クワークの店に入るシスコ。 
 ベシア:「コルトリン※8を 10cc に反重力リフトを大至急。皮膚再生装置もだ。どんな武器でやられたんだ、わからないのかロム!」 
 オドー:「探知機に引っかからなかったとすると圧縮テトリオンビーム※9を使った武器だ。」 
 「ああ、それならこの傷もわかる。ショックを与えてみよう。」 
 シスコ:「ドクター。」 
 「広範囲の神経損傷、それと胸部の裂傷です。いくぞ。」 
 クワークの身体に電気ショックが流される。 
 オドー:「ロムは強盗だって言ってます。」 
 シスコ:「何を盗られたんだ。」 
 「知らないって言ってますがどうですかねえ。」 
 キラ:「エアロックで検問を行ってますが、配置が終わるまで 5分かかったので逃げられたかもしれません。」 
 ベシア:「いいぞ、もう一度だ。」 またクワークの身体が跳びはねる。 
 シスコ:「出発を希望する船があれば、理由をつけてなるべく遅らせろ。」 
 「手術室へ運ぼう。担架へ乗せてくれ。」 
 オドーも手伝い、反重力リフトに乗せられる。 
 気を失ったままのクワーク。 
 ロム:「兄貴は死ぬんだ、もうダメだ! 兄貴が死んだらどうすりゃいい。」 
 オドー:「どうすりゃいいってお前が店を引き継ぐことになるんだろ?」 
 「店を引き継ぐって…俺が?」 
 「『妻は仕え、兄弟は相続する。』※10 金儲けの秘訣第139条だったぞ?」 
 笑うロム。「思いもしなかった。」 
 オドー:「ほんとか、嘘だろ。強力な殺人の動機だぞ?」 
 「そりゃ、そうだよね。邪魔な兄貴が死んでくれりゃあ、財産は棚ぼたで……ちょっと待って。まさか俺を疑ってるのか?」 
 「昔からお前には目をつけてたんだ、お前は見た目ほどバカじゃないしな?」 
 「ち、違うよ。俺が殺したなんて!」 
 シスコ:「おいオドー、それはないだろ。」 
 「実の兄貴だぞ?」 
 「いくら何でも…」 
 オドー:「司令官は黙ってて下さい、フェレンギ人は金※11のためなら身内だってためらわずに売るんですよ?」 
 「ノーグによればロムは、息子想いのとてもいい父親なんだ。」 
 「ノーグには親父はメルドラール1※12 の刑務所行きだって伝えてやるんですな? あの星は灼熱地獄だぞ?」 
 ロム:「俺じゃない! 俺はやってない! ああ…何て皮肉なんだい! 店が手に入るのに、兄殺しの濡れ衣を着せられるとは!」 
 肩に手を回すシスコ。「ロム。この際だ、もし何か知っていることがあれば言った方がいいぞ?」 
 ロム:「何かのリストだよ。犯人はリストを盗んでいったんだ。」 
 オドー:「リストって何の。」 
 「人の、名前のだよ。…8人のベイジョー人の名前が箱の中に、入ってた。」 
 「箱?」 
 「…尋問が上手いねえ?」 
 「うーん…。」
  
 プロムナードを歩くロム。「ベイジョーの誰かから取ってこいって言われたんだ。」 
 オドー:「誰だ。」 
 「そりゃあ知らない、言ってくれなかったんだ。兄貴は俺を信用してなかった。いつかは兄貴に認められたかったけど。」 
 「いいだろう、遺産が手に入りゃ。」 
 「ほんとに依頼人は知らないんだ。ただ、昔隠された箱としか。」 
 「昔っていつ頃だ。」 
 「わからないけど…カーデシア人がいた頃だよ。この倉庫が薬局だった頃。」 
 「…薬局だと?」 
 「そうだよ?」 
 「…ここか? ここで箱を見つけたのか。」 
 「壁のパネルの裏にね、場所を教えようか。…ここのドアなら、俺 10秒で開けられるよ?」 
 中を見るオドー。ロックにコードを入力し、解除した。
  
 開くドア。暗いステーションの中に立っているオドーは、違う服装を模している。 
 後ろには銃を持ったカーデシア人。 
 部屋の中では、ガル・デュカット※13が酒を飲んでいた。 
 オドー:「私に御用で。」 
 デュカット:「そうだ、ああ入ってくれたまえ。…ガル・デュカットだ。以前会ったな。」 
 オドーだけが入る。「そうですか。」 
 デュカット:「覚えていないのも無理はない。ベイジョーの科学センター主催のレセプションに、招かれた時のことだ。確かあれは、2年前だ。」 
 「ああ、カーデシアの幹部を招待して開いた見学会ですね? 私の。」 
 笑うデュカット。「君は実に面白かった。」 
 オドー:「そうですか。」 
 「ああ、君がカーデシアの首芸※14をやったのには、一度絶句したよ。」 
 「あれをやったのは私を研究していたベイジョーの科学者のアイデアでして。何週間も練習させられたんです…カーデシアの首芸を。」 
 「ガル・ハダール※15に至っては、君を軍隊の慰問に派遣しようと言い出したぐらいだ。…だが私は、君を使うなら慰問などではなくもっとカーデシアにとって役に立つ使い方があるはずだと思った。…だからずっと、君を見張らせていたんだ。君が、ベイジョーの研究所から逃げ出して以来ね。」 
 「研究所の外の世界も見てみたかったんです。」 
 「広い世界を見て、人間の性質については随分詳しくなったろう。」 
 「…だが私に用ってのは何なんです。」 
 「…人の死体を見たことはあるか。」 
 「ええ…収容所でね?」 
 「ああ、あれは戦争でだが…これは……殺人だ。」 デュカットがかたわらに置かれた布をめくると、男の遺体があった。「この犯人を、君に捕まえて欲しい。」 
 「私? なぜです、探偵でもないのに。」 
 「ああ、でも君ならいい探偵になれるぞ? 姿を変えられるんだから、どんな場所にも忍び込めるしな?」 
 「…カーデシアのエージェントになるつもりはありませんよ。」 
 「そうは言ってないだろ。調査を頼みたいんだ。」 
 「同じことでしょ。」 
 「だが現にこうして死者が出た以上、ベイジョー人とはいえ放ってはおけない。ステーションには秩序と正義が必要なんでね?」 
 「ベイジョーを占領したカーデシアに正義があるとは思えませんが。」 
 「私を怒らせるなよ! …上は今回の事件の犯人として…ベイジョー人を適当に 10人選び、処刑しろと言ってる。…君が真犯人を見つけてくれば、そんな真似をしなくて済むんだ。…ベイジョー人は我々には心を開かないが、君のことは信用してるようだ。それに、食べ物だの毛布だのを巡って取り合いが起きた時などは、君に仲裁を頼むそうじゃないか。」 
 「ええ、中立だと思われているらしくてね?」 
 「その通り、君は特別だ。だからこそ、信用もされる。さて…今日も一つ、揉め事が起こった。ただ、依頼人が…私というだけのことだ。犯人を、見つけて欲しい。」 
 オドーはため息をついた。「目撃者はいるんですか?」
  
 過去のパルラが部屋にいる。 
 やってくるデュカット。「ヴァトリック※16夫人、お待たせしました。こちらのオドーが、ご主人の事件を担当します。もしかしたら、お知り合いかもしれないが?」 
 パルラ:「薬局へいらしたことは?」 
 オドー:「いいえ? 私には薬は不要なので。」 
 デュカット:「この部屋を自由に使ってくれ。必要な物は届けさせる。マダム、失礼します。では頼むぞ。」 出ていく。 
 オドー:「……私で力になれれば。」 
 パルラ:「ありがとう。」 
 「……犯人に、誰か心当たりはありませんか。」 
 「ええ、心当たりはあります。」 
 「ほんとに?」 
 「口外しないで下さる?」 
 「ええ、もちろんですとも。」 
 「…ヴァトリックは浮気をしてました。…2週間前にこのステーションに来た女とね? 年甲斐もなくのぼせ上がったりして? なぜ男ってああなの?」 
 「あ…正直私にもわかりませんね?」 
 「2年間幸せだったのに。彼女が現れた。その途端に…」 
 「愛しておられたんですか。」 
 「ええ、もちろんよ。」 
 「それにしては一つ腑に落ちないことがあるんですがねえ?」 
 「何ですの?」 
 「2時間前に御主人が死体で発見されてから、あなたは泣いていませんね。」 
 「…何でそんなこと…」 
 「私は些細なことでも目につくたちでしてね? ベイジョー人※17は泣いた後、目の下の皮膚がたるむんですがあなたの目には全くそんな変化は見られない。」 
 「あ…あまりのショックで涙も出なかったんです私…」 
 「そうでしょうね? …では、あなたその浮気相手が御主人を殺したっておっしゃるんですね?」 
 「でも主人は何日か前にもう別れたって言ってたんです。」 
 「じゃ別れ話に激怒した彼女が御主人を?」 
 「そんなところでしょう。」 
 「名前は知ってます?」 
 「いいえ? でも顔はわかりますわ。」
  
 仕切られた区画から、ベイジョー人を出すカーデシア人。「立ち止まるな。さっさと歩けよ。早く出ろ!」 
 頑丈なドアが閉められる。 
 流される放送。『全員に告ぐ。全ての有機生命体は指示に従って、身体検査を受けること。』 
 オドー:「生きてる御主人を最後に見たのは?」 
 パルラ:「夕食の時。その後在庫整理をするからって、店へ戻ったんです。」 
 「…コミューンに住んではいないんですね?」 
 「ええ、運のいいことに個室をもらえたんです。薬局をやってるからでしょう。おかげでプライバシーはありました。」 
 「うーん。」 
 指さすパルラ。「いたわ。あの女よ。」 
 その配給を受けている女性は、キラだった。
  
 現在のオドーは、過去のことを思い出していた。 
 キラ:「オドー。検問には不審者は引っかからなかったわ。これ以上検問を続けても。」 
 オドー:「恐らく武器はすぐに始末したんでしょうね?」 
 「クワークが見つけた、リストの入った箱だけど。」 
 「カーデシア占領時代に隠された物らしいんです。」 
 「殺されたヴァトリックと関係あるのかしら。」 
 「…私もそれを考えてました。」 
 立ち去るキラ。
 
 
  | 
※8: cortolin
  
※9: compressed tetryon beam TNG第141話 "Tapestry" 「運命の分かれ道」でも言及
  
※10: No.139 "Wives serve, brothers inherit."
  
※11: 原語では (a) Cardassian groat。「カーデシア硬貨一枚」くらいの意味でしょうね
  
※12: メルドラール1号星 Meldrar I 原語では「衛星の刑務所」や「夜でも 200度」と言っています
  
※13: Gul Dukat (マーク・アレイモ Marc Alaimo) DS9第25話 "Cardassians" 「戦慄のカーデシア星人」以来の登場。声:幹本雄之
  
※14: Cardassian neck trick 初言及。吹き替えでは「カーデシアに変身したのには」と訳されており、その後のオドーのセリフも「…科学者のアイデアでして。あの時、流動体の姿から…何かに変身することを覚えたんです」となっています。まずオドーは他のヒューマノイドに変身することはできませんし、2年前 (現在から 7年前) に初めて別形態になったというのも変な話です。後に首芸について触れるクワークのセリフも、「カーデシアに、変身できるらしいじゃねえか」となっています
  
※15: Gul Hadar
  
※16: Vaatrik 吹き替えでは「パトリック」と訳されているような…。地球人じゃないんですから
  
※17: 原語では「ヒューマノイド」
 |