ベイジョーの衛星デルナの周りに、多数のベイジョー船が集合している。
キラ:『艦長日誌、宇宙暦 52152.6。デルナ周辺を空域封鎖した。今のところ、突破しようとするロミュラン船はいない。』
キラはパッドを見た。「『燃える接吻※16』? ロマンス小説?」
オドー:「ふーん、それでも探偵ものです。気に入ると思いまして。」
「嬉しいけど、今読書に適当な時期とは言えないんじゃない?」
「そうかもしれませんが、あなたは待つのが大嫌いでしょ? マイク・ハマー※17だったら…イライラを解消してくれると思いましてね。」
「ふーん、どんな風に?」
「最高にタフな男だし、あなたと同じぐらい待つのが嫌いですから。」
「読む前から気に入った。」 笑う二人。
船内のベイジョー人※18が報告する。「中佐、ディープ・スペース・ナインから最優先の通信が入っています。ロス提督です。」
キラ:「つないで。」
ロス:『中佐、今ロミュランのウォーバードが 14隻、デルナ星へ向かってるそうだ。』
ロスの隣にいるクレタク議員※19。『医薬品を補給する必要があり、8時間後に到着します。』
キラ:「クレタク議員、ロミュランはいつからウォーバードを医薬品の輸送に使ってるんです?」
『着陸に問題はありませんね?』
「封鎖を突破すれば、無事着陸はできないでしょうね。」
ロス:『挑発では事態は収拾しない。衝突を起こすんじゃなく、避けたいんだと思っていたが?』
「ロミュランの戦艦も、あまり平和的じゃないと思いますよ?」
『私も好ましい状況とは思っていないが、この 2、3時間で何らかの妥協案を出さねばならない。でないとまた大勢死ぬことになる。』
「そちらでお好きなだけ妥協案を考えて下さい。とにかく…封鎖を突破しようとする船は、全て…攻撃対象ですから。」
クレタク:『中佐? 時代遅れの通常エンジンの船を寄せ集めて、ウォーバードに対抗できると本気で思っているんですか?』
「…それはそのうちわかることです。交信終了。」 映像が消える。「上手くやれた?」
オドー:「マイク・ハマーも脱帽です。」
クレタクは尋ねた。「ご心配ですか?」
ロス:「議員はどうです。」
「特には。中佐は勇敢ですが、馬鹿ではありません。あれはハッタリだわ。」
ロスはクレタクを見た。
ジョセフとジェイクがやってきた。
必死に砂を掘るシスコ。
ジェイク:「こっち。影がある。」 二人は座った。
エズリは荷物からパックを渡した。「お水。」
ジェイク:「ああ。」
口にするジョセフ。「ああ…ああ。」
ジェイク:「ゆっくりね。」
声を聞くシスコ。『ドクター・ワイコフ、隔離病棟 4号室へ。ドクター・ワイコフ、隔離病棟 4号室へ。』
シスコ:「早く行きゃいい。」
エズリ:「何?」
「ドクター・ワイコフさ。隔離病棟へ呼ばれてるんだ。」
「…あなた本当にどうかしてるわ。」
マートクは尋ねた。「俺はどうなんだ、ウォーフ。俺も一緒に来ない方がよかったのか?」
ウォーフ:「いえ、そんなことは言っていません。あなたは違います。クリンゴン人ですし、ジャッジアはマートク家の一員だった。」
「だが彼らもジャッジアの友人だ。同席が彼女の名誉となる。」
話しながらブリッジに戻るクワーク。「冗談じゃないねえ。朝飯にガフ※20、昼飯にガフ、晩飯にガフ。いくらクリンゴンのメニューでも、もっとバリエーションが必要だろう。」
一緒に戻ったオブライエン。「ガフに文句があるのは構わんさ。だが食堂に座って 10人以上のクリンゴンに囲まれてる時に言うのはやめてくれ。」
クワーク:「はいはい、わかりましたよ。」
ベシア:「頼む。」
「だけどクリンゴンも何人かはうなずいてる奴がいたぜえ。」
ベシアはウォーフが近づいていることに気づいた。「待った。ウォーフ、さっきの食堂の件聞いて怒ってるなら…」
ウォーフ:「いや、何も聞いていない。」
クワーク:「じゃ何だ? また嫌みの一つも思いついたか?」
オブライエンとベシアは、クワークを見る。
ウォーフ:「君らに謝罪したい。」
オブライエンとベシアは、ウォーフを見た。
クワーク:「聞いてやる。」
ウォーフ:「ジャッジアが大事な友人だったのはわかってる。逆も同じだ。…二人でその日の出来事をよく話したが、君らのことをしょっちゅう楽しげに話してた。クワークの企みの数々を延々と事細かに聞かされたこともあった。いつも君らの話が出た。…ジャッジアと私が二人だけの時でも、まるで…君らが一緒にいるようだった。」
「なるほど、ひがんでたわけか。嫉妬してたんだな。」
ベシア:「クワーク、黙っててくれよ! 頼むから!」
ウォーフ:「ジャッジアは私の妻で、パーマッカイだった。彼女の愛情を独占しておきたかった。」
オブライエン:「だから俺たちには来て欲しくなかったのか。自分一人でジャッジアをスト・ヴォ・コーへ送りたかったんだな。」
うなずくウォーフ。「私が妻にしてやれる、最期の行為だ。」
クワークはウォーフに近づいた。「それで?」
ウォーフ:「それ以上言うことはない。…ただ、君らが来てくれてよかった。」 持ち場に戻る。
オブライエン:「ウォーフが人に謝るの聞いたの初めてだぞ。」
クワーク:「あんたは単純でいいなあ。俺はもっと衝撃的な話を…期待してた。」
ベシア:「例えばどんな。」
「だからだなあ、ジャッジアが寝言で俺の名前を呼んだだとか、あとは…子供に俺の名前をつけたがったとか。」
マートク:「チーフ。モナック造船所だ。」
スクリーンに、惑星軌道上にあるドミニオンの巨大な造船所※21がいくつも映し出された。
オブライエン:「壮観だな。」
マートク:「ターゲットをスクリーンへ。」
恒星が映される。
クワークは見つめた。「こいつにどこまで近づくってんだよう。」
笑うマートク。「限界までだ。」
ウォーフ:「望むところです。」
砂を掘るシスコ。
スコップが何かに当たった音がした。音に気づいたジョセフ。
エズリも見つめている。
ジェイクが近づいた。「父さん、あった? 見つけたの?」
シスコ:「下がってろ。」 発光体の箱が出てきた。「選ばれし者の、発光体だ。」
エズリ:「…どうするつもり?」
「開けるのさ。」
呼びかける声を聞くシスコ。『ラッセルさん。』
シスコは、鉛筆を手にしていた。
また呼びかけ。『ラッセルさん、それを置いて。』
エズリ:「ベンジャミン、どうかしたの? ベンジャミン?」
壁に書かれたたくさんの文章。鉛筆を持った男。
同じ声が聞こえる。「鉛筆を置いて下さい。」
ベニー・ラッセル※22は病室にいた。
医者のワイコフ※23は言った。「置くんです、ラッセルさん。」
ラッセル:「でも話を書き終わってないんだ。シスコが選ばれし者の発光体を見つけた。でもまだ箱を開けていない。」
|
※16: 燃える接吻 (くちづけ) Kiss Me, Deadly 1952年に出版。ミッキー・スピレイン(Mickey Spillane) 作。邦訳はハヤカワ文庫から発売
※17: Mike Hammer
※18: ベイジョー人クルー Bajoran crewman (Cuanhtemoc Sanchez) 声:土田大
※19: Senator Cretak (ミーガン・コール Megan Cole) 声:定岡小百合
※20: gagh クリンゴンの料理。TNG第34話 "A Matter of Honor" 「錯綜した美学」など
※21: この造船所は、Star Trek: The Magazine 2001年11月号 P.78〜81 で特集されています
※22: Benny Russell 1950年代の SF作家。DS9第137話 "Far Beyond the Stars" 「夢、遥かなる地にて」より
※23: Dr. Wykoff (ケイシー・ビッグス Casey Biggs) =ダマール 声:古田信幸
|