは、連中誰も気にしてないらしい。謝るべきは奴らの方だ、私じゃない。ヘ。でもトゥポルは、私が船より犬を心配してると責める。楽しい話だろ?」 コップに水をくむアーチャー。
「トゥポルの意見が気になりますか?」
「科学士官で私の副官だぞ。私がこのミッションやクルーに全てを捧げてることを、誰より知ってるはずだ!」
「答えに、なってませんが。」
「…ポートスはビーグルの天国に片足を突っ込んでるんだぞ? 連中が遺伝子情報を見なかったせいでな、それを無視できるか。」
「タッカー少佐の意見の方をもっと気にされるかと。何年もの長いつき合いですよね?」
「そりゃ注入装置が 5本全部動いてりゃ御の字だろうさ。うーん、だが不可欠じゃない。4本で飛べるんだ。5本目もちょっとおかしい程度でな? ヘ、10光年でも、このまま飛べるんだ!」
「その怒りにはポートスとクリタサン以外の要素があるとは思いませんか?」
「何?」
「最後に女性と親密な関係をもったのは?」
「何!?」
「ですから女性と…」
「聞こえたよ! …きっと精神医学の学位もあるって言うんだろうな?」
「もちろんです。」
「…ダメだ、よせ? やめてくれ。ドクターが診察する患者は今はポートスだけだ、いいな? 変化があったら、知らせてくれ。」
アーチャーはベッドに戻り、何とか目をつぶった。「…うん。」

スクリーンに映ったクリタサン※10。『なぜ我々の首都の標準時に合わせていないんだ。』
サトウ:「すみません、その必要があるとは知らずに。」
『必要かどうかではない、単に礼儀としての問題だ。どうやら、君らの種族には理解できないようだがな。』
「すぐ船長に伝えておきます。」
『それともう一つ船長に、伝えた方がいいな。謝罪の儀式の件を連絡してからもう 3時間近い。我々のテクノロジーを譲り受けたいと、もし少しでも思っているならば、礼儀をもって、返事をするのが賢明だとね。』
「すぐ船長に…」 通信は一方的に切れた。「…知らせます。」

フロックスが何かを叫んでいる。アーチャーは目を覚ました。動物の声がする。
アーチャーがカーテンを開けると、一匹のコウモリが突っ込んできた。
フロックス:「伏せて!」 網を持っている。「檻のロックをしっかりしても必ず逃げるんです。」
網を振り回し、捕まえようとするフロックス。


※7: 初登場

※8: "The Night Before Christmas"
クレメント・ムーア作。参考

※9: tetrasol

※10: クリタサン船長 Kreetassan Captain
(ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong) ENT "Vox Sola" 以来の登場。声:宝亀克寿、TNG イヴェック、DS9 カーン (カン)、VOY 2代目ブラクストンなど (継続)

網を持って隠れているアーチャー。静かだ。
前から棒を持って近づくフロックス。その先には、紙でできた鳥がついている。羽根が動くのを確認する。
コウモリは台に置かれた餌を食べていた。
合図するフロックス。近づき、網を構えるアーチャー。
フロックスは紙の鳥を動かし、奇声を発し始めた。
それを見ていたコウモリは飛びだった。紙の鳥へ向かい、飛びついてくる。慌て、転ぶフロックス。
アーチャーは棚の物を振り落とし、必死にコウモリを捕まえようとする。
止まったところを狙ったが、逃げられた。倒れた缶の液体が、下にいたフロックスに滴り落ちる。
棚から飛び降りるアーチャー。「コウモリはその紙の鳥に怯えるんじゃなかったのか。」
フロックス:「そのはずでした。…ピリシアン・ムーンホーク※11は天敵です。……そっくりなはずなのになあ。鳴き声もずっと前に、マスターしたんだ。」 鳴いてみる。
「それ、毒物じゃないよな。」
「え?」 服の液体を舐めてみるフロックス。ひどい味らしい。「ああ! 大丈夫です。」
「どうする。」
「…捕まえるにはまず見つけないと。上の方にいます。」 鳥を捨てるフロックス。
探す 2人。
フロックス:「……その後考えてみましたか? トゥポルの意見が気になるわけを。」
アーチャー:「いま夜中の 2時半で、逃げたコウモリを探してる。今考えられるのはそれだけだ、ドクター。ポートスのこととな?」
「性的緊張です、間違いありません。」
「…通気口だ。見えるか。」
「あれはフィルター止めです。ここ 2、3ヶ月、副司令官との摩擦が高まっていますよねえ。私はそういう観察をする訓練を受けています。」
「ドクターの訓練には、敬服だが? 間違ってるね。トゥポルとは摩擦なんてない。余計なお世話だ。」
「相手に性的な関心をもっていることを不適切に感じると予想外の行動に出がちです。船とビーグル犬の比較に対して、過度に怒りを表したりしてね? 例えばですが?」 笑うフロックス。
「いいか、ドクター。」 ピリシアン・コウモリ※12が飛んでいく。「あっ! 性的関心なんてない!」
「降りてきますよ!」
サトウが医療室にやってきた。
フロックス:「あっ!」
アーチャーとフロックスは同時に言った。「閉めて!」
フロックス:「廊下に出さないで!」
飛んできたコウモリを、サトウはいともたやすくつかんだ。「大丈夫? おじさんたちに何されたの?」
受け取るフロックス。
アーチャー:「ったく…。」
サトウ:「クリタサンから連絡が。」
「…何だ。」
「例の儀式に関して、早急に返事が欲しいようです。」
「今真夜中だ。」
「あの、それもなんですが。船の時間を彼らの標準時に合わせろと言われました。」
「へえ?」
「必要ではないですが、礼儀の問題です。」
「…ご苦労、少尉。」
「…ポートスはどうです?」
「うん、教えるよ。2時間後にな。」
出ていくサトウ。
アーチャー:「大丈夫なのか。」
フロックス:「変化はなし。私が、ついていますので。」
「…頼む。」
「副司令官の件で話を続けたければ別ですが?」
カーテンを閉めるアーチャー。

犬の墓が並んでいる。降り続ける雨。
フロックス:「今日ここに集まったのは、忠実にして優しい友に、最期の別れを告げるためです。」
傘を差し、集まっているクルー。みな暗い服装だ。アーチャーだけ雨に濡れている。
フロックスは話し続ける。「誰にでも、惜しみなく手を差し出してくれました。微笑みかけるだけで、または…チーズ一切れで。」 神父姿だ。
うなずくリード。参列しているタッカーやメイウェザー。
フロックス:「彼の名の由来、三銃士※13のごとく、我々はこの悲しみと共に闘いましょう。」
アーチャーは隣のトゥポルを見た。
フロックス:「『皆は一人のために、一人は皆のために。』」
傘を近づけるトゥポル。
フロックス:「相手に性的な関心をもっていることを不適切に感じると、しばしば…予想外の…行動に出がちです。」
トゥポルはアーチャーの手に、指を回してきた。
その手を見るアーチャー。

除菌室で、サトウがトゥポルにジェルを塗っている。
トゥポルはアーチャーに塗っている。
アーチャーはポートスに塗っている。
呼び出しに応えるサトウ。「はい。」
フロックス:『ホシとポートスは出て構いませんが、ほかの2人は残って下さい。』 青いライトが消える。
アーチャー:「問題があるのか。」
『病原体を拾ったようです。別の除菌ジェルを試しましょう。』
ため息をつくアーチャー。
ポートスを抱え、出ていくサトウ。「お大事に。」
再びライトが灯り、ジェルを手につけるアーチャー。
振り返ると、トゥポルの背中が見える。下着を脱いだトゥポルも振り向く。
アーチャーに近づき、ジェルを塗り始めるトゥポル。
フロックスの通信が入る。『どうです船長、その後考えてみましたか。トゥポルの意見が気になるわけを。』
顔を近づける二人。
フロックス:『最後に女性と、親密な関係をもったのは?』
互いの口が合わさる。

目を覚ますアーチャー。
午前 2時49分。
アーチャーはカーテンを開けた。「…夢を見た。…ポートスが死んだ。」
フロックス:「正夢でないといいですね。」
「……二度目の薬はその後、効果ありそうなのか。」
「あまり上手くいっていませんね。」
しゃがみ、ポートスを見るアーチャー。「昔の彼女の母親が、可愛いビーグルを飼ってた。その彼女と別れた後も、よく遊びに行ったよ。子犬が産まれた時、すぐ電話をくれた。…オスが 4匹だった。四銃士ってわけだ。ポートスは生後 6週間から、育てたんだ。…子供の頃から…いつも犬と一緒だったな。……ドクターはペットはいたのか。」
フロックス:「ペットという概念はないんです。」
「…でも、言ってたじゃないか。デノビュラ・キツネザルは、珍重されるんだろ。」
「ええ、そうです。腎臓が珍味とされてまして。」
トゥポルが料理の皿を持ってやってきた。「…お腹が空きませんか?」
フロックス:「これは嬉しいなあ、ハハ。」
アーチャー:「連中から謝罪は満腹の時にしろって指示でもあったか?」
トゥポル:「…通信文は読まれたはずです。」
「うん。すまん。ちょっと…気が立ってるんだ。あまり寝てないが、バストいやベストは…尽くしてるつもりだ。」
フロックス:「…うーん。」
トゥポル:「わかっています。…私とサトウ少尉で、和解要求を分野ごとに細かく記録しました。もし御覧になりたければ…」
アーチャー:「今はポートスのことが第一だ!」
「お邪魔して失礼しました。」
「いやあ…いや、いいんだよ…。…君がブリッジへ戻ったら、送ってくれ、キス…いや記録を。記録だ!」
医療室を出ていくトゥポル。
フロックス:「30秒で無意識の失言※14が二度。面白い。」
またアラームが鳴った。
アーチャー:「どうした。」
フロックス:「薬が効きました。部分的には。免疫系は安定したんですが、脳下垂体がひどく損傷を受けてます。ほとんど崩壊してる。2段目の棚から、グレーのケージを持ってきて。青いふたのです。」
フロックスは巨大な円筒を運んでくる。
ケージを運ぶアーチャー。「中身は。」
フロックス:「カルリシアン・カメレオン※15です。ここに水を入れて? DNA 変換はしますが、このカメレオンと犬の脳下垂体は非常に近い。」
「まさかトカゲから移植するっていうんじゃあ。」
「代案があれば聞きますよ? 私もしたくありません。このカメレオンが分泌する毒素は、呼吸器の感染症治療に役立つ最後の一匹だ。」
「このタンクは。」
「移植時の、肺へのショックを最小限にするために、ポートスを高度に水和させる必要があります。」
「溺れさせるのか?!」
「ほんの一時間だけですよ。移植が済めば、蘇生には何の問題もないはずです。」
「…この手術、今まで何度やった。」
「…一度も?」
水を止めるアーチャー。「どこかで前例は?」
フロックス:「聞きませんね。」
フロックスをつかむアーチャー。「実験動物に移植するんじゃないんだぞ、ポートスだ、私の友達だ! さっきの話じゃ、ドクターの星で一番ペットに近いのは、タマネギと食い合わせのいい奴だけなんだろ!」
フロックス:「…その通りです。私は船長とこの動物の絆に、無神経かもしれません。…決断はお任せします。ただ、どうするにしても、急いで下さい?」 離れた。


※11: Pyrithian moon hawk

※12: Pyrithian bat
ENT第3話 "Fight or Flight" 「死のファースト・コンタクト」など。初登場。原語では "she" などと言っているのでメス

※13: 放送開始前から由来が三銃士であることが出回っていましたが、劇中で触れられたのは初めて。普通はポルトスと訳されます。オスと判明したのも初めて…かも?

※14: 原語では「ピラリア的失言 (Pillarian slip)」。フロイト的失言 (Freudian slip) という言葉があります。失言の内容は breast と best、lips と list

※15: Calrissian chameleon
原語では "she" と言っているのでメス

手術服を着ているアーチャー。「話を続けるために仮にだ、トゥポルへの怒りに、ま多少の…性的な要素が、あるとしよう、いやあるとは言ってない、仮の話だ。」
台に置かれたカルリシアン・カメレオンの死体。そのそばから何かを機械で取るフロックス。水槽に沈められたポートスの頭には穴が空いており、その中に入れていく。「はい?」
アーチャー:「『はい』って何だよ。精神科医なんだろ? どうすればいい、その要素は無視するのか…それとも、彼女に何か言うのか。」
午前 3時44分。
フロックス:「どちらもバツ。」
アーチャー:「どっちも?」
「無視できるなら私に意見は求めていないはずです。特にこの状況でね?」 ポートスの脳の様子をモニターで見るフロックス。「もう一つ、トゥポルに打ち明けるという方ですが、もちろん船長次第とはいえ恐らく事態を悪化させる結果しか、生まないと思います。自動縫合器をいいですが、その…黄色のです。」
渡すアーチャー。「移植の成否はいつわかるんだ。」
フロックス:「順番ですよ、まずは蘇生させることです。」
「じゃあ、無視もできない、話もできない、そしたらどうすればいい。」
「知っておくこと、ただそれを知っておくことですよ。それだけで驚くほど違います。水槽の、温度を 12度…下げてもらえますか。」
「回復したら食事や何か…今までと変えるのか。カメレオンの脳下垂体だ。」
「ん? 見つけにくいだけです。…怖い時保護色で色を変えますからね。」
「…冗談だろ。」
「そうです、ハハハ。」 縫合器で頭を縫い合わせていくフロックス。
「……性的な緊張の、専門知識はその…研究の成果か。それとも経験からか?」
「妻は 3人ですがねえ。」
「確か、それぞれ夫が…」
「2人ずつ、私のほかに。」
「かなり複雑そうだな。」
「多夫多妻の醍醐味です。」
「で? 3人の妻に…」
「それぞれ 3人の夫。720 の人間関係です。そのうち 42 に、恋愛の可能性がある。」
「子供は 5人と言ってたよな。家族全体では子供は、何人いるんだ。」
「31。増えてなければ。」
「…寂しいだろ。ずっと帰らず、2年以上だ。」
「シナプス誘導子を。小さな青いのです。……子供は全員巣立ちました。何年も前です。」
「そいつは意外だなあ。そんな年に見えない。」
「…誉め言葉と取りましょう、フン。2人の娘は同じ道を歩いてくれてます。外科医と、生化学者です。」
「ほかの 3人は。」
「息子の一人は芸術家で、陶芸家なんです。母親のそばに住み焼き物を作ります。」
「ほかの 2人は。」
「…下の 2人の息子は、目も合わせない。ずっと口も聞かずにもう、随分になります。」
「…いや、悪かった。余計なこと…」
「構いませんよ。…会いたいかということなら、ええ…一人残らずね? 子供に妻たち、別の夫たちにも、フフン。でも、デノビュラ人の寿命は、長いんです。今はここにいられることが嬉しいんですよ。あなたの船に、種族間医療交換計画で勤務できることがね。」
「…ドクター、結果がどう出ても、ドクターに謝りたい。無神経な言い方をして、悪かったよ。」
「私の種族全体を無神経扱いしたんですよ。」
「…じゃあ、ドクターとそれに、デノビュラ人みんなに、謝らせてくれ。」
「…他人の代弁はできません? でも、私に関しては、許しましょう。…トゥポルから、船長は謝れない人だと聞いていますしね?」
顔をしかめるアーチャー。

地上の町並み。
アーチャーは異星人の言葉を唱えている。クリタサンや、トゥポルたちが見守る。
上半身裸のアーチャーは、クリタサンと同じ髪飾りをつけている。身体には模様。
チェーンソーを使い、中央に置かれた木を切り落としていく。
クリタサンをチラリと見るサトウ。クリタサンはアーチャーの儀式を見守っている。
円盤状に切った木を持つアーチャーは、また何か唱えた。床に並べていく。手を広げた。
顔を見合わせるクリタサン。トゥポルとタッカーも同様だ。
木を再び手に取り、パッドで置き方を確認するアーチャー。非常に複雑だ。
クリタサン語を使いながら、別の場所に置くアーチャー。
クリタサンは満足した様子だ。

ワープ航行中のエンタープライズ。
午前 9時15分。
朝食を食べていたアーチャーは、ドアチャイムに応えた。「入れ。…ん、副司令官。」
トゥポル:「…タッカー少佐からの報告で、プラズマ注入装置は順調に機能しているそうです。」
「ん。彼ら純粋に親切心から、スペアも 2本くれたしな?」
「明らかに、船長の謝罪の儀式の正確さが評価されたんでしょうね。」
「謝るのに…練習も積んだし、ここは君にも…謝っておこうと思うんだ。」
「必要ありません。」
「いや、ある。…最近はどうもストレスが…多くて、あまり眠れなかった。犬のことや…」
「ですから謝る必要はありません。」
「君と、何かと摩擦があったが、今後は最小限にしたい。」
「…閉じられた空間で大勢が長期に渡って働けば、摩擦は必ず起きるものです。」
「うん、それは…確かにそうだな。特に、その…男女が、混ざっている場合にはな?」
「…階級の上下があるのはいいことです。船長と私は異性として惹かれ合うことが許される…状況にはありませんから。仮にでも。もしそうなれば、おっしゃっている…摩擦は、非常に…問題になります。」
アーチャーは深くうなずいた。作戦室を出ていくトゥポル。

廊下を歩いてきたアーチャーは、医療室に入った。
フロックス:「謝らないで下さい?」
アーチャー:「ああ…約束するよ。」
笑うフロックス。「儀式は非常に、上手くいったそうですねえ。」
アーチャー:「…もしドクターがいなかったらきっと…行く気にもならなかった。…一つ借りだ。」
「…お留守の間、ここでも事態は随分好転していますよう?」
「移植のことか。」
「拒絶反応は全くありません。」
「会えるか。」
「ええ、どうぞ。」
ポートスはまだケースの中で眠っていた。
アーチャー:「どうだ。…長い夜だったよな。…いつ退院できる。」
フロックス:「今でも結構ですが。」
「でも…」
「意識がない? 違います。眠ってるんです。…ポートス。」 ケースを叩く。
すぐに起きるポートス。まだ頭に布がついている。
アーチャーがケースを開けると、すぐに飛びついてきた。「ほら、来い。よーし。うちへ帰ろう。」 ドアを開ける。「医療室を返すよ。」
フロックス:「またいつでも泊まりに来て下さい?」 微笑み、唇の端を高く上げた。
医療室を出るアーチャー。



・感想
全体を夢落ちで終わらせるかと思ったほど、何とも変わった話です。文中で時刻が書かれている個所は、字幕で表示されています。本国のレビューでも極めて悪い評価 (中には 0点というところも) を出している人も見受けられますね。私がそこまで悪いと感じなかったのは、あきらめの部分があるからでしょうか。デノビュラ人 (フロックス) の設定が増えた点とか…見所もそれなりに……。
水中に沈んだポートスは、もちろん作り物。ここまで「彼」が注目されたエピソードはなかったですが、逆にリードとメイウェザーはセリフなしでした (しかもアーチャーの妄想の中でだけ登場)。最後の方でアーチャーがフロックスに何を謝ったか少しわかりにくくなっていますが、「無神経」という言葉でつながっているように、少し前の「デノビュラでペットに一番近いのは、タマネギと食い合わせがいいやつだけ」と言ったことです。


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