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ディープスペースナイン エピソードガイド
第143話「消された偽造作戦」
In the Pale Moonlight

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・イントロダクション
自室で座っているシスコ。「司令官私的記録、宇宙暦 517…えっと…5174…コンピューター、今日の日付は。」
コンピューター:『宇宙暦 51721.3 です。』
「あれからまだ 2週間か。……事件を見つめ直さなければ。せめて自分自身の中だけでも、自分の行動を…きちんと正当化しておきたい。誰かに話せることじゃない。ダックスにさえ。…日誌に残すつもりで事件の経過をたどれば、納得できるかもしれない。どこでどう間違ったのか、はっきりするだろう。ことの始まりは 2週間前だった。」

部屋に集まっている士官たち。
シスコ:『…上級士官室で週の犠牲者を発表していた時だ。この 3ヶ月間、毎週金曜に宇宙艦隊における戦争犠牲者、行方不明者の公式リストを発表するのが恒例だった。それは厳かな儀式のようになっていた。士官たちは 1週間ごとに、その忌まわしいリストから、愛する家族や友人、知人の名前を発見し、故人を偲んだ。私は金曜を嫌うようになった。』
ウォーフと一緒にリストを見た後、ダックスは落ち込んでいた。
シスコ:「誰が亡くなったんだ。」
ダックス:「…レスリー・ウォン※1。」
「カイロ※2の艦長か。」
「アカデミーで 2年生の時に私の教官だったのよ。」
ベシア:「船に何があったんです。」
シスコ:「ああ、カイロはパトロール中に消えてしまったんだ。ロミュランの中立地帯※3だ、調べてみよう。」
ダックス:「いいのよ、よくある話だってわかってる。ジェムハダーがロミュランとの境界を越えて、奇襲攻撃をかけたのよ。今までにも何百回と起きてることだわ。」
ベシア:「自国の領土に侵入するのを、ロミュランが許すとは思えない。なぜそんなことが。」
シスコ:「ロミュランはドミニオンとの間に、不可侵条約を結んでいるからなあ。だから彼らは友好の名のもとに、大抵のことは素知らぬ振りをする。」
「ロミュランを戦争に引き入れて、こっちの味方にできないかな。宇宙艦隊とクリンゴン、ロミュランが連合を組めば、攻勢に出られるのでは。」
ダックス:「それはロミュランにとって最後の手段よ。だってそうでしょ、彼らは完璧な立場にいる。ライバルたちが長く悲惨な戦争を続けるのを、高見の見物を決め込んでいられた。」 シスコは犠牲者リストを見た。「利益を脅かされていない限り、ロミュランが首をかける必要はない。連邦の戦争に関わる何の理由もないのよ、これっぽっちも。」
シスコ:『その瞬間、私は決意した。それは自分自身で一歩前に踏み出したような感覚だった。私はロミュランを戦争に引き込もうとしていた。』


※1: レスリー・ウォン艦長 Captain Leslie Wong

※2: U.S.S.カイロ U.S.S. Cairo
連邦宇宙艦。エクセルシオ級、NCC-42136。TNG第136話 "Chain of Command, Part I" 「戦闘種族カーデシア星人(前編)」より

※3: Romulan Neutral Zone
ロミュラン帝国と惑星連邦間の宇宙領域。TOS第9話 "Balance of Terror" 「宇宙基地SOS」など

・本編
シスコは司令官室でダックスと話している。「参戦すれば自国のためになると思わせることだ。それがロミュランが戦いを始める理由になる。誰かのためではなく、ドミニオンから自国を守るためさ。」
ダックス:「わかったわ、ロミュランの総督のつもりで話してみるわね。ロミュランにとってドミニオンは脅威になりません。彼らとは不可侵条約を結んでいます。同盟国ですよ?」
「ドミニオンに対する信義は相当なものですなあ。」
「そうではありません。戦争が始まって以来、彼らを間近に見つめてきました。今のところ、彼らは協定を守っています。」
「ドミニオンは度々そちらの領土を侵している。どこが同盟国だ!」
「彼らはロミュランの裏庭を通って惑星連邦の面目を潰そうとしている、それだけのことですよ。」
「ドミニオンが惑星連邦だけを潰そうとしていると考えるほど、愚かではないでしょう。我々の後に狙われるのはロミュランだ。」
「憶測に過ぎません。」
「創設者にとって、銀河系に秩序をもたらすのが聖なる義務だ。完全な秩序のすぐそばに、ロミュランのような国が存在するのをドミニオンが許すものか。ありえない! 我々の敗北は即ち、総督の死刑執行令状につながっています。」
「だが多大な犠牲が伴う戦争に、ロミュランの忠実なる国民を引き入れる前に、もっと具体的な証拠が欲しい。宇宙艦隊士官の利己的な主張よりね。ドミニオンの裏切りの証明が欲しい。千の言葉よりも、証拠だ。」
しばらくの間の後、2人は笑い出した。
シスコ:「上出来だよ、おやじさん。なかなかできたロミュランだった。」
ダックス:「…とがった耳が気に入ってるのよ。」
「…よし、そこで話の続きだが、ロミュランは証拠を欲しがるだろう。…だがロミュランを攻撃するというドミニオンの計画の証拠が実際にあるとしてもだ、恐らくカーデシア・プライム本部の…奥深くに隠されているだろうな。」
「とても接近しやすい場所とは言えないわね。」
「……我々には難しいが、カーデシア・プライムの内情に詳しい男が一人、丁度このディープ・スペース・ナインにいるじゃないか。」

上級士官室に呼ばれているガラック※4。「これはこれは! 嬉しいことを言ってくれますね。私の能力をそんなに評価して頂けるとは、何と申し上げていいか。この私にかつての祖国から、機密情報を引き出せると期待して頂けるなんて、真に光栄です。」
シスコ:「ガラック、いつものおしゃべりはそれぐらいにしておいて、差し迫った問題に専念しよう。できるのか、できないのか。」
「…ドミニオンが潰されるのを誰より願っているのは、私ですよ。ですがカーデシア・プライムに行くのは、即ちアルファ宇宙域で最も警備の厳しい基地を突破して、極秘戦争計画を盗むということで、それを無事持ち帰るのは至難の技です。自爆任務のようなものですよ。それに、私が得意としている分野の仕事とは言えませんしね。」
「……何も君自身が行けとは言ってない。君のような男なら現地に接触できる相手を 5、6人は確保してるだろう。オブシディアン・オーダーの仲間、旧友、信頼できる情報屋、誰かしら君に借りのある奴がいるはずだ。」
「恐らく。」
「今こそ、その借りを返してもらう時じゃないかね?」
「今回は大勢の仲間が必要になりますよ。大佐の依頼を引き受ければ、カーデシアに残した情報源を使い果たすことになるでしょう。…それに今回は、ひどく厄介で残虐、そういう類の仕事かも。その覚悟はできていますか?」
「……今朝私は 14回目の犠牲者リストを発表した。私は既に厄介で残虐極まりない仕事に、足を突っ込んでいるのだ。そしてその事態を終結させるには、ロミュランを戦争に引き込むしかない。その目的を達成するためならどんなことでもやる覚悟はできてるが、独りでは無理だ。君の力がいる。さて、やるのか、やらないのか。」
「…やりましょう。」
シスコ:『父がよく言っていた。地獄への道は、善意で敷き詰められていると。』

自室のシスコ。「…こうして私の計画は動き出した。私は決意したのだ、どんな犠牲を払っても、目的を果たそうと。なぜなら私には大義があるからだ。そう、目的は立派なものだった。…最初は、何の疑いも抱かなかった。」


※4: エリム・ガラック Elim Garak
(アンドリュー・J・ロビンソン Andrew J. Robinson) DS9第130話 "Sacrifice of Angels" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(後編)」以来の登場。声:大川透

シスコ:『この数年で学んだことがあるとすれば、悪い知らせがもたらされるのは、決まって夜中だということだ。』
ベッドで寝ているシスコに、通信が入った。『キラよりシスコ大佐。』
シスコ:「ああ…どうした、少佐。」
『たった今宇宙艦隊司令部より優先通信を受信。ベタゾイド※5がドミニオンに侵略されました。』
起き上がるシスコ。

司令室で話すシスコ。「第一報によれば、侵略軍はカランドラ・セクター※6のどこかの地域からやってきたらしい。」
ダックス:「艦隊の情報部は敵軍について何か把握してるの?」
ウォーフ:「いや、あそこはドミニオンの供給ラインから遠くて脅威にならないと思っていた。」
シスコ:「悪いことが重なってしまった。ベタゾイドと周辺のコロニーを守っているはずの第10艦隊※7は、たまたま訓練で現場を離れていたんだ。更に悪いことに、ベタゾイドの防御システムは時代遅れで人手不足だった。ベタゾイドはあっという間にドミニオンの手に落ちた。」
キラ:「あそこがジェムハダーに占領されたら、ドミニオンは周辺国を脅かす。ヴァルカンや、アンドリア※8、テラライト※9、アルファ・ケンタウリ※10も。」
ダックス:「新たな同盟が必要になるとしたら、今がその時期ね。」

店で仕事をしているガラック。
シスコがやってきた。「ガラック。あれから 3日だが、何か進展は。」
ガラック:「見方によっては進展といえるでしょうな。」
「では教えてやろう。ベタゾイドがドミニオンの手に落ちた。モタモタしてる時間はないぞ。」
「大佐の焦る気持ちは理解できます。実際、先日の話を聞いて、私はすぐにカーデシアに残る昔の仲間にちょっと探りを入れてみました。こっちの思惑通り、私同様現政権を非常に嫌っていました。奴らを倒すための仕事なら、どんなことでも喜んでやる連中ですよ。」
「すごい進展ではないか。」
「それが、運の悪いことに、仲間は死んだ。」
「何?」
「そうです。私と話して間もなく、全員殺されました。ドミニオンのセキュリティの優秀さを証明してやったようなものです。実に鮮やかな手際の良さでした。」
「…残念だよ。」
「でもそう簡単にあきらめないで。何しろ、工作員数人の犠牲では済まなくなります。全宇宙域の運命が、かかっているんですからねえ。大佐が始めたのは、そういう問題です。」
「何か案があるのか。」
「あるにはあるんですがね。でも大佐が…気に入るかどうか。」
「話してみろ。」
「何がなんでもドミニオンのロミュラン攻撃計画の証拠を手に入れたいと言うのなら、その証拠を、我々ででっち上げてしまうまでのことですよ。」

自室のシスコ。「今思えば、そこでやめておけばよかった。つまりこういうべきだった。『貴重な意見ありがとう、ミスター・ガラック。もう少し考えてみよう。』 そしてオフィスに戻り、全てを忘れる。だが私は受け入れた。彼の話は、理にかなっているように思えたのだ。」

話し続けるガラック。「男の名前はヴリーナック※11。14年の長きに渡って、ロミュランの議員を務めている人物です。戦争計画評議会の長官で、タル・シアーの副議長。」 パッドにロミュランの顔が表示されている。「ネラル※12総督が最も信頼を寄せるアドバイザーの一人でもある。」
シスコ:「それにドミニオンとの不可侵条約をまとめた人物でもある。」
「彼をよくご存知のようだから、後の経歴は省きましょう。重要なのは、ヴリーナックがドミニオン通として今も議会で重要な地位を占めているということです。ドミニオンが脅威であると…本人を説得できれば、後の議員は彼に従う。」
「それで方法は。」
「10日後に、ヴリーナック議員はウェイユンとの外交会議でソカーラ※13に行く予定になっています。そこであなたが、ヴリーナックをディープ・スペース・ナインに招待して下されば、回り道をして内密にステーションに寄るように説得できるのは間違いないでしょう。※14
「彼のソカーラ行きはどうやって知った。」
「曖昧にしておいた方がいいこともあります。続けていいですか?」
「いいだろう。」
「ヴリーナック議員が到着したら、ホログラムで作った記録を見せるんです。ドミニオンの最高レベルで話し合われた秘密会議をねえ。そこで、連中はロミュランの侵略計画を密談している。大佐は議員に、この情報は惑星連邦が多大な犠牲を払って、幾多な苦難の末に得たもので、これを手に入れるまでに少なくとも 10人の命が犠牲になったとか何とか、上手くごまかす。相手はすぐに偽造だと疑うでしょうが、偽造など不可能だと彼を説得するんです。『よろしいですか、議員。これは紛れもなく公式なカーデシアの文書です。公式文書を保存するための、一回限りの…光分解データロッド※15なんです。このロッドは、カーデシア・プライムが必要にする時だけ作られます。ですからデータのロッドは一度だけ記録可能で、変更は不可能なんです』と。」
「チェックしたいというだろう。」
「でしょうね。そして検査の結果、彼は完全に本物だと知って驚くわけです。ともかく、本物らしく見えるはずです。」
「でも実際には。」
「光分解データロッド自体は本物ですが、その中身は、今までにないような完璧な偽造データが入っています。データロッドはまだ見つかっていませんが、ホロ記録を作ってくれる人物は、既に確保しました。」
「こういうことは私の一存では許可できない。艦隊の司令部に確認しなければ。」
「そうでしょう。でもベタゾイドが侵略された今、ロミュランを戦争に導くためなら、司令部は何でもやるでしょうね。」
「…後で知らせよう。」
「最後にもう一つだけ。その…ホロプログラムを偽造してくれる男についてなんですが、実は…現在クリンゴンの刑務所で、死刑を待つ身です。時間の節約と彼の命を救うために、大佐がガウロン総裁に連絡を取って、恩赦を願い出て下さると、都合がいい。」
「死刑囚の名前は。」
「グラソン・トラー。」

異星人のトラー※16は言った。「全く大佐には、何とお礼を申し上げてよいかわかりませんよ。クリンゴンは明日俺を死刑にするつもりだったんだ。毎日のように脅されました。連中にとっちゃ一種のゲームみたいなもので。」 笑う。
シスコ:「仮釈放の条件は承知しているんだろうね。」
「もちろん。クリンゴン帝国に近づくなと釘を刺されました。辛いが仕方ない。それからもう一つ、大佐のために…何か特別なホロプログラムを作るようにと。楽しみだねえ、宇宙艦隊と仕事をするのは初めてだ。」
「一つ念を押しておくぞ。これは宇宙艦隊の仕事じゃない。非公式の依頼だと心得ていてくれ。私のために、仕事をしてもらおう。」
「ああ、個人的な依頼か。大佐だけが観る特別プログラムですかなあ。それじゃあイキのいい、オリオンの召使い女を大勢登場させて、それからもっと…」
「ミスター・トラー! とりあえず自分の部屋で待機しているように。必要な情報は全てガラックが用意してくれるだろう。」
「ガラックが? 来てるのか。」
「そうだ。」
「ああ。ああ…ふむ。…そういうことなら、自分の部屋で待つことにしよう。」 上級士官室を出ていくトラー。
シスコ:『トラーの言葉を信じるなという、心の奥で聞こえていた声を、私はなぜ無視したのか。だがその直後に、私は自分が過ちを犯したという…』

シスコ:『…事実を、思い知らされることになる。』
司令官室のシスコ。
通信が入った。『オドーよりシスコ大佐。』
シスコ:「何かあったのか。」
オドー:『突然申し訳ありませんが、大佐はグラソン・トラーという男をご存知で。』
「ああ。彼がどうした。」
『クワークがトラーに刺されました。』


※5: ベータゼッド Betazed
惑星。TNG第11話 "Haven" 「夢の人」など

※6: Calandra Sector

※7: Tenth Fleet

※8: Andoria
アンドア (Andor) とも。アンドリア人の母星。DS9第140話 "Change of Heart" 「至高の絆」より

※9: テラー Tellar
テラライト人 (TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」など) の母星

※10: ケンタウルス座アルファ Alpha Centauri
恒星。TOS第21話 "Tomorrow Is Yesterday" 「宇宙暦元年7・21」など

※11: Vreenak
(スティーヴン・マクハティ Stephen McHattie ENT第53話 "The Xindi" 「トレリウムD」の異星人鉱山長 (Alien Foreman) 役) 声:谷口節

※12: Neral
ロミュラン帝国の総督。TNG第107・108話 "Unification, Part I and II" 「潜入! ロミュラン帝国(前)(後)」に登場

※13: Soukara
ドミニオン基地がある、カーデシア領域の惑星。DS9 "Change of Heart" より

※14: 「…ステーションに寄るよう私が彼を説得しましょう」と訳されています

※15: optolythic data rod

※16: Grathon Tolar
(Howard Shangraw) 種族名不明。声:佐藤祐四

うろたえるクワーク。
ベシア:「落ち着け、クワーク。心配ない。」
クワーク:「ああ…。」
部下に指示するオドー。「よし、目を離すな。」
シスコがクワークの店に入る。「何があった。」
オドー:「ミスター・トラーは 2時間ほど前にクワークの店にやってきて、1本目のウエラン・ビター※17を飲んでいたらしいんです。」 保安部員に監視され、手錠をつけたトラーがカウンターにいる。「そして 15分後に、2本目を飲み干し、3本目も空に。4本目を半分ほど開けたところで、トラーはあの…ムペラ※18と踊りたいと言い出した。」 不機嫌そうなダボガールがいる。「彼女はダボの仕事をしていて彼の誘いを断ったが、彼がしつこくつきまとったらしいんです。軽い言い争いがあって、その後…見兼ねたクワークが、2人の間に入って喧嘩を止めようとしたのが…事件のきっかけらしいです。それでクワークを刺した。独房に入れるところですが、大佐の友人だというもので。」
「友人ではない! だがある仕事を依頼してる。宇宙艦隊の機密に関わる際どい問題なので、ステーションの彼の滞在自体、記録してない。」
「そうでしたか。…有事には特別な保安基準が必要であることは私もよく承知しています。ですが法律上では、もしもクワークがトラーに対して告発するというなら、彼を逮捕せずに済ますことはできません。」
「クワークと話をさせてくれ。」
うなずくオドー。シスコはクワークたちに近づく。「具合はどうだ。」
クワーク:「この通りです。もう少しで殺されるとこだった。」
ベシア:「大丈夫です、骨のおかげで内臓は無事でした。傷は表面的なものだ。」
「表面的?! このシャツ高いんだぜ。」
シスコ:「ちょっと外してくれないかな、ドクター。」
ベシア:「明日また診にこよう。」
シスコはクワークの隣に座った。「君はトラーを告発するのか?」
クワーク:「当然っすよ。」
「どうすれば……君の気持ちを変えられるかなあ。」
「大佐の申し出ってのは、賄賂ですかい?」 無言のシスコ。「やっぱりそうだ。大佐、だからあんたが好きだ。大佐の心の奥に潜んでる、フェレンギ気質が表に出たがってると感じてた。」
「いくら欲しい。」
「ああ…まずは俺のシャツとムペラのドレス代を弁償して欲しいねえ。」
「いいだろう。」
「それから! 今日俺が入院してる間に被る店の損失分を補償してもらいたいねえ、少なく見積もっても、ラチナムの延べ棒…5本分ってところじゃないかな。」
「…わかった。」
「それから荷物の受け取りのことでちょっと問題を抱えてる。書類の不備で受け取りたくてもコンテナに待ったをかけられちまってねえ。輸入許可証か何かの問題らしい。」
「何とかしよう。まだあるのか?」
「いや。これは、立派な…賄賂だな。ありがとう、大佐。金儲けの秘訣98条を思い出させてくれて感謝するよ。『買収できない者はいない。』※19
シスコは店を出ていった。

上着を脱ぐシスコ。「その時私の心に疑いが芽生えた。本気で疑い始めたんだ。全てが間違っているのではないかとね。…だが、自分のオフィスに戻ると…また、新たな…犠牲者リストが待ち受けていた。…戦場では人々がどんどん死んでいるんだ、毎日のように。全世界が自由のために戦っているという時に、この私はオフィスにこもり、まだ微妙な道徳観念にこだわっているとは! ここまで、事態を放置したのは私の責任なのだ。戦いに勝ち、流血を止めること。それを再優先させるのだ!」

シスコ:『…だから私は前進した。心に疑念が浮かぶたびに、何とかその思いを振り払いながら、ことを進めた。』
シスコはプロムナードでターボリフトの前に来た。ガラックが近づく。「一緒によろしいですか?」
シスコ:「どうぞ、ご自由に。」

行き先を指示するシスコ。「司令室。」
すぐに止めるガラック。「停止。私があまり姿を見せない方が都合がいいでしょう。」
シスコ:「大賛成だね。」
「怒ってますね。」
「トラーは監視してるか。」
「鍵をかけて閉じ込めました。それからドアをこじ開けようとすれば、爆発すると思わせてあります。念のためにね。」
「ほんとに爆発しないことを祈るよ。」
「些細なことにはあまりこだわらない方がいいですよ。そんなことより我々には、議論すべき重要な問題があります。本物の光分解データロッドをぜひ売りたいという人物を見つけましたよ。」
「なぜ本物だとわかる。」
「出所は信頼できますが、ご安心を。金を払う前にロッドが本物かどうかちゃんと確認しますから。そこで…問題ですが。」
「言い値はいくらだ。」
「奴は、ラチナムには興味がないようです。男は代わりに、ある物が欲しいと要求してきました。…200リットルの形状記憶ジェル※20が欲しいと。」
「何だと!」
「理由はよくわかりません。恐らく遺伝実験か何かに使うつもりで欲しがっているんでしょう。」
「別の物に代えさせろ。」
「奴がほかの物で満足してくれるなら、こんなことを言い出したりしませんよ。」
「形状記憶ジェルは、惑星連邦に厳しく規制されていて、金で買える物じゃない。ロッドを売ってくれそうなほかの人物を探してくれ。」
「正真正銘のカーデシアのデータロッドを手に入れるということがいかに大変か、最初に大佐にお話ししたはずです。今回その供給元を特定することができたのは、奇跡に近い。別の人物を見つけるのは、事実上不可能です。こちらが相手の望む物を素直に与えるか、全ての計画を白紙に戻すんですね。」
「では計画を白紙に。司令室。」 動き出すターボリフト。「止めろ! いくらなんでも 200リットルは多すぎる。全セクターの物をかき集めても足りない。」
「量については、交渉の余地があるでしょうから私にお任せを。」
「……司令室。」

ベシアは抗議する。「大佐、形状記憶ジェルは非常に危険な物質です。行き先だけでも教えて頂かなければお渡しできません。悪の手に渡ることになれば、生物兵器や、違法な複製実験、有機爆弾に悪用されてしまう。」
シスコ:「勘違いされては困るな、ドクター。これは依頼ではなく、命令だ。恒星間輸送用に 85リットルの形状記憶ジェルを、第3貨物室に運べ。わかったかね。」
「…はい。……命令を文書で頂けますか。」
シスコはパッドを渡した。「そうくると思ったよ。」
ベシア:「この件は日誌に記録しますので。それに公式抗議として、医療ファイルにも残します。」
シスコ:「それは君の自由だ。だが今日中にジェルを頼むよ。以上だ。」
司令官室を出ていくベシア。

カーデシア人たちと話しているウェイユン※21。「創設者は予定を早めて第2ステージに進むことを決意されました。」
ダマール※22:「ロミュラスの侵略か? …気が早いな。境界沿いで惑星連邦との戦いを始めたばかりなのに。クリンゴンは交戦に出る準備をしているし…」
その様子を、シスコとガラックが見ている。
ウェイユン:「創設者は誰よりも優れたビジョンをおもちです。君らには無理だが、私たちには彼らの可能性が見えているんですよ。いいですか、ロミュランは…カーデシアの攻撃を全く予期していません。大半のロミュラン艦隊は、惑星連邦と共に中立地帯に配備されています。創設者は 3週間以内にロミュラスに上陸できると予測しました。」
ダマール:「3週間? フン、連邦攻撃前にも同じようなことを聞いたなあ。」
「あの計画は君の前任者が無能だったために潰されたんです。」
「ガル・デュカットは、偉大な男だった!」
「ガル・デュカットは利己的で愚か者でした。アルファ宇宙域をしっかり支配するよう言ったのに、彼は娘に…かまけていました。」 笑うウェイユン。「さて、仕事の話に戻ってよろしいですか。」
ガラック:「そこまでだ、プログラム停止。」
トラーはコンソールを操作し、ホログラムの動きは止まった。
ガラック:「これが手直しした部分。残りの部分は、以前お見せしたものをつなぐ予定です。ご感想は?」
シスコ:「ああ、良くなった。本物らしいな。」
「2人の対立と嫌悪感を付け足してみたら、リアルな雰囲気が出ました。」
トラー:「大佐。お気に召しましたか?」
「ああ。満足してる。」
ガラック:「では早速、データロッドに今のプログラムを記録してくれ。」
映像が消えた。
シスコはガラックに小声で伝えた。「伝言を受け取った。ヴリーナック議員はこちらに向かっている。」
ガラック:「わかりました。」
トラー:「…できた。フフフ…誰に渡せばいいんでしょう?」
「黙って…ケースにしまうんだ。」
「ああ。ふむ。」 ケースに入れ、ふたを閉じるトラー。「よしと。あんたらと仕事ができて、実に楽しかったよ…お二人さん。…また声をかけてくれ。」
トラーの前に立ちふさがるシスコ。「お前はどこにも行ってはならん!」
トラー:「何? どういうことだ。」
「お前の仕事を依頼人が満足するまで、外に出ることは許されない。」
「話が違うじゃないか。無理やり俺を引き止める気か? 何も悪いことはしていない。自由にしてくれる約束だろ!」
シスコはトラーを壁に押し付けた。「これが新しい約束だ! プログラムが審査を通ったあかつきには、自由にしてやろう。だがちょっとした傷でも見つかった場合は、お前をクリンゴンの監獄に送り返してやるからな。 恩赦は取り消されて、お前は再び死刑執行を待つことになる。」
トラー:「ああ、わかった。大丈夫だ、心配ない。…ロッドは、きっと…パスする。」
ガラック:「心からそう願いたいね。それまで部屋に戻っていたらどうだ? また私と会うことになるだろう、すぐに。」
怯えたまま、トラーはホロスイートを出て行った。
シスコは壁を叩いた。

自室のシスコ。「私は気づかぬうちに重圧を感じていたようだ。…本気で息苦しさを感じるようになった。だが難局は脱した。宇宙艦隊司令部は、計画に承認を与えたのだ。それでことは楽になるはずだった。……だがこの私が、計画の実行人だ。私自身なのだ。ヴリーナック議員の目を、じっと見据え…嘘を真実であるかのように思わせ、信用させるのは。」

廊下でシスコに話すガラック。「大佐が議員をもてなしている間に、私は隙を見て、彼の船のデータベースを素早くチェックしましょう。」
シスコ:「なぜだ。」
「議員はソカーラのドミニオン本部で、機密情報をつかんだかもしれません。」
「捕まったらどうするんだ。」
「大丈夫、その心配はないでしょう。議員が 4人以上の護衛を伴って旅をしているとは思えません。2人は上級士官室の前で見張り、後の 2人は発着ベイを監視する。大丈夫、私が船に近づいたことさえ気づきませんよ。」
「とにかく捕まらないように気をつけろ。」
うなずくガラック。

2人はウォーフと保安部員らが待っているところへ近づく。
シスコ:「報告を。」
ウォーフ:「セクション 52-B から 62-B は安全が確保され、入り口全てに保安部員を配置。盗聴装置が仕掛けられていないか、全区画を調査しました。」
「ご苦労だった、少佐。追って通知があるまで、今の警備体制を続けろ。この区域はガラックと私以外は、立ち入り禁止とする。」
「了解。」
ガラック:「ではごきげんよう、ウォーフ少佐。」 歩いていく。
不快な顔をするウォーフ。

エアロックに近づくシスコ。通信が入った。
キラ:『司令室より、シスコ大佐。』
シスコ:「どうぞ、キラ少佐。」
『たった今、お待ちかねの亜空間暗号シグナルを受信。応答しますか?』
「その必要はない。通信終了。」
シスコは手元のコンピューターを操作し、発着ベイの様子を映した。
発着ベイに警報が鳴り、上のドアが開く。台が上がっていく。
シスコの次の操作で台が下がってくるが、その上には何も見えない。
興味津々に見つめるガラック。
完全に下がったところで、ロミュランのシャトル※23が遮蔽を解除した。
ガラック:「私はそろそろ失礼します。ああ、最後に一つ。ヴリーナックは勝者の側にいると信じていますから、データロッドを見せるまでは、たとえ何を言われても…耐えなければなりませんよ。」
シスコ:「ああ、ガラック。君としばらく一緒に過ごして、私は面の皮が厚くなったようだから大丈夫さ。」 笑う。
「幸運を。」 ガラックは去った。

エアロックからロミュラン士官に続いて、ヴリーナックが降りてきた。
シスコ:「ステーションにようこそ、議員。私が大佐のベンジャミン・シスコです。」
ヴリーナック:「…そうですか。あなたがディープ・スペース・ナインの司令官。…そして選ばれし者か。戦闘士官で独り者、父親で指導者。ああ、忘れてた。ドミニオンとの戦いを始めた方でしたなあ。もっとお背の高い方かと。」
「がっかりさせて申し訳ない。」
「正直言って、私の宇宙艦隊士官に対する評価は低い。これからは相当がんばって頂かないとなあ。」
「よろしかったらお部屋をご案内しましょう。」
「一度ディープ・スペース・ナインを拝見したいと思っていました。連邦の戦い次第では、消えてしまうかもしれませんからな。」


※17: Whelan bitters

※18: M'Pella
エキストラ

※19: フェレンギ金儲けの秘訣 (Ferengi Rules of Acquisition) の一つ。No.98: "Every man has his price."

※20: biomimetic gel
危険な物質。TNG第176話 "Preemptive Strike" 「惑星連邦“ゲリラ部隊”」など

※21: Weyoun
(ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) 前話 "Inquisition" に引き続き登場。声:内田直哉

※22: Damar
(ケイシー・ビッグス Casey Biggs) 第135話 "Waltz" 「不滅の悪意」以来の登場。声:古田信幸

※23: Romulan shuttle
Doung Drexler デザイン、ミニチュアは Tony Meininger が製作

ヴリーナックはアルコールを飲んでいる。「うーん、うーん。かなりいい線行ってますが、香りが今一つ物足りないですなあ。本物のカリ・ファル※24は、最初の一口をすする瞬間に香りが鼻腔を強く刺激します。」
シスコ:「ロミュランの飲み物をレプリケートすることが滅多にないものですからねえ。もちろん、もしも我々が同盟を組むことになればそういう機会も増えるでしょう。」
「大佐は相当頑固な方のようですなあ。だが、固い決意だけでは、大佐のおかれている現状を変えることはできない。時は、あなたに味方してはいない。ドミニオンの造船所は 100%の能力で稼動しているが、連邦は未だ再建中だ。ドミニオンは、毎日のように大勢のジェムハダー兵士を生み出しています。一方、連邦は人手不足に悩んでいるとか。…だが、最も重要なのは……ドミニオンの、決意ですよ。必ず戦いに勝つという決意だ。惑星連邦が平和的解決を模索していることは私でも知っている。さて、率直に言って、大佐が私の立場なら、どちらに尽きますか。」
「騒ぎが収まった後に、平和をもたらしてくれる方を選ぶでしょう。議員のおっしゃる通り、結局ドミニオンが勝つかもしれません。そして創設者に支配される。カーデシアと呼ばれる地域、クリンゴン帝国、惑星連邦。そうなればロミュランは、三国別々の対抗勢力と敵対する代わりに、どちらを向いても同じ敵と相対することになるでしょうな。つまりドミニオンに、包囲される。」
「うーん、本当によくできたレプリカですなあ。いい香りがしましたよ。一瞬これが偽物だと忘れるほどだ、一瞬のことですが。…大佐はなかなかいい点を突いている。だが何もかも、憶測の域を出ていません。ドミニオンとの条約の破棄や、我が国を戦争に引き入れるのは無理です。」
「こう言ったらどうです。ドミニオンが今この瞬間にも、ロミュラン帝国に奇襲攻撃をかけようとしているとしたら。」
「うーん……証拠はありますか?」

ホロスイート。
ヴリーナックが見つめる中、ウェイユンが話している。「カーデシアの第4隊形が側面を守り、第23ジェムハダー艦隊がグリンタラ・セクター※25を越えて攻撃をスタート。その後ジェムハダーはロミュランへの侵攻を始める予定です。ロミュラスを制圧してしまえば、周辺の星系やコロニーは生き残りに必死でしょうから、組織されたレジスタンスはバラバラに崩れます。全帝国の整理統合は、3月もあれば片付くでしょう。」
ダマール:「ロミュラン艦隊が予想以上に早く対応したら。攻撃を察知して惑星連邦境界から、全軍勢を撤退させたら。」
「私は創設者に全幅の信頼をおく。彼らによれば、ロミュランは戦闘準備不足ですぐには反撃できない。さて、あなたは…彼らの判断に異論を唱えるんですか。」
「…いや、そういうつもりじゃない。創設者に仕えます。」
「私も同様。しばらく休憩。」
動きが止まり、カーデシアのシンボルが表示された。全ての映像が消える。
ヴリーナック:「データロッドが本物か、調べてみたい。」
シスコはロッドをケースに入れ、ヴリーナックを見据えたままそれを手渡した。

自室のシスコ。「後はただ、待つしかなかった。トラーの偽造ロッドは、素晴らしい出来だった。傑作だった。私は待った。溜まった仕事を一つ一つ片付けながら。」 ボトルから飲み物を注ぐ。「しかし犯罪報告の仕事に専念するのは、私にはなかなか難しいことだった。ほかの仕事にも。そこで私は室内を歩き、窓の外を眺めた。……私は忍耐強い方だ。一旦決めた決断に、思い悩むような男ではない。これは父譲り。父の口癖は、『優れたシェフにとって、悩みや疑問を抱くことは最大の敵だ。思い悩んでも悩まなくても、スフレは膨らむ。オーブンに入れたら、運を天に任せるしかない。だからどっしり構えて待っていればいい。結果は自ずと出る。』」 一口飲むシスコ。「だが今回は、失敗のツケは高くつくだろう。父の言葉を受け入れることは難しかった。」

シスコ:『…データロッドが偽物だとヴリーナックが気づいたら、我々がロミュランを戦争に引き込もうとしていると知ったら、彼らを遥か遠く敵地へと追いこむことになる。ロミュランは公然とドミニオンに手を貸し始め、最悪の場合敵として我々と戦うことになるだろう。勝利か敗北か、どちらにしても数分の内にはっきり決着がつくのだ。』
廊下を歩いてきたシスコは、上級士官室に入った。
待っていたヴリーナックは部下に合図し、外に出させる。
ロッドを握り締めるヴリーナック。「よくもだましたな!」


※24: kali-fal

※25: Glintara Sector

頭を押さえるシスコ。「こうして、計画も私の面目も丸潰れだった。これまでの、嘘と妥協、疑念を追い払ってやってきたことが、全て水の泡に帰した。ヴリーナックは怒っていた。彼を責めることはできない。彼の立場なら同じことをする。ヴリーナックはこのアルファ宇宙域全体に対する『恥ずべき謀略行為』を公表すると、きっぱり私に伝え終えると、シャトルに戻り帰路についた。私にできることはもう何もなかった。」

シスコ:『…私は仕事に戻った。2日後、知らせが入った。』
シスコは上級士官室にいた。
犠牲者リストを見終えたベシアたち。「今日は患者がゼロだ。」
ダックス:「一人いるわよ、マリア・タタリア※26。戦闘中に怪我したの。」
「友達?」
「友達の友達。一度しか会ったことないけど、向こうは覚えてないみたい。」
「僕が君の友達の友達とご対面か。妙な感じだけど、どっちにしろ金曜は厄日だ。」
ウォーフがやってきた。「大佐。たった今艦隊情報部から連絡が。ロミュランの政府高官を乗せたシャトルが、破壊されたという知らせが入りました。」
シスコ:「政府高官とは。」
「ヴリーナック議員です。外交任務でソカーラへ行ってロミュランに戻る途中、シャトルが爆発されたそうです。タル・シアーが事件を調査中ですが、予備報告では故意に破壊されたとか。ドミニオンが関係していると睨んでいるようです。」
微笑むダックス。「きっとドミニオンがロミュランの議員を暗殺したのよ。」
ベシア:「外交任務の途中にか。」
ウォーフ:「これで全てが変わる。ロミュランは戦争だって起こしかねませんね。」
シスコ:「ちょっと失礼。」
部屋を出る。

シスコは廊下、ターボリフト、プロムナードを通る。

そして店に入るなり、いきなりガラックを殴り飛ばした。
倒れるガラック。
シスコ:「起きろ! 議員を殺したな。」
立ち上がるガラック。「そうですよ。」
シスコ:「最初からそれが狙いだったんだ、そうだろう! データロッドは精密な検査には耐えないと知っていた。議員を呼んだのは、シャトルに爆弾を仕掛けたかったからだ!」
「そう単純ではありません。私だってデータが検査に通ることを願っていました! がトラーが失敗するかもしれないと疑っていただけです。」
「それでトラーはどうした、奴も消したのか!」
「こう考えて下さい。2人とも戦いの犠牲者だと。」
再びガラックを殴るシスコ。
ガラック:「怒りを抑えて冷静になって考えてみれば、2人が無駄死にしていないことがわかるでしょう! お望み通り、ロミュランは戦争を始める!」
シスコ:「そんな保証など、どこにもないさ!」
「いいえ、間違いありませんよ! いいですか、タル・シアーがヴリーナックのシャトルの残骸を調べ終わったら、その中にカーデシアの光分解データロッドの破片を発見するでしょう。爆発で奇跡的に残った燃えカスをねえ。そして念入りな鑑識検査の結果、ロッドには、ドミニオンの高官による密談の記録が含まれていることを発見する。そうです! まさにロミュラスの侵略を計画中の密談だ!」
「そして連中はそれが偽造だと気づくのさ!」
「いいや、偽造の事実はバレません。データロッドが不完全な状態なのは、全て爆発による変化だと結論付けられるでしょう。そうです、一見して本物のロッドがそこにあって、そして更に議員の遺体があったら、結果は見えてるでしょう。大佐ならどういう結論を出します?」
「ヴリーナック議員が、ソカーラで例のデータロッドを手に入れ…ドミニオンがシャトルを爆発させたと思い込むだろう。ロッドを手にした議員が帰るのを阻止するために。」
「その通り! そしてドミニオンが潔白を主張すればするほど、ロミュランはドミニオンがやったと思い込むでしょう。ロミュランだって、今まで結構あくどいことをしてきたことは間違いないんですがねえ。……だから大佐は私のところに来た。そうでしょ? なぜならあなたは、自分があえてできないことを、私ならできると知っていたんだ。…大成功だ。大佐のお望み通り、ロミュランとドミニオンとの戦いが始まるでしょう。良心がとがめるようならば、自分はアルファ宇宙域全体を救ったのだと堅く信じて、心をなだめれば、きっと気分も落ち着くでしょう。犠牲になったのは、たった一人のロミュランの議員と、死刑囚が一人。それから、ある宇宙艦隊士官の強い自尊心だけでしょうからねえ。…大佐がどう思おうと、今回はなかなか安い…買い物でした。」

シスコはグラスを手にしている。「現在のステーション時間、朝の 8時。ロミュラン帝国は公式にドミニオンに対して、宣戦布告を行った。早速カーデシア境界沿いの 15の基地に攻撃を始めた。そう! 惑星連邦にとって、これは大いなる勝利である!」 立ちあがり、グラスを掲げる。「ロミュランの参戦は、我々の戦いにとって大きな転機になるかもしれない。上級士官室では、ロミュランの『参戦祝賀』会まで開かれているのだ。だが……私は嘘をつき、人をだました。……この私は、買収までして犯罪を隠した。殺人の共犯者でもある。だが最も非難すべきことは、自分が平然と生きていられること。そしてもしもまた同じ状況になったら、私は迷わずやる。ガラックは一つだけ正しいことを言った。アルファ宇宙域の平和と安全を守るためならば、私の罪悪感など取るに足らないことだ。これからも罪を抱え、生き続けていく。」 グラスを置くシスコ。「これが私の義務なのだ。…しっかり耐えてみせよう。」
そして、命じた。「コンピューター。本日の日誌、全文削除。」


※26: Maria Tatalia

・感想
久々に登場のガラックが彼らしい「活躍」をし、それ以上にシスコの苦悩の描写が光る名作です。これまでの DS9 と同じく、シスコもガラックも正しいとはいえない。でも間違っているともいえない。ストーリーの流れ的には「ロミュランも参戦した」というだけの単純な内容を、ここまで深く描いてしまうのが素晴らしいですね。
カメラ目線で語るシスコや、遮蔽を解除するロミュラン・シャトルなど映像的なことも含めて、一つの劇として魅せてくれるところはさすがの一言です。ヴリーナック議員も含めて、全体的にセリフが長いことも印象に残りますね。今後ロミュランと組んでどのような展開を見せてくれるのか、とても楽しみです。


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