※2「枢機卿殿はとんだ盗人だよ。」 男が話している。「あの人の甥子の肖像画を 2枚届けたのは、かれこれ 3月も前だ、ヘラクレスかアキレスかと見まごうばかりの姿に描いてやったのに、そういう注文だったからねえ。」 机の上には様々な道具や、描きかけの絵※3が散乱している。「約束通り、自然の摂理を曲げてまであの頭の足りん若造を英雄に仕立ててやったんだ。それこそヘラクレスやアキレスの成し遂げた偉業に勝る大仕事だったというのに。その謝礼として偉大なるレオナルド・ダ・ヴィンチ※4は何を受け取った?」
「枢機卿からの感謝状?」 ジェインウェイは答えた。ダ・ヴィンチは笑い、「その通り」と言う。「こんなことなら何ももらわなかった方がましだ。」
ジェインウェイは「だったら私のお願いは聞いてくださるでしょ」と尋ねる。
「金の問題じゃない。カタリーナ※5さんと言ったっけ?」
「ええ。お邪魔はしないわ、隅っこのテーブル一つでいいの、後は自分で勝手にやるから、絵とか彫刻とか。あなたのそばにいられるだけで幸せなの。」
「お世辞は無駄だ、カタリーナ、心は動かんよ。それに、私は独りでいるのが好きなんだ。」 ダ・ヴィンチは「失礼」といい、いじくっていた道具を動かした。からくり仕掛けで腕の形をした部分が回り始める。「どうだ、すごいだろう。」
ジェインウェイに「これは何?」と尋ねられ、「『ヘパイストスの腕』※6」と答えるダ・ヴィンチ。
「鍛治の神様ね。」
「世界中の鍛冶屋が感謝するだろう、これで仕事が楽になる。」
「誰かが言ってたわ、『あらゆる発明品は人間のからだの延長である』って。」
「勘違いしなさんな、今日あんたとのおしゃべりを楽しんだからといってね、作業場をちょくちょく見物に来られても困るんだよ。」
ふいに腕の動きが止まった。「いやあ、くそう」と悪態をつくダ・ヴィンチ。ジェインウェイは「私にやらせて」と頼む。
「ガチョウの油で手が汚れるぞ。」
「お肌にいいわ。」
「歯車がちょいと弱かったな。もっと頑丈なのと取り替えよう」といい、歯車の一つを取り外すダ・ヴィンチ。
ジェインウェイは近くに置いてある紙に気づいた。「これは空を飛ぶ機械?」
「パタパタと羽ばたけば簡単に飛べると思ったんだがね。間違っとったよ。」
ジェインウェイは天井から吊るしてある大きな羽を見上げた。「この羽。この機械のデザインは、コウモリやスズメを見て考えたんでしょう。」
「ああ、そうだ。それが何か?」
「スズメの代わりに、タカを真似たら?」
「タカ。羽を広げて、滑るように飛ぶ。」
「その通り。」
「新しい機械を設計しよう。カタリーナ、手伝っておくれ。」
「仕事場所をくれる?」
「隅でいいか? テーブル一つ。」
「それで結構。」
ダ・ヴィンチは笑い、「週に 10スクード※7、道具は自分で用意しろ」という。
だが「7スクード。場合によっては道具をお借りするわ」というジェインウェイ。
「よし、契約成立だ。」
通信が入る。『チャコティからジェインウェイ。』
「どうぞ。」
『機関室に来てください。見て頂きたいものがあります。』
「すぐ行くわ。」 ジェインウェイはダ・ヴィンチをちらりと振り返り、「コンピューター、プログラム終了」と命じた。全ての映像は消え、ジェインウェイはホロデッキを出た。
機関室に入るジェインウェイ。「どうしたの?」
チャコティが答える。「悪い知らせです。2ヶ月前に送り出した長距離探査機からの送信が途絶えました。」
トレスが引き継ぐ。「単なる通信グリッドのエラーでもないようなので、直前のテレメトリーを数秒調べたんですが、見てください。」
モニターに映されたのは、ボーグ・キューブ、キューブの内部、そしてこちらを調べるボーグの映像だった。「まずいことになりました、艦長」というチャコティ。「ここはボーグスペースです。」
会議室に集まっているクルー。ジェインウェイが話し出す。「ボーグ艦がいくつ存在するのかはわからないけど、広大なエリアを支配しているようね。何千という星系は全て、ボーグのものよ。ここが彼らの本拠地に違いないわ。回り道はできない、でも抜け道はあるかもしれない。」
チャコティが立ち上がり、コンピューター画面に地図を出す。「送信が途絶える直前、探査機はボーグの活動のみられない細長い空間を発見している。『北西航路※8』と呼ぶことにした。」
トレス:「残念ながら、その航路は小さな量子特異点※9が連なってるらしくて、そこら中が重力の歪み※10だらけなんだけど。」
パリス:「いいじゃない、ハチの巣に立ち向かうよりかはましでしょ。」
チャコティ:「その通り。砲撃体制を取りつつ、抜け道を進むことにしたい。武器の状況は?」
トゥヴォック:「フェイザーバンクを循環調整できるようにプログラムし直しました。しかしボーグに長くは通用しないでしょう。」
チャコティ:「だが役には立つ。少尉?」
キム:「トランスワープ※11のサインを少しでも早く探知できるように、長距離センサーを調整しました。」
チャコティ:「ご苦労。ドクター、医療面の問題は?」
ドクター:「3ヶ月前に発見したボーグの死体※12を隅から隅まで分析してみました。後少しで彼らの同化テクノロジーを理解できそうです、医学的な防御法がわかるかもしれない。」
チャコティ:「分析を急げ。最優先任務だ。ニーリックス、当分物資の補給はできないぞ。」
ニーリックス:「任せといてください。食料の割当量を調整して、やりくりしますから。」
ジェインウェイ:「迅速に行動して。探査機が捕えられたということは、ボーグは我々に気づいてるわ。直接衝突はできる限り避けるつもりよ、でも万が一ボーグと交戦する場合を考えて、準備しておきたいの。あなたたち一人一人を信じてるわ。始めましょう。」
機関室をはじめとするそれぞれの部署で、クルー総出で準備に取りかかる。フェイザーライフルも用意される。「デッキ封鎖にかかる時間を短縮したい」というチャコティ。「招かれざる客に備えて?」というキムに、「その通り。それから、フォースフィールドも強化するぞ」という。
ボーグの腕を手に取るドクター。「この注射チューブ※13が、ボーグの同化プロセスにおける第一歩だ。皮膚の下に入ると、血流にナノプローブ※14が発射される。」
「防御シールドみたいなものを開発したらどうかしら?」と聞くケス。
「無理だね。このチューブはどんな金属もエネルギーフィールドも貫通してしまう。つまり闘うとすれば、身体の中でということになるんだ。」 腕を置き、モニターに拡大映像を出す。「ナノプローブが最初に攻撃するのは相手の血液だ、同化はほとんど一瞬で行われる。」 ナノプローブが赤血球に取りつき、色が変わっていく様子が映し出される。
「血球の機能を奪うわけね、ウィルスみたいに。」
「だから免疫システムを強化させてみてはどうかと思うんだ、同化に対する抗体を作る。ナノプローブを破壊するのは無理でも、活動を鈍らせることはできる。これまでに集めたプローブのサブミクロン解体模型で試してみよう、同化メカニズムが発見できるかもしれない。」 パッドを操作し始めるドクター。
ケスはボーグの腕を見つめていた。騒がしい音が聞こえてくる。一瞬、ボーグたちが山のように固まった光景が見えた。死んだボーグだ。ドクターが話しかける。「ケス、どうした? ケス?」
「ボーグが見えた。」
「テレパシー現象か?」
「ボーグの死体、何十人も死んでた。」 とケスは言った。
ブリッジ。戻ってきたトゥヴォックにジェインウェイが尋ねる。「ケスはどう?」
「不安定な状態ですね。この 2時間ほど、いくつもの幻覚に悩まされているようです、ボーグの死やヴォイジャーの破壊を見たとかで。」
チャコティ:「予知現象か?」
トゥヴォック:「かもしれません。」
ジェインウェイ:「彼女の直感は無視できないけど、計画を変更する理由にはならないわ。トゥヴォック、様子を見てあげて、それから……」
キム:「艦長。長距離センサーがトランスワープのサインをキャッチしました、距離は 5.8光年、後方から接近中。」
チャコティ:「非常警報。」
ジェインウェイ:「回避行動をとって。」
船が揺れる。「どうした?」と聞くチャコティ。
パリス:「ワープから抜けました。」
ジェインウェイ:「ブリッジから機関室。何が起きたの?」
トレス:「わかりません艦長。亜空間の乱れか何かのせいで、ワープフィールドが安定しないんです。」
再び船が揺れた。「乱れが激しくなっています」と報告するトゥヴォック。
キム:「ボーグ艦を 2隻探知。いや 3隻です。4隻。いや 5隻。」
「ボーグ艦は 15隻です」とキムは言った。「距離: 2.1光年から接近中。」
ジェインウェイ:「シールド最大。全艦攻撃用意。」
トゥヴォック:「目視領域に入りました。」
ジェインウェイ:「スクリーン、オン。」
ヴォイジャーの後方から、確かに大量のボーグ・キューブが近づいてくる。「これは!」と驚くチャコティ。
次々とヴォイジャーの横を過ぎていくボーグ艦。その間で木の葉のように舞うヴォイジャー。チャコティが「艦長」と呼んだ。1隻のボーグ・キューブがヴォイジャーの前で止まった。
キムが「ポーラロンビームを探知。スキャンされます」という。緑の光がブリッジの中を通過していく。「みんな耐えて」というジェインウェイ。だがボーグ艦は離れていった。「キューブは隊列に戻りました」というトゥヴォック。
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※2: タイトル表示は "Scorpion" のみですが、このサイトでは便宜上わかりやすくするため "Scorpion, Part I" で全て統一しています
※3: 有名なモナリザのイラストがあります
※4: Leonardo da Vinci (ジョン・リス・デイヴィス John Rhys-Davies 映画「レイダース/失われたアーク」のサラ、「スライダーズ」シリーズのマキシミリオン・アルトゥロ教授役) VOY第60話 "Darkling" 「ドクターの内なる闇」でも言及。後にも登場。声:藤本譲、DS9 コロス、映画ST6 スコットなど
※5: Catarina
※6: "The Arm of Hephaestus"
※7: scudi
※8: Northwest Passage
※9: quantum singularity 以前からの訳と同じく、「ブラックホール」と吹き替えされています。現象的には同じなんですけどね……
※10: gravimetric fluctuation 空間歪曲現象。TNG第63話 "Yesterday's Enterprise" 「亡霊戦艦エンタープライズ'C'」など
※11: transwarp ボーグもトランスワープ技術をもっていることは TNG第152話 "Descent, Part I" 「ボーグ変質の謎(前)」で明らかになりました
※12: VOY第59話 "Unity" 「ボーグ・キューブ」より
※13: injection tubule 映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」で初登場
※14: nanoprobe
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