惑星から上昇してくるシャトルポッド。
タッカーが操縦している。
髪を触るサトウ。「早く船に戻りたい。」
タッカー:「2日前は船を出たがってたのに。」
サトウは手についた小さなゴミを見る。「クリンゴンが捨てたゴミを漁るのは、『新世界の探索』とはとても言えませんから。」
タッカー:「もう探査に飽きたのか? どの星も、同じに見えるか?」
「それはありません。」
笑うタッカー。「よかったよ。」 咳き込む。「まだ埃っぽいな。…シャトル1 よりエンタープライズ。」
アーチャー:『ご苦労だった、「宝探し」の成果は?』
「空振りでしたよ。クリンゴンが前※2に来てるようです。彼らのパワーセルや、食料パックのゴミばかりで。」
サトウ:「それにトイレ。」
「そう。早く熱いシャワーを浴びたいですね。シャトル1、以上。」 また咳をするタッカー。
「少佐?」
タッカーの咳は止まらない。
サトウ:「どうしたんです?」
タッカー:「代われ! …着船だ。」 シャトル後部で転げる。
「シャトル1 より、エンタープライズへ。緊急事態です。タッカー少佐が倒れました。」
アーチャー:「着船の経験は?」
サトウ:「あります。シミュレーションでなら。」
アーチャー:「焦らずゆっくりな。除菌室で、会おう。」
サトウ:「了解。」
シャトルはエンタープライズに近づく。
アーチャー:「フロックスを。」
操作するトゥポル。
メイウェザーとリードは、顔を見合わせた。
廊下を歩いてきたアーチャーは、除菌室の外にあるスイッチを押した。「トリップ。具合はどうだ。」
サトウに付き添われ、中に入るタッカー。「ああ、テラライト人に殴られたみたいだ。」
サトウ:「ドクター、除菌ジェル※3始めますか。」
フロックス:「原因を突き止めてからです。地表から戻ったほかの 3班は問題なしでした。」 2人の状態をモニターで確認する。
アーチャー:「シャトルもチェックの必要があるな。環境システムに異常がないかどうか。」
タッカー:「やります、やっとくべきだった。」
「座ってろ、トリップ。…血液サンプルがいるんだ。」
フロックス:「このキットで。」
外からパネルが開けられる。
近づくサトウは、ふいに咳をした。
アーチャー:「ホシ。どうした。」
サトウ:「少佐が倒れる前、咳をしてました。」
フロックス:「ほかに何か症状は?」
サトウは横の部屋へ駆け込んだ。嗚咽が響く。
タッカー:「吐き気らしいな。」
フロックス:「症状を抑える薬を出しますので血液を。うん、急いでください。」
歩いていくアーチャー。「どうだ。」
フロックス:「何にせよ、通常のスキャンには全くかかりません。」
「まずいなあ。」
「ええ。」
廊下を歩くメイウェザー。「クリンゴンのケースでの、あなたの報告書を読みました。」
リード:「あの進化レベルの種族に典型的な反応でした。」
「上陸班を船に戻らせなかったのですよね。」
「それが?」
「アーチャーは違った。」
「アーチャーもクリンゴンと、何ら変わりません。…出発ベイと除菌室は、船のほかの部分から隔離されていますから。」
「感染したクルーを閉じ込める設備があったからか。」
「その通り。瀕死の仲間と関わりたくないというのは、クリンゴンと同じです。個人的には、観察は中止したいですね。人間から学べることはないでしょう。」
「そうでしょうか。互いに気遣いを見せていますよ。カーデシア人※4も、そうだったのでしょ。」 ターボリフトに入るメイウェザー。
「結局感染したクルーを殺した。クリンゴンと同じにね。…決断に多少時間がかかっただけです。」
「意外な発見の可能性も。」
「私が観察を始めて 800年、一度もありませんよ? …しかし、ルール通り進めましょう。感染クルーに聞き取り調査を。私はドクターの方に。」
ロッカーを閉めるサトウ。
タッカー:「よし、これは吐き気と筋肉の痛みと咳を抑えるらしい。」
サトウ:「私も少佐も咳は止まってる。治ったんじゃないですか?」
「ドクターの命令だ。」 タッカーはハイポスプレーを打った。
除菌室の窓を叩くメイウェザー。「少佐。…ホシ。ちょっと様子を見に。」
タッカー:「いま忙しいんだよ、トラヴィス。」
「ハイポスプレーの中身は何ですか。」
サトウ:「症状を抑える薬。」
タッカー:「ああ、まだ原因不明だからな。」
メイウェザー:「これまでに、重い病気にかかったことは。」
「……勤務中じゃないのか?」
「以前にかかった病気と比較して、今回はどうか聞きたいと思いまして。」
「トラヴィス。俺たちは眠りたいんだよ。」
「質問は後 2、3 ですから。」
「見舞いありがとうな。」 タッカーは窓を閉じる。
「でも…。」 ため息をつき、離れるメイウェザー。
カプセルからサンプルを取り出すフロックス。リードが医療室に入った。
フロックス:「ああ、リード大尉。…どこか具合でも?」
リード:「頭痛だ。」
「…なるほど。ええ、お待ちを。」
「これはタッカー少佐とサトウ少尉の血液検査ですか?」 モニターを見るリード。
「そうです。」 スキャナーで調べるフロックス。「うーん、血管に問題はないようですが?」
「うん?」
「頭痛です。軽いもののようですね。」
「ああ、まだね。だがひどくなりそうな気がするんだ。予防のために来た。…今日は忙しくて。」
「弱めの鎮痛剤を。」 フロックスはハイポスプレーを使う。
「あっ。ドクター、これらのテストが治療法開発の助けになるか知りたい。」
「私もです。」
「分類法レベルのアプローチか、もしくは過去に治療した疾患との何らかの類似点を発見したのかな?」
咳払いするフロックス。「大尉、いいですか。ご心配には及びません。」 ドアを開けた。「少佐たちが感染症にかかっているとしても、クルーに広がることはありませんよ。安全です。」
「その心配ではないんだ。興味があるのは治療の…」
「出てでてでて! 私も忙しいんですよ。うん?」
礼をし、出ていくリード。
除菌室のタッカー。「アンドロメダ…※5は、観たか。」
毛布を巻いているサトウ。「何ですか?」
タッカー:「映画だよ。20世紀半ばのな。」
「当てましょうか。科学者がモンスターを創り、殺されるんでしょ。」
「宇宙から来た病原体の映画だ。」
「少佐の好きなのは似たのばかりでゴッチャだわ?」
「訓練センター※6の寮の部屋を思い出すな。俺もあそこじゃ、かなり悪さしたよ。」
「…私は追い出された。」 立ち上がるサトウ。
「…そこで話をやめるなよ。」
「2ヶ月目でした。意見の相違があって、中隊長の……腕を折ったんです。」
「で、原因は?」
「ポーカー。」
「ポーカーのいさかいで腕を?」
「新人と訓練員でやっていたのを、中隊長が無理矢理やめさせようとして。」
「待てよ。訓練センターで隠れてポーカーやってたのか?」
「規則をきちんと読んでみると、訓練時間中にギャンブルを行った場合のみ違反になるんです。だから、週末やってました。…ある晩中隊長がやってきて、テーブルのチップを投げ捨てたので。…私合気道※7黒帯なんです。…中隊長は仲間はずれが気に入らなかったんですよ。」
「それで?」
「…懲戒除隊になりました。」
「…よくエンタープライズに来られたな。」
「言語の専門家が必要だったので、処分は免除されました。…試験的に戻れることになり…いまここに。」
タッカーは笑った。
医療室のモニターで映像を見るフロックス。「分類として最も近いのはウイルスです。伝染性が高く、シリコンベースです。」
アーチャー:「Mクラスの惑星だぞ? …生命体は全て炭素ベースのはずだ。」
「恐らく別の星から隕石で、もたらされたんでしょう。上陸班の一班だけが感染したのも、そのせいかと。」
「治療できるのか?」
「デノビュラの記録にも、似たケースはありません。」
「…ドクター次第か。」
「最善は尽くしますが、ウイルスの増殖率から言ってタッカー少佐とサトウ少尉は 5時間ももちません。」
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※2: 原語では「何年か前に」
※3: 吹き替えでは今までの decon gel と同一視していますが、原語ではバイオ・ジェル (bio-gel) と言っています
※4: Cardassians TNG第86話 "The Wounded" 「不実なる平和」で初登場、その後 DS9 を中心にガラック、デュカット、ダマール、テイン、イヴェック、ゲモールといったキャラクターが活躍した種族。ENT では初言及
※5: The Andromeda Strain 1971年。監督は映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」と同じ、ロバート・ワイズ
※6: 宇宙艦隊訓練部 Starfleet Training 略称の STC とも呼ばれています。吹き替えでは "C" をセンターと解釈しているようですが、映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」で「宇宙艦隊訓練本部 (Starfleet Training Command)」という名称が出てきます
※7: Aikido TNG第4話 "Code of Honor" 「愛なき惑星」で (一応) 登場
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