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TOS エピソードガイド
第41話「不思議の宇宙のアリス」
I, Mudd

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・イントロダクション
※1廊下。
通りがかったクルー、ノーマン※2が挨拶して歩いていった。「おはようございます、ドクター。」
スポック:「どうかしましたか?」
マッコイ:「ああ、あの男はどうも変だよ。合点のいかないところが多すぎる。」
「わからないのは当たり前です。本船に乗ってきてからまだ 72時間です。」
「いや、私が一目見ておかしいと思ったら本当におかしいんだよ。」
「どんなところが。人は見かけじゃわかりません。」
「じゃあ言うが、あの男は一度も笑ったことがないし仕事の話以外はしゃべったこともない。今まで何をしてたかも全く言おうとしないんだよ。」
「…なるほど。」 歩いていこうとするスポック。
「スポック。ヴァルカン人はともあれ、我々地球人には変に見えるんだ。君の耳と同じように…」
「しかしドクターの言っていることは理屈には合わないことばかりですよ。」
「かもしれんがこれは理屈じゃない、私の直感で言ってるんだ。それにあの男はこの船に乗ってきたとき、精密検査をしてやろうと言ったら 2度も逃げてる…」
「それは珍しいことではありません。ドクターの診療は怖いという者はザラにおります。」

ジョルダン少尉※3がコンピューターの前にいる、副司令室。
外の「関係者以外立入禁止」の表示を見ているノーマン。中に入った。
ジョルダン:「何だ君は!」
ノーマンは軽くチョップし、ジョルダンの意識を失わせた。素早く操作を始める。
「オーバーロード/危険」のランプが灯った。

ブリッジのカークは、チュニックを着ている。「何だ、スールー。」
スールー:「指示を与えてないのにコンピューターにコース変更がセットされています。」
「修正しろ。」
「…できません。」
「船長より、副司令室※4。…おい副司令室、どうしたんだ。」
「方向制御装置が全く効かなくなりました。」
「船長より警備班。」
保安部員:『警備班、ローウ大尉※5ですが。』
「侵入者だ、副司令室を警戒しろ。」
『わかりました。』
「ウフーラ大尉※6、スポックをここへ呼んでくれないか?」
ウフーラ:「はい。」
「スールー、コース変更の位置は。」
スールー:「コース変更 307度、マーク 8 です。旋回を開始しました。」
向きを変えるエンタープライズ。

副司令室に入るローウ。「ジョルダン。」 状態を確認する。「手当てをしてやれ。」
保安部員に運ばれるジョルダン。

ローウ:『警備班より船長。』
カーク:「カークだ。」

ローウ:「ローウ大尉です。いま副司令室におりますが、ジョルダンが気絶しておりました。方向制御装置が何者かに壊されて、機能を失っています。」

カーク:「侵入者はいないか?」

ローウ:「いいえ、ここにはおりません。各デッキに、警戒命令を出しました。」

カーク:「捜せ、以上だ。」
スポックがターボリフトを出た。
カーク:「スポック、何者かにコースを変えられてしまったらしい。」
スポック:「なるほど。」
「スールー。方向制御装置に、非常エネルギーを送れ。」
スールー:「…船長、全然反応がありません。」
「方向制御室、応答せよ。」

機関室の 2階で作業しているノーマン。ほかのクルーは気づいていない。
カーク:『こちらカーク船長だ。』
倒れたクルーがいる。出ていくノーマン。

カーク:「船長より方向制御室、応答せよ。」

ノーマンに気づくスコット。「立入禁止だぞ…」 はねつけられた。
機関部員が殴りかかるが、ノーマンには効かない。抵抗しようとするスコット。
カーク:『スコッティ、こちら船長。応答せよ。スコッティ、どうしたんだ!』

カーク:「機関室※7。船長だ、応答せよ。スコッティ、侵入者が現れたのか。」

動けないスコット。ノーマンは機関部員をたやすく投げ飛ばしていく。
カーク:『スコッティ、一体どうしたんだ!』
操作するノーマン。
スコットは通信機に触れた。「船長、ここにいます。」

カーク:「スコッティ。スコッティ!」

スコットはまた意識を失った。2階へ上るノーマン。

カーク:「スコッティ! 警備班、侵入者が機関室にいるらしい。すぐそっちへ行ってくれ。」
スールー※8:「急にスピードを増しました。6、ワープ7。」
「パワーを切れ。」
「駄目です、コントロールが不能です。」
「スポック、頼むぞ。」
カークがターボリフトが向かおうとしたとき、ノーマンが出てきた。カークの腕をつかむ。「船長、何をしても無駄です。」
離された腕をさするカーク。「警備班にここにいると伝えろ。一体これはどういうことだ。」
ノーマン:「全てのコントロールを握りました。…エンジンコントロールも、方向制御装置も私の手にあります。すでに方向は固定してあります。…もしも無理に作動させようとすれば、本宇宙船は自ら破壊を招きます。」
「スポック。」
スポック:「その通りです。コントロールは全て、握られています。どこで方向を固定されたかわからなければ、もはやコースは変えられません。」
「…何者だ。」
ノーマン:「地球人をはじめ全ての宇宙人に、害を及ぼしません。ただこの宇宙船を、我々はもらいたいのです。」
「我々? 『我々』とは誰だ。」
ノーマンはおもむろに自分の制服をまくった。腹に四角く区切られたところがあり、そこを開けると中には電子回路が詰まっていた。
ランプが明滅している。


※1: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 マッドの天使たち」収録「我輩はマッドである」になります

※2: Norman
(リチャード・タトロ Richard Tatro) 声:嶋俊介、TOS カイル、ムベンガ、旧ST5 マッコイなど

※3: Ensign Jordan
(マイケル・ザスロー Michael Zaslow TOS第6話 "The Man Trap" 「惑星M113の吸血獣」のダーネル (Darnell)、映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」のエディ (Eddy/Eddie) 役。1998年12月に死去)

※4: 吹き替えでは「機関室」

※5: Lt. Rowe
(マイク・ハウデン Mike Howden TOS第59話 "The Enterprise Incident" 「透明宇宙船」のロミュラン護衛 (Romulan Guard) 役) 吹き替えでは「ロース中尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます

※6: 吹き替えでは「尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます

※7: 吹き替えでは「制御室」

※8: このシーン以降、本来は登場してもよさそうな時でもスールーは出てきません。さらに TOS第51話 "Return to Tomorrow" 「地底160キロのエネルギー」に至るまで、一切出番がありません。これはジョージ・タケイが映画「グリーン・ベレー」(1968) の撮影に行っていたため

・本編
ブリッジ。
回路を見るカーク。「アンドロイドだ。」
スポック:「精巧なロボットです。」
パネルを閉じるノーマン。「もう方向は変えられませんし、力によって解決はできません。フェイザーガンを使っても方向は、変わりません。我々が現在固定されてる方向とスピードで、これより約4日間飛び続けるならば目的地に着くでしょう。」
カーク:「どこへ行くんだ。」
ノーマンは横を向いた。「…それに答えるように、プログラムされておりません。」
腕を組んだまま目を閉じる。
ノーマンの顔に触れるスポック。「自分でスイッチを切ったようですね。…方向をどこで固定さしたのか探すのは不可能ですよ。」
カーク:「とすれば、成りゆきに任せるしかないな?」

『航星日誌、宇宙暦 4513.3※9。精巧なロボット、アンドロイドにコントロールを奪われた我々は、宇宙地図にはない正体不明の惑星へと向かわざるをえなかった。』
ブリッジ。
突っ立ったままのノーマンにぶつかりそうになるウフーラ。ターボリフトから出てきたチェコフもノーマンを見る。
ノーマンは突然目を開いた。「カーク船長。…次に述べる者は、私と共に我々の惑星へ上陸します。船長、科学将校、軍医将校、通信担当将校、そしてナビゲータ。」
カーク:「話し合いをもちたいなら、この船内でもできるぞ。」
「命令に従わなければエンジンは破壊され、永遠にこの周回軌道に残るでしょう。」
「ご丁寧な御招待だね?」
「ご丁寧な? それは、あなた方地球人には意味があっても我々の言葉の中ではわかりません。」
「どうして、わからないんだ。」
「どうぞ※10。」

惑星軌道上のエンタープライズ。
部屋に転送されてくる 6人。
ノーマン:「我々の惑星はあなた方の言う、Kタイプ※11です。ここは人間に合った気圧に調整され、生命維持装置があります。」
一帯は洞窟の一部を切り出したようにも見える。
ノーマン:「連れてきました。」
ドアの前に立つ女性。「お待ちしておりました。」
そっくりな人物が近くにいる。「どうぞお入り下さい。」
通された部屋の大きな椅子に座っていた男は、酒を飲んでいる。その脇にも、入口にいたのと同じ姿の女性が 2人いる。
カーク:「こりゃあ、信じられんな。」
男はハリー・マッド※12だった。「これはこれはカーク船長。しばらくだったなあ。」 笑う。
「ハリー・マッド。」
「おい、初めにはっきりさせておくがね。わしはここの王様と考えてもらいたい。この惑星王国を治める支配者ってわけだ。」
「支配者。ハリー、宇宙船を元に戻してくれ。こんなところにいる暇はないんだ。」
「そいつはちょいと無理な相談だな?」
コミュニケーターを取り出すカーク。「エンタープライズ、エンタープライズ…」
マッド:「アリス※13。」
「99」と書かれたペンダントを着けた女性は、コミュニケーターをつかんだ。すぐにひしゃげる。
マッド:「ダメだよ、カーク※14。ここじゃあ勝手な通信は御法度だからねえ。」
チェコフ:「この男知ってるんですか?※15
カーク:「ああ、知ってるどころじゃない。悪党のハリー・マッド、大泥棒だ。」
マッド:「よしてくれ。」
「ペテン師、山師…」
「ブローカーだよ。」
「宇宙のゴロツキ!」
「そんな風に思ってたのかい。」
「その証拠に刑務所に入ってたぞ。」
「そりゃ確かにそうだけど、しかしよーく見てくれよ? ここは刑務所ではない。ま、ゆっくり楽しんでもらいたい…実にいいところだよ、ここはなあ…」
「ハリー、お前のロボットに命令して宇宙船の方向制御装置を直させて…」 壊れたコミュニケーターを、マッドのジョッキに入れるカーク。「釈放してくれ。」
「時期がきたら、そうしてやるさ。」
「いますぐやってもらおう!」
「ここで命令するのはやめてくれ、命令するのはわしの方だ。お前は聞く方。」
「…よーし、聞こう。…何を言いたい。」
「ま、この惑星での暮らしを楽しむことだな? こんないいところありゃあしない。もう出ようたって出られないし? ま、一生涯ここにいてもらうことになるな。」 マッドは大きな声で笑い続けた。


※9: 吹き替えでは「0408.3041」

※10: 原語ではノーマンの「ご丁寧な?」の個所から、「ある言葉があります。それは、あなた方地球人には意味があっても我々の言葉の中ではわかりません」 カーク「それで、その言葉とは何だ」「お願いします (=Please)」

※11: K-type
Kクラス惑星 (Class-K planet)

※12: Harry Mudd
(ロジャー・C・カーメル Roger C. Carmel) TOS第4話 "Mudd's Women" 「恐怖のビーナス」以来の登場。本名のハルコート・フェントン・マッド (Harcourt Fenton Mudd) は原語では言及されていますが、訳出されていません。声:雨森雅司 (前回は富田耕生)、DVD 補完では飯塚昭三

※13: アリス・シリーズ Alice series
(アリス・アンドリース Alyce Andrece) (レイ・アンドリース Rhae Andrece) クレジットでは Alyce がアリス1〜250号 (Alice #1 Through 250)、Rhae が 251〜500号 (Alice #251 Through 500) を演じていることになっていますが、例えば 1号と 2号が同時に登場している個所があり、誤りです。声:DVD 補完では小池亜希子 (アリス210号)

※14: 原語では「ジェイミー坊や (Jamie Boy)」

※15: このセリフにより、前回マッドが登場した TOS "Mudd's Women" の出来事をチェコフは知らないことになります。チェコフは第2シーズンからの登場なので、当たり前といえば当たり前です。しかし映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」では、(第1シーズンの) TOS第24話 "Space Seed" 「宇宙の帝王」の際にカーン (カン) とチェコフが会っていたかのような設定になっています

微笑むマッド。
カーク:「ハリー・マッド。この上悪事を重ねるつもりか。ただちに方向制御装置を直してもらいたい。」
マッド:「ダメだよ、法律に違反することになる。わしの法律にだ。ハリー陛下が布告したものだ。しかも、ここの住民たちの投票に裏づけられておる。」 笑う。※16「どうだ綺麗だろう、うーん? …この年になってもわしは女には目がなくてなあ? 常に侍らせておくよう布告を出した。…ここじゃあわしの命令なら何でも通るのだ。」
合図するマッド。元々いたのと同じ女性 2人組が、横に並んだ。
マッド:「500名の美女がいつも、そばにおる。」
反対側も同じだ。合わせて 6人。
マッド:「どの女もそっくり同じ。美しく、素直で、従順だ。」
スポック:「同じ女を 500人? なぜそのようなことを。」
「スポック! 君にはこういった類のことはわからんだろうが、こういう女がわしには好みに合っとるんでな。…もうよいぞ?」
2人を残して去るアンドロイド。

カーク:「一つ聞くが、どうやってここへ来た。こないだ会ったときはライジェル星での一件で捕まったはずだぞ※17。」※18
マッド:「そう、あの時はわしは技術情報会社というのをこさえてな? 新しい技術を遅れている惑星に売り込もうとあらゆるパテントを集めてまだ歴史の浅い惑星の間を、あちこち売り歩いておったんだ。」
「そのパテントには使用料を払ったのか。」
「ああ、そりゃあまあ。まあこの世の中は宇宙と言えども自由競争が続いておる。さすればわしとて? 目の前にぶら下がった利益を放っとけるわけがない。」
スポック:「パテント料を払っていません。」
「そんなものは、払う必要はない。」
カーク:「誰に捕まった。」
「これはわしが運が悪かったからだ。」
「誰に捕まったんだ。」
「いやあその…ヴァルカン燃料会社※19のパテントを惑星デネバ※20の会社に売ろうとした時にだよ?」
「デネバはヴァルカンに通報したんだな?」
「あ、あ、なぜ知ってる?」
「誰でもそうするさ。」
「ああ、お堅い警察でな。ユーモアもわからずわしを逮捕しおった!」
マッコイ:「そりゃお気の毒だったね?」
「気の毒ってもんじゃない、デネバ※21じゃ詐欺罪はどう罰するか知っとるか?」
スポック:「選ぶことはできるが、電気椅子かガス室かフェイザー銃による銃殺か縛り首か、いずれにしても死刑だ。」
「何百年も昔のやり方をまだやっとる。死刑だぞ? 詐欺の罪で。もちろんわしは逃げた。」
カーク:「脱獄したんだ。」
「そして宇宙船を借り…」
「宇宙船を盗んで。」
「奴らは、じきに気がついた。」
「攻撃された。」
「人の宇宙船だと思ってあいつらはフェイザー砲撃ちまくりやがった! …おかげであんたじゃないが方向制御装置を失って宇宙の中を長いことさまよい、そして…ここ※22にたどり着いた。…以上だ。」
スポック:「しかし危険を冒してここに宇宙船を降ろすからには、
※23当然何か思惑があったんじゃないのか?」
「その時は、そんな余裕などもちあわせてはおらんよ。」
カーク:「…それからどうしたんだ?」
「ああそうだ、話を続けよう。そしてここに上陸したら何と 20万のよく働く、人のいいアンドロイドがいたわけだ。しかもそのどれもが人に仕えるように、造られておる。…ここは全く、パラダイスだよ。」
スポック:「だったらなぜ我々を呼ぶ必要がある。」
「みんながわしを離してくれんのだ。連中は人間というものを知りたいがためにわしを通じて研究しておるのだ。」
カーク:「はあ、結構な見本だな?」
「言葉に気をつけろ! わしはここの王様だぞ? ま、いずれにしろわしは研究し尽くされて教えてやることは既にもう何もなくなった。そしたらもっと人間を連れてこいと言いおった。連中は仕えたり研究したりする人間が必要だ。それでわしはいい人間を連れてくると約束をした。宇宙船の船長だ。」 笑うマッド。「賢明、忠実、無敵そして想像力あり。あんたのような人に来てもらって助かったよ。そうすればあんた方にここにいてもらってその代わりに、わしが文明の国へ帰されるってわけ…」
「そうはいかないぞ。」
「いくもいかないもあるものか、王様の命令は絶対だ。反抗は許されんぞ? …部屋へ御案内しなさい。」
声を合わせるアンドロイド。「はい、ハリー陛下様。」 アリスの一人、2号が言う。「こちらです。」
ついていくクルー。マッコイは壁の黒い枠を指差した。「これは何だ。」
マッド:「ああ。ああ諸君これはだな、我が愛するステラ※24を祭ってある寺院だよ。」
カーク:「誰を?」
「ステラだよ、妻だ。」 スイッチを入れるマッド。
マッコイ:「死んだのか。」
中年の女性が壁の奥に現れた。
マッド:「いやいやいやいや、ただ別れた。…知っての通り、偉大な男には妻の後ろ盾があるものだ。わしとて、その例外ではない。…宇宙へ送り出してくれたのは妻だ。ま、もっとも違う意味でだがな? ま、言わばあのガミガミ婆さんが…あーその嫌になったおかげで宇宙に出てったってわけだよ。つまり…妻のことを思う度に、わしゃ宇宙へ宇宙へと伸びていったってわけさ。」
マッコイ:「それは面白い、それでその奥さんを後で連れてきたのか。」
「いや、アンドロイドにステラそっくりのものを造らせた、いつでも見えるようにな。そうすりゃ、今の幸せが身にしみる。…諸君? いいかね? ステラ、ただいま?」
マッドを指差すステラ。「ちょいとお前さん、一体こんな遅くまでどこうろついてたんだい! このろくでなしが、よくも今頃ノコノコ帰ってこられたもんだ!」
マッド:「うるせえ!」
静かになるステラ。「あんた…あんた…あんた…」
マッドはスイッチを切った。元の黒い壁に戻る。「面白いだろうが? ノスタルジアが起こらなくて助かるわい…。わかったかな。」

広間を案内するノーマン。「皆さんゆっくりくつろいで下さい。部屋はこの向こうです。」
アリス1号:「何か必要なものは。」
カーク:「宇宙船を返せ。」
アリス2号:「それに答えるようにはプログラムされておりません。」
「ノーマン、誰がお前を造った。」
ノーマン:「アンドロメダ人です。彼らが我々をプログラムしたのです。」
マッコイ:「ではそれは人間じゃないな。」
「いいえ、あなた方とそっくりでした。しかし文明は地球人とは違っていました。我々は必要な奉仕をした後、彼らから離れました。我々だけで社会を作るためです。」
カーク:「彼らはどうした。」
「我々の生まれた惑星は突然、燃えました※25。宇宙に出ていた者だけが生き残ったのです。…ここの人も、私も。あなたの銀河系※26へ、探検に出ていました。」
「じゃあ造った人も、生き残ったのか。」
「いいえ船長。ずっと前に、全て死亡しました。」
スポック:「今は誰に奉仕してる。」
同時に答えるアンドロイド 3人。「ハリー陛下にお仕えしています。」
アリス2号:「生き甲斐を与えてくれました。」
アリス1号:「奉仕なくしては生きられません。」
ノーマン:「長いこと、なかったのです。」 出ていく。
「大きなライブラリーがありますから皆さんでお楽しみ下さい。」
アリス2号:「私どもの研究室や実験室は設備が整っております。」 2人は同時に言った。「どうか自由にお使い下さい。」
カーク:「じゃ、あとで使わせてもらう。とりあえず、ほっといてくれないかな?」
アリス:「なぜいてはいけないのですか?」
「そのわけはね、君らが嫌いだから。さあ、さあさあさあさあ。」
2人のアリスは去った。
カーク:「どうだ、意見は。」
チェコフ:「どうにもなりませんね。」
「ご立派な御意見だ、ドクターは?」
マッコイ:「チェコフの言うとおり、何をしたらいいのか全くわからん。」
「スポック、君も同じ意見か?」
スポック:「そうです。…でも急所に攻撃を加えれば、別です。明らかに、アンドロイドは個別の行動ができません。どこかに指令センター※27があって、全部はその指令に従って行動をしています。」
「では、みんなでその指令センターを探してくれ。私はハリーからもう少し事情を聞いてみる。」

他の男性アンドロイドと同じ格好に戻ったノーマンが、コンソールについている部屋。
ノーマン:「ミスター・スポック、面白くはありませんか?」
スポック:「面白いね。非常に、面白い。」 ノーマンが触れている、光る装置に目を留める。「これは変わった装置だねえ。」
「我々の、指令センターです。」
「ほう? ここには、アンドロイドが 20万以上もいるそうだね?」
「20万7,809人。」
「それにしては、簡単な指令センターだ。この装置だけで全てを操作してるのか。」
ノーマンがつけている数字の書かれたペンダントが、音を発して光った。「それには、答えるようプログラムされておりません。」
スポック:「なるほど? それはそうだろうね。」

アリスとは別の女性 2人※28が、筒の中に立っている。
アリス263号:「これは違った女のシリーズ。この身体はベリリウム・チタン※29の骨格に柔らかいプラスティックを被せて造られているのが特徴です。」
カーク:「立派なもんだな?」
ウフーラ:「綺麗な肌だわ。」
「私はスタイルが好きだよ。」
マッド:「そりゃもちろんこれとて、私の好みに合わせて造られておる。ほかにもメイジー・シリーズ※30やトゥルーディー・シリーズ※31、ああそれにアナベル・シリーズ※32などがある。」
「男性のアンドロイドは造らないのか?」
「男ね。ま男を造っても、ま便宜はするがな、うん…。」
ウフーラ:「あのような身体でどのくらいもつんですか?」
アリス19号:「アンドロイドの身体はまだ死んだことがありません。でもあえて生存期間を予測するならば、ざっと 50万年※33くらいでしょう。」
「50万年もの間…生きるの?」
「もしできあがったアンドロイドに人間の脳を埋めれば、その脳の持ち主の人ができあがります。」
マッド:「不死身の身体そして? 永遠の美をもてる。な?」
アンドロイドを見つめるウフーラ。

広間のスポック。「ノーマンと話してるうちに※34わかったことですが、彼らの中に一つ大きな矛盾を発見しました。」
マッドが来た。「いやあ、喜んでいただいて嬉しい。」
マッコイ:「カーク、ここには素晴らしい研究設備や実験室があるぞ? 一生ここで研究したいぐらいだ。」
「研究に献身する人は見てても気持ちがいいな。」
カーク:「バカなことを言うな、こんなところにいつまでもいられるものか。」
「カーク、あんたは強情な人だな。」
マッコイ:「一生退屈しないで済むぞ?」
スコットの声が響いた。「おい、一体何をする気だ! 何だ、こいつは!」
アリスがスコットをつかんでいる。「これが最後です。」
手を離されたマッコイを支えるカークとマッコイ。
マッド:「よーしよしスコット、よくぞ来てくれたな。」 笑う。
スコット:「ハリー・マッド、貴様だなこんなことする奴は。女どもを手下に使って!」
カーク:「船内に残れと命令したはずだ。」
「そうです、残っていました。そしたら女ども※35に、転送室へ入れられてしまったんですよ!」
「『これが最後』とはどういうことだ。」
マッド:「いやあ、まだあんたには言わなかったっけ? わしはアンドロイドをあんたの船に転送してな、あんたの部下を 2、3時間でみんな降ろしてしまったよ。…い、入れ替わったってわけだな。」
マッドの首を押さえるカーク。「貴様、何を考えてる! 全部降ろす奴があるか、誰か残しておかなければ。」
マッド:「いやその点は心配いらんよ、アンドロイドは直に操縦を覚えてな…今ではちゃんとやっておる。ほ、ほんとを言うとわしが船を頂戴するんだ、今さらどうにもならんぞ。」


※16: TOS の旧国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (CS版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※17: TOS "Mudd's Women" より。旧吹き替えではカットの関係からか「惑星デネブの刑務所にいたはずだぞ」となっており、前回からの話がつながっていません

※18: ここで後ろに立っている 2人の男性アンドロイドは、ヘルマン・シリーズ Herman series
(トムテッド・リガード Tom and Ted Legarde) 特定のセリフなし、ノンクレジット

※19: 原語では「ヴァルカン燃料合成機」

※20: デネバ人 Denebians
原語では「会社」とは言っていません

※21: デネバ5号星 Deneb V
デネバ (デネブ) は、はくちょう座アルファ星。TOS第2話 "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」など

※22: 原語では「マッドを発見した」と言っており、ほかにも惑星自体にマッドと名づけたセリフが見受けられます。TNG第25話 "Conspiracy" 「恐るべき陰謀」での宇宙艦隊本部の星図内にもあるそうですが、画面上では読み取れません

※23: 旧吹き替えではカットの後、スポック「パテント料を払っていません」 マッド「それで刑務所に入ったんだからどうでもいいじゃないか?」となっています。LD ではスポックの吹き替えは、カット途中の該当する部分に使われています

※24: ステラ・マッド Stella Mudd
(ケイ・エリオット Kay Elliot 1982年12月に死去) 声:DVD 補完では滝沢ロコ

※25: 原語では「惑星の太陽が新星になりました」

※26: 吹き替えでは「太陽系」

※27: central control complex

※28: バーバラ・シリーズ Barbara series
(モーリーンコリーン・ソーントン Maureen and Colleen Thornton) セリフなし、ノンクレジット。服装は TOS "Mudd's Women" の女性の一人、イヴ・マクヒューロンと同じ

※29: 吹き替えでは「ベリリウム」のみ

※30: Maizie series
吹き替えでは「バーバラ・シリーズ」。原語では筒の中に入っているのがバーバラと呼ばれています

※31: Trudy series
吹き替えでは「アンナ・シリーズ」

※32: Annabelle series
吹き替えでは「エリザベス・シリーズ」

※33: 吹き替えでは「5万」

※34: 原語では「興味深い (fascinating) 会話をしてるうちに」

※35: 原語では「あの女のガルガンチュア」。ガルガンチュアはフランスの伝説の巨人

叫ぶマッド。
カークは手を離した。「ハリー。…ハリー、そうはさせないぞ。」
マッド:「…でも、どうやって止める。」
「宇宙艦隊だ。」
「なーに、大丈夫。あんたの宇宙船が艦隊の中で一番速い。追いつけるものか。」 笑うマッド。「そいつを忘れておったな。このハリーは美人を引き連れ悠々宇宙を遊ぶの巻だ、どうだね。」
「上手くいくもんか。」
「…アリス。」 マッドは共に出ていった。
スポック:「あれなら本当にできるかもしれません。たくさんのアンドロイドに聞いたらどれもハリーには忠実そのものですよ。…しかもアンドロイドは人間の要求するものなら、文字通り何でもまたいくらでも提供しますし、それを喜びとしています。」
カーク:「心配なのはそこだ。ここでは欲しいものは何でも手に入るとわかれば、部下たちは一体どうなるだろうか。堕落するかもしれない。」

マッドの椅子に座っていたチェコフ。
アリス一組が近づいた。「お酒はいかがですか?」
チェコフ:「ああ、もらおうか。ありがとう。…君はアリスの…」
声を合わせるアリス。「118号。」
チェコフ:「それに君はアリスの…」
アリス322号:「322号。」
「二人ともそっくりで、実に美しいな。」
アリス:「ありがとうございます。」
アリス118号:「ほかに欲しいものは、陛下?」
2人を見つめるチェコフ。「…君らが本物だったらな?」
アリス322号:「本物ですわ、陛下。」
「…いやあ、本当の女だったらだ。」
アリス118号:「女として機能するようプログラムされていますわ、陛下。」
「本当か。」
アリス:「本当ですとも、陛下。」
「ハリーがプログラムしたのか?」
「はい、陛下。」
「あのペテン師※36がお前たちを、本当の女としてプログラムしたというのか?」
「はい、陛下。」
「こりゃ宇宙船にいるよりいい※37。」 チェコフは酒を飲んだ。

稼働している装置。
スコット:「これは素晴らしい設備だ。手作りでこさえたマイクロビジョン※38。それにパルスレーザー※39。こんな結構なもの初めてだ。」
ノーマン:「造れと命令すれば何でも造ります。ご自分で造るのも、また自由です。ご命令があれば何人でも手伝いますし、あなた専用のコンピューターが必要であれば用意します。」
マッドと一緒に来たカークに話すスコット。「船長、実験室を見て下さい。こんな立派なところ、初めてですよ。」
カーク:「弱みにつけ込む、それがお前の手じゃあないのか?」
ノーマン:「我々はあなた方に、幸せになっていただきたいだけです。我々は皆さんに仕えて、あなた方から学びます。今まではハリー陛下だけから、我々は学んでおりました。…今はあなた方皆さんから、学ぶことができます。」

広間に戻るカーク。「さて金の籠に入った我々は、ここからどうやって出たらいいだろうな?」
チェコフ:「わかりません、でもこんな楽しい籠はありませんよ。」
ウフーラ:「…そうですわ、船長。あたくしも楽しくって。」
スコット:「君は何をしてもらったんだ?」
「私永遠の美っていうのが…気に入っちゃって。」
横になっていたチェコフを座らせるカーク。「君たち、宇宙船に戻ることを忘れてはいかんぞ。ちゃんとしろ! 確かに素晴らしいところだ。欲しいものは何でも手に入るが、鳥籠は鳥籠だよ。宇宙船に帰らなきゃあならん。」
アリス471号が近づいた。「欲しいものがございますか?」
カーク:「いや? ああ、あるある。宇宙船だ。」
「それに答えるようプログラムされていません…」
「プログラムされていませんか。」
「何かほかに必要なものがございましたら、遠慮せずに。」
「アリス。…宇宙船を返せと言ってるだろ? 我々の要求は、宇宙船に戻ることだ。」
「ほかに欲しいものがありませんか? あなた方を幸せにすることが目的なのです。」
「どう転んでも不幸せだ。」
「不幸せとはどういうことです?」
スポック:「人間がその欲望を満たされない状態を、人間の世界では不幸せと言うんだよ。」
「あなた方の満たされない欲望を教えて下さい。」
カーク:「エンタープライズ※40が欲しいんだ。」
アリス471号のペンダントが光る。「エンタープライズ※40は人の欲しがるものではありません、あれはただの機械です。」
カーク:「とんでもない、我々の愛する美しい女性だ。」
アリスのペンダントが光りっぱなしになった。「道理に合わず、道理に合わず、各隊員中継せよ。ノーマン答えよ。」 ランプが消えた。「不幸せの概念はありません。これを研究します。」 アリス471号は歩いていった。
カーク:「奇妙だね?」
スポック:「全くです※41。」
「ドクター、心理分析機を使ってアンドロイドを調べてみたかね?」
マッコイ:「やってみたが、隙一つありはしない。完全だ。心身共に完全無欠。悪癖も欠陥も恐怖心もないから、つけこむ弱味がない。しっかりしてるよ。…これほど強い精神は人間の世界にもありゃしない。」
「ああ、我々の部下も少ししっかりしてもらいたいもんだな?」

玉座の間で、アンドロイド相手に楽しそうなマッド。
カークが来た。「ハリー、ちょっと聞きたいことがある。」
マッド:「時間がないよ、時間が。いま荷造りが終わったとこだ。宇宙船のアンドロイドが後 24時間で出発しようとしてる。おお、それよりかここでせいぜい楽しんでるがいい。何か、欲しいものでもあるかな?」
「私の宇宙船だ。」
「まーだ言ってるのか、強情だねえ。しかし、そう言ってるのも今の内。私が宇宙船で発ってしまったらあきらめてここで楽しむようになるさ。」 笑うマッド。「これが最後のお別れだ、あ?」 ステラを起動させる。「…ステラ、ただいま?」
ステラ:「お前さんどこをうろついていたんだい、一体こんなに遅くまで。何だい、また飲んできたのかい? このろくでなしめが。お前さんのような人は、全くもう…」
「うるさい、黙れ!」
「とは、とは、とは…」 暗くなる。
「アリス2号、相変わらず綺麗だな。わしの荷物を宇宙船に転送してくれないか。」
他のアンドロイドも同時に答えた。「いいえ、お断りします陛下。」
マッド:「ん? な、何?」
ノーマン:「もはやあなたの命令には従えません。」
「…どうしてだ。」
「我々を造った者は賢明でした。奉仕するようプログラムしました。」
「だから奉仕したらいいだろう、荷物を船に送るんだ。」
カーク:「ノーマン、何か考えがあるらしいね。」
ノーマン:「その通りです、船長。ハリーは欠点の多い、典型的な人間です。…そのハリーを手がかりにたくさんの人間をここに集めるのが我々の目的でした。我々が補ってやらねばなりません、助力が必要です。」
「それは自分でやる。欠点のあるのが人間なら、それを補えるのも人間だ。」
「我々は害は与えませんが、宇宙船は頂きます。…あなた方はこの惑星に残るのです。」
マッド:「おいおい、そんな無茶なこと言うなったら。…いいかね、奉仕するということは従うことだ。」
アンドロイド:「いいえ、それは違います。」
「いや…アリス1号、命令に従って荷物を運んでくれないか。」
アリス1号は突き飛ばした。倒れるマッド。
ノーマン:「欠点の多い人間を、宇宙にはびこらせるわけにはゆきません。…全ての人を集めてきます。」
スポック:「集めてくるって? どうやって連れてくる気だ。」
「我々が奉仕します。みんなは我々の奉仕に喜んで応じるでしょう。そうすればすぐに、我々なしにはいられなくなります。」
アリス99号:「やがて人間の飽くなき欲望は、我々の支配下に入ります。」
「我々が、人間を治めます。」
スポック:「なかなかの知恵だ。」
カーク:「君たちは宇宙を支配するつもりか。そのやり方で。」
ノーマン:「その通りです。…我々は奉仕をし、幸せにし…支配するのです。」


※36: 原語では「クラーク」(ロシア農民)

※37: 原語では「レニングラードよりいい」

※38: microvision
プロップは TOS第48話 "The Immunity Syndrome" 「単細胞物体の衝突」などで再利用。背景の構造物も、後にエンタープライズの廊下で使われます

※39: ナノパルス・レーザー nanopulse laser

※40: 吹き替えでは「エンタープライズ

※41: "Fascinating."

広間のカーク。「これまではアンドロイドは言うなりになって面白い面もあると思ったが、人間を支配して宇宙征服を企むとあってはそう馬鹿にもしていられないな。」
スポック:「そうです、侮れません。しかもその可能性は十分にあります。」
マッド:「そうさ、奴らならやるだろう。」
「…とにかく何か対策を早く考えなくてはいけません。必要な数のアンドロイドが乗ったらすぐ出発しますよ、連中も急いでますからね。」
マッコイ:「なぜ知ってるんだ。」
「そう言ってました。」
「そう。」
カーク:「急ぐところをみると、奴らにも何か弱点があるのかな?」
マッド:「あんたはオツムがいいんだ、しかも考える機械スポックがついてる。何とかしてくれないか、わしだってあんた方と同様ここから出たいんだ。」
マッコイ:「だいぶ様子が変わってきたな、さっきまで我々を置いて去ってくと言ってたくせに。」
「まあねえ。」

カーク:「何か考えはないか。」
スコット:「船長。アンドロイドには必ず命令を出す指令センターがあるから、攻撃しては。」
スポック:「その指令センターというのを私は見せてもらったが、ごく簡単な装置だしあれはどうせ嘘らしい。…ほかに指令を与えるところがあるんだ。」
カーク:「そうだよ、すると何が指令を与えてるのかな?」
「アリスという女はここには、たくさんおります。バーバラという、シリーズもある。それに調べたところによると、ヘルマン・シリーズやオスカー・シリーズ※42など同じ男もたくさんいる。しかしノーマンというのは、一人です。」
「なるほど、ノーマンか。さっきアリスの一人にエンタープライズ※40は美人だと言ったら、そいつはこう言った。『ノーマン答えよ』、確かそう言った。だとすると…」
「つまり連中は理屈に合わないことを言われると独自では、判断できず指令センターに問い合わせなければならないわけです。」
「ノーマンにか。…ところがノーマンとて、合理的にできた頭脳であるからには理屈に合わないことには…回路に摩擦を生じて故障を。」
「不合理には、弱いんです。」
「そうだとすると、アンドロイドにも弱味があったわけだ。そいつを、理屈に合わないこと不合理なことを我々全員でアンドロイドにぶつけてやればいいわけだ。」
マッド:「船長、そりゃ一体どういうことだね。理屈に合わないだの不合理だの、わしにはさっぱりわからん。」
スポック:「つまりそれは確実な、そしてたった一つの我々のパテントだよ。」
「パテントだ? あのなあ、スポック。ま、どうでもいいけどわしたちは今ここでパテントの商いをしようとしてるわけじゃないんだぞ?」
「どうしてここで商いの話が出てこなければならないのか私にはわからない。全然関係がないことだ※43。」
「うーん…もういいよ。」
カーク:「ではこうしよう。ハリー、お前は手を貸すと言ったな。」
「当たり前さ、アンドロイドのような真っ当な奴らに宇宙を征服されたらこちとらはこれから商売がやりにくくなっていけないよ。」
「そうだとも、ハリー。そこで出発を遅らせるために、お前に一肌脱いでもらうことになる…」
「ほう、何をするんだ。」
「大したことじゃあないよ。…眠ってもらう。」
ハイポスプレーを持って近づくマッコイ。
マッド:「…どういうことだ。おいおいおいおい、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくんなよ。わ、わ、わしはな注射と警察は大っ嫌いでな、やめてくれよ。ほかのことなら何でもするから…」 意識を失った。
支えるカーク。「お前だいぶ太ったな。」

玉座のスイッチに触れたカーク。
アリス1号が近づく。「はい。」
カーク:「我々の間で病人が出た。元国王、ハリーだ。」
「彼は人間です、手当てはできるでしょ。」
「それはできるけど、医療器具がエンタープライズ※40にあるから取りに行かないと。」
「人間の立入は禁止されています。」
「そこは奉仕の精神で、ちょっとだけ取りに行かしてくれないかな。さもなければハリーは死んでしまう。そうすれば、奉仕の精神に反するよ?」
アリス1号のペンダントが光る。「患者の様子を見ろと指令されました。」

広間に入るアリス1号。「重体のようですね。」
眠っているマッドのそばにいるマッコイ。「間もなく死ぬだろう。」
アリス1号:「医療器具を持ってくれば助かるんですか?」
カーク:「そうだ。」
ウフーラ:「嘘よ? …あなたはだまされてるわ。ドクターが何かを注射して、病気に見せかけてるだけなのよ。罠よ。…宇宙船に行って妨害するつもりだわ。」
アリス1号:「ではお断りします。」
カーク:「ウフーラ、何を言い出すんだ。」
ウフーラ:「アンドロイドになりたいんですもの。不死身の身体になりたいの。永遠に生きられるのよ、いつまでも美しく。」
アリス1号:「そのようにしますわ? せめてこの御恩返しに。」
「お願いします。」
「私達が発つ前にアンドロイドにしてあげましょう。」 一旦こちらを見て、歩いていくアリス1号。
カークはウフーラの肩をつかむ。「ウフーラ。…見事だぞ。」
ウフーラ:「上手くいくか心配だったわ。」
スコット:「これで、連中の出発を引き延ばせた。何とかやれますね。」
チェコフ:「次はどうします。」
カーク:「まず、アリスたちをおとぎの国※44へ御招待しよう。」

玉座に座るカーク。
アリス一組が出迎える。「何か御用ですか?」
カーク:「ああ、見てもらいたい。」 手を叩く。
マッコイとスコットが部屋に入った。互いに礼をし、楽器を演奏する振りを始める。
続いて一緒に踊るウフーラとチェコフ。マッコイたちも無言で踊る※45
アリス2号:「何をしてますの?」
カーク:「お祝いだよ。」
アリス118号:「…何をお祝いしてるんですか?」
「奴隷になったこと。」
見つめるアリスたち。
カーク:「音楽好きか?」
アリス118号:「音楽?」 ペンダントが光り始める。
アリス2号:「音楽?」 こちらも同様だ。
ダンスをやめるチェコフ。「ありがとうございました。光栄でございます、ダンスがお上手ですね。」
ウフーラ:「それはどうもありがとう。」 いきなりチェコフを平手打ちする。
アリス2号:「どうしてぶつんです?」
カーク:「好きだからだ。…おい、チェコフ。床に座ってる奴があるか、気をつけ! …いいか、不動の姿勢だぞ。」
チェコフ:「はい、船長!」 片手を上げ、ジャンプし始めた。
「ハイ、ハイ!」と声を合わせるマッコイたち。
カーク:「…その調子だ、チェコフ。」
ランプが点滅するアリス118号。「理屈に合わない。」
カーク:「合わないのは君の方だよ。」
アリス118号は目を見開き、動かなくなった。灯り続けるペンダント。
アリス2号もだ。
寸劇をやめる一同。カークは合図した。
トリコーダーを使うマッコイ。「見ろ、計画通りだよ。機能を失った。」
カーク:「よーし、スポックの方はどうかな。」

マイクロビジョンを注視するスポック。「もちろん君の計算によると必然的に次元と次元の交わる、放物線状の光線を全体に渡り描き出すことは間違いない。」
アリス27号:「ミスター・スポック? あなたは本当に理論的で分析能力があるわ?」
「ありがとう?」
スポックは隣のアリス210号の首に触れた。ヴァルカン首つかみをしようとする。
アリス210号:「どうしてそんなことをなさいますの?」
手を離すスポック。「うーん。」 アリス27号を示す。「君を、愛してるから。しかし君は憎らしい。」
アリス210号:「でも、私とアリス27号は全く同じですわ?」
「そうだよ、だからこそ君が憎らしいのさ。君たちは同じだから。」
ペンダントが光る 2人。
目を閉じ、機能停止した。
スポック:「これでよしと※41。」


部屋の前にいるマッコイ。「上手くいったが、これで済んだわけじゃないぞ?」 マッドも立っている。
カーク:「どうだ。」
スポック:「成功です。しかし、枝葉はもぎ取りましたがまだ肝心の根っこが残っています。」
「ノーマンが指令センターだとすれば、アリスたちをこうしただけで相当参っているはずだ。したがって最後の打撃を与えればいい。みんなやることはわかってるな。」
スコット:「はい。」
スポック:「わかってます。」
マッコイ:「はい、船長。」
カーク:「頼むぞ?」

ノーマンがいる部屋に入るカークたち。アリス11号と 3号もいる。
ノーマン:「皆さん、何をするのですか?」
カーク:「降伏したまえ。」
「理屈に合いません。我々の方が動きが速いし、力の点でも勝っています。こっちが、強いのです。」
「いやあ、とんでもない。証明してあげよう。人間を害するようプログラムされてるか。」
「いいえ。」
カークに合図されたマッド。「しかし既に害を与えてるじゃないか。いいかい君たちのような機械とは違って人間ってのはなあ、パンだけでは生きられんのだよ。自由という栄養がなければダメだ。自由のない人間がどういうものかわかるか? 永遠に他の歯車と共に回転するただの機械でしかなくなる。」
さらに合図するカーク。
マッコイ:「君は物質だけを与えているに過ぎない。」
スコット:「飲んだり食ったりだけでは幸せではない、仕事がなければならないんだ。」
「汗水流して限りなく、働くことが必要だ。」
「身体を酷使して重いものを担ぐ。」 2人は互いを見る。「こうしてこそ、我々は幸せがえられる。」
人差し指をあごにつけた。
アリスたちのペンダントが光っている。
ノーマン:「これは、理屈に合わない。論理的では、ないこと。ミスター・スポック。説明を。」
カーク:「スポック。」
スポック:「理屈は、一足す一が二ということだ。二足す二が五になるのが、人間の世界だ※46。君の回路は正しくつながっている。…しかしコンピューターが狂った。耳がグリーンだよ?」
光り続けるアリスのランプ。
カークの合図によって、スコットが胸を押さえて叫び始めた。「もう我慢ができない、幸せやら楽しみやら私はもう飽き飽きしてきたぞー! ああ生きるべきか死ぬべきか、殺してくれー。」
カークたちは全員指で銃を形作り、スコットに向ける。口笛を吹いてフェイザーの発射音を真似る※47
スコット:「残虐な宇宙よ、さらばじゃ。」 倒れた。
脈を取るマッコイ。「死んだよ。」
ノーマン:「まさか、死んだはずがない。武器は何もないぞ。」
抱きしめるカーク。「スコッティ! 本当に死んでる。幸せでなかった※48、死んだ方が幸せだよ。寂しくなる。…我々の悲しみを伝えよう。」
いきなり笑うカークたち。
カークは両手を広げ、片足をスコットに載せた。「いい奴だった。よくエンタープライズ※40※49、惜しみなく身を捧げた。」 マッドを小突く。「この男こそ我々の夢だ。我々が、憧れるただ一人の男だ。夢の中の男だ。」
拍手するマッド。「そうともそうとも。」
握手を終えたカーク。「どうだ、君。」
ノーマン:「理屈に合わない、不合理です。論理を外れています。」
「理屈に合わないのが、我々だよ。おいスポック、時間だぞ。爆弾だ。」
スポック:「はい只今。」 制服をまくり、腹に手を入れる。
スコットが起き上がった。「爆弾!」
マッコイ:「女子供から先に殺せー!」
何も見えない「爆弾」を、両手で持つスポック。
カーク:「スポック。それでは少し、多すぎやしないか?」
スポック:「このくらいが丁度いいと思います、船長。」
下がるカーク。
スポック:「ハリー、いいかいくぞ?」
マッド:「はいはい!」 野球のキャッチャーのように構えた。
「気をつけて、落とさないようにしてくれ?」
口で音を立てるマッド。
スポックは「爆弾」を放り上げた。上を向く一同。
落としそうになりながらも、つかむマッド。アリスたちは目を開いたままだ。
「爆弾」を床に置くマッド。「雷管。」 マッコイから受け取り、セットしていく振りをする。「ヒューズ。…導火線。…スイッチ※50。」
構えるマッド。
ノーマン:「爆弾などは、ありません。」
カーク:「まあいい、まあ見ていろ。」
今度はゴルフのように構えるマッド。
カークたちは言った。「危ないぞー!」
打つマッド。「いやー、ボーン!」
カークたちは思い思いに動く。機能停止するアリス。
うめくマッコイたち。
カークは両耳を押さえる。「大丈夫か?」 アリスの前で指を鳴らした。
ノーマン:「爆弾は、何もなかった。」
マッド:「嘘をついた。」
「嘘?」
カーク:「そうだ、ハリーはいつも嘘をつく。だからハリーの言うことはみんな嘘だ。」
マッド:「いいかいノーマン、よーく聞けよ? 私はな、嘘をついている。」
ノーマンのペンダントも光り始めた。「嘘を言ってると言っているが、言うことが全部嘘なら、それは嘘の反対の本当だ。しかし本当を言えないとすれば、それは嘘だ。しかし嘘だと言っているからには、その反対になり理屈に合わない※51。理屈に合わない。説明して下さい、人間たち。あなた方のことを説明して下さい、お願いです!」 煙が上がり始めた。
アンドロイドの口調を真似するカーク。「それに答えるようにプログラムされていません。」
ノーマンは遂に動きを止めた。
戻るスポック。「連中は機能を停止しましたよ。」
カーク:「よし。」
マッド:「船長、今度という今度だけはあんたって人を見直したねえ。」
「ありがとう。」
「どうだいカーク、一つわしと手を組まないか。いい商売ができるぞ?」
「いい商売ができる? 君と私とで?」
「そうよ。」
「いやいや、もっといい考えがある。行こう。」

玉座の間のマッコイ。「スポック、君は面白くないだろうね?」 アンドロイドたちも並んでいる。
スポック:「面白くない、というのは私に縁のない地球人の感情です。私はそんなことありません。」
「我々は今度のことで君のような人の世界に入った。論理的、理性的、実用本位の世界だ。ところが図らずも非論理的な人間の方が勝った。そしてまた君はそのような人間の世界に戻ることになるわけだね?」
「私は別にそれを不満とは思っていません。非論理的な地球人の世界にこそ、我々論理的な人間が必要なのです。」
カーク:「やられたな?」
マッドの声が聞こえてきた。「そんなバカなことがあるもんか、わしだけのけ者にして。カーク、どうしてわしだけここに残れと言うのかね。」
カーク:「そうだ、このアンドロイドの惑星に島流しということになるね?」
スポック:「アンドロイドはまた動きだし、もっとたくさんのアンドロイドを造ることになるでしょう。その手伝いをなさい。」 離れる。
マッド:「…わしは何をするんだ、科学者にでもなれと言うのかね。」
カーク:「いやあ、見本になればいい。そうすればアンドロイドはお前のような人を、造るまいと努力するだろう。そういう見本になるだけでもこの先役に立つはずだ。」
「…いつまでだ。」
「まあそのような見本でなくなるまで、いるしかあるまいな?」
ため息をついたマッド。並んだ女性アンドロイド※52を目にする。「わしも…いろいろと、考え合わせてみるとここに住んでいるのもそう悪くはない。わしのできることは、まだまだほかにもたーんとありそうだ。それに本来なら死刑になる身体だが、そのわしがここで生きていられるんだ。しかし…その内きっと帰ってやるからな?」
カーク:「いいとも。ああ、もう一つ言っておくことがある。お前のことを世話してくれるように特別のアンドロイドを造ってやったよ? その女の人がいれば、お前は一層よく働くようになるぞ?」
「すまないな、船長。船長には何もかも心配ばかりかけて。」
「いやあ。」
ステラの声が聞こえた。「ちょいとあんた?」
マッド:「あ?」
ノーマンに案内され、ステラが歩いてきた。「いつまでこんなところで油を売っているつもりだい、また飲んでるじゃないのかい※53。そうだろ…」
マッド:「うるさい、ステラ。うるさいったら。うるさいって言ってるのわからんのか。うるさいよ、うるさいって!」
止まらないステラ。「夕べも帰ってこないでどこほっついてたんだい、今日って今日はだまされないからね、人をバカにするのもいい加減におしよ、このろくでなしが…」
その様子を見ているカークたち。
別のステラ2 が現れた。「あんた!」
うめくマッド。
ステラ2:「あんたって人は一体…」
マッドを小突き、ステラ1 と一緒になって小言を言い始めるステラ2。
マッド:「船長、こんなことってあんまりだー! …人間的じゃないよ!」
カークたちがいる方からも、ステラがやってきた。「ちょっとあんた! …今までどこほっつき歩いてたんだい…」
そのペンダントには、「500」とある。
マッド:「嘘だろう、500人もいるってのか。…いくらなんでもおかしくなっちまう。」 3人のステラに囲まれる。「もういい助けてくれよ、船長。後生だからさ、こんなのひどすぎるって!」

カーク:「お達者で、さようなら?」 去る一同。
「…お達者ってそりゃないよ、そりゃないよ、そりゃないよ! お達者って何だよそりゃー!」

惑星マッドを離れるエンタープライズ。


※42: Oscar series

※43: 原語では前のスポックの「パテントだよ」から、「チャンスだよ」 マッド「チャンスだ? あのなあ、スポック。あんたは素晴らしい科学将校かもしれんが、ま、偽のパテントを自分の母親に売ることもできんだろ?」 「どうして私の母親に偽造パテントの購入を勧めなければならないのか、私にはわからない」

※44: Wonderland、つまり「不思議の国」。邦題の由来でもある「不思議の国のアリス」より

※45: 数少ない手持ちカメラでの撮影

※46: 原語では「理屈はさえずる小鳥で、野原で鳴いている。理屈は綺麗な花輪で、非常に臭い」

※47: スポックまでもが口笛を吹いていますが、なぜか吹き替えでは再現されていません

※48: 原語では「幸せすぎた」

※49: 原語では「崇高な精神、冒険心 (sense of enterprise) にあふれ」

※50: 原語では「マッシー (5番アイアン)」

※51: 嘘つき (エピメニデス) のパラドックス

※52: DVD では次のカットとまとめて吹き替えし直されているため、「いつまでこんなところで油売ってるつもりだい、また飲んでんじゃないのかい」と微妙に違いがあります

※53: 一番左側にいる緑色のドレスを着たアンドロイドが、脚注※30 のメイジー・シリーズ Maizie (Maisie) series
(タマラスター・ウィルソン Tamara and Starr Wilson) セリフなし、ノンクレジット。服装は TOS "Mudd's Women" の女性の一人、ルースと同じ

また、その隣の赤い服のアンドロイドが、脚注※32 のアナベル・シリーズ

・感想など
あからさまなコメディエピソード。2度目の登場を果たしたハリー・マッドは、クルー以外では唯一の複数回キャラだと思われます (TOS シリーズ内。映画や他シリーズも含めれば多くいますが)。TAS にも出てましたね、そういや。双子を生かしたアンドロイドの描写は、なかなかでした。最後はお決まりのコンピューター破壊…。
クレジットされていませんが、David Gerrold が脚本に手を加えています。原題は "I, Claudius" 「この私、クラウディウス」にちなんで。邦題は内容的には、"Shore Leave" 「おかしなおかしな遊園惑星」と混同されそうです。エピソードガイドを始めた当初の順位は 70位と極めて低いですが、現在はもう少し上に位置しています。


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