エンタープライズ エピソードガイド
第41話「戦場の絆」
Cease Fire
イントロダクション
地表の廃墟。あちこちで音がし、ビーム兵器による撃ち合いが行われている。 明かりがついた建物の中に、アンドリア人が集まっていた。 帰ってきた者を支えるアンドリア人。「大丈夫か。」 ため息をつく、女性アンドリア人のタラー※1。 リーダーのシュラン※2が尋ねる。「報告。」 タラー:「このままでは帝国防衛軍の全滅は免れない…」 「死ぬことなど怖くはない。わずかでも勝算はあるのか?」 「かろうじて現状は保っていますが、敵は援軍を配備。ここと、ここです。」 「…こっちの弱点を探ってる。」 「もう見つけたかも。死傷者は増える一方です。」 「…ヴァルカン側が、声明を発表した。我々と停戦の条件について、話し合いたいそうだ。」 「目的達成のためなら平気で嘘をつく連中です。」 「それを確かめる手がある。仲介を頼むのだ、ピンクスキンに。奴は以前、ヴァルカンを相手に公平な交渉をやってのけた。…アーチャーという名の男だ。」 |
※1: Tarah (スージー・プラクスン Suzie Plakson TNG第32話 "The Schizoid Man" 「コンピュータになった男」のセラー (Selar)、第46話 "The Emissary" 「愛の使者」などのクリンゴン人ケーラー (K'Ehleyr)、VOY第53話 "The Q and the Grey" 「レディQ」のレディQ (Female Q) 役) スタートレック史上初めての、女性アンドリア人。声:藤生聖子、TNG ロー、TNG/DS9 ベトール、VOY 3代目セスカなど。藤生さんは、同じくプラクスンが演じたドクター・セラーも担当したので、そのつながりによる起用かもしれません ※2: Shran (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」以来の登場。名前は後に初言及。声:中村秀利 (継続) |
本編
エンタープライズ。 アーチャー:「私を仲介役に?」 コンソールに映っているフォレスト提督※3。『ソヴァル大使によれば、危機を回避するために君は重要らしい。』 アーチャー:「…惑星の名前は?」 『ヴァルカン名で言うとパーン・モカー※4だが、アンドリア名はウェイターン※5だ。両種族の星系の境界にあり、どちらも統治権を主張してる。過去一世紀に、2度も戦争になりかけた。』 「私に何ができるっていうんです。彼らが百年かけても解決できなかった、難問なんですよ。」 『詳細は、会って直接知らせるとこのことだ。ジョナサン、ヴァルカン側が助けを求めてきたのは初めてだ。そっちで大使を務められるのは君しかいない。力を貸してくれ。』 「…すぐに惑星へ向かいます。」 通信を終えるフォレスト。 船長用食堂。 揺れるグラスを見るタッカー。「これじゃあエンジンが可哀想だ。110%の稼働率です。」 トゥポル:「限界は 120%です。」 「…わざわざ火だるまになって、服の燃えにくさを試す趣味はないね。」 アーチャー:「……取り越し苦労だよ、トリップ。…データベースでパーン・モカーについて調べてみた。情報は少ない。クラスD※6 で、2097年に…ヴァルカンの統治下に入ってる。」 「…クラスD じゃ、人は住めない。…なぜそうこだわる。」 トゥポル:「その半世紀前、アンドリア人が先に降り立ち、住環境を整えました。大気の生成にも成功し、移住を開始したのです。」 「その時は誰の星でも、なかったんだろ?」 「彼らが住み着いたのはヴァルカンの領域を脅かすためです。」 アーチャー:「…軍用基地にしたのか。」 「論理的に言って当然の結果です。」 タッカー:「証拠はあるのか?」 「…クリンゴンが冥王星にコロニーを造ったとしても、証拠が必要ですか。」 「…一緒にするなよ。」 「…彼らは、コロニーへの査察を拒みました。そこで…我々の領域を守るため、パーン・モカーを併合したんです。」 アーチャー:「アンドリア人の移住者はどうしたんだ。」 「…出てもらいました。」 タッカー:「…力ずくで?」 「…選択の余地はなかったのです。…惑星は軌道上から偵察衛星により監視され、この一世紀近くずっと無人でした。」 アーチャー:「今は違う。」 パーン・モカー/ウェイターンに到着したエンタープライズ。 『航星日誌、補足。3日後、我々はパーン・モカーに到着する。状況は刻々と緊張感を増してきた。』 複数のヴァルカン船も共にいる。 タッカー:「信じられませんよ。ワープ反応炉が燃え上がりそうだってのに。ここで待て?」 ヴァルカン人のソヴァル※7大使が会議室に入った。部下を連れている。トゥポルも最後に来た。 アーチャー:「歓迎します、大使。」 ソヴァル:「ありがとう、船長。副司令官のミュロック※8です。」 「トゥポルから大体は聞きましたが、それでも知りたいことは山ほどある。」 「その前に私から質問させて下さい。…なぜアンドリア軍の士官があなたに個人的に仲介役を頼んだのでしょうか?」 「…どういうことです? あなたが望んだのでは?」 「私は今回、非常に困難で危険な交渉を任されています。あなたの存在で有利になるとは思えません。」 「…そういうお考えなら、喜んで探査任務に戻ります。」 立ち上がるアーチャー。 「…6日前のことです。アンドリアのシュランという…連隊士官が、パーン・モカーに軍隊を侵攻させ、コロニーを占領しました。」 アーチャーはタッカーと顔を見合わせた。「シュラン?」 ソヴァル:「当然のごとく、これは 2097年の協定違反です。」 タッカー:「当然ね?」 ミュロック:「既に半分は奪回しましたが、24名の味方が負傷し、3人が人質に取られました。」 ソヴァル:「シュランは人質返還の話し合いに応じると言っている。ただし仲介役はあなたにと。…なぜか信頼に足る人物と見なしているのだ。」 またタッカーを見たアーチャー。「……私の助けがいると?」 ソヴァル:「…そうです、あなたの助けが必要だ。」 「……手は尽くしましょう。」 「しかしあなただけに任せるわけにはいかない。過去あなたがアンドリア側につき、ヴァルカンの情報基地を暴露したことで、貴重な神殿が破壊されました。※9ミュロック副司令官を伴って下さい。ヴァルカン側の代表として。」 「…私はアンドリア側の要請によって、ここへ来たんです。シュランは私を信頼している。ヴァルカン人の士官を従えて行けば、その信頼を裏切ることになる。どうしてもヴァルカン人を連れて行けと言うのなら、私が信頼できる人物を連れて行きます。」 医療室に入るアーチャー。「私に用か。」 フロックス:「はい。この星には、突然変異を誘発する病原体が蔓延しているので、感染を防ぐため放射線で船長の免疫組織に衝撃を与える必要があります。」 「衝撃?」 「痛みはありませんよ?」 「…トゥポルは?」 「ヴァルカン人には感染しませんので。あちらへ。」 外にいるフロックス。「すぐに済みますから。」 除菌室にライトが灯る。「それで、ヴァルカン人との最初の打ち合わせはいかがでした?」 アーチャー:「実に友好的だったよ。」 「皮肉です。彼らは、あなたがエンタープライズを指揮することに乗り気ではなかった。そのあなたが今や彼らの利権の命運を握っている。」 「我々の命運もだ。…我々の任務は、彗星のスキャンや、未知の種族との遭遇だけじゃない。…人類がより大きな共同体に、加わる準備ができてると証明することも、大きな任務だろう。……それを実行する。たとえヴァルカン人の不興を買おうとな?」 「終わりました。…船長。私はかつて、デノビュラ歩兵連隊の衛生兵でした。あの経験で学んだことがあるとしたら、それは戦場は、予測不能な場だということです。たとえ休戦の旗の下でも。…お気をつけて。」 発進するシャトルポッド。 アーチャー:「航行センサーが停止した。…通信もだ。」 トゥポル:「アンドリアの妨害信号です。彼らの指定座標に突入しました。」 「正確だろうな?」 「……領域妥協案に目は通されましたか?」 「ざっと見た…。」 「今回の争いの本質がつかめます。是非ご一読を。」 「1,200ページもあるんだぞ?」 「…用意した資料は全てざっと見た程度なんですか? 交渉術に関するヴラー※10大使の論文は、今回の任務に非常に役に立つはずですが…」 「全部読んだよ。ヴラーの論文、星系間協定改訂版、2112年の境界侵攻における司令部の報告書。夜中の 2時までかかった。」 「ざっと?」 「…何が言いたいんだ? 準備不足だとでも?」 「ソヴァル大使は船長の失敗を信じています。…周到な用意をすれば、大使の思い通りにならなくて済むかと。」 「ありがとう。だが、ヴァルカンの協定を引用してもシュランは満足しない。」 「戦略はもつべきです。」 「まずはシュランの信頼を、勝ち取ることだ。」 「その後は?」 「…流れに任せるよ。」 驚いた様子のトゥポル。 ライトをつけたシャトルポッドは、地上に着陸した。 廃墟の中を歩くアーチャーとトゥポル。ジャケットを着ている。銃撃戦の音が遠くから響いてくる。 アーチャー:「本当にここを指定したのか。」 トゥポル:「そうです。」 後ろに一瞬、アンドリア人の姿が見えた。気づかない 2人。 タラー:「動くな、ヴァルカン人め。」 トゥポル:「船長。」 トゥポルに銃を向けているタラー。 アーチャー:「丸腰だ。」 すぐに複数のアンドリア人に取り囲まれた。 アーチャー:「…私はジョナサン・アーチャー。シュラン司令官に会いに来た。」 タラー:「あなたは呼んだが、ヴァルカン人に案内させろとは言っていない。」 「独りで来いとも言われていない。部下の科学士官だ。…プジェムの監視施設を暴くのに尽力した。シュランも彼女との再会を喜ぶだろう。」 合図するタラー。アンドリア人によって、アーチャーたちに布が被せられる。そして連行された。 アンドリアの本部に入るタラー。 声が聞こえてくる。「何してる。グズグズするな、早くしろー!」 椅子に座らされ、アーチャーとトゥポルの布が外された。 アーチャー:「…私にとって初めての外交任務は、大きなテーブルにつき、シャンパンで乾杯して、書類にサインするものと思っていた。」 シュランがいた。「…ピンクスキンもなかなか言うじゃないか。」 笑う。 |
※3: Admiral Forrest (ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong) ENT第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」以来の登場。声:金尾哲夫 ※4: Paan Mokar ※5: Weytahn 公式サイトでは Weytahm になっています ※6: Class D 惑星分類システム (planetary classification system) による区分の一つ。映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」より。原語では「地球の月とあまり大きさが変わらない」とも言っています ※7: Soval (ゲイリー・グラハム Gary Graham) ENT "Shockwave, Part II" 以来の登場。声:山路和弘 ※8: Muroc (John Balma) 声:幹本雄之、DS9 デュカットなど ※9: ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」および ENT "Shadows of P'Jem" より ※10: V'Lar ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者の祈り」で登場 |
詫びるシュラン。「用心する余り警備が行きすぎたようだ。」 タラー:「ヴァルカン人を相手に用心しすぎることはありませんよ。」 アーチャー:「彼らも同じことを言ってる。」 シュラン:「そうだろうな。…我々は、好戦的で、非論理的だ。」 トゥポルを見る。 「そうは思わんが?」 「…だからあんたを呼んだ。違うと証明してくれ。あんたは過去 2度、俺たちの取引に立ち会った。そのどちらにも、あんたは偏見をもちこまなかった。」 「また力になりたい。…だがその前に、人質に会わせてくれ。」 タラー:「人質? 人質を取るのは犯罪者だろ。誘拐犯は身代金目当てに人質を取る。お前が言ってるのは、我々が拘束してる捕虜のことだ。」 「ヴァルカン側が安否を心配してる。」 シュラン:「危害は加えていない。」 来るように合図する。 立ち上がり、タラーを見るアーチャー。シュランについていく。 開けられるドア。中には拘束された 3人のヴァルカン人がいた。 アーチャー:「大丈夫か。」 近づこうとする。 それを制し、ドアを閉めるタラー。「奴らの攻撃で味方 2人が重傷を負った。殺したいくらいだ。」 トゥポル:「…領域妥協案に違反し、この状況を招いたのはあなたたちの方です。」 「百年続いた弾圧を妥協だと言い張ってるのはお前らヴァルカン人だけだ。お前らは我々の領域にある惑星を併合し、我々の同胞を難民キャンプに追いやった。」 「あなた方が軍用基地を造ったからです。」 シュラン:「…船長、見ての通り百年経っても未だにこの問題は怒りの火種になる。…どちらにとっても。…3人の捕虜を解放する用意はあるが、以下の条件がある。ヴァルカンは直ちに、この星から全軍を撤退させ…奴らの言う領域妥協案なるものを廃止し、我々アンドリア帝国によるこのウェイターンの統治権を認めねばならない。」 アーチャー:「……全て、受け入れられるとは思ってないですね?」 タラー:「やはりこいつ、ヴァルカンの手先です。」 「はっきり言って、ヴァルカンの幹部は私を気に入っていない。だがそれはお互い様だ。…要望を伝えるだけの人物を捜しているなら、ほかを当たってくれ。私も暇じゃないんでね。」 シュラン:「…ヴァルカン人は、いつも話し合いを求めるが、奴らとの話し合いで何が解決した! 協定の交渉はもう何年も続いてる。俺はソヴァルと話したい! いちいち上官に相談する必要のない人物と話したいんだ。」 「…力を尽くそう。」 「これは、譲れない条件だ。」 「通るかはわからん。」 タラー:「それ以上言っても無駄です。」 「不可能とは言ってない。…ただし、ソヴァルも見返りを求めてくるだろう。」 シュラン:「これ以上何を求めるというんだ。」 「君が真剣だということを、態度で示した方がいい。…彼らは人質の安否を気にしている。…解放してくれないか。」 タラー:「こっちの唯一の切り札を手放せと?」 シュラン:「…断る!」 アーチャー:「2人ならどうだ? 残り一人は、ソヴァルに会ってからでいい。」 「…一人だ。…俺たちの誠意を示すには十分だろ!」 帰還するシャトルポッド。 ソヴァルは拒否した。「承知しかねる。」 アーチャー:「部下が一人戻るんですよ?」 「代わりに私を差し出すというのか? …彼らはさぞあなたの交渉術に敬服していることでしょう。」 「彼らはあなたと、話したがってるだけです。」 「話し合いに応じれば条件の正当性を認めることになる。」 「応じなければ始める前から、交渉は決裂だ。」 ミュロック:「もはやその事実は明白のようです。3隻のアンドリア船が、こちらへ向かっているのを感知しました。約5時間で到着するはずです。」 ソヴァル:「軍隊を集結させ、惑星に再配備する気でしょう。見過ごすわけにはいかない。」 トゥポル:「アンドリア船と交戦すれば、宣戦布告と見なされる恐れが。」 「奴らが望んだことだ。」 アーチャー:「ここで起きていることの責任は、両者にあります。」 「あなたには問題の複雑さがまるでわかってない。」 「それでは言わせていただきますが、私の意見を聞く気がないのなら、なぜここへ呼んだのです。」 「あなたを呼んだのは私ではありません。要請を受けるよう強いた覚えもない。」 「アンドリア人は頑固だと言いますが、少なくとも話し合いを望んでいます。…ボールを返すのはあなたの番だ。」 説明するトゥポル。「…後は我々の、出方次第だということです。」 シャトル発着ベイに入るソヴァル。 ミュロック:「コロニーの安全は、まだ保障されていないんですよ?」 ソヴァル:「船長も言っていたろ。ボールを返すのはこっちだ。」 出ていくミュロック。 ジャケットを着るアーチャーに、タッカーは尋ねた。「いいんですか? 何かあっても、妨害信号で SOS は届きません。」 アーチャー:「向こうが呼んだんだ、心配ない。」 「アンドリア船は 4時間で着きます。」 「そんなに時間をかけるつもりはないよ。」 「領域妥協案とやらは完成するまでに、8年かかったそうです。」 「…今回はもっと急ぐとしよう。」 アーチャーは降りていった。 ため息をつくタッカー。 命じるシュラン。「着き次第ここへ連れてこい。ヴァルカン人にも失礼のないように。」 アンドリア人:「了解。」 2人が出ていく。 タラー:「…お話があります。」 シュラン:「お前の言いたいことはわかっている。…この星を見つけ、住めるようにしたのは俺たちだ。心配ない、奪い返してみせる。」 「どうやって、話し合いで? 百年かけて話し合っても何の進展もありません。奴らは守る気のない約束を平気で口にする連中です。戦いに来たのになぜ引き下がるんです。」 「…アーチャーにもう一度チャンスをやりたい。」 「ピンクスキンを信用しすぎです、奴らの何を知ってるんですか。ヴァルカン人の味方ということか…」 「それは違う。俺はこの目で見た。」 「今攻撃を開始すれば、援軍が到着する前に優勢に立てます。」 「…進言心に留めておく。」 「軍隊は出動命令を待っています!」 「もういい! …お前の意見は尊重するが、俺の命令に余計な口を挟むことは許さん。…下がれ。」 出ていくタラー。 操縦するアーチャー。「迎えの兵士が何人か来て、目隠しをされると思います。用心のためなので、ご了承を。」 ソヴァル:「気遣いには感謝する。精神集中を計りたいのでしばらく黙っていて欲しいのだが?」 目を閉じる。 「…わかりました。」 突然、シャトルポッドが揺れた。 アーチャー:「トゥポル!」 トゥポル:「攻撃されました。場所は…特定できません。」 地表からビーム兵器で撃たれている。 アーチャー:「エンタープライズ!」 トゥポル:「妨害信号区域です。」 ソヴァル:「交渉を中止し、船に戻ることを提案する。」 アーチャー:「今回だけは同感ですね。」 トゥポル:「右舷エンジンに被弾しました。メインパワー停止。」 ソヴァル:「敵の正体がわかっただろ。」 アーチャー:「黙っててもらえませんか。」 トゥポル:「高度下がってます。200メートル。」 「スラスターを起動させる。」 「100メートル。…50、早く速度を落とさなければ。」 「着陸すれば嫌でも止まる。衝撃に備えろ。」 地面をかすりながら進むシャトルポッド。 衝撃に耐えるアーチャーたち。 |
辺りが燃えている。爆発するシャトルポッドの側面。 フェイズ銃を持って出てくるアーチャー。トゥポルはスキャナーを使う。 アーチャー:「どこかわかるか。」 首を振るトゥポル。 ソヴァル:「南東区域だな。昔宇宙空港があった。…最後の講和会議で来たのです。ここで勤務もした。」 トゥポル:「従軍されていたのですか。」 「情報士官としてな。大昔のことだ。…現在の我が軍の作戦基地はこの先だが、2.5キロ※11は離れてる。」 アーチャー:「我々が探しているのは、アンドリア側の基地です。」 ローブを脱ぐソヴァル。「この状況では計画を変えざるをえまい。」 アーチャー:「私はシュランと約束したんです。」 「…シュランは我々を殺そうとした。」 「まだわかりません。」 「ヴァルカン軍がこの攻撃を仕掛けたと?」 「センサーも通信装置も停止してる。どこから攻撃を仕掛けられたか、知る術はありません。」 「どこまでお人好しなんだ。あなたは利用されただけだ。」 「私に借りを作っただけで、夜も眠れなくなる男が…あなたを拉致するためだけに私をここまで呼びつけるとは、とても思えない。」 銃声が聞こえる。「今我々がすべき最善のことは、適切に戦火を止めることです。アンドリア側は、あなたと直接話さない限り同意しません。できるだけコースからずれないよう着陸しました。が、指定された座標から 1キロほどずれてしまった。」 仕方なくついていくソヴァル。 エンタープライズ。 タッカー:「なぜわかる。センサーは妨害されて無反応だ。」 スクリーンに映っているミュロック。『我々のセンサーはそちらより高性能です。地上から発砲される戦火を感知しました。その後、シャトルがコロニーのどこかに緊急着陸をしたのです。』 タッカー:「どこにだ。」 『まだ、正確な位置はつかめていませんが地上軍が既に捜索を始めています。私は最高司令部により、ソヴァル大使の救出を命じられました。』 リード:「船長たちは?」 『同様です。』 タッカー:「いかなる救助作戦にも、協力は惜しまない。」 『このような状況には、我々の方が慣れています。』 「だよな。おたくの奇襲部隊が、救助任務中反乱軍へ向けてぶっ放したのを見たことがある。」 『このような挑発行為は止めねばなりません。』 「居場所もわからないのに、銃をぶっ放しながら助けに行くって言うのか?」 『我々の行為は適切です。…逐次報告を続けます。』 通信を終えるミュロック。 「…居場所は。」 サトウ:「まだわかりません。ヴァルカン側と同じです。」 「…そのまま続けろ。」 「了解。」 「アンドリア船が到着するのは。」 メイウェザー:「現在の速度で、3時間後。」 命じるアンドリア人。「報告。」 シュランはタラーに言った。「なぜシャトルが撃たれる。攻撃はするなと命じておいたはずだ!」 タラー:「命令は守りました。」 「じゃ誰が撃ったんだ。ヴァルカンが自分たちの大使を殺そうとしたとでも?」 「それしかありません。ヴァルカン軍から発砲されたのを見た者がいます。…全てはヴァルカン側の大芝居です。我々が大使殺害を謀ったとなれば、敵は正々堂々と攻めてこられる。」 「奴らは狡猾だが、そこまでやるとは思えん。」 「奴らに道徳律など通用しません。良心のかけらもない連中です、あるのは論理だけ。…我々を追い出すためなら手段を選びません。交渉に応じるべきじゃなかった。」 「俺のやり方に不満があるとでも言うのか。」 「…いいえ、ありません。」 アンドリア人※12:「セクター2 から報告です。」 シュラン:「…全部署に警戒、ソヴァルとピンクスキンを連れてこい。生きたままだ! 攻撃のことなんか、知らんと言え。」 タラー:「すぐに向かいます。」 警戒しながら歩くアーチャーたち。 ソヴァル:「思った以上にコースが外れたようだな。」 アーチャー:「来たことがあるんですよねえ。見覚えは?」 「百年前のことだ。」 「ヴァルカン人なら覚えてるでしょ。」 「…この辺は居住区でした。最新情報によれば、西区はアンドリア人の手に渡っている。向こうです。」 「この方向へ歩けば、きっと…」 大きな銃声が聞こえる。「伏せて!」 「…思ったほど歓迎されてはいないようだ。」 「……こっちには撃ってこない。」 トゥポル:「ヴァルカン軍が進軍してるに違いありません。」 ソヴァル:「連絡を取らねば。」 アーチャー:「今出ていくのは勧められません。」 「では何を勧める。アンドリア兵に見つかるまで、この廃墟をさまようか? 絶対に我々を撃たないと信じて。」 「……見てきます。お待ちを。」 トゥポル:「船長!」 「命令だ! …君らの耳じゃ、とてもあの銃撃音に耐えられないだろ?」 アーチャーは歩いていった。 ソヴァル:「我々の耳に偏見でももっているのか?」 トゥポル:「うらやましいんですよ。」 「…まるで人間のような口ぶりだなあ、トゥポル。…君は私のスタッフの中で最も有能だった。サンフランシスコにいれば、顧問補佐※13になっていたろう。外交のポストに就いていたかもしれん。」 「わかっています。」 「…なぜエンタープライズに残った。」 「彼らには私達の助けが必要です。それは、今も変わりません。」 「船長の記録がそれを物語ってるが、君じゃなくても手は貸せる。」 「…現状に満足しています。」 「……満足とは、感情に溺れてるだけだ。…君はパラーガの悲劇の後、アーチャーの任務を中止させろという我々の進言に反対した。※14なぜだ。」 「エンタープライズに乗っていた者として、私の意見は尊重されるかと。」 「司令部より正しい判断だと? …その言葉にも感情が読み取れる。尊大さだ。そろそろ別の任務に移った方がいいかもしれん。」 「…私は確かにアーチャー船長を尊敬しています。が、彼の感情に染まったわけではありません。」 アーチャーが戻ってきた。 トゥポル:「連絡取れましたか。」 アーチャー:「いや…撤退してった。先へ行こう。」 エンタープライズのシャトルポッドを調べたタラー。「誰もいない。」 アンドリア人:「ヴァルカン軍と、合流する気でしょう。」 「いいや? ピンクスキンは仲介役に居座る気だ。シュランを探しに行ったんだろ…。」 サトウはタッカーを呼んだ。「少佐。」 タッカー:「見つかったか。」 「何とも言えません。ここに、EM波の変化が。」 「船長か?」 「生体反応ではあります。90%は人間かと。」 「生きてはいるんだ。居場所は。」 「一時間下さい。」 「アンドリア船の状況は。」 メイウェザー:「ワープを解除しました。13分後に到着します。」 リード:「…ヴァルカンも動き出した。軌道離脱。迎撃体制に入る気です。」 タッカー:「全船に、戦術警報。」 ライトが暗くなる。 廃墟を進むアーチャー。 いきなりビーム兵器が近くをかすめた。 アーチャー:「伏せて! …行こう。」 だがソヴァルが撃たれてしまった。補佐するアーチャーとトゥポル。 アーチャー:「そこへ!」 身を隠す 3人。 あちこちから撃ってくる。 |
※11: 「250キロ」と誤訳。"two and a half" をどう聞き違えたんでしょう… ※12: アンドリア人兵士 Andorian Soldier (Zane Cassidy 映画第9作 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」のスタント) 声はテレヴ役の河相さんが兼任 ※13: 吹き替えでは「評議員補佐」。assistant counsel であり、assistant council ではありません ※14: ENT第26・27話 "Shockwave, Part I and II" 「暗黒からの衝撃波(前)(後)」より |
トゥポルは識別した。「アンドリアの武器です。」 アーチャー:「発砲をやめろ!」 それでも撃ってくる。 アーチャー:「傷は。」 トゥポル:「…致命傷ではありません。しかし、早く治療しなければ。」 「シュラン司令官の命で、ヴァルカンの大使をお連れした!」 攻撃がやむ気配はない。「…敵は 2人。一人は、屋根の上。一人は下。…ここを動ければ…後ろに回り込める。」 アーチャーはフェイズ銃をソヴァルに差し出した。 ソヴァル:「…私にどうしろと。」 アーチャー:「敵の気を引くんです。」 「もう 50年武器は使ってない。」 「当てる必要はありません、注意を引くだけです。…完全に引きつけなければ、敵のとこまで行けませんよ。」 離れるアーチャー。 撃ち始めるソヴァル。トゥポルもフェイズ銃を使う。 双方の撃ち合いが続く。 回り込んだアーチャーは、はしごを登った。 アンドリア人に声をかける。「おい。」 殴り倒した。 その男が使っていた武器を手にし、腰につけていたもう一丁の銃は投げ捨てた。 下へ戻るアーチャー。 3隻のアンドリア船※15が、パーン・モカー/ウェイターンに近づいていく。 タッカー:「距離は。」 メイウェザー:「5万キロメートル。更にヴァルカン船に接近中。」 リード:「…ヴァルカン船、兵器装填。アンドリアもです。」 タッカー:「トラヴィス、コース変更。彼らの間に割り込め。」 メイウェザー:「…了解。」 リード:「聞いてもいいですか。何をする気です。」 無言で船長席に座るタッカー。 もう一人のアンドリア人に、身をかがめて近づくアーチャー。真下まで来る。 撃っていたのは、タラーだった。 後ろに現れ、先ほど手に入れたアンドリアの武器を向けるアーチャー。「武器を下ろせ。…この銃は撃ったことがない。麻痺になってるかわからんぞ。トゥポル、発砲をやめろ!」 静かになった。 タラー:「その銃には、麻痺の機能などない。」 持っていた銃を捨てる。 「シャトルを攻撃し、ソヴァル大使を殺そうとした。シュランがやろうとしていたことは全て台無しだ。…そんなに戦争がしたいか。」 「我々の星を奪い返す機会が欲しいだけだ。シュランのような臆病者のために奪い去られる前に。」 「そう本人に言えばいい。…行くぞ。」 近づくタラー。先に歩き出す。 だがアーチャーの足下に穴が空き、体勢を崩した。飛びかかるタラー。 取っ組み合いになる。 梁にぶら下がり、アーチャーを蹴るタラー。崩れる床に落ちるアーチャー。 だがアーチャーはタラーを殴り倒した。再び銃を手にする。 そこへシュランたちアンドリア人がやってきた。 軌道上では、ヴァルカン船とアンドリア船の間にエンタープライズがいた。 サトウ:「…ヴァルカン船が呼びかけています。…アンドリア船も。」 タッカー:「両方つなげ。」 スクリーンが半分ずつ分割され、双方の映像が映った。 タッカー:「こちらはタッカー少佐。」 アンドリア人は言った。『帝国軍のテレヴ※16船長だ。』 ミュロック:『安全区域まで撤退することを強くお勧めします。』 テレヴ:『同感だ、ヴァルカン船の残骸でお前らの船にダメージを与えたくはない。』 『パーン・モカーにアンドリア軍の着陸を許可した覚えはない。』 『あの星はウェイターンだ!』 2人の言い合いを聞いているタッカー。 テレヴ:『我が地上軍が攻撃を受けた。必要な物資を補給せねばならん!』 ミュロック:『軌道への侵入を試みる、いかなる船も攻撃する。』 タッカー:「あなたの船もやられるぞ。」 テレヴ:『その通りだ、タッカー少佐。』 「違う、戦闘態勢に入ればいかなる船も攻撃する。フェイズ砲は。」 リード:「…いつでも撃てます。」 ミュロック:『宇宙艦隊には関係ないことだ。』 タッカー:「船長があなたたちの戦闘区域にいる限り、大ありだ。」 『アンドリア側が、アーチャー船長の保護を不可能にした。既に死んでる可能性が高い。』 「…うちの船長を見くびるな。こっちは既に、生体反応を確認済みだ。…頼む。」 立ち上がるタッカー。「ドンパチやる前に、船長と…ソヴァル大使にチャンスをやってはもらえないだろうか。予定の交渉ができるように。」 起き上がるタラー。「殺されるとこでした、ご覧の通りです。ピンクスキンはあなたが言うほど誇り高くはないらしい。」 トゥポルとソヴァルも合流する。 アーチャー:「大丈夫ですか。……話を作るために、私が大使を撃つと思うかね?」 シュラン:「…この俺の副官が、忠実なる帝国軍人が嘘をつくはずはない。」 ソヴァル:「司令官。あなたにはこの状況を平和的に解決する意志がおありのようだが、あなたの部下も同じだろうか。」 トゥポル:「…我々との戦争を望むアンドリア人がいると、お考えになったことは?」 タラー:「……何年あなたに仕えてきたと思ってるんです? 命に危険が及ぼうとも御命令には従ってきました。」 アーチャー:「裏切ったのは彼女だけじゃない。大使に会わせろと言うからこうして連れてきたら殺されかけた。…私を呼んだのは君だ。私を信頼したからだろ? 大使の怪我を見ろ。シャトルを見ろ。アンドリア兵器の痕跡が見つかる。」 タラーに近づくシュラン。「本当なのか? …答えろ、タラー!」 タラー:「私に何を期待してたんです?」 「俺の命令に従うことをだ。」 「味方を裏切った者に、命令する権利などありません。まだ遅くない、目を覚まして下さい。行動を起こすのです。」 「ああ、そうするとしよう。……連れて行け。」 「私に共感してる者はほかにもいます。今にわかる。」 タラーは連行されていった。 「…大使の傷の手当てをしろ。…話すことが山ほどある。」 報告するリード。「ヴァルカン船が隊列を崩し、惑星へ向かいます。」 メイウェザー:「…アンドリア船も追っていきます。」 タッカー:「前部フェイズ砲を用意。兵器システムを狙えるか。」 サトウ:「…地上から呼びかけています。船長です。」 「待て、マルコム。つないで。…船長。」 アーチャー:『懐かしい声だな。』 「どうなってるんです。ご無事で?」 『トゥポルと私はな。今、アンドリアの司令所だ。ソヴァル大使が怪我をしてシュランの衛生兵に治療を受けている。』 「シュランの衛生兵に?」 『彼は立派なホストだよ。アンドリア側はヴァルカン船が近づき、兵を引くことを許した。※17』 「嬉しい知らせです。」 『そっちはどうだ、問題はないか。』 「…全て処理済みです。後で、報告します。」 『着陸に失敗してねえ、戻る船が必要だ。』 「トラヴィスをシャトルポッドで向かわせます。」 『了解、以上だ。』 「軌道へ戻れ、トラヴィス。戦術警報は解除だ。」 操作するリード。 軌道上のヴァルカン船、アンドリア船、そしてエンタープライズ。 『航星日誌、補足。ソヴァル大使は、アンドリア側との話し合いを始めた。順調とは言いがたいが、生産的ではある。』 シュラン:「帝国評議会※18は、我々のウェイターン統治をヴァルカン側が認めない限り、満足することはないと言ってる。」 アーチャー:「…そもそも双方が満足できないからこそ、妥協という解決策を採るのでは?」 「満足しなくていいなら、この話し合いは成功だろう。」 ソヴァル:「戦争さえ避けられれば、いかなる結果でも成功と言えます。」 シュランは立ち上がった。「こいつを、受けてくれ。」 ボトルからグラスに注ぐ。「乾杯だ。互いの不満足な結果に。」 ソヴァル:「ヴァルカン人は酒をやらん。……だが今回は、例外を犯す価値があります。」 列席しているミュロックやトゥポルも、グラスを手にした。 シュラン:「停戦に乾杯。これも人間の友人が協力してくれたおかげだ。」 ソヴァル:「…今後もこの種の話し合いが上手くいくことを、祈っています。」 「上手くいくのは話し合いだけではないと、信じている。」 一気に飲むシュラン。「ああ。」 口にしたアーチャーたちは、微妙な表情を浮かべた。 トゥポル:「…よろしければ、ソヴァル大使をエアロックまでお送りします。」 アーチャー:「頼む。」 うなずくソヴァル。振り返った。「船長。あなたの存在は、決して不利では…ありませんでした。」 アーチャーを見た後、最後に会議室を出て行くトゥポル。 シュラン:「…あいつはあんたのことを好きらしい。」 アーチャー:「…そりゃ言い過ぎだ。」 パーン・モカー/ウェイターンを離れるエンタープライズ。 |
※15: アンドリアの船が登場するのは、史上初めて ※16: Telev (クリストファー・シー Christopher Shea DS9第126話 "Rocks and Shoals" 「洞窟の密約」などのヴォルタ人キーヴァン (Keevan)、VOY第114話 "Think Tank" 「頭脳集団クロスの陰謀」の Saowin、ENT第21話 "Detained" 「テンダーの虜囚」のセイジン (Sajen) 役) 声:河相智哉、VOY 2代目ケアリーなど ※17: 「アンドリア側はヴァルカン船の着陸を許可し、兵を引いた」と訳されています。あの船が着陸 (原語では move in だけ) できるようには見えませんし、アンドリア側がヴァルカン人に仲間を引き上げさせた、という意味です ※18: Imperial Council |
感想
約一シーズン振りとなる、アンドリア人もの。前回にも増してヴァルカンとの関係が強調され、最近では見られなかった「複雑な」ストーリーが展開されます。もっとも、普段があまりにもノンビリしすぎているんですけど。 各サブレギュラーの面々ももちろん、初の女性アンドリア人も、声優を含めて面白い配役ですね。プラクスンが演じたのはヴァルカン人、クリンゴン人、Q に続いて 4種族目となります。デュカット幹本さんも、何げに普通のヴァルカン人を演じていましたが…。表で活躍するソヴァル大使や初のアンドリア船の登場といい、見所の多い話でした。第2シーズンもこの程度のレベルを保ってくれるとよかったんでしょうね。 |
第40話 "Stigma" 「消せない汚名」 | 第42話 "Future Tense" 「沈黙の漂流船」 |