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ディープスペースナイン エピソードガイド
第27話「フェレンギ星人の掟」
Rules of Acquisition

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・イントロダクション
※1モーンが、いびきをかいて寝ている。
手を伸ばすオドー。「起きろよ、モーン。プロムナードじゃ、眠るのは禁止だ。さあ帰れ!」 歩いていった。
モーンはクワークの店の、閉められたドアを叩く。

店の中でギャンブルを楽しむフェレンギ人たち。気づかれないモーンは歩いていった。
次々とラチナムを入れ、盤を回していく。
クワーク:「さあ、どうしたどうした!」
その中には、ロム※2もいる。
突然動きが止まった。ダックスが考えている。
クワーク:「あなたの番ですよ、大尉?」
ダックス:「わかってるわよ! 太ももに手を載せないでくれる?」
「ああ…手が勝手に動いちゃってね。」
笑うロム。
クワーク:「それで、どうします? 勝負、逃げる、買い? それとも撤退?」
ダックス:「…勝負!」 持っているカードを見せる。
みなカードを捨てた。クワークもだ。
ダックス:「やったー!」 中央のラチナムを全部取る。
ロム:「勝ち続けですね。」
クワーク:「しかし何でそんなにトンゴ※3に強いんですか?」
ダックス:「実はねえ、クルゾンがトンゴが大好きだったのよ。」
ロム:「それなら構わないや。女にじゃなくてクルゾンに負けたんならね?」 隣のフェレンギ人に相づちを求める。
「あら、クルゾンより私の方がずっと強いんだから。」
クワーク:「それにずーっと美人だ。」
ロム:「そりゃあまあね。でも僕は、フェレンギの女がいいなあ。服も着ないし…口答えもしないし、それにトンゴなんかやらないしね?」
ダックス:「…そういう女性が好みなわけ? 裸でおとなしいのが。」
クワーク:「そういう暮らしもいいですよ?」
「ああ…冗談じゃないわ?」
「残念だなあ。期待してたんだけど。」 笑うフェレンギ人たち。
「スタートは、ラチナムのチップ 5つからいきましょう。買いは 3つからで売りは 4つから…」
ロムの隣のフェレンギ人。「ねえ、ロムさんお願いしますよ。」
ロム:「後だ…後あと!」
「クワークさんとお話をしたいんです、約束したでしょう!」
「今まずいよ、後にしろってんだ…」
クワークはロムの頭を叩いた。「何を騒いでるんだ、うるさいぞ!」
ロム:「すいません、兄貴。このウェイターが生意気なもんで。」
ウェイター:「すいません、でもこれを食べてみてくれませんか。」
クワーク:「何だそれ。」
「飲み物の売り上げを倍にする、魔法の豆ですよ。」
クワークは豆を受け取り、口にした。すぐカップの飲み物を飲む。
ウェイター:「ほーら、豆を食べた途端に飲み物に手を伸ばしたでしょ。」
クワーク:「ほんとだ。もう一つよこせ!」 指を鳴らす。
また口にし、すぐ飲むクワーク。「素晴らしい! 飲まずにはいられない味だ、何て豆だ?」
ウェイター:「グラミリアン・サンド豆※4です。この豆を食べると唾液の分泌が抑えられて、口の中が乾くんです。一粒ごとに効きます。」 間のロムを無視し、顔を近づけるクワークに話す。「今メニューに載ってるローカー豆※5はやめて、このグラミリアン・サンド豆を出せば、客がどんどん飲み物をお代わりしてくれますよ?」
「お前の名前は?」
「ペル※6です。さあ…いかがですか、僕のアイデアは。」
「金儲けの秘訣第59条。ただのアドバイスは高くつく。※7
ペル:「うーん、ですけどねえ。第22条。賢い男は風の音にも金の音を聞く。※8
「美しいポエムだ。」
笑うペル。「金儲けの秘訣なら 285条まで、全部解釈つきで覚えているんです。一生ウェイターで終わるのは、嫌ですからねえ。」
ロム:「よし、そんならクビだ!」
クワーク:「黙ってろ、ロム。商売のこととなるとうちの弟は女より使えなくてねえ。」
ペル:「ああ…」
「ところで…何でうちの店に来たんだ?」
「…最高の師匠から勉強がしたかったんで。」
「ははあ、それを聞いて第33条を思い出したぞ?」
ペルも同時に言った。「上司にゴマをすっても金はかからない!※9
笑う 2人。微笑むダックス。
突然、うるさい音が鳴り響いた。
ダックス:「何の音?」
席を立つクワーク。「グランド・ネーガスからの亜空間通信だ。」
ロム:「何の用があるんだろうねえ。」
コンピューターに映ったグランド・ネーガス・ゼク※10。『何を驚いとるんじゃ。また来ると言ったじゃろ。』
クワーク:「いやいや光栄ですよ、グランド・ネーガス。」
『相変わらず腰が低いのう。さすがだなあ、クワーク。』
「努力してます。」
『我々フェレンギ人が、いよいよガンマ宇宙域へ打って出る時がきた。ついてはお前をそのチーフに任命しようと思う。』
「…あたしを?」
「その通りじゃ。想像を絶するほどの利益を得るチャンスを与えてやろうというのじゃ。後はお前の腕次第。」
驚くクワーク。「おお…。」


※1: このエピソードは、1994年度エミー賞のメーキャップ賞にノミネートされました

※2: Rom
(マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第23話 "The Siege" 「帰ってきた英雄 パート3」以来の登場。声:山崎たくみ

※3: tongo
初登場

※4: Gramilian sand peas
初登場

※5: lokar beans
DS9第10話 "Move Along Home" 「死のゲーム」など

※6: Pel
(ヘレン・ウーディ Helene Udy) 声:高乃麗

※7: No.59 "Free advice is seldom cheap."

※8: No.22 "A wise man can hear profit in the wind."
「第27条」と誤訳

※9: No.33 "It never hurts to suck up to the boss."

※10: Grand Nagus Zek
(ウォーレス・ショウン Wallace Shawn) DS9第11話 "The Nagus" 「宇宙商人フェレンギ星人」以来の登場。声:田の中勇

・本編
ゼクは小さな容器を開けた。「フーパイリアンの嗅ぎタバコ※11をいかがかな?」
シスコ:「私は結構。」
「少佐は。」
キラ:「遠慮しときます。」
「そうか、残念じゃな。美味いのにのう?」 ゼクはタバコを嗅ぐ。だがクシャミをしてしまった。
メイハードゥー※12から布を受け取る。「効きすぎたようじゃ。」
笑いをこらえるシスコ。あきれるキラ。
ゼク:「わしに何の御用かな?」
シスコ:「このステーションで、取引が行われると聞いていますが。」
「ああ、ガンマ宇宙域の種族のドサイ人※13とじゃ。お互いにとって実りの多い取引になるじゃろうて?」
キラ:「特にフェレンギ人にとってはでしょ?」
「何を言いたいのかね、少佐?」
「いいえ、別に何も。フェレンギ人といえば有名ですもの。」
「我々は正直で、礼儀正しく、客の信用もある。フェレンギ人と組んで商売をすれば、絶対に安全なんじゃ。」
「だから利口な人はフェレンギ人とは決して取引しないのよねえ?」
シスコ:「少佐、それぐらいにしておけ。」
ゼク:「それは誤解と偏見に基づいた意見じゃ。それに、どうやって商売しようとこっちの勝手じゃろうが。」
「いや、ここで商売をするとなれば話は別だ。」
キラ:「つまりこういうこと。あなたがどんなにえらい人でも、この DS9 で交渉をする以上は、もしドサイ人をだましたりしたら…二度とここへは出入りできないようにしてあげますからね。」 顔を近づける。
ゼク:「あんたの瞳の輝きは、キベリアン・ダイヤモンド※14の炎のような輝きに似ておるのう?」
「お世辞なんかやめて!」
キラの手をつかむゼク。「綺麗な目じゃ。ところで、一つ聞くが…化学肥料のブライジーン※15を 5万キロ、ベイジョーに御用立てすると言ったら?」
キラ:「ああ…ありがたいわ? それだけあれば、北部の半島を全部耕すことができる。」
「それは結構じゃ、実は最近ブライジーンを 5万キロ手に入れてのう。今度の交渉に場を提供してくれる御礼として、そのブライジーンを全部ベイジョーに回してやろう。」
シスコ:「…ドサイ人と公正に交渉を行ってくれれば、こちらは文句はないんだ。」
「誓ってズルはせんよ。」
「よろしい。」
「これで、解決じゃな? では約束した。5万キロのブライジーンはそうじゃのう…定価の 25%で譲ってやろう。」 出ていくゼクたち。
「何だって、無料で贈るんじゃないのか。」
「まあおたくらとは、古い付き合いじゃから? 格安の値段でも構わんよ。」
「話が違うな。感謝の気持ちとしてベイジョーに寄贈したらどうだ。」
「寄贈? あまりもうけにはならなそうじゃの。」
「いや、なるさ。」
「どうしてじゃ。」
「このステーションで交渉できるんなら安いもんだ。」
笑うゼク。「あんたなかなかやるじゃないか! いやはや地球人にしては上等じゃよ。…ブライジーンは必ず届けてしんぜよう。…ほかに何かあれば、何でも言っておくれ?」 キラに手を触れ、司令官室を出ていくゼク。
キラはシスコを見た。野球ボールを投げ上げるシスコ。

耳毛の手入れを受けるゼク。「のう、クワーク。わしも今までいろいろ金儲けをしてきたが…この耳たぶの感じでは、今度の取引はフェレンギ人にとって史上最大の儲け話になるような気がするんじゃ。」
クワーク:「しかも自分が、それに関われるなんて。」 ゼクの靴を脱がす。
「金も名誉も権力もみんな手に入るぞ?」
「ああ、ところでその儲け話って具体的には何なんですか?」
「扱う商品はのう、チューラベリーじゃ。」
「チューラベリー?」
「その通り。」
「ああ、それで?」
「チューラベリーの実で作ったワインがあってな、そのワインを 1万樽買い付けてきてもらいたいんじゃ。ドサイ人からな。」
「ワインを買い付けるんですか?」
「一年もすれば、チューラベリーはガンマ宇宙域で一番売れるワインになっておるじゃろうて。ああ、もういい!」 メイハードゥーを怒り、鏡を見るゼク。「ああ、なかなかじゃ。品があるぞ?」
「しかしですね、どうやったらチューラベリー・ワイン※16で史上最大の金儲けができるんです?」
「説明しないとわからんのかのう。」
「ええ、お願いします。」
「チューラベリー・ワインでガンマ宇宙域へ進出する足がかりを作るんじゃ。一旦フェレンギを中に入れてしまえば…追い出すことはできんからのう。」
「そうか、そうですよ!」
「チューラベリーじゃぞ、クワーク? チューラベリーじゃ…。」

話すロム。「チューラベリー。どんな味なのかなあ。」
クワーク:「どんな味だっていいんだ。それをとっかかりにガンマ宇宙域へ進出するってわけよ。」 後ろで働きながら、話を聞いているペル。
「そのチーフが兄貴だなんて感動しちゃうね。」
「俺は歴史を作るぞ? もちろん金も儲かるしよ。これもグランド・ネーガスのおかげだな? 見てろよ、ロム。」
ペルがグラスを運ぶために近づく。「忘れちゃいけませんよ? 笑顔の時ほど油断をするな※17です。」 離れる。
クワーク:「第48条だ。」
ロム:「あのペルって野郎とんでもないよ!」
運び終わったペルを呼ぶクワーク。「ペル! 今言ったのはどういう意味だ。」
ペル:「…何でグランド・ネーガスが、あなたにこんないい話をもちかけたと思います。」
「そりゃ決まってる、俺の腕を買ってるからさ。」
「それだけじゃありません。」
ロム:「兄貴を侮辱するつもりなのか、今すぐクビにしてやる!」
クワーク:「うるさい! 言ってみろ。」
ペル:「もし交渉が上手くいったらグランド・ネーガスは国の英雄になれますが、もし失敗したら。誰かに責任をおっ被せないとねえ?」
「俺にか!」
「…とにかく、気をつけて下さいよ?」 また離れるペル。モーンが通りかかる。
ロム:「あいつの言うことなんか聞いちゃダメだ。焼き餅で言ってるだけなんだから。」
クワーク:「いや、ペルの言うとおりだ。失敗したら俺は終わりだ…。」
「じゃ、独りで行くのはやめた方が。」
「だな。」
「いいアドバイスをしてくれる助手を連れて行ったら?」
「だな!」
「お…俺ならピッタリ!」
「いや。」 またペルを呼ぶクワーク。「ああ! お前なかなかできるな。どうだ? 俺についてドサイ人との交渉に来てくれ。」
ペル:「いいですとも。」
「よーし。」
「パートナーですね?」
「ああ、いや違う。パートナーはいらない。アシスタントが欲しいんだ。」
「利益の 25%をくれるならね!」
「15。」
「20。」
「よーし。」
「うん。」
ロム:「で、でも兄貴、俺はどうするんだよ。」
クワーク:「どうするって、6番テーブルだぞ?」 グラスを渡す。
「え? ああ…。」
喜ぶクワーク。ペルも微笑んだ。

自室へ帰ってきたペルは、鏡を見た。ため息をつく。
ベッドの下から箱を取りだした。その中に入っていた器具を使う。
そして耳たぶを外した。小さい耳が本物だ。
偽の耳たぶを 2つとも箱に収めるペル。もう一組の耳たぶも見える。
上着を脱ぐペルには、胸のふくらみもあった。椅子に座り、またため息をつく。


※11: Hupyrian beetle snuff
初登場

※12: Maihar'du
(タイニー・ロン Tiny Ron) DS9 "The Nagus" 以来の登場。声優なし

※13: Dosi

※14: 正確にはブライジーン硝酸塩 (brizeen nitrate)

※15: 正確にはキベリアン・ファイヤーダイヤモンド (Kibberian fire diamonds)

※16: tulaberry wine
初言及

※17: No.48 "The bigger the smile, the sharper the knife."

エアロックの前で待つクワーク。「俺の顔色は。」
シスコ:「真っ青だ。」
「…え、俺が? あ…絶好調なんだけど…」
キラ:「真っ青になるのはゼクでしょ? あなたなんかをチーフに任命しちゃって。あっ!」 隣りにいるゼクに言う。「今度またそんなことしたら。」
ゼク:「何を。」
「とにかく今度またそんなことをしたら、5万キロの肥料の山にあんたを突っ込んでやるわよ…」
クワーク:「来たぞ!」
エアロックが開くと同時に、いきなり叫びながら異星人が飛ばされてきた。
続いて出てくるドサイ人の男性、イングラトゥ※18。「心配はない。ちょっと、意見の違いがあっただけだ。」
礼をし、笑うクワーク。

クワークの部屋。
睨みつけるドサイ人たち。
クワーク:「ああ…」 ペルに急かされる。「どうです? 何か食べ物でも…。」 笑うが、ドサイ人たちは無言だ。「わかりました、では本題に入らせていただきます。フェレンギはチューラベリー・ワインを 1万樽あなた方から購入したいと考えています。その見返りとしてこちらのリストに載っている品物を、お渡ししたいと思うんですが。」 パッドを置く。
ペル:「お得な取引だと思いますけどねえ。亜空間フィールドジェネレーターや、オプティカルデータ・プロセッサーも。」
イングラトゥ:「チューラベリー・ワイン 5千樽ならいいが?」
クワーク:「5千樽なら困りますねえ…。我々はガンマ宇宙域全体をカバーしたいと思ってるんです。最低でも 1万樽は欲しい。」
「5千樽なら OK だって言ってるんだ。妥協した方がいいぞ。」
ペル:「ネーガスが承諾しないでしょう。」
もう一人のドサイ人、ザイリー※19は女性だ。「こんなのは時間の無駄だわ! ネーガスと直接話すべきよ。」
イングラトゥ:「それぐらい俺だってわかってる!」
「ならどうしてこんな下っ端相手にグズグズと交渉してるわけ?」
「…見ろ、お前らのせいだ。」
クワーク:「何が?」
「俺に恥をかかせたな!」
「いや、そんなつもりは…」
ザイリー:「ネーガスを呼んできなさい。」
ペル:「でもクワークはそのネーガスに任命されたチーフですよ…」
テーブルを叩くザイリー。「それはつまり、ネーガスが直接出てくるほどのこともないってことなの!?」
クワーク:「いや、何もそんなことは言ってない…」
イングラトゥ:「そうか! 貴様を殺せば…」 パッドをへし折った。「ネーガスが交渉に出てくるんだな。」
ペル:「フェレンギと商売をしたいなら、クワークが窓口です。」
黙るドサイ人。
クワーク:「1万樽いただけますか?」
イングラトゥ:「……もう一度考えてみよう。」
笑うクワーク。だが笑みは消えた。

メイハードゥーがターボリフトで司令室にやってきた。
オブライエン:「どうしました?」
無視してキラに近づくメイハードゥー。小さな箱を置いた。
キラ:「何これ。」
開けるように示すメイハードゥー。
キラが開けると、中にはイヤリングが入っていた。
ダックス:「すごく綺麗。」
キラ:「ラチナムだわ? ねえ困るわ、こんな高価な物…」 メイハードゥーはさっさにターボリフトで帰っていった。「ああ。…これで私を落とせると思うわけ?」
「ダメで元々、挑戦するのがフェレンギ人よ?」
「何だかフェレンギ人を誉めてるみたい。」
「ええ、ある意味ではそうだわね。」
「何であなたはフェレンギ人にそう寛大な態度なの?」
「それは、あなたが私ほどフェレンギ人を知らないからよ? 7つの人生を生きてきたけど、フェレンギ人ほど楽しい種族はほかにいなかったわ?」
「ねえ、あなたってよく人から悪趣味だって言われることない?」
「確かに、フェレンギ人は金儲けに目の色を変えすぎるし、女性への態度も下品だけど…」
「フェレンギ人なんてお金に汚いし信用できないし、最低だわ! 隙を見せたら何をされるかわからないわよ?」
「同感だわね。でもそこを気をつければ、とっても楽しい種族よ?」 離れるダックス。
ため息をつき、イヤリングを投げ置くキラ。

クワークの店。
またトンゴをするロム。「逃げる。」
ペル:「逃げる。」
クワーク:「撤退。」
ゼク:「買いじゃ。」
ダックス:「勝負!」
カードを置くクワークたち。
ラチナムを集めるダックスの手を押さえるゼク。「今『買い』と言ったのは、ほんとは『逃げる』じゃ。」
ダックス:「『買い』って言ったくせに!」
「『逃げる』のつもりだったんじゃ!」
クワーク:「じゃあもう一ラウンドやりましょうか。」
ロム:「ええ、やりましょう。」
ゼク:「だーれがやると言った。それに明日の交渉の準備をしなくていいのか。」
クワーク:「ああ、もうそのことばかり考えてるんです。」
ロム:「だから今夜は大負けしたんだ。」
黙るように言うクワーク。「明日は必ず了解を取り付けますよ。」
ゼク:「わしも考えておったんじゃが、やはり 1万樽ぽっちではとても足りんなあ。10万樽買ってこい。」
「え、10万樽?! でも 1万樽でもダメかもしれないんですよ?」
「じゃが 10万樽の方がお互いにとって儲けが大きいじゃろう。言うとおりにせい! でなけりゃわしが交渉に乗り出すぞ?」
ペル:「おっしゃる通り数を増やした方がいいと私も思います。」
「そうかね?」
「こっちの本気が印象づけられますからねえ。さすが天才でいらっしゃる、クワークの言うとおりだ。」
「クワークがそう言っとるのか。」
クワーク:「ええ、いつもね…?」
「それは嬉しいのう。おい、新しいジムシを頼む。噛みごたえがあるのをな?」
「あ、ただいま。」 離れるクワーク。
「若いの、今度のトンゴは…お前からじゃぞ?」
ペル:「いえ、パスさせていただきます。」 クワークを追った。
「あれだけ忠実な部下は金がかかろうのう?」
ダックス:「忠実な部下はお金では買えないものよ?」
「金で買えぬものなどない。」
クワークに近づくペル。「ネーガスっていつもああなんですか?」
クワーク:「結果を出さないとすぐに怒る人でね。無理難題を言い出したもんだ。…10万樽なんて、どうすりゃいいんだ。」
「大丈夫ですよ!」
「なぜそう言い切れる。」
「あなたは腕がいいし、それに僕がついてるんですから。」
「…何でそう親身になるんだ?」
「20%の取り分のためですよ。」
「うん、いい度胸だ。」
ゼクが叫んだ。「クワーク、わしのジムシはまだか!」
戻るクワーク。「ただいま。」
ゼク:「うーん、やっぱり新鮮なのは美味いのう?」
ダックスはクワークとペルを見ていた。

手で食事を食べるペル。
ダックスが同席する。「レプリマットにフェレンギ料理があるの?」
ペル:「いいえ、僕は新しもの好きで。」
「珍しいフェレンギ人ね?」
「トンゴができるトリルも珍しいですよ?」
「2人とも変わり者ってわけね? でもあなたがクワークに忠実なのは正直驚いたわ?」
「…いい人ですから。」
「ああいう時、普通のフェレンギ人なら助け船なんか出さないわ? でもあなたは私の知ってるフェレンギ人とは全然違う。」
「…クワークがあなたが好きで、いつもあなたのことを話しています。」
「…一度彼にホロスイートに誘われたことがあってねえ。行ってみたら、私が子供の頃使っていた部屋が…そのまま再現されてあったの。キラと話してたのを小耳に挟んでやってくれたらしいのよね? でキスを迫ってきたのよ?」
「クワークらしいな!」 笑う 2人。
「みんなクワークを悪く言うけど、私は好き。」
「僕もです。」
「あなたは本気なんでしょ?」
「え?」
「クワークがよ。否定したってダメよ? あの目を見ればわかるんだから…」
「もっと声を低くして!」
「彼知ってるの?」
「女だってことも知りません。」
「女なの!?」
「ワー! 大きな声出さないで! 静かに。」
「それでほかの人とは違う感じなのね。フェレンギの女性に会うのは初めてだわ?」
「最初で最後でしょうね。フェレンギの女は、外に出ることも服を着ることも許されないんです。」
「それが嫌だったの?」
「当たり前でしょ。男なんかに負けないのに。だから大きな耳たぶを作って男の振りをしたんです。」
「何でステーションに。」
「もちろん儲けるためです。…でもただ一つ予想外の事態が。」
「クワークへの恋ね?」
「…どうすればいいんでしょう。」
「わからないわ? でも人生にはお金より大事なものがあるのよ?」
クワークが近づく。「ペル! 時間だぞ。ドサイ人を待たせちゃまずい。いいか、何としてもチューラベリー・ワイン 10万樽を手に入れるぞ…」 ペルと一緒に歩いていった。


※18: Inglatu
(ブライアン・トンプソン Brian Thompson TNG第34話 "A Matter of Honor" 「錯綜した美学」のクラッグ大尉 (Lt. Klag)、DS9第95話 "To the Death" 「戦士の宿命」のトマントラックス (Toman'torax)、映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」のクリンゴン人操舵士 (Klingon Helm)、ENT第88話 "Babel One" 「バベル1号星」・第89話 "United" 「ロミュランの陰謀」・第90話 "The Aenar" 「氷窟の民」のヴァルドア (Valdore) 役) 名前は後に言及されますが、訳出されていません。声:大川透、DS9 ガラックなど

※19: Zyree
(エミリア・クロウ Emilia Crow) 名前は後に言及されますが、訳出されていません。声:棚田恵美子、DS9 モリーなど

クワークの店の 2階を通っていく女性たち。
見つめるゼク。「おうおう…。」
キラ:「…すみません。」
「ああ、少佐。肥料はちゃんと予定通り着いたかの?」
「ええ、おかげさまで。」
「そうか、わしに御礼を言いに来たのか。」 笑うゼク。「さ、座って。」
「いいえ、実はこれを返しに来ただけ。」 イヤリングを返すキラ。
「なぜじゃ、気に入らなんだか?」
「いえ、素敵だわ? でもこれは受け取れません。」
「それじゃ、わしとの情熱的なロマンスの一夜を御願いしてみても、望みはないかな?」
「ええ、悪いけど。」
「ま、ダメもとじゃ。」
キラが歩いていこうとすると、またゼクにお尻を触られた。「ダックスの気が知れないわ?」
クワークが来る。「素晴らしい景色でしょ?」 ペルと一緒だ。
ゼク:「まさか、もう交渉は終わったのか。さすが仕事が早いな、契約書はどこだ?」
ひざまづくクワーク。「契約書はないんです。」
ゼク:「契約書はない? ちゃんとワインを 10万樽買うって言ったんじゃろ?」
「ええ。」
「それで?」
「そしたら出て行っちゃったんです。」
「部屋をか。」
「ステーションを。」
「何?」
「引き留めたんですが。」
「何てこった、貴様には期待しておったのに! せっかくのチャンスをふいにしおって! フェレンギのガンマ宇宙域進出も貴様のせいでオジャンになってしまうかもしれんのだぞ?」
ペル:「ちょっと…ちょっと待って下さい! チューラベリー・ワイン 10万樽、お約束通り手に入れます!」
クワーク:「ほんとか。」
ゼク:「どうやって。」
ペル:「ガンマ宇宙域へ行き、ドサイ人を捕まえて契約書にサインさせます!」
「どうやってガンマ宇宙域へ行くんじゃ。」
「ネーガスの船で。」
「わしの船? うーん、操縦はどうする。メイハードゥーにやらせるのか?」
クワーク:「いいえ、大丈夫です。操縦なら私もできます。」
ペル:「あなた次第ですよ。ワインが欲しいならどうぞ。」
ゼク:「ふーむ、よし。ほんでは貸してやろう。だがな、クワーク。ドサイ人との契約を結べなければ、お前はこれからずっとあのちっぽけなバーを経営して…一生終わることになるぞ?」
ゼクの手にキスし、離れるクワーク。
メイハードゥーを振り返るゼク。

フェレンギの船。
クワーク:「こういう大チャンスがくるのを待ってたんだ。」
ペル:「…ええ、僕もです。」
「でも今までのところ失敗続きだ。」
「まだ望みはありますよ。」
「しかし何だってネーガスは急に 10万樽とか言い出したんだろうなあ。」
「…不思議ですよねえ。」
「わざと交渉を決裂させようとしてるのかな。」
「なぜそんなこと。」
「そりゃわからん。」
「うーん、でもネーガスは絶対もっと何か知ってますよ。」
「何かって?」
「全てですよ。ドサイ人のことも、ガンマ宇宙域のこともね。」
「ネーガスの目的がわかったら教えろよ?」
「…もちろん教えますって。」
「お前をアシスタントで連れてきて本当によかったよ。」
「…そう言ってもらえると嬉しいなあ。」
「……さあ、がんばって金儲けだ。」
「…クワーク、実は話があるんです!」
「いや、お前が言いたいことぐらいわかってる。」
「ほんとに?」
「当たり前だ。」
「わかる?!」
「確かにお前は優秀な助手だが、約束した取り分は 20%だからな。それ以上は絶対にやらんぞ?」
「…わかりました。」
「友情を金儲けに優先させてはならない。※20
「金儲けの秘訣第21条。」
「もちろん同感だろ?」
「フン?」
ため息をつくクワーク。

DS9。
ウェイターに指示するロム。「ほれ、早くしろ! 急げ!」 忙しく働く。カウンターにはパクレド人※21たちがいる。
オドー:「どうした、嫌なことでもあったのか。」
「いや、よくぞ聞いてくれました。」
「クワークはいつ戻る。」
「知りませんよ、何にも教えてくれないんだから。兄貴は、僕なんかどうだっていいんです。ほれ、早く! それというのも、あのペルの野郎のせいなんですよ! 俺の兄貴をかっさらって行っちゃってさ。」
「うん、よかったじゃないか。」
「でも俺の兄貴だ。盗まれたらどんな気がします!」
「私には、兄弟はいそうにないからね?」
「でもいたら?」
「…そうだなあ、もし私に兄弟がいたら…たとえクワークみたいな奴でも、誰にも渡さないだろうな?」
ロムはオドーを見た。
オドー:「うん?」 歩いていく。
ロムは考えた。

荒れた部屋。
いろんなところを物色しているロム。「あいつだって何かアラがあるはずだ。」
ベッドの下の箱に気づいた。「うん?」
開け、偽の耳たぶを取り出すロム。笑い始める。


※20: No.21 "Never place friendship above profit."

※21: Pakleds
TNG第43話 "Samaritan Snare" 「愚かなる欲望」に登場した異星人種族。今後も時々プロムナードなどをうろついています

惑星上の都市。
ワインを注いでいくドサイ人たち。「さっきの話だけど、交渉は私に仕切らせてよ。」「それは無理だ。」「なら私降りるわ。」「まあそう言うな。」
カップをテーブルに叩きつける者。「クソー!」
クワークたちに近づくザイリー。「フェレンギのお二人もちゃんと楽しんでくれてる?」
クワーク:「ええ、もちろんです。」
ペル:「お聞きしますけど、この場所は何。」
ザイリー:「ここはねえ、金儲けの話をするところなの。」
クワーク:「ほんとに? パーティかと思いましたよ。」
「いいえ、みんなここへは商談をしにくるのよ? フェレンギ人と同じで、ドサイ人も金儲けのことになると真剣になるの。」
銃声が響いた。ドサイ人が倒れている。
殺した男が言う。「おい、こいつを連れ出せ。」
ザイリー:「ね、真剣でしょ?」 離れた。
ペル:「…いよいよお出ましになりましたよ。」
イングラトゥが現れた。
向かうクワーク。「やってやろうじゃんか。」
ペル:「何をする気!」
「俺だってやる時はやるぜ。」
クワークとぶつかりそうになるドサイ人たち。「おい!」「気をつけろ!」
イングラトゥの肩を叩くクワーク。
イングラトゥ:「ああ。フェレンギの野郎か。お前はこっち側の人間じゃないだろう。」
クワーク:「来たくて来たんじゃねえや。そちらさんがこの契約書に、フィンガースキャンを押してくれさえすりゃ、言われなくても帰りますよ?」
「あの話は終わりだ。」
また叩かれるイングラトゥ。「とっとと帰れ!」
クワーク:「このままじゃ帰れませんよ。」
しつこいクワークに詰め寄るイングラトゥ。「ああ…貴様、俺を怒らせるつもりなのか。」
声の出ないクワーク。
だが、近くのワインを出していた容器をひっくり返した。一同が静かになる。
わざとらしく謝るクワーク。「すいません。」
イングラトゥ:「やはり DS9 で殺しておけばよかった。」
「でも殺さなかった。それは我々との契約に魅力を感じてたからでしょ? フィンガースキャン、お願いします。」
「…いいだろう。1万樽は何とかしてやる。」
「10万樽だ。」
「10万なんて無理に決まってるだろ!」
「10万もらうまでは帰りませんよ。」
「そうか、なら一生いろ。」 離れるイングラトゥ。
声を上げるクワーク。

布で仕切られた部屋に入るペル。「船で寝た方がよくありませんか!」
クワーク:「いや、ドサイ人がいつ気持ちを変えるかもしれない。おりゃいびきはかかないから。」 ベッドは一つだけだ。
「あ、待って!」
「何だよ。」
「…マットが!」
「マットが何だい。」
「固そうです!」
「いや、柔らかくて気持ちいいぞ?」
「僕固いマット、ダメなんです!」
「大丈夫だ、すごく柔らかいから自分で寝てみろ。どっち側で寝る。」
「何してるんです!」
「何って服を脱いでるんだよ。」
「まさか寝る気じゃないでしょ。」
「寝るさ、もうクタクタだ…。」
「でもこれからの作戦を決めておいた方がいいですよ!」
「今更何を決めるんだ?」
「金儲けの秘訣第103条を覚えてます?」
「何だっけ?」
「眠りは、金儲けの邪魔…※22
「うるさい、もう寝るぞ!」 横になるクワーク。
「待ってー!」
「今度は何なんだ。」
「まず乾杯を。」
「何にだ?」
「金儲けにですよ、もちろん。」 部屋に置いてある瓶からグラスに注ぐペル。
「ああ、そうだなあ。ああ…。」 グラスを口にするクワーク。「ああ、暑くないか?」
「ワインのせいですよ。」
「ならいいんだが。」
「さっきのあなたの態度すごくかっこよかったですよ。」
「ああ、なかなかだったろ? …さあもう寝よう。」
「待って! …あなたが樽をひっくり返した時の奴らの顔!」
「危なかったけどな。」
「危ないことほど儲けも大きい。※23
「第62条。」
「その通り!」
「あ、よく覚えてるよなあ。」
「それにしてもあなたの笑顔って素敵ですね。」
「…そうか?」
いきなりクワークにキスするペル。「あの、クワーク。あなたに話すことが。」 ベッドに倒れ込む。
クワーク:「お、おい。何するんだい。」
「実は…」
部屋に来たザイリー。「あーら、お邪魔だった?」
クワーク:「いえ、何でもありません。ああ…」
「本当かしら。」
「ああ、もちろん。」
「明日にしましょ。」
追いかけるクワーク。「ああ、お待ちを! ほんとに何でもないんですから。さあさあ、こちらへ。」
ザイリー:「忙しいでしょ? いいの?」
「忙しい? いやいや、何をおっしゃいます。明日までなんて待てませんよ。それに、お客様は大歓迎だ。なあ、ペル?」
ペル:「そうですとも。」
ザイリー:「なら言うわ? 例のワインの件ね。彼から 10万樽を買うのはあきらめなさい? 売る気がないって意味じゃないわ? ただ彼には 10万樽も用意できないのよ。」
クワーク:「じゃ、誰ならできるんです?」
「私ならって言いたいところだけど、私でもとても無理ね。」
「もう終わりだ。」
「でも望みはあるわ? もし本当にチューラベリー・ワインを 10万樽買う気なら、私がその筋に仲介してあげるわよ? もちろん、紹介料はもらうわ?」
「もちろんです。やっぱりあなたの方が商売人としては格が上だなあ。それで、その筋って誰です?」
「カレマ※24よ。」
ペル:「カレマって、誰です。」
「ドミニオン※25最高の権力者。」
クワーク:「ドミニオンって、何です?」
「そうねえ、ガンマ宇宙域で商売をしたいのならドミニオンを避けては通れないとだけ言っておくわ。」
微笑むペル。

軌道上にあるゼクの船。
かがんだまま転送されてくるクワークとペル。
クワーク:「『フェレンギの歴史上最大の金儲けになる』って、そうネーガスは言ってた。でも狙いはチューラベリーなんかじゃない。ドミニオンだったんだ。だから 10万樽も吹っかけたんだよ。ネーガスははなっからドサイ人を利用して、ドミニオンの幹部を引っ張り出すつもりだったんだ。」
ペル:「クワーク、話がある…」
「話してるだろ。」
「何でさっきキスしたと思ってる?」
「…キスなんかしてないよ。」
「いいえ、しました!」
「してないね、そんな話はヤメだ。それよりドミニオンの方が大事だ。ドミニオンって一体何だろうな。」
「…惑星間の同盟とか、貿易組合みたいな組織じゃないですかね。」
「どっちにしろ、力があるらしいぞ? 俺も一枚噛みたいもんだ。」
ため息をつくペル。

DS9。
ゼク:「実にガッカリしたぞ、チューラベリー・ワインはどうしたんじゃ。」
クワーク:「でもワインなんかどうでもよかったんじゃないんですか?」
「何を言う。」
ロム:「兄貴、話があるんだ。」
クワーク:「後にしろ、馬鹿者。『ドミニオン』って、聞いたことありますよねえ?」
ゼク:「何か知っとるのか。」
「そちらこそ。」
ロム:「すごく大事な話なんだ。」
「うるさいぞ!」 肘でロムを突くクワーク。「どうなんです。」
ゼク:「わしの…知ってることはまだ噂や推測の域を出ないがのう。ただしこれだけは確信をもって言える。ドミニオンの秘密を知り正体を知る者こそ、ガンマ宇宙域を制するのじゃよ。だがドサイ人はあまり詳しいことは知らんようじゃ。もっと上への橋渡しを期待しとったんじゃが。」
「その情報はいくらぐらいの価値があるんです?」
「いくらじゃと?」
「もしドミニオンの、最高権力者との会談をセットしたら何をいただけますかねえ。」
「それができれば、ガンマ宇宙域でフェレンギが上げる、利益の何割かがお前の懐に入るようにしてやろう。」
「ああ…。すごいラチナムだなあ。」
「で、そいつの…名前は?」
「カレマです。」
「そうか、カレマか。やはりわしの見込んだ通りじゃ。お前の耳たぶは一級品よう。」
笑う 2人。
ロム:「次は俺の話も聞いてよ。」
クワーク:「わかったよ、手短にな。」
ロムはクワークを連れて行く。ゼクはメイハードゥーを呼び、クワークの店を出て行く。
ロムはクワークに必死に話し、ペルを呼んだ。
ペルはクワークに耳打ちする。
クワークは、倒れた。


※22: No. 103 "Sleep can interfere with..."
途中でクワークに遮られたため、全文は不明です

※23: No.62 "The riskier the road, the greater the profit."

※24: Karemma
初言及。原語では「最高権力者」ではなく「重要な勢力」としか言っていません

※25: Dominion
初言及

声を上げるクワーク。「ああ…おお…。」 目を覚ました。
ベシア:「安心しろ。コブができただけだから。」
「ロムはどこだ。」
ロム:「ここだよ、兄貴。」
ベシア:「ほかには異常はないよ。よかったな。」
クワーク:「ああ。もう少し、治療室で休んでってもいいですか?」
「…ああ、いいよ。隣の部屋にいるから。」
「すいません、ドクター。」 ロムに尋ねるクワーク。「おい、誰にも言ってないだろうな。」
ロム:「ペルのことかい。」
「静かに。」
「何も言ってないよ。兄貴から、ネーガスに言った方がいいだろ。」
「ネーガスには一言も言うんじゃない!」
「だって女なんだ…」
「大声を出すな!」
「女が服を着て、金儲けをするなんて。その上、神聖な金儲けの秘訣を口に出して。あんな女は厳しい罰を受けるべきだ!」
「それはわかってる。」
「みんなにバラしてやる。」
「待て!」
「…どうしたんだよ、兄貴。…まさかあの女に惚れてんのか?」
「そんなんじゃねえよ。わからないか。もしネーガスに助手が女だったなんてバレたら、俺は終わりだ! 信用だってガタ落ちだ。」
「でもほかの奴からバラされたら、兄貴はそれこそアウトだ! 言わなきゃダメだよ。なら俺が言う! …行かせてくれ! 兄貴を救うにはそれしか。」
「そしたら店はどうなる。」
「店って。」
「店が欲しいんだろうが。」
「あ、兄貴は?」
「俺にはガンマ宇宙域があるからなあ。お前に店を譲ってやってもいい。ただし一つだけ条件がある。…ペルが女だってことは誰にも言わないって条件だ。」
「…ペルって、あ…あの男がどうかしたの?」
笑う二人。

ペルはドアチャイムに応えた。「どうぞ。」
入るクワーク。立ち止まる。
ペルは本来の耳を見せていた。
クワーク:「耳はどうした。」
ペル:「カバンにあるわ?」
「誰かに見られる前にさっさとつけとけ!」
「…だって部屋には誰も来ないもの。」
カバンを手渡すクワーク。「いいからつけとけ。早く。それからちゃんと上着も着て。」
奥の部屋に向かうペル。
クワーク:「荷造りは済んだか?」
ペル:「私にここから出て行けっていうの?」
「ここからなるべく遠いところへ行け。」
「でも私がいなくなっちゃったら困るんじゃないの?」
「いても困るよ。」
耳たぶをつけて戻ってくるペル。
クワーク:「一体俺に何を期待してるんだ? 見ろ、その格好。女が服なんか着やがって。」
ペル:「それがいけないこと?」
「当たり前じゃないか。いいか? これ以上ここにいればヤバいことになる。俺からの餞別だ。」 持ってきた箱を渡すクワーク。
「何なのよ。」
「ラチナム 10本だ。しばらくは暮らせる。」
腕組みして受け取らないペル。
クワーク:「男の振りをするなら男らしく振る舞えよ! 受け取るんだ。」
ペル:「お金の問題じゃないわ、愛情の問題なのよ!」
「ああ…女がこうなるとめんどくさいんだよ。」
「あなたを愛してるわ。あなただって私に好意をもってるはずよ?」
「だからってどうにもならないぞ。普通の妻になるのは嫌なんだろ?」
「じゃあ一緒にガンマ宇宙域へ行きましょう。あっちなら服を着たって誰も気にしないわ?」
「…俺が気にする。」
「……それじゃ荷造りを始めるわ。」
「……ああ、それがいい。」

食事中のロム。
クワークは浮かない顔をしている。
箸を使うゼク。「うーん、このノミのフレーク※26は実に素晴らしい味じゃのう。」
ロム:「そうだよ、兄貴も食べてみなよ。」
クワーク:「まだ腹が減ってないんだ。」
ゼク:「わかったぞ? 儲けが入ってきたらどうやって使うか考えていたんじゃろう。」 笑う。「ま、気持ちはわかるよ。」
ドアチャイムに応えるクワーク。「どうぞ?」
ペルが入ってきた。
ロム:「……出てったんじゃなかったのか?」
クワーク:「出てったはずなんだが。」
ペル:「申し訳ないけど、ネーガスに御挨拶もしないでどこかへ行くわけにはいきません。」
ゼク:「立ち寄ってくれて嬉しいぞ。お前は随分クワークの役に立ったそうじゃのう。将来が楽しみな若者じゃな、見たところいい耳たぶをしとるしのう。」
ゼクに近づくペル。「私の、耳たぶがお気に入りで。」
クワーク:「ペル…。」
ゼク:「ああ、なぜじゃ?」
ペル:「なら、どうぞ差し上げます!」 耳たぶを引きちぎった。
クワーク:「バーカ!」 慌ててペルの耳を隠す。
ゼク:「ワー! 女じゃないか!」
ロム:「もう店はもらえないの?」
クワーク:「ロム! お前は引っ込んでろ。」 ロムを蹴る。
ゼク:「クワーク、これは一体どういうことなんじゃ。説明してみろ。」
クワーク:「いやあ、そのう…」
ペル:「彼は関係ないわ!」
ゼク:「誰に向かってものを言っとるんじゃ。初めから知っとったんじゃな?」
クワーク:「いやあ…」
ペル:「さっき、将来が楽しみだって言ったのは嘘なの?」
ゼク:「お前に将来はない。これから一生刑務所で暮らすことになるんじゃ、覚悟しておけ。」
クワーク:「いけません。」
「言っておくがの、商売に関して女からアドバイスを受けることはフェレンギでは違法行為じゃ。」
「女だとは知らなかったんです。」
「無知は言い訳にはならんぞ? これ以上逆らうようなら貴様も一緒に刑務所入りだ!」
「それを言うならあなたも一緒でしょう。」
「脅迫する気か?」
「みんなきっとあきれかえるでしょうねえ。グランド・ネーガスが代理として女を交渉の場に派遣したなんて知れたら。」
「女だとは知らなかったんじゃ。」
「無知は言い訳にはなりません。」
「うーん。わしの負けじゃな? ペルが女だってことはわしたちの胸の中に納めておこう。だが代償は大きいぞ。」
「ガンマ宇宙域の儲けを。」
「あきらめてもらうしか仕方あるまいのう。」 杓をついて出ていくゼクは、ペルに言う。「お前のせいじゃぞ?」
メイハードゥーに付き添われ、ゼクはクワークの部屋を出ていった。
クワーク:「どうだ、これで満足か。」 ソファーに座る。
隣りに座るペル。「ごめんなさいね? でも金儲けに関しては、女だって男に負けないってことをわかって欲しかったの。」
クワーク:「気持ちはわかるが、そのことは二度と言うなよ?」
「……もう行かなきゃ。アンドリアンの船※27の切符を買ってあるのよ。あなたも一緒に来ない?」
「…俺は行けない。」
「…そうよね?」
二人は口づけをした。
ペル:「さようなら。あなたが手に入らないなら、せめてあのラチナム 10本はもらっていくわ。」 クワークの耳たぶに触れる。
ペルは去った。ため息をつくクワーク。

クワークの店。
ダックスに近づくクワーク。「ダックス大尉? 今夜またトンゴをどうです?」
ダックス:「今日は少しおとなしくしてれば?」
「そりゃどういうことです?」
「もちろんペルのことよ。出発前にお別れに来てくれたの。いい娘だったのに。寂しいでしょ?」
「ペルなんか俺たちの仲に比べれば。」
「ダメよ、強がったって。隠したってわかるわ。」 出ていくダックス。
クワークは大きく息を吐いた。


※26: 正確にはチ (血) ノミのフレーク (flaked blood fleas)

※27: アンドリア輸送船 Andorian transport

・感想
旧題 "Profit Margin" 「利益幅」。初めてフェレンギ人の女性が出てくるのと同時に、初めてドミニオンが言及される重要なエピソードでもあります。フェレンギのコメディ話でやっちゃうのが、何とも DS9 らしいところです。原案の女性脚本家 Hilary Bader は DS9 では 2本目の担当で、当初は TNG用に考えていたストーリーでした。映画「愛のイエントル」(1983) の影響を受けたそうです。
今後に引き継がれる数多くの設定と共に、数少ないクワークのロマンスものというのもポイントですね。筋肉バカとして描かれたドサイ人は、その後どうしているんでしょうか…。


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