あくびをしながらガウンを着るパリス。ドアチャイムが鳴った。いたのはトレスだ。「おはよう」というパリス。
「おはよう。よく寝た?」
「そうでもない。どうして部屋まで?」
「ちょっと寄ってみただけ。なぜ…朝食をすっぽかしたのかと思って。」
「朝食? 今何時?」
「7時40分。」
「えーと確か 7時に食堂でって約束してたんだよな。」
「その通り。私は夜勤が明けて直行した。待ってた。待って部屋にも連絡して…」
「いやあ、だから…気づかなかったんだ。すごく嫌な夢を見ちゃって。死にそうな夢。ごめん、すぐ着替える。」
「8時にはブリッジに行かなきゃならないんでしょ。もう寝るわ。」 出て行こうとするトレス。
「ああ、ちょっと待ってくれよ。じゃあいつ会える。」
「うーん、金曜の夜は?」
「OK。スキーに行こう。そうだな。サンモリッツ※2は。」
「この前もスキーだった。」
「楽しかったろう? 随分上達した。」
「マイナス30度の風に吹かれるより、もっとあったかいところに行きたいの。例えば…フィジー※3とか、サモア※4とか。」
「何もないとこだぞ。」
「だったら日光浴をしてればいいわ。」
「じゃあ、中を取ってだな…あー、チリ※5で春スキーは? あったかいよ。」
パリスの首に腕を回すトレス。「中を取って…タヒチ※6はどう?」
「タヒチね。水上スキーができるなら。」
「いいわよ。」 キスをする 2人。「早く着替えて。コーヒーくらい飲んでった方がいい」といい、トレスは部屋を出て行く。「金曜に」というパリス。
食堂に入るパリス。まだ目をこすっている。厨房のニーリックス。「おはよう。何にする? スクランブル? 目玉焼き?」
「コーヒーだけでいい。」
「ほんとに? 朝食ってのは一日の基本なんだぞ。」
「ニーリックス。」
「はいよ。」 カップに注がれる。それを一口飲んだパリスは、たまらずカップの中に液体を戻した。「ニーリックス、お前寝不足か何かか?」
「何でだよ。」
「お前が入れてくれたの、コーヒーじゃなくて油だ。」
慌てるニーリックス。「そうなんだ。あんたの言う通り眠れなかった。やな夢見て。」
「実は、俺もなんだ。」
「満月のそばを通ったのかもな。魔力があるっていうから。まあコーヒーでも飲んで目を覚ますこった。」
「お前こそ少し飲んで目を覚ませ。」
カップを持ったまま食堂を出て行くパリス。
作戦室からブリッジに入るジェインウェイ。「今日は人手不足のようね」とチャコティに言う。「トムとハリーが遅れてます。後 5分待とうと思ったんですが、呼びましょうか。」
「構わないわ。私も遅刻したんじゃない?」
「触れないでおきましょう。寝不足のようですが。」
「ベッドには早く入ったんだけど、嫌な夢を見て、それからずっと眠れなかったの。」
「教えて。私も教える。」 パリスがブリッジに出頭する。「遅れてすいません。」
渋い顔をするジェインウェイ。チャコティに尋ねる。「で?」
「父と森の中で、なぜか小さい頃大嫌いだったはずのシカ狩りをしているんです。追いつめたシカを、父がどうするのか見ていると、突然父の姿が凶暴な異星人に。」
「私の夢の中にも異星人が出て来たわ。今までに一度も見たことない種族よ。鋭い隆起が額や、首の前の方に。」
「私のもそうです。」
パリスが口を挟む。「あの、ちょっと聞こえちゃったんですが、俺も夢を見たんです。同じ異星人が出て来ました。」
ジェインウェイは尋ねる。「トゥヴォック? もしかしてあなたも嫌な夢を見なかった?」
「確かに不快を伴う、嫌な夢を見ました。顔と首に隆起のある異星人に関する夢です。」
「ただの偶然では済まないわね。上級士官を集めて同じ夢を見たか聞いてちょうだい。そういえばハリーはまだ?」
「ブリッジからキム少尉」というチャコティ。応答はない。
ジェインウェイ:「コンピューター、キム少尉は?」
『まだ自分の部屋にいます。』
「トゥヴォック。」
2人はターボリフトに入る。指示するジェインウェイ。「第6デッキ。ハリーも今、例の異星人の夢を見てるような気がするの。」
「我々の経験からいえば、可能性は十分です。」
「あなたの夢も聞かせて。どこで異星人に遭遇したの?」
「実を言うと、このターボリフトの中です。」
「それで?」
「まるで調査でもしているように、私を見つめていました。」
「私の夢もそうだった。それから?」
「部屋に戻りました。」
「異星人も付いて来た?」
「はい。」
「それで?」
「見ていました。」
「何を。」
「服を着るのを。」
「……あなたが?」
「そうです。」
「理由は聞かない方が良さそうね。」
「できれば、そう願います。」 ドアが開いた。
ジェインウェイはトゥヴォックをチラチラ見ながら、微笑んでいる。キムの部屋の前に来た。ボタンを押すが、ロックがかかっている。呼びかけるジェインウェイ。「ハリー? ハリー?」 ドアを叩いても返事がない。トゥヴォックは命じた。「コンピューター、1-0-5 ダッシュ2 のドア、オープン。トゥヴォック、シータ 9 だ。」 中に入る。
寝ているキムに声をかけるジェインウェイ。「ハリー?」 大量の汗をかいている顔に手を触れる。「ハリー、起きて。」
トゥヴォックと顔を見合わせ、ため息をつくジェインウェイ。
「昏睡状態?」 ジェインウェイはドクターに尋ねる。「そうではありません。レム睡眠の状態がずっと続いてるんです。目を覚まさせようとあらゆる方法を試しました。薬物投与、皮膚への刺激、全て効果ありません。」
「原因について心当たりは?」
「ウィルス性や細菌性の病原菌ではありません。頭部の外傷も、神経疾患もない。ただ、寝てるだけです。」
ベッドの上には他のクルーも寝ている。「私たちの夢のに出て来た異星人と、何らかの関係があると思って良さそうね。」
「正体はつかめそうですか。」
「全クルーの総力を挙げて調査中よ。あなたから何か提案は?」
「アニマジン※7の投与です。」
「薬は効かなかったんじゃない?」
「そうです。だが予防にはなる。確かな原因を突き止めるまで、あなた方は眠らない方がいいでしょう。」
会議室。モニターを見るクルー。パリス:「額の隆起は、もう少しはっきりしてたなあ。」
トレス:「コンピューター、額の隆起をもっと高くして。あと、4センチ。」
表示された異星人の姿に修正が加えられる。
パリス:「近くなった。」
チャコティ:「目はもう少し離れてた。」
トレス:「コンピューター、目の間をあと 3センチ広げてちょうだい。肌の色を濃くして、しわを入れてみて。」 更に修正が入る。
ジェインウェイは画面を指差した。「こいつよ。」
チャコティ:「この種族を見たことがある者。もちろん起きてる時にだ。」
誰も答えない。「セブン」というチャコティ。
セブン:「ボーグが同化した、どの種族にも似ていない。」
パリス:「俺たちの想像の産物なのか。」
トレス:「全員が同時に同じものを想像するなんてことある?」
トゥヴォック:「異星人がテレパシーで、我々に接触を図ったのかもしれん。」
ジェインウェイ:「それにしては過激すぎるわ。6名のクルーが未だに眠ったままなのよ。攻撃とみなした方が自然じゃない?」
セブン:「どこからのだ。この付近に宇宙船は一隻も探知されていないし、人類が生息可能な惑星も一つもない。」
パリス:「どこを探す?」
チャコティ:「夢の中だな。異星人を見た唯一の場所だ。彼らの狙いが知りたければ、懐に飛び込むしかない。」
トゥヴォック:「それで、どうすれば。」
「明晰夢※8を見る。」
トレス:「何それ?」
「自分で夢をコントロールしながら見る夢だ。」
パリス:「一度見たことがある。落ちる夢を見た時、急にこれは夢なんだって思ったんだ。飛ぶことも、着地することもできるって。夢の中でコントロールしてた。」
「偶然起きたと思えることでも、コントロールできるんだ。私はヴィジョンクエストと同じ技術を使って、明晰夢を見ることができる。この異星人とも接触を測れるかもしれん。」
ジェインウェイ:「だとしても、あなたがまた目覚められるという保証は?」
「これは自己催眠の一種です。眠りに入る前に目印を選んで、それを見たら夢だと自覚できるようにします。例えば、月を見たら手の甲を 3回叩けば目覚められるとか。」
トゥヴォック:「通常の状況下ならそれも可能かもしれませんが、今回見る夢は、通常の夢ではありません。」
「じゃあこれ以外に異星人の正体を突き止め、ハリーたちを起こせる方法が? 君らだって早く眠りたいだろう?」
ジェインウェイ:「医療室でやって。ドクターに監視させるわ。ほかの者は船内を徹底的に調べ、異星人がいたら、身柄を拘束してちょうだい。必ず。」
「通常、睡眠は健康を維持する上で非常に重要なものです。しかし、この場合は勧められません。」 ベッドで横になっているチャコティに話すドクター。「医師としての忠告は感謝するが、選択の余地がないんだ。」
「視床下部の調整を助けます。」 頭部に小型機械がつけられる。
「我々の力だけは起こせません。ご自分で制御を。」
「わかった。」
「いい?」と尋ねるジェインウェイに、うなずくチャコティ。「いい夢をね。」
チャコティは目を閉じた。アクーナ※9を手にしている。「ア・クー・チ・モヤ。聖なる祖先の地を遥か離れ、はらからの魂を思い、ここに眠りを乞う。夢に現れた異星人に会わせたまえ。」 チャコティは睡眠状態に入った。
チャコティは通路を歩いている。目を開けた。槍を持っていることに気づく。目の前をシカが通った。槍を構えるチャコティ。シカは動きを止めたように見えたが、食堂へ逃げていく。チャコティは追いかける。
槍を肩の位置で構えたまま、食堂に入るチャコティ。ふと、窓の外の宇宙空間に、大きな満月が浮かんでいるのに気づいた。満足するチャコティ。入って来たのと反対側のドアへ進む。それが開くと、シカがいた。シカはすぐに形を変えていき、あの異星人※10の姿になった。チャコティは槍を使おうとしたが、払いのけられてしまった。チャコティに迫る異星人。
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※2: Saint Moritz
※3: Samoa
※4: Fiji
※5: Chile
※6: Tahiti
※7: animazine
※8: lucid dreaming
※9: akoonah VOY第80話 "Mortal Coil" 「大いなる森への旅」など
※10: 夢異星人 Dream Alien (Mark Colson) 声:中村秀利
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