TOS エピソードガイド
第39話「イオン嵐の恐怖」
Mirror, Mirror
イントロダクション
※1※2惑星の地表。空には雷鳴がとどろいている。 椅子に座った異星人※3。「カーク船長、おっしゃることはわかりますが我々の立場は変わりません。ハルカン※4国の会議では、惑星連盟※5にデリシウム※6・クリスタルを渡さないことにしています。」 他の者も控えている。 カーク:「平和の目的のために、使うことは十分に示したはずです。」 チュニックを着ている。 「少なくとも、現在はあなた方はそう言います。しかしこれから先のことはわかりません。我々のデリシウムは、恐ろしい力をもっています。もし間違って使われれば我々は一人残らず殺されてしまい、長い間の平和の歴史が終わってしまいます。それを防ぐためには、最後の一兵まで我々は戦います。」 「ご立派な考えです。いずれ…わかっていただけると思います。」 また雷。 コミュニケーターを使うカーク。「エンタープライズ。」 スポック:『スポックです。』 「磁気嵐のようだが、どうだスポック。」 スポック:「普通の、イオン嵐※7ですが相当ひどいようです。」 船も揺れる。「見通しが、つきません。」 スコープを覗くスールー。 カーク:「ショックがあるか。」 スポック:『相当あります。』 「上陸班の転送を用意し、周回軌道の円を大きくしてくれ。以上。」 スポック:「軌道変更だ。」 スールー:「はい。」 カーク:「また来ますから、ご検討下さい。」 ハルカン:「会議は引き続き行いますが、あまり期待はしないで下さい。」 一つにまとまるクルー。 ハルカン:「船長。武力を使って、略奪しに来るかもしれませんな?」 カーク:「とんでもない。安心して下さい。…エンタープライズ。上陸班を転送。」 転送されるカーク、マッコイ、スコット、ウフーラ。その最中も雷が続く。 転送室に入るスポック。 カイル※8:「故障です。」 4人の姿※9が見えるが、なかなか実体化しない。スポックも操作する。 消えてしまった。 ハルカン軌道上のエンタープライズ。 明滅。 全く同じ軌道を逆に進んでいるエンタープライズ。 カーク、マッコイ、スコット、ウフーラは実体化した。転送台の壁に、剣で貫かれた地球のマークがいくつもある。 カーク:「ひどいイオン嵐だな。」 転送室にいたスポックとカイルは、カークに向けて手を挙げた。 そのスポックは、ひげをたくわえている。 他のクルーも同様の敬礼。カークたちは、制服も変わっていることに気づいた。 スポックは低く声を発した。「ミスター・カイル、標準態勢※10維持。」 カイル:「はい。」 「船長いかがでした。」 カークは戸惑う。何が起こったのかわからないウフーラ。 近づくカーク。「駄目だった。」 スポック:「では攻撃しますか。」 金色の布を腰に巻き、ナイフを携えている。 カークはうなずいた。 スポック:「スールー。…フェイザー砲の照準をハルカンの都市へ。」 スールー:『はい、ミスター・スポック。』 「敵の戦闘能力は。」 カーク:「…ゼロだ。」 「じゃあ敵は自殺の道を選んだようなもんです。…ミスター・カイル、イオン嵐の中でも修正できるよう訓練されているはずだぞ※10。」 カイル:「はい、やろうとして…」 「命令を実行できないような奴は拷問だ!」 「ですからやろうと…」 「拷問器※11だ。」 「…待って下さい。」 「拷問器をよこしたまえ。」 保安部員に押さえられるカイル。「待って下さい、やろうとしたんですよ。」 スポックはカイルの腰に付けられている装置を手に取り、胸に押しつけた。 音が響き、苦しむカイル。ウフーラは目を背ける。 カイルは絶叫し、その場に倒れた。 |
※1: このエピソードは、1968年度ヒューゴー賞にノミネートされました ※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 地球上陸命令」収録「鏡像世界」になります ※3: 名前は Tharn (ヴィク・ペリン Vic Perrin TOS第3話 "The Corbomite Maneuver" 「謎の球体」の子供ベイロック (Balok) の声、第16話 "The Menagerie" 「タロス星の幻怪人」の飼育係 (The Keeper) の声、第19話 "Arena" 「怪獣ゴーンとの対決」のゴーン人/メトロン人 (Gorn/Metron) の声、第37話 "The Changeling" 「超小型宇宙船ノーマッドの謎」のノーマッド (Nomad) の声役。1989年7月に死去) ですが、言及されていません。「サーン」としている日本語資料もあります ※4: Halkan ※5: 今回の「連邦 (Federation)」の訳語 ※6: ダイリチウム (ディリチウム、dilithium) のこと ※7: ion storm TOS第15話 "Court Martial" 「宇宙軍法会議」など。原語ではこの個所は「イオン型 (の嵐)」と言っています ※8: カイル大尉 Lt. Kyle (ジョン・ウィンストン John Winston) 前話 "The Apple" 「死のパラダイス」に引き続き登場 ※9: カークは腕を下ろした格好で転送開始されたはずなのに、なぜかコミュニケーターを上げた姿になっています。これもイオン嵐のせい? ※10: 吹き替えでは「標準速度」。カイルは転送部長であり、ブリッジでもないので操舵は関係ありません。次のスポックのセリフは「標準速度を維持しろと言ったはずだぞ」、カイルのセリフは全て「今やろうと (してた)…」と訳されています ※11: agonizer 初登場。TOS第66話 "Day of the Dove" 「宇宙の怪! 怒りを喰う!?」でも同じプロップが使われます |
本編
※12『航星日誌、宇宙暦不明。我々上陸班はイオン嵐を突いて帰還したが、エンタープライズ※13の中は全てが変わり、スポックをはじめ乗組員は野蛮人に変わり果てていた。』 転送室。 スポックは拷問器を落とした。「スコット、イオン嵐でお前の部署に損害が出た。ドクター、君は負傷者の手当をしてやってくれ。すぐやれ!」 カイル:「ミスター・スポック。」 「何だ。」 「パワービームが一瞬跳ね上がりました。上陸班が転送された時もです。こんなこと初めてですよ。」 「お前の間違いのせいじゃあないのか。」 「違いますよ、今ですから。」 「嵐のせいかもしれん。船長、何か異常を感じましたか。」 カーク:「…ああ。…ドクター、我々を診てくれ。ひどい転送だった。」 マッコイ:「ああ。」 「スポック。転送回路を、詳しくチェックさせろ。」 出ていく 4人。 通りがかったクルーも、カークに敬礼する。 スコット:「一体どうしたんでしょう。」 ウフーラ:「おかしいですわ…」 カーク:「ああ待て、後だ。」 廊下に立っている保安部員に、同じ仕草で挨拶を返すカーク。 ターボリフトを出た 4人は、医療室に入った。 マッコイ:「どういうことだ。船内の構造から乗組員まで変わってしまってるぞ。」 ウフーラ:「どうしたんでしょう。」 「…さっぱりわからん。この場所に、一年前に酸をこぼしたはずだ※14。一体これは…」 カーク:「わからない。エンタープライズだが、違っている。恐らく…」 ウフーラ:「恐らく何です。」 「みんな転送の時に、めまいを感じなかったか。」 「ええ。」 「着いた時に、感じた。一瞬意識不明のようになって、やがて我に返ったようだった。そしたら、いつの間にか船内に着いていた。転送室へ。」 スコット:「船長、転送員がパワーに動揺があったと言ってました。とするとイオン嵐の影響で転送機が狂い、我々はどこかほかのところへ着いたかも。」 「そうだよ。別の宇宙の、別の宇宙船。我々とそっくりな…別の宇宙だ! 我々の宇宙とは、別の宇宙※15だよここは。そして同じ物がある。これは…ほかのエンタープライズ。ひげのあるスポック…」 ウフーラ:「ほかのカーク船長にほかのドクター・マッコイ。ほかの…」 マッコイ:「とすると、入れ替わったんだ!」 カーク:「我々と、全く同じ上陸班が我々の宇宙船へ帰還しているに違いない。同じイオン嵐が原因で、入れ替わってしまったんだよ。我々と同じメンバーが…我々の宇宙船に帰ってる。そして同じことを言っているかも。ここが別の宇宙だとすると、どうやって戻ったらいいんだ。ここのコンピューターを使ってみるしかないな。」 「ハルカンはどうする。攻撃しようとしてるぞ。」 「…スコッティ、ちょっと冒険だがフェイザー砲の回路をショートさしてくれ。イオン嵐のせいだと思うだろう。」 スコット:「はい。」 「そうしたらすぐに戻ってきてくれ。帰る方法を考えなければならない。インターホンは盗聴されるから、連絡は君の通信機を使えよ? 非常周波数でな。」 「はい。」 出ていくスコット。 「大尉※16。」 ウフーラ:「はい。」 「部署について本艦隊からの、連絡事項を聞いてくれ。…どのような命令がきているか、知っておきたいんだ。」 「はい。」 「ドクター。」 「船長、でも…。」 カークはウフーラの肩に触れた。「それをできるのは、君だけだ。私が後で行く。」 「はい。」 医療室を後にするウフーラ。 カークはチップ状のテープを集める。「ドクター。ライブラリーへ行こう、調べたいことがある。」 スコープを起動させるスールー。「ミスター・チェコフ、フェイザー砲を目標A※17 へ。」 制服は赤色※18だ。 チェコフ:「座標 712-4 です、ミスター・スールー。」 「そこへ固定だ。」 ブリッジに入ったウフーラは、すっかり変わっている中の様子を見た。 立ち上がるスールー。ウフーラに近づく。 スールーの顔には、大きな傷跡がついている。ウフーラのあごをつかんだ。「まだ踏ん切りがつかねえか、え? 今に気を変えてみせるぜ。」 ウフーラ:「部署を離れたら叱られるわよ。」 「船長もいねえし、スポックもいねえ。…フン…鬼の居ぬ間だよ。」 ウフーラは手を振り払い、そのまま身構える。 カークも来た。一斉に敬礼するクルー。 スールーは持ち場に戻った。 カーク:「連絡状況は?」 ウフーラ:「嵐による損害なし。各部署異常ありません。本艦隊の命令はハルカンを全滅せよとのことです。…仕方がありません。」 カークは船長席に座った。 スールー:「フェイザー砲目標A に固定。目標接近です。」 スクリーンに映るハルカン。 スールー:「…発射しますか。…船長。」 カーク:「命令するまで待て。」 スコットはドアを開けた。保安部員※19がいる。 スコット:「ちょっと、フェイザー砲の回路に損害がなかったかどうかを調べている。」 保安部員:「しかし、警備班の許可を得ていますか。」 「船長命令だ。」 「スールー警備班長の許可を得なければなりません。」 「構わん。私が連絡する。」 外に戻るスコット。 壁には「メインフェイザー・パワー制御」、「立ち入り禁止/許可された者に限る」と書かれている。 通信機に触れるスコット。 カーク:「カークだ。」 スコット:「スコットです。損害ありません。」 カーク:「…ご苦労、スコット。以上だ。」 スポックがブリッジに戻った。「…惑星の自転により、第1目標が狂ってしまいました。」 スールー:「軌道を修正して狙いますか。」 カーク:「…いや。」 スポック:「…第2目標に固定しろ。」 スールー:「はい。」 カーク:「ウフーラ大尉、ハルカンを出してくれ。もう一度交渉する。」 ウフーラ:「はい。」 スポック:「船長。」 カーク:「貴重な惑星だ。デリシウムのほかにもいろいろと、資源が眠っている。」 「しかしいくら交渉してももう無駄なことです。我々※20を拒んでいます。本艦隊はほかの惑星の見せしめにしろと、言っています。」 スールー:「第2目標の都市を間もなく通過します。」 カーク:「そのまま待機して、命令を待て。」 スポック:「…重大な命令違反になりますぞ。」 「任しておけ。私が責任をもつ。きっと納得させてやる。」 理解できないスポック。 ウフーラ:「船長、ハルカンの長老がチャンネルB で待っています。」 同じハルカンが映った。 カーク:「我々に抵抗しても無駄だ。」 ハルカン:『こちらの主張は変わらない。』 「12時間待とう。よく考えるがいい。」 『…たとえ 12時間だろうが、12年だろうが船長…あなた方がデリシウムを破壊のために使う限り断じて、渡すことはできない。これが我々に与えられた使命なのだ。』 眉を上げるスポック。 「渡さなければ奪うだけだ。その時こそ、お前たちは全滅してしまうぞ。」 『我々は平和を愛するのだ。』 「よく覚えておけ、12時間だけだぞ。通信を切れ、フェイザー砲待機。」 スールー:「はい。」 スポック:「12時間も? 先例のないことです。」 カーク:「…私は部屋にいる。ウフーラ大尉、ドクターとスコットを部屋へよこしてくれ。」 それを聞いていたチェコフは、コンソールのスイッチを押した。無言で立ち上がる。 ウフーラと目配せするカーク。 スポック:「船長、あなたは責任を問われますぞ。本艦隊に報告します。」 チェコフが先にターボリフトに入った。 カーク:「…そうしたければそうしたまえ。」 続いて乗る。 ターボリフトのレバーをつかんでいるチェコフ※21。「第5デッキですね。」 うなずくカークを見る。 到着し、外に出るカーク。突然殴られ、つかまる。 フェイザーを構えるチェコフ。「あんたが死ねば、我々の階級が上がる。…本艦隊の命令に背いた船長を殺しても誰も問題にはしないし、罪にもなりはしないんだ。」 微笑む。 |
※12: 鏡像世界に切り替わるシーンで、I.S.S.エンタープライズは軌道上を時計回り (左向き) に進んでいたはずなのに、このシーン以降全て通常の反時計回りに戻っています。もっとも、最初の切り替わりシーンは単なる演出だったとも取れます ※13: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※14: 吹き替えでは多少わかりにくくなっていますが、こちらの宇宙にも同じ酸の跡があるという意味 ※15: 原語ではこの個所などで、はっきり「平行宇宙 (平行世界、parallel universe)」と言っています ※16: 吹き替えでは全て「中尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます ※17: 吹き替えでは全て「目標B」 ※18: 普段は黄色、初登場の TOS第2話 "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」では青色を着ていたため、シリーズで唯一 3色全ての制服を着たレギュラーだそうです ※19: Guard (ポール・プロコップ Paul Prokop) ※20: 原語ではこの個所などで、「帝国」と言及されています。後に DS9第43話 "Crossover" 「二人のキラ」で、テラン帝国 (Terran Empire) と定義されます ※21: チェコフがターボリフトに入る前、金色の布やナイフをつけていたはずなのに消えており、代わりに拷問器だけ装備しています。ですが外に出ると、また元通りになっています |
『航星日誌、宇宙暦不明。このエンタープライズ※13の中では将校が手下を率いて自己の階級を上げるために上官を殺すなど、日常茶飯事となっていた。』 廊下。 突然脇にいたクルー、ウィルソン※22がチェコフに殴りかかった。カークから離れた別のクルーを、フェイザーで蒸発させる。 カークはもう一人のチェコフの手下※23を投げ飛ばす。そのクルーもウィルソンに殺された。 他のクルーが到着する。 ウィルソン:「もう大丈夫です。済んだよ、ファレル※24。代わりにやった。聞いてみろ。」 ファレル:「そうですか。」 カーク:「…助けてくれたよ。」 「大した奴だ、功績を横取りして。」 「連れて行け。」 ファレルたちはチェコフを運ぶ。 ウィルソン:「チェコフが将校にしてくれるはずでしたが、船長に御願いします。」 カーク:「…よかろう、よくやってくれた。」 「それでは。」 「…今に船長になれるかもしれないぞ?」 「本当ですか。」 カークはウィルソンを殴り倒した。「そうはいかない。」 口の血をぬぐう。 ※25ファレル:「こいつ、監禁しますか。」 うなずくカーク。「よし、そうしよう。連れて行け。」 カークと共に部屋に入ったマッコイとスコット。 カークの口をぬぐうマッコイ。「カーク、血が出てるぞ。」 カーク:「命拾いをしたよ。将校は皆上官を殺して階級を上げようとしている。チェコフに狙われたよ。」 スコット:「警備班長のスールーはまるでゲシュタポのようです。」 マッコイ:「医務室じゃ、私の 2人の助手が負傷兵の忍耐力で賭けをしている。どのくらい経ったら、痛みで気絶するかと。」 カーク:「メカニズムはどうだ。」 スコット:「計測操作では、我々とだいぶ違っています。私にはわかりません。」 「宇宙の状態は。」 「我々の宇宙と同じ惑星が存在しているようです。」 「位置を調べてみようか。」 機械に話しかけるカーク。「コンピューター。」 コンピューター※26:『回転。』 「…船長だ。機密部に記録し、私とスコットの声紋は秘密にしてくれ。」 『記録。』 「今度のイオン嵐に関連して、次の仮説に答えてもらいたい。イオン嵐の中で転送を行った場合に、パワーが急激に増大し故障をして、宇宙間に入れ違いが起きることはあり得るか。」 『肯定。』 「このような時に、各宇宙の間で交換される人物は全く…同じ形をした人間に限られる。そういうことは。」 『肯定。』 「では人工的に船内のパワーを使い、これを故意に起こすことは可能なことか。」 『肯定。』 コンピューターにテープを入れるカーク。「記録処理。…スコッティ、できるか。」 スコット:「…私一人では。誰かいれば。ドクターなら、できるでしょう。」 マッコイ:「……私は、技術者ではないよ※27。」 「今はそんなことを言ってられません! エンジンのパワーを盗み出さなきゃならないんです。…それも、4人に丁度いいパワーを。」 首を振るスコット。 「カーク、これはどういう宇宙船だ。船内の状況を聞いたら、わかるかもしれないぞ。」 カーク:「調べてみよう。コンピューター。」 コンピューター:『…回転。』 「最近の本船の状況記録は。」 『ジェイムス・T・カーク船長は、前船長クリストファー・パイク※28の暗殺に成功し I.S.S.※29エンタープライズの指揮官へと昇格す。第1 の行動、反逆したゴーラ人※30の母星を攻撃し、暴動を弾圧。第2 の行動、ヴェガ9号星※31において 5,000人の住民を虐殺。』 「もういい。これでわかった。」 コンソールを切るスコット。「船長、何とかできますよ。」 カーク:「よし。」 「自動転送装置にしなければなりませんが、しかしエンジンの回路をカットしてパワーを転送装置の方へつなぐ時に、スールーのボードに信号が出ます。…もちろん、一秒ぐらいですが。」 「その時はウフーラ大尉にスールーの気を逸らせるように伝えよう。合図をくれ。では各自部署に戻ろう、連絡をくれ。」 出ていくスコット。 マッコイ:「カーク。私達の代わりに、ここの連中が我々の宇宙へ行ってる。何をしてるかな。」 カーク:「我々の宇宙船にいる。」 平行世界から来たカークは、保安部員に取り押さえられていた。「おーい、命令がわからんか! えーい乱暴するな! …裏切り者。スポック、こいつらをどかせろ!」 拘束室に入れられる。その中には、既にマッコイ、スコット、ウフーラも入っていた。 ウフーラ:「甘く見るんじゃないよ…」 マッコイ:「やい、叩き殺してやろうかスポック!」 カーク:「スポック! スポック、貴様覚えてろ。お前を縛り首にしてやるぞ、一人残らず処刑して…」 スポック:「そうはいかない。…本船ではあなたの行動は制限されます。あなた方 4人を本来の場所へ送り返すまでは、暴れる限り監禁室に拘束しておかなければなりません。」 「この宇宙は狂ってるぞ。何だこの制服は、ひげはどうした、私の衛兵はどこにいる!」 「今のところ、あなたの質問には答えられません。」 笑うカーク。「わかったぞ、スポック。また欲を出しおったな。階級が欲しいならくれてやる。金※32もくれてやる。大佐になりたいか、だったらそうしてやる。」 スポック:「明らかにこれはある種の、入れ違い現象が起こっています。…研究するには、面白い材料です。」 「スポック。一体何が欲しいんだ。権力か!」 「黙っていなさい※33。」 歩いていくスポック。 「権力が欲しいか、欲しけりゃくれてやるぞ!」 平行世界にいる本来のカークは、廊下を歩いている。 スポックが呼び止めた。「船長。よく、チェコフの計画をくじいてくれました。船長に死なれちゃ困ります。」 ヴァルカン人のクルーがついている。 カーク:「…なぜだ。」 「私は船長になりたくありません。むしろ技術の方を担当していたい。その方が、暗殺される可能性は少ないですよ。」 「いかにも君らしい論理だね。」 叫び声が聞こえてきた。チェコフが筒状の装置に入れられ、苦しんでいる。 腕を組んで並んでいるファレルたち。 スポック:「隊員の見せしめには拷問※34が一番効果的です。」 近づくカーク。汗を流すチェコフ。 スポック:「彼は死刑にするんじゃなかったですか?」 カーク:「まだ決めてない。」 「…なるほど。しかし死刑が妥当です…」 「まだ決めてないんだ!」 「…それはあなたの御自由です。しかし、ハルカンに関してはどうするつもりです。やはり攻撃は差し控えますか?」 ファレルがついてくる。 「もう言ったはずだ。」 「しかしそりゃあ本艦隊の命令に背くものです。どうなるか御存知でしょうなあ。」 「…脅迫かね。」 「別に? そうじゃありません。事実を言ってるだけです。なるほどあなたは御立派な船長です。…我々の任務は船長のおかげで一つずつ、片づいてます。しかしここで心得違いをされちゃ、あたしが危険にさらされます。」 「……スポック。どうしてもハルカンを攻撃しろと言うのかね?」 「それが我が軍の威力を維持する最善の方策です。歴史の論理です。」 「征服しても思うとおりにはならないぞ? それも歴史の論理じゃないか?」 「船長。私は何もあんたに、反対したくはありませんが? これ以上命令違反を続け、我が軍の行動を妨害するならば…」 「私の責任でやってることだ。…私を敵に回せば、どうなるかわかってるな。」 「それはわかってます。しかしあたしを敵に回しても、おんなじことです。」 歩いていくスポックたち。 ファレル:「どうします。」 カーク:「チェコフを、部屋に監禁しておけ。」 「はい。」 スコットは保安部員に近づいた。素早く後ろから、マッコイがハイポスプレーを使う。 気を失う保安部員を、中に入れる 2人。 マッコイ:「6時間は眠るはずだ。」 スコットの後について階段を上る。 機関室の他のクルーに気づかれないように、スイッチを切っていくスコット。 下では多数のクルーが働いている。 カークは保安部員が守っている部屋に入った。 ベッドに誰か寝ている。 女性だ。「…おかえりなさい。…イオン嵐で大揺れに揺れて独りでとても怖かったわ。」 そのクルー、マルナ・モロー※35はフードスロットから 2つのグラスを取り出した。「あなたって強いのね。チェコフのこと聞いたわよ。」 カーク:「奴は私を狙ってきた。」 笑うモロー。「そうですってね。でもよくあの衛兵を振り切れたわ。」 カーク:「君が部下をよこしたんだろ?」 「…まだ本艦隊とのことが残ってるわ? …どうするつもり、私には見当もつかないけど。もちろん計画があるんでしょ? ここで鉱物資源を手に入れれば…あなたが司令官※36になれることは確実ね? …カーク? 大臣にまでなれるかもよ?」 「成功すればそれ以上だ。」 「ほんと? …じゃ、慎重にやることね。いつもそうだけどさ。私がシーザーの…」 キスするモロー。「女だったら、教えてくれてもいいんじゃない?」 口づけを続ける 2人。 呼び出し音が鳴った。応えるカーク。「カークだ。」 スポック:「スポックです、船長。」 部屋には、かぶとを被った置物がある。 カーク:『何だ。』 「いま本艦隊より、あたし個人に連絡がありました。これをお知らせすれば命令違反になりますが、まお話ししましょう。」 カーク:「何だ、言ってみろ。」 スポック:「いかなることがあっても後 4時間以内に目標に対して、砲撃させろとの命令です。」 カーク:「もし、私がしなければ?」 スポック:「その場合には、私があなたを殺し…本船の船長となってハルカンに対し、攻撃を開始します。」 |
※22: Wilson (ガース・ピルズベリー Garth Pillsbury TOS第74話 "The Cloud Minders" 「惑星アーダナのジーナイト作戦」の囚人 (Prisoner) 役) 名前は言及されていません。TOS第5話 "The Enemy Within" 「二人のカーク」でもウィルソンというクルーが登場しますが、別人です ※23: チェコフの手下その1&その2 Chekov's boy #1 & #2 (ボブ・バス Bob Bass TOS第24話 "Space Seed" 「宇宙の帝王」の保安部員 (Guard)、第25話 "This Side of Paradise" 「死の楽園」のクルーその2 (Crewman #2)、第27話 "Errand of Mercy" 「クリンゴン帝国の侵略」のクリンゴン人護衛 (Klingon Guard) 役) (ボブ・クラーク Bob Clark) どちらがどちらかは未確認。共にセリフなし ※24: Farrell (ピート・ケレット Pete Kellett 1982年8月に死去) クレジットでは「カークの部下 (Kirk's Henchman)」。声:DVD 補完では星野充昭、TNG ラフォージなど ※25: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です ※26: 男性の声で、カイル役のジョン・ウィンストンが兼任しています。吹き替えは DVD 補完では水鳥鉄夫と判明していますが、元々の担当も同じ方だと思われます ※27: 原語では "I'm a doctor, not an engineer." 「私は医者だ、エンジニアじゃない」 ※28: TOS "The Menagerie" など ※29: "I.S.S." は帝国宇宙船 (Imperial Star Ship) の略だと思われます。吹き替えでは「本船の指揮官」 ※30: Gorlan 吹き替えでは「宇宙間の革命に挑戦し、発生したる各暴動を弾圧」 ※31: Vega IX 吹き替えでは「惑星ヴェーガ」 ※32: 原語では「クレジット」 ※33: "Fascinating." ※34: 原語では「拷問ブース (agony booth)」。前にファレルがチェコフを運ぶ時も、「こいつはブース送りですか」と聞いています ※35: Marlena Moreau (バーバラ・ルナ Barbara Luna) 吹き替えでは「マルナ・モンロー」。声:沢田和子 ※36: この場合、司令部の提督といった意味だと思われます |
『航星日誌、宇宙暦不明。他の宇宙に浮かぶエンタープライズ※13に転送された我々は、あと 4時間以内に脱出しなければスポックによる死刑を免れることは不可能であった。』 カークの部屋。 モロー:「スポックに乾杯しましょ? 死を覚悟してあなたに秘密を教えたんですもの? …あんな人ほかにいないわ?」 カーク:「奴を殺させはしない。」 「じゃ時間までにハルカンを攻撃するつもり?」 「そうじゃないがスポックは殺さないよ。」 「じゃ、スポック一味を全部追い出すつもり?」 「…私が出ていくよ。」 「タンタロス・フィールド※37出しましょうか。…スポックを監視していたいでしょ?」 「……ああ。」 モローは壁の装置に触れた。上昇し、モニター画面が露わになる。 モロー:「見てちょうだい。」 カーク:「…悪くないね。」 「このおかげで、船長になれたんだもの。…これで何人ぐらい殺したかしら、あなたの邪魔者を。50人? 100人?」 笑うモロー。「それにしてもさすがあなたね。捕虜にした科学者を略奪した実験室で使って結局こういう物を作って、船長にまでなったんだもの。」 「誰でもチャンスは利用しなきゃならないさ。」 「さもなければ司令官にもなれないし。…大臣にもね?」 モローが起動させると、部屋にいるスポックが映った。 モロー:「スポックの素晴らしい精神力。でもこれには敵わないわ。」 そばにあるボタンに指を伸ばす。「ボタンを押せば、死んでしまう。やる?」 モローの腕をつかむカーク。モニターを切った。 モロー:「ふーん、やらないの。」 装置を戻す。「まあどうでもいいわ。彼命令通りにできなきゃ、死刑になる身だもの。」 カーク:「その処分だけは免れさせてやるよ。私の力で。」 「……本艦隊を全然恐れてないのね。…そんなに早く偉くなれる計画でもあるの? ねえ、私はどうなるの。ねえ教えて。シーザーの奥さんになれて?」 モローの髪に触れるカーク。「…君なら、なりたいものになれるさ。」 笑い、隣の部屋へ向かうモロー。 コミュニケーターを使うカーク。「スコッティ。」 機関室のスコット。「はい、スコッティです。」 カーク:「3時間以内に脱出しなきゃあならん。ハルカンを攻撃しなければ、私はスポックに殺されるんだ。」 スコット:「もっと早くしなければなりません。」 カーク:『どうして。』 「二つの宇宙の間にもうすぐ厚い磁場ができて、転送は不可能になります。だんだん厚くなっていますから早くしないと。」 カーク:「後どのくらい。」 スコット:「1時間半です。」 カーク:「その機を逃すと。」 スコット:『我々は、永遠に戻れなくなります。しかし、エンジンのパワーを転送室につなぐ準備はできています。従って、転送室をこっちのものにしなければなりません。あと 10分待って下さい。もう少し調整しますから。』 「わかった。10分後に転送室へ行き、その後で医務室で会おう。」 スコット:「はい。」 スポックは機械に触れた。「コンピューター。」 コンピューター:『回転。』 「機密部のコンピューターの活動状況を。」 『調査活動が、行われています。』 「誰が行っている。」 『船長と、ミスター・スコット。』 「……※38何の調査活動だ。」 『それは声紋によって、ロックされています。』 コンピューターに反応がある。 スポック:「…なぜ私の通信を盗聴している、ミスター・スールー。」 ブリッジのスールーは、コミュニケーターを持っている。「どこかでコンピューターが無断で使用されていたので、それをお知らせしようと。…艦隊本部からの指令を考えれば、予測できたことです。怪しいですよ、絶対。カーク船長が、脱走を企んでいるに違いありません。」 スポック:「お前には関係のないことだ。」 スールー:「余計な口出しをしました。成功を祈ってますよ。私にお鉢が回ってくるのは御免だ。ご存知の通り、船長の敵になった奴は姿を…消しますからねえ。」 スポック:「私が成功すれば、君が船長になる日も近くなるしな。…私は船長になる気などないが、もしそうなったとしても暗殺など企まぬ方が身のためだぞ。万が一私が死ねば、必ず復讐する。私の部下がね。」 ため息をつき、通信を切るスールー。 部屋から出てくるモロー。ドレスを着ている。「…私ってダメね。…腕が鈍ったのかしら。…お互いにそうかもね。土台、将校が女らしくするなんて…無理なのよ。あなたはそれが欲しいんでしょ?」 カーク:「女らしいよ、君は。ほかの女など、足元にも及ばない。」 「昔はよくそう言ってくれたわ。」 近づくカーク。「今も同じだ。」 モロー:「証拠を見せて。」 「…もう、行かなきゃ。」 「お仕事。やっぱり私に飽きてしまったのね。」 離れるカークに、笑うモロー。「じゃあ、私達おしまいね? ケナー中佐※39が自分の宇宙船へ来ないかって言ってくれてるの。…部下を呼んで荷造りするわ。」 「ゆくには及ばない。」 「…私に同情してくれるの? …同情されるなんて嫌よ! 惨めですもの。…それよか御願い、船長。転属させてちょうだい※40。ここにいたんじゃ恥をさらすだけよ。ほかの船ならまた相手を探せる。私には格があるわ。……そうでしょ?」 うなずくカーク。 モロー:「あなたを船長にしてあげた女ですもの。またいい将校を見つけて船長にしてあげるわ。」 カーク:「ご自由に。」 叩こうとするモローの手を取った。「まあ、待ちなさい。私を司令官にまで上げてくれないか。」 キスする二人。 モロー:「……こんな、キスしてくれたの…久しぶりね。ああ…あなたは別人なのね。ハルカンに慈悲深く、スポックにも、私にも。…私あなたの女なの?※41」 カーク:「…別れるまでは、船長の女だ。」 一度振り返り、部屋を出ていくカーク。 モローはタンタロス・フィールドを起動させ、ターボリフトに入るカークを見る。 連絡するカーク。「ウフーラ。」 密かにコミュニケーターを取り出すウフーラ。 ウフーラ:『はい、船長。』 カーク:「スコッティから、間もなく合図があるはずだ。わかってるな。」 『はい承知しております。』 「スールーの注意を、ボードから逸らせるんだぞ。」 『できるだけやります。』 「頼む、以上だ。」 スコットはジェフリーズ・チューブに入り、装置を設置した。コミュニケーターを起動する。 その合図を聞いていたウフーラ。 スールーに近づく。「あなたってあきらめが早すぎるんじゃない。そういうのって男女間のルールに反するわ? 怒るわよ、いつまでも私を放っておくと。押し方が、足りないのよ。」 抱き寄せるスールー。「やっとわかる女になったな。」 ウフーラ:「…私は、退屈でしょうがないの。」 「…そうか。」 ウフーラの首に口を近づけるスールー。 ウフーラ:「でも、今すぐってわけにはいかないわ?」 スールーのコンソールに反応がある。 スールー:「思い立った時にしなくちゃな。」 その反応が消えたことを確認し、ウフーラはスールーを突然平手打ちした。「あいにくだけど気が変わったわ。また。」 スールー:「人をバカにするのも、いい加減にしねえか!」 ナイフを向けるウフーラ。「あなたもそうでしょ? バカにしてるわ。」 クルーに命じる。「後を頼むわよ。」 ターボリフトに入るウフーラ。ニヤついていた保安部員は、スールーに対して姿勢を正した。 ウフーラの通信がスコットたちに聞こえる。『ミスター・スコット、これから医務室へ向かいます。』 マッコイ:「後は船長次第だ。」 転送コンソールを操作していたカーク。フェイザーを持ったスポックが来た。 スポック:「船長、監禁させてもらいます。」 ナイフを取り上げる。「何をしてます。」 カーク:「まだ、あれから 4時間は経っていないぞ。」 「一つ聞きたいことがあります。ハルカンから戻ってきて以来、船長、あんたの行動はいつもと違っています。わけを話して下さい。」 「撃ちたきゃ、撃ちたまえ。」 「それじゃあ聞くのはやめましょう。あなたは強情だし、言いたくないことは何をしても言わない。しかしドクター・マッコイは多分に弱さをもっている。センチメンタルで、ソフトだ。あなたが言わないことでも…彼なら言う。」 「身を滅ぼすことになるぞ。スポック…」 「フェイザーガンが、待ってますよ。あなたは邪魔者を何人も消してきたが、私に限ってそう簡単にはいきません。どうぞ医務室へ。さ行きましょう?」 医療室に入るスポック。「…やっぱりだ、上陸班がお揃いですねえ? 向こうへ行って下さい、ドクターは白状して下さい。」 スポックに殴りかかるカーク。だが簡単にかわされた。 スコットやマッコイも向かう。跳び蹴りするカーク。 ウフーラも当然歯が立たない。カークはウフーラから受け取った骨の標本で、スポックを殴った。 骨は粉々になり、やっとで気を失うスポック。 カーク:「後どのぐらいだ。」 スコット:「15分もしたら、我々はもう自分たちの宇宙には絶対に帰れなくなります。」 マッコイ:「診察台へ乗せてくれ。…早く手伝ってくれないか! 治療しないと死んでしまうぞ。」 スポックを運ぶ 3人。 カーク:「準備はできてるな、遅れると転送室へ誰か入られてしまうぞ。」 スコット:「準備は完了してます。ドクター早く! …我々の宇宙へ帰れなくなってしまう。」 治療するマッコイ。「大丈夫だよ。長くはかからん。」 全ての様子を監視しているモロー。 スコット:『あと 14分ですよ、もう行かなきゃ。』 マッコイ:『黙れ! 命を救うんだ。見殺しにはできない。』 カークは微笑む。 マッコイ:「一分で済むから。」 カーク:「まるで我々のスポックみたいだ。一分でやれ。」 無言で見ているモロー。 マッコイ:『すぐ気がつくはずだ。』 医療室にスールーたちがやってきた。保安部員※42が何人もついている。 カーク:「何だ、ミスター・スールー。」 スールー:「ミスター・スポックは、船長を殺すよう命令された。もし失敗すれば、明らかに…スポックの跡を継ぐのは私一人だ。覚悟してもらいたい。…どうやら今度は、私が船長になったようだ。」 ナイフをちらつかせる。 |
※37: Tantalus field タンタロスはギリシャ神話の登場人物で、息子を殺した残忍な王。吹き替えでは「マジックウインドウ」 ※38: カット版では画面が切り替わる前に、次のモローが入る際のドア開閉音が聞こえています ※39: Commander Kenner ※40: 吹き替えでは「転送してちょうだい」 ※41: 吹き替えでは「久しぶりね」の後、「ああ…初めてみたい。やっぱりあなたが、一番いいわ。本当よ。私あなたの女ね?」。ここでモローはカークが別人だと悟り、監視を始めたわけです ※42: スールーの手下 Sulu's boy (ジョニー・マンデル Johnny Mandell) 3人のうち誰かは不明。セリフなし |
どうすることもできないカーク。 その時、保安部員の一人が消滅した。 モローはモニターに次の保安部員を映し、ボタンを押す。 狙われたクルーが消えた。 もう一人も殺すモロー。 うろたえるスールー。 装置を切るモロー。 カークは独りになったスールーへ向かっていく。ナイフを叩き落とし、意識を失わせた。 スコット:「船長、あと 10分もありません。」 カーク:「どうだ。」 マッコイ:「もうすぐだ、待ってくれ。君たちは先に転送室へ行ってくれ、私は 5分で行く。」 「きっとだな。」 「間違いない。…さあ、行ってくれ。」 独り残り、スポックにハイポスプレーを打つマッコイ。スポックは目を開いた。 マッコイの腕をつかむ。「…どうして私を殺さないんです。」 スポックはベッドを降り、マッコイの顔に手を伸ばした。「我々の精神は合体します。もはや心は一つ。あなたが感じるものを感じ、あなたが知るものを知ります。」 精神融合されたマッコイは、目を開いたままになる。 転送室に、モローが待っていた。 スコットを押さえるカーク。「君。」 スコットに命じる。「スイッチを入れてくれ。命の恩人だ。タンタロス・フィールドを使ってくれたね。」 モロー:「…連れてって。」 「連れて? …残念だが、パワーは 4人を運ぶだけしかない。無理に 5人を転送すれば、全員が死ぬ。スコッティ。」 スコット:「作動してます。」 モロー:「でも 3人しかいないじゃない。」 カーク:「もう一人来るんだ。…できれば連れて行きたいが。」 モローはフェイザーを向けた。 カーク:「……我々を殺しても同じことだぞ。」 ウフーラは素早くモローに近づき、フェイザーとナイフを奪った。 カーク:「ドクター。」 外に出て確認する。「あと何分だ。」 スコット:「5分です。」 モロー:「私はどうなるの。」 「パワーが切れました。感づいたんです!」 カーク:「補助パワーは。」 「はい、使えます。」 「…回路につなげるか。」 「それは、できますけど。しかしその場合には自動操作が効きません。…手動ですから、ここに一人残って誰かがスイッチを入れてくれなければ。」 「我々の内の一人が。」 「私が残ります。」 「転送室へ入れ。ウフーラ大尉もだ。」 「船長※43。」 「…命令だ、スコッティ。」 「……はい、船長。」 モロー:「私は駄目?」 カーク:「ドクター。」 マッコイがスポックに連れられてきた。 スポック:「パワーを切ったのは私です。私が来るまで待ってもらおうと思ったのです。さあ。」 マッコイを解放し、コンソールにつく。「技術班、メイン転送回路にパワーを接続しろ。」 カーク:「君は、我々のスポックと瓜二つだな。」 「あなた方と交換に本当の船長を戻したいのです。私が操作しましょう、あと 2分10秒です。」 「それまで聞いてもらいたい。※44銀河中で反乱が起こるという、ハルカンの予測が現実となるのはいつだ。」 「約240年後です※45。」 「でその結果は。」 「我が国が負けると言っています。」 「だったら実に、無駄だよ。わかるかね。人命も資源も、君たちは無駄にしてるだけだ。言うなれば、やってることは論理的ではない。君は、それには耐えられんはずだ。君が一番嫌うのは、非論理的なことだ。」 「あと 1分と 23秒です。」 「負けるとはっきり予言されてる以上、戦いに参加することは論理的ではなかろう。」 「先のことはわかりませんよ。」 「だが現在のことはわかる。君は、この宇宙船の船長になりたまえ。そして君の権限で、戦争はやめて資源をよこすまで交渉するんだ。君にはそれだけの権限がある。」 転送台のスコット。「船長! 早く入って下さい。」 モローを見たカーク。「どうだスポック。」 スポック:「しかしそれには力の背景が必要です。」 「…私の部屋に、強力な武器が置いてある。」 眉を上げるスポック。「…本当ですか?」 カーク:「使いたまえ。この宇宙が、どうなるかは君次第だ。」 モローの手に触れ、転送台に乗った。 スポック:「時間です。」 カーク:「全ての戦いでは、賢い者がきっと勝つ。」 転送機を起動したスポック。「カーク船長。よく考えましょう。」 カークは微笑んだ。転送される 4人。 本来の転送室に実体化する。 微笑むカイル。全員元の姿に戻っている。 カーク:「スポック。」 スポック:「おかえりなさい、船長。」 ハルカンを離れるエンタープライズ。 カーク:「それにしても、もう一人のカーク船長が本物でないとよくわかったね。」 スポック:「あなたのように教養ある者が野蛮人の真似をするのは簡単です。しかし野蛮人が教養ある人の真似をするのは大変なことですよ。…恐らく船長が戻ったと同時に、向こうも帰ったでしょう。」 「そうだろうけど、あの船長は帰ってビックリするぞ? 向こうのスポックの変わり様を見てな?」 マッコイ:「…やっぱり、スポックにはひげがあった方がいいな。威厳があるし。もちろん船長ともなれば一層偉く見える。」 笑うカーク。「向こうのスポックを見てると、妙に我々のスポックまで心配になってきた。何せスポックは反逆精神が旺盛だ。」 スポック:「では言いますが、私ももう一人のカーク船長を先ほどまでによーく観察していましたが、あの男は粗野で反逆的で無教養で、あらゆる点で未開人みたいな感じでした。まるで原始人のようでしたよ? …船長にもああいう可能性があるのかと、思いやられました。※46」 「……私はけなされてるのかね。」 マッコイ:「らしいね。」 ブリッジにクルーが入った。モローだ。 目を見張るマッコイやスコット。 ボードを渡すモロー。「カーク船長。」 カーク:「…ん? …大尉、君の名は。」 モロー:「マルナ・モロー。…先週配属になったばかりです。」 うなずくカーク。「そうか、しっかりやってくれ。」※47 離れるモロー。 スポック:「前から知ってるんですか?」 カーク:「あ、どうしてだい。」 「表情から、そう見えましたが。違いますか?」 「あいやいや、いま初めて会った。本当だよ。しかし…可愛い娘じゃないか。我々は仲良く、なれそうだな? …友達としてさ。」 カークは立ち上がり、モローに近づいた。 |
※43: 原語では「ジム」と呼んでいます。シリーズを通じ、スコットがカークを名前で呼ぶのはこの一度だけだそうです ※44: このカットシーンの前後、LD では「君はこの宇宙船の船長になりたまえ」がダブっています (前の個所ではハルカンに関するセリフの代わりに挿入) ※45: 吹き替えでは、カーク「ハルカン人はいつからこの戦いを予言していた」 スポック「約240年前からです」。このハルカンの予測をカークがいつ知ったのか謎だという指摘がありますが、最初の方でライブラリーに行こうと言っていたので、その時かもしれません ※46: 原語では「あらゆる点でホモ・サピエンスの見事な典型でした、人類の見本です。非常に面白く感じました」。ホモ・サピエンスはもちろん現代の人類のこと ※47: このシーンは、TOS の映像を使った DS9第104話 "Trials and Tribble-ations" 「伝説の時空へ」で、唯一 TOS第42話 "The Trouble with Tribbles" 「新種クアドトリティケール」以外の場面が使われた個所です (最後にカークとシスコが直接話すシーン) |
感想など
後に DS9 で一つのシリーズものとして確立する、鏡像世界 (mirror universe) が導入されたエピソードです。平行宇宙という SF性と、いつもと異なった演技を観られるドラマ性が見事に融合しています。入れ替わった 4人の鏡像版は少ししか登場しませんが、拘束室の中でわめき散らす様は印象的ですね。カークは以前、"The Enemy Within" 「二人のカーク」でも別人格が登場しました。 剣に貫かれた地球のエンブレムなどは、DS9 でも引き継がれます。おへそを出したウフーラの制服は、当時としては過激なものだったようです。原題は「白雪姫」の「鏡よ、鏡」ですね。 |