※1ベシアとエズリが談笑している。
その様子を遠くから見ているクワーク。「全くもって胸くそ悪い野郎だあ。舐めるように彼女を見やがって。ムカツくぜ。あの手つき!」
オドーはクワークがエズリたちのことを話しているのに気づいた。「手がどうしたんだ。」
クワーク:「嫌らしいんだよ。逮捕してくれ。」
「無茶言うな。」
「奴も哀れだな。…エズリはこの俺を愛してる。」
「彼女がお前のことをか? はっきり言って私にはそう思えないね。」
「ありがとよ、オドー。」
ロム※2が駆け込んできた。「兄貴! マミーがね、グランド・ネーガスのゼクが消えちゃったって言うんだよ。」
クワーク:「消えたってどういうことだ。」
「ゼクはママに、新しい市場を開拓するというメモを残して出かけたらしい。」
「さすがネーガス。」
「5日で戻ると言ったのに、もう 12日も音沙汰なし。」
「…そんなに?」
オドー:「よくあることなのか?」
ロム:「こんなに長くは。旅行のことを誰も聞いてないんだ。ゼクは事故に遭ったか死んだのかも。何とかしなきゃ大変だ!」
クワーク:「ライサに寄ってるかもしれんぞ。ちょいと息抜きをしてるのさ。」
「ライサ? ゴージャスな女性たちがいる星だろ? マミーがいるのに?」
「…お前最近のマミーを見たか? 寄る年波には勝てん。」
「でも…」
「心配するなって、ゼクのことはほっといても大丈夫だって。今に戻る。」
「本当に?」
「じゃあな、ロム。…あばよ。」
店を出て行くロム。
クワークはベシアたちがいなくなっているのに気づいた。「あれ、エズリは?」
オドー:「ああ、彼女なら一緒に出ていったぞ、ベシアと。」
「一緒に?」
「ああ、2人で仲良くお手々つないでな。」
「……そうか。」
クワークは、金色をしたフェレンギ人の胸像の前で祈っている。「聖なる金庫※3様、貪欲は永遠なり。ささやかなる献金ではありますが、耳をおっぴろげて…どうか哀れな私の願いをお聞き届け下さい。今後もラチナムをたんまりもった客がドンドン店に集まるよう、商売繁盛をお願いします。…もちろん、ダボも下手な客がいい。…それから、ついでにもう一つ。」 ラチナムを像の耳に入れる。「ドクター・ベシアを何とかして下さい。うーん、暴力はいけませんが、しばらく顔を見なくて済むよう、上手くお取りはからいを。ヘ…ああ…それから、もう一つだけ。」 もう一枚入れた。「あ…実は…3ヶ月前から愛しのエズリにアタックしているんですが、ちっとも進展しません。…何とか、お力添えをお願いします。」
ドアチャイムが鳴った。クワークは像を隠す。何度も鳴らされるチャイム。
クワーク:「どうぞ!」
そこにいたのはエズリだった。だが制服も着ておらず、いつもと雰囲気が違う。
クワーク:「エズリ。」
エズリは突然クワークの腕をつかみ、後ろに回った。「ほかに誰かいる?」
痛みに声をあげるクワーク。「俺たちだけさ。」
無理矢理歩かせるエズリ。「そっちは寝室か?」
クワーク:「嬉しいねえ。初めてなんだから優しくしてよ。」
エズリは持っていたナイフをクワークのあごに近づけた。驚くクワーク。
エズリ:「何勘違いしてるか知らないけど、よく考えな。」
クワーク:「どういうこと? これ、新しいセラピーのつもりかい? 子供の頃の体験でも話そうか?」
「ふざけるな。」
「よかった。だって、将来の話がいい。ダックス、ダックス…君は俺にとって最高に魅力的な女だ。ああ…本当さ。」
「私はダックスじゃない。」
「おお…わかったぞ。その格好にナイフ、攻撃的態度はホロプログラムか。俺はシュマン※4だ。」
「シュマン?」
「ああ、君のことはトゥラナ※5と呼ぼう。『ヴァルカン愛の奴隷』※6 3巻のヒロイン。」
「あんた、ややこしい男だねえ。」
「ああ。」
ナイフを離すエズリ。「…ゼクはあんたを頼りにしてるようだけど、期待できそうもないね。」
クワーク:「ゼク? 何でゼクが関係ある。」
エズリはアイソリニアロッドを取り出した。「これを観ればわかる。」
再生される映像には、ゼク※7が現れた。『やあ、クワーク。わしだ。お前のグランド・ネーガスじゃ。わしが今どこにいるかわかるか?』
クワーク:「ライサですか?」
なぜかゼクの話がつながる。『馬鹿言え、よく考えてみろ。わしは平行世界におるんだ。なぜわしがここにいるか…』 話し続ける。
クワーク:「君はダックスじゃない。あっち側の人間か。」
エズリ:「やっとおわかり?」
「そうか…。」
ゼク:『…つまりだ、ちょいと面倒に巻き込まれた。わしは同盟軍の捕虜にされてしまったんじゃ。自由の身になるにはお前の力が必要だ。お前が船を消す遮蔽装置を持ってこなければ、わしは永遠に帰れないんじゃ。連中は装置をもっていない。前もってそれを知っておればよかったんだがなあ。』 エズリはため息をつく。『そしたらこんな目に遭わずに済んだし、その上いい商売ができて、一石二鳥だった。』 クワークもため息をつく。『とにかくだ、わしの運命はお前の手にかかっておる。遮蔽装置が必要だ、すぐに持ってきてくれ。わしにはお前しか頼る者がおらん。頼みを聞いてくれたらわしは終生お前に感謝し続けるじゃろう。それからイシュカに必ず伝えておくれ、愛しているとな。頼んだぞ。』 手を挙げるゼク。映像は終わった。
クワーク:「まさかこんなことに。」
エズリ:「3日以内に装置を用意しろ。」
「そんな無理だよう。ああ…遮蔽装置はそう簡単に手に入るものじゃない。」
「手に入れてもらう。」
「できなかったら?」
「爺さんは殺される。」
「ああ…。」
|
※1: 冒頭に "In memory of Jerome Bixby" (Jerome Bixby を追悼して) と表示されます。Bixby は、鏡像世界が初登場した TOS第39話 "Mirror, Mirror" 「イオン嵐の恐怖」の脚本を担当した方です。その他第66話 "Day of the Dove" 「宇宙の怪! 怒りを喰う!?」、第76話 "Requiem for Methuselah" 「6200歳の恋」の脚本、および第50話 "By Any Other Name" 「宇宙300年の旅」の原案・脚色も担当しています。1998年4月28日に 75歳でお亡くなりになりました
※2: Rom (マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第160話 "It's Only a Paper Moon" 「ペーパームーンに抱れて−戦争の影パートII」以来の登場。声:田原アルノ
※3: Blessed Exchequer フェレンギ神話において、死後の世界 (聖なる宝物殿) を統括する会計士。DS9第79話 "Little Green Men" 「フェレンギ人囚わる」より
※4: Shmun
※5: T'lana
※6: "Vulcan Love Slave" ロマンチックな小説。DS9第107話 "The Ascent" 「あの頂を目指せ」など
※7: Zek (ウォーレス・ショウン Wallace Shawn) DS9第147話 "Profit and Lace" 「グランド・ネーガスは永遠に」以来の登場。声:田の中勇
|