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ディープスペースナイン エピソードガイド
第147話「グランド・ネーガスは永遠に」
Profit and Lace

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・イントロダクション
※1クワークが店で話している。「大したもんだ、本当に感心した。俺は滅多に感心しない。何年もクワークのバー、グリル、カジノ&ホロスイート・アーケード※2を経営してきたが、未だかつて一度もこんな見事な勤務評価を見たことがない。嘘じゃないぞ、ほら見てみろ。」 相手はダボガールのアルーラ※3だ。「この 3月、客から君への苦情は一件も記録されてない。全くゼロだ。飲み物をこぼしたこともなければ、注文を間違えたことも、釣りが足りなかったこともない。」
喜ぶアルーラ。「…一生懸命働いてますから。」
クワーク:「君はどんなときだって笑顔を絶やさない。」
「この仕事、好きだからです。働けて幸せ。」
「よくわかるよ。お客さんから愛されてる。仲間のダボガールからも、フェレンギのウェイターでさえ君を誉めてる、どうしてか。君は素敵だからだ。」 笑うクワーク。
「努力してます。」
「お客さんに親切だ。ダボガールたちにも、フェレンギのウェイターたちにもだ。みんなに親切だよ、ほとんどみんなに。」
「…誰かに悪いことしてます?」
「よく見るんだ、アルーラ。近くに悲しそうな目が見えないか?」
「でもあなたにも親切でしょ?」
「…もっと親切にできないかなあ。」
「…もっと親切って?」
クワークはパッドを渡した。
アルーラ:「喜びと金儲けのウー・マックス※4?」
クワーク:「すぐ読めるぞ。」
「ああ…。あなたが望んでるのは…親切ね?」
「考えてみろ、お客もダボガールもウェイターも、君の雇い主じゃない。だから…君を首にできない。」
「…まさか首じゃ…。」
クワークは何も言わない。
アルーラ:「違うでしょ?」
クワーク:「まあ本を読んで。」
ロム※5がやってきた。「兄貴ー! 話がある。」
クワーク:「後にしろ、打ち合わせの最中だ。」
「大事なことだ。」
「この打ち合わせもだ。」
「マミーのことなんだよ。」
「言ってるだろ、マミーの話をするな。今は…仕事だ。」
「ごめん、でも朝から連絡してるけど、つながらないんだ。」
「…多分グランド・ネーガスのとこだろう。」
「商いの塔も呼んでみたけどやっぱり出ないんだ。」
「だったらきっと旅行だ! もう邪魔するな! 集中してるとこだ。」
「でも兄貴わかってないよ、フェレンギ星の誰とも連絡がつかない! 従兄弟のゲイラともレックとも、何か大変なことが起こってる…」
「わかった!」 アルーラに話すクワーク。「…話の続きは後だ。だからそれまで、この本を読んでてくれ。」
ロム:「やあ、アルーラ。」
微笑むアルーラ。
クワークに押され、店を出るロム。「いい娘だね。」
クワークはアルーラに言う。「じゃあ後で。」

シスコは言った。「ドミニオンがフェレンギ星に侵攻した?」
クワークと一緒に司令室に来ているロム。「アルファ宇宙域にとんでもない影響があります。」
ウォーフ:「そうは思えないなあ。」
キラ:「ドミニオンがフェレンギ星に侵攻するなら、なぜ先に周りを征服しないの? クレアルス※6とか、イルトク※7とか。」
ロム:「兄貴、聞いたかい? イルトクも征服されたんだ。」
「私そんなこと言ってない。」
ウォーフ:「その星域周辺でドミニオンの活動は報告されていない。」
クワーク:「なぜ連絡がつかないんですか?」
ロム:「マミーも、ネーガスも、従兄弟のゲイラも、みんな死んだんだ…。」 泣き始める。
「慌てるな、ロム。でもフェレンギ星で何か異常が起こってるのは確かです。」
シスコ:「わかった、調べてみよう。」
ダックス:「大佐※8、フェレンギの船が接近してドッキングの許可を求めています。グランド・ネーガスのゼク。あなたのお母さんも一緒よ。」
ロム:「生きてたぞー! …ありがとうございます。」

発着ベイに着いたフェレンギ・シャトル。
ゼク※9が出てきた。「クワーク、ロム! 元気にしてたか、久しぶりだなあ。」
クワーク:「お久しぶりです、ようこそ、ネーガス。」 先にエアロックを出た、従者のメイハードゥ※10もいる。
振り返るゼク。「さあ、早くおいで、ハニー。」
服を着たイシュカ※11が出てきた。
ロムがすぐに駆け寄る。「マミーー!」 抱き合う二人。「心配してたんだよう。」
イシュカ:「あなたはとてもいい息子。」
全然動かないクワーク。「俺も心配してた。」
イシュカ:「あなたは口先だけでしょう?」
ロム:「マミー、ああ…女性が服を着てもいいのかなあ、人前で。」
クワーク:「ロムの言う通りだ。うちのフェレンギのウェイターに見られたらどうする。」
イシュカ:「逆に見てもらいたい。ゼキー、説明して?」
ゼク:「ああ…君から話してくれ、ハニー…」
「ダメ、あなたから説明して。」
クワーク:「どっちでもいいから、どうなってんの。」
「いわゆる、良い知らせと悪い知らせが同時にくるってやつよ。まずいい知らせから話して。」
ゼク:「それじゃ話すか? 3日前わしゃフェレンギ『金儲け憲章』※12に、新たな修正条項を加え、女性に衣服を着用する権利を与えたのだ!」
ロム:「人前で?」
イシュカ:「どこでも好きなとこで。」
クワーク:「まさか、それはいい知らせじゃない。フェレンギの女が人前で服を着てよくなったら、外出できるってことだ。外出できるってことは働ける。働けるってことは、金を儲けるってことだ。」
「それがどうしたの、クワーク? 怖い競争相手に思える?」
「ほんとにいい知らせと思ってんの?」
ロム:「僕はいい知らせだと思うよ。」
イシュカ:「あー、なぜロムが好きかわかったでしょう?」
ゼク:「いいか、クワーク。これはビジネスチャンスだ。何千年もの間我々フェレンギ人は無駄にしてきたが、すぐ身近に貴重な資源があったのだ。それを使わねばあ。」
クワーク:「女が? 貴重な資源だって?」
「女性は全人口の 53.5%を占めるが、惑星の総所得に対する貢献は実質ゼロだ。だからそろそろ自分たちの役割を果たしてもらわねばなあ!」 イシュカといちゃつくゼク。
「悪い知らせをお願いします。元気が出そうだ。」
イシュカ:「そうかしら?」
ゼク:「服を着た女性たちが街に姿を見せ始めた途端に、フェレンギ中の金融が大混乱に陥った。」
クワーク:「ああ…」
ロム:「だから通信できなかったんだ。」
ゼク:「女性たちは同盟の星々とバンバン金融取引をしたものだから、全惑星の通信システムがダウンしてしまったんじゃ。」
クワーク:「フェレンギ星が混乱してるのに、こんなとこで何してるんです。」
ため息をつくゼク。「退陣させられたんじゃ。もうグランド・ネーガスではない。」
クワーク:「それじゃ誰が…。」
イシュカ:「誰だと思う?」
「…ブラント!」
ロム:「グランド・ネーガス・ブラント?!」
ゼク:「暫定グランド・ネーガス・ブラントだ。」
「兄貴、これは一大事だよ! 嫌われてるでしょ?」
イシュカ:「待って、うろたえるんじゃないの。会計監査局※13はまだブラントを承認してない。」
ゼク:「させるものか。承認は 3日後だ。いいか、力を合わせ、何としても政権を取り返す。奴に負けてなるものかあ!」 イシュカたちと共に廊下を歩いていく。
首を振り、後について行くクワーク。ロムも続いた。


※1: このエピソードは、ベシア役アレキサンダー・シディグの監督作品です。このエピソードのほかは、第116話 "Business as Usual" 「武器を売る者」だけを担当しています (そのエピソードでは旧クレジットのシディグ・エル・ファディルを使用)

※2: クワークのバーの正式名称。「バーやグリルやカジノやホロスイート・アーケード」と訳されています

※3: Aluura
(Symba Smith)

※4: Oo-mox for Fun and Profit

※5: Rom
(マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第134話 "The Magnificent Ferengi" 「闘う交渉人フェレンギ」以来の登場。声:田原アルノ

※6: クレアルス星系 Clarus System
フェレンギナー近くに位置する惑星群。DS9第11話 "The Nagus" 「宇宙商人フェレンギ星人」より

※7: イルトク星系 Irtok System

※8: 「艦長」と吹き替え

※9: Zek
(ウォーレス・ショウン Wallace Shawn) グランド・ネーガスを務める、フェレンギ商業の指導者。DS9第118話 "Ferengi Love Songs" 「愛の値段」以来の登場。声:田の中勇 (継続)

※10: Maihar'du
(タイニー・ロン Tiny Ron VOY第82話 "Message in a Bottle" 「プロメテウスの灯を求めて」、第83話 "Hunters" 「宇宙の闇に棲む狩人」のアルファ・ヒロージェン (Alpha-Hirogen) 役) ゼクの忠実な従者であるフーパイリア人。DS9 "Ferengi Love Songs" 以来の登場。声優は恐らく割り当てられていません

※11: Ishka
(Cecily Adams) DS9 "The Magnificent Ferengi" 以来の登場。声:京田尚子

※12: Ferengi Bill of Opportunities

※13: フェレンギ会計監査局 Ferengi Commerce Authority
略して FCA。フェレンギ政府の機関。DS9第69話 "Family Business" 「クワークの母」など

・本編
自室に入るクワーク。ため息をつく。続いてゼクたちも入った。
イシュカ:「あー、あなたの部屋とても素敵ね、クワーク。…狭いけど。そう、素敵よ。」
ゼク:「これよりわしは、この部屋をフェレンギ唯一の正統な政権の本部と定め、それを宣言する。」
クワーク:「まだ信じられません。ブラントが新しいネーガス?」
「暫定ネーガスだ!」
「でもあと 3日すれば、正式なものになる。」
「心配ない、こっちには秘密兵器がある。お前の母親だ。ヘヘ…いいか、作戦はこうだ。1、FCA のコミッショナー全員に連絡し、このステーションに呼んでミーティングを開く。2、イシュカがそのミーティングを仕切る。」
「ああ、受けるでしょうねえ。」
「最初はだめでもイシュカなら説得できる。彼女のずば抜けた金融の知識と、儲けを嗅ぎつける鋭い本能がものをいう。そして見事に証明してくれる。女性たちに服を着ることを認めれば、それは即ち…フェレンギ経済をより健全にし、さらなる繁栄をもたらす第一歩だとなあ。そして 3…。3 は何だったかな、ハニー。」
イシュカ:「FCA のコミッショナーたちはあなたをネーガスに戻す。」
「そうそう、それでめでたしめでたしじゃあ。」
「だけどそれはほんの始まりよ、ダーリン。いつの日にか必ず、女性が商いの塔へ進出して、40階の金儲けの部屋※14へと続く長い階段を上り詰め、自らをその地位へと導く。フェレンギ同盟の…グランド・ネーガス…。」
笑うゼク。
クワーク:「見ないで下さい。あなたが決めた。」
ロムたちが部屋に入った。「ネーガス、息子のノーグ※15を覚えてますよねえ? 宇宙艦隊に入った最初のフェレンギです。」
ゼク:「この際それは責めないことにしよう。」
ノーグを押しのけるロム。「それからこれが僕の妻の、リータ※16です。」
リータ:「お噂は…いろいろ聞いてます。」
ゼクはリータに近づいた。「もっと聞きたくないかね?」
イシュカ:「忘れないで? ロムのお嫁さんなのよ?」
「だからどうした。」
「他人のものってことよ!」
「…わしにはそうは見えんがなあ?」
「ゼキー!」
笑うゼク。「そんな怒んな、ちょっとふざけただけだ…。いいか、クワーク。弟と 2人で部屋の家具をどけろ。ノーグ、わしの船から亜空間通信機をもってきて、この部屋に据えつけろ。それからわしの嗅ぎタバコはどこだ?」 メイハードゥから受け取った。「グランド・ネーガス・ブラント?」
タバコの粉が舞う。くしゃみするゼク。

通信機の前に立っているクワーク。「こんにちは。グランド・ネーガス・ゼクの代理です。」
ロムも暗い部屋にいる。「ディープ・スペース・ナインでミーティングを招集します。」
ノーグも 2人と一緒に向き合っている。「ネーガスはあなたの支持を期待してます。」
クワーク:「とても面白い商売の情報が提供されますよ?」
ロム:「儲かる話です。」
ノーグ:「この絶好のチャンスを、ぜひあなたと分かち合いたいということです。」
ロム:「そうです、グランド・ネーガスの話をしてるんです。」
クワーク:「いいえ、ブラントじゃありません。」
ノーグ:「グランド・ネーガス・ゼクです。」
クワーク:「誰が死んだと言ったんです。」
ロム:「待って! 切らないで下さい!」
ノーグ:「もしもし? もしもし? どうなってんだ。」
クワーク:「金儲けの秘訣第94条はよくわかってます。」
ノーグ:「そうです、女と商売は別なもの。※17でもその条文は、いろいろな解釈が可能です。」
「もしもし? もしもし?」
ロム:「ネーガスにその言い方は失礼です。」
「何とおっしゃいました?」
ロム:「もしもし? もしもし?」
ノーグ:「そんな侮辱する必要ありますか?」
クワーク:「もしもし? もしもし?」
ロム:「もしもし? もしもし?」
ノーグ:「もしもし? もしもし?」
クワーク:「その女ですが、たまたま私の母親でねえ。もしもし!」
ロム:「もしもーし!」
クワークは通信機を叩いた。

パッドを見るゼク。「ほんとにこのリストに載ってるコミッショナー全員に連絡を取ったのか?」
クワーク:「432人全員に。」
「それでミーティングに来ると返事したのはたった一人か。」
ロム:「フォローの連絡※18すればもしかして…。」
「どいつもこいつもわしが力を貸し散々儲けさせてやったのに。…その見返りがこの仕打ちか。」
ノーグ:「恩知らずな連中だ。」
イシュカ:「でも悪い知らせばかりじゃない。出席すると言ってるのは、ニルヴァ※19よ?」
クワーク:「スラッグ・オ・コーラ※20の会長の彼か。」
イシュカ:「FCA の中でとても強い影響力をもつ有力者よ。」
ゼク:「だが残念ながら影響はあっても、彼はガチガチ保守派だぞ。」
ロム:「確か 300年 CM の宣伝文句を変えてないほどだ。イエー、スラッグ・オ・コーラ、ドロッと爽やか銀河一ー!※21」 声を合わせて歌うゼクたち。
クワーク:「何でニルヴァは出席するのかなあ。」
イシュカ:「わからないけど、もし説得してゼクの味方につければ、ほかのコミッショナーも従う。」
ゼク:「とにかくまずはそれからだ。」
店にフーパイリア人を連れたフェレンギが入ってきた。
イシュカ:「ねえ? だから慌てるなっていったでしょ?」
派手な服を着たブラント※22は言った。「ならどっちが勝つか賭けるか?」
ロム:「グランド・ネーガス・ブラント!」
ゼク:「暫定グランド・ネーガス・ブラントだ。」
イシュカ:「やっぱり、慌てましょ。」
にやつくブラント。


※14: Chamber of Opportunity
DS9 "Ferengi Love Songs" で登場した部屋。単に「部屋」と吹き替え

※15: Nog
(エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) 前話 "Valiant" 「過信」に引き続き登場。声:落合弘治

※16: Leeta
(チェイス・マスタースン Chase Masterson) DS9 "The Magnificent Ferengi" 以来の登場。声:榎本智恵子

※17: No.94 "Females and finances don't mix."
DS9 "Ferengi Love Songs" では「結婚と恋愛は別物」という訳になっていました

※18: 吹き替えでは「電話」

※19: Nilva

※20: Slug-o-Cola
スラッグ=ナメクジ。言うまでもなく「コカコーラ」からでしょうね

※21: "Drink Slug-o-Cola, the slimiest cola in the Galaxy."
「CM の」は本当は不要でしょうね

※22: Brunt
(ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) DS9 "The Magnificent Ferengi" 以来の登場。声:小島敏彦

ブラントに近づき、肩を組もうとしたクワーク。
ブラント:「イールワッサー※23をもらおうか? 氷なし。」
無言でカウンターへ入るクワーク。
ゼク:「ここへ何しに来た、ブラント!」
錫を見せるブラント。「…私はグランド・ネーガス・ブラントだ。」
イシュカ:「暫定グランド・ネーガスよ。」
ブラントの従者であるユリラッシュ※24は、腕を組んでメイハードゥと向き合う。
ブラント:「ああ、誰かそこの女に服を脱ぐよう伝えてもらえないか? 胸くそ悪い!」
イシュカ:「慣れた方がいいわよ? これが、未来の姿。」
「私の目の黒いうちは許さん!」
ゼク:「ならさっさとくたばるんだな。」
ロム:「あのー、僕と兄貴がドミニオンからマミーを救い出すのを手伝ってくれた思い出話に来たんじゃないよね。」※25
ブラント:「そうとも、そのために来たんじゃない。だが皮肉なもんだなあ、お前たちの母親の救出に手を貸したことが、ネーガスになる第一歩だったとは。」
イシュカ:「思い出したくもない。」
ゼク:「お前など FCA に戻すんじゃなかった、間違いだった。」
ブラント:「だが戻した。そして私は清算人として、賄賂を使って権力の座に戻れた。」
ロム:「ほんとに皮肉だ。」
「現実を見ろ。おしまいだ。お前は終わり。破産した。…私がお前の清算人になる。」 クワークに言うブラント。「イールワッサーはキャンセルだ。その代わりにそうだなあ…スラッグ・オ・コーラをもらおうか? …やっぱりやめとこう。ニルヴァ会長が来るのをただここで待つとしよう。きっと新しいネーガスを、スラッグ・オ・コーラでいくらでももてなしてくれるだろう。」
ロム:「何で来るの知ってるんです?」
「私は何でも知っている! がんばれよ、ミーティングだそうだな。ニルヴァにいくらつかませようと、こっちはその倍だ。」
クワーク:「もういい! バーから出て行け。」
「ネーガスによくそんな口叩けるなあ!」
「暫定ネーガスだ。」 近づくユリラッシュを手で制するクワーク。「財産没収したきゃ明日にでもしろ。でも今はまだ俺の店だ。とっとと出て行かなきゃ、蹴り出すぞ?」
「お前を一文なしにしてやる。ユリラッシュ? 帰るぞ。この貧乏人どもにさよならを言え。」
「失せろ。」
「ふーん。」 ブラントたちは店を出て行った。
ゼクはクワークに近づいた。「お前を誇りに思うぞ。」
笑うノーグ。
イシュカ:「私もよ。」
ロム:「僕も。」
クワーク:「グランド・ネーガスをバーから叩き出したぞ。」
みな口を合わせる。「暫定グランド・ネーガス!」
クワーク:「どっちでもいい。…ちょっと横になる。」

クワークの部屋。
イシュカが入った。「忙しい? クワーク。」
ソファーで横になっているクワーク。「忙しい? 俺が? …いいや。この年になってどっかで新しい生活始められるか考えてた。」
イシュカ:「クワーク、あなたの生き方は何も間違ってない。」
「残念だけど間違ってた。」
「あなた考え過ぎよ。」
「何でもいい。」
「あなたがちっちゃかった※26頃を思い出す。みじめで情けない子供だった。」
「…マミー、ほっといてくれ。」
「母親よ、ほっとけない。」
「頼む!」
手を叩くイシュカ。「さあ、立ちなさい。ゼキーがバーで待ってるから。」
クワーク:「今度は何。」
「トンゴをしたい気分だそうよ?」
「揃ってフェレンギ社会から追放されるってのに、トンゴがしたい?」
「ええ、したいって言ってる。私は夜食でも食べる。でもあなたは寝っ転がってクヨクヨしてる。ストレスの受け止め方は人それぞれね。生きのいいジムシでもないかしら?」
「こんな時よく食えるね。」
「いいのよ、ジムシをつかんで一方を上下の前歯で挟んでから、チューッと吸うだけ。」
「ジムシが欲しい? そう? どうぞ。」 戸棚から瓶を取り出すクワーク。
「これミンチじゃない。新鮮なのない?」
「わかってる? マミーのせいなんだよ。」
「私のせいですって? 新鮮なジムシがないのが?」
「ジムシのこと言ってるんじゃない。俺が言ってるのは、フェレンギの女に服を着せて、金を稼がせたことだ。そのあげくが、グランド・ネーガス・ブラントだ。」
「暫定グランド・ネーガス・ブラント!」
「俺はだまされないぞ。ずっと企んでたんだろう。ゼクに会った時から。ゼクの心をつかみ、ゼクを操って、ゼクの耳に吹き込んだんだよ。『男女の平等』とか言うやつをな。」
「それのどこが悪いの。」
「なら言ってやろう。ゼクの人生を潰した。自分やロムのもだ。」
「まるで私たちが心配みたいねえ、心配なのは自分でしょう。」
「そうとも、心配だよ。自分以外誰が心配してくれる。いきなりステーションにやってきて、俺の部屋を占拠し、俺をとんでもない計画に巻き込んで。」
「どうしたの、クワーク。自分が間違った方についたと思う? いつだってブラントにすりよって許してもらっていいのよ?」
「ブラントなんか関係ない。元のネーガスに戻したいだけだ!」
「ほんとに?」
「昔のゼクに戻ってもらいたいんだ、マミーに会う前のゼクだよ。マミーはゼクの考えをねじ曲げたんだ。女がどうこうってね。」
「私に会う前のゼクは独りぼっちで、寂しい人だった。」
「だけど金持ちだったよ! 最強のフェレンギ人だったのに、今はどうなった? 人形だ。マミーが糸を引いて、フェミニストの馬鹿なダンスを踊らされてる。マミーこそゼクの疫病神だ! 俺にとっても疫病神だ。はっきり言ってマミーはみんなの疫病神だ! フェレンギ全体を不幸にしてる!」
「確かにそうかもしれない、でも少なくとも私はあなたと違う! あなたは身勝手で、意気地がなくて、恩知らずで!」
「みじめを忘れてる。」
「みじめで情けない息子の見本だよう!」
「それしか言うことないのか?」
「まだまだこれからだよう。自分でよくも恥ずかしくないねえ。あんたなんかただの…あ…あんたなんかただの…」
「ただの何だ?」
「あんたは…その…」
「ほら、言ってみろよ。」
「あんたは…あんたは…その…」
「あー! 何だよ!」
イシュカはそのまま、仰向けに倒れた。
クワーク:「マミー? あ…マミー? マミー!」 イシュカの手を取る。「マミー? あ…マミー? マミー?」

医療室でロムを慰めるメイハードゥ。
ロム:「マミー! お願い、死なないで。」
クワーク:「死にゃしない。良くなるさ。」
ゼク:「…だといいがな。わしのため、本人のため、更にフェレンギ同盟全体のために、そして特にお前のためにだ、クワーク。もしもイシュカがこのまま回復しなければ…」
「俺が何したんです?」
「聞きたいのはこっちだ。さっきからずっと考えてた。お前何をした!」
「だから腹が減ったって言うからジムシをあげたんですよう。すると礼を言い、その後ぶっ倒れたんです。同じこと言わせないで下さい。」
ロム:「マミーを怒らせるようなこと、したり言ったりしてない?」
「こんな話もうしたくない!」
手術着姿のベシアが、クワークたちの話を聞いている。
ゼク:「どうした、クワーク。良心がとがめるのか。」
クワーク:「俺は何も悪いことしてません。」
ベシア:「お母さんの話と違う。」
ロム:「ドクター! マミーはどう?」
クワーク:「助かるかい?」
ベシア:「ああ、助かるとも。心臓を交換して正常に機能してるが、数日間は絶対安静だ。それから、クワークがお母さんに近づくのは禁止する。」
ゼク:「どういうことだね、ドクター。」
「よくわからないんだが、お母さんは繰り返し繰り返し同じうわごとを言ってる。『みんなクワークが悪い、みんなクワークが悪い。』」
ため息をつくゼク。
ロム:「ああ…。」
クワーク:「何だよそれ、どういう意味だろうね。」

クワークの店。
ゼクとロムに挟まれたクワーク。「それから…つまりその…フェレンギ全体を不幸にしてる疫病神だってののしったんです。そしたら胸を押さえて倒れました。言い合いはしょっちゅうで、それは一種の愛情表現だ。」
ゼク:「教えてやろう、クワーク。フェレンギ全体を不幸にしている疫病神がいるとすれば、それはお前だ。」
「…すみません。」
ロム:「ニルヴァに連絡して、ミーティングを延期すると伝えなきゃ。」
ゼク:「ミーティングの延期はできない。あと 2日で FCA は、ブラントを新しいグランド・ネーガスとして承認してしまうんだぞ。」
ロム:「どうしよう。ひどいことになった。」
ブラントの声。「方法は一つだ。今すぐその場でひざまずいて、私の慈悲を請うのだあ。」 クワークたちに近づく。「どうかな? 私は機嫌がいいかもしれないぞ。」
ゼク:「今に見てろ、後悔するぞ。ひざまずいて慈悲を請うのはお前の方だ。」
「なかなか威勢のいい言葉だなあ。だが虚しい響きだ。お前たちの母親が回復すると聞いて、とても安心した。もちろんいろいろ心配もあるがな。ニルヴァは今夜ここに到着するが、才気あふれるフェレンギの女性に会うのをきっと楽しみにしている。誰がいるのかな、つまりイシュカ以外にさ。いるわけないなあ。」
憤慨するゼクを抑えるメイハードゥ。
ブラント:「何とまあ。哀れだなあ。かつてはフェレンギ同盟のグランド・ネーガスだった男が、今じゃあ…バーで暴れるだけの、ただのろくでなしだあ。これが顛末だ。女など信じた、あげくのな。」
ブラントは手を振ってゼクをどけさせ、ユーラッシュと共に出て行った。
ロム:「リータはどうかなあ?」
クワーク:「どうって。」
「マミーの代わりだよ。僕の金を管理してるし、女だ。」
ゼク:「その上すごい美人だ。でもニルヴァが会いに来るのはフェレンギの女性だ。」
クワーク:「今から誰も手配できない。」
ロム:「もうダメだあ。」
ゼク:「そんなことはない。いいか、イシュカがいたらあきらめると思うか。」
「マミーがいたら何も問題ないよ。」
「そんなこと言ってんじゃない。イシュカは決して降参などしない。もし代わりの女が見つからなければ、彼女なら…彼女なら、そうだ。」
「どうするんです?」
「自分で作り上げる。」
クワーク:「ホログラムですか?」
「そうじゃない。もっといいものだ。」
「ホログラムよりいいものって何ですか。」
ゼクはクワークを指さした。「…お前だ。」


※23: Eelwasser
イール=ウナギ。バドワイザー (Budweiser) にかけている?

※24: Uri'lash
(Sylvain Cecile)

※25: DS9 "The Magnificent Ferengi" より

※26: 原語では lobling という単語を使っています。lobe=耳たぶ

たくさんのイヤリング。ドレス。大きな胸は、違和感があるようだ。
ロム:「ドクター・ベシアの腕は大したもんだあ。手術は大成功だね、完璧だよ。」
リータ:「きっとすごく、デリケートな手術ねえ。」
クワーク:「そりゃそうだ。」
「できた。」
ハイヒールを履いたクワークは、耳たぶも小さくなっていた※27。「さ、どんな感じだ?」
リータ:「…素敵な女性よ。」
「素敵? それだけ?」
ロム:「すごく素敵だ。」
ゼク:「確かに見かけは女かもしれんが、その声を何とかしなきゃダメだ。」
クワーク:「やってるでしょ! だからその…やってるでしょ。」 声を高くする。
「もっともっとがんばれ。」
リータ:「それから下を見ちゃダメ。」
クワーク:「どんな姿か見てみたい。誰か鏡もってきて。」
メイハードゥがもってきた鏡で、自分の女性姿を目にするクワーク。
ロム:「どう、兄貴。すごく可愛いでしょ。」
クワークは叫んだ。「あー!」
リータ:「ホルモンの影響ね。」
ロム:「女性ホルモン?」
クワーク:「どけてくれ! どけてくれ! ごめんなさい、だけど何かすごく…変な気分がするの。」
リータ:「自分の胸なんか見ちゃダメよう?」
「自分の胸なんか見ちゃいない。見てんのは尻だよう! 大きすぎない?」
ゼク:「いい尻してるぞ、さあ準備に取りかかるんだ。ニルヴァとのミーティング用に、イシュカが作ったノートだ。しっかり予習しとくんだぞ。」
ハイヒールのため、つまずきそうになるクワーク。パッドを見る。「『女性のファッションはフェレンギ星に新たなラチナムをもたらす。ヒピケート・クリーム※28はスベスベのお肌と利益を約束する。』 こんなたくさんのこと。数字も一杯。とても私には覚えられない。」
ゼク:「何馬鹿なこと言うな、ちょっと練習すればプレゼンテーションぐらい大したことないだろ。」
リータ:「それから、それを覚えてる間に歩き方も練習しないと。」
クワーク:「私のどこが悪いの?」
「あなたは…ドシドシ歩く。」
「ああ! こんなの上手くいかない。」
ロム:「泣くなよ、兄貴! さあ、手本だよ。しっかり見ててね。」 ゆっくり椅子に向かって歩く。「滑るように歩くんだ。」
リータ:「それって…いい感じ。」
「座る時は、膝をきちんとつけて、肩の力をスッと抜いてリラックス。でもお尻はキュッ。」
椅子に腰掛けたロムを、クワークたちは無言で見た。
ロム:「……何なの?」
クワーク:「ロムがドレスを着ればいいんじゃない?」
「何で僕が!」
リータは笑い、ロムに近づいた。「あなたってすごくかわいらしい。それに…いろいろできる。」
クワーク:「あ、きっとまだ間に合う。さ、ドクター・ベシアのところに行こう?」 ロムを連れて行こうとする。
ゼク:「あきらめろ、クワーク。ロムはお前より女っぽいかもしれないが、ビジネスの話となったら、お前の方が才能あるだろう。」
「抜けててまた助かったみたいねえ。」
ロム:「結構得することもあるよ。」
「…やることにする。ただ一度のミーティング。その一度だけなら、女になれる。でしょ?」
リータ:「ダメよ、ドシドシ歩いてちゃ。」
「なら座ってミーティングする。」
ロム:「お尻はキュッ!」
ゼク:「ああ大丈夫だ、お前だったらきっと立派にこなせる。お前を、誇りに思うぞう。」
足を触るゼクの手を、クワークは引っぱたいた。
ゼク:「すまなかった。…だがなあ、確かに歩き方は男かもしれないが、お前はとても魅力的な女性になった。混乱してくるだろう。」
クワーク:「やめてちょうだい。」
ノーグが入る。「来ました、到着しました。」
ゼク:「誰が?」
「ニルヴァです。」
クワーク:「ニルヴァは明日着くんじゃなかったの?」
ゼク:「ニルヴァめ、油断ならない奴だ。…だけどコーラはうまい。」
ロム:「どうするの?」
クワーク:「ダメ、会う準備できてない。まだドシドシ歩くでしょう。」
ノーグ:「すごく素敵です。」
ゼク:「ノーグ、会長を部屋にご案内して、今夜は私と夕食だと伝えろ。」
「はい、でもおばあちゃんのことを聞かれたら。」
「イシュカは病気だと言え。それで明日のミーティングには、わしのもう一人の女性経済顧問が出席すると…あー…えー、名前は…ランバ※29だ。」
「はい。」 出て行くノーグ。
クワーク:「ランバ?」
ゼクたちはクワークを見る。
ゼク:「さっさとそのノートを暗記してしまえ。」
リータ:「それからまず歩き方の練習を始めなきゃ。」
ロム:「お尻はキュッ。」
ゼク:「声も何とかしなきゃな。」
クワーク:「ほかに意見ない?」
「今まで誰かにお前は、可愛い目してるって言われたことないか?」


※27: 性転換手術 sex-change operation
エンサイクロペディアではこのような項目名になっていますが、「外科的に変えた」となっているので、本当に何もかも (?) 女性になったわけではないと思われます

※28: hypicate cream
ヒピケート (ヒップキャット、hypicate) は DS9 "The Magnificent Ferengi" で言及

※29: Lumba
その前に何度も「ドシドシ歩く (lumber)」という言葉を使っていたからだと思われます

エアロックから出てきたニルヴァ※30。ノーグが出迎える。
手に持った瓶を突き出すニルヴァ。「さあ! スラッグ・オ・コーラをやろう。」
ノーグ:「どうも。」 コーラを受け取る。「ディープ・スペース・ナインへようこそ、ニルヴァ会長。」
「スラッグ・オ・コーラを飲んでるかな?」
「ドロッと爽やか銀河一。もちろんですよ。」
笑うニルヴァ。「いい子だな。ゼクのところに案内しろ。」
ノーグ:「あの、お部屋にご案内しようと…」
「あー! グチャグチャ言うな。コーラを飲んで案内しろー!」
「あー、ああ…」
逆の方向へ、勝手に歩いていくニルヴァ。

歩き続けるニルヴァ。
ノーグは見失いそうになる。「あー! お部屋の方に寄って、ちょっと一休みしませんかー?」
ニルヴァ:「それより先にゼクの女性顧問を見たい。」
「ああ…。」

廊下の先では、ブラントが待っていた。「ニルヴァー! 元気か。また会えたな。」
錫にキスするニルヴァ。「グランド・ネーガス・ブラント。」
何とか追いついたノーグ。「暫定グランド・ネーガス・ブラントです。」
ニルヴァ:「きっとあなたも来てると思ってた。」
ブラント:「ゼクとのミーティングが終わった後で、ちょっと話をしよう。」
「おお、それはいい。だが私が来たのは、イシュカに会うためだ。」
「聞いてないのか? イシュカは医療室にいる。誰とも会える状態じゃない。」
ノーグ:「ですからミーティングの方には、ゼクのもう一人の、経済顧問が出ます。彼女の名は、ランバです。」
「聞いたことないぞ?」
ニルヴァ:「ゼクには 2人女性顧問がいたのか。」
「このステーションに、フェレンギの女が 2人もいるとは知らなかった。」
「さあ、何グズグズしてる。そのもう一人の女性顧問に、会いに行こう。」
ノーグ:「やっぱりまず、ステーションの中をご案内しましょう。」
「その女性が先だ。ランバだ!」
ニルヴァとノーグは歩いていった。
ブラント:「…ランバ?」

リータは寝室に向かって言った。「もう一度やってみて。」
出てきたクワークは、ゼクの前に座る。「私はランバです。あなたがニルヴァ会長ですね? ゼクからいろいろ、お噂は聞いてます。ああっ。」
リータ:「今度は何なの。」
「あー、このイヤリングよ。すごく痛い。つけなきゃいけない?」
ロム:「女だったらイヤリングがなきゃ。…何でさっきから僕を見るんだ。」
「私もう寝る。」
ゼク:「今か?」
「疲れちゃったの。寝とかないと明日のミーティングを乗り切れない。」
ドアチャイムが鳴った。
リータ:「誰かしら。」
ロム:「どうぞ!」
ドアが開き、手を挙げるニルヴァ。
ゼク:「ニルヴァ。」
ニルヴァ:「ゼク!」
慌てて後ろを向くクワーク。
ゼクと握手するニルヴァ。「ああ、さ、スラッグ・オ・コーラをどうぞ。ああ、心配ない。みんなの分もちゃんともってきた。」 コーラを配る。
ノーグ:「どうしてもすぐ会いたいとおっしゃるもので。」
後ろを向いたままのクワークに話しかけるニルヴァ。「ああ、君がきっとルンガだな。」
クワークはニルヴァに向き直った。「ランバです。」
ニルヴァ:「おお、服を着たフェレンギの女性か。」 ゼクに話す。「まさにあなたが許可したものだ。どうやらあなたは、嗅ぎタバコをやりすぎてどうかしてたか、これまで商いの塔の最上階に座った誰より空想力が豊かだったかだ。」
ゼク:「それじゃこれから 2人で夕飯でも食って考えよう。…クワークのグリルで、ここは一つ上等でジューシーなカタツムリステーキ※31だ。…ランバとは明日のミーティングで会える。」
「ところがそうはいかなくなった。私は朝一で発たねばならない。フェレンギ星に戻る。株主との大事な会議の予定がある。だがそうは言うものの、カタツムリステーキも魅力的だ。…そうだ。ランバと二人で食事をすることにしよう。」
クワーク:「私と?」
ゼク:「服を着た女性を連れてるのをみんなから見られたら…落ち着かないでしょう。」
ニルヴァ:「確かに落ち着かん。だがあなたと私は長年一緒にガッポリラチナムを稼いだ仲だ。多少の気まずい思いなど、我慢して当然だ。でも…もしランバがあなたと言ってた話と違うようなら…この私が自分であなたを精算するかな。」 大きく笑う。「さあ。食いに行こう。」
クワーク:「ああ…ああ。」 仕方なく手を組む。
ニルヴァは喜び、クワークと一緒に部屋を出た。
ロム:「行ってらっしゃーい!」

クワークの店。
2人のフェレンギ人に皆注目する。
やってきたウェイターに注文するニルヴァ。「カタツムリステーキ、2つ頼む。さて、一つ質問だ。服を着てると自分が異常だと感じないか?」
クワーク:「感じません。理由はこうです。たとえ外見は服を着ていても、中の私は裸だからです。」
「なるほど、覚えておこう。…さあ、説明してもらおうか。女性が服を着ることを許せば、なぜ私は今よりリッチになれるんだね?」
「ぜひそれを聞いて欲しかったんです。このドレスを見て下さい。これをフェレンギ星にもっていったら、いくらで売れるかわかります?」

その様子を、2階からゼクたちが見ていた。
リータ:「ねえ教えて、あの 2人何話してんの?」
ゼク、ロム、ノーグの 3人は言った。「シーッ!」

話し続けるニルヴァ。「…ちょっとここで話を整理させてくれ。女性に…服を着る権利を与えれば、それは同時にポケットを…与えることになる。そしてポケットをもてば、それをラチナムで満たしたくなる。」
クワーク:「そのためには仕事が必要になります。」
「…女性が自分でラチナムを稼げば、それを使いたくなる。」
「それは即ち、フェレンギ星が労働力と消費ベースを同時に獲得できるということです。」
2人は笑う。
ニルヴァ:「ああ、みんなに莫大な利益がもたらされる。」
クワーク:「儲けの話となれば、私がご協力します。…というわけで、もう少しラチナムを…稼いでみたらどうですか?」
「どういうことだ?」
「飲料業界にも興味があるんですが、スラッグ・オ・コーラの業績は頭打ちで、イールワッサーの第3四半期はめざましかったとか。」
「あー! ただの巡り合わせだあ。」
「スラッグ・オ・コーラのシェアを、50%から 60 に引き上げたくありませんか?」
「…じっくり聞かせてもらおうか。」
「ターゲットは新たな女性の消費者です。彼女たちに売り込んで、飲ませるんです。」
「今だって誰も禁止しておらんぞ。」
「積極的に勧めてもいません。『ドロッと爽やか銀河一』。その宣伝文句は女性にアピールしません。」
「…何ならアピールする。」
「そうですねえ。…スラッグ・オ・コーラの 43%は海草です。でしょ?」
「も、も、もちろんだ。」
「それじゃ、こんなキャッチコピーはどうですか? 『スラッグ・オ・コーラを飲もう。ほら、歯はいつも素敵なグリーンの輝き。』」
「…おお…ゼクの言った通りだった。君はとても賢く、頭が切れる。」
「女にしてはね。」 笑うクワーク。
声が上ずるニルヴァ。「…そうだ、そろそろ…デザートにしないか?」
クワーク:「それはいいですね。」
ニルヴァは立ち上がって、手を差し出した。
クワーク:「あ…デザート食べるんじゃないですか?」
ニルヴァ:「食べるとも。私の部屋で。」
無理矢理笑うクワーク。先に歩いていく。
喜ぶニルヴァも後を追った。


※30: Nilva
(ヘンリー・ギブソン Henry Gibson コメディアンで、革新的なテレビシリーズ "Laugh-In" のレギュラー) 声:青野武

※31: snail steak

ニルヴァの部屋。
ニルヴァとクワークが入り、ドアが閉められる。振り返るクワーク。「あっ!」
ニルヴァ:「今まで思ってもみなかったが、服を着た女性には何ともうーん…そそられる。」
上着を取られるクワーク。「そそられる? まさか。馬鹿言わないで。」
ニルヴァ:「あー…。やっとこれで、二人っきりになれた。周りからジロジロ見られることもない。」
クワークは動きやすいように、ハイヒールを脱ぐ。
ニルヴァ:「け、け、けれど…正直言って、人から見られるのも、なかなか…刺激的だ。」
追いかけるニルヴァから逃げるクワーク。「刺激的すぎませんでしたか?」
ニルヴァ:「あー、この燃える耳たぶを、抑えられようか。あ? あ? あー信じられないなら、さあ触ってみろ。触れ! うー…。」 耳を突き出す。
「言葉を信じます!」
「何でもすると言ったじゃないか。」
「嘘です。」 寝室に逃げ込むクワーク。
「おお…ああ…あー! おいで、お前は私の愛の奴隷だあ。おいでー!」 ニルヴァも入った。
2人の声だけが響く。
クワーク:「あー! あー!」
ニルヴァ:「いいじゃないか、こっち向いて。ほれ。こっち向きなさいって言うに。そんなに…後ろ向かないで。いいからこっちへおいで、ほれ。」
クワークは椅子をニルヴァに向けながら出てきた。「あっちへ行って! 来ないで! 来ないで!」
ニルヴァ:「結婚してくれ!」
「奥さんが許さないでしょう?」
「構うか、もうずっと私の耳たぶに触れてない。」
「その様子じゃそうねえ。」
「お前が必要だ。」
「今あなたに必要なのは、冷たいシャワーよう。」
「それはいい考えだ、私の背中を流してくれ。」
「ほんとは!」
「何だ?」
「正直に言うと!」
「何だ?」
「スラッグ・オ・コーラ大嫌い!」
「私もだ!」 クワークの椅子を取り、投げ捨てるニルヴァ。「わー! 私をじらす気か?」
「あっちへ行って!」
「あっちへ行け?」
「じゃなきゃ。」
「じゃなきゃ?」
「じゃなきゃ、飛び降りる!」
「受け止めよう!」
棒にぶら下がるクワーク。「あー!」
抱きつくニルヴァ。「受け止めてあげる! 受け止める!」
そこへブラントとユーラッシュがやってきた。
ブラント:「その男を離せ!」
クワーク:「その通り!」
ニルヴァ:「出てってくれ。ランバが嫌がるだろ。」
ブラント:「そいつの名はランバじゃない。しかも男だ!」
驚くニルヴァ。「あ…男だと?」
ブラント:「全く…哀れなもんだ、ゼクの奴。必死だったに違いない。」
「ほんとなのか? お前は…男か?」
クワーク:「男に見える?」
ブラント:「がんばったな、クワーク。だがうまくはいかんぞ。こいつはこのステーションのバーテンだ。」
ニルヴァ:「あ…バ…」
クワーク:「こんな奴の話、信じちゃダメ。私は正真正銘の女よう? これからあなたに証明してあげる…。」 ニルヴァの耳たぶに触れ、キスするクワーク。
ブラント:「ああ…。」
ニルヴァ:「うーん…。」
クワーク:「どう?」
ふらつくニルヴァ。「さあ、まだよくわからん。」
クワーク:「……そう? わかった。」 服を脱ぎ始めるクワーク。前をはだけさせ、2人に見せた。
ニルヴァ:「あ。あらー…。」
「これではっきりした?」
「おー。完璧だ…。」
ブラント:「違う! こんなのインチキだ! こいつは絶対女じゃない!」
「どうかな。私には十分、女に見える。」
クワークは服を戻す。
ニルヴァ:「…さあ、私とおいで。ゼクをグランド・ネーガスに留めるため、私はできる限りの協力をすると、あいつに伝えに行こう。」
ブラント:「でも、どうして!」
「それを、ランバが望んでるからだ。」
ブラントに投げキッスし、ニルヴァと一緒に出て行くクワーク。
ブラント:「そいつの名前はクワークだ!」

クワークの店。
元に戻ったクワークはカウンターで、手に取った指輪を見つめている。
オドーがやってきた。「いい指輪だな。」
クワーク:「プレゼントだよ。…可哀想に、ニルヴァはいい人なのに孤独。」
「そうか。」
「…彼はとても優しくて、強さも備えてた。時々、目がキラリと光ってた。」
無言のオドー。
クワーク:「わかるかなあ。」
オドー:「よくわからんが…夕べは楽しかったようでよかった。」
「俺をからかってるのか?」
「…ちょっと感情的になりやすいようだな。」
「男に戻ってから、まだ 6時間。ホルモンのバランスが崩れたままなんだ。感情が高ぶって、コントロールできないんだよ。」
「それじゃ何か…手伝えるか。」
「あ…もし嫌じゃなければ、俺のことを…抱いてくれる?」
「抱く?」
「ほんの軽くでいいんだ。」
やむなく答えるオドー。「…わかった。」
「ありがとう!」 オドーに抱きつき、泣き始めるクワーク。
モーンやウェイターが見る。
仕方なくクワークの頭に触れるオドー。やっとで離れた。
ゼクたちが来た。「邪魔してなければいいが、取り込み中か?」
オドー:「ああ…失礼します。」 すぐに出て行く。
ゼク:「別れの挨拶に来た。これからフェレンギ星へ帰る。」
イシュカ:「ドロドロの川が流れ、街は幸せな女性たちであふれかえる土地よ。」
「そしてそこでは、全てが計画通りにいけば、FCA のコミッショナーたちが再びこの私をグランド・ネーガスと認める。」
ロム:「それはいいですが、ブラントはまたチャンスを狙ってきます。」
「ヘ、そうじゃなきゃあ面白くない。」
イシュカ:「ニルヴァが味方になってくれてよかった。お礼を言わなきゃね、クワーク。」
クワーク:「許してくれる? マミー。」
「…当たり前でしょう。どうしようもない息子でも、素晴らしい娘になったもの。」
高い声で笑うクワーク。
イシュカ:「この経験で何か学べればいいけど。」
クワーク:「すごく哀れみ深くなって、人に同情して、優しくなった。まるで冷めない悪夢を見てるようだ。」
ゼク:「心配ない、そんなもんは長続きせん。すぐまた、元のお前に戻るに決まってる。」 メイハードゥと共に出て行った。
イシュカもクワークの頭にキスした後、ゼクの後を追う。クワークは手を振り、ため息をついた。
ロム:「ああ…兄貴はすごーくラッキー。」
クワーク:「あ?」
「僕指輪もらったことないもん。」
アルーラが来ていた。「クワーク?」
クワーク:「アルーラ。」
「本読んだけど。」
「何の本だ?」
「ほらあの、喜びと金儲けの…」
「こんなクズ読んで、時間を無駄にしちゃダメだ。」
「あなたが読めって。」
アルーラの前に座るクワーク。「そんなの忘れろ。俺の間違いだった。本当にすまない。君は素晴らしい従業員だ。君が働いてくれて幸運だ。その証拠に今日から…給料を増やそう。週につきラチナム 2枚増しだ。」
アルーラ:「本当に?」
「うん、それぐらいしないとな。」
「ああ…でもがっかり。」
「わかった、3枚にしよう。」
「いや、そうじゃないんです。」
「なら何だ?」
「…ウー・マックスって、ちょっと面白そうかなあって。鼓膜コチョコチョ※32とか、エウストキオ管スリスリ※33とか、聴神経ツンツン※34とか。」
「やめろ!」
「でも、あなたがそう思ってるなら。」
「まさにその通りだ。よくわかってるな。」
がっかりした顔で、アルーラは歩いていった。
クワーク:「……俺何言ってんだ? アルーラ! 待って。」
アルーラを追うクワーク。


※32: tympanic tickle

※33: eustachian tube rub

※34: auditory nerve nibble

・感想
DS9 には欠かせないフェレンギ話で、今回も多数のサブレギュラーや魅力的なゲストと共に楽しませてくれました。単なる女装を超えたクワークの変貌は気持ち悪いですね (誉め言葉です)。
この話は本国のファンの間では、全シリーズを通してもかなりの駄作として分類されているようで、観るまでは結構心配でした。でも最後まで観ても、そんなことは感じませんでしたね。やっぱりアドリブ的なものを含めた、一流声優の力も十分影響していると思います (例えば寝室でクワークとニルヴァが暴れるところは、原語では全くセリフなし)。「目玉の親父」の田の中さんも、ゼク役として継続されて良かったですね。


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