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ディープスペースナイン エピソードガイド
第17話「機械じかけの命」
The Forsaken

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・イントロダクション
『ステーション日誌、宇宙暦 46925.1。ワームホール調査のため、惑星連邦から使節団がやってくることになった。使節団の応対には、ドクター・ベシアを当てることにした。』
クワークの店。
ベシア:「…しかし大使、そうおっしゃられてもこればっかりは。」
異星人の女性、タクスコ※1。「大使閣下とおっしゃい。」
ベシア:「はい、大使閣下。このステーションのゲスト用の部屋は、どれも同じ広さなんです。」 モーンがカウンター席に座る。
「フン、ならクルー用の部屋に替えてちょうだい。」
「現在クルー用の部屋は全てふさがっておりまして。」
「なら誰かに部屋を空けさせて。…あなたの部屋でもいいわよ。」
同席しているボリアン※2の大使。「彼女は自分の泊まる部屋にはうるさいんだよ。いつも苦情を言ってるんだ。」
タクスコ:「あら、一時間おきに司令室へ押しかけて、船長に船の操縦法を指図するより、マシだと思いますけど。」
「いやあ、船長は喜んでいたよ。きっと、シスコ司令官も喜ぶと思うねえ。もし、話す時間が取れればだが。」
ベシア:「いやあ、シスコ司令官は今週多忙でして。」
「そりゃなぜだ。」
「なぜって、その…見直し作業※3中で、大変なんです。」
もう一人の大使はヴァルカン人※4だ。「何を見直しているんだね?」
ベシア:「ああ、全てです。ああ…ステーション全体ですのねえ、システムを見直しているところでして。」
「ほかのメンバーはどうだか知らないが、私は是非その見直し作業を見てみたいね、ドクター。」
「ほんとに。あ、でも長旅でお疲れでしょうから、ホロスイートでお楽しみになってはいかがでしょう。」
タクスコ:「まさか本気で私達にあんなものを勧めるつもりなの? フェレンギの下品なセックスプログラムなんか。」
「ええ…つまり…ホロスイートにはほかにもいろいろ…」
ボリアン:「君、取り繕わなくていいよ。フン、アラバザン人※5は性的に抑圧されてるのさ。」
タクスコ:「ま! 何て失礼なことを。」
ベシア:「皆さん、お部屋でお休みになったらいかがですか。」
ヴァルカン人:「休むためにわざわざここまで来たのではない。施設を見せていただきたい。」
タクスコ:「採用一年目の士官を担当につけるなんて、宇宙艦隊司令部※6に報告しなくては。」
ベシア:「でも大使…失礼、大使閣下。私はただ…」
突然、女性の声が響いた。「ああ! ないわ、ああどうしましょう。やっぱりないわ!」
それはダボ・テーブルのそばにいる、ラクサナ・トロイ※7大使だった。
ベシア:「何かをなくされたんですか。」
ラクサナ:「ああ、ラチナムのヘアーブローチよ。」
「クワーク!」
「ちょうど 3回目の勝負が終わったところで私はダイスを拾おうとしてテーブルの上にかがんだの。その時誰かが私の後ろを通ったのよ。きっとその時だわ。」
クワーク:「どうかしたんスか?」
ベシア:「トロイ大使の、ラチナムのヘアーブローチが盗まれたらしいんだ。」
ラクサナ:「ああ…。」
クワーク:「申し訳ありませんが表示してあるとおり店内での盗難には責任は負いかねますんで。」
「表示って一体どこに?」
「入り口の上にあります。」
「入り口?」
ベシア:「汚いぞ、あんな目立たないところに!」 確かに小さなパネルが見える。
ラクサナ:「ああ…。」
クワーク:「お気の毒ですが規則は規則です。じゃごゆっくり。」
ラクサナはクワークの耳たぶをつかんだ。「ナメるんじゃないわよ。私はベタゾイドの聖なる指輪とリックスの聖杯を受け継ぐ第五王朝の娘…」
クワーク:「ああ、耳を離してくれえ!」
「どこをつかめば一番痛いかぐらい百も承知なのよ。さあ、直ちに店を閉鎖をし。そして客全員の身体検査をして、ブローチを見つけるのよ。」
オドー:「何の騒ぎです。」
やっとでクワークの耳を離すラクサナ。
ベシア:「ああ、丁度いいところに。」
ラクサナ:「ああ…。」
「こちら、保安チーフのオドーです。」
オドー:「どうかなさいましたか。」
ラクサナ:「私のブローチが盗まれたんです。我が家に 36代伝わっている物で、お金には換えられないかけがえのない物なのよ?」
「今日つけていらしたのは間違いない。」
「ええ間違いないわ? この髪型の時は必ずつけますの。」 ピンクの髪だ。
「そうですか。あなたは、ベタゾイド。」
「ええそうです。」
「テレパスですね?」
「ええ。」
「この店の中に罪悪感を感じませんか?」
ため息をつき、目を閉じるラクサナ。
その様子を見ているクワーク。
ラクサナ:「…感じないけどベタゾイドはフェレンギの心は読めないのよ。」
クワーク:「…ケ。」
オドー:「クワークは確かに信用できない奴ではありますが客の持ち物に手を出すようなケチな真似はしない奴です。」
「ありがとよ?」
オドーはふと、脇へ歩く。話している異星人がいた。
オドーに気づき、逃げようとする。
追うオドー。前に立ちふさがる。「ポケットの中の物を出せ! 早く。」
異星人はいろいろな物を出した。
コミュニケーターに触れるオドー。「おや? いつから惑星連邦の士官になったんだ。」
ラクサナはオドーが手にした、別の物を見た。「…それが私のブローチ! でもなぜわかったの?」
オドー:「ドプテリア人※8はフェレンギ人の遠縁にあたる種族ですからね。あなたのテレパシーがフェレンギ人には通じないのならもしかしてと思ったんです。」
「まあ、すごいわ素晴らしい推理ねえ?」
ドプテリア人を連れて行くオドー。
ラクサナ:「ドクター? オドーさんのこと何もかも知りたいわ? 教えて下さるわね?」 笑う。


※1: Taxco
(コンスタンス・タワーズ Constance Towers) 声:火野カチコ、DS9 ルパザ

※2: 名前は Vadosia (ジャック・シアラー Jack Shearer DS9第63話 "Visionary" 「DS9破壊工作」のルワン (Ruwon)、VOY第21話 "Non Sequitur" 「現実への脱出」のストリクラー提督 (Admiral Strickler)、映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」などのヘイズ提督 (Admiral Hayes) 役) ですが、言及されていません。「ヴァドシア」としている日本語資料もあります。声:大川透、DS9 ガラックなど

※3: recalibration sweep

※4: 名前は Lojal (マイケル・エンサイン Michael Ensign TNG第89話 "First Contact" 「ファースト・コンタクト」のクローラ保安大臣 (Secutiry Minister Krola)、VOY第47話 "False Profits" 「救世主フェレンギ」のタカール人詩人 (Takarian bard)、ENT第40話 "Stigma" 「消せない汚名」のヴァルカン人ドクター・オラット (Dr. Oratt) 役) ですが、言及されていません。「ロジャル」としている日本語資料もあります。声:室園丈裕

※5: Arbazan

※6: 吹き替えでは「連邦司令部」。惑星連邦の執行機関は評議会

※7: Lwaxana Troi
(メイジェル・バレット Majel Barrett TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」のナンバー・ワン (Number One)、TOS サブレギュラーのクリスティン・チャペル看護婦 (Nurse Christine Chapel)、TOS〜VOY 連邦のコンピューター音声役) TNG第120話 "Cost of Living" 「ラクサナの結婚」以来の登場。この後 TNG第159話 "Dark Page" 「心のダーク・サイド」、更に DS9 にも 2度登場します。声:此島愛子、TOS ランド、旧ST2 マーカスなど (TNG から継続)。残りの DS9 では翠準子さんに代わります

※8: Dopterians

・本編
司令室。
オブライエン:「コンピューター、核融合パワープラントのチェックは終わったか?」
コンピューター:『終わりました。核融合パワープラントは正常範囲で作動しています。』
「おい、何を言ってるんだ。…ノーマルより 13%も下だぞ?」
『カーデシアの設定した数値では 20%以内の誤差は許容されております。』
「…冗談じゃないよ。アナラ※9。」
近くにいたベイジョー人女性。「何でしょうか。」
オブライエン:「炭素反応室※10のことは詳しいかい?」
アナラ:「レーザー誘発核融合※11についてはあまり。基礎しかわかりませんが。」
「このシステムは効率が悪すぎる。明日惑星連邦のモデルに交換しよう。まあ今は、しょうがない。そうだアナラ、排出プラズマの温度を見ててくれないか? コンピューター。第2反応室のデューテリアムのフローを 5%増やしてくれ。」
コンピューター:『その手順はお勧めできません。』
「誰も意見なんか聞いてないぞ、いいからやるんだ!」
『その手順はお勧めできません。カーデシアの作業ガイドライン※12、条項 254-A を御覧下さい。いま表示します。』
「そんなマニュアルなんか読みたくないね。いいさ自分でやるから。…第2反応室を再初期化。プラズマフローをコンジットへ注入。143、144、1…」
アナラ:「チーフ・オブライエン。第2リアクターからパワーがストップしました。」
「何? コンピューター。停止の原因を分析せよ。」
コンピューター:『第2リアクター停止の原因はセンサーが炭素反応室オーバーロードの危険を察知したからです。』
「全く。何てシステムだ!」
シスコが近づく。「そうカッカするな、コンピューター相手に。」
オブライエン:「コンピューターじゃありませんよ! こんな生意気な奴。」
「いや、上手く使いこなしていると思っていたがね?」
「冗談でしょ。お言葉を返すようですけど、エンジニアの端くれとしてこのコンピューターをこのままにしておくことは、私のプライドが許しませんよ。根管治療※13をやります。」
「根管治療?」
「最初から全部やり直すってことです。徹底的にシステムを組み直さなくっちゃダメですよ。」
「どれぐらいかかるんだ。」
「まだカーデシアの技術には慣れてないですけど、まあ 2、3年※14もあればできると思いますよ。」
「かなりの人手も割かなきゃならんな。…ほんとに必要なのか。」
「司令官はおわかりになってない…」
「私は君ほどコンピューターには厳しくないんでね?」
「わかりました、もういいです。」
「おいチーフ。」
「いいんです! 忘れて下さい。」
「チーフ、君の好きなようにしてくれていいんだ。」
「…すいません。全力を尽くします。」
ベシアが来た。「ああ、ここが司令室です。」
顔を背けるシスコ。
ボリアン:「ディープ・スペース・ナインの心臓部だな。やあどうも司令官。」
笑顔を作り、振り向くシスコ。「ああ皆さん、どうも大使閣下。」
ベシア:「皆さん、ぜひ司令室を見たいとおっしゃいまして。」
「ええどうぞ。歓迎いたしますよ。こちらで行き届かない点はありませんか。何でもベシアにお申し付けを。」
タクスコ:「だけどいくら言っても私の部屋を替えて下さらないんですのよ?」
「部屋を替える?」
「ええ、今夜もカーデシアのベッドで眠るなんて私耐えられませんわ? 木彫りの化け物にジーッと見られてるような気がして。」
キラ※15:「司令官。未確認の船がワームホールから出てくるようです。」
シスコ:「スクリーンへ。失礼します。」
ベシア:「あちらからの方がよく見えますよ。」
スクリーンにワームホールが映る。
ベシア:「なかなかの眺めでしょ?」
中からは、棒状の物体※16が出てきた。
ボリアン:「これか、これがワームホール。」
ベシア:「ええ、そうですが。」
「期待してたほどじゃないな。」
ダックス:「センサーに生命反応はありません。」
シスコ:「探査船か?」
「ありえます。大量のコンピューターアレイが読み取れますが、ほかの船と交信しようとするシグナルは出ていませんから。」
「こちらのコンピューターとの互換性は。」
「…何とも言えません。サブプロセッサーのパターンは未知のものです。」
ヴァルカン人:「あんな若い女性では経験不足だろう。よければ私が…」
ベシア:「ダックス大尉は『若く』見えますが、300年以上ものキャリアを積んでるんですよ。どうぞ御心配なく。」
ダックス:「ドッキングリングへ牽引してもらえばもっとよくわかりますけど。」
シスコ:「いや。正体がわからないうちはやめておこう。少佐、リングの 500メートル先まで牽引しろ。」
キラ:「わかりました。」
「チーフ・オブライエン。適応インターフェイスリンク※17をセットアップして、何か情報を引き出せないか見てくれ。」
オブライエン:「了解。」
ベシアを見るシスコ。
ベシア:「ああ、忙しくなってきたようなので、ここにはいない方が。」
ボリアン:「この探査船は新しい種族のかもしれん。司令官、この歴史的な瞬間に惑星連邦の大使が立ち会った方がいいと思わないかな? 実は私は未知の種族に大変興味があってね。」
シスコ:「お気持ちは大変ありがたく思います。この探査船に関しては、4時に報告会議を行いますのでそれまではドクター・ベシアと、探査船がよく見える第7ドック近くのリングでお待ち下さい。」
ベシア:「それでは御案内いたしましょう。」 みな出ていく。
シスコはため息をついた。

保安室でパッドを読んでいるオドー。
ドアの外に、ラクサナがいた。「すごい集中力だわ? お仕事にものすごい情熱を傾けてるのね? 全銀河系の犯罪者を相手にするなんて。」 着替えており、髪の毛の色も変わっている。
オドー:「普通の人には退屈な仕事ですよ。」
「退屈ー?」 笑うラクサナ。「いいえ、あなたのおかげで大事な家宝が取り戻せたんですもの。退屈なんて言ったらバチが当たるわ? このディープ・スペース・ナインで治安が保たれているのは、あなたがいてくれるからこそなんですものねえ?」
「…仕事ですから。さて、どんな御用でしょう。また何か盗まれたんですか?」
「…ええ、心をね?」
「何とおっしゃいました?」
「オドーって、ニックネーム? それともちゃんとした名前?」
「名前です。」
「ああ…それじゃあなたを何て呼べば?」
「オドーで結構。」
「詩的な響きのある名前ね?」
「…詩的?」
「オドー。舌の上を転がるようだわ?」 近づくラクサナ。
「ああ、実は今仕事が詰まっておりましてね。」
「あなたは流動体生物なんでしょ?」
「ええそうですが。」
「流動体生物とは初めてよ?」
「…『初めて』って何が。」
「同じ種族の仲間はいないんでしょう?」
「…今のところは。」
「うーん、今までの男はみんな、シェイプアップしてよって言いたくなるような奴ばっかりだったわ? でもあなたは体型を、自在に変えられるのよね?」 ラクサナは口を近づけてくる。
「ああ…ああ、呼び出しがかかったようだ。失礼します、急いで司令室へ行かないと。」 出ていくオドー。
微笑むラクサナ。


※9: Anara
(ベニータ・アンドレ Benita Andre) 声:若杉朋子、DS9 ニーラ

※10: carbon reaction chambers

※11: laser-induced fusion

※12: Cardassian operation guidelines

※13: root canal
これだけで「根管」という意味

※14: 吹き替えではなぜか「2、3ヶ月

※15: このエピソードからキラの制服に変更が加えられており、上下に分かれていたのが一つのジャンプスーツ型になっています。前エピソードまではスカートのような部分がありました

※16: TNG第93話 "The Nth Degree" 「謎の頭脳改革」に登場した、サイセリア探査機にアンテナをつけて改造したもの

※17: adaptive interface link

司令室。
コンピューター:『高解像スキャンを開始します。メモリーノードを探知しました。データ移送の手順を進めます。』
オブライエン:「やればできるじゃないか、大したもんだ。」
ダックス:「何だか意外みたいね。」
「このコンピューターのことだから、エミュレーターモジュール※18を再配列しなきゃならないかと心配してたんですけどね。ハ、一度で動きましたよ。」 笑うオブライエン。
コンピューター:『データ移送が完了しました。』
「…よくやったぞ、コンピューター。」
ダックス:「コンピューター、探査船のデータを標準解読してみて? 構文結果は隔離。」
コンピューター:『わかりました。お待ち下さい。』
満足げなオブライエン。
オドーが司令官室へ向かう。

シスコは応えた。「入りたまえ。どうしたオドー。」
オドー:「司令官。…実は問題が。」
「またクワークか。」
「いいえ違います。今回は…ラクサナで。」
「大使のラクサナ・トロイか?」
「そうです。実はクワークの店でいざこざがあった時に助けてあげたんですがそれでいたく…感謝されまして。」
「それが問題なのか?」
「その感謝の表し方が少々、困りもので。…はっきり言いますとどうやら…私に気があるようなんです。」
微笑むシスコ。「それが嫌なのか?」
オドー:「…いやもう押しの一手でしてね。」
「そうか、口説いてきたわけだ。」
「ワノーニ・トレースハウンド※19のように。」
「付き合おうっていう気はないのか。」
「…私が?」
「ロマンスもいいものだぞ、オドー。」
「しかし私にはステーションの警備という重要な任務があります。色恋沙汰なんぞ…そんな暇はありません。…正直に言わせてもらえば、あなた方人間は恋愛だの結婚だのに余分な時間を費やしすぎてると思いますよ。」
「しかし、それが種の保存に役に立つのさ。」
「生殖するために何もわざわざ自分の匂いを変えたり、下手くそな詩を書いてみたり、何本もの花の命を犠牲にしたり、必要ないでしょう。私に言わせれば、意味のないことですよ。」
「ロマンのわからん奴だなあ。」
「ラクサナのことを、何とかしていただきたいんですが。」
「私が?」
「オドーには手を出すなって言って下さいよ。」
「どんな犯罪者が相手でも動じない君が、女性一人に手こずるのかい?」
「犯罪者の気持ちはわかりますがあの方の気持ちは…わかりません。」
「私にはどうにもできんよ。」
「惑星連邦の大使に恥をかかせたらことですからねえ。外交問題になると困る。」
「確かにそれは言えるな。この問題はデリカシーをもって扱ってもらうことにしよう。」
「……私はあまり、『デリカシー』がないもんでね。」

報告するアナラ。「探査船の素材はコランディアムの合金※20のようです。」
コンピューター:『サブプロセッサー・モジュールの分析が全て完了しました。』
オブライエン:「早いなあ。スクリーンへ。…ダックス大尉。」
ダックス:「…科学モジュールはなし、通信システムもなし。なのにコンピューターキャパシティはギャラクシー・クラス※21だわ? どういうことかしら。」 モニターに表示されている探査機の構造。
「探査船を動かすだけにしちゃすごいハードウェアですよね?」
「うん。」
キラ:「何かわかった?」
「いいえ、目的もわからないし…どこからきたのかもわからないわ?」

ターボリフトでプロムナードに戻ったオドーは、周りを見てから降りた。
だが脇からラクサナが近づいてきた。「あー、そこにいたの。オドー。」 笑うラクサナ。また服装と髪の色が変わっている。
オドーは慌ててターボリフトのスイッチを押したが、ドアが閉まってしまった。
ラクサナ:「アンデヴィアン2※22 の、第4の月で夜明けを見たことある?」
オドー:「いえありません。」
「このプログラム素敵なのよ。一緒に見られるようにクワークにホロスイートを予約してあるの…。」
「クワークに私とホロスイートへ行くって言ったんですか?」
「そうよ? 特製の御弁当も用意してくれるんですって?」
「冗談じゃない。申し訳ないがこれから第3目標塔に行かねばなりませんので、トロイ大使。」 やっとで戻ってきたターボリフトに乗るオドー。
「ラクサナよー。あ。」 一緒にターボリフトに入り、壁を叩くラクサナ。「第3目標塔へ。目標塔へ行ってみたかったの。」

動き続けるターボリフト。次々と前を流れていくドアなどの構造物。
ラクサナは指を鳴らした。「そうだわ。クワークに頼んで御弁当持ってきてもらいましょう。目標塔でピクニックよ?」
オドー:「トロイ大使、それは…」
「いやね、ラクサナよう。」
「私は何も食べません。この口は本物ではなく形を似せてあるだけの飾りです。私には食道もなければ胃もないし、消化器官だってありません。私はあなたとは違う。それに 16時間おきに、私は液体の状態に戻ってしまうんですよ。」
「泳ぎは大好き。」
「ああ…。」
その時、いきなりターボリフトが停止した。暗くなる。
オドー:「コンピューター。コンピューター! …オドーより司令室。」

キラ:「どうしたの、オドー。」
オドー:『トロイ大使と第7ターボリフトに閉じ込められましたが、どうしました?』
アナラ:「ターボリフトへのパワーが停止したんです。」
キラ:「…ターボリフトへのパワーが切れたらしいわ。ビーム転送しましょう。」
ダックス:「ロックオン、転送の準備を。」
オドー:『どうぞ。』
「エネルギー充填。」
だが転送台に現れる兆候がない。
首を振るダックス。

オドー:「…少佐。」
キラ:『ビーム転送もダメらしいわね。でも大丈夫よオドー。すぐに修理させるわ?』
微笑むラクサナ。

ダックス:「ダックスよりオブライエンへ。直ちに司令室に来てちょうだい。」
キラ:「少し辛抱して、なるべく早く助けに行くから。」

ラクサナ:「ああ…やっと二人きりになれたわ?」


※18: emulator module

※19: Wanoni tracehound
trace=後を追う、hound=イヌ。吹き替えでは訳出されておらず、この部分は「ええ、もうすごい強気なんですよ」となっています

※20: corundium alloy

※21: このように吹き替えでは省略されていますが、原語では「ギャラクシー級の宇宙艦を動かせるほど」

※22: アンデヴィアン2号星 Andevian II

司令室。
コンピューター:『起電コイル機能。ノーマルです。負荷探知機能。ノーマルです。チェックを終了しました。』
オブライエン:「どうなってるんだ。ターボリフトのパワーネットにはどこにも異常がないのに、何でパワー停止なんだ。」
ダックス:「転送機にもどこにも悪いところはないのよ?」
キラ:「全く。どこも異常がないのに何も動かないなんて。」
シスコ:「とにかくオドーを助け出さないとな。」
オブライエン:「これが連邦の船なら、EPS パワーフローの経路を指定し直すのに 2時間で済みますがこのコンピューターだと。」
「すぐ始めてくれ。」
キラ:「キラよりオドーへ。」
オドー:『はい、少佐。』
「悪いけどしばらくそこで我慢してちょうだい。」
『「しばらく」ってどれくらいです。』
「…それがわかんないのよ。」

微笑むラクサナ。
キラ:『ああそれからね。カーデシアのターボリフトの位置メカニズムには、露出マルチフェイズ交流が通っているから、液化して逃げ出そうとしちゃダメよ。』
オドー:「…考えつかなかった。」
ラクサナ:「それに、そんなの失礼よ?」
キラ:『え、何ですって?』
オドー:「…いや、何でもありませんよ。」
『じゃがんばって。通信終了。』
ラクサナ:「…ああ…閉じ込められてるけど、命の危険はあるわけ?」
オドー:「落ち着いていれば平気です。」
「ああ…どうせ出られないんだから楽しく過ごした方がいいでしょ? せっかく二人きりなんだもの、仲良くやりましょうよ。」
「いやあ、私は静かに時を過ごす方が好きでして。」
「ああ、静かに。」
「そうです。」
「わかったわ。」
「どうも。」
「うん。…うわあ。うーん、無口な人なのね?」
「うーん…。」
「私って昔から寡黙な男に弱いのよ? 変な話でしょ? でも、男は不言実行ということわざもあるぐらいだし、やっぱり…」
オドーはラクサナを見た。
咳払いするラクサナ。「…静かにね。……ああ…。」 座り込む。「オドー?」
オドー:「何です?」
「私には無理よ。」
「…無理って何が。」
「…だから、あなたは黙っててもちっとも構わないけれど、私はどうしてもしゃべらないではいられないたちなのよ。」
「…気持ちはわかります。」 オドーもかがんだ。「でも怖がることはありません。」
笑うラクサナ。「そりゃそうよね…。こーれぐらい何てことないわよ。」
オドー:「そうですか。」
「…そうだ。私一度娘と旅行中に、フェレンギの貨物船に閉じ込められたの。それでね? もひどい目に遭ったのよ? と言っても今となっちゃ笑って話せるけどね? …そそ、嫌なディモン※23がその船に乗っててね。でもま、そんなに悪い男ってわけでもなかったけど、ただその…ちょっと暗い感じでね…。でもどことなく魅力があって、ウンうぬぼれてるとこが可愛いのよう。それでね、そのディモンが私に首っ丈になっちゃったんだけど、ほら女に本気で惚れる男に悪い男はいないって言うじゃない?」
呆れるオドー。
ラクサナ:「もちろん私を閉じ込めたのは…つまり、元々は商売の話も絡んでたらしいんだけど。ディモンは私に参っちゃってね…ほんとにものすごい熱の上げようなのよ? でも、女ってやっぱり好かれて悪い気はしないじゃない? 彼ほんとに可愛かったわ? …ベッドを共にしたのも最初はディモンを油断させるつもりだったんだけどいつのまにか…あなた何見てんの?」
オドー:「…うん…ん、ああいや別に。いやただちょっと、そこの露出サーキットのボルトの数を数えてただけですよ。」
「ああ…」
「続けて。」
「…それで? 結局のところディモンと私はね…」

ベシアは不安な表情だ。
シスコ:「いいチャンスだと思えばいいじゃないか。大使と懇意になっておけば君の将来は明るいぞ? 出世だって早くなるってもんだ。」
ベシア:「あと一時間も一緒にいたら、僕の将来は真っ暗ですよ。」
「簡単な仕事だろう。…機嫌を取って、私の邪魔をさせるな。」
「しかしですねえ! 何をやっても不機嫌なんです。いくら機嫌を取ってやってもグズグズ言うもんだから、こっちまで暗い気分になってきます! あれじゃ不幸の使節団って言われてもしょうがないですよ!」
笑うシスコ。「みんな一度は通る関門なんだよ。」
ベシア:「じゃ司令官も?」
「昔クルゾン・ダックスは、私を VIP の世話係に任命していじめてくれたもんだよ。」
「あ、それで今度は私を任命していじめてるってわけなんですね?」
「ま、そういうことだ。」
「お聞きしたいんですが、司令官はどうやって世話係から卒業したんですか。」
シスコは立ち上がった。「VIP の一人をぶん殴ったんだよ。」
ベシア:「…ぶん殴った?」
「そいつが若い女性の少尉を無理矢理自分の部屋に連れ込もうとしたのを見てしまったんでね?」 ベシアの肩に手を回すシスコ。「しかし、君は真似しちゃダメだぞ? 私はクルゾンほど、理解がないからな。」 そのまま司令官室を出る。
「ああ…わかりました。」 歩いていくベシア。
オブライエン:「司令官、少しお話が。…コンピューターなんですが。」
シスコ:「まだ手こずってるのか。」
「いえいえ、その反対なんです。EPS パワーフローの修理も、1時間でした。」
「そりゃよかったな。いつ頃オドーと大使を救出できる。」
「まだです。なぜかターボリフトのサーキットは起動しなかったんです。」
「そりゃあ一体どういうことなんだ。」
「ちょっと、これを聞いて下さい。コンピューター、分析を頼む。司令室の O2 センサーの数値だ。」
コンピューター:『全てのセンサーの数値は 14.3 から 14.4KSC の間に入っています。』
「ああ…コンピューター、シールドジェネレーター補助システムを再開せよ。」
『シールドジェネレーター補助システムを起動モードにセット。98.3%の効率です。』
「聞きましたか。」
シスコ:「……聞くって何を。」
「声ですよ。前の声と違ってます。※24
「私には同じに聞こえるが。」
「コンピューターにはそれぞれ個性があって声も違うんです。使った感じも違います。エンタープライズのコンピューターとはワルツを踊るようで、このコンピューターとはレスリングをするようでした。あの探査船を調べ始めるまではね?」
「探査船からコンピューターに影響を及ぼすプログラムが出てるわけか。」
「いえ、プログラムなんてもんじゃありません。コンピューターの性格が全く変わってしまった。あれほど命令に逆らったり意見したりしていたのに、すっかり素直になって。それに、もう一つ信じられないような現象が起こっているんですよ。」
「どんな現象だ。」
「私が席を外すと、トラブルを起こして呼ぶんです。」
「呼ぶって?」
「呼び戻すんです。ターボリフトと、転送機のパワー停止もそうです。少し前に転送機パッドを修理に行ったら、通信ラインがいかれてましてね。食事に行くと今度はレプリケーターが動かないっていうじゃないですか。…私が、コンピューターのそばを離れるのが嫌みたいなんです。」
「子供が親にしがみつくようにか?」


※23: 吹き替えでは「ディモンって嫌な男」と名前のように訳されていますが、ディモン (デイモン) はフェレンギ人の艦長に相当する肩書き。ここでラクサナが話していることは、TNG第72話 "Menage a Troi" 「愛なき関係」での出来事です

※24: 吹き替えでは本当にコンピューターの声の調子を変えていますが、原語では (シスコもわからなかったように) そこまで明らかには変わっていないように聞こえます。そもそも探査機のデータをダウンロードした時点で影響を受けているはずなので、変えるならもっと前からじゃないと妙ですね。それとは別に、このオブライエンのセリフはエンタープライズ (連邦) のコンピューター音声を担当している、ラクサナ役メイジェル・バレットのことを意識した発言のようにも思えます。なお DS9 (カーデシア) もバレットが担当しているように書いてある書籍がありましたが、実際はきちんとジュディ・ガーランドという別の方が行っています。バレットはあくまで、ディファイアントやランナバウトなどの連邦コンピューターだけです (吹き替えでは特に訳し分けされていませんが)

探査機は、まだ DS9 のそばにある。
『ステーション日誌、補足。オドーとトロイ大使は、ターボリフトに閉じ込められたままだ。しかしステーションのコンピューターが機能しなくなった原因は、未だにつかめていない。』
ダックス:「私達には未知の非生物的な生命体なのかもしれないわね?」
キラ:「非生物的?」
「…つまり、生命体をどう定義するかってことよ。私達の文明では有機的な生命が進化を遂げてきたけど、機械的な生命が存在するかもしれない。」
「…それじゃあ、捨てられた子供ってわけ?」
「ありえるでしょ?」
シスコ:「何とか交信できないだろうか。」
オブライエン:「ある意味じゃもう交信してます。こっちのコンピューターに入り込んでますから。」
ダックス:「でも、直接のコミュニケーションとなると難しいかもしれないわね。あの生命体※25に知覚があるという証拠はないし。」
キラ:「あなたにすり寄ってくる迷子の子犬といったところかしらね。」
シスコ:「だがステーションのこれ以上の機能混乱は困る。早く正常に戻さないとな。」
オブライエン:「あれが来たのはこちらが向こうのファイルをダウンロードした時です。だから同じファイルをアップロードして返してやればもしかして、帰るかもしれない。」
ダックス:「でも既にこっちのコンピューターと一体化していたら?」
「もしそうだとしたら、ウィルス症状が出てるはずです。でもシステムを破壊しようとしたり、コントロールネットワークをオーバーライドしようとした形跡はありません。多分、コンピューターがアクティブな領域に接続しただけじゃないかと思いますけどねえ。」
「コンピューターが機能するエネルギーを吸い取ってるってところね?」
「…恐らくですが、ステーションからあっちのプログラムを全て移送すれば問題は解決しますよ。」
うなずくシスコ。取りかかるオブライエンとダックス。
シスコ:「オドーから最後に連絡があったのはいつだ。」
キラ:「通信ラインはもう 90分ダウンなんです。閉じ込められてからは 4時間ですね。」
「…オドーの再生サイクルが、何時間おきか知ってるか。」
「いいえ、聞いたことないわ? でもバケツに戻るのが間に合わなかったら。」

司令室。
コンピューター:『亜空間エミッター調整完了。データストリーム放出開始。』
オブライエン:「コンピューター、探査船の全指令順序を探査船のコンピューターにアップロードせよ。」
『お待ち下さい。ただいまの指示は実行不能です。ほかの指示に言い換えて下さい。』
「亜空間エミッター、リセット。データストリーム再初期化。」
『レセプター、オープン。コントロール中継起動。』
「探査船の全指令順序を探査船のコンピューターにアップロードせよ。」
『お待ち下さい。』
いきなりライトが落ちた。
オブライエンはシスコに言った。「…ああ…思ったより厄介なことになっちゃいました。」

暗いプロムナードを歩くタクスコ。「暖房が大丈夫ならいいんだけど。冬服はもってきてないのよ。」
ベシア:「一時的な停電ですから、平気ですよ。」
ヴァルカン人:「技術チーフの書いた報告書を読ませてもらったんだよ。なかなか優秀なエンジニアだという印象を受けていたんだ。」
「オブライエンですか。艦隊じゃトップクラスですよ。」
「じゃなぜバックアップシステムが動かんのだ。」
「仕方ないですよ。…ここは最前線のステーションですから…次から次に事件が起こるんです。…そろそろ御部屋に戻りましょうか。こんなに真っ暗闇の中をウロウロと、歩き回っても仕方ないですし。」

DS9 全体の明かりが落ちている。
ラクサナ:「…もう私のことはいいわ…?」
オドー:「ん?」
「話し尽くしちゃった。」
「ああ。」
「あなたのこと聞かせて。」
「ああ…自分のことはしゃべらないたちでして。」
「ほんとに徹底してるのね…? …その髪は本物?」
「…もちろん私の一部ではありますが、本物の髪ではありません。」 オドーは顔が湿っぽくなっており、様子が変だ。
「ふーん? どうやってるの? 髪のセットよ。」
「…これは結構練習しましたよ。」
「ヘアスタイルを勉強したの。」
「…この髪型は、私の担当だったベイジョーの男の髪型を真似したものなんですよ。」
「担当って?」
「研究所で、私を調査した…科学者でしたけど。」
「…ということはあなたは研究所で育てられたわけ。」
「…いやあ、私はあなた方とは成長の仕方が違います。育つって言うより、変化するって言った方がいいな。…自分のなろうとするものにね。」
「ああ…そうなの。…何だかとっても孤独なのねえ?」
「……でも独りに慣れてますからね。」
「…そうならざるをえないわよね? …生き延びるためにはよ? だって、そんなに周りの人と違うんだもの。」
「…オドーより司令室。」 何度もコミュニケーターを叩くオドー。「オドーより司令室。フン、まだ復活しないらしい。何でこんなにかかるんだろう。」
「大丈夫なの? 何だか体温が上がってるみたいよ…」
「いえ大丈夫です。」
「ああ…。ああ、大変な苦労をしてきたのねえ? …話すのが辛ければもうやめるけど。」
「いえ、いいですよ。…苦労と言いますか、まあ言うなれば、ハ、サーカスのピエロかな。」
「ピエロって、どういうことなの?」
「要するに見せ物なんですよね。みんなが面白がってはやすわけですよ。ヘ、『椅子になれ』って言われれば椅子になり、『カミソリネコ※26になれ』と言われればカミソリネコになる。まるで芸人ですよ、フン。…だから、人付き合いは苦手でね。」
「…あなたは拾われた星が悪かったのよ? 私の星へいらっしゃいな? 大勢客を招いてあなたの前で芸をさせてやるわ?」
「…ああ…ああ。」
「やっぱり具合が悪いんでしょ?」
「いや病気じゃありません。……私は、16時間おきに液体に戻るって言ったでしょ。…あと一時間で、16時間なんです…。」
身体をすり寄せるラクサナ。

報告するオブライエン。「準備完了。」
シスコ:「どれぐらいで片がつくかな。」
「上手くいけば、60秒以内に探査船の全ファイルをアイソリニアロッド※27にマニュアル移送できるはずなんですが。」
「よし、やってくれ。」
「コンピューター、全パワーシステムにレベル1 のチェックをかけてくれ。」
コンピューター:『チェック完了まで 43分かかります。お待ち下さい。』
シスコ:「コンピューター、境界線近くにいるカーデシアの船を分析してくれ。」
『長距離センサーを準備しています。お待ち下さい。』
アナラはアイソリニアロッドを抜いていく。
ダックス:「コンピューター、今までのワームホールの活動のデータベースを作成してちょうだい?」
コンピューター:『対象期間を限定して下さい。』
「今までの活動全てよ?」
『ただいまの指示を実行するには亜空間リンクアップが必要ですが。』 コンピューターの声が遅くなってきた。
「以下のコロニーと亜空間リンクを作成しなさい。ネル・コロニー※28。ニューフランス・コロニー※29。それからコラド1 トランスミッターアレイ※30。」
『リンクアップ開始。お待ち…下さい。』 更にコンピューターの反応が鈍くなる。
アナラ:「コンピューター、ベイジョーの中央データバンクの音楽ファイルにアクセスして、セレナーデの代表曲をピックアップして?」
『…お待ち…下さい。命令実行、不可能。お待ち…』
いきなりコンソールから火花が飛んだ。
ダックス:「居住区にすさまじいプラズマサージが出ました。」

廊下を歩くボリアン。「例の探査船の報告は時間通りにやってもらわんと困るよ。停電でも何でも。」
ベシア:「はい、司令官にそう申し伝えます。」
前方の壁面が突然爆発し、炎が襲ってきた。

キラ:「通路 H 12-A でプラズマが爆発。ゲスト区域です。」
オブライエン:「コンピューターが反応しない。消火システムが一つも作動しません。」
ダックス:「通路 H 12-A に 4人います。」
シスコ:「少佐、一緒に来い。チーフ、直ちにクルーを派遣しろ。こうなったら手で消火だ!」
オブライエン:「了解!」

煙に咳き込む大使たち。
ベシアはドアを開けようとするが、反応がない。手動でも無理だ。
火が迫ってくる。


※25: 吹き替えでは entity が「探査船」と解釈されて訳されていますが、あの探査機自体に知覚があるわけないですね。前のキラのセリフも「あの探査船は、捨てられた子供ってわけ?」と訳されており、探査機と中の生命体を混同している節が見受けられます

※26: razorcat
吹き替えでは単に「ネコ」

※27: 吹き替えでは「あっちのアイソリニアロッド」と、探査機の装備であるように訳されています。横でアナラが取っているのが記録媒体のアイソリニアロッドで、それに移動させてしまおうという作戦です

※28: Nehru Colony

※29: New France Colony

※30: Corado I Transmitter Array
吹き替えでは「コラド1…」。コロラド=Colorado

廊下を遮る隔壁のところに来たシスコ。開けることはできない。
シスコ:「フェイザーを最大にしろ。」
キラと共に撃つが、表の部分が溶けただけだ。
キラ:「トラニアム※31だから駄目だわ。これを焼き切るには二極性バーナー※32じゃないと無理でしょうね。」
シスコ:「司令室に戻って、少々手間取りそうだと伝えろ。消火システムが作動しなければ、中の 4人は助からんぞ。」
保安部員:「わかりました。」

司令室のオブライエン。「全然反応してくれないんです。」
ダックス:「きっと出ていきたくないのよ。迷子の子犬みたいね。」
「あの探査船はどれぐらい宇宙をさまよっていたんですかねえ? もう何年も、独りぼっちだったのかもしれません。例えれば、子犬を部屋に閉じ込めるようなもんです。昔飼っていたイヌは、私が出かけるんで部屋に入れるとドアをガリガリ引っかいてね。」
「何を言いたいのかわからないんだけど。」
「イヌは孤独が大っ嫌いなんです。構ってもらいたいんですよ。」
「確かに今、構ってもらってるわ?」
「そうですよ。だから出て行きたがらないのも当然なんだ。」
「じゃあ、私達はどうすればいいわけ?」
「今までのことから見て、この生命体は動きのあるところが好きなようです。動くコンピューターのエネルギーを吸い取ってるみたいだから、我々はコンピューターからこいつを切り離そうとしました。でもほんとは逆なんですよ。」
「逆って、どういうこと?」
「つまり、犬小屋を造りゃいいんです。」

オドーは後ろを向き、息を切らしている。「…オドーより司令室。ああ…ああ…やっぱり駄目か。」
ラクサナ:「オドー。こっちを向いて。」
「駄目です。液化が始まってる。」
「構わないわよ。」
「液化した姿を、人前にさらしたことは一度もないんです。」
「あなたを研究してた科学者には見せたでしょ?」
「彼は別ですよ。私は研究対象だし。」
「…でも何も恥に思うことなんかないじゃない。」
「恥じてるわけじゃありません。…ただプライベートな、ことですから。」
「…私に、何かできることがあったら言って?」
「いいんです。大丈夫です…。」
オドーは顔が溶けかかっている。その前に、金色の物が突き出された。
オドー:「何ですこれ。」
ラクサナ:「私の髪よ?」
振り返るオドー。
ラクサナはカツラを外した姿をしていた。「人前でカツラを取ったのは、今日が初めて。」 黒い髪が質素にまとめられているだけだ。
オドー:「何でです? とても綺麗なのに。」
「…でも普通すぎるでしょ? 私は普通なのは絶対嫌なの。ね? 流動体生物じゃない私達だって、時には姿を変えることがあるのよ?」
「…あなたは見かけと中身が全然違うんですね。」
「…今までで一番嬉しい誉め言葉だわ?」
声を上げるオドー。「もう、もうこれ以上形を保っていられない…ああ…」
ラクサナ:「大丈夫よ。…後は任せて。」
液体化するオドー。
ラクサナはドレスのすそで、オドーを受け止めた。

二極性トーチで隔壁を焼き切るシスコ。
キラ:「携帯酸素がいるわね。それからプラズマによる火傷の治療薬も必要だわ。ベイジョーまで移送する場合に備えてシャトルも用意しておいて。」
保安部員:「了解。」

尋ねるオブライエン。「アナラ。」
アナラ:「サブプログラムは OK です。」
オブライエン:「コンピューター、『子犬※33』というサブプログラムを分析せよ。」
コンピューター:『該当するサブプログラムはデータの二方向転送と表示の一連のコマンドです。』
「そのサブプログラムを通じて全コンピューターのバックアップ機能を移動せよ。」
『バックアップ機能を移動させました。』
「いいぞ? いいか、コンピューターよーく聞いてくれよ? 探査船の全ての指令順序をコアメモリーから取りだした上で、サブプログラム子犬に移送せよ。」
『お待ち下さい。…移送完了です。』
すると、ライトが復旧した。

廊下も同じだ。
ダックス:『ダックスより司令官。全システムが正常に戻りました。ハッチも開くはずですが、どうでしょう。』
手動で操作するシスコ。「ハッチが開いた。スタンバイ!」
内部は燃え尽き、あちこち崩れている。火花が飛ぶ。
人の気配はない。
キラ:「宇宙艦隊司令部に連絡を。」
すると、脇のアクセストンネルのパネルが開いた。中からベシアが出てくる。
シスコ:「全員無事か。」
ベシア:「ええ、お手をどうぞ大使閣下。頭に気をつけて。」
タクスコ:「…いえジュリアン。タクスコって呼んでちょうだい。」 炎の影響は見られるが、元気だ。
シスコ:「大使閣下、大丈夫ですか。」
ボリアン:「ああ。ジュリアンのおかげだよ。」
最後に出てくるヴァルカン人。「このドクターはまだ採用一年目にしては落ち着いてるし頭も切れる。厳しい状況で、よくやってくれた。」
ボリアン:「褒賞があるように取り計らおう。」 ヴァルカン人と共に歩いていく。
シスコ:「…よくやったぞ、ドクター。」
ベシア:「…これで将来明るいかもしれませんね。※34

ターボリフトを降りるオドーとラクサナ。
ラクサナは再びカツラをつけている。「それじゃ、失礼するわ?」
オドー:「あ…。あのう…せっかくの、ピクニックがこんなことになってしまって残念でしたね。」
「…ピクニックっていうのはね? 何よりも誰と行くかが大切なのよ?」
「…あなたは心の優しい女性だ。感謝いたします。」
「あーら。」 オドーの顔に触れるラクサナ。「次に会う時はもっと私の魅力を見せてあげるわ?」 笑い、プロムナードを歩いていく。
オドーは見送った。

司令室に戻ってきたシスコ。「どうやってあの生命体を追い出したんだ。」
オブライエン:「追い出してません。」
ダックス:「養子にもらったの。」
シスコ:「養子に?」
オブライエン:「実はメインコマンドの経路から、サブプログラムへ移ってもらったんですよ。」
「それじゃまだ中にいるのか。」
「いいじゃないですか。すごく、幸せそうだしいい子にしてますよ。追い出すなんて人道に反します。」
ダックス:「一人お客さんが増えたって思えばいいだけのことよ。」
「でも御心配なく? 責任もって面倒見ます。」
シスコ:「…ドアを引っかかせるなよ。※35
オブライエン:「了解!」
オブライエンは、微笑んだ。


※31: toranium

※32: bipolar torch

※33: Pup

※34: 原語では「たまたま運が良かっただけですよ」という意味のことしか言っていません

※35: 原語では「家具には近づけるなよ」。オブライエンの飼い犬がドアを引っかいたという話をシスコは聞いていないので、この訳は妙と言えば妙ですね

・感想
ラクサナ・トロイが DS9 に初登場した話。TNG でもサブレギュラーとして活躍したラクサナは、DS9 ではオドーと関わり、一味違った魅力を発揮しています。この後第3シーズン "Fascination" 「恋の感謝祭」と、第4シーズン "The Muse" 「二人の女神」に登場。サブストーリーも含めて散々笑わせておいて、最後に落とすのはさすがです。
オドーの過去などが明かされているのも大きいですね。これらの設定は第2シーズンの "The Alternate" 「流動体生物の秘密」にきちんと引き継がれています。旧題はロイ・オービソンの曲にちなんだ "Only the Lonely" 「孤独な者だけ」でした。


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