エンタープライズ エピソードガイド
第32話「招かれざる訪問者」
Marauders
イントロダクション
岩山の開けた場所に、小さな集落が広がっている。 中を走り抜ける子供。母親から荷物を受け取った。 地面には大きな工業機械が突き刺さっている。 異星人の子供は、持ってきた水筒を働いている男テシック※1に渡した。また別の異星人男性※2に手渡される。 空に音が響いた。見上げる男性。 機体が降りてくる。 男性:「奴らか。」 テシック:「わからん。…いや、違うな。奴らじゃない。」 それはエンタープライズのシャトルポッドだった。 上空を迂回し、着陸態勢に入る。 |
※1: Tessic (ラリー・シーダー Larry Cedar DS9第33話 "Armageddon Game" 「最終兵器解体の陰謀」のナイドロム博士 (Dr. Nydrom)、VOY第30話 "Alliances" 「平和協定」のジャー・ターサ (Jal Tersa) 役) 名前は後に言及されますが、訳出されていません。声:伊藤昌一 ※2: 名前は Maklii (スティーヴン・フリン Steven Flynn) ですが、言及されていません。声:檀臣幸、TNG ヒューなど |
本編
シャトルポッドから降りるアーチャーたち。熱帯地用の薄い制服を着ている。トゥポルも白い服だ。 アーチャー:「宇宙船エンタープライズ※3のアーチャーです。呼びかけましたが応答がなかったので。」 テシック:「通信がイカレてる。」 「ふむ、それじゃ商売に差し支える。……クリタサン人※4から、デューテリアム※5産出基地だと聞きました。」 「そうだ。」 タッカー:「船が破損して、燃料の備蓄がほとんどありません。」 「力にはなれん。ポンプが…故障中でね。直った頃に、出直してくれ。」 アーチャー:「蓄えは後半月で底をつきます。」 「役には立てん!」 トゥポル:「本当に? …備蓄はかなりあるようですね。センサーでは 8万リットル以上と出ました。」 「スキャンしたのか。」 アーチャー:「申し訳ない、応答がなかったので仕方なく。…うん…2、300 だけでも分けていただけませんか。」 「全て、売約済みだ。季末※6に来れば、その時は融通してもいい。」 帰ろうとするテシック。 男性:「抽出ポンプを、修理した経験は?」 タッカー:「経験はないが…道具があるから直せるかも。」 「ポンプの修理と引き換えに、少し都合してやったら。」 アーチャー:「どうやら、お互いに助け合う余地がありそうですな。」 テシック:「…ついてこい。」 タッカーだけシャトルに戻る。 中から道具を取りだしていると、子供の声が聞こえてきた。「ブーブーブー、ピュシ、ニャー…ブーブー……」 あきれるタッカー。コンピューターに触れて音を出す。 操縦席に座っていた子供が気づいた。「あっ!」 音を止めるタッカー。「そこで何してる?」 子供:「ああ…何も触ってないよ。僕、船の中を見てみたかったんだ。」 「無断でか?」 「ダメって言われるだろ。」 「…それで? …感想は?」 「…ちょっと狭すぎるし、スラスターコントロールに手が届かない。」 「ふーん、もう少し背が伸びないと。」 「…最高速度は?」 「4分の1 インパルスが出るよう設計されてるが、その気になりゃもう少し出せる。」 「おじさん、パイロット?」 「機関士さ、トリップ・タッカー少佐だ。」 「僕、ケル※7。」 「よろしくな。」 ケル:「操縦を教えてくれない?」 笑うタッカー。 ケル:「削岩機を移動させるクレーンだって運転できる。」 タッカー:「こうしよう。後で上の船に戻るから、その時許しが出たら乗せてやる。一回りしよう。」 「ほんと?」 タッカーはうなずいた。 建物の中で話すアーチャー。「パワーセル 2個。」 テシック:「6個は欲しい。」 「…そんなには無理だ。3個でどうだ。」 「デューテリアム一リットルを生成するのに、どれほど手間がかかるかわかるか。」 「詳しくは、知らん。…施設の見学を、させてくれないか。」 「天気がいいのは、3ヶ月間だけなんだぞ? 冬までに、できるだけデューテリアムを汲み上げないと。見学ツアーをやってる暇はない。…200リットル欲しいならパワーセル 5個、それ以上は譲れない。」 異星人女性※8が言う。「…医療品の備蓄が乏しいの。」 アーチャー:「……パワーセル 4個に、提供できる限りの医療品でどうだ。」 うなずく女性。 テシック:「いいだろう。…だがそれも、ポンプを直したらだ。」 アーチャー:「タッカー少佐のチームが最善を尽くす。」 「2日以内に軌道を離れてくれ。ポンプが動いたら燃料を渡すが、失敗したら手ぶらで帰ってもらう。…いいな?」 「…わかった。」 惑星軌道上のエンタープライズ。 ケースに張り付いた浸透性ウナギ※9を見つめる、異星人女性。 フロックス:「よかったら差し上げましょう。」 女性:「…餌のやり方がわからない。」 「ふーん、手間いらずですよう? 3、4日ごとに栄養スープをやるだけです。仕事中は間を空けて。」 「仕事?」 「傷ついた動脈を治している時は、血液を摂取してる。」 「…ありがとう。でも、血管の接着剤だけ頂くわ。」 「ああ、じゃあ代わりに、これをどうぞ。ああ…。」 棚から取り出すフロックス。 「…自動縫合機。」 「うーん、一つぐらいもってなきゃ。」 「でも…こんな高価な機具は頂けません。とても…」 「遠慮はなし。どうぞ? …心臓刺激機に、神経ショック機と。ハ、デューテリアムの産出作業がそんなに危険だとは。」 「…ええ、そうなんです。」 「以前、ヘキサトリオール※10はプラズマ火傷の治療に使われると聞いたことがある。」 「デューテリアムも、引火すればプラズマのように高温になるんです。」 「使わずに済むといい、うん。…どうか、しましたか?」 「…いいえ。……戻ります。」 「ええ…。」 医療室のドアを開ける女性。「ありがとう。」 うなずくフロックス。 施設の中を歩くアーチャー。「君は、ほかのデューテリアム基地にも行ったことがあるんだろ。」 トゥポル:「あちこちに。」 「…どこもこんなに質素か。」 「…普通は違います。」 「設備は壊れかけているし、建物自体、今にも崩れ落ちそうだ。フロックスによると、基本的医療器具さえ揃ってないとか。デューテリアムは非常に価値のある資源だ。もっと豊かであってもいいのに。」 「我々の目的は、ここの暮らしを判断することじゃありません。」 「…それになぜポンプを 2日で直さなきゃならん。何を急いでる。」 報告するメイウェザー。「大尉? 船がワープを解除。現在 60万キロ、さらに接近中。」 リード:「確認。」 サトウ:「デューテリアムを買いに来た客かしら。」 メイウェザー:「12名の生命反応を感知。全員クリンゴンです。」 |
※3: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※4: クリタサン Kreetassan 前話 "A Night in Sickbay" 「小さな生命の灯」など ※5: deuterium 重水素のこと ※6: ここを含め、season を「年」と訳している個所があります (きちんと year という単語を使っているところも)。ここでは単純に年を季に置き換えています ※7: Q'Ell (Jesse James Rutherford) 声:宮田幸季 ※8: 名前は E'lis (バリ・ホックワルド Bari Hochwald DS9第68話 "Explorers" 「夢の古代船」のドクター・エリザベス・レンズ (Dr. Elizabeth Lense)、VOY第167話 "Friendship One" 「終焉の星」の Brin 役) ですが、言及されていません。声:唐沢潤 ※9: osmotic eel ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」など。フロックスが "her" と言っているのでメス ※10: hexatriol 吹き替えでは「ヘキサトリオールはプラズマ火傷の恐れがあって危険だと聞いたことがある」。treat (治療する) と threat (恐れ、脅威) の取り違えでしょうか? |
ポンプの近くにいるタッカー。「このフェイズ変換装置から目を離すな? 減極しやすい。」 通信に応える異星人男性。「ポンプ6。」 テシック:『コロックの船が、軌道に入った。』 「約束は 3日後のはずだ。」 『ポンプを固定し、全員待避させろ。』 タッカー:「トラブルか?」 男性:「バルブを閉める、作業を手伝ってくれ。」 「何事だい。コロックって。」 建物のトゥポル。「彼らは、ほかの船との取引に気づくでしょう。」 テシック:「自分たちが、燃料を独占していると信じている。」 女性:「先客がいると知ったら、連中はきっと怒り出す。」 「頼む。口を出さないでくれ。こっちで話をつける。」 アーチャーはコミュニケーターを取りだした。「アーチャーよりエンタープライズ。」 リード:『どうぞ。』 「クリンゴンはエンタープライズに気づいたか。」 リードは答えた。「…その気配はありません。」 戻ってきたタッカーと異星人男性。 アーチャー:「トラヴィス、軌道を修正し、視界から船体を隠せ。」 メイウェザーは言った。「了解。」 通信を終えるアーチャー。 クリンゴン船が惑星へ近づく。 地上に転送されるクリンゴン人たち。 テシックと異星人男性だけが出迎える。 コロック※11:「友よ、元気か。」 抱きしめ、笑う。 テシック:「ずいぶん早いお越しで。ポンプが 2本壊れる事故があったんです。」 「みな腹が減ってる。まずは食い物と酒だ、話はその後だ。」 その様子を建物から見ているアーチャーたち。 テシック:「デューテリアムは、まだ揃っていません。…最善を尽くしていますが、もう少しお待ちを。」 タッカーには何を言っているか聞こえない。「何の話でしょう。」 トゥポル:「…約束通りの量が揃っていないことを説明しています。」 「…すんげえ耳だ。」 テシック:「ポンプの故障で、フル稼働できませんでした。」 コロック:「嫌な予感がしてきたぞ。わしの機嫌を損ねるなよ。」 「…8万キロなら、すぐお渡しできます。不足分は、一週間後に。」 「時間はたっぷりやった。今欲しい。すぐにだ。」 「無理です。ポンプが、2本壊れてしまって。」 「…動いてるじゃないか。」 「修理し終わったところです。」 「嘘つけ!」 テシックを殴り倒すコロック。 男性:「やめてくれ! 欲しいだけもってけよ!」 だが別のクリンゴン人に殴られた。 出ていこうとするタッカーを止めるアーチャー。 テシック:「お待ち下さい!」 コロック:「……デューテリアムはほかでも手に入る。お前たちが、わしらを歓迎し…尊敬の念を見せるから、来てやってるんだぞ?」 男性:「根こそぎ奪ってるのに…尊敬しろと言うのか…。」 見守るアーチャーたち。 コロック:「あと 4日だ、それまでに用意しろ。ヒジョー※12。」 クリンゴン人は、全員転送されていった。 すぐに建物を出るアーチャーたち。 女性:「中に運んで。」 中にいたケルは医療器具を用意する。 アーチャー:「あれが『独占』客か。」 テシック:「ほっといてくれ。」 タッカー:「あいつら、いつから来てるんだ?」 男性:「5季前さ、一番に採った上物を根こそぎ奪っていく。」 女性:「動かないで?」 「奴らが帰ると、俺たちは地下深い層から 2、3千ほど汲み上げる。時間もかかるし、不純物だらけで精製も難しい。」 テシック:「それなりの収入にはなる。冬を越すことはできる。」 「何とかね。」 トゥポル:「母星には連絡したんですか?」 テシック:「遠すぎて無理だ。」 タッカー:「武器がある。自己防衛できるはずだ。クリンゴンの数は?」 女性:「…たいてい 7人。」 「…たった? 数では優ってる。10 対 1 だ。」 テシック:「クリンゴンの強さを知らないようだな。一度は立ち向かった。3季ほど前だ。その戦いで 5人死に、さらに 3人殺された。見せしめにな?」 女性:「この子の父親もその時に。」 ケルを抱きしめる。 アーチャー:「…私達に何かできないか。」 テシック:「……200リットルもって帰ってくれ。奴らに見つかったら、殺されるぞ。」 建物を出るアーチャー。「リード大尉か。」 リード:『クリンゴン船は、ワープで立ち去りました。シャトルポッドを迎えに行かせます。』 「着陸地点で待つ。」 3人を見送るケル。 タッカーは振り返った。「先に、行ってて下さい。」 ケルのもとに戻る。「乗せてやれなくてごめんな。」 ケル:「大砲と魚雷を積んだケレナイト※13船を見たことがある。」 「ああ。大きな船は武器を積んでる。」 「エンタープライズも。」 「…ああ。もちろんだ。」 「じゃあクリンゴンと戦ったら、勝てる?」 「…多分な。」 「なぜ戦わないの。」 「…そう単純にはいかない。」 エンタープライズ。 作戦室でドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」 トゥポル:「…デューテリアム 200リットルを積み込みました。……メイウェザー少尉に軌道離脱の指令を出しますか?」 「…これでいいのか。デューテリアムを手にしてハイさよならか。…彼らは家族のために必死に働いているのに、クリンゴンは好き放題に振る舞い奪っていく。これが正しいことか。マルコムによると、クリンゴン船は貨物船程度の規模らしい。エンタープライズの敵じゃない。」 「今回追い払っても…我々が去った後誰が彼らを守るんです。」 「…クリンゴン最高評議会に、連絡を取ってもいい。我々はスリバンからクラングを助け、※14ガス巨星から連中の船を救い出した。※15我々の頼みなら聞くさ。」 「…連中が最高評議会のいうことを聞くかどうか。」 「ヴァルカンは、ほかの文化と深く関わらないんだろうがこれはそういう問題じゃない。現実に 76人が苦しめられている。私が同じ立場だったら、誰かに助けてもらいたいと思うだろ。」 「…意外かもしれませんが、私も賛成です。…でも、クリンゴンを殺さないまでも、我々が動けば事態を悪化させるだけではないでしょうか。」 「私は…逃げ出すのが、嫌なんだよ。」 夜の地表。テシックが独りで働いている。 アーチャー:「手伝おうか。」 テシック:「…アームがストップした。リリースバルブを回してくれるか。」 「よし。」 「…左に回して。」 「これか?」 「…今頃は、次の星系に向かってるはずじゃ。」 「長居しすぎてたまに嫌われるんだ。」 「こんな真夜中にやってきたのは作業を手伝うためじゃないんだろ?」 「ほかにもっと大きな問題を抱えているようだからな。」 「その話なら結構。あんたには関係ない。…もう一回回して。」 「…クリンゴンはいつから来てるって? 5季前? いつまでこんなことを許す、あと 5季か?」 「いいぞ、そこで止めて。……冷却液の管をつないでくれ。取り入れ口は上だ。」 「……戦術士官と話し合った。君たちには自己防衛能力が十分ある。」 「もう戦った。その証拠に、8人の仲間が近くに埋葬されてる。」 「今回は前とは違う。我々が手を貸そう。」 「助けはいらん! 私は責任があるんだ。みんな私を信頼し、頼ってる。みんなを守る義務がある。……情けない。」 道具を投げ捨てるテシック。「修理一つ満足にできん。……あんたたちは、我々を助けたいと言うが…今回成功しても、あんたたちが帰ったら。奴らはまた戻ってくる。」 「…地球ではこう言うんだ。『魚を与えても…その日しか食えないが、釣りを教えたら…一生食っていける。』」 |
※11: Korok (ロバートソン・ディーン Robertson Dean TNG第140話 "Face of the Enemy" 「ロミュラン帝国亡命作戦」のパイロット、映画第10作 "Star Trek Nemesis" 「スター・トレック ネメシス」のレムス人士官役) 声:廣田行生、DS9 ブロカ、ネメシス 副長官など ※12: HIjol 「転送しろ」 ※13: Kellenite ※14: ENT パイロット版 "Broken Bow, Part I and II より ※15: ENT第14話 "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」より |
武器を見るリード。「これなら十分使えそうだな。」 男性:「シャイバのトカゲ※16が、パワー連結機をかじらないよう退治する。」 「ちょっと改良すれば、トカゲ以上のものを退治できます。」 「でも船には、兵器の在庫がたっぷりあるんだろ?」 「今回の戦いで兵器は必要ない。作戦と攻撃方法次第で兵器と同じ威力がある。」 トゥポル:「クリンゴンは攻撃的な戦士ですが、戦術は荒削りです。…環境の変化への、対応も遅い。」 テシック:「大がかりな、計画のようだな。具体的に我々は何をする。」 アーチャー:「クリンゴンを罠におびき寄せる。」 「…どんな罠だ。」 タッカー:「あつーい罠。デューテリアムの産出孔には、どれぐらいの圧力がかかってる。4,000ミリバールか?」 男性:「5,000。」 「面白い花火が上げられる。」 テシック:「産出孔にクリンゴンを近づけるのは無理だ。危険性を知ってる。」 男性:「奴らは野蛮だがバカじゃない。」 アーチャー:「そこで作戦と攻撃方法が重要だ。頼んでおいた地図は。」 テシック:「ここに。」 広げる。 「基地の建物は、たいてい組み立て式だろ?」 「ええ、全て。ほとんどのデューテリアム井は、3、4年で枯渇する。だから、あちこち移動してる。」 「つまり建物は、比較的短期間で設置し直すことが可能だ。」 男性:「移動する場所にもよるけどな。」 「南に約50メートル、この辺りは。」 テシック:「どうしてここに。今集落がある場所と、同じ地形だ。」 タッカー:「だからいいんだ。建物と掘削装置を移動すれば、全て元からそこにあったように装える。」 男性:「産出孔を除いてはか。」 アーチャー:「穴の表面を覆って、カムフラージュする。」 テシック:「それは可能だ。」 リード:「…それからこの斜面の溝に、身を隠せますか。」 「頭を引っ込めれば。」 トゥポル:「…少人数ごとに、ギリギリまでエンタープライズで訓練を行います。武器を扱った経験がある人がいいでしょう。」 アーチャー:「あと 3日だ。急いだ方がいい。」 テシック:「…さっさと始めよう。」 ポンプの活動が止められた。 荷物を運び出すメイウェザー。 夜になっても建物の解体が続く。 タッカー:「あと一メートル。よし、止めろ。」 異星人男性に銃を渡すリード。「いいか? …よーし、始め!」 他にも異星人が集まっている。 空中に浮かんだ標的を撃とうとする男性。だが全て外れてしまった。「トカゲはこんなに素早くないからな。」 サトウ:「私にやらせて?」 リード:「…うん。」 「撃つ時に引き金にかけた指に力が入ってる。それで狙いが狂うの。私も前はそうだった。」 微笑むリード。 サトウ:「ターゲットに狙いを定め、焦点が合ったら楽に引き金を引いて。」 見事に命中する。「やってみて?」 サトウを見るリード。 建物に入るタッカー。「テーブルはもうちょい左でしたよ。」 アーチャーは笑い、水筒を受け取る。「ありがとう。…ポンプの方は進んでるか。」 タッカー:「組み立て終わるのは明日になります。」 「ああ。」 「穴を覆う作業も始めてます。」 「人手がいるなら…よし。知らせてくれ。」 荷物を運び入れるアーチャー。 「回路を別々にして、点火装置を 2個所仕掛けました。」 「…移動なんて無理だと思ったが…何とかなりそうだ。」 「これは、大きな賭けだ。…でしょ。」 「……無謀だと思うか。」 「…そうは言ってません。」 「……弱い者いじめは許せない。地球であろうと、どこであろうと。」 兵器室で話すトゥポル。「クリンゴンは銃を携帯していますが…戦闘では銃より刀を使うのを好みます。刀は 2種類。バトラフ※17は、カーブのある両刃の刀。短刀のメクラフ※18は、先が…2つに分かれています。バトラフは、一振りで首を切り落とす威力がありますが、メクラフは…喉や腹を切るのに使われます。一般的には。…こうした武器から身を守る方法を教えることはできません。ヴァルカンの武術スース・マナ※19は習得に…何年もかかります。しかし、身をかわす単純なテクニックなら、すぐ覚えられます。メイウェザー少尉。」 棒を渡す。「バトラフなど持っていなくても、これで十分です。本気でかかってきて。…私を倒せるかしら。」 メイウェザー:「こっちの身体が心配です。」 精一杯振り下ろすメイウェザー。全て簡単に避けられ、トゥポルは床をクルリと回った。 立ち上がる。「…今のはナヴォコット※20と言って、身につけるのは簡単です。さあ誰からやる。」 訓練が進む。 次の夜になっても移設が行われている。 ケルから水筒を受け取るタッカー。「ありがとう。」 ケル:「……リード大尉がクリンゴンが来たら、谷に隠れてろって。」 「ああ、怪我すると危ない。」 「…僕も手伝いたい。40メートル離れてもトカゲを撃てる。」 「…大尉にはルールがある。銃を扱うには背が足りないな。」 「…隠れてるのはやだ。」 「…うん。狙いがトカゲと人ではまるで違うんだよ。それに、トカゲは撃ち返してこない。……クリンゴンが現れたら、リード大尉の言うとおりにしてるんだ。いいね。」 「…了解。」 銃は皆撃てるようになった。 それを見ているサトウとリード。 溶接作業が行われる地表。 また昼になり、岩や砂が運ばれる。 独りで建物にいるテシック。 アーチャーが入る。「ポンプの移動に手間取ったが…何とか収まった。準備完了だ。」 テシック:「…犠牲者が出ないといいが。……あんたたちにも、私達にも。」 「…一年前、地球を離れたのは…探検と、君たちのような種に会うためだ。…だがスペースドックを出てわずか 3日後、我々は…たちの悪いスリバンという種と、激しい銃撃戦に巻き込まれてしまった。私は脚を撃たれ、意識を失う直前こう思ったのを覚えている。『宇宙に出たのは争うためではなく、新しい星を発見し、友好的な種と出会うためだ』と。…だがスリバンが仲間に向かって撃ってきた時、私ははっきり覚悟した。戦うしかないと。その時の怖さを恥じてはいない。今も不安だ。…でもきっと…我々ならできる。」 呼び出しに応えるアーチャー。「アーチャー。」 メイウェザー:『クリンゴン船が、ワープを解除しました。』 テシックは武器を持ち、うなずいた。 アーチャー:「了解した。」 |
※16: shib'a lizard ※17: bat'leth TNG第81話 "Reunion" 「勇者の名の下に」など ※18: mek'leth 映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」など ※19: Suus Mahna ※20: Navorkot |
静かな地表。誰もいない。ポンプも動いていない。 風で開け閉めされるドア。 クリンゴン人たちが転送されてきた。 辺りを見渡すコロック。「妙だな。」 クリンゴン※21:「どうした。」 「やけに…静かだ。…歓迎の出迎えはどうした! …これが友を迎える態度なのか!」 銃を上空に向けて撃つコロック。「姿を見せろ!」 メクラフを取り出す別のクリンゴン人。 クリンゴン語で部下に命じるコロック。みな建物の中を確認していく。 首を振る部下たち。 音に気づき、そちらへ向かう。誰もいない。 ふいに動物の鳴き声のようなものが聞こえてきた。 隠れて声を出しているのはタッカーだ。 それを合図として、建物の脇に隠れていた異星人が飛び出した。 全員で追いかけるクリンゴンたち。 タッカーはタイミングよく、ひもを引っ張った。 先頭を走っていたクリンゴン人は、それに身体を邪魔され、倒れた。 今度はクリンゴンに向けて武器が撃たれる。建物に隠れるコロックたち。 撃っていたのはリードだった。 コロック:「こんなことしてデューテリアムだけじゃ済まないぞ!」 隠れていた異星人が、大きな石をクリンゴンの頭に当てた。 振り返るクリンゴン人※22。「プターク※23!」 追いかける。異星人は出会い頭にぶつかってしまった。バトラフを振り下ろすクリンゴン。 リードは 2人に気づいた。武器を撃ち、異星人を逃がす。 建物に入ったクリンゴン人。誰もいない。外への抜け道がある。 ドアから出ようとした時、咳払いに気づいて振り返った。 隠れていたアーチャーに殴り倒されるクリンゴン。他の仲間も集まってきた。 そこへ再び発砲。異星人男性が撃っていた。 逃げるテシック。追うクリンゴン人に声をかけて反撃を仕掛けたのは、トゥポルだった。 身軽な服装をしており、見事に蹴り技を見舞っていく。 バトラフで応戦するクリンゴン。トゥポルは脚を絡ませ、倒した。 クリンゴン人が拾おうとするバトラフを押さえつけ、顔を蹴る。「行くわよ。」 逃げていくトゥポルとテシック。 集まるクリンゴンが、遠くにいる異星人男性に気づいた。「いたぞ。」 銃を向ける。 だがコロックが止めた。「よせ、やられるぞ。ポンプには、強い圧力がかかってる。」 走り去る男性。 コロック:「引火したら村もろとも吹っ飛ぶぞ。」 クリンゴン:「引っかかるところだった。」 双眼鏡で異星人男性を追うコロック。山腹に多数隠れていることを確認する。「ターグのように隠れてやがる。ゴラ・カ!」 歩き出すクリンゴン人たち。「クリンゴンへの接し方を教えてやろう。4人殺すぞ。ガキも容赦しない。」 男性が合流する。 トゥポル:「船長。」 クリンゴンの動きと、先の方の場所とを確認するアーチャー。「まだ遠いな。」 リード:「ええ。あと 50メートル左に引き寄せたい。」 「みんな、こっちだ。」 クリンゴン語を使いながら近寄ってくる。 山腹を降りる異星人たちに気づいた。手持ち武器を捨て、向かってくる。 リード:「まだ遠い。」 おびき寄せるように下っていく。「もうすぐです。」 クリンゴン人の先には、地面に石が積み重なっている。 アーチャー:「もうちょっとだ。」 コロックは足下の金属に気づいた。辺りを見渡す。「何でこんなところに。」 アーチャー:「今だ。」 手元の機械を操作するタッカー。 クリンゴンの周りが、火に包まれた。さらに爆発し、完全に包囲される。 アーチャー:「後は任せたぞ。」 クリンゴンたちに近寄るテシック。「コロック! やむを得なかった。足下に後 2つ穴がある。」 地面を見るクリンゴン人。 テシック:「今すぐ出ていかないと爆発させる!」 コロック:「プタック! 今に後悔するぞ。」 「戻って来るというなら、今すぐ爆発だ。」 後ろのアーチャーたちを見たテシック。「準備はできてる。…もうお前たちなど怖くないぞ。」 コロックは銃を収めた。「デューテリアムはほかでも手に入る。ここのはゴミ運搬船にも合わん。※24ヒジョー。」 みな転送されていった。 立ち上がるアーチャーたち。そして異星人は歓声を上げる。 テシックと抱き合い、喜ぶ。 リードの肩を叩くアーチャー。 シャトルポッドに入るタッカー。 ケルがパネルに触れていた。 タッカー:「宇宙艦隊に入隊しない限り、その席には座れないぞ。」 ケル:「……ずっといられたらいいのに。」 「…それがこの仕事の辛いところだ。人々との別れ。友達ともね。…ああ、忘れるとこだった。」 タッカーはパッドを取りだした。「エンタープライズの図解だ。宇宙船を見たがってただろ? …これを見たらビックリするぞ?」 「ありがとう。…いつか戻ってくる?」 「…ああ…どうかな。また燃料不足になるかも。」 運ばれる貨物を見るアーチャー。「1,000リットル以上ありそうだ。」 テシック:「2,000 ある。」 「約束は 200 だ。」 「パワーセルと医療品、修理が条件だったが…それ以上のことを、してもらった。」 男性:「それに今デューテリアムは余ってる。」 パッドを持ったケルがやってくる。 テシック:「みんなによろしく。」 アーチャー:「がんばってくれ。」 シャトルへ向かうアーチャーとトゥポル。 起動されるポッドに乗り込んだ。 テシックたちが見守る中、シャトルポッドは飛び立った。上空へ向かう。 |
※21: クリンゴン人その1 Klingon #1 (ウェイン・キング・ジュニア Wayne King, Jr. 映画 "Star Trek: First Contact" のボーグ (スタント) 役) 声:樫井笙人、VOY ジョナスなど ※22: クリンゴン人その2 Klingon #2 (Peewee Piemonte) 声優なし (原語) ※23: pahtk TNG "Reunion" など ※24: ゴミ運搬船=garbage scow。TOS第42話 "The Trouble with Tribbles" 「新種クアドトリティケール」(と、DS9第104話 "Trials and Tribble-ations" 「伝説の時空へ」) で、スコットがクリンゴン人にエンタープライズのことをこう呼ばれて激怒しました (当時の訳では「ゴミ箱」)。吹き替えでは、なぜか「ここのはクリンゴン船に合わん」 |
感想
ロケ撮影を多用したクリンゴン話です。前回の "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」の感想では、クリンゴンとの関係も一つの中心になるだろうと書いたのですが、今回はどちらかというと「単なる荒くれ者」という描写に終わった感じです。 TOS 風味あふれるストーリーの中、双方ともあまりに稚拙な作戦が展開されています。何のためにやったのかわからない格闘訓練 (結局一番活躍したのはトゥポル。ヴァルカン人が "Hey!" って…)。人を含めた転送技術をもっているのに、火に包まれて降参するクリンゴン人 (すぐ転送で戻ってきて殺せばいいのでは?)。TOS を意識することと、内容が陳腐になることとは意味が異なります。重水素って、まるで石油か何かのように「掘り出す」ものなんですね…。 |
第31話 "A Night in Sickbay" 「小さな生命の灯」 | 第33話 "The Seventh" 「封印された記憶」 |