イントロダクション
※1クワークの店で、オドーはエズリに話す。「あなたのガフが届いてましたよ?」 エズリ:「ガフ? …嘘でしょ?」 「本当です。第2貨物室へ取りに行って下さい。」 キラ:「あなたのガフ?」 エズリ:「ジャッジアが頼んでたの。来週マートクのバースデーパーティを開こうとしてたのよ。」 「どのくらい頼んでたわけ?」 オドー:「全部で 51ケース。」 エズリ:「ケースごとに全部種類が違うの。」 キラ:「ガフに種類なんかあるの?」 「あるわよ? 今でも全種類の味を覚えてる。それを飲む時の…感じも。トーガド・ガフ※2はニョロニョロ。フェルデン・ガフ※3はクネクネ。ムシュット・ガフ※4はハネる。」 咳き込むエズリ。 考え事をしていたベシアは、エズリの様子に気づいた。「ん? 大丈夫かい。」 微笑むキラ。「あなたこそ大丈夫?」 ベシア:「僕?」 「ずーっと黙ってるじゃない。悩みでもあるの?」 「いや、そうじゃない。ただ…マイルズを待ちきれないだけだ。」 「わかった。ホロスイートの予約をしてるんでしょ。またアラモ砦を守るの?」 「…よくわかってるんだな。」 「輸送船はいつ戻るの?」 「30分後。」 落ち着いたエズリ。「ビソール・ガフ※5には足があるの。エアロックから捨てて、全部。」 オドー:「うーん、それは環境規則に違反しますので。」 キラ:「マートクにあげちゃえばいいじゃない。」 エズリ:「きっと名誉を重んじて私に分けてくれるわ。」 納得するキラ。 エズリ:「ウェスタン・ガフ※6はターグの血に浸かってパックされてる。もう行かなくちゃ。後でね。」 席を立つ。 ベシア:「僕ももう行くとするよ。」 オドー:「サンタ・アナによろしくお伝え下さい。」 DS9 に輸送船がドッキングした。 士官たちが降りてくる。「後でホロスイートを予約しない?」「とっても素敵なプログラムを見つけたの。」「やあ、久しぶり。」 ベシアはオブライエンが来ないか待っている。 会話しながら歩いていく人々。「何か食べよう。」「そうね。」「ディープ・スペース・ナインへ来るのは久しぶりだよ。いろいろ案内してくれ。」「ええ、喜んで。行きましょう。」「そうだなあ。」「まっすぐです。」 結局、オブライエンは来ずにエアロックのドアは閉まった。 パッドをテーブルに叩きつけるシスコ。「何?」 ベシア:「マイルズには口止めされてたんですが、もう 3日も連絡がつかないんです。今朝も戻ってきませんでした。何かあったんじゃないでしょうか。」 「私には父親を訪ねると言っていたぞ。」 「そうほのめかしたのかもしれませんが、明言はしてないはずです。」 「ドクター、やめたまえ。」 「すいません。」 「どこへ行ったんだね。」 「彼からの最後のメッセージでは、まだニューシドニー※7にいて、ある女性を追っていると言っていました。」 「フン! 彼は探偵じゃない、機関部員だ。私の機関部チーフだ。それが行方不明だと?」 「そうです。」 「それで、彼が追っている女性は、誰なんだ。」 「リアム・ビルビー※8の未亡人です。」 「ビルビー? ビルビー…去年の秘密調査で、彼が親しくなった男か。」 「そうです。マイルズは彼の死に責任を感じてて、奥さんとはずっと連絡を取ってました。それが 3週間前にぷっつりと途絶えてしまい、心配して探しに行ったんです。」 「そしてチーフまで消えてしまったわけか。」 「言っておきますが、彼は正式に捜索を要請した。しかしニューシドニー当局は協力的ではなくて、連邦には加盟していないため、艦隊も口は出せない。」 「だから自分が警察に代わって探しに行ったんだな?」 「そうです。」 「…ニューシドニーは、確かサッポラ星系※9だったな。」 「ええ。」 「…その女性について知ってることを全てレポートにまとめてくれ。オブライエンの現地での行動や、そのほか私に報告を怠った全てもだ。」 「了解。どうされるおつもりで。」 「君は知らんでいい。1時間以内にレポートをデスクの上に置いておけ。」 司令官室を出るシスコ。ベシアもため息をつき、外に出る。 エズリの部屋。 シスコ:「君の家族はサッポラ星系にいると聞いてたんで、ニューシドニーとつながりがないかと思ってね。」 エズリ:「あると思います。母は星系でもトップクラスの経営者ですから。」 「ああ、確か星域※10中で 5番目に大きな、ペルジウム※11鉱山を所有している社長さんだったな。」 「今は 6番目ですけれど。フェレンギ人が 5年前に、ティモール2号星※12で鉱山を見つけて。ベスト5 から落ちた母は、心臓麻痺を起こす寸前でした。」 「かけてくれ。お母さんに警察と連絡を取ってもらって、チーフを探してもらえないかな。」 「ええ、もちろんです。」 「今日初めてほっとする答えが聞けたよ。」 エズリの表情に気づくシスコ。「どうかしたのか。」 「別に。でも…どうかしら。ああ…母とは、半年近くも話してないんです。」 「ほう。」 「最後に会ったのは、ホストになった直後でした。トリル星に会いに来てくれた。私はまだ少し…混乱してて、母がそばに来た時、満面の笑みを浮かべてこう言ったんです。『ハーイ、ママ。私よ…クルゾン。』 その日からずっと気まずくて。」 「きっと君の状況はわかってくれてるさ。共生は青天の霹靂だ。混乱したって誰も責められんよ。」 「でも母には、わからないの。とにかくうちに帰って休めって言うんです。それが元で、また大げんか。」 「けんかは初めてじゃないだろ?」 「そうです、それはそうなんですけれど。」 「…ほかに方法があるんなら、君に頼んだりはしない。」 「いいの。わかってます。私の家族の問題よりチーフの方が大切です。すぐに母に連絡します。」 「悪いな。」 「大丈夫。」 出ていくシスコ。エズリはため息をついた。 コンソールにトリル人の女性が映っている。『みんな心配してたのよ?』 エズリの母親、ヤーナス※13だ。 エズリ:「もう大丈夫。本当に。自分が誰なのかこの前よりずっとよくわかってるわ。」 『それはよかった。あなたをクルゾンとは呼びたくないもの。』 笑うエズリ。「ああ…母さん。私昇進したの。」 ヤーナス:『そう。』 「改めまして、エズリ・ダックス中尉です。よろしく。」 『エズリ・ダックス?』 「共生生物の名前が新しいホストの名字になるの。習慣なのよ。」 『わかってるわ。トリルでのことは忘れてない。うまくやってるようで、何よりだわ。』 「…実は力を貸して欲しいことがあるの。うちの士官の一人、マイルズ・オブライエンが 3週間前に、ニューシドニーに行ったっきり行方不明なのよ。それでシスコ大佐がもしよかったら…」 『もちろん力になるわ。』 「…ありがとう。」 『それより、いつ帰ってくるの?』 「いつ休めるかわからないのよ。」 『エズリ? あなたもう 3年もうちに帰ってないのよ?』 「わかってる。でも今は戦争中で忙しくて。」 『エズリ・ティーガン※14…ダックス。司令官にこう伝えてちょうだい。あなたの母親はとても気難しい女で、あなたをすぐにうちに帰さない限り、協力はできないと言ってると。』 「母さん、無理よ。お願いだからそんなこと…」 『エズリ。さようなら。戻ったらうちで会いましょう。』 通信を終えるヤーナス。エズリの表情は険しい。 |
※1: このエピソードは、1999年度エミー賞の美術監督賞にノミネートされました ※2: torgud gagh ※3: filden gagh ※4: meshta gagh ※5: bithool gagh ※6: wistan gagh ※7: New Sydney DS9第139話 "Honor Among Thieves" 「非情の捜査線」より ※8: Liam Bilby オリオン・シンジケートの下級メンバー。DS9 "Honor Among Thieves" に登場。ファーストネームは初言及 ※9: Sappora System ※10: 「星系」と誤訳。Sector=星域の中に多数あるのが System=星系 ※11: pergium 多くの惑星で生命維持装置の動力源として利用される鉱物。TOS第26話 "The Devil in the Dark" 「地底怪獣ホルタ」など ※12: Timor II ※13: ヤーナス・ティーガン Yanas Tigan (リー・テイラー・ヤング Leigh Taylor-Young ライアン・オニールの元妻) 名前は言及されていません。声:寺内よりえ ※14: Tigan エズリの「旧姓」。初言及 |
本編
ベシアはハイポスプレーを渡した。「はい。宇宙酔いになったら 20ミリグラム。飲まないと後悔する。」 エズリ:「周りにも悪いしね。」 次はパッドを渡すベシア。「ビルビーと奥さんの情報が全て入ってる。」 エズリ:「レポートできた?」 「それも入ってる。大佐に踏みつけられて、靴の跡もついてる。」 「心配ない。私が戻るまでに機嫌も直るって。」 「そう願うよ。」 2人はエアロックの前に来た。他の士官たちが乗り込んでいく。 エズリはため息をつく。 ベシア:「親と縁遠い人生を送る僕が、こんなこと言っても説得力ないけど、気持ちはわかるよ。」 エズリ:「新しいエズリが家族と上手くいくかどうか、前のエズリも…家族と上手くいってなかったけどね。でもありがとう、ジュリアン。何かわかったらすぐに連絡するわ。」 「気をつけて行けよ。」 エズリはエアロックに入った。 サッポラ星系の惑星に到着したランナバウト。 大規模なペルジウム鉱山のそばに、一際目立つ建物がある。 広間にやってきたエズリ。誰もいない。 一人の男がやってきた。「姉さん※15!」 エズリ:「ノーヴォ※16!」 抱き合い、笑う二人。 ノーヴォ:「本当にここにいるなんて信じられない。」 「…私もよ。」 「髪切ったんだ。」 「ああ…そうなの。目に入ってうるさいから。似合う?」 「まだ慣れないけど。」 「私が戻ってきた理由は聞いてるわよね? …あれ、あなたの絵?」 壁に風景画がある。 「母さんが飾っとけってうるさいんだ。僕は気に入ってない。」 「どうして。」 「構成は幼稚で工夫は見られないし、色は子供のおもちゃみたいだ。テクニックに到っては笑っちゃう。」 「じゃあ、それ以外は?」 「完璧。」 笑う二人。 もう一人のトリル人が入る。「おかえり、我が妹。」 作業服を着ている。 エズリ:「ハイ、ジャネル※17。」 ジャネル:「ハグする前にシャワーを浴びた方がいいかい?」 エズリはジャネルと抱き合った。「久しぶり。」 ジャネル:「ほんとに。これどうした。」 エズリの前髪に触れる。 ノーヴォ:「切ったんだって。目が強調されて、前より素敵に見えるよ。」 「可愛いよ。母さんもすぐ来る。先にお前の友達の報告書を渡しとけって。」 エズリ:「何かわかったのかしら。」 「まだだ。」 三人は隣の部屋に入る。 ジャネル:「だが手がかりがあったらしい。」 パッドを渡す。「母さんも忙しいんだ。感謝しろよ? ニューシドニー警察にだっていろいろ頼んでた。」 エズリ:「もちろん感謝してるわ。」 ノーヴォ:「どのくらいいるの?」 「まだわかんない。」 ジャネル:「用が済んだら一分だっていやしないさ。わかってるだろ。」 「今は戦争のまっただ中なのよ? 自分の仕事に責任があるの。」 「時間は作るもんだ。」 ヤーナスも部屋に入った。「ああ!」 エズリ:「ただいま。」 「何その髪型。」 笑い、手を広げて娘と抱き合うヤーナス。「ああ。食事は?」 「まだだけど。」 「よかった。ごちそう作ろうと思って、コーレラ※18を買ってあるの。それで、ローキン※19の件は?」 ジャネル:「連絡を取ってるところです。」 「夕食までに出ていってもらって。」 「わかりました。」 「ノーヴォ? 頼んでおいた第3四半期の見直しは?」 ノーヴォ:「今やってます。」 「もう 1週間経つわよ。」 「総収入の計算を間違えちゃって、今やり直してる。」 「簿記の仕事が嫌いなのはわかってるけど、早く済ませて。いいわね?」 うなずくノーヴォを見るヤーナス。「よろしい。新しくサンルームを作ったの、案内するわ。タイルは全部アンドリアから取り寄せたのよ? 旅行中に素敵な老紳士に会ってね、全部その人の手書きなの…」 エズリと共に、部屋を後にした。 ジャネルは通信を行う。「ローキンをメインハウスへ呼んでくれ。」 『ただいま。』 ノーヴォ:「ローキンを首にするの?」 ジャネル:「14-3A の導波管を修理するのに、一日 1,000ラチナム・バーもかかるんだ。…母さんはメンテナンスを怠ったからだと思ってる。」 「兄さんは?」 「新品の導波管が、そう簡単に壊れたりしない。」 「それって、ボカー※20の仕業ってこと?」 「俺たち宛てのメッセージだろう。オリオン・シンジケート※21には逆らうなっていう。」 「母さんに言った方がいい。」 「だめだ。ボカーのことは俺に任せろ。」 「でも兄さん。」 「大丈夫だって。…何もかもうまくいくさ。」 部屋を出るジャネル。 |
※15: 原語では「ジー (Zee)」と、愛称で呼んでいます ※16: ノーヴォ・ティーガン Norvo Tigan (Kevin Rahm) 声:土田大 ※17: ジャネル・ティーガン Janel Tigan (Mikael Salazar) 声:土方優人 ※18: Korella ※19: Lorkin ※20: Bokar ※21: Orion Syndicate アルファ宇宙域を基盤とする、強大な犯罪組織。DS9第107話 "The Ascent" 「あの頂を目指せ」など |
夜の鉱山。 家族と食事しているエズリ。「ジャッジアはキラを親友だと思ってたんだけど、最近…私も同じように思い始めてて、いつも一緒にいるの。」 ジャネル:「そのキラって人に戸惑いはなかったのか? 新しいダックスを受け入れるのに。」 「そりゃあ、ほかのみんなとおんなじよ。誰だってまさか新しいダックスが現れるとは思ってなかったんじゃない?」 ノーヴォ:「うん、ほかの人たちは姉さんを…」 勝手に話に割り込むヤーナス。「あなたがデスティニー※22に乗船してた頃、親しくしてた青年がいたでしょう? 確か中尉さんだったわよねえ。」 さえぎられたノーヴォは続きを話さず、ため息をつく。 エズリ:「ブリナー・フィノック※23。」 「そうそう。」 「少尉よ? ホストになってから一度話してはみたんだけど…でも、もう前みたいには上手くいかないってわかったの。彼を見てると息子のグラン※24を思い出しちゃって、何だか落ち着かないのよ。」 兄たちの様子に気づくエズリ。「…ごめん、オードリッド※25の息子のこと。…まだ、たまにごっちゃになっちゃって。」 ノーヴォ:「ホストはみんな同じ思いをしたんだろうね。」 「いいえ、私だけよ。昔から不器用だから。コンピューターから名前を聞かれることがあるんだけど、いつも何て言おうか迷うの。それどころか朝目が覚めると、自分が男なのか女なのかわからない日もあるの。」 笑わないヤーナスを見るエズリ。「元々脈絡のない話をする癖もあったし。」 ヤーナス:「気にしないで? あなたのせいじゃないわ。共生生物を受け入れるには訓練が必要なのに、あなたがトリル人※26だからって突然ダックスにするなんてフェアーじゃないわ。ちょっと想像しただけでも大変だってわかるわよ。8人の人生の記憶と経験を区別するなんて。」 「時々きちんと整理できることもあるんだけど。」 「そうね。でも心配しないで? 私たちがついてる。そうでしょ?」 ノーヴォ:「そうだよ、姉さん。」 ジャネル:「その通りだ。」 エズリ:「嬉しいわ。でも何とか上手くやっていけると思う。」 ヤーナス:「エズリ? たまには周りの人間に甘えてみたら?」 キャンバスやオブジェが散らかった部屋。ドアチャイムが鳴る。 ノーヴォ:「どうぞ、姉さん。」 エズリが入る。「何で私ってわかったの?」 ノーヴォ:「チャイムを鳴らしたろ?」 散らかった部屋を見るエズリ。「…うーん、昔のまま全然変わってない。」 ノーヴォ:「どうぞ。…座って。」 「あなたの作品は?」 「下手くそなの全部。」 「何で自分の作品をそんなにけなすわけ?」 「本当のことを言ってるだけさ。ど素人の作品だよ。読めばわかる。」 壁を指さすノーヴォ。「ソーリアン・ブランデー※27は?」 「飲むわ。」 ノーヴォが指した、壁のパッドを手に取るエズリ。 ノーヴォはグラスを手に取る。「ちょっと、汚れてる。」 パッドを読むエズリ。「構わないわ。…あなたこれを気にしてたのね…」 エズリの言葉をさえぎり、ノーヴォはグラスを差し出す。「我が姉上様に。…暗黒の空に、輝く天使へ。」 二人は乾杯した。 エズリ:「確かにアンドリア・アカデミー※28に落ちたかもしれない。でもあなたの才能とは関係ないわ。ほかにも学校はあるでしょ?」 「ここが一番。」 「だから何? あきらめちゃだめよ。」 「…僕には才能がないんだよ。ずっとそうだった。ここにある作品はただの趣味さ。詩や音楽が好きなのと一緒だよ。とても、専念はできない。すぐに気が散るし、この程度の腕じゃ合格は無理だよ。」 「母さんにそう言われたのね? ……私も同じことを言われたもの。母さんは私のことも、あなたのこともわかってない。」 「僕は現実がわかってよかったと思ってる。ほかの仕事もあるし。」 「仕事って? 帳簿づけ? ノーヴォ、もっと自分の才能を生かして。」 無言のノーヴォ。 エズリ:「…悩ませるつもりはないわ。私はあなたの才能を信じてるって言いたいだけよ。」 ノーヴォ:「わかってる、ありがとう。」 キスするエズリ。「おやすみ。」 ノーヴォ:「おやすみ。」 独りになったノーヴォは、またソーリアン・ブランデーを口にした。 ヤーナスのオフィス。 ヤーナス:「さぞ満足でしょうね。今日はもうノーヴォに会った?」 エズリ:「いいえ?」 「会いに行った方がいいわ。二日酔いでベッドに転がってる。今朝起きたらリビングで酔いつぶれてるあの子を見つけたの。これがあの子が夜中にやってたことよ。」 壁から外されたノーヴォの絵には、子供のような落書きがしてあった。 思わず微笑むエズリ。 ヤーナス:「何かおかしい?」 エズリ:「…だってそれ、私のせいだって思ってるんでしょ? あの子は幸せじゃないのよ、それがわからない?」 「何てこと言うの。」 「自分が描いた絵を台無しにしたのよ? あの子が嫌だって言うのに、母さんが飾り続けてた。」 「私はあの子を励ましたかっただけだわ。」 「母さんがノーヴォをがんじがらめにして、才能を奪ってる。」 「一晩しかこの家で過ごしていないのに、あなたに家族のことがわかるっていうの? あなたにはあの子はわからない。あの子は誰かがついててやらないとだめな、もろい子なの。」 「ノーヴォは立派な大人よ、自由にしてあげなきゃ窒息してしまうわ。」 「あなた私に母親としての姿勢を説こうって言うの? 子育ての何たるかも知らないくせに。」 「私には 3回、いえ…4回子供を育てた人生の記憶があるわ。」 「私は 30年以上もあなたたち 3人の子供のために人生を犠牲にしてきたのよ…」 ドアチャイムが鳴る。「後にして。」 構わず中に入るジャネル。「話し中すみません。実は…」 異星人の警官※29に連れてこられた男は、怪我をしていた。 エズリ:「マイルズ!」 オブライエン:「エズリ、何でここに。」 「あ…ここは私の家族の家なの。ああ…母よ。」 ヤーナス:「お会いできて光栄ですわ。それは?」 警官:「あまり友好的ではなかったもので。」 手錠を外す。 オブライエン:「…あんたもな。」 ジャネル:「私は 20-4B へ行ってきます。ドリルの調子が悪いので。」 出ていく。 エズリ:「あなたが殴ったの?」 警官:「あごの一発だけです。後はオリオン・シンジケートの連中が。」 「…ビルビーの奥さんは見つかったの?」 オブライエン:「ああ、見つかった。…死んでたよ。」 |
※22: U.S.S.デスティニー U.S.S. Destiny 連邦宇宙艦。DS9第152話 "Shadows and Symbols" 「預言者の呪縛」など。「デスティニー号」と吹き替え ※23: Brinner Finok ※24: Gran ※25: オードリッド・ダックス Audrid Dax エモニーの後にあたる、共生生物ダックスの 4番目のホスト (女性)。DS9第71話 "Facets" 「クルゾンの秘密」より。同エピソードのジャンタラの儀式では、クワークが担当 ※26: 吹き替えでは「トリル族」 ※27: Saurian brandy アルコール飲料。TNG第174話 "Bloodlines" 「怨讐の彼方に」など ※28: Andorian Academy ※29: (Clayton Landey) 名前は Fuchida ですが、言及されていません。後に登場するもう一人の警官 (エキストラ) も同じ種族であることから、いわばサッパラ人かニューシドニー人かもしれません。声:宗矢樹頼 |
オブライエンは飲み物を受け取る。「ありがとう。DNA 鑑定で、モリカ※30の遺体だと確認された。死後 6週間は経ってる。」 エズリ:「なぜ死んだか心当たりは?」 警官:「ありません。」 オブライエン:「オリオン・シンジケートが関わってるんだ。」 「そんな証拠はどこにもない! …単なる事故かもしれません。」 「フン。そうだな、うっかり自分の頭を殴りつけ、自分で川へ飛び込んだんだろう。」 「川から上がる死体は月に 10人。その全てに、オリオンが絡んでいると?」 「彼女と同じ死に方ならな。あんたが来なけりゃ殺しの証拠を見つけられてたよ。」 「私が行かなければ、君は確実に死んでいた。母上から連絡を受けた時、既に艦隊のスパイがシンジケートへ潜入するという情報が入ってたんです。すぐにその人物があなたの友人だとわかりました。我々が見つけた時、彼はノーシカンに殴られていた。」 「俺を脅そうとした。」 エズリ:「どうして?」 「それだ。どうして俺を脅したか。モリカ・ビルビーの死体を見つけたからだ。自分たちの罪がばれるのを恐れたんだろう。」 警官:「シンジケートは仲間の女房を殺したりはしない。彼らは仲間とその家族への忠誠心によって、集団としての結束を保ってるんです。」 「ロクな忠誠心じゃないんだろう。」 「うーん。……ミセス・ティーガン。ほかに力になれることがあれば、いつでもご連絡を。」 ヤーナス:「ありがとうございます。」 出ていく警官。 ヤーナス:「エズリ? ミスター・オブライエンを客間へお連れして、着替えとお食事を差し上げたら?」 オブライエン:「感謝します。」 エズリに続いて部屋を後にする。 着替えたオブライエン。「そのチップ※31が決め手になった。彼女を見つけるまで、3時間も岸を探したよ。川の中にいたんで遺体の一部が腐敗していたが、彼女だった。」 エズリ:「残念だわ、チーフ。もっと役に立ててたらと思う。」 「…だったら大佐への報告で俺を弁護してくれよ。」 「相当大変だろうとは思うけど、やってみるわ。」 ジャネルと共にヤーナスがやってきた。「ミスター・オブライエン? ご気分はいかが?」 オブライエン:「すっかり、良くなりました。1週間分食べましたよ。」 「よかったわ。あなたは技師だと聞いてますけど。」 「…そうです。」 ジャネル:「鉱山技師ではないでしょう。」 ヤーナス:「音速ドリル※32の調子が悪いんですけど、うちのスタッフには誰も直せる者がいないんです。どこが悪いのか、ちょっとあなたに見て頂けないものかと思いまして。」 エズリ:「今? 少し休ませてあげてよ。」 「どのくらい休養が必要かしら?」 笑うオブライエン。「気分はもうすっかり治ってます。」 ヤーナス:「ありがとう。夕食で会いましょう。」 さっさと出ていった。 エズリ:「…ごめんなさいね、チーフ。母っていつもああなのよ。」 オブライエン:「いいんだ。…俺で役に立てるなら、恩返ししてくるよ。行こう。」 ジャネルが案内する。 絵やオブジェが壊されたノーヴォの部屋に、エズリが入る。 ノーヴォはベッドで寝ていた。「おはよう。」 エズリ:「もうお昼過ぎよ?」 「そう。……ああ…母さんにまたどやされちゃうな。」 「大丈夫。あなたはまだしばらく安全よ? 今はジャネルと、マイルズを拷問中。」 「マイルズ? ああ、彼見つかったの。」 「無事にね。」 「よかった。よかったね、姉さん。じゃあもう帰るの。」 「まだ帰らない。あなたの話をしましょう? 何で夕べあんなことをしたのか、教えてくれない?」 「教えろったって、酔って絵を批評したくなったのさ。」 「今後悔してる?」 「いや、別に…どうせ好きじゃなかったし。」 「……それで? 今どんな気分?」 「ああ、そうだなあ。姉さんに精神分析されんのは嫌って気分。」 「ごめん。これが仕事なの。」 「別に何も…複雑なことなんかないんだ。ただ、自分が可哀想になって、かんしゃくを起こして欲求不満を解消しただけ。」 「わかったわ、ドクター・ノーヴォ。それがあなたの診断なら、治療法は?」 「自殺は母さんが怒るな。カーペットが血だらけになる。」 「笑えないわ。」 「酔いつぶれるしかないだろう。」 「ノーヴォ? 明日私と一緒にここを出ない?」 「何それ。」 「私と一緒にディープ・スペース・ナインに行ってみるのよ。」 「母さんが正気を失う。」 「母さんのことは忘れて。」 「そんな簡単に、出て行けないよ。」 「別に、ずっと帰るなとは言ってない。休暇だと思えばいいのよ。一度うちのことを忘れて、頭をすっきりさせたら?」 「でも、全部ジャネルに押しつけるわけにはいかない。」 「ジャネルなら大丈夫。」 「そう簡単に言うなよ。今複雑な問題を抱えてるんだから。」 「どんな?」 「…会社関係のこと。」 「気持ちはわかるけど、あなたがこの会社を経営してるわけじゃないのよ? 心配ならあなたの代わりを雇わせればいい。」 「どうかなあ、姉さん。」 「考えといて?」 うなずくノーヴォ。 作業が続く鉱山の中。 ヘルメットを被ったオブライエン。「やっぱり、二次入力トランステイターが原因だ。」 ジャネル:「トランステイターに異常はない。」 「ああ、だろうな。だがこのドリル用のトランステイターじゃない。」 部品を取り出すオブライエン。 「何?」 「ここにあるのは 2J、これは 2L だ。」 「2J と書いてあった。」 「でもこれは、明らかに 2『L』だ。ラベルを貼り間違えたんだろう。」 「わざとかもしれん。」 男の声が響く。「またドリルの故障か。」 異星人がやってきた。「ミスター・ローキンを辞めさせなければ、こうはならなかった。」 ジャネル:「彼は母の命令で解雇したんだ。」 「では母上の気を変える方法を探さなければ。……新しい技師かね? ジャネル。」 「ミスター・オブライエン。妹の友人だ。」 「もしかして、チーフをやってるのか?」 オブライエン:「何で知ってるんだ?」 「ニューシドニー警察に友人がいてね。最近宇宙艦隊のオブライエンというチーフを、危険から救ったと聞いたもんだから。」 「…俺だ。それで君の名前は。」 「サーディアル・ボカー※33。商品の仲介をしている。高名なティーガン・ファミリーと取り引きをさせて頂きたいと思ってねえ。」 ジャネル:「ちょっと失礼します、チーフ。ミスター・ボカーとビジネスの話がありますので。ありがとう、すぐにトランステイターは取り替えます。」 オブライエン:「それがいい。」 ボカーは出ていくオブライエンを睨みつけた。 ジャネル:「うちのドリルをいくら壊したって、もう二度とオリオン・シンジケートと取り引きする気はないぞ。」 ボカー:「それはまた後で話し合おう。その前に話し合うべきことがある。オブライエンは宇宙艦隊の情報部だ。」 「いや、それは違う。妹とディープ・スペース・ナインで働いてる。」 「そうやって見せかけているのかもしれん。奴はなぜシンジケートに潜り込もうとしたと思う。」 「ある女を探してたからだ。」 「『ある女』? その女の名前を知ってるか?」 「いや?」 「私は知ってる。彼女の名は、モリカ・ビルビーだ。」 「……何?」 「もちろん、私はもうモリカ・ビルビーとは連絡を取っていない。死んだという噂も聞いたが、真相は知るよしもない。とにかくオブライエンがここを去った方がいいことは確かだ、今すぐ。彼に何か起きる前に。」 歩いていくボカー。 |
※30: モリカ・ビルビー Morica Bilby ※31: この場合の tip は「情報、助言」という意味だと思われますが…。chip かと思いました ※32: transsonic drill ※33: Thadial Bokar (ジョン・パラゴン John Paragon) DS9第139話 "Honor Among Thieves" 「非情の捜査線」に登場したオリオン・シンジケートのメンバー、レイマスやフリスと同じ種族のように見えます。声:楠見尚己 |
ジャネルは尋ねた。「じゃあ、今日は発たないのか。」 オブライエン:「恐らくね。エズリ次第だよ。」 「どうして。」 「私の上官だからね。彼女に従う。…まだ、大佐に会う心構えができてない。相当お冠らしいからな。」 「客に構ってる時じゃないんだ。いろいろ忙しくて、早く帰ってもらえると助かる。」 部屋を去るジャネル。 入れ違いにエズリが来る。 オブライエン:「兄さんが早く帰れとさ。」 エズリ:「気にしないで? ストレスが溜まってるのよ。」 「…サーディアル・ボカーっていう男を知ってるか? 商品の仲介業者らしい。」 「知らない。会社のことにはできるだけ首を突っ込まないようにしてるから。…どうして?」 「…ドリルを見てる時、彼がジャネルに話をしに来た。彼を見てると、どうもオリオン・シンジケートの連中と重なって見えるんだ。民間人と接する時の態度がね。」 「その人がシンジケートの一員だって言うの?」 「感じるだけさ。かなり強くね。」 「ジャネルに言わなきゃ。」 「彼は知ってると思う。…確固たる証拠は、どこにもないんだが、でも…ジャネルはシンジケートに圧力を受けてるようだ。彼は今、急な機具の故障や原因不明の…事故を経験してる。シンジケートはそうやって金を要求するんだ。『取り引きをしろ、じゃなきゃぶっ潰す。』」 「…ジャネルは簡単に脅しに屈するような人じゃない。まして母は、シンジケートと取り引きするぐらいなら、会社を焼いてしまうわ。」 「探ってみるしかない。…会社の財務記録にアクセスできるか?」 鉱山の中。 ヤーナス:「ディープ・スペース・ナインで何をするつもり?」 ノーヴォ:「休暇を過ごすんだ。頭を冷やす。」 「何のために冷やすの。」 「わからない。」 「じゃどうして休暇がいるの?」 「別にいるってわけじゃないけど…しばらくエズリと過ごすのもいいかなって。」 「今だって過ごしてるじゃない、そうでしょ?」 「そうだけど。」 ジャネルがやってきた。「5 ベータの準備ができました。」 ヤーナス:「すぐに行くわ。ノーヴォ、今あなたに休暇なんて取られたら困るのよ。大忙しなんだから。帳簿の見直しは?」 ノーヴォ:「もう少し。」 「じゃ早く終わらせて。」 「…わかったよ。」 ジャネルに話すヤーナス。「行きましょう。」 コンピューターに情報が表示されている。 パッドを見ているエズリ。「これだから会社には首を突っ込みたくないのよ。契約書に送り帳、バランスシートに注文書。…フェレンギ人の悪夢の中に迷い込んだみたい。」 コンソールを操作していたオブライエンは、エズリを見つめた。 エズリ:「何? ……何なの?」 オブライエン:「わからない。どういうことだ?」 「何が?」 「君は俺を探しに来たのか、真実を隠しに来たのか。」 「何を言ってるのかさっぱりわからない。はっきり言ってよ、チーフ。」 「オリオン・シンジケートと君の家族の仲介役は、モリカ・ビルビーだ。彼女は死んだ時この会社に雇われてた。君は知ってたのか?」 「まさか、知るわけないじゃない。」 「家族の誰かは知ってた。だが俺たちには知られたくなかったんだろう。」 「あなた、もしかして…」 「別に疑ってるわけじゃない。だが君の家族がモリカの死に関わったという…可能性も捨て切れん。」 |
オブライエンはコンピューター画面を指さす。「これだ。9ヶ月前、モリカ・ビルビーは輸送顧問として会社に雇われている。」 エズリ:「手当として一週間にラチナム・バー 5本? 何の手当よ。」 コンソールを操作する。「明細がないわ。会社のために何をしてたか、どこにも書いてない。」 「何にせよ、随分と優秀だったようだ。一週間の給料が、バー 10、20、30本と増えてる。」 「最後に支払われたのは 6週間前。」 「殺害の前日だ。……人事責任者は?」 「母よ…名目上はね。でも事実上はジャネルに任せっきり。帳簿はノーヴォがつけてるわ。モリカの雇用は誰が知っててもおかしくない。全員知ってたかも。」 「とにかくこれを、ニューシドニー当局に見せた方がいい。」 「待って。その前に私が調べるわ。…これは命令よ。」 「…了解。」 広間。 ヤーナス:「なぜその女性を雇ったの?」 ジャネル:「…頼みを聞いてもらった礼だよ。」 「誰への。」 「オリオン・シンジケートさ。」 「ふーん、彼らに何を『頼んだ』のかしら。」 「…フェレンギ人がティモール2号星に鉱山を開いて、ペルジウムの価値が 10ポイント下がったろ。あれが最後のとどめだった。あの頃うちの会社は借金がかさみ、返済が滞ってた。そこへジェムハダーの襲撃に遭い、ライジェル4号星※34の精製所に届く前の船荷を全て破壊されてしまった!」 エズリ:「それでシンジケートを頼ったの?」 「奴らが来たんだ。援助を申し出てきたから、それを受けた。当然のことをしたまでだ。母さんだって一晩で金の問題が解決したのに、何も聞かなかったじゃないか。」 ヤーナス:「あなたを信じてたからよ。明らかに間違いだったようだけど。」 エズリ:「モリカのことは?」 ジャネル:「…ボカーが借金の片をつけてくれた 1週間後、奴は俺に礼をする番だと言ってきた。ある女を名目上うちの社員にして、給料だけ払ってやって欲しいと言うんだ。その女は奴らの死んだ仲間の女房で、面倒を見なくちゃならないらしかった。…とても断れる立場にないと思ったんだよ。だから言われた通り、給料を払い始めた。ノーヴォは俺が頼んだ通りのやり方で、実に巧妙に帳簿を書き換えてくれたよ。」 ヤーナス:「弟までそんなことに巻き込んでたの。」 「母さん、会社より大切なものはないと言ってたのはあなたじゃないか! 俺はその言葉を守って会社を救ったんだ。あなたが放ってよこしたから、俺が救った。今更文句をつけないでくれ。俺がいなかったらとっくに潰れてた。」 「自分のしたことを正当化しないで!」 エズリ:「ねえ、ちょっと待って! 誰が会社を救ったかは後で話しましょう? 今はモリカに何が起きたのかを話し合うべきだわ。…帳簿によれば彼女の給料はどんどん上がってる。どうして?」 ジャネル:「最初の額では満足しなかったんだ。シンジケートは快適な暮らしを保証したのに、この額ではそれはできないと言ってきた。」 「どうして死んだの?」 「…俺が知るかよ。」 ヤーナス:「ジャネル? もしあなたが何か関わっているのなら、今ここで全部話しなさい。」 「何言ってるんだい、母さん。俺が殺したって言うのか?」 「それを聞いてるの!」 黙っていたノーヴォは口を開いた。「母さん、兄さんは殺してないよ。」 ヤーナス:「あなたは黙ってらっしゃい。…聞いて、ジャネル。必要ならニューシドニーで最高の弁護士をつけてあげる。だから本当のことを言って。」 ジャネル:「俺は彼女を殺してない。」 「そんなこと信じられると思う? 信じられるわけないじゃない。あなたにお金の無心をしてた女性が都合良く死んでしまうなんて。」 ノーヴォ:「どうして信じないの、兄さんは殺してない!」 ジャネル:「彼女の死体を見たって、涙も出てこないかもしれない。でも殺してはいないよ。」 エズリはノーヴォを見た。 ヤーナス:「じゃ、誰が。」 ジャネル:「警察は事故の可能性もあるって言ってたろ…」 口論を続ける二人。 エズリ:「ノーヴォ。あなたはモリカの件と無関係よね。」 ノーヴォ:「…僕はうちの落ちこぼれだ。当たり前だろ?」 「モリカの死とは何の関係もないって言って。」 エズリの言葉に、話をやめるヤーナス。 ノーヴォ:「…説得しようとしたんだ。でも急にひどく怒り出して、シンジケートにも、僕らにも。挙げ句の果てに死を選んだ旦那にまで。……殺そうと思って会ったわけじゃない、本当だよ。でも僕の話を聞くどころか、こう言ってきたんだ。うちの家族はシンジケートと同じくらい悪どい、僕らは大嘘つきの詐欺師だって。その瞬間、突然思ったんだ。彼女が死んだら……僕らの問題はなくなるって。」 エズリは泣いていた。 ヤーナス:「ノーヴォ、何てことを…。」 立ち上がるノーヴォ。「……僕が始末してあげた。」 ヤーナス:「ああ…」 「いつも言ってたろ? 僕は弱虫で、困難に勝てないって。それは違う。僕は証明した、母さんたちが解決できない問題を…僕が解決したんだ。」 皆無言になった。 ニューシドニー警察に連れて行かれるノーヴォ。 ジャネル:「…そろそろ…50-3C の鉱山をチェックしに行かなくちゃ。…新しい鉱山を開くかどうか…結論を出さないとならないんだ。」 エズリ:「兄さん。鉱山のことは忘れて。今は関係ない。それよりよく聞いて? ノーヴォの裁判が終わったら、ここを出た方がいい。」 「出てどこへ。」 「どこでもいいわ、好きな所へ。自分自身の人生を探すの。きっと今より、幸せになれる。」 キスするエズリ。広間を後にする。 ヤーナスはオフィスで泣いていた。 エズリが入る。「……ノーヴォは連行された。」 ヤーナスは振り向こうともしない。 エズリ:「…もうしばらくニューシドニー※35に残って、ノーヴォの裁判が終わったらディープ・スペース・ナインに戻ります。」 まだ無言のヤーナス。エズリは出ていこうとする。 その時、ヤーナスが振り返った。「私のせいじゃないわよね、エズリ!」 エズリは向き直るが、目を合わせようとしない。 ヤーナスは再び尋ねた。「私の責任じゃないでしょ?」 エズリは何も言わず、ヤーナスを見つめた。そのまま出ていく。 独り残されるヤーナス。 DS9。 レプリマットにいるエズリに、オブライエンが気づいた。「お邪魔かな?」 首を振るエズリの前に座る。「いつ戻った?」 エズリ:「夕べ。…懲役 30年の判決が出たわ。」 「…残念だと言いたいが…犯した罪に比べたらいい方だ。」 うなずくエズリ。「あなたがそう言う気持ちはわかる。でもあなたは弟を知らないわ。すごく才能に恵まれた子なの。あの子にはたくさんの可能性があった。私たちはいつも思ってたわ、ノーヴォは…きっと成功するって。なのにまさか…あの子が、こんな一生を送るなんて。……私はただずっと自分があの家を出ることばかり考えて過ごしてた。中で起きてることには目をふさいでたの。ノーヴォは独りで耐えた。終わりのない屈辱に、絶え間なく浴びせられる批判に。そして心が散り散りに切り裂かれてしまった。早く気づいて、救ってやるべきだった。」 オブライエン:「自分を責めるのはよせ。君の責任じゃないだろう。」 「でも責めずにはいられないわ。…もっと早く帰るべきだった。」 エズリは立ち去った。 |
※34: リゲル4号星 Rigel IV 惑星。TOS第36話 "Wolf in the Fold" 「惑星アルギリスの殺人鬼」など。この部分は訳出されていません ※35: 「ここ」と訳されていますが、ヤーナスの鉱山のある惑星とニューシドニーは、どちらもサッポラ星系にある別の場所です |
感想
エズリの家族と、以前のオリオン・シンジケート話を一つにしたエピソードです。ジャッジアでさえほとんど触れられなかった家族のことを取り上げたのは、やはり最終シーズンでしか登場しないエズリのキャラクター性を深めるためでしょうか。 DS9 ならではのシンジケートものであることも、(「設定」好きの私としては) レギュラーの家族を扱うことも良いのですが、ストーリーがやや難解になっているのが残念です。誰が何を知っていて、何を知らないかがゴチャゴチャになってしまいます。 放蕩息子ならぬ放蕩娘というタイトルから想像されるような、「結局家族と仲直り」とはならないのは良かったです。もちろんそれ自体は良くないことですが…レギュラーの家族を殺人者にしてしまうとは…。昨今の子育てを知らない親に見せたい内容かも。 特に最近の DS9 では、ヴォイジャーなどと違って新しい惑星などが出ることがあまりないため、エミー賞にもノミネートされた風景やセットは新鮮でした。ティーガン家の広間は、ヴィックのラウンジを改装したものだそうです。 |
第160話 "It's Only a Paper Moon" 「ペーパームーンに抱れて−戦争の影パートII」 | 第162話 "The Emperor's New Cloak" 「平行世界に消えたゼク」 |