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エンタープライズ エピソードガイド
第87話「死の観察者」
Observer Effect

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・イントロダクション
惑星軌道上のエンタープライズ。
食堂でリードとチェスをしているメイウェザー。「…8手であなたの勝ちです。」
リードは盤面の向きを変えた。「コツをつかんできたようですね。」
メイウェザー:「32 の駒と、64 のマス。難しくはないですよ。差し手の総数は限られていますからね。」 駒を並べ直す。
※1「組み合わせは 10 の 123乗通り。」
「ええ、そうです。チェスは簡単すぎる。やろうという者の気がしれません。」
「彼らの平均寿命はたった 100年です。全ての差し手を試す暇はない。」
「気の毒に。」
「危ないな? …感情移入は禁物です。」
「ルールは知ってます。干渉はせず、観察するのみ。」
「うーん。」
「…5手であなたの勝ちです。」
「私はこの船での、チェスチャンピオンなんです。」
笑うメイウェザーは、話しているクルーを見る。「彼らは事件にどう反応するでしょう。」
リード:「…それを観察しに来たのです。だが肉体をもつ種族は皆似ています。人間もそう違わないでしょう。」
「我々のホストも死にますか。」
「ありえます。クルーが全滅した例も、何度か見ましたよ? 大抵は、数人ですが。」
「死者は必ず出るのですね。」
「必ずね。…ああ、君の番だ。」
ため息をつくメイウェザー。


※1: ここで一瞬、リード (キーティング) がカメラの方を見ているようにも思えます

・本編
惑星から上昇してくるシャトルポッド。
タッカーが操縦している。
髪を触るサトウ。「早く船に戻りたい。」
タッカー:「2日前は船を出たがってたのに。」
サトウは手についた小さなゴミを見る。「クリンゴンが捨てたゴミを漁るのは、『新世界の探索』とはとても言えませんから。」
タッカー:「もう探査に飽きたのか? どの星も、同じに見えるか?」
「それはありません。」
笑うタッカー。「よかったよ。」 咳き込む。「まだ埃っぽいな。…シャトル1 よりエンタープライズ。」
アーチャー:『ご苦労だった、「宝探し」の成果は?』
「空振りでしたよ。クリンゴンが前※2に来てるようです。彼らのパワーセルや、食料パックのゴミばかりで。」
サトウ:「それにトイレ。」
「そう。早く熱いシャワーを浴びたいですね。シャトル1、以上。」 また咳をするタッカー。
「少佐?」
タッカーの咳は止まらない。
サトウ:「どうしたんです?」
タッカー:「代われ! …着船だ。」 シャトル後部で転げる。
「シャトル1 より、エンタープライズへ。緊急事態です。タッカー少佐が倒れました。」

アーチャー:「着船の経験は?」

サトウ:「あります。シミュレーションでなら。」

アーチャー:「焦らずゆっくりな。除菌室で、会おう。」

サトウ:「了解。」
シャトルはエンタープライズに近づく。

アーチャー:「フロックスを。」
操作するトゥポル。
メイウェザーとリードは、顔を見合わせた。

廊下を歩いてきたアーチャーは、除菌室の外にあるスイッチを押した。「トリップ。具合はどうだ。」
サトウに付き添われ、中に入るタッカー。「ああ、テラライト人に殴られたみたいだ。」
サトウ:「ドクター、除菌ジェル※3始めますか。」
フロックス:「原因を突き止めてからです。地表から戻ったほかの 3班は問題なしでした。」 2人の状態をモニターで確認する。
アーチャー:「シャトルもチェックの必要があるな。環境システムに異常がないかどうか。」
タッカー:「やります、やっとくべきだった。」
「座ってろ、トリップ。…血液サンプルがいるんだ。」
フロックス:「このキットで。」
外からパネルが開けられる。
近づくサトウは、ふいに咳をした。
アーチャー:「ホシ。どうした。」
サトウ:「少佐が倒れる前、咳をしてました。」
フロックス:「ほかに何か症状は?」
サトウは横の部屋へ駆け込んだ。嗚咽が響く。
タッカー:「吐き気らしいな。」
フロックス:「症状を抑える薬を出しますので血液を。うん、急いでください。」
歩いていくアーチャー。「どうだ。」
フロックス:「何にせよ、通常のスキャンには全くかかりません。」
「まずいなあ。」
「ええ。」

廊下を歩くメイウェザー。「クリンゴンのケースでの、あなたの報告書を読みました。」
リード:「あの進化レベルの種族に典型的な反応でした。」
「上陸班を船に戻らせなかったのですよね。」
「それが?」
「アーチャーは違った。」
「アーチャーもクリンゴンと、何ら変わりません。…出発ベイと除菌室は、船のほかの部分から隔離されていますから。」
「感染したクルーを閉じ込める設備があったからか。」
「その通り。瀕死の仲間と関わりたくないというのは、クリンゴンと同じです。個人的には、観察は中止したいですね。人間から学べることはないでしょう。」
「そうでしょうか。互いに気遣いを見せていますよ。カーデシア人※4も、そうだったのでしょ。」 ターボリフトに入るメイウェザー。
「結局感染したクルーを殺した。クリンゴンと同じにね。…決断に多少時間がかかっただけです。」
「意外な発見の可能性も。」
「私が観察を始めて 800年、一度もありませんよ? …しかし、ルール通り進めましょう。感染クルーに聞き取り調査を。私はドクターの方に。」

ロッカーを閉めるサトウ。
タッカー:「よし、これは吐き気と筋肉の痛みと咳を抑えるらしい。」
サトウ:「私も少佐も咳は止まってる。治ったんじゃないですか?」
「ドクターの命令だ。」 タッカーはハイポスプレーを打った。
除菌室の窓を叩くメイウェザー。「少佐。…ホシ。ちょっと様子を見に。」
タッカー:「いま忙しいんだよ、トラヴィス。」
「ハイポスプレーの中身は何ですか。」
サトウ:「症状を抑える薬。」
タッカー:「ああ、まだ原因不明だからな。」
メイウェザー:「これまでに、重い病気にかかったことは。」
「……勤務中じゃないのか?」
「以前にかかった病気と比較して、今回はどうか聞きたいと思いまして。」
「トラヴィス。俺たちは眠りたいんだよ。」
「質問は後 2、3 ですから。」
「見舞いありがとうな。」 タッカーは窓を閉じる。
「でも…。」 ため息をつき、離れるメイウェザー。

カプセルからサンプルを取り出すフロックス。リードが医療室に入った。
フロックス:「ああ、リード大尉。…どこか具合でも?」
リード:「頭痛だ。」
「…なるほど。ええ、お待ちを。」
「これはタッカー少佐とサトウ少尉の血液検査ですか?」 モニターを見るリード。
「そうです。」 スキャナーで調べるフロックス。「うーん、血管に問題はないようですが?」
「うん?」
「頭痛です。軽いもののようですね。」
「ああ、まだね。だがひどくなりそうな気がするんだ。予防のために来た。…今日は忙しくて。」
「弱めの鎮痛剤を。」 フロックスはハイポスプレーを使う。
「あっ。ドクター、これらのテストが治療法開発の助けになるか知りたい。」
「私もです。」
「分類法レベルのアプローチか、もしくは過去に治療した疾患との何らかの類似点を発見したのかな?」
咳払いするフロックス。「大尉、いいですか。ご心配には及びません。」 ドアを開けた。「少佐たちが感染症にかかっているとしても、クルーに広がることはありませんよ。安全です。」
「その心配ではないんだ。興味があるのは治療の…」
「出てでてでて! 私も忙しいんですよ。うん?」
礼をし、出ていくリード。

除菌室のタッカー。「アンドロメダ…※5は、観たか。」
毛布を巻いているサトウ。「何ですか?」
タッカー:「映画だよ。20世紀半ばのな。」
「当てましょうか。科学者がモンスターを創り、殺されるんでしょ。」
「宇宙から来た病原体の映画だ。」
「少佐の好きなのは似たのばかりでゴッチャだわ?」
「訓練センター※6の寮の部屋を思い出すな。俺もあそこじゃ、かなり悪さしたよ。」
「…私は追い出された。」 立ち上がるサトウ。
「…そこで話をやめるなよ。」
「2ヶ月目でした。意見の相違があって、中隊長の……腕を折ったんです。」
「で、原因は?」
「ポーカー。」
「ポーカーのいさかいで腕を?」
「新人と訓練員でやっていたのを、中隊長が無理矢理やめさせようとして。」
「待てよ。訓練センターで隠れてポーカーやってたのか?」
「規則をきちんと読んでみると、訓練時間中にギャンブルを行った場合のみ違反になるんです。だから、週末やってました。…ある晩中隊長がやってきて、テーブルのチップを投げ捨てたので。…私合気道※7黒帯なんです。…中隊長は仲間はずれが気に入らなかったんですよ。」
「それで?」
「…懲戒除隊になりました。」
「…よくエンタープライズに来られたな。」
「言語の専門家が必要だったので、処分は免除されました。…試験的に戻れることになり…いまここに。」
タッカーは笑った。

医療室のモニターで映像を見るフロックス。「分類として最も近いのはウイルスです。伝染性が高く、シリコンベースです。」
アーチャー:「Mクラスの惑星だぞ? …生命体は全て炭素ベースのはずだ。」
「恐らく別の星から隕石で、もたらされたんでしょう。上陸班の一班だけが感染したのも、そのせいかと。」
「治療できるのか?」
「デノビュラの記録にも、似たケースはありません。」
「…ドクター次第か。」
「最善は尽くしますが、ウイルスの増殖率から言ってタッカー少佐とサトウ少尉は 5時間ももちません。」


※2: 原語では「何年か前に」

※3: 吹き替えでは今までの decon gel と同一視していますが、原語ではバイオ・ジェル (bio-gel) と言っています

※4: Cardassians
TNG第86話 "The Wounded" 「不実なる平和」で初登場、その後 DS9 を中心にガラック、デュカット、ダマール、テイン、イヴェック、ゲモールといったキャラクターが活躍した種族。ENT では初言及

※5: The Andromeda Strain
1971年。監督は映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」と同じ、ロバート・ワイズ

※6: 宇宙艦隊訓練部 Starfleet Training
略称の STC とも呼ばれています。吹き替えでは "C" をセンターと解釈しているようですが、映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」で「宇宙艦隊訓練本部 (Starfleet Training Command)」という名称が出てきます

※7: Aikido
TNG第4話 "Code of Honor" 「愛なき惑星」で (一応) 登場

食堂。
料理を取るメイウェザー。「病原体が特定されました。」
リード:「ああ。その確率は、37%です。」
「ですがまだ誰も、感染者を見捨てる気はないようですよ。」
「となると残念だが全員、死ぬケースです。」 スープを口にするリード。「うん。」

タッカーとサトウの状態が表示されている。アーチャーが窓の閉まっている除菌室に近づき、ためらいがちにスイッチを押した。
タッカー:「トラヴィス、またお前か。」
アーチャー:「私だ。」
窓を開けるタッカー。汗をかいている。「今度上陸班に志願したら、止めて下さいよね。」
アーチャー:「いくら止めたって、頑固で聞かないだろ? …だが、まあやってみよう。…ホシはどうだ。」
「寝てます。フロックスがくれた薬で、痛みは収まってますよ。」
「フロックスが原因を特定した。…シリコンベースのウイルスだ。」
「治療薬はすぐ届きそうにないな。」
「いま作業中だ。トゥポルもな。」
「治療法はなしか。」
「まだな。」
「デッドラインが迫ってるみたいだな。」
「残り時間を聞いてるなら、そんな話はまだ早すぎる。…免疫で自然治癒するかもしれない。」
「宇宙生物学の基礎※8は知ってます。人間は炭素ベースだ。免疫じゃシリコンとは闘えない。」
「勝手にあきらめるな。」
「見てない星がたくさんありますしね。」
「フン。眠っておけ。」
ゆっくりと奥へ戻るタッカー。

廊下を歩くメイウェザー。「進歩的知性をもった種族を捜しているんですよね。」
リード:「いえ、合理的知性です。アーチャーにはそれが見られない。感染クルーをこのままにしておけば、ウイルスが広がる危険があります。」
「船長もリスクはわかっていると思いますが? クルーを見捨てないことの方が大事なんでしょ。」
「絶望的な状況だということを理解していないだけかもしれません。」
「では確かめませんか。」
壁に寄るリード。「操舵士と兵器士官を選んだのには理由がある。双方ブリッジ勤務で、医療問題にはほとんど関係がないからです。」
メイウェザー:「だからこそドクターと科学士官に乗り代わるべきなのです。彼らの作業結果からアーチャーは結論を下す。その場に直に立ち会えるのです。」
「頻繁に乗り代わると、偶然流れに干渉してしまう確率が高まる。」
「頻繁に乗り代われば、観察の機会が増えますよ。」

タッカーが毛布を巻いている。「言葉をいくつしゃべれる?」
サトウ:「いくつとかじゃなく、私は共通するパターンを聞き取るのが上手いだけです。」
「上手い? 天才的だろ。初めて見た異星人の言葉を聞いて連中と話し始めるんだからな。…この際だから言うが、うらやましいね。」
「私だってガムテープとナイフだけで、エンジン直してみたいですよ。」 笑うサトウ。
「おい、それよりはもうちょっとは複雑だよ。」
「昔から機械いじりとかものを作るの、得意だったんですか?」
「うーん。子供の頃は、作るってよりはものを分解しまくる困ったガキだったらしい。親は電化製品全部棚に上げてたよ。…感謝祭の時、俺も何考えてたのかデッカいダイニングテーブルのネジを…全部外しちまったんだ。古くて木が、くっつきあっててね。倒れなかったが、七面鳥を載せた途端…」
サトウは笑う。
タッカー:「一ヶ月外出禁止さ。」
サトウ:「いくつの時?」
「ふーん。24、5 の時だ。」
笑いながら立ち上がったサトウは、除菌室の外にトゥポルとフロックスが突っ立っているのに気づいた。
タッカー:「いつからいたんだ。」
サトウ:「気づかなかったわ。」
フロックス:「邪魔したくなかったので。」
タッカー:「リサーチは進んでるのか?」
トゥポル:「今は、テストの結果待ちです。」
フロックス:「2人の状態を見に来ました。」
タッカー:「医療スキャナー、もってるんだろ。」
「それより精神状態に興味があります。」
「…どんな気分か知りたいなら言うけどな、医療室に戻って治療法の開発を進めてくれた方が安心だね。」
トゥポル:「そうですね。…もう戻ります。」
フロックス:「…それでは、失礼。」 歩いていく。
サトウ:「…2人で来たってことは、解明が近いんじゃないかしら。」
タッカー:「…もしくはもう打つ手がないかな。」

廊下を歩くフロックス。「気丈ですね、死が近いというのに。」
トゥポル:「問題は精神面よりも、彼らの知性です。」
「不合格にする気ですか?」
「これは競技ではありません。…我々とのファースト・コンタクトに十分な知性が、あるかどうかです。」
「知性以外も考慮すべきなのでは?」
「一万年使われてきた手法を変える権限は、我々にはありません。」
「誰にならあるんです。」

地図を指差すアーチャー。「ここだ。隕石で飛来したという説に従うなら、恐らくこのクレーターだ。この野営地にいたクリンゴンも感染したはずだ。艦隊本部に優先チャンネルをつなげ。ここへ来たクリンゴン船が治療法を発見できたかどうか、知りたい。」
リード:「今すぐに。」 司令室を出る。

フロックスは音に気づいた。「私のホストが待っていたテスト結果です。」
医療室のモニターに映像が表示される。
トゥポル:「彼らに干渉しないよう離れるべきです。」
フロックス:「操舵手と、兵器士官はブリッジに戻っています。」

ブリッジのリードはメイウェザーを見た。

テスト結果を見るフロックス。「受容体の変更は効果がなかった。」
トゥポル:「…ウイルスは、イオン化放射能に敏感なように見えますが。」
「…人間にも危険ですが、手がかりにはなる。」
「次のテストの準備をします。」

暗い除菌室。
寝ているサトウは、日本語※9で話している。「(…知らない。…覚えてない)」
タッカー:「ホシ。」
次はドイツ語とフランス語※10。「(大変、どうしよう! 授業に遅れちゃう! シャトルに乗り遅れる!)」
タッカー:「ホシ、起きろ。」
目を覚ましたサトウ。「ブラジルだった。…エンタープライズから、迎えが来て。」
タッカー:「ここがエンタープライズだ。」
サトウは息をつく。「船長はとても急いでいて…生徒に、さよならを言う暇もなかった。」
タッカー:「…また会えるさ。」

司令室のアーチャー。「いま艦隊本部が外交チャンネルでクリンゴンに接触しているが、必要なかったかもしれない。…スペクトル分析で、ある合金を見つけた。」 グラフが表示される。
リード:「クリンゴンのものですねえ。」
「ああ。発見場所は、ここだ。」 惑星の図を指差すアーチャー。
メイウェザー:「軌道上に浮遊していたんですね。」
「クリンゴンのシャトルの残骸だ。…感染したクルーをどうしたか。…彼らはシャトルを撃墜したんだ。」
リード:「クルーは命乞いもせず…」
リードを見るアーチャー。
リード:「そのはずですよ、きっと。…クリンゴンですから。」
メイウェザー:「船長。…これが、何かの役に立つのですか。」
アーチャー:「治療法があるか、聞く必要はなくなった。」
「もし彼らが知っていれば、教えを請う気でしたよね。」
「…ひざまづいてもな。」

英語ではない言葉※11を話しているサトウ。パネルを操作している。
タッカー:「ホシ? …外には出られないんだ。」
サトウ:「トゥレコーデクジューク、ジャクレカプラ※12。」
「さっぱりわからんが、ロックコードは破れないよ。」
「数学も言語の一つよ。」
するとロックが解除され、ドアが開いた。警報が鳴る。
外に出るサトウ。

ブリッジに反応が出る。
リード:「隔離区域に異常です。…除菌室のドアが開きました。」
目を見張るメイウェザー。

起き上がるタッカー。

サトウは廊下を歩き続ける。

タッカーは身動きが取れない。


※8: 宇宙生物学 101 Exobiology 101

※9: 日本語版では吹き替えされています。原語では「知らない。覚えない」と聞こえます

※10: ここも吹き替えされています。ドイツ語・フランス語という点は CC より

※11: スペイン語のようです

※12: CC によればクリンゴン語

サトウは更にロックを解除し、進み続ける。

リード:「セーフティロック、解除されています。」
アーチャー:「Dデッキ※13の全パワー遮断。ドアを開けさせるな!」

サトウの背後で、次々とライトが消えていく。赤い緊急用ライトだけが灯った。
それでも開けようとするサトウ。
タッカーがやってきた。「ホシ。やめるんだ。…エアロックだぞ。ドアを開けたら死ぬ。」
何かをつぶやく※14サトウ。
タッカー:「…ホシ。よせ。」
サトウはタッカーを壁に押しつけた。「さよならを言わなくちゃ!」
タッカーはサトウを抱きしめた。
サトウ:「いま、言える内に。」
タッカー:「船長が助けてくれる。」

除菌室に戻るタッカーとサトウ。ドアを閉めた。
タッカーは通信機に触れる。「トリップより……聞いてる人へ。…戻った。」

フロックス:「少佐、ハイポスプレーにソナンビトレル※15 3ユニットセットして。」
医療室のモニターに映っているタッカー。『…馬でも倒れる。』
アーチャー:「またホシに出歩かれちゃ困る。…エンタープライズ中の保護安全装置を、解除できるようだしな。」

タッカー:「…今日のホシは、驚かせてくれます。」

ハイポスプレーを取るタッカーが見える。

設定するタッカーは、サトウに注射した。倒れるように横になるサトウ。

アーチャーはモニターから離れる。
サトウに毛布を掛けるタッカー。

タッカー:「よく眠れよ※16。」

タッカーはカメラに向かって立った。『ほかに何か。』
アーチャー:「次はお前だ。」
『俺は平気です。』
フロックス:「このウイルスは炭素ベースの生命体とは違う。…何が起こるか、予測がつきません。」
『俺もうろつくってのか? …ドアを開けまくって。』
「眠れば大丈夫。」
アーチャー:「すまん、トリップ。」

ため息をつき、ハイポスプレーを扱うタッカー。サトウを見る。

フロックス:「…少佐?」

タッカー:「二度と目を覚まさないかもしれないだろ。」

目を逸らすアーチャー。

タッカーは自分にハイポスプレーを打った。
フロックス:『すぐ横になって。』
タッカー:「それがいいな。」

タッカーはベッドに横になった。
アーチャー:「治療できそうなのか。」
フロックス:「シリコンマトリックスを破壊する放射能周波数は、特定できました。」
「望みはあるな。」
「必要量を超えると、肉体がもちません。」
「適量を突き止めるしかない。患者の命を奪わずに、ウイルスを弱められる量をな?」
「今やっています。」
「急いでくれ。」 アーチャーはフロックスの肩に触れ、出ていった。

ブリッジのメイウェザーはリードに近づいた。「我々なら患者を助けられます。」
リード:「任務は観察です。」
「そうですが、あくまで反応の観察で死の観察ではないはずです。」
「ここで話すべきではありませんね。」
「邪魔が入らない場所へ移りましょう。」

除菌室のタッカーとサトウは、同時に起き上がった。
タッカー:「…このホストの感覚はほかと違う。…肉体の、痛みを感じます。」
サトウ:「私もです。」
「肉体をもつのは弱味ですね。」
「その克服を目指すことで、物質世界の超越が可能になるのです。」
「種族にもよるのではないですか?」
「我々にはできた。」

医療室のフロックスは、モニターに目を留めた。タッカーとサトウが立って話している。
フロックス:「立てるはずがない。」
別のモニターで 2人の状態を確認する。「あの薬の量で。」
除菌室の音声を聞く。
サトウ:『祖先は身体がありました。』
タッカー:『進化は様々で人間には別の良さがある。』
『評価に値しません。』
フロックスは別のグラフを表示させた。
タッカー:『なぜそう嫌うのです。』
サトウ:『私が最も不安なのは、人間の暴力性です。』
フロックス:「何てことだ。」
タッカー:『クリンゴンと違い彼らは、暴力を避けようとします。』

サトウ:「口ではそう言いますが実際は。」 カメラを見た。「見られています。」

パッドと波形を比べるフロックス。
医療室にアーチャーとトゥポルが来た。
フロックス:「ああ、船長。トゥポル。ちょうどよかった。タッカー少佐とサトウ少尉の脳波を見て下さい。」
アーチャー:「それにどんな意味が?」
「人間とは違います。」
トゥポル:「検知能力があったとは。」
アーチャー:「デノビュラの技術でしょ。」
フロックス:「……そうか。ウイルスは君らの仕業か。」
「関係ありません。」
トゥポル:「肉体をもつ種族を研究に来ているだけです。我々の存在をどう検知しました? その確率は過去 2%です。」
フロックス:「…あの 2人は薬で眠っていた。立って話せる状態じゃない。」
アーチャー:「肉体に不慣れで普通の眠りと区別がつきませんでしたよ。」
トゥポル:「次回気をつけましょう。」
フロックス:「治療法は知らないんですか。」
「観察のみで、干渉はできません。」
「いま干渉してる!」
「対象は地球人で、あなたは違う。…パートナーが数時間前、あなたにも入っています。」
「そんな覚えはない。」
アーチャー:「記憶操作は容易です。」
「今度も『操作』するんですか、うん? この会話も全て消し去るのか。」
トゥポル:「除菌室のモニターで聞いたことも。」
「なら治療の能力もあるはずだ!」
アーチャー:「あります。」
トゥポル:「が、しません。」 パッドをフロックスに返す。「協力に感謝します。」
フロックス:「記憶を消すのも無理はない。…ひどい行為だ。」 乱暴にパッドを取る。

廊下を歩くアーチャー。「ドクターのパッドを見たところ、抑止法を開発してます。」
トゥポル:「7種族が放射能法にたどり着きましたが、遅すぎました。」
「彼らとファースト・コンタクトを?」
「とんでもない。不可能な作業に資源を費やすのは、知性とは言えません。じき船長と科学士官の決断の時です。元のホストに戻りましょう。」

司令室。
フロックス:「患者を死なせずウイルスを破壊するには、照準が正確でないと。医療室のバイオ・スキャナーでなければ、不可能ですねえ。」
トゥポル:「…彼らを医療室へ移すには、隔離エリアを広げねばなりません。」
アーチャー:「すぐそうしよう。成功させるぞ。」

除菌室のモニター。サトウの数値に反応が出る。

補助医療ラボ※17で環境服を着ているフロックス。「サトウ少尉が危険です。急いで!」
アーチャーと共に区切られた部屋を進むのが、モニターに映る。
パネルを操作するアーチャー。『一帯を隔離だ。』
メイウェザーと共にいるリード。「リードよりブリッジ。該当エリアを封鎖。」

トゥポル:「環境システムも、分離しました。」
アーチャー:『隔離ゾーンに入る。』

進む 2人がモニターに映る。ドアを閉めた。
廊下を歩いていく。
顔を見合わせるリードとメイウェザー。

ランプが緑に灯り、フロックスとアーチャーは除菌室に入った。
フロックス:「少尉はショック状態です。命が危ない!」
起き上がるタッカー。アーチャーはサトウを抱きかかえる。

医療室に入るアーチャー。
フロックス:「バイオスキャン・ベッドへ。」
サトウの首に触れるアーチャー。「呼吸をしてない!」

医療室の様子をモニターで見るリード。「必ず死者は出ます。」


※13: 除菌室が Dデッキにあることが、初めて言及

※14: ここはロシア語で「さよならを言わなくちゃ」と言っているようですが、未確認

※15: sonambutril

※16: 原語では「フーディーニ」と呼びかけています

※17: Auxiliary Medical Lab
新規セット

サトウに触るアーチャー。「ホシ。」 身体の状態を表す数値は、全てゼロだ。「フロックス。」
フロックスはケースを開けようとするが、手袋のせいで上手くいかない。
手袋を外そうとするフロックスを止めるアーチャー。「何をしてる。」
フロックス:「宇宙服で治療はできない!」
「…私が手になる。」
「いけません!」
「いま船には、船長よりドクターが必要だ!」
アーチャーは手袋を外し始めた。

メイウェザーはリードを見る。表情を変えずに見続けるリード。

ブリッジのトゥポルもモニターを見ている。

フロックス:「20センチ離して装着して。」
サトウの腹に装置がつけられる。

リードはモニターに近づいた。「全く理解できない。」
メイウェザー:「800年の間で、初めてのことですか。」
「ええ。望みはないとわかっているのに。」
フロックス:『トライフェネドリン※18を 40ミリリットル※19。心臓に注射です、うん?』

ケースを持ってくるアーチャー。
フロックス:「駄目だめだめだめ、それでは届きません。」
別のケースを開けるアーチャー。その器具には長い針がついている。
フロックス:「昔の技です。…もう少し、傾けて。素早く一気に。およそ 3センチ、差し込んで。」
アーチャーはサトウの身体に針を突き刺した。
フロックス:「アクティベイターを。」
アーチャーがスイッチを押し、フロックスがコンピューターを操作する。
引き抜かれた。
フロックス:「離れて!」
サトウの身体にショックが与えられる。
高い音が響く。
アーチャー:「がんばれ、ホシ!」
フロックス:「300ミリジュールだ。」
さっきより長く続く。だが状態は変わらない。
フロックス:「船長。」
アーチャー:「もう一度!」
「…340ミリ。」
やはり駄目だった。
フロックス:「…死亡です。…船長、次は少佐です。」
ベッドからサトウの遺体を降ろすアーチャー。

メイウェザー:「何人死ねば人間は違うと認めるのですか。すぐにやめるべきです。」
リード:「ルールの逸脱はできない。まだ結果は出ていません。最初の死亡後、感染が広がる確率は 68%です。」
「それを待って何がわかるのです。」
「我々がいなくても起こったことです。責任はありません。」
「…あるかもしれません。」

アーチャーはサトウに布をかけた。
フロックス:「少佐をスキャナーに。」
意識を失ったタッカーはチューブに入れられた。

モニターを見つめるトゥポル。

リードはメイウェザーを気にしている。

出されるタッカー。
フロックス:「…効いてない。残念です。」
アーチャー:「…君のせいじゃない。」
「少佐は恐らく救えませんが、船長にはまだ数時間ある。何か方法があるはずです。」
「…作業は、ブリッジで進めてくれ。宇宙服に異常が出ては困る。」
「あきらめません。」
「ここで待ってる。」
フロックスは医療室を出ていった。
アーチャーは通信機を耳から外し、コンピューターに触れた。「アーチャーよりトゥポル。」

トゥポル:「はい、トゥポルです。」
アーチャー:『状況は見ていたな?』 モニターに映っている。
「見ていました。」
『君が指揮官だ。』
「はい、船長。」
『後々も、船は君に任せたい。いいか、ガードナー提督に横槍を入れさせるな。』
「最善を尽くします。」
『君ならやれる。……私はトリップの面倒を、見る。また連絡する。…必ずな。』
「…船長。もし少佐の意識が戻ったら。」
『すぐに君に知らせよう。…以上だ。』 通信は終わった。

タッカーに近づき、サトウの遺体を見るアーチャー。タッカーの首元に手を置く。
深く息をするタッカー。モニターに反応がある。
全ての数値が下がっていき、ゼロを示した。音が響く。
突然タッカーが話し始めた。「アーチャー船長には敬服しました。」
驚くアーチャー。モニターを見ると、数値が上がり始めた。
アーチャー:「トリップ。」
タッカー:「違います。」 起き上がる。「オルガニア人※20です。肉体のない生命体で、トリップはホストです。」
「…彼に何をした。」
「何も。他種族には干渉しない方針ですので。観察するだけです。」
「ウイルスのことは知っていたのか。」
「だからここへ来ました。他種族のウイルスへの反応を見るために。」
「クルーが犠牲になるのをわかっていながら警告しなかったのか?」
「したくても、独断では無理です。」
サトウがいきなり起き上がった。「君は全てのルールを破っている。」
また驚くアーチャー。
タッカー:「彼らには合わないルールだ。」
サトウ:「我々が判断することではない!」
「ルールに異議を唱えないと。」
アーチャー:「君らのルールなどどうでもいい! …トリップとホシは、君らが身体から出たらどうなるんだ。」
サトウ:「彼らはこのままですね。」
「…死人か。」
うなずくサトウはタッカーを睨み、ベッドから降りる。
アーチャー:「他文化に干渉しないという、その方針はよく理解できる。私もその状況に直面した。決断は難しい※21。」
サトウ:「同意見です。」
「いいや、違う。…このウイルスとの遭遇は、事前に君らが止められたはずだ。」
「それでは人間を研究できない。」
「聞けばいい。…話せばいいだろう! …今こうしているようにな。」
「会話は伝達手段としては未熟です。…我々は遥かに進化している。」
「そうは思えないな。…恐らく私には理解もできない能力を身につけたんだろうが、大きな代償を払った。…他者への、思いやりだ。それがあってこそ生きる意味がある。…それを全部なくしてしまうのなら、進化などしたくない。」
「我々は引き上げます。あなたは何も覚えていない。」
咳をし始めるアーチャー。
サトウ:「そして 3時間後、あなたも死ぬ。」
タッカー:「いえ。…全員救うことができます。」
「私に逆らうのか!」
「ルールに逆らうのです。アーチャーが今日示した、他者への共感は…これまで見たことがないはずです。」
「また別の人間を観察しよう。」
アーチャー:「ほかにも手がある。…自分で思いやりを、体験するんだ。…人間がどんなものなのかを知るには、観察だけでは足りないはずだ。」
サトウはタッカーを見た。

通信が入る。『アーチャーよりブリッジ。』
トゥポル:「トゥポルです、どうぞ。」
『トリップの様子を言っておこう。』
「はい。」
『ここへ来た方がいい。今しゃべりまくってる、ホシもだ。』
フロックス:「ホシはもう…」
『フロックスも来い。一体どういうことか説明してくれ。』

サトウを調べたフロックス。「…3人ともウイルスは見られません。少佐は治療効果が遅れて出たとも考えられますが、船長やホシまで治ったのは…説明がつきません。」
トゥポル:「このウイルスには、我々に予測できない性質があるんでしょう。」
アーチャー:「…艦隊医療部の誰かが解明してくれるさ。とりあえず、星の軌道上に警告ビーコンをおこう。ほかの誰かが、同じ目に遭わずに済むようにな?」

ターボリフトのリード。「どういうことかわかっているのですか。ほかの種族の反応を観察できなくなったのですよ?」
メイウェザー:「よかった。初レポートを書くのが楽しみです。一万年経ったら、ルールも検証し直すべきだ。」 ターボリフトを降りる。
追いかけるリード。「人間に悪影響を受けていますね。これ以上の接触は勧めません。」
メイウェザー:「避けられませんよ。地球人との正式なファースト・コンタクトに向け、準備を進言します。」
「そうですね? 進歩速度から見て、5,000年ほどしかなさそうだ。」
「準備を急がないと。」
衛星をもつ惑星軌道上のエンタープライズ。


※18: trinephedrine

※19: 原語では「40ユニット

※20: Organian
TOS第27話 "Errand of Mercy" 「クリンゴン帝国の侵略」より

※21: ENT第14話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」より

・感想など
前話と同じく、単発かつボトルショーのエピソード。しかも今回はゲスト俳優が一人もいないという、稀にしかないレベルです。ところが内容は対照的に小気味よい出来に仕上がっており、さすがはリーヴス・スティーヴンス夫妻 2話目 (前回は "The Forge" 「狙われた地球大使館」) の脚本というところでしょうか。ST を代表する非実体生命体、オルガニア人を使ってくるところも彼ららしいですね。
もっとも不満がないわけではありません。何年も観察している割には、あっさり気づかれたりとお粗末な行動。TOS とは多少性格が違うようなオルガニア人の振る舞い。あえて同じ種族にする必要性はないような気もします。ですがキャラクター (というかリードとメイウェザーはほとんど乗り移った状態なので、俳優というべきですが) 7人全員に見所が与えられているのはよかったですね。助かることはわかっているようなものですが、どうやって解決するかは興味深いところではありました。
今回のオルガニア人は完全に肉体とは決別した感じでしたが、TOS では惑星上で見せかけの牧歌的な生活を送っていました。もしかしたらアーチャーの「体験してみろ」という言葉が元になっていると考えると、面白いかもしれませんね。ファースト・コンタクトまで実際は 5,000年もかからず、113年でした。


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