ディープスペースナイン エピソードガイド
第19話「謎のカーデシア星人」
Duet
イントロダクション
司令室。 キラ:「私は結構不良でね。悪いこともたくさんしたわ? 内部ディフレクターシールド補助システムの強度は均等で異常なし。」 ダックス:「パワーバランス・レベルも正常です。私は窓を割るのが得意だったわ? 暗い夜に石を投げて逃げるの。百発百中よ?」 「ああ…それは何番目のあなたの話?」 「…貨物船から交信が入りました。」 「チャンネルを開いて。…スクリーン、オン。DS9 へようこそ。キラ少佐です。」 異星人が映る。『コビリアンの貨物船、ラク・ミューニス※1です。ドッキングを許可されたい。』 キラ:「…わかりました。それでは第6ドッキングポートへ。」 コビリアン船長※2:『了解。実は乗客の中に、一人病人がいるのですが。』 司令官室から出てきたシスコ。「治療が必要ですか、病名は。」 コビリアン船長:『カラ・ノーラ症候群※3という病気らしい。慢性の病気のようですが、薬が切れたので。』 「ではこちらの診療センターに直ちにビーム転送を。」 『ありがとうございます。それではよろしく。』 コビリアン船長は通信を終えた。 ダックス:「ダックスより治療室へ。」 ベシア:『こちらベシア。何ですか。』 「コビリアンの貨物船から、病人が転送されてきます。カラ・ノーラ症候群という病気だそうです。」 『聞いたことがないなあ。調べておきます。』 考えていたキラ。「司令官? 私も治療室で待っていて構いませんか?」 シスコ:「構わないがなぜ?」 「カラ・ノーラ症候群という病気は…ガリテップ※4というベイジョー人の強制収容所で起きた鉱山事故から発生した病気です。ガリテップから生還した人々は、ベイジョー人にとって…英雄的な存在で。」 「そうか、よくわかった。ゆっくりしてきていいぞ。」 向かうキラ。 プロムナード。 ターボリフトを降り、診療室に入るキラ。 ベシア:「ああ、キラ少佐。お待ち下さい。」 ベシアが診ていたのは、ベイジョー人ではなくカーデシア人だった。 すぐにコミュニケーターを叩くキラ。「キラよりオドー。」 オドー:『オドーです。』 「今すぐ治療室の周りのセキュリティを倍に増やして!」 『私も行きましょう。』 キラを見るカーデシア人。 |
※1: Rak-Miunis 一部 Rak-Minunis という表記もあり ※2: Kobheerian Captain (ノーマン・ラージ Norman Large TNG第107・108話 "Unification, Part I and II" 「潜入! ロミュラン帝国(前)(後)」のネラル (Neral)、第159話 "Dark Page" 「心のダーク・サイド」のメクイズ (Maques)、VOY第26話 "Cold Fire" 「管理者サスピリア」のオカンパ人役) 一部クレジット表記ではリセピアン船長 (Lissepian Captain) となっていますが、DS9第15話 "Progress" 「第五の月“ジェラドー”」の登場人物と混同したミスです ※3: Kalla-Nohra Syndrome ※4: Gallitep 初言及 |
本編
状況をつかめないベシア。「どうしたんですか、少佐。」 キラ:「この男は犯罪者よ。」 カーデシア人は逃げ出した。だが外に出たところで、保安部員に捕まる。 オドー:「どうしました。…こいつが騒ぎの原因ですか?」 カーデシア人:「何だと。」 キラ:「逮捕しなさい。」 「冗談だろ、何の罪でだ。」 ベシア:「これは一体どういうことなんです? この人は病人ですよ。」 キラ:「治療なら独房でもできるわ?」 カーデシア人:「私は何もしてない。」 オドー:「じゃ何で逃げた。」 「このベイジョーの女は私を憎んでる。私を殺そうとしてることぐらいわかるさ。」 「ほう? 身に覚えがあるのか。」 「私はカーデシア人だからね。」 キラ:「ただのカーデシア人じゃないわ。…こいつは戦犯よ!」 指示するオドー。ベシアもついていく。 シスコは尋ねた。「それでこの男は…名前は。」 オドー:「マリッツァです、エイミン・マリッツァ※5。」 「マリッツァはベイジョーのカーデシア人戦犯リストに載ってると、そう言うのか。」 「いいえ、それが…どのリストにも載っていないんです。全リストを調べたんですが。」 キラ:「リストに載っていようがいまいが、関係ないわ?」 シスコ:「そうはいかないぞ。連邦の船で旅行中の人が、病気になってここへ寄ったのをいきなり逮捕したってことになる。リストに載ってないんなら問題だ。」 「司令官…確かにおっしゃるとおりです。でもマリッツァが戦犯なのには間違いありません!」 「一体何を証拠にそう言うんだ。」 「カラ・ノーラ症候群にかかっているのが証拠です。」 「それはどういうことなんだ、少佐。」 「カラ・ノーラ症候群は、ガリテップ・キャンプで鉱山事故が起きた時、現地にいた人でなければ発症しません。」 「キャンプにいただけで戦犯ってことになるのか。」 「司令官…私たちが 12年前にガリテップ・キャンプを解放した時…惨状は目を覆うほどでした。至る所に死体が転がり、ある者は餓死、ある者は拷問死。カーデシアの扱いはひどかった! ベイジョー人をただ殺すだけならともかく、その前に散々いたぶってから殺すんです。…母親を、子供たちの前で犯したり、夫を妻にも顔がわからなくなるほど殴りつけたり、老人にいたっては生き埋めにされて殺されたんですよ!」 後ろを向くキラ。 「……マリッツァの話を聞きに行ってくる。」 「私も行きます…」 「いやあ、駄目だ。まずは私が独りで行ってくる。」 拘束室へ向かうシスコ。 その様子が保安室のモニターに映る。 独房の前に立つシスコ。「気分はどうです。」 マリッツァ:「楽になりました。」 「私は当ステーションの司令官、シスコです。」 「おお、連邦が助けに来てくれたか。…出してくれるんですか。」 「ええ、できればね。ところで、なぜあなたはカラ・ノーラ症候群に?」 「…いや、私の病気はポトリック症候群※6です。」 「船長はカラ・ノーラだと言ってたが。」 「症状が似てますから。服用する薬も同じ物でね?」 「ガリテップ・キャンプにいたことはないんですか。」 「ガリテップ?」 笑うマリッツァ。「いいえ。ベイジョーへは行ったこともない。私は文書整理係でね。今住んでいるのは、コラ2※7 ですが、そこから船に乗ったんです。おかげでこんな羽目になってしまった。さあ、これで疑いが晴れたでしょう。釈放して下さい。」 別の独房に入っていたベイジョー人のケイノン※8が、起きあがった。「おりゃまだ酔ってんのか? それともカーデシア人と同じ部屋に入れられるのか? オドー! すぐに俺を別の部屋に移さないと血を見るぜ! オドー! オドー!」 マリッツァは笑いながらシスコに言った。「私の身柄はあなたに預けますよ…。」 司令官室。 シスコ:「それじゃマリッツァはやはり、カラ・ノーラ症候群なのか。」 ベシア:「間違いありません。カラ・ノーラです。肺組織を検査しましたが、結果は陽性と出ました。」 「ポトリック症候群ってことはないんだな。」 「ええ、絶対違います。ポトリックなら、肺組織の検査は陰性ですから。」 「…じゃガリテップ・キャンプにいたことがあるはずだ。」 「そのとおりです。ベイジョーと連邦の医療記録は全部調べましたが、ほかの場所でカラ・ノーラに感染した例はありません。」 通信が入る。『キラより司令官。』 シスコ:「何だ、少佐?」 キラ:『ベイジョー政府より、司令官宛てに通信が入っております。国務大臣からです。』 「わかった。ドクター、ご苦労だったな。」 出ていくベシア。 コンソールで通信を受けるシスコ。「カヴァル※9閣下。お元気ですか。」 カヴァル:『ああ、どうもありがとう。君も変わりないかね。ステーションでは順調かな?』 「はい、おかげさまで。」 『そりゃあよかった。今日はベイジョーのために素晴らしいことをしてくれたそうだねえ。心から感謝する。』 「それはどういうことでしょう。」 『…カーデシア人を引き渡してくれるんだろ?』 「確かに 1人拘束してますが、一時的にです。」 『その一時的にというのは、カーデシア人の身元が確認されるまでという意味だろうねえ?』 「それほど長く拘留する、理由があるんですか。」 『君が懸念するのはよくわかるが、この件に関してはキラ少佐が責任を負うから、君は何もしなくていいんだ。』 「それはできません。」 『司令官。マリッツァがガリテップにいたんなら、ベイジョーは見逃すわけにはいかん! わかったな。』 「わかりました。」 『よろしい。また連絡しよう。では、ごきげんよう。』 通信は終わった。 ため息をつくシスコ。 |
※5: Aamin Marritza (ハリス・ユーリン Harris Yulin) 声:渡部猛、TNG クンペック、VOY シーマスなど ※6: Pottrik Syndrome ※7: コラ2号星 Kora II ※8: Kainon (トニー・リッツォーリ Tony Rizzoli) 名前は言及されていません。声:小形満 ※9: Kaval (テッド・ソレル Ted Sorel) 声:大川透、DS9 ガラックなど |
プロムナード。 レプリマットにいるキラに話しかけるシスコ。「一緒にいいかな。」 キラ:「私これから、マリッツァの独房に行くところなんです。」 「実はそのことで話があるんだ。今度の件はオドーに任せようと思う。」 「…なぜです?」 「保安チーフはオドーだからね。」 「でも私はカヴァル大臣から…」 「だがカヴァルはここの司令官じゃない。」 「連邦にも、戦犯の処置に口を挟む権利はありません。」 「マリッツァが戦犯だと証明されれば、もちろん直ちにベイジョーに引き渡そう。だが今は、マリッツァは容疑者であるに過ぎない。」 「……個人的な恨みで、私が動いているってお考えなんですか?」 「ああ、今の君は客観性を欠いてる。」 「ええ、確かにおっしゃるとおりです。でも私はあなたの副官です。信じて下さい。名誉に懸けて常軌を逸するような取り調べはしません。」 受け付けないシスコ。 キラ:「友人としてもお願いします。司令官は以前、私を友人だと言って下さった。どうか私に担当させて下さい。死んだ同胞のために。」 「犠牲者のためにか。」 「そうです…。…あのキャンプで死んでいった、大勢の仲間のために。」 涙を抑えるキラ。「司令官。ベイジョー人を代表してお願いします。担当はせめてベイジョー人に。」 シスコは考えた末、連絡した。「…シスコよりオドー。」 オドー:『オドーです。』 「悪いが…マリッツァの取り調べは、キラ少佐に担当させることにした。」 『わかりました。』 キラ:「……感謝します。」 歩いていく。 キラは保安室に入った。 拘束室からオドーがやってくる。 キラ:「ああ、オドー。」 一緒に出てきたケイノン。「やっと出られんのか。長かったぜ。」 オドー:「1日 2日はおとなしくて問題を起こすなよ?」 「ああ、わかってるよう。そうだ、オドー。カーデシア人の処刑が決まったら、教えてくれよな?」 去るケイノン。 「マリッツァの足取りを調べましたが、今のところ本人の言うとおりです。確かにコラ2 で、コビリアンの貨物船に乗ってます。コラ2 では 5年前から士官学校の、教官をやってるんです。」 キラ:「もっと調べて。」 「ええ、もちろん徹底的にやります。」 パッドを受け取るキラ。「何かわかったら呼んでちょうだい。」 キラは中に入った。 マリッツァ:「ここのレプリケーターはなかなかだが、このセマル・シチュー※10は少し…ヤモック・ソース※11が足りんですな。」 「お口にあって良かったわ?」 「ええ、仕方なく食べてるんですよ。」 「食事中悪いけど、2、3 聞きたいことがあるの。」 「嫌だと言ったら?」 「嫌でも聞いてもらうわ?」 「やっぱりね。」 「私の仕事ですから。」 「カーデシア人を追求するのは仕事じゃない、執念だ。」 「…ガリテップに行ったことはないって言ってたわね。」 「残念ながらね。」 「カラ・ノーラ症候群でもないと?」 「そうです。」 「嘘はよしなさい。検査の結果カラ・ノーラだって判明したのよ。つまりガリテップにいたはずだわ?」 笑うキラ。「こんなに見え透いた嘘ばかりなら尋問はすぐ終わっちゃうでしょうね?」 「では見え透かない嘘をつくことにしましょう。」 「…ガリテップでのあなたの階級と任務は?」 「聞かない方がいい。」 「いいから答えなさい。」 「ガッカリしますよ?」 「……早く言いなさい。」 「…ガリテップには軍の記録保管担当者として赴任していたんです。」 「記録保管?」 「ほーら、ガッカリしたでしょう。…私はできれば軍隊の仕事はしたくなかったんだが、高給でガリテップの記録保管所に誘われたんでねえ。14 の部隊に関する文書や記録を管理しましたが、ミスをしたことは一度もありません。何回も報償を受けましたよ? ガル・ダーヒール※12は私のコンピューターシステムを『正確無比で素晴らしい』って誉めてくれたほどです。ご満足ですか? 私の秘密は、これで全部ですよ。処刑するならどうぞ。」 布で顔を隠すマリッツァ。 「ええ、早く執行してさし上げるわ? …でも記録保管担当者が士官学校の教官になれるなんて聞いたことがなかった。」 「でもほんとです…」 「何を教えてるの?」 「もちろん記録の保管をです。」 「調べさせてもらうわ?」 「どうぞ?」 「どうせ嘘でしょうけどね!」 「…ほんとのことなのに随分侮辱しますねえ。」 「ガル・ダーヒールに仕えてたんでしょ?」 「そうです。」 「なら残虐行為を目にしているでしょ。」 「残虐行為? どういうことです。…いやあ…もちろん悲鳴を耳にしたことはあったと思いますが…残虐行為なんて。」 「気づかなかったって言うの? あれだけ人が殺されて、拷問だって。死体を見たことはないの?」 「ありますよ、ガリテップでは鉱山事故もあったし、病気も流行りました。ケンカも絶えなかったし。」 「ベイジョー人が殺し合ったって言うの?」 「そうですよ? 食べ物や、毛布や、女を巡って。強制収容所ですから、みんな気が立ってるんです。」 「ガリテップが解放された時、至る所に死体が転がってるのを見たわ?」 「そりゃこちらの演出ですよ。ガリテップが悲惨だって噂を広めたのは元々、ガル・ダーヒールだったんです。指導者として、彼は実に非凡な男でした。恐怖による支配こそ究極の支配。実際に虐殺なんかしなくてもそういう噂を流しておけばそれだけで…効果は同じなんです。」 「どういう効果?」 「カーデシアへの恐れと無力感を植え付けておけば、ベイジョー人は決して刃向かいませんからねえ。」 「でもそれは間違いだったわね? 私たちは勝ったんだもの。」 「…ベイジョー撤退は政治的な決断です。全てお話ししたんですからここから出していただきたいが?」 「それはできないわ?」 「ああ、やっぱりね。そうだと思いましたよ。あなたは私の言うことなんかどうだっていいんだ、復讐したくして仕方がないだけなんだ!」 「そんな…。」 マリッツァは笑った。 |
※10: sem'hal stew ※11: yamok sauce DS9 "Progress" より ※12: Gul Darhe'el |
司令官室。 カーデシアのガル・デュカット※13がコンソールに映っている。『私が理解するところでは、惑星連邦はステーションを訪れる全ての人に、安全かつ自由な通行を保障しているんではないのか?』 シスコ:「そのとおりです。」 『ではなぜ我が同胞の身柄を拘束しているのだ。』 「マリッツァは、現在ステーションのドクターから病気の治療を受けております。我々は彼の身元を確認したいだけです。あなたの御協力があれば簡単なことですが。」 『私の協力など全く必要ないと思うがね。彼が自分のことをマリッツァだと言うのなら、彼はマリッツァなんだ。君は、カーデシア人というだけで信用できないと決めつけてはいないだろうねえ?』 「いえ、ガリテップにいたことを最初隠そうとしましたので。」 『まさか、それだけで逮捕したのか? 嘘をついたから?』 「現時点では逮捕したわけではありません。」 『なら釈放しろ!」 「釈放する前に、マリッツァが何者なのか知りたいだけです。」 『…もちろん私も、君の微妙な立場というのはよくわかっているつもりだ。ベイジョー人はしつこい民族でねえ。カーデシアというだけで偏見をもつ。いつまでも、我々の占領時代のことを恨みに思っているのだ。実に不愉快だよ。』 「占領された方としてはそれも当然でしょう。」 『しかし、私も君も、ベイジョー人だというわけではない。ベイジョー人のかたくなさから、惑星連邦とカーデシアが対立するようなことにならなければいいのだが?』 「私も同じ気持ちです。ですから御協力を。」 『ステーションにいる間マリッツァの安全を保障するのに、何も私の協力などいらないだろ。もしマリッツァが血に飢えたベイジョー人の手にかけられたりすれば…カーデシアとしては、全て君の責任と見なす。』 通信を終えるデュカット。 窓の外を見つめているキラ。 ダックスが近づく。「何を求めているの?」 キラ:「…真実を。」 「もう見つかった?」 「…マリッツァは私が、真実でなく復讐だけを望んでるって言うの。」 「…それが図星だったのかしら。」 「…私はどうしても、彼を罰してやりたい。」 「…ただの記録保管担当者でも?」 「そう、そこなのよ。私はそこに腹が立つのよ。これが指揮官とか、何かなら…罰してやれるのに。」 「だから戦犯であって欲しいのね?」 「私に言わせれば、ガリテップにいたカーデシア人は全員戦犯よ。マリッツァを処刑すれば、ベイジョー人の心の傷も…少しは癒えるわ。」 「…心の中じゃ、そんなこと本当は思ってもいないくせに。…罪もない人を罰しても何にもならないわ? あなたにもわかってるでしょ? 復讐はいくらしても、限りがないものよ。」 歩いていくダックス。 司令室。 作業中のオブライエン。「信号増幅モジュールをメインセンサー配列につないで?」 ベイジョー人の部下、ニーラ※14。「わかりました。」 オブライエン:「…上手くいった?」 ニーラ:「と思いますけど…チェックして確認します。」 オドーはシスコに話している。「ベイジョー側の記録を調べたところ、確かにガリテップに、マリッツァという記録管理担当者がいました。コラ2 の士官学校に問い合わせたところ、本人の言うとおり、記録管理の教官をやっていました。」 オブライエン:「全部終わりました。」 シスコ:「少佐、ベイジョーから送られてくる写真は何枚だ。」 キラ:「1枚です。マリッツァが写っている写真はそれだけだそうです。カーデシアは、ほとんどの記録を消去していったので。」 オブライエン:「映像の増幅変換機能は、直接コンソールに組み込んであります。」 シスコ:「少佐。マリッツァが記録管理担当者だと確認されたら、私はどうすればいいかな。」 キラ:「…すぐ釈放して下さい。」 「そう言ってもらえて嬉しいよ。」 ダックス:「出ました。」 シスコ:「スクリーン、オン。」 カーデシア人やベイジョー人たちが写っている写真が映し出される。 シスコ:「どれがマリッツァなんだ。」 ダックス:「付属文書の説明によれば、マリッツァは後ろの右の男だそうです。」 「分離して拡大しろ。」 ぼやけた映像になる。 シスコ:「もっと鮮明な画像が欲しい。」 ダックス:「映像を増幅させますので、しばらくお待ち下さい。」 コンピューター処理によって、綺麗になった。 キラ:「彼じゃないわ?」 シスコ:「この男が本当にマリッツァなのか。」 ダックス:「後ろの右側の男。間違いありません。」 キラ:「そんな馬鹿な。」 シスコ:「これがマリッツァなら、ステーションにいるのは誰だ。…ダックス。前にいるカーデシア人を分離せよ。左にいる横顔の男だ。拡大できるか。」 操作するダックス。 写真の人物が立体的に分離される。 キラ:「これよ、これがマリッツァよ。」 ダックス:「でもこの男は違います。」 「どういう意味?」 「この男はガル・ダーヒールです。」 マリッツァだったはずのカーデシア人は言った。「どうしました。記録の保管法を習いに来たんですか。」 キラ:「あなたの正体がわかったわ?」 「やっとですか。」 「何をやったの? 本物のマリッツァを殺して、彼になりすましたの? 今度こそ、全て償ってもらうわ。…マリッツァにも、キャンプの犠牲者にもね。」 「大勢だからとても償いきれないな。死ねるのは一回きりだ。」 「それだけが残念だわ。でも…ガリテップの殺し屋※15の処刑はベイジョー国民の長年の悲願だったから、みんな喜ぶでしょう。」 「うーん、私の正体を探り当てたのは自力で? それとも、惑星連邦の助けを借りてかな。」 「それは言わないでおいてあげるわ? 考えることがあった方がいいでしょ? 戦犯を裁く法廷が開かれるまでには、時間がありますからね。」 「戦犯? 戦争がなかったのにどうやって戦犯になれるんだ。そりゃあ戦争があったって思いこみたい君たちの気持ちはわかる。…ベイジョーの兵士たちは勇敢に戦ったが、力及ばず敗れたと言いたいわけだ。だが君も知ってるとおり、ベイジョーは抵抗さえしなかった。抵抗するどころか、すぐ降伏したんだ。」 笑うダーヒール。 「ベイジョーは穏やかな民族でカーデシアのことも喜んで迎えたわ。…なぜあんなにむごく扱う必要があったの?」 「そりゃ言いがかりだ、この際だから何もかもきちんと説明しておいてあげよう。」 「結構よ、あなたの嘘には愛想が尽きたわ。」 後ろを向き、出ていこうとするキラ。 「嘘だと? 正体を偽ったのは逃げ出そうと思ったからじゃない、君が自力で突き止めた方が、楽しいだろうと思ったからだ! それを嘘だと言われるのは心外だな。」 向き直るキラ。 話し続けるダーヒール。「…マリッツァは記録管理の天才だったが、私ガル・ダーヒールは、自分で言うのも自慢するようでなんだが、まさに生まれついての指導者だった。最盛期のガリテップ・キャンプは、秩序も整然として素晴らしい労働効率を誇っていた。全てが私の指図通りに動いていた! この私が、ガリテップの全てを支配していたのだ! たてつく者は全て殺した!」 キラ:「正気じゃないわ!」 「ああいや、困るなあ。そう短絡的に決めつけないでもらいたいね。私は任務を遂行した。だからこそ部下からの信頼も勝ち得た! 私がベイジョー人を皆殺しにしてこいと言うたびに、部下たちはすぐ従った。いくら返り血を浴びても、みんな笑って帰ってきた! 何で笑えたか君にはわかるかね。殺しが楽しかったからだあ。」 「残虐行為を認めたわね!」 「ああ、何でも認めてやるとも! 悪いか! ガリテップでの私ほど、完璧にキャンプを運営した者はほかにはいないはずだ! 君はあのシャカールとかいうレジスタンス組織※16に参加していたらしいが、我々がベイジョー人を殺すのを指をくわえて見ていただけだろうが!」 「裁判でもそう証言しなさいよ。」 「ああ、してやるさ!」 「そうすれば死刑は確実だわ!」 「構わんよ! 私が死んでも歴史は変わらない。私を拷問にかけようが殺そうが、私の勝ちは変わらない。私に殺された君の仲間も生き返らないんだ!」 ダーヒールを見たまま、出ていくキラ。 ダーヒール:「さあ、どうする少佐。薬を打ち切るか!」 ため息をついた。 |
※13: Dukat (マーク・アレイモ Marc Alaimo) DS9 パイロット版 "Emissary" 「聖なる神殿の謎」以来の登場。声:幹本雄之 ※14: Neela (ロビン・クリストファー Robin Christopher) このエピソードでは名前は言及されていません。後にも登場。当初は DS9第17話 "The Forsaken" 「機械じかけの命」のアナラが再登場する予定でしたが、俳優の都合がつきませんでした。声:若杉朋子 (アナラと同じ) ※15: "The Butcher of Gallitep" ※16: シャカール・レジスタンス組織 Shakaar resistance cell 初言及 |
保安室で座っているキラ。 やってきたオドーは、グラスを渡す。「どうぞ。これを飲んで。」 キラ:「何なの?」 「クワーク秘蔵のマーシアン・シーヴ・エール※17ですよ。…どうです?」 「…ねえ、オドー。あんな奴が後何人野放しになってるのかしら。罪を償わないまま。」 「大勢いるでしょう。でも今度の逮捕で一人減ったじゃありませんか。」 「ひどい男よ。…ガリテップのことを自慢するんだもの。人を殺したことなんか何にも思ってないのよ。恥じるどころか誇りに思ってる。」 「しばらく部屋で休んできたらどうですか。あんな奴にこれ以上気を遣ってやることなんか、ありませんよ?」 「いいえ、休まないわ。奴の思うつぼよ。ベイジョー人ってのは根性がないって、今頃私を笑ってるかもしれない。」 「笑わせておけばいいんですよ。」 「…絶対許せない。…あの勝ち誇った顔を見てるだけで本当に頭にくるわ。…レジスタンスにいた頃、みんなで夜遅くまでガル・ダーヒールの暗殺計画を練ったものよ。…その本人から、シャカールの組織のことをバカにされるなんて。」 「少佐、ご自分の経歴を軽々しく教えない方がいいですよ? あんな男に。」 「…教えてないわ?」 「…じゃなぜシャカールにいたことを知ってるんです。」 「…知らないわ、軍隊の上の方にいたからじゃない?」 「それはおかしいな。もしベイジョーの、レジスタンス鎮圧が任務なら少佐の名前を知っていても不思議はないですが、強制収容所を運営していた男ですよ? どうにも解せないなあ。」 キラはグラスを置き、立ち上がった。 オドー:「どこへ行くんです。」 キラ:「ガル・ダーヒールともう一度話してくるの。」 拘束室に戻る。 「コンピューター。最近 8ヶ月間にステーションの外から、キラ・ネリス少佐のファイルにアクセスがなかったか、調べてくれないか。」 コンピューター:『チェックします。』 ダーヒールは横になっていた。「おや、また来てくれたのか。何か話があるのかね。」 キラ:「なぜシャカールのことを知ってたの?」 笑うダーヒール。「…ベイジョー政府は相変わらずすることが鈍いね。もう私を引っ立てに来てもよさそうなもんだ。」 キラ:「いいから質問に答えて!」 「ああ…君も辛抱の足りん人だな。私にはマリッツァがいたのを忘れたのか。私は彼からレジスタンスの情報を逐一得ていた。全滅の報告を見るのは楽しかったねえ。」 ダーヒールは、また笑った。「…キャンプでの暮らしは実に単調で退屈なんだ。自分独りがベイジョーを浄化する任務をしょってるように感じてたが、そういう報告を見ると…励まされたものさ。」 「それじゃ私の名前は何年も前にそういう報告で読んだのを覚えていたってわけなの?」 起きあがるダーヒール。「こういうと君を傷つけるかもしれんがね。ここで名前を聞くまでは全く忘れてた。おや、怒ったらしいね。」 キラ:「いえ、全然。」 「私はもうすぐ、ベイジョーへ引き渡される身だ。別れる前に、君に聞いておきたいことがあるんだが?」 「あなたに聞かれたいことなんかないわ。」 「何でそう言い切れる。それとも聞かれるのが怖いか。」 キラは後ろを向き、デスクに座った。ダーヒールを見つめる。 オドーが保安室を出ると、ベイジョー人たちが集まっていた。 クワーク:「こいつらは?」 オドー:「ガリテップにいた人たちだ。今朝早く来たんだ。裁きを見届けに来たんだろう。」 「ガリテップ。ああ…あの地獄をよく生き延びたなあ!」 「うーん。」 「どんなにか、苦労して。」 「うーん。」 「…ギャンブルは好きかな?」 オドーは診療室に入った。「お願いがあるんですが。」 ベシア:「何だい。」 「実は 3ヶ月前にコラ2 から、キラ少佐についての問い合わせが寄せられていたんです。」 「何の目的で。」 「わかりません。でもその問い合わせはマリッツァの名前でなされているんです。今コラ2 とつながっていますので、先生にマリッツァの医療記録を見ていただきたいんです。」 通信が入る。『ダックスよりオドーへ。ガル・デュカットから、亜空間で返信が入っています。』 オドー:「オフィスへ回して下さい。」 ダックス:『了解。』 コンソールに映っているデュカット。『君と一緒に仕事した頃が懐かしいよ。また、カリヴィア・モンタール※18をやって遊びたいなあ。』 オドー:「あのゲームをやったのは一度きりだったでしょう。閣下がズルをして。」 デュカットは笑う。『オドー、君は変わらないなあ。相変わらずの堅物だよ。ところで用件だが、ガル・ダーヒールのファイルにアクセスしたいとの要請は、残念ながら許可することはできない。まあガッカリするな。ファイルにアクセスしても、大したことはないぞ。ガル・ダーヒールは死亡している。』 オドー:「まさか、そんな馬鹿な。」 『私も彼の葬儀には参列した。ガル・ダーヒールはカーデシアの軍人が葬られる、記念墓地の一等地に静かに眠っているよ。』 「じゃこの独房にいるのは誰です。」 『それは、カーデシアの一般市民だろ。そうシスコにも説明したんだがね。だから釈放を要求しているんだ。』 「しかし彼は自分がガル・ダーヒールだって主張しているんですけどね。」 『…何? 今何と言った?』 「だから彼は自分がガル・ダーヒールだって主張しているんですよ。」 『それは嘘だ。』 「でも何でそんな嘘をつくんですか、処刑されるって決まってるのに。何でそんな馬鹿なことを。」 『私が知るか。私はガル・ダーヒールの葬儀にも参列したんだぞ?』 「埋葬されたのはガル・ダーヒール本人に間違いなんですか?」 『ああ、カーデシア人の半分が遺体を見てる。』 「しかしガリテップ・キャンプで撮ったガル・ダーヒールの写真を、見たんですがねえ。この独房にいる彼そっくりですよ?」 『それは偽者だ!』 「そうですか?」 『恐らく、カーデシア帝国に恥をかかせるための陰謀だろう。』 「…ありえますね? ファイルを、見せてくれませんか。ガル・ダーヒールが本当に死んでいるっていう証拠を、この目で見てみたいんです。」 『…仕方がない。例外的な措置として、ファイルへの限定的なアクセスを許可しよう。』 「…それが賢明ですよ。」 通信は終わった。 話すキラ。「私は 12 で戦士になった。でももっと小さな子も大勢いたわ?」 ダーヒール:「さあ、そんなことより早く本題に入ろう。何人のカーデシア人を殺した。君が手にかけたのは。」 「…いちいち数えてないわ。」 「いいや、数えてたはずだ。それに軍人以外のカーデシア人も殺してるだろう。とにかく、テロリストの最大の武器は無差別殺人だからな。」 立ち上がるキラに言うダーヒール。「どうして逃げるんだ! これからが面白いのに。カーデシアの民間人を何人殺したんだ!」 「うるさいわね! 私だって好きで殺したんじゃないわ!」 「よく聞く言い訳だな…」 「それしかなかったのよ! 生き延びるためにはね!」 「カーデシアもベイジョーの資源が必要だったんだ! 生き延びるためにはな。私がしたことは全て母国カーデシアのためなんだ! …それでお前たちが苦しむことになっても、どうでもよかった。我がカーデシアさえ栄えれば、それでいいのだ。カーデシアのためだと思えば、何でもできた。」 「だからといって大量虐殺は許されないわ!」 「大量虐殺だと? 虫を駆除しただけだ。」 オドーがやってきた。「少佐。お話があるんですが。」 ダーヒールに聞こえないところで話す。「ドクター・ベシアといろいろ調べたんです。」 うなずくキラ。 オドー:「理由はわかりませんが、あの男は自分から、囚われに…来たんです。」 キラはダーヒールを見た。 |
※17: Maraltian seev-ale ※18: Kalevian montar |
パッドを渡すオドー。「これが、ガル・デュカットが送ってきたガル・ダーヒールの死亡証明です。」 シスコ:「これによるとガル・ダーヒールは 6年前、睡眠中に死んでいる。『死因は内臓からの大量出血※19』だそうだ。」 キラ:「そんな死亡証明なんかでっち上げに決まってますよ。カーデシアがガル・ダーヒールを釈放させるために卑怯な手を使ってきているんです。」 「今の発言はガル・デュカットには伏せておこう。」 オドー:「賢明ですね。ところで…」 キラ:「自分でガル・ダーヒールだって認めてるんですよ?」 「でも少佐、彼は…カラ・ノーラにかかってます。」 「だから何なの?」 「私が入手した資料によれば、ガル・ダーヒールはカラ・ノーラにはかかっていないんです。」 「だけどそれもどうせガル・デュカットからの情報なんでしょ?」 シスコ:「説明してもらおうか。」 オドー:「ガル・ダーヒールの出張の記録によりますと、鉱山事故が起こった日は、彼はカーデシアに戻っていたんです。メダル※20の授与式のためにね?」 「鉱山事故の日にガリテップにいなければ、カラ・ノーラに感染できるはずがないな。」 「そうです。しかしこの男はカラ・ノーラに感染しています。」 キラ:「私には信じられないわ?」 「証拠はまだあるんです。ここに来る 2週間前に、彼はコラ2 で…教官をしていた士官学校を辞職し、綺麗に身辺整理をして、長年雇っていた家政婦にも別れを告げたそうです。」 「不思議はないわよ。別の土地へ移る前に、犯罪人って自分の痕跡を消そうとするじゃない。」 「でも彼はこのステーションに立ち寄る船を、わざわざ指定してるんですよ? ベイジョーのステーションにね? カーデシア人の戦犯がやることにしては変だと思いませんか。」 シスコ:「捕まりたかったなら別だが。」 キラ:「待って下さい。一つはっきりさせておきます。確かにいろいろと疑問は出てきましたけど、何だろうと…ガル・ダーヒールの身柄はベイジョーに送検して戦犯として裁きの場に立たせなければ。」 「本当にガル・ダーヒールかなあ。」 「話してみて下さい。お疑いなら、もう一度彼の言うことを聞いてみて下さい。彼がガリテップにいたのは、絶対に間違いありません!」 ベシアが司令官室に入る。「オドー。マリッツァの医療記録を調べてみたよ。」 シスコ:「どうだった。」 「カラ・ノーラ症候群はもちろんのこと、かなり高齢ですから、ちょくちょく小さな病気にかかっています。まあそれが自然なんですが、一つだけおかしなことが。」 オドー:「何ですか。」 「5年前コラ2 にやってきた直後だと思うんですが、一種の皮膚刺激薬※21を大量に服用しているんですよ。この薬は、美容整形外科医がよく用いるものなんです。整形後に、皮膚の弾力を維持するためにね。」 キラ:「つまりガル・ダーヒールに似せて顔を整形したってことなの?」 「それ以外に考えられます?」 拘束室。 独りで入るキラ。「気分はどう?」 ダーヒールだったはずのカーデシア人。「退屈だったが君の顔を見たら元気が出てきた。」 キラ:「あなたのカラ・ノーラ症候群のことだけど。ドクター・ベシアに診てもらう?」 「ああ、苦しんでのたうち回るところを見たいのかね。…カーデシア人たるもの、ベイジョー人にそんなザマは見せられん、君には我々がわかってない。」 「あなたのことなら随分わかってきたわ? …でも一つ聞きたいの。」 「どんなことかな?」 「どうしてカラ・ノーラ症候群に感染したの?」 「カーデシア人だからって病気にかからんとでも思うのか。ベイジョー人はかかっても? ならよかったがね。」 「それじゃあなたは鉱山事故が起こったあの日、ガリテップにいたのね?」 「そうだ、同じことを聞くな!」 「あなたの出張記録によれば、あの日はカーデシアに戻っていて留守だったはずだからよ。」 「何を馬鹿な。」 「ほんとよ? メダル授与式に出席のため。」 「その記録は嘘だ!」 「見せてあげましょうか?」 「いや、自分のいた場所は自分で覚えてる。」 「何で顔を整形したのか教えてくれない?」 「何のことだかわからんね!」 「あら忘れたの? あなた 5年前に、コラ2 に着いてすぐ…」 「そんな話は聞きたくない、もう疲れたから出てってくれ!」 「何で顔を整形したのか教えて!」 「セキュリティ、この女を連れ出せ!」 「何でガル・ダーヒールそっくりに顔を変えたの?!」 「くだらない質問をするんじゃない! ベイジョーから撤退する時の私の気持ちがわかるか! 腹が煮えくりかえったよ。ベイジョー人を皆殺しにしないで、撤退するとはなあ。馬鹿な記録保管係があたふたと書類を詰めてる間、手の空いた部下に命じて、キャンプのベイジョー人を全員殺させたんだ。」 「記録保管係を馬鹿にしていたのに、何でマリッツァを名乗ったの?」 「私は、キャンプのベイジョー人を皆殺しにしてやるつもりだったんだ。それができなかったことが今まで生きてきた中で、一番の心残りだがな。」 「…あなたはマリッツァなのね?」 「この私がマリッツァ? あの女々しい奴と一緒にしないでもらおうか。私はガル・ダーヒールだ。ベイジョーのかたき。ベイジョーの悪夢。ガリテップの殺し屋は私だ!」 「ガル・ダーヒールは 6年前に死亡してるわ。あなたはガリテップの記録保管担当者の、エイミン・マリッツァよ。」 「いいや、私は死んではいない。私は永遠に生き続けるのだ! 死んだのはマリッツァの方だ! マリッツァは、臆病な男でな。枕に顔をうずめてはよくメソメソ泣いてたよ! フフ…夜になると、手で耳を押さえて…救いを求めるベイジョー人の…哀れな…悲鳴が…聞こえないようにと…聞こえないようにと……」 泣き崩れるマリッツァ。 無言で見つめるキラ。 マリッツァ:「毎日夜になると、私は情けない男だった…。情けない男だ、フン! …何もしなかった。…マリッツァは、死んで当然なんだ。」 キラは独房のフォースフィールドを解除した。 マリッツァ:「…何をするんだ。」 キラ:「あなたを釈放します。」 「セキュリティ! 早く来てくれ。」 中に入るキラを避けるマリッツァ。 キラ:「…あなたは罪を犯していない。罪を止められなかったのは、仕方のないことよ。」 マリッツァ:「そりゃあ違う、私も含めてカーデシア人がみんな罰せられるべきだ! 私がガル・ダーヒールだってことにしといてくれ、それしかないんだ…!」 「何でこんなことをしたの?」 「カーデシアのためだ! カーデシアはベイジョーに対してしたことを認め、謝罪すべきだ! 私の裁判でカーデシアは罪に気づくだろう。我々は償わなければ! …私は死んでいいんだ…。」 「私はもう二度と殺人はしないわ。今までにも、大勢の人が死んでいった。もう誰も死なせたくないの。」 うなだれるマリッツァ。 プロムナード。 保安室から出てくるキラ。「コラ2 には 3日ほどで戻れるそうよ?」 マリッツァ:「戻ったって何もないのに。」 「いいえ、連絡はつけておいたわ? みんな待ってるわよ?」 「私がガル・ダーヒールとして裁判にかけられれば、新しいカーデシアは目覚めたのに。今更マリッツァに戻ってどうするんだ。」 「あなたのしたことは崇高なことよ? もしカーデシアが変わるとすれば、あなたのような人が必要になるわ。」 その時、様子を見ていたケイノンが近づいた。ナイフを手にしている。 そしてマリッツァを背中から刺した。 叫ぶキラ。倒れるマリッツァを支える。 ケイノンはオドーに取り押さえられる。 マリッツァは、絶命した。 キラ:「なぜよ! ガル・ダーヒールじゃなかったのに!」 ケイノン:「カーデシアの野郎なんて! 誰だって同じだろうが!」 「違うわ! …違うのに……。」 キラはマリッツァを見つめた。モーンたち、プロムナードの人々が集まってくる。 |
※19: 内臓からの出血 coleibric hemorrhage ※20: 正確には熟達奉仕メダル (Proficient Service Medallion) ※21: dermatiraelian plastiscine |
感想
自分はワンシーンしか出ていないにもかかわらず、クワーク役のシマーマンも気に入っているという傑作です。第1シーズンにして、こんなレベルの作品が生まれたことは驚きに値します。パイロット版と「スペース・テロリスト ターナ・ロス」で予算を食い、シーズン末期のこのエピソードは、低予算のいわゆる「ボトルショー」です。でも会話劇であることを最大限に生かして、「DS9 は戦争とかの問題ばかりでつまらない」という意見を軽く吹き飛ばしていますね。 マリッツァが刺殺されて終わる、あっけない最後…。要求通りの幕切れにした監督に脚本家も喜んだというだけはあって、まさに ST らしい終わり方です。「二重奏」という単純な原題 (当初は "The Higher Law" というタイトル案だったそうです) もいいですね。 その他見所としては、デュカットがサブレギュラーとして 2回目の登場。もっと出ているような印象があったので意外です。ベイジョー人ニーラもわずかに顔を見せ、次のエピソードで重要キャラとなります。シャカールも初言及ですね。 |
第18話 "Dramatis Personae" 「反逆のテレパス・エネルギー」 | 第20話 "In the Hands of the Prophets" 「預言者の導き」 |