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エンタープライズ エピソードガイド
第86話「亜量子転送」
Daedalus

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・イントロダクション
地球軌道上のエンタープライズ。
タッカー:「まそりゃ、ちょっとは緊張しますよ。…わかりました、ちょっとじゃない。」 廊下を歩く。
アーチャー:「一週間騒ぎっぱなしだもんな?」
「船長には、身近な人でしょうけどね。7歳の時母が本をくれました。エモリー・エリクソン、転送機を生んだ偉人って本。毎晩読んでもらった。それで、エンジニアになろうって。」
笑うアーチャー。「ゼフレム・コクレインに会ったって話はしたか?」
タッカー:「もう 50回くらい聞きましたよ。」
「その時の私と同じ気持ちだろ?」
「ヘヘ。」
「フン…。」
タッカーは部下の肩を叩き、制服の乱れを直す。
アーチャー:「鏡は?」
タッカー:「…船長、からかってますね?」
アーチャーは息をつき、合図した。
操作するタッカー。
転送されてきたのは、車椅子に座った老人と、脇に立つ女性だ。
手を広げる老人。「…どこもなくなっとらんな?」
女性:「うん。」
喜ぶタッカー。
アーチャー:「やあ、エモリー※1。」
エリクソン:「ああ、ジョナサン。いつかデカくなるとは思ってたが、わしより有名になりやがって生意気な。」 笑い、抱き合う。
女性:「ジョン。」
アーチャー:「久しぶり。」
女性はキスを交わす。「話すことが山ほどあるの。」
アーチャー:「うん…」
エリクソン:「話は後だ、まず船内を見たい。」
「機関主任のチャールズ・タッカー少佐だ。」
タッカー:「光栄です。」 握手する。
エリクソン:「君には、いろいろと手伝ってもらうよ?」
「ええ、楽しみにしてます。」
アーチャー;「ダニカ※2、トリップだ。」
微笑むダニカ。
エリクソン:「では少々船をお借りできるかな、船長?」
アーチャー:「万全な状態で返してくれよ?」
「そりゃあ何とも言えん。実験が成功したら、この船は一気に時代遅れになるな?」
「おい、私を失業させる気か?」
大笑いするエリクソン。


※1: エモリー・エリクソン Emory Erickson
(ビル・コッブス Bill Cobbs 映画「大逆転」(1983)、「コットンクラブ」(84)、「ニュー・ジャック・シティ」(91)、「ボディガード」(92)、「デモリションマン」(93)、「未来は今」(94)、「すべてをあなたに」(96)、「ゴースト・オブ・ミシシッピー/暴かれた真相」(96)、「エア・バディ/ダンクを決めろ!」(97)、「ラストサマー2」(98)、「みんなのうた」(2003)、ドラマ「新アウターリミッツ」(1997, 99)、ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア 「拒絶」(2000)、「霊能者アザーズ」(00、レギュラー)、"The Michael Richards Show" (00、レギュラー)、ザ・ホワイトハウス 「忍び寄る恐怖」(02)、「ドリュー・ケリー DE ショー!」(02〜04、サブレギュラーのトニー役) に出演) 声:木村雅史、ENT デグラなど

※2: ダニカ・エリクソン Danica Erickson
(Leslie Silva ファン製作ムービー "New Voyages" に出演。マニー・コト創作・製作のケーブル番組「オデッセイ5」のサラ・フォーブス役) 声:一木美名子

・本編
ワープ中のエンタープライズ。
『航星日誌、補足。エリクソン博士の実験に備えて、主要エリア以外のパワーを最小限に削減した。』
暗い食堂にいるタッカー。「一緒にいいかな。」
前の椅子を示すトゥポル。
タッカーは座った。「…最近話してないだろ。あれからどう。」
トゥポル:「元気です。」
「いつも独りみたいだな。」
「キルシャラを読んでいるので。」
「面白い?」
「…興味深いです。」
「興味深い。」
「とても。」
「ああ…気持ちはわかるよ。家族を失うほど辛いことはない。」
「議論しても仕方ありません。過ぎたことです。」
「亡くなって一週間だろ。」
「過去は変えられません。」
「君の気持ちは変えられる。」
「私は何とも思っていません。」
「おい、そう強がるなよ。」
「事実です。」
「…妹が死んで、俺も殻に閉じこもりたいって思ったときはあったけど…」
「気持ちは感謝しますが、そのような励ましは無用です。」
「…平気なのか。」
うなずくトゥポル。
タッカー:「そうか。じゃあ話したくなったら、声かけて。」
トゥポルは再びうなずいた。
タッカー:「それじゃ。」 出ていった。
パッドを読み始めるトゥポル。

船長用食堂のエリクソン。「亜量子テレポーテーション※3ってことだ。…転送機に乗れば地球から、たった 2、3秒でヴァルカンに移動できる。」
タッカー:「16光年はありますよ?」
「関係ありゃせんよ。…理論上は、転送の距離に限界はない。それを今回実証する。…どこまでも転送で移動できるとなりゃあ、宇宙船なんぞいらなくなる。」
アーチャー:「やっぱり仕事を奪う気だな?」
笑うダニカ。「パパ。」
エリクソン:「ま、すぐにとはいかんさ。実用化には何十年とかかるからな? …だがいつか、宇宙艦隊は全く違うものに生まれ変わる。もし存在してればな。」
「もうほんと相変わらずでしょ。」
アーチャー:「そういやあ、昔親父ともそんな話をしてた。」
エリクソン:「ああワープエンジンと転送機に、お互い未来を懸けてたからな? あの頃が懐かしい。会いたいよ。…ヘンリーに。」 グラスを掲げる。
皆も乾杯した。
トゥポル:「ヴァルカン科学アカデミー※4でも、亜量子転送の研究はなされてきましたが…あまり、成果はありません。」
エリクソン:「一時はその情報を手に入れたくて必死だった。…だが自力で頑張ってきたからこそ、こうして実験までこぎ着けた。」
タッカー:「想像もつかない。星から星への転送なんて。」
「実際目にするまでは夢物語だろう。最初の転送機の時も、安全性を信じない奴らがいた。未だにいるだろ。」
アーチャー:「白状するよ、私もできれば、転送より昔ながらのシャトルで移動する方がいい。」
笑うダニカたち。
エリクソン:「最初の生体実験の時は、そりゃすごい反対にあった。」
ダニカ:「…また始まった…。」
「悪影響が出るって。腫瘍だの細胞が破壊されるだの※5、不眠症になるとも言われたよ。挙げ句の果てには転送すると元の人間とは別人になるなんて、ふざけた噂※6まで飛び交い始めおった。出てくるのは、コピーだってな?」
タッカー:「そしたら私達はみんな、コピーですね。」
「そういう下らん疑念が渦巻いてな。そいつを取り払わにゃ実用化はない。かなり苦労したよ。だがわしは勝った…。…そして人類は進歩した。必死の努力が報われたんだ。」
「実験の成功を祈って。」 再び乾杯する一同。

通常航行中のエンタープライズ。
『航星日誌、補足。不毛の領域※7と呼ばれるエリアに入った。100光年先まで星系一つない。実験にはうってつけの場所だ。』
辺りには恒星が見当たらない。
エリクソン:「最初はそりゃあビビったもんだ。死なずに済んでよかったよ。」
転送機で作業するタッカー。「ご自分が最初の実験台に?」
エリクソン:「そんなもん人に譲れるか?」
タッカーは笑う。「怖かったでしょう。」
エリクソン:「想像を絶する。一号機の頃は転送完了までに、一分半かかってな。一年くらいに感じた。…身体が文字通りバラバラになっていくのを、実感できるんだよ。再物質化したときは、何よりも真っ先に食ったもん全部吐いた。…その後は思いっきり酔い潰れたよ。ゼフレム・コクレインの教えだ。…そういうときにはとにかく、『酒の力』を借りるのが一番いい。」
作業したところで音が鳴る。
エリクソン:「何だ。」
タッカー:「ああ、思ったよりパワーを使うらしい。」
「この船なら確保できるだろ。」
「じゃあ、リアクターからパワーを回しましょう。もう少し、システムも切らないと。」
「ライトはつけたままでいいだろ?」
「ええ。パワー変換機をつけさせていただければ、調整します。」
「これはいい。…あとでわしがちゃんと取り付けるよ…。手間はかけさせたくない。」
「ああ、ありがたいんですが船内のシステムをいじるときは自分の手でやりたいんです。」
「うん。」
「…貸していただけます?」
「わしが取り付けると言ってるんだ。」 部品を置くエリクソン。
「せっかくですが結構です。」
「ヘ、機関系統のプロトコルについてもアドバイスしてやれりゃいいんだが、あいにく忙しくてな? ここは君たちの船でわしはただの客だが、艦隊からこの船の全システムに手を加える権限をちゃんともらってるんだ。…わしなら船のシステムをアップグレードしてやることもできるんだぞ?」
「ああ…。」
「そいつを貸してくれ。」
従うタッカー。

機関室のダニカ。「メインリアクターとプラズマ供給ライン?」
アーチャー:「クルー並みの知識だなあ。」
「データには全部目を通したから。過去の任務内容も説明できるわよ。」
「何で志願しなかったんだ?」
「理由は知ってるでしょ。」
「フン、エモリーのことなら心配ないだろう。独りでも十分やっていける。」
「まあそうだけど。」
「だったら、何で宇宙に出ない。」
「…心配なのよ。兄さんのこと引きずってるから。」
「14年も前だろ?」
「もう 15年。」
「息子を亡くして、娘まで失わせたくないか。」
「実験が成功したらパパは、新しい希望をもてる。前向きになろうって気持ちはあるのよ。」
「だが、失敗したらどうなる。」
「わからない。」
「…お互い手のかかる父親をもったな?」
「かなりがつくぐらいね?」
「フン。」 廊下に出るアーチャー。「にしても、そろそろ自分のこと考えろよ。何て、裏庭でオモチャのレーザーガンもって追いかけっこしてた奴に言われても説得力ないか?」
笑うダニカ。「まあね。でもいいアドバイスかも。私もできればそうしたい。」

自室に入るダニカ。エリクソンはパッドを見ていた。
ダニカはカバンから、ハイポスプレーを取り出した。セットする。
エリクソン:「どうだった?」
ダニカ:「楽しかった。」
近づくエリクソン。「ずいぶん早かったじゃないか。」
エリクソンの背中をまくるダニカ。脊髄のところに、生々しい傷跡が残っている。
エリクソン:「動揺してるみたいだな。」
ダニカは針を刺し、注射する。服を戻した。「そりゃ動揺して当たり前でしょ。」
エリクソン:「あと一歩で、念願が叶うかもしれないんだぞ?」
「嘘ついてるのよ?」
「今は仕方ない。」
「ジョンに言って協力してもらえばいいじゃない。」
「駄目だ。…到底理解してもらえる話じゃない。誰であろうと、信用できん。」
「ジョンは別でしょ?」
「あいつはこの船の船長だ、艦隊に忠誠を誓ってる。」
「……何でジョンのことそんな敵みたいに言うの?」
「敵なんかじゃない。だが今は味方とも言い切れん。我慢しろ。」

兵器室にいるリード。突然ライトが暗くなった。
コンピューターの表示が乱れる。
上を指差す保安部員のバローズ少尉※8。「何かいます。」
銃を持つリード。「こっちだ。」
さらに真っ暗になった。
リード:「上を見る。」 武器をバローズに渡す。「下を調べろ。」

ブリッジのトゥポル。「恐らく、空間のひずみでしょう。」
アーチャー:「詳しい位置は。」
「Fデッキ、兵器室※9付近。」

フェイズ銃を取り出すリード。上へ向かう。
歩き続けるバローズ。ドアを開けた。
相手の気配はない。戻ってくるバローズ。
その時、バローズの背後に明滅する影のようなものが現れた。脇へ移動していく。
気づかず歩き始めたバローズの前に、突然姿を見せる。バローズは衝突し、絶叫する。
倒れるバローズ。
リード:「医療室、兵器室で怪我人だ。」
バローズを仰向けにするリード。その顔はひどく変形していた。


※3: sub-quantum teleportation

※4: Vulcan Science Academy
ENT第79話 "Home" 「ヒーローたちの帰還」など。吹き替えでは「ヴァルカン科学理事会」になっていますが、それは Vulcan Science Directorate です (ENT第11話 "Cold Front" 「時を見つめる男」など)

※5: 原語では「脳腫瘍だの精神病だの」

※6: 原語では「形而上学的な戯言」

※7: The Barrens

※8: Ensign Burrows
(Noel Manzano) 階級は公式サイトより

※9: 兵器室が Fデッキにあることが、初めて言及

転送台のそばにいるトゥポル。「広範囲で、細胞が破壊されていました。非常に強い、デルタ放射線※10を浴びたような…ひどい状態でした。」
ダニカ:「その時、ほかに何か異常は?」
アーチャー:「ライトが故障した。」
エリクソン:「空間のひずみがあったんだろ? それが何か関係ありそうなのか。」
「事故のあった現場で、同時に検知した。偶然とは思えない。」
「辛い気持ちはわかる。転送機の実験段階の頃も、志願者たちが命を落とした。…貴い犠牲を忘れたことはないよ。できることは。」
トゥポル:「この領域で、長い間研究をされていますね。」
「ああ、だがこんなことは初めてだ。」
「確かですか。」
「ここは不毛の領域と呼ばれてる。何も存在しやしない。」
アーチャー:「だが何ものかが、クルーの命を奪った。」
「心当たりでもありゃいいんだが…」 背中を押さえるエリクソン。
「大丈夫か。」
「そろそろ注射をせんと。ダニ※11。…悪いな。」
エリクソンを押していくダニカ。
エリクソン:「この件は、また後で話そう。」
アーチャー:「ああ。」

自室のエリクソン。「落ち着け。」
ダニカ:「こんなことになるなんて一言も聞いてない!」
「わしだって予期してなかった。」
「パパ。」 パッドを取り上げるダニカ。「人が死んだのよ? …私達のせいで。…もうこれ以上黙ってられない。」
「まあ聞け。」
「いや! もう、みんなにほんとのこと話すわ。」
「ダニ。クイン※12を死なせてもいいのか。」
「私が死なせるの? …兄さんはとっくに死んでるのかも。」
「生きとるさ。」
「…パパ。…ジョナサンは家族同然でしょ? 兄さんの親友でもあった。」
「そりゃ、もちろんわかっとる。」
「これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。」
「もうすぐ最初の実験にかかれる。」
「…その前にまた誰かが死んだら?」
「ああ、そんな可能性は限りなくゼロに近い。もう誰も死にはしないさ。…あと 2日の辛抱だ。…クインの辛さを思えば。」
「私達のしようとしてることを知ったら…兄さん何て言うか。」
「成功したら、本人に聞け。」

転送室。
タッカー:「パワー供給。」

ブリッジのライトが明滅する。顔を見合わせるメイウェザーとサトウ。

タッカー:「完了。」
エリクソン:「手を貸せ。」
「え?」
「ほら、立たせてくれ。…スイッチは自分で押したい。」
タッカーは笑った。
エリクソン:「転送開始。」
転送台に置かれた装置が、転送された。

トゥポル:「…目標地点で再物質化されました。」
アーチャー:「…無事転送されたようだぞ?」
「船長。データを受信中です。」

アーチャー:『データが届いてる。やったな、おめでとう。』
タッカー:「距離 4万キロ※13の転送。」 握手する。「前代未聞ですよ。」
エリクソン:「序の口だよ。」
タッカーは笑った。「恐らく、データの受信に 2、3時間かかります。待ってる間食堂で、お祝いを。」
エリクソン:「データは届き次第、チェックしたいんだよ。ちょっとしたこだわりでね?」
「じゃあ何か食べ物を持ってきます。ここでデータを見ながらゆっくり。」
「結構だ。」
「かかりっきりで、お腹が空くでしょ。」
「先に行ってくれ。」
「…チェックは、お一人の方が。」
「ああ一人で十分だ。…気を遣ってもらって悪いが、周りに人がいるとどうも集中できん。」
「ああ。じゃあ、先に行ってます。」 タッカーは離れた。
操作を続けるエリクソン。

アーチャーの部屋。
ドアチャイムに応える。「入れ。」
タッカー:「…様子が変です。エモリーに指示されたのはリアクターのパワーを回せとかプラズマのバイパスとか、必要ないことばかりで。」
「…何が言いたい。」
「照明が落ちましたよね。」
「ああ。」
「エモリーは、そのパワーをフィードバック・ループに送った。転送ビームではなく。」
「きっと、別の実験で必要になるんだろ。」
「私が見る限り、亜量子転送は通常よりも少ないパワーで機能する。そこが画期的なんです。…余計な指示で、注意を逸らしてるようで。本当の目的は転送実験ではなく、何か別にあるのでは。…実験をよく見るように言われていたので、気づいたんです。」
「兵器室での事故について話を聞いたとき、エモリーは心当たりはないと言った。」
「嘘だった?」
「エモリーの乗った調査船で似たようなことが、5年前にな。…トゥポルが艦隊のデータバンクから掘り出してきた。証言によれば、ひずみは生きているようだったと。」
トゥポルの通信。『ブリッジより船長。』
アーチャー:「どうぞ。」
『また空間のひずみです。位置は Cデッキ、第5セクション。』

アーチャー:『すぐ向かう。』

フェイズ銃を持って廊下を進むアーチャーたち。
トゥポルはスキャナーを使う。「安定しません。」
アーチャー:「どの辺りだ。」
トゥポルは指差す。
その先には何もない。
トゥポル:「消えました。」
アーチャーは MACO に指示する。「第3セクション。君は第4 だ。十分注意しろ。」

ドアを開けるアーチャー。
トゥポル:「こっちです。…この位置です。」
音がした。背後に空間のひずみが来ている。
トゥポル:「不安定で、亜空間フィールドに覆われています。」
ひずみは急に速度を上げ、ドアの向こうに消えた。アーチャーは避けたが、トゥポルの手だけが当たってしまう。
痛みに叫ぶトゥポル。

トゥポルの手の皮膚が変形している。
フロックス:「接触したのがほんの一瞬でよかった。ああ、少しの間それを置いてください。」
スキャナーを扱うトゥポル。「映像を記録したんです。」
受け取り、医療室のモニターに向けるタッカー。空間のひずみの映像が映る。
アーチャー:「スローにしろ。」
ゆっくりと再生される。
アーチャー:「そこだ。」
明るくなった画像で止まる。
アーチャー:「調整しろ。」
ひずみの部分に色がつく。
アーチャー:「もう少し。」
すると、ひずみは人の姿のようになった。
視線を落とすアーチャー。
タッカー:「…誰なんです。」
アーチャー:「…クイン。エモリーの息子だ。」


※10: delta radiation
TOS第16話 "The Menagerie" 「タロス星の幻怪人」など

※11: Dani
愛称

※12: Quinn

※13: これは 24世紀におけるエンタープライズ-D の転送距離に匹敵します。ENT では 2,000キロが標準 (ENT第48話 "Cogenitor" 「第3の性」)

自室で画像を見るエリクソン。「信じられん。年を取っとらん。」
アーチャー:「エモリー?」
「転送機の実験というのは口実だ。…息子を取り戻しに来た。」
「どういうことだ。」
「…亜量子転送機が完成して、初めて実験に移そうって時だ。クインが実験台に名乗り出た。ヘンリーやお前のように※14、熱意があってな? だが実験でクインの信号は消えた。…情けないが、亜量子転送なんてそもそも実現不可能な理論なんだよ。…どんなに研究を重ねても、決して実用化はできん。…あの事故でそれに気づいた。」
「何でクインを実験台にした。」
「わしは若くして偉業を成し遂げた。宇宙艦隊を変える発明をしたんだ。…だが頂点まで登り詰めたら、あとは下るのみ。過去の栄光を取り戻したい一心でもう必死だったんだよ。」
「あんたはそれでいいだろう! だがクインはどうなる!」
「……あんな事態は予想もしてなかった。」
「クインを取り戻すって、そんなことできるのか?!」
「このエリアが、不毛と言われるのは亜空間の境目になっているからだ。…ここは時空の隙間※15なんだよ。だから星が存在しない。…クインの信号はここに迷いこんどる。…だが時空の揺らぎにより、一定間隔でその信号が現れる。…タイミングを計って信号をロックすれば、助け出せる。」
「何で早く言ってくれなかったんだ。」
「艦隊の許可が下りるわけがないからな。表向きの理由が必要だった。」
「それでクルーが命を落とした。」
「危険性は予測できてなかったんだ、信じてくれ。」
「今さら信じろって?」
「お前の力がいるんだ。クインは兄弟同然だろ。」
「あんたを父親のように思ってた。ハ、もっと信じて欲しかったよ。」
「もう一度だけ、スキャンさせてくれ。…それで救える。」
「今度は本当か。」
「嘘などつかん。」
「ここへ来た理由も嘘だった。」
「仕方なかったんだ! 本当に悪かった。…ジョナサン、助けてくれ。」
ため息をつくアーチャー。
エリクソン:「息子を救いたいんだ。…頼む。」

作戦室のアーチャー。「君たち 2人で、全面的にエモリーに協力してくれ。…何だ、トリップ。」
タッカー:「そんなの納得いきません。犠牲者が出たのに。」
「2人目は出さん。クルーには、警戒を呼びかける。」
「24時間前にわかってれば、バローズは死なずに済んだ。」
トゥポル:「…安全と言い切れる根拠はありません、非常に危険な試みです。」
アーチャー:「確かに、断言はできん。だが後一日でいいんだ。それで解決する!」
「あくまで彼の主張です。」
「私は信じる。」
「親しい間柄だから?」
「そんなことは関係ない。」
タッカー:「だったらどうしてですか。」
「クインの信号は、この 15年間で少しずつ弱まり続けてきた。このチャンスを逃せば、もう助かる見込みはないと言ってる。ほっとくわけにはいかん!」
「エモリーの責任はどうなるんです。嘘をついて誘い出した!」
「それはわかってる。…だがもう遅い。…助かる人間を見捨てて帰ることはできん! …指示は出した、今すぐ作業にかかれ!」
出ていくタッカーとトゥポル。

転送室。
タッカー:「アレイにスパイクがある。エミッターコイルを別のと交換してみます。少しは変わる。」
エリクソン:「そうしてくれ。」
「すぐに。」
「わしのやっとることに反対か?」
「反対でも関係ない。」
「見損なわれてしまったようだな。」
「…そんなに尊敬されたいですか。」
「されたいよ。…正直なところな?」
「もう尊敬なんてできない。」
「君も自分の息子を亡くしてみれば、わしの気持ちがわかる。」
「私も妹を亡くした。生き返るなら何だってしますが、他人を危険にさらしはしない!」
「…息子とは衝突ばかりだった。だが失って初めて気づいたんだよ。そうやって言い合ってる間は、幸せだった。」
「…機関室にいます。」

ドアチャイムに反応するポートス。アーチャーが出る。
ダニカ:「…入ってもいい。…ああ、ポートスね。話は聞いてる。」 なで、笑う。「愛嬌あるわね。」
アーチャー:「食欲もあるよ。」
「一言謝りたくて。」
うなずくアーチャー。
ダニカ:「もっと早く来るべきだったけど。責任感じてる。大事なクルーでしょ。」
アーチャー:「もう取り返しはつかない。だが犠牲を無駄にはしないよ。」
「兄さんを助けられると思う?」
「可能性はある。それに賭けるしかないだろ。」
「…兄さん、いまどうなってるのかしら。苦しんでるのか、意識はあるのか。自分はもう、忘れられたと思ってるかも。パパには兄さんが全てなの。…私にとっても。この 15年兄さんを救うことだけ考えてきた。」
「これで全てが終わったら、ほかのことを考えるといい。」
ため息をつくダニカ。

トゥポルはパッドを渡した。「パワー変換のリストです。あれば、何かの役に立つでしょう。」
タッカー:「ありがとう。」
「ほかに用は。」
「とりあえず、大丈夫かな。」 歩いていくトゥポルに言うタッカー。「どうしようか迷ってるんだ、映画会。」
「映画会?」
「復活させようと思ってさ。ホラーとミュージカルなら、どっちがいい。」
「映画を観る時間はありません。」
「ずっと本を読んでる気か、あの…何とかって。」
「キルシャラ。」
「たまには息抜きしないと。」
「そのうちに。」
「おかしいだろ。地球人と接するために艦隊に入ったんじゃないのか。…なのに地球を発ってからずっと、独りで部屋にこもってヴァルカンの聖書みたいなものを読んでる。」
「優先順位をつけたまでです。」
「おい、どういう意味だよ。」
「ブリッジに戻ります。」 機関室を出るトゥポル。

スキャナーを見るエリクソン。アーチャーが車椅子を押している。
通信が入る。『トゥポルより船長。』
発着ベイで応えるアーチャー。「アーチャーだ。」

トゥポル:「そちらに何かを探知しましたが、消えたようです。」

アーチャー:「監視を続けろ。」
エリクソンのスキャナーに反応がある。「いるぞ。」
ライトが落ち、暗くなった。
エリクソン:「ジョナサン。…そっちだ。」
シャトルポッドを突き抜け、空間のひずみが現れた。
エリクソン:「クイン!」
移動するクインを追うエリクソン。「クイン。」
ひずみは壁の中へ消えた。途端に火花が散る。
アーチャーはエリクソンに飛びかかり、倒した。壁が爆発する。
咳き込むエリクソン。


※14: 原語では "his old man" や "you" のように、と言っています。後者がアーチャーだけでなくヘンリーも指しているとしても、前者はエリクソン自身のことでしょう

※15: 原語では「曲がった時空の泡」

ターボリフトを出るタッカー。「EPS ジャンクションで作業中。修理は 2時間程度で。」
アーチャー:「転送機に影響は?」
「ありません。まさかまだ続ける気ですか…」
「事情は説明したはずだ。」
「魚雷の脇スレスレだったんですよ? あと 60センチ※16ずれてたら全員死んでた。船を直して早くこっから逃げるべきです。」
「クインを無事に助け出せば、危険は一切なくなるんだ。」
「わかりませんよ…」
「トリップ!」
「個人的な感情を優先するんですか。」
「命令不服従で処罰するぞ。」
「不服従って!」
「私は正しい判断を下した。これ以上議論の余地はない。指示はわかっただろ? 早く仕事にかかれ!」
「了解…。」
廊下を歩いていくアーチャー。タッカーは納得していない。

エリクソンの部屋に入るアーチャー。
エリクソン:「準備は整った。あとはタイミングを計ってロックさえできれば。」
アーチャー:「いつ現れる。」
「次は 3時間後だ。…船の方は。」
「修理してる。」
「助かったよ。」
「気にするな。」
「お前には関係ないのに…こんなことに巻き込んですまん。」
「せめて、犠牲を無駄にはしたくない。…クインを助け出そう。」
「…正直怖い。」
「わかるよ。」
「膨大な時間をかけて、計画してきた。…だが失敗に終わったらと思うと。」
「私も飛行訓練の前の日、親父に同じような弱音を吐いた※17。」
「…奴は何て。」
「失敗するな。」
「フフン…気の利かん言葉だな?」
「…十分だろ。」 出ていくアーチャー。

転送室。
スキャナーを見るエリクソン。「そろそろだ。」
アーチャー:「どうだ。」
フロックスも来ている。

ブリッジのトゥポル。「まだです。」

タッカーはエリクソンの肩に触れた。
トゥポル:『船長。』
アーチャー:「どうぞ。」

トゥポル:「Bデッキ、第8セクション。」

操作するタッカー。
エリクソン:「封鎖ビームだ。できる限り広範囲に。」
タッカー:「もうやってます。ロックしました。…安定してる。」
「わしが。」
エリクソンを立たせるタッカー。
エリクソン:「転送開始。」
元通りになった転送台に、転送されてくる。
エリクソン:「パワーが足りん。」
タッカー:「これで一杯です。」
乱れる光。
エリクソン:「いけるぞ。」
うごめく人のような姿が見えた。
ダニカ:「…兄さん。」
赤い光が走った。
エリクソン:「…頼む!」
スキャナーで調べるフロックス。
エリクソン:「シークエンスを完了させろ。」
タッカー:「信号が弱すぎます。」
「封鎖ビームを調整すればいい。」
「それでもロックはできない。」
「いいからやれ!」
音が大きくなる。
フロックス:「かなり広範囲で、細胞が崩壊しています。」
エリクソン:「そんなはずはない。」
「細胞がバラバラになってます。物質化しても、助からない。」
「相互位相でダメージを修復してやろう。」
タッカー:「転送機じゃ無理です。」
「わしが造ったんだぞ!」
フロックス:「バイタルサインが消えそうだ。」
アーチャーはエリクソンの腕に触れた。「エモリー。」
エリクソン:「あきらめんぞ。補助バッファをつないでくれ。」
タッカー:「…間に合いません。」
ダニカ:「パパ。」
エリクソン:「信号は保つから早くやれ!」
「行かせてあげて。」
「駄目だ!」
フロックス:「助ける術はありません。」
「このままさまよわせるわけにはいかん!」
アーチャー:「…エモリー。…助けられない。」
クインの顔が見えている。
エリクソン:「許してくれ。」 操作する。
人間が実体化した。クイン・エリクソン※18はすぐに倒れる。
近寄るエリクソン。声を上げるクイン。
エリクソン:「クイン。」
クイン:「父さん。どうしたの。」
「クイン、許してくれ。すまん。」
「何が。何で。」 クインは目を開いたまま、動かなくなった。
目を閉じさせるエリクソン。泣く。
アーチャーはダニカの肩に手を回した。

ワープ航行中のエンタープライズ。
ドアチャイムに応えるエリクソン。「どうぞ。」
アーチャーが入った。
エリクソン:「放ってはおけんかった。生きるか死ぬかの方が、どっちつかずでいるよりマシだ。」
アーチャー:「気休めだが、クインもきっと同じ気持ちだよ。」
「息子を取り戻しに来たんだ。これで一応、目的は達したよ。」
「艦隊と連絡を取った。」
「…そう喜んじゃいないだろうな。」
「実験結果は、前向きに考慮すると。」
「わしは嘘をついて、この船を利用した。…クルーまで犠牲にしてしまったしな。とても責任逃れなぞ、しようがないだろ。…だが一ついいこともある。ダニにこれ以上老いぼれの世話をかけなくて済む。…やっと息子を解放してやれたんだ。今度は娘を自由にしてやらんとな。」
「ダニは宇宙に出るべきだ。」
「…わしも人の役には立てるだろう。教授になるとかな。」
「ピッタリなんじゃないか?」
笑うエリクソン。「退屈はしないな?」
アーチャーは微笑んだ。
エリクソン:「独りよりは身のない研究を続ける空しさを、生徒たちと分かち合える方がいい。」

医療室のフロックス。「神経破壊酵素のレベルは先週と変わっていません。パナー症候群の兆候はない。」
ベッドに座っているトゥポル。「まだ事態が飲み込めていません。」
フロックス:「不治の病と宣告されたものが急に治ってしまったんだ、無理もない。…パナー症候群に悩む多くのヴァルカン人がその事実を明らかにしています。…もはや、恥じることではない。」
「キルシャラには強く影響されました。」
「はたから見てもわかります。…かなり、確信されているようだ。」
「こんな気持ちは初めてです。」
「…ああ、あなたは真理を再確認した。うん? 貴重な経験です。」
出ていくトゥポル。

機関室で仲間に話す機関部員。「なあ、ちょっと頼んでもいいか。ここに書いてあるやつなんだけど、調整しといて欲しいんだ。」
トゥポルはタッカーに近づいた。「いまいいですか。」
タッカー:「ああ。…映画会の話じゃなさそうだな。」
「…私はとても、複雑な経験をしました。」
「知ってる。」
「…そして、初めて実感したんです。ヴァルカン人であることの意味を。」
「詳しく説明してくれ。」
「自分の中で整理がついてから。…ですから、今は時間が。」
「何て言って欲しい。」
「ただわかったと。」
「わかった。…そうくるだろうとは思ってたし。」
トゥポルは歩いていく。
タッカー:「俺も修理で忙しいよ。」
目を合わせる 2人。

『航星日誌、補足。サラエヴォ※19と合流した。エモリーとダニカを地球へ送り届けてもらう。』
宇宙艦隊船に近づくエンタープライズ。
転送台に乗る二人。
アーチャー:「気をつけて。」
エリクソンは手を差し出した。「お前たちもな。…少佐。」 タッカーとも握手する。「楽しかったよ。…一つアドバイスだ。これで転送範囲を、2、300キロは伸ばせる。悪かないだろ?」
パッドを受け取ったタッカー。「見ておきます。」
アーチャーに近づくダニカ。「ポートスによろしく言って。」
アーチャー:「がんばれ。」
「またどこかで会いましょう。」
ダニカは転送台に戻った。うなずくアーチャー。
タッカーが操作すると、二人は転送されていった。
トゥポルやフロックスも転送室を離れた。※20


※16: 原語では「2フィート」

※17: ENT第81話 "Cold Station 12" 「コールド・ステーション」では、ヘンリーはアーチャーが 12歳の時に死んだとされていました。その前に飛行学校で訓練…?

※18: Quinn Erickson
(Donovan Knowles)

※19: Sarajevo
ENT第78話 "Storm Front, Part II" 「時間冷戦(後編)」の最後で登場した地球船の中に、同じタイプの船がありました。船名などは描かれていないそうです。DS9第112話 "In Purgatory's Shadow" 「敗れざる者(前編)」などで、イスタンブール級 U.S.S.サラエヴォが言及。吹き替えでは「サラエヴォ

※20: その他の声優は飯島肇、森夏姫、大久保利洋

・感想など
三部作が 2連続で続いたため、単独ストーリーとしては 7話ぶりになります。黒人の有能で頑固な博士といえば、TOS "The Ultimate Computer" 「恐怖のコンピューターM-5」のデイストロム博士。製作者も一種のオマージュであると発言しており、それに今まで一度も明かされていなかった転送機の発明者という設定が加えられました。失われた者を転送で救う、という線は VOY "Jetrel" 「殺人兵器メトリオン」にも似通っていますね。原題はギリシャ神話の大工ダイダロスにちなんでおり、息子のイカルスは TNG "The Icarus Factor" 「イカルス伝説」で使われました。
新規セットなどが全くないボトルショーで、ストーリーにも新鮮味はありませんでした。即死したとは言え、一旦は話せる形で完全に復元されるのにもちょっと違和感を覚えましたし。何より犠牲者が出てるのに、のんきに今後の話をするのは…。タッカーとトゥポルの下りは、意味不明かつ蛇足でした。セリフがなかったサトウとメイウェザー役はどう思ってるんでしょう。


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