ターボリフトを出るタッカー。「EPS ジャンクションで作業中。修理は 2時間程度で。」 
 アーチャー:「転送機に影響は?」 
 「ありません。まさかまだ続ける気ですか…」 
 「事情は説明したはずだ。」 
 「魚雷の脇スレスレだったんですよ? あと 60センチ※16ずれてたら全員死んでた。船を直して早くこっから逃げるべきです。」 
 「クインを無事に助け出せば、危険は一切なくなるんだ。」 
 「わかりませんよ…」 
 「トリップ!」 
 「個人的な感情を優先するんですか。」 
 「命令不服従で処罰するぞ。」 
 「不服従って!」 
 「私は正しい判断を下した。これ以上議論の余地はない。指示はわかっただろ? 早く仕事にかかれ!」 
 「了解…。」 
 廊下を歩いていくアーチャー。タッカーは納得していない。
  
 エリクソンの部屋に入るアーチャー。 
 エリクソン:「準備は整った。あとはタイミングを計ってロックさえできれば。」 
 アーチャー:「いつ現れる。」 
 「次は 3時間後だ。…船の方は。」 
 「修理してる。」 
 「助かったよ。」 
 「気にするな。」 
 「お前には関係ないのに…こんなことに巻き込んですまん。」 
 「せめて、犠牲を無駄にはしたくない。…クインを助け出そう。」 
 「…正直怖い。」 
 「わかるよ。」 
 「膨大な時間をかけて、計画してきた。…だが失敗に終わったらと思うと。」 
 「私も飛行訓練の前の日、親父に同じような弱音を吐いた※17。」 
 「…奴は何て。」 
 「失敗するな。」 
 「フフン…気の利かん言葉だな?」 
 「…十分だろ。」 出ていくアーチャー。
  
 転送室。 
 スキャナーを見るエリクソン。「そろそろだ。」 
 アーチャー:「どうだ。」 
 フロックスも来ている。
  
 ブリッジのトゥポル。「まだです。」
  
 タッカーはエリクソンの肩に触れた。 
 トゥポル:『船長。』 
 アーチャー:「どうぞ。」
  
 トゥポル:「Bデッキ、第8セクション。」
  
 操作するタッカー。 
 エリクソン:「封鎖ビームだ。できる限り広範囲に。」 
 タッカー:「もうやってます。ロックしました。…安定してる。」 
 「わしが。」 
 エリクソンを立たせるタッカー。 
 エリクソン:「転送開始。」 
 元通りになった転送台に、転送されてくる。 
 エリクソン:「パワーが足りん。」 
 タッカー:「これで一杯です。」 
 乱れる光。 
 エリクソン:「いけるぞ。」 
 うごめく人のような姿が見えた。 
 ダニカ:「…兄さん。」 
 赤い光が走った。 
 エリクソン:「…頼む!」 
 スキャナーで調べるフロックス。 
 エリクソン:「シークエンスを完了させろ。」 
 タッカー:「信号が弱すぎます。」 
 「封鎖ビームを調整すればいい。」 
 「それでもロックはできない。」 
 「いいからやれ!」 
 音が大きくなる。 
 フロックス:「かなり広範囲で、細胞が崩壊しています。」 
 エリクソン:「そんなはずはない。」 
 「細胞がバラバラになってます。物質化しても、助からない。」 
 「相互位相でダメージを修復してやろう。」 
 タッカー:「転送機じゃ無理です。」 
 「わしが造ったんだぞ!」 
 フロックス:「バイタルサインが消えそうだ。」 
 アーチャーはエリクソンの腕に触れた。「エモリー。」 
 エリクソン:「あきらめんぞ。補助バッファをつないでくれ。」 
 タッカー:「…間に合いません。」 
 ダニカ:「パパ。」 
 エリクソン:「信号は保つから早くやれ!」 
 「行かせてあげて。」 
 「駄目だ!」 
 フロックス:「助ける術はありません。」 
 「このままさまよわせるわけにはいかん!」 
 アーチャー:「…エモリー。…助けられない。」 
 クインの顔が見えている。 
 エリクソン:「許してくれ。」 操作する。 
 人間が実体化した。クイン・エリクソン※18はすぐに倒れる。 
 近寄るエリクソン。声を上げるクイン。 
 エリクソン:「クイン。」 
 クイン:「父さん。どうしたの。」 
 「クイン、許してくれ。すまん。」 
 「何が。何で。」 クインは目を開いたまま、動かなくなった。 
 目を閉じさせるエリクソン。泣く。 
 アーチャーはダニカの肩に手を回した。
  
 ワープ航行中のエンタープライズ。 
 ドアチャイムに応えるエリクソン。「どうぞ。」 
 アーチャーが入った。 
 エリクソン:「放ってはおけんかった。生きるか死ぬかの方が、どっちつかずでいるよりマシだ。」 
 アーチャー:「気休めだが、クインもきっと同じ気持ちだよ。」 
 「息子を取り戻しに来たんだ。これで一応、目的は達したよ。」 
 「艦隊と連絡を取った。」 
 「…そう喜んじゃいないだろうな。」 
 「実験結果は、前向きに考慮すると。」 
 「わしは嘘をついて、この船を利用した。…クルーまで犠牲にしてしまったしな。とても責任逃れなぞ、しようがないだろ。…だが一ついいこともある。ダニにこれ以上老いぼれの世話をかけなくて済む。…やっと息子を解放してやれたんだ。今度は娘を自由にしてやらんとな。」 
 「ダニは宇宙に出るべきだ。」 
 「…わしも人の役には立てるだろう。教授になるとかな。」 
 「ピッタリなんじゃないか?」 
 笑うエリクソン。「退屈はしないな?」 
 アーチャーは微笑んだ。 
 エリクソン:「独りよりは身のない研究を続ける空しさを、生徒たちと分かち合える方がいい。」
  
 医療室のフロックス。「神経破壊酵素のレベルは先週と変わっていません。パナー症候群の兆候はない。」 
 ベッドに座っているトゥポル。「まだ事態が飲み込めていません。」 
 フロックス:「不治の病と宣告されたものが急に治ってしまったんだ、無理もない。…パナー症候群に悩む多くのヴァルカン人がその事実を明らかにしています。…もはや、恥じることではない。」 
 「キルシャラには強く影響されました。」 
 「はたから見てもわかります。…かなり、確信されているようだ。」 
 「こんな気持ちは初めてです。」 
 「…ああ、あなたは真理を再確認した。うん? 貴重な経験です。」 
 出ていくトゥポル。
  
 機関室で仲間に話す機関部員。「なあ、ちょっと頼んでもいいか。ここに書いてあるやつなんだけど、調整しといて欲しいんだ。」 
 トゥポルはタッカーに近づいた。「いまいいですか。」 
 タッカー:「ああ。…映画会の話じゃなさそうだな。」 
 「…私はとても、複雑な経験をしました。」 
 「知ってる。」 
 「…そして、初めて実感したんです。ヴァルカン人であることの意味を。」 
 「詳しく説明してくれ。」 
 「自分の中で整理がついてから。…ですから、今は時間が。」 
 「何て言って欲しい。」 
 「ただわかったと。」 
 「わかった。…そうくるだろうとは思ってたし。」 
 トゥポルは歩いていく。 
 タッカー:「俺も修理で忙しいよ。」 
 目を合わせる 2人。
  
 『航星日誌、補足。サラエヴォ※19と合流した。エモリーとダニカを地球へ送り届けてもらう。』 
 宇宙艦隊船に近づくエンタープライズ。 
 転送台に乗る二人。 
 アーチャー:「気をつけて。」 
 エリクソンは手を差し出した。「お前たちもな。…少佐。」 タッカーとも握手する。「楽しかったよ。…一つアドバイスだ。これで転送範囲を、2、300キロは伸ばせる。悪かないだろ?」 
 パッドを受け取ったタッカー。「見ておきます。」 
 アーチャーに近づくダニカ。「ポートスによろしく言って。」 
 アーチャー:「がんばれ。」 
 「またどこかで会いましょう。」 
 ダニカは転送台に戻った。うなずくアーチャー。 
 タッカーが操作すると、二人は転送されていった。 
 トゥポルやフロックスも転送室を離れた。※20
 
 
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※16: 原語では「2フィート」
  
※17: ENT第81話 "Cold Station 12" 「コールド・ステーション」では、ヘンリーはアーチャーが 12歳の時に死んだとされていました。その前に飛行学校で訓練…?
  
※18: Quinn Erickson (Donovan Knowles)
  
※19: Sarajevo ENT第78話 "Storm Front, Part II" 「時間冷戦(後編)」の最後で登場した地球船の中に、同じタイプの船がありました。船名などは描かれていないそうです。DS9第112話 "In Purgatory's Shadow" 「敗れざる者(前編)」などで、イスタンブール級 U.S.S.サラエヴォが言及。吹き替えでは「サラエヴォ号」
  
※20: その他の声優は飯島肇、森夏姫、大久保利洋
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