エンタープライズ エピソードガイド
第33話「封印された記憶」
The Seventh
イントロダクション
トゥポルの部屋。 ヴァルカン語で書かれた本をめくっている。 コンピューターの音が鳴り、横になっていたトゥポルはすぐに起きた。 コードを入力すると、画面にヴァルカン語、続いてヴァルカンのマークが表示された。さらに入力を続ける。 女性のヴァルカン人※1が映し出される。『副司令官。』 トゥポル:「はい。」 『起こしましたか?』 「構いません。問題でも?」 『メノス※2を見つけました。』 「……どこで。」 『あなたの現在地から 3日以内です。』 「間違いないんですか。」 『ええ。』 |
※1: ヴァルカン人士官 Vulcan Officer (Coleen Maloney) 声:きのしたゆうこ ※2: Menos |
本編
トゥポルはドアチャイムを押した。 アーチャー:『入れ。』 作戦室にいる。「おはよう。」 トゥポル:「船長。」 「トーストは?」 「結構です。」 「…どうしたんだ。」 「…フォレスト提督から、午後連絡が入ります。」 「…そうなのか。何でわかるんだ。」 「夕べヴァルカン最高司令部から私に、保安関係の任務を命ずる通信が入りました。」 「うん…で、提督にはもう話が通ってるのか?」 「午後連絡が入るはずです。」 「…『保安関係』って?」 「…提督からお聞きになるでしょうが、パーナイア星系※3へコース変更することになります。私の任務期間は 3日から 5日。シャトルとパイロットがいります。」 口を拭くアーチャー。「質問に答えてない。…保安関係のどんな任務だ。」 トゥポル:「…任務が終了し次第、シャトルでヴァルカン船とランデブーします。」 「……誰かを捕まえに行くんだな? そしてその人物をヴァルカン船に引き渡す。…なぜ君が。」 「…フォレスト提督から午後連絡が入ります。」 「……示唆に富んだ話だった。もういいぞ。」 トゥポルは出ていく。 『航星日誌※4、補足。予期したとおり、フォレスト提督から連絡があった。ヴァルカンの要請に従えとの命令だ。』 司令室。 アーチャーが入る。「座標はわかったか。」 メイウェザー:「パーナイア・プライム※5。確認しました。」 画面に惑星が表示されている。 「コースセットだ。到着後トラヴィスがシャトルを操縦する。」 「でも、目的地はどこなんですか?」 「星系内の、どこかには違いない。正確な位置に関しては、フォレスト提督も御存知ないんだ。副司令官はかなり高度な極秘任務に就くようだ。」 皮肉混じりに話すアーチャー。 「そのパーナイア・プライムに住民は。」 サトウ:「ヴァルカンのデータベースでは、大気はメタンベースです。」 「じゃあ星系内の別の星へ行くんだ。ヘ、当てっこゲームでもやろうってんですか。」 無言のトゥポル。 アーチャー:「いや、パーナイア・プライムで、ただ待つんだ。トゥポルとトラヴィスが戻るのをな?」 タッカー:「その間、何してるんです?」 リード:「魚雷発射装置の、調整に当てられますねえ。」 「俺は機関室の手すりを磨こう。」 誰一人として笑わない。「…リアクターの、掃除に当てます。」 アーチャー:「ほんの数日のことだ。いくらでもやることはあるだろう。任務の上で何か、必要な物はあるか?」 トゥポル:「…寒冷地用スーツ、拘束具にフェイズ銃を。」 顔を見合わせるタッカーとメイウェザー。 ポートスの横で、壁に乱暴に水球を投げつけているアーチャー。水球の映像が流れている。 シャツ姿のアーチャーは、ドアチャイムに応えた。「入れ。」 トゥポルが入る。 アーチャー:「ヴァルカン最高司令部が水球の試合を認めないのなら、ほかのに変えようか?」 トゥポル:「直接の命令は最高司令部でなく、艦隊から出されたものです。」 「…何か用か。」 「…個人的にお願いがあって来ました。」 水球の試合に展開があり、画面を見るアーチャー。トゥポルはモニターの前に立つ。 映像を消すアーチャー。 トゥポル:「科学理事会の勤務になる前、私は保安省の所属でした。偵察・奪回の訓練を受けました。」 アーチャー:「おいポートス、レディに席を譲れ。」 すぐにどくポートス。「面白くなりそうだ。ほら、座って?」 言われたとおりにするトゥポル。 アーチャー:「どのくらい前の話だ?」 トゥポル:「訓練を終えたのは 17年前です。」 「うん。続けて?」 「…アガロン※6という惑星は、ご存知ですか?」 「ヴァルカンの親密な同盟国だろ?」 「最近です。以前、アガロンは非常に腐敗していました。…彼らの指導者は同盟締結協議の際、ヴァルカンに助けを求めました。30年以上前です。100名以上のヴァルカン・エージェントが整形手術を受け、腐敗した政治組織に潜入しました。最後には、彼らの働きでそこにいた犯罪組織を一掃しました。」 「まさか、君もその…エージェントの一人だったのか?」 「そんな年ではありません。…同盟が締結された後、エージェントは呼び戻され、みな戻ってきました。…19名以外は。」 「…誘惑に負けるヴァルカン人もいるようだな?」 「…保安省は新たな工作員チームを、奪回に送り込みました。…私は割り当てられた 6名を逮捕しましたが、一名に逃げられたんです。」 「じゃ明日、そいつを捕まえに行くのか。…だがなぜほかの者じゃなく君なんだ。」 「任務を全うすることが、名誉だからです。」 「ヴァルカンらしいな。それで? …どうして私に話す気になったんだ。」 「同行して欲しいんです。」 「何?」 「今回追う男は、非常に危険な人物です。応援がいた方が確実です。」 「でも、ヴァルカンの船が来るんだろ。応援なら必要なだけよこすんじゃないのか。」 「できれば船長に来ていただきたい。」 「どうして。」 「……信用できる人物が必要です。…もし断られたとしても、仕方ありません。……おやすみなさい。」 立ち上がるトゥポル。 「何て名前だ。…我々が逮捕しに行く男は。」 「…メノスです。」 「……じゃ明日な。」 トゥポルはアーチャーの部屋を出ていく。 廊下を歩くタッカー。「同意したならどんな任務か少しは聞いたんでしょう?」 アーチャー:「3日から 5日以内に戻る。ヴァルカン船が様子をうかがいに来たら、私が一緒に行ったとは絶対に言うな。」 「何でです。一緒に行くと、何か問題でもあるんですか。」 「…3日から 5日だ。」 「頼みますよ! 夕べは船長もイラついてたじゃないですか。副司令官が謎の任務に行く間、ただ待ってるしかないって。」 到着したターボリフトに乗るタッカー。「覗き根性で言ってるんじゃない。何か事故でもあったら、どうするんですか。俺を船の責任者にして行き先は秘密? クルーの居所も知らなくて、どうやって船長代理が務まるんです。そうでしょう。」 降りるアーチャー。「トゥポルにはやり残した仕事がある。なぜかはわからんが俺が必要らしいんだ。無事戻るよ。」 シャトル発着ベイに入るタッカー。「『やり残した仕事』って幅が広すぎますよ。具体的に言って下さい。」 アーチャー:「後は任せた。トラヴィスに座標は伝えたか。」 トゥポル:「はい。」 タッカー:「…楽しんで。」 シャトルポッドが発進した。 後方のコンピューターに、男性の写真が次々と表示される。 トゥポル:「アガロンへ行く前に、彼の耳の形は手術で変えられています。額の隆起は後になってつけたようです。」 アーチャー:「なぜ帰ってこなかった。」 「…彼は密輸組織に潜入しました。手口を学んで、本業並みの腕になり、富を手にしました。」 「何の密輸だ。」 「合成生物毒素※7です。遺伝子組み換え兵器に使われます。…3ヶ月捜索しましたが…金にものを言わせて逃げ、駆けつけた時はいつも逃げた後でした。」 「見かけたことも?」 「一度だけ、ライサ※8で。…彼らは油断したようです。」 「彼ら?」 「彼です。…彼は油断したようです。あんな平和な星なら、疑われないと思ったんでしょう。」 「どうなった。」 「……すぐ近くに迫った。20メートル。10メートルかも。」 森を逃げる男。追う若いトゥポル。 アーチャー:「トゥポル?」 トゥポル:「…それきり行方は、不明でした。今回まで。」 雪の降る中、建物へ降下するシャトル。 さまざまな異星人が酒を飲んでいる。みな厚着だ。 そこへスーツを着たアーチャーたちが入る。 スキャナーを使うトゥポル。「ここにいます。」 |
※3: Pernaia system ※4: 原語では通常の "Captain's Starlog" ではなく、"Captain's Log" になっています。後にもう一度日誌がありますが、その時は Starlog です ※5: Pernaia Prime ※6: Agaron ※7: synthetic bio-toxin ※8: Risa ENT第25話 "Two Days and Two Nights" 「楽園での出来事」など |
アーチャーは尋ねた。「どこだ。」 トゥポル:「30メートル以内です。」 メイウェザーに話すアーチャー。「…トゥポルを見たら逃げようとするだろう。」 3人は、異星人たちの顔を確認していく。 どの顔もメノスではない。 ギャンブルを楽しむ人々。 トゥポルは鏡の中に、メノスの顔を見た。 振り返ると、向こうから近づいてくる。 しかし間にいた異星人に阻まれ、見失った。 テーブルの下に隠れるメノス。 トゥポルはアーチャーの姿を見つけ、駆け寄った。「見られました。」 アーチャー:「どっちへ。」 「不明です。」 アーチャーはテーブルの上に立ち、口笛を吹いた。 それを聞くメイウェザー。 するとアーチャーの近くを、武器がかすめた。 銃を撃っているのはメノスだ。 騒ぐ客たち。 メノスはトゥポルも狙ってくる。 アーチャーは巨大な異星人※9にぶつかった。理解できない言語で怒鳴ってくる。 アーチャー:「確かにな!」 メイウェザーがメノスに飛びかかった。「動くな。」 フェイズ銃を突きつける。 近寄ったアーチャーは、メノスに手錠型の拘束具をつけた。 メノス※10:「ここは、管轄外だろ。」 トゥポル:「来なさい。」 パーナイア・プライム軌道上のエンタープライズ。 水球の映像が流れている。 ドアチャイムに応えるタッカー。「入れ。入ってくれたまえ。よく来たな。」 リード:「水球ですか。」 「面白いぞ? 君らも見てみるといい。」 映像を切るタッカー。「さあ、かけて? シェフにスペシャルランチを作らせた。」 フロックス:「うん。」 「ソーセージとマッシュポテト。それにドクターには、デノビュラのソーセージ※11だ。」 リード:「食事室を勝手に使ったりして、船長が怒るんじゃないですか?」 「船長代理が使うんだ。どこに文句がある?」 給仕に運ばれる料理。「ご苦労、ご苦労。…食べて?」 フロックス:「それじゃ。…そうだ、今朝船内でリンパ管ウィルス※12を検知したんです。デューテリアムキャニスターにでも、潜んでいたんでしょう。全クルーに予防接種をすべきです。」 「何でバイオ・スキャナーにかからなかった。」 「頼りになりますが、完璧じゃない、フン。予防接種には副作用がありますが?」 「どんな副作用だ。」 「うーん、頭痛に吐き気、下痢ですねえ。1日、2日で収まります。もらえますか、許可は?」 「…クルーの下痢に責任を負うってのは、どうもなあ。…船長が戻るまで待たないか。」 「ウィルスが蔓延しますよ? 今日返事が必要です。」 タッカーは口へ運ぼうとしたフォークを下ろした。「じゃあ後で連絡するよ。」 フロックス:「あまり後は困りますよ?」 フォークを使おうとした時、今度はリードが言った。「許可ついでにもう一つ。船長に魚雷発射管を調整すると約束したんですが、機関室のコンピューターを流用しなければなりません。」 タッカー:「じゃワープコアをパワーダウンすることになる。」 「一日だけです。どこへ行くわけでもなし。」 「戦闘状態でもないぞ。今エンジンを止めるのは気が進まないねえ。」 「機関主任の意見ですか? 船長代理の。」 「…後で連絡する。」 タッカーは今度こそ食べようとしたが、通信が入った。「タッカーだ。」 サトウ:『ヴァルカン船ニラン※13から通信が入りました。高速ワープで接近中で…アーチャー船長と話したいそうです。』 「船長は…気分が優れないと言ってくれ。また、後で連絡するってな。」 『了解。』 通信を切るタッカー。「ヴァルカンにはトゥポルと一緒だってこと言うなって言われてんだ。…かなり強く念を押してた。」 フロックス:「4日間、気分が優れないで通すのは難しそうだ?」 フォークを下ろすタッカー。また通信。 サトウ:『フォレスト提督から、船長へ伝言があるそうで。タヴェック船長はどうしても話したいとおっしゃってますが。』 タッカー:「…後で連絡する!」 食べる気がなくなり、フォークを落とした。 異星人の男※14は立ち上がった。「…令状は有効だが、連れて行くことはできんぞ。少なくとも後 4時間はな。着陸デッキを熱処理し始めたとこだ。」 トゥポル:「シャトルに乗せたいだけなんです。」 「デッキ中に、ザイラソリック酸※15が 5ミリの厚さでまかれてるんだよ、それでも行くかね? その可愛いアンヨが、大事だったらなあ。」 アーチャー:「出発できるまで彼を拘束しておける場所はないか。」 「よーく見ろ、ここが刑務所に見えるか。」 パッドを返す異星人。 アーチャーはメノスの拘束具を、テーブルの脚にくくりつけた。「仲間がいないとも限らないぞ。」 アーチャー:「保安省の見解は、非常に明解でした。…仲間はいません。」 メノス:「いたこともあるぞ。」 森を逃げるメノス。その後を別の男が走っている。そしてトゥポルが続く。 アーチャーたちを見るメノス。「人間だな。…そっちもそうだ。奴ら、私を元に戻したがった。…連れ帰り…額を平らにして、また耳を尖らせ、連中が私に教え込んだスパイとしての暮らしを、何とか忘れさせようとした。私が犯罪者になったと思いこんで、放っておけば取り返しがつかないと、勝手に決めつけた。ヴァルカンでの 3年の矯正治療。だが私は拒否した。」 笑う。「そして私は逃げた。…私は盗みも、密輸もしていない、一度もね。…密輸人と仕事はした。長いこと彼らの、かなり近くで働いた。その訓練を受けたからね。私がこの 20年間、どうやって家族を養ってきたと思う。ワープ噴射装置の、ケーシングの運搬だよ。人気の…仕事じゃないが、誰かがやらないとね。…アンドリアで、医者にかかったら溶血細胞数が 3,000以上だと言われた。ケーシングを運んでる年寄りはあまり見ないだろ…。ああ、ポケットの物を取ってくれるか。」 近づくメイウェザー。 トゥポル:「よしなさい。武器かもしれないわ。」 メノス:「ホログラムだ、家族のね。噛みつきゃしない。」 アーチャーを見るトゥポル。トゥポルはメイウェザーに合図した。 メイウェザーは、メノスの装置を取りだした。スイッチを入れると、女性と 2人の娘のホログラムが現れた。 止めるメイウェザー。 メノス:「ケーシングのせいで直に家族との別れが来る。ヴァルカンの刑務所で死にたくはない。」 トゥポル:「情報では、あなたは高純度の生物毒素を買い、値段の折り合いがつけば誰にでも売っているそうですが?」 「保安省の情報が全部正しいなら、私は流動体生物で、こんな手錠はさっさとすり抜け、今頃羽根を生やして飛んでってるよ。」 アーチャー:「ヴァルカン政府より逃亡者を信じると思うか。」 「彼女が信じるヴァルカン政府は 30年前、109人の工作員をアガロンへ送った。ただその 109人を全員連れ戻したいだけなんだよ。是非も問わず、生死も問わずね。」 「君が無実なら、弁護するチャンスが与えられると思うね。」 「だが有罪だ。命令を受けたのに帰らなかったからな。…生物毒素の売買は無実でも、逃亡のかどで有罪なんだ。だが投獄されたり撃たれたりするようなことは、してない。」 「ヴァルカンへ引き渡すだけだ。誰も撃ったりはしない。」 「…彼女はどうだ。」 メノスを見るトゥポル。 逃げるメノスと男。追うトゥポル。 老ヴァルカン人に押さえつけられる、トゥポル。 トゥポルはナイフを取りだした。「嘘をついてる!」 アーチャー:「トゥポル!」 メノスにつけられていたベルトを切り、取り出すトゥポル。 アーチャー:「何をしてる。…トゥポル!」 トゥポル:「彼は嘘をついています。」 靴をベルトで巻き、保護している。 「どこへ行くつもりだ。トゥポル!」 「本当なら、船はケーシングで一杯のはずです!」 外へ向かうトゥポル。 「デッキは酸で覆われてるんだぞ!」 トゥポルが歩くたびに、酸で布が解ける。 走るトゥポル。 森を走るトゥポル。 苦痛の表情を浮かべるトゥポル。 トゥポルは船へ入った。 その中には、たくさんの貨物が置いてあった。 棒を取り箱を開けると、中は小さな空容器であふれている。 次の貨物も同じだ。 メノスに続く男が倒れた。叫ぶメノス。「ジョセーン※16!」 本を持ったヴァルカン人。抵抗するトゥポル。 トゥポルは次々と貨物を開けていくが、入っているのは全て同じだ。 棒を突き刺して確かめてみても、あるのは容器だけ。 座り込むトゥポル。 |
※9: Huge Alien (ヴィンセント・ハモンド Vincent Hammond) 声優なし ※10: Menos (ブルース・デーヴィソン Bruce Davison VOY第48話 "Remember" 「偽善者の楽園」のジャレス (Jareth) 役) 声:牛山茂、TNG ローア、旧ST5スールー、STG ソランなど ※11: Denobulan sausage ※12: lymphatic virus ※13: Nyran ※14: ドック主任 Dockmaster (David Richards) 声はタヴェック役の長克巳さんが兼任 ※15: xylathoric acid ※16: ジョセン Jossen (Richard Wharton) 声優なし |
階級章を見るタッカー。「確かか?」 サトウ:「船長と面識があるという記録はありませんけど、確かでは。」 「地球へ行ったことはあるのか。」 「あるとしたらヴァルカン・データベースの記録漏れです。」 「そのデータベースに船長の顔写真が入ってないといいな。」 タッカーの階級章が 4つになっている。「ああ、さっさと終わらせよう。」 船長席の前に立ち、ため息をつくタッカー。うなずく。 サトウが操作すると、スクリーンにヴァルカン人が映し出された。 タッカー:「タヴェック船長※17。私に…御用でしたか?」 タヴェック:『…アーチャー船長?』 「ええ。……何か、問題でも。」 『艦隊の船長にしては、若く見えますな。』 「…健康だからでしょう! フォレスト提督から私に、伝言だとか。」 『私には意味不明ですが、提督から言づかりました。『スタンフォードに勝った。※187 対 3 だ。』』 あきれるタッカー。「伝えておきます。」 タヴェック:『誰に?』 「…いやあ…それはその、極秘でして。伝言感謝します。アーチャー、以上。」 タヴェックの映像が消える。タッカーは椅子に座り込んだ。 中に戻るトゥポル。 アーチャー:「火傷したかもしれないんだぞ? …何を見つけた。」 トゥポル:「……使用済みのケーシングです。」 「…船に戻ったら、汚染除去室だな。」 「……メノスと話したいのですが。…よければ 2人だけで。」 「…トラヴィス、来い。…何か軽く食っておこう。」 離れる 2人。 トゥポルはメノスに近づき、テーブルにくくりつけた手を持ち上げた。「……ジョセンとは誰。」 メノス:「探してる物は見つからなかったか。」 「ジョセンとは誰!」 「それがユーモアのつもりなら…」 トゥポルはフェイズ銃を突きつけた。「誰か、言いなさい。」 メノス:「ジョセンも私と同じだった。…矯正治療など受けたくなかったんだよ。」 倒れるジョセン。腰の武器に手を伸ばす。 トゥポル:「…私とはどこで。」 メノス:「会ったか? ライサだろ。私とジョセンはライサにいた。熱帯区域にね。保安省が言ったような罪は、2人とも犯してなかったが、とにかく逃げるしかなかったんだ。」 倒れるジョセン。トゥポルは銃を向ける。 メノス:「自分で知ってることをなぜ私に聞く。」 トゥポル:「あなたは嘘をついている。」 「いや、真実だ。」 「…ライサには仲間など誰も…いなかった。…あなたを運んだテラライトの輸送船船長に賄賂を渡したら、丁寧に居場所を教えてくれたわ。…私が追っていたのはあなた一人だけだった。」 「それならどうしてジョセンのことを聞くんだ。虫も殺せない奴だ。動物みたいに追いつめられるいわれはなかった。」 ジョセンは腰の武器に手を伸ばす。銃を向けるトゥポル。銃声。木の上の鳥たちが飛び立った。 トゥポル:「私が撃った。」 メノス:「ああ、殺されるようなことはしてなかった。私と同じで無実だったのに。」 本を読み上げる老ヴァルカン人。押さえつけられるトゥポル。 メノス:「ほんとに覚えてないのか。どうして忘れられる。…なぜ殺した、優しい男だったのに。」 トゥポル:「黙りなさい。」 「君はヴァルカンだ。抑制するのは感情だけだ。殺した記憶まで抑え込んだのか。」 叫ぶトゥポル。 トゥポル:「黙れと言ったはずよ!」 メノス:「罪なき者を殺し、その動揺ぶりだ。私をヴァルカンへ連れて行くのも同じだぞ、もう一人の命を奪うんだ、君に耐えられるか!」 トゥポルは立ち上がり、メノスから離れていく。 メノス:「私のこともまた都合良く忘れるつもりなのか!」 やってきたトゥポルに尋ねるアーチャー。「メノスはどこだ。」 振り返ると、メノスは座ったままだ。こちらを見た。 アーチャー:「戻ってろ。」 メイウェザー:「了解。」 トゥポルを連れて行くアーチャー。 外に出るアーチャー。「何があった。」 トゥポル:「……7人でした。」 「何がだ。」 「…6人でなく 7人奪回する予定でした。」 「どういうことなんだ。」 「…メノスに仲間がいた。あるいはただ、友人だったのか。……名前はジョセンで、ライサへ行ったのは、2人の…逮捕のためです。メノスを見つけたが逃げられたと、言いましたが…ジョセンも一緒でした。2人は逃げ、ジョセンは地面に倒れた。……彼は、武器に手を伸ばしました。」 「…先に撃ったのか。」 「全部忘れていました。今日まで。」 「どうして。」 「…フララ※19を知ってますか?」 「いや。」 「今では行われない、ヴァルカンの儀式です。…ある出来事の記憶を、その時にもった感情と共に、封じ込めるんです。」 「それで、君はその…」 「フララです。」 「フララの、儀式を受けたのか。」 「ヴァルカンへ戻った時、私は…不安定でした。保安省での勤務を辞任して、プジェム※20の聖地で導きを求めた。……何ヶ月も、長老に付き添われ、人の命を奪った……罪悪感を抑えるすべを学びました。…でも感情は残った。」 「ジョセンが撃とうとしていたなら、どうして…罪悪感を感じるんだ。」 倒れたジョセン。腰の武器に手を伸ばす。 トゥポル:「彼が撃つ気だったか確証はなかったんだと思います。長老は儀式をするしかないとおっしゃいました。聖地を出た時には、ジョセンのこともフララのことも覚えていませんでした。」 アーチャー:「記憶が戻り始めたのは?」 「この任務の第一報が届いた時です。…だから船長を頼ったんでしょう。もしジョセンが密売人でなかったら、無実だったら。それなら彼が武器を使おうとしたかどうかは関係ありません。」 「それも話がおかしい。メノスに何を言われた。」 「メノスの船は、本当に…ケーシングしかありませんでした。彼には家族がいる。…本当に放射能汚染で死が近いのかも。スキャンすれば…」 「奴に何を言われたんだ。」 突然、中から大きな音が響いた。異星人たちが逃げてきた。奥の方で火が広がっている。戻るアーチャー。 メイウェザー:「テーブルを蹴り倒したんです。」 アーチャーはメノスに言った。「それが穏やかな男か?」 メノスの周りには火が広がっている。「皮肉じゃないか! 凍った月で焼け死ぬとはね。だが連行されて、犯してもいない罪で裁かれるよりはマシだ。」 近づくトゥポル。 アーチャー:「トゥポル!」 銃を向ける。 トゥポルはメノスの拘束具を外した。 アーチャー:「手錠をかけ直せ!」 2人のそばに梁が落ちてくる。近づくアーチャー。 倒れていたのはトゥポルだけだ。 トゥポル:「メノスは!」 アーチャー:「…トラヴィス! …来い!」 トゥポルを連れ出す。 外へ出るアーチャー。「奴の船は。…君の任務は逮捕で、有罪かどうか決めることじゃない。船はどこだ。」 向かうトゥポル。 |
※17: Captain Tavek (Stephen Mendillo) クレジットではヴァルカン人船長 (Vulcan Captain)。声:長克巳 ※18: 原語では「カル (カリフォルニア州立大学) がスタンフォードに勝った」 ※19: Fullara ※20: P'Jem ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」より |
停泊していた船は、次々と飛び去っていく。燃えさかる建物。 中に入るトゥポルは、スキャナーを使った。「船にはいません。」 アーチャー:「…確認しよう。」 貨物区域に入る 3人。 アーチャー:「……全員汚染除去室行きだ。」 別の部屋のドアも開ける。 トゥポル:「ここにはいません。」 「入り口はあれだけか? …トラヴィス、コックピットへ戻れ。」 メイウェザー:「了解。」 「生命維持装置を強めてくれ、寒い。」 メイウェザーはコックピットへ入り、ドアが閉まる。 アーチャー:「我々より先に着いたはずだ。なぜ船がある。」 トゥポル:「自分の船で逃げるのは危険です。我々が追うのはわかってます。」 「ほかの船とすると、全く見当もつかないな。」 「つきませんね。」 「…平気な口ぶりだなあ。」 「エンタープライズに戻ったら、ヴァルカン船にメノスが逃亡したと報告します。…もし最高司令部がその気になれば、ここを発った船を好きなだけ調べられますから。」 「思ったより簡単にあきらめるんだな。」 「彼は消えたんです。」 「まだわからないぞ? ……何を吹き込まれた。自分を疑い始めてる。17年前の君の行為に疑問を抱かせれば、今度も迷いをもつと見透かされたんだ。」 「17年前、無実の人物を殺したかもしれないんです。」 「ジョセンは武器を取ろうとしたのか?」 「わかりません!」 「君の記憶か、メノスが言ったのか。」 「どう違います!」 「全く違うだろ、君の罪悪感を利用してるんだ!」 「そんなことは不可能です。…私はプジェムへ行って、儀式を受けたんですから。」 「だからどうなんだ? 君の感情の免疫は、ライサでのことを思い出した途端、崩れ始めたじゃないか!」 コックピットから出てくるメイウェザー。「船長。」 アーチャー:「どうした、トラヴィス。」 「ちょっと妙なことがあるんです。見てもらえますか。」 コックピットに入るアーチャー。「どうした。」 メイウェザー:「システムを起動し、生命維持装置をレベル3 にしました。照明が明るくなって、このサブ・パネルのパワーに気づいたんです。」 開ける。 「かなりのエネルギーが流れてるな。何だかわかるか。」 「スキャナーでは、全てパワーダウンしてます。」 「…明らかに何かにパワーが行ってる。確かめるには一つしかない。」 スイッチを切るアーチャー。 すると貨物区画で音が響き、壁の一画のホログラム映像が消えた。奥には銃を持ったメノスが隠れていた。「私はとても辛抱強くてね。」 すぐにフェイズ銃を向けるトゥポル。 メノス:「君らが立ち去るのをじっと待ってたが、船長の好奇心のせいでそうもいかなくなった。銃を、下ろしてくれるか。」 従うトゥポル。 アーチャーが出てくる。「何かのエネルギーフィールドが…」 メノス:「撃ちたくないが必要ならトゥポルを撃つ。」 「…穏やかな男にしては乱暴だなあ。」 「今は生き延びたいだけの男だ。…船長の隣に、ロッカーがある。2人とも武器を、下ろしてもらおう。そしてその中へ入れ。危険はない。」 「彼女は。」 「静かにおとなしく、ロッカーに入るなら、トゥポルに危害は加えないよ。頼む。」 メノスはトゥポルを人質に取った。 メイウェザーと顔を見合わせるアーチャー。2人ともフェイズ銃を置いた。 ロッカーを開け、中に入る。 メノス:「ドアのロックコードは、1661 だ。ロックされれば、ブザーが鳴るようになってる。」 トゥポルが入力し始めた時、いきなりドアが開いた。吹き飛ばされるトゥポル。 出てきたアーチャーは素早く 2丁のフェイズ銃を取り、発砲する。 メノスも応戦する。 アーチャー:「大丈夫か。」 トゥポル:「ええ。」 メイウェザーに武器を投げ渡すアーチャー。「『静かにおとなしく』は苦手だが、算数は得意でね。こっちは 3人で、そっちは 1人だ。」 撃つアーチャーとメイウェザー。 メノス:「撃つな! 頼む!」 銃を置く。 アーチャー:「こいつは信用できない。トラヴィス、縛る物を。」 メイウェザー:「了解。」 メノスはしゃがみ始めた。 アーチャー:「何をしてるんだ。」 メノスは素早くレバーを引く。すると床に穴が空いた。 アーチャー:「おい待て!」 穴に入るメノス。 雪の上を逃げていく。 トゥポルも外に出、追う。銃を向けた。「止まれ!」 立ち止まるメノス。「私を撃ったりしないだろ? また無実の男を殺しはしない。…船長、あなたには関係ないことだ。ライサで起きたことを、何も知らないんだから。」 ゆっくりと後ろへ下がり、離れていく。 トゥポル:「船長!」 近づくアーチャー。「なぜ私を呼んだんだ。」 トゥポル:「…信用しているからです。」 「なら信用しろ。君の任務は逮捕で、裁くことじゃない。」 メノスの姿は見えなくなってきている。 トゥポルは、フェイズ銃を撃った。倒れるメノス。 メノスを縛るアーチャー。「今度は、簡単には逃げられないぞ。」 メイウェザー:「船長、ここで銃撃戦をしたくなかったわけがわかりましたよ。見て下さい。」 筒が並んでいる。 調べるトゥポル。「生物毒素です。もし誰かがこれを撃っていたら。」 アーチャー:「…やはりケーシング以外の物も運んでいたようだな。」 「……そのようですね。」 収容されるシャトルポッド。 『航星日誌、補足。ヴァルカン船ニランは、予定通りの座標で待っていた。メノスを彼らの監督下に移し、エンタープライズに戻った。 通信するアーチャー。「トリップ、状況は。」 タッカー:『発進準備完了です。お帰りなさい。』 「ありがとう。ワープ3 で行くぞ。」 『お任せを。あのう…極秘任務も終わったし、何だったのか可愛い機関主任にヒントぐらいくれません?』 ワープコアの前にいるタッカー。 「ワープ3 って言ったか? ワープ4 で頼む、少佐。」 尋ねるタッカー。「ヒントもなし?」 何も言わず、微笑むアーチャー。 タッカーは言った。「…ワープ4! 了解です。」 通信を終えるアーチャー。ドアチャイムに応える。「入れ。…副司令官。また、フォレスト提督から連絡があるのか?」 トゥポル:「…いいえ。」 「…すまん。……例の記憶を、思い出して…感情の対処は、大変なんだろうな?」 「…そうですね。」 「もし休暇を申請したければ…」 「その必要はありません。あの時は若かったんです。」 「それに最近は人間を観察してるしな?」 「人間には疑問の残る行為を忘れるすべがある。」 「…感情を封じ込める能力が働かない時は、忘れるというすべも学ばないと。……ほかに、何かあるのか?」 「…もし信用できる者がいない時は…。」 「必ずいる。」 作戦室を出て行くトゥポル。 エンタープライズは、ワープに入った。 |
感想
過去の殺人の記憶に悩まされるトゥポルというストーリー。文中で斜体の場所は、変色した映像で描かれています。何か似たような話があった気がしていたのですが、VOY "Latent Image" 「ドクター心の危機」だと思い出しました。 トゥポルはまだまだ「若い」ようで、メノスの方もこれまた「異質ヴァルカン人」でしたが、22世紀は彼らも未熟者だということなのでしょうか。そもそも過去のヴァルカン武器には麻痺設定がなかったんでしょうかね…。 メノスを取り押さえたのに、最初からトゥポルには「信用できる者」扱いされず、その後のアーチャーとトゥポルの会話に入れてもらえない、哀れなメイウェザー…。一番最後の会話は主語が訳されていないので私も逆に捉えていましたが、原語ではトゥポル「(アーチャー船長に) 信用できる者がいない時は…」 アーチャー「忘れないでおく (=君がいる)」ということです。 |
第32話 "Marauders" 「招かれざる訪問者」 | 第34話 "The Communicator" 「危険なコンタクト」 |