稼働し続けるリアクター冷却剤。タッカーは意識を失っている。
作業を続けるリード。「ワープマトリックスを戻してる! 放射線を止めろ!」
ヴァルドア:「完全に戻し終えたらな。」
音が響いた。
リード:「どうだ。ちゃんと戻したぞ! 早くハッチを開けろ!」
ドアが開き、リードは中に入った。「少佐、しっかりして。」
ニジル:「マトリックスが復旧しました。」
ヴァルドア:「では奴らはもう用済みだな。」
ヘルメットを被るリード。ドアはまた閉まった。
タッカー:「何で命令を破った。」
リード:「ブリッジよりこっちの方が安全です。」
ブリッジの回路に、フェイズ銃が中を見せた形で固定されていた。定期的に音を発している。
ヴァルドア:「ワープに入れ。ドローン船を、呼び戻す。」
タッカー:「ワープに戻ったな。従うなって言っただろ。」
リード:「命を救ってしまって申し訳ありません。今後注意します。」
「悪かった。」
「さっきの構造図からすると、これがアクセスパネルです。」
「どこ行く気だ。」
「ブリッジから離れる。」
「何のために。」
「この会話は全部聞かれてるでしょうね。…そいつのマニュアル、読んだことありますか。」
タッカーは自分のフェイズ銃を見た。
リード:「オーバーロードの注意書きがあるんですよ。」 腰を見せる。フェイズ銃はない。
タッカー:「後どのくらいだ。」
「恐らく、一分もありません。」
パネルを開ける作業を手伝うタッカー。
フェイズ銃が発する音が高くなってきた。
ヴァルドア:「いま言ってたのはどのパネルだ。」
ニジル:「中枢から離れるだけです。主要システムはありません。」
「戻ってきたらここで始末する。」
パネルを開けたタッカーとリード。
フェイズ銃の音の間隔も早くなっている。
チューブ内部に詰まったパイプを急いで取る 2人。
リード:「さあ。」
中に入る。
高い音を発するフェイズ銃。
チューブを抜け、進み出すタッカーとリード。
タッカー:「これだけ離れれば大丈夫だろう。」
リード:「パワー回路に、直接つないだんです。」
2人の話を聞くヴァルドア。
フェイズ銃はついにオーバーロードを起こし、爆発した。
タッカーたちの背後で爆風が起こり、吹き飛ばされる。
爆発は船外にも伝わる。
走るタッカーとリード。火花が襲う。
動きを止めるロミュラン船パイロット。
モニターの表示が消え、ロミュランのシンボルが表示された。
ニジルのコンソールも消滅する。「通信不能です。」
うなるヴァルドア。
通常航行中のエンタープライズ。
作戦室で説明するサトウ。「シュランの言う伝統というのは、ユーシャーン※17と呼ばれる儀式です。命を懸けた、決闘ですね。」
トゥポル:「その戦いには、この武器を使います。」
その鋭利な武器を手にするアーチャー。「ああ…」
トゥポル:「…ユーシャーン・トーア※18と呼ばれるものです。」
サトウ:「氷を砕く道具で、子供の頃からそれで遊んでいます。…テラライト人にはとても勝ち目はありません。」
アーチャー:「ナーグは戦わないさ。グラル大使がそんなこと許すわけがない。」
トゥポル:「しかしそれではアンドリア人を侮辱することに。」
「…ほかに、その儀式の情報は?」
ドアを開けるアーチャー。
シュランが中で、ユーシャーン・トーアを研いでいた。「まあ、くつろいでくれ。……愛用の品だ。…いつも持ち歩いてる。」
アーチャー:「ほんの 2時間前に力を合わせようと、話したばかりだろ?」
「互いの利益になるからな。」
「個人的な恨みで台無しにする気か。」
「これはタラスの復讐だけじゃない! 私は船を破壊され、クルーもほとんど失った。そんな仕打ちをされて黙っていたら、私はリーダー失格だ! この先誰もついてこないだろう。…黙って、私の勝利を祈ってろ。帝国防衛軍で、私は地球人を評価している。…私が死ねば、痛手になるぞ。」
「…グラル大使と話した。」
「うん。」
「ユーシャーンの、ルールのことだ。この決闘には、代理を立てられるそうだな?」
「…まさか、部下の代わりに大使が戦うとでも言うのか。」
微笑むアーチャー。「大使じゃない。」
シュラン:「…おい、冗談はよせ。」
「私が代理になる。決闘を受けて立とう。」
「君を殺したくはない。同志だからな。」
「なら中止しろ。」
「……それはできん。」
船内を歩くタッカー。「銃一丁でこんなになるのか?」 爆発が続いている。
リード:「物を吹き飛ばすのは私の専門です!」
「急いで外壁まで行こう。」
「それより、生命維持装置のあるところを探した方が。」
「船体はトランシーバーで覆われてる。通信機をつなげば、エンタープライズに連絡できるはずだ。」
「ああ。」
ニジルのコンソールが戻った。「通信機能が復旧しました。損傷個所を修復中です。」
ヴァルドア:「時間がない。自爆機能が復旧したら、すぐに知らせろ。」
自室のアーチャーは、ドアチャイムに応えた。「入れ。」
トゥポル:「お気持ちが変わりましたか。」
「…負けると思ってるのか?」
「シュランは帝国防衛軍の一員として、幼い頃から…訓練を積んでいます。…引き下がりはしないでしょう。」
「当然だ。気持ちはわかる。」
「しかし断れば、アンドリア船は撤退してしまいます。」
「だが決闘して、私がシュランを殺してもアンドリアが退くのは同じだ。かといってナーグが戦って死ねば、テラライト船が撤退する。死んでも支障がないのは私だけだ。…宇宙艦隊は撤退しないからな? …この作戦は絶対に潰せない。惑星間の重大な同盟関係が懸かっているんだ。」
トゥポルはアーチャーの腕に触れた。「ヴァルカンのことわざです。『未来は、一人の力で変わる。』※19 その一人が、運命の時を前に命を…なげうってしまったら。」
アーチャー:「私は、この船に来てからの数年で学んだんだよ。未来は、決まっていない。」
「…もしものことがあったら。」
「もしものことがないようにしよう。」
ブリッジ。
文書を読んでいるサトウ。
ターボリフトを出るメイウェザー。「こんな時間にいると思わなかった。」
サトウ:「ああ、どうしたの?」
「眠れなくて。あと何時間か後に、船長が命懸けの決闘をするんだ。」
「ほんと残酷な儀式。」
「何見てんの。」
「ユーシャーンの記述。副長がもう一度調べて、解決法がないか探れって。」
「だけど、船長はもう決意を固めてるみたいだったぞ。」
「でもまだ抜け道があるかも。…摩擦なしに決闘を免れる方法。」
「…手伝うよ、2人の方が早いだろ。」
食堂のテーブルにたくさんのパッドが置いてある。
メイウェザー:「ねえ、これは? 『当事者に家系を注ぐ子孫がいない場合、決闘は無期限に延期することができる。』」
サトウ:「それがどうしたの?」
「だって、アーチャー船長には子供いないだろ? 船長が死んだら家系は途切れる。」
「適用は既婚者に限るって。」
「…じゃあ今から 4時間で奥さんを見つければいい。」
「そんなことしたって、アンドリア側が納得しないわよ。…こんな儀式に 1万2千も修正項目があるのよ? 一つくらい何かあってもいいでしょう。」
「逃れる方法を探すよりも、決闘に勝つ方法を考えた方がいいんじゃないかな。」
「船長が勝てばシュランは死んで、同盟は白紙に戻る。」
「ノベリア・プライム※20へ行ったことある?」
「昔だけど。」
「あそこじゃ、何も知らずに年長者の顔を見ると決闘を挑まれるんだ。一度うちの親父が。」
「それでどうなったの。」
「…決闘の詳しいルールって、どれに書いてある。」
パッドの一つを渡すサトウ。
ユーシャーン・トーアを扱うサトウ。「こうブロックをしないでください。正面から受けて跳ね返すんです。」
グラル:「眉間に突き刺して思いっきりねじってやれ。」
フロックス:「代謝機能が違います。動き続ければ相手の方が先に疲れる。」 アーチャーの左腕に防具を装着した。
アーチャー:「…勝てばいいんだろ?」
トゥポル:「位置について下さい。」
シュランと向き合うアーチャー。発着ベイにはアンドリア人たちも集まっている。
トゥポル:「今ならまだやめられますよ。」
シュラン:「結末は決まってる。私も望んじゃいない。」
アーチャー:「…何でも思ったとおりにいくとは限らない。」
「会えてよかったよ。…敬意を表して、地球との同盟関係を長く維持できるよう力を尽くそう。」
「早く済ませよう。仕事が残ってる。」
アンドリア人によって、互いの手の防具がひもでつながれた。
引っ張るシュラン。「君の血を持ち帰ったら…英雄の壁に塗るよ。」 ユーシャーン・トーアを受け取る。
微笑むアーチャー。「遠慮する。」 サトウから手にした。
ユーシャーンを始めるシュラン。「さあ、そっちから来い!」
投げ飛ばされるシュラン。互いに刃を振るう。
殴られるアーチャー。ユーシャーン・トーアが首元に当たる。
アーチャーは蹴られた。さらに足を刺される。
立ち上がるシュラン。「降参しろ。一撃で楽に死なせてやるぞ。」
アーチャーも立った。「今のはわざとだ。…君も部下の前でいいとこ見せたいだろ?」
笑うシュラン。2人は壁の近くで刃を合わせる。
アーチャーはシュランを蹴り、後ろからひもで首を絞めた。ユーシャーン・トーアを落とすシュラン。
アーチャー:「うーん、降参するか?」
シュラン:「誰が…」 座り込む。
「じゃ仕方ない。」
武器を挙げるアーチャー。シュランは覚悟を決めた表情だ。
アーチャーの手が振り下ろされた。
|
※17: Ushaan 元々は非正史の TRPG用ソースブック、"The Andorians: Among the Clans" (1999) で導入されたもの
※18: Ushaan-Tor これも前述のソースブックで、「チャクラ」として描かれた武器にヒントを得ています
※19: "One man can summon the future." TOS第39話 "Mirror, Mirror" 「イオン嵐の恐怖」で、鏡像スポックが "One man cannot summon the future." と逆のことを言っています (吹き替えでは「先のことはわかりませんよ」)
※20: Nobelia Prime Neubilia Prime となっている資料もあり。製作者 Mike Sussman のガールフレンド、高校教師の Karyn Newbill にちなんで
|