エンタープライズのそばには、デグラの船がいる。
調べるフロックス。「体内にトレリウムは残っていません、ハハ。ご気分は?」
トゥポル:「まだ感情制御が困難で。」
「フーン、瞑想しても?」
「…助けにはなりますが、まだ…」
タッカーが医療室にやってきた。「大丈夫か?」
トゥポル:「ただの頭痛です。」
「ヴァルカンに頭痛はないんじゃ?」
「…司令センターへ行かないと。」 出ていくトゥポル。
「最近様子が変だと思わないか。」
笑うフロックス。「最近の出来事で、誰もが動揺していますから。」
タッカー:「うーん。」
「どうしました?」
「ああ、筋を違えてな。…痛みがひどい。」
「座って。」
「…機関室は 16時間労働だ。評議会とやらに出るって、急かされてる。」
「船長は、これで地球攻撃を止められると見てる。信じましょうよ?」
「船長は信じてるが、交渉相手が信じられない。」
「デグラは道理のわかる男です。」
「奴が? 俺の故郷じゃ、賛成する者はいないと思うね。」
「…うん。」 ハイポスプレーを打つフロックス。
「…助かった。」 医療室を後にするタッカー。
フロックスは複雑な表情を浮かべる。
デグラ※6に説明するトゥポル。「球体は、人工知能ネットワークで制御されています。」 司令センターのモニター上で、球体の図が内部まで拡大された。「この奥には余剰メモリーコアがあり、大量の情報が含まれているはずです。」
アーチャー:「球体の創造者のデータもあるだろう。」
デグラ:「評議会に証拠として出せるな。」
星図に戻すトゥポル。「…コース途中で、また球体のそばを通ります。」
アーチャー:「シャトルでクルーを送る。後で合流させる。」
デグラ:「内部への侵入方法は?」
「…ほぼ解明できている。…ズィンディは、球体を何十年も研究してると言ったな。」
トゥポル:「外壁の構造に関する情報があれば、何でもうかがっておきたいのですが。」
デグラ:「データベースにあるものを全て送ろう。」
MACO のホーキンス※7伍長が、兵器室に入った。「何か。」
リード:「…経歴を見たが、宇宙服で…1,000時間以上も活動してるんだな。」
「ヤヌス・ループ※8にいました。」
「この任務をやる気はあるか?」
「外ならどこでも行きますよ。」
「準備しろ。…ヤヌスでは、宇宙服で戦闘訓練もしたのか?」
「しました。…銃撃戦になるんですか。」
「…何でもありうる。」
発進するシャトルポッド。
球体の情報が表示されている。
デグラ:「コンパイルが済んだら、エンタープライズへ送れ。」
デグラの船に球体創造者の声が響いた。『まだ間に合うわ。』 揺らめく姿。
部下の人間ズィンディは立ち上がった。
デグラ:「…下がっていろ。…下がるんだ。」
うなずく球体創造者。部下は出ていった。
球体創造者:『ほかの者があなたに賛同すると思うの?』
デグラ:「何の用だ。」
『我々に背を向けた。…戻ってきなさい。』
「できない。」
『…その声を聞けばわかるわ? 信じたもの全てを裏切り、いま心は苦悩している。』
「後悔などまるでしていない!」
『我々はずっとズィンディを守ってきた。なぜなのかと、一度は考えたことがあるはずよ?』
「みな疑問に思った。」
『我々は未来の統一されたズィンディの姿を見ているからです。…絶滅を、回避した後の姿を。…この先あなた方には、偉大な文明を生み出す運命が待っているのよ。…その全てがあなたのせいで、危機に瀕している。』
「嘘だ。」
『あなたは致命的な侵略を防ぐ兵器を完成させた。その名は何世代にも渡り畏敬の念をもって…語り継がれるはずだった。それなのに、裏切り者の道を選んだのよ。』
「どう名を残すかは、私が自分自身で決める。」
『ここまで信用を失ってしまったとは。』
「一度でも信じた私が、愚かだった。」
エンタープライズ。
デグラ:「球体の創造者はズィンディをだましてきた。…何十年も操られていたと、よくわかった。…毛長族だけは理解するだろうが。」
アーチャー:「それを裏づける証拠もちゃんとある。」
「…あれだけでは不十分だ。彼らはズィンディの絶滅を既に一度、防いでいる。母星が爆発したとき生き延びた者たちの前に現れて、居住可能な星へ導き資源のありかも教えてくれた。神のような存在だ。…我々は『守護者※9』と呼んでいる。」
「信じなかったのも無理はないな。」
「私も、彼らを崇めてきたんだ。私の子供たちにも、毎日感謝を捧げるよう教えた! それを、覆さねばならんのだ。」
「クリンゴンの裁判にも耐えた※10。手強いのは慣れてる。」
「クリンゴンは君の星を破壊する気などなかった。…だがあの証拠は堅い。十分かもしれん。私も共に証言しよう。…評議員の座を奪われようとどうなろうと私は、君の側に立つ。」
サトウの通信が作戦室に入る。『ブリッジよりアーチャー船長。』
アーチャー:「何だ。」
『ズィンディ船を複数感知。接近してきます。』
デグラ:「ヒト族と毛長族と水棲族だ。評議会に出るには、彼らの助けがいる。」
廊下を歩くデグラ。「影響力の強い評議員がいる。」
アーチャー:「詳しく教えてくれ。相手を知る必要がある。」
「毛長族のジャナー※11は知っているな? 科学者で偏見がなく、事実を重視する。私の友人だ。…ほかのメンバーは、そう簡単にはいかないだろう。例えば水棲族だが、キアフェト・アマンソー※12は莫大な富と権力をもつイビックス家※13出身だ。…彼女が決断を下せば大変な重みがあるが、こう言われてる。『水棲族の決断を待つより、星を全部数える方が早い。』 昆虫族については彼らの名前は歳を取るほど長くなり、発音するのが難しいんだがね。…多くの点で、昆虫族は水棲族の対極だ。」
「結論に走るわけか。会ったことがある。」
「残るは爬虫類族の、ドラム※14司令官。逸話がある。真偽は定かではない。嘘だといいがね。…娘が男の子を産んだが、右腕に障害があった。命に関わるものじゃない。だが軍への入隊は阻まれる。ドラム司令官は、実の孫に毒を盛ったそうだ。」
「あの男ならやりかねないな。」
「単なる、噂かもしれん。だが、どんなときも…子供をもつ親としては、それが頭を離れない。」
多数の熱源でこうこうと照らされる部屋。ドアチャイムが鳴る。
中央で身体をさらしていたドラムが応えた。「入れ。…何だ。」
爬虫ズィンディ大尉※15:「残骸を発見。デグラ捜索に出した船です※16。」
「どこだ。」
「ここから 7光年。球体の遮蔽バリアー内です。」
「船がなぜ大破したか原因を知りたい。…分析を始めろ。」
「始めてます。予備調査では、攻撃を受けたようです。」
呼び出しに応えるドラム。「何だ。」
爬虫ズィンディ:『船が 6隻接近中。一隻は地球船です。』
デグラの船を先頭として、ズィンディ船※17やエンタープライズが爬虫ズィンディ船に近づく。
服を着たドラム。「先頭の船に呼びかけろ。」
デグラ:『デグラだ。』
「デグラ。どうしているかと思ったよ。何人捕虜に取った。」
デグラ:「…エンタープライズを、評議会へ送る。」
ドラム:「何のためにだ。」
デグラ:「武器をパワーダウンし、撤退しろ。」
ドラム:「この俺が敵の船を、セキュリティゾーン内へ入れると思うのか。」
デグラ:「今すぐ武器をパワーダウンしろ!」
ドラム:「お前の命令は受けん。」
うなずくデグラ。操作する部下の人間ズィンディ。
爬虫ズィンディ※18:「魚雷が向かってきます。」
ドラム:「何!」
揺れるブリッジ。
爬虫ズィンディ:「船首 300メートル先です。」
ドラム:「ズィンディ船を攻撃する気なのか。」
デグラ:「必要なら、君の船を撃墜することも辞さない。」
爬虫ズィンディ:「照準を合わせてます!」
ドラム:「反撃の準備をしろ!」
デグラ:「多勢に無勢だぞ。それに争う必要などない。地球船は決して危険ではない。」
ドラム:「…それなら、評議会で会うとしよう。」
デグラ:「楽しみにしている。」
シャトルポッド。
メイウェザー:「あと 5秒。3。2。」
シャトルは遮蔽フィールドに突入した。
火花が散るシャトルポッド内。
メイウェザー:「RCS インバーターだ。」
トゥポル:「停止して。」
フィールドを抜ける。
リード:「被害は?」
メイウェザー:「心配はいらないでしょう。」
トゥポル:「針路修正、026 マーク 3。」
単一金属球体へ近づくシャトルポッド。
惑星軌道上のエンタープライズ。デグラの船ほか、ズィンディ船もまとまっている。
タッカー:「軍事部隊が 2、3人ついていけりゃあ、安心なのに。」
アーチャー:「心配ない。椅子を暖めとけ。」
「気をつけて。」
サトウもブリッジのターボリフトに入った。
アーチャー:「昆虫語は上達したか?」
サトウ:「どの方言かによります。…67 あって。」
「たったの?」
デグラの船から、シャトルが発進した。
中のデグラ。「水棲族は、堂々とした態度を好む。小声だと、疑われる。」
アーチャー:「はっきりと話そう。」
「かといって大声も良くない。昆虫族は大きな声を、敵意と取る。」
パッドを見るサトウ。「そして水棲族は、過去形で話すときソナーを使用する。」
デグラ:「もうすぐ見えてくるぞ。」
白い大気が窓に広がる。
アーチャー:「まだ 2キロ上か。」
デグラ:「上空からしか入れない。一年中この雲の層があり、完璧に守られている。」
岩場が見えてきた。
アーチャー:「鳥族※19の?」
サトウ:「何て綺麗。」
デグラ:「6番目のズィンディが、絶滅の何千年も前に造ったものだ。考古学者によると、この砦は 4,000年以上の歴史がある。」
人間ズィンディ・シャトルは着陸脚を出し、くぼんだ部分に着地した。
内部を歩くアーチャー。「校長室に呼ばれた気分だな。」
サトウ:「私は呼ばれたことありません。」
「俺は一度ある。」
デグラ:「そこをどけ。」
道を譲る爬虫ズィンディたち。デグラは扉を開ける。
サトウ:「イタズラで?」
アーチャー:「後で話す。」 デグラに続いた。
ズィンディたちが集まっている。
評議会場に姿を見せる 3人。
ドラム:「この評議会へ人間を連れてくるとはな、デグラ。説明してもらおうか。そいつらを生きてここから帰したいならな。」
|
※6: Degra (ランディ・オグルスビー Randy Oglesby) 前話 "E2" に引き続き登場。声:木村雅史
※7: Hawkins (Sean McGowan) ENT第69話 "Hatchery" 「トゥポルの反乱」以来の登場。声:江川大輔
※8: Janus loop 土星の衛星ヤヌスと関係あるのかもしれません
※9: Guardians
※10: ENT第45話 "Judgment" 「反逆の法廷」より
※11: Jannar クレジットでは毛長ズィンディ Xindi-Arboreal (リック・ワーシー Rick Worthy) 前話 "E2" に引き続き登場。名前が言及されるのは初めて。この個所はデグラが説明するに従って、それぞれの評議員の映像が挿入されます。声:遠藤純一
※12: Kiaphet Amman'sor
※13: Ibix dynasty
※14: Dolim クレジットでは爬虫類司令官 Reptilian Commander (スコット・マクドナルド Scott MacDonald) ENT "Damage" 以来の登場。名前が言及されるのは初めて。CC では綴りが Dolum となっています。声:白熊寛嗣
※15: 爬虫類大尉 Reptilian Lieutenant (Andrew Borba) 階級は訳出されていません。後にも登場。声:津田英三。あらすじ部分で ENT "Azati Prime" のダニエルスが登場しているので、その兼任だと思われます
※16: ENT "The Forgotten" より
※17: エンタープライズ上側の船は、毛長ズィンディ船のようです。ENT第39話 "Dawn" 「熱き夜明け」に登場した、アーコニアン軍用船の使い回し
※18: 爬虫類兵士 Reptilian Soldier (Bruce Thomas) 後にも登場。声は毛長ズィンディ役の遠藤さんが兼任?
※19: Avians ENT第59話 "The Shipment" 「兵器工場潜入」より
|