TOS エピソードガイド
第78話「タイムマシンの危機」
All Our Yesterdays
イントロダクション
※1※2惑星に近づくエンタープライズ。 『航星日誌、宇宙暦 5943.7※3。恒星ベーター・ニオベ※4は、3時間半後に新星に変わる。その星系の惑星中、人類が生存しているのはサーペイドン※5だけであった。しかし船からの探索では、生命体は一つも認められなかった。』 エンタープライズは軌道上にいる。 部屋の中に転送されるカーク、スポック、マッコイ。 トリコーダーを使うスポック。「動力源はこの建物に間違いありません。」 カーク:「生存者はいないのか。」 「全く反応はありません。」 マッコイ:「一人残らずどこかへ消え失せたというのか。」 カーク:「太陽が消滅すると知って、集団自殺でも図ったのかもしれんな。」 スポック:「記録によれば宇宙飛行の能力もありません。ここは見たところライブラリーか、記録保存所のようですね。」 「何があったか調べるのに、一番適当な場所だ。もし生存者がいるとすれば、まずここだろ。」 マッコイ:「それじゃ、早速捜そう。」 突然声が聞こえた。「お手伝いいたしましょう。」 老人が立っている。「私はここの係の者です。ご用があったら、何でも。」 スポック:「お願いします、お名前は?」 「エトス※6。あなた方を見て実は少々驚いています。すでにみんな立ち去ったとばかり思っていた。…ま、正直言って嬉しいですがね。何と言っても、ライブラリーは利用者がいなければ宝の持ち腐れです。」 カーク:「みんな立ち去ったって、どこに。」 「それは人によって、まちまちですよ。ある特定の人の行方を追うのは、ちょっとどうも。それは個人の秘密ですから。」 マッコイ:「いやいや特定じゃなく、住民一般についてです。どこ行ったんです。」 「ははあ、まだ迷っておられるんですな? そうでしょう? …さよう、非常に広い範囲の中から選ぶんですから。ま、どうぞ御覧下さい。まず、端の方の部屋から。」 奥へ向かう 3人。 すると前方からエトスが現れた。「お手伝いしましょう。…ここには 2万以上の、ヴェリジムテープ※7が保存されているんです。ごく最近入った物も、何本か※8あります。…多分その中に気に入る物もあるでしょう。いかがです、何か特別のお好みはあるでしょうか?」 カーク:「できるだけ最近の物がいい。」 「最近。残念ですが、その分野はわずかしかありませんな。需要があまりないので。」 「いやあ、そう広くなくても。2、3 質問するだけです。」 「結構。相談なら、向こうのデスクのところで。」 向かうカーク。 するとそこにもエトスがいた。「遅いですね、どっか寄り道でも。」 カーク:「そちらこそ随分素早いですね。あなたは一体何人いるんです。」 |
※1: このエピソードは 1969年度エミー賞で、美術監督・舞台設計賞にノミネートされました ※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 暗闇の悪魔」収録「ああ、過ぎさりし日よ」になります ※3: TOS シリーズ内での宇宙暦では、最終話である次話 "Turnabout Intruder" 「変身! カーク船長の危機」より大きな数字で、最後のものとなります。吹き替えでは「0404.3072」 ※4: Beta Niobe TNG第25話 "Conspiracy" 「恐るべき陰謀」での宇宙艦隊本部の星図内にもあるそうですが、画面上では読み取れません。ニオベはギリシア神話に登場する女神で、子供を殺されたため泣く石になりました ※5: Sarpeidon 原語ではヒューマノイドが住んでいるだけでなく、「(ベーター・ニオベの) 唯一の惑星」とも言っています。吹き替えでは「サプレイドン」 ※6: エトスさん (ミスター・エトス) Mr. Atoz (イアン・ウルフ Ian Wolfe TOS第43話 "Bread and Circuses" 「もう一つの地球」のセプティマス (Septimus) 役。1992年1月に死去) 名前は「A to Z =A から Z」にちなんで。声:北村弘一 (一部資料では北村引一と誤記) ※7: verism tape ※8: 原語では「数百本も」 |
本編
サーペイドン。 カーク:「…我々は、あなたに言われるとすぐこちらへ来たんですが。」 スポック:「申し訳ありません、私の過ちです。装置の操作ミスらしい。ここには誰もいない、反応はそう出ていたんで。」 エトス:「それはそうでしょう。住民はずっと前から、太陽が新星になることは知っていた。だから指示に従ってみんな避難したんです。あなた方も早くそうすべきです。」 カーク:「みんな無事なんですか。」 「もちろん。間違いなく保証します。」 「どこに行ったんです。」 「それぞれ行きたいところにですよ。選択するのは完全に個人の自由です。」 「なるほど。で、あなたがみんなをその希望する場所に送ってやったというわけですね?」 「さよう、その通り。もうみんな行きました。残りはあなた方だけです。もっとも、私はまだ分身と一緒に最後の後始末を。」 ライブラリーのところにいるエトスが微笑んだ。 カーク:「それで、そこにいるのは本物のあなたですか?」 エトス:「もちろんです。ここにいるのは本物ですよ。」 マッコイ:「間違いない、ちゃんと生命反応もある。」 カーク:「…あなたも一緒に避難しませんか。」 エトス:「いや、せっかくだが。その時が来たら、家族の下へ行きますので。どうぞ私のことは御心配なく。それより御自分のことを。時間はもう、迫っています。手遅れになる前に早く決めるんですね? …どうぞ、何でも利用して下さい。必要な資料はほとんど全て揃っています。全ての惑星の歴史※9も、ごく詳細に分類してありますから。ただ、好みの物を選べばいいんです。…時代、世紀、日時、分まで。どれでも、お好み次第です。」 ディスクを装置に入れる。「いや、これは違う。どうぞ御随意に。ただ急いだ方がいいですよ?」 「ええ、できるだけ早くします。残り時間は。」 スポック:「3時間13分。」 「いいか、これは重大な…」 エトス:「いかがですか、こちらに面白いものがありますよ?」 デスクの前に座るカーク。 エトス:「さて、これが嫌でしたら別のをお持ちしますよ?」 エトスは壁に備えつけられている、装置を操作している。 ディスクを前の機具※10に入れてみるカーク。 微笑んだ。ディスクの表面に、映像が映っている。 町並みと馬が見えた。 エトスに近づくスポック。 エトス:「どうです、決心はつきましたか。」 スポック:「選択するにも何を基準にしていいかわからなくて。」 「そう難しく考えんでも。一番興味のある時代にしたら?」 「なるほど。なかなか興味深い※11装置ですね、何です。」 「ああ。これはアタヴァクロン※12。」 「…面白い名前ですね。操作法は、構いませんか。」 「ああいやいや、いけません。その制御装置には触れないで下さい。」 ディスクを使うマッコイ。今度は一面氷の世界が映し出された。 エトス:「それよりまずゆき先を決めて、それが決まったらこのアタヴァクロンで送る準備をします。」 スポック:「では、おっしゃるとおりにします。」 映像を見つめ続けるカーク。馬車が見える。 女性の叫び声が聞こえた。後ろからだ。 カーク:「スポック、ドクター!」 エトス:「いけません! まだ準備ができていない!」 声が聞こえた方へ駆け出すカーク。すると音と共に一角の色が変わった。 向こう側に抜けることなく、消滅するカーク。 カークが出てきたのは、町だ。 女性※13が叫んでいる。「お離し…」 笑いながら女性を押し合っている男たち。みんな中世らしき格好だ。 入口に近づくスポックとマッコイ。 エトス:「準備がまだだ!」 2人は同時に奥へ向かった。カークと同じように消える。 そこは雪山だった。 マッコイ:「ここはどこなんだ!」 スポック:「それに船長も見えない!」 呆然とするカーク。 女性:「お離しったら、このけだもの…」 剣を持っている男。「…こいつめ…」 カークは男の一人を止めた。 男1※14:「邪魔するな、下郎の分際で!」 カークは殴り倒す。 男1:「身の程をわきまえぬこの無礼者めが。… カーク:「私は自由の身だ。」 男2※15:「ああ、そりゃ面白い。相手になるか。…腕前を見よう。」 剣を拾ったカーク。フェンシングの要領で裁き、相手の剣を落とさせた。 逃げていく男たち。笑う野次馬。 辺りを探るスポックとマッコイ。入口は見当たらない。 スポック:「この岩を熱すれば、しばらくしのげるでしょう。」 フェイザーを使おうとするが、発射されない。 マッコイ:「どうした!」 スポック:「駄目だ、フェイザーが操作不能です!」 女性が笑いながらカークに近づいた。「助かったよ、ヤバいところさ。財布盗るの押さえられちまってねえ…。」 カーク:「何だって? 怪我はないか。」 「ああ、あんたカモかと思ったら。どっかよそもんだね、そうだろう。いいさ。こっちはそれでヤバいとこ助かったんだ…。あのトンマ野郎、鼻へし折られていい気味だね。」 「一緒にライブラリーに戻った方がいい、もっと別の場所に行った方が安全じゃないかな。」 「構いやしないよ、でもあんたが来いってんなら。ライブラリーってどこよ。」 「すぐそこだ。」 自分が来た場所を見るカーク。ただの壁だ。 |
※9: もちろん、サーペイドンの全ての歴史という意味 ※10: TOS第51話 "Return to Tomorrow" 「地底160キロのエネルギー」で使われた、サーゴンの球体の台を逆さまにしたもの ※11: fascinating ※12: atavachron ラテン語の「太古」と、ギリシャ語の「時」を組み合わせた名称。TOS第55話 "Assignment: Earth" 「宇宙からの使者 Mr.セブン」の、ベータ5 コンピューターの使い回し ※13: Woman (アンナ・カレン Anna Karen) 声:油谷佐和子、DVD 補完では佐藤しのぶ、DS9 ダックスなど ※14: The First Fop (エド・ベイキー Ed Bakey 1988年5月に死去) ※15: Second Fop (アル・カヴェンズ Al Cavens 1985年12月に死去) 声は牢番役の石森さんが兼任? |
手をさするマッコイ。「カークが見えないが、スポック。すぐ前に入ったはずだ。」 壁を見るカーク。 スリ:「ねえ、どうしちまったのさ。早いとこズラカらないとあのトンマ野郎人を連れてくるよ?」 カーク:「私を初めて見た場所を、覚えてるか。この壁のどこかに入口がある、そこから出てきたんだが。」 「壁に頭でもぶつけたんじゃないのかい? 早くおいでよ、上手く潜り込める場所があるからさ…」 「いや、この辺に確かにあるんだ。」 マッコイの声が聞こえた。『カーク…』 雪山のマッコイ。「カーク、聞こえるか!」 カーク:「ドクター、スポック!」 スポック:「船長! …声は聞こえますが、今どこにいるんですか。ご無事ですか?」 カーク:「今おかしな時代に迷い込んでいる。」 スポック:『そうです、いま気がついたんですが住民は一種のタイムマシーンで、それぞれ過去に避難したんですね。』 ※16スリ:「大変だ、神様。魔物の声だよ。」 カーク:「いや、今のは違う。友達が呼んでるだけだ。スポック、ライブラリーにいるのか。」 スポック:「違います! 今いるのは丁度地球の極地に似た場所です。」 マッコイ:「今にも凍えそうだ!」 カーク:「ライブラリーには戻れないのか。」 スポック:「駄目です、入口がないんです。どこにも見当たりません。…辺りは一面氷の山です。」 カーク:「どういうわけだ。」 スポック:「船長が消えてしまう前に、エトスがアタヴァクロンという機械を操作してるところを目撃しました。」 カーク:「それが多分、あのテープのビューワーにつながっているんだろ。」 スポック:「過去への時の門を開くんです。そこを通ると、自分の見ていた過去へ行くわけです。」 マッコイ:「私はたまたま氷河時代のを見ていたんだ!」 「私がここへ来たのは、ドクターと一緒にあの門をくぐったせいだと思われます。」 カーク:「ああ。」 足音が聞こえた。 何人もの剣士がこちらへ近づいてきている。 カーク:「例の男が戻ってきたらしいぞ?」 捕まるスリ。「やめて、何すんのさ…」 男1:「この男も同罪だ、逮捕しろ!」 警官※17の声はマッコイたちにも聞こえている。『法律に従い、おとなしく一緒に来るんだ!』 カーク:「何の罪だ。」 警官:「巾着切りに盗人だ。」 「違う、何かの間違いだろ。」 マッコイ:『おい、どうしたんだ!』 警官:「見たか、ありゃ何だ。」 スリ:「魔物だよ!」 「立ち去れ、この悪魔め。神の裁きを邪魔する気か…」 カーク:「スポック、話すんだ!」 スポック:『船長!』 男1:「聞いたか※18、悪霊を操ってるんだぞ。口をふさげ、黙らせるんだ!」 『門の近くにいるようですね!』 カーク:「続けてくれ!」 抵抗するカーク。殴られた。 マッコイ:「カーク、どうしたんだ!」 連行されるカーク。 マッコイ:「何かトラブルが起きたらしいぞ、スポック。」 スポック:「早く避難所を見つけないと、こちらも大変なことになりそうです。」 動き始める。 吹雪の中を進む 2人。マッコイが倒れてしまった。 スポック:「さあ、しっかりして! このままいれば凍死ですよ!」 マッコイ:「おいてってくれ、スポック。」 「駄目です、行くなら一緒だ!」 「バカなことを言うな! 手も顔ももう凍傷にやられてる。足の感覚もまるでない。独りならまだチャンスはある、いいからおいてってくれ。早くカークを見つけるんだ!」 「行くなら一緒です!」 「この頑固なコチコチのヴァルカン人!」 人影が近づいた。毛皮を頭から被っている。 歩き出した。マッコイを抱え、ついていくスポック。 その人物は、岩山にある入口に案内した。中に入る 3人。 内部は広い洞窟になっている。奥を示す人物。 スポックはマッコイを寝かせた。「この寒さに耐えきれず、倒れたんです。」 そばの布をかけた。「残念ながら、医者は私でなくこの人だ。」 トリコーダーを使う。「余計な治療は、しない方がいいかもしれんな。暖かにして安静にしておけば自然に回復すると思う。」 毛皮の人物、ザラベス※19は顔を見せた。若い女性だ。 気づかず話すスポック。「ここは相当あったかい。」 ザラベスを見る。 ザラベス:「名前は?」 スポック:「スポックと言います。」 「ああ、名前も変わってるわね。…ごめんなさい? あなたのような人今まで見たことないの。……なぜここに来たの? やっぱり追放されて?」 「追放?」 「ここはゾール・カン※20が自分に都合の悪い者を消したいときよこす場所なのよ? …あの時の門から入ってきたんでしょ?」 「そう、あれを通って来たが追放されたわけではない。間違えてここに送られたんです。」 「ああ。アタヴァクロンはずーっと向こうよ? でもあなたたちもっと遠くから来たんでしょ?」 「その通り。…君の全然知らない世界から、何万光年※21と離れた遠い星だ。」 「ほんと? すごいわ! いつもそういう本読んでワクワクしてたの。」 表情を変えるザラベス。「…でも、ただのお話だわ。…これは、夢ね。…みんな私の妄想なのよ! …おかしくなりそうだわ!」 スポックはザラベスの手をつかんだ。「しっかりするんだ、これは夢じゃない! みんな本物だ。…私も本物だ、君の妄想じゃない!」 ザラベス:「ああ…私…今までずっとここに一人っきりで、いたのよ。だから 2人を見たとき、自分の目も信じられなくて。」 ザラベスの手を握り締めるスポック。マッコイを見た。 ザラベス:「死にそうなの?」 牢屋で眠ったままのカーク。音がし、警官がやってきた。「どうぞ、女はここです。男はこっちにぶち込んであります。」 一緒に来た黒服の検事※22。「開けろ。…起こすんだ。」 乱暴に座らされるカーク。警官は外に出る。 検事:「悪霊と話したという盗賊はお前か。」 カーク:「違う、ただの外国人だ。」 「どこから来たのだ。」 「ある国※23から。」 「一体どこの国だ。」 「…地球だ。」 「地球などという国はわしは知らん。ま、いい。続けて。」 「あの女を見たのは、今日が初めてだ。…つまり、悲鳴を聞いて誰かに襲われている。そう思って助けただけだ。」 「では仲間ではないと言うのだな…」 「ああ、絶対違う。ライブラリーで調べていたとき、悲鳴が聞こえた。」 その言葉を聞き、検事の表情が一変した。 カーク:「あの、ライブラリーを? やっぱりあんたも、あそこから来たんだな?」 検事:「どうも、この事件には関係なさそうだな。お前が嘘を言ってるとは思わない。」 スリ:「そいつは魔女※24だよ!」 「…おい、口を慎め! お前が泥棒なのはわかっとる! …見も知らぬ者を巻き添えにすると、さらに罪は重くなるぞ!」 「目に見えない悪霊と話してたんだ。魔女だよ! 悪魔の声を聞いてたじゃないか!」 警官:「その通りですよ。…悪霊がこいつに話しかけていた、それに応えて呼んでました。『スポック※25』とか。」 「魔女なんだ。…だから呪いをかけて、私に無理矢理財布を盗ませたんだよ!」 カーク:「そんなことを信じるのか。」 警官に剣を突きつけられる。 検事はカークの腕をつかんだ。「…確かにその声を聞いたのか?」 警官:「ええ、聞きましたよ。この耳ではっきりと。」 カーク:「あの声は違う、悪霊じゃない。壁の陰にいる友人が呼んだんだ。例のライブラリーだ。…そこにいたんだ!」 検事:「わしゃそんなものは知らん!」 「ライブラリーだ。」 「魔女について詳しい者を呼び審問するがよい。これはわしの管轄外だ。」 カークを押しやり、扉を閉める警官。 カーク:「…待ってくれ、あのエトスと会えるよう取り計らってもらえないか。」 検事:「そんな者は知らん…」 「嘘だ、知ってるはずだ!」 「何も知らん、わしに一切関係ない! いくら言っても無駄だ!」 「おい、待ってくれ!」 「関わり合いは御免だ!」 「こっちの言い分も聞いてくれ!」 検事と警官は去った。 スリ:「そうだよ、魔女だ! 悪魔だ! …火あぶりの刑だ。」 |
※16: TOS の旧国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (CS版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です ※17: The Constable (ジョニー・ヘイマー Jonnny Haymer 1989年11月に死去) 声:納谷六朗?、TOS (第1シーズン代役)/VOY スールー、TNG レミック、DS9 初代ウェイユンなど。DVD 補完では石森達幸 (補完部の吹き替えの直後、旧吹き替えの音声では別役の牢番 (脚注※27) も石森さんが演じていると思われます。石森さんは資料でも、本来は補完部がない牢番として表記されています。警官と牢番のキャラクターを混同した、補完部のミスキャストのような気も…) ※18: 吹き替えでは、「聞いたか」の部分にまでエコーがかかっているような… ※19: Zarabeth (マリエット・ハートレイ Mariette Hartley ジーン・ロッデンベリー製作のパイロット版だけで終わったテレビ映画、「SF地球最後の危機」(1973) でミュータントの Lyra'a 役を演じました。ドラマの超人ハルク「愛の鎮魂歌」(78) では、エミー賞主演女優賞を受賞。ほかに「ペイトン・プレイス物語」(65〜66) に出演。ポラロイドの CM では、ジェイムズ・ガーナーと共演 (YouTube)) 声:野村道子 (一部資料では野村通子と誤記)、DVD 補完では山川亜弥 ※20: Zor Khan ※21: 誤訳ではなく、それどころか原語では「何百万光年」と言っています。銀河系の直径は 10万光年なので、大きく矛盾します。異なった単位 (ヴァルカンかサーペイドンの一年を基準) で言ったのか、もしくは単なる誇張でしょうか ※22: The Prosecutor (カーミット・マードック Kermit Murdock 1981年2月に死去) 声:嶋俊介、TOS カイル、ムベンガ、旧ST5 マッコイなど ※23: 原語では「島」 ※24: wizard =魔法使いの誤訳ではなく、原語でも witch。この言葉には本来、男女を区別する意味合いはありません ※25: 原語では「ボーンズ」、つまり骨。ただし警官の前で呼びかけているシーンはありませんでした。原語ではスポックとも呼びかけていませんが、吹き替えではきちんと入っているため矛盾自体はありません |
氷河時代。 息をつくマッコイ。 スポック:「ドクター。ドクター、起きなさい!」 マッコイは目を開けた。「誰だ。」 ザラベス:「名前はザラベスよ?」 「ザラベス? スポック、ここはライブラリーか…」 スポック:「いいえ、まだ氷河時代ですがただ凍死の心配はありません。」 「カーク。カークはどうした…」 「ドクター、まだ起きるのは無理です。しばらく安静に。船長は私が捜します。」 「頼む、スポック。私の方は心配いらん。早く見つけてくれ。」 マッコイはまた眠った。 ザラベス:「…スポック。」 毛皮を脱ぐ。「カークって誰なの?」 スポック:「一緒に来た仲間。我々の上官だ。」 「いたのは 2人だけじゃない、ほかには誰も見なかったわ。」 「ここには来ていない。時の門をくぐって別の時代へ行ったんだ、今より何千年も新しい時代に。それを捜すためには、あの門からまた出るしかない。」 毛皮を手にするスポック。「ザラベス、あの時の門まで案内してくれないか。」 「でもあの人は、まだ弱ってるわ?」 「そうだった。このまま残していけば、また戻って船に連れ帰るのは時間的に無理だ。…永久に、置き去りになる。しかし、今また吹雪の中を行くのは危ない。もし私が残ればカーク船長の捜索に、誰も行けないということになる。」 「…まるで方程式でも解いてるみたい。」 「これは一種の方程式だ。論理的に、この問題を解決しなければならん。」 ザラベスはスポックの腕に触れた。 スポック:「多分アタヴァクロンもその一つの要素だ。その機能についてもっとわかれば。ザラベス、君はここに追放されて来たと言ったが。もしよかったら…」 ザラベス:「そのわけ? …私の身内に危険人物がいたってことなのよ。ゾール・カン暗殺の陰謀に 2人連座したの。」 「ああそういえばライブラリーでその名のファイルがあった。…専制君主ゾール・カン。」 「その 2人を殺しただけじゃ飽きたらず、一族の者をみんな根絶やしにしようとしたの。アタヴァクロンでみんなそれぞれ帰れない場所に送ったってわけよ。」 「ザラベス。アタヴァクロンのあるところに戻らなければならん。ドクターも連れて行く、君も来てくれ。君たちはすぐ船に転送させ、私は船長の行方を突き止める。」 「あの時の門はもうくぐれないわ? もしくぐったら、死んでしまうの。」 「…それは君だけなのか。」 「…誰でも同じだわ。私達の身体はもうアタヴァクロンで変えられているのよ。」 目を覚ますマッコイ。 ザラベス:「門をくぐるとき、身体の組織を入る時代に合わせるんだって。…だからもう戻れないわ。もう一度時の門をくぐっても、生きて向こう側へ着くことはできないのよ。」 マッコイ:「スポック。…ここはどこだ。」 立ち上がっている。 「安全なところよ?」 「君か、覚えてるよ。」 スポック:「さあドクター、横になって。」 「…何をグズグズしてるんだ、スポック! なぜカークを捜しに行かん。」 「船長を捜すのはもう不可能です、向こうへは戻れません。」 「何を言ってるんだ、戻らなくてどうする。」 「ザラベスから聞いたんです。…時の門をくぐったときに、我々の生理構造は変えられています。もしライブラリーへ戻ろうとすれば、死んでしまいます。」 「つまり、ここから一生出られないって言うのか。」 「その通りです、出られません。それは船長にとっても同じことですが?」 牢屋のカークは、辺りを見ている。 『航星日誌、宇宙暦 5943.9※26。この時代の人間は魔女の存在を信じており、そのため私は投獄された。ドクターの声を悪霊だと思い込み、私が魔法を使ったというのだ。一度魔女裁判が始まればもう逃げ場はない。その前に、何としてでもあの検事と話したいのだが。』 戻ってきた警官。「お前は晩飯抜きだ。」 スリの部屋を開ける。「出ろ。来るんだ。」 警官はスリを連れて行った。 牢番※27がカークのところへやってきた。「皿を出しな。」 カークは入れてもらう振りをして、牢番の手をつかんだ。「静かにしろ。さもないと首を折るぞ。」 鍵を取った。「動くな。」 扉を開けるカーク。牢番を殴り、意識を失わせた。 牢番を牢屋の奥に入れ、扉を閉める。 検事が来た。「おい、牢番。おらんのか。」 カーク:「私は無罪だ、それは知ってるはずだ。」 「これからお前を宗教裁判所の方へ回すことにした。そこで魔女かどうか厳しく審問されるんだ。おーい、門番…」 「魔女や悪霊など全て迷信だ。」 「何て恐ろしいことを。そんなこと言えば間違いなく火あぶりになってしまう。」 「相手が君だから話してるんだ、わかってるだろ。魔女なんていない、なぜ否定するんだ。」 「そんなこと人前で言うな! …※28魔女は存在するんだ! 魔女はいる! 審問官の前に引き出されたら必ず魔女だと言われるぞ。」 検事は手をつかまれた。「おい何をする。」 扉を開けるカーク。 検事:「おいやめろ! おい、離せ!」 カークは検事を中に入れた。倒れた牢番を見る検事。 カークは検事のあごをつかむ。「そうなったら君も、告発するぞ。同じように未来から来たこともぶちまけてやる。そうなれば魔女になるんだぞ!」 検事:「やめてくれ。それじゃこのわしは破滅だ。火あぶりにされる。」 「じゃあ助けてくれ。」 「わかった、できる限りのことをする。お前の言い分も何とか取り上げてやる。だがもう二度と、残してきた仲間と話さんでくれ。」 「ライブラリーに戻りたい、門を教えてくれ。もう一刻の猶予はできん。」 「戻るのはもう駄目だ。」 「どうしても戻る、仲間が 2人いるんだ。別の時代に迷い込んでいる、捜したいんだ。一緒に来てくれ。」 「戻ることはもうできん。ここで生きるしかない。一生死ぬまで。あの時の門をくぐる前に身体の組織※29を変えて準備した。この時代に、適合させるためだ。また未来に戻ろうとすれば、我々は死ぬ。」 「『準備』。そういえばエトスは、そんなものはしなかった。準備してないから待てと言っていた。」 「では今すぐ戻るんだ! 準備していないとすれば、ここに数時間いれば不適合でやはり死んでしまうんだ。…来るんだい、さあ早く!」 外へ連れて行く検事。 器を持っているマッコイ。「ザラベス、料理も魅力も満点だ。…前にそう言われたことは?」 ザラベス:「最近ないわ?」 「そうか、そういう意味でこのスポックは甚だ怠慢だからな?」 「あら知らなかったわ?」 「…ほう?」 スポックを笑顔で見るザラベス。 マッコイ:「まあ、気分も良くなったし今に我々 2人の違いもはっきりするよ。」 スポック:「なるほど?」 ザラベス:「そう、私も楽しみだわ。…気分はすっかり良くなったようね、もっと実のあるもの食べた方がいいわ?」 マッコイ:「いやあ、まだいい。」 「その元気じゃ元通りになるのもあと一息ね、わかるわ。」 スポック:「さっきと比べるとまるで別人だ。」 マッコイ:「しかし、スポックは医者としてはモグリだから診察は当てにならん。やっぱり診るのは、本職でないとね?」 「患者として一番厄介だ。…エンタープライズでも、まず最悪ですね。」 「そういえば今どこかな。」 「5,000年も未来にいますよ。」 器を返すマッコイ。「どうも。」 離れるザラベス。 マッコイ:「……それにしてもカークは。」 スポック:「わかりません。どこにいるにせよ、無事を祈る以外はありませんね。」 「無事を祈る以外にないだと? このまま何もしないつもりか。」 「何ができますか。」 「あの門を捜すんだ、決まってるじゃないか。」 「…また蒸し返しですか、何度繰り返しても結論は同じです。どっちみち戻れない、それがわからないんですか。」 「いや問題はそこだ。」 「どうも『戻れない』という意味が飲み込めていないようですねえ、説明しないとわからないんですか?」 「ああまるで飲み込めんよ。君がそう簡単にあきらめるわけがさっぱりわからん。」 「じゃ、もう一度言いましょう。頭に叩き込むんですね。我々はもう戻れない! ここに置き去りだ。このまま、一生この氷河時代で過ごす。…これから一生どこへも行けないんです! さあ、これでおわかりですか?」 「…ああ、わかったよ。…全く想像外だったが、やっと飲み込めた。君はここにいたいんだ。その理由もわかる。君にそれほど感情があるとは全くの驚きさ!」 「自分は、氷のように冷たいとでも言うつもりですか※30。」 「おい、いいか? 冷血のヴァルカン人のくせに…」 スポックはマッコイの首元をつかみ、立たせた。「いい加減にして下さい! 前から嫌な奴だと思ってたがもう我慢ならん!」 マッコイ:「…おいスポック、一体どうしたんだ。」 「どうもこうもない、ずっと前に言うべきだった。」 乱暴に離すスポック。 無言で歩いていく。 マッコイ:「『ずっと前』。そうだ。ずっと昔。」 カークを連れて夜の町を歩く検事。「確かこの辺だ。正確な場所は覚えてない。」 壁を探るカーク。順番に触れていく。 すると、あるところで手が突き抜けた。 検事:「それだ! 門はそこだよ。…すまんがわしは帰るぞ?」 一度振り返り、歩いていった。 ふらつくカーク。 壁を抜け、消えた。 時の門を越え、ライブラリーに戻ってきた。「スポック! ドクター!」 コミュニケーターを使う。「カークよりエンタープライズ。」 スコット:『はい、スコットです。』 「太陽爆発まで後どのくらいだ。」 『17分です、今すぐ戻って下さい。』 「それが駄目なんだ、スポックとドクターが行方不明だ。」 『何かあると思いました、救援隊出しますか。』 「いかん、もう時間がない。これ以上の人員を危険にさらすわけにはいかんよ。ワープ飛行を準備してスタンバイだ、以上。…エトスさん。いますか!」 アタヴァクロンに近づくカーク。 エトス:「お呼びですか? あなたか、よくここに戻れましたね。今すぐ準備しないといけない、アタヴァクロンで…」 カーク:「いや。実は我々は、この惑星の住民じゃなかったんだ。だから過去へゆくのは困る。一緒にいた、2人の仲間もすぐに戻してくれ。」 「では今すぐ元いたところに戻してあげましょう。」 「駄目だ。あの 2人の見ていたディスクはどれだ、教えてくれたまえ。」 「駄目です、戻りなさい。」 「頼む、捜してくれ。」 「駄目です。私ももう、逃げないといかん。」 エトスを部屋に押し込むカーク。「あと一分でいいんだ。」 だがまた前からエトスが近づいた。 カーク:「まだ分身の術を使ってるらしいな。本物か偽物か。」 つかみかかってくるエトスの、意識を失わせるカーク。 前にいるエトス。「命も惜しくないのか。…何をするつもりか知らんが手遅れだ、もう時間がない。このままじゃ 2人とも死ぬ、私はまだ死にたくないんだ。」 カーク:「手を貸してくれれば死なないで済む、保証する。」 「信用できん。」 「今度はどっちだ、分身か本物か。」 「もう本物しかおらん、分身を駄目にしてしまった。こうなったら、非常手段もやむをえんな。」 エトスは裾から道具を取り出した。 「本気でやるつもりなのか。これまで、助けようとしてたのに。…そんな物しまうんだ。」 光がカークに当たり、苦しむ。カークは倒れた。 |
※26: 吹き替えでは「0404.3072」で、なぜか最初の数字 (脚注※3) と変わっていません ※27: The Jailor (スタン・バレット Stan Barrett) 声:石森達幸? ※28: 牢屋の内側と外側からのアングルで、カークが手にしている鉄格子の場所が異なります (内側では両手の間に 1本しかないが、外側からだと 2本) ※29: 原語では「細胞構造と脳のパターン」 ※30: 原語では、マッコイ「君はここにいたいんだ。それどころか、この忘れられた荒れ地に進んで留まろうとしている」 スポック「その行く末は、たった今ドクターが魅力的に思っていたようですが」 |
スポックに話すザラベス。「あなたがここに来てくれてほんとは嬉しいの。…帰れないのは気の毒だと思うけど、でも私の立場も同じよ? 好んで来たんじゃない。」 スポック:「すまない。君の元いた時代に戻してやりたいが、できないんだ。」 「帰りたいわけじゃないのよ。ここがもう私の時代なの。そう思うしかないわ、前はとっても辛かったけど。…独りでいるってどんなことかわかる? ほんとに独りぼっち。」 「ああ。その気持ちはよくわかる。」 「そう思ってたわ。…ねえ、少しでもいいから食べて?」 「是非にと言うなら。」 スポックは微笑んだようにも見える。「動物の肉だな。」 「ここにはほかに食べる物がないの、悪いけど。」 「この気候では当然だな。…この洞窟の中はあったかいが熱源は。」 「地下に温泉が湧いてるの。」 「そりゃあいい。…それを利用して植物を、温室栽培できるかも。…だが当分は、これで栄養を摂るしか方法はなさそうだ。」 肉をつかむスポックは、口にした。 食べ続けるスポック。 ザラベス:「…ここじゃ贅沢は無理だわ。ゾール・カンは生きるための最低条件しか認めなかったの。」 スポック:「しかしこのまま生かしておくつもりだった。」 「ええ。武器を持たせて、住む場所もくれた。…ただ生きるための物だけ。でもたった独りぼっちよ。…ここによこしたのも死刑にしない名目だけ。でもこの方がいいと思う? 死んだ方がマシだわ、そうでしょう。…彼はそれほど残酷な男なのよ。」 「しかも無神経だ。こんな美人を追放処分にするとは。」 首を振るスポック。「どうも思ったより寒さにやられているらしい。いま言ったことを気にしないでくれ。感情も高ぶってるし、肉食までして一向に何にも感じない。一体どうしたっていうんだ。だが君は美しい! …素晴らしい美人だ。こう言って気に障るかい。」 「前からそれを聞きたかったわ。」 近づくスポック。ザラベスの顔に手を触れた。 スポックは口を近づける。一度反射的に離したが、口づけした。 抱き合う二人。 スポックはザラベスを抱き上げ、微笑んだ。「君は素晴らしい。今までこんな美しいものがあるとは夢にも思わなかった。」 ザラベスを寝かせ、またキスした。 カークを台車に乗せているエトス。「ジッと乗っているだけでいい、すぐ安全な場所に行ける。」 押された台車からカークは降りた。台車だけが時を越える。 カークを押し込もうとするエトス。 門は反応したが、カークはエトスを後ろからつかんだ。「駄目だ、仲間を連れ戻すのを手伝ってくれ。」 エトス:「君は全く強情な男だ。」 呼び出しに応えるカーク。「カークだ。」 スコット:『どうしました、まだですか。』 「いま話してる暇がない。ワープ準備いいか。」 『はい!』 「転送スタンバイしててくれ。だが爆発の時期が迫ったら、そのまま行け。わかったな、以上だ。よし、すぐに始めよう。…寒い場所にいると言っていた。風の音も聞こえた。」 締められるエトス。「わかった、わかった! …サーペイドンの氷河時代だ、およそ 5,000年前。見てみよう。」 カーク:「こっちも一緒に見せてもらおう。」 話しかけるマッコイ。「スポック。…私をごまかしていたんだな? 今までそんなことをしたことはないはずだ。」 ザラベスと一緒にいたスポック。「私は事実を述べただけだ。」 マッコイ:「自分で確認したのか。君はザラベスの言ったことを、そっくりそのまま信じているんじゃないのか?」 「それがいけないのか。ザラベスが言ったことでも、事実に変わりはないはずだ。」 「ザラベスは女だぞ、しかも無理に孤独の境遇に追いやられていた。それから逃れるためには誰でも何でも利用する。そうだろ、違うか。」 ザラベス:「私嘘はついてないわ!」 「そうかね。…確か誰も戻れないと言ったが、戻れないのは本当は君じゃないのか?」 スポック:「しかし人の、生命を犠牲にしてまで。」 「この孤独から逃れるためには何だってやりかねない。嘘もつくし、だましもする。…私を見殺しにだってする。船長もほかの乗組員も知ったことじゃない。…君を引き留めればいいんだ。…そうだろ、ザラベス。本当のことを言ってやるんだ。どうだ。」 ザラベスの顔をつかむマッコイ。「彼のためには人殺しも辞さないのか…」 ザラベス:「やめて!」 スポックはマッコイの首をつかみ、押しやった。「何をするんだ!」 マッコイ:「本気で殺すつもりか、スポック。…どうだ、今どんな気がする。…考えろ。自分の気持ちを分析しろ。怒りか、嫉妬か。そんな感情を今までもったことがあるか。」 「こんなことありえない。真実ではない。」 手を離すスポック。「私はヴァルカン人だ。」 「君のように論理的なヴァルカン人は 5,000年も後のものなんだ。よく考えてみろ、君の母星はこの時代どうだったか覚えているか。」 「古代ヴァルカン人は未開の、好戦的な野蛮人だ。」 「そうだ、そのため種族全体が絶滅に追い込まれた。スポック、君は今先祖返りをしているんだ。生まれる 5,000年前のヴァルカン人に。」 「自分がわからない。自分で制御もできん!」 スポックはザラベスに近づく。「戻れるのか。」 ザラベス:「…わからないわ。はっきりしてるのは、私が戻れないこと。」 マッコイ:「とにかく私はやってみる。…戻るしか生きる道はないんだ。私は戻りたい。」 毛皮を手にし、外へ向かう。 頭を下げたままのスポック。 外に出たマッコイ。 雪山を進んでいく。 機具を使うエトス。 ディスクに雪山の映像が映っている。 エトス:「これがそうじゃないか?」 カーク:「わからん。」 「門を正確に時代に合わせんと駄目だ。もっと詳しく言ってくれ。」 「見たわけじゃない。」 「じゃ呼んでみるんだ。」 「ドクター! スポック! ドクター! 違う、別のらしい。」 「頼む、時間はもうない。…行かせてくれ!」 「もう一度だけ。」 別のディスクに取り替えるエトス。 マッコイに近づいたスポック。「門も何も見当たらない、駄目ですよ!」 ザラベスも一緒だ。 マッコイ:「やっぱりそうか。」 「ここに長くいるとまたぶり返します、戻りましょう。」 さらにディスクを替えるエトス。同じような映像だ。 カーク:「ドクター! スポック!」 反応するマッコイ。「カークだ。おい、ここにいるぞ!」 カーク:「見つけたぞ。おい 2人とも聞こえるか!」 スポック:『ええ船長、はっきり聞こえます!』 「声のする方に来い!」 カーク:『スポック、ドクター、こっちだ! 聞こえるか? 声のする方だぞ、スポック! ドクター!』 探るマッコイ。「ここがそうだぞ!」 カーク:「グズグズするな、早く来い!」 スポックはザラベスの顔に触れた。 マッコイ:「来るんだ、スポック!」 スポック:「先に行って下さい。…君だけここにおいて行きたくない!」 ザラベス:「でも行けないわ! 門をくぐったら私は死ぬのよ!」 カーク:「何をしてるんだ、早く来い!」 スポック:「あと残り時間は!」 カーク:「スコッティ、残り時間は。」 スコット:『いま来ないと手遅れです!』 近づくマッコイ。「スポック、行くぞ! さあ早く!」 ザラベスの髪に触れたスポックは、マッコイを押しやった。 だがマッコイは岩に当たるだけだ。「駄目だ、行けない。」 カーク:「どうしたんだ、なぜ通れない。」 エトス:「わからない。そうだ、入るとき 2人同時に門を通過したからだ。」 「スポック、ドクター、入ったときと同じように出るときも一緒じゃあないと通れないんだ。スコッティ。」 スコット:『命令違反でも、船長を先に転送します!』 「いかん、待て。」 後ろに下がるザラベス。 カーク:『スポック、ドクター、早く門のところに。時間切れだ!』 ザラベスは手を離し、歩いていく。向かうスポックとマッコイ。 振り返るザラベスの目からは、涙が流れていた。 時の門が光り、スポックとマッコイが現れた。制服だけになっている。 それを見たエトスはすぐにディスクを取り替え、カークを押しやって門に駆け込んだ。消える。 2人の肩に触れるカーク。「いやあ、あの男も間に合ってよかった。カークよりエンタープライズ。」 スポック:「観察の必要はもうありませんよ、ドクター。この通り、もう現在へ帰りました。あらゆる意味で。」 マッコイ:「だが起きたことは事実だ。」 「ええ、間違いなく。しかし 5,000年前の出来事です。彼女は死んでいます。…もう、ずっと昔に。独りで。」 カーク:「スコッティいるか。」 スコット:『いま来ないともう駄目です!』 「転送頼む。到着次第ただちに最大ワープで発進、以上。」 恒星が明るく輝く。サーペイドンも光に包まれた。 離れていくエンタープライズの後ろで、サーペイドンは消滅した。 |
感想など
最後から 2番目のエピソードは、数少ないスポックの恋愛もの。いま見ても魅力的な、ザラベスの存在が光っています。実際本来の順位では、評判の悪い第3シーズンの中では最も上に位置しています。ヴェジタリアンや凶暴な過去という、ヴァルカンの設定を補佐するセリフも見逃せません。その人気を受けてでしょうが、当然非正史ながら思い切った設定の続編小説が「過去から来た息子」、さらにその後の「時の壁を超えて (上)(下)」として邦訳も出版されています。 細かいことを言えば、住民全員が思い思いの過去に行って歴史が破壊されないのか (パラレルワールド理論?)、身体組織を変える必要があるのか、なぜ変わってないはずのスポックが先祖返りしたのか、という謎は多く残ります。また、よく考えるとカークたちは単に引っかき回しただけで何にも役立っておらず、ザラベスもスポックと逢って良かったのかは難しいところですね (もちろん、エトスと検事は単純に可哀想)。 原題はシェイクスピアの「マクベス」、第5幕・第5場に由来。旧題は "A Handful of Dust" 「一握りの塵」で、当初はザラベスはいませんでした。エンタープライズ船内が登場しないのは、TOS 唯一です (ビッグ3 以外のクルーは、スコッティが声で登場するだけ)。ライブラリーで使われている「銀色のディスク型記憶媒体」は、スタートレックの先見性の一つと言えるかもしれませんね。トロント市庁舎の映像が使われているという記述が見受けられますが、似たような移動装置が登場した TNG「埋もれた文明」の事実と混同している可能性があります。 |