モーンたちでにぎわうクワークの店に、コットがいた。
そのテーブルに白い布がかけられる。
クワーク:「お待たせいたしましたあ。」
コット:「注文してないぞ。」
「疲れた旅人の、お腹を…ヘヘ…優しくいたわるにはやはり、美味しい手作り料理が一番だろ? まずは、デリケートな味の…ヴァク・クローヴァースープ※13だ。」
コットは皿を手に取り、スープを床に流した。皿も落として割る。
クワーク:「…スープじゃ物足りないよな、ヘヘ…。じゃあ次の料理を。ジャンボ・ヴァルカン・タコ※14だ。バターでソテーしたものでこの珍味を食べてから死ねって言われてるぐらいだ。あ、いやその、それほど美味いってことさ。ダボはできるか、ファリット。すごく簡単に覚えられるゲームだが面白いんだぞ?」 指を鳴らす。「ダボの指導をしてくれる先生を、2人お呼びしてあるんだ。」
2人の女性がやってきて、コットにキスをする。
クワーク:「『2倍儲けるコツ』があるからちゃーんと教えてもらえよ?」 笑う。「俺の好意だ、受けてくれ。せっかく来てくれたんだ、ここにいる間は…羽を伸ばして、思いっきり楽しんでくれ。さて。再開を祝って乾杯しようじゃねえか。俺たちの、友情に乾杯!」
コット:「借りに乾杯。」
笑みの消えるクワーク。
クリンゴン人※15はクリンゴン語で叫んだ。「(何にする?)」
メニューを手にしているベシア。「僕が、注文していい?」
パズラー:「どうぞ?」
「それじゃまずラクト※16を、一人前頼む。」
注文を繰り返し、生き物を手づかみで皿に置いていくクリンゴン人。
ベシア:「それから、グラドゥストー※17を。2人前、ソースなしで。それから、そうだなあ、ジルムカッハ※18をもらおうかな。2人には多すぎるかなあ。」
構わず皿に入れ、差し出すクリンゴン人。「(どうぞ)」
パズラー:「見せて?」
ベシア:「美味しそうだよ。」
ラクトを手にするパズラー。「ああ、悪いけどこれは食べられないわ?」
ベシア:「いやあ、見かけと違って…」
突然パズラーはクリンゴン語を使った。「(これが新鮮なの?)」
クリンゴン人:「(何か問題か?)」
「(食べ物じゃないわ)」
「(イヤなら食うな)」
「(活きの良いのを)」
クリンゴン人は皿を一瞬見てから、笑い出した。「見る目のある客はシェフをその気にさせる…。」 皿を取り、後ろに放り投げた。別のラクトを見せる。
笑うパズラー。「(いいわ)。鮮度の落ちたラクトは最悪よ。」
ラチナムを払うベシア。
クリンゴン人は歯で噛んで確認し、容器に投げ入れた。次のパクレド人に尋ねる。「(何にする?)」
最後のラクトを口にするベシア。「10歳の時、僕の父は外交官としてインヴェルニア2※19 に赴任した。」 後ろにはパクレド人たちの姿が見える。「ある日、一家で郊外に出かけた時、巨大なイオン嵐に遭遇したんだ。ちょっと離れたところに、同い年ぐらいのインヴェルニアの少女が、倒れていた。嵐が過ぎ去った後、父が助けに行ったがもう手遅れだった。死ぬのを見てるしかなかった。でも後で地元の人から、その病気ならそこら中に生えてる薬草で簡単に治せたことを教えられたんだ。…もう愕然としたよ。」
パズラー:「…それで医学を、志すようになったんですか?」
「実はね。初めはテニスをやろうと思った。」
「テニス?」
「テニスのプロになるつもりだったのさ?」
「へえ、すごいですね。」
「自分は上手いと思ってたんだ。…でも初めて大きな大会に出た時、相手のサーブに一歩も動けなかったんだ。手も足も出ないんだよ。相手の得点がアナウンスされるのを聞いて、こりゃダメだと思ったね? で結局テニスはあきらめて、医者になった。」
笑うパズラー。見つめ合う二人。
パズラー:「ん…私、明日は…任務で朝が早いんです。…もう休まなきゃ。」
ベシア:「…ああ、そうだね。」
廊下。
荷物を持ったダックスは、ドアチャイムを押した。反応がない。
連絡しようとするダックス。「ダックスよりメローラ。…コンピューター、ドアロックを解除して。」 中に入る。「パズラー少尉?」 姿はない。
ダックス:「コンピューター、パズラー少尉の現在位置は。」
コンピューター:『ドッキングレベル22、第14セクションです。』
「第14セクション。」
やってきたダックスは、荷物を置いて急いだ。車椅子だけが置かれている。
その先にはパズラーが倒れていた。身体に取り付けられた機械は、同じ動きを繰り返している。
パズラーの身体を起こすダックス。「治療室へ行った方がいいわね。」
頭を怪我しているパズラー。「私が悪かったの。もう一つ、予備の分として宇宙測量アレイを持っていった方がいいと思って、倉庫に取りに行ったんです。任務のことで頭がいっぱいで。足下を…注意するのをすっかり忘れていたの。多分ブーツが、ドアに引っかかったんだわ? で、倒れて動けなくなって。※20」
パズラーを車椅子に戻したダックス。「ダックスよりベシア、メローラが怪我をしたの。大したことないけど、治療室へ連れて行くわ?」
ベシア:『了解、スタンバイします。』
パズラー:「全く腹が立つわ? どのドアにも出っ張りがあるんだもの。どういう設計者なのかしら…。」
ベッドで治療されるパズラー。「ガンマ宇宙域に飛び出す前に、こんなヘマをしちゃって。」
ベシア:「大丈夫。脳震盪は起こしてないから、任務は明日に延ばせば。」
「だけど……壊れたオモチャみたいな気持ちになったわ? あんな姿を見られたくなったけど立ち上がれなくて。」
「…何でダックスを待ってなかったんだ? スロープのないところは危ないよ。」
「…独りだって大丈夫。もっと気をつけてれば。」
「メローラ。…どんなに強い人だって、独りでは生きていけないんだよ。宇宙に出たら、お互いに助け合わなくちゃやっていけないんだ。」
「私だってもっとみんなの役に立ちたいの。」
「十分立ってるよ。だから君も、僕らを信用してくれないか。」
「信用?」
「僕らだって役に立つ。」
微笑むパズラー。
廊下で話すベシア。「低い重力圏の種族について、30年前に発表された研究を知ってるかい?」
パズラー:「神経筋適合術※21? でもあれは成功しなかったんです。」
「まあね。でも理論としては正しいし、当時より神経化学は進歩してるよ。」
「じゃあいつか私も立って、歩けるようになる?」 部屋に入るパズラー。
「理論的には、あり得るね。」
「……寄っていきません?」
「いやあいいよ、少しでも早く重力を切りたいだろうし。」
「……いいんです、遠慮しないで。」
中に入るベシア。
装置を手にするパズラー。「…慣れるまでは何かにつかまってた方がいいですよ?」
壁に手を伸ばすベシア。パズラーはスイッチを入れた。
音と同時に、パズラーは車椅子を離れた。空中を漂い、ベシアに近づく。
笑う 2人。パズラーは回転した。喜ぶベシア。
パズラー:「さあ、ドクター。」
ベシア:「でも、どうすればいい。」
「壁を、手で押せばいいの。やってみて?」
不安定な態勢のまま、空中に浮かぶベシア。「ああ…ああ…すっごくいい気持ちだね。一度でいいからやってみたかったんだ。ああ…」
近づくパズラー。「みんなそう言うわね? 何だか鳥になったような気分になるから。クセになるから部屋に人は入れないのよ?」
ベシア:「そりゃあ光栄だな、入れてくれて。」
「…うん。彼は兄なの。」
「誰?」
写真立てを示すパズラー。
ベシア:「ああ。」
パズラーはベシアと口づけした。キスを続ける二人は、抱き合ったまま浮かんでいく。
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※13: Vak clover soup
※14: Vulcan mollusks mollusk =軟体動物
※15: クリンゴン人シェフ Klingon Chef (ロン・テイラー Ron Taylor) 後にも登場。声はアシュロック役の大川さんが兼任
※16: racht
※17: gladst
※18: zilm'kach
※19: インヴェルニア2号星 Invernia II
※20: "I fell on my controls." が「コントローラーを落として」と訳されています。コントローラーは部屋で重力を切るための物
※21: 神経筋適合理論 neuromuscular adaptation theory
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