ニーリックスに何枚ものパッドを手渡すジェインウェイ。
「あなたを配達係に任命するわ。ダウンロードしたものから順次渡すから。」
「喜んでやらせてもらいますよ。初めてだ。みんながあんなに喜んでるのは。」
「4年ぶりに届いた家族からの便りですからね。」
「宝物みたいに扱いますよ。」
「配り終える頃には、次が出てるから。」 ニーリックスは歩いて行った。セブンがジェインウェイを呼ぶ。「艦長、奇妙なものを見つけた。データにあるのは手紙だけではない。」
「どういうこと?」
「メッセージの下に別のデータストリームがあるようだ。暗号化されている。」
「暗号化?」
「かなり大きなテキストらしい。もしかすると地図かも。」
「その部分を取り出せる?」
「すぐには無理だ。手紙をダウンロードしてからなら、可能だが。」
「……そう。期待するわ。そこにアルファ宇宙域へ帰る方法が書かれてたらって。あなたはどうなの? 今回のこと、どう思ってる? 地球へ帰れるかもしれないのよ。」
「私にとっては感傷的な要素はない。地球へは行ったこともない。」
「でも家族がいるかもしれない。」
「……それは考えなかった。」
「従兄弟やおじいさん、おばあさん。結構感傷的要素があるんじゃない?」
セブンはしばらく考えていたが、作業に戻った。
ブリッジへ入り、咳払いをするニーリックス。「幸せの使者、ニーリックスだ。地球からの最初の手紙だよ。」
「誰になんだよ」と尋ねるキム。
「えー、この手紙は、チャコティ副長宛てですなあ。」 受け取り、早速読み始めるチャコティ。「誰からなんです?」と聞くニーリックスに、「古い友人だ。私をマキに呼びいれた人だ」という。それを聞き、ブリッジのマキ出身の士官たちも顔を見合わせる。
「部屋で読むとしよう。トム、ブリッジを頼む。」 ブリッジを出て行くチャコティ。
ニーリックスも出ていこうとするのを観て、キムは尋ねた。「ニーリックス、待ってよ。ほ、ほかにはないのか?」
「いやあ、ブリッジクルーにはね。今はな。そう焦るな。」
トゥヴォックの部屋のドアチャイムが鳴った。「入れ。」
ニーリックスが入る。「ヴァルカンの旦那良かったな、あんたにも手紙だ!」
「済まないニーリックス、そこに置いておいてくれ。」
パッドを置くが、出て行こうとしないニーリックス。トゥヴォックは「まだ何か?」と言う。
「読まないんかい?」
「読むとも。」
「いや今読まないのか?」
「週一度の戦術システムチェックだ。手紙はこれを、終わらせてから読む。」
「手紙よりそんな、システムチェックを先にするってのかい。」
「置いておいたからといって、メッセージの中身が変わるというものでもない。」
「そういう問題じゃないだろうが。何て書いてあるか、早く読みたくないのか?」
「もちろん内容は確認するつもりだ。」
「すごく大事なことが書いてあるんだよ!」
「中身を、読んだのか。」
「あ……ほんの 2、3行だけさ。宛先を見る時にちょっとね。見る気はなかったんだけど、あ…何なら読み上げようか?」
「では頼む。」
ニーリックスは椅子に座り、読み始めた。「『我が夫へ。あなたが生きていると知らせが入りました。子供たちとエイモンク神殿で神官にお願いし、無事の帰還を祈りました。』 家族はいいねえ!」
「アモナック※7だ。」
「何?」
「アモナック神殿という。ヴァルカン最大の神殿だ。」
「アモナックね。『大切な報告があります。長男のセク※8がポンファーを済ませ、結婚し、父親になったのです。健康な女の子で、あなたのお母さんにちなみ、トゥーミニ※9と名づけました。』 あんたおじいちゃんだよ! すごいなあ、良かったじゃないか。これから何て呼ぼう。じいちゃんか? じいじいか?」
「トゥヴォック少佐のままで結構だ。ありがとうニーリックス、後は自分で読むとしよう。」
「いいから早く読みなよ、すぐにな。後回しにしないで。まだビックリがあるかもしれないぞ。」 部屋を出ていくニーリックス。トゥヴォックはパッドを台の上に置き、チェックに戻った。……だが再びパッドを手に取ると、座って手紙を読み始めた。
ジェインウェイがパッドを持ってブリッジに入る。艦長席に座っていたパリスが尋ねた。「艦長にも手紙が?」
「ええ。今ダウンロードしたばかり。作戦室にいるわ。」
「了解。」
ソファーに座り、一呼吸置いてからパッドを見るジェインウェイ。『マーク・ジョンソン※10』という名前がある。「マークから。」 読み始めるジェインウェイ。一瞬笑いがこぼれる。だが、だんだんと顔がこわばっていった。ジェインウェイは読むのをやめ、顔を上げた。
機関室のトレスのところにチャコティが来た。
「手紙は来てないのか?」
「来るあてもないし。」
「スヴェータ※11を覚えてるか。」
「当然。」
「俺に手紙が来た。」
「何で彼女から?」
話そうとしないチャコティ。「チャコティ、何なの。」
「最悪の事態が起きた。1時間前に読んだのに、まだ信じられない。みんなに伝えなきゃならないが…何といえばいいのか。終わったんだベラナ、マキはもうない。」
「仲間は何万人といるじゃない。」
「一掃されたんだ。カーデシアは味方を見つけた。ガンマ宇宙域の種族で、船と武器を提供したらしい。」
「クターラは? ロベルトは? 私たち以外死んだっていうの?」
「ほとんどな。スヴェータたち生き残りは囚われた。」
「許さない!」
「ベラナ。」
「やめて! 慰めようとなんてしないで、怒りは抑えられないから。仲間だったのよ! 信じることのために命もかえりみず闘ってきた。そのかけがえのない仲間たちが、殺されたなんて。」
「みんな死は覚悟してた。承知の上だ。」
「許されていいはずがない。いつの日か、必ずかたきをとってやる。戻ったら必ず。」 チャコティはトレスの肩に手を置き、歩いて行った。※12
料理の皿を持って、パリスと同席するキム。「トム、手紙あと 30はダウンロードされたってさ。」
「へえ。」
「もうすぐニーリックスがここへ配りに来るぞ。」
「お前さあ、これ何だと思う?」 フォークに料理を刺すパリス。
「これって?」
「この謎の料理だよ。チキンみたいな味もするが、コーンの皮っていう気もしないでもない。」
「今食い物どころじゃないだろ。」
「正体不明の物は、腹に入れたくない。」
「トム、地球からの手紙だぞ。早く見たくないのか?」
「いや、別に。」
「強がるな。」
「でも、まあまあの味だな。」
ニーリックスがやって来た。「ほーら来た」というキム。ニーリックスは箱を持っており、その中からパッドを出す。「お待たせ! セブンが手紙をまたいくつかダウンロードしたぞ。これはスーザン・ニコレッティ※13宛てだ。いるかい?」
ニコレッティ:「いるわ。」
「フィッツパトリック※14。」
フィッツパトリック:「俺だ。」
ニコレッティ:「ありがとう。」
ニーリックス:「あー、キョート※15? ゴルワット※16!」
ボリア人女性が受け取る。「ありがとう。」 ニーリックス:「アッシュモア※17。ドラード※18。」
ドラード:「はい。」
「また僕のはない」というキムに、「途中だろ。待てよ」というパリス。
ニーリックス:「そして最後が…パーソンズ※19。」
パーソンズ:「私。」
「呼ばれなかった人は残念だったが、セブンがまだがんばってるから。」
キムは立ち上がり、尋ねた。「ニーリックス、30以上あるんじゃなかったのか。」
「30? 誰がそんなこと言った。」
「みんながそう言ってたよ。」
「馬鹿なデマに振り回されるなよ。」
食堂を出て行くニーリックス。「デマか。」 ため息をつくキム。
「昼飯食わないのか?」と聞くパリス。
「食欲ない。」
「あんまり期待するなよ。期待しなきゃ、ガッカリもしない。」
「お前とは違う。」 キムは去った。
作戦室で独り座り、考えているジェインウェイ。チャイムが鳴る。「入って。」
部屋へ入るセブン。「データストリームのダウンロードに困難が生じている。中継ステーションで、どんどん劣化が進んでいるらしい。」
「近づけばステーションの密閉フィールドを強化できるけど、これ以上接近はできないわ。」
「小型シャトルなら、比較的重力の渦に巻き込まれにくい。私が行ってくる。」
「トゥヴォック少佐と一緒に行って。」
「どうして少佐と?」
「船外任務に独りで行かせることはしないの。」
「ではそうしよう。」 出て行くセブン。
天体測定ラボで作業しているトレス。ドアが開き、キムがやってきた。「ハイ」と声をかけるトレス。「やあ。セブンがやってるんだと思ってた。」
「シャトルでステーションの密閉フィールドを強化しに行った。私が引き継いだの。ガッカリした?」
「そんなんじゃない。やめてくれよ。言っただろ? 彼女とは何にもない。」
「何もないのは知ってる。完璧な片思いだもんね。」
「馬鹿言うなよ。」
「『僕は恋してます』って札下げてるのも同然。ハリー、見てりゃわかるの。」
「あのねえ、確かに一時期は。セブンは魅力的だけど、もうそんな気持ちは捨てたんだ。」
「あ、そう。」
「そうさ。全く無関係。」
「セブンに会いにじゃなきゃ何しに来たの?」
「ないかと思って。僕宛ての手紙が。」
「ああ…。新しいのはまだダウンロードできてない。」
「手紙って、全員の分あると思う?」
「本部は間違いなく、クルー全員の家族や友達と連絡を取ってるはずよ。一番大事なことなんだから。」
「だといいけど。」
「ハリー、きっとあるわ。もうちょっと待ってて。」
9型シャトルがステーションへ近づく。重力の渦の影響で、中は揺れ続けている。セブンはトゥヴォックに尋ねる。「少佐、ヴァルカン人は嘘をつけないというのは間違いないか。」
「いや、嘘をつくこと自体はできる。だがそうする妥当性や必要性を感じたことはない。」
「嘘をついたことは?」
「上官の命令以外では、一度もないな。」
「では聞きたいことがある。船外任務に一名では行かせないというのは、艦長の方針か?」
「艦長の方針ではない。艦隊の行動規則にそう書かれている。」
「そうか。」
「今の質問の意図は何なんだ?」
「私はまだ信用されていないのかと思った。監視が必要だと思われていると。」
「艦長の君への評価は知らないが、今回の任務に私を同行させたのは、規則通りで格別の意味はないと思うね。」
コンピューターに反応がある。
「極子※20インパルス、放射可能な距離まで接近した。」
「メインディフレクター、オンライン。」
「オンライン。」
ディフレクターからポーラロンが発射される。
「ステーションの密閉フィールドの乱れは、0.29 だ。」
「それだけあれば、メッセージの劣化は防げる。」
「セブン、質問してもいいかな。君には艦長の評価が重要なのか?」
「…ヴォイジャーには階級制度がある。艦長の評価が重要なのは当然だろう?」
シャトルが大きく揺れた。「どうした?」と尋ねるセブン。
「ある種のサブニュークレオニックビームでスキャンされたようだ。」
「ナヴィゲーションセンサーが使用不能だ。」
「ヴォイジャーから誘導ビーコンを送ってもらわないと戻れないな。トゥヴォックよりヴォイジャー。ヴォイジャー、応答してくれ。」
「少佐、ほかのシステムもダウンした。通信も、ワープエンジンも使用不能。兵器もだ。」
「故意の破壊工作に違いない。左舷後方から急速接近中の船を発見。」
シャトルの後方に、ヒロージェン艦が迫っていた。
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※7: Amonak 恐らく DS9 特殊映像効果監修 Gary Monak にちなんで命名
※8: Sek
※9: T'Meni この手紙は、トゥヴォックの妻のタペル (T'Pel) からのものです。VOY第24話 "Persistence of Vision" 「ボーサ人の攻撃」に登場
※10: Mark Johnson VOY第1話 "Caretaker, Part I" 「遥かなる地球へ(前編)」などに登場。フルネームが初めてパッドに登場
※11: Sveta
※12: マキ (Maquis) がドミニオンに壊滅させられたことは、DS9第121話 "Blaze of Glory" 「最後のテロリスト」でも触れられました
※13: Susan Nicoletti VOY第72話 "Day of Honor" 「名誉の日」など。声:児玉孝子
※14: Fitzpatrick
※15: キョート少尉 Ensign Kyoto VOY第7話 "Eye of the Needle" 「ワームホールの崩壊」など
※16: ゴールワット少尉 Ensign Golwat VOY第44話 "Flashback" 「伝説のミスター・カトー」より。声:岩本裕美子
※17: アッシュモア少尉 Ensign Ashmore VOY第16話 "Learning Curve" 「バイオ神経回路」など。少なくとも 2人いる模様 (初期の女性と、男性)
※18: Dorado
※19: パーソンズ少尉 Ensign Parsons VOY第5話 "Phage" 「盗まれた臓器」など
※20: ポーラロン polaron 亜原子粒子。VOY第11話 "State of Flux" 「裏切り者」など。「極性」と吹き替え
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