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ディープスペースナイン エピソードガイド
第29話「愛の幻影」
Second Sight

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・イントロダクション
DS9 には、ネビュラ級の宇宙艦が停泊している。
『司令官個人日誌、宇宙暦 47329.4。ここ 2、3日、よく眠れなかった理由がわかった。ウルフ359 の大虐殺から、昨日で丸 4年※1。妻ジェニファーの 4度目の命日だった。心が晴れないのは、命日だからか。それとも気づかず過ぎてしまったからか。』
立体チェスを見ているシスコ。
ジェイクが寝室から出てくる。「パパ。まだ起きてたの?」
シスコ:「お前こそまだ起きてたのか?」
「変な夢見たんだ。」
「ココアでも飲むか。話してみろ。」
「いいよ。別に。」
「何だ、どうした? どんな夢だったのか言ってみろ。」
「バカみたいで。」
「いいじゃないか。とにかく夢っていうのは、誰かに話した方が早く忘れられるんだ。」
「だけど、絶対笑わないでよ。」
「約束する。」
「……あ、はっきりしないけど、基地のどっかにいるんだ。場所はわからない。ここに戻りたいのに、道が…全然わかんなくて。何度も何度も知ってる通路に出るんだけど、歩いてくと知らないとこに出ちゃうんだ。だからバカみたいだって言ったろ?」
「面白いじゃないか。」
「それで、何かちょっとだけ怖くなって、パパを捜したんだ。…でも見つからない。で、そのうち司令室に出たんだ。でもパパは、オフィスにいなくて。そしたら、そしたら急に…床がどんどん傾いてきて、よろけて倒れそうになるんだ。パパをずっと呼んでたのに。」
「ここにいる。」
「…パパと話せて、よかったよ。」
「パパもだよ。」 ジェイクの頭にキスするシスコ。
「…明日微積分のテストなんだ。」
「じゃあ、寝た方がいいな。」
「うん。…パパ?」
「ん?」
「4年だね。」
「…そうだな。」
ジェイクは寝室へ戻った。チェスの駒を手に取るシスコ。

人通りも少ない、夜のプロムナードを歩くシスコ。
窓の外を見つめ、ため息をつく。
女性の声がふいに聞こえた。「美しいわね?」 異星人が後ろにいる。「こんな綺麗に輝く星は見たことがないわ。」
もう一度外を見るシスコ。「ベイジョー人は、あの星座を『ランナー※2』と呼んでいます。…わからないのは、何かを追っているのか、逃げているのか。」
笑う女性。「いいじゃない。時にはただ走るのも楽しいわ。」
シスコ:「ただ走るだけか。……私はベンジャミン・シスコ。基地の司令官です。」
「ああ…フェナ※3です。……ごめんなさい、お忙しいのに。お邪魔でしたよね。」
「いいえ、とんでもない。」
フェナ:「よかった。宇宙ステーションの司令官。毎日刺激的でしょうね、いろんな船が出入りして、いつも新しいことが起こる。」
「確かにそうですね。でも私が、一番好きなのは…静かな時ですね。そして…」
「そして何か予感がする時じゃない? 何か素晴らしいことが起こりそうなんだけど、何だかわからないの。」 笑うフェナ。「バカね、私ったら子供じみたこと。」
「そんなことはない。それこそが基地の仕事の醍醐味ですよ。次に何が起こるかわからない。…誰に出会うかも。」
「素敵なところ。…できればずっといたいけど。」
「どちらへ。」
「…まだわからないの。とにかく走り続けるだけ。ランナーみたいに。」
「…ああそれだったら、また走り出す前に、基地の中を案内しましょうか。時間があれば…」
振り向くと、フェナはいなくなっていた。
一階を覗き込むシスコ。「フェナ。」


※1: ウルフ359 の戦いは TNG第4シーズンの冒頭に当たるので、4年目となると DS9第3シーズンの最初になるはず。もっとも年末年始にばかり、重要事件が起こるのも変なわけですが…

※2: the Runners

※3: Fenna
(サリー・エリス・リチャードソン Salli Elise Richardson) 声:深見梨加、TNG ケイコ、旧ST6 マルタなど

・本編
司令室で作業しているオブライエン。火花が散る。
シスコ:「おはよう、チーフ。」
オブライエン:「おはようございます。」
「点検か修理かどっちだ。」
「今は、点検ですけどね。あちこち見てると、結局修理になるんですよ。」
「修理するところが一つもなくなったら、きっと退屈でしょうがないぞ?」
「ヘ、それは言えてますね。…でも、たまには退屈もいい。」
「やあ、おはよう少佐。」
怪訝な顔をするキラ。
シスコ:「コンピューター、チラルタン・ティー※4、レモンをたっぷりだ。」 レプリケーターから出したカップを持って、座るシスコ。「ああ。…どうかしたか。」
キラ:「いえ? 別に。」
「何か問題があるんなら聞いておきたいね。」
「司令官。この一年、朝の始まりは毎日必ずラクタジーノ※5でしたよねえ。」
「ああ、お気に入りだ。」
「知ってます。一杯飲むまで口も聞かないんですもの。」
「その一杯がないと、目が覚めないもんでね。」
「なのに…どうしてチラルタン・ティーなんですか。」
「…いやあ…少し気分を変えようかな、と。何か君の気に障ったかな。」
「いいえ? お好きなものをどうぞ。」
「悪いね、じゃ飲ませてもらうよ?」
通信が入る。『ダックスより司令官。』
「どうした、ダックス。」
ダックス:『セイエティク教授は私とラボにいますので。』
「いま行く。」
出ていくシスコを見るキラ。

科学ラボに入るシスコ。「大尉。お客様は。」
ダックス:「磁気発生機※6の中。」
「何? 何してる。死んだらどうするんだ。」
「だからそう言ったんですけどね?」
「でも入ったのか。」
「テラフォーマーに会ったことある?」
「いや、何の関係がある。」 強い光が明滅する部屋を覗き込むシスコ。
「…人の話は聞かない人種なの。死の星を住める環境にするんだから確かにすごいわ? でも謙虚さとか常識は、もち合わせてないわね。」
中で防護スーツを着た者が作業していた。
シスコ:「そうか。」
中の人物がドアを開け、出てきた。「直してやったぞ。…今ので出力がまあ、少なくとも…5%は上がる。ああ、君がシスコ中佐だろ。ギデオン・セイエティク※7だ。よろしく頼むよ。」 頭部カバーを外した老人は、シスコと握手した。
シスコ:「教授の御仕事には、感服するばかりです。」
セイエティク:「よーし、頭のセンスもいいようだな。君とは上手くやっていけそうだ。」 大声で笑う。
「ここへ赴任する途中、ブルー・ホライズン星※8に寄って、美しさに息を呑みましたよ。」
「そりゃそうだろう。創った私ですら息を呑むからな。ダヴィンチ滝※9はどうだったね。」
「見に行けなかったんです。滞在は 2、3時間だけだったので。」
「そりゃあ良くないなあ。ブルー・ホライズン星一番の見所を見逃したぞ? かのエヴェレスト山と同じ高さの崖から水がほとばしる。轟音と共にいくつもの虹を作り、サファイアワイン色の海へとうとうと流れ込む。…いつか君を案内してやろう。私ももう一度見たいしな。」
「よろしく御願いします。」
「よーし、そうしよう。だがまず、イプシロン119号星※10だな。」
「はい。先行調査ではかなり期待がもてそうです。」
「かなり? 素晴らしくだろ、ハハ? …いいか? 死んだ恒星を生き返らせる。太陽さえ甦れば後は簡単なことだ。…周りの惑星をあっという間に、テラフォームできるんだ。」
ダックス:「理論上は可能ですが、結果は予測できませんねえ?」
「もちろん上手くいくさ。失敗知らずでね、ハ。いや一度あったな。私には向かん分野だったんだ。もう二度と関わらんと誓ったよ。」
笑う 3人。
セイエティク:「ああ君にも参加してもらうがこの実験は人類の偉大な功績になるんだ。ハ、星に命を与える。苦労はするがやりがいはあるぞ?」

クワークの店。
ダックス:「アンドリアン・ルート※11の最後の一切れを残すつもりじゃないでしょうねえ。」
シスコ:「何で聞く?」
「ものすごく美味しいからよ? もらっていい?」
「ああいいよ?」
「セイエティクと付き合うには体力がいるの。身体も口とおんなじぐらい動くんだから。ベンジャミン?」
「え?」
「私の話聞いてた?」
「ああ、すまない。何だった。」
「いいわ? ただの無駄話。オブライエンと打ち合わせてくるわ? セイエティクの船をワープ9.5 まで出るようにしなきゃ。…彼の実験が失敗して、恒星が超新星になった時には、全速力で逃げないと。」
「じゃ、また後で。」
「うん…。」

店を出たシスコは、また窓の外を見る。
独りで笑う。
振り向くと、フェナがいた。「ベンジャミン。」 笑う。「もう一度会えると思ってた。」
シスコ:「いま君のことを考えてたんだ。」
「ほんとに? 私もずっと考えてたわ。」
「昨日はどこへ消えたんだ。」
「突然いなくなったりしてほんとにごめんなさい。昨日のお誘いはまだ有効? …案内して下さるって。」
「何を見たい。」
「…全てを。」
「全てか。かなり時間がかかるな。」
「あなたさえよければ。」 フェナはシスコの腕に手を回した。

窓の外に、DS9 の中央部が見えている。
シスコ:「感想は?」
フェナ:「素敵だわ?」
「気に入ってよかった。」
「ここにはよく来るんでしょ?」
「そうでもない。大抵は船が邪魔で、見晴らしが悪いし。」
「…ワインでも飲みたい気分ね?」
「ここで?」
「素敵だと思わない?」
「…明日、出直す手はあるかな。」
「それはお誘いかしら。」
「…そのつもりなんだけどね。」
礼をするフェナ。「お受けするわ?」
シスコ:「よかった。…まだまだ、見せたいところがある。とても一晩じゃ回りきれない。」
「じゃあ明日、いろんなところへ連れて行って。」
「…君はいつもこうなのかい?」
「こうって?」
「焦らしたりはぐらかしたりしない。」
笑うフェナ。「そんなこと言った人は初めて。」
シスコ:「真っ直ぐな人だ。できれば…君のこと全部教えてくれ。」
「…普通の女よ。」
「つまらないことだっていい。」
「…駄目。」
「何が。」
「話せないの。」
「どうして。」
「…ごめんなさい、もう行かなきゃ。」 通路を走り出すフェナ。
「フェナ。待ってくれ。」
フェナはターボリフトに駆け込んだ。ドアが閉まる。
ため息をつくシスコ。


※4: Chiraltan tea

※5: raktajino
DS9第9話 "The Passnger" 「宇宙囚人バンティカ」より

※6: flux generator

※7: ギデオン・セイエティク教授 Professor Gideon Seyetik
(リチャード・キリー Richard Kiley ブロードウェイ俳優) 声:石森達幸、TOS 2代目マッド、TNG 初代ナカムラ、ブースビー、DS9 初代ジョセフ、2代目モーラなど

※8: Blue Horizon

※9: DaVinci Falls

※10: イプシロン119 Epsilon 119

※11: 正確にはアンドリアン塊茎根 (Andorian tuber root)

部屋で食事しているジェイク。「ティエット※12がアルトリーナ※13の昼ご飯を見て言ったんだ! 『クリンゴン料理? そりゃ虫だぞ』って。その途端、彼女吐いちゃったんだよ。」 独りで笑い続ける。「もう最悪だったよ…!」
シスコ:「そりゃよかったな。」
「よかった? 何で…?」
「ん? …ああ、悪かった。ちょっと、考え事してたもんだから。」
「…誰か…好きな人いるの?」
「え?」
「女の人だよ。…3つの症状が出てる。」
「ハ、症状?」
「ノーグが教えてくれたんだ。食欲がなくなり、ボーッとして、ずっとニヤニヤしてる。」
「またノーグとよからぬ話をしていたな?」
「…ねえ、好きな人がいるなら、僕は別に…いいんだからね。」
「…ほんとか、ジェイク?」
「どんな人なの?」
「…彼女は…とてもユニークなんだ。」
「…ユニークね。いつ会わしてくれるの?」
「…そいつはまだちょっと早いと思うな。」
「何で? 向こうも好きなんでしょ?」
「多分、そう思う。」
「だったらいいじゃない!」
「…彼女は、その…何て言うか……いつも、消えてしまう。」
飲み物を飲み、横目でシスコを見るジェイク。

部下に指示するオドー。「とにかく注意を怠るな。亜空間通信である情報が入った。それによれば、ヴィラス・テッド※14がここへ向かってるらしい。奴が着いたらすぐ報告しろ。常に監視をつけておけ。だがいいか? 奴は近い距離ならテレパシーが使える。5メートル以内には決して近づくな。以上だ。」
保安部員:「了解。」
保安部員たちと入れ違いになるシスコ。
オドー:「司令官。何か御用ですか。」
ドアが閉まったことを確認するシスコ。「…君に頼みたいことがある。個人的になんだが。」
オドー:「どうぞ?」
「人を捜して欲しい。女性だ。」
「…名前は?」
「フェナ。」
「ファーストネームは。」
「わからない。」
「種族は?」
「わからないよ。ヒューマノイドだ。」
「では乗ってきた船の名前は?」
「それも、わからない。」
「…なるほど。何か、手がかりはないんですか?」
「そうだな、身長は大体…160センチくらいだ。肌は褐色…黒髪で、最後に見た時に彼女が着ていたのは……真っ赤な、ドレスだ。」
「まあ、名前だけよりはね?」
「見つけてもらえるかな。」
「わかりませんねえ。」
「どうしても見つけたいんだ。トラブルに巻き込まれているかもしれない。」
「どんなです? あ、当てましょう。わからないでしょ?」
「ああ…。」
「望みは薄いが、まあやれるだけのことはやってみましょ。」
「助かるよ、よろしく頼む。」 保安室を出るシスコ。
首を振るオドー。「ハ。」

司令室に戻ったシスコ。
ダックス:「司令官? お話が。」
シスコ:「じゃオフィスへ。」

司令官室に入り、野球ボールを手にするシスコ。「どうしたんだ、ダックス。」
ダックス:「私に言いたいことがあるんじゃない?」
「何の話だ。」
「ちょっと、ほんとに何にも話さないつもりなの?」
「だから何を。」
「とぼけないでよ! 昨日プロムナードで、女の人と一緒のとこ見たんだから。…何て名前?」
「…フェナだ、でも別に話すようなことは何もないんだよ。」
「クルゾンには何でも話したのに。」
「何でもじゃない。」
「わかってるわよ? 私が今は女だからでしょ?」
笑うシスコ。「バカなこと言うなよ。」
ダックス:「女なんかとは、男同士の話はできないってことね?」
「男も女も関係ない。」
「だったら教えなさいよ。」
「そのうちな、話せるくらいに進展したらだ。」 ボールを投げ渡すシスコ。
ダックスは笑った。

『司令官個人日誌、補足。フェナに関する情報は、オドーが集めてくれている。私とクルーは、教授の船、プロメテウス※15に食事に招待された。』
プロメテウス。
セイエティク:「テラフォーマーに必要なのは、庭師のまめな手と、画家の目と、詩人の心だ。ハ、うぬぼれの強い男でも何の問題もない。」
笑う一同。
キラ:「教授はまさにピッタリというわけですね?」
セイエティク:「そうとも、ハハ…」
ベシア:「惑星のテラフォームだけでも素晴らしいのに、死んで冷え切った恒星に、どうやってまた火をつけるんですか。」
「基本的には遠隔操作のシャトルポッドを使って、恒星に原物質※16を撃ち込むんだ。これがカスケード効果を生んで、恒星の炭素と酸素を水素元素に交換することになる。後は、花火に火がつくのを見ていればいいんだ。」
ダックス:「失敗すれば花火と一緒に宇宙に散るんです。」
「大尉、悲観主義者には、歴史に残る偉業は成し遂げられんよ?」
シスコ:「そうでしょうか? ヴァン・ゴッホ※17、ベケット※18、イラカ※19。楽観主義者とは言えませんよ。」
「そうとも、作品を見てみろ。どれも陰々滅々としとるだろ、ハハ…。芸術は生命賛歌たるべきだ、ハハ。例えば私の絵のようにな?」
ベシア:「教授の絵の展覧会を拝見しました。リゴビス10号星※20の、セントラル・ギャラリーで。あれは実にその、印象的で。初めてでした、あれほど…大きなカンバスは。」
「何事も控えめというのは、性に合わなくてね。」
ダックス:「自伝を読ませていただくとわかりますわ?」
「第10巻を執筆中だ。ハハ…結婚の数と同じ数だけ出したいと言っとるんだがね? ハハ…ああ、そうだった。私の妻の料理を是非味わっていってくれたまえ。…レプリケーターで作った偽物とはわけが違う、問題外だ。どの料理を取っても全て…一から、ナデル※21が自分で作ったんだ。」
キラ:「ご挨拶しなくっちゃ。」
「紹介するよ、もう仕度できる頃だ、呼んでこよう。」 出ていくセイエティク。
「…司令官、帰っても気づかないと思いますけど。」
シスコ:「私はベイジョーの大臣 20人以上に囲まれて食事をしたことがあるんだぞ? このくらい我慢してもらわないとな。それに、教授は連邦が誇る最高の科学者だ。」
「本人から聞きました。」
ベシア:「僕は非常に面白い人だと思うけどねえ。」
戻ってきたセイエティク。「諸君、それでは妻を紹介しよう。私の女神、ナデルだ。」
部屋に入り、礼をする女性。フェナそっくりの顔立ちだった。
ダックスはシスコに言う。「ねえ、あなたが言ってたのって。」


※12: Tiet
吹き替えではこの部分は訳出されていません

※13: Altrina

※14: Villus Thed

※15: Prometheus
U.S.S.プロメテウス。ネビュラ級、NCC-71201。人間のために天界から火を盗んだ、ギリシャ神話に登場するティタン族にちなんで。後に VOY第82話 "Message in a Bottle" 「プロメテウスの灯を求めて」でプロメテウス級試作艦のプロメテウスが登場しますが、番号は小さくなっています (NX-59650)

※16: protomatter
映画 ST3 "The Search for Spock" 「ミスター・スポックを探せ!」より

※17: Van Gogh
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (Vincent Van Gogh)。(1853〜1890年)

※18: Beckett
サミュエル・ベケット (Samuel Beckett)。(1906〜1989年)

※19: Y'Raka

※20: Ligobis X

※21: Nidell
ナデル・セイエティク (Nidell Seyetik)。なおエンサイクロペディアでは、フェナとナデルの写真が逆になっています

テーブルについているベシア。「これ以上入りません。」
オブライエン:「最高でした。作り方をうかがえます?」
ナデル:「どれも主人が、考えましたの。」
セイエティク:「…何年もかかって完璧な味にしたんだ。焼いたワルン※22のスライスに、ケロ・ルート※23を重ねるんだが、それを最初に少し焦がしておくのがミソなんだよ。」
暗い表情を浮かべるナデル。調理法を話し続けるセイエティク。
隣のダックスに話すシスコ。「俺を見ても知らん振りしている。」
ダックス:「だけど同一人物なの?」
「間違いない、あの顔だ。」
セイエティク:「…ヴァルカンのレッドスパイスを絡め、フマット豆※24を入れてアイスソルトを一つまみ。そしてアンドリアン鍋で煮込むんだ。それもきっかり 500度の絶対温度に保ってね? 最後に、コショウを一振り。」
笑うオブライエン。
セイエティク:「質問は?」
オブライエン:「…あのう、よければ書いてもらえますか?」
「ハハ…そうだな。…構わんよ、ハハ…。さて、食事も済んだことだし隣の部屋へ移るとするか。その方が落ち着くだろ。」
ナデルは独りで片づけを始める。
残ったシスコ。
ナデル:「司令官、何か御用ですか?」
シスコ:「ああ、もちろんさ。…初めに結婚してると言ってくれればよかったのに。」
「…何のお話?」
「昨日さ。…プロムナードで、言う機会はいくらもあったろ。」
「…よくわかりませんわ、お会いしたのは初めてです。」
「……じゃあフェナと名乗ったことも覚えてないって言うのか?」
ナデルは動きを止めた。
シスコ:「……覚えはあるようだね。」
ナデル:「どなたかとお間違えなんじゃありませんの。」
「…そのようですね。失礼。」

ターボリフトで司令室に入るシスコ。「ダックス、間違いない。同じ女性だよ。あの顔、あの声。彼女はフェナだ。」
ダックス:「ご主人がいない時にアプローチなさい?」
「相手は人妻なんだぞ。」
「クルゾンはひるまなかったわよ?」
「ジェニファーが死んでから初めてのことなんだよ。こんな風に、誰かに…心が惹かれたのは。」
オドーが来た。「司令官、ちょっとよろしいですか。」
離れるシスコを見るダックス。
オドー:「今週出入りした船と、転送の記録は全部調べました。ですが、司令官のおっしゃっていた人物に当てはまる者はいませんでした。」
シスコ:「世話をかけたな。調査は、中止にしてくれ。捜していた女性はもう見つかったんだ。」
「見つかった? よければどこにいたのか教えてもらえますか。」
「プロメテウスだ。」
「プロメテウス。確かですか?」
「さっきまであの船で一緒だったよ。」
「…それはありえない。」
「どういうことだ。」
「船から基地への移動の記録ももちろん調べました。ですがセイエティク教授以外には、あの船を降りた方は一人もいません。基地に停泊中ずーっとです。」

プロムナード。
窓のそばで、目を押さえているシスコ。
クワーク:「司令官? 飲みたい気分でしょ?」 グラスを持っている。
シスコ:「いやいい、帰るとこだ。」
「すっぽかされた、違います? …長年バーをやってるとそのぐらい見りゃわかるんですよ。俺も一度や二度はそんな目に遭った。」
「うちへ帰るよ。」
「もしよきゃ、一緒に一杯やりますか。付き合いますよ、憂さ晴らししましょう。」
「遠慮しとく。」 歩き出すシスコ。
「お忘れなく。…ホロスイートはいつでも開いてますよう?」 自分で飲むクワーク。

廊下を歩くシスコ。部屋に入る。
フェナ:「ベンジャミン。」 後ろからやってきて、抱きつく。「ああ、会いたかった。」
ドアが閉まる。
フェナ:「どうかしたの?」
シスコ:「実はある食事会で、君そっくりな人に会ってね。」
「…私に? 不思議ね…。」
後ろに下がるシスコ。「本当の名前はナデルじゃないのか。ギデオン・セイエティク教授の妻なんだろ。」
フェナ:「…なぜ? 私はフェナよ、知ってるでしょ?」
「どうも自信がなくなってきたんだ。…まさか、双子の姉妹 (きょうだい) はいないだろうね。」
「…知る限りはね?」
「…フェナ。どこから何しに来たのか、どうしても教えて欲しい。」
「それが大事?」
「ああ、もちろん大事だ。…君が何者か知りたい。」
シスコの手を握るフェナ。「ちゃんと知ってるはずだわ。…私はここへ…落ち着ける場所を探しに来た。だけどほんとに探してたのは、心を分かち合い永遠に愛し合える人。あなただったのよ。」
顔を近づける二人。キスをする。
立ち上がるフェナ。「ベンジャミン。」
フェナの身体が光り出した。そのまま消え去る。
顔を押さえ、うろたえるシスコ。


※22: Waroon

※23: Kalo roots

※24: Humat pods

コンピューターを操作するオブライエン。「できましたよ。プロメテウスのワープエンジンを手なずけました。いざって時は 9.6 まで出る。これ以上は無理です。」
ダックス:「このタイプのエンジンはワープ9.5 が限界だと思ってたわ?」
「だったんです。」
エアロックに来るセイエティク。「まだかね、大尉。誰もが何度も生まれ変わるわけじゃないぞ。」
ダックス:「いま行きますから。」
戻っていくセイエティク。
オブライエン:「がんばって下さい?」 シスコと入れ違いになる。「失礼?」
ダックス:「見送りに来てくれたの?」
シスコ:「いや、私も一緒に行く。星の再生なんて滅多に見られるもんじゃない。」
「やめておいた方がいいと思うけど?」
「答えが欲しいんだ。フェナの謎を解く鍵はあの船にある。」
乗り込む 2人。

ワープ航行中のプロメテウス。
クルーのピアソル中尉※25。「もうシャトルポッドに、原物質は積み込んだのか?」
ダックス:「準備は万全、密閉フィールド作動中です。遠隔操作システムも異常なしです。」
シスコと共にブリッジに来るセイエティク。「見せたかったね、私が手がけたニュー・ハラナ星※26はまさにパラダイスになった。準備は進んどるかね。」
ピアソル:「2、3時間後に、星のスキャンを開始します。」
「済んだら報告したまえ。」
シスコ:「ですが教授、実験開始が待ち切れませんね。人類の、偉大な功績です。」
「ああ、その通りだ。…私は人生において絶えず…挑戦し続けてきた。それが生き甲斐だ。どんな偉業を成し遂げても、次には更なる挑戦が待っている。」
「ええ。」
「ああ、クリンゴンの詩人を、知っとるかね。グトロク※27だ。」
「多少は。カーンの没落※28はアカデミーで必修でした。」
「ああ…『 (つるぎ) に倒れし勇者に祝福を…』」
「『敵をなくした戦士に哀れみを。』」
「ああ、そうだ。まあ。つまりだ、常に挑戦が…必要なのさ。」 オプス席の表示を確認するセイエティク。「ああ、それで…何の話だったかな?」
「あなたの。」
「ああ、私の話はいつだって自分のことだがね。」
「ニュー・ハラナ星のテラフォームを、終えたばかりだと。」
「ああ、そうだ。ニュー・ハラナの住民に、どれほど感謝されたことか。…次から次へとパレードやパーティ。…しまいには食傷気味でな、ハハ。その時、ナデルに会った。…現地の高官の娘でね。あれは一目で、私に夢中になったようだった。フフン…まあ、無理もないことだがね。…何しろ初めて会ったのが私の銅像の除幕式で、誰もが私を褒め称えていたんだからな、ハハ…。…だが、私も一目でわかったよ。ほかの女とは違っていた。ずっとハラナから出たことがなかったんだ。…銀河中を見せてやりたいよ。あれに全てを与えてやりたい。」
「…愛し合っていらっしゃるんですね。」
「ああ、そうなんだ。…あれは私から…離れられん。」

プロメテウスは、岩の塊となった恒星に近づく。
部屋に入るシスコ。フェナがいた。
シスコ:「フェナ。」
フェナ:「…よかった、会いたかったの。」
連絡するシスコ。「ダックス、すぐに私の部屋に来てくれ。」
ダックス:『いま行きます。』
フェナ:「どうかしたの?」
シスコ:「この間君は…消えたんだ。」
「今は一緒よ、二度と離れないわ。」
「できることなら信じたい。」 フェナの顔に手を触れるシスコ。
「…信じて、ベンジャミン。」
ダックスが来る。
シスコ:「ダックス。フェナだ。」
トリコーダーを使うダックス。
フェナ:「何なの?」
シスコ:「心配ない、大丈夫だ。」
ダックス:「細胞構造が読み取れないわ。DNA パターンもない。…エネルギーだけよ。」
フェナ:「この人何を言ってるの?」
シスコ:「全てはっきりさせよう。」 フェナの手を取り、部屋を出る。

セイエティクはナデルに付き添っていた。「助けてくれ、目を覚まさんのだ!」
フェナを連れてくるシスコ。
ナデルを調べるダックス。「ショック状態だわ、呼吸がかなり浅く、脈が不安定。弱くなってます。血圧も落ちてる。命が危ないわ?」
セイエティク:「何とかできるだろ!」
「手の施しようが。」
フェナに気づくセイエティク。「フェナ! お前がいたとは。」


※25: Lieutenant Piersall
(マーク・エリックソン Mark Erickson) 名前は訳出されておらず、階級は言及されていません。吹き替えではダックスより階級が高いような口調で訳されていますが、階級章も中尉に見えるので本来は下ですね。声:壇臣幸、TNG ヒューなど

※26: New Halana

※27: G'Trok

※28: The Fall of Kang
カーン (カング、カン) は、TOS第66話 "Day of the Dove" 「宇宙の怪! 怒りを喰う!?」などに登場したクリンゴン人。この時点では DS9第39話 "Blood Oath" 「血の誓い」に登場することは決まってなかったので、このようなタイトルになってしまったそうです

話すセイエティク。「ナデルは約束した。お前は二度と現れないとな。」
フェナ:「…何の話かわからないわ。」
「では見てみろ!」
ナデルに近づくフェナ。その顔を見つめる。「私にそっくり。」
セイエティク:「当たり前だ! ナデルはお前なんだからな。本物の!」
シスコ:「教授、どういうことなんですか。」
「そこにいる女は、実体がない。幻なんだよ。妻の無意識が創り出したな。」
フェナ:「…そんなこと嘘よ! この人嘘ついてるわ。」
「…ナデルは心理投影テレパス※29だ。フェナも妻の心の投影に過ぎん。」
シスコ:「ありえるのか。」
ダックス:「こんな数値は見たことないわ。後頭部から莫大なエネルギーが放出されてる。どんどん衰弱して、あと 1時間か 2時間しかもたないわ。」
セイエティク:「見殺しにするつもりか! 何とかしてくれ!」
「原因もわからないんですよ?」
シスコ:「ダックス、フェナを私の部屋へ※30。彼女を落ち着かせて…」
セイエティク:「ダメだ!」
「ダックス! 連れて行け!」
フェナ:「あなたと一緒にいたいの。」
「私もすぐ行く。その前に教授と話がしたいだけだ。」
フェナを連れて出ていくダックス。
シスコ:「さっきの話が本当だとすれば、心理投影が衰弱の原因じゃないんですか? 何か御存知なんでしょ。」
セイエティク:「……ナデル自身は、気づいておらんのだ。精神的に大きな苦痛を感じた時、ハラナ人※31は…テレパシーのコントロールを失う。妻はひどく、辛い思いをしていてね。3年前にもテロサ・プライム※32で同じことがあったよ。死にかけた。…でも、ナデルは誓った。フェナはもう現れないとね。」
「だがまた…現れた。」
「フフン、君も気づいているだろうが、私は人に崇められるか、憎まれるかのどちらかだ。妻たちもそうだった。…最初は熱烈に私を愛する。何年か共に暮らすとまるで逆になったよ、フン。私のもとから、みんな離れていった。」
「だが彼女は、あなたのそばにいます。」
「ハラナ人は一人に、添い遂げる。…離婚はできんのだ。あれがどれほど望んでも。」 ため息をつくセイエティク。

プロメテウス内、シスコの部屋。
フェナ:「あの教授にも女の人にも会ったことはないわ。私のことをどうしてあんな風に言うのかわからない。…幻なんかじゃないわ。」
シスコ:「それが本当ならどんなにいいか。だが君は、どっからどうやってここへ来たのか言えるか。プロムナードで私と出会う前の記憶が、何か一つでもあるか。」
「…ベンジャミン、私怖い。」
「ナデルが死にかけている。1、2時間の命だ。」
「彼女が死んだらどうなるの。」
「君も一緒に消えてしまう。だがまだ救える。彼女にもらった命を返すんだ。」
「…どうやって…?」
「彼女の中に戻れ。そうするのを見た、3度もね。」
「…その代わり私は死ぬのよ、あなたとのことだって終わってしまうわ。」
「フェナ。」 フェナの手を取るシスコ。「全部夢だったんだ。君を生涯忘れない。だがそれでも、夢は夢だ。ナデルの夢なんだ。」
「彼女は全部忘れてしまうのね。」
「どうなるかはわからない。」
「あなたを愛してるわ。これからもずっと。」
口づけする二人。
ダックスの通信が入る。『司令官、すぐブリッジへ来て下さい。』
口を離すシスコ。「どうした。」
ダックス:『教授がシャトルをイプシロン星へ発射したんです。しかも自分がシャトルに乗って。』
「すぐ行く。」 フェナの手にキスし、部屋を出るシスコ。

報告するダックス。「チャンネルがつながりました。」
ピアソル:「スクリーン、オン。」
スクリーンに映るセイエティク。『画像は、出てるのか。これだけの実験を、観客なしでやるのは虚しい。』
ピアソル:「教授、自殺行為ですよ。どういうつもりなんです!」
『歴史を作るんだよ、ハハ…。人類の未来のためにも、全て記録しておけ。」
ダックス:「激突まで後 60秒です。」
フェナと共にブリッジに入るシスコ。「ギデオン、やめるんだ。ナデルを救う方法が見つかったぞ。」
セイエティク:『君なら何とかしてくれると思った。だがあれを完全に自由にするには、これしかない。…私も、これで更に名が上がるだろう、ハハ…。カーンの没落にあったろ? 私は哀れみをかけられる戦士にはならんぞ。』
ピアソル:「何の話です。」
シスコ:「クリンゴンの詩だよ。」
ダックス:「激突まで 30秒。」
「ギデオン、今すぐ船へ引き返せ。基地司令官の命令だ。」
セイエティク:『もう手遅れだ、既に恒星の重力圏に入った。』
「トラクタービームを発射しろ。」
ピアソル:「彼が装置を破壊していきました。」
セイエティク:『司令官、この実験を見届けたら私の部屋へ行ってくれ。探して欲しいものがある。』 映像が乱れてきた。
シスコ:「何だ。」
「死亡広告だ、ハハ…。自分で書いた。こんな大事なものを人任せにはできんからな。」
シスコは微笑む。
セイエティク:『悪いが、ディストロム研究所※33に送って公表するように伝えてくれるか。』
シスコ:「任せてくれ。」
『前に書いたものなんだが、手直しをしてくる暇がなかった。こう付け足してくれ。彼は科学の祭壇に身を捧げたと。』
ダックス:「あと 10秒。」
シスコ:「必ず送っておこう。」
セイエティク:『…君なら信頼できる。』
ダックス:「あと 5秒。」
『…スクリーンから目を離すな? 二度と見る機会はないぞ。もっと光を!※34』 セイエティクの映像は切れた。
恒星に墜落し、爆発するシャトルポッド。
すぐに一面に炎が巻き起こる。
イプシロン119 の全てが明るくなっていく。
スクリーンに映った恒星は、一気に明るい光を発した。
瞬きもせずに見つめるシスコ。
恒星は復活した。シスコはうなずく。
フェナは涙を流していた。ダックスはシスコを見る。
身体を見るフェナ。シスコに向かって手を伸ばす。消滅した。

DS9 に帰還したプロメテウス。
『ステーション日誌、補足。イプシロン星は赤々と燃え続けている。天才科学者にふさわしい葬儀だ。そして、危ういところでナデルは一命を取り留めたが、予想通りフェナの記憶は完全に失っていた。』
プロムナードにいるシスコ※35のところへ、ナデルがやってきた。「司令官。」
シスコ:「…ナデル。なぜここだと?」
「大尉に聞きました。」
「それで…船の出航はいつなんです。」
「すぐです。一言お礼を申しあげたくて。…故郷に帰ります。」
「ハラナ星にはいつまでおられますか。」
「…生涯ニュー・ハラナ星で過ごすつもりでいます。……フェナが何をし、誰を…愛したのか…覚えていないんです。ごめんなさい。」
「いいんですよ、私の心に留めておきます。」
「…一つ教えて。」
「何でしょう。」
「私に似てた?」
「フェナが? ……フェナは本当のあなただ。※36
立ち去るナデル。
その後ろ姿を見つめていたシスコは、また窓の外を見た。


※29: psychoprojective telepath

※30: DVD版では、この「私の部屋へ」の吹き替えが消えています。少し前のセイエティクのセリフで、「何の話だったかな」の最初も少し欠損しています。残念ながら TNG第3シーズンとは違い、ディスク交換処置は行われていません

※31: Halanans

※32: Terosa Prime
吹き替えではこの部分は訳出されていません

※33: Daystrom Institute
TNG第35話 "The Measure of a Man" 「人間の条件」など

※34: "Let there be light!"
聖書の「光あれ」。ゲーテの最期の言葉とされるのは "Mehr Licht!" ("More light!")

※35: シスコの前を、背の低い二人組の異星人が通りかかります

※36: 原語では「あなたにそっくりだった」のみ

・感想
イエイツ船長の前ではたった一回しかない、堅物シスコの恋愛ものです。TNG "Timescape" 「時空歪曲地帯」ではクレジットされていませんが、そのストーリーのヒントを与えた Mark Gehred-O'Connel による原案。当初はベシアが主役になる予定で、映画「ジェニイの肖像」(1948) を目指したそうです。
一話限りのロマンスということで、ワンパターンではありますね。二人だけでなく、セイエティク (俳優は故人) やダックスといったキャラクターもしっかり描かれているのはよいです。映像的にも「DS9 内から見る DS9」や、ブリッジを含めたプロメテウスなど、いくつか見所がありました。


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