クワークの店。
暗い中で話すクワーク。「それでは、ご承知の通り、支払いは全てラチナムでお願いいたします。またオークション品の返品には応じられません…。それでは皆さん奮って御参加を。※29」
ヴァッシュ:「お集まりの皆さん、最初の品は、このガンマ宇宙域の、ヴァラス※30星系からの彫像です。まずは、ヴァラス文明について少々御説明させていただきます。…ヴァラス文明は、約3万年前にその最盛期に達した文明でして、高度に発達した貿易と、通信ネットワークを通じて 24 の星系に広がりました。」 だが客が騒ぎ出す。「この彫像は、第19王朝の中心であったドラロックを象徴した物で…」
小声で話すクワーク。「ヴァッシュ、何をやってるんだ!」
ヴァッシュ:「彫像の歴史的な背景を説明してるのよ。」
「…いいから俺によこせ! ここはディストロム研究所じゃねえんだ。見てろよ? …皆さん。珍しいでしょう? しかもこの美しさ。加えてガンマ宇宙域のオリジナルです。それをあなたの手に入れる絶好のチャンス。それではラチナムの延べ棒、10本からスタートさせていただきます。10本の方?」 手を挙げる異星人たち。「15本。16本。17本の御方はいませんか、さあさあもう一声ですよ! ああ。」
モニターを見るオブライエン。「トリティアムのレベルが 100万の1%に達しました。」
ダックス:「センサー検索開始。」
オブライエンは状態を確認する。「ドッキングリングは除いていいです。」
ダックス:「トリティアムガスの流れは、中央コアへと向かってるようです。」
シスコ:「しかし中央コアのどこだ。」
オブライエン:「もっと、正確に読み取らせましょう。……もう一つはっきりしません。正確な位置が特定できるまでいかないんです。」
キラ:「現在の軌道から計算して…ワームホールまで後 18分です。」
シスコ:「何かがステーションをワームホールに引っ張っているんだ。…補助パワーを、ディフレクターへ回すだけの時間はあるか、チーフ。」
オブライエン:「今更そんなことをしても役に立ちません。ワームホールに飲み込まれたら、ガンマ宇宙域に着く頃にはステーションはバラバラになってます。」
「クソー!」
オークションを続けるクワーク。「落札。コロスさんが、ラチナムの延べ棒 36本で御買い上げになりました。…それでは次は…短剣です。鞘には美しい希少な宝石が散りばめられております。武器としても投資の対象としても一級品。」 いつの間にか、Q が店に来ていた。「それでは、40本からスタートします。40本。42本。…42本。45本。さあさあ皆さん、ためらっちゃダメですよ! 50本の方は? 50本、50本が出ました。」
Q:「欲に目がくらんでいる皆さんの御邪魔をするのは実に心苦しいが、お知らせしておいた方がいいと思いましてねえ? いや実は、このステーションはもうじき最期の時を迎えるんです。」 騒ぎ出す異星人たち。「せっかく購入した美術品を眺めて楽しむ暇はなさそうですね。言うことは言いました、さあ先をどうぞ?」
「ああ、皆さん大丈夫です。あの男に惑わされないで下さい。さあ、飲み物でもどうぞ? 加えて、全員を無料でホロスイートに御招待します…。」 話し続けるクワーク。
Q に近づくヴァッシュ。「あなたがこんなに恐ろしい人だったなんて、今の今まで知らなかったわ。私を懲らしめるために、全員殺すつもり?」
Q:「いや私は何も手を出さなくても、このステーションはもうすぐおしまいだよ。もちろん、君だけは助けてあげてもいい、頭を下げて頼めばね?」
「誰があなたなんかに頼むもんですか。」
「どうぞお好きに? …私はここで見物させてもらうよ。ステーションがワームホールでバラバラになるのを見るのは初めてでねえ?」
クワーク:「…よーし、私の従兄弟のストール※31が105本、落札!」 喜ぶフェレンギ人。
提案するキラ。「中央コアにもっとトリティアムガスを入れましょう。そうすればセンサーではっきりパワーの流れが読み取れるでしょ?」
オブライエン:「それはそうですが、トリティアム中毒で全員死んでしまいますよ。」
ダックス:「ちょっと待ってよ? この手があるわ、リアクターを作動させるのよ。」
「リアクターを? しかしまたパワーを吸い取られてしまいますよ。」
「でもパワーの量を増やしてやれば、センサーで感知できるほどの強さになるかも。」
キラ:「ワームホールへ向かうスピードまでアップしてしまう危険性もあるわ?」
シスコ:「しかしやってみるしかない。ステーションをフルパワーに戻してみてくれ、オブライエン。」
オブライエン:「…はい、司令官。」 明かりが戻る。
クワークの店も明るくなった。
クワーク:「落札。そちらのラル※32さんが、ラチナムの延べ棒 151本で御買い上げです。」 マスクの異星人だ。
箱を手にするクワーク。「では、いよいよ。…最後の品を御覧に入れましょう。これを一目ご覧になれば皆さんきっと…待った甲斐があったとお思いになるでしょう。」
石が見せられる。声が上がる。
クワーク:「それでは終わりは、ラチナムの延べ棒 200本から…始めさせていただきます。200本。250本の方。250本、どなたか300本は? 300本、ラチナムの延べ棒 300本。…350本は?」
コロス:「よし!」
「400本、400本。500本。」
異星人:「500本!」
「では 520本!」
コロスは片手の 6本の指を上げた。
驚くクワーク。「600本、ラチナムの延べ棒 600本です。」
チェックするダックス。「クロスオーバーブリッジにはありません。居住区にもないわ。ということは上部コアね。」
キラ:「あと 3分14秒でワームホールです。…スピードが加速してるわ?」
「ありました、パワーはプロムナードへ向かっています。」
シスコ:「チーフ、あとを頼む!」
コロスは叫んだ。「よーし、2,500本出そう。」
頭を抱えるクワーク。「ああ…。」
Q:「2,500本、プラス一本。」
Q を見る異星人たち。
ターボリフトを降りるシスコたち。
ダックスはトリコーダーで調べる。「こっちです。」
引き下がらないコロス。「ラチナムの延べ棒 3,000本だ、これ以上は出せない。」
クワーク:「何と 3,000本が出ました。」
Q:「100万本。」
「ひゃひゃ 100万本、ラチナムが 100万本…。」
ダックスが店に入る。「こっちです。」
クワーク:「ではよろしいですか、100万本で。」
キラ:「あの壇からだわ!」
ダックス:「これです!」
クワーク:「よろしいですね。」
シスコ:「オークションは中止だ。」
「落札!」
「チーフ、あったぞ。リアクターを止めろ。」
Q はつぶやいた。「しかしそろそろ孵化する頃だ。」
クワーク:「いくら司令官でも横取りはダメですよ、この品物は落札済みなんで。」
ダックス:「箱の中にはすさまじい重力子の蓄積があります。指数関数的に増えていくわ。早くステーションの外へ出さないと。」
シスコはコミュニケーターを外し、箱につけた。「チーフ、私の通信バッジにロックオンして、ドッキングリングの 500メートル外に転送しろ。」
クワーク:「延べ棒 100万本を。」
「転送しろ!」
転送される箱。
宇宙空間に実体化する。発光し始める。
シスコたちは窓に近づく。
箱は明るく輝き、巨大なエイ状の生物に変化した。
光り輝く生命体は、ワームホールへと入っていった。
見つめるヴァッシュ。
『ステーション日誌、宇宙暦 46532.3。孵化した生命体が飛び去った後、重力子のレベルは正常になり、ステーションもコントロールスラスターで定位置に戻った。』
クワークの店。
クワーク:「そうか、やっぱりディストロム研究所へ戻るのか。楽しみだろうねえ。長ったらしい講義に延々続くつまらない会議。毎日生意気な学生の相手をするのも疲れるぞ? せいぜいがんばんなよ。実はなあ…ああいいや。興味ないだろうしな。」
ヴァッシュ:「あら何よ。」
「…噂じゃな、タタラス5※33 でロケイ時代の州都の遺跡が発見されたらしいんだよ。その遺跡から出土した物をもし手に入れられれば…。」 店にいるダックスが話を聞いている。
「…そんな話はよして。私は地球に戻るの。」
「ああ、それがいいや。」
音と共に Q が現れた。「あんなつまらない星。」
ヴァッシュ:「タタラス5 が?」
「地球だよ、怒らないでくれよ。千年前は面白い星だった。十字軍に、スペインの宗教裁判、ウォーターゲート※34。ああ、今は何の刺激もない退屈な星だ。」
「それなら私について地球には来ないわね?」
「…タタラス5 の遺跡を見に行く方が楽しいと思うけどなあ?」
「あなたの指図は受けません。」
「ふーん。」
「まさか私が…。」
「そういえばラチナムの延べ棒 100万本はどうしてくれるんだい、肝心の商品に逃げられて。」
「うるさいわねえ。もう私に付きまとわないで。」
「後悔しても知らないよ?」
「いいの、独りで頑張ってみるわ?」
「わかったよ。そこまで言うんなら。君がいなくなると寂しい。私の目には星雲は塵の塊にしか見えない。でも君の目を通して宇宙を見ると全てが……輝いてる。…ほんとに寂しいよ。」
「…そりゃ私だってあなたがいなくなれば寂しいわよ?」
「うん? じゃいずれまた、君を迎えに行くよ。」
「いいえ、それだけはやめて。」
消える Q。
ヴァッシュはクワークの耳たぶをつかんだ。「ねえクワーク。…タタラス5 に行く宇宙船は?」
ヴァッシュの手を取り、キスするクワーク。2人で店を出て行く。入れ違いに来るモーン。
微笑むダックス。
あくびをしながらベシアがやってきた。「何日も眠ったみたいな気分ですよ。…何? …何かあったんですか?」
答えないダックス。ベシアは出ていく。
ダックスは、笑顔を浮かべたまま去った。
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※29: "Remember, bit high, and bid often." シカゴの故リチャード・J・デイリー市長が言った "Vote earty, vote often!" より
※30: Verath
※31: Stol この部分は訳出されていません。エキストラ
※32: 正確には「薄闇のラル (Rul the Obscure)」。エキストラ
※33: タタラス5号星 Tartaras V
※34: Watergate 吹き替えではなぜか「湾岸戦争」
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