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ディープスペースナイン エピソードガイド
第131話「花嫁の試練」
You Are Cordially Invited

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・イントロダクション
DS9 の周りには惑星連邦やクリンゴン帝国の宇宙艦がおり、ベイジョー船の往来もある。
『大佐※1私的記録、宇宙暦 51247.5。ディープ・スペース・ナインに戻って 1週間、祝賀ムードはまだ収まらない。戦争は続いており、ディープ・スペース・ナインは第9艦隊司令本部となった。ワームホールの戦略上の意味を考えれば、ディープ・スペース・ナインはアルファ宇宙域全体で最も狙われやすい場所だ。だが今は、戦争は遠く思われる。』
プロムナードの天井から、連邦、クリンゴン、ベイジョーの旗が吊るされる。賑わっている様子を、2階からシスコが見ていた。ターボリフトに乗る。

司令室にやって来たシスコ。部下に声をかける。「おはよう。」
「大佐。」
「おはよう。」 中央にいるキラに言うシスコ。「おはよう、少佐。」
「おはようございます。」
「君の『おはよう』がどれほど聞きたかったか。」
「『おはようございます、デュカット』がどんなに嫌だったか。」
「無理もないな。今日の予定は?」
パッドを渡すキラ。「えっと、U.S.S.ポチョムキン※2の修理が完了しました。今日中に艦隊に復帰します。エクセター※3、サザーランド※4、それにアカギ※5は物資補給の任務を終えて、宇宙艦隊本部から山のような指令を受け取ってきてます。どれも極秘文書扱いです。」
「ほかには。」
「マートク将軍がオフィスでお待ちです。」
「ああ、彼から片付けよう。」
「だと思いました。」
「……もう言ったかな? うちが一番だ。」
微笑むキラ。「うかがいました。」
シスコは納得し、司令官室に向かった。

中に入るシスコ。マートク※6が尋ねた。「この件は知っていたんですな?」
「ああ、まあ知っていたかな。」
立ちあがるマートク。「それなのにやめさせようとはしなかった。」
「ああ。それに実を言うと私が君を推薦したんだ。素晴らしい、おめでとうと言わせてくれ。第9艦隊の新しい、最高司令官にな。」
「最高司令官ともなれば、面倒なペーパーワークをどれほどやらされるか知ってますか?」 握手する。
「がんばってくれ。」
うなるマートク。
「この基地でどこか、オフィスを手配しようか?」
「いや結構だ。ロタランにいた方が落ち着く。窮屈だが、戦争をしてるって気分にはなれるからな。その前に、引き続きウォーフを主任情報将校として使えますか?」
「それは全く問題ないと思う。あれほど疲れを知らない将校は彼だけだからな。」
笑うマートク。「忙しくしていれば、結婚式のことを気に病むこともないだろうしなあ。…ロタランでの任務中でも時々、あいつを怒鳴りつけたくなった。息子が来るまでは口を開けば式の話。今は息子の話ばかりだがな。全く一本気と言うか、困った奴だ。」
マートクが触ろうとした野球ボールを手にするシスコ。「アレキサンダーにはまだ会っていない。どうなんだ。」
「いい若者だ。ひたむきで、熱心で、親父のいいとこを受け継いでる。だがまあ、一流の戦士とは言い難いがな。」

クワークの店で話しているアレキサンダー※7。「システムを再起動しろって命令受けた時、油圧システムのことを言ってると思ったんだ。それで…」
ダックス:「バルブを開けてるのにポンプをオンにしたんじゃないでしょうね。」
ウォーフ:「したんだ。」
アレキサンダー:「デッキ中に油圧システムの超高温液が溢れて…掃除するのに丸 3日もかかったよ。未だに焦げたイヌの毛みたいな臭いが取れない。」
ダックス:「ディファイアントには近づけないようにしなくちゃ、危ないから。」
「だけどロタランのクルーは俺のこと、そばにおきたがってるよ。自分よりドジな奴がいるっていうんで、安心するみたいでね。ヤヴァング※8のクルーもそう思ってくれないかなあ。」
ウォーフ:「ヤヴァング?」
「配置転換の知らせがきた。巡洋艦のヤヴァングが、こないだの戦闘でかなりクルーを失って、ロタランのクルーほとんどが今週末には異動になるんだ。俺も含めて。」
無言になるウォーフとダックス。
アレキサンダー:「ブラッドワインは?」
ダックス:「お代わり。」 ジョッキを渡す。
ウォーフ:「いや、私はいい。」
アレキサンダーは席を離れた。代わりにクワークが座る。「美少年だねえ。母親の方に似たんだろうな。」
ウォーフ:「何か用か?」
「こないだ言った件だが、考えてみてくれたかい?」
「結婚式ならこのバーではしない。戦争の後クリンゴン母星で伝統にのっとってやるんだ。」
ダックス:「ウォーフ、ここでやりましょう。今週アレキサンダーが異動になる前に。」
クワーク:「決まりだ! 段取りは任せてくれ…」
ウォーフ:「待て。もう話し合ったはずだ。」
ダックス:「ええ、そうよ。でもアレキサンダーが式に出られないなんてよくない。せっかく再開できたっていうのに。行ってしまったら、今度彼に会えるのはいつになるかわからないじゃない。」
ため息をつくウォーフ。
アレキサンダーが戻ってきた。二人の様子に気づく。「どうかした?」
ウォーフ:「…結婚式の予定が変わったんだ。私たちはディープ・スペース・ナインで式を挙げる。お前に…ターウィヤン※9を務めてもらいたい。」
何のことかわからないアレキサンダー。
ダックス:「剣を持つ役。まあ花婿の介添え役ね。」
アレキサンダー:「俺が? ほんとに? 任せてよ!」 手を挙げた瞬間、後ろを歩いていたウェイターのトレイに当たった。奥にいた客のところにぶちまかれる。
クワークは言った。「あんたにつけとくからな。」


※1: 吹き替えでは「艦長」

※2: U.S.S.ポチョムキン U.S.S. Potemkin
連邦宇宙艦。エクセルシオ級、NCC-18253。ウィリアム・ライカーが昔乗っていた船。TNG第47話 "Peak Performance" 「限りなき戦い」など

※3: U.S.S.エクセター U.S.S. Exeter
連邦宇宙艦。アンバサダー級、NCC-26531。トム・パリスが以前乗っていた船。VOY第21話 "Non Sequitur" 「現実の脱出」より

※4: U.S.S.サザーランド U.S.S. Sutherland
連邦宇宙艦。ネビュラ級、NCC-70215。TNG第101話 "Redemption, Part II" 「クリンゴン帝国の危機(後編)」より

※5: U.S.S.アカギ U.S.S. Akagi
連邦宇宙艦。ライジェル (リゲル) 級、NCC-62158。TNG "Redemption, Part II" より。参考:日本から来たスタートレック

※6: マートク将軍 General Martok
(J・G・ハーツラー J.G. Hertzler) 前話 "Sacrifice of Angels" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(後編)」に引き続き登場。声:大山高男

※7: アレキサンダー・ロジェンコ Alexander Rozhenko
(マーク・ウォーデン Marc Worden) DS9第127話 "Sons and Daughters" 「過去を越えた絆」以来の登場。声:楠見尚己

※8: I.K.S.ヤヴァング I.K.S. Ya'Vang
正確には巡洋戦艦 (battle cruiser) と言及されているので、クティンガ級の船と考えられます

※9: Tawi'Yan

・本編
ダックスはキラに話しながら、ターボリフトに乗った。「そういうわけで準備の時間があまりないんだけど、大体のことは一応もう終わってるの。ウォーフはこの 3ヶ月、ずっと式の手配ばかりしてたしね。もうほとんどのことは決まってるのよ。私の靴の色まで。」
キラ:「ジャッジア、言っちゃ悪いけどこの式って全部ウォーフの希望ばかりじゃない。ああ…居住区へやって。セクション51・ガンマ。それでいいの?」
「全てクリンゴンの伝統にのっとった結婚式が、ウォーフの子供の頃からの夢みたいだから。地球人※10の養父母に育てられたから、余計こだわるんじゃない? 『クリンゴンの伝統』って言っただけで、ウォーフはもう涙目になるくらい。」
「ウォーフが?」
笑うダックス。「男はみんな涙もろいの。眉しかめて歯を食いしばって、ごまかしてるだけ。実際ウォーフは何回も、文字通りに…儀式の話しながら目を潤ませてた。」
ターボリフトから降りる 2人。
キラ:「それで全部…彼に準備任せてるわけ。」
ダックス:「まあね。でもほんと言うと私はトリル人※11の式を5回も…」 前を歩いていたオドーが 2人に気づいた。すぐに別の道へ行ってしまう。「…挙げてるし、3回は花嫁、2回は花婿。もう飽きてるの。…考え過ぎかもしれないけど、オドー、私たちを避けた。」
「ああ…そうだった? ……ドミニオンが撤退してから、お互い何となく避けてるの。占領下でいろいろあって、どっちもそのことに触れたくないから。」
「何があったの?」
ダックスの肩に触れるキラ。「だからね、ジャッジア。まだとても話せるような気分じゃないのよ。」
うなずくダックス。

部屋に集まったシスコたちに、話を始めるウォーフ。「今日はすみません。ご存知かと思いますが、私とジャッジアは、6日後このステーションで結婚します。」
ベシア:「春のディープ・スペース・ナインほどロマンチックな時は、ないね。」
オブライエン:「ニュートリノが満開だよ。」 笑う。
ウォーフ:「伝統に従い、クリンゴンの男は結婚前の 4日間、カルハヤ※12への道と呼ばれる神聖な心の旅を体験します。清めの旅です。そして、近しい人たち 4名を旅の共とします。」
マートク:「諸君には想像もつかんだろうがな。4昼夜歌い、絆を強め、親睦を深めるんだ。全てを開放して楽しむ。」
オブライエン:「独身さよならパーティとは違うのか?」
ウォーフ:「それに近い儀式では…あるが。」
ベシア:「それなら喜んで。」
オブライエン:「俺も。」
シスコ:「…参加させてもらおう。」
ウォーフ:「では明日 21時にホロスイートへ来て下さい。」 出ていく。
マートク:「今日はゆっくり休んでおいた方がいいぞ。」
ベシア:「クリンゴンの独身さよならパーティなら、すごそうですからね。」
オブライエン:「ケイコがいなくてよかった。」
シスコ:「カルハヤへの道の間、ダックスは何をするんだろうなあ。」
マートク:「ダックスの方にも、別の旅がある。俺の女房と。」
「奥方とか。」

クリンゴン艦が DS9 に到着した。
シスコに説明しているマートク。「ダックスはマートク家に加わる。だが全ての結婚に一族の女主人の承認が必要なんだ。この 4日で、ジャッジアにその資格があるのか試される。」
エアロックから、一人のクリンゴン人女性が降りてきた。
マートク:「シレラ※13。」
シレラ:「あなた太ったわねえ。ま、髪もすっかり白くなって。」
「あ…俺も、今じゃこの通り、老いぼれちまったよ。」
「もうお墓に入ってるんじゃないかと思ったわ。」
笑うマートク。「できれば今年中に死ねればいいと思ってるがな。紹介しよう、こちらはベンジャミン・シスコ大佐。ディープ・スペース・ナインの司令官だ。大佐、紹介しよう。偉大なるマートク家女主人、わが妻にして子供らの母、シレラ、リンカサ※14の娘だ。」
シスコ:「ディープ・スペース・ナインへようこそ。」
シレラ:「ご苦労様。例の娘は?」
マートク:「ジャッジアは自室だ。居住区のセクション…25・アルファかな。俺が案内しようか、かなり遠いからな。」 手を伸ばすマートク。
「自分で見つけます。…それじゃ失礼。」 手を取ったが、すぐに独りで歩いていくシレラ。
ため息をつくマートク。「きっぷのいい女だと思いませんか?」
シスコは何も言わない。

ろうそくに火を点けているダックス。
ウォーフ:「これは本物のヴァルハマ・キャンドル※15か?」
ダックス:「もちろん、わざわざクロノスまで行ったのよ。ハマラ※16山脈で 3匹のターグを捕まえて、夜明けにいけにえの儀式をして基地に戻り、クワークに肩を茹でて脂肪を取り出してもらって、それから私自身の手で、2日もかけてキャンドルの形にしたんですからねえ。」
「確認しただけだよ。」
「いいえ、粗探しでしょう、またね。落ちついてよ! 女主人も歓迎のヴァルハマ・キャンドルがレプリケーターの複製だからってだけで、娘と認めないとは言わないわ。」 チャイムが鳴る。「どうぞ。」
シレラが入った。向き直るウォーフ。
ダックス:「トゥグ ソン ボッシュ モク ベ、シレラ コー。イガフ ヴェト モー。」 礼をする。
シレラ:「彼はここで何してるの?」
ウォーフ:「お邪魔するつもりは毛頭…」
「出ていきなさい。」
部屋を出るウォーフ。
シレラ:「伝統に従い、お前が我が一族にふさわしいかどうか、わたくしがこの 4日で判断します。」
ダックス:「はい、もう覚悟はできています。」
「さあ、どうかしら。クリンゴンの女でもわたくしに認められるのは容易ではないのよ。だから、よそ者では…ありえないと言ってもいいでしょうね。」
「挑みがいがあります。」
「わたくしの権威は、お前のような小娘に挑まれたぐらいでは揺らぎません。」
「そんな意味じゃありません…」
「意図した通りのことを言えないなら、口をつぐみなさい。明日の朝からお前の評価を始めます。わたくしが来る前に、伝統にのっとった朝食を用意なさい。…それから今後、ヴァルハマ・キャンドルを作る時は、同じ手抜きをするにしても、そんなあからさまな偽物はやめることね。」
シレラが出ていった後、不快な顔をするダックスは火を吹き消した。


※10: 吹き替えでは「人間」

※11: 吹き替えでは「トリル

※12: Kal'Hyah

※13: Sirella
(シャノン・コックラン Shannon Cochran TNG第176話 "Preemptive Strike" 「惑星連邦“ゲリラ部隊”」、DS9第55話 "Defiant" 「奪われたディファイアント」のカリタ (カリータ、Kalita) 役)

※14: Linkasa

※15: var'Hama candle

※16: Hamar

DS9 に係留しているバード・オブ・プレイ、ロタラン。
ウォーフ:「シレラが結婚に反対だと、なぜ言ってくれなかったんです。」
マートク:「あれは強い信念をもっとる。一族に異星人を入れたら、クリンゴンとしての誇りが失われるとな。」
「それは偏見に満ちた狭い考えです。」
「ウォーフ、俺たちはクリンゴンだ。他の文化を受け入れるんじゃなく、征服する。一族に加わりたければ、我々の伝統を尊んで、一族の名を名乗るにふさわしいと示す必要がある。」
「ジャッジアなら大丈夫です。」
「ああ、そうだろう。立派で、戦士としても非常に優れている。」
「ではシレラにそう言って下さい。」
「……それはあまりいい考えとはいえんだろうなあ。あれの領分を、侵していると思われると困る。」
「じゃあ、私が直接話しましょう。」 席を立つ。「私ならシレラの権限を侵すことにはならないでしょう。」
「俺ならやめておくな。」
「…どうしてです。」
「いやあ、その…実を言うと、お前もそう好かれているわけじゃない。」
「私が?」
「いやあ、気にすることはないぞ。俺の権限でお前を一族に加えたんであって、そのことに関してシレラがどうこう口を出せる筋合いではない。」
「心強いですね。」
笑い始めるマートク。「笑わせる! 笑いを知らんと評判のお前がな。」

ホロスイートに再現された洞窟の中で、火が炊かれている。シスコたちがやって来た。儀式用の服を着ている。
ベシア:「…涼しくならないかなあ。それにその…インテリアもちょっとね。」
オブライエン:「多少の好みは我慢しないとな。」
「あ?」
「パーティが始まる前に、どうせいろいろとめんどくさい儀式があるんだろ? …パーティはあるんだろ? そうだよな?」
アレキサンダー:「俺に聞かれても。自分の名前もクリンゴン語で言えないのに。」
ウォーフたちがやって来た。
マートク:「諸君、それではこれより、忘れがたい旅に出てもらおう。」
先に丸い石がついた、棍棒状の道具が置いてある。それを配るウォーフ。「これは…マスタカス※17です。」
ベシア:「これを、どうすればいいの。」
「婚礼の儀式の一番最後に、それでウォーフとダックスに襲いかかるんだ。」
オブライエン:「常識だろ? 知らなかったのか?」
「伝統でカーレスとルカラの結婚式を真似ます。二人は式直後、モローの軍勢に襲われたんです。式の時まで、肌身離さず持っていてくれ。」
シスコ:「だが、真剣に襲うわけではないんだろ?」
マートク:「ああ、形式的にやるだけのことです。」
「ああ。」
物音がした。
ウォーフ:「それは食べるためにあるんじゃない。」
並べられた食事から、肉を食べようとしていたアレキサンダー。「…じゃあ、何なの?」
「誘惑に打ち勝って断食を続けるためだ。」
シスコ:「断食?」
「カルハヤへ至る道には 6つの試練があります。そして第1の試練が、喪失です。今から結婚の日まで、全員が断食を続けます。」
ベシア:「でも式は 4日後だろ?」
マートク:「ああ、期間が短いのはわかっているが、今回は仕方がない。」
苦い顔をするベシアとオブライエン。
シスコ:「残り 5つはどんな試練なんだ。」
ウォーフ:「血、痛み、犠牲、苦悩に、死です。」
ベシア:「どれも結婚につきもの。」
オブライエン:「知りもしないで。」
ウォーフ:「儀式の時間です。」

クワークの店。
クワーク:「手すりに花を飾らないとな。」
ジェイクが慌ただしい店内に入る。
声が聞こえる。「垂れ幕用意できました、ボス。」
口笛を吹くクワーク。「上げろ!」
マートク家の紋章が入った大きな垂れ幕が、クワークの店に飾られる。
クワーク:「早起きだな。物書きは寝坊なんだろ?」
ジェイク:「今日は別。最初の本が売れたんだ。」
「本当か! いくらになったんだよお。」
「実は売れたってのは嘘なんだ。連邦ニュースサービスが、占領下の生活の記事を、本にしてくれることになったんだ。」
「金は入らないのか?」
「そうだよ。」
「…そりゃひどい。これから最初の一杯はおごるよ。」
「ほんと?」
「いいや、おごるってのは嘘だ。」
「父さんに本のこと教えに来たんだ。まだホロスイートなの?」
「ああ。全員こもりっきりだ。」
「…でも何してるんだろ。」
「クリンゴンの独身さよならパーティだ。……物書きなんだろ? 想像力使えよ。」
ジェイクは考え始めた。

倒れているアレキサンダーの頬を叩くベシア。「アレキサンダー。」
アレキサンダー:「おばあちゃん?」
「残念でした。」
起きあがるアレキサンダー。「俺たち、まだ…」
「カルハヤへの道だ。もう、500日目か?」 水筒を渡すベシア。
オブライエン:「温度を下げた方がいいんじゃないか? いや、アレキサンダーのためにさあ。」
アレキサンダー:「いいよ、俺は大丈夫。水さえ飲めばね。」
ベシア:「無理しちゃだめだ、我慢しない方がいい。少し温度を下げた方がいいと…思うんだけどね。」
マートク:「…肉体と精神の限界を試す。そもそもそのための儀式だ。」
顔を見合わせるベシアとオブライエン。
アレキサンダーは立ちあがった。「やるよ。俺は試練に耐えて、カルハヤまで行きたいんだ。もっと火を燃やして!」
ウォーフ:「よし、わかった。」 炎を調節した。更に強く、明るくなる。
マートク:「元々、我々もクリンゴン人でないお前らには、同じスタミナを期待はしない。やめたければやめていい。誰もそしりはせんよ。」
ベシア:「誰がやめるなんて言った?」
シスコ:「言ってない。」
オブライエン:「熱いのいいねえ。」
マートク:「よおし、その意気だ。」
マートクとウォーフは、クリンゴン語の歌を歌い始めた。
シスコたちに支えられ、一緒に並ぶアレキサンダー。
2人の歌は高らかに続く。

上着を脱いだダックス。「アルコー メッサー トゥレング チョ」 両手に持っていた、大きな火鉢を下ろす。
シレラ:「もう一度。」
「もう 3度もやったんですけど!」
「儀式を早く済ませようとばかりしてるわね。構え方はまるでなってないし、火鉢を台に置くにしても、その置き方ときたら全く…お粗末そのもの。」
「…火鉢の重さをご存知ですか?」
「クリンゴンの女なら、不平は言わない。」
「クリンゴンの女なら、3度も続けてやらせないんじゃないですか?」
「必要ないの。クリンゴンの女なら、一度でやってのける。」 シレラを睨みつけるダックス。「もうやめるのね、ジャッジア。仲間のもとへ戻りなさい。お前の弱さも欠点も許してくれるでしょう。でもクリンゴンの一族ではそうはいかない。一族に入れば…お前は常によそ者であって、のけ者になる。よくて哀れみの対象でしょう。決して受け入れられることはない。対等にはなりえない。どうしようと我々と同じにはなれないからよ。」
ダックスは無言で、再び火鉢を手にした。「クーマー トレインゴッス アク・ベ ハヴァダーク クルシュ トヴァ コマー カーレス コマー カーレス コマー カーレス。」 怒りの形相を浮かべる。


※17: Ma'Stakas

ダックスの部屋。
ダックス:「でも第二王朝※18はクトゥレラン※19将軍のレクロ※20皇帝暗殺で終わりを告げました。」 シレラが聞いている。「その後 10年間、帝国は人民が選出した評議会が統治しました。近代クリンゴンの歴史家たちは、この時代を『暗黒時代※21』と呼びます。でもここで注目すべきなのは、クリンゴンでのこの最初で最後の民主主義の実権が、さまざまな改革を促したことです。」
シレラ:「一族の歴史から逸脱しています。」
「逸脱?」
「ここでは、我が一族全女性の正確な年代記を、ただ唱えればいいんです。」
「私はもっと広い意味での歴史的評価を付け加えただけです。」
「余計な評価を加えるありません。さあ、いいから 23代前の母方の祖母の話に戻りなさい。シェナラ※22、クリンゴン第二王朝、レクロ皇帝の娘です。」
「あのー、実はそこにちょっとした問題があるんです。私調べてみたんですけど、レクロ皇帝が殺された時に、皇室の人々も全員死刑にされているようなんです。シェナラも一緒に。なのにその 10年後から第三王朝※23が始まっています。皇族ではなかったクリンゴン人が皇帝にされ、名前だけを受け継いだようですねえ。…血筋が途絶えたと思わせないために。ですから母方の 23代前の祖母は、あなたとは…何の血縁もないんです。あなたの本当の祖先の名前はカラナ※24。皇室のうまやに住んでいた、ハーレムの女性です。」
「わたくしの祖先の名前は、シェナラです!」
「一族には代々そう伝えられてきたんだと思いますけど、裏付ける証拠が何もないんです。証拠なんていりませんね。年代記ではあなたは皇族の血を引く尊いお方。これからもそのまま語り継いでいきましょう。」
シレラはダックスに顔を近づけた。臆することなく、微笑んでいるダックス。
シレラ:「一族の歴史を、続けなさい!」
ダックス:「ええ、喜んで。」

プロムナードを歩いていたキラを呼ぶジェイク。「ねえ、少佐!」
キラ:「ん?」
「ダックスが明日パーティ開くってほんと?」
笑うキラ。「全く地獄耳ね。」
「招待されてないけど、だめですか…」
「ジェイクなら大歓迎に決まってるでしょ。ノーグにもそう言っといて。」
「やった!」
「ああそうだ、新進気鋭の作家さんにおめでとうを言わなくちゃね。」
喜ぶジェイク。「ありがとう。」
保安室からオドーが出てきたが、キラの姿を見るとすぐに去った。キラも顔を背ける。
ジェイク:「今の、どういうこと?」
キラ:「別に。ほら来た。」 マスタカスを持ったシスコたちが浮かない顔をして、歩いている。「やけに真面目な顔ねえ。」
「あんなの芝居だよ。乱痴気騒ぎのこと隠すために、わざと。」
「騒ぎって?」
周りを見るジェイク。「クリンゴンの独身さよならパーティですよ。ヘ、想像力使ってみて。」
怪訝な顔をして、歩いていくキラ。

炎に向かっているウォーフ。「では血の試練を始めます。」
マートク:「我らの血を、川のごとく流そう。」
「誰が最初に行く。」
一列に並んだベシアたち。オブライエンはシスコに合図して、後ろに一歩下がる。眠りに落ちそうなベシアだけ取り残された。
振り返るウォーフ。ベシアは気づいたが、既に遅かった。
ウォーフ:「一番手とは思わなかったな、ドクター。」
ベシア:「僕も意外。」
「心配ない。痛みがあるのはほんの一瞬だけだ。」 刃物を持ってベシアに近づく。
マートク:「ああ…。」


※18: 第二クリンゴン王朝 Second Klingon Dynasty

※19: K'Trelan

※20: Reclaw

※21: Dark Time

※22: Shenara

※23: Third Klingon Dynasty

※24: Karana

奇声を上げて、両端に火のついた棒を回す上半身裸の男。パーティに集まった者たちが歓声をあげている。
リータ※25やロム※26、ノーグ※27も楽しんでいる。ドレスを着たキラはダックスに言う。「すごいわよねえ!」
ダックスも一緒に太鼓を叩き、声をあげている。
ベイジョー人に話すキラ。「彼、最高!」 「ほんとね!」
ファイヤーダンスが終わった。
ダックス:「マニュアル・アッター中尉※28のショーでした! サザーランド※29所属よ。」
リータの隣にいるロム。「あんなダンス、初めて観たなあ。」
リータ:「私も初めて…。」
アッターはダックスの隣で、楽器の演奏を始める。
ロム:「食べ物取りに行こう。」
踊っているクワークに話しかけるジェイク。「ダックス、太鼓もうまいね。」
クワーク:「才能溢れるいい女なんだ。あの仏頂面男に一生捧げるとはねえ。もったいなさ過ぎる。俺ゃ反対だね。」
「あれ? 妬いてるの?」
「……嫉妬は損だ。」
「否定になってないよ。」
クワークはダックスを見た後、小声で言った。「余計なことはしゃべるなよ。」
「任せて。で、ダックスに気があるって初めて気づいたのはいつ?」 離れるクワーク。「クワーク、待てよ!」

灼熱の床の上で、ベシアとオブライエンがぶら下がっている。たとえ手を離しても下に落ちないよう、鎖でつながれている。苦しそうな 2人。
ベシア:「マイルズ?」
オブライエン:「あ?」
「これ効くよ。今、未来が…見えたんだ。すごくはっきり見えた。」
「どんなだった。」
「…ウォーフを殺すんだ。ウォーフを殺すね、僕の未来だ。すごくはっきり見えた。僕はウォーフを、殺す。」
「ウォーフを?」
「殺すね。」
「ウォーフを?」
「殺す。」
「殺すよな!」

パーティは続いている。台の上に立って踊っているリータを下ろそうとするロム。
ダックスもノーグと共に声を出す。「ハー! ハー!」 大きく笑うキラ。
オドーたち保安部員が入る。
オドー:「すいません。騒音がひどいと苦情が出てます。喧嘩があったとも聞きました。」
キラ: 「口喧嘩みたいなものよ! モーンとボリアンがちょっと揉めて…でももう済んだわ。」
モーンとボリアンが体をぶつけながら踊っている。
オドー:「このパーティはその…いつまで続くんです?」
キラ:「パーティがいつまで続くかは後ほど連絡します。この基地の副司令官である私の、個人的権限で許可してます。」 笑う。
「ご機嫌ですね。」
「ええだって、いいパーティだもの。」
「じゃ。」
出ていこうとするオドーを呼び止めるキラ。「オドー…オドー。私たち話し合うべきだと思う。」
「…賛成です。」
「じゃあ話しましょうよ。」
「今?」
「もう十分引き伸ばしたと思わない?」
オドーは部下に命じた。「楽しんできなさい。」
「それじゃあ、どっか静かな場所に行きましょう。」 オドーを連れて行くキラ。
アッターは、またファイヤーダンスを終えた。
ダックス:「最高のショーだったわ。」
隣に座るアッター。「任務を休んだ甲斐がありました。」
「シェルビー艦長※30に頼んだの。彼には貸しがあるから。それより、もしよければ、あと 2日休みを取りたくない?」 アッターの肩に手を回すダックス。
「2日? 何をすればいいんです?」
「大したことじゃないわ。この後もダンスを見せてくれればいいの。」
「ほかには?」
「後で教える。」 笑う 2人。
「その男!」 やってきたシレラの声が響いた。「離れなさい。さもないと頭を切り落として、ベルトにぶら下げるわよ。」
音楽が止まった。
ダックス:「私に任せておいて。」 シレラの前に立つ。「招待してませんけど。」
シレラ:「今夜はブレナンの儀式※31を行うのよ。」
両手を挙げるダックス。「忙しいんです。」
「ライサ星の破廉恥女のように遊び呆けてか!」
「一度しか言いません、帰って下さい。」 パーティの参加者も、ダックスの周りに集まってきた。
「今すぐわたくしと一緒に来て、ブレナンの儀式を完璧に務め上げてみせなさい! でなければ結婚は中止です!」
「トゥラク・ドゥー※32!」
シレラは持っていたナイフを突き出した。ダックスはその手を弾き、シレラの顔を殴る。
ノーグ:「二人ともやめて!」 割って入ったが、すぐにシレラにどかされる。
シレラ:「モクタ ヴォー カシャヴァ!」 つばを吐き捨て、出ていった。
ダックス一息ついた後、言った。「みんな何突っ立ってるの! パーティは始まったばかりなのよ! 音楽続けて。」
また音楽が流され、ノーグと一緒に踊り出すダックス。
ジェイクとクワークは顔を見合わせる。
パーティは元の活気を取り戻した。

グラスや食べ物が散乱した部屋。ダックスはフラフラしながら、レプリケーターに注文した。「ラクタジーノ、ダブル砂糖多め。」
寝転がっていたアッターとモーンが起き上がった。
アッター:「ああ…今何時だ。」
ダックス:「10時30分。」
「…行こう!」 モーンを叩き、2人でドアに向かう。
「そっちじゃない。」 指差すダックス。
アッターが向かうと、その前にドアが開き、ウォーフが立っていた。
驚くアッター。「失礼します!」 ダックスの部屋を出ていく。グラスを持ったままのモーンも続く。
中に入るウォーフ。「ジャッジア、話し合う…」
ダックスは手を挙げた。ラクタジーノを飲む。「…怒ってる。」
「心配なだけだ。」
「ええそうよ、二日酔いよ。話は後でね。」
「とても深刻な状況になってる。シレラが結婚は認めないといってる。」
「あの人、ほんとに素早いわね。」
「殴りかかったんだって?」
寝室に入るダックス。「…ナイフ向けたのよ!」
「お前をマートク一族には加えないそうだ。」
ベッドに入る。「…じゃあ家族のピクニックには呼ばれないわけね。別にいいわ。」
「どうしてそう軽々しく考えられるんだ!」
「…今の聞こえた?」
「何が。」
「人の声がする…。」 ベッドから出て、クローゼットのドアを開けるダックス。
オドー:「…しました。」 キラと椅子に座って向き合い、話している。
キラ:「ハイ!」
ダックス:「ハイ。」
あきれるウォーフ。
オドー:「パーティは終わりですか?」
ダックス:「ええ、まあね。もう 10時半だから。」
キラ:「…え、朝の! 仕事行かなきゃ。」 すぐに立つキラ。
オドー:「私もです。」
「パーティ楽しかった。」 部屋を出る前にダックスと抱き合う。
ダックス:「ありがとう。」 キラたちは出ていき、ダックスはまたベッドに戻る。
ウォーフ:「すぐ手を打たなきゃ、取り返しがつかないぞ!」
「やめて。大声出さないで!」
「シレラのところへ言って、早く許しを請うんだ。」
ダックスはウォーフの前に立った。「お断りだわ!」
「今はプライドより大事なものがあるんじゃないのか?」
「あなたにクリンゴンの伝統的な式を挙げさせるために、私があのおばさんの前にひれ伏すの?」
「これはもう伝統以上の問題だ。……私たちは二人で神聖な旅に船出したんだ、一生涯。そして来世でもつながっていられるようにな。もう今更引き返せない。」
「あなたには聖なる旅でしょうけど、私は結婚したいだけ。どう? とにかくホロスイートへ戻ってみんなと汗かいたり血を流したりしてくれば? それが終わったら、ベンジャミンのオフィスへ行きましょう。彼に式を挙げてもらうの。」
「……本気で言ってるなら、…多分シレラは正しかったんだろう。結婚式はできない。」
うなずくダックス。「それで結構よ。」
ウォーフは去り、ダックスは独り残される。


※25: Leeta
(チェイス・マスタースン Chase Masterson) 前話 "Sacrifice of Angels" に引き続き登場。声:榎本智恵子

※26: Rom
(マックス・グローデンチック Max Grodenchik) 前話 "Sacrifice of Angels" に引き続き登場。声:田原アルノ

※27: Nog
(エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) 前話 "Sacrifice of Angels" に引き続き登場。声:落合弘治

※28: Lieutenant Manuele Atoa
(Sidney Liufau)

※29: 「サザーランド」と吹き替え

※30: Captain Shelby
なお「彼」と言及されているので、TNG第74・75話 "The Best of Both Worlds, Part I and II" 「浮遊機械都市ボーグ(前)(後)」に登場したシェルビー少佐とは無関係

※31: Bre'Nan ritual

※32: Turok-DOH

オブライエンとベシアがホロスイートから出てきた。クワークの店では片づけが進んでいる。
クワークは口笛を鳴らし、垂れ幕が床に落とされた。
ベシア:「何してるんだ!」
クワーク:「聞いてないのか? 結婚式は中止だ。」
オブライエン:「中止? 何で。」
「ダックスは、ウォーフの野郎が石頭で、頑固だから、伝統と結婚すりゃいいと言ってる。ウォーフは、ダックスが軽薄で気まぐれで、奴や奴の文化のことを真面目に考えないから怒ってる。そういうことだよ。」
「ハ! どっちも正しい。」
「まさしく。」
ベシア:「となると、やることは一つだな。」
微笑むオブライエン:「飯だ。」
クワーク:「メニュー持ってくる。」

ディファイアント。
考え事をしているウォーフ。チャイムが鳴る。「入れ。」
マートクだ。手で制する。「ウォーフ。お前は間違っとるぞ。」
「…かもしれません。」
「愛してるんだろ。」
「もちろんです。しかし、愛情だけでは…もう足りないんです。ああ…我々が違い過ぎるのは、誰の目にも明らかです。彼女はトリル、私はクリンゴン。彼女は 5度も結婚しています。私は初めてです。彼女が笑う時、私は陰鬱。私が幸せな時、彼女は泣く。彼女はクワークとトンゴも遊びます※33が、私は奴が我慢できない。彼女は全てを笑い飛ばし、私は全て深刻に受け止める。…予想していた結婚相手とはまるで違う。」
「……まるで予想もつかんような女に惚れてしまうのが、男ってもんだ。俺がシレラのような女との結婚を夢見てたと、お前本気で思うか? あいつは、誇り高く傲慢で移り気な女だ。俺が望むほど度々は、同じベッドにも入ってくれんしな。それでも……あれを愛している。心からな。フン、クリンゴンの男は勇敢でさえあれば、人々の尊敬を得られる。名誉と栄光、我々が何より追い求めているものだ。だが共に喜んでくれる者がいなければ、勝利も虚しいだけだ。戦場から戻り、家で独り孤独を噛み締めていては、慰めにはならん。」

出された料理の匂いをかぐベシア。
クワーク:「ステーキ※34に、ベイクドポテト、サワークリームとチャイブ添えだ。」
オブライエン:「そっちが良かった。」
「ダブルのアルタイル・サンドイッチ※35、マスタードぬき。それからチーズ大盛りのベイジョー・シュリンプ※36のリングイネ※37が 2皿に、マパ・ブレッド※38がまるごとね。」
ベシア:「クワーク! カヴァ・ジュース※39は。」
「今、根っこ絞ってる。レプリケーターでいいのかい?」
「…待つよ。」
いざ食べようとした時、シスコの声が響いた。「お前たち! 何をしてるんだ。」
オブライエン:「結婚は中止なんでしょう?」
「また変更だ。」
マートク:「今この瞬間に、ウォーフがジャッジアに謝りに行っているんだ。」 ベシアの皿を取り上げる。
「クワーク、全部下げてくれ。まだカルハヤへの道の…途中だからな。」
片づけながら話すクワーク。「どの道の途中でも、食事の代金はもらいますよ。悪いね。」
笑うシスコ。
ウォーフはクワークの店に入った。アレキサンダーが気づく。「父さん。どうなった?」
ウォーフの言葉を、飾り付けするベイジョー人たちも聞いている。「…ジャッジアはまだ気を変えない。式は延期のままだ。」
ため息をつくシスコ。「どこにいるんだ。」
「自分の部屋です。」
「私が話してこよう。とにかく、2人には何も食わせるな。」 マスタカスをウォーフに投げ渡す。

ダックスは気が高ぶったまま、片づけしている。チャイムが鳴った。「どうぞ!」 シスコが入る。「何も言わないで。彼にはついていけない。だから終わったの。何しろって言ったと思う? シレラのところへ行って、這いつくばって許しを請えって。ウォーフはそう言ったのよ! 許しを請う、私が? 惑星連邦大使としてクリンゴン帝国へ行ったこともあるんですからね! ウォーフが産まれるずっと前にキトマー合意※40をまとめたのよ!」
シスコ:「交渉に行ったのはクルゾンじゃないか! おやじさん、一つ言っておくがな、お前はもうクルゾンじゃないんだ。」
「何よ、今更そんなわかりきったことを。」
「シレラにクルゾンを相手にするように敬意を払ってもらいたいと望むのは所詮無理だってことだ。お前は彼女の一族に嫁ごうとしている、ただの小娘なんだぞ。そのせいでもしも、ひざまずき靴にキスしろと言われるなら、それがお前のやるべきことだ。覚悟してたんだろ! ウォーフと結婚すると決めた時、こうなることはわかっていた。彼女の前にひざまずき、服従を誓わなきゃならないとな。」
「ウォーフが悪いのよ! クリンゴンの伝統的な式にこだわるから。」
「確かに彼も今回は度を越しているところがある。だがお前は 356歳※41にもなるんじゃないか。お前に比べれば、ウォーフはまだ子供だ。それにもしも本当に、クリンゴンの伝統の重さに耐えられないと言うなら、最初から彼を好きになるべきじゃなかったんだ。……でも彼のことを、愛してるんだろ?」
「好きになりたくてなったんじゃない。私は独りの人生を満喫してたの。友達もいるし、仕事も、刺激もある。……なのにある日、態度の悪いクリンゴン人の男が私の前に現れた。そしてふと気がついたら、結婚することになってた。356歳になって 7つの人生を生きても未だに……感情で突っ走っちゃうのよ。」
「私はお前のそういうところがずっと好きなんだ。」 ダックスはシスコを見た。「ウォーフもきっと、同じだと思うぞ。」
ダックスはシスコに抱きついた。「私が知ってる、若くて頼りなさそうな少尉はどこ行っちゃったの? どんな些細なことでも、いつも私に相談しに来てたのに。ほら、髪がフサフサの。」
「大人になった。」
「私も大人になる時よね。」

クワークの店。
クリンゴン人によって太鼓が打ち鳴らされる。
シレラが中央に立ち、シスコたちが最前列に並んでいる。
シレラは手を挙げた。「炎と鋼をもって、神々はクリンゴンの心臓を作られた。心臓は激しく打ち、鼓動は大きく響いた。神々は叫ばれた、『今日我らは天空で、最強の心臓を、生み出した。その前に立つ者は皆、恐怖に打ち震えるであろう。』 だがその時、心臓の鼓動が弱まり、間断ない動きが乱れた。神々は言われた、『なぜ弱くなった。お前をあらゆる創造物の中で最強にしたのに。』」 結婚式用の衣装を着たウォーフが現れる。「心臓は言った。」
ウォーフは言葉を引き継いだ。「私は独りです。」
「そこで神々は過ちに気づき、熱く燃えるもう一つの心臓を、作られた。」
シレラが手で示した方から、クリンゴンのドレスを着たダックスがやってきた。列席者から声が上がる。
中央に来たウォーフと向き合うダックス。
ターウィヤンのアレキサンダーが礼をし、持ってきたバトラフを二人に渡した。
シレラ:「だがそれは最初の心臓より強く打ち、最初の心臓は妬んだ。」
バトラフで組み合うウォーフたち。ダックスはバトラフをウォーフの首に近づける。
シレラ:「だが幸い、第二の心臓には知恵が備わっていた。」
ダックス:「一つになれば、私たちは無敵になれる。」
バトラフをアレキサンダーに返す。近づくウォーフとダックス。
シレラ:「そして二つの心臓は共に脈打ち始め、天空にすさまじい轟音をとどろかせた。そのとき初めて、神々を恐れを知り、逃れようとしたが、手遅れだった。クリンゴンの心臓は創造主である神々を打ち砕き、天空を灰にしてしまった。今日この日まで、二つのクリンゴンの心臓に、誰もかなう者はいない。…私でもね。」
二人はシレラを見た。微笑むダックス。
シレラ:「ウォーフ、モーグの息子。その心臓はこの女のために打つか?」
ウォーフ:「はい。」
「行く手を阻むあらゆるものを打ち倒し、この女と共に立つと誓うか?」
「誓います。」
「ジャッジア、ケーラ※42の娘。その心臓はこの男のために打つか?」
ダックス:「はい。」
「行く手を阻むあらゆるものを打ち倒し、この男と共に立つと誓うか?」
「誓います。」
「では列席の皆の前で宣言する。この男と、この女を、夫婦とする!」
一斉に歓声と拍手が起こる。キスするウォーフとダックス。
待ちきれないベシアは尋ねた。「まだ?」
マートク:「まだだ。」
ウォーフはシレラと抱き合う。
ベシア:「…まだ?」
マートク:「落ちつけ!」
シレラに礼をするダックス。「よろしくお願いします。」
シレラ:「お前をマートク家に迎える。」 手を広げる。「我が娘よ。」
ダックスはシレラと抱き合う。
マートク:「ドクター、今だ!」
ベシアとオブライエンはマスタカスを振り上げ、叫びながら襲いかかっていく。
殴られる音が響いた。


※33: 吹き替えでは「タンゴも踊ります」

※34: 正確には steak with muchrooms

※35: Altair sandwich
アルタイル (アルテア) は、わし座アルファ星としても知られる恒星。これまでアルタイル3号星、4号星、6号星、およびアルタイル・ウォーター (Altair water) が言及

※36: Bajoran shrimp

※37: linguini with Bajoran shrimp

※38: mapa bread

※39: kava juice
カヴァ (カーヴァ) の根 (kava root) が DS9第80話 "Starship Down" 「ディファイアントの危機」で言及

※40: キトマー協定 Khitomer Accords
クリンゴン帝国と惑星連邦間の、歴史的な平和条約。映画 ST6 "The Undiscovered Country" 「未知の世界」など

※41: この言及により、ダックス (共生生物) が 2018年生まれだと初めて判明

※42: Kela
ダックスの父

・感想
これまでも何度も触れられていた、ウォーフとダックスの結婚式が執り行われました。オブライエンも「どうせ」と予想していた通り、クリンゴンの伝統に振り回される様子がコメディ風に描かれています。当人たちが真面目なだけに、なおさら面白いですね。
最後のシレラの心変わりが説明されていませんでしたが、そこは…わざわざ描かなくてもということなんでしょうね。そういう細かいことより、演じている俳優まで楽しそうな雰囲気を味わいたいです。特にパーティシーンはモーンまで…。


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