フォージ。 
 洞窟を歩くトゥパウ。「シラナイトと連絡がついたわ。怪我人を世話してる。」 
 アーチャー:「首都までは。」 
 「2日よ。」 
 トゥポル:「エンタープライズに戻り、艦隊に爆破事件の真相を伝えないと。」 
 アーチャー:「首都へ行くのが先だ。早くこれを、届けないと。」 
 「理解できません。」 
 トゥパウ:「キルシャラにはスラクの教えが刻まれてるの。真の教えが記された、唯一の物よ。最高司令部は大きな衝撃を受ける。全ヴァルカン人も。」 
 ため息をつくトゥポル。
  
 エンタープライズ。 
 リード:「どちらの発射管も、数時間後には使えます。」 
 見ていたパッドを返すタッカー。「ほかには。」 
 リード:「…率直に言っても?」 
 タッカーはうなずく。 
 リード:「ガードナー提督は地球への帰還を命じてる。だが我々が向かっているのは、アンドリア領だ。」 
 タッカー:「帰還はするさ。…ちょっと遠回りしてるだけだ。」 
 「アンドリアへ立ち寄ることを、艦隊には?」 
 「…いや。」 
 「提督に知られたらどうなるか、わかってます?」 
 「俺の裁判に招待しよう。…ほかに話は。」 
 「ヴァルカン人による今回の攻撃には理由があります。…アンドリアに警告することは、同盟者への裏切りでは。」 
 「俺は戦争を避けたいだけだ。地球を守りたいだけだよ。」 
 「お言葉ですが、少佐。関わるべきではありません!」 
 「すでに関わってしまってるんだ。」 ドアチャイムに応えるタッカー。「どうぞ。」 
 ソヴァルが作戦室に入る。 
 タッカー:「以上だ、大尉。」 
 リード:「少佐。」 
 「行ってよし。」 
 ソヴァルとタッカーを見た後、出ていくリード。 
 ソヴァル:「何か、ご用ですか。」 
 タッカー:「考えたが、帝国軍が我々を信じる保証はない。ヴァルカンが攻撃するという証拠もないしね。…だが、一人だけ信用しそうな男がいる。以前も、信用してくれた。」 
 「シュランですか。」 
 「ただどこにいるかわからない。」 
 「…力になれると思います。」 
 「…よろしく。」 
 外へ向かうソヴァル。「どうやら、リード大尉は不満のようだ。」 
 タッカー:「一部のクルーは私に疑問をもってます。無理もない。私も迷ってる。」 
 「アーチャー船長も、あなたと同じ決断を下したはずです。」 
 「…私もそう願っています。」
  
 洞窟を進むトゥポル。「エンタープライズは、転送ポイントを探すはずです。誰か行かないと。」 
 アーチャー:「独りで離れるのは危険だ。」 
 「キルシャラを最高司令部に持っていって何になるんです。」 
 「戦争を止められるかもしれん。」 
 「戦争とは?」 
 「アンドリアとのだ。」 
 「彼らとは、2年近く前に和解しています。」 
 「ただの時間稼ぎだ。ヴラスは過去最大の攻撃を仕掛ける。」 
 「どこからそんな情報を。」 
 「…さあ、どこかな。」 
 「…スラクのカトラをあなたが受け継いだとしても、彼は大昔に死んでいます。なぜその戦争を予知できると。」 
 「シランの記憶が、融合されたからだろ。」 
 「…船長。」 
 「私は正気だ。」 
 「あなたがこの決定を下しているとは思えません。…船に戻るべきです。キルシャラはトゥパウが持っていけばいい。」 
 「私が選ばれた!」 
 「『選ばれた』? 興味深い表現ですね。」 
 「君が懐疑的になるのはわかるが、私は正気だ! 妄想に酔っているわけではない。いま君の世界を牛耳っている力は、スラクの教えを台無しにしようとしている。このままでは、ヴァルカンは滅びるぞ。だからこれを首都へ運び、我々 3人で力を合わせ…」 
 トゥパウ:「アーチャー! 止まって。」 
 前に岩場が広がっている。 
 トゥパウ:「ギャリサイト※3だわ。…何か金属製の物持ってる?」 
 アーチャー:「…これだけだ。」 ナイフを渡す。 
 トゥパウが岩に向かって投げると、ナイフに放電が起こった。落下するナイフ。 
 アーチャー:「…助かったよ。」
  
 ヴァルカン最高司令部。 
 クヴァック:「パトロール隊が戻りました。シラナイト 8人を捕まえたようです。」 
 ヴラス:「中にシランは。」 
 「奴は、死にました。ほかに 3人の生存者がおり、一人は地球人だそうです。」 
 「アーチャーか。」 
 「奴がキルシャラを持っているらしい。」 
 「そんな物ありはしない。」 
 「存在を認めている学者もいます。フォージに隠されていると聞きました。シラナイトは、スラクの真の教えに従っていると主張しています。キルシャラが実在すれば、彼らが正しいことが証明される※4。」 
 「実在などしない。シラナイトのプロパガンダを知っているだろ。以上だ、大臣。」 
 離れるクヴァック。 
 ヴラスは座っているヴァルカン人に近づいた。「中尉※5、タロック少佐※6にシラナイトの残党を捜させろ。過激な反乱分子を、一掃する。全員殺すのだ。わかったかね、中尉。」 
 うなずき、歩いていくヴァルカン人中尉。
  
 エンタープライズは星雲に近づく。 
 ソヴァル:「呼びかけます。」 
 タッカー:「…誰に?」 
 「星雲にです。」 
 サトウに合図するタッカー。 
 ソヴァル:「こちらはソヴァル大使。急務を負って来た。シュラン司令官と話したい。」 
 応答はない。 
 ソヴァル:「最高司令部は、保安プロトコルを解読した。あなたの部隊が潜伏していることは、わかっている。」 
 タッカー:「もういないんじゃないですか。」 
 「いえ、います。」 
 「…エンタープライズのタッカー少佐だ。耳寄りの情報をもってきてやったぞ。」 
 コンピューターに反応がある。 
 メイウェザー:「少佐。」 
 星雲の中から、アンドリア船が出てきた。複数いる。 
 サトウ:「呼びかけてます。」 
 うなずくタッカー。 
 シュラン※7司令官がスクリーンに映った。『なあ、タッカー少佐。友達は選んだ方がいいぞ。』 
 タッカーはため息をつく。
  
 星図を見るシュラン。「侵略だと?」 
 ソヴァル:「その通り。」 
 「我々はヴァルカン軍を監視してる。事実ならとっくに気づいてるはずだ。」 
 「ヴラスは、レギュラス※8付近に部隊を配備している。」 星図を指差すソヴァル。「君らの盗聴が、及ばない位置だ。」 
 「あんたの上官がいくらバカでも、我々が報復することぐらい予測がつくだろ!」 
 「君らがズィンディのテクノロジーを使い、攻撃してくると思い込んでいる。」 
 「バカなことを。あのプロトタイプは早々にアーチャー船長に破壊されたよ!」 
 「その事実は、都合よく省かれている。」 
 「貴様らヴァルカン人は味方同士でも嘘をつきだまし合うのか! これが陽動作戦でないという証拠は!」 
 「何もない。」 
 「我らが帝国軍が、本気で報復行動に出れば一体どういうことになるかわかってるのか! …双方に甚大な被害が及ぶのだぞ!」 
 「だからこそ、ヴァルカン軍の侵略を止めて欲しいのだ。」 
 「そんなこと俺に言えば、味方を裏切ることになるんだぞ。」 
 「承知している。」 
 「どうしてこんな真似をする。」 
 「最高司令部は、奇襲部隊に頼っている。彼らが抵抗にあえば、ヴラスは侵略自体を中止するだろう。」 
 「…いつ起こるんだ? その『侵略』とやらは。」 
 「すぐにも。」 
 「そんな曖昧なことしか言えないのか!」 
 「そうだ。」 
 シュランはタッカーに近づいた。「信じるか、ピンクスキン。」 
 タッカー:「信じたからここにいる。」 
 「……上官に相談する時間をくれ。」 
 「できるだけ、急いで欲しい。」 
 会議室を出て行くシュラン。保安部員が続く。
  
 明るくなってきたフォージの上空に、パトロール機の航跡が見える。 
 トゥポル:「これで 4機目の偵察機です。…首都周辺の保安網を強めている。突破するのは無理では?」 
 トゥパウ:「大丈夫。スラクがついています。…カトラを信じられない?」 
 「その質問は無意味です。一刻も早く、船長をドクターに診せなければ手遅れになる。」 
 「彼が必要なのは司祭よ。カトラを体験したことのある。」 
 アーチャーは日陰で眠っている。 
 トゥポル:「…頭の中にいる人物に従うなどバカげています。船長が死んだらどうするんです! …謝ります。母の死が、想像以上に堪えているようです。」 
 トゥパウ:「私もそうよ。意見の相違はあっても、彼女は信頼していたわ。私と分け合った経験を、あなたも経験する?」 
 「精神融合を? …私はできません。」 
 「手ほどきしてあげる。」 
 「…そうじゃありません。何年か前に精神融合を強要され、パナー症候群※9にかかったのです。」 
 「パナー症候群? 今も冒されているの。」 
 「不治の病です。」 
 「それも最高司令部がでっち上げた嘘よ。…その病気はスラクの時代からあるわ? 未熟な精神融合者によって感染するの。訓練を積んだ者に、精神融合を受ければ治ります。」 
 「あなたにも治せるの。」 
 トゥパウはひざまづき、トゥポルの顔に手を置いた。目を閉じるトゥポル。 
 トゥパウ:「我の精神は、汝の精神へ。…互いの精神は…解け合い一つになる。」
  
 アンドリア船クマリ。 
 アンドリア人※10:『ブリッジからシュラン司令官。』 
 シュラン:「シュランだ。」 
 『ヴァルカン人の生体反応を捕捉。独りです。』 
 「本当にエンタープライズは、転送※11に気づかないか。」 
 『エネルギーサージを感知するだけです、星雲のせいだと思うでしょう。司令官?』 
 「…ただちに転送せよ。」 
 『了解。』 
 シュランの目の前の椅子に、ソヴァルが転送されてきた。驚くソヴァル。 
 武器を向けるアンドリア人。 
 シュラン:「我が船へようこそ、大使。」
 
 
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※3: gallicite VOY第58話 "Blood Fever" 「消えた村の謎」より
  
※4: 吹き替えでは断言していますが、原語では「証明されるかもしれない」
  
※5: 宇宙艦隊の Lieutenant (Junior Grade) とは異なり、Sub-Lieutenant
  
※6: Major Talok
  
※7: Shran (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) ENT第76話 "Zero Hour" 「最終決戦」以来の登場。声:中村秀利 (継続)
  
※8: Regulus しし座アルファ星。レギュラス (レグラス) のアカムシ (Regulan blood worms) が TOS第42話 "The Trouble with Tribbles" 「新種クアドトリティケール」などで言及
  
※9: Pa'nar Syndrome ENT第40話 "Stigma" 「消せない汚名」より。その原因となった精神融合は、ENT第17話 "Fusion" 「果てなき心の旅」より
  
※10: アンドリア人の通信音声 Andorian Com Voice (Melodee M. Spevack ゲーム "25th Anniversary Enhanced"、"Judgment Rites" でも声の出演など) あとで中尉 (Lieutenant) と階級を呼ばれています。声:森夏姫
  
※11: ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」の時点では、アンドリア人に転送技術はありませんでした。その後 3年の間に、実用化されたということでしょうか
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