氷河時代。
息をつくマッコイ。
スポック:「ドクター。ドクター、起きなさい!」
マッコイは目を開けた。「誰だ。」
ザラベス:「名前はザラベスよ?」
「ザラベス? スポック、ここはライブラリーか…」
スポック:「いいえ、まだ氷河時代ですがただ凍死の心配はありません。」
「カーク。カークはどうした…」
「ドクター、まだ起きるのは無理です。しばらく安静に。船長は私が捜します。」
「頼む、スポック。私の方は心配いらん。早く見つけてくれ。」 マッコイはまた眠った。
ザラベス:「…スポック。」 毛皮を脱ぐ。「カークって誰なの?」
スポック:「一緒に来た仲間。我々の上官だ。」
「いたのは 2人だけじゃない、ほかには誰も見なかったわ。」
「ここには来ていない。時の門をくぐって別の時代へ行ったんだ、今より何千年も新しい時代に。それを捜すためには、あの門からまた出るしかない。」 毛皮を手にするスポック。「ザラベス、あの時の門まで案内してくれないか。」
「でもあの人は、まだ弱ってるわ?」
「そうだった。このまま残していけば、また戻って船に連れ帰るのは時間的に無理だ。…永久に、置き去りになる。しかし、今また吹雪の中を行くのは危ない。もし私が残ればカーク船長の捜索に、誰も行けないということになる。」
「…まるで方程式でも解いてるみたい。」
「これは一種の方程式だ。論理的に、この問題を解決しなければならん。」
ザラベスはスポックの腕に触れた。
スポック:「多分アタヴァクロンもその一つの要素だ。その機能についてもっとわかれば。ザラベス、君はここに追放されて来たと言ったが。もしよかったら…」
ザラベス:「そのわけ? …私の身内に危険人物がいたってことなのよ。ゾール・カン暗殺の陰謀に 2人連座したの。」
「ああそういえばライブラリーでその名のファイルがあった。…専制君主ゾール・カン。」
「その 2人を殺しただけじゃ飽きたらず、一族の者をみんな根絶やしにしようとしたの。アタヴァクロンでみんなそれぞれ帰れない場所に送ったってわけよ。」
「ザラベス。アタヴァクロンのあるところに戻らなければならん。ドクターも連れて行く、君も来てくれ。君たちはすぐ船に転送させ、私は船長の行方を突き止める。」
「あの時の門はもうくぐれないわ? もしくぐったら、死んでしまうの。」
「…それは君だけなのか。」
「…誰でも同じだわ。私達の身体はもうアタヴァクロンで変えられているのよ。」
目を覚ますマッコイ。
ザラベス:「門をくぐるとき、身体の組織を入る時代に合わせるんだって。…だからもう戻れないわ。もう一度時の門をくぐっても、生きて向こう側へ着くことはできないのよ。」
マッコイ:「スポック。…ここはどこだ。」 立ち上がっている。
「安全なところよ?」
「君か、覚えてるよ。」
スポック:「さあドクター、横になって。」
「…何をグズグズしてるんだ、スポック! なぜカークを捜しに行かん。」
「船長を捜すのはもう不可能です、向こうへは戻れません。」
「何を言ってるんだ、戻らなくてどうする。」
「ザラベスから聞いたんです。…時の門をくぐったときに、我々の生理構造は変えられています。もしライブラリーへ戻ろうとすれば、死んでしまいます。」
「つまり、ここから一生出られないって言うのか。」
「その通りです、出られません。それは船長にとっても同じことですが?」
牢屋のカークは、辺りを見ている。
『航星日誌、宇宙暦 5943.9※26。この時代の人間は魔女の存在を信じており、そのため私は投獄された。ドクターの声を悪霊だと思い込み、私が魔法を使ったというのだ。一度魔女裁判が始まればもう逃げ場はない。その前に、何としてでもあの検事と話したいのだが。』
戻ってきた警官。「お前は晩飯抜きだ。」 スリの部屋を開ける。「出ろ。来るんだ。」
警官はスリを連れて行った。
牢番※27がカークのところへやってきた。「皿を出しな。」
カークは入れてもらう振りをして、牢番の手をつかんだ。「静かにしろ。さもないと首を折るぞ。」 鍵を取った。「動くな。」
扉を開けるカーク。牢番を殴り、意識を失わせた。
牢番を牢屋の奥に入れ、扉を閉める。
検事が来た。「おい、牢番。おらんのか。」
カーク:「私は無罪だ、それは知ってるはずだ。」
「これからお前を宗教裁判所の方へ回すことにした。そこで魔女かどうか厳しく審問されるんだ。おーい、門番…」
「魔女や悪霊など全て迷信だ。」
「何て恐ろしいことを。そんなこと言えば間違いなく火あぶりになってしまう。」
「相手が君だから話してるんだ、わかってるだろ。魔女なんていない、なぜ否定するんだ。」
「そんなこと人前で言うな! …※28魔女は存在するんだ! 魔女はいる! 審問官の前に引き出されたら必ず魔女だと言われるぞ。」 検事は手をつかまれた。「おい何をする。」
扉を開けるカーク。
検事:「おいやめろ! おい、離せ!」
カークは検事を中に入れた。倒れた牢番を見る検事。
カークは検事のあごをつかむ。「そうなったら君も、告発するぞ。同じように未来から来たこともぶちまけてやる。そうなれば魔女になるんだぞ!」
検事:「やめてくれ。それじゃこのわしは破滅だ。火あぶりにされる。」
「じゃあ助けてくれ。」
「わかった、できる限りのことをする。お前の言い分も何とか取り上げてやる。だがもう二度と、残してきた仲間と話さんでくれ。」
「ライブラリーに戻りたい、門を教えてくれ。もう一刻の猶予はできん。」
「戻るのはもう駄目だ。」
「どうしても戻る、仲間が 2人いるんだ。別の時代に迷い込んでいる、捜したいんだ。一緒に来てくれ。」
「戻ることはもうできん。ここで生きるしかない。一生死ぬまで。あの時の門をくぐる前に身体の組織※29を変えて準備した。この時代に、適合させるためだ。また未来に戻ろうとすれば、我々は死ぬ。」
「『準備』。そういえばエトスは、そんなものはしなかった。準備してないから待てと言っていた。」
「では今すぐ戻るんだ! 準備していないとすれば、ここに数時間いれば不適合でやはり死んでしまうんだ。…来るんだい、さあ早く!」 外へ連れて行く検事。
器を持っているマッコイ。「ザラベス、料理も魅力も満点だ。…前にそう言われたことは?」
ザラベス:「最近ないわ?」
「そうか、そういう意味でこのスポックは甚だ怠慢だからな?」
「あら知らなかったわ?」
「…ほう?」
スポックを笑顔で見るザラベス。
マッコイ:「まあ、気分も良くなったし今に我々 2人の違いもはっきりするよ。」
スポック:「なるほど?」
ザラベス:「そう、私も楽しみだわ。…気分はすっかり良くなったようね、もっと実のあるもの食べた方がいいわ?」
マッコイ:「いやあ、まだいい。」
「その元気じゃ元通りになるのもあと一息ね、わかるわ。」
スポック:「さっきと比べるとまるで別人だ。」
マッコイ:「しかし、スポックは医者としてはモグリだから診察は当てにならん。やっぱり診るのは、本職でないとね?」
「患者として一番厄介だ。…エンタープライズでも、まず最悪ですね。」
「そういえば今どこかな。」
「5,000年も未来にいますよ。」
器を返すマッコイ。「どうも。」
離れるザラベス。
マッコイ:「……それにしてもカークは。」
スポック:「わかりません。どこにいるにせよ、無事を祈る以外はありませんね。」
「無事を祈る以外にないだと? このまま何もしないつもりか。」
「何ができますか。」
「あの門を捜すんだ、決まってるじゃないか。」
「…また蒸し返しですか、何度繰り返しても結論は同じです。どっちみち戻れない、それがわからないんですか。」
「いや問題はそこだ。」
「どうも『戻れない』という意味が飲み込めていないようですねえ、説明しないとわからないんですか?」
「ああまるで飲み込めんよ。君がそう簡単にあきらめるわけがさっぱりわからん。」
「じゃ、もう一度言いましょう。頭に叩き込むんですね。我々はもう戻れない! ここに置き去りだ。このまま、一生この氷河時代で過ごす。…これから一生どこへも行けないんです! さあ、これでおわかりですか?」
「…ああ、わかったよ。…全く想像外だったが、やっと飲み込めた。君はここにいたいんだ。その理由もわかる。君にそれほど感情があるとは全くの驚きさ!」
「自分は、氷のように冷たいとでも言うつもりですか※30。」
「おい、いいか? 冷血のヴァルカン人のくせに…」
スポックはマッコイの首元をつかみ、立たせた。「いい加減にして下さい! 前から嫌な奴だと思ってたがもう我慢ならん!」
マッコイ:「…おいスポック、一体どうしたんだ。」
「どうもこうもない、ずっと前に言うべきだった。」 乱暴に離すスポック。
無言で歩いていく。
マッコイ:「『ずっと前』。そうだ。ずっと昔。」
カークを連れて夜の町を歩く検事。「確かこの辺だ。正確な場所は覚えてない。」
壁を探るカーク。順番に触れていく。
すると、あるところで手が突き抜けた。
検事:「それだ! 門はそこだよ。…すまんがわしは帰るぞ?」 一度振り返り、歩いていった。
ふらつくカーク。
壁を抜け、消えた。
時の門を越え、ライブラリーに戻ってきた。「スポック! ドクター!」 コミュニケーターを使う。「カークよりエンタープライズ。」
スコット:『はい、スコットです。』
「太陽爆発まで後どのくらいだ。」
『17分です、今すぐ戻って下さい。』
「それが駄目なんだ、スポックとドクターが行方不明だ。」
『何かあると思いました、救援隊出しますか。』
「いかん、もう時間がない。これ以上の人員を危険にさらすわけにはいかんよ。ワープ飛行を準備してスタンバイだ、以上。…エトスさん。いますか!」
アタヴァクロンに近づくカーク。
エトス:「お呼びですか? あなたか、よくここに戻れましたね。今すぐ準備しないといけない、アタヴァクロンで…」
カーク:「いや。実は我々は、この惑星の住民じゃなかったんだ。だから過去へゆくのは困る。一緒にいた、2人の仲間もすぐに戻してくれ。」
「では今すぐ元いたところに戻してあげましょう。」
「駄目だ。あの 2人の見ていたディスクはどれだ、教えてくれたまえ。」
「駄目です、戻りなさい。」
「頼む、捜してくれ。」
「駄目です。私ももう、逃げないといかん。」
エトスを部屋に押し込むカーク。「あと一分でいいんだ。」
だがまた前からエトスが近づいた。
カーク:「まだ分身の術を使ってるらしいな。本物か偽物か。」
つかみかかってくるエトスの、意識を失わせるカーク。
前にいるエトス。「命も惜しくないのか。…何をするつもりか知らんが手遅れだ、もう時間がない。このままじゃ 2人とも死ぬ、私はまだ死にたくないんだ。」
カーク:「手を貸してくれれば死なないで済む、保証する。」
「信用できん。」
「今度はどっちだ、分身か本物か。」
「もう本物しかおらん、分身を駄目にしてしまった。こうなったら、非常手段もやむをえんな。」 エトスは裾から道具を取り出した。
「本気でやるつもりなのか。これまで、助けようとしてたのに。…そんな物しまうんだ。」
光がカークに当たり、苦しむ。カークは倒れた。
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※26: 吹き替えでは「0404.3072」で、なぜか最初の数字 (脚注※3) と変わっていません
※27: The Jailor (スタン・バレット Stan Barrett) 声:石森達幸?
※28: 牢屋の内側と外側からのアングルで、カークが手にしている鉄格子の場所が異なります (内側では両手の間に 1本しかないが、外側からだと 2本)
※29: 原語では「細胞構造と脳のパターン」
※30: 原語では、マッコイ「君はここにいたいんだ。それどころか、この忘れられた荒れ地に進んで留まろうとしている」 スポック「その行く末は、たった今ドクターが魅力的に思っていたようですが」
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