エンタープライズ エピソードガイド
第78話「時間冷戦」(後)
Storm Front, Part II
イントロダクション
モノクロの映像。 タイトルを読み上げるアナウンサー※1。『ニュース・オン・パレード。自由のため共に戦うアメリカとドイツ。』 アドルフ・ヒトラーが映る。 『勇者の国アメリカを初めて訪れたドイツ総統は、ニューヨークで温かい歓迎を受けました。総統はタイムズ・スクウェアで群衆の歓声に応え、エンパイヤステート・ビルで眺めを満喫されました。』 パレードやビルでの様子。 『足下を気をつけて。自由の女神を訪問された際には、ニューヨーク市から市の鍵を贈呈されました。疾風怒濤の御訪問の最高潮は、4時間に及ぶスピーチ。総統は、ドイツとアメリカの同盟関係の輝かしい未来を語られました。』 ドイツ語でスピーチするヒトラー。 『そして 1929年以来経済を停滞させている社会の寄生虫と、不当に富を得ている者たちの根絶を誓われました。』 ウィンストン・チャーチルらの映像。 そして工場で働く人々。 『協力し合い、アメリカ人に職を取り戻そう。二つの偉大な国が共に手を携え、力強い未来を作るのです。』 星条旗の上に、ナチスの旗が掲げられる。 |
※1: ニュース映画ナレーター Newsreel Narrator (Burr Middleton) 声のみ |
本編
ホワイトハウス。 ドイツ人将軍:「アメリカ軍の反撃が数日中に始まるという確実な情報が入っている! 今や噂でなく、事実だ!」 ヴォスク:「その対処は君に任せよう。何だそれは。」 ファイルを持っている将軍。「情報部の報告書だ。これによれば君の中隊は、実験を無事終えたそうだなあ。」 ヴォスク:「我々を見張っていたのか。」 「国益を守るためだ。」 「私もそうしただろうな。準備でき次第即刻配備すると、総統に伝えておいてくれ。」 「配備可能と書いてある。」 「反論するようだがその情報は、間違っている。」 「引き延ばしもいい加減にしろ!」 「脅しもいい加減にしてもらいたいな?」 「君らはドイツを守ると誓いを立てたはずだろ!」 「その誓いは今も、守っている。」 「そうか?」 「そちらも同じように約束を、したはずだ。」 「君らが要求したものを与えた。そっちの約束を果たさない限りは、追加物資はトラック一台たりとも送らんからそう思え!」 「将軍。よく考えるべきだろうな? あの武器が連合軍に渡ったら、一体どうなるか。もしもベルリンが…プラズマ砲で消え去ったらどうする。」 「反逆で逮捕すべきだな※2。」 「愚かな男だ。協力関係にあるから我々が対等だとでも思っているのか? …君らは国家の覇権を争っている。我々は全時空を手に入れる。歴史の隅々に、我々の意思をゆき渡らせるのだ。…君の種族が百万年長らえたとしても、我々が成し遂げた偉業の足元にも及ばない。…また今度私を脅したくなったときには、思い出すんだな。私は君を歴史から、完全に消し去れるんだ。」 出ていくヴォスク。 エンタープライズ。 宇宙艦隊アカデミー※3卒業証書のそばに置かれた、写真立てを手にするアリシア・トラヴァース。部屋にアーチャーが入った。 トラヴァース:「私と同じ年頃。」 アーチャー:「26 だ。」 「…オマリー少尉※4は、なぜ死んだの?」 「異星人と戦闘中だった。」 「未来にもまだ戦争があるの?」 「地球での、人間同士の戦争はもうない。だが銀河は広い。何千もの種族の価値観が同じとは限らない。」 「宇宙船に、ほかの星の異星人に、その上…未来人? …ブルックリン※5のアリシアは頭がパンクしそうだわ? …それに高所恐怖症なの。」 「地球のどこへでも送れる。ドイツに占領されていない場所にでもね?」 窓から地球を見るトラヴァース。「そういう場所は日に日に減ってるけど…うちへ帰りたい。…私の街へね。街のみんなが悲惨な目に遭ってるときに、私だけ逃げられないわ。…きっとそう言うってわかってたんでしょ?」 アーチャー:「予想はしてた。…部下が行方不明だ。隠れているか捕まったか殺されたのかわからない。」 「街の動きは仲間が逐一見張ってるから、みんなに言っておく。…アーチャー? この船なら、きっと私達を助けられるわ。きっとあの連中を止められる。」 「わかってる…」 「止めてよ! …まずベルリンよ、地図から綺麗さっぱり消し去って! そして奴らを一人残らず殺して。そうしないと…」 「彼らを阻止する! そのために来たんだ。だが別のやり方がある。」 「そうね。あなたに任せるわ。…まずあの分解装置で私のこと送り返すんでしょ?」 「フン、シャトルは故障してる。転送機を使うしかないんだ。」 「あれはもう二度とやらないって約束したのに。」 「悪いが約束を破る。」 「…いいわ、でもどういう仕組み。」 笑うアーチャー。 トラヴァース:「やっぱり聞くのはやめとくわ。」 部屋に集まっている異星人。「ただちに。」 ヴォスク:「テストシークエンスを始めろ。」 異星人部下※6:「あの捕虜を尋問しましたが、彼らは時間エージェントではないようです。」 「予想していたとおりだ。…彼らのテクノロジーはどう見ても、タイムトラベル以前のものだ。」 「どうやってこの時代へ来たかさえ、わからないようです。奇妙ですね。」 「それでも、彼らが偶然ここへ来たとは考えられないな。」 近くの装置が光り、円形の台の中央にもやのようなものが現れた。だがすぐに消滅し、機械からは火花が散る。 異星人技術者※7:「パワーモジュールの一つにサージが。」 ヴォスク:「全システムをスキャンし問題を突き止めろ。…もうあまり時間がないのだ。ドイツ軍が痺れを切らしている。」 異星人部下:「欲しいものを与えてはどうです。」 「あの連中を信用はできない。開発してやった武器で我々を攻撃してこないとも限らん。…捕虜たちを拘束室へ戻しておけ、怪我の手当てをしてやるんだ。」 ヴォスクを見る部下。 ヴォスク:「…行け。」 ドイツ軍によって、部屋に入れられるメイウェザー。意識を失っている。 タッカーも運び込まれた。息をつく。 異星人部下:「医者を呼べ。今すぐだ。」 答えるドイツ兵。みな去っていった。 仰向けになるタッカーは、汗をかいている。 天井に人物の姿が現れた。シリックだ。 目を凝らすタッカー。飛び降りてくるシリック。 作戦室のリード。「タイムラインが変えられた時点を特定しました。レーニンが暗殺されています、1916年に。」 アーチャー:「後任は誰だ。」 「誰も。レーニンが死に、ボルシェヴィキは政権につけなかった。ロシアは共産主義にはならず、ドイツはロシアを無視した。」 「西部戦線に集中できたのか。」 「ええ。フランスの後、ベルギーとオランダが陥落。ヒトラーはイギリスも落とし、アメリカ東部に侵攻しました。」 トゥポル:「…でもヴォスクらが地球に来たのはもっと最近で、2、3年前です。」 アーチャー:「じゃあ、1916年の異変には関わっていないことになるな。」 リード:「レーニン暗殺犯は捕まらず、目撃者によれば犯人は煙のように消えたそうです。」 トゥポル:「時間戦争では、複数の勢力がタイムライン全域で歴史を変えようとしているそうです。別の、陣営かもしれませんね。」 「我々は、ヴォスクが時間戦争を始めるのを止めに来たんじゃないんですか。」 アーチャー:「鶏か卵かだ。」 サトウの通信。『ブリッジよりアーチャー船長。』 アーチャー:「どうした。」 『通信が入っています。…ヴォスクです。』 ブリッジに戻るアーチャー。「船長のアーチャーだ。」 通信機を使うヴォスク。「聞いた声だ、どこかで会ったかな?」 アーチャー:「何の用だ。」 ヴォスク:『部下を 2名預かってる。』 「…無事なのか。」 ヴォスクは独りで歩いている。「直接会って話し合った方が、お互いの利益になる。」 アーチャー:「なら船へ迎える。」 ヴォスク:「もっと中立な場所を考えている。郊外の静かな場所ではどうかな?」 アーチャー:「とても中立とは言い難い。」 ヴォスク:『スキャナーを使え。上陸前に、周囲を調べろ。私の部下 3名と、捕虜 2名だ。』 「2時間前には殺されかけた。」 『状況が変わったのだ。これから座標を送る。興味があれば、一時間後に会おう。』 ヴォスクは通信を終えた。 サトウ:「…座標です。」 アーチャーはリードを見る。ターボリフトへ向かった。 森※8の中に転送されてくるアーチャーと MACO たち。軍用車が近づいてきた。 ヴォスクが身を乗り出し、降りてくる。「また会えて実に嬉しいよ。」 |
※2: 吹き替えでは「反逆で逮捕すべきだった」 ※3: これまで 22世紀にアカデミーが存在することは (明らかに触れられそうな会話であっても) 一切言及されておらず、美術部門のミスという指摘もあります ※4: Ensign O'Malley 卒業証書には「パトリシア・F・オマリー (Patricia F. O'Malley)」というフルネームが書かれています。ENT第71話 "Damage" 「球体創造者」ではオマリー伍長が言及されていますが、MACO であり生きているので別人 ※5: 原語では「ベンソンハースト (Bensonhurst)」。イタリア系アメリカ人が多く住む地域 ※6: 名前は Kraul (Mark Elliot Silverberg) ですが、言及されていません ※7: Technician (David Pease) ※8: パラマウントの北にあるグリフィス・パークでのロケ撮影。園内にはグリフィス天文台があり、VOY第50話 "Future's End, Part I" 「29世紀からの警告(前編)」で登場しました |
車を見るアーチャー。「部下はどこだ。」 ヴォスクが合図すると、荷台からタッカーとメイウェザーが降ろされた。 メイウェザー:「…船長!」 タッカー:「…信じられない。どうして…」 アーチャー:「無事なのか。」 「…王族待遇じゃなかった。」 ヴォスク:「取り調べが少々、厳しかったのは謝罪しよう。」 メイウェザー:「『少々』だって?」 「勘違いしていたのだ、君たちをね。」 タッカー:「…無事です。」 近づくアーチャー。「船に戻るんだ。」 タッカー:「船長も、来ますよね。」 「トリップ。」 コミュニケーターを使うアーチャー。「転送だ。」 転送される 2人。 ヴォスク:「君の部下は返した。次はこちらが報いてもらう番だ。」 アーチャー:「どうする。」 「君に聞きたいことがある。」 「何だ。」 「君たちのレベルのテクノロジーでは、まだタイムトラベルをする能力はないはずだ。」 「助けがあった。」 「やはりそうだったか。では私の何を、知っている。」 「星へ帰ろうとしている。戻る時代は 29世紀だ、ドイツ軍と取引をしたのも知っている。…彼らから物資を得て、タイムマシンを造っている。」 「私の予想の一部分は、外れたな。君は時間エージェントじゃなかった。だが彼らの命を受けている。」 「もしタイムマシンが完成し、元の未来に戻ったらあんたは…タイムラインを破壊する戦争を起こす。」 「それは全く一方的な見方だな? 君を送った時間エージェントは非常に独善的で、全時代の全種族に彼らの考えを押しつけてる。」 「彼らはタイムラインを守るために、時間協定を作った。」 「自らの利益のため、タイムラインを操作しているんだ。実際に付き合えば、ただ歴史を見守っているだけではないことがわかるだろう。…たびたび介入している、戦略をもってな?」 「そっちもだ。」 「私はその意図を隠しはしない。…確かに、時間協定には賛成しない。タイムトラベルは、君らのワープ航法と変わらないと思っているからな? あらゆる種族が、恩恵を享受するべきだ。…社会も、文明も、歴史を慎重に…操作することで、改善できるのだ。」 「改善が必要と誰が決める。」 「哲学的議論を始めるつもりはないね。君が私に協力すべき理由は明らかだ。」 「どんな理由だ。」 「君を元の時代に戻してやれる。」 「歴史は既に変わっている。私の時代も全く違うものになっているだろう。」 「時間エージェントを全員倒して、君のタイムラインの損傷を直そう。…それで君らの時代は元通りになる。いま我々は 20世紀の地球の技術しか使えない。君の船の物資を使えれば、仕事は急速に捗るはずだ。…船へ戻り、仲間と相談して…私の申し出を考えてみろ。」 車に戻るヴォスク。 エンタープライズ。 アーチャー:「具合は?」 フロックス:「ああ、切り傷と打撲です。」 タッカー:「あの後、どうしたんです。奴と、取引したんですか。」 アーチャー:「奴はそのつもりでいる。」 「ほんとは?」 フロックス:「ああ、船長。」 パッドを渡す。 アーチャー:「……下で何を見た。」 タッカー:「工場みたいな巨大な、建物があった。ドイツ軍に協力させ、何か造ってる。」 フロックスは通信機に触れた。 メイウェザー:「漏れ聞いたとこでは、時間コンジットとか何とか言ってました。…突飛かもしれませんが、タイムマシンじゃないでしょうか。」 アーチャー:「その阻止のためダニエルスは我々をここに送った。その装置は…」 フロックスを見る。 タッカーは立ち上がった。 アーチャー:「ある種のエネルギーシールドで…守られてるらしい。」 タッカーはアーチャーを見ると、いきなり飛びかかってきた。身体を締めるアーチャー。 驚くメイウェザー。タッカーは自分の身体を変形させ、すり抜けた。 アーチャーに飛び蹴りする。医療室を出ていくタッカー。 だが駆けつけた MACO に撃たれ、倒れる。近づいたアーチャーは身体を起こした。 タッカーの顔が変わり、シリックのものになった。走ってきたメイウェザーは、無言のままだ。 包帯を見るトラヴァース。「誰が巻いたの?」 カーマイン:「ニッキー・ジョルジョ※9さ。」 「ああ…」 「十分だろ、修理屋だぜ。」 「車じゃないのよ。…でも化膿はしてないみたい。」 「どうってことないさ。サルに比べりゃな。」 「逃げられたのは奇跡ね。」 「経験者だろ?」 「それどういう意味なの?」 痛むカーマイン。 トラヴァース:「ごめんごめん。」 カーマイン:「ああ、噂を聞いた。追い詰められたとき、あんたとアーチャーは幽霊みたいに消えたってな。」 「…バカ言ってる。」 「俺もそう言った。だが最初、火星人のナチも信じてなかった。自分で見るまではな。…こいつは何なんだ。」 カーマインはコミュニケーターを持っている。 「私の上着調べたの?」 「タバコを探してたんだよ、何なんだ。」 「…ラジオよ。」 「こんなラジオ見たことねえ。…アーチャーが火星人だか何だかから奪ったのに似てるな。」 「アーチャーが連絡用にくれたの。」 「『連絡用』? 奴はどこだ。…アリシア、お前は妹同然だ。今になって隠しごとか?」 エンタープライズ。 拘束室に入れられているシリック。 やってきたアーチャーは、会話スイッチを押した。「タッカーはどこだ。……シリック! …お前が持っていたディスクだが、ヴォスクの工場の見取り図が入っているな。…そのためにこの時代へ?」 シリック:「しつこく聞くのはいいが、私が答えないのは知ってるだろ?」 アーチャーはドアを開け、独房に入った。「なら、私が答えよう。…お前を送り込んだ者は自分の姿を、過去に投影するだけでなく…過去に行くテクノロジーを、欲しがっているんだろ? ダニエルスがエンタープライズをここへ送るのを知り、お前は潜入を命じられた。ヴォスクの工場から盗み出すのが任務だ。」 ディスクを見せる。「これをな。」 笑うシリック。「ついでに、それをどう未来へ送るか教えてくれ。」 アーチャー:「そのためエンタープライズに戻った、この船が必要なんだろ?」 「見事な仮説だな、船長。」 「気に入ってもらえたようだ。」 「だがその仮説が正しいとは一言も言ってないぞ?」 「まあな。」 「肝心の答えは出てないようだな? 行方不明の部下の居所はな。」 アーチャーはシリックを壁に押しつけた。「ヴォスクの工場のどこかにおいてきたんだろ? もし何かあれば、ただではおかないぞ。」 シリック:「変わったな、船長。」 「覚悟しとくんだな。」 出ていくアーチャー。 タッカーは目を覚ました。暗い部屋で、手はロープで縛られている。 ドイツ語が聞こえた。足のロープを解くタッカー。 コンピューターを扱う異星人技術者。 ヴォスク:「我々のコンピューターから、大量のデータが盗まれている。」 通信機を使っている。「生体残留物を調べたところ、犯人は君の時代の者だ。」 ブリッジのアーチャー。「スリバン人だ。私の船に密航していた。」 ヴォスク:『その種族には会ったことがある。彼と話をしたい。』 「許可できないな。」 ヴォスク:「彼が盗んだ情報を、まさか分析していないだろうね。」 アーチャー:「その権利はある。」 ヴォスク:「私にも撃墜の、権利はあるぞ。君の船にプラズマ砲の狙いを定めてある。」 アーチャー:「こっちはそこにフェイズ砲の狙いを定めてる。」 ヴォスク:「私の提案への返事が欲しい。」 アーチャー:「…答えはノーだ。」 ヴォスクは技術者に向かってうなずいた。操作する技術者。 夜のニューヨークの一角で、納められていたプラズマ砲が姿を現した。空に向かって何発も発射する。 揺れるエンタープライズ。 アーチャー:「反撃するんだ。」 フェイズ砲を発射する。 トゥポル:「シールドを破れません。」 火花が飛ぶブリッジ。 アーチャー:「トラヴィス!」 異星人技術者:「離れていきます。」 異星人部下:「連中が、必要でした。」 ヴォスク:「手元にある物資で、目標を達成するのだ。…仕事に戻れ。」 リード:「エンジンに、かなりの損傷。兵器もです。」 アーチャー:「修理にかかるんだ。」 トゥポルに言う。「ディスクの分析も進めろ。…工場を覆うシールドを止める方法を探れ。」 シリックのもとに、再びアーチャーがやってきた。「部下を奪回しに行く。…工場侵入の手助けをしろ。」 シリック:「それから? あそこを爆破するのか?」 「ああ。」 「あんたの部下には興味はないが、私もヴォスクらを未来へ帰したくはない。…協力しよう。」 外へ向かうアーチャー。 シリック:「だが問題がある。…私は遺伝子強化の力で侵入した。…あんたが一緒だと、その利点が使えそうにない。」 アーチャー:「何とかするさ。」 続いて拘束室を出るシリック。 廊下を歩くトゥポル。「このコンソールから、シールドを停止できるはずです。これが手順です。あのディスクが非常に役に立ちました。」 アーチャーにスキャナーを渡す。 アーチャーと同じく、20世紀の服装になっているシリック。「礼はいい。」 アーチャー:「シールドを止めてから、10分待て。それから攻撃だ。」 トゥポル:「ターゲットアレイが故障中で、少佐でなければ直せません。」 「やるしかない。手がなければ接近して直接狙え。」 転送台に立つアーチャー。 「了解。…お気をつけて。」 トゥポルが操作すると、2人は転送された。 ヴォスクに近づくドイツ人将軍。「すでにアメリカ軍 3個師団がオハイオ川を越えた。…さらに 2個師団が南からワシントンへ向かっている。総統直々の命により、本中隊を即刻空軍地区本部へ移動させることになった。新兵器の配備は私が監督する。」 ヴォスク:「…非常に複雑な兵器だ。操作には専門の訓練が必要になる。」 「詳細はそちらが義務を果たしてから話し合おう。」 「6時間もらいたい。」 「なぜ遅れる。」 「当然だろう、輸送機を用意しなければならない。」 「よーし、急げ。」 ドイツ兵と共に出ていく将軍。 異星人部下はヴォスクを見た。 ヴォスク:「今夜出発する。準備を始めろ。」 異星人部下:「コンジットは開いても、毎回数秒で崩壊します!」 「人間はよく運命という言葉を、口にする。…コンジットは、必ず維持できる。」 タッカーは部屋のパイプを登り、ライトを足で蹴り割った。落ちた破片で、手のロープを切ろうとする。 |
※9: Nicky Jorjo 吹き替えでは「ニッキー」のみ |
夜のニューヨークを、スキャナーを使って進むアーチャー。 シリック:「人間に見えるか、どうだ?」 地球人の外見になっている※10。遠くで銃声が聞こえた。「あんたらとの付き合いで、人間は本来平和的な種族かと思っていたがな。」 道端に倒れた者の脈をとるアーチャー。「短期間で進歩した。」 シリック:「ただし必要ならいつでも古いやり方に戻れるらしいな? ズィンディの脅威を排除したやり方は見事だった。ヴォスク阻止にあんたが選ばれたのもうなずける。」 隠れる 2人。軍用車がそばを通っていく。 アーチャー:「ヴォスクと言えば、奴にもお前にもダニエルスは敵だ。なぜ手を結ばなかった。」 シリック:「ヴォスクと手を結ぶ者はいない。」 「ここではパートナーがいるぞ。」 「手段に過ぎないさ。ヴォスクにとってほかの種族は単に搾取の対象だ。」 「奴といろいろあったらしいな。」 「連中はスリバンを絶滅させようとした。我々の過去に行き、歴史を変えて意識の芽生えを妨害したんだ。」 「なら、なぜお前が存在する。」 「時間エージェントが、それを阻止したんだ。」 「つまり、ダニエルスの仲間が命の恩人ってことか。」 「対立しているし敵には違いない。それは決して変わらん。」 人々が焚き火の周りに集まっている。アーチャーはスキャナーを納めた。 帽子を被った男たち。「ここに何の用だ。」 アーチャー:「アリシア・トラヴァースに会いたい。」 男:「何もんだ。」 「アーチャーと言う。」 カーマイン:「また火星人狩りか?」 建物から出てきた。 トラヴァースも一緒だ。「ビリー・ホリデイを聞き逃したわね。」 カーマイン:「今度は何を追っかけてんだ。ネス湖の恐竜かよ。」 エンタープライズ。 トゥポルに報告するサトウ。「無線通信を傍受しています。ドイツ語と英語の両方です。」 リード:「激しい空襲です。ペンシルヴァニア東部と、ヴァージニア南部ですねえ。…連合軍かもしれない。」 トゥポル:「船長の身に影響は?」 「ニューヨークから少なくとも 100キロ離れています。…信じがたい。」 「修理の状況は。」 「エンジンは 36%。…スラスターはオフラインです。」 「…兵器は?」 「ターゲットアレイは使用不能、目隠しも同然です。」 歩くカーマイン。「その建物が何だってんだよ。」 アーチャー:「武器を造ってるんだ、とても…強力な武器だ。」 「あんたこそすごい武器をもってるそうじゃないか。…アリシアから全部聞き出した。鵜呑みにはしてないがな。」 シリック:「この連中必要なのか?」 「『この連中』って何だよ。」 「役に立つとは全く思えないな。」 「役に立つとこ見せてやろうか、その歯をゲンコツでへし折るのはどうだ。」 「それは脅しのつもりか…」 アーチャー:「やめろ、よせ…」 トラヴァース:「やめなさいよ、カーマイン…」 カーマイン:「男の勲章になるぜ?」 シリック:「何の意味があるんだ。」 「ぶっ殺してやるぜ。」 トラヴァース:「カーマイン! …アーチャー、指示をちょうだい。」 「おい、まだやるとは言ってねえぞ。…あんたの話に乗ったサルはどうなった。…また仲間を失うんなら、ちゃんと理由を聞きたいね。」 「ねえカーマイン、だったら話を簡単にしてあげるわよ。…私は手伝う。あんたは私に協力するかどうかだけ決めて。」 時間コンジット生成装置の中央に立つヴォスク。「偉大な科学者がこう言った。」 集まっている異星人。「『生きている間は絶えず、時の中を移動している。』 …我々は向かう方向を選ぶ権利を得た。時を征服し、我々の能力は最大に達した。そして、我々は完璧な種族となった。あらがう敵は全て倒し、ついに最後の敵を残すのみだ。」 タッカーが隠れて話を聞いている。 ヴォスク:「まもなく、歴史は我が種族のものとなる。あらゆる時代に手を広げ、思うがままに変革するのだ。…我らの祖先の神々でさえも、これほどの力はもち得なかった。同胞たちよ。」 武器を掲げる部下たち。「帰ろう。故郷へ。」 ドイツ兵が警備している。車の音が聞こえてきた。 向かってきた自動車は、そのままフェンスを突き破った。撃ってくるドイツ兵。 車から降りたレジスタンスも銃を使う。 カーマイン:「サタデーナイトはこれだよな!」 手榴弾を放り投げた。 爆発し、吹き飛ばされるドイツ兵。 フェイズ銃を使いながら進むアーチャー。シリックが続く。 次々とドイツ兵を倒していく。ドアの前に来た。 シリック:「中からしか開かない。」 シリックは近くの通風口を探った。身体を変形させ、すり抜けていく。 全身が入った。覗き込むアーチャー。 銃を撃ち続けるドイツ兵。 倒していくカーマイン。「ウヨウヨいやがる、逃げるぞ!」 車の後ろに隠れて撃つ。 もう一台の車が駆けつけた。銃を持って降りてくるトラヴァース。 カーマイン:「会えて嬉しいよ。」 トラヴァース:「ええ。」 加勢する。 待っているアーチャーの後ろで、シリックによってドアが開けられた。 報告する異星人部下。「反乱分子です。人数は、不明です。」 ヴォスク:「それはかえって好都合だな。ドイツ軍に任せて、我々は準備を続けるんだ。」 装置の作業を続ける異星人たち。 工場内で隠れるアーチャー。ドイツ兵の動きを見守る。 コミュニケーターを取り出した。「入った。コンソールの方へ向かう。」 トゥポル:『ターゲットアレイは、まだダウン。軌道を離れて、近距離から攻撃します。』 「了解。」 トゥポル:「少佐は見つかりましたか。」 アーチャー:『まだだ。シールド停止後探す。』 コンピューターに近づくアーチャー。スキャナーを見ながら操作を始める。 辺りを警戒するシリック。「隠れろ!」 声が聞こえてきた。「…変えますか。」「テストの時より、4%下げてみろ。」「わかりました。確率は上がりますね。」 異星人科学者たちは気づかず歩いていった。 音が響く。 シリック:「コンジットを起動させた。急げ、船長。」 ボタンの操作を終えるアーチャー。警報が鳴った。 リード:「シールドダウン。」 トゥポル:「…突入して。」 メイウェザー:「了解。」 ドイツ兵がアーチャーたちを狙って撃っている。フェイズ銃で反撃する。 揺れるエンタープライズ。 太陽が見えてくる中、地表へ向かって降下していく。 |
※10: シリック役のジョン・フレックが素顔を見せるのは初めて。過去の出演歴でも、地球人を演じたことはありません |
フェイズ銃を撃つアーチャー。 隠れているシリック。「非常に、危険な状態になってきたぞ!」 アーチャー:「知らなかったよ。」 「私にも銃を持たせたらどうだ!」 「…一丁しかないんだ。…シリック!」 姿が見えない。 シリックはドイツ兵の上から飛びかかった。奪ったライフルを棒のように使って倒していく。 背後から撃たれそうになるが、兵士を盾にしてかわした。もう一丁の銃で撃ち返す。 ため息をつくアーチャー。 戻ろうとするシリックだが、突然背中から撃たれた。新たに駆けつけたドイツ兵だ。 倒れるシリック。アーチャーがフェイズ銃でドイツ兵を撃つ。 シリックは地球人の姿を保てなくなり、本来の外見になった。 近づく異星人部下。「例の宇宙船が、大気圏内に。」 ヴォスク:「プラズマ砲起動だ。」 「そちらにパワーは割けません。」 「では戦闘機出動だ。撃墜しろ。」 ドイツ人将軍の声が響いた。「駄目だ! …この中隊は前線へ向かう。」 ヴォスク:「命令に従ってもらう。」 「この工場の指揮は私が執る。…お前は解任する。」 ヴォスクは素早く銃を取り出し、将軍を撃った。 慌てて武器を構えようとするドイツ兵も、異星人によって撃たれた。 ヴォスク:「悪いが将軍、協力関係はこれで終わりだ。」 とどめの一発を撃つ。 連絡するアーチャー。「エンタープライズへ。」 苦しむシリック。 アーチャー:「エンタープライズへ。」 シリック:「大気圏内だ、イオンのせいで…信号が届かない。」 「すぐに連れ出す。」 「無理だ。……あんたは、戦い甲斐があったよ。死ぬなら、あんたの手にかかりたかった。…だが、これもまあ悪くはない。」 シリックは絶命した。 離れるアーチャーの前に、タッカーが現れた。 アーチャー:「トリップ…」 銃を向けるタッカー。「止まれ! 動くな。」 アーチャー:「私だ…」 「黙れ! …正体を現せ、シリック! でないと頭を吹き飛ばすぞ。」 「やめた方がいい、きっと後悔するぞ?」 後ろを見るアーチャー。 タッカーはシリックの遺体に気づいた。「…船長?」 アーチャー:「無事でよかったよ。」 「生きてる?」 「引き金を引かなきゃな?」 銃を下ろし、笑うタッカー。「でも…信じられない。」 アーチャーの腕に触れた。 アーチャー:「ここは直吹っ飛ぶ。」 「了解!」 「こっちだ。」 トゥポル:「距離は。」 リード:「あと 100キロです。ターゲットスキャナーはロック不能。昔の方法でやるしかない。ビジュアルスキャナーにスイッチ。」 「減速して。時速 200キロです。」 「戦闘機の編隊が、マンハッタン北の基地から離陸しました。こちらへ向かってきます。」 朝になっても撃ち続けているカーマイン。アーチャーたちも外へ出てきた。 カーマイン:「行けー! 援護しろ!」 アーチャー:「引き上げるんだ。」 「盛り上がってきたとこだ。」 「この付近全体が、じき爆撃される。」 「空爆か? …引き上げるぞ、今すぐズラカるんだー!」 レジスタンスは全員車の後ろまで下がる。 トラヴァース:「じゃあ、今度こそお別れみたいね。…寂しくなるわ。」 アーチャー:「ああ、同感だ。」 「私の住む街を、元通りにしてね。…夫も連れ戻して。任せたわよ。」 アーチャーは腕に触れた。「何とかする。…ありがとう。」 トラヴァース:「ええ。」 カーマイン:「おい。…いいってことよ。」 笑うアーチャー。飛行機の音が聞こえた。 上空を飛ぶ戦闘機の編隊。 リード:「ドイツ軍の爆撃機、スツーカ※11です。心配はいりませんね。確か敵を威嚇するためのサイレンを装備していて、7.9ミリ機関砲を搭載してたかな。」 トゥポル:「…リード大尉?」 「ああ、まだ遠すぎる。目視できません。」 大気圏内を飛行するエンタープライズに向けて、スツーカが撃ってきた。エネルギー砲を装備している。 火花が飛ぶブリッジ。 トゥポル:「銃弾とサイレンだけではないようですね。」 アーチャーがブリッジに入る。「光子魚雷だ。」 ジャケットを脱ぐ。 工場内の巨大な装置が稼働している。 部屋の中に、時間コンジットが形成された。一方の口は広くなっている。 異星人部下:「維持しています!」 トゥポル:「強力なエネルギーサージ。…工場内です。」 アーチャー:「マルコム!」 リード:「あと一キロです。」 ニューヨーク上空を飛びながら、フェイズ砲で爆撃機を撃つエンタープライズ。命中したスツーカは落下していく。 風が巻き起こる中、ヴォスクは進み出た。「運命だ。」 呆然と見つめる部下。 ゆっくりとコンジットに入っていくヴォスク。 リード:「見えました。」 アーチャー:「破壊しろ!」 エンタープライズは光子性魚雷を発射した。上部のプラズマ砲ごと破壊される。 爆発する工場。 コンジット内のヴォスクは断末魔を上げた。 光。 アーチャーは奇妙な空間に立っていた。歴史上の出来事※12が次々と現れては消えていく。 ダニエルス:「壮観だ。」 身体も元通りになっている。「タイムラインが修復していく。やったな。ヴォスクは死んで、戻れなかった。歴史の破壊行為は、起こらなかった。」 アーチャー:「ご苦労さんとでも言いに来たのか。」 「そうだな。」 「遠慮しておこう。…それより、もう我々に関わらないでくれ。君にも、この時間冷戦とやらにもウンザリだ。」 「それも直終わる。君の働きでね。…数え切れない命を救ったんだ。」 「信じておくよ。…故郷へ帰してくれ。」 次第に現代の出来事に近づいてきた。 ダニエルス:「もうすぐ、帰れる。…お別れだ。船長。…光栄だったよ。」 消える。 ズィンディ兵器の爆発が見えたところで、エンタープライズのブリッジが現れた。 中央に立つアーチャー。「みんな無事か?」 それぞれうなずくクルー。タッカーも来ている。 スクリーンを見るメイウェザー。「船長。」 地球が映っていた。 アーチャー:「場所は合ってる。……時代はどうか確かめよう。ホシ。」 サトウ:「……信号が複数。…ルナ1 コロニー※13に、軌道プラットフォーム、サンフランシスコもです。」 喜ぶ。 トゥポル:「船が複数、接近してきます。…数十隻です。」 アーチャー:「味方の船か。」 スクリーンを見るトゥポル。 地球から何隻もの船が向かってきた。ヴァルカン船も混じっている※14。 エンタープライズを出迎え、反転する。※15 |
※11: Stuka ※12: 全てではありませんが、以下のような映像が登場します。魚、細胞分裂、ティラノサウルス、洞窟絵画、ストーンヘンジ、ピラミッド、モアイ像、ローマ二輪戦車、エジプト壁画、オオカミの乳を飲むロムルスとレムスの像、騎士、十字軍、ダ・ヴィンチの人体図、帆船、バッファローの群れ、ネイティブアメリカンのテント、カヌー、リンカーン大統領、南北戦争、トーマス・エジソン、機関車、自動車、飛行機、ウラジーミル・レーニン、戦闘機、チャーチル首相、アドルフ・ヒトラー、ルーズヴェルト大統領、落下傘部隊、原爆ファットマン、クー・クラックス・クラン、DC3 旅客機、テレビ、ケネディ夫妻、カストロ議長、黒人公民権運動、サターン5 ロケット、アポロ月面着陸、ニクソン大統領、カーターとブレジネフ、コンコルド、ホメイニ師の肖像画、レーガン大統領、スリーマイル島原発、サッチャー首相、スペースシャトル、ブッシュとゴルバチョフ?、ノーマン・シュワルツコフ、フセイン大統領、ノートパソコン、クリントン夫妻、ブッシュとブレア、ネルソン・マンデラ、9・11 アメリカ同時多発テロ時の世界貿易センター、近代車、ビン・ラディン、国際宇宙ステーション、ロボット、ヴァラキス (ENT第13話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」)、NX-01 の発進 (ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」)、クアラ (VOY第162・163話 "Workforce, Part I and II" 「人間改造惑星クアラ(前)(後)」。なおヴァラキスの都市も含め、地球の 21〜22世紀を意味するための使い回し映像だと思われます)、ズィンディ偵察機の攻撃 (ENT第52話 "The Expanse" 「帰還なき旅」)、ズィンディ兵器から脱出するアーチャー、爆発する兵器 (ともに ENT第76話 "Zero Hour" 「最終決戦」) ※13: Lunar 1 Colony ENT "Zero Hour" より ※14: ヴァルカン船はディキーア (ENT第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」) 型かもしれません。この光景は、VOY第172話 "Endgame, Part II" 「道は星雲の彼方へ(後編)」のラストシーンに似ています ※15: その他の声優は石井隆夫、遠藤純一 (ENT 2代目ジャナー)、高階俊嗣、近藤広務、飯島肇 |
感想など
この前後編が結果的に「なかったこと」になるのは当然の展開でしょうが、それだけではなく時間冷戦自体がダニエルスの一言で終結してしまいました。ただし最後に映る正しい歴史の中でズィンディ関連のものも入っていたので、明らかに前シーズンの展開全てが消えるという突拍子もない意味ではないですね (昔の海外ドラマで、そういうストーリーにしたのはあったそうですが)。そうでないと最後に出迎える船団にもつながりません。なぜズィンディ兵器の時にはもぬけの殻だったのかという矛盾はさておき…。 あくまでヴォスクが引き起こした混乱 (冷戦ではなく戦争状態) は消えたというだけで、そもそもエンタープライズの発進自体が時間冷戦がらみでしたからね。ただ第3シーズンでダニエルスが見せた未来は冷戦関係だったはずですが、あれはどういう位置づけになるのか気になります。パイロット版から出ていたシリックの死もありましたが、もしかしたらダニエルスのように 22世紀で生きているのでしょうか。単調で説明的な長い会話、安易なファンサービス映像は別にしても、これまで結局使いこなせなかったネタをかなぐり捨て、心機一転というメッセージ性は感じました。 |
第77話 "Storm Front, Part I" 「時間冷戦(前編)」 | 第79話 "Home" 「ヒーローたちの帰還」 |