エンタープライズ。
アーチャー:「私を仲介役に?」
コンソールに映っているフォレスト提督※3。『ソヴァル大使によれば、危機を回避するために君は重要らしい。』
アーチャー:「…惑星の名前は?」
『ヴァルカン名で言うとパーン・モカー※4だが、アンドリア名はウェイターン※5だ。両種族の星系の境界にあり、どちらも統治権を主張してる。過去一世紀に、2度も戦争になりかけた。』
「私に何ができるっていうんです。彼らが百年かけても解決できなかった、難問なんですよ。」
『詳細は、会って直接知らせるとこのことだ。ジョナサン、ヴァルカン側が助けを求めてきたのは初めてだ。そっちで大使を務められるのは君しかいない。力を貸してくれ。』
「…すぐに惑星へ向かいます。」
通信を終えるフォレスト。
船長用食堂。
揺れるグラスを見るタッカー。「これじゃあエンジンが可哀想だ。110%の稼働率です。」
トゥポル:「限界は 120%です。」
「…わざわざ火だるまになって、服の燃えにくさを試す趣味はないね。」
アーチャー:「……取り越し苦労だよ、トリップ。…データベースでパーン・モカーについて調べてみた。情報は少ない。クラスD※6 で、2097年に…ヴァルカンの統治下に入ってる。」
「…クラスD じゃ、人は住めない。…なぜそうこだわる。」
トゥポル:「その半世紀前、アンドリア人が先に降り立ち、住環境を整えました。大気の生成にも成功し、移住を開始したのです。」
「その時は誰の星でも、なかったんだろ?」
「彼らが住み着いたのはヴァルカンの領域を脅かすためです。」
アーチャー:「…軍用基地にしたのか。」
「論理的に言って当然の結果です。」
タッカー:「証拠はあるのか?」
「…クリンゴンが冥王星にコロニーを造ったとしても、証拠が必要ですか。」
「…一緒にするなよ。」
「…彼らは、コロニーへの査察を拒みました。そこで…我々の領域を守るため、パーン・モカーを併合したんです。」
アーチャー:「アンドリア人の移住者はどうしたんだ。」
「…出てもらいました。」
タッカー:「…力ずくで?」
「…選択の余地はなかったのです。…惑星は軌道上から偵察衛星により監視され、この一世紀近くずっと無人でした。」
アーチャー:「今は違う。」
パーン・モカー/ウェイターンに到着したエンタープライズ。
『航星日誌、補足。3日後、我々はパーン・モカーに到着する。状況は刻々と緊張感を増してきた。』
複数のヴァルカン船も共にいる。
タッカー:「信じられませんよ。ワープ反応炉が燃え上がりそうだってのに。ここで待て?」
ヴァルカン人のソヴァル※7大使が会議室に入った。部下を連れている。トゥポルも最後に来た。
アーチャー:「歓迎します、大使。」
ソヴァル:「ありがとう、船長。副司令官のミュロック※8です。」
「トゥポルから大体は聞きましたが、それでも知りたいことは山ほどある。」
「その前に私から質問させて下さい。…なぜアンドリア軍の士官があなたに個人的に仲介役を頼んだのでしょうか?」
「…どういうことです? あなたが望んだのでは?」
「私は今回、非常に困難で危険な交渉を任されています。あなたの存在で有利になるとは思えません。」
「…そういうお考えなら、喜んで探査任務に戻ります。」 立ち上がるアーチャー。
「…6日前のことです。アンドリアのシュランという…連隊士官が、パーン・モカーに軍隊を侵攻させ、コロニーを占領しました。」
アーチャーはタッカーと顔を見合わせた。「シュラン?」
ソヴァル:「当然のごとく、これは 2097年の協定違反です。」
タッカー:「当然ね?」
ミュロック:「既に半分は奪回しましたが、24名の味方が負傷し、3人が人質に取られました。」
ソヴァル:「シュランは人質返還の話し合いに応じると言っている。ただし仲介役はあなたにと。…なぜか信頼に足る人物と見なしているのだ。」
またタッカーを見たアーチャー。「……私の助けがいると?」
ソヴァル:「…そうです、あなたの助けが必要だ。」
「……手は尽くしましょう。」
「しかしあなただけに任せるわけにはいかない。過去あなたがアンドリア側につき、ヴァルカンの情報基地を暴露したことで、貴重な神殿が破壊されました。※9ミュロック副司令官を伴って下さい。ヴァルカン側の代表として。」
「…私はアンドリア側の要請によって、ここへ来たんです。シュランは私を信頼している。ヴァルカン人の士官を従えて行けば、その信頼を裏切ることになる。どうしてもヴァルカン人を連れて行けと言うのなら、私が信頼できる人物を連れて行きます。」
医療室に入るアーチャー。「私に用か。」
フロックス:「はい。この星には、突然変異を誘発する病原体が蔓延しているので、感染を防ぐため放射線で船長の免疫組織に衝撃を与える必要があります。」
「衝撃?」
「痛みはありませんよ?」
「…トゥポルは?」
「ヴァルカン人には感染しませんので。あちらへ。」
外にいるフロックス。「すぐに済みますから。」 除菌室にライトが灯る。「それで、ヴァルカン人との最初の打ち合わせはいかがでした?」
アーチャー:「実に友好的だったよ。」
「皮肉です。彼らは、あなたがエンタープライズを指揮することに乗り気ではなかった。そのあなたが今や彼らの利権の命運を握っている。」
「我々の命運もだ。…我々の任務は、彗星のスキャンや、未知の種族との遭遇だけじゃない。…人類がより大きな共同体に、加わる準備ができてると証明することも、大きな任務だろう。……それを実行する。たとえヴァルカン人の不興を買おうとな?」
「終わりました。…船長。私はかつて、デノビュラ歩兵連隊の衛生兵でした。あの経験で学んだことがあるとしたら、それは戦場は、予測不能な場だということです。たとえ休戦の旗の下でも。…お気をつけて。」
発進するシャトルポッド。
アーチャー:「航行センサーが停止した。…通信もだ。」
トゥポル:「アンドリアの妨害信号です。彼らの指定座標に突入しました。」
「正確だろうな?」
「……領域妥協案に目は通されましたか?」
「ざっと見た…。」
「今回の争いの本質がつかめます。是非ご一読を。」
「1,200ページもあるんだぞ?」
「…用意した資料は全てざっと見た程度なんですか? 交渉術に関するヴラー※10大使の論文は、今回の任務に非常に役に立つはずですが…」
「全部読んだよ。ヴラーの論文、星系間協定改訂版、2112年の境界侵攻における司令部の報告書。夜中の 2時までかかった。」
「ざっと?」
「…何が言いたいんだ? 準備不足だとでも?」
「ソヴァル大使は船長の失敗を信じています。…周到な用意をすれば、大使の思い通りにならなくて済むかと。」
「ありがとう。だが、ヴァルカンの協定を引用してもシュランは満足しない。」
「戦略はもつべきです。」
「まずはシュランの信頼を、勝ち取ることだ。」
「その後は?」
「…流れに任せるよ。」
驚いた様子のトゥポル。
ライトをつけたシャトルポッドは、地上に着陸した。
廃墟の中を歩くアーチャーとトゥポル。ジャケットを着ている。銃撃戦の音が遠くから響いてくる。
アーチャー:「本当にここを指定したのか。」
トゥポル:「そうです。」
後ろに一瞬、アンドリア人の姿が見えた。気づかない 2人。
タラー:「動くな、ヴァルカン人め。」
トゥポル:「船長。」
トゥポルに銃を向けているタラー。
アーチャー:「丸腰だ。」
すぐに複数のアンドリア人に取り囲まれた。
アーチャー:「…私はジョナサン・アーチャー。シュラン司令官に会いに来た。」
タラー:「あなたは呼んだが、ヴァルカン人に案内させろとは言っていない。」
「独りで来いとも言われていない。部下の科学士官だ。…プジェムの監視施設を暴くのに尽力した。シュランも彼女との再会を喜ぶだろう。」
合図するタラー。アンドリア人によって、アーチャーたちに布が被せられる。そして連行された。
アンドリアの本部に入るタラー。
声が聞こえてくる。「何してる。グズグズするな、早くしろー!」
椅子に座らされ、アーチャーとトゥポルの布が外された。
アーチャー:「…私にとって初めての外交任務は、大きなテーブルにつき、シャンパンで乾杯して、書類にサインするものと思っていた。」
シュランがいた。「…ピンクスキンもなかなか言うじゃないか。」 笑う。
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※3: Admiral Forrest (ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong) ENT第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」以来の登場。声:金尾哲夫
※4: Paan Mokar
※5: Weytahn 公式サイトでは Weytahm になっています
※6: Class D 惑星分類システム (planetary classification system) による区分の一つ。映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」より。原語では「地球の月とあまり大きさが変わらない」とも言っています
※7: Soval (ゲイリー・グラハム Gary Graham) ENT "Shockwave, Part II" 以来の登場。声:山路和弘
※8: Muroc (John Balma) 声:幹本雄之、DS9 デュカットなど
※9: ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」および ENT "Shadows of P'Jem" より
※10: V'Lar ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者の祈り」で登場
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