イントロダクション
※1ステーションのベイジョー聖堂の中に、キラと共に入るシスコ。ベイジョー人たちが集まっている。 フォースフィールドの中の発光体容器を見ている子供たち。 一人の少女※2がシスコに気づいた。「ペルドー・ジョーイ、選ばれし者!」 シスコ:「ペルドー・ジョーイ。楽しんでるかい?」 笑う少女。他の子供も集まる。 シスコ:「よかった、ベイジョーのお祭り※3は大成功だったようだな。」 キラ:「ええ、みんな楽しんでいます。」 「うん。」 「大佐のおかげね。」 「何がだ?」 「戦争中の真っ最中だというのに、ぜひお祭りをやるよう進言して下さいました。」 「戦争中ではあるが、我々は大いに恵まれている。それを忘れちゃいかん。」 「ええ、そうですね。…上級士官室に急がないと、式典が始まるわ。」 「そうだな。さ、行こう。」 子供たちは親の元へ駆け寄る。「行きましょう。」 「行こういこう。」「とっても楽しみ。」 「待って!」 「ママ見て、素敵でしょ。」 「すごいでしょ。」 出て行くシスコと入れ違いに入るオドー。「どうも。」 キラはオドーに気づくなり、部屋の片づけを始めた。 オドー:「ネリス、探しましたよ。」 キラ:「あら、そう。でもこっちはあなたと話す気分じゃないのよ。」 「私の言い分を聞いてくれませんか。」 「いやよ。」 「…プロムナードの秩序を守るのが仕事です。」 「ヴェデクを逮捕するなんて!」 「逮捕とは大げさですね、1時間もしないうちに釈放した。それにあれは違法行為です。許可なくプロムナードで寄付金集めをするのは、ステーション規則 1526条第7項違反です。」 「ヴェデク・ソリス※4はねえ、ベイジョーの洪水難民の寄付を募っていたのよ。」 「それは立派ですが規則は守ってもらわないと…」 「そんな規則、私には関係ないわ!」 咳払いするオドー。「…ところであれは…瞑想の発光体※5ですか。」 キラは冷たく言った。「さよなら、オドー。」 ケースを手に持つロス提督※6。「ベンジャミン・ラファイエット・シスコ大佐。貴殿の非凡なるリーダーシップと、類い希なる指揮力に対し、特にディープ・スペース・ナイン奪還の戦いで見せた勇気ある行為に対して、宇宙艦隊司令部より勲章を授与する。勇気のクリストファー・パイク賞※7だ。おめでとう、ベンジャミン。」 シスコ:「ありがとうございます。」 ウォーフたちと共に集まったダックス。「若い頃を思うと感慨深いわ。」 オブライエン:「当時から大器の片鱗はあったんでしょ?」 ジェイク:「おめでとう、父さん。」 笑って抱き合うシスコ。「ああ。」 ロス:「では諸君、ちょっと外してくれ。大佐と 2人だけで話があるんだ。」 出て行く部下とジェイク。 ロス:「喜びたまえ。宇宙艦隊は守り一辺倒の戦いから脱却するぞ。ドミニオンの領域に攻め入らなければ、戦いには勝てない。」 シスコの言葉を抑える。「わかっとる、君は言い続けていた、ロミュランがドミニオンと対立する前からな。時間はかかったが、ようやく君の思いが届いた。」 シスコ:「出発の時期は。」 「君次第だよ。」 「私?」 「そういうことだ。おめでとう、ベンジャミン。君はカーデシア侵攻作戦の指揮官だ。」 |
※1: このエピソードは第6シーズン・フィナーレ (最終話) です ※2: 名前は Sahgi (Michelle Horn) ですが、言及されていません。後にも登場 ※3: ベイジョー感謝祭 Bajoran Gratitude Festival 一年に一度のベイジョーの休日。DS9第56話 "Fascination" 「恋の感謝祭」など。「ペルド(ダ)ー・ジョーイ (peldor joi)」というのは、その間に交わされる挨拶 ※4: Vedek Solis ※5: Orb of Contemplation 9つある発光体の一つ ※6: ロス提督 Admiral Ross (Barry Jenner) DS9第129話 "Favor the Bold" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(前編)」以来の登場。声:石波義人 ※7: Christopher Pike Medal of Valor クリストファー・パイクは 23世紀の宇宙艦隊士官。カーク船長の前任の初代エンタープライズ船長。TOSパイロット版 "The Cage" 「歪んだ楽園」などに登場 |
本編
身軽な服装をし、バトラフを持ったウォーフとダックスが 1階へ下りてくる。 ベシア:「遅いぞ、ご両人。ホロスイートから出てくるまで、たっぷり 20分は待たされた。」 ダックス:「遅くなってごめんなさい、ジュリアン。」 アイソリニアロッドを渡す。 ロッドをクワークに返すベシア。「何をしてたんだ? ずっと運動してた割りには、汗もかいてないねえ。あざ一つついてない。骨も折れてないし、血も出てない。」 ウォーフ:「話し合っていた。」 クワーク:「1時間45分もかい?」 「……個人的な問題だ。」 ダックスは笑みを浮かべた。「私たち子供を作るって決めたの!」 ウォーフ:「だから、個人的だと言ったろ?」 無言になるベシアとクワーク。 通信が入った。『キラよりウォーフ少佐。直ちに司令室へ。』 ウォーフ:「了解。」 ダックスに首元を引かれてキスをし、店を出て行くウォーフ。 ダックス:「…2人とも何黙っちゃったの?」 ベシア:「ああ、いいかい、あの…幸せに水を差すつもりはないよ、ジャッジア。結婚する前に念を押したよね。医学的検知から言って、トリル人とクリンゴン人が子供をもつのは難しいって。」 クワーク:「それに子供が父親似だったら災難だ。」 ダックス:「何よ、失礼ねえ! フン。」 歩いていく。 ベシア:「子供。」 クワーク:「あの石頭と結婚しただけでもたまらんのに。」 「子供をもつって、つまりどういうことだ?」 「結婚が続くってことさ。俺たちの予想より長くな。」 ベシアはグラスを飲み干した。 モニターの星図を見るシスコ。「攻撃が予想されるのはジェムハダー 5編隊。現在チントカ星系※8を守っているドミニオン艦隊は、それだけです。」 マートク※9:「ああ…それは好都合だ。我々はようやくドミニオンの弱点を見つけたようだな。」 「では早速、ロミュランを説得して協力を取り付けましょう。」 「ああ…。それはなかなか厄介な仕事だ。ロミュラン人は傲慢で信頼できない連中だからなあ。」 ロス:「だが彼らの協力なしでは無理だ。」 「必ず成功させる! よろしいかな? 来年の今頃には、我々はカーデシアの中央司令部を乗っ取り、ブラッドワインで乾杯するのだ。」 カーデシア。 部下にパッドを渡すダマール※10。「取り越し苦労だ。」 ウェイユン※11:「敵を見くびると、痛い目に遭いますよ、ダマール。守りがひどく手薄です。」 「ガンマ宇宙域から援軍の見通しがつくまでは、これでしのぐしかない。それに…ロミュラン前線の戦力を固めたばかりでねえ。」 「ええ、そのせいで…チントカ星系が無防備になってしまった。」 「心配するほどではない。…チントカ星系の防備はこれ以上必要ない。」 ダマールがコンソールを操作すると、星系に配備された設備が大きく表示される。「我々には新しい無人軌道武器ステーション※12がある。本体は再生フォースフィールドで保護され、武器庫にはプラズマ魚雷が 1,000個搭載されている。」 「いいですねえ。」 「そうでしょう。既に配備の指令は出した。」 グリン※13が部屋に入った。「レガート※14・ダマール。大変です、問題が起きました。」 ダマール:「一体何事だ。」 ジェムハダーと共に入ったのは、デュカット※15だった。「私だ。」 その声に振り返るウェイユン。 デュカット:「何だ、2人とも私の帰還を歓迎してくれないのかね?」 ウェイユン:「まるで英雄気取りですね、デュカット。いい度胸だ。自分のせいでドミニオンがこの戦いに負けそうになったことをお忘れか?」 「ウェイユン、君は…私の下す決断にただうなずいていただけだったと記憶しているがね。」 ダマール:「娘のことで来られたんなら…」 「ダマール。君にはガッカリだよ。君や、カーデシア国民は元指揮官に会えて喜んでくれると思っていたのにな。ジヤルの死を、君のせいだなどとは思っていないさ。フェイザーを撃ったのは君だが、そうさせたのは、ベンジャミン・シスコだ。そうだろう? だから私は戻ってきた。ついに復讐を果たす時がやってきたのだ。あのお偉い大佐にな。」 笑うウェイユン。「我々がこうして、アルファ宇宙域全体をものにしようと生死を賭けて戦っている時に、個人的復讐で頭がいっぱいとは実に情けない限りですねえ。あなたは何も変わっていない。」 デュカット:「いいや、私は生まれ変わった。私にはもはや現実的な征服や力は必要ない。そんなものは超越した。私の存在そのものが、完璧に純粋なのだ。この純粋さは、この大いなる宇宙に通じるものだ。」 「ええ、確かに変わりましたね。ひどくもったいぶったうぬぼれ屋から自己欺瞞に陥ったイカレ野郎にねえ。それを進歩と呼ぶのははばかられる。戯言につき合ってる暇はありません。連れて行け。」 デュカットに近づくジェムハダーを止めるダマール。「待て! …なぜ戻った。」 デュカット:「聞くまでもない。それはもちろん君達が望むものを与えるためだよ。アルファ宇宙域さ。」 嘲笑するウェイユン。 デュカット:「この私には素晴らしい秘密兵器があってね。私はベイジョー占領時にカーデシアが奪った遺物を所有しているのだ。」 ウェイユン:「そのガラクタが、何の役に立つと言うのです。」 「我々のために、ワームホールからドミニオンの援軍がやって来るのを可能にしてくれるとだけ、言っておこう。そして今度こそ、潰してくれるのだ。シスコ大佐と、惑星連邦を。完全にねえ。」 |
※8: Chin'toka System ※9: マートク将軍 General Martok (J・G・ハーツラー J.G. Hertzler) DS9第131話 "You Are Cordially Invited" 「花嫁の試練」以来の登場。声:大山高男 ※10: Damar (ケイシー・ビッグス Casey Biggs) DS9第143話 "In the Pale Moonlight" 「消された偽造作戦」以来の登場。声:古田信幸 ※11: Weyoun (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) DS9第143話 "In the Pale Moonlight" 「消された偽造作戦」以来の登場。声:内田直哉 ※12: orbital weapon platform ※13: Glinn (Bob Kirsh) この階級および名前は言及されていません。声:大川透 (ガラックと兼任) ※14: legate これまでは「評議員」または「特使」と訳されていた、ガルの上の階級 ※15: ガル・デュカット Gul Dukat (マーク・アレイモ Marc Alaimo) DS9第141話 "Wrongs Darker than Death or Night" 「憎悪を超えて」以来の登場。声:幹本雄之 |
DS9 の周りに集まった連邦・クリンゴン艦隊。更にロミュラン・ウォーバードが遮蔽を解除していく。 ロミュランの議員、レタント※16。「参りましたなあ、どうしてこの私が野蛮なクリンゴン人に臆病者呼ばわりされなきゃいけないんですかあ。」 上級士官室には宇宙艦隊、クリンゴン、ロミュランの者が集まっている。 マートク:「それは、その野蛮人が、ロミュランの議員より遥かに勇気があるからだろうが!」 笑うレタント。「ほら、まただ。」 ウォーフ:「将軍、少し落ち着いて下さい。」 マートク:「落ち着いている場合ではないぞう。今こそ敵を倒し、とどめを刺す時だ!」 シスコ:「ではドミニオンの弱点を攻めましょう。」 「だが意気地のない奴はおとなしく引っ込んでりゃいいんだ!」 レタント:「今こちらからカーデシアに侵攻するなど、みすみす死にに行くようなものだ。」 シスコ:「皆さん冷静に。同盟軍だということをお忘れなく。」 マートク:「味方を中傷するとは、同盟軍が聞いて呆れるわ。」 周りの部下に話すレタント。「野生の怒りに満ちた目を見たか。残忍性を抑えきれないようだ。フン、クリンゴン人を眺めるのは実に楽しい。ロミュランの動物園にも、ぜひつがいで欲しいね。」 怒りに立ち上がるマートク。 シスコ:「座って下さい!」 マートクはうなる。 シスコ:「怒りはドミニオンに向けましょう。」 何とか腰を下ろすマートク。 シスコ:「レタント議員。我々の侵攻計画をチェックされたとは。」 レタント:「ええ、しましたよ。そして、時期尚早だと判断しました。今のところは、ドミニオンの艦隊を我々の領域に誘い込んで、一つ一つ確実に潰していくのが得策だ。」 ロス:「だが敵は永遠に船を造り続け、攻撃してくる。」 ウォーフ:「ジェムハダーの驚異的な生産ペースにも、追いつけません。」 シスコ:「つまり我々が勝ち続けるためには、ドミニオンの造船所を、破壊するしかない。兵器工場もです。そして同盟軍で、ドミニオンを彼らの領域の奥深くまで追い込み、カーデシア・プライムにある司令部を、グルッと取り囲んでしまうのです。そうすれば敵は降伏するしか道はない。…たやすいことではありません。…それに我々が攻撃をかける全星系に対して、重い代償を払うことになるでしょう。だが結局、アルファ宇宙域からドミニオンを追い出すには、それしかないんです。それこそが我々の目指すゴールだ! クリンゴン、地球人※17、そしてロミュランのね。」 レタントはグラスを口にした。 ホロスイート。 バンドの演奏が始まり、ヴィック・フォンテーン※18が歌い出した※19。 No, not wisely, but too well To the girl who sighs with envy When she hears that wedding bell To the guy who'd throw a party If he knew someone to call Bless them all Hey, Tom, Dick and Harry Come in out of the rain Must be drowned in champagne Here's the last toast of the evening All the losers will be winners All the givers shall receive Here's to trouble-free tomorrows May your sorrows all be small Here's to the losers Here's to the losers Here's to the losers Bless them all. ヴィック:「どうも。リクエストの多い曲ではないんだが、気に入ってよかった。相棒、何そんなに落ち込んでるの。」 「まあ、これが話せば長いんだ。」 「もしかして、ダックスの赤ちゃんに関係ある?」 クワーク:「…テレパスか?」 「いや、ホログラムさ。」 ベシア:「それもすごく優秀な。」 「驚くことない。幸せな結婚をした美しい女性と、彼女が子供を産む可能性を足してみれば、現状がわかる。いつまでも終わった恋に思いわずらう男が 2人。」 クワーク:「そりゃ一体何の話かねえ。」 「なあ、君たちにぜひ言っておこう。もっと見込みのある相手を狙えよ。」 ベシア:「ダックスのような女性を、失うのは辛い。」 「追い打ちをかけるようだが、とっくの昔に振られてる、2人ともね。でも、おめでとう、宇宙は広い。素敵な女性はいくらでもいる。トリル人以外にもね。だろ?」 クワーク:「そうかなあ。それで励ましてるつもり?」 「『世界がわかれば、楽になれる。』」 「楽になったかい?」 ベシア:「ちょっと。」 「ふん。」 「クワーク、君は?」 「…まあな。」 ヴィック:「よーし、バンドまで落ち込みそうだったよう。」 ベシア:「ありがとう、ヴィック。助言には感謝するよ。」 握手する。 クワーク:「楽しかった。また寄らせてもらう。」 ヴィック:「いつでも来てくれ、待ってる。」 力なく出て行く 2人を見るヴィック。「いい連中なんだが、完全に自分を見失ってるな。」 ジェイクは尋ねた。「出発はいつ?」 一緒に食事しているシスコ。「出発?」 ジェイク:「僕はジャーナリストだよ、父さん。」 「そうかもしれんが、お前は連れて行かないぞ、ジェイク。」 「でも父さん、連邦がカーデシアに攻め入るんだよ。ドミニオンの心臓部をグサリと突き刺そうってのに…」 シスコに見られる。「あの…記事はもっと穏やかに書くよ。」 「安心した。だがお前はステーションに残れ。」 「…行くのが義務だ。記者だからね。ディファイアントに乗せたくないって言うならいいよ。マートク将軍に乗せてもらう。そうさ、クリンゴンの視点からいろいろ語ってもらうんだ。」 「……わかったよ、ジェイク。ディファイアントに乗れ。」 喜ぶジェイク。「じゃいつ出発?」 シスコ:「とにかく準備だけはしておけ。」 「了解!」 立ち上がったジェイクの手を取るシスコ。抱き合う。 ジェイク:「大丈夫、父さん。親子で気をつけ合えば。」 部屋を出て行く。 シスコは司令室にいた。預言者のビジョンだ。 預言者ウォーフ:「シスコは、ベイジョーのもの。」 司令官室。 預言者マートク:「そこが彼の属するところ。」 預言者ロス:「そこがシスコの存在するところだ。」 シスコ:「カーデシアに行くなということか?」 また司令室。 預言者ロス:「シスコはベイジョーのものだ。」 預言者マートク:「別の道を歩むのは危険である。」 シスコ:「危険? 何が危険だと。」 預言者ロス:「シスコは選んだ道からそれるべきではない。」 預言者ウォーフ:「シスコは、ベイジョーのもの。」 預言者レタント:「ベイジョーこそシスコの場所。」 シスコ:「なぜ道をそれるのが危険なんだ。なぜそれがベイジョーと関係ある。…わけを教えてくれ!」 シスコは自室に立っていた。 |
※16: Letant (デヴィッド・バーニー David Birney) 原語では名前は言及されていません。声:土師孝也 ※17: 「人間」と吹き替え ※18: Vic Fontaine (ジェイムズ・ダーレン James Darren) DS9第144話 "His Way" 「心をつなぐホログラム」以来の登場。声:堀勝之祐 ※19: "Here's to the Losers" フランク・シナトラの歌。CDアルバム "This One's from the Heart" に収録されています |
上級士官室。 星図を指すロス。「カーデシアでは、無人軌道武器ステーションと呼んでいる。情報によると、ドミニオンはチントカ星系全体に、これを無数に配置しているらしい。」 シスコ:「もう活動中ですか。」 「いや、まだだ。」 マートク:「動き出すまでの猶予は。」 「恐らく 2、3日。」 レタント:「なるほど。弱点だと思われていた星系が、強化されつつあるようですな。」 笑うマートク。「ロミュランには逃げ出すいい口実になるかもしれんな。」 レタント:「全くもってクリンゴンときたら、早合点ですなあ。我々ロミュラン帝国はカーデシア侵攻に同意しました。そしてしっかりその約束を果たすつもりだ。問題なのは敵の武器ステーションが作動する前に、侵攻が可能かどうかという点です。」 「朝一番で出発すれば十分間に合う。」 ロス:「決まりだ、諸君の幸運と、成功を祈る。」 レタント:「ロミュランは運を信じません。」 出て行く。 「結構。我々の方に運が向くさ。」 マートクも部屋を後にした。 ロス:「静かだったな、ベンジャミン。武器ステーションが気になるのか?」 シスコ:「いえ、そうではありません。……預言者のことが…例のワームホール異星人です。夕べ現れました。」 「今回の任務を祝福してくれたか?」 「カーデシアに行くなと警告を受けました。ここに残るべきだと。」 「理由は何と。」 「具体的には何も。危険だと言うばかりで。」 「危険とは? 君の身がか? 任務か? ベイジョーか?」 「わかりません。」 「…ベンジャミン、何が言いたい。ステーションに残りたいのか。」 「そんなこと思っていません。そう言っているのは預言者です。」 「宇宙艦隊の司令官とは思えない返事だな。」 「預言者は私を司令官とは見ていません。選ばれし者と思っています。」 「それが問題なんだ。過去 6年、君は両方になろうとした。私はずっとそれに耐え、自由にさせてきた。何度も孤立無援に立たされたが、ここまでだ。そろそろ君も自分の立場をはっきりさせろ、選ばれし者か、司令官か! 両方にはなれん。」 「……私は…明朝 5時、司令官としてディファイアントのブリッジに立ちます。」 カーデシア。 ダマール:「奴らの連合艦隊?」 ウェイユン:「惑星連邦とクリンゴン、ロミュランの連合ですよ。」 「チントカ星系に向かっているのか。」 「でしょうね。」 「それなら、何の心配もいらない。連邦が着く頃には武器ステーションが作動するでしょう。」 「安心しましたよ、それが本当なら。」 「今確かめてきます。」 ジェムハダーと共に、箱を持ったデュカットが入った。「ああ諸君、ちょっとよろしいですかな?」 ため息をつくウェイユン。「何の用です、デュカット。」 デュカットは箱を挙げた。「これです。勝利の鍵。…おや、まだ疑っているようですねえ。今にわかりますよ。」 箱を置き、袋を探る。「この数ヶ月間、私はベイジョーの古文書解読の研究に没頭していました。そしてワームホールはガンマ宇宙域への入り口以上の意味があると認識するに到ったのですよ。」 ろうそくに火をつける。「ワームホールは預言者の神殿だ。預言者たちがベイジョーに微笑みかけるのは、そこからです。預言者たちが、ベイジョーの人々を守るのはそこからなのです。だが悲しいかな、彼らの神々と、戦うべきところを、ベイジョー人と戦って時間を無駄にした。今までね。」 箱には、一体の人形が入っていた。 ダマール:「神とどう戦えと。」 「今見せる。いいか。我々には、隠れた味方がいたのだ。下がっていた方がいいぞ。」 人形を持ち、呪文を唱え始めるデュカット。次第に声を大きくする。 そして両手で人形をへし折った。その瞬間、中から赤い光を発するエネルギーが出てきた。 それは塊状になったかと思うと、デュカットの体へ侵入した。勢いで弾き飛ばされるデュカット。 倒れたデュカットに近づくダマール。「デュカット!」 起きあがるデュカット。見開かれた目は、赤く光っていた。 デュカットの異質な声が響き渡る。「心配はありがたいが、私は大丈夫だ。」 DS9。 保安室に入るキラ。「忙しい?」 オドー:「ええ……ちょっと。」 「明日の朝一番で、戦闘に出発するの。」 「聞いてます。」 「…それで?」 「ええ、逮捕の件は謝ります。義務を果たそうとしただけですが、自分でもやりすぎだとは承知していたんです。」 「ああ…何の話をしてるの?」 「ヴェデク・ソリスです。そのことで来たんでしょ?」 「いいえ、でもこの数日、あなたに無視されてたわけがわかったわ。」 「無視なんかしていません。こっちがあなたに無視されてあげたんです。」 「なぜそんなことを!」 「それは…もう私と…つき合いたくないだろうと思ったからです。」 「あ、そんな風に考えてたの? ああ…」 オドーに近づくキラ。「オドー、私たち喧嘩したけど、どんなカップルでも喧嘩ぐらいするわ。ダックスとウォーフを見てよ、二人は仲良しでもしょっちゅうやりあってる。」 「まだ私を愛してますか?」 「はぐらかさないで。」 「ぜひ答えを。」 「自分でもよくわからないの。」 「でももう怒ってはいないんですね?」 「ええ、でもヴェデクを逮捕したのは間違いよ。」 「そうです。」 「私は最後の晩を一緒に過ごしましょうって言いに来たのよ。」 「とても嬉しいです。」 「じゃ、また後でね。」 「楽しみにしてます。」 「よかった。」 二人はキスをした。 オドー:「あの…ネリス。ヒューマノイドとのカップルを外から見るのと、体験するのとじゃ、大きな違いですね。」 キラ:「昼と夜ほどにね。」 廊下を歩くオブライエン。「戦争に行くにはとんでもない時間だ。忘れずに書けよ。」 パッドを操作するジェイク。「そうする。」 エアロックに入っていく。 「ジャッジア、留守中家族の様子を見てくれるかい?」 ダックス:「任せてちょうだい。」 「それから、ジュリアンの子守りも頼む。」 「ああ、もう押しつけないで。」 シスコ:「ステーションを頼む、親父さん。」 「お任せ下さい。」 キラに話すダックス。「ジェムハダーに一発頼むわよ。」 キラ:「ええ、思いっきりね。夕べ二人のために、聖堂で祈ったわ。」 「子供が授かるように?」 「そういうことは、預言者の得意分野なのよ。」 「ああ、願いが叶うかしら。」 ウォーフに触れるダックス。「ねえ、聞いた? 預言者は私たちの味方だって。」 ウォーフ:「ドクターによると、頼れるものは何でも頼るべきとか。」 「共同作業がいっぱいあるから、覚悟して帰ってきてね。」 「…作業などとは思っていないよ。」 「……私もついて行きたい。」 「君は…ここにいる。」 心臓を示すウォーフ。 「あなたってロマンチストね。」 二人は抱き合って、口づけを交わした。 エアロックに入るウォーフを、ダックスは見送る。 ディファイアントにいるノーグ※20少尉。「艦長です!」 シスコ:「そのまま。」 オブライエン:「早いな、ガラック。」 先に乗っていたガラック※21。「そりゃ当然ですよ。母国解放の戦闘についていく機会なんて、滅多にありませんからね。」 「なるほどねえ。」 通信が入る。『マートク将軍より全艦隊へ。戦術編隊を組む。直ちに移動開始。』 シスコ:「カーデシアまで一気に頼むぞ、ノーグ。」 操舵席のノーグ。「了解。」 ディファイアントを初めとする連合艦隊は、DS9 を発った。 |
※20: Nog (エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) DS9第147話 "Profit and Lace" 「グランド・ネーガスは永遠に」以来の登場。声:落合弘治 ※21: エリム・ガラック Elim Garak (アンドリュー・J・ロビンソン Andrew J. Robinson) DS9第143話 "In the Pale Moonlight" 「消された偽造作戦」以来の登場。声:大川透 |
星図を見るダマール。「連合艦隊がチントカ星系に近づいてる。」 ウェイユン:「武器ステーションの状況はどうです。」 「まだ動いていない。」 「…こんなことを言うのは忍びないが、カーデシア人にはがっかりです。」 「その言葉、覚えておこう。」 鼻で笑うウェイユン。 惑星へ向かう連合艦隊。 軌道上の武器ステーションは全く反応しない。 オブライエン:「やった、ついてますよ。防御システムは停止状態です。」 キラ:「ジェムハダーたちが接近中。0-5-9、0-3-1 の方位。」 ノーグ:「規模が全然違うのに攻撃してくるなんて。」 ウォーフ:「そんなこと連中には関係ない。」 シスコ:「座れ、ジェイク。」 ジェイク:「…うん。」 連絡が入った。『マートクよりシスコ大佐。』 シスコ:「どうぞ。」 マートク:『クリンゴン艦隊がジェムハダーに一番近い。攻撃準備中。』 「幸運を祈る。」 迎撃を始めるクリンゴン艦隊。 ジェムハダーの船は、体当たりをしてまでも立ち向かう。 爆発していくヴォルチャ級攻撃巡洋艦。 ノーグ:「ジェムハダーがこれほど無謀とはね。」 ガラック:「あえて無謀なんですよ。奴らはクリンゴンにかなりの損傷を与えています。」 ウォーフ:「武器ステーションが作動するまで時間稼ぎをしているんだ。」 シスコ:「シスコよりマートク将軍。」 スクリーンに映し出されるマートク。『ジェムハダーはクリンゴン船 15隻に攻撃を仕掛けてきた。』 シスコ:「援軍を送りましょうか?」 『その必要はない。武器ステーションへの攻撃を開始する。』 ロミュランや連邦の船は攻撃を始め、武器ステーションを狙っていく。 爆発していく武器ステーション。更に奥の惑星へ進む、U.S.S.ヴェンチャー※22などの連合艦隊。 だが武器ステーションが動き始めた。 魚雷やエネルギー兵器を使い、ウォーバードや U.S.S.ギャラクシー※23を攻撃していく。 フォースフィールドを破れないため、武器ステーションを破壊できない連合艦隊側。U.S.S.ヴァレー・フォージ※24はバランスを崩して大破する。 星図で状況を確認するダマール。「前言を撤回していただきたい。」 ウェイユン:「そうしましょう。」 「そのうちデュカットがワームホールから援軍を送ってくれるだろう。」 「彼の話を信じていいものかどうか。何でしたっけ?」 「パー・レイス※25。」 「パー・レイスと預言者たち。こうした神についての話は全て私にとっては迷信にしか思えませんね。」 「だが創設者は神みたいなもんだろ。」 「話が違います。」 笑うダマール。「どう違う。」 ウェイユン:「神そのものです。」 撃破されていくアキラ級宇宙艦※26やクリンゴンの船。 ディファイアントも攻撃を浴びる。 ウォーフ:「敵のフォースフィールドを突破するのは無理です。」 ガラック:「艦長、敵の武器ステーションの様子が何かおかしいようです。」 シスコ:「さっさと説明してくれ、ミスター・ガラック。」 「どのステーションにも、エネルギー発生機が見あたりません。」 オブライエン:「本当だ。パワーは全て中央から送られているようです。」 キラ:「発生源を見つけて攻撃を。」 シスコ:「チーフ。」 オブライエン:「了解!」 DS9。 ダックスに話すベシア。「今朝行った DNA 検査によると、卵巣の再配列酵素※27は…正常に動いてる。」 ダックス:「子供がもてるってこと?」 「そういうこと。」 喜ぶダックス。 ベシア:「こんなに早くいい結果が出るとは予想外だ。僕もびっくりだよ。」 ダックスは抱きついて笑った。「ああ、ありがとう、ジュリアン!」 ベシア:「これもドクターの仕事だ。」 「いいえ、仕事を超えてる。あなたっていい人ねえ、昔からそうだったけど。」 「これからもそうだよ。」 「…ああ、そろそろ仕事に戻るわ。でもその前に聖堂でお礼を言わなきゃ。」 「お礼?」 「夕べキラは私のためにお祈りをしてくれたの。子供を欲しがってると預言者にね。」 「願いを聞いてくれたのか。預言者たちの存在を信じてたっけ?」 「今日は信じることにする。」 ダックスは心から喜びながら、歩いていった。 手を振り返すベシアだが、顔に笑みはない。 ろうそくをつけるダックス。 発光体のフォースフィールドの前に立ち、大きく息を吸う。「やり方が間違ってたら許してね。…滅多に来ないから。正直に言うと、あなたをワームホール異星人だって考えた方がずっと楽なんだけど、でも……キラはそれ以上の存在だと信じてる。わからないけど、彼女の…言う通りかも。…でもほんとに預言者で、今聞いていたら、ぜひお礼を言いたくて…」 突然、聖堂の中に風が吹いてきた。ろうそくの火が消える。 そこへ転送されてきたのは、デュカットだった。 ダックス:「デュカット!」 フェイザーを取ろうとする。 だがデュカットが片手を挙げると、ダックスの体に赤い光が走った。 動くこともできず、ただうめくだけのダックス。 デュカットの手の動きに同調して、体が宙に上がっていく。 天井近くまで達した。ダックスは震え続ける。 そしてデュカットは手を振り下ろした。光は消え、一気に床に叩きつけられるダックス。転がり、ぴくりとも動かない。 デュカットはダックスの体の上を越え、発光体に近づいた。 フォースフィールドをそのまま破り、容器を開ける。 発光体の光。するとデュカットの体から、赤いエネルギー体のパー・レイスが、発光体へ入っていった。 光り輝いていた発光体は、黒く変色してしまう。 膝をつくデュカット。元の目の色に戻っており、不気味に笑った。 宇宙空間にワームホールが開く。だが中央に赤い光が走り、すぐに小さくなっていく。 通常のように口を閉じるわけでもなく、ワームホールは消え去った。 ディファイアントのシスコはよろめいた。 ジェイク:「父さん、どうしたの?」 キラ:「艦長?」 依然として攻撃を受ける船。 シスコ:「今預言者が、接触してきたように感じた。はっきりわからんが、でもいつもと違う。」 オブライエン:「見つけました。遠くの惑星を回る小さな月に、亜空間エネルギー発生機があります。そこから武器ステーションにエネルギーを送っているようです。艦長?」 キラ:「すぐ向かって、ノーグ。」 ノーグ:「了解。」 「部屋にお連れして。大丈夫です、お任せ下さい。」 シスコはジェイクに連れられ、ブリッジを出て行った。 艦長席に座るキラ。 倒れたダックスの頭に触れるデュカット。「今更言っても遅いが、君を傷つけるつもりはなかった。」 デュカットは立ち上がり、腕の機械を叩く。転送された。 倒れたままのダックス。 |
※22: U.S.S. Venture 連邦宇宙艦、ギャラクシー級。。NCC-71854。DS9第130話 "Sacrifice of Angels" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(後編)」など ※23: U.S.S. Galaxy 連邦宇宙艦で、同名級の一番艦。NCC-70637。当初は NX-70637 だったと推測されます。まだ生き残ってたんですね… ※24: U.S.S. Valley Forge 連邦宇宙艦、エクセルシオ級。NCC-43305。アメリカ独立戦争中、ジョージ・ワシントン将軍の部隊が厳しい冬を送ったとして知られる、ペンシルヴァニア州の地名にちなんで ※25: Pah-wraith ベイジョー・ワームホール出身のエネルギー生命体。DS9第145話 "The Reckoning" 「善と悪の叫び」など ※26: Akira-class starship 映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」で初登場。日本のアニメ映画「AKIRA」にちなんで ※27: ovarian resequencing enzymes |
武器ステーションの攻撃が続く。破壊される U.S.S.シカー※28。 ディファイアントを初めとする船隊は、衛星へ向かっていた。 揺れるディファイアント。 ノーグ:「ああ…。ターゲットへ接近中。」 キラ:「スクリーンへ。」 表面に施設の見える、衛星が拡大された。 武器ステーションの攻撃は未だ続く。 ウォーフ:「ターゲットロック。」 キラ:「発射!」 ディファイアントのフェイザーと量子魚雷、僚船の攻撃も衛星へ注がれる。 ウォーフ:「月の防御グリッドを通り抜けるのは無理です。」 オブライエン:「名案があります。」 キラ:「どんな?」 「我々が発生機を破壊するのは無理ですが、武器ステーションならそれが可能です。」 「味方をどうやって攻撃させるの?」 ガラック:「武器ステーションの標的システムを狂わせて、発生機を敵の船だと思わせるんです。」 オブライエン:「ディフレクターアレイを使って、発生機のエネルギーマトリックスに惑星連邦のワープサインをつけられます。」 ウォーフ:「やってみましょう。」 うなずくキラ。「ノーグ、回避行動を取って。戦術パターン、シータ!」 衛星の地表近くを飛ぶディファイアントや U.S.S.ノーチラス※29。だがバード・オブ・プレイが撃沈された。 オブライエン:「誘導安定装置セット、ブースターモジュレーター同時作動。ディフレクター作動準備 OK。」 キラ:「スタート。」 ディファイアントを狙っていた武器ステーションは、突如向きを変え、衛星の施設を狙い始めた。 爆発は連鎖的に、衛星のエネルギー発生機を伝っていく。 衛星のあちこちに光が走る。 ディファイアントの船団は衛星を一斉に離れていく。 ついに衛星は、周りの武器ステーションを巻き込んで爆発を起こした。 ガラック:「よし!」 ノーグ:「やりました。」 エネルギー源を失った武器ステーションは停止する。フォースフィールドも消え、たやすく連合艦隊に破壊されていく。 奥の惑星へ進む連合艦隊。 マートクの呼びかけだ。『マートクよりディファイアント。』 キラ:「どうぞ、将軍。」 『お見事だった、少佐。早速カーデシア※30に地上軍を上陸させる準備にかかろう。』 オブライエン:「少佐、ディープ・スペース・ナインより最優先度の通信を受信しました。ジュリアンからです。」 表情をこわばらせるキラ。 ウェイユンは怒っていた。「何という悲劇だ! 惑星連邦の兵士どもにカーデシアの土を踏まれた上に、ワームホールが消えてしまったというわけですか! これでガンマ宇宙域からの援軍の期待もなくなった!」 通信相手はデュカットだ。『こういう展開になることは最初から予測済みですよ。だが…まだ勝利は我々にあると確信しています。』 ウェイユン:「その楽観主義にはつき合い切れませんねえ。」 『そりゃ残念だ。ベイジョー人は彼らの神々から切り離されたんですよ? 恐らく永遠にねえ。』 ダマール:「それは我々に有利か。」 『シスコ大佐も預言者たちから切り離されたということだ。つまりシスコはもはや、ただの司令官に過ぎないんですよ?』 ウェイユン:「それが本当なら嬉しいが!」 『ほう…信じて下さい。本当です。』 帰還するディファイアント。 プロムナードのエアロックから、部下と共に出てきたシスコの周りに、ベイジョー人たちが集まる。「どうなってるんですか。」 「教えて下さい。」 あの少女が話しかけた。「選ばれし者。発光体が全部暗くなっちゃって、預言者が私たちを捨てたってほんと? お願い、神様を探して。戻ってくるよう頼んでちょうだい。」 かがんだシスコは、周りの子供たちも見る。「やってみよう。」 だがその表情は固いままだ。 オドーやクワークのいる医療室に、シスコたちも入った。 手術着のベシアが出てくる。「共生体のダックスは何とか救った。早くトリルに知らせなければ、できるだけ早く。…ジャッジアには、手の…施しようがない。」 シスコは奥へ進む。呆然とするキラ。 バイオベッドのダックスに、ウォーフが寄り添っている。 ダックス:「ウォーフ…ごめんなさい。」 ウォーフ:「…しゃべっちゃだめだ。」 顔の生気を失ったダックスは、ウォーフの顔に手を触れた。 悲痛な表情を浮かべるシスコ。 ダックス:「子供ができたら、さぞ可愛かったでしょうね。」 数度瞬きをしたダックスは、そのまま目を閉じた。 ウォーフは叫んだ、長く、強く。そしてクリンゴンの祈りを捧げる※31。 Hegh bat'lhqu Hoch nej maH. neH taH Kronos. yay je bat'lh manob Hegh. 貨物室。 魚雷容器の棺が置かれている。 シスコは話し始めた。「ジャッジア、君の葬式が間もなく執り行われることになっている。私の最後の話を聞いてくれ。…初めて会った時、君は言ってくれたね。ジャッジア・ダックスとの関係は、クルゾン・ダックスとの関係と、何ら変わりはないと。…そう簡単にはいかなかったが、私はどちらの君とも、とても楽しくつき合った。クルゾンは私の師だった。君は…親友だった。とても寂しいよ、ジャッジア。預言者の忠告通り、カーデシアに行くのを中止していたら、君は死なずに済んだかもしれない。許してくれ! なぜ死んでしまったんだ、ジャッジア。まだまだ君の力が必要だった。預言者に何かあったらしい。ベイジョーを見捨てさせるような事態になってしまったのは、私に責任がある。私はどうしたらいいのかわからない。どうすれば…元に戻るのか。…選ばれし者として失格だ。私は生まれて初めて宇宙艦隊士官として、職責を果たせなかった。考える時間が欲しい。頭を整理するために。でもここじゃ無理だ。ステーションではな。まだ無理だ。しばらくここを離れ……自分が何をなすべきかをじっくり考え、答えを見つけたい。もう一度この世を正しい道に戻さなければ。それが義務だ。」 司令官室から出たシスコは、荷物を持っている。見守る部下。 シスコ:「ステーションは君に任せる。」 うなずくキラ。「承知しました。」 ベシア:「大佐、どれぐらい留守にするおつもりなんですか。」 シスコ:「まだ決めてない。」 オドー:「お帰りをお待ちしてます。」 オブライエン:「お元気で。」 シスコは握手した。「ありがとう、チーフ。みんな見送りありがとう。…行こうか、ジェイク。」 二人はターボリフトに乗った。 シスコ:「着陸パッド『C』。」 見送ったキラとオドーは、司令官室に入る。 椅子に座るキラは、ため息をついた。「嫌な予感がする。大佐はもう戻らないかも。」 オドー:「なぜそう思うんです?」 「大事なボールを…持っていった。」 テーブルの上には、置き台だけが残されていた。 DS9 を発つランナバウト。 レストランの裏で、作業着姿のシスコは貝を磨いていた。 ジェイクが近づく。「父さん。おじいちゃんがそろそろ閉めたいって。早くお店に戻ってよ。」 シスコ:「もうちょっとだ。」 離れるジェイク。 シスコは作業に没頭する。 |
※28: U.S.S. ShirKahr 連邦宇宙艦、ミランダ級。NCC-31905。TAS第2話 "Yesteryear" 「タイム・トラベルの驚異」でスポックの出身地とされていた、ヴァルカン都市にちなんで ※29: U.S.S. Nautilus 連邦宇宙艦、ミランダ級。NCC-31910。初めての北極点に到達した潜水艦、およびジュール・ヴェルヌの「海底二万里」に登場したネモ船長の船にちなんで ※30: 「カーデシア領」の意味で、カーデシア・プライムということではありません。原語では「両方の惑星」 ※31: 意味は「クロノスだけが耐え抜く。我々の望みは名誉ある死のみ。クロノスだけが耐え抜く。死には勝利と名誉がある。」 この死の咆哮 (クリンゴン死の儀式、Klingon death ritual) は TNG第20話 "Heart of Glory" 「さまよえるクリンゴン戦士」などで見られました |
感想
まさに「怒濤」という言葉がふさわしい、シーズン・フィナーレでした。これまでの重要エピソード同様にサブレギュラーが続々と登場し、過去の話を含めた DS9 らしい展開です。CG による戦闘も更にレベルの上がったものを見せてくれます。前回は船同士の戦いでしたが、今回は惑星を守る無人設備という新機軸で、また違った雰囲気でしたね。もちろんロミュランのウォーバードが加わったのもポイント高いです。 そして原題で発光体の別名である「預言者の涙」にも表されているように、ジャッジアの死という悲劇が起こります。せっかく妊娠できると喜んでいたのに、パー・レイスに憑依されたデュカットに偶然殺されてしまうとは…。残り一シーズンくらいは何とかならなかったのかという気持ちもありますが、俳優の事情などは詳しく知りませんし知りたくもありません (でもテリー・ファレルは DS9 終了後の打ち上げパーティには参加していましたし、単なるトラブルなどによる決別でないことは明白ですね)。とはいえ共生生物というのはトリル人ならではですから、その設定を生かせるだけでも救いです。 ワームホールの消滅と、自ら司令官の職務を降りてしまうシスコ。ボールの描写が前シーズンと対照的なのが印象深いですね。本国では 3ヶ月半後に放送された次回が楽しみです。そうそう、またヴィックの歌は字幕がありませんでしたね。歌詞の内容も「敗者」に関するものだったのに…。 |