ヴォイジャー エピソードガイド
第80話「大いなる森への旅」
Mortal Coil
イントロダクション
※1ニーリックスは今日も食堂で働いている。女性士官に「ありがとう」といわれ、笑うニーリックス。キムに話しかける。「あー、コーヒーのおかわりが欲しそうな顔だ。」
「たっぷり入れて。月例報告を書いてるんだけどね。この 2、3週間でかなりいろいろあったから、きっと徹夜になるよ。」
「ファイヤーナット※2・ブレンドで目も覚める。」
コーヒーを口にしたキムはいった。「強烈だなあ。助かったよ。」 満足げなニーリックス。チャコティがやって来た。「ニーリックス。」
「はい。」
「忙しいのはわかってるが、手を貸してくれないか。」
「いつでもどうぞ、副長。」
「今 1等星雲に向かってる。原初物質※3の痕跡を感知したんだが、以前扱ったことあったろ。」
「しょっちゅうです、貿易商人だった頃ね。原初物質なら飛ぶように売れましたから。最高のエネルギー源ですよ。」
「サンプルの採集を手伝ってもらいたい。出発は 14時の予定、シャトル格納庫で。」
「お任せを。」 厨房に戻るニーリックス。そこにセブン・オブ・ナインが料理を持って立っていた。「この栄養物は摂取不可能だ。」
「何で。」
「舌に刺激がある。」
だから美味いんだろうが。あんたの味覚を広げるために、タラクシア産のスパイスを足したんだよ。」
「私の味覚は十分だ。」
「それで満足しちゃつまんないだろ。完璧な味覚神経があるってドクターが言ってたぞ。使わにゃもったいない。木曜の夜にはあんたも来な。プリクシン※4最初の日だ。エスニック料理をズラリと並べるから。」
「プリクシン?」
「家族を祝うタラクシアの行事。ヴォイジャーでも毎年祝ってる。あんたももう家族の一員だろ。」
「どんな準備をすればいい。」
「何にも。おいおい、任務じゃないんだぞセブン。パーティだ。」
通信が入る。『ワイルドマンよりニーリックス。』
「ニーリックスです。」
『邪魔して申し訳ないけど、ナオミがまた寝られないって言うの。来てもらえない?』
「邪魔なもんかね。すぐに行く。」 エプロンを脱ぐニーリックス。「じゃ失礼、お仕事だ。」
「ナオミ? 乗務員名簿でその名称を見た記憶はない。」
「彼女はクルーじゃないよ。ナオミはヴォイジャーで生まれた最初の子なんだ。俺が名付け親。あの子を寝かしつけられるのは俺だけ。ボナペティ!」 ソファーを調べるニーリックス。「ここもお化けはいない。」 そばにいる女の子、ナオミ・ワイルドマン※5。「良かった。レプリケーターも見て。」 ニーリックスが確認する。「うーん、いないなぁ。」 母親のサマンサ・ワイルドマン※6が娘に言う。「ナオミ、あとはあなたの部屋を見てもらえば眠れるでしょ。」 「うん。あそこは?」 箱を開けるニーリックス。「あー、何もいない。」 「そっち。」 ナオミに指差されるままにベッドを調べる。「ふーん、お化けはいないねえ。」 ベッドに入るナオミ。「まだいてくれる? 寝るの怖いんだもん。」 「ニーリックスはお仕事があるのよ」というワイルドマンだが、ニーリックスはナオミに話す。 「いやいいんだよ。怖くなくなるいい方法がある。」 「何? 教えて。」 「大いなる森※7だよ。」 「何それ。」 「おじちゃんの種族の者は、いつかみんなそこへ行くんだ。とってもとっても美しい森でね。お日様がいっぱい。おじちゃんを好きだった人がみんないて、眠るまで見ててくれるんだ。守ってくれる。」 「ほんと?」 「うん。その森のことや、みんなのことを思うと、眠るのが怖くなくなるのさ。」 「あたしのことも見ててくれると思う?」 「もちろんだとも。ナオミ、おじちゃん、2、3日お仕事でいなくなる。だから、また怖くなったら、大いなる森を思い出すんだよ。」 「わかった。」 「いい夢を見ろよ。」 「おやすみ。」 ワイルドマンも礼を言う。「ありがとう。」 手を振り、部屋を出て行くニーリックス。 貨物室に入るニーリックス。探し物をする。「シリンダーやー。」 音がして、セブンがアルコーヴから出てきた。謝るニーリックス。「ああ、悪いねえ。うっかりしてたよ。帰ってたか。」 「再生中だった。」 「あー、なるほど。」 「何か手伝うことはあるか?」 「いやあ、いやいやいや、ここにしまってあったシリンダーを取りに来ただけなんだ。すぐに済むからね。シリンダーやー。シリンダーちゃん、どこにいんのー。シリンダー。お前 1月前はちゃんとここにいたねえ。独りでエアロックから転がり出るわけない。さあ出ておいでー。ああ、済まん。独り言。しゃべりながら思い出す。」 「お前は実に特異な生物だな。」 「どうもありがとう。だよね。ああ! あったぞ、よーし。ほんの少々なら原初物質を入れるのにこいつが一番いい。前にこれで運んだ時にゃ、ケイゾン人に襲われたな。」 「ケイゾン人。生命体329※8。」 「連中を知ってんの?」 「ボーグはガンド・セクター※9、グリッド6920 でケイゾン・コロニーに遭遇した。」 「同化しちまったのか。」 「彼らは生物学的にも技術的にも低レベルだった。同化する価値などない。」 「ボーグがそんなに差別的とはね。」 「完全性を損なう種族を同化する意味があるか?」 「そりゃそうだ。じゃ、ああ、またな。シャトル格納庫へ呼ばれてる。いい……再生をね。」 星雲の中へ入ったシャトル。チャコティとパリスが操縦席にいる。パリスがニーリックスに話している。「週たった 1回でいいんだよ。どこがそんなに大変なんだ。」 「かなり大変だ。」 「ニーリックス、ただのピザだぞ。生地に、トマトに、チーズだ。」 「チーズだけで何日もかかる。合成ミルクから凝乳と乳精を分離するのはデリケートなんだよ。」 「レプリケーターで作りゃあいいだろう。」 「そんなに大事なことなら、何とかやってみましょう。」 「助かった。」 コンピューターに反応。「原初物質の凝集体があります。シャトルの正面です。ニーリックス。」 「転送機を 1万AMU にセット。一分子多くてもだめっスよ。抑制フィールドはスタンバイ OK。」 「転送可能域です。」 命じるチャコティ。「転送しろ。」 凝集体から何度もエネルギーが放射される。シャトルにも軽い衝撃が走る。「何なんだ」とパリスに尋ねるチャコティ。 「転送ビームで原初物質が発火しました。シールドが弱まってます。」 「転送を中止しろ。」 「シールドダウンです!」 シリンダーを持ったニーリックス。「サンプルはとれました。安定してます。戻って…」 その時、シャトルの前部を突き抜けた原初物質が、ニーリックスを直撃した。後方へ吹き飛ばされる。すぐに近寄るパリス。 シャトルは更に何度かエネルギーを浴びるが、その場から離れた。「原初物質は回避。ニーリックスは」というチャコティ。トリコーダーで調べるパリス。「死んでる。」 |
※1: このエピソードをもって、ヴォイジャーの話数が TOS の話数 (79話) を超えました ※2: firenut ※3: 原物質 protomatter 危険でエネルギーをもった物質。映画 ST3 "The Search for Spock" 「ミスター・スポックを探せ!」など ※4: Prixin ※5: Naomi Wildman (Brooke Stephens) 父親はグレスクレンドリック (Greskrendtregk)。VOY第37話 "Deadlock" 「二つのヴォイジャー」で誕生。VOY第42話 "Basics, Part II" 「ケイゾン総攻撃(後編)」以来の登場。セリフ、クレジットのある形では初登場。声:永迫舞 ※6: Samantha Wildman (ナンシー・ハウアー Nancy Hower) 宇宙艦隊少尉。科学士官。VOY "Basics, Part II" 以来の登場。このキャラクターの名前は、初登場エピソード VOY第20話 "Elogium" 「繁殖期エロジウム」の原案・共同脚本のジミー・ディッグスが同じ名前の少女に敬意を表して名づけました。7歳で亡くなったその少女の腎臓が、ディッグスの妻である Linnette に移植され命が救われました。実際のサマンサは動物が好きだったため、ヴォイジャーのサマンサも宇宙生物学部門のリーダーになったということです。声:石塚理恵。以前と統一されています ※7: Great Forest ※8: Species 329 ※9: Gand sector |
本編
ニーリックスを調べ続けるパリス。「心拍なし。神経反応なし。細胞の損傷は脳に及んでます。」
「皮質刺激を試せ」というチャコティ。
「効きはしない! 神経経路が原初物質で破壊されてんだ。」
「皮質刺激を自律神経に使ってみろ。生命兆候が戻るかもしれん。」
「もう手遅れだ。損傷が激し過ぎる。」 激しく揺れるシャトル。「このままじゃ原初物質に突っ込む。手を貸してくれ。」 パリスは操縦席に戻った。 「艦長日誌、宇宙暦 51449.2。チャコティ副長からの救難信号を受けて、誘導ビーコンを送った。現在シャトルの位置を追跡中だ。」 星雲近くにいるヴォイジャー。「艦長、発見しました」と報告するキム。 「呼んでみて。」 「応答なし。」 トゥヴォック:「シャトルのメインシステムはダウンしています。生命反応は、2名のみ。」 ジェインウェイ:「転送可能域にいるの?」 「域内です。」 「医療室へ転送して。ハリー、シャトルにトラクタービームを。トゥヴォック、ブリッジをお願い。」 ジェインウェイはターボリフトに乗った。 ニーリックスの遺体の前で説明するドクター。「これで検死作業は完了しました。救い用はなかったでしょう。」 パリス:「原初物質に近づき過ぎだったんだ。俺が注意すべきだった。」 チャコティ:「誰にも予測はできなかった。」 ドクター:「どうしましょうか、葬儀は。」 ジェインウェイ:「タラクシア人は死者を悼んで、1週間喪に服すの。独自の埋葬の儀式があるわ。それに乗っ取って彼を送りましょう。」 チャコティ:「クルーに告知します。」 「私はニーリックスの個人データベースをチェックして、どんな葬儀か調べる。場所は食堂にしましょう。それがいいような気がするの。」 セブンが医療室へ入る。「ニーリックスが死んだ?」 「残念だけどね。」 「彼の神経経路は無傷なのか。」 ドクター:「ああ。だが代謝活動は全くない。」 「死後何時間経ってる。」 ジェインウェイ:「セブン、気持ちはわかるけど…」 「何時間だ。」 チャコティ:「18時間は経ってる。」 「ではまだ復活させられる。」 パリス:「何だって? じゃニーリックスは生き返るのか?」 「そう言ったはずだ。ボーグはお前たちよりも遥かに医学の進んだ種族も同化してきた。お前たちが死と呼ぶものから 73時間後にドローンを復活させたこともある。」 チャコティ:「ニーリックスはボーグのドローンじゃないぞ。」 「調整はしよう。」 ドクター:「実際には、どういう処置をするんだ。」 「ナノプローブ※10を使って壊死した細胞を復活させる。同時に、大脳皮質を神経電気アイソパルスで刺激する。」 「刺激しようにも彼の脳は機能してないんだぞ。」 「お前の狭い定義ではな。だが私には違う。私の血液からナノプローブを 70マイクログラム抽出して、タラクシア人の生理機能に合うよう私が調整する。この船での彼の役割は多様だ。即刻、作業を始めねばならない。」 パリス:「やらせてみましょうよ。」 ジェインウェイ:「トム、ちょっと待ってちょうだい。今まで死後 18時間も経ってから蘇生した人なんていない。もしうまくいったとしても、ニーリックスに何の後遺症もでないという保証はあるの?」 ドクター:「その通りだ。大脳皮質は激しい損傷を受けている。」 セブン:「ナノプローブが全ての崩壊した細胞を補って作用する。艦長、決断するなら今だ。急いでくれ。」 ジェインウェイ:「ドクター、セブンの指示通り手伝ってあげて。許可します。」 ドクター:「艦長!」 「やるのよ。生き返る可能性があるなら、賭けるしかない。逐一報告して。」 モニターに脳の活動が表示されている。セブンがドクターに言う。「ナノプローブ準備 OK。始めよう。」 「ちょっと待て。血液の粘性をチェックする。」 「死体の準備はもう十分なはずだ。」 「私を冷たいという奴に聞かせたい。」 「神経電気アイソパルスを 1秒間隔にセットしろ。」 しぶしぶ従うドクター。「いいぞ。」 「スタート。」 ニーリックスの体に電気ショックが走る。慌てるドクター。モニターを確認するセブン。「神経活動 9%。10%、12%。」 「信じられない。大脳内の血圧も神経反応も、正常値に戻りつつあるぞ。」 「肺胞も再び活動し始めている。機能し始めるぞ。」 息をするニーリックス。セブンは引き続き確認する。「見ろ。神経活動 52%、更にアップ。」 ニーリックスが震え始めた。チェックするドクター。「神経伝達物質のレベル上昇が速すぎる。」 「運動ニューロンを安定させなければ。」 「アセチルコリンのレベルを何とか抑えてみる。すると恐らくは…」 「ドクター。」 ニーリックスの声。体を起こしている。「ニーリックス!」 「何が、あった? 何が、どうして、どうしてここに…。」 ドクターの驚いた顔を見て、セブンは当然だといった顔をした。 |
※10: nanoprobe ボーグによって同化過程で使用される極微小物体ロボット。VOY第68話 "Scorpion, Part I" 「生命体8472(前編)」など |
医療室。ジェインウェイに尋ねるニーリックス。「死んでた?」
ドクター:「18時間 49分と 13秒の間ね。おめでとう、ミスター・ニーリックス。世界記録が誕生したな。」
「そんな馬鹿な。意識を失っただけでしょ? 昏睡状態だったんでしょ?」
セブン:「いいや。お前は死んでいた。」
「あ…あ…まさかそんな。信じられない。ドクター、感謝しますよ。」
ジェインウェイ:「お礼を言うならセブン・オブ・ナインよ。蘇生は彼女のアイデアなの。」
「あんたが?」
セブン:「ボーグは生命体149※11 から蘇生術を同化したからな。だが礼は受けよう。」
ジェインウェイと顔を見合わせるニーリックス。体をさする。
「新品同様かい?」
ドクター:「経過を見ないとね。今ナノプローブが補っている機能を順調に回復できるかどうかは誰にもわからない。」
「ナノプローブだって!?」
ジェインウェイ:「必要だったのよ。壊死した組織を治すためにね。」
ドクター:「傷ついた組織が自力で機能できるようになるまで、毎日ナノプローブの注射を受けてもらわないとね。」
ニーリックス:「まあクルーを同化し始めたり、ボーグの機械が生えてきたりしないんだろ。なら我慢するさ。」
ドクター:「もう部屋へ戻っていいぞ。君の体はひどいショックを受けている。休みたまえ。明日の朝 8時にここへ来て、次の注射を受けてくれよ。」
ジェインウェイに付き添われ、医療室を出て行くニーリックス。 廊下。 「シャトルの任務は? 原初物質は採取できたんですか?」 「だめだった。あなたが採取したサンプルは、ヴォイジャーに戻る前に弱体化したわ。」 「それじゃ次は抑制フィールドをもっと強くしないと。」 「次回があればね。チャコティに今回の事故を詳細に調べるように言っておいた。対策がはっきりしない限り、誰も星雲内へは送りません。」 「じゃ調査のお手伝いを。」 「だめ。あなたは休養をとるの。」 「やめて下さい。特別扱いなんて必要ありませんよ。」 「ニーリックス、死の淵から戻ったばかりよ。自分を大事にして。」 「でも。まあそうですね、おっしゃる通りにします。ああでも、でも、あれだけは、プリクシン最初の日だけはちゃんとやりますよ。パーティは 3日後ですから。」 「ああ忘れてた。」 「何週間も前からムールトネクター※12にフルーツを漬け込んである。無駄にしろっていうんですか?」 「まあ、あなたがやりたいならね。」 喜ぶニーリックス。「ああ…。」 「あのコンポートあんまり発酵させないでくれる? 去年酔っ払っちゃったのよ。」 「ああー…それじゃあちょっと加減しますか。」 「生き返って良かった。」 「生き返れて良かったです。」 笑うニーリックス。ジェインウェイは歩いて行った。 自室へ入るニーリックス。だが浮かない顔をしている。部屋に置いてある木の形をした置物に近づく。「アリクシア※13。なぜ来てくれなかった。」 通路でトゥヴォックに話すセブン。「人間の死への態度は実に不可解だな。」 「どうしてだ?」 「あまりに死を重視し過ぎる。 These seem to be countless rituals and cultural beliefs designed to alleviate their fear of a simple biological truth: all organisms eventually perish."「それではボーグは、その生物学的事実を恐れないとみえるな。」 「ああ。ドローンは修復不可能になった場合廃棄される。だが記憶はボーグ集合体の意識の中に残る。人間風に言えば、永遠に、生き続けるんだ。」 「君はもう集合体の一部ではない。我々と同じようにいずれ死ぬ。それはどう思う。」 「……私とボーグとのつながりは断たれている。だが集合体に私の記憶や経験が、まだ残っている。つまり永遠に存在するのだ。」 「素晴らしいね。なら死を恐れることもないな。」 セブンは考えながら言った。「ああ……そうだ。」 チャコティに報告するパリス。「シャトル外壁の破損は、もうふさぎました。残りの修理も朝までには終わります。」 「よし、そっちはどうだ。」 トレス:「転送機の記録にフェイズの変化を見つけた。このせいで原初物質が発火したんだと思う。転送ビームは、もう補正を済ませておいたわ。」 「ご苦労。第2ホロデッキにいる。事故のシミュレーションをプログラムしたんだ。まだ、何かあるかもしれない。」 機関室を出るチャコティ。 チャコティに通路で合流するニーリックス。「副長、シミュレーションするんならお手伝いしますよ。」 「身体はいいのか?」 「ええ、何だってやります。2日も続けて休んでんです。休みを取ると、どうも休まらない。」 ニーリックスは笑う。 第2ホロデッキ。シャトルに入るニーリックスとチャコティ。 「原初物質を見つけたところから始まるようにプログラムした。抑制フィールドの数値をモニターしててくれないか。」 「喜んで。」 「コンピューター、私以外のシャトルクルーを表示して、プログラム開始だ。」 ホログラムのパリスとニーリックスが現れた。 ホロ・パリス:「原初物質の凝集体があります。シャトルの正面です。」 ホロ・ニーリックス:「転送機を 1万AMU にセット。一分子多くてもだめっスよ。抑制フィールドはスタンバイ OK。」 「転送可能域です。転送ビームで原初物質が発火しました。」 チャコティ:「コンピューター、プログラム停止。パターンバッファーに問題があったようだな。それで転送ビームにフィードバック・ループができたのかもしれない。」 ニーリックス:「ありえます。」 「注意しておこう。じゃ、事故の瞬間に進めるぞ。コンピューター、プログラム再開。」 ホロ・パリス:「シールドが弱まってます。シールドダウンです。」 ホロ・ニーリックス:「サンプルは採れました。安定してます。戻って…」 原初物質がホロ・ニーリックスを襲う。死亡。ニーリックスは命じた。「コンピューター、プログラム停止。」 倒れた自分の遺体に近づく。「何もない。」 「何だ?」と尋ねるチャコティ。 「死んだのに、何も起こらない。誰も来てくれない。森もない。」 「森?」 「大いなる森ですよ。死後の世界だ。私がこの世を去る時には、死んだ家族が迎えに来て、導きの木※14で待ってるはずなのに。妹や、お袋や親父や従兄弟が、みんな戦争で死んだ。ああ…だけど、死ぬ時には、またみんな一緒になれるんだと思ってました。でも嘘だった。」 「その前に生き返ったからじゃないのか?」 「いいえ、18時間も死んでたんです。本当なら何か起こってるはずなんだ。おとぎばなしだった、ただの。導きの木なんてないんです。家族と一緒にもなれない。」 「決め付けるのはまだ早いぞ。たった一度の事故でずっと信じてきたものを捨てちゃいけない。死は、未だに残る大きな謎なんだ。」 「でも俺は、一度は死んだんです。何もなかった。」 「コンピューター、人物を消せ。」 ホログラムのニーリックスが消えた。ニーリックスは言う。「俺たちが死ぬ時も、これと同じなんだ。ホログラムみたいに、消えてなくなるだけ。」 |
※11: Species 149 ※12: moolt nectar ※13: Alixia VOY第61話 "Rise" 「謎の小惑星」より ※14: Guiding Tree |
食堂に私服を着たクルーが集まり、談笑している。ニーリックスは沈んだ顔で料理を出している。パッドを持ったトゥヴォックが声を上げるが、誰も気づかない。「皆さん。皆さん! 皆さん、少々お静かに願います。」
パリスがやって来た。「昔懐かしいグラスとスプーンの手でやってみるかい?」
「グラスとスプーン?」
「失礼。」 パリスはグラスをスプーンで叩き、みんなの注目を引きつけた。
「済まない。」というトゥヴォック。話を始める。「プリクシン最初の夜へようこそ。家族を祝うタラクシアの大切な行事です。ミスター・ニーリックスから要請を受けて、今年はこの私が、祝いの挨拶をさせて頂きます。'We do not stand alone... we are in the arms of family. Father... mother... sister... brother... father's father... father's mother... father's brother... mother's brother....' Suffice to say, the list is extensive. 'We gather on this day to extol the warmth and joy of those unshakable bonds. Without them, we could not call ourselves complete. On this day, we are thankful to be together. We do not stand alone.'"「本当ね」というジェインウェイ。 拍手が起こる。パリスが話す。「数日前、俺たちは家族の一人を失いかけた。みんなは知らないが、俺は心底怖かったね。ニーリックス、まだピザは作れないようだが、本当に嬉しいよ。」 「私もよ。ニーリックスに乾杯。」 ニーリックスは何とか笑みを浮かべ、祝福してくれるクルーたちをゆっくりと見た。「いやあ、みんなありがとう。今日は……ああ、楽しんで。コンピューター、音楽。」 皆は再び談話に戻った。ジェインウェイは何かに気づき、そこへ向かう。料理を運ぶニーリックスに話かけるチャコティ。「大丈夫か?」 「ええ、そりゃもう。ホロデッキではどうもすいませんでした。生き返るってのは、なかなか慣れないものみたいでして。もう平気です。」 「話がある時は、いつでも来てくれよ。」 隅で独りでいるセブンに近づくジェインウェイ。 "Having fun?"「それはこんなとこで独りで立ってるからよ。」 「この種の社交というもののルールと手続きが、理解できないんだ。」 「ルールは簡単。適当なグループを選んで、彼らの話を聞くの。そして自分も参加できそうな話題になったら、飛び込む。」 「飛び込む。」 「何か言うの。会話に加わるのよ。」 ため息をつくセブン。「わかった、やってみよう。」 その場を離れる。 「しかし幼少期のクタリアン※15の発育には、目を見張るね。ナオミは 3週間前の身体検査から、もう 5センチも背が伸びてる。」 ドクターがワイルドマンと話している。そこへ近づくセブン。「まるで振り向くたびにあの子の服をレプリケーターでリサイクルしてる気がするわ」というワイルドマン。 セブンは言った。「ボーグが同化した子供は 17周期の間成熟室へ入れることになっている。」 「……面白いわね。ちょっと失礼するわ。ニーリックスに話があるので。」 厨房へ行くワイルドマン。皮肉を言うドクター。「その成熟室とやらでは、会話能力の発達は、さぞ優先順位が低いんだろうねえ。」 「ニーリックス!」 ワイルドマンに呼ばれたニーリックスは、驚いて料理の皿を床に落としてしまった。一緒に拾うワイルドマン。「ごめんなさい!」 「いやいやいや、いいんだよ。」 「ここ 2、3日会えなかったから。」 「何かと忙しくて。」 「そうでしょうね。どうしたのってナオミがうるさいの。」 「そうかい。」 「会いたいって。私も来て欲しかったわ。今週は毎晩眠れないって大騒ぎ。『ニーリックスじゃなきゃだめ、ニーリックス呼んで』って。」 笑うニーリックス。「やっぱりそうか。」 「良かったら後で顔見せてあげて。」 「それなら、今行くとしよう。ちょうどナオミの寝る時間だ。」 「でもいいの? プリクシンは大事な日でしょ。」 「うーん、だがお仕事だ。」 ナオミと手をつないだニーリックス。「よく聞けよ、お化けども。こっから出てけ!」 「ベッド見て。」 「お化けなんていやしないとも。」 ニーリックスがシーツをめくると、黒いぬいぐるみが置いてあった。騒ぐニーリックス。「おお、お化けだー! オホ!」 笑うナオミ。「怖いでしょう。」 ナオミをベッドへ寝かせるニーリックス。「ああ、怖かったよ。いい夢を見るんだよ。」 「ねえ、もうちょっといて。大いなる森のお話聞きたいの。」 「大いなる森?」 「素敵なとこ。眠れない時考えるのよね。」 「ほんとに聞きたいのか? あんなのただの昔話だよ。」 「おねがーい。」 「よおし。美しい場所で、お日様いっぱい。」 「私を好きな人みんながいるの。」 「そう、みんないるんだよ。見守ってくれる。眠りにつくまでね。」 「私昨日大いなる森の夢を見たの。」 「森の?」 「木があって、草や、動物もいた。ニーリックスとママとあたしが楽しそうにしてた。」 「いい夢だったんだね。」 「綺麗だったよ。」 ニーリックスは無言になった。 食堂。独りでニーリックスが片づけをしている。セブンが食堂に入るなり、ニーリックスに言う。「ドクターに血液スキャン※16をしろと頼まれた。」 「何で?」 「次のナノプローブ注射の投与量を決めるためだ。」 セブンの前へ来て、両手を広げるニーリックス。「やってくれ。いつまで注射を受けなきゃなんないの?」 トリコーダーで調べるセブン。「傷ついた細胞が機能し始めるまでだ。」 「ボーグの機械がウヨウヨ俺の体ん中を泳ぎまわってるってのは、どうも気味悪くてね。」 「生きていたければナノプローブが不可欠だからな。」 「生きる? そうか、じゃあ俺は今生きてるっていうのか。そりゃどうだろうな。」 「どの定義でもお前は生きているぞ。」 「だが何かが死んじまった。」 「どの部分をいっているんだ?」 「さあ知らんよ。だが何かが消えた。俺はもうニーリックスじゃない。もう、ニーリックスはいないんだ。死んだんだよ。俺はただの抜け殻だ。」 「動き回るな。スキャンが終わらない。」 「生き返らせろなんて俺は頼んでないぞ!」 「お前は死んでたからな。」 「何の権限があって勝手に決めたんだ。ボーグには何でも治せると思ったら大間違いだぞ。」 「ほかに方法はなかった。」 「出てってくれ。ほっといてくれ。もう出てけってのに!」 セブンのトリコーダーを手で弾くニーリックス。「それでは私は任務を怠ることになる。」 「あんたの任務なんか知るか! 俺は…」 急に苦しみ出すニーリックス。セブンはトリコーダーを拾い、検査する。「俺は…どうなってるんだ…」 ニーリックスの顔の血管が変色している。「細胞がまた壊死し始めている。すぐ医療室へ行こう」といい、セブンはニーリックスを補佐する。 |
※15: クタリア人 Ktarians アルファ宇宙域の文明。TNG第105話 "The Game" 「エイリアン・ゲーム」に登場し、クタリアン・ゲーム (Ktarian game) を配った種族。その他クタリアン・チョコレートパフェ (Ktarian chocolate puff、TNG第154話 "Liaisons" 「イヤール星の使者」)、クタリアの卵 (Ktarian eggs、映画 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」)、クタリア 7号星 (Ktaria VII、クタリアンの母星、VOY第9話 "Emanations" 「来世への旅」)、クタリアン音楽祭 (Ktarian music festival、VOY第21話 "Non Sequitur" 「現実への脱出」)、クタリアン氷河 (Ktarian glaciers、VOY第54話 "Macrocosm" 「巨大ウィルス」)、クタリアン・ムーンライト (クタリアの月の出、Ktarian moonrise、VOY第73話 "Revulsion" 「生命なき反乱」)、カタリアン・メルロー (Ktarian merlot、VOY第75話 "Scientific Method" 「D.N.A.に刻まれた悪夢」) が言及 ※16: hematological scan |
医療室で説明するドクター。「彼の組織がナノプローブに拒絶反応を起こして、体中の細胞が死に始めたんです。」
セブン:「ナノプローブに既に修正を加えた。うまくいっている。容体は安定。当面は。」
ジェインウェイ:「二度と起きないと断言できる?」」
ドクター:「できません。身に付けるモニターを作りました。また壊死が起これば警告を発します。そして注射は毎日受けてもらう。その後は、いつまでそれを…続けるかですが、一生この状態になるかもしれません。副長と話したがっています。」 チャコティはベッドで横になっているニーリックスのところへ行く。「副長。話を聞いてくれますよね。」 うなずくチャコティ。ニーリックスは尋ねた。「副長の種族は深い瞑想を引き起こす装置を発明したと、以前おっしゃってましたよね。」 「アクーナ※17だ。」 「自分の奥深くを覗き込んで、普段なら恐ろしくて聞けないことも聞き出せるって。」 「ああそうだ。」 「使わせて下さい。自分の内側を見たい。自分に何が起こってるのか答えが知りたい。手伝ってくれますか。」 「いいだろう。だが一つだけ言っておく。ヴィジョンクエスト※18は簡単なものじゃない。解釈には時間がかかるんだ。探している答えが見つかるとは限らない。」 「わかってます。何か必要な物は。」 「瞑想の包みがいる。君自身の本質を示す物を集めてくれ。自分への旅を促してくれる物だ。」 「ええ、あります。」 チャコティの道具がひも解かれる。ニーリックスは持って来た物を並べる。「これは妹※19のです。アリクシアの。あいつが、タルマスの砂丘※20へ行った時作ったんですよ。ケスが育てた花に、そして最後が、導きの木。タラクシア人の天国の真ん中にある木です。大いなる森の奥に。森に来た者に道を教えてくれるんです。少なくともそう信じてた。これじゃ瞑想の包みには足りませんかね。」 「いや十分だよ。じゃ、アクーナの上に手を乗せて。」 「これでいいんですか?」 「リラックスしろ。目の前にある物のことだけ考えるようにして、集中してほかのことは忘れろ。」 チャコティは石を握り締め、目をつぶった。「ア・クー・チ・モヤ。祖先の聖なる土地から離れ、仲間の骨からも離れて、導きを求めここへ来た。時間だ、ニーリックス。この部屋を出て、船を出て、お前が最もやすらぎ幸せだった場所へ行け。そこから旅が始まる。」 ニーリックスの意識は、プリクシン最初の日のパーティへ飛んだ。ドクターがいる。パリスが話しかける。「ニーリックス、戻って嬉しいよ。」 「戻れて嬉しいよ。」 ジェインウェイがタラクシア人の女性と話している。「いいえ、大丈夫よ。」 「アリクシア?」と声をかけるニーリックス。2人はグラスを掲げている。「乾杯。」 喜ぶニーリックス。「アリクシア! 俺だ、ニーリックスだ。ここだよ。」 アリクシアに近づこうとするが、何人ものクルーにぶつかる。やっとでジェインウェイのところへ来たが、アリクシアはいない。「艦長? 妹だ。今話してらしたのは妹なんです。」 「あの死んだ子? ええ、とてもかわいかった。あなたによく似てたわね。」 「アリクシア?」 食堂から出ていくのが見えた。セブンがニーリックスの体に手を触れた。「お前は同化される。」 「今忙しい。後でな。」 「強烈だなあ」というキム。急いで食堂を出るニーリックス。アリクシアを追いかける。 いつのまにか、森の中にいた。「ああ…何て…何て美しい。」 導きの木の根元に、アリクシア※21がいる。「ええ、兄さんが想像していた通りのね。木々に、お日様。兄さんが好きだった人たち。」 「死んだ時に、お前を探した。なのにいなかった。どうしてなんだ?」 「全部嘘だからよ。」 「何だって?」 「兄さんはずっと嘘っぱちを信じてたってことよ。大いなる森? 死後の世界ですって? 死ぬのが怖いからでっち上げただけなの。全部でたらめよ。」 「だとしたら、生きる意味などない。」 「その通りよ。やっとそのことに気がついたようね。」 アリクシアはナオミの声になった。「眠るのが怖いの。大いなる森のお話をして。木のことや、草のことや、ニーリックスを好きな人のこと。」 「どうしてそんなこと言うんだ。」 「怖いでしょう!」 そしてアリクシアは急にやつれ、体がボロボロになり、消えてしまった。耐えられないニーリックス。森が暗くなった。ゆっくりと歩くニーリックス。ベッドが置いてある。シーツをめくると、そこに怪我をした自分がいた。そのニーリックスは腕をつかみ、こう言った。「ニーリックス、お前はシャトルで死んだんだ。生き返るべきじゃなかった。間違いだったんだよ。お前もわかってるな。事実を受け入れろ。取るべき道は一つだ。」 「いやだ。」 シャトルの中で倒れているニーリックスに、「全部嘘だよ。嘘だったんだ」というパリス。 ベッドのナオミ。「取るべき道は一つよ。」 食堂のトゥヴォック。「今日はニーリックスに、やるべきことを告げに集った。」 ジェインウェイ:「あなたはたった一人。」 セブン:「命など無駄だな。」 トレス:「あきらめて。」 キム:「無意味だ。」 チャコティ:「嘘だった。」 ドクター:「取るべき道は一つだ。」 「いやだー!」 叫ぶニーリックス。 ニーリックスはヴィジョンクエストを抜け、我に返った。 |
※17: akoonah ネイティブアメリカンの中には、この装置を使ってヴィジョンクエストで思考を集中させる者がいます。VOY第6話 "The Cloud" 「星雲生命体を救え」より ※18: vision quest 人の内部の思考を見るための儀式。TNG第172話 "Journey's End" 「新たなる旅路」など ※19: 区別がつかないので仕方ありませんが、VOY "Rise" 「謎の小惑星」では「姉」と訳されていました。どうやら姉の方が正しそうですが…? ※20: Dunes of Talmouth ※21: (Robin Stapler) 声:林佳代子 |
天体測定ラボに入るニーリックス。セブンが作業をしている。「ニーリックス。」
「ああ、ここか。探してたんだ。」
「私を探してた?」
「ああ、実はそうなんだよ。邪魔じゃなかったかな。」
「いいや。」
「その……こないだは取り乱しちまって悪かったな。食堂でさ。」
「謝る必要などない。」
「いやあ、聞いてくれ。あんなこと言う気はなかった。ほんとに申し訳なかった。どうかしてたんだ。今はもう正気になった。チャコティ副長がいろいろと力を貸してくれてな。俺を勝手に生き返らせたなんて怒ったりしない。それどころか、全部あんたのおかげなんだからな。」
「ほかのどのクルーでも、同じことをしてた。」
「ああ、まあそうだろう。」
「まだ何かあるのか?」
「いや……ある。セブン、あんたがこの船の仲間になって良かったよ。ほんとに大変だったんだろう、ボーグから…人間に戻るのは。まだ半分か。ボーグだろうが人間だろうが、とにかくセブンだ。」
「要点は何なんだ。」
「ああ…俺が言いたいのは、……みんなあんたのこと好きだってことさ。きっとヴォイジャーはあんたにとって最高の家になるよ。俺にはそうだった。」
「『だった』。船を降りるのか。」
「降りる? いや、まさかそんな。じゃあ……さよなら。」
「さようなら。」 食堂の椅子を並べるニーリックス。チャコティが入る。「今朝はどうしたんだ?」 「すいません、話をしに行けなくて。ここで手が離せなくてねえ。この 2、3日大忙しですよ。放りっぱなしにしてたんで。」 「そっちは約束を果たさない気か?」 「え? 何のことで?」 「アクーナをやってみたいといわれて賛成したが、あれはプロセスの始まりに過ぎないといったはずだな。君の中の変化を語り合わないと。」 「え、だけどそりゃあもう、話したでしょう。妹が出てきました。大いなる森も。今までの生涯で一番安らかな気持ちになれました。効いたんですよ。」 「そのヴィジョンを見てから、まだ 2、3日しか経ってない。結論を出すのはまだ早すぎる。映像の意味をよく考えて、検証して、心に根づかせる必要がある。ヴィジョンクエストはお茶一杯飲んで忘れる夢とは違うんだぞ。」 「わかってます。」 「ならいい。今日は 14時に仕事が終わる。私の部屋で話をしよう。命令だぞ。」 「イエッサー。」 チャコティが出ていくと、ニーリックスはエプロンを脱いだ。「コンピューター、照明オフ。」 暗くなる食堂。 コンソールの前で話すニーリックス。「最後にミスター・トゥヴォック。あなたの尊敬を得られたことを光栄に思います。その強さと知恵には、いつも刺激を受けた。私の思い出が、あなたにとっても刺激となることを願います。ヴォイジャーで過ごした日々は、私の誇りです。皆さんの親切に心から感謝します。さよなら。コンピューター、記録終了。1時間後に艦長に送ってくれ。」 ニーリックスはトリコーダーを手にし、誰もいない転送室へ入った。操作を始める。 ブリッジで報告するキム。「艦長、誰かが無許可で転送しようとしてるようです。ニーリックスです。」 「どこへ行く気?」 「星雲内へ飛び込むつもりのようです。」 ジェインウェイと顔を見合わせるチャコティ。ジェインウェイは「止めて」と命じた。すぐにターボリフトへ向かうチャコティ。ジェインウェイは命じた。「艦長よりニーリックス。ニーリックス、応えて。ニーリックス、これは命令よ。転送を中止しなさい。」 ニーリックスは転送台の上に立った。 キム:「中止シークエンスをブロックしてるようです。転送を開始しました」 ジェインウェイ:「オーバーライドよ。連れ戻して。」 ビームに包まれるニーリックス。だが再び実体化する。転送が失敗したことに気づき、トリコーダーを操作するニーリックス。チャコティが転送室に入る。『ブリッジより副長。転送シグナルをブロックしました』というキムの声。「今は止めても、次は無理だぞ」というニーリックス。 チャコティは尋ねる。「どこへ行く気なんだ。」 「行くべき場所へです。」 「それならこの船だ。」 「わたしゃ死んだ。あの星雲に捨ててきてくれれば良かったんですよ!」 「ニーリックス!」 「近づくな! どっからでも転送できるようにセットした。オーバーライドできないぞ。」 トリコーダーのボタンを押そうとするニーリックス。 「安らげたんじゃなかったのか。」 「安らげます。このスイッチを押せばすぐに…」 「ヴィジョンクエストで何があった。何を見たんだ。」 「妹と、クルーと、私です。みんな同じことを言った。生きる意味などない。その通りです。」 「かなり強烈なイメージだったろ。だが解釈の方法はいくつもある。自分の中の死への恐怖と直面したか、感情の不安定さの表れかもしれない。ずっと信じてきたものが揺らぎ始めた。それが反映されたとしてもおかしくはない。」 「11年前に、私の星は瓦礫と化した。家族は殺された。いつか一緒になれると信じたからこそ、やってこれたんです。いつか会えると信じてたから。だが嘘だった。これ以上、生きてはいけません。」 「ものの見方が変わってしまったのはわかる。だがもっと強く信じることもできるじゃないか。まだわからないぞ、君はまだ生きてる!」 通信。『ワイルドマン少尉よりニーリックスへ。』 応えないニーリックス。「呼んでるぞ!」というチャコティ。 『ニーリックス、返事をして?』 「いやだ」というニーリックスに、チャコティは言う。「君を必要としている人たちがいるんだぞ。背を向けないでくれ。我々は家族だろ。」 首を振るニーリックス。「ほんとのじゃない。」 「いや、本物だ。彼の役割は多様だと、セブンが君のことをそう言っていた。ボーグですら君の大切さを理解してるんだ。君の仕事が必要なだけじゃない。周りを癒すその存在が必要なんだ!」 「そいつは死にました。」 「そんなことはない。」 何も知らないワイルドマンがやって来た。「こんなとこにいたのね。コンピューターで探しちゃったわ。ナオミがレプリケーターにお化けがいるって怖がってて…。ニーリックス、どうしたの?」 「決めなきゃいけないことがあるんだ」というニーリックス。チャコティは言った。 "That little girl needs you, Neelix. Monsters in the replicator... who else on this ship can handle that?"しばらくの間の後、ニーリックスはトリコーダーをチャコティに渡し、転送台を降りた。 "Duty calls."というニーリックス。状況がつかめず、ワイルドマンはチャコティを見た。微笑んだまま、何も言わないチャコティ。2人は歩いて行った。 ワイルドマンの部屋。ぬいぐるみを持って腹話術風に話すニーリックス。「おやすみなさい!」 ベッドに入っているナオミ。「その子もお休みって。」 「おやすみナオミ。」 ぬいぐるみをナオミの横に置くニーリックス。 「おやすみ。」 ナオミはニーリックスを見つめる。 「どうしたんだい?」 「ニーリックスは病気なの?」 「ちょっとね。でも、もう治った。」 「お化けにやられたの?」 「ああ…きっとそうだな。でも、もう追っ払った。いい夢を見ろ。」 笑うニーリックス。ナオミは目を閉じた。 明るく晴れた、大いなる森。導きの木の根元で、ナオミがぬいぐるみを持って座っている。 |
感想
キャラクター的に、どうしても少なくなってしまうニーリックス中心のエピソードです。最後のチャコティならではの説得シーンは泣けます。 成長が早い (ことにしてしまった) ナオミ・ワイルドマンの活躍と同時に、ニーリックスの父親的役割も新しい路線ですね。吹き替えの長島「チョーさん&ワンワン (何と着ぐるみの中身も!)」雄一さんの声が、ピッタリです。 |
第79話 "Concerning Flight" 「宇宙を飛んだダ・ヴィンチ」 | 第82話 "Message in a Bottle" 「プロメテウスの灯を求めて」 |