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ヴォイジャー エピソードガイド
第82話「プロメテウスの灯を求めて」
Message in a Bottle

dot

・イントロダクション
廊下。「冷血で、人を見下してて、傲慢で。」
怒っているトレス※1をなだめるチャコティ。
「難しいのはわかる。」
「難しい? 最悪よ。」
「君たちがぶつかる度に間に入る身にもなってくれ。文句があるのなら直接言ったらどうだ。」
「的外れもいいとこ。彼女が耳を貸すもんですか。見た目や声は人間のようでも、中身は完全にボーグ。」
「君にも問題はある。セブンをクルーとして認めようとしていない。」
「理由ならある。今朝だって、許可なしにアイソリニアプロセッサーを機関室から持ち出した。天体測定ラボに取り戻しに行ったら、ドアに鍵をかけたのよ。まるで自分の部屋だといわんばかりにね。」
「どうしろというんだ。帰還するまで拘束室に放り込むのか?」
「それもいいんじゃない。」
通信が入った。『セブン・オブ・ナインよりチャコティ。』
「チャコティだ。」
『天体測定ラボへすぐ出頭しろ。』
「今行く」といい向かうチャコティに、トレスはいう。「聞いたでしょ、副長に命令。先に言っとくけど、今度何かあったら、私自分が何するか責任もてないから。」
「君はこの船の上級士官だ。何とかして彼女とうまくやってくれ。」 歩いて行くチャコティ。トレスはまだ収まりがついていない。

ジェインウェイに走って合流するチャコティ。「天体測定ラボ?」
「呼び付けられたの。何なのか見当つく?」
「さっぱり。」

ラボに入る 2人。「緊急事態か?」とセブンに尋ねるチャコティ。
「そうだ。天体測定センサーの探査範囲を広げようとしたら、お前たちが興味をもちそうなものを感知した。」
スクリーンに小さく対象物が表示される。「船? それがどうかしたの?」と聞くジェインウェイ。
「ワープの痕跡を分析した。宇宙艦隊の船だ。」 その船の映像が、数倍に拡大される。ジェインウェイはチャコティと顔を見合わせ、スクリーンに見入った。

※1: すぐに気づくと思いますが、トレスが普通の制服の上に、さらにゆったりとした作業着のようなものを着ています。なぜかポケットもついているこの服は、トレス役のロクサン・ドースンが妊娠しているのをわかりにくくするために着ているそうです。実際、映像でもあまり下半身を映していません。TNG のゲイツ・マクファデン (クラッシャー役。シーズンの合間に出産) や DS9 のナナ・ヴィジター (キラ役。劇中で代理母となる) のようにはいかなかったんですね。ただし後のエピソードで……

・本編
天体測定ラボ。説明するセブン。「この船の位置はアルファ宇宙域。」 「そこまでセンサーの精度を上げるのは不可能だ」というチャコティ。「ああ、だが大ネットワークを張っている中継ステーション群まで広げることはできた。元はエイリアンのものだが捨てられたようだ。一番近いステーションにリンクを張った。全ステーションから情報を得られる。最も遠くにあるセンサーが捉えた映像で、アルファ宇宙域の境界線近くだ。」 デルタ宇宙域をスタート地点とし、銀河系の広い範囲を網羅するネットワークが表示される※2。スクリーンに近づくジェインウェイ。「ディープスペースミッションに出てるのね。」 「船のコースを計算した」といい、表示させるセブン。 チャコティ:「このセンサーでも長く追跡できそうにないな。」 「船は 41分後に交信域を出る。」 「このネットワークを通じて交信はできるのか?」 「ああ、リンクしている周波数に合わせて信号を変えればな。」 ジェインウェイ:「さあ、時間がないわよ。副長、すぐかかって。」 天体測定ラボを出ていくチャコティ。
天体測定ラボ。セブンが作業している。コンピューター音が鳴り、通信を入れる。「セブン・オブ・ナインよりキム少尉。」 『キムだ。』 「リンクの周波数を、そちらへ送る。」 ブリッジのキム。「受信。」 ジェインウェイ:「セブン、残り時間は何分ある?」 セブン:『16分だ。』 科学コンソールのトレス。「時間は十分です。亜空間トランシーバーは出力 200%にセット。オンライン。準備 OK。」 ジェインウェイ:「回線をつないで。」 キム:「どうぞ。」 「宇宙艦隊の船へ。こちらは宇宙艦ヴォイジャー、艦長キャスリン・ジェインウェイです。我々はデルタ宇宙域にいます。現在の座標は 18、マーク 205、マーク 47。リンク周波数に合わせ、そちらの信号も変更を。」 数秒後、トゥヴォックが報告する。「信号を受信しています。」 ジェインウェイ:「聞きましょう。」 乱れた音声が聞こえる。『……宇宙艦ヴォイジャー艦長……我々はデルタ宇宙域…にいます。現在の座標は 18……』 ジェインウェイ:「ブリッジよりセブン、どういうこと?」 ラボのセブン。「原因不明だ。ステーションは信号を受信しネットワークを通じて正常に中継している。」 トレス:「亜空間の帯域幅を広げて、もう一度送ってみましょう。」 うなずいて指示するジェインウェイ。「やって。」 キム:「送信中です。」 セブン:『正常に中継されている。干渉が入っている兆候はない。待て、また反射して戻ってきた。』 『こちらは宇宙艦ヴォイジャー艦長……』 両手を挙げるジェインウェイ。 『キャスリン・ジェインウェイ。デルタ宇宙域にいます……』 セブン:『艦長、考えられる理由として、ネットワークを通る間に搬送波が劣化したのでは。』 パリス:「別の信号を試すのはどうです? もっと強いの。」 トレス:「ホログラム・データストリームはどうですか? あれなら簡単には劣化しません。」 チャコティ:「それだとメッセージ作成に時間がかかり過ぎる。ただもし…」 ジェインウェイ:「ドクターね。」 トレス:「名案です。」 「天体測定ラボに呼んで。時間がないわ。」
医療室で薬の調合を行っているドクター。トレスは部屋に入るなり、台の上に置いてあるモバイルエミッターを操作する。「ドクター。一緒に来てもらうわよ。今すぐ。」 ため息をつくドクター。「理由ぐらい教えてくれてもいいんじゃないかな…」 ドクターの姿は消えた。モバイルエミッターを手にし、医療室を出るトレス。
「調査任務派遣を希望はしましたが、まさかこんな形でとは。」 天体測定ラボのスクリーンを凝視するドクター。 ジェインウェイ:「この方法があの船と交信する唯一のチャンスなの。」 トレス:「あなたを向こうの EMH システムにダウンロードする。プログラムと一緒に起動コードも送るから、着いたらすぐに立ち上がるわ。」 セブン:「船が交信可能域を出るまで 90秒もないぞ。」 ドクター:「でもどうやって戻ってくるんです。」 ジェインウェイ:「こちらの状況を伝えて、向こうのクルーに交信可能域に戻るよう言って。運が良ければ、同じ方法で戻れるわ。」 驚くドクター。「運?」 「正直に言うけど、何がどうなるかわからないの。あなたを数万光年先に送るのに、頼みはエイリアンのテクノロジーのみ。」 「プログラムが失われる可能性もあるんですね。」 「ええ。それでも引き受けてもらえる?」 セブン:「あと 35秒。」 ジェインウェイ:「ドクター。」 ドクター:「ヒーローになるチャンスを逃がしはしませんよ。行きましょう。」 スクリーンに近づくドクター。 トレス:「トレスよりブリッジ。」 チャコティ:『スタンバイしてる。』 「ドクターをトランシーバーアレイにダウンロードします。」 セブン:「あと 10秒。」 ジェインウェイ:「幸運を祈るわ。」 「やっぱり運ですか」といい、微笑むドクター。音と共に、ドクターの姿が転送されて行った。見送るジェインウェイ。
ワープ航行中の、相手の宇宙艦隊の船。その医療室にドクターが転送された。だがクルーの姿は見えない。 「どうも。誰かいるかな。コンピューター、この船の名前は。」 『当艦は、宇宙艦隊プロメテウス※3です。』 「ここはアルファ宇宙域か。」 『はいそうです。』 「うーん。」 満足するドクター。パネルを操作する。 「医療室よりブリッジへ。」 応答なし。「それじゃ、こちら医療室。誰でも構わない。応答してくれ。コンピューター、通信システムは機能してるのか?」 『しています。』 「どうして誰も返事をしないんだ。」 『通信システムへのアクセスは制限されています。』 「使えないと困るんだよ。何か非常通信チャンネルのようなものは。」 医療室の中を歩きまわっていたドクターは、床に宇宙艦隊の士官が倒れているのに気づいた。怪我をしている。脈をとるが、死んでいる。そばにもう一人倒れている。まだ息がある。近くのハイポスプレーを取り、注射するドクター。その男性士官※4は目を開けた。ドクターは言う。「動くんじゃない。フェイザーでひどい火傷を負ってる。何があったんだ。」 「ロミュランに…船を…乗っ取られた……。」 士官は目を見開いたまま、言葉を失った。

※2: この図では、どう見てもデルタ宇宙域からベータ宇宙域をカバーしているように見える (プロメテウスの位置もベータ宇宙域?) のですが…まあ深くは気にしないことにします

※3: U.S.S. Prometheus
ここだけ「プロメテウス」と吹き替え。NX-59650。ヴォイジャー上級イラストレーター Rick Sternback デザイン、Foundation Imaging によって CGI として製作。内装はシリーズ製作デザイナー Richard James によってデザインされ、彼によって作られた VOY第44話 "Flashback" 「伝説のミスター・カトー」の再現されたエクセルシオのブリッジの一部を改装して使っています。さらにヴォイジャーの医療室も新しいセットに加わっています。なお、DS9第29話 "Second Signt" 「愛の幻影」に登場する U.S.S.プロメテウス (ネビュラ級、NCC-71201) とは全く別の船です

※4: (Tony Sears 以前はヴォイジャーの美術部門で働いていました)

プロメテウスのブリッジ。オプス席のロミュラン女性※5が報告する。「司令官※6、インターセプトコースで接近してくる船があります。艦隊の船です。」 「ワープの痕跡を消せと命じておいたはずだ。」 「努力はしましたが慣れないシステムなので。クルーを生かしておくべきでした。」 「奴らが簡単に言うことを聞けばな。」 「艦隊の船が更に接近中。」 「シールドを張りフェイザー砲を用意しろ。」
ツー、という音を発するトリコーダー。あきらめて男性士官のそばを離れるドクター。「コンピューター、ロミュランは何人乗船している。」 『27名です。』 「宇宙艦隊のクルーはいるのか。」 『全員死亡です。』 うなだれるドクター。「コンピューター、この船の設計図をディスプレイしてくれ。それと仕様書の概略も頼む。」 モニターに図が表示される。『U.S.S.プロメテウス。ディープスペースでの戦略的任務のためのプロトタイプで、実験段階。メイン戦闘システムとして、再生式シールド、断熱被膜塗装※7、多方向攻撃モード搭載※8。』 「多方向攻撃モードだって? 説明してくれ。」 『戦略データへのアクセスには、レベル4 の承認コードが必要です。』 「じゃあ私の承認コードで何が聞ける!」 船が大きく揺れた。
後方から迫る宇宙艦隊のネビュラ級の船※9が、フェイザーでプロメテウスを攻撃している。ブリッジにも衝撃。報告するロミュラン女性。「シールドは異常なし。」 司令官:「多方向攻撃モードの準備をしろ。」 「まだテストしていません。」 「だから今やるんだ。」 再び揺れる。司令官は命じる。「命令が聞こえなかったのか、言われた通りにしろ。多方向攻撃モード、起動!」 「了解、司令官。」 ロミュランばかりのブリッジに、青い警告灯が灯る。『分離シークエンス起動します。』
医療室にもコンピューターの声が流れる。 『10秒後に分離を開始。9、8、7…』 状況のつかめないドクター。「コンピューター、何だこれは。コンピューター!」 『6、5、4、3、2、1。分離シークエンス始動しました。』
プロメテウスの船体が、上下に 3つの部分となって分かれていく。もともとあった 4つのワープナセルは下部船体に 2本、中部船体に 2本となり、そして上部船体の最上部から、新たに短いナセルが姿を見せる。中部船体だけが前に出る態勢となった。
ブリッジの床には蒸気が出ている。ロミュラン女性:「攻撃態勢に入りました。各セクションともスタンバイ完了。命令を待つのみです。」 攻撃を受け、火を吹いたコンソールの前にいたロミュランが倒れる。司令官:「攻撃パターン、ベータ 4-7。」 『ターゲットの指定を。』 「宇宙艦隊の船だ。方角 162、マーク 7。」 『パターンおよびターゲット確認。』 3つの船体が、ネビュラ級艦を取り囲むようにフェイザーを発射した。爆発が起こる。 「これでどうやらテストは成功したようだな。合体シークエンス開始、それから被害状況を報告しろ。」 「了解、司令官。」 女性は先ほどの攻撃で倒れ、うめいているロミュランのところへ近づく。「負傷しています。」 司令官:「なら医療室へ連れていけ。」 女性は負傷したロミュランを抱きかかえるようにして、ターボリフトに入った。
医療室に、軽い揺れが起こった。『合体シークエンス完了。』 「コンピューター、私でも通信システムにアクセスできる方法はないのか。ほかの船と交信したいんだ。」 『不可能です。通信システムへのアクセスには、レベル4 以上の承認コードが必要です。』 ため息をつく。誰かが来た気配に気づき、隠れるドクター。ロミュランたちがやって来た。ドクターは見つからないように近づき、さも今起動されたように話しかけた。「緊急事態の概要を述べたまえ。」 負傷者をベッドに乗せたところだったロミュラン女性は驚く。「お前を起動したのは?」「あなたです。医療室に入った時に自動的に。」 「治療できるか。」 トリコーダーを取るドクター。「それが、私の機能です。第3級の火傷、あごに毛細状の骨折。脳の血管に断裂が見られますね。これは手術だ。」 「お前は艦隊のプログラム。どうして信用できる。」 「私は医者です。患者は地球人※10でも、たとえロミュランでも、治療のため全能力を注ぎます。心配なら助手をして頂いても。監督するだけでも構いません。」 道具を揃い、治療を始めるドクター。 「治療が終わったら報告しに来い」という女性。 「ふーむ。」 ロミュラン女性が出ていった。ドクターは診察をやめ、コンピューターを呼ぶ。「コンピューター、この船の EMH プログラムにアクセスできるか。それにも承認コードがいるのか?」 『EMH へのアクセスに制限はありません。』 「起動してくれ。」 ドクターのそばに、若い男性の姿のホログラムが現れた。「緊急事態の概要を述べて下さい。」 ドクターに気づいた。「君誰だ! 僕の医療室で何してる!」

※5: 名前は Nevala
(Valerie Wildman) 声:佐藤しのぶ、DS9 ジャッジアなど

※6: 名前のレカーは最後の方で言及されます。(ジャドソン・スコット Judson Scott 映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」のヨアキム (Joaquim)、TNG第22話 "Symbiosis" 「禁断の秘薬」のソビ (Sobi) 役) 声:藤原啓治、DS9 ベシアなど (ロミュランのコンビの声優が DS9 科学士官コンビ。いいですね)。ロミュランでは宇宙艦隊の大佐 (Captain) に相当するのが司令官 (Commander) で、その下が副司令官 (Subcommander) です。司令・副司令と訳した方が区別がついて、より的確かもしれません

※7: 奪格 (船体) 装甲 ablative (hull) armor
武器の砲火を受けた際に蒸発させるよう設計された宇宙艦外殻層、それによってエネルギーを分散させ船の内部を守ります。U.S.S.ディファイアントも装備しています。DS9第57話 "Past Tense, Part I" 「2024年暴動の夜(前編)」など

※8: multivector assault mode

※9: 艦名不明、NCC-70915

※10: 「人間」と吹き替え

そのホログラムはしゃべり続ける。「僕はこの船のクルー全員を識別するようプログラムされている。君はクルーじゃない。」 「ああ、私は…」 「階級と承認コードレベルを言え。」 「承認コードなどないよ。私は緊急医療ホログラムで、この船に派遣され…」 「ああ、そうだ。そうだ、そうだ、そうだ! 君が EMH マーク1 だな。旧型のプログラムだ。」 「旧型!」
"Beady eyes... terrible bedside manner... I recognize you!

「ギョロ目で、患者の扱いは最悪だ。見覚えがあるよ。
だが君はこのデータベースに含まれていないはずだぞ。」 「ほんの一秒、その音声サブルーチンを切ってくれれば説明するよ。私はここから 6万光年離れた場所にいる艦隊の船から派遣されたんだ。」 「6万光年離れた場所? そんなディープスペースに艦隊の船が?」 「宇宙艦ヴォイジャーだ。4年前、エイリアンの力でデルタ宇宙域まで飛ばされたんだよ。何をしてる。」 ベッドにロミュランがいることに気づいた EMH-2※11 は、コンピューターを操作している。「侵入者だ。警報を出す。」 「やめろ、馬鹿なことをするな!」 「保安部…」 EMH-2 の口を手でふさぐドクター。 「話を聞け! この船はロミュランに乗っ取られ、クルーは全員死んだ。艦隊士官は私と君だけだ。わかるか?」 うなずく EMH-2。ドクターは手を放した。すると EMH-2 は「コンピューター、EMH を停止しろ」といい、消えてしまった。あきれるドクター。「コンピューター、EMH を起動だ。」 また姿を現す。「緊急事態の概要を述べて下さい。…何のつもりだ!」 「君の助けがいるんだ。」 「宇宙艦隊保安規約、第28節 D項※12。『敵対エイリアンの支配下に入った場合、EMH は機能を停止し、救助を待つ。』」 「そんな悠長な状況じゃないんだ。君と私の船 2隻の運命がかかってる。いいか、現状をもっと詳しく知りたいんだよ。連邦はロミュランと戦争中なのか。」 「いや、ロミュランはドミニオンとの戦闘※13には、全く関係していない。」 「ドミニオン?」 「あ…長い話でね。」 「とにかくだ、船を我々の手に取り戻すんだ。」
"I'm a doctor, not a commando."

「僕は医者なんだぞ、戦闘員でもないのに無理だ。」
「不本意だががんばるしかないな。」 「君は何もわかってない。プロメテウスは、実験段階のプロトタイプなんだ。つまり僕もだ。だから…だから、実地テストだってまだ済んでないし、第一そんな任務をする設計はされていない。」 怪我をしたロミュランを覗き込む EMH-2。ドクターに肩をつかまれ、驚く。ドクターは言う。「いいから落ち着け。私がついてる限り大丈夫だ。その方面の経験は豊富でね。よし、順にゆくぞ。まず患者だ。私は火傷、君は骨折を治療する。」 手術台が動き始める。「本気なのか?」 「至って本気だが。」 EMH-2 は手術台を戻した。「敵なんだぞ。」 「彼には治療が必要だ。ヒポクラテスの誓い※14は知ってると思うがね。」 「考えろ。わからないのか? ロミュランは君を利用してるんだ。」 「ふーん。」 トリコーダーでロミュランを調べるついでに、EMH-2 にも近づけるドクター。 「ふーん? 何だ?」 「君のホロマトリックスは不安定だ。不可解な行動もうなずける。」 「まだ実験段階だと言ったろ。1ヶ月半前にインストールされたばかりだ。」 「それでも君の力がいる。彼にもな。」 トリコーダーを確認する EMH-2。「死にはしない。放っておいて、僕らは機能を停止しよう。」 「だめだ! どうしてもというなら好きにしろ。データプロセッサーの中で、縮こまってるがいい。独りでやる。」 再び手術台のスイッチを入れるドクター。EMH-2 は出ていこうとするが、ドクターに言う。「僕らは医療用ホログラムなんだぞ。船いっぱいのロミュラン相手に、何ができるって言うんだ。」 「わからないね。今はな。だがこれまでもいろいろと切り抜けてきた。エイリアンの侵攻、マクロウィルス※15の蔓延、時間を旅してボーグにも遭遇した。」 「君、最近自己診断をしてみたか? EMH マーク1 は、医療室でのみ機能するようになってるはずだ。」 「ヴォイジャーは 4年前に医療主任を失った。それ以来立派にやってる。」 「4年前? 道理で妄想を見るわけだ。プログラムが古くなり過ぎて劣化したってわけだな。」 「私は完璧な健康体だ。
I was saving Voyager from annihilation when you were only a gleam in your programmer's eye.

君がモニター上の文字だった頃、私はヴォイジャーを全滅から救ったんだ!
船の奪還を手伝う気があるのか!」 「……そこの血栓モジュレーター※16を取ってくれ。」 ドクターは並べられた道具の中から、一つを手にしてスイッチを入れた。「ん?」 「コーンの形をしたやつだよ。早く渡してもらえますでしょうか。」 ドクターから受け取る EMH-2。「君がいなくなってた間に、医療技術は多少進んでるんだ。デルタ宇宙域って言ったか?」 「ああ、そうだ。」
"We don't use scalpels or leeches anymore. I suggest you let me handle the medical side of things.

「メスはもう使わないんだ。ヒルに血を吸わせたりもしない。治療の方はどうやら僕に任せてもらった方がいいなあ。
代わりに船の奪還とやらは、経験豊富な君に、一任させてもらうとするよ。」 ため息をつくドクター。
ヴォイジャーのブリッジ。無言のトレスたち。新たな情報を待っている。チャコティが戻る。「応答なし。センサーネットへのリンクは安定してます。セブンが天体測定ラボで監視を続けてますが、休めといったんです、持ち場を離れないので。だが 2、3日は再生する必要がないと。何してるんです?」 ジェインウェイはパッドを持っていた。「手紙をね。1年前に書き始めたの。1通は家族に、それとマーク※17にも。書き直してみたのよ、運が良ければ…わかってる、気が早すぎるわね。」 「そうですよ、希望をもったこと自体間違いかもしれない。前の時もそうでした。」 ジェインウェイに見つめられ、チャコティは言った。「白状しますよ、さっき従兄弟に手紙を書きました。」 笑う 2人。
医療室でウロウロしているニーリックス。ベッドの上には、苦しそうなクルーが 2人座っている。ドアが開き、パリスが入る。「ドクターだよ。」 「パリス、来てくれて助かった。」 「それで? どうしたんだ?」 「いやあ、さっきまでランチを食べてた。そしたら汗を噴き出して、胸が痛むって言い始めてね。」 診察するパリス。「ふん、だろうな。急性の消化機能疾患だ。」 「何だそりゃ?」 「胸焼け。」 「ああー、いやあ、申し訳ない、なんでこんなことになったんだか。」 女性士官に謝るニーリックス。 「レプリケーターで薬を出そう。」 「あっという気分が良くなるからな。」 オフィスに入ったパリスを追いかける。「あの子らは助かるんだよな。」 「ニーリックス、ただの胸焼けだぞ。ティリリアン伝染病※18じゃない。だけど一体何食わせたんだ。」 「『ロデオ・レッドの店の、レッド・ホット激辛チリ』※19。」 笑うパリス。「そんなレシピ、どこで見つけた。」 「アメリカ・クラシック料理のレパートリーを増やそうと思ってね。腕を磨いとけば、地球に戻った時職探しがしやすくなる。」 「そいつはかなり気が早いことだな。」 「ドクターは必ず戻ってくる。艦隊が立てたレスキュー計画を持って戻ってくる。あの男なら間違いない。」 「だといいけどな。でないと、俺はずっとここで胸焼けの治療をする羽目になる。」 「心配ないよ。こんなことは二度と起こさない。レシピにチョチョッと手を加えればいいんだ。今度はチリペーニョを 2、3本減らすとするか、ウン。」 医療室を出ていくニーリックス。パリスは今のニーリックスの言葉を考えた。
プロメテウス医療室。 EMH-2 に話すドクター。「ナビゲーション記録にアクセスした。ワープ 9.9 の速度で、まっすぐロミュランの領域へ向かってる。」 「プロメテウスは、艦隊のどの船より速く設計されてる。救助が来ても追いつけない。」 「船の向きを変える方法を考えろ。」 「どうやる? ブリッジへ飛び込んで操舵席を乗っ取るか?」 「よく言えたものだな。医療室での態度が悪いのはどっちだ。」 「君は患者じゃない。」 「初めて誉められたよ。……何とかロミュランを、身動きできなくさせる方法はないかな。ここにはどんな麻酔薬がある?」 「最高のものばかりだ。アクスノル※20に、ニューロジン※21に、アネステジン※22。」 「ニューロジンが手頃だろう。気体の状態で使用するからな。この船の換気システムの概略図を見せろ。」 何もしない EMH-2 に、ドクターは言う。「頼むよ!」 操作する EMH-2。「メインシステムは環境コントロールも含め、全てブリッジに移されてる。」 「この船は全デッキにホロエミッターがあるのか。」 「ああそうだ。君と違って、僕は医療室に縛られてない。」 「ニューロジンを 3本用意しろ。」 取りに行く EMH-2。ドクターは説明する。 「念のため言っとくが、私はヴォイジャーの中ならどこへでも行けるんだ。船を離れることだってできる。」 「船を離れるだって? どうやって。」 「モバイルエミッターだ。29世紀の技術を少々手に入れたんでねえ。」 「ほんとか?」 「私はどのホログラムより生命体に近い存在だ。クルーと親睦を深め、エイリアンとも友人、性的関係を持ったことも…」 「セックスを! どうしてそんなことできる、僕らには生殖器は…」 「一言で言えば、自分でプログラムを書き足したんだ。」 「帰る前にそのサブルーチンを、僕のデータベースにダウンロードしてくれないかな。」 「考えておこう。」 コンピューターを操作するドクター。「環境コントロールにアクセスできるのは、ブリッジの司令コンソールだけらしい。」 「ブリッジにはロミュランがウヨウヨしてるんだ。」 「現実社会で最初に学ぶことは、『自分で考えろ』だ。」 「なるほど、幸運を祈るよ。コンピューター、機能停止…。」 EMH-2 の肩をつかむドクター。「そう慌てるな。ジェフリーチューブ 17 へ行ってくれ。私がロックを解除した瞬間、換気システムでガスを放出するんだ。」 「ジェフリーチューブ 17? 5デッキも上だ。途中で奴らに会ったら?」 「アドリブでいけ。」 ジェフリーチューブへの扉を開けるドクター。「君の旅のスタートは、ここだ。」 EMH-2 は後ろ向きに入口に座り、足を曲げて中に入ろうとする。無理だとわかった彼は、後ろ向きに足から入ろうとする。見ていられないドクターは EMH-2 のニューロジンを手に取った。
"Traditionally, one crawls in head first."

「通常は頭から先に入れるものなんだ。」
「そうか。」 やっとで頭から入る EMH-2。奥へ行く。無言のドクター。EMH-2 は戻って来て、手で合図する。ニューロジンを渡すドクター。そして扉を閉じ、鍵をかけた。
ブリッジへ入るドクター。「来たか、ドクター。手術は終了したのか?」 司令官をチラリと見て、ロミュラン女性に説明するドクター。「はい、彼は順調に回復してます。しかし血液に多少問題がありまして。悪質なトロスカウィルス※23に感染していたようなのです。もしそうなら、あなた方もです。ですからチェックに来ました。」 「病人はおらんぞ」という司令官。 「これからです。腹部を強烈な痛みが襲うでしょうねえ。失神の方が厄介かもしれない。」 「早くチェックしろ。」 トリコーダーを使い、一人ずつチェック (の振りを) するドクター。司令官は女性に尋ねる。「ロミュランの境界までの距離は。」 「現在の速度で行けば、40分です。」 「針路を変更しろ。118、マーク 26だ。」 司令官へ向き直るロミュラン女性。「ロミュラス星への最短コースを外れます。」 「そのための変更だ。この船を最も有効に使える者たちに引き渡す。タルシアーだ。彼らの艦隊と 1時間以内にランデヴーすることになってる。」 「でも司令官、国では我々を待って…」 「命令通りにしろ。」 ドクターはブリッジの後部でコンソール操作を始めたが、すぐに司令官に気づかれてしまった。「何をしてる。」 「ああ、ウィルスの痕跡がないかバイオフィルターを調べています。」 ドクターの腕をつかみ、トリコーダーを見る司令官。「何の数値も出てないじゃないか。」 ドクターはトリコーダーのスイッチを叩いた。「ふむ。」
ヴォイジャー医療室。クルーの診察を終えるパリス。「今度は、チキンサラダにしとけ。」 出ていくクルーと入れ違いにキムがやってきた。喜ぶパリス。「ああ、救いの神がきた。」 「急用って何だ?」 「ここ見てみろよ、ハリー。」 部屋を見渡すキムの肩を叩くパリス。「何に見える?」 「医療室。」 「その通り。」 「だから?」 「ここはブリッジの操舵席じゃないよな、だろ?」 「お前、間違って自分に向精神薬か何か打ったんじゃないのか?」 「ハリー、俺はパイロットなんだ、医者じゃない!」 「一時的な任務だろ。ドクターが戻るまでのことじゃないか。」 「戻らなかったらどうする!」 「戻ってくるさ。」 「頼む、助けてくれ、ハリー。これじゃ医療室へ島流しだ。」 「どうやって?」 「お前はホロテクノロジーのエキスパートだろ。今すぐ新しいドクターを作ってくれ。」 吹き出すキム。「お前、本当にどうかしてるよ。EMH の開発は艦隊第一級のホロエンジニアでも何年もかかる。新しいのをポンと作るなんてことはできない。」 笑うパリス。キムと肩を組む。「考えてみろ、すごいチャレンジじゃないか。お前が歴史を作るんだ。ついでに親友も救えるんだぜ? ん?」
セブンが天体測定ラボに入る。「トレス中尉。」 振り返るが、返事しないトレス。セブンはトレスが作業しているコンソールへ近づく。 「中継インターフェイスの数値を変更しているぞ。」 「ええ、そうよ。」 「修正を加える理由を明確にしろ。」 「『して下さい』、でしょ。セブン、問題はあんたのその言い方よ。」 「何の話だ。」 ため息をつくトレス。「気づいてるだろうけど、あんたがいると周りのクルーが、ちょっと…いらつき始めるのよ。」 「元ボーグだ、不安があるのは理解できる。」 「だからそうじゃなくて、別に私達を同化すると思ってるわけじゃないわ。ただ馴染めないの。あんたが、……すごく失礼だから。」 「私が失礼?」 「そうよ。人に命令して回るし、何でも許可なしでやるし、わかってるのかどうか人を侮辱するような態度だし、『お願いします』も『ありがとう』も何もなし。こっちも、一晩で変われるなんて思ってないけど、私達はボーグのドローンじゃないの。忘れないでくれる?」 何も言わずに作業に戻るセブン。「中継インターフェイスの数値変更は軽率だな。リンクを破壊する危険性が大きすぎる。」 「そっちの意見でしょ。私が言ってるのはそれよ、人の話を聞こうともしない。だから話しても無駄だって…」 通信に反応がある。「リンクが切れかけてるの?」と尋ねるトレス。 「いや、中継ステーションからのメッセージを受信した。」 「ドクターから?」 スクリーンに反応がある。ヘルメットとマスクをした異星人※24が映し出された。 『何者だ。』 「宇宙艦ヴォイジャーのトレス中尉よ。」 『我々のステーションを無断使用している。』 「センサーネットワーク? でも、もう使われてないんじゃ…」 「ヒロージェン※25の所有物だ。リンクを切断しろ!」 「いいえ困るの、ちょっと待って!」 映像が消えた。「リンクは切断された」とセブンは言った。

※11: 緊急医療ホログラム-2 Emergency Medical Hologram-2 (Andy Dick) 声:柴本浩行

※12: Security Protocol 28, Subsection D
宇宙艦隊一般命令・規則 (Starfleet General Orders and Regulations) の一つ

※13: 何を勘違いしたのか、「自治領との内紛」と訳されています……

※14: Hippocratic Oath
医師にとっての伝統的な倫理規約。VOY第60話 "Darkling" 「ドクターの内なる闇」で言及。DS9第76話「苦悩するジェム・ハダー」の原題

※15: 巨大ウィルス macrovirus
VOY第54話 "Macrocosm" 「巨大ウィルス」より

※16: thrombic modulator

※17: Mark
ジェインウェイの恋人。VOY第1話 "Caretaker, Part I" 「遥かなる地球へ(前編)」、VOY第24話 "Persistence of Vision" 「ボーサ人の攻撃」など

※18: テレリアン病 Terrellian plague
危険な病気。TNG第177・178 (最終) 話 "All Good Things..." 「永遠への旅」より。テレリアン (Terrellians) は DS9第59話 "Life Support" 「バライルの死」で言及

※19: "Rodeo Red's Red Hot Rootin' Tootin' Chili"

※20: axonol

※21: neurozine

※22: アネスチジン anesthezine
即効性麻酔。TNG第59話 "The Hunted" 「恐怖の人間兵器」など

※23: Torothka virus

※24: 後にも登場。(タイニー・ロン Tiny Ron DS9第11話 "The Nagus" 「宇宙商人フェレンギ星人」に初登場した、グランド・ネーガス・ゼクの従者であるフーパイリア人、メイハードゥ (Maihar'du) 役) 声:辻親八、TNG/DS9 オブライエンなど

※25: Hirogen
「ヒロージェン族」と吹き替え

「お前はこの船に何をしたんだ。俺の質問に答えないつもりなら、今すぐ機能を停止させる。」 ドクターを尋問する司令官。 「答えたとしても、機能停止させるでしょうから答える意味がありません。」 「お前はただの、コンピューターが作り出した映像だ。自らの意志でこんな行動をとっているんだとは到底考えられん。ありえんなあ。」 「光栄なお言葉だ。」 「誰がお前のプログラムを操作しているか言うんだ。この船の誰かか。艦隊のクルーが、逃げて潜んでいるのか。それとも俺の部下か。」 「あなたの人生は、まさにパラノイアですな。」 部屋にロミュラン女性が入り、司令官に報告する。「コンピューターの記録を確認しました。光電子のデータストリームを受信しています。既に 6時間ほど経っていますが、ホログラムのサブルーチンが含まれていました。」 「発信源は。」 「不明ですが、データパターンに宇宙艦隊の痕跡が。」 「そうか、宇宙艦隊か。ここまでホログラムの工作員を送り込んでくるとはな。やるじゃないか。」 「スパイするためだけに送られたのか、それとも破壊工作が目的かしら。」 ため息をつくドクター。「エイリアンのセンサーネットワーク経由で送られました。デルタ宇宙域の宇宙艦隊の船が発信源です。」 「デルタ宇宙域? 馬鹿げてます。」 「時間の無駄だ!」と怒る司令官。 「全く同感」といい立ち上がろうとするドクターを抑える女性。「このホログラムから情報を引き出すならもっといい方法があります。アルゴリズムを全て抽出してしまえばいいんです。そして、サブルーチンを一つずつ解析しましょう。」 「かかれ。」 操作を始めるロミュラン女性に、「捕虜の扱いに関して協定があるはずでは?」と尋ねるドクター。急にロミュランが苦しみ始めた。ガスが放出される音がしている。2人は倒れ、気を失った。白いガスが部屋の中に出ている。EMH-2 が現れた。「うまくいったか? 邪魔して悪かったな」と女性の耳元で言い、テーブルから床へ落とす。 「船中に麻酔をかけたのか。」 「ああ、やったよ。」 「どうやって麻酔を放出した? 換気システムは開けなかったのに。」 「僕はジェフリーチューブにたった一人、逃げ場所もなかった。しかも気取った我が同志が、何とロミュランに捕まった。EMH マーク2 はアドリブで行動したんだ。ひらめきだよ。メインコンピューターにアクセスして、船全体にバイオハザードが起こったようにシミュレートし、コンピューターに全デッキを微生物が汚染してると思わせたんだ。」 「それで換気システムが自動的に開いたか。」 「ご名答! そこで彼はチューブをたどって戻り、ホロエミッターにアクセスしてここへやって来た。ロミュランに挨拶し、同志がキョトンとした顔をしてるのを見つけたわけだ。」 「もういい! 君もぜひ個人日誌をつけたまえ。他人に迷惑がかからん。ブリッジに急ごう。クルーはもう我々だけなんだ。」 「ああ…大変だ。プロメテウスはプロトタイプ。トップシークレットだ。この船を操縦できるのは宇宙艦隊でも 4人しかいない。君のその…無数の冒険談の中に、操縦訓練もあるといいなあ…」 EMH-2 はコンピューターを操作し、2人はブリッジのスクリーンの前に転送された。
「…僕のプログラムには役立ちそうなものは何もないんだ。」 「操縦の経験だったら、もちろんあるとも。実を言うと、2度だけだがね。それもシャトルの操縦だ、ホロデッキの。だが勘は良かったぞ。操舵席は?」 「そのいい勘で早く探し出してくれ。ロミュランの領域まで 8分しかないぞ。」 「ああ、あそこだ。」 操舵席へ近づき、眠っているロミュランを椅子から落とすドクター。席に座り、EMH-2 もパネルを覗き込む。「どれもとんでもなく複雑なシステムなんだぞ。」
"Stop breathing down my neck."
「首に息を吹きかけるな。」

"My breathing is merely a simulation."
「僕の息はただのシミュレーションだ。」

"So is my neck. Stop it anyway."
「私の首もな。とにかくよせ。」
「スラスターコントロールか?」 「触るな! 何かわからないんだぞ。自爆スイッチかもしれん。」 「不安そうだな。」 「ただ、集中してるんだ。」 「ほんとはまるでお手上げなんだろう。これはシャトルでもないし、ここはホロデッキじゃないからなあ。」 「シーッ!」 「『私は船も出られるんだ。』 経験豊富なんじゃないのか?」 「考えてるんだ。あ、あった、これだ。これがエンジンパワー・コントロールだ。」 「それで、それで?」 「ミスター・パリスがやったのを 1度見たことがある。エンジンフィールドを軽いオーバーロード状態にすれば、ワープフィールドが崩壊する。」 コンピューターの警告音がなり、船が揺れた。前のめりになる 2人。「どうなったんだ?」と尋ねる EMH-2。 「やったぞ! 止まった。はあ。後は何とか宇宙艦隊に救難信号を送ればいいだけだ。」 だが警報が鳴っている。音を真似する EMH-2。「ピピピ、ピピピ? こんなの聞いたことないぞ。」 ドクターは後ろのコンソールを確認する。「まずい。」 「どうした?!」 「よくわからないが今の操作のせいで、ワープコアがオーバーロードしそうだ。」 「じゃあ船が爆発するっていうのか? 早く止めてくれ。」 操作するドクター。音が止まった。「はあ、大解決。」 だがまた別の音が鳴る。 「今度は何だ?」という EMH-2。ドクターは操舵席をチェックする。「間違いだといいが。そうであることを切に祈るが、ロミュラン・ウォーバード 3隻がインターセプトコースでやってくる。」
ヴォイジャー天体測定ラボ。トレスとセブンが作業をするのを見守るジェインウェイ。説明するトレス。「シグナルの出力を限界ギリギリまで上げています。エイリアンの妨害波を突破できるでしょう。」 『警告したはずだ!』 再びヒロージェンがスクリーンに映った。 ジェインウェイ:「許可を得なかったことは謝罪しますが、聞いて下さい。」 『聞く必要などない。』 「あなたたちの中継ネットワークのおかげで、母星の仲間と交信できそうなんです。非常に遠い場所からのメッセージを待っているの。」 『今後の全通信を妨害する。』 トレス:「またリンクを妨害しようとしてる。」 ジェインウェイ:「交渉の余地があるはずよ。ネットワークを使わせてもらう代わりに何か…」 突然ヒロージェンに電流が走り、苦しみ始めた。その場に倒れる。 ジェインウェイ:「どうしたの?」 セブン:「センサーリンクと同時にフィードバック電流を送った。」 顔を見合わせるジェインウェイとトレス。 トレス:「じゃあ殺したの?」 「気絶しただけだ。すぐに目が覚める。」 ジェインウェイ:「その時はどうなるの。」 「交渉に応じる様子はなかった。」 「あ、あ…センサーはリンクできたの?」 「ああ、艦長。」 「ドクターの捜索を続けて。あの彼がまた何か言ってきたら呼んで。」 セブンをチラリと見て、ラボを出ていくジェインウェイ。トレスはセブンに皮肉たっぷりに言った。「気絶しただけ。悪くないわ。」 「ありがとう。」
医療室で作業しているキム。「よし、ドクターの肉体的特徴は入力し終わった。」 待ち望むパリス。「見てみようぜ。」 「コンピューター、緊急医療ホログラムの補助プログラムを起動させろ。」 ドクターの姿のホログラムが現れた。全く動かない。 「髪の毛増やしてやらないか?」 「それより仕事をさせる方が先なんじゃないか? ルックスなんて後で気にすりゃいいだろ。」 「だな、お前がボスだ。次はどうする。」 「船の医療ライブラリーを丸ごとダウンロードして、一つのファイルに圧縮した。『グレイの解剖学※26』といった古典から、レナード・マッコイ※27の『エイリアン比較生理学』までな。」 「じゃあ、そのデータを全部転送するわけだな、この鉄仮面のマトリックスに。それでピカピカのドクターのできあがりだ。」 ホログラムの頭を何度か叩くパリス。 「だといいけどな。」 「ハリー、お前天才だな。」 笑うキム。「誉め殺しはまだ早いよ。これはまだ第一段階だ。」 「だが方向性はバッチリ合ってる。」 「言っとくけど成功の確率は低いぞ。」 「どこへやっちまった、若さゆえの自信は。」 「医学知識があるだけじゃ医者じゃない。患者の診断に必要な分析サブルーチンを作らないとな。手術をするための触覚プロトコルに、人格的な面も必要だ。」 「ああ、その件は俺も考えてた。どうせなら今度のドクターはもうちょっと…感じよくしてみないか。」 「……いいよ。これでデータのトランスファーができる。コンピューター、医療ライブラリーの圧縮マスターファイルを、この補充用緊急医療ホ ログラムにトランスファーしてくれ。」 『トランスファー完了。』 いきなりしゃべり出すホログラム。「第1章、動物細胞。身体の全組織は微小な構造物、受精卵に源を発している。この受精卵は膜に覆われた軟らかなゼリー状の物質からなり、内側には…」 パリス:「何だこれ?」 キム:「『グレイの解剖学』の暗誦らしい。」 しゃべり続けるホログラム。「…受精卵は速やかに分裂を繰り返す。動物の…」 パリス:「止めてくれよ。」 キム:「今やってるよ。」 ホログラム:「…受精卵は卵黄を養分に発生を続ける。段落変え。」 パリス:「ハ。なあ、君は本当にすごいよなあ。もうよくわかったからちょっと黙ったらどうなんだ!」 キム:「まだ会話認識プロトコルが入ってない。」 「早く入れてやれよ!」 ホログラムの映像が揺らいでいる。「…行われる。従って卵割が進むに連れて、一つ一つの割球は小型化し…」 パリス:「どうなってんだ?」 キム:「オーバーロードだ。マトリックスにデータが入りきらないらしい。」 「…卵黄の量と分布は、卵割の様式を変え…」 ホログラムは消えてしまった。落ち込むパリス。キムはパッドを使っている。尋ねるパリス。「何やってんだ。」 「『グレイの解剖学』を一章ずつダウンロードしてる。」 「データがマトリックスに入りきらないって言ったんじゃなかったっけ?」 「ホログラム用じゃないよ、お前用だ。」 パッドを差し出すキム。
プロメテウスに、ロミュラン・ウォーバード 3隻が近づく。慌てる EMH-2。「ロミュラン船がどんどん接近してくる! インターセプトまで 2分だ。早く逃げないと。」 「ビクとも動いてくれないんだ。インパルスエンジンにパワーを迂回させてくれ。」 「パワーの迂回、パワーの迂回…いいぞ、中継コントロールを見つけた。コツがわかってきたぞ。」 ドクターの映像が一瞬不安定になった。「何だ今のは。」 「済まない、ホロエミッターのパワーを回したみたいだ。」 「気を付けてくれよ! 私が機能停止したら艦隊には戻れないんだぞ。」 「そうだ、生命維持システムのパワーを回そう。必要ないからな。エンジン点火してみて。」 「だめだ。どうして動いてくれない!」 「インターセプトまで 30秒。もう逃げられない。」 「待て。原因がわかった。推進起動装置がダウンしてる。スタンバイしろ。」 「あと 15秒だ。フェイザーを準備してるぞ。」 「シールドにアクセスしてくれ! 早く! おい、シールドだ!」 EMH-2 の姿が見えない。EMH-2 は体を起こした。「完了、シールドアップ。」 通信。『こちらはウォーバード・トメット※28。プロメテウス、応答を。……レカー※29司令官、応答して下さい。司令官?』 ドクターが答える。「こちらプロメテウスだ。」 『ビューワーを起動させろ。』 「ビューワーは現在使用不能だ。艦隊の戦闘員と、一悶着あってね。」 『司令官はどこだ。』 「医療室にいる。司令官は軽傷を負っていてね。」 『お前は何者だ。』 EMH-2 は耳打ちした。「そっちが先。」 「そっちが先」と言った後に、失敗したという顔をするドクター。 『最後の通信を繰り返せ。意味不明だ。』 「そちらが先に名乗れ。」 『こちらは副司令官アルマー※30だ。シールドを解除しろ。我々が乗船する。』 「シールドは下りてる。そちらのセンサーに異常があるんじゃないか? 安全を確認するまでこっちに来ない方がいいなあ。」 『今すぐシールドを解除しろ。さもないと攻撃する。』 「今すぐか、了解。プロメテウス、以上。」 攻撃を受ける。「命中した。シールド出力、20%にダウン」という EMH-2。「更に 3隻接近してくる。」 「もう終わりだ。」 また揺れた。「違う! 艦隊の船だ。」 攻撃は止まらない。「何してるんだ?」 「撃ってきてるぞ。」 「ロミュランが乗ってると思ってるんだ。」 「乗ってるとも!」 宇宙艦隊のアキラ級※31 1隻とディファイアント級※32 2隻の船団が、プロメテウスやウォーバードに向けて攻撃している。

※26: Gray's Anatomy
ヘンリー・グレイ (Henry Gray) 著、1858年出版。「グレイの」は訳出されていません (「解剖学の本」とも吹き替え)

※27: ドクター・レナード・H・マッコイ Dr. Leonard H. McCoy
ジェイムズ・T・カーク船長指揮下の初代宇宙船エンタープライズの主任医療士官。"Comparative Alien Physiology"

※28: T'Met

※29: Rekar

※30: Almar
声:河野智之

※31: Akira-class
映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」で初登場した、4種類の CGI 製クラスの一つ。日本のアニメ映画「アキラ」にちなんで名づけられています (日本から来たスタートレック) この船の名前は U.S.S.スペクター (U.S.S. Spector)、NCC-65549 だそうです

※32: ご存知 DS9 の U.S.S.ディファイアント (U.S.S. Defiant)、NX-74205 を試作艦とするクラス。この時点で、既に量産されていることがわかります

反撃するウォーバード。依然攻撃を浴びるプロメテウス。 EMH-2 は交信を試みる。「プロメテウスから宇宙艦隊の船へ。応答してくれ。プロメテウスより…」 「無駄だ! 聞こえやしない。ロミュランが通信にスクランブルをかけてる。」 異常な音がする。「ドクター? 今、何か接続が切れた。」 「具体的に言え。」
"The secondary gyrodyne relays in the propulsion field intermatrix have depolarized."
「推進フィールド・インターマトリックスの、サブジャイロダイン・リレーが脱分極したらしい。」

"In English!"
「わかるように言え!」

"I'm just reading what it says here!"
「書いてある通り言ってるだけだよ。」
「船を何とか安定させないと。補助動力を微調整スラスターに回してくれ。」 ブリッジに蒸気が吹き出す。「補助動力を微調整スラスターへ転送。」 揺れが止まった。「よくやった、マーク 2。」 「どうも。」 「じゃあ戦略ステーションだ。自分の身は自分で守る。」 立ち上がり、ブリッジ後方へ行く EMH-2。「戦略ステーションね。」 「何をしてる! 撃て! 撃て!」 「パネルがいっぱいあってわからないよ。」 「発射と書いてあるところを探して押すんだ!」 「全然だめだあ。フェイザーがダウンしてるって表示が出てるよお。」 「じゃあ光子魚雷を使え!」 ボタンを押す EMH-2。
1発の光子魚雷が発射された。それはウォーバードを通り過ぎて…ディファイアント級に命中した。驚くドクター。
"You hit the wrong ship!"
「味方の船を撃ったぞ!」

"It wasn't my fault!"
「僕のせいじゃないよ。」

"Well, then whose fault was it, the torpedo's?
「じゃあ誰のせいだ。魚雷か!
目標を指示してやるんだよ。」 戦略コンソールに火花が走り、驚く EMH-2。「うわー!」 「ナビーションコントロールがダウンした!」 「全部ダウンだ。フェイザーにシールドに…」 「それだけじゃないぞ。ウォーバードが 2隻迫って来ている。」 「優秀な僕もこれで終わりか。ディープスペースの探検にも出かけられず、バラの香りもかげなかった。それに、セックスだって。」 EMH-2 はパネルに手を置いた。反応があり、コンピューターが『分離シークエンス、起動します』と伝える。 「何だこれ? 僕何かしたの?」 『10秒後に分離を開始。』 ドクター:「分離を開始? こりゃ確か、ロミュランがやってたぞ。」 『9、8、7…』 EMH-2:「どうやって止めるの?」 ドクター:「止められないよ。」 『6、5、4、3、2、1。』 「私の記憶通りならこの次は揺れるぞ。」 『分離シークエンス始動しました。』 「つかまってろ。」 船が揺れ、コンピューターが質問してきた。『攻撃パターンの指定を。』 「攻撃パターン? アルファ?」 『ターゲットの指定を。』 2人は声を合わせた。「ロミュランだ!」
3つの船体が同時にウォーバードを攻撃する。爆発した。「命中だ!」 「ウォーバードが撤退してくぞ!」 「ドクターやったなあ! ホログラム 2人だけで切り抜けた。ロミュランと宇宙艦隊両方に狙われて、アラームがそこら中で鳴ってた。」 「EMH マーク2 は、勇敢な男に生まれ変わった。」 肩をつかむドクター。 「EMH マーク1、その経験こそ素晴らしい武器だ。」 「共に勝利を胸に、帰還する。」 「ジ・エンド。」 音が鳴っている。「まだかな」という EMH-2。転送音がして、フェイザーライフルを構えた保安部員がブリッジに来た。ドクターは言った。「プロメテウスにようこそ、諸君。やっと来たか。」 保安部員はフェイザーを下ろした。
ヴォイジャー天体測定ラボ。ネットワーク図にプロメテウス側から反応が来ている。セブンが確認する。「センサーネットワークから信号を受信している。発信源は、アルファ宇宙域だ。」 「ホログラムサブルーチンが含まれてる?」と聞くトレス。 「ああ。」 トレスは笑みを浮かべた。「医療室へ転送して。トレスよりブリッジへ。艦長、戻って来ました。」
ドクターが転送されてくる。医療室へ入るジェインウェイたち。なかなか転送が終わらないため、ジェインウェイはコンソールを操作した。完全に実体化するドクター。ジェインウェイは「ドクター。報告を」という。 「はい、やりました。」 「ミッションを完了したの?」 「ええ、ロミュランどもを蹴散らした後でね。」 トゥヴォック:「ロミュラン?」 「プロメテウスを乗っ取っていたんです、それが船の名前で。ですが形勢逆転にもちこみました、仲間の EMH と一緒に。」 チャコティ:「艦隊と連絡は取れたか?」 「本部と直接話しました。ヴォイジャーは 3年 4ヵ月前から行方不明となっています。記録は正しておきました。この船であったことを全て話しました。皆さんのご家族に無事を知らせるとのことです。それから、必ずヴォイジャーを地球へ帰還させると確約してくれました。」 ジェインウェイはチャコティの顔を見た。ドクターは続ける。「メッセージを託されています。『あなたたちはもう、独りではない』と。」 ジェインウェイは言った。
"Sixty thousand light-years... seems a little closer today."

「6万光年の彼方が、今日は少し近く思えるわ。」



・感想
"Scorpion" 「生命体8472」と同じく、本国放送時から話題になっているエピソードです。前評判通りの面白さ+見所満載で、特にプロメテウスの分離は、文字や画像や映像ファイルじゃなく、やっぱり TV画面で見てこそのモノでしょう。それでいて単なるお気楽エピソードに終わっておらず、ヴォイジャーがデルタ宇宙域にいることが艦隊司令部に公式に伝えられるという重要な要素もあります。最後は名シーンですね。
吹き替えも気合いが入っていて嬉しかったです。「自治領との内紛」が惜しいところですけど。邦題が「?」な方もいらっしゃるでしょうが、ギリシャ神話 (火の神プロメテウスは、天から火を盗んで人間に与えたためゼウスの怒りを買い、岩山に縛られてハゲワシに肝臓を食われた) からだと思います (劇中では無関係)。


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