シスコ:『この数年で学んだことがあるとすれば、悪い知らせがもたらされるのは、決まって夜中だということだ。』
ベッドで寝ているシスコに、通信が入った。『キラよりシスコ大佐。』
シスコ:「ああ…どうした、少佐。」
『たった今宇宙艦隊司令部より優先通信を受信。ベタゾイド※5がドミニオンに侵略されました。』
起き上がるシスコ。
司令室で話すシスコ。「第一報によれば、侵略軍はカランドラ・セクター※6のどこかの地域からやってきたらしい。」
ダックス:「艦隊の情報部は敵軍について何か把握してるの?」
ウォーフ:「いや、あそこはドミニオンの供給ラインから遠くて脅威にならないと思っていた。」
シスコ:「悪いことが重なってしまった。ベタゾイドと周辺のコロニーを守っているはずの第10艦隊※7は、たまたま訓練で現場を離れていたんだ。更に悪いことに、ベタゾイドの防御システムは時代遅れで人手不足だった。ベタゾイドはあっという間にドミニオンの手に落ちた。」
キラ:「あそこがジェムハダーに占領されたら、ドミニオンは周辺国を脅かす。ヴァルカンや、アンドリア※8、テラライト※9、アルファ・ケンタウリ※10も。」
ダックス:「新たな同盟が必要になるとしたら、今がその時期ね。」
店で仕事をしているガラック。
シスコがやってきた。「ガラック。あれから 3日だが、何か進展は。」
ガラック:「見方によっては進展といえるでしょうな。」
「では教えてやろう。ベタゾイドがドミニオンの手に落ちた。モタモタしてる時間はないぞ。」
「大佐の焦る気持ちは理解できます。実際、先日の話を聞いて、私はすぐにカーデシアに残る昔の仲間にちょっと探りを入れてみました。こっちの思惑通り、私同様現政権を非常に嫌っていました。奴らを倒すための仕事なら、どんなことでも喜んでやる連中ですよ。」
「すごい進展ではないか。」
「それが、運の悪いことに、仲間は死んだ。」
「何?」
「そうです。私と話して間もなく、全員殺されました。ドミニオンのセキュリティの優秀さを証明してやったようなものです。実に鮮やかな手際の良さでした。」
「…残念だよ。」
「でもそう簡単にあきらめないで。何しろ、工作員数人の犠牲では済まなくなります。全宇宙域の運命が、かかっているんですからねえ。大佐が始めたのは、そういう問題です。」
「何か案があるのか。」
「あるにはあるんですがね。でも大佐が…気に入るかどうか。」
「話してみろ。」
「何がなんでもドミニオンのロミュラン攻撃計画の証拠を手に入れたいと言うのなら、その証拠を、我々ででっち上げてしまうまでのことですよ。」
自室のシスコ。「今思えば、そこでやめておけばよかった。つまりこういうべきだった。『貴重な意見ありがとう、ミスター・ガラック。もう少し考えてみよう。』 そしてオフィスに戻り、全てを忘れる。だが私は受け入れた。彼の話は、理にかなっているように思えたのだ。」
話し続けるガラック。「男の名前はヴリーナック※11。14年の長きに渡って、ロミュランの議員を務めている人物です。戦争計画評議会の長官で、タル・シアーの副議長。」 パッドにロミュランの顔が表示されている。「ネラル※12総督が最も信頼を寄せるアドバイザーの一人でもある。」
シスコ:「それにドミニオンとの不可侵条約をまとめた人物でもある。」
「彼をよくご存知のようだから、後の経歴は省きましょう。重要なのは、ヴリーナックがドミニオン通として今も議会で重要な地位を占めているということです。ドミニオンが脅威であると…本人を説得できれば、後の議員は彼に従う。」
「それで方法は。」
「10日後に、ヴリーナック議員はウェイユンとの外交会議でソカーラ※13に行く予定になっています。そこであなたが、ヴリーナックをディープ・スペース・ナインに招待して下されば、回り道をして内密にステーションに寄るように説得できるのは間違いないでしょう。※14」
「彼のソカーラ行きはどうやって知った。」
「曖昧にしておいた方がいいこともあります。続けていいですか?」
「いいだろう。」
「ヴリーナック議員が到着したら、ホログラムで作った記録を見せるんです。ドミニオンの最高レベルで話し合われた秘密会議をねえ。そこで、連中はロミュランの侵略計画を密談している。大佐は議員に、この情報は惑星連邦が多大な犠牲を払って、幾多な苦難の末に得たもので、これを手に入れるまでに少なくとも 10人の命が犠牲になったとか何とか、上手くごまかす。相手はすぐに偽造だと疑うでしょうが、偽造など不可能だと彼を説得するんです。『よろしいですか、議員。これは紛れもなく公式なカーデシアの文書です。公式文書を保存するための、一回限りの…光分解データロッド※15なんです。このロッドは、カーデシア・プライムが必要にする時だけ作られます。ですからデータのロッドは一度だけ記録可能で、変更は不可能なんです』と。」
「チェックしたいというだろう。」
「でしょうね。そして検査の結果、彼は完全に本物だと知って驚くわけです。ともかく、本物らしく見えるはずです。」
「でも実際には。」
「光分解データロッド自体は本物ですが、その中身は、今までにないような完璧な偽造データが入っています。データロッドはまだ見つかっていませんが、ホロ記録を作ってくれる人物は、既に確保しました。」
「こういうことは私の一存では許可できない。艦隊の司令部に確認しなければ。」
「そうでしょう。でもベタゾイドが侵略された今、ロミュランを戦争に導くためなら、司令部は何でもやるでしょうね。」
「…後で知らせよう。」
「最後にもう一つだけ。その…ホロプログラムを偽造してくれる男についてなんですが、実は…現在クリンゴンの刑務所で、死刑を待つ身です。時間の節約と彼の命を救うために、大佐がガウロン総裁に連絡を取って、恩赦を願い出て下さると、都合がいい。」
「死刑囚の名前は。」
「グラソン・トラー。」
異星人のトラー※16は言った。「全く大佐には、何とお礼を申し上げてよいかわかりませんよ。クリンゴンは明日俺を死刑にするつもりだったんだ。毎日のように脅されました。連中にとっちゃ一種のゲームみたいなもので。」 笑う。
シスコ:「仮釈放の条件は承知しているんだろうね。」
「もちろん。クリンゴン帝国に近づくなと釘を刺されました。辛いが仕方ない。それからもう一つ、大佐のために…何か特別なホロプログラムを作るようにと。楽しみだねえ、宇宙艦隊と仕事をするのは初めてだ。」
「一つ念を押しておくぞ。これは宇宙艦隊の仕事じゃない。非公式の依頼だと心得ていてくれ。私のために、仕事をしてもらおう。」
「ああ、個人的な依頼か。大佐だけが観る特別プログラムですかなあ。それじゃあイキのいい、オリオンの召使い女を大勢登場させて、それからもっと…」
「ミスター・トラー! とりあえず自分の部屋で待機しているように。必要な情報は全てガラックが用意してくれるだろう。」
「ガラックが? 来てるのか。」
「そうだ。」
「ああ。ああ…ふむ。…そういうことなら、自分の部屋で待つことにしよう。」 上級士官室を出ていくトラー。
シスコ:『トラーの言葉を信じるなという、心の奥で聞こえていた声を、私はなぜ無視したのか。だがその直後に、私は自分が過ちを犯したという…』
シスコ:『…事実を、思い知らされることになる。』
司令官室のシスコ。
通信が入った。『オドーよりシスコ大佐。』
シスコ:「何かあったのか。」
オドー:『突然申し訳ありませんが、大佐はグラソン・トラーという男をご存知で。』
「ああ。彼がどうした。」
『クワークがトラーに刺されました。』
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※5: ベータゼッド Betazed 惑星。TNG第11話 "Haven" 「夢の人」など
※6: Calandra Sector
※7: Tenth Fleet
※8: Andoria アンドア (Andor) とも。アンドリア人の母星。DS9第140話 "Change of Heart" 「至高の絆」より
※9: テラー Tellar テラライト人 (TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」など) の母星
※10: ケンタウルス座アルファ Alpha Centauri 恒星。TOS第21話 "Tomorrow Is Yesterday" 「宇宙暦元年7・21」など
※11: Vreenak (スティーヴン・マクハティ Stephen McHattie ENT第53話 "The Xindi" 「トレリウムD」の異星人鉱山長 (Alien Foreman) 役) 声:谷口節
※12: Neral ロミュラン帝国の総督。TNG第107・108話 "Unification, Part I and II" 「潜入! ロミュラン帝国(前)(後)」に登場
※13: Soukara ドミニオン基地がある、カーデシア領域の惑星。DS9 "Change of Heart" より
※14: 「…ステーションに寄るよう私が彼を説得しましょう」と訳されています
※15: optolythic data rod
※16: Grathon Tolar (Howard Shangraw) 種族名不明。声:佐藤祐四
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