TNG エピソードガイド
第163話「無限のパラレル・ワールド」
Parallels
イントロダクション
宇宙空間を飛行するシャトル。 ウォーフはコンピューターに触れた。「私的記録、宇宙暦 47391.2。フォーキャス3号星※1でのバトラフ大会※2から帰るところだ。戦いは熾烈を極めた。何名か重傷を負った選手も出たが、私は勝った。」 脇に置いてある、クリンゴンの紋章を模した物を手にする。「優勝※3の、トロフィーを持ち帰る。…無事エンタープライズの任務に戻れるのは喜ばしいことではあるが、トラブルが起きればいいと望む気持ちもある。」 エンタープライズ。 ライカー:「アーガス情報基地※4へ行くことになりそうだ。情報の送信が止まったのは今年 3度目だ。こうなると単なる故障じゃないと、艦隊本部は見てる。…到着後すぐ長距離スキャンをやって……ウォーフ。聞いてるのか? ウォーフ:「え? あ、あはい、はい。」 「…もう休暇は終わりだぞ。ソワソワしてどうした。」 「…今日は、私の…誕生日※5でして。」 ライカーは部屋のドアを開けた。中に入るよう指示する。 自分の部屋を確認するように見るウォーフ。 ライカー:「どうしたんだ。」 ウォーフ:「…ですから、誕生日なので副長か誰かが何か頼んでもいない集まりを準備していないかと、心配でして。」 「サプライズパーティか。俺だってあんな下らん習慣は嫌いなんだ、やるわけないだろ。」 「…どうもすみません。」 「さあ、仕度してブリッジへ来い。」 出ていくライカー。 「わかりました。」 ウォーフはバトラフを置き、トロフィーを見つめる。 隣の部屋へ向かう。 突然明かりがつき、待っていたクルーが一斉に声を上げた。「おめでとうー!」 クラッカーが鳴らされ、ゲイツたちは三角の帽子を被っている。 あきれるウォーフにキスするクラッシャーとトロイ。 風船を持っているクルーもいる。 ライカーが戻ってきて、ウォーフに帽子を被せた。「サプライズパーティはいいね?」 裾を伸ばす。 笑う一同。ウォーフは憮然としたままだ。 |
※1: Forcas III 初言及 ※2: Bat'leth competition 吹き替えでは格闘技関連にしてしまう悪癖で、「ヴァーリ・トゥードゥ大会」と勝手に訳されています ※3: Champion Standing ※4: Argus Array TNG第93話 "The Nth Degree" 「謎の頭脳改革」より ※5: 宇宙暦からすると 5月23〜24日ごろ、TNG第114話 "Conundrum" 「謎めいた記憶喪失」のファイルでは 12月9日ですが、両方とも決定打とは言えません |
本編
クルーはクリンゴン語で歌を唄っている。「彼はとてもいいやつ」ならぬ、「チャ ウォーフ トガ・ナ ロ プレタク」※6だ。 ケーキを持ってきたクラッシャー。 歌が終わると、ウォーフは乱暴に火を吹き消した。「クリンゴンにあんな歌はない。」 トロイ:「翻訳するの大変だったわ? クリンゴン語に『楽しい※7』って言葉がないんだもの。」 クラッシャー:「ケーキを切るのは誕生日の人の役目なのよ?」 ナイフを受け取るウォーフ。 ライカー:「艦長は仕事で来られないんだが、おめでとうと言ってたぞ?」 粗っぽくケーキを切っていくウォーフ。 データが大きな包みを持ってきた。「誕生日おめでとう。」 苦々しい顔で応えるウォーフ。「どうも。」 紙を破ると、それは絵画だった。抽象的なものだ。 ウォーフ:「これは…少佐が。」 データ:「ああ、今は表現主義※8を試している。ハロスの戦い※9を私なりに解釈したんだ。」 「ハロスの戦いをねえ。」 トロイ:「すごくいい絵じゃない?」 逆さまにする。「ちょうど映える場所があるわ?」 「何するんです。」 ライカーは壁にあった、クリンゴンの丸い盾をどけた。 そこに掛けるトロイ。「もう少し明るい部屋にすべきだって思ってたのよ?」 ため息をつくウォーフ。 ラフォージも来た。「いいねえ。ハロスの戦いか、だろ?」 その時、ウォーフは小さく声を上げた。目まいらしい。 ラフォージ:「ウォーフ、大丈夫か。」 ウォーフ:「…ええ、まあ。データ少佐の絵を見たら目まいがして。」 クラッシャー:「食べて。」 ケーキを差し出す。 ラフォージ:「ああ、すいません。」 ケーキが変わっていることに気づくウォーフ。「これ。…中までチョコだと。」 笑うトロイ。「ならいいのにね? アレキサンダーからよ、おじいちゃんたちのところへ行く前に預かったの。」 ケーキを受け取る。「ありがとう。」 プレゼントを開けたウォーフは、笑った。 ラフォージ:「何だった。」 ウォーフ:「アレキサンダーの額の型だ。戦士の印なんです。」 白い型には、「アレキサンダー」と書いてある。 トロイ:「あなたが戻るまで待ってたいって言ってたのよ? いない間の様子見せたかったわ? お父さんがどんなに勇敢かってずっと話してるの。」 「留守中見てもらって助かりました。」 「私も楽しかったわ?」 ピカード:「君はいくつになったんだ。」 ケーキを食べている。 ウォーフ:「艦長! お仕事じゃなかったんですか。」 「あ、こっちの方が優先だ。…いくつなんだ?」 「もう……」 ラフォージ:「ん?」 「…十分大人です※10。」 笑う一同。 エンタープライズはアーガス情報基地に到着している。 ピカード:「報告。」 データ:「情報基地は、正常に機能しているようですが。」 ライカー:「そんなはずはない。この 6日間、情報の送信が全くないそうですから。」 「情報の送信自体は続けているようですね。しかし連邦に向けてではありません。何者かが、送信システムの方向を変えたようです。」 ピカード:「それでどこへ送られてるんだ?」 「19658星域※11です。メインコンピューターにアクセスできませんので、それ以上の厳密な位置までは特定できません。」 ライカー:「どういう星域だ。」 ウォーフ:「全く無人の区域です。ですが船か、亜空間中継基地は存在するかもしれませんね。」 「艦長、とにかく情報基地に修理班を送り込みましょう。画像ログ※12をダウンロードすれば、この 6日間何の情報を集めていたかわかります。」 ピカード:「始めてくれ※13。」 「データ。」 制服の裾を伸ばし、共にブリッジを出ていくライカー。 ウォーフはテン・フォワードに入った。「すみませんカウンセラー、よろしいですか。」 トロイ:「どうぞ?」 「…実はアレキサンダーのことで話があるんです。」 「話?」 「任務を続けながらあの子を育てるのは、簡単じゃありません。いい父親になれるように、努力はしてます。でも私の思うように、育ってくれません。」 「子供ってそういうものよ?」 「…あなたの助けがあって何とかやってこられました。あの子はカウンセラーを慕ってます。母親のように思ってるんじゃないかと思うほどです。」 「本当にそう思ってくれてるんだとしたら、私も嬉しいわ?」 「…以前身の危険を感じた時に、万一の時は頼むと言いましたよね※14。…実はその件を正式に…お願いできないかと思いまして。ああ…アレキサンダーのソッ・チム※15に、なってもらえませんか。」 「彼の…ソッ・チム?」 「つまり、母親代理ということです。私に何かあった場合、親代わりになって欲しいんです。」 「何て言えばいいかしら、とても光栄だけど……そうなると、私はつまりあなたの…」 「一番近い概念では、義理の 「…ということは、私の母は義理の母親ね?」 「……それは考えなかった。…うーん。…多少のリスクは負いましょう。」 「じゃあ引き受けるわ?」 データの通信が入る。『ウォーフ大尉、すぐ機関室へ来てくれ。』 ウォーフ:「直ちに向かいます。」 出ていく。 笑うトロイ。 報告するデータ。「画像ログをダウンロードしました。連邦領域内の施設や星を監視するよう、プログラムし直されていますね。」 映像を指さすラフォージ。「ディープ・スペース・ファイブ※16に、第47宇宙基地※17。イヤダラ植民星※18、それにユートピア・プラニシアの造船所※19。」 ピカード:「宇宙艦※20の開発に関係のある場所だな。」 ウォーフ:「何者かが情報基地を使って、連邦の動きをスパイしていたようですね。」 データ:「そう考えられます。システムに不当な操作が行われたのは、6日前でしょう。…その日のログに、接近してくる一隻の船が映っています。」 映像を出す。 「カーデシアです、ガロア級※21の戦艦です。」 ラフォージ:「カーデシアの領域から、たった 3光年ですからねえ。ここまでは一っ飛びですよ。」 ピカード:「ウォーフ、長距離スキャンをかけてくれ、カーデシアの船がいるかどうか確認するんだ。」 ウォーフ:「了解。」 ラフォージ:「ウォーフ、カーデシア船の推進シグナル分析だ。このエネルギー構成をスキャンすればいいだろう。」 パッドを渡す。 また目まいが起こるウォーフ。 データ:「ウォーフ。大丈夫か?」 ウォーフ:「…目まいがして。」 その時、ウォーフは右隣にいたのがデータからラフォージに変わっていることに気づいた。 ラフォージがいた場所にデータがおり、ピカードはいない。 ラフォージ:「具合が悪そうだな。医療室へ行った方がいいぞ。」 ウォーフ:「…ええ、そうさせてもらいます。」 一瞬方向を戸惑い、機関室を出て行くウォーフ。 ハイポスプレーを手にするクラッシャー。「吐き気はする? 目はかすむ?」 ウォーフ:「…いいえ。ですが今日はちょっと前にも頭がふらつきまして、例の誕生パーティの時です。」 「頭を殴られたのがまだ尾を引いてるのね。…一応ヴァルタジン※22を打っておくけど、身体を休めるのが一番よ。」 クラッシャーの手を止めるウォーフ。「ドクター。別の患者と間違えてらっしゃいませんか。殴られてなどいません。」 クラッシャー:「ウォーフ、あなた今朝耳鳴りがするみたいだって言って、ここへ来たじゃない。スキャンしてみると、殴られた跡があったの。…全然覚えてないの?」 「全く。」 「…頭を打つと、一時的に記憶障害も起きるわ。ここでバトラフ大会のこと話したでしょ? 対戦相手に頭を殴られたせいで※23、負けちゃったって言ってたじゃない。」 「…私は優勝したんです。いま証明して見せますよ。」 医療室を出ていく。 追うクラッシャー。 自室に入ったウォーフは、トロフィーを手にした。 優勝トロフィーとは形が違い、小さい物だ。 クラッシャー:「どうしたの。」 ウォーフ:「…『9位』のトロフィーだ。」 |
※6: "Cha Worf Toh'gah-nah lo Pre'tOk" 元の "For He's a Jolly Good Fellow" から、「ウォーフはとてもいいやつ」という意味でしょう。当初は有名な「ハッピー・バースデー」を使う予定でしたが、使用料の問題で変更されました ※7: jolly 曲名にもある歌詞の一部。「陽気な、素敵な」 ※8: Expressionistic phase ※9: The Battle of HarOs ※10: ウォーフは 2340年生まれなので、第7シーズンの 2370年では (地球年で) 30歳となります。ちなみにケーキには 17本のロウソクが立っているそうですが、これはクリンゴン年齢? ※11: Sector 19658 ※12: imaging logs ※13: "Make it so." ※14: TNG第116話 "Ethics" 「神経医療エキスパート ドクター・ラッセル」より ※15: Soh-chIm ※16: Deep Space 5 初登場。映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」に登場した、レギュラ1 宇宙ステーションの使い回し。当然 DS9 が設定された後です (TNG 第6シーズンから並行放送中) ※17: Starbase 47 TNG第26話 "The Neutral Zone" 「突然の訪問者」に登場した、S.S.バーズアイ (クリオサテライト) の使い回し ※18: Iadara Colony Anthony Fredrickson デザイン ※19: Utopia Planitia Shipyards ユートピア・プラニシア艦隊造船所 (Utopia Planitia Fleet Yards)。Rick Sternbach、Mike Okuda デザイン。これは地上の施設ですが、軌道上にも建造施設があります (VOY第118話 "Relativity" 「過去に仕掛けられた罪」) ※20: 吹き替えでは「戦艦」 ※21: 吹き替えでは「最強のガロア級」 ※22: vertazine TNG第118話 "Cause and Effect" 「恐怖の宇宙時間連続体」より ※23: 吹き替えでは「肘打ちで頭を殴られたせいで」(注釈※26 も参照)。実際には頭を殴られたことしか言っていません |
理解できないウォーフ。「なぜだ。トロフィーが変わってる。…誰か俺に嫌がらせしてるんだ。」 クラッシャー:「ウォーフ、落ち着いて? 記憶障害が出ても無理はないんだから。」 「日誌だ。エンタープライズ※24へ戻る途中の記録が残ってるはずです。」 コンソールに触れる。「コンピューター、シャトル・キュリー※25の私的記録にアクセスしてくれ。宇宙暦 47391.2 の記録映像だ。」 LCARS が起動し、ウォーフの映像が出た。『私的記録、宇宙暦 47391.2。フォーキャス3号星でのバトラフ大会から帰るところだ。戦いは熾烈を極めた。何名か重傷を負う者も出た。私の最後の対戦相手が、反則行為であるティーガ戦術※26を使い…それを審判が見逃したため、成績は不本意なものに終わってしまった。最終順位は、9位だった。』 やはり小さいトロフィーを持つ。『これからエンタープライズに戻るが何か…』 映像を止めるウォーフ。「……さっぱりわけがわからない。」 クラッシャー:「ウォーフ? 不安な気持ちになるのはよくわかるわ。でも大丈夫。記憶はすぐ戻ってくるわ。気にしないでいつものように生活するのが一番いいのよ。焦らずゆっくりとね。」 「…すみませんでした。」 「もしまた目まいがしたら、すぐ医療室へ来てね。ハイポスプレーを打つわ。」 ウォーフの部屋を出て行くクラッシャー。 ブリッジ。 戻ったウォーフ。 データ:「ウォーフ。基地のテレスコープの金属スキャンはやってくれたのか?」 ウォーフ:「は?」 「金属スキャンだ。もう済んだのか?」 「そんな指示を受けた記憶は…」 通信の呼び出しだ。「艦長、カーデシアの船が接近してきます。ガロア級です。」 ピカード:「宇宙チャンネルオン。」 「スクリーンへ。」 制服の裾を伸ばすピカード。「私は宇宙艦隊エンタープライズ艦長のピカードだ。ここは惑星連邦の領域だが、侵犯の理由を聞きたい。」 スクリーンに映っているカーデシア人※27。『私の方も同じことを聞かせてもらいたい。連邦の最新鋭艦※28がカーデシアとの境界にここまで接近している理由は?』 ピカード:「…我々は亜空間テレスコープの修理に来ただけだ。」 『なるほど。…必要なら手を貸そうか。』 「いや結構、それほどの問題じゃない。」 『差し支えなければ聞きたい。このテレスコープとかいうものは何のために設置されてるんだね?』 「長距離亜空間テレスコープ基地で、天文学上の現象に関するデータを集めている。」 『まさか近隣の他種族の、監視に使っているんではないだろうな。』 「もちろんだ。」 『そうかね。修理が無事済むことを祈るよ。…くれぐれも言っておくが、天文学の調査以外には…使わないでくれたまえ。』 通信は終わった。 ライカー:「気に入らんな。」 ウォーフ:「艦長。情報基地システムのプログラムを変えたのはあの船です。」 ピカード:「何だって。」 「同じガロア級ですし、エネルギーシグナルも画像ログにあった船と同一のものでした。」 「画像ログだって? …カーデシア船が基地に不当な操作をしたという、明らかな証拠があるのか。」 「連邦のテレスコープをスパイ行為に使ったんですよ。ログを御覧になったでしょ。」 ライカーと顔を見合わせるピカード。「ログの話は聞いてない。」 ライカー:「私もです。」 ウォーフ:「…データ少佐、少佐がダウンロードしたログを見せて下さい。」 データ:「…何のログのことだ。」 ピカード:「…ウォーフ、大丈夫か。」 ウォーフ:「もちろん。」 「…データ少佐、情報基地システムを再チェックするんだ。ウォーフが言ったような事実が実際にあるのかどうか確認してくれ。」 自室のウォーフ。「ドクター・クラッシャーはまた記憶障害が起こったんだと言ってたが、絶対にそんな単純なことじゃない。画像ログを確かに見た。話したことの内容も全て覚えてるんだ!」 トロイ:「あなたの言ってることが正しいとしましょう。その通りのことが実際に起こったの。…でもだとすると、あなた以外の全員の記憶がおかしいことになるのよ?」 ドアチャイムが鳴る。 ウォーフ:「…どうぞ。」 ラフォージが入る。「カウンセラー。…ウォーフ、基地の画像ログを再チェックしてみた。…カーデシアの船は映ってない。システムがプログラムし直された形跡もない。俺が見る限り、あれは単純な機械の故障だと思うけどね。」 ウォーフ:「そんなはずはないんだ! 私は確かに…」 また倒れそうになる。 トロイ:「ウォーフ!」 ウォーフは目を見張った。データからもらった絵の、掛けた場所が変わっている。 ウォーフ:「カウンセラー。誕生日にデータ少佐にもらった絵。場所が変わってる。」 トロイ:「それは私がそこに掛けたのよ? 見てたでしょ、覚えてない?」 「…そんな。」 また見ると、絵がヴォルチャ級攻撃巡洋艦のものになっている。 ウォーフ:「絵が変わった。あれを見て下さい。」 更にトロイが制服姿になった。 ウォーフ:「髪型が。服も制服に変わってる、なぜだ。」 ラフォージ:「…ウォーフ、医療室へ行こう。ついてこい。」 倒れるウォーフ。 ブリッジのピカード。「ウォーフ、今だ。」 警報が鳴っている。目を開けるウォーフ。 スクリーンにカーデシア戦艦が映っている。 ピカード:「何してる!」 向かってくるガロア級戦艦。戸惑うウォーフ。 |
※24: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※25: Shuttlecraft Curie 初登場。物理学者マリー・スクロドフスカ・キュリーにちなんで。当初は脚本のブラノン・ブラガがファンである、作家ボルヘスの名になる予定でした。ホルヘ・ルイス・ボルヘスは「八岐の園」という作品 (「伝奇集」に収録) で、パラレルワールドの概念を描いています ※26: T'gha maneuver 吹き替えでは「肘打ち」 ※27: 名前はガル Nador (Gul Nador) (マーク・ブラムホール Mark Bramhall) ですが、言及されていません。「ガル・ナダー (またはナダール)」としている日本語資料もあります。声:糸博 ※28: 原語では「旗艦」 |
命じるライカー。「防御スクリーンを上げるんだ。」 ウォーフ:「操作パネルの位置が変えられてます。私には扱えません。」 船が揺れた。 データ:「被弾しました。機関部と、第42デッキに損傷。スクリーンジェネレーター、オーバーロードです。」 ブリッジの構造も変わっている※29。 ピカード:「副長。」 ライカー:「はい。」 戦術コンソールにつく。「光子魚雷装填。発射します。」 光子魚雷は、全てカーデシア艦に命中した。 ライカー:「メインリアクターに命中。反撃してきます。」 データ:「…艦長、デフレクターシステムに損傷。被害は甚大です。第17、36デッキの船体破損。」 ピカード:「少尉、退避だ! 最大ワープスピード。」 ゲイツ:「了解。」 「追跡してくるか。」 ライカー:「いいえ。…アーガス基地を砲撃しています。……大破しました。」 ウォーフを見る。 「ブリッジより機関室。ラフォージ、状況はどうだ。」 ラフォージの声ではない。『艦長、ヘイズ少尉※30です。ラフォージ少佐は、プラズマを浴び医療室へ運ばれました。サブ・プラズマコンジット※31がかなり損傷を受けてますが、何とか制御できると思います。』 ピカード:「わかった。少尉、第129基地※32へ向かえ。」 ゲイツ:「了解。」 立ち上がるピカード。「ウォーフ、どういうことなんだ。」 ウォーフ:「…また、記憶障害が起こったんだと思います。」 ライカー:「…記憶障害? 何の話だ。」 「…体調がおかしいのです。艦長、一時的に職務を解いていただけますか。」 ピカード:「そうしよう。」 ブリッジを出ていくウォーフ。ライカーはため息をついた。 ウォーフは部屋に戻り、ドアをロックした。ため息をつく。 テーブルを見ると、トロフィーが見当たらない。植物が飾ってある。 ふと絵を確認するウォーフ。位置は戻っているが、クリンゴン艦のままだ。 コンソールに触れる。「コンピューター、シャトル・キュリーの私的記録にアクセスしろ。日付は、宇宙暦 47391.2 だ。」 コンピューター※33:『シャトル・キュリーには、その日付の私的記録は存在しません。』 「…コンピューター、フォーキャス3号星でのバトラフ大会に言及した記録があれば呼び出してくれ。」 自室にいるウォーフが映った。『私的記録、宇宙暦 47391.2。船のメインデフレクターに故障が発生した。修理には、あと 2日ほどかかりそうだ。そのため、フォーキャス3号星でのバトラフ大会には参加できなくなった。代わりに、弟に出てもらうことにした。剣※34の腕は私ほどではないが…』 止める。 ドアチャイムに過敏に反応するウォーフ。ため息をつく。 またチャイムが鳴らされる中、ロックを解除した。 私服のトロイ。「鍵なんかかけて。」 ウォーフ:「勝手でしょう!」 「ブリッジでのことは聞いたわ? 大丈夫?」 「…よくわからない。」 「私に話してみたら?」 「結構です、カウンセラー!」 「…わかったわ、大尉? …ホットチョコレート。」 レプリケーターから取り出すトロイ。 「何か用なんですか。」 「…そうなの。用よ?」 奥へ向かうトロイ。ベッドに座る。 寝室を覗き込むウォーフ。 トロイ:「こっちへ来なさいよう。」 ウォーフは隣に座り、ため息をつく。 トロイ:「少しリラックスしたらどうなの?」 ウォーフのまとめている髪をばらした。「はい。」 トロイはウォーフの後ろに回り、肩を揉み始める。「…あ、すごい肩。カチカチじゃない。……ブリッジでのこと話したくないのはわかるわ。だけど全部ぶちまけちゃえば楽になれることだってあるんだから。…ねえったら。私に話せないでほかの誰に話すの? ん?」 トロイはキスしてきた。 声を上げ、立ち上がるウォーフ。「そういう振る舞いは不謹慎だと思いますが。」 トロイ:「私達夫婦なのに?」 「夫婦?」 「……ウォーフ、変よ。」 「一体どうなってるんだ。何かがおかしい。」 「…おかしいって?」 「…こんなことは到底ありえない。あなたと俺が、夫婦だなんて。周り全てが、突然…瞬間瞬間であっという間に変わってしまうんだ。…でも誰もそのことに気づいていない、俺だけなんだ。」 「それじゃあなた、この 3年間のこと何も覚えてないって言うの? …私達が愛し合って結婚したことも覚えてないの?」 「…この 3年のことはちゃんと覚えてます。でも違うんだ。…あなたと私の関係は夫婦じゃない。…友人同士です。それに、エンタープライズはカーデシアと戦ってはいなかった。…だが誰も信じてくれない。」 「……何があっても、誰が疑っても、私だけはあなたのことを信じるわ。愛してるんだもの。二人一緒なら乗り越えられるわ。」 機関室のデータ。「船内・船外ともに時間の流れに異常が発生していないか、亜空間スキャンをしている。」 マスターシステム・ディスプレイの場所が変わっている。 オガワから通信が入る。『カウンセラー・トロイ、医療室へ御願いします。』 トロイ:「いま向かうわ。何かわかったら教えて?」 出ていく。 ウォーフ:「少佐。私とカウンセラー・トロイは、いつ結婚したんです。」 データ:「2年1ヶ月12日前だ。」 「それじゃあ、交際し始めたのはいつです。」 「私の知るところでは、宇宙暦 45587。君の脊椎の傷※14が完治した後、しばらくしてからだったはずだ。半年後君は、カウンセラーに求婚して構わないですかと、ライカー副長に許可を求めた。そうするのが礼儀だと考えたからだ。」 データの目は、金色ではなく青になっている。 「そして契りを。」 「最初の性交渉が、いつどこでどのように行われたかまでは把握していないんだが、調べればわかるぞ?」 「いや、それは結構。」 「…星系内に、時間のひずみは見られないなあ。…となると糸口として、時間の連続性が失われた最初の瞬間を特定した方がよさそうだ。最初の変化を覚えているか?」 「医療室でした。ドクター・クラッシャーは私が殴られたと言われたが私は覚えてなかった。」 「よく考えろ? 本当にそれが一番最初の変化か?」 「もっと前に……そうだ。機関室にいた時だ。急にひどい目まいがしてふと見上げると、横がデータ少佐、前がラフォージ少佐だったのに逆になってて、艦長がいなくなってた。…ふらついて、周りが場所を変わったのを見てなかったんだと思ってた。…その前の誕生パーティだ。チョコレートケーキだったのに、中が黄色※35になってた。それに副長から艦長は仕事で来られないと聞いてたのに、突然現れた。」 「うーん。…それぞれのケースに共通点がないか検証してみよう。まず、周りに誰がいた。」 「誕生パーティの時はみんなです。カウンセラー・トロイと話し、それからラフォージ少佐がそばに来て……少佐だ。ラフォージ少佐は 3度とも、記憶がずれた現場にいた。それに 3回とも変化が起きる直前に私のそばにいました。…関係があるに違いない。」 「可能性はあるな。ラフォージ少佐と、話してみよう。」 医療室に入るデータ。「ドクター。ジョーディに質問をしても構いませんか?」 ジャケットを羽織っているアリサ・オガワ※36。「…彼は死んだわ。」 |
※29: TNG第178話 "All Good Things..., Part II" 「永遠への旅(後編)」で、未来のエンタープライズとしても使われたセットがあります ※30: Ensign Hayes 初言及、映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」で登場。声:三木慎一郎 ※31: secondary plasma conduit ※32: 第129宇宙基地 Starbase 129 ※33: 声はクラッシャー役の一城さんが兼任 ※34: 吹き替えでは「寝技」 ※35: 吹き替えでは「バニラ」 ※36: Alyssa Ogawa (パティ・ヤスタケ Patti Yasutake) TNG第148話 "Suspicions" 「新亜空間テクノロジー 超フェイスシールド」以来の登場。声:吉田美保、DS9 ケイコなど。前回は氷上恭子、通常は栗山微笑子 |
ラフォージの遺体を調べるデータ。「不自然な要素は全くないようだな。プラズマ爆発の残留エネルギー。通常通りの細胞崩壊。…ウォーフが体験した、記憶のずれの原因となる要素は全て見当たらない。」 オガワ:「ヴァイザーはどうなの?」 脇に置かれているヴァイザーを調べるデータ。「…やはり特に異常はありません。作動させてみましょう。」 オガワ:「チェック台にかけて。私が調べるわ?」 データは台につけ、起動させる。「ヴァイザー作動中。」 目まいを起こすウォーフは、制服の色が赤になっている。コミュニケーターも形が異なる※37。 支えるクラッシャー。「ウォーフ、大丈夫なの。」 データ:「また記憶にずれが出たのか?」 ウォーフ:「…さっきドクター・クラッシャーはいなかった。ドクター・オガワだった。」 クラッシャー:「ドクター・オガワ?」 「…それに制服も変わってる。私の階級と職務は。」 トロイ:「あなたは中佐で、船の副長よ?」 「俺たちは、まだ夫婦なのか。」 「ええ。」 データ:「…ウォーフの細胞 RNA に量子流動※38が起こっている。」 ウォーフ:「どういうことです。」 「今はわからない。…詳しく調べる必要があるな。」 データの目の色は戻っている。 トロイを見るウォーフ。 作戦室のデータ。「調べてみるとウォーフ副長の細胞 RNA の量子流動は、原子レベルにまで広がっていました。…これは現状との、非同時性の表れです。…艦長、つまりウォーフはこの次元に存在していないんです。」 艦長と呼ばれたライカー。「何?」 後ろにトロンボーンが置いてある。 データ:「同じ次元にあるならあらゆる物質は量子のレベルで、一致しているのです。その特性は一定不変です。どんな過程を経ようと、変わることはありません。それが、存在自体の基本なのです。」 「つまりウォーフの量子特性※39が、我々と違うんだな?」 「そうです。…原因は不明ですが、副長は別の量子宇宙に存在しているようですね?」 「ウォーフ、確か記憶のずれが始まったのは…バトラフ大会から戻った後からだと言ってたな。」 ウォーフ:「そうです。」 「だが君はその競技会には参加してない。一月以上も誰もシャトルを使ってないんだ。」 「記録では、そうなってます。ですが試合に出て、シャトル・キュリーでエンタープライズに戻ってきたのは確かなんです。」 「帰りに取ったルートを覚えてるか。」 「はい。」 「コースを逆にたどろう。おかしな数値や異常がないか確かめる。」 データ:「了解。」 ウォーフは出る前に、立ち止まった。「うかがってよろしいでしょうか。艦長になられたのはいつのことです。」 ライカー:「4年前だ。…ピカード艦長がボーグとの戦闘で、亡くなった後だ。…何も覚えてないんだな。」 「…覚えてはいます。ただ違っているだけです。」 ブリッジ。 大きなパネルの前にいる、ウェスリー・クラッシャー※40大尉。「艦長、左舷前方に亜空間の歪みを探知しています。」 ウェスリーを見るウォーフ。 ライカー:「エンジン停止。」 操舵士官:「了解。」 「データ、分析しろ。」 データ:「時空連続体に、量子の亀裂※41が入っているものと思われます。」 「スクリーンへ。」 裾を伸ばす。 「肉眼では見られません。ワープフィールドを使って拡大し、目視できるようにします。」 操舵士官はカーデシア人だ。 様子が異なるスクリーンの中央に、青い光点が表示された。 ライカー:「危険なのか?」 データ:「この距離なら安全です。さらに亀裂の部分には、イオンの帯が存在しているようです。…連邦のタイプ6※42 のシャトルが通過した跡だと思われます。」 ウォーフ:「私が通ったんです。」 データ:「…原因が判明しました。」 観察ラウンジのデータ。「我々が発見した量子の亀裂は、異なる時空連続体をつなぐ接点だと思われます。…多くの、量子現実※43が交差するポイントとなる穴ですね。」 トロイ:「『量子現実』って何なの?」 「どの出来事にも、可能性としては無数の選択肢があります。どれを選ぶかで結果は変わってくるわけです。ですが量子物理学の理論で言えば、あらゆる結果が同時に起こっているのです。そしてそれぞれが、異なる宇宙を創っています。」 ウォーフ:「つまり私は、いわゆるパラレルワールドを移動してるわけなんですね?」 「その通りです。」 トロイ:「どうしてそうなったの?」 「ウォーフ副長のシャトルが量子亀裂にさしかかった時、ワープエンジンが各パラレルワールドの境界に小さな裂け目を入れたのだと思われます。」 ある時点から、無数に枝分かれする様子がコンピューターに表示される。「そのため副長には量子流動が起こり、以来異なる次元を移動し続けているのです。」 クラッシャー:「そしてジョーディのヴァイザーがその引き金になってるのね?」 「そうです。…亜空間フィールドパルスが使われているので、ジョーディがウォーフ副長に接近すると、そのパルスが量子流動を強化するのです。そして、別の次元へ押し出される。」 ウォーフ:「じゃあ私が元いた次元を見つけて戻るにはどうすればいいんです。」 ウェスリー:「亜空間識別パルスを使って、量子の亀裂をスキャンしたらどうです? …ウォーフ副長の量子特性と似た次元を探して、戻せるかもしれませんよ?」 データ:「名案だよ、クラッシャー大尉。」 トロイと共に、部屋に戻るウォーフ。ため息をつく。 絵は元の「ハロスの戦い」のものに戻っている。 椅子に座るトロイ。「ウォーフ。つまりこういうことよね? 私の夫は、いなくなってしまうかもしれない。…それにあなたが戻っていく次元では、私はあなたの妻じゃないし…愛されてもいない。」 ウォーフ:「…だが、ディアナ。向こうでは君は大切な友人なんだ。…今までは一度も君のことを結婚の対象とは考えなかったが…これからその可能性がないとは言えないだろ?」 「子供たちはどうなるの。」 「…子供だって?」 「覚えてないの?」 「…最後に医療室で次元がずれる前は、子供はいなかったはずだ。」 「……小さな女の子が一人、シャーナラ※44。まだ 2歳よ。それから、3歳の男の子。エリック・クリストファー※45。」 「…アレキサンダーはどうしてる。」 「アレキサンダー?」 「…別の次元にいる俺の息子だ。」 トロイはウォーフの身体に身を寄せた。 エンタープライズは、亀裂に向けて亜空間識別パルスを発射している。 ウェスリー:「この識別パルスで、亀裂内の 1,000万の次元を調べられるようになっています。でもまだ特定はできていません。」 ウォーフ:「うーん。」 「時間がかかりそうですね。」 データ:「艦長、ベイジョー船が接近してきます。」 ライカー:「非常警報。」 ウォーフ:「ベイジョー船?」 トロイ:「ベイジョーはカーデシア帝国に勝って以来、ますます好戦的になってるの。」 ライカー:「昨日は、連邦の亜空間のテレスコープを破壊した。スパイ用だと決めつけてな。」 ウェスリー:「敵は攻撃準備中。」 ウォーフ:「防御スクリーン。」 揺れるエンタープライズ。 ライカー:「反撃しろ。」 ウェスリー:「パワーシステムに被害が出ました。識別パルスにエネルギー過剰供給。量子の亀裂が不安定になり始めています。」 ライカー:「識別パルスを、一旦止めろ。」 また攻撃を受ける。 「…止められません。」 亀裂が光を発している。突然、別のエンタープライズが姿を現した。 しかも次々と。 スクリーンに、際限なく増えていくエンタープライズが映る。 ライカー:「一体どういうことだ。」 データ:「パラレルワールドの境界が、崩壊したのです。あらゆる次元が、なだれ込んでいます。」 エンタープライズの出現は、止まらない。 |
※37: TNG第82話 "Future Imperfect" 「悪夢のホログラム」のバラシュによる架空世界で使われた、階級章を兼ねたタイプ。その際とは違い、襟にある本来の階級章と併用されています ※38: quantum flux ※39: quantum signature ※40: Wesley Crusher (ウィル・ウィートン Wil Wheaton) TNG第119話 "The First Duty" 「悲しみのアカデミー卒業式」以来の登場。当初はターシャ・ヤーを出す案もありました。声:石田彰 (継続) ※41: quantum fissure ※42: タイプ名が言及されるのは初めて ※43: quantum reality リチャード・ファインマン博士の理論に基づくもの ※44: Shannara ※45: Eric-Christopher ブラガの甥にちなんで |
辺りの空間を埋め尽くすほど、エンタープライズが現れ続ける。 ウェスリー:「ベイジョー船、撤退していきます。」 データ:「次元の進入率は、指数関数的に伸びています。このままでは、この星域は 3日以内にエンタープライズで埋め尽くされます。」 「艦長。28万5千の通信が入ってきています。」 ライカー:「…説明しようがないな。」 制服の裾を伸ばす。「データ、進入を止められるか。」 データ:「恐らく。…ウォーフ副長の量子特性に合う船を、見つけられればです。」 「で、どうなる。」 「各次元間の境界が弱められた原因は、副長がシャトルで亀裂を通過したことです。同じシャトルで亀裂に再突入して、広範囲のワープフィールド※46を作ってやれば量子の亀裂は閉じ、別次元の進入を止められるかもしれません。」 「それから? 既にここにいるエンタープライズを、どうやって戻すんだ。」 「理論上、亀裂を閉じることで各次元の境界が再構築され、それぞれの世界に戻るはずです。」 「…クラッシャー大尉。全ての船に向け、宇宙チャンネルを。」 ウェスリー:「了解。」 「エンタープライズ艦長ライカーだ。」 笑うライカー。「つまりこの次元に存在する、エンタープライズのだ。現在次元が、混乱している。…しかし我々が、元の状態に戻す方法を発見した。そのためある量子特性をもつ船を、正確に特定する必要がある。今からその情報を送信する。調べてもらいたい。」 操作するデータ。 ライカー:「…返事は。」 ウェスリー:「信号が入り乱れていて、誰が誰を呼んでいるかも全くわかりません。…待って下さい? これです。返事が来てます。」 「スクリーンへ。」 ピカード:『艦長、量子特性が一致した。我々の船らしいぞ。』 いつものブリッジで、ウォーフを見るライカーが映る。 「データが分析したところでは、ウォーフをまた亀裂に送れば…元の次元に戻ると思われます。」 『こっちのデータも同じ意見だ。』 「それではシャトル・キュリーを、こちらへ送って下さい。」 『すぐ送ろう。』 「よろしく。…懐かしい艦長に、会えてよかった。」 ピカードは自分のライカーを見た。 シャトル格納庫。 ライカー:「これに間違いないな。」 データ:「はい。ウォーフ副長の量子特性と、正確に一致します。シャトルのエンジンを改造し、逆ワープフィールドが発生するようにしました。亀裂に進入すると同時に、フィールドを生成して下さい。」 ウォーフ:「成功したとして、エンタープライズ付近に戻れますか。」 「上手くいけば、そうなります。ですが不確定要素※47が多々ありますので、時間の変化もあるかもしれません。亀裂に進入した日の前後に数日、ずれる可能性があります。はっきりとは言えません。」 「わかりました。」 ライカー:「幸運を。」 独り残ったトロイと、ウォーフは抱き合った。キスする。 無言でキュリーへ向かうウォーフ。一度振り返った。 発進したシャトル。 ウォーフ:「量子の亀裂にコースセット。」 ライカー:『了解。』 いきなり揺れるキュリー。 報告するウェスリー。「シャトルが攻撃を受けています。」 ライカー:「またベイジョーか。」 「いえ、別次元のエンタープライズです。通信が入っています。」 「…スクリーンへ。」 乱れた映像の、ライカーが映った。『絶対に戻らんぞ。』 髪やひげは乱れており、後ろにウォーフだけが見える。『俺たちの宇宙がどうなってると思う。連邦は壊滅し、ボーグが支配してるんだ。…もう俺たちの船しか残ってない。頼む、助けてくれ!』 ライカー:「選択の余地はないんだ。これが上手くいけば、次元の混乱が元に…」 『俺たちは戻らんからな!』 通信は切れた。 ウェスリー:「またシャトルを攻撃する気です!」 ライカー:「撃て、武器を使用不能にする。」 シャトルを攻撃しているエンタープライズに向けて、光子魚雷が発射された。 ウェスリー:「命中しました。防御スクリーン崩壊。エンジンコア、オーバーロード。」 そのエンタープライズは光を発し、爆発した※48。 ライカー:「なぜだ。」 ウェスリー:「既に、かなりの損傷を受けていたようです。ワープ抑制フィールドが弱っていたんです。」 「ボーグにやられたんだろう。」 データ:「艦長、ウォーフが亀裂に入ります。」 うなずくライカー。 ウォーフは報告する。「メインシステム、チャージ開始。これより、逆ワープフィールドを生成する。」 前方の窓に広がる亀裂。 突入した。 キュリーの中に、何人ものウォーフ※49が同時にいる。制服の色もさまざまだ。 光に包まれた。 床に倒れていたウォーフは、起き上がった。 宇宙空間を進んでいるシャトル。 ウォーフ:「ウォーフよりエンタープライズへ。」 ピカード:『こちらエンタープライズ。』 「艦長。何か異常はありませんか。」 『特にないが? どうかしたのか。』 「…いえ、別に何でもありません。…そちらに戻ってから説明いたします。」 『バトラフ大会はどうだった。』 ウォーフは脇を見た。そこにあったのは、大きなトロフィーだ。「有意義でした。…優勝トロフィーをお見せしますよ。」 エンタープライズ。 ライカー:「なら、その亀裂のことはもう心配しなくていいんだな。」 ウォーフ:「ええ、逆ワープフィールドで完全に閉じましたので。」 「報告書を楽しみにしてるぞ。」 ウォーフはドアの前で立ち止まった。 歩いていこうとしたライカー。「…どうかしたか。」 ウォーフ:「何を企んでるかはわかってますよ。もう驚きませんからね。」 「驚く? 何の話だ。」 「いえ、ならいいんです。」 部屋に入り、バトラフを置くウォーフ。 トロフィーを見つめた後、ゆっくりと隣の部屋を確認する。 トロイ:「おかえり、ウォーフ?」 逆の部屋から容器を持って出てきた。 驚くウォーフ。 トロイ:「勝手に入ったけどいいわよねえ。…留守の間、ダルヴィン・ヒスビートル※50に餌をあげるってアレキサンダーと約束したの。」 ウォーフ:「…ここに住んでるわけじゃないんですね。」 「…何それ、どういう意味?」 「…話せば長いんです。」 トロイは箱を渡した。「…誕生日おめでとう。ウィルはサプライズパーティをやるって言ってたんだけど、あなた嫌だろうからやめさせたの。」 ウォーフ:「…どうも。」 「クリンゴンは誕生日には、ひっそり過ごしたいのよね? 独りで瞑想したり、棒※51で頭を殴ったりするんでしょ?」 「ディアナ。…慌てて帰らなくても。」 「そう?」 「実は、食事がまだで。一緒に…どうだろう。」 「…喜んで?」 トロイを椅子に座らせたウォーフは、レプリケーターの前に立った。「……シャンパン。」 トロイは、それを聞いて不思議そうな表情を浮かべた。 |
※46: broad-spectrum warp field 逆ワープフィールド (inverse warp field) ※47: 原語では「この状況では不確定性原理 (uncertainty principle) が影響しますので」 ※48: TNG第151話 "Timescape" 「時空歪曲地帯」での映像の使い回し ※49: 後ろにいる 2人は、代役だそうです ※50: Dalvin hissing beetle hissing =シューという音 ※51: ペインスティック painstik クリンゴン人が使う、電流を発する長い棒。TNG第40話 "The Icarus Factor" 「イカルス伝説」など |
感想など
変わった切り口が多いブラガ脚本の中でも、その極致ともいえるエピソード。パラレルワールドという難解なストーリーを、これほど上手く具現化させたのは見事です。ファンには嬉しい設定が続々登場し、本文中でも見逃している「変化」がまだあるかもしれません。どうして彼が製作総指揮になるとくすんでしまったのか、不思議ですね。まあ余談ですが。 当初はピカードが主役だったそうです。ウォーフとトロイの (視聴者からすれば) 短命に終わった恋愛関係は、このエピソードが発端となります。トロイは初期版を除き、全ての私服が登場したそうです。カーデシアやベイジョーがパラレルワールドでのネタとして使われていますが、DS9 第2シーズンが同時期ということを考えると奥深いですね。 |