尋ねるカーク。「それじゃ君の仕業か。」
ディーラ:「ええ。船に戻るときあなたについてきたの。処理には手間がかかったけど、何とか上手くできたわ…」
「一体部下をどうした。」
「どうもしないわ?」
「どうもしない? …スポック。」
わずかに動くスポック※22。
カーク:「スコッティ。…これで何もしないのか!」
ディーラ:「みんな別に異常はないのよ。今までと変わりなくやってるわ? 変わったのはあなたの方。」
動かないウフーラに近づくカーク。「大尉。スールー。これでも変わりないのか!」
ディーラ:「みんなにはもう聞こえないわ、聞こえても虫の羽音ぐらいにしか。さっきのあなたの表現を借りればね、いい例えではないけど。本当よ、あなたの部下に異常はないのよ。」
「一体何をしたんだ。」
「あなたを変えたの。私と同じレベルにね。乗組員にはもう見えないわ? 私もあなたも、速度の違いなのよ。目に止まらぬ早さで※23動いてるの。そう、理論では説明できそうもないわね? …ただ肝心なことは、あなたが私を見て話もできるってこと。…あとは問題じゃないわ。」 肩に触れるディーラ。
「なぜだ。」
「あなたが気に入ったから。わからない? それとも目に見えない相手にキスされてる方がいいの?」 ディーラはまた口づけする。
「ディーラ。…そのためにこの船を破壊したのか。」
「これは破壊とはちょっと違うわね? ただ、私達に向くよう多少変えただけなのよ。」
「『私達』。」
「ええ、そうね? 科学主任のラエルと部下。私は女王ってわけ。これからあなたは王になるのよ。」 笑うディーラ。「スカロスの生活はきっと気に入るわ?」
「エンタープライズはどうなる、乗組員は。」
「そう、彼らの時間で数秒後にあなたの消えたことに気がつくわ? そして探し始める。だけど無駄だわ。…あなたは加速されて彼らの目にはもう止まらないの。…その内みんなあきらめるわ。あなたもあきらめるのね。もう元には戻れないのよ、永久に。…それはそんなに恐ろしいことかしら?」
フェイザーをセットするカーク。「殺すつもりはない、だが相当ショックを受けるはずだ。」
ディーラ:「残念だけどそれは効かないわ。…嘘だと思うならやったら? …構わないわ、狙っても。」
発射するカーク。
ビームがゆっくりと伸びていき、ディーラは易々と避けた。「…そんな原始的な武器で私の反応に間に合わないのよ。…それに防御も、ちゃんと考えてるわ?」 服から装置※24を取り出した。「これも同じように破壊と衝撃に使い分けできるの。」
音※25が響き、フェイザーが飛んでいった。
ディーラ:「あきらめて。私の言うとおりにしてちょうだい。あなたにはもうどうすることもできないのよ。」
カーク:「……君の言い分に同意すれば、エンタープライズを解放してくれるか? あの機械を生命維持装置から外すか?」
「…バカなこと言わないで、しばらくすれば気持ちも落ち着くわ? いつもみんなそうなの。初めは気が転倒するのね。だけどすぐに、馴染んで喜ぶようになるわ? あなたもそうよ。」
ターボリフトへ向かうカーク※26。
ディーラは首につけた小型装置に触れた。「今そっちへ行ったわ。丁重に扱ってね?」
※27話すウフーラ。「船長。…カーク船長! いないわ。」
誰もいない船長席。
スポック:「ウフーラ大尉、君見ていたのか。」
ウフーラ:「この椅子に掛けてました。そして今コーヒーを飲んでカップを置くと、ほらここにあります。それから急に、消えてしまったんです。」
「ミスター・スールー、君も見たか?」
スールー:「ええ、確かに今までここにいました。それが急に見えなくなってしまったんです。」
カップを手にするスポック。
廊下を走ってきたカーク。環境制御室の前で待機したままの保安部員。
クルーが出てきた。「カーク船長、来られましたね。」
カーク:「コンプトン。…君も加速されたのか。」
「そうです。」
「彼らは生命維持装置に何か取り付けたんだ。彼らは今いない。機械を取り除こう、来い。」
コンプトンは遮った。「駄目です、ここには入れません。」
カーク:「誰の命令だ。」
「指揮官のです。それ以上近づかないでください!」
「指揮官はこの私だぞ。そこをどけ、これは命令だ。」
「すいません、あなたはもう違います。」
「じゃあ誰だ。ディーラか? 君は今彼らに従ってるのか。」
スカロス人の女性が歩いて中へ入っていった。
コンプトン:「初めは拒否しました。…でもしばらくして無駄と悟りました。あの子に会ってから。スカロス人の一人で、素晴らしい女性です。船に連れ戻してくれたんで、制御装置や生命維持装置の機能や操作方法を教えました。…それらを知りたいと言ったんです。初めはわかりませんでしたが、今は意義を認めています。船長もそうなります。」
カーク:「そうか、わかった。」 去る振りをしてコンプトンを蹴り、倒した。
環境制御室に入るカーク。
中にいたスカロス人のラエル※28は、救難信号を送っていた人物だ。「気絶させろ。」
隣のスカロス人※29が装置を使う。カークは前の保安部員と同じエネルギーを受け、その場に倒れた。
戻ってきたコンプトンはスカロス人に抵抗するが、ラエルに装置で切られた。
ラエル:「止めろと命令したはずだぞ、なぜ従わなかった。」
コンプトン:「止めようとしました。」 首を怪我している。「怪我をさせたんですか。」
「暴力を振るうのを阻止したまでだ。」
「しかし元の、上官です…」 倒れたコンプトン。
スカロス人:「細胞破壊です。」
ラエル:「もう一人別のを選ぶがいい。」
うなずき、歩いていく女性。
カップを調べるスポック。「痕跡反応を調べたが、惑星上のものと類似している。スールー、君はコーヒーを飲んだかね?」
スールー:「はい。」
「ほかに飲んだ者は。」
スコット:「ええ、私も。」
「カップを。」
「コーヒーのせいですかね。じゃ、我々も今に船長みたいにパッと…」
「分析結果が出るまでは、はっきりしたことは言えない。」
「でも、それじゃもう手遅れかも…」
「船長はさっき、次に相手はどう出るか見てから対策を考えると言った。これが向こうの答えだ。これを元に我々は対策を立てねばならない。スコット、指揮を頼む。私は医療ラボ※30にいる。」 ブリッジを出ていくスポック。
倒れたままのカークのそばにいるディーラ。「この人たちの扱い方は知っているはずよ? 力を加減しなきゃ駄目じゃないの。…特に彼は慎重に扱って。…これだけ頑固な種族なら、長生きしてくれるかもしれない。」
ラエル:「そうかもな?」
「きっとそうよ。みんなすぐ死んでしまうけど、彼には長生きして欲しいわ? 素敵だもの。」
「下等な種族じゃないか。」
「いいえ? 私はそうは思わない。」
「思い入れが強すぎると、傷つくのは自分だぞ。」
「私が誰を気に入ろうが私の自由よ。お願い、そんなこと言わないで。…嫉妬なんかしないでよ。」
「仕事をしてるだけだ。」
「私もよ? ただ仕事に楽しみを見つけてるだけ。」
意識を取り戻すカーク。
ディーラ:「お目覚め?」
カーク:「…その装置で何をする気だ。」
ラエル:「…ディーラに聞くんだな。」
ディーラ:「何でも聞いてくれて構わないわ? きっと気に入るから。」
カーク:「気に入るだと? こんな捕虜の身で。」
「違うわ、あなたは好きに行動していいのよ?」
装置が稼働し始めた。
ラエル:「さあ、どうぞ? 生命維持装置への接続はこれからだが、動くことは動く。好きなだけ見てくれ。ただし、触らん方がいいぞ。」
手を伸ばすカーク。やはり前と同じでエネルギーが走り、手を引っ込めた。
それでもカークは両手で触れた。音が激しく鳴る。
やめさせようとするディーラ。しばらくして、カークは手を離した。
ディーラ:「触るなって言われたでしょ。手を御覧なさい、凍りつくとこだったわ。でもすぐ治るわ。」
ラエル:「この装置※31は自動的に防御システムが働くようになっている。だから注意したんだ。」
倒れたコンプトンを見るカーク。その姿は老人化し、白髪になっていた。
ラエル:「2人で揉み合ったとき、君はコンプトンにダメージを与えた。」
近づくカーク。
ラエル:「我々と同じレベルに加速した直後は、細胞破壊が起きやすい。急速に歳を取り死んでしまうのだ。」
カーク:「…あんな若い男が。」
「そうだ。」
「それが君たちの目的なのか。」
「いずれ死ぬ身だ、スカロス人も同様。」
環境制御室を出ていくカーク。
ディーラ:「なぜ嘘をついたの? あの男を駄目にしたのはあなたでしょ。」
ラエル:「暴力を振るわせないためだ。」
「今以上に気持ちを動揺させる必要ないわ。」
「どうしてそれほど気を遣うんだ。」
「ラエル、彼は同類じゃないのよ? 一時の間に合わせ。」 通信機を使うディーラ。「いま医療ラボの方へ行ったわ。きっと部下と連絡を取るつもりなのよ。あの種族は愛情を強く感じるの。」
「ああ、そうらしいな?」
「私達に対してそれを見せるかどうかね? …ラエル、すねるのはやめて。…受け入れるのよ、それが私達の使命なの。ことを面倒にしないで。」
ラエルはディーラとキスした。一度口を離して、また続けようとする。
ディーラ:「仕事に戻って?」 歩いていく。
装置の前にいるカーク。「カークよりスポックへ。」
医療ラボのカークの前にはスポックたちがいるが、動かない。
カーク:「これまで確認あるいは推測しうる限りの情報を、コンピューターバンクに入れる。」
ディーラが来た。「続けて。…それは今役に立たないけど、歴史的資料としては意味ありそうね?」
カーク:「この問題を解く鍵は、超高速度※32だ。…侵入したのは 5名に過ぎないが船の制御権を握り、我々は皆彼らの支配下に入っている。…彼らは我々を、同じ高速状態のレベルに引き上げることができる。…この私とコンプトンがその例だ。目的は我々を、隷属させること。…なおこのレベルに加速され引き上げられてしばらくすると、みな彼らに従順になる。だが、もし…」
「傷つけば。」
「傷つけば、たちまち老化して死んでしまう。あたかも、生命現象が…」
「燃え尽きるように。」
「燃え尽きるように。コンプトンは、燃え尽きて死んだ。…例の生命維持装置に連結した機械は、非常に冷たい寒気を発生させる装置で私の推測ではエンタープライズを凍結し、乗組員をそのまま保存するためと思われる。…その目的は、スカロス人にしかわからない。」
「かなり正確ね?」
「その機械は防御スクリーンをもち、直接接触することを妨げている。破壊する方法は不明だが、いかなる方法にせよ破壊することが必要である。」
「装置は間もなく作動し、この記録を読むときには既に手遅れのはずである。」
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※22: 本来、少しでも動くのは変かもしれません。すぐ後のスールーもスロー描写が見られます。また、ウフーラのイヤリングが揺れていたり、スコットの顔の向きがディーラが現れたときと変わったりしています
※23: "in the wink of an eye" 「瞬く間に」。原題の由来
※24: TOS "The Cloud Minders" で、アーダナ人の武器として再利用
※25: クリンゴン・ディスラプターの発射音を使い回し
※26: カークはターボリフトから外へ向かったはずですが、足音はずっと続いています。別の出口もあるんでしょうか?
※27: この個所のブリッジのシーンは、旧国内オンエア版では次のシーンと入れ替わっています。恐らく次のカットに関連した処置だと思われます。本来の順番のままだと、カークが倒された直後にいつの間にか立ち直っていることになってしまうため
※28: Rael (ジェイソン・エヴァース Jason Evers 2005年3月に死去) 声:嶋俊介、TOS カイル、ムベンガ、旧ST5 マッコイなど。DVD 補完では星野充昭、TNG ラフォージ、ジャックなど
※29: 名前は Ekor (エリック・ホーランド Erik Holland) ですが、言及されていません。なぜか「エマール」になっている日本語資料もあります。声:井上弦太郎、TOS チェコフなど
※30: 吹き替えでは全て「医療室」
※31: エンサイクロペディアでは「凍結装置 (refrigeration unit)」として掲載。吹き替えではこの語も使われています
※32: hyperacceleration
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