ワープ中のエンタープライズ。
『航星日誌、補足。テラライトの大使は、別の船で母星に戻った。シュランは残り、攻撃船※1の捜索に加わる。』
会議室で飲み物を汲むアーチャー。
トゥポル:「あれは、テレプレゼンスで操縦されたドローン船です。どこか遠隔地から、あの船を操作しているということです。」
シュラン:「我々も以前実験はしたが、不可能だった。」
「パイロットは、何光年も離れた場所からドローン船を操作できるようです。」
リード:「あの船は、本当に無人だったのか。」
タッカー:「操縦してた奴は安全な母星にいたわけだ。」
トゥポル:「恐らくは。」
「きったないな。」
アーチャー:「その、テレプレゼンスを妨害できないのか。」
トゥポル:「少佐が持ち帰ったデータを分析していますが、テレプレゼンス装置は造れると思います。」
タッカー:「あれをハイジャックするのか?」
「そこまでは。…ただ、あの船の操縦を妨害することは可能でしょう。」
アーチャー:「始めてくれ。」
「一つ、問題があります。…収集データに、脳波パターンが含まれていました。パイロットのものと思われますが。」
フロックス:「非常に強い、テレパシーをもった固体ですね。」
「つまり、この装置の操作にはテレパシーが必要ということです。」
アーチャー:「ヴァルカンには、テレパシーがある。」
フロックス:「これほど強くはない。」
「種族を特定できるか。」
「データベースにはない種族です。ただ、最も近かったのはアンドリアです。」
その言葉に驚くシュラン。
報告するニジル※2。「地球船のせいで損傷が出ています。レシーバーアレイは全交換です。」
ヴァルドア:「人員は全て修理に回せ。」
「船体よりもっと心配なのは、パイロットです。」
「どうした。」
「船の操縦は体力を消耗します。」
「3日は休養をとらせよう。」
「不十分です。…精神的に極度に疲労している。1隻の操縦でも大きな負担なのに、2隻では。」
「興奮剤を増やせばいい。」
「今の投与量でも既に危険なんです。回復不能になる。…死にますよ。」
「ミッションの成功より、あの男の方を心配してるように聞こえるぞ。」
「パイロットなしでは、ミッション自体ありえません。」
「地球船を破壊するまでは何とか生かしておけ。その後はどうなろうと構わん。」
作戦室でドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」
シュラン:「母星から連絡が入った。科学者が、例の脳波を特定したよ。」 ワープはしていない。
「それで?」
「我が星の者だが、普通のアンドリア人とは違う。イーナー※3だ。…連中はつまり、我々の亜種だ。目が見えず、氷窟に住む。神話の中の存在だと思われていた。ほら、子供のおとぎ話の類だよ。それが、50年前に北部雪原で発見されたんだ。彼らは外界と接触しない。イーナーを直接見たアンドリア人は、片手にも満たない。」
「あの船を造る技術があるのか。」
「いや、そんな技術力があるとは思えないな。2、3千人しかいないし、第一彼らは平和主義者なんだ。…暴力を嫌ってる。」
「一人だけ違う。」
「まあそのようだ。」
「そのパイロットを見つける必要がある。」
「同感だ。」
通信機に触れるアーチャー。「トラヴィス。」
メイウェザー:『はい。』
「アンドリアに向かえ。最大ワープだ。」
医療室に機械が持ち込まれている。タッカーは立ちくらみを起こしたようだ。
トゥポル:「休むべきです。」
タッカー:「…すぐに収まる。」
「休養すべきだと、フロックスが言っていました。」
「フロックス? 俺のこと聞いたのか?」
「話題に上っただけです。」
「へえ。…休んでる暇はないんだよ、早くこれを仕上げないと。」
「…私がやります。」
「ややこしい計算は得意だろうが、実際機械を組み立てるのは…」 トゥポルが取れなかった部品を外すタッカー。「君の手には負えない。デュラナイト※4のキャップは外した方がいい。その方が上手くいくんだ。」 渡した。
「覚えておきます。」
「こないだあの船にマルコムといたとき、生きては帰れないと思った。経験あるか。」
「エンタープライズの出航以来、全員何度となく死を意識したはずです。」
「死ぬかもしれないじゃなくてさ。もうこれで終わりだと、観念したことはあるか? 今なら、その時までまだ時間がある。」
「…デルフィック領域で球体41 を破壊しに行ったとき※5に、死を覚悟しました。」
「何を考えた。」
「非常用パワーをディフレクターに、回すべきかどうか。どうしてです?」
「…聞いただけだよ。」
エンタープライズは輪をもった惑星に近づく。複数の衛星がある。
リード:「イーナー居住区は、妨害フィールドで覆われています。中からは、船と連絡が取れません。軍事部隊を 2人ほど、同行させてください。」
宇宙艦隊のマークのついた防寒用ジャケットを着ているシュラン。「武力の片鱗でも見せたら、何も聞き出せなくなる。」
アーチャー:「我々だけで行く。」 2人の背中にはケース。転送台に立った。
リード:「船長、でも何の情報もないんですよ?」
「だから行くんだ。転送しろ。」
一面氷の大地。空には惑星が見えている※6。
転送されてきたシュランは、息を吸った。「ああ…空気が美味い。」 笑う。「沸々と血が沸き立つねえ。」
シュランのスキャナーを見るアーチャー。「零下 28度?」
シュラン:「真夏で運が良かったな。」
アーチャーは息をつく。
シュラン:「入口は 20メートル先だ。ヴァルカンじゃ砂漠が人に忍耐を教えると言われてるようだが、氷こそが真に人を鍛える。」
アーチャー:「こんなところで生きられるのか。」
「楽じゃないさ。アンドリアの都市は全部地下にある。地熱を利用するためだ。」 氷の一部が色とりどりに光っている。「太陽を見たのは 15歳の時だ。」
よろめき、ひざをつくシュラン。
アーチャー:「気をつけろ、まだ本調子じゃないんだ。」
シュラン:「平気だ、ピンクスキン。ああ。このトンネルは、何千キロにも渡って広がってる。迷ったら大変だぞ。」 進んでいく 2人。
ニジルは外を見ているヴァルドアに近づいた。「12時間で、発進できます。」
ヴァルドア:「パイロットは。」
「休んでいます。」
「やれるのか。」
「できる状態にします。」
「兵士のセリフだな。」
「私は科学者です。」
「ニジル、全員が兵士だ。…生まれた瞬間からな。それを忘れると、悲劇が起きる。私が議員だったのを、知っているか。」
「いえ?」
「何年も前だ。ヴラックスと共に働いた。友人とまで思っていたよ。」
「どうしたんです?」
「バカなことに、無限の拡大という身命に疑問を呈した…質問をしたんだよ。征服が本当に、我々の最善の道ですかとな。それで追放されたんだ。」
「残念です。」
「同情でなく私の経験から、教訓を学べと言っているんだ。…議場から連れ出されたとき、同じ間違いは犯さないと誓った。決して目的を、忘れないとな。」
「わかりました。」
「さあ行くんだ。準備を続けろ。」
うなずき、出ていくニジル。
氷のトンネルのあちこちに、小さな穴がたくさんあって光が差し込んでいる。
シュラン:「氷虫※7だな。氷の中に棲み、化学反応で熱を出すんだ。一日二日前に大群が通ってる。」
アーチャー:「フロックスなら採集したがるだろうなあ。」
「近寄らない方がいい。…子供の頃、転んで巣に突っ込んだんだ。身体半分、3度の火傷だよ。」
ガケに近づいた。うめくシュラン。
アーチャー:「シュラン、悪いことは言わない。別の道を探そう。」
シュラン:「高所恐怖症か?」
2人は階段状の部分を降りていく。その時、シュランがバランスを崩して倒れた。
アーチャー:「シュラン!」
床まで転がり落ち、叫ぶシュラン。アーチャーも追いついた。
鋭い氷の棒が、シュランの右足を貫通している。青い血で濡れた氷。
シュラン:「足下の氷が割れた※8!」
抜こうとするアーチャーを止めるシュラン。「待て!」 自分で足を持ち上げる。
絶叫と共に、抜くことができた。
手伝ったアーチャー。「出血がひどい。」 医療キットを取り出す。「動くな。」
その時、洞窟の奥から 2人の様子をうかがう者がいた。白い肌をしている。
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※1: ここだけ「襲撃船」という訳ではありません
※2: ニジル役の J・マイケル・フリンは、今回に限りノンクレジットです
※3: Aenar 原題
※4: duranite
※5: ENT第76話 "Zero Hour" 「最終決戦」より
※6: アンドリアが登場するのは史上初。映像からすると、アンドリア人は惑星ではなく衛星が母星だということがわかります。かつてアンドリア人の故郷が「アンドリア (Andoria)」のほかに「アンドア (Andor、DS9第140話 "Change of Heart" 「至高の絆」など)」とも呼ばれていたことを説明するため、衛星=アンドリア、ガス巨星=アンドアとする見方もあるようです。氷の星という設定は前話のユーシャーン同様、非正史の TRPG用ソースブック "The Andorians: Among the Clans" (1999) の表紙から影響されたもの
※7: ice-bore bore=穴あけ道具、掘削機
※8: 「氷が下 (床) から貫いてる」の方が適切な訳かもしれません。氷が割れたので落ちないように急ぐ、という描写も特に見られませんので
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