イントロダクション
上級士官室。 宙図の前で説明するシスコ。「ドミニオンがカランドラ・セクター※1での支配力を固めるため、供給ラインをベタゾイド域からアーゴリス星団※2まで拡大しようと目論んでいる。」 ウォーフ:「それが成功すれば、必ずやヴァルカンに攻撃を仕掛けてくるでしょう。」 「宇宙艦隊はテブラ星雲※3付近でそれを阻止する。朝には第7艦隊※4が一戦を交えるだろう。」 ダックスは席に座る。「でも戦力はまだ半分程度よ。サイボロン※5での被害が甚大で。」 シスコ:「艦隊が無事勝利することを祈ろう。それからもう一つ、ちょっといい知らせがある。」 ベシア:「それを早く言って下さいよ。」 「実はロミュランが、ベンザイト星系からドミニオンを追っ払ったそうだ。」 オドー:「それはいい知らせだ。ですが戦いが終わってロミュランが速やかに、ベンザール※6から退却してくれるかが問題ですね。一度手にした領土はなかなか手放さない連中ですから。」 「ドミニオンの攻撃に集中することが先決だ。ロミュランの心配は後でいい。」 納得するオドー。 シスコ:「既に承知している者もいると思うが、私とキラ少佐、ジェイクは 22時にベイジョーに発つ。」 ダックスはキラに言う。「こんな時に休みを取ってる場合じゃないと思うけど?」 キラ:「バハーラ※7を発掘中の考古学者が、選ばれし者に見せたい物を見つけたと。」 シスコ:「明日の夜には戻る。それでは解散。」 部屋を出て行くシスコたち。 オドーと残るキラ。「『ロミュランがベンザールを退却するか』なんて、あなたって最悪のシナリオを想定するのが好きなのね。」 オドー:「誰かが言いませんと。まあ自ら厳しい役割を演じている面もないとは言い切れませんがね、みんなの期待を裏切らないように。」 「ほんとはとっても優しいのに。」 「厳しいのも本当の私です。もちろんあなた以外のクルーに対してだけですよ。」 二人はお互いの顔を近づけ、額を合わせた。 惑星ベイジョー。 洞窟に入るベイジョー人※8。「選ばれし者のお越しを頂き、大変感謝しております。」 シスコ:「久しぶりだな、ランジェン※9。」 ランジェン:「そんな肩書きをつけなくても結構。今回の件は非公式です。」 「前回訪れた時は、洞窟の気配もなかった。相当がんばったようだなあ。」 「大変な作業でしたが、我々には喜びなんです。聖なる都の発掘は、ランジェンとしての特権だ。我々の努力は、預言者、そして選ばれし者に対する信仰の証ですから。」 「何ともワクワクするね。」 後を歩くキラは尋ねた。「どうかしたの? ジェイク。」 ジェイク:「いや。近頃父さんは、選ばれし者※10としての役割をやけに真面目にとらえてる。」 「何だか悪いことみたいね。」 「だって実際大変でしょ。こんなところまで古い遺跡を見に来るなんて。」 「その『古い遺跡』で、宗教上とても重要な鍵を握る物が見つかったかもしれないのよ。」 「だといいけど。でないと特ダネにならない。」 「ねえ、父親のためにせめて楽しんでる振りをして? ほんの数時間でも大佐の頭からドミニオンのことを忘れさせて。」 シスコたちを追う 2人。 コウモリ※11が飛ぶ中を通るランジェン。「こら、キーキー騒ぐでない!」 キラ:「滅多に噛みつかないから平気です。」 ジェイク:「ほんとかなあ。あっ!」 通路にライトが灯っている。 ランジェン:「ここは、バハーラ神殿の真下に当たります。壁の年代は古代都市よりかなり古いようで、1万年さかのぼります。」 大きな遺跡がある。 ジェイク:「誰がここを造ったの?」 「先住民についてはまだよくわからんが、2万5千年ほど前にこの地を捨て、移動したということがわかっております。その後、廃墟の上に土が堆積していった。」 「ってことはバハーラはその上に造られたと?」 「その通り、ここにね。」 更に奥へ進む 4人。 ライトをつけるランジェン。壁の中央部がくり抜かれ、丸い石版があった。 ランジェン:「この石版は、3万年以上前の物です。」 近づいたシスコ。「この文字は…古代ベイジョー語のようだが、解読は難しいなあ。」 ランジェン:「我々にもわかりません。ですが部分的には読み解くことに成功しました。文法は変化していますが、ベイジョー文字はそれぞれルーツとなる象形文字※12を共有しております。これはおわかりでしょうな。」 文字を指さす。 シスコ:「『ようこそ。』」 「この部分をよくご覧下さい。」 離れるランジェンの代わりに、石版に近づくキラ。 シスコはキラを見た。 ランジェン:「ご理解されたようですな。」 ジェイク:「…待ってよ、僕はさっぱり。」 キラ:「意味は…『選ばれし者に告ぐ。』」 ランジェン:「これで、お呼びしたわけがおわかりですな。」 シスコは石版に触れた。 心臓の鼓動。預言者だ。 預言者ランジェン:「シスコが来た。」 預言者キラ:「これで輪が完結する。」 預言者ジェイク:「いよいよ対決※13の時だ。」 シスコ:「対決?」 預言者キラ:「シスコの力が必要だ。」 預言者ランジェン:「彼は実体。」 預言者ジェイク:「限界がある。」 預言者キラ:「だがシスコだ。決しては揺らぎはしない。」 預言者ジェイク:「ベイジョーに属し…」 預言者キラ:「対決を導くのだ。」 シスコ:「私に何をしろと言うのだ。」 預言者ランジェン:「これは終わりであり…」 預言者ジェイク:「始まりである。」 シスコ:「どういう意味だ!」 預言者キラ:「今にわかる。」 シスコは吹き飛ばされた。数メートル飛び、岩盤に叩きつけられる。 すぐに駆け寄るジェイクたち。 シスコは意識を失っていた。 |
※1: Kalandra Sector ※2: Argolis Cluster 星の集団。DS9第128話 "Behind the Lines" 「レジスタンスの苦悩」など ※3: Tibor Nebula ※4: Seventh Fleet 連邦・宇宙艦隊の機動部隊。DS9第142話 "Inquisition" 「記憶なきスパイ」など ※5: Sybaron ※6: Benzar 惑星。TNG第19話 "Coming of Age" 「宇宙戦士への道」など ※7: B'Hala ベイジョーの古代都市。DS9第108話 "Rapture" 「預言者シスコ」より ※8: Koral (ジェイムズ・グリーン James Greene TNG第52話 "Who Watches the Watchers?" 「守護神伝説」のバロン博士 (Dr. Barron)、VOY第117話 "11:59" 「甦るジェインウェイ家の秘密」の通行人役。ドラマ "The Days and Nights of Molly Dodd" (1987〜91) に出演) 名前は言及されていません。声:中庸助 ※9: ranjen ※10: 「預言者」と誤訳 ※11: bat ※12: ideogram ※13: The Reckoning 原題 |
本編
まだ目を開かないシスコ。 ジェイク:「父さん。大丈夫?」 シスコは意識を取り戻した。キラたちが支えて立ち上がらせる。 シスコ:「預言者が…現れて、話しかけてきた。」 ランジェン:「あなたには見えたようだが、我々は何も見なかった。」 キラ:「何と言ってたの?」 シスコ:「対決がどうとか言ってた。思い当たる預言はあるか。」 ランジェン:「知る限りないが。」 ジェイク:「もう引き上げよう。」 シスコ:「いや、大丈夫だ。もう少し調べよう。あの文の意味するところを、是非突き止めたいんだよ。」 ランジェン:「もっと早く解読できるといいのですが、我々では力不足だ。」 「私に任せて欲しい。」 DS9。 ダックスが石版を調べている。「見た途端これが何なのか、私にはすぐにわかっちゃったわ。…見たとおりの物よ。文字が掘られてある石版でしょ?」 シスコ:「ダックス。」 「私に何を言わせたいの、ベンジャミン。エネルギーの残留は少しも感知できなかった。あなたの体を吹っ飛ばしたことを裏づけるような証拠は何もない。」 「君にこの文を解読してもらいたい。」 「そうじゃないかと思ってた。」 パッドを渡すシスコ。「ランジェンの解読プログラムだ。未完成だがヒントぐらいにはなるだろう。頼んだぞ。」 科学ラボを出て行く。 ダックスは石版の前に立ち、大きくため息をついた。 プロムナードで楽器を鳴らすベイジョー人。「間もなく礼拝が始まります。」 シスコがやってきた。寺院に入る人々を見る。 ベイジョー人:「大佐、礼拝が始まります。」 中へ向かうシスコ。だが通信が入る。 ウォーフ:『司令室より大佐。』 シスコ:「どうぞ。」 『たった今ベイジョーから通信が入りました。カイ・ウィンがこちらに向かっているそうです。』 顔を押さえるシスコ。ベイジョー人と目を合わせ、立ち去った。 DS9 にドッキングしたベイジョー船。 エアロックから降りてくるウィン※14を迎えるシスコ。「ディープ・スペース・ナインにようこそ、カイ・ウィン。」 ウィン:「ありがとう、選ばれし者。」 「どういうご用件でしょうか。」 「はっきりさせておきたいことがあります。あなたはヴェデク議会に無断で、遺跡で見つかった石版を持ち帰ったそうではありませんか。」 「議会を軽視したつもりは。」 「歴史的遺物について我々が過敏になっているのはご存じでしょ? カーデシアの統治時代、彼らは当然のようにベイジョーの歴史的財宝を略奪しました。あなたもそのような暴挙に出るとは思いもよりませんでしたよ。」 「もちろん調査が済み次第、石版はベイジョーにお返しする予定でいます。」 「大佐がベイジョーの歴史に詳しいとは初耳ですね。」 「全然。」 「ではなぜ石版を専門家の手にゆだねないのですか? ベイジョーには生涯をかけて遺跡の研究に取り組んでいる専門家が大勢います。」 「それはわかります。ですが預言者の要求だから、私は持ち帰ったんです。」 「なるほど。ではあなたが遺跡で見たという光景と関係があるわけですね。」 「そうです。」 「…お許しを。まさか遺物を持ち帰るよう、預言者に言われていたとは思い至らず。」 「はっきり…言われたわけではありませんがね。」 「そうですか。では正確に何と言われたのです。」 「ああ…それが説明しがたくて。預言者の意思は曖昧です。」 「わたくしは預言者と通じ合えませんので、…あなたの言葉を信じるしかありません。」 「私に言えるのは、今石版はここにあるべきだと。」 「…選ばれし者と言い争うなんて、わたくしもどうかしていました。」 ベイジョー人を連れ、歩いていくウィン。 ダックスに話すシスコ。「それが一転カイ・ウィンは、宇宙艦隊に正式な抗議を申し立ててきた。」 ダックス:「それでロス提督から呼ばれたのね。…で、どうなったの?」 「ベイジョーの問題に首を突っ込むなと言われた。さっさと石版を返せと。」 「宇宙艦隊の立場を考えれば当然でしょうね。あなたがベイジョーの宗教的象徴として崇められてることを、快く思っていないから。あなただってそう感じてきたんでしょう?」 「今は違う。もう何度も預言者の声を聞いているからねえ。」 「最初は彼らを『ワームホール異星人』と呼んでいたのに。」 「ワームホール異星人、預言者。呼び方ではない。ただ彼らが時を超え、世紀を超えて存在しているのは事実だ。預言者たちは私にベイジョーの未来を垣間見せ、ベイジョーの未来のための道しるべとして、私に石版を見せた。ここに書かれたことが…私の間違いを正し、適切な判断を下すための指標となるとしたら、それを無視するのは愚かだ。」 「確かにそうね。でもやっぱり私には彼らはワームホール異星人としか思えないわ。」 「だが確かに、彼らは深いつながりがある。ベイジョーとね。遥か何千年もの昔から、預言者たちはベイジョーの出来事を気にしてる。ワームホールから来たドミニオン艦隊を阻止したのが、その証拠だ。」 「あの事件が関係あるのかも。預言者は私たちを救う代わりに、苦行のようなものを課すとは言ってなかった?」 「そうか! 彼らは…我々の願いを聞き入れ、ベイジョーとアルファ宇宙域を救った。今そのお返しを私に求めているのか。それが何かまだわからない。私の使命がはっきりするまでは石版は返せないぞ。鍵だ、そんな気がする。」 コンピューター画面に反応がある。 ダックス:「予測は外れて欲しいものね。」 シスコ:「何かわかったか。」 「文の一部を解読できたようよ。雄弁さは失われてるかもしれないけど、でも…趣旨はつかめる。現代ベイジョー語に置き換えるわね。」 文字が 2つずつに分かれていく。 読み上げるシスコ。「『対決の時は近し。預言者らは嘆き悲しむ。対決の場となるのは……』」 ダックスはシスコを見た。 シスコ:「『神殿の…門である。』」 ダックス:「間違っていたら言って。…その門ってディープ・スペース・ナインのことじゃないの?」 |
※14: Winn (ルイーズ・フレッチャー Louise Fletcher) ベイジョー人の野心的な宗教的・政治的指導者。DS9第123話 "In the Cards" 「プレゼント大作戦」以来の登場。声優は第3〜5シーズンの片岡富枝さんから第1・2シーズンの沢田敏子さんに戻されています |
クワークの店。 ウォーフ:「私は解読された言葉を伝えただけで、信じてるとは言っていない。」 ベシア:「別に心配してないよ。ちょっと考えりゃ、ベイジョーの預言なんてどうとでも取れる。古代文は曖昧な矛盾に満ちてるのさ。」 オドー:「あれはちっとも曖昧ではない。それにベイジョーの預言は結構当たるらしいね。」 「まさか本気で信じてるのか?」 グラスを運んできたクワーク。「オドーは最悪の事態に備えているのさ。」 オドー:「その通り。」 「ベイジョー人みたいな奴だ。…こんなに活気がないのはドミニオン占領以来だ。…でな、不景気を吹っ飛ばすために策を講じるのが、市民としての俺の義務。だからサービスタイムを延長する。」 ベシア:「延長?」 「今から、ずっとサービスタイムにする。せめて活気が戻るまではな。食って飲んで騒いでくれ。」 「いつ死んでもいいように!」 オドー:「それで、肝心の大佐はどう言ってるんだね?」 ウォーフ:「コンピューターの解読が完了するまでは、判断を控えている。」 ベシア:「もしかして、『クワークの店に行け』って書いてあるかも。『サービスタイム』って。」 クワーク:「ドクター、いいねえそれ。」 帰っていく。 「心配するな、何も起きないよ。今日のことを笑い飛ばす日がくるさ。」 突然、ステーション全体が揺れた。騒ぐプロムナードの人々。 オドー:「何事だ!」 席を立ち、窓の外を見る 3人。ワームホールが開いている。 戻ってきたクワークも、他の者と一緒に注目する。 また軽い揺れが起こった後、ワームホールは閉じた。 ベシア:「早く解読してくれよ。」 プロムナードにいるキラ。「オドー、もうよしてちょうだい。」 オドー:「何のことですか?」 キラはレプリマットで食事をしている。「だから、そんなに見ないで。」 オドー:「いいでしょう? 見てるのが楽しいんです。美味しそうに食べてる姿をね。いつもそうです。」 「今日はダメ。」 うなずくオドー。 キラ:「対決というのがどういう意味かわかれば、預言者に求められているものもわかるのに。」 オドー:「…私は…こう思うんです。預言者がベイジョー人たちに進んで欲しい道があるんなら、もっと具体的な指示を出すべきじゃないかと。」 「そんなうまくいかないわ。」 「そうあるべきです。」 「カイ・ウィンに不信心だって言われるわよ。」 「あなたもそう思ってますか?」 「…信仰なしでどう過ごせばいいのか、不安なだけ。」 「大丈夫です。私には信じているものがあります。」 「ふーん? 例えばあ?」 「あなた。」 「……期待を裏切らないようにしなきゃ。」 ウィンはシスコに尋ねた。「ベイジョーの最新ニュースはお聞き及びでしょうね。」 シスコ:「ラカンサ州※15の洪水でしたら、聞いています。」 「…更に夕べは、ケンドラ渓谷※16で大地震が起きたのですよ。そして今朝はタムルナ※17が竜巻に襲われました。」 「センサーによると、ベイジョーは不安定なワームホールの影響を受けているようです。」 「まあ、そうですか。それでは、ワームホールを不安定にさせている原因は何かご存じでしょうか?」 「…いえ。」 「では教えて差し上げましょう。あなたがベイジョーから石版を持ち帰ったので、預言者がお怒りなのです。ベイジョー人の宗教的指導者として、我々にあの石版をお返し願います。」 「預言者に選ばれし者として、もう少し調べる時間を頂きたいのです。これも預言者の意思です。」 「賛成できかねます。わたくしに石版を返還するようにという、首相からの正式要請を持参いたしました。」 パッドを確認するシスコ。「これはうまく説得されましたね。シャカールと意見が一致したのは初めてじゃないですか?」 ウィン:「この要請を断れば面倒なことになりますよ? 惑星連邦と、ベイジョーの関係が悪化するでしょう。」 立ち上がるシスコ。「……わかりました。…明日にも石版はベイジョーに戻しましょう。」 パッドをテーブルに置く。 ウィンはうなずいた。「頼みますよ。」 司令官室を出て行く。 科学ラボのダックス。「せっかく面白くなってきたところだったのに、返しちゃうの?」 シスコ:「調査は続けてもらうさ、おやじさん。どうしても全文の意味が知りたい。」 「昨日ホロ記録に保存したから、調査は続けられるわ。」 「何か進展はあったか。」 うなずくダックス。 シスコ:「いい内容かな?」 ダックス:「解釈による。」 「解釈?」 「象形文字の意味の取り方よ。コンピューターで調べたら 2つの意味があった。」 「どんな?」 「…対決の間、ベイジョーに『恐ろしいことが起きる』。もしくは、『果物を食べる』。」 「…『果物を食べる』?」 「…文章全体の調子から考えると…恐ろしいことの方が当たってるでしょうね?」 「ほかにわかったことは。」 「これは気に入るわ。あなたのことだから。『ひとたび対決が始まると、選ばれし者は…』」 石版の文字を指さすダックス。 「それから。」 「あなたならわかると思ったのに。損傷がひどくしてここまでしか読めないの。」 「ああ…がっかりだなあ。」 またステーションが揺れた。 ダックス:「ああ、ワームホールは早く収まって欲しいものね。」 シスコ:「そうだな。がんばってくれ、おやじさん。」 「一つお願いがあるの。今度預言者と話す機会があったら、辞書はないか聞いてくれない? …お願い。」 「できるだけのことはしよう。」 「ありがとう。」 司令室で報告するキラ。「大佐、マートク将軍から連絡が入りました。」 シスコ:「どうした。」 「ドラリ星系※18周辺での防御を固めるため、巡洋艦を 3隻派遣したそうです。」 「よし、宇宙艦隊が援護を送るまで、もちこたえてくれることを祈ろう。」 「クリンゴンなら安心です、マートク将軍に任せましょう。」 目を押さえ、ため息をつくシスコ。 キラ:「お疲れ?」 シスコ:「日増しにひどくなる。」 「明日には良くなりますよ。カイ・ウィンがステーションから引き上げれば。」 笑うシスコ。「…彼女はベイジョー人たちの宗教的指導者かもしれんが、気楽に好きになれる女性じゃない。」 キラ:「でもご安心を。大佐もきっと好かれてないわ。」 「最近それが身にしみたよ。ステーションに石版を持ち帰る前に、カイ・ウィンに相談するべきだった。」 「相談したら反対された。」 「ああ、だから無断で持ってきたのさ。」 「でも彼女も気の毒よね。カイ・ウィンは預言者に尽くすことに、人生の全てを捧げ、何年もの自己犠牲と献身によって、やっとその努力が報われ、カイに選ばれた。人生最高の瞬間だったはずよ。」 「……だが私が選ばれし者とわかり、それが台無しになった。」 「ええ、宗教的指導者としての役割をあなたと共有しなければならなくなった。…更にショックだったのは、あなたはよそ者でベイジョー人じゃなかったら耐え難かったでしょうね。」 「それで今回のことにもこだわっているのだろうか。」 「大佐に嫉妬してるのよ。預言者と大佐の関係に対してね。私もちょっとうらやましいもの。」 シスコは笑う。「なぜだ。」 キラ:「だって、預言者と通じ合うことができるのよ。それって…すごい能力よ。」 「こっちから頼んだわけではない。」 「だから私は大佐を憎めない。でもウィンは違う。」 「…覚えておこう。」 また開閉を繰り返すワームホール。 窓からワームホールを見つめていたウィンに、キラが近づく。「どうかなさいましたか?」 ウィン:「…なぜそんなことを聞くのです?」 「お悩みのようで。」 「とんでもない。選ばれし者が正しい決断をされて安心しているところですよ。」 「有無を言わせなかったとか。」 「わたくしがわざと大佐に無理を強いていると思っているようですが…断じてそんなことはありません。わたくしだってできればもっと友好的な解決を願っていたのです。でも次は、意見が合うかどうか、大佐はわたくしの意見をもっと吟味するでしょうからね。」 「もう今から次の対立をお考えですか?」 「…ベイジョーのために今後も大佐との協力は不可欠だということを強調しているだけですよ。」 「そうですね。結局あなたの立場はいつだって変わらない。」 「当然です。我々は預言者に仕えています。全ては預言者のためです。」 シスコの部屋。 ワームホールが閉じ、また揺れが起こる。 ドアチャイムが鳴った。 シスコ:「どうぞ。」 ジェイクだ。 シスコ:「ジェイク。」 無言でシスコに近づいたジェイク。「起きてたの?」 シスコ:「ああ、お前だって。どうしたんだ。」 「…別に。無事かどうか、顔が見たくなって。」 「…元気だよ? いつから心配性になったんだ?」 「…わかんない。選ばれし者のことが、何だか怖くて。」 ジェイクの隣に座るシスコ。ジェイクの頭にキスする。 ジェイク:「2度目だよ。1年に 2度もだ。ドクター・ベシアに呼び出されて、父さんが大変だって聞かされるのさ。医療室に駆けつけると、父さんはバイオベッドで意識を失ってて、何かを見たって。ぼ…僕はただ見守ってるだけ。怖かった。もう目を覚まさないかもって。」 シスコ:「…心配かけてしまったな、ジェイク。」 「こんな思い、二度とごめんだよ。」 「……ジェイク、私は望んで選ばれし者になったわけじゃないが…どのような運命になろうと、これが私なんだ。…父親になったのは私の意思だが?」 ジェイクを叩くシスコ。ジェイクは笑い、シスコに抱きついた。 シスコの寝室。 なかなか寝付けないシスコ。 ため息をつき、体を起こした。 科学ラボに入るシスコ。 石版に近づく。「預言者よ、何だっていつも…そんなに謎めいている必要があるんですか。…答えて下さい。もう謎解きはうんざりだ! 私になすべき使命があるなら、教えてくれ!」 石版を持ち上げるシスコ。そのまま壁に投げつけ、壊してしまった。 その時、音を発しながら、床に落ちた破片から赤と青の 2つの光が出てきた。 その気体状のものはシスコの目の前を上昇し、天井に消えていった。 |
※15: Rakantha Province ベイジョーの農業地帯。DS9第70話 "Shakaar" 「シャカールの乱」など ※16: Kendra Valley DS9第44話 "The Collaborator" 「密告者」でケンドラ渓谷 (谷) の虐殺 (Kendra Valley massacre) が言及 ※17: Tamulna ※18: Dorala system |
破片を拾うダックス。「何も言わないで。偶然、落としちゃったんでしょ?」 シスコ:「…そういうわけじゃない。」 「どうかしら。」 オドー:「本当は、何があったんですか?」 シスコ:「…突然、石版を壊したいという抑えがたい衝動に…襲われたんだよ。」 トリコーダーで調べ終えたダックス。「私なんてそんなのしょっちゅうよ。実際行動することはないけどね。…この部屋で、エネルギーの痕跡は全く感知できなかったわ。」 シスコ:「そんなはずはない! ステーション内のセンサーはどうなってる。」 コンピューターを確認するオドー。「反応なし。」 シスコ:「本当にこの目で見たんだよ!」 「信じますとも、大佐。」 「頼むよ、オドー。同情はよしてくれ!」 ステーションが大きく揺れる。 シスコ:「司令室、どうしたんだ。」 司令室にいるウォーフ。「ステーション全域に渡るパワーの流出を探知。現在発信源を特定中です。」 命じるシスコ。「わかり次第知らせろ。」 ウォーフ:『了解。』 オドー:「もしかすると…パワーの流出が大佐の見たエネルギー放電と関係あるかもしれません。」 ダックス:「私も同じことを考えていたの。…ベンジャミン? 今は衝動は感じないんでしょ?」 シスコ:「ああ。……私は使命を果たした。…妙な言い方に聞こえるだろうが、預言者は石版が破壊されることを望んでいたんだ。」 ダックス:「カイ・ウィンがわかってくれるかしら。」 怒るウィン。「信じられません。石版を破壊してしまうほど、了見の狭い方だったとは思いも寄りませんでした。」 シスコ:「そんなつもりではありません。」 「…ベイジョーの歴史にとって貴重な遺物を壊すことが預言者の望みだなどと、本気で信じろとおっしゃるのですか!」 「信じて頂かなくてはなりません。」 「何のためにそんなことをすると…」 「わかっていたらお答えしますよ。」 「今すぐご説明いただきたいものですね。」 「……これまでも、意見の食い違いはありましたが、根本的には一致していました。預言者たちがベイジョーの未来を導いてくれるものと信じている。時には、我々に示される道しるべが曖昧なこともあります。…今の私には、彼らの望みが何なのかわかりません。ですが不確かでも思い切って彼らを信じてみたいんです。あなたにも同じように信じてもらいたい。」 「いいえ、わたくしに強引な信仰など必要ありません。預言者の心ははっきりしています。ケンドラ州に甚大なる被害をもたらした大地震の影響で、ラカンサ小麦※19の 3分の2 が収穫不能となり、大勢の難民が出ました。あなたのせいでベイジョー人は苦しんでいます。預言者を冒涜した代償を、民衆が払わされているんです。」 またパワーの変動が起こった。通信が入る。 オドー:『オドーよりシスコ大佐。』 シスコ:「どうした。」 『今すぐプロムナードにお越し下さい。』 「何があったんだ。」 『ご自分でご判断を。』 シスコはウィンと顔を見合わせた。 キラが寺院の入り口に立ち、両手を広げている。壁から手に向かってエネルギーが注がれる。 逃げ出す人々。オドーは離れてキラを見守っている。 シスコとウィンたちが到着した。 オドー:「パワーの揺らぎの元がわかったようです。私が話しかけても、反応がありません。」 目の色を青く変えたキラは、寺院からこちらへ向かってきた。 キラの周りには風が起こる。強大なパワーで、クワークの店のグラス類が弾け飛んでいく。 驚くモーンたち、店の客。コンピューターにも影響が出る。 立ち止まったキラの声は、大きく響き渡った。「お前が、シスコだな?」 駆けつけた保安部員に命じるシスコ。「下がってろ、手を出すな。…彼女は預言者だ。…なぜキラの体に乗り移ったんですか。」 預言者/キラは言った。「キラは喜んでいる。対決。その時だ。」 |
※19: wheat さっき「ラカンサ」と訳していたのに、「レカンサ」になってます |
シスコは尋ねた。「対決とは、一体なんですか。」 預言者/キラ:「終わりであり、始まりである。」 「私にはわかりません。」 「…コスト・アモージャン※20を待っている。」 ウィンが口を開いた。「邪悪な者※21です。…天空の神殿から追放された、パー・レイス※22です。」 シスコ:「パー・レイスも肉体の形で現れるということなんですか?」 預言者/キラ:「戦いが始まるだろう。」 「戦い? ここで戦うというのか!」 「ベイジョーは生まれ変わるのだ。」 ウィン:「シャプレンの第五の預言※23。復活です。邪悪な者が滅ぼされれば、千年の平和をもたらすという。ベイジョーの…黄金時代※24です。」 シスコ:「滅ぼされなかったらどうなる。」 何も言わない預言者/キラ。 ウィン:「どちらが勝つかはわかりません。」 シスコ:「私にどうしろと言うのだ。何らかの方法で、私が手を貸すべきか。」 預言者/キラ:「お前の、使命は…果たされた。」 預言者/キラに近づくウィン。「…私の無知をお許し下さい。」 応えずに歩いていく預言者/キラ。 ウィン:「預言者、お待ちを。わたくしはベイジョーのカイ・ウィン。この卑しい身を、御身に捧げる者です。」ひざまずく。 預言者/キラ:「彼らの出現を待つ。」 風が収まった。 ウィン:「わたくしにご指示を。なすべきことをお示し下さい。」 全く動かなくなった預言者/キラ。 司令室。 シスコ:「撤退しかない。」 ベシア:「本気ですか、大佐。」 「この戦いでステーションは破壊される。」 ダックス:「ここを戦場にしなきゃいい。」 「…ほかに方法はないのだ。」 「いいえ、あるわ。プロムナード中にクロニトン※25放射能を満たせばいい。」 ウィン:「預言者を犠牲にするというのですか?」 シスコ:「そうはさせん。」 ベシア:「大丈夫。クロニトンレベルをゆっくりと…上げれば、ワームホール異星人はキラを傷つけずに彼女から離れていく。」 ダックス:「作業はいつでも取りかかれます。命令を。」 シスコの言葉に注目するベシアたち。 シスコ:「だめだ。」 ダックス:「ベンジャミン。」 ウォーフ:「…ここは惑星連邦の防衛上、不可欠な拠点です。破壊の危険にはさらせません。」 シスコ:「ドミニオン艦隊がワームホールから襲来した時…私は預言者に助けを求め、私たちは救われた。今度はこちらが力を貸す番だ。彼らは今ここで戦う必要があるのだ。クルーを危険にさらすつもりはないが…だが私に預言者の邪魔をすることはできない。」 ベシア:「預言者が負けたら。キラを犠牲にするおつもりですか?」 「彼女は器としての役割を喜んでいると。」 ウォーフ:「それを信じるんですか。」 オドーが答えた。「信じます。……キラにとって信仰がどれほど大切なものか。彼女なら喜んで自分の肉体を預言者に差し出すことでしょう、道具としてね。」 シスコ:「……早速ステーションからの撤退を宇宙艦隊に知らせよう。君たちは直ちに退去を始めろ。」 作業に取りかかるウォーフたち。 DS9 の周りに宇宙艦隊の船が集まり、離れていくベイジョー船もある。 エアロックに駆け込む人々。 指示するオドー。「さあ、急いで。急げ!」 ウォーフがやってきた。「ここは一杯か。」 オドー:「空きはある。遅れた者がいないか、チェックしてこよう。」 呼び止めるウォーフ。「オドー。こんな事態にならないよう、大佐を説得すべきだった。」 オドー:「キラの想いを尊重したかった。」 「…ダックスに対して、君のように対処できたかな。」 「そういう事態にならずによかったですね。」 「…君のために、預言者が勝つことを祈っているよ。」 「きっと勝つさ。キラが命を賭けてるんですから。」 オドーは去った。 住人を誘導するウォーフ。「さあ。」 シスコは司令官室を出た。「状況は。」 ダックス:「1時間以内にメインクルーだけになります。」 「よろしい!」 「艦隊のお偉方は何と。」 「預言者たちに逆らうことはできないと、何とか説得したよ。」 ウォーフ:「ワームホールから襲来するドミニオンを阻止できるのは、彼らだけですから。」 ダックス:「預言者たちが戦いに勝つ保証はないというところが問題ね。」 オドーの通信。『オドーよりシスコ大佐。』 シスコ:「どうぞ、保安チーフ。」 『ベイジョー人の祈祷集団が、プロムナードからの退去を拒んでいます。』 向かうシスコ。 目を閉じ、動きを止めたままの預言者/キラ。 ウィンのベイジョー語での祈りが続いている。 ひざまずき、復唱するベイジョー人たち。 オドーに近づくシスコ。 オドー:「間もなく最後の船が出ます。」 シスコは祈祷中のウィンに話しかけた。「カイ・ウィン。」 ウィン:「……選ばれし者。」 「全員退去を。」 「…預言者の勝利を願って祈りを捧げているのです。」 「あなた方がどこにいようと、祈りは預言者に届きます。ここは危険だ。」 「…でもあなたは残っておいでではないですか。あなたの使命は終わったと預言者は言われました。」 「私はこのステーションの司令官、最期までここを守る責任があります。さあ、あなたが黙ってるなら私が彼らに退去命令を出しますよ。」 ウィンは仕方なく、ベイジョー人たちに言った。「皆さん、我々の祈りは預言者に届きました。お行きなさい。」 立ち上がる人々。 シスコ:「輸送船に案内を。」 連れて行くオドー。「さあ、こちらへ。」 ウィン:「おめでとう、選ばれし者。あなたのおかげで預言者の勝利も近い。」 シスコ:「だといいのですが。」 「信仰はどこへいったのです。まさか邪悪な者が勝利するとは思っていないでしょうね? …ベイジョーの黄金時代はそこまできていますから、ご安心下さい。預言者とベイジョー人は一体になるのです。素晴らしい! 指導者はもういらなくなるのですよ? カイも…選ばれし者さえね。」 パワー変動が起こる。 いつの間にか目を開けた預言者/キラが言った。「コスト・アモージャンが器を選んだようだ。」 見上げる預言者/キラ。 シスコたちも 2階を見る。 そこに立っていたのは、ジェイクだった。エネルギーを吸い取る。 赤い目をしたパー・レイス/ジェイクは言った。「始めよう。」 |
※20: Kosst Amojan ※21: Evil One ※22: Pah-wraith ベイジョー・ワームホールに住んでいたエネルギー生命体で、ベイジョーの預言者の宿敵。DS9第103話 "The Assignment" 「ケイコのために」より。そのエピソードでは「パー (ル) の亡霊」と訳されていました ※23: Shabren's Fifth Prophecy ※24: Golden Age of Bajor ※25: chroniton 素粒子。VOY第77・78話 "Year of Hell, Part I and II" 「時空侵略戦争(前)(後)」など |
1階で仁王立ちになるパー・レイス/ジェイク。預言者/キラと対峙する。 シスコは叫んだ。「息子から出てけ! 代わりに私の体を!」 パー・レイス/ジェイク:「選ばれし者が体を差し出すのか。お前の信仰は揺らいでいる。」 パー・レイス/ジェイクが片手を挙げると、見えない力でシスコは吹き飛ばされた。床に転がる。 手を下ろすパー・レイス/ジェイク。 ウィンがシスコに近づく。 大きな音が聞こえてきた。ジェイクの体に赤い光が走る。 そしてキラの体には、青い光。 体を起こすシスコ。 対決が始まった。双方の体から青と赤のエネルギーが発せられ、中央で激突する。 エネルギーの衝突により、周りに影響が出る。 恐ろしい形相を浮かべる預言者/キラ。 火花が飛ぶ。 鼻血を出す預言者/キラ。二人とも苦しんでいる。 ウィン:「選ばれし者、行きましょう!」 ダックスがターボリフトから降りる。「ベンジャミン、ウォーフが司令室で待機中よ。指令一つでクロニトン発生機が作動する。早く事態を止めて。」 シスコ:「いや、片をつけなきゃならん!」 「あなたの息子なのよ!」 「そんなことはわかってるさ! きっと預言者が守ってくれる。」 「ジェイクが殺されてもいいの?」 「いや、彼らの狙いはパー・レイスなんだ。ジェイクに危害を加えるようなことは絶対にしないはずだ!」 「なぜわかるの。」 「わかるんだ。」 預言者/キラとパー・レイス/ジェイクの間のエネルギー塊が膨らんでいく。 ダックス:「早く撤退しましょう。センサーによると、二人の間のエネルギーが増大して爆発寸前の状態よ!」 シスコ:「ジェイクを置き去りにしては行けない!」 苦しむパー・レイス/ジェイク。 ウィン:「早く行きましょう。」 ダックス:「ベンジャミン!」 シスコ:「出て行け! 君たちはさっさとステーションから退去しろ!」 ウィン:「危険です、急ぎましょう。」 ダックスを連れて行った。 対決は続く。 ウィンと共に廊下を歩くダックス。「ダックスよりウォーフ。」 爆発は司令室でも続く。 ウォーフ:「どうぞ。」 揺れるステーション。 ダックス:「第8エアロックに集合、撤退します。」 ダックスたちがターボリフトを降りると、幼い子供を連れた家族が廊下にいた。壁面にはエネルギーが走る。 ダックスはウィンに言う。「行ってて下さい、右の奥へ進んで。」 住人に指示している男。「こちらへ! 急いで! 急いで下さい、さあ早く!」 だがウィンは左へ曲がった。 その後で、子供を抱えたダックスが右へ進む。「大丈夫、大丈夫よ。もう安心だから。」 エネルギーを発する DS9。3隻のランナバウトが離れていく。 預言者/キラとパー・レイス/ジェイクの間のエネルギー塊は大きくなっている。 ジェイクの血管が更に浮き出ている。 見守るシスコ。 預言者の青いエネルギー光が優勢だ。 だがパー・レイス/ジェイクは周りを見渡し始めた。様子が変だ。 預言者/キラも同様だった。叫ぶ。「やめろー!」 司令室でコンソールを操作する者がいる。 コンピューター:『クロニトンレベル 37%、更に上昇中。』 それは、カイ・ウィンだった。「…預言者よ、我を許したまえ。」 クロニトンに満たされたプロムナードでは、二人のエネルギーが小さくなっていく。 ジェイクの体から離れるパー・レイス。 息をつく預言者/キラ。やはり同じように預言者が離れ、キラは倒れた。 シスコはジェイクに駆け寄る。 体を起こすキラ。 シスコ:「ジェイク…。」 やっとで目を開けたジェイクを、シスコは抱きしめた。 DS9 にドッキングするベイジョー船。 『司令官日誌、補足。ステーションには徐々に人が戻り、修理も順調に進んでいる。キラ少佐はすっかり回復したが、我が息子ジェイクは、まだ医療室で療養中である。』 寝ているジェイクを診察したベシア。 シスコ:「息子は。」 ベシア:「あと 2、3日は安静が必要ですが、心配ありませんよ。」 「会ってもいいかな。」 「ええ、どうぞ。」 出て行くベシア。 バイオベッドに近づくシスコ。「ジェイク。」 シスコに顔を触れられ、ジェイクは目を開けて笑った。「父さん。」 シスコ:「気分はどうだ?」 「…最低だよ。」 「…すぐに回復するそうだよ。……今回のことは、言葉もない。」 「僕に会えて嬉しいでしょ。」 「…もちろんだ。…お前に…何が起きたのか説明したいが、うまく話せるかどうか。」 目を押さえるシスコ。 「説明なんかいらないよ。パー・レイスが僕の中に入ってきた時、強い憎しみを感じた。強い意思だった。預言者の勝利を許さないと。その時はっきりわかったんだ。たとえ僕が死ぬことになろうと…父さんは正しかった。」 シスコの手を握るジェイク。二人は抱き合った。 寺院から出てくるキラ。 オドーが待っていた。「礼拝はどうでした。」 キラ:「正直言ってずっと上の空だったの。一連の出来事にどういう意味があったのかって、ステーションには大勢の人間がいるのに、預言者は私を選んだ。私はわからない。なぜその名誉に値するのか。」 「あなたの深い信仰心と謙虚な心のせいです。」 「ありがとう。預言者のためなら私が喜んで身を捧げると、大佐に言ったそうね。私の信念を尊重してくれて、感謝してるの。」 「ですが…預言者がほかの人間を選んだら、気にもしなかったでしょう。」 微笑むキラ。「もう行かなきゃ。カイ・ウィンをシャトルに見送ったら、保安部に寄るわね。」 オドーの頬にキスし、歩いていく。 廊下でウィンは尋ねた。「選ばれし者の見送りはないのですか?」 キラ:「息子のところです。」 「わたくしにお礼を言いたかったでしょうに。」 「お礼?」 「…ステーションの破壊を阻止したお礼ですよ。わたくしは選ばれし者と、彼の息子の命を救いました。」 「大佐のためにしたとおっしゃるんですか?」 「…ベイジョーのためにやったんです。聞いているでしょう? 洪水はすっかり引き、地震は収まりました。」 「ご自分の手柄だとおっしゃりたいんですか。」 「…正しいことをした証だと受け止めています。」 「あなたは預言者の意思に反抗しました。それは…人間の異教徒があなたより強い信仰心をもっているということに、耐えられなかったからじゃありませんか? 自分の子を犠牲にしてまで、預言者に忠実であろうとした。」 「わたくしの信仰心は、もっと純粋なものです。」 「あなたは信仰心と野心を、混同しています。」 「混同なんかしていませんよ。あなたこそ、預言者に道具として使われただけなのに、彼らを代弁するなどおこがましい。」 「あなたが邪魔をしたせいで、対決は中断しました。邪悪な者は生き残った。それがいずれベイジョーにどんな影響を及ぼすのか、預言者でさえお気づきか。」 ウィンは何も答えず、エアロックに入っていった。 |
感想
ドミニオンの題材と同様、DS9 ストーリーの大きな根幹をなす預言者に関する内容でした。以前のバハーラとパー・レイス (亡霊) の内容を引き継ぎ、さらにウィンのキャラクターを描きつつ、「対決 (原語では「最後の審判の日」という意味もあります)」というクライマックスにもってきて、最後には生き残ったコスト・アモージャンという要素を残す…見事ですね。ウィンがあのような行動に出るとは意外でしたが、キラのセリフにもあったように、預言者に全くもって相手にされなかったことが関係しているんでしょう。 封じられていた超生命体が、人間に乗り移って対決する…というのは日本の特撮なんかでもありがちですが、それはそれで良かったと思います。オドーとキラ、シスコとジェイクの関係を描いておいて、それを後でしっかり生かしてくるのが DS9 らしいですね。 |
第144話 "His Way" 「心をつなぐホログラム」 | 第146話 "Valiant" 「過信」 |