エンタープライズ エピソードガイド
第71話「球体創造者」
Damage
イントロダクション
※1ブリッジで燃えさかる炎。飛び散る火花。 リード:「Cデッキで船体に亀裂! …Eデッキにも!※2 …これ以上はもちません!」 耐えるクルー。その時、突然静かになった。 リード:「攻撃を停止しました。…戻っていきます。…星系へ。」 トゥポル:「…少尉。脱出して。」 メイウェザー:「スラスターがダウン! …どこへも行けそうにありません。」 |
※1: 今回は第3シーズンのあらすじとして、エピソード放送順に第57話 "Impulse" 「幽霊船」、第64話 "Chosen Realm" 「選ばれし領域」(シャトルポッドが向かう球体のシーンのみ)、第67話 "Harbinger" 「新たなる脅威の兆し」、第68話 "Doctor's Orders" 「フロックス船長の孤独」(トゥポルのセリフのみ。ただし、フロックスが見た幻覚のはずですが…?)、前話 "Azati Prime" 「爬虫類族の攻撃」の映像・セリフが使われています ※2: 吹き替えではリードのセリフが前話の最後とダブっているように訳されていますが、原語では「Cデッキで新たな亀裂! Eデッキは減圧しています!」と言っています |
本編
アザティ・プライム軌道上のデグラの船は、爬虫ズィンディ船にドッキングしたままだ。 爬虫ズィンディ※3:「俺の船団を撤退させる権利などない。」 デグラ※4:「君は攻撃開始の承認を得ていない。」 「人間の船は探知した時点で破壊すべきだったんだ。」 人間ズィンディ※5:「評議会は賛同していない!」 「お前たちは敵の船を、軍事施設のすぐ近くの軌道上に留まらせているんだぞ。」 デグラ:「あの船は甚大な被害を受けた。もはや脅威ではない。」 「我々の攻撃のおかげだ。お前が邪魔したがな。…少なくとも船に乗り込んで全員を捕虜にすべきだ。」 毛長ズィンディ※6:「それは今考慮中だ。」 人間ズィンディ:「その捕虜についてだがアーチャーを評議会で尋問したい、引き渡してもらおう。」 爬虫ズィンディ:「こっちが終わってない。」 デグラ:「『聴取』する時間なら十分にあっただろ。」 「奴は必要な情報をまだ吐こうとしないんでな。」 人間ズィンディ:「評議会の事情聴取で聞き出せるだろ? 今すぐに彼を引き渡すことを命ずる。」 「ああ、わかった。」 出ていこうとする爬虫ズィンディ。 デグラ:「移送手段はこちらの方で手配してある。」 「我々が護送する。」 「君の監督下で既に、大怪我を負っているからな。」 「いいか。あいつは、敵船の指揮官なんだぞ!」 人間ズィンディ:「アーチャーの状態が良くなくては困るのだ。」 デグラ:「返事ができなければ、尋問はできないからな?」 爬虫ズィンディ:「奴をこれ以上傷つけることはしない。それは俺が保証しよう。」 「それでは、不十分なのだ。」 「何だと。」 「君の言葉が守られなかったのは、初めてではないからな。」 毛長ズィンディ:「…評議会で水棲族が移送することに決定した。…船は来ている。移送の準備を。」 顔を震わせる爬虫ズィンディだが、礼をして出ていった。 大きな被害を受けたエンタープライズの上を、点検ポッド※7が飛行している。 あちこちの梁が落ちた廊下。まだ火花が散っている。 リード:「通信は未だダウン。死傷者の総数は出てませんが、状況は暗いですね。死者 5名、負傷者は数十名です。船体破損個所は、非常用隔壁で封鎖しました。」 トゥポル:「第2貨物室は?」 「わかりませんね。経路が断たれてます。Eデッキの大部分が減圧状態です。」 「兵器は。」 「船尾魚雷発射管は無事ですが、それだけで…」 すぐそばで火花が飛ぶ。「飛んでいられるのが不思議だ。もつことを祈りましょう。」 機関室でもクルーが動き回っている。 トゥポル:「少佐。」 タッカー:「メイン・ワープコイルがやられた。一から造るしかない。」 「期間は?」 「2週間だ。パーツがあれば。だがない。現状じゃワープ航行は論外だ。」 「インパルスは。」 「廃棄マニフォルド辺りの船体をチェックしないと。被害を確かめてからだ。」 「最優先で進めて。」 「負傷者が大勢出てる。助っ人を回してくれりゃ、捗るんだが。」 火が巻き起こった。消火器を使う保安部員。 タッカー:「ここは危ない、出ていた方がいい。」 リード:「そうですね。既に、船長を失ってます。」 怪我を負ったアーチャーは、床で目を覚ました。丸い窓から、ワープ航行しているのがわかる。 起き上がるとそばに大きな水槽があった。覗き込む。 奥で水棲ズィンディたちが作業していた。窓を叩くアーチャー。 一人が泳いで近づいてきた。互いを見る。 アーチャー:「どこへ連れて行くんだ!」 水棲ズィンディはそばのスイッチを押した。 音が響く。すぐに倒れるアーチャー。 ブリッジ天井から落下した、丸い部分が持ち出される。 船長席を立つリード。「非常パワーを回復しました。フェイズ砲は一時間で復旧です。」 トゥポル:「Eデッキの修理を始めて。」 「よそから人を回さないと。」 「第2貨物室にある、部品がいります。…タッカー少佐からの要望です。」 「了解。」 警告音が鳴った。 メイウェザー:「船が接近中です!」 リード:「…ズィンディです!」 トゥポル:「船尾魚雷用意!」 「照準セット。」 「メインスクリーンは。」 メイウェザー:「オフラインです。」 リード:「一人乗りの船です。…武器装備なし。」 トゥポル:「生体反応は?」 「1名。」 「…収容して。」 トゥポルを見るサトウ。 MACO が発着ベイに入る。置かれているズィンディのポッド。 スキャナーで調べるトゥポルとリード。 リード:「ここだ。」 スイッチを押すと開いた。中ではアーチャーが眠っていた。 医療部員が忙しく働く医療室。 アーチャーを調べたフロックス。「内部に傷なし。打撲を伴う外傷は無数にある。」 アーチャー:「何名失ったんだ。」 「…14名。行方不明が 3名。」 「……私の治療はいい。」 「ご無事でよかった。」 他のクルーの治療に戻るフロックス。 パッドを渡すトゥポル。「被害報告です。…6時間でインパルスが戻ります。」 毛布に包まれて並ぶ遺体を目にするアーチャー。 トゥポル:「…船尾魚雷発射管と、船首フェイズ砲一門がオンラインです。」 アーチャー:「ホシとトラヴィスに、ポッドを分析させろ。」 「外形から、水棲族のものと思われますが。」 「最後の記憶は水棲族の船内だ。」 「解放の理由はわかりますか。」 「一人説得できたらしい。デグラだ。」 痛むアーチャー。 トゥポルはタオルを差し出す。 アーチャー:「すまない。」 だがトゥポルの手は震えていた。 握るアーチャー。「大丈夫か?」 トゥポル:「平気です。…リード大尉の修理を、手伝ってきます。」 廊下を歩くトゥポル。壁に手をつく。 自分の手を見た。火花に驚く。 反響するクルーの声。曲がって見える廊下。 クルーが叩く金づちの音が響く。溶接。 パッドの操作音。不気味な機械のノイズ。 トゥポルは自室に入った。散らかった洗面台で、手を震わせながら顔を洗う。 |
※3: 爬虫類司令官 Reptilian Commander (スコット・マクドナルド Scott MacDonald) 前話 "Azati Prime" 「爬虫類族の攻撃」に引き続き登場。声:白熊寛嗣 ※4: Degra (ランディ・オグルスビー Randy Oglesby) 前話 "Azati Prime" に引き続き登場。声:木村雅史 ※5: Xindi-Humanoid (タッカー・スモールウッド Tucker Smallwood) 前話 "Azati Prime" に引き続き登場。声:竹田雅則 ※6: Xindi-Arboreal (リック・ワーシー Rick Worthy) 前話 "Azati Prime" に引き続き登場。声:遠藤純一 ※7: inspection pod ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」など |
通常航行中のエンタープライズ。 リード:「わざわざ船長を解放したんです。もう襲ってこないのでは。」 アーチャー:「向こうは一枚岩じゃない。爬虫類族は独断で我々を攻撃した。決着をつけようとするかもしれない。」 「隠れられる衛星がありません。ですが、彗星塵雲がある。近くです。」 「トゥポル。」 トゥポル:「…逆磁気フィールド※8が、長距離スキャンを防いでくれるでしょう。」 「正確な距離は。」 通信が入る。『機関室よりブリッジ。Aデッキの EPS グリッドに、パワーサージを感知!』 高い音が響いてきた。かがむ一同。 司令室の天井が爆発し、破片が落ちてくる。 アーチャー:「…助かったよ。」 咳き込むトゥポル。 アーチャー:「…距離は。」 リード:「今の速度で、3日ですね。」 「コースセットだ。」 メイウェザー:「了解。」 隣にはサトウがいた。 タッカー:「隠れるより、兵器を探すべきじゃ。」 トゥポル:「センサーが使用不能です。」 アーチャー:「まずは船の機能回復だ。ものが落ちてくる状況で捜索はできん。」 水棲ズィンディ・ポッドを調べるメイウェザー。 水棲ズィンディ語が再生されている。 サトウ:「昆虫語より難しい。」 メイウェザー:「…まるで、音楽みたいだな。」 「…母はピアノ習えってうるさかったわ。習えばよかった。」 「まだ間に合うさ。地球で始めればいい。…きっと帰れる。」 うなずくサトウだが、表情は暗いままだ。 機関室で修理するタッカー。「そいつを信用できるんですか。」 アーチャー:「そいつ?」 「デグラです。奴がこっちにつくなんて、信じられませんよ。兵器の設計者だ。」 「奴は少なくとも自分の味方を、疑いだしてる。」 「だといいですがね。…これで OK のはずだ。」 タッカーは操作するが、今まで作業していた回路が爆発した。 ため息をつくアーチャー。 タッカー:「…ダメか。」 トゥポルの通信が入る。『ブリッジより船長。』 アーチャー:「…何だ。」 『未確認船が接近中です。救援を求めています。』 「…ほかに情報は?」 『船に損傷を受けたとだけ。』 タッカー:「お仲間だ。」 アーチャー:「到着までの時間は。」 トゥポル:『12分です。』 「…ランデブーコースだ。…助け合えるだろ。」 ブリッジ。 リード:「彼らの武器装備は、自衛用のみ。」 トゥポル:「周辺に無数の空間異常があります。」 アーチャー:「抜けられるか。」 「恐らくは。」 「呼びかけろ。」 操作するサトウ。 アーチャー:「船長のアーチャーだ。貴船の救難信号を受信して来た。」 男:『感謝します。気をつけて、空間のゆがみが多くあり危険だ。』 「…以前に経験済みだ。」 『エンジンと生命維持がやられた。力を貸していただければ助かります。』 「できるだけはしよう。」 エンタープライズは異星人船※9とドッキングしたまま飛行している。 廊下を歩くアーチャー。「なぜこの星系へ?」 落ちた梁をくぐる。 異星人※10:「好奇心です。赤色巨星の研究で、実物を見る初めてのチャンスでした。あなた方の言う、『空間異常』は予想外で。こちらもですか?」 「いや、これは戦闘の被害だ。」 「戦闘?」 「ズィンディという種族のことは。」 「いえ、この区域は初めてだ。」 「そちらの船だが、空間異常を防ぐ絶縁体のトレリウムD※11 を塗ればいい。」 「確か稀な物質だ。」 「うちの貨物室に、60キロ眠ってる。」 「では何かと、交換できれば。」 「それを考えていた。」 「ただ提供できるものがあるかどうか。」 「ワープエンジンの被害が大きい。」 「プラズマインジェクターと、反物質なら分けられるが。」 「ワープコイルは何とかならないだろうか。」 「申し訳ないがそれは無理だ。」 「見合うだけの礼はできる。…ほかに、あなた方にも有益な技術を提供しよう。」 「コイルなしでは、星に戻るのに 3年かかる。長期のための物資は積んでない。」 「ズィンディは地球で 700万人を殺したんだ! …いま地球を破壊する兵器を造っている。止めなきゃならない! ワープドライブがどうしてもいるんだ。」 「同情はします。…ほかでなら協力する。ただクルーの命を危険にはさらせない。」 異星人船はエンタープライズと離れた。 シャワーを浴びるトゥポル。その背中に触れる者がいる。 タッカーだ。口づけする 2人。 裸で抱き合う。タッカーを壁に押しつけ、なおも執拗にキスを続けるトゥポル。 タッカーはトゥポルを押しやった。トゥポルの顔はいつの間にか、隆起が出て変質している。 驚くタッカー。トゥポルは同じく変色した腕で、タッカーの首を絞め始めた。 声を上げる。 目を覚ますトゥポル。身体を小さくする。 自室を出ていった。 ドアを手動で開け、環境服を手にするトゥポル。 環境服を着て進むトゥポル。アクセスコンジットは火花が散り、進むのも困難ほど荒れているのがトゥポルには見えている。 部屋に入った。貨物が並んでいる。 下へ向かう階段が壊れているため、壁を伝うトゥポル。貨物に足をかけるが不安定だ。 後ろに倒れてしまい、環境服のホースが外れた。漏れ出す空気。 慌ててつなぎ直す。トゥポルは息をついた。 何かを探して貨物室を歩く。ケースの表示を確認していく。 一つを開けると、筒が並んでいた。内部の一本を取り出すトゥポルの表情は、喜んでいるようにも見える。 中の容器を開ける。トゥポルが手にしたのは、青い鉱石だった。 安心するトゥポル。 鉱石を震える手で、装置にセットするトゥポル。鉱石は液体となって抽出された。 トゥポルは部屋でそれをハイポスプレーにセットし、自らに注射した。 穏やかに息をする。 発着ベイのメイウェザー。「この※12脱出ポッドは水中にも対応。それ以外は、標準的です。」 サトウ:「データバンクも調べました。普通の航行ファイルと、オペレーションファイルです。…ただ一つだけドキュメントが。エンジニアが監督者に追加の部品を要求しています。翻訳しました。」 アーチャーはパッドを受け取った。「…監督者たちの名が、ピラル※13、ジェイナ※14、トレニア※15。」 サトウ:「デグラの子供たちの名です。」 司令センター。 トゥポル:「あのドキュメントに、座標が埋め込まれていました。」 星図に表示させる。 アーチャー:「恒星系じゃないな。」 「ほかにも隠された数字が。…宇宙暦※16です。今日から 3日後の。」 エンタープライズの位置も映っている。 アーチャー:「その座標までの距離は。」 トゥポル:「4光年です。…この日に着くにはワープ3 は必要です。…デグラが 3日以上待つとは思えません。」 振り返るアーチャー。 ドアを叩き、自分で開けて作戦室に入るフロックス。ポートスを抱えている。「連れてきました。…いつも通り、とてもいい子でしたよ? …今朝、無事にマサーラ少尉※17を退院させました。…それと、オマリー伍長※18も午後には職務に戻れます。…船長?」 一点を見つめていたアーチャーは、落ちていた金属の破片を手にした。「…船を元通りに修復できるとは思えない。」 フロックス:「…単に、修理の問題ですよ。…簡単じゃ、ないでしょうが。…暗い顔は、船の被害のせいだけではないのでは。」 破片を投げ置くアーチャー。「医者になって何年だ。」 フロックス:「間もなく、40年です。」 「……その間に…倫理に反することをしたことはあるか。」 「……2度。なぜです。」 「……越えてはならない一線を、これから越えることになる。そしてこの任務の性質上、これが最後ではないだろう。」 「……そうでしょうね。計画をうかがえますか。」 「……さらに死傷者が出る。」 「……覚悟しておきます。」 出ていくフロックス。 兵器室に入ったアーチャー。リードが近づく。 アーチャー:「…武装乗船班を組め。」 リード:「…目標の船は?」 「助けた異星人の船だ。」 「どういうことです。」 「ワープコイルがいる。…向こうから差し出してはくれん。奪うしかない。」 「…船長…」 「部下を集めろ!」 アーチャーは出ていった。 |
※8: diamagnetic field ※9: ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者の祈り」に登場した、マザール船の使い回し ※10: Illyrian 船長 Illyrian Captain (ケイシー・ビッグス Casey Biggs DS9第86話 "Return to Grace" 「新たなる戦線」などのカーデシア人ダマール (Damar) 役) 種族名の Illyrian は言及されていません。「イリリアン」としている日本語資料もあります。声:斎藤志郎 ※11: trellium D ENT第53話 "The Xindi" 「トレリウムD」など ※12: 吹き替えでは「あの」と訳されていますが、目の前にあります ※13: Piral ※14: Jaina どちらも ENT第66話 "Stratagem" 「策略」より ※15: Trenia 前話 "Azati Prime" より ※16: この時代、航星日誌を宇宙暦 (stardate) では記録していませんが、概念としては存在するようです (しかもズィンディと共通) ※17: Ensign Masaro 吹き替えでは「アンサラ少尉」と訳されているようです ※18: Corporal O'Malley |
ズィンディ評議会の中央に立つ異星人の女性※19。『評議会のほかのメンバーは。』 人間ズィンディ:「彼らは呼んでいない。」 女性には髪などはなくのっぺりとした顔だ。『なぜ。』 姿が揺らめいた。 毛長ズィンディ:「爬虫類族の件で気になることを、耳に挟んだのだ。」 『不信感が渦巻いてるわね。』 「あなたに解消してもらいたい。」 『聞きましょう?』 デグラ:「爬虫類族が、生物兵器を作ろうとしたということだが?」 『一体誰がそんなことを。』 人間ズィンディ:「しかもあろうことか、生物兵器を作った場所が地球らしい。…過去のな※20。」 デグラ:「我々の知る限り爬虫類族はタイムトラベルの技術を、もっていないはずだ。」 球体創造者:『つまり私が手を貸したと思っているの?』 「そうなのか。」 『…ええ。…あなたたちが生物兵器を禁止した後、爬虫類族と昆虫族は評議会を脱退しようとしていたわ。分裂を防ごうとやったまでです。』 「あなたは評議会の権威を失墜させただけだ!」 『分裂を防ぎ、評議会の権威を守ってあげたのです。』 「…生物兵器はどうした。」 『完成しなかったわ? そして爬虫類族が 3名行方不明に。』 毛長ズィンディ:「見つけられないのか?」 『この次元でできることには限りがあるわ。』 デグラ:「いろいろとやっているようじゃないか。あなたたちが球体を造ったのか?」 『こんな尋問まがいのことをする権利があると思うの? 私の助けがなかったら、あなたたちの種族は確実に絶滅の危機に瀕してるのよ。』 毛長ズィンディ:「これまでの助力には感謝している。」 『感謝を示して。…目の前の仕事に集中しなさい。兵器はもうすぐ完成する。…こんな下らないことに気を取られていては、真の敵を倒し損ねるわ。全ズィンディの敵をね。…評議会員が全員そろわない場には二度と呼び出さないで。内部抗争に油を注ぎたくないわ?』 球体創造者が顔を上げると、消え去った。ため息をつくデグラ。 人間ズィンディ:「…信じていないな。」 デグラ:「君は?」 「しかし、アーチャーを信じる理由がどこにある。」 「アーチャーは彼女が出せないものを示した。…証拠だ。」 エンタープライズ。 異星人船の構造図が司令室のモニターに表示されている。 リード:「通常なら文句なく彼らに勝てますが、こちらの方が船の損傷がひどい。簡単にはいきません。」 タッカー:「もし右舷ナセルをやられたら…」 アーチャー:「万一にもやられないようにする。」 メイウェザー:「ワープコイルだけを、こっちに転送したらどうです。」 タッカー:「インジェクターシステムと結合してる。転送すれば向こうのエンジンを破壊する。俺が乗り込んで、外すしかない。」 リード:「時間は?」 「…10分程度だろう。…見るまではわからない。」 「応戦されたら、10分は相当長いでしょうね。」 トゥポル:「…交渉することを考えてみては?」 アーチャー:「意図を悟られてはまずい。…奇襲するしかない。どちらの死傷者も減らせる。彼らのエンジンを不能にして乗船し、ワープコイルを外し脱出する。…できれば死傷者なしでだ。」 顔を見合わせるタッカーとメイウェザー。 アーチャー:「コースセット。」 メイウェザーはうなずいた。解散する一同。 トゥポル:「…今よろしいですか。」 アーチャー:「後だ!」 作戦室に入るアーチャー。「ほかに手があればそうする。」 トゥポル:「これでは、領域へ来たとき我々を襲った略奪者※21と変わりません。」 アーチャーは戻ってドアを閉めた。「あれとは違う!」 トゥポル:「コイルを奪えば、彼らは死ぬかもしれません!」 「代わりにトレリウムD と食料を転送し、与えておく。」 パッドを見せるアーチャー。「それで心配ないとは言わない。だが帰り着くチャンスは十分ある!」 「ここが危険な区域だということを忘れています! 我々の攻撃で、自衛力を失うかもしれません!」 「そんなことはしない!」 「予定通りにいかなかったら?」 「一日議論しても、結論は変わらない!」 「…『人の道を外れた者が、人類を救うことはできない。』 …船長の御言葉です※22。」 「喜んでやっていると思うか。…こんなことはこれきりだ!」 「…一度過ちを正当化してしまえば、何度も繰り返すことになるんです!」 「正当化などしてない! …罪なら自覚してる!」 「断じて認めるわけにはいきません!」 「ほかに方法はない!」 「こんなことはさせない!」 トゥポルが床に投げたパッドは、粉々になった。 アーチャー:「……意見の相違はあっても…ものに当たったことはなかった。」 トゥポル:「…申し訳ありません。」 「どうしたんだ。」 「……厳しい数日でした。瞑想する暇もなかった。」 「…時間を作るんだな。」 「発言は撤回します。」 「それはよかった。…乗船は私が率いる。ミスは絶対許されない。」 トゥポルの肩をつかむアーチャー。「計画通りやらねば、大勢が死ぬ。…ブリッジに君が必要だ。」 「わかりました。」 まだ多数の怪我人を抱える医療室。 トゥポルが入る。「…ドクター。」 フロックス:「すぐに済みます。」 トゥポルはフロックスの腕をつかんだ。 フロックス:「何です。」 必死な形相のトゥポル。 フロックスは調べる。「血中にトレリウムが残留していますね。いつからこんなことを!」 トゥポル:「…3ヶ月前。」 「…何をしたのか、正確に話して下さい。」 「……セレヤ※23でトレリウムにさらされて、全く予想しなかった影響が出ました。」 「殺人衝動と、パラノイアでしょ?」 「当初の症状は…極端でした。でも影響が薄れると、現れてきたのは抑えていた…感情です。…癖になって。実験的に、ごく少量のトレリウムを摂取し始めました。血管に直接、注射する方法です。」 「危険はわかっていたでしょう、トレリウムはヴァルカンには致命的だ! 神経系を冒すんです!」 「少しなら問題はないと、思ったんです。…最初は感情をコントロールできたのです。それで…クルーとの交流もスムーズになった。」 「タッカー少佐ともですか。…いつ中毒を自覚しました。」 「2日前。Eデッキの損傷で貨物室へ行けなくなりました。…感情が異常に高ぶって、不安になった。…禁断症状です。」 「今は冷静だ。」 「トレリウムを取りに行きました。…途中で死ぬところだった。」 「この薬で、多少安定しますが 2、3日で禁断症状が戻るでしょう。」 注射するフロックス。「簡単には、いきませんよ。」 「…わかっています。」 通信が入る。『アーチャーよりトゥポル。』 トゥポル:「どうぞ。」 『目標が近い。ブリッジへ戻れ。』 「…今すぐに。」 ドアを開けるトゥポル。 フロックス:「まだ診察が済んでいません。」 「…重要任務です。…行かなければ。」 フロックスは近づいた。「何か症状が出たら来て下さい。すぐにですよ。」 立ち止まるトゥポル。「船長に報告しますか。」 フロックス:「医者と患者の、守秘義務です。」 ブリッジにトゥポルが入った。「…お気をつけて。」 アーチャーはクルーを見た後、トゥポルに言った。「船を頼む。」 ターボリフトに入る。 トゥポル:「…兵器スタンバイ。」 船長席に座った。 異星人船に背後から近づくエンタープライズ。 |
※20: 球体創造者 Sphere-Builder (Josette DiCarlo) 後にも登場。声:斎藤恵理 ※19: ENT第63話 "Carpenter Street" 「デトロイト2004」より ※21: ENT第54話 "Anomaly" 「オサーリア人の襲撃」より ※22: ENT "Impulse" より ※23: Seleya ENT "Impulse" より。吹き替えでは「セレヤ号」 |
異星人船。 部下に指示する異星人。「再度テストを。駄目なら全アセンブリをバイパスだ。」 呼び出しに応える。「何だ。」 『船長、船が接近中。地球船です。』 「呼びかけたのか?」 『返事をしません。』 サトウ:「まだ呼びかけてます。」 メイウェザー:「距離 200キロ。」 トゥポル:「…推進システムに照準。」 リード:「了解。」 「発射!」 フェイズ砲が何度も異星人船に命中する。 リード:「ワープはオフライン。武器を装填中。」 トゥポル:「ブリッジより転送室。」 「撃ってきます!」 「転送して。」 揺れる船。 異星人船内に転送されるクルー。気づいた船長が逃げ出す。 フェイズ銃で撃つアーチャー。MACO が続く。 倒されていく異星人クルー。 攻撃し合う異星人船とエンタープライズ。 アーチャーたちもクルーと撃ち合う。 タッカーがやってきた。「アクセスポートだ。」 アーチャー:「…麻痺爆弾※24。」 取り出した MACO は相手に向かって放り投げた。逃げようとしたが、爆発で倒れる異星人。 アーチャー:「行け!」 進むタッカー。はしごを登っていく。 リード:「敵兵器 50%。」 サトウ:「また船体に亀裂、Eデッキです。」 火花が散るブリッジ。 メイウェザー:「左舷スラスター、オフライン。」 リード:「武器を破壊しましょう。」 トゥポル:「自衛手段は奪えない!」 「生きて脱出したければほかにありません!」 「船長の命令です!」 床から顔を出す MACO。中には誰もいない。 MACO:「OK。」 タッカーが続く。揺れる船。 中央の構造を調べ、近づこうとした。だがフォースフィールドに阻まれるタッカー。 撃ち続ける MACO。 アーチャー:「援護を。」 呼び出しにコミュニケーターを取り出した。「アーチャーだ。」 タッカー:『船長、障害物です。』 リード:「右舷ナセルが狙われてる。」 トゥポル:「回避行動を。…トゥポルより船長。」 武器を構えたまま応えるアーチャー。「何だ。」 トゥポル:「かなり被害が出ています。」 アーチャー:『コイルにフォースフィールドがある。トリップが解除中だ。』 異星人船機関室のコンソールを操作するタッカー。「やってみろ。」 恐る恐るワープコアに手を伸ばす MACO。だが、またフォースフィールドが反応した。 異星人が多数集まってきた。 倒される MACO。血を流し、苦しむ。 アーチャー:「エンタープライズへ。」 トゥポル:『どうぞ。』 「パーソン※25が撃たれた。…通信機にロックし、すぐ転送しろ!」 トゥポル:「大尉。」 リード:「…Cデッキで空気漏れです。…トゥポル!」 「…フェイズ砲を細い密閉ビームに調整。パワー連結部を狙って。」 構造図を指さすトゥポル。 「了解。」 「発射!」 フェイズ砲を撃つエンタープライズ。異星人船は動きを止めた。 暗くなる船内。 フォースフィールドも解除された。ライトを使う MACO。 タッカー:「そこだ。」 取り外していく。 暗い中でも撃ち合いは続く。 転送室に、タッカーたちと装置が転送された。 応答するアーチャー。「アーチャーだ。」 トゥポル:『タッカー少佐収容。成功です。』 「転送準備を頼む。…撤退だ。」 戻っていく一同。 立ち止まるアーチャー。 異星人船長が武器を向けていた。「欲しいものは、力で奪うのか。」 アーチャー:「トレリウムD のコンテナを 3つ貨物室に転送した。代償としてだ。…食料と、そのほかの物資もある。」 「母星まで 3年もの距離があるんだぞ! なぜこんなことをする!」 「こうするしかないからだ。…転送しろ。」 非実体化するアーチャーと MACO。 異星人は銃を下ろした。 異星人船を残し、その場を去るエンタープライズ。 自室のトゥポルは私服だ。「なぜ来てもらったのかわかりません。」 フロックス:「話し相手が、欲しかったんでは?」 「そうですね。」 近づくフロックス。「気分は?」 トゥポル:「……トレリウムさえやめれば、必ず感情を制御できると思いましたが…違いました。」 「……それはきっと、残留効果で一時的なものです。」 「違ったら。」 「なら感情に、慣れればいい。」 「できるんでしょうか。…ただ…」 「怖いですか?」 「ヴァルカンに恐怖はありません。」 「感情を掘り起こした。…一晩では消えない、辛抱です。」 機関部員の声が飛ぶ。「プラズマインジェクターの最終チェックだ…」 タッカー:「2、3 直せば使えます。」 アーチャー:「最大速度は?」 「3 ポイント 2。ランデブーポイントに余裕をもって、着けます。」 ワープコアを離れるアーチャー。身体の痛みに声を上げる。 タッカー:「あれでよかったんです。」 アーチャー:「この領域にいるとそう言い聞かせる機会が増えそうだ。」 「彼らは大丈夫ですよ。帰れます。」 「…船長よりブリッジ。」 リード:『どうぞ。』 「最大ワープの準備だ。」 『了解。』 うなずくタッカー。 エンタープライズは、ワープに入った。 |
※24: stun grenade 今まで ENT第6話 "Terra Nova" 「植民星テラ・ノヴァの謎」などでは「スタン爆弾」と訳されていました ※25: Parson エキストラ。これまでも ENT第53話 "The Xindi" 「トレリウムD」、第61話 "North Star" 「ウエスタン」などで活躍していた女性 MACO |
感想
この話を見て、ファンの皆さんの評価を聞くにつれ、いろんな事実や考えが頭の中を交錯しました。ENT が低視聴率のために、次のシーズンで打ち切られたこと。今までのシリーズ (特に DS9) でもキャラクターの倫理観が問われるエピソードはあったのに、ここまで悪評を受けてはいなかったこと。米国のファンによるレビューサイトでは、必ずしも悪い評点ばかりではないこと。空母エンタープライズのクルーが、ENT にカメオ出演したりしていること。スーパーチャンネルで第3シーズンの初放送だというのに、掲示板での感想や議論がさほど盛り上がらないエピソードばかりだったということ。ただしこの話では評価は別にしても、反応が相次いだということ。 「日本のファンはわかってない」などと言うつもりは毛頭ありません。同時に「こんなのスタートレックじゃない」とも思いません。私は確かに、言葉は悪いですが胸糞悪い展開ではあったものの、全体として最悪だとまでは感じませんでした。既にアーチャー (と ENT) にある意味愛想を尽かしていたせいかもしれませんが。やはり「エンタープライズの船長」として、視聴者を納得できてないんでしょうね。相手の異星人の船長が、DS9 を代表するサブレギュラーのダマール役というのが何とも皮肉です。 パイロット版も担当した James L. Conway 監督、共同製作者でもある女性脚本家 Phyllis Strong (ちなみに最後の脚本) による作品です。最近のトゥポルの異常行動に、やっとで説明がつけられましたね。テクノバブル方面としては、「ワープコイル」がワープコアに付随する部品のように描かれていました。これは従来の設定とは大きく矛盾しており、本来ワープコイルというのはナセル内に連なって存在する巨大な構造物です。VOY に出てきた「トランスワープコイル」と混同したとの見方もありますね。どちらも宇宙艦隊と互換性があるのもすごいですが。文字通りのユニバーサルデザイン…。 |
第70話 "Azati Prime" 「爬虫類族の攻撃」 | 第72話 "The Forgotten" 「デグラの決断」 |