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TOS エピソードガイド
第7話「魔の宇宙病」
The Naked Time

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・イントロダクション
※1※2エンタープライズ。
『航星日誌※3。我々は今、惑星サイ2000※4 の周回軌道にある。かつて栄光の文明に栄えたこの星は、今や凍りついて滅びようとしているのだ。星の崩壊作用の観察に来ている科学班を収容するのが、我々の任務である。』
一面が氷の惑星。巨大な雪山が見える。
凍りついた部屋の中央には、動かない人物がいた。
転送されてくる 2人は、赤い防護服※5を着ている。肩にはトリコーダー※6
装置を使うスポック。「生命維持装置をチェックしろ。」
部下のジョー・トーモレン※7。「はい。」 奥へ向かう。
スポックは、近くでも女性が死んでいるのに気づいた。
戻ってきたトーモレン。「全てスイッチが切られています。」
スポック:「誰かに絞め殺されたな。」
「後の 4人は向こうです。」
「どうだ。」
「死んでます。」
「持ち場についてか?」
「突然凍ったような感じですね。」
「後は。」
「あのう、自分で御覧になった方がいいでしょう。一人は服のままシャワーを浴びている格好です。」
向かうスポック。トーモレンは装置を取り出した。
鼻がかゆくなったらしく、手袋を外して遺体の上に置く。ヘルメットの中に手を入れて、かいた。
台を調べる。
その時、台に付着していた赤いしみの一部が、垂れてきてトーモレンの手にかかった。
手を振り、臭いを嗅ぐトーモレン。だがそのまま手袋をした。
スポックは戻ってきた。「皮膚を外気にさらさないように注意しろ。」 トーモレンが手袋を外したことには気づいていない。「スポックからエンタープライズへ、どうぞ。」
カーク:『こちらカーク。』
「科学班員は全員死亡してます。」
『原因は何だ。』
「全く不明です。我々の知識や経験では判断できません。」


※1: このエピソードは、1967年度のヒューゴー賞にノミネートされました。なお同年受賞したのは、第16話 "The Menagerie" 「タロス星の幻怪人」でした

※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 見えざる破壊者」収録「はだかの時間」になります

※3: 原語では宇宙暦を言っていませんが、吹き替えでは「宇宙暦 0401.5250」

※4: Psi 2000

※5: エンサイクロペディアでは環境スーツ (environmental suit) の項目で紹介されていますが、図には防護服 (protective garment) とあります。シャワーカーテンで製作。ちなみにヘルメットの下は空いており、防護できているようには思えませんが…

※6: tricorder
初登場ですが、使用シーンはありません。Wah Chang デザイン

※7: Joe Tormolen
(スチュワート・モス Stewart Moss TOS第50話 "By Any Other Name" 「宇宙300年の旅」のハナール (Hanar) 役) 姓は訳出されていません。原語ではジョーイ (Joey) と呼びかけている個所があります。声:納谷六朗、TOS 第1シーズン代役/VOY スールー、TNG レミック、DS9 初代ウェイユンなど

・本編
サイ2000 軌道上のエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 1704.2※8。収容する予定の科学班は全員死亡し、生命維持装置のスイッチが切られていた。我々には理解できない不思議な状態である。このため私は当分軌道に留まり、この星の崩壊作用を観察することを決意した。』
スクリーンに映る惑星。

転送機を操作するスコット。スポックとトーモレンが転送されてくる。
台を降りようとするトーモレンを止めるスポック。「私の連絡は受けただろうな。」
スコット:「はい。消毒します。」
転送台で光が明滅する。

呼び出しに応えるカーク。「船長だ。」

スコット:「スポックとジョーが帰還しました。現在、転送ルームで消毒を行っています。」

カーク:「健康診断も受けさせろ。私は 10分後に直接診療室へ行く。以上。」

トーモレンの状態を確認するマッコイ。「よろしい、君は異常なしだ。」
ベッドを降りるトーモレンは、スポック同様黒いシャツ姿だ。
マッコイ:「ミスター・スポック。…脈拍は 242※9 と桁外れだが、血圧は全然ないと言っていいくらいだねえ。君の身体には、青い血が流れているとしか思えんよ、これでは※10。」
スポック:「私の脈と血圧はそれで普通なんです。身体の組織は、あなたたちと違っているのが私の自慢ですよ。」
トーモレンは、液体がついた右手を左腕でさすっている。カークが来た。
スポック:「船長。」
カーク:「どうだ。」
マッコイ:「異常なしだ。」
トーモレン:「ひどかったですよ、可哀想に。みんなつい今まで生きてたみたいな格好で。みんな死ぬのが平気だったんでしょうか。どうして我々は…」
カーク:「どうして好きこのんでこんなところへ来なければいけないのか。みんなそれを考えては、ため息をついてるんだ。」 微笑む。
笑うトーモレン。
カーク:「どう思うかね、下で何があったんだろうミスター・スポック。」
制服を着るスポック。「見当もつきませんね。現場で判断できませんでしたが、テープを見れば何かつかめるかもしれません。」
トーモレン:「…6人もだ。6人も死んだんですよ!」
カーク:「少し休養しろ。」
「はい。」
「早速問題のテープをかけてくれ、手がかりを探してみよう。」 スポックと出ていくカーク。
クリップボードを渡す、クリスチン・チャペル※11看護婦。「研究室の報告です。」
マッコイ:「ああ、どうもありがとう。」
トーモレンはまだ手をさすっている。手を、見つめた。

命じるスポック。「よし、次のテープ。」
ランド※12:「スペクトル分析テープです。」
「頼む。」
凍った部屋の様子が、会議室のモニターに映し出される。
カーク:「…毒薬でも飲まされたような感じだなあ。エンジニアは持ち場に座ったままで女性は絞め殺され、もう一人はフェイザーガンを持ったままの格好だ。」
スポック:「コンピュータールームを、娯楽室と間違えているようですね。」
「それに服のままシャワーを浴びて、凍っているのがいる。とても正気の沙汰とは思えない。」 映像は終わった。「全く想像もつかないかね。」
マッコイ:「毒薬関係じゃないことは確かだよ。テープを分析した結果、それははっきり出てる。」
スポック:「我々の知らない新しい宇宙病じゃないでしょうか。それにしても何か病原があるはずなのに、スペクトル分析では放射能も異常物質も一切存在しないと出ています。」
スコット:「トリコーダーでは、記録できないものですかねえ。」
「機械は、我々にわかってるものしか記録できないからねえ。宇宙には、未知のものがあふれてて当然だ。」
カーク:「この惑星の崩壊作用を細かく観察するのが我々の任務だが、そのためには周回軌道をギリギリまで低くしなければならない。問題は、科学班を全滅させた何ものかが、果たして我々にも危険な影響を与えるかどうかだ。」
「…いずれにしろ、観察には非常態勢が必要ですね。惑星が老化するときには、引力や質量、磁界に強烈な変化が起こると思われますので。」
「集まってもらったのは諸君に何事にも動じない決意を促したかったからだ。万一の時、うろたえたんでは手遅れになる。」
スコット:「ブリッジの連中が、服のままシャワーを浴びるなんてことをしない限り、エンジン部門は大丈夫ですよ。命令一下、一秒も経たないうちに軌道を脱出してみせます。」
ウフーラの通信。『ブリッジから船長。』
カーク:「カークだ。」
『走査機の分析によると、突然惑星の磁界が 4度移動しました。質量※13にも変化が起こっています。』
スポック:「始まったな? 思ったより早いですね。」
カーク:「すぐ戻る。」 スコットに言う。「君の言葉を信用するぞ。」

娯楽室のフードスロットに、テープを入れるトーモレン。料理を取り出す。
テープを取り、テーブルについた。また右手を見る。
制服に、なすりつけた。布で拭こうとする。
スールーが来た。「フォイル※14だ。フェンシング用の剣の一種で、細長いんだ。」
一緒に入るケヴィン・トーマス・ライリー※15。「なるほど? それで何をするんだい。」 カップを手にする。
スールー:「何をするってどういう意味だい。」
拭き続けるトーモレン。
ライリー:「切り合いかい? それとも、チャンバラごっこか。」
スールー:「練習するんだよ。」
「何のだい。」
「やあ、元気かい?」 トーモレンと同席するスールー。
「先週は、植物学の能書きを嫌になるほど聞かされたなあ。女の子みたいに木の葉っぱや草花を集めろとさ、ヘ!」
「もっと真面目に考えろよ。フェンシングは筋肉を鍛えて目を鋭くし、姿勢を良くする。なジョー、説明してやってくれよ。…おいジョー。」
我に返るトーモレン。
スールー:「気分でも悪いのか?」
トーモレン:「構わないでくれ! 船長なら何を言われても我慢するが※16お前に絡まれる筋合いはない!」
「…どうしたんだ。」
「うるさい!」 料理のフタを乱暴に置くトーモレン。
振り向くクルー。
ウフーラの通信が入る。『緊急連絡。エンジンルームは待機。ブリッジ関係者は直ちに配置について下さい。』
立ち上がるライリー。
スールー:「どうしたんだい。診療室へ行った方がいいんじゃないのか?」
トーモレン:「どいつもこいつも偽善者だよ! …関係のないことにまで鼻を突っ込んでさ。…俺たちはここへ何しに来たんだ!」
「そう興奮するなよ…」 スールーはトーモレンの肩に手を置こうとしたが、はねのけられる。
立ち上がり、椅子を倒すトーモレン。「トラブルばっかり引き起こしてさ。仲間がほかの星で凍え死んでも平気なんだよ。全く人間って動物は! 俺たちは宇宙へ何しに来たんだ。いいことか? 何がいいことだ! …その反対に何でもぶち壊しだ。関係のないところへ出しゃばりでてはぶち壊してるんだよ。」
ライリー:「よせったら。」
スールー:「頭を冷やせよ…」
トーモレンは料理についていたナイフを手にした。「羽も生えてないのに宇宙を飛んだりしてさ。空気がなきゃ死ぬのは宇宙へ来ちゃいけない証拠なんだ! 寒いと身体が凍るんならあんなところへ行かなきゃいいじゃないか!」
ライリー:「な、わかったからナイフを離せよ。」
スールー:「少し横になれよ。」
トーモレン:「ここは別の世界なんだ。き、来ちゃいけないんだよ。いけないんだ。しゃしゃり出て、ぶち壊して。」 ナイフを自分の方に向ける。「別の世界なのに。よそ者なんだぞ? おかげで下で 6人も死んだんだ。俺は生きてる価値ないよ。」
スールー:「ジョー、何するつもりだ。」
ライリー:「早くナイフを離せったら。」
スールー:「おい、バカな真似をするな。」
取っ組み合いになる 3人。
ライリー:「おいよせったらジョー。」
トーモレン:「離せ、邪魔するな。」
「おい、やめろ!」
「うるさい、ほっといてくれよ!」
「ジョー、ナイフを離せ!」
「離せったら!」
スールー:「よこせ、おい!」
ライリー:「ジョー、やめろ! 危ないじゃないか!」
トーモレン:「離せよ!」
スールー:「おい、ジョー!」
3人は倒れ込む。その拍子に、トーモレンは腹を怪我してしまった。
ライリー:「ジョー。」 通信機に駆け寄る。「緊急事態。39地区のリクレーションルームに医者をよこせ!」
ライリーは、手を見た。両手で何かを払い取ろうとする。


※8: 吹き替えでは「0401.5252」

※9: 吹き替えでは「244

※10: もちろん実際に青い (原語では緑) 血という意味。この設定が言及されるのは初めて

※11: Christine Chapel
(メイジェル・バレット Majel Barrett TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」のナンバー・ワン (Number One)、TNG第11話 "Haven" 「夢の人」、DS9第17話 "The Forsaken" 「機械じかけの命」などのベタゾイド、ラクサナ・トロイ大使 (Ambassador Lwaxana Troi)、TOS/TNG/DS9/VOY 全話 (映画も含む) に渡る歴代エンタープライズ/ディファイアント/ヴォイジャーなどの連邦コンピューター音声役。後にジーン・ロッデンベリーと結婚) 初登場。明らかに「クリスティン」と吹き替えされている個所もあります。声:公卿敬子 (DVD・完全版ビデオ補完も継続)

※12: ジャニス・ランド秘書 (下士官) Yeoman Janice Rand
(グレース・リー・ホイットニー Grace Lee Whitney) 前話 "The Man Trap" 「惑星M113の吸血獣」に引き続き登場。声:此島愛子、DVD・完全版ビデオ補完では榎本智恵子、DS9 リータなど

※13: 吹き替えでは「体積」

※14: foil

※15: Kevin Thomas Riley
(ブルース・ハイド Bruce Hyde) 初登場。ファーストネーム、ミドルネームは訳出されていません。声:井出凉太 (DVD・完全版ビデオ補完も継続と思われます)

※16: 原語では「お前は上官ではないし、耳もとんがってない」と言っています。階級章ではスールーは大尉でトーモレンが中尉であるため、矛盾します (なお TOS では基本的に中尉はいませんが、トーモレンは例外的に階級章が破線一本です)

『航星日誌、補足。軌道は次第に低くなり、一刻の油断も許されなくなってきた。だがこの時不思議な病が密かに、エンタープライズの中に広がり始めたのだ※17。』
ブリッジ。
ナビゲーター席のライリー。「引力が増加してきました。」
カーク:「対抗措置を取りたまえ。」
「はい。」
スールー:「磁界は依然として移動を続け、質量※13は縮小しつつあります。」
スクリーンを見るカーク。「ミスター・スポック。」
スポック:「走査機異常なし。レコーダーは順調に記録しています。」
ライリー:「軌道が安定しました。」
「明らかにこの惑星は思ったより早く凝縮していますね。…非常に面白い例だ。地球の未来を見るような気持ちですね。…太陽が輝いていた頃、この星は地球とそっくりだったはずです。」
スールー:「軌道に異常ありません。」※18
カーク:「よし。」 船長席を降りる。
ウフーラ:「周波の状態は良好です。」
手をズボンになすりつけるライリー。何度も、さする。
スールーも、同じく手を気にしている。
カークは科学コンソールに近づいた。「ジョーの記録か。」
スポック:「参考のために精神鑑定の記録を。」
「自殺しようとしたのか。」
「混乱して自責の念に、駆られていたらしいですがね。」
「…およそジョーらしくないな。」
ライリーは、手を見る。
スポック:「自己反省をする傾向は以前からあったんですが、それがなぜ急激に表面に出たかが問題ですね?」

チャペルから道具を受け取るマッコイ。手術中のトーモレンは、汗をかいている。
手術を続けるマッコイ。
チャペルは状態※19を見る。「呼吸が弱くなってきました。」
マッコイ:「…人工呼吸器をつけよう。」
口に当てるチャペル。
マッコイ:「クローズ。」 次々と道具を取り替える。「クロージング。」

操舵席の警報が鳴っている。
カーク:「どうした。」
スールー:「引力が増大しました。狙って引っ張っているような感じです。」
「処置を取れ。」 スクリーンに広がるサイ2000。「処置を取れ!」
カークがライリーの代わりにスイッチを押すと、再び軌道が上昇していく。
ライリー:「軌道が安定しました。うっかりしててすみません。」 手をさする。
微笑むスールー。

※20トーモレンを見るマッコイ。「こんなバカなことが。」 モニターの数値は下がり続ける。「もう回復して当然なのに。…呼吸器に異常はないか確かめたか。」
チャペル:「もちろんです。」
「じゃなぜ死ななきゃならないんだ。…ハイポを。」
確認し、ハイポスプレーを打つマッコイ。数値は上昇せず、脈拍音も止まってしまった。
チャペル:「…駄目でした。」
マッコイ:「…大した傷でもなかったのに。」
外される呼吸器。

マッコイの通信が入る。『船長、すぐに診療室へ来てください。』
カーク:「手が空いたら行くと言ってくれ。以後船内通信をモニターしろ。」
ウフーラ:「はい。」
スポック:「崩壊の時期が迫ってきましたね。凝縮の速度が急に速くなりました。凝縮して小さくなるということは、それだけ地表が遠ざかることになります。」
カーク:「同じ距離を保つために我々を巻き込む力が働くか。」
「その通りです。急激な変化に、すぐに対応できる準備をしておかないと危険です。」

「ブリッジから、エンジンルーム。」
スコット:『はい、スコットです。』
「非常事態に備えてくれ。いつ緊急指令が飛ぶかわからんぞ?」
『大丈夫、任しておいてください。』
スポック:「急激な変化は一応収まりました。」
カーク:「じゃ、ドクターの話を聞いてくる。事態が変わったら連絡してくれ。」
「わかりました。」
スールーは、汗をかいている。「変だなあ、この星のせいかな。それともジョーのことで…何だか汗が出て仕方がないんだよ。」
ライリー:「実は、俺もそうなんだ」 手を、さする。
スールーは、スポックの様子を見ながら立ち上がった。「なあ、僕と一緒にジムへ行かないか? いっちょやろ。」
ライリー:「今か?」
「そうだ、運動でもすればスッキリするさ。」
「おいスールー! 任務はどうするんだ。スールー、バカな真似するな! スールー!」
「来い!」 ターボリフトに入るスールー。
スポックは気づいていない。

医療室のマッコイ。「腸の傷など取り立てて言うほどのこともなかったのに。手当もすぐにしたし死ぬなんて絶対にありえないよ。…本人が、生きる意思をなくしたとしか考えられんね。」
カーク:「そりゃ君の想像に過ぎんな。」
「そうかもしれんが。しかしね、こんな意気地のない患者は初めてだよ。生きることをそう簡単にあきらめちゃいかんのだ。」
「…偶然かな。多分。」
「じゃあ、君はジョーが惑星に降りたことと何か関係があると思ってるのか?」
「まずそう考えるのが妥当だろう。」
「しかし完全に消毒をし、厳重な身体検査を受け、そのほか現在の我々にとってできる限りのテスト…」
「それだけでは安心できん。」
「できるだけのことはやったんだ。」
「何か原因があるはずだ! 解明したまえ。」

スポックはふと振り向いた。惑星がスクリーンに広がり、警報が鳴っている。
急いで近づくスポック。「なぜミスター・スールーは持ち場を離れた!」
ライリー:「磁気引力修正、軌道は安定しました。」
「ライアン※21、ここを頼む。」
ライアン:「はい。」
サイ2000 は離れた。
スポック:「…質問に答えたまえ、ミスター・スールーはどこだ!」
ライリー:「ライリー王がいる限り心配は無用じゃ。わし一人でエンタープライズを動かしてみせてもいいぞう?」
「ミスター・ライリー、君を解任する。ウフーラ大尉※22、後任につきたまえ。」
ウフーラ:「はい。」
ライリー:「よろしい、大賛成じゃ。女はうんと働かせるに限るわ。宇宙中が大喜びするぞ…」
スポック:「ミスター・ライリー、診療室へ出頭しろ!」
「診療室。」 手を叩くライリー。「言われなくても行こうと思っていたところじゃ。さらば。」
「保安部。ライリーが診療室へ向かった。着くまで監視しろ。カーク船長ブリッジへ。」

ターボリフトを降りたライリーは、壁に触れながら歩く。女性クルーを見て微笑んだ。
ドアに息を吹きかけ、医療室に入る。
チャペルは後ろから肩をつつかれ、驚いた。
ライリー:「ジョーはどこだ。」
チャペル:「…あの…」
「死んだな? そうだろう。」
「ええ。」
「なあクリスチン。…君の目は可愛くて、魅力たっぷりだ。」 あごに、触れるライリー。「好きだよ。」
「…お友達が亡くなったんでショックなんでしょ、その気持ちわかるわ?」
「…きっと君を幸せにしてみせるよ。僕はジョーのような死に方はしない。」 ライリーは舌を鳴らした。
そのまま出ていく。
チャペルは、あごに触れた。手をさすり始める。

ターボリフトから出てきたスールーは、フェンシングの剣を持っていた。「リシュリュー※23、覚悟!」 上半身は裸だ。
何度も突く。剣を見つめ、先に指を当てた。
痛がり、指を口にくわえるスールー。身を隠す。
廊下を歩いてきたクルーの前に、飛び出した。「逃げるな。…こっちへ来い。」 笑うスールー。「もう逃げられんぞ。ダルタニアンのこの剣を受けてみろ。どちらの剣が血に染まるか、試そうではないか。」
向かってきた。逃げ出すクルー。
大笑いするスールー。階段を上り始める。「腰抜けめが!」

船長席のスポック。「ブレント大尉※24、ミス・ウフーラに代わりたまえ。」
ブレント:「はい。」
カークが戻ってきた。ナビゲーター席を離れるウフーラ。
カーク:「どんな症状だ。」
スポック:「暴力は振るっていませんが、少し錯乱状態でライリーは全てが楽しいような感じです。まるで何かに…」
「酔っているようか。酒か、薬に。」
「そうです。」
「大尉、保安部に連絡。」
ウフーラ:「はい。」
「スールーとライリーを発見して監禁。2人と接触した者は全員健康診断を受けるように。」
「船長。2階、第3回廊において事件発生です。ミスター・スールーが乗組員を…剣を持って。」
「…非常態勢!」
スポック:「※25ずいぶん違った症状を示しますね。まず死んだジョーは内に秘められた性格を表に剥き出しにし、ライリーは自分がアイルランド王の子孫になったつもりで陽気になり、そしてスールーは 18世紀の物語から抜け出た剣士になったつもりです。」
突然、船が揺れた。
カーク:「惑星の現状を調べろ!」
スポック:「引力が増加して軌道が 2%ずれました。安定させないと危険です。」
「ライアン、現在位置を維持しろ。」
ライアン:「操舵装置、コントロールできません。」
「ワープ航法で脱出。」 スクリーンに広がる惑星。
「エンジンの反応ありません。」
「では補助エンジンを使って脱出しろ!」
「補助エンジンも反応ありません。」
スポック:「エンジンルーム、どうしたんだ!」 返事がない。
カーク:「スコット、応答しろ! エンジンの反応がない。…頼む。」 向かう。
ターボリフトが開き、スールーがいた。「リシュリュー! いたな。」
カーク:「ミスター・スールー。剣を捨てろ!」 剣の先に触れてしまい、手を離す。
「名誉と、女王陛下と、フランスのために。」
逃げるカーク。
スポックが立ち向かう。笑い、剣を振り回すスールー。
ウフーラ:「スールー。」
スールー:「ああ…。」
笑い、近づくウフーラ。「お願い、それちょうだい。」 引き寄せられた。「何するの!」
スールー:「あなたは私がお守り申す。」
「お断りだわ。」
「リシュリュー、覚悟。」
ウフーラが逃げた隙に、カークはスールーに飛びかかった。剣を落とすスールー。
そしてスポックが、ヴァルカン首つかみをした。
カーク:「君に借りができたようだな。」
スポック:「ダルタニアンを診療室へ運べ。」
「スコッティ、エンジンはどうした! エンジンルーム、応答せよ!」
ライリー:『何用かな?』
「誰だ。」

コンソールについているライリー。「誰だとは誰だ、恐れ多くもわしはエンタープライズ※26のライリー船長だ。そちらは誰じゃ。」

カーク:「カーク船長だ、エンジンルームから出ろ! スコットはどこにいる!」
ライリー:『スコットはこのわしが解任した。捨て置け。』
カークは通信を切り、ターボリフトへ向かう。
ライリーの声が流れる。『コックどもに伝える。ライリー船長の命令だ。』
ターボリフトは開かず、両手で叩くカーク。
ライリー:『アイスクリームを 2杯ずつ、乗組員全員に配れ。わかるな、2杯ずつ。』
カーク:「ドアを開けてくれ、早く。」
ウフーラ:「はい!」
ライリー:『では食事前に、ライリー船長の得意のものを聞かせよう。』 歌を唄いだした。『うちへ帰ろう…』
スポック:「船長! 現在の降下率を続けると後 20分以内で惑星の大気圏に突入します。」
カーク:「そして燃え尽きるか、わかってる!」
ライリー:『…荒れ狂う海を…』


※17: このように、日誌が後から記録されたような形態になっているのは珍しいですね

※18: この辺りで、スクリーンの惑星が瞬間的に消えたり出たりしています

※19: マッコイたちと一緒に映っているモニターと、アップになるシーンでは明らかに数値がズレています

※20: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。完全版ビデオ (第1シーズンの一部) および DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※21: Ryan
(エディ・パスキー Eddie Paskey TOS第2話 "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」などのレズリー大尉 (Lt. Leslie)、第5話 "The Enemy Within" 「二人のカーク」のコナーズ (Connors) 役) 吹き替えや英語字幕では名前がランドになっていますが、これだとジャニス・ランドと被るため、聞き間違いと思われます。資料では階級は大尉ですが、実際は少尉 (以下) です。また、一部日本語資料では俳優をムーディー役と間違えています。声:水島鉄夫

※22: 吹き替えでは全て「尉」。シリーズ中一貫して、ウフーラの階級は大尉です

※23: Richelieu
ダルタニアン (D'Artagnan) と共に、アレクサンドル・デュマ作「三銃士」の登場人物。当初は日本刀になる案もありました。ジョージ・タケイはフェンシング教室に 2週間通ったそうです

※24: Lieutenant Brent
(フランク・ダ・ヴィンチ Frank Da Vinci TOS第8話 "Charlie X" 「セイサス星から来た少年」などの保安部員 (Security Guard)、第26話 "The Devil in the Dark" 「地底怪獣ホルタ」のオズボーン大尉 (Lt. Osborne) 役。TOS第1話 "The Cage" のスタント) 吹き替えでは「ブレント尉」

※25: 原語では、ここで "Fascinating."

※26: 吹き替えでは「エンタープライズ

スクリーンに映る、高速度で回転するサイ2000。
『航星日誌、宇宙暦 1704.4※27。エンタープライズはコントロールを失い、惑星サイ2000 に向かって落ちていく。このままでは後 19分で我々の命も終わりだ。』

ターボリフトを降り、走るカーク。「どうやって入り込んだ。」
ドアの前にいるスコット。「船長が呼んでるからブリッジへ行けって。」
カーク:「エンジン関係のスイッチを切られた。」
「私達が出るといきなりドアを閉めたんです。」
「補助スイッチは駄目なのか。」
「駄目です。メインパネルを切られてしまったので。部屋へ行ってこの壁の設計図を持ってこい。」
機関部員:「はい。」
「ドアを開ける方法は、まず一つしかないですねえ。壁に仕組んである、回線を切らないと。」 調べるスコット。

機関室で歌うライリー。「うちへ帰ろう。僕のキャサリン。あー…」

歌はブリッジにも流れている。
スポック:「全セクション、現状報告。」
ウフーラ:「後方士官室でケンカがありました。報告によると乗組員同士のいざこざが増えているそうです。」
「非常態勢ベーカー2、メインセクションを閉鎖。」 警報が鳴る。
「全デッキへ、非常態勢ベーカー2 を取れ。繰り返す、非常態勢ベーカー2 を取り、メインセクションを閉鎖せよ。待機。」
戻ってきたカークに話すスポック。「とにかくこの謎の伝染病が広がるのを防ぎましょう。」
カーク:「緊急指令を続けたまえ。」
ウフーラ:「今度は緊急指令回線を切られました。」

操作するライリー。「おいウフーラ大尉。君は、わしの歌の邪魔をした。罰として、今夜はアイスクリームなしだ。スプーンだけ与えよう。」

カーク:「早く切れ。」
ウフーラ:「今の状態ではこちらから切れません!」
ライリー:『総員に告ぐ。ライリー船長だ。今夜 7時にボウリング場で仮装ダンスパーティを開く。全員出席するように。』
スポック:「メインパワー・パネルを握っていますので、全て彼の思い通りにスイッチを入れられます。あと 17分しかありません。」
大きく船が揺れた。

医療室のマッコイたちもよろめく。

何とか座り直すクルー。
マッコイの通信。『診療室からブリッジ。』
カーク:「診療室、どうした。」

マッコイ:「何とかいけそうだ、ちょっとこのままで頼むぞ? 今スールーを静めていろんなテストを行ってるところなんだがね。血液には何の異常も認められず、身体の機能はいたってまともだよ。」

カーク:「いま手を焼いているのはスールーではなくてライリーの方だ。彼を何とか静める方法はないのか、ドクター。」

マッコイ:「テストの結果が出るまではお手上げだ。」

またライリーの声がブリッジに聞こえる。『こちらライリー船長、総員に重要事項を伝える。本日以後、女性乗組員は一人残らず髪の毛を…肩の辺までバサッと垂らすようにしろ。メイキャップは一切禁止する。女性は、ありのままの姿を見せるべきだ。では諸君、もう一度自慢の喉を聞かせる。全員、慎んで聞くように。』
カーク:「寒気がする。」

歌うライリー。「僕の、キャサリン。あーうちへ…」

ジェフリーズ・チューブ※28に入るスコット。
ライリーの歌は続く。『海乗り越えて…愛しいキャサリン…海乗り越えて…優しいキャサリン…』
操作を終え、出るスコット。


スイッチを押すライリー。「キャサリン…おー…」

スコット:「回路を切断したから、俺が合図するまで待て。」 走っていく。

ライリーはスイッチを適当に押す。「キャサリン…あーおー僕のキャサリン…。」

ライリー:『うちへ…』
スコット:「スコットからブリッジ。操舵装置を試してくれ、少しは動くはずだ。」 部下から装置を受け取る。「どれ、俺に貸してみろ。」

スクリーンを見るスポック。「あと 16分です。エンタープライズはきりもみ飛行で下降中。」
ウフーラ:「緊急信号です。デッキ4 とデッキ5 で、ケンカがあったようです。」
カーク:「診療室へ。」
「応答ありません。通信チャンネルをオフにしているようです。」
「ドクターの様子を見てこい。その前にスコッティのところへ行って、作業を急がせてきてくれ。」
向かうスポック。

機関部司令室の壁が、フェイザー※29で焼き切られている。

廊下でクルー※30が大笑いしている。手には絵筆。
ターボリフトで来たスポック。「早く研究室へ出頭しろ!」
壁に「人類を愛せ」と落書きされていた。
いきなり歌が聞こえてくる。「おお、うるわしのジャニス※31。君のため…」
スポック:「どうしたんだ。」
ランド:「ブリッジへ行こうとしてるのに彼が行かせてくれないんです。」
「道を開けたまえ。」
ムーディー乗組員※32は言った。「ああ、了解。」 だがスポックが去ると、また立ちはだかる。「おお、うるわしのジャニス…」
ランド:「スポック!」

焼き切る作業を続けるスコット。構造図を見ながらだ。
スポックが来た。「船長が急げと言っている。」
スコット:「違う回路を切ったら大変だ、慎重にやらないと。」
「あと 14分しか猶予はない。」
「敵とドンパチやってる最中でも、安全性を考えたらこれ以上早くはできないねえ。」
「現在の速度のまま作業を進めていては間に合わん。1分30秒オーバーする。安全性は捨てるべきだ。」 歩いていくスポック。
スコットは作業に戻る。


スールーを診たマッコイ。「研究室、なぜ報告しないんだ。…研究室、応答しろ。ハリソン※33、報告はどうした!」 コンピューターから離れる。「研究室へ行ってくる。」
チャペル:「ドクター…?」
「何だ。」
「トランキライザー※34が切れてきました。」
「よし、それを待ってたんだ。K-1 と 3 でこのままテストを続けてくれ。」
「わかりましたわ?」
医療室を出るマッコイ。
ベッドに固定されているスールーを見るチャペル。道具を置いた。
手を、さする。髪を触りながら離れた。

スクリーン上で回転する惑星。
ライアンが笑っている。
カーク:「放り出せ。」
まだ聞こえるライリーの歌。
ランドが来た。「もっと早く来られたんですがムーディーに絡まれまして…」
カーク:「操縦しろ。」
「は?」
「操縦しろ!」
「はい。」
カークは眠っているクルーを起こそうとしたが、無駄だ。「切るように努力したまえ。」
ウフーラ:「言われなくても努力してます、簡単に切れるなら……はい、わかりました。」
ライリー:『うちへ帰ろう…僕の…』
カーク:「すまん。」
『キャサリン…荒れ狂う…』
「スコッティ。」 スクリーンを見るカーク。
スコット:『こちらスコット。』
「あと 12分しかない、エンジンを使えるまで 2、3分はかかるはずだ。」
『予定通りいくと間に合います。』
「切れたら知らせてくれ、そっちへ行く。以上だ。」

医療室に入るスポック。チャペルは鏡の前に座っていた。
スポック:「クリスチン。…ドクターはどこだ。」
チャペル:「…研究室ですわ?」
コンピューターに触れるスポック。「研究室。…研究室応答せよ、スポックだ。研究室。」
チャペルはスポックの手をつかむ。「ミスター・スポック。」
スポック:「何か用か。」 手を、握られた。
「ねえ、スポック? ヴァルカン星人は女の扱い方が変わってるでしょ? …少なくとも、評判はそうだわ。…でもあなたは半分地球人よ? だからあなたに私を傷つけられないって、わかってるの。そうでしょ?」
スポックは、ゆっくりと手を離した。後ろを向く。
チャペル:「私はあなたを愛してるのよ。」
振り返るスポック。手を見る。
チャペル:「あなた、私と同じ地球人ね。ヴァルカンの血が流れても。」
スポック:「…やめたまえ…」
「冷たいこと言わないで? あなたがとても正直だってことは知ってるし、気持ちもわかってるの。」 手を握るチャペル。「隠してるけど、あなたにも感情はあるのよ。だからあなたは人知れず、傷ついて。」
「私には感情などない。」
「…みんなは信じても私はダメ。愛してるのよ?」 チャペルはスポックの顔に手を這わせた。「心から愛してるわ、どうしていいかわからないほど好きよ? このままのあなたを。…好き、好きよ。」
「すまん。」
ウフーラの通信。『ミスター・スポック、船長の代理にブリッジへ来てください。応答願います。』
スポック:「あきらめてくれ。」
チャペル:「名前言って?」
「…クリスチン。」
ウフーラ:『ブリッジから診療室、ミスター・スポックはいますか。』
スポックはゆっくりと出ていった。

スポックは目を押さえていた。
ウフーラ:『ミスター・スポック、至急応答願います。』
制服を伸ばし、歩き出すスポック。医療室の方を振り返る。
涙を抑え、歩いていく。


保安部員と共に来たカーク。
ライリー:『…キャサリン…』
スコット:「あと少しです。」
『うちへ…帰ろう…海乗り越えて…愛しい…キャサリン…』
焼き切った壁の中に、手を突っ込むスコット。「OK です。」
カーク:「ついてこい。フェイザーガンの目盛りは、麻酔ビームに合わせろ。よし。」
突入する一同。
ライリー:「コーラスをつけに来たのか?」
カーク:「連れて行け。」
操作するスコット。

泣いているスポックは、会議室に入った。目を押さえる。
スポック:「私には感情などない!
感情など…。私は士官だ! 士官だ。…任務が、任務が…。」 何とかコンピューターの前に座る。「私の任務。」
泣く。「手遅れだ、手遅れだ…。すまないクリスチン※35…。…すまん。クリスチン、私には…愛などは…私には…愛など、私には……。」
スポックはうなだれた。

機関室のカーク。「もうほとんど時間はないぞ。」
ウフーラ:『ブリッジから船長。』
「カークだ。」
『惑星の大気圏上層に入ります。』
スコット:「船長。」
カーク:「どうした。」
「奴はエンジンを完全に止めやがった。冷たくなってますよ。充電するのに 30分はかかります。」
ウフーラ:『宇宙船船体の表面が熱をもち始めました。あと 8分で燃え尽きてしまいます。』
カーク:「スコッティ。」
スコット:「私には物理の法則まで変えられませんよ。充電するには、どうしても 30分いります。」


※27: 吹き替えでは「0401.5254」

※28: Jeffries tube
初登場で、主にスコットが入る狭い「筒」。スタッフが冗談で美術監督のマット・ジェフリーズにちなんで名づけたものですが、TNG で実際に言及されます。TNG 以降では通常「ジェフリー・チューブ」と訳されます

※29: ビームが出ていないのに、火花は散っています

※30: 笑うクルー Laughing Crewman
(ジョン・ベラー John Bellah TOS第8話 "Charlie X" 「セイサス星から来た少年」のクルーその1 (Crewman I) 役 (同一人物?)) 一部資料では、ラボ所属ということからハリソン (Harrison、脚注※33) としています。声:板東尚樹、TOS 現スールー、VOY 初代ケアリー、旧ST2 補完デヴィッドなど

※31: 原語ではジャニーン (Janeen) と呼びかけています。歌詞はライリーの歌と同じですね

※32: Crewman Moody
(ウィリアム・ナイト William Knight) クレジットでは女好きなクルー (Amorous Crewman)。声:古田信幸、DS9 ダマール、VOY ホーガン、FC ホークなど

※33: Harrison

※34: 鎮静剤 tranquilizer

※35: 原語ではクリスチンとは言っておらず、この個所からは「2、2、4、6、6、6倍…」と意味不明なことをつぶやいています

スクリーンのサイ2000 は、猛烈に回っている。
『航星日誌、補足。エンタープライズはついに惑星の大気圏に突入した。船の内部は摩擦のため、急速に熱を帯びていく。』

機関室のスコット。「22、3分あれば何とか。」
カーク:「6分しかない。」
「船長。物質と反物質※36を冷えたまま混合するわけにはいきません。そんなことをしたら大爆発を起こして…」
「エンジンのバランスを取って制御爆発の状態にすればいい。」
「そんなのは裏づけのない理論に過ぎません。」
「ブリッジ。ミスター・スポックはいたか。」
「成功する率は恐らく一万分の一しかありませんよ。それもコンピューターに何週間も計算させた上での話だ。」
ウフーラ:『ミスター・スポックはまだ現れません。』

叫ぶスールー。そばのマッコイは、ハイポスプレーを持っている。
スールーは落ち着いた。「ブリッジに、いたはずなのに。…ドクター。いつ来たんです、こんなとこへ。」
うつろな表情のチャペルをどかせるマッコイ。「マッコイから研究室、成功したぞ? この血清を作れ。」
クルー:『勝手にしろよ。」 笑う。
「水だ、惑星の水が変化して超高分子になったのが原因だ。」
『何だと、笑わせんない。』
「だから人体の発汗作用を通じて移っていったんだ。そして血液に入るとアルコールのように、自制心や判断力を鈍らせてしまう※37。関係者を全部集めろ! この血清が聞くことを知らせて至急大量に作れ!」
笑い声しか返ってこない。マッコイは通信を切った。
スールー:「ドクター、もう大丈夫ですから出してくださいよ。」
マッコイ:「解いてやれ。」 医療室を出る。

スコットの通信が全船に流れる。『エンジニアは配置につけ。エンジンルーム、およびサイクリングステーションは報告。これよりエンジンの、緊急再点火を行う。』
まだうなだれたままのスポックがいる、会議室に来たカーク。「スポック、どうした。」
スポック:「母※38に、愛してることを言わなかった。」
「あと 5分しかないぞ、いや 4分だ。」
「地球の女が、愛や感情のない星に…住む。可哀想に。」
スポックを立ち上がらせるカーク。「危険なフルスタートに賭けるよりない。エンジンを切られて充填してる暇がないんだ、聞こえたか! 危険を承知でフルスタートする以外にないんだぞ!」
スポック:「私は自分の父を、尊敬した。地球の血を恥と思っ…」
カークはスポックの頬を叩いた。
スポック:「カーク。…君は友人だと思ってたのに、何の真似だ。」
叩き続けるカーク。「私の言うことをよく聞け!」 止められた。「方程式を出せ、制御爆発を行う!」
スポック:「試みた者は一人もいない。…わかってくれカーク。これまで私は感情を、ひた隠しに隠してきた。」
カークがまた叩くと、今度は叩き返された。
テーブルの上を転がったカーク。「危険を承知でフルスタートする以外にない!」
スポック:「試みた者はいない。」
カークは口から血を流している。「科学主任、そんなことはわかっている。だが理論ではできるはずだ。失敗すれば太陽が爆発したように火の玉になるだろうが、一万分の一のチャンスに賭けるより道はないんだ!」
ウフーラ:『ブリッジから船長、エンジニアから催促してきましたが。』
「ミスター・スポックならここにいる! いま話をしているところだ、わかったか!」
『はい。あと 3分半しかありません。』
手をこするカーク。「わかったぞ。病気は。…愛だ。愛は私の人生に苦しみを与える。…この船は……私の全てを、奪うんだ。私は全てを捨てて、尽くさなければならない。」
スポック:「カーク。」
「ジャニスは美人だ。私の世話をしてくれることも。しかし私は船長だ。愛してはならない。」
「カーク。…話を方程式※39に戻そう。」
「…やっとわかったぞ。この船も素晴らしい『美人』だ。」
「テストされたことはないが、時間と反物質の…理論的関係が全てだよ。」
「素晴らしい身体。それを…抱きしめて…海辺をさまよい、全てを忘れて彼女を愛してみたい。」
スコットが来た。「船長。」
カーク:「スコッティ。…助けてくれ。」
スポック:「制御爆発準備。方程式はブリッジより伝える。」
ウフーラ:『船長、上部成層圏に入りました。表面温度は 2,170度に上がってます。』
カーク:「生き抜いてみせる。…総員、非常配置につけ。敵襲に備える※40。急げ。」
出ていくスポックとスコット。
カーク:「……守ってみせるぞ、君を。」 会議室を後にした。
ゆっくりと歩き、ターボリフトに入る。「ブリッジ。」
ふと気づくと、ドアの裏に「罪人よ、悔い改めよ」という落書きがあった。
血をぬぐうカーク。


スクリーンを見るスールー、ブレント、ウフーラ。
カークが戻ってきた。待っていたマッコイはシャツを破り、ハイポスプレーで注射した。
クルーに見られる中、船長席につくカーク。スクリーンを見た。
カーク:「エンジンルーム。準備よし。……双曲線コース。」
ブレント:「船長、方向は?」
「方向か。方向は、重要ではない。とにかく脱出する。」
スールー:「コースセットしました。」

機関室に来ているスポック。「燃料温度。」
スコット:「…異常なし。」

カークはランドを見た。手を伸ばそうとする。「ここには海辺はないな?」
ランド:「…はあ?」

スポック:「反物質の温度を 840度に上げろ。」
スコット:「…上げるのに 4分かかります。」
「思い切って一挙に上げろ! ブリッジ、準備よし。」

カーク:「…点火。」
操作するスールー。
音が大きくなっていく。耐える一同。
宇宙空間を進む。
スクリーンのサイ2000 は小さくなっている。
スポックがブリッジに戻ってきた。「船長、大丈夫ですか?」
カーク:「君は。」
うなずくスポック。
マッコイ:「治療法がわかった。これでもう心配はない。」
スポック:「脱出も明らかに成功ですね。エンジンも快調です。」
スールー:「船長! スピードメーターが上がりっぱなしです。」
「エンジンパワーも、限界を超えています。空間における可能な速度を上回るスピードで飛んでいるわけだ。」
カーク:「経過時間をチェックしたまえ。」
スールーが時計を見ると、数字が小さくなっていく。「クロノメーターが大変だ。逆に進んでます。」
カーク:「…タイムワープか。…我々は、過去へ戻ってるんだ。……推進力を逆にしろ。」
星の動きが止まった。
カーク:「ゆっくり。」
スールー:「エンジン、反応しました。推力、逆進中。」
クロノメーターの動きが止まり、再びプラスの方へ戻り始めた※41
前に流れ始める星々。
スポック:「やっと正常な時間に戻りました。」
カーク:「…よーし、前進。ワープ1。」
スールー:「…ワープ1 です。」
「ミスター・スポック。」
スポック:「はい。」
「タイムワープは…どんな結果になった。」
「71時間過去へ戻ったわけですよ。つまり今は 3日前ですね。…もう一度、3日間やり直すことになります。」
「…今度は楽しくいきたいもんだ。」
「これは今後に素晴らしい可能性を与えてくれましたね。今の方程式を使えば、希望通りの過去の時代へ戻れるわけです。どの惑星へも行けますね。」
「チャンスを見つけて、ぜひ試したいな。ミスター・スールー、次の目的地へコースを取りたまえ。」
スールー:「セットします。」
カークは、命じた。「現状維持、前進。」


※36: antimatter
エンタープライズが物質と反物質で動いていることが、初めて言及

※37: エンサイクロペディアでは「サイ2000 ウィルス (Psi 2000 virus)」

※38: アマンダ (Amanda) のこと。吹き替えでは「女」

※39: 混合式 intermix formula

※40: 原語では「廊下に出るな。ターボリフトだ…急げ」

※41: 秒と分の値が微妙にシンクロしていません

・感想など
後のシリーズでも多く見られる、クルー発狂ものの元祖的エピソード。TNG では続編的な "The Naked Now" 「未知からの誘惑」がありますが、パイロット版の直後 (しかも日本の地上波では第一話扱い) だったのは、はっきり言って誤算でしょう。このエピソードも初期ならではのツメの甘い点 (原因のジョーがあまりにも軽率ですし、感染した者が誰もすぐに医療室へ行かない) は多数見受けられますが、コメディと緊迫感の融合は見事なものです。
フェンシングのスールー (TOS 本編では実質的にこれぐらいしか活躍(?)が思いつかない)、歌を披露するライリー (このおかげで単なるゲストクルーから抜け出ています。後にも登場)、感情に悩むスポック (泣くシーンはレナード・ニモイの提案)、船を女性にたとえるカークと、見せ場も多いですね。チャペルの登場など、初めて導入された要素もいろいろとあります。これも初となるタイムトラベルは、非常に唐突で無意味に思えますが、これは元々この話が "Tomorrow Is Yesterday" 「宇宙暦元年7・21」の前編として考えられていたためです。


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