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ディープスペースナイン エピソードガイド
第154話「がんばれ、ナイナーズ!」
Take Me Out to the Holosuite

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・イントロダクション
ネビュラ級の宇宙艦が、DS9 にドッキングしている。
シスコに通信が入る。『キラより大佐。』
シスコ:「続けたまえ。」
キラ:『宇宙艦トゥカンブラ※1の、ソロック艦長がお見えです。」
その名前を聞いたシスコは、表情を硬くした。「……通してくれ。」
司令官室にヴァルカン人のソロック※2が入る。
シスコ:「ディープ・スペース・ナインへようこそ、艦長。」
ソロック:「歓迎の意は承った。」
「かけたらどうだ。」
前に座るソロック。
シスコ:「久しぶりだな。」
ソロック:「10年2ヶ月と 5日ぶりだ。」
「分数までは言えんのか?」
「もちろん言える。だが地球人は、そこまでの正確さを嫌う。特に感情的な地球人はな。修理のリストだ。」 パッドを渡すソロック。「君は最近、クリストファー・パイク勲章※3を授与されたそうではないか。お祝いを言わせてもらおう。」
「ありがとう。君にもお祝いを言わせてもらうよ。先月勲章をもらったそうだな。」
「2度目の、勲章をな。トゥカンブラはもう、半年以上戦場にいる。前線を離れるのはいい休養になるだろう。」
「ここも安全な港ではない。常に危険にさらされてる。」
「もちろんそうだろう。」
「……慣性制動機は 1日でアップグレードできるが、ワープコアのオーバーホールには 1ヶ月かかるだろう。」
「うーん、実に非効率的だ。」
「戦争は効率的にはいかん。」
「プロフェッショナルが言う言葉とは思えんな。しかしながら、地球人が指揮を執る宇宙ステーションに、プロフェッショナリズムと効率を期待するのは、無理というものだろう。」
パッドを返すシスコ。「嫌なら船は、ヴァルカン・ステーションへ運ぶといい。こっから 50光年行ったところにある。それとも、前線にほど近い、ここがいいと言うなら、作業責任者に要望を聞かせよう。」
ソロック:「それで結構。」 立ち上がる。「ここへ来たのには修理以外の理由もあるのだ。ホロスイートを貸して欲しい。トゥカンブラのホロデッキは修理中なんでな。」
「ホロスイートを管理するのはクワークだ。彼以外は関知していない。」
「ではクワークに言うとしよう。上級士官のために特別なプログラムを作ったのだ。彼らはそれを試すのを、楽しみにしている。」
「そうか。」
「そうだ。彼らだけじゃない。君も非常に興味をもつことだろう。地球のゲームに基づいたものだ。」
「何のゲームだ。」

ソロックに続いて司令官室を出たシスコは、キラに命じた。「中佐、直ちに上級士官を集めてくれ。」

上級士官室。
中に入ったシスコは、士官たちの前で話し始めた。「…諸君も知ってると思うが、現在宇宙艦トゥカンブラが停泊中だ。だがこれは知るまい。彼らの艦長は自らのクルーを、クルーは全員ヴァルカン人なんだが、艦隊一だと思ってる。だが私はここにいる君たちこそ、この宇宙域一優秀だと思っている。」
エズリ:「ここには異議を唱える者はいないわ。」
「だが証拠はない。そこで先ほど私は、ソロック艦長からの挑戦を受け、勇気やチームワークを…彼らと競うことにした。」
ウォーフ:「ぶちのめします。」
「その言葉を待っていたよ。」
ベシア:「それで、敵との決戦はいつなんですか。」
「2週間後、ホロスイート5 で。」
キラ:「何で競うんです?」
シスコは持っていたボールを取り出し、テーブルに置いた。「野球だ。」
無言になる士官たち。
シスコは微笑み、ボールを見つめた。


※1: U.S.S.トゥカンブラ U.S.S. T'Kumbra
ネビュラ級、番号不明

※2: Solok
(グレッグ・ワグロウスキー ENT第64話 "Chosen Realm" 「選ばれし領域」の Ceris 役) 声:中村秀利

※3: Christopher Pike Medal of Valor
DS9第150話 "Tears of the Prophets" 「決意の代償」より

・本編
司令室の中央テーブルに、野球のダイヤモンドが表示されている。
キラ:「『第25章。インフィールドフライが適用されるのは、ランナーが 1塁、2塁にいる場合、もしくは 1塁、2塁、3塁にいる場合。』」 パッドを読んでいる。
ウォーフ:「ホームにはいないのか?」
ノーグ※4:「ホームにランナーはいません。」
キラ:「いい、続けるわよ? 『また 2アウト未満の場合にフライが打たれた時で…』」
キラとノーグに見られたウォーフは、パッドを操作した。「『フライ。空中に高く打ち上げられたボールのこと。』」
キラ:「ああ! そうか。んでえーっと、『2アウト未満の場合にフライが打たれた時で、内野手、ピッチャー、キャッチャーにより直ちに捕球できると審判に判断されたフェアフライのことを言う。バッターはその後ボールが取られようが取られまいが、アウトとなる。』」
ノーグ:「それはわかりやすいですね。」
「…『しかしバントを試み、失敗してフェアフライになった場合は、上記の条件を満たしていたとしても、インフィールドフライとは認められない。』 …バントって?」

説明するベシア。「バント。内野を緩く転がるよう、バッターが意識的に軽くバットに当てたボールのこと。ランナーを進塁させるために、バッター自身はアウトになりにいくんだ。」
エズリもクワークの店にいる。「大当たり。じゃ次はグランドスラム。」
オブライエン:「…えーっと…満杯の時に、打たれたホームランだっけ?」
「そうだけど、満杯じゃなくて『満塁』。じゃあね、次は『スタンドプレー※5』。」
ベシア:「それも野球用語?」
「ちゃんと出てるわよ。」
パッドを確認するベシア。
ロム※6と共にリータ※7がやってきた。「ハーイ! ジェイクからヴァルカン人と野球をするって聞きました。何か面白そうですよね。」
エズリ:「見に来たら?」
ベシア:「『スタンドプレー。プレー中に観客の注目を浴びようとし、その守備において、派手なアクションを加えアピールする選手。』」
リータ:「私たち、もっと積極的に参加したいと思ってるんです。」
ロム:「できれば…つまり、まだチームにその…空きがあったとして、選手を募集してたり何かしたら…」
「テストを受けたいんです。」
「ああ…ノーグがよく言ってるんです。大佐とジェイクが野球で絆を深めてるって。最近なかなかノーグとゆっくり話せないもんで。僕もこのチャンスを生かそうと思って。」
「それに家族で楽しむイベントにはもってこいだし。」
エズリ:「とってもいい考えだわ。」
「そう?」
クワークが近づく。「バッカじゃねえか? 恥をさらすのが落ちだぞ。」
リータ:「そんなことない。」
「ったく。ダボ・ホイールも満足に回せないくせに、ボールが蹴れんのかよ。」
「恥さらしはどっちよ。誰もボールなんか蹴らないの。…でしょ?」
応じるエズリ。
クワーク:「ロム、お前には無理だ。」
ロム:「そんなのわかんないだろ? 兄貴はどうする?」
「地球人の遊びになんか興味があるか。冗談じゃねえよ。」
「…そりゃそうよね。野球は勇気を試すゲームらしいもの。あなたは大昔に売ってしまったでしょ? 行きましょ、ロム。」 二人は出ていった。
「…テストは何時です?」
オブライエン:「13時、ホロスイート4。」
うなずくクワーク。

ホロスイート。
野球場※8に集まった士官たち。
シスコはボールを投げながら、ジェイクと一緒に走ってきた。「いくぞー! ほら、パス。」 笑いながら投げ合う。
皆の前で話すシスコ。「よーし。今日が練習初日だ。いよいよこの日がきた。しまっていこう。」
上着を脱いだ部下たち。
オブライエン:「オー、イエー。」
リータ:「ハーイ。」
シスコ:「よーし、みんなその調子だ。気合いだぞ、気合い。紹介しよう。我がチームのピッチャーであり、我々の秘密兵器、ジェイク・『ザ・スライダー』・シスコー!」
笑うノーグたち。「スライダー。」 「がんばれよ、ジェイク。」
シスコ:「そして、そのほかのポジションは全てテストで決める。ここに集まった諸君は、ホロスイートで少なくとも一試合は私と野球を見ている。恐らく、簡単なものと思ってるだろう。ボールを投げ、ボールを取り、ボールを打つ。だが、そう単純なものじゃない。もっと複雑だ。その証拠に幼い頃から練習し、やっとプロになった選手でも、その後の人生を練習に費やしてる。しかしながら我々がチームを結成し、敵と顔を合わせるまで、2週間しかない。何を考えてるかはお見通しだ。」
ノーグの隣にいるロム。
シスコ:「『どうやってロジシャンズ※9を倒せばいいんだ? 敵はヴァルカン人だ。我々の誰より強くて速い。ウォーフを抜かしてな。遺伝子操作をされているドクターもだ。』 しかし、野球には体力よりもずーっと…必要なものがある。例えば…例えばそう、勇気だ。そしてもう一つ、信頼もいる。」
うなずくジェイク。
シスコ:「最後に肝心なのが、我々の心だ。そして唯一ヴァルカン人に欠けているもの、それが心だ。我々はきっと勝てる。…勝てるに決まってる。」
ジェイク:「そうとも。」
「ああ、ヴァルカン人に勝てるな? そうだろう?」
一同は声を挙げた。「イエーイ!」
シスコ:「声が小さいぞ。」
一同:「イエーイ!」
「私たちは必ずヴァルカン人を打ち負かすな?」
「イエーイ!」
「よーし、では野球を始めるとしよう。まずは 2人1組になってくれ、間をそうだな…10メートルぐらいとってくれ。キャッチボールだ。」
みな散らばる。
シスコ:「よーし、じゃあ始めてくれ。まずは軽く、肩慣らしのつもりで。」

ボールを投げるエズリ。
取れないクワーク。グラブもはめていない。
エズリ:「惜しい! リラックス、リラックス。」
ノーグをぼーっと見ているロム。
ウォーフ:「ここだって言ったろ。」
投げられたボールを怖がるリータ。
ベシア:「ほら、もっと肩の力抜いて。」
キラが投げたボールは、ロムの後ろに転がっていった。
キラ:「失礼!」
キラもボールとのタイミングが合わない。
オブライエン:「もっと力を入れろよ。」
ロムのグラブにボールが当たった。取り落とす。
様子を見ていたジェイク。「長くて辛い、2週間に…なりそうだね。」
シスコ:「ジェイク、私はこれがどんなに辛くて長い 2週間になろうと構わん。この野球の試合でソロックに負けるわけにはいかないんだ。必ず奴を倒す。」


※4: Nog
(エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) DS9第151話 "Image in the Sand" 「砂漠からの呼び声」以来の登場。声:落合弘治

※5: Fancy Dan

※6: Rom
(マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第147話 "Profit and Lace" 「グランド・ネーガスは永遠に」以来の登場。声:田原アルノ

※7: Leeta
(チェイス・マスタースン Chase Masterson) DS9 "Profit and Lace" 以来の登場。声:榎本智恵子

※8: ロサンゼルスのロヨラ・メアリーマウント大学でロケ撮影

※9: Logicians

シスコに尋ねるオドー。「審判ですか?」
シスコ:「ああ、頼めるか?」
「あの…ホログラムの審判の方が、より…公正なのではないですか?」
「野球の試合にコンピューターの審判なんかごめんだよ。ソロックじゃあるまいし。ベースの後ろには本物の審判にいて欲しい。光子とフォースフィールドの集合体じゃなくってね。そしてもう一つ、審判は誰よりも公平な人物に頼みたい。それについて君の右に出る者はいない。」
「それは…非常に光栄です。」
「本当のことさ。頼めるかい?」
ため息をつくオドー。「…わかりました。」
シスコ:「素晴らしい! これがルールだ。ああ…何か質問があれば、私は医療室にいる。」 パッドを渡す。
「医療室?」
「今日は練習初日だったから、いろいろあってね。とにかく試合は 2週間後だ。君も早く…動きを覚えたまえ。」 保安室を出て行くシスコ。
うなずくオドーだが、シスコの言葉に気づいた。「動きだって?」

ボールを手に持つジェイク。
足の治療を受けているエズリ。「これでも私、体操選手だったのよ。ていっても記憶しかないけど。3番目のホストがオリンピックの選手だったの。彼女みたいに足が動くと思ったら大間違い。思いっきり転んじゃった。何だか自分の身体じゃないみたい。」
バイオベッドでうつ伏せになっているクワーク。頭に治療機械をつけている。「それぐらいでよくも文句が言えたもんだ。あんたは、俺みたいに…手術は必要ねえ。」
キラ:「骨を接ぐなんて、手術のうちに入らないわよ、クワーク。」
「自分の頭蓋骨じゃないから、そんなことが言えるんです。」 前にいるロムを睨むクワーク。「今度やったらタダじゃおかねえぞ。」
ロム:「バットを振る時は後ろを見るよ。」
シスコがやってきた。「諸君! 怪我の具合はどうだ。」
キラ:「一応生きてます。」
エズリ:「ジュリアンの診断ではね。でも個人的には死にそう。」
シスコ:「いいぞ、それぐらい冗談が言えれば、上等だ。」 笑う。
ベシアと共に来たオブライエンに気づくジェイク。「大丈夫ですか、チーフ。肩は。」
ベシア:「プレーは無理ですね。回旋腱板の断裂です。」
シスコ:「治療できないのか? 彼はサードに必要なんだ。それに 5番を打ってもらわなきゃ困る。」
「腱板は治しましたが、靱帯が鎖骨の関節につながるまでに時間がかかる。許可は出せません。」
「クソー!」
オブライエン:「すいません。楽しみにしてたんですが。」
「…となると、君にできるのは…コーチだ。バッティング、ピッチング、1塁のコーチをよろしく頼む。」
「ああ…喜んで。…1塁ってどっちです?」
「あとでじっくり教えよう。…明日の練習は、朝の 7時半からだ。遅れるな!」
「わかりました。」
ベシア:「失礼。次はウォーフの頬骨を治さなきゃならん。」 オブライエンの腕を叩き、戻っていった。
オブライエン:「あいた…」
ロム:「ごめんって言っといて下さい。」

プロムナードを歩くジェイク。「ああ、じゃエズリをサードに移したら。」
シスコ:「いやあ、彼女はセンターだ。おっと、いい人物がいる。早速裏に手を回して、呼び寄せよう。」
「誰?」
ガムを噛むシスコ。

DS9 にドッキングしたベイジョー船。
エアロックの前で、花束を持って待っているシスコ。匂いを嗅ぐ。
ドアが開き、声をかけるシスコ。「やあ、おかえり。」
イエイツ※10が降りてきた。「ああ…心地いい響きだわ。」
シスコ:「うん。」 キスして抱き合う二人。
「うーんって、寂しかったってこと?」
「心の一部が欠けたようだった。」
「今日は随分優しいのね。お花まであるの。どういう風の吹き回し?」
「君が戻ったのが嬉しいだけさ。」
「じゃあそういうことにしておくわ。」
「ああ、頼むよ。しばらくいられるの?」
「ええ、次から 3回分のシフトが、急にほかの人に移っちゃったの。」
「ほんとに?」
「上の考えることはさっぱりわからないわ。」
「ああ、全くだ。」
花の匂いを嗅ぐイエイツ。「それで? この休みをどう使ったらいいと思う?」
シスコ:「いい考えがあるよ。」
「だと思った。」
「ところで、肩は衰えてないかい?」

シスコが打ったボールを 3塁のイエイツが処理し、1塁のウォーフに送った。
皆それぞれ、野球用のユニフォームになっている。ボールはキャッチャーのノーグに返ってきた。
シスコ:「いいぞ、キャス。それを期待してたんだ。よーし、皆よく聞け。1塁にはランナー。バッター打つ。」 フライを打ち上げる。
外野にいるロム。「OK! 任せてー! はい、取りまーす!」
だがボールは、ロムの後ろに落ちた。
手を挙げて後ろを向く、2塁のキラ。
シスコ:「ああ…何度目だ。」
ノーグ:「今日だけで、10回目ですね。」
やっとでロムはボールを投げるが、キラには全く届かない。
ロムは、また走って投げる。また走る。
シスコ:「クソー。……もういい、次はバッティングだ。」

ベンチで準備するメンバー。
リータは尋ねた。「あれ何してるんです?」
シスコ:「偵察だろう。」
観客席にソロックが座り、こちらを見ている。
ウォーフ:「わざわざ偵察しに来るということは、我々を恐れている証拠です。」
シスコ:「だろうな。奴は来週このグラウンドで、屈辱に満ちた痛みを味わうことになる。」
ボールを投げる、ピッチャーのジェイク。
受け取るノーグ。「バッター。」
ロムがバッターボックスに入る。「今日こそ打ってやる。よーく見てろよ、ノーグ。」
1球目。ボールはかすりもしない。
シスコ:「おーい…!」
冷淡に見つめるソロック。
シスコ:「いいか、ロム。もう一度言うぞ。ボールから決して目を離すな。ピッチャーの手を離れた瞬間から、ホームに届くまでな。」
ロム:「はい。」
手を叩くシスコ。
2球目。ロムはバットを振った勢いで宙を舞い、地面に倒れ込んだ。
シスコ:「ああ…」
リータ:「もう、ロム…」
あきれるジェイク。
ロム:「ごめんね。」
リータ:「あなたなら打てるわ!」
ベシア:「がんばれよ、ロム!」
シスコ:「よーし、いこう!」
ジェイクは下投げでボールを放り投げた。
だがまたも空振りしたロムは、バットをジェイクに向けて投げ飛ばしてしまった。
ノーグ:「ああ!」
シスコ:「ああ…」
しゃがんで避けるジェイク。
ロム:「ああ…ごめんね。」
ソロックは、ホロスイートを出ていった。
シスコは近づく。「ロム! そこまでだ。」
ロム:「明日はもっとがんばります。」
「結構、今日限りお前はクビだ。帰ってくれ。」
ノーグ:「大佐、もう一度チャンスを。」
「お前と話してるんじゃないぞ!」
ロム:「もう、できないんですか?」
「やっとまともなことを言ったな、ロム。そう、お前にプレーはさせられん。帰れ! ウォーフ、来い!」
とぼとぼ歩いていくロムを、見送るリータたち。
いらつくシスコ。


※10: キャシディ・イエイツ Kasidy Yates
(ペニー・ジョンソン Penny Johnson) DS9第149話 "The Sound of Her Voice" 「待っている女」以来の登場。声:弘中くみ子

クワークの店で話すロム。「大佐は僕が嫌いなんだ。」
リータ:「そんなことはないわよ、ロム。」
クワーク:「大佐はかんしゃくを起こしただけさ。すぐに機嫌も直る。」
ノーグ:「そうだよ、僕もう一度話してみる。きっと気が変わって…」
ロム:「よせ、お前までクビになったらどうなる。」
「別に構うもんか。父さんが出ないなら、僕だって出ない。」
リータ:「同感よ、私も出ない。」
クワーク:「俺もだ。」
オブライエン:「俺たちもだ。」 店に来ていた。
エズリ:「今日のベンジャミンはやりすぎだわ。」
「野球は単なる遊びだろ? 負けて死ぬわけじゃなし。」
ベシア:「君を戻さない限り、僕らもチームに戻る気はない。」
ロム:「そんなのだめです。」
キラ:「私たちはあなたの味方よ。」
「ああ…でもこんなのよくない。チャンスを生かせなかった。大佐が正しいんです。僕には見込みがない。チームにふさわしくないんだ。でもあなたたちはそうじゃない。」
ノーグ:「僕は野球なんかできなくたって構わない。」
「そう言うな。上手いんだから。」 リータに話すロム。「君もそうだ。プレーをしてくれ。みんなの雄姿が見たい。みんながヴァルカン人を…打ちのめす…姿を、僕は応援してるよ。スト…」
「スタンドでしょ?」
「そう。お願い。」
キラ:「あなたが…そこまで言うんだったら。」
リータ:「ロム。私つくづくあなたって人と結婚してよかったと思う。」
ロム:「ああ…」
首を振るクワーク。

オブライエンに聞くベシア。「何食べてんだ?」
オブライエン:「噛んでるだけさ。」
「何を。」
「ガム。つきものだ。レプリケートしてみた。」
「噛んでるだけ?」
「いや、ガムの香りも楽しんでる。」
「何の香り。」
「スコッチ。ほら。噛んでみ。」
渡されたチューインガム※11を口にするベシア。「うん。」
オブライエン:「な?」

コンピューターの画面で説明するシスコ。「いいか、今ランナーが 1塁と 2塁にいる。1アウト。ボールはセカンドに飛んだ。キラ、どうする。」
キラ:「ダブルプレーを狙います。サードのランナーがホームに向かってない限り。向かった場合は…」

イエイツは医療室にいる。「いい? リラックスね。体重をしっかりと足に乗せて。肘は、上げて。そう。良くなったわ。その調子。」
バッティングフォームを練習するベシア。

クワークは店でグラブを持っている。「早く! モタモタすんな! もっと早くだ。よし。次! もういっちょ! ほらこい、よしいいぞ!」
2階からフェレンギ人のウェイターたちが落とすカップ類を、次々と受け取る。

フライを取りに行くエズリ。「オーライ、オーライ!」
ベシアも近づく。「任せろー!」
エズリ:「任せてー!」
ボールは 2人の間に落ちた。
ベシア:「何だよ、君のボールだろ!」
エズリ:「任せるって言ったくせに!」
「僕のポジションじゃない。」
「自分から来たくせに!」
「ああ!」 帽子を投げ捨て、歩いていくベシア。
「ちょっと待ってよ、ジュリアン!」 ボールを拾いに行くエズリ。

ジェイクの腕を診察するベシア。

プロムナードを歩いていたキラは、オドーの声を聞いた。「セーフ! セーフ!」
保安室の中を見たキラは、オドーが背中を向けてジェスチャーの練習をしていることに気づいた。「セーフ!」 パッドを確認するオドー。「アウト! アウト!」
微笑み、歩いていくキラ。

ソファーに寝ているシスコをマッサージするイエイツ。「ああ、凝ってるこってる。」
シスコ:「ああ…ああ…」
「どこ押しても痛いのね。まるで地雷原みたい。」
「どうせなら、もっとためになること言ってくれ。ああ…」
「わかったわ。じゃちょっとバットを持って構えてみて。」
「どうして。」
「ほら、振ってみて。」
バットを渡されたシスコ。「ああ…」
シスコはため息をつき、バットを構え、スイングしようとする。
イエイツ:「ストップ。そこよ、見て。バックスイングの時に足を上げてる。そんなことしたら、リズムが崩れるわ。」
シスコはバットで軽く壁を叩いた。
イエイツ:「バットに当たらないで。…なるほどね、部屋中をそのバットでぶちのめしたいけど、できないって顔してる。私なら気にしなくていいのよ? あなたの部屋だもの、好きにぶちのめして回ったら?」
シスコ:「このバットでぶちのめしたいのはソロックだ。」
「ねえ、どうしてそうこだわるのか教えてくれない? 一応その返事を聞く前に言っておくけど、もし教えてくれないならサードはいなくなるわ。」
ため息をつくシスコ。「あいつとはアカデミーで同じクラスだった。ある週末、何人かの友人とローンチング・パッド※12へ酒を飲みに行ったんだが…そこへソロックの奴が…ヴァルカン人の候補生と現れ、非論理的なる人間の契りの儀式について調査をしてると言ってきた。いい気持ちはしないよな。」
イエイツ:「お酒も、飲んでたわけでしょ?」
「ああ、1、2杯。…それで議論になった。ソロックの奴は、当然ヴァルカン人は勝ってるって…言うんだい。地球人や、ほかの『感情的ハンディをもつ』種族にもな。もちろん私はそうは思わない。そこで…まあ酔いも…手伝って、論理と感情のどちらが優れているか、素面のヴァルカン人と議論になった。ま、それでいろいろあって、私はとっさに思いついたんだ。地球人がヴァルカン人に劣らないと証明するには、レスリングをするのが一番いいとね。」 手を叩くシスコ。
「レスリング?」
「とにかく私はあの偉そうな面の皮を、引っぺがしてやりたい一心で、勝負を…申し込んだ。」
「…それで?」
「私は…医療室送り。肩を脱臼して、あばらを 2本折った。そして、自尊心は再起不能。」
笑うイエイツ。「ちょっと…ベン! …ごめん、笑うつもりはないんだけど。何考えてたわけ? ヴァルカン人の力の強さは地球人の 3倍もあるのよ?」
シスコは口笛を鳴らした。「瞬発力もね。よくわかってる。あれは当然の結果だ。」
また笑うイエイツ。
シスコ:「私だってあれで終わってれば、すっぱり忘れてた。だが奴は、何かにつけてその時のレスリングの話をもちだしたんだ。私がキャンパスを歩いてると、必ず指を指す。心理学のレポートは 5本も書いた。もちろんこの私についてだ。そして私は、ヴァルカン人が地球人に勝ることを証明する、生きた見本になってしまった。」
イエイツ:「ヴァルカン人らしくないわね、そのこだわり。」
「まさにその通りだ、キャシディ! 奴はヴァルカンの無表情の仮面を被りながら…心の中で私を笑ってやがる。……ああ、その通り! 卒業すれば終わると思うだろう? だが違う。ソロックは何年もかけて山ほど論文を書いてるんだ。ヴァルカン人と地球人の違いをプロファイルして…ああ…論文の冒頭では、決まって私との…レスリングの試合を取り上げてる!」 バットで壁を叩くシスコ。
「そして今度は、わざわざ野球チームを作って、このステーションへ乗り込んできたってわけね。」
「奴は野球なんかに興味はない。この私に恥をかかせたいだけさ、もう一度な。だが今度は私の好きなゲームを選んでね!」
「ナイナーズ※13のメンバーに言った方がいいわ。あなたがそこまでムキになる理由、わかってないもの。」
「いいや、冗談じゃない。まだ野球好きが高じてムキになってると思われた方がいい。青臭い…うん…ライバルごっこを知られるよりはな。」
「真実を伝えた方がいいわ。みんなわかってくれる。あなたにとってどんなに大切な試合か、知らせるべきよ。」
「話す気はない。」
「ああ…」
「…ダメだ、話す気はない。」 イエイツの隣に座るシスコ。「君にも話して欲しくないよ。約束してくれ。」 キスをする。
「わかったわ。約束する。」

イエイツは話している。「言わないって約束したの。だから絶対に黙ってて。」
他のメンバーと共に部屋に集まったエズリ。「クルゾンもジャッジアも、ベンのソロック嫌いを不思議がってた。でも理由は初耳。」
イエイツ:「恥ずかしかったのよ。自分で『青臭いライバルごっこ』って言ってた。でもいつまでも引きずってるのは、ソロックの方なの。」
オブライエン:「今度は野球で恥をかかせようと?」
ウォーフ:「不名誉なことをする奴だ。」
ノーグ:「僕も奴を嫌いになりました。」
クワーク:「それで? 俺たちはどうすりゃいいんです?」
キラ:「決まってるじゃないのよ。明日グラウンドへ行って、奴らの鼻っ柱をへし折ってやるの。大佐のために勝とうじゃない。」
ベシア:「『感情的なハンディをもつ』、ほかの種族のためにも。」
オブライエンは立ち上がり、テーブルの上に手を置いた。「闘志も湧くってわけだ。だろ?」
その上に次々と手を重ねていく。
イエイツ:「ナイナーズ!」
一同:「ナイナーズ!」
「イエー!」
「イエー! ワー!」


※11: chewing gum

※12: Launching Pad

※13: Niners

ホロスイート5※14
惑星連邦賛歌が演奏されている。掲げられた連邦の旗。
グラウンドに一列に並んだ選手たち。観客も皆立ち上がり、胸に手を当てている。ロムもその中にいる。
全員「NINERS」と書かれているユニフォームを着たナイナーズのメンバーは、帽子を胸に当てている。シスコ、ジェイク、エズリ、キラ、ウォーフ、ベシア、オブライエン、ノーグ、イエイツ、リータ、そして顔をしかめたクワーク。
オドーも直立している。
反対側にはソロックを初めとする、ヴァルカン人の男女混成チーム、ロジシャンズ。
曲が終わりに近づくと、観客から拍手が起こった。
守備につくナイナーズ。
観客は拍手や歓声を続ける。ベースの砂を払うオドー。
オブライエン:「よーし、気合い入れていくぞー。しまっていこう。思い知らせてやれ。」
ベンチにいるクワークも手を叩く。
シスコはソロックの元に駆け寄った。「相談なんだが、観客を消さないか。うちの選手は人前でプレーをするのに慣れてないんだ。」
ソロック:「…依存はない。コンピューター。観客を削除してくれ。」
オドー:「プレイボール!」
同時に観客の映像が消去された。急に静かになり、周りを見渡すオドー。
観客席はロムだけになった。
オドー:「バッターは入って!」
ヴァルカン人がバッターボックスに入る。構える守備陣。
セカンドのシスコ。「よーし、みんな。声出していこう!」
イエイツ:「ヘーイ! 三振三振三振!」
リータ:「ヘーイ! どうしたどうしたどうしたー!」
ウォーフ:「我らが敵に死を!」
イエイツ:「ジェイク、三振取っていこう! リラックスね!」
ジェイクが投げた初球。ヴァルカン人はそれをいきなり打ち、ボールは高く上がっていく。
ほとんど動くことなく、見送る外野手たち。
ボールはフェンスを越えた。ホームランだ。
シスコ:「まぐれさ。ドンマイ!」
ノーグはジェイクに近づいた。「おい、落ち着けよ。次打ち取りゃいいんだ。いいな。」
ジェイク:「わかった。」
「よっしゃ。」 笑うノーグ。
帰ってきたバッターに、誰も声をかけないヴァルカン人たち。

だがロジシャンズは次々と点数を入れ、4点になった。
ベンチに戻ってくるナイナーズ。元気がない。
シスコ:「いいか! お前たちがやってるのは、凡ミスばっかりだ。もう一度落ち着いて考えてみろ。キラ、球に食らいつけ。タラタラ待ってるんじゃない。エズリ、守りが深すぎる。」 ジェイクに言う。「ボロボロじゃないか!」
ジェイク:「…手強いね。」
「手強いだ、何言ってる。敵を誉めてどうする。打ち取ることだけを考えろ!」
オドー:「バッターは入って!」
「打ってけよ!」
1番、ベシア。空振り。
オドー:「ストラーイク、スリー!」
2番、キラ。空振り。
オドー:「ストラーイク、スリー!」
3番、ウォーフ。空振り。
オドー:「ストラーイク、スリー!」
シスコ:「ああ…さっさと行け!」

5回の表。点数は既に 7 対 0 だ。
1塁にヴァルカン人がいる。ジェイクは打たれたが、シスコが何とかゴロをキャッチし、2塁へ投げた。
キラが受け取る。だがスライディングしてきたヴァルカン人に阻まれ、1塁に投げることはできない。
オドー:「アウト!」
女性ヴァルカン人に詰め寄るキラ。「今のわざとでしょう。」
シスコ:「おいおい、キラ! 落ち着け! 退場になるような真似はするなよ。」
キラ:「ご心配なく、大佐。」 もう一度ボールをヴァルカン人に触れる。「アウトよ! 聞こえなかった?」 帰っていくヴァルカン人。
シスコ:「プレー続行!」

キラはグラブをベンチに投げ捨てた。
ノーグ:「あんな滑り込みありかよ。」
イエイツ:「ええ、ありよ。」
ベシア:「卑怯だよな。」
ジェイク:「奴ら、勝てばいいんだ。スポーツマン精神なんかないんだよ。」
苦々しい顔をするシスコ。

キラは打った。
ナイナーズから歓声が上がる。
手を叩くロム。
ボールが返ってくるが、キラはゆうゆうと 2塁打となった。
オドー:「セーフ!」
2塁のカバーに入ったのは、さっきのヴァルカン人だ。キラは仕返したとばかりに彼女の顔を見る。 喜ぶナイナーズ。
リータ:「やったー!」
ジェイク:「中佐、いいぞー!」
シスコ:「いいぞー、キラ!」
得意げな顔をするキラ。

次のバッターはウォーフだ。
1球目は空振り。
オドー:「ストライーク、ワン!」
ガッカリするキラ。
手を叩くシスコ。「ドンマイドンマイ。ウォーフ、よーく見ていこう。」
2球目は外れた。
オドー:「ボール、ワン!」
シスコ:「いいぞ、その調子、その調子!」
3球目もボール。
オドー:「ボール、トゥー!」
シスコ:「いいぞ、ウォーフ。それでいい。よく選んでけ。」
4球目を打つが、すぐに跳ね返る。
オドー:「ファール、ストライク、ツー!」
シスコ:「よーし、当たってきた。その調子だ。」
5球目は大きく外れた。
オドー:「ボール、スリー!」
ウォーフ:「タイム。」
オドー:「タイム!」
カウントを確認するウォーフ。2アウト、2ストライク、3ボール。
オドー:「まだかね、バッター。」
ウォーフ:「そう急かすな。」
戻るウォーフ。見守るキラ。
6球目。ウォーフは振らなかった。バッターを投げ、1塁へ走ろうとする。
オドー:「ストラーイク、スリー!」
怒るウォーフ。「何?! どこ見てるんだ! 少なくとも 50センチは外れてたぞ! 何でストライクなんだ!」
シスコはガムを捨て、駆け寄った。
ウォーフ:「取り消せ、今の取り消せ!」
シスコも一緒になって抗議する。「おい、どこを見てるんだ! 明らかなボールだろう!」
ウォーフ:「完全に外側だったぞ!」
「一体どこを見てたんだ! 今のは完全にプレートの外だ! 液体にでも戻ってたのか!」
オドー:「コーナーをかすめていました。」
ウォーフ:「コーナーをかすめてた!?」
シスコ:「コーナーをかすめてたと?!」
「おい、冗談じゃないぞ!」
「完全なボールだ。審判を増やすべきだった。2人にすりゃよかったよ、2人に!」
オドー:「2人ともベンチに戻った方が身のためだ。」
ウォーフ:「何?!」
ウォーフを抑えるシスコ。オドーに詰め寄る。「待てよ、おいちょっと待ってくれ! お前は得点を盗む気か。まるで、スコアボードによじ登って一点削るのと同じ行為だ! この泥棒め!」 ついオドーを指で小突いてしまった。
オドー:「君。君は即刻退場ー!」
シスコ:「何ー!?」
「『いかなる場合も選手が審判に接触することは許されていない。』 選手が規則違反をした場合、規整された罰則に従い直ちに試合から追放される。文句があるなら自分で野球規則、4-06、『A』-4 を確認してみるといい。ただしスタンドでな。君は即刻退場ー!」
シスコはロジシャンズのベンチを見た。
ソロックは無言で帽子※15に触れ、挨拶を送った。
土を蹴るシスコ。


※14: ホロスイート・プログラム「野球試合 (baseball game)」

※15: このシーンが最もよくわかりますが、帽子に描かれているのはヴァルカンの IDIC マーク。ユニフォームにもあります。なお背番号の上にはヴァルカン語で名前が書かれているようです

ナイナーズのベンチ。
シスコは文句を言いながら歩いていった。「ボールだ。ストライクじゃない。絶対ボールだった。」
ベシア:「チーフ。」
オブライエン:「何だ。」
「監督代理を頼むよ。」
「…そうだな。…何ボケッと突っ立ってるんだ! 退場者がそんなに珍しいか! さっさとグラブ持って守備につけ。グズグズすんなよ。」 手を叩くオブライエン。「クワーク、起きろ。ライトだ。ジュリアン、セカンド。リータ、君は…レフトだ。さあしまっていこう、これからだぞ。ほーら、行ったいった!」
ため息をつくオブライエン。
オドー:「プレーボール!」

観客席にやってきたシスコ。
オドーの声が響く。「ボール、ワン!」
憤慨した様子で座るシスコ。ロムと顔を合わせる。目をそらすロム。
オドー:「ストライーク、ワン!」
ガムを噛むシスコ。

ヴァルカン人はボールを打った。高く上がる。
センターのエズリが追いかける。
オブライエン:「行ったぞー!」
キラ:「エズリ、頼んだわよ!」
「バックだ、エズリ。バーック、バーック、よし行けー!」
エズリはフェンスを駆け上がり、ボールを取りつつ宙返りした。
歓声が上がる。
立ち上がり、拍手するシスコ。「いいぞー!」
喜ぶエズリ。「イエーイ!」
グラブを取り、手を叩くキラ。
その場で足踏みするクワーク。「イエイイエイ…やりー!」
ベシア:「イエーイ、それこそスタンドプレーだ!」
ロム:「かっこいいよー! あー! あ…」 シスコに見られていることに気づいた。静かに手を叩く。「いいよー…」

9回表。点数は 10 対 0 になっていた。
オドー:「バッター、入って!」
1塁にランナーがいる。
ライトヒット。ヴァルカン人は一気に 3塁を駆け抜ける。
キラ:「ホームよ、ウォーフ! ホームに返して!」
ノーグにボールが返るのと同時に、ランナーが駆け抜けた。だがホームベースを踏んでいない。
気づかずに残念がるノーグ。ヒットは 3塁打となった。
ヴァルカン人はそのままベンチに戻る。
ノーグはオドーを見たが、オドーは何も言わない。
ノーグ:「何だよ。」
答えないオドー。ノーグは状況をつかめない。
オブライエンが気づいた。「ベースを踏んでなかったぞ!」
ノーグ:「嘘、ほんと?」
咳払いするオドー。
ノーグ:「ど…どうしたらいいんです?」
ウォーフ:「探してぶっ殺せ!」
オブライエン:「タッチするんだよ!」
慌てて追いかけるノーグ。
オブライエン:「ジェイク、カバーしろ!」
ロジシャンズのベンチに来たノーグ。だが見分けがつかない。「どれだっけ?」
観客席から指示するシスコ。「全員タッチしろ!」
順番にボールで触れていくノーグ。その度に首を振るオドー。
ジェイク:「早くしろよ、ノーグ!」
つぶやくロム。「次の、次だ…」
あと一人のところまで来た時、その最後のヴァルカン人が突然ホームに向けて走り始めた。
ボールを投げるノーグ。「ジェイク!」
滑り込むヴァルカン人。だがボールの方が早い。
シスコ:「よし、アウトー!」
オドー:「アウトー!」
守備陣から歓声が上がる。
オブライエン:「イエーイ、いいぞー! よくやったー!」
ジェイク:「やったー!」
ノーグ:「ジェイク、ナイスキャッチ!」
笑うシスコ。「よーし、アウトだー!」
喜ぶロム。
シスコ:「今の見たか! だから野球ってのは面白いんだよ。何が起きるかわからない。全く予測がつかないんだ。」
「ええ…僕にもわかってきました。」
「…ロム。来てみろ。」
おそるおそる近づくロム。
シスコ:「行くぞ。」
ロム:「どこへ行くんです?」
2人は観客席を出ていく。

いよいよ 9回裏。ナイナーズは声を上げて応援する。「走れはしれー!」 「早く!」
ノーグは 3塁に滑り込んだ。
オドー:「セーフ!」
喜ぶ仲間たち。「やったー!」
次はジェイクがバッターだ。
ベシア:「ジェイク、頼むぞー!」
リータ:「がんばって!」
オブライエン:「よーし、行ってこい。」
観客席からベンチに呼びかけるシスコ。「チーフ! チーフ、チーフ。タイムだ。」
オブライエン:「なぜです?」
「ジェイクの代打を出そう。」
「代打?」
指さすシスコ。ユニフォームを着たロムがやってきた。
笑うオブライエン。「ターイム。」
オドー:「タイム!」
ロムを見るノーグ。
オブライエン:「頼んだぞ。」
クワーク:「ちょっと、ね、嘘でしょ。サードにランナーがいる。得点のチャンスだ。」
「いいんだ、クワーク。ロム、行ってこい。」
リータはバットを渡した。「あなたなら打てるわ。」
シスコは観客席に座る。
ノーグ:「いいぞ、父さん。父さんならきっと打てる!」
キラ:「ロム、カッ飛ばしちゃってー!」
シスコは、ふと指示した。「コンピューター。」
ナイナーズは一列になって声をかける。
オブライエン:「がんばれよ!」
リータ:「素敵よー!」
キラ:「がんばれ、ローム!」
スタジアムにアナウンスが響き渡った。『代打のお知らせをいたします。ジェイク・シスコに代わりまして、背番号 13、ロム。』
同時に観客の映像が復活した。大きな拍手。
照れるロム。ホログラムの人物に囲まれたシスコは笑顔でうなずく。
ノーグ:「父さん、がんばれー! 絶対打てる。」 小声。「…と思う。」
席につき見守る観客。
1球目。ロムはバットを振れない。
オドー:「ストライーク、ワン!」
残念がるナイナーズ。
ノーグ:「父さん、がんばれ!」
ロム:「ああ…」
キラ:「お願い…ロム…」
リータ:「落ち着いて、絶対打てるわ。ロム!」
2球目。今度は振ったが、全くずれている。
残念がる観客。
シスコも同じだ。「ああ…」
オドー:「ストライーク、ツー!」
ナイナーズも半ばあきらめている。
リータ:「ドンマイ、ドンマイ!」
オブライエンはベシアを呼んだ。「ジュリアン。あれ、何て言ったっけ? バットに当てて、ベースラインに転がすやつ。」
ベシア:「ああ…バント?」
「そうだ、バントだ。サインを送ろう。」
ロムを呼ぶオブライエン。「ロム!」
サインを送るベシア。オブライエンも真似する。
ロム:「何です?」
皆同じサインを送る。
ベンチに気を取られるロム。「何さ?」
ヴァルカン人は 3球目を投げた。
ボールはたまたま、ロムが突き出していたバットに当たる。
ホームに駆け込むノーグ。
腕を回す、3塁コーチのイエイツ。「ゴー!」
リータ:「走ってー! 走ってー!」
「ノーグ! ホームに突っ込んでー!」
やっとで走るロム。
ホームに近づくノーグ。
ロムは全力疾走する。絶妙な位置に転がったボールをロジシャンズのキャッチャーが取り、ホームへ投げる。
イエイツ:「滑り込んでー!」
ジャンプするノーグ。「…エーイ…!」
オドー:「セーフ!」
リータ:「やったー!」
1塁コーチのエズリがロムに近づく。
シスコ:「いいぞ、ロムー!」
ナイナーズのメンバーはロムへ駆け寄った。
スコアボードに、初めてナイナーズの得点として「1」が点った。
ノーグと抱き合うロム。集まったメンバーに体を持ち上げられる。
観客はロムの名前を叫び続けた。
オドーに近づいたソロック。「審判! 今のは不適当な行為だ。」
無視するオドー。
ソロックはオドーの肩に手を触れる。「試合は、まだ終わってはいない。」
ソロックの手を見るオドー。ソロックは自分の犯したミスに気づいた。
笑顔で命じるオドー。「退場!」
ロムは抱えられたまま、グラウンドを進む。

まだユニフォームのまま話すシスコ。「おい、ジェイク。いい試合だったな。最高の気分だ。」
ジェイクは他のメンバー同様、クワークの店にいる。「10点も取られたけど。」
シスコ:「相手は、ヴァルカン人だ。実質 2、3点ってとこだよ。」
笑うジェイク。「そういうことにしとくよ。」
シスコは顔にキスする。「それがいい。」
ロムのところへ近づくシスコ。「やあ、失礼。」
ロムと口づけしていたリータ。「あ…」
シスコ:「謝らなきゃならんなあ。」
ロム:「いえ…でも、どうしてもとおっしゃるなら。」
手を差し出すシスコ。「すまなかった。」
握手したロム。「謝罪は承りました…。」
シスコ:「今度時間が…ある時に、バントの仕方を教えてくれ。」
「喜んで!」
シスコは離れた。
ロム:「リータ、バントって?」
リータ:「もう…」 またキスする。
その様子を見ていたノーグは、話していたヴァルカン人に言った。「あれ、僕の親父。」
ソロック:「何を祝っているのか理解できんな。フェレンギのバントはまぐれだ。君の負けに変わりはない。」
シスコ:「そうとも、君の言う通りだ。だが実に気分がいい。クワーク、好きなだけ飲ませてやってくれ。私のおごりだ。」
グラスを運んでいたクワーク。「もうそうさせてもらってます。」
ソロック:「君は無理矢理勝利を捏造して祝おうというのか?」
イエイツ:「私たちは勝ったのよ。」
ベシア:「捏造した、勝利に。」
シスコ:「捏造勝利に乾杯!」
一同:「かんぱーい!」
ソロック:「この愚行は、感情的かつ非論理的な地球人の、典型だな…」
胸を押さえるシスコ。「あっ…今、こいつの声、震えていなかったか?」
ソロック:「何を…馬鹿な…」
ベシア:「今のもすごく攻撃的に聞こえたけどね。」
笑うキラ。
オブライエン:「怒りも感じたよなあ。」
クワーク:「俺は嫉妬まで感じたねえ。」
イエイツ:「それに痛みも。」
エズリ:「いつもそんなに感情的なの?」
ソロック:「馬鹿馬鹿しくてつき合ってられん。…地球人の愚かな罵倒には。」
「地球人? 私って何人だっけ?」
クワーク:「地球人がどんな姿かも知らないとはねえ。」
笑うナイナーズの面々。
キラ:「大佐! デスクに飾っておいて下さい!」 ボールをシスコに投げた。
そこには、ナイナーズのメンバーのサインが書かれてあった。
シスコ:「…ありがとう。ほら見てみろ。」 ボールをソロックに見せる。「君もサインくれる?」
また笑う一同。無言でソロックは出ていった。
シスコ:「ダメ?」 笑う。「へえ、すごいなあ…。」
そのボールを高く放り投げる。
宇宙空間に浮いたボール、DS9 の中で。



両チームのメンバー (スタート時の並び順)
ナイナーズ Ninersロジシャンズ Logicians
名前背番号守備打順登録名備考 名前背番号守備打順備考
シスコ15 B. SISKO監督、途中退場 ソロック16  監督
ジェイク789?J. SISKO   24? 
エズリ43 DAX1塁コーチ
※シスコ退場後?
 111 
キラ92KIRA / NERYS
※なぜか 2種類あり
   152? 
ウォーフ323WORF   23 6? 
ベシア22左→二1BASHIR   24 5? 
オブライエン34  O'BRIEN1塁コーチ?→監督代理  89? 
ノーグ258?NOG   7   
イエイツ475?YATES3塁コーチ  6 3?どちらかが初めに並んでいない?
リータ55右→左 LEETA   5 
クワーク7代→右 QUARK 
ロム13 ROMジェイクの代打
(オドー)(6)   審判
・感想
一シーズンに一話は必ずあるコメディエピソード。今回は「ついにきた」という感じで、パイロット版からのシスコの野球好きという設定が最大限に生かされます。観る前は、DS9 のレギュラーキャラは丁度 9人なので、それでそのまま野球チームにするのかと思っていましたが、そう単純ではありませんでしたね。
論理的なものの、その中には感情的な部分が隠されているという、ある種伝統的なヴァルカン人の描写も面白いものです。原題は大リーグで 7回裏の攻撃に観客が歌う "Take Me Out to the Ball Game" という曲からで、「私を野球につれてって」という映画にもなっています。邦題は「がんばれ! ベアーズ」からですね。


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