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TOS エピソードガイド
第44話「惑星オリオンの侵略」
Journey to Babel

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・イントロダクション
※1赤い惑星の軌道上にいるエンタープライズ。
カークは礼服を着終えた。
マッコイ:「堅苦しいねえ、こんな服は。これじゃどのぐらい我慢ができるものかな。首のとこが痛くてしょうがない。」
カーク:「あとは惑星ヴァルカンの代表団を迎えるだけだ。そうしたら楽になれるよ。」 自室を出る。
「しかし、今夜は盛大なレセプションだ。しかも惑星コリード※2問題で意見が真っ二つに割れている 114 の代表※3を乗せて、これから先 2週間の旅をしなきゃならないとは、これまた肩の凝る話さ。」 廊下には異星人がたくさんいる。
スポックが合流した。
呼び出しに応えるカーク。「カークだ。」
チェコフ:『ヴァルカン代表の宇宙艇が、あと一分で到着します。』
「よし、格納庫を開いてやれ。」
通信が流れる。『宇宙艇着船用意。非常兵は格納庫へ。』

宇宙空間を飛行するシャトル。

集まっている保安部員。
通信:『着船用意よし。着船用意よし。』
シャトルがハンガーデッキに入ってくる。
通信:『気圧低下、気圧を低下せよ。』 ドアが閉まった。『格納庫内気圧、正常。』
ターンテーブルが回転する。
緑のランプが灯って二重のドアが開き、保安部員がシャトルに近づく。
そしてカークたちもやってきた。一列に並び、腕を組む保安部員。
マッコイ:「ヴァルカン人の挨拶はどうするんだ?」
ヴァルカン・サインをするスポック。
マッコイは真似しようとしたが、無理だった。「やりにくいね、我々には。」
ヴァルカン人の男性、サレック※4大使が降りてきてカークに近づいた。
カーク:「カーク船長です。」
ヴァルカン・サインをするサレック。「これは船長。」
カーク:「副長※5、スポックです。」
スポック:「ヴァルカン人の到着を名誉とします。よろしく。」
スポックは手を広げたが、サレックは何もせずにカークに言った。「ご立派な歓迎ぶりですね。」
カーク:「ありがとう。…チーフ・ドクターの、マッコイです。」
マッコイ:「ようこそ。」
今度は挨拶するサレック。「どうも。」
マッコイは真似しようとしたが、すぐにあきらめた。
サレック:「副官であり、同時に私の妻です。」 2本の指を差し出す。
ヴァルカン人の部下に付き添われており、フードを取った女性は自分の指を合わせた。
※6:「どうぞよろしく。」
カーク:「こちらこそ。…落ち着きましたらすぐに船内を御覧に入れます。スポックに案内させましょう。」
サレック:「ほかの人にしてくれませんか。」
「……その方がよろしければ。…スポック、今から 2時間後にヴァルカン軌道を離脱し出発してくれ※7。」
妻はスポックを見た。
スポック:「船長。サレック大使ご夫妻は、私の両親です。」
サレックを見るカーク。スポックは無表情のままだ。


※1: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 暗闇の悪魔」収録「バベルへの旅」になります

※2: コリダン Coridan
初言及。ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」で、種族の姿も含めて登場

※3: 原語では、そのうち 32人が大使ということも言っています

※4: サレク Sarek
(マーク・レナード Mark Lenard TOS第9話 "Balance of Terror" 「宇宙基地SOS」のロミュラン司令官 (Romulan Commander)、映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」のクリンゴン人艦長 (Klingon captain) 役。1996年11月に死去。第2シーズンでレナード・ニモイが降板する可能性があった際、スポック役の候補に挙げられた一人でした) 初登場。声:加藤正之、DVD 補完では小山武宏

※5: 吹き替えでは「一等航海士」

※6: アマンダ Amanda
(ミス・ジェーン・ワイアット Miss Jane Wyatt 映画「失はれた地平線」(1937)、ドラマ「パパは何でも知っている」(54〜60、マーガレット・アンダーソン役) に出演) 初登場。脚本・原案編集 Dorothy Fontana によれば旧姓はグレイソン (Grayson) ですが、未言及。声:寺島信子 (DVD 補完も継続)

※7: 原語では、この後に「転送降下して御両親に会わなくていいのか」と尋ねています。それで次のスポックのセリフにつながります

・本編
ヴァルカンを離れるエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 3842.3※8。我々は各惑星の大使クラスの人々を 114名乗せて、小惑星バーベル※9へ向かうことになった。折から我々の間には重要な問題が持ち上がっており、それを討議すべく会議を開くためであった。』
廊下の異星人たちを見るスポックの母親。
サレックたちを案内してきたカークは、機関室に入った。「ここが機関室です。メインコントロールを補助する、非常用の装置も備えております。こっちには、たくさんのコントロールコンピューターがあります。」
スポックがいた。
カークやサレックと離れた母親が話しかける。「地球人の間に長いこといて、まだ笑いを覚えないのね?」
スポック:「その代わり怒ることも覚えませんよ。」
「それに私達には 4年も会いに来ないなんて。」
「…お父さんと私の意見の衝突は、変わっていません。」
サレック:「家内を呼びましょう。」
母親は近づき、サレックと指を合わせた。
カーク:「ミスター・スポック。ちょっと来てくれ。」
3人のそばへ向かうスポック。「何でしょう。」
カーク:「コンピューターを説明して差し上げろ。」
サレック:「……スポックにコンピューターを勉強しろと言ったのは私です。ヴァルカン科学アカデミー※10に入れと言ったのに、こちらへ来てしまったのです。」
スポック:「…船長、失礼させてもらいます。」 離れる。
カーク:「…すいませんでした。お気を悪くなさったら、謝ります。」
サレック:「いや、そういう気持ちは地球人の感情です。部屋へ戻らしてもらいましょう。君は見学したまえ。」 出ていった。
「サレック夫人、一体どういうことですか。」
母親:「アマンダよ? ヴァルカンの名前※11はあまりお得意じゃありませんのね?」
「奥さんは。」
アマンダ:「私はもう何年も住んで覚えました。見学させてください? 主人がそう言いましたから。」
「命令みたいでしたね。」
「主人はヴァルカン人ですもの。私は妻です。」
「しかしスポックも、ヴァルカン人ですよ。」
「純粋のヴァルカン人はああではありません。理性だけです。地球人より合理的ですわ? でもそれだけに、一度食い違うと主人とスポックみたいに 18年間も話をしなくなりますの。」
「しかしスポックは、いい将校です。立派な人ですよ。」
「そう言っていただくのは嬉しいんですが、ヴァルカン人と地球人の二つの血が流れていますから。ここにいる以外は、難しいですわ?」
「…しかしお父さんはスポックがここにいることには、反対だそうですね。」
「でもあなた方には悪意はもっておりませんわ? ただ武力で平和を作るのには反対しております。」
「我々のもっているのは武力ではなく文明の道具と考えてもらいたいですね。それにスポックがここで研究しているように宇宙の探求には…絶好の場所ともなっておりますよ。」
「そうね? でも主人はスポックをヴァルカンにおいて、自分の道を歩かせたかったようですわ?」
「両方とも、強情ですな?」
微笑むアマンダ。「それは地球人の考え方です。」
ウフーラの通信が入る。『ブリッジより船長。』
カーク:「ちょっと失礼。」 モニターをつけると、ウフーラが映った。「カークだ。」
『船長、信号のようなものを傍受しました。内容は何であるか解読できません。』
「発信源は。」
『それがどうもおかしいんです。探してはみましたがまだはっきりしません。探知機には何も反応がないんです。でも強い信号なので非常に近いと思われます。』
「…第4警戒態勢だ。捜索を続けてくれ、以上だ。』

『航星日誌、宇宙暦 3842.4※12。今度の惑星連盟※13で討議されるテーマは、惑星コリードを我々の連盟に加入させるかどうかであった。このことを巡って、惑星間にはかねてから激しい利害の対立があった。我々はそれが会議場の惑星バーベルに到着する前に、船内で表面化しはしないかと懸念していた。』
食堂に集まっている異星人たち。背の低く肌が銅色の 2人※14は、並んだ食べ物のようなものをグラスに入れ、飲み物を注いだ。
マッコイ:「サレック大使、あなたはこの会議を最後に引退されるそうですが。余計なことかもしれませんが、ドクターとしてあなたのお体を心配しております。102歳で引退するからには何かお体に異常があったんじゃありませんか?」
サレック:「正確には 102.437歳です。地球人の年齢で言って。…いや、ほかにも事情がありますので。」
カーク:「…大使。」
2人が離れようとすると、鼻の大きな異星人が話しかけてきた。「ヴァルカンのサレック。コリードの加盟には、賛成するのかね。」
サレック:「ここでは意見を控えさせてもらいます。ヴァルカン政府の意見はバーベルの会議場において、発表します。」
「いや、言ってみろ。加盟に賛成なのか、反対なのか。言ってみろ。」
2本の触角をもった、肌の青い異星人※15が話しかけた。「なぜ今知りたいんだ、大使。」
鼻の異星人、テレライト人※16のガヴ※17。「彼の意見が会議場を支配する。だからどっち側に立っているのか、聞いてみたい。」
サレック:「今ここで意見を公表するのは、軽率と思います。」
「いや、構わん…」
カーク:「いや待ってください。サレック大使が指摘してきたように、意見はバーベルの会議場で述べるべきです。惑星コリードの連盟加入問題は緊急を要することですが、ここで解決はできませんよ。」
サレック:「……その通りです、船長。それが道理です。」
異星人:「失礼しました、船長?」
ガヴ:「今に後悔するぞ。」 部下と共に立ち去る。
「えー、今までガヴ大使に会ったことは?」
サレック:「前の会議で、激論を交わしたことがあります。」 離れた。
アマンダ:「あの方が負けましたわ。」
マッコイ:「スポック、君には地球人的な要素が一体どのぐらいあるのかね。サレックさん、ヴァルカン人の子供の教育は厳しいそうですが、それでもスポックは子供の頃地球の遊びをしましたか?」
「…ええまあね? セレット※18というペットを可愛がっていました。」
「セレット。」
「…一種の、オモチャのクマ※19です。」
目を逸らすスポック。
マッコイは微笑んだ。「オモチャのクマ?」
サレック:「…失礼します。私どもは疲れておりますから。」 アマンダと指を合わせた。「失礼。」
カーク:「どうぞ。」
マッコイ:「オモチャのクマか、ハハ…」
スポック:「ドクター、オモチャではない。ヴァルカンでペットにするクマは、生きている。そして、15センチの牙をもっている※20。」
カークは笑った。
チェコフの通信が入る。『ブリッジより船長。』
カーク:「カークだ。」
『船長、所属不明の宇宙船らしきものが我々をつけています。』
「すぐに行く。第3警戒態勢に入れ。乗客には知らせないように。」

※21スクリーンに光点が映っている。
ブリッジに入るカーク。「報告。」
チェコフ:「小型宇宙船です。…5分前からフェイザー砲の届かない、ギリギリの位置に留まっています。」 操舵士はハドレイだ。
「正体がわからないか。」
スコープを覗くスポック。「探知機では大きさだけはわかりますが、しかし形態はわかりかねます。はっきりしません。」
カーク:「通信はないか。」
ウフーラ:「翻訳機を通じて各周波数を出しましたが、応答がありません。」
「そのまま、続けてくれ。本艦隊に照会してみろ。」
スポック:「この付近には、我々の宇宙船以外飛行物体はないと言っています。」
船を見るカーク。「正体を、推測できるか。」
スポック:「推測ですか。もっとデータがなければわかりませんよ。」
「ミスター・チェコフ、もっと近くから見てみたいから接近してくれないか。」
チェコフ:「はい。」

部屋にいるサレック。「さっきはスポックを責めてたね。笑えなど無理だよ、あれもヴァルカン人だ。」
アマンダ:「地球人でもありますわ?」
「宇宙艦隊の将校だ。」
「…宇宙艦隊には反対だったんじゃないですか。」
「反対しようと賛成しようと、宇宙艦隊にいることは事実だ。であるからには威厳をもたねばならない。」
「あなた。スポックを誇りにしてるのね。あなたも地球人並みに息子を誇りにしてるんだわ。」
「…息子としてではない。少なくとも将校であれば、あれに尊厳を与えてやらなければならない。将校スポックの地位に対してだ。…わかったかね。」
「よくわからないけどどうでもいいわ? あなたを愛してるんですもの。」 指を出すアマンダ。「ああ、わかってます。論理的じゃないって言うんでしょ?」
微笑み、指を合わせるサレック。

報告するスポック。「宇宙船はコースを変えて、かなりのスピードでこっちへ向かってきています。」
カーク:「フェイザー砲スタンバイ。」
チェコフ:「フェイザー砲、スタンバイします。」
クルーが見守る中、光点がスクリーンを横切っていった。
スポック:「…これはすごい。
宇宙船は目下ワープ10 のスピードを出しています。」
カーク:「コースを元に戻して、動きを常に報告しろ。」
ウフーラ:「船長。ただ今もう一度本艦隊に確認してもらいましたが、やはりこの付近には宇宙船はいないはずだそうです。」
チェコフ:「…元のコースに戻りましたが…しかし敵も同時にコースを変えたようです。平行して飛んでいます。」
カーク:「まるで影のようだな。ずっとつきまとってくる。しかも、正体不明だ。スポック、分析を続けてくれ。一刻も早く正体をつかみたい。」

ソーリアン・ブランデー※22を飲んでいるガヴ※23。食堂にサレックが来た。
手元から薬のようなものを取り出し、それを口にした。
近づくガヴ。「ヴァルカン人、話があるぞ!」
サレック:「…何ですか、改まって。」
「コリードの加盟には賛成するのか。」
「あなたはどうしても会議までは待ちきれないようですな。…いいでしょう。我々は賛成します。」
「賛成だと! なぜだ。」
2人を見る他の代表たち。
サレック:「コリードは連盟の法律の下で保護されますし、豊富な鉱物資源もみんなで平等に使えます。」
ガヴ:「お前たちには結構だろうな、ヴァルカン人は鉱物に興味がないからだ※24。」
「コリードにはたくさんのディリシウム※25・クリスタルが産しますが、人口が非常に少ないから防衛ができません。無法者が、資源を略奪していっております。」
「無法者?! 我々のことか。」
「現にあなた方が資源を運んでいってるじゃありませんか。」
「泥棒呼ばわりか!」
ガヴはサレックにつかみかかったが、あっさりはねられた。
カークがやってきた。「待ってください、待ってください! …何を議論しようと自由ですが、ここは私の宇宙船です。秩序を乱されては…我々が迷惑をします。」
サレック:「その通りです。」
ガヴ:「わかりました。…その言いがかりにはきっと礼をするぞ、サレック!」
「脅迫は理性的ではない。それはいつも、高くつくものですよ。」
出ていくガヴ。カークはサレックを見た。

ジェフリーズ・チューブ。
ガヴが逆さまになって固まっている。近づく保安部員。
脈を取り、通信機に触れた。「警備班より船長。」

礼服を脱いで裸になっているカーク。「カークだ。」
保安部員:『ジョーセフス大尉※26です。いま第11デッキ※27におりますが、テレライト人が殺されております。ガヴ大使ではないかと思われますが。』


※8: 吹き替えでは「0408.3044」

※9: バベル Babel
バベル (バビロン) の塔の話から、babel には「言葉の混乱、喧噪」という意味があります

※10: Vulcan Science Academy
初言及

※11: 当時の「ヴァルカン人の姓は地球人には発音できない」という設定を意味しているものと思われます。現在では姓がない (名前だけ) とするのが一般的なようです。吹き替えでは「ヴァルカン語」

※12: 吹き替えではどちらも「0408.3044」で、なぜか最初の数字 (脚注※8) と変わっていません

※13: 今回の「連邦 (Federation)」の訳語

※14: 2人のどちらか (左側?) は背の低い銅色の大使 Little copper ambassador (ビリー・カーティス Billy Curtis 1988年11月に死去)。ノンクレジット、セリフなし

※15: 名前は Shras (レジー・ネルダー Reggie Nalder 1991年11月に死去) ですが、言及されていません。「シュラス」としている日本語資料もあります。声:石森達幸

※16: テラライト Tellarite
初登場

※17: Gav
(ジョン・ホイーラー John Wheeler) 声:嶋俊介、TOS カイル (一部)、ムベンガ、旧ST5 マッコイなど

※18: sehlat
今回と同じ Dorothy Fontana 脚本による、TAS第2話 "Yesteryear" 「タイムトラベルの驚異」で登場しています。名前はアイ・チャー (I-Chaya) で、書籍クロノロジーではその事実は正史として記載しています (当然エピソード自体の内容は除く)

※19: テディベア teddy bear

※20: 原語では「6インチ」。吹き替えでは「ただし、子猫ぐらいしかない」と、なぜか大きさの話になっています

※21: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※22: Saurian brandy
TOS第5話 "The Enemy Within" 「二人のカーク」など。セリフでは言及されていません

※23: ガヴがアップになる時はグラスを右手で持っていますが、サレックの後ろにいるシーンでは左手になっています

※24: 吹き替えでは「資源が目当てだな、ヴァルカンには鉱山が足りんからだ」

※25: 吹き替えでは「ディリシ (・クリスタル)」

※26: Lieutenant Josephs
(ジェイムス・X・ミッチェル James X. Mitchell) 吹き替えでは「ジョーセフ尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます

※27: 吹き替えでは「第1デッキ」

廊下でガヴの遺体を調べるマッコイ。
カーク:「どうやって殺された。」
マッコイ:「首が折られてる。プロのやり方だよ。」
カークはチュニックを着ている。「というと?」
マッコイ:「つまり犯人はここに圧力を加えれば簡単に骨が折れるという言わば急所を、よく知ってる奴だよ。」
「…誰だろう、それを知っているのは。」
マッコイはスポックを見る。
スポック:「ヴァルカン人です。…ヴァルカンではそれをタル・シャヤ※28と言って、昔簡単な死刑の方法として使われたものです。」
「スポック。さっき君のお父さんは、このガヴ大使とひどく…争っていた。」
「そうですか。それが何か?」
マッコイ:「わからんか。もしそうだとすると、君のお父さんが第一の容疑者になるぞ?」
「ヴァルカン人は暴力は使えません。」
カーク:「お父さんじゃないと言うのか。」
「違います。それ相当の理由がなければ父はそんなことはしません。」
「ではそれ相当のわけがあれば、やるのか。」
「…殺すだけの理由があれば、父は理性的に行うでしょう。それが、ヴァルカン人の論理です。」

自室のドアを開けるアマンダ。
カーク:「…奥さん、こんなに遅くにすいません。ご主人に話があります。」
アマンダ:「いま独りで黙想をしてますわ? 休む前はいつもそうなんです。…どうしたの? スポック。」
サレックが戻ってきた。「ご用ですか、私に。」
カーク:「サレック※29大使。ガヴ大使が殺されていました。」
マッコイ:「タル・シャヤという方法によって、首の骨が折られているんです。」
サレック:「……なるほど。首を。」
カーク:「ええ。大使、この一時間どこにいました?」
アマンダ:「主人と思ってらっしゃるんですか…」
スポック:「お母さん。状況からすれば父が疑われるのは当然の論理です。」
サレック:「その通りです。」
カーク:「ではどこにいたか言って下さい。」
「…独りで黙想をしていました。スポックが、このような黙想がどういうものか話してくれるでしょう。私から地球人に話すのは、難しいんです。」
「すると証人がいないわけですね…」
突然サレックは声を上げ、座り込んだ。
アマンダ:「あなた。あなた! …どうしたの。」
トリコーダーを使うマッコイ。「私はヴァルカン人の身体はわかりませんが、しかし心臓に欠陥があることは確かですね。」
カーク:「治療できるか。」
「今はまだはっきり言えない。」

ブリッジで、カークはスポックに近づいた。「スポック。」
イヤーレシーバーをつけているスポック。「探知機の分析によれば、宇宙船の外壁はトライ・トリタニウム※30です。」
カーク:「お父さんのことだよ。」
「…我々の任務に重大な障害となりますね。」
「お父さんが心配じゃないのか。」
「心配は、地球人の感情です。事実を受け止めるだけです。…宇宙船の外壁は密度の高いトライ・トリタニウムですから、探知機にはかかりにくくかかってもはっきりしたことがわかります。」
「なるほど。…すると、惑星連盟のものではない※31。トライ・トリタニウムを使っている宇宙船はないはずだし、クリンゴンかな。」
「いいえ、でも敵には違いありませんね。」
「何者だ。」
ウフーラ:「船長。」
「ん?」
「いま、またさっきの通信のようなものが。傍受されましたから、すぐに方向探知機にかけて発信源を探知しました。」
「チェコフ、発信源の位置は方位 27度、マーク 8 を示している。」
チェコフ:「宇宙船の位置です。」
「翻訳して、記録をスポックの方へ回してくれ。」
ウフーラ:「…船長。この信号の受信位置は…方向探知機によるとこの船内のどこかを指しています。」
カーク:「…この船内に。この船内の誰かが宇宙船と交信しているのか。」
スポック:「考えられます。しかし内容は翻訳できません。」
「どうして。」
「未知の信号で我々のコンピューターでは不可能です。該当する信号がないんです。」
「するとその信号からは何もわからないのか。」
「全くわかりません。該当するものがないとすると、敵に違いありませんね。」
「しかも、この中で手引きをしている。大尉※32、君は方向探知機をできるだけ広げて船内のどこで受信しているかずっと探し続けてくれ。」
ウフーラ:「はい。」
「この次宇宙船と信号を交わすことがあれば、その時こそその受信機をつかまえてやる。」

ベッドで眠っているサレック。アマンダが見ている。
医療室に入るカーク。「どうだ。」
マッコイ:「今まで調べたところによると、どうやら心臓の弁が一つ機能を失ってるらしいんだ。…地球人で言えば心臓発作に似てる。しかし、ヴァルカン人の身体は手術して開いてみなければわからない。奥さん、前に発作を起こしたことは?」
アマンダ:「ありません。」
サレックは起きていた。「あるんだ。…3回あった。私の医者はその度にベンジサイドリン※33をくれました。」
アマンダ:「なぜ隠してたの。」
「…お前に言っても仕方あるまい。」
カーク:「大使。発作のあったのはいつですか。」
「…2回は、ヴァルカンを出る前です。…3度目は、ついさっきです。…観測デッキに、いたときでした。ガヴ大使が殺されたときは、私は独りで苦しんでいました。」
「証人はいますか。」
「…いません。」
スポック:「…ドクター。父の心臓の、手術をやれますか。」
マッコイ:「さあねえ、地球人でも難しいんだ。ヴァルカン人では、普通の手術というわけにはいかないし。」
カーク:「なぜ。」
サレック:「ヴァルカン人の心臓の構造が違うからです。」
スポック:「しかし、低温切開手術※34を行えば比較的楽かもしれません。」
「そうだ、上手くいくかもしれん。」
カーク:「ドクター、どうだ。」
マッコイ:「皆さんからいろいろ教わって、ありがたいですな。しかしながら、いま言った方法だと患者に多量の血液を供給しなきゃならん。」
チャペル※35:「ドクター?」
「ん?」
「血液バンクを調べましたが、ヴァルカン人の血液もプラズマもほとんど蓄えがありません。」
カーク:「ヴァルカン人ならほかにもいるぞ。」
サレック:「私の血液型は Tネガティブ※36です。ヴァルカン人にも、珍しい型です。」
マッコイ:「そう、確かに珍しい。」
スポック:「私の血液型がそうです。」
チャペル:「でもミスター・スポックの血液は純粋のヴァルカン人のとは違います。…地球人のものが、混ざっています。」
「その部分はフィルターで取り除けます。」
マッコイ:「しかしそんなに血を採られたら君の方が参ってしまうぞ?」
カーク:「ドクター。」
「…奥さん。お聞きの通り、Tネガティブという血液型を本船の中で見つけるのはとても難しいことなんです。」
スポック:「そうです。恐らく不可能でしょう。」
アマンダ:「もう言わないで。」

医療室。
スポック:「ドクター。」
マッコイ:「わかってるが、それはリーゲル人※37だった。」
「リーゲル人の身体は、ヴァルカン人と似ています。」
「似てるだけじゃ駄目だよ。まだ実験の段階だ。」
「でもやってみては。」
「…スポック、いずれにしろ多量の血液がいる。この薬がリーゲル人と同じにヴァルカン人に効いたとしても、その作用は確かじゃない。お父さんを非常に危険な状態に追い込むかもしれないぞ?」
「危険なのは十分知っていますけど、やってみては。」
「それに私はまだヴァルカン人の手術をしたことがない。…そりゃあまあ、解剖学的に勉強して内臓の位置ぐらいは知ってるつもりだが…手術をするとなるとこれは別の話になってくる。手術では死なないかもしれないが、薬で死ぬかもしれない。」
病室から出てきたアマンダ。「どんな薬ですか。…主人は眠っています。言って下さい。」
マッコイ:「一種の刺激剤で身体の中の血液を急激に増大させる薬ですが、まだ実験の段階です。」
スポック:「しかし、リーゲル5号※38で実験した結果は成功でしたよ。」
「だが脾臓と肝臓に恐ろしい緊張感を与えることになる。大使の容態には刺激が強すぎるんです。」
アマンダはスポックを見た。
スポック:「ミス・チャペル。先週私は精密検査を受けたが、その結果を出してくれないか?」
チャペル:「…もう出ています。…あなたにはどこにも異常が認められません。」
マッコイ:「どうするつもりだ。」
アマンダ:「あなたの血を使うというの? …身体からじかに、お父さんの身体に。」
スポック:「それしか方法はないでしょ?」
マッコイ:「…君が参ってしまうだけだ。死ぬかもしれん。……残念ながら、そんな冒険はできない。」
アマンダ:「私も反対です。二人とも危険にさらすなんて。」
スポック:「だったらお父さんを見殺しにするようなものです。…違いますか? 理性的に考えればそれしかない。…もし手術をしなければ、父は死ぬんだ。…しかもここには手術の、設備がある。それに血は、この私が供給するんだ。…部署に戻っているから、その時は呼んで下さい。」 チップ状のテープをマッコイに返した。

カークは廊下で、触角を持った異星人と争っていた。相手はナイフを持っている。
飛び蹴りをかわされるカーク。異星人は背中から刺した。
それでも異星人を蹴り倒す※39カーク。手には血がついている。
気を失った異星人。食堂で話した大使ではない。
カークは通信機に触れた。「ブリッジ。スポック!」

船長席のスポック。「スポックです。」

カーク:「第5デッキにいる。部屋の近くだ。…アンドリア人※40に襲われた。…警備に……警備班を…」 倒れた。
スポック:『船長。船長! 船長!』


※28: tal-shaya
ロミュランの諜報組織、タル・シアー (Tal Shiar、TNG第140話 "Face of the Enemy" 「ロミュラン帝国亡命作戦」) に語感が似ていますね

※29: DVD では修正されていますが、それ以外の吹き替えではここだけ「サレッ」になっています

※30: tri-tritanium
一部資料ではトリチタン (trititanium) になっています。吹き替えでは「トリタニウム」

※31: 原語ではロミュランも使っていないことが触れられています

※32: 吹き替えでは全て「尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます

※33: benjisidrine

※34: 低温心臓切開手術 cryogenic open-heart procedure

※35: クリスチン・チャペル看護婦 Nurse Christine Chapel
(メイジェル・バレット Majel Barrett) TOS第40話 "The Deadly Years" 「死の宇宙病」以来の登場。声:島木綿子もしくは北見順子、DVD 補完では田中敦子

※36: Tマイナス T-negative

※37: ライジェル人 Rigelian

※38: ライジェル5号星 Rigel V
リーゲル (リゲル) 星系は TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」など

※39: テレフが蹴られる直前、ナイフを床に落としていて左手の辺りにあります。ですがカットが変わって蹴られるシーンでは、右手に持っています

※40: Andorian
初登場。吹き替えでは「アンドア人」

スポック:『航星日誌、宇宙暦 3843.4※12。私スポックが一時的に船内の指揮を執ることになった。船長は重傷である※41。船内にも敵がおり、船外にも正体不明の宇宙船が接近し事態は急を告げていた。』
医療室。
マッコイ:「ひどい重傷だ。左の肺がやられてる。一センチ違えば心臓をやられるところだった※42。」
胸のところに白い布をまかれ、眠っているカーク。
スポック:「拘禁室でアンドリア人を尋問していますから。」
チャペル:「ドクター、K-2 ファクターが下がっています。」
サレックのモニターを見るマッコイ。「スポック。…容態は更に悪化した。…こうなったら仕方がない、今すぐにでも手術をしなければ。…君さえよければすぐに始めるぞ。」
スポック:「断ります。」
「なぜだ。」
スポックを見るアマンダ。
スポック:「今の私の責任は、船にあります。…乗客の安全が、現在の私に課せられている最大の任務です。我々は敵と思われる、宇宙船につけ狙われているんです。このような状況の下では、指揮を放棄するわけにはいきません。」 外へ向かおうとする。
マッコイ:「指揮はスコッティに任せておけ!」
「…何の根拠でですか? 船内の指揮は誰にでも、任せていいというものではありません。拘禁室で、アンドリア人を尋問してきます。」

睨んでいるアンドリア人。
食堂にいたアンドリア人の大使。「テレフ※43と言い、私の部下ですけど。彼のことは知りません。だけど、上官にはよく仕えます。」
スポック:「薬を飲ませて心理探知機を使い尋問をしてみたが、何にも出てこない。調べられてもわからないように、あらかじめ準備をしていたのじゃあないのですか?」
「我々は暴力を肯定しますが、しかし船長と争ってはいませんでした。」
「…しかし犯人はテレフです。」
「考えてもみて下さい。船長に危害を加えて、何の利益があります?」
「私にはわかりません。テレフが船長を襲うのも論理的でないし、ガヴの殺人も論理的でない。」
「論理で考えるからわからないんです。得になるか損になるか。その動機から考えれば、わかること。殺人は利害から起こります。」

スポックの部屋。
ドアブザーが何度も鳴る。
スポック:「どうぞ?」
アマンダが入った。「スポック。船内の指揮はほかの方に任せなさい。」
スポック:「しかし私は、この宇宙艦隊に任官するとき任務は必ず果たすと固く誓いを立てています。」
「でも、あなたぐらいの将校ならほかにもいるでしょ。もしあなたが今お父さんに血を差し上げなければ、死んでしまうんですよ?」
「異常のない状況の下ならどんな将校でも指揮を執れますが、今は異常事態が発生しているんです。今は 100人以上の惑星連盟の重要な人が乗っている上、怪しい宇宙船につけ狙われていつ攻撃を受けるかわかりません。しかも船内では殺人事件まで起こっています。…義務は放棄できません。」
「義務? お父さんへの義務はどうなるの?」
「わかってます。しかしこっちが大切です。輸血に時間がかからなければいいんですが、そうはいかないでしょ。お父さんはわかってくれますよ。」
「地球人の私にはわかりません。あなたにだって地球人の血は流れているはずよ? だったら気持ちがわかるでしょ? お父さんが死にそうなんですよ。」

「お母さんはよくヴァルカンに住んでいられますね。ヴァルカン人がどういうものであるかわからずに、よくヴァルカン人と結婚などできたものですよ。」
「そんなことならわかりたくありません。」
「ヴァルカン人は理性を誇りにし、論理に従って行動する。それがヴァルカン人の哲学です。個人の利益などは考えないんですよ。たとえそれが、どんなに重要な利益でも。」
「でもお父さんの命より大切なものはないはずです。」
「…考えて下さい。もし私が同意したらお父さんは何と言います。もしこの船内の指揮を投げ出したら。そして一人の命のために、100人以上の生命を危機にさらしたらお父さんは何と言いますか?」
「…あなたが 5つの時に、涙を流しながら寂しそうに帰ってきたわ。お友達から『地球人の合いの子』だと言われたので、あなたは泣いたのよ? あなたの中には、そういう血が流れています。その、血があなたを泣かせたのよ? …お母さんも泣いたわ? …それが今になって消えてしまうはずがない。私の手の届くところにあるはずよ? ……でもヴァルカン人の方が大切なら、勝手にするがいいわ。やれ義務だの論理だのと言って無表情な顔をしていればいいわ。そしてお父さんを殺しなさい。…そしたらお母さんは一生あなたを恨むことよ。」
「…お母さん。」
涙を流すアマンダ。「お父さんのところへすぐに行ってちょうだい。」
スポック:「それはできません。」
アマンダはスポックを平手打ちした。そのまま出ていく。
スポックはドアの前に立ち、手を触れた。

眠ったままのサレック。
チャペル:「ドクター・マッコイ。」
カークが目を覚ました。「全くこの手でぶん殴ってやりたいよ。」
チャペル:「犯人をですか?」
「油断してた自分をさ。どのくらい経ってる。」
マッコイ:「動くと痛むだけだぞ。それだけの傷だ、起き上がるのは無理だ。」
「サレック大使は。」
「良くないな。手術をしたいがね。」
サレックを見守るアマンダ。
カーク:「なぜしないんだ。準備はできたんだろ。」
マッコイ:「こっちはできてるが、スポックの方がどうもねえ。あんたが指揮を執れるようになるまで、部署を離れないと頑張りだして困ったよ。義務と言って。」
「その心がけは立派だが、しかしサレック大使を見殺しにするわけにはいかない。」
「ここで立ち上がれば、また出血が始まるぞ。」
何とかベッドに座るカーク。「…ドクター。
…手術をしなければサレック大使※44は死ぬんだ。そしてスポックの血がなければ、手術をすることができない。スポックに私は大丈夫だと言おう。そしてスポックがブリッジを離れたら私は指揮をスコッティに任せ、自分の部屋で寝よう。それなら、万事 OK だろ?」
マッコイはうなずいた。

ブリッジに戻るカーク。ウフーラが声をかけようとしたが、遮られた。
カークに気づくスポック。「船長。」
カーク:「私が指揮を執るから、君は医務室へ行ってくれ。」
「でも大丈夫なんですか。」
マッコイ:「私が許したからには心配はいらないよ。手術の準備ができてるんだ、我々は早く行かなくちゃ。」
微笑むカーク。「スポック、ゆきたまえ。」
片眉を上げるスポック。船長席を降りる。
カーク:「チェコフ、敵の宇宙船の状況は。」
チェコフ:「変わりありません。同じ距離を、維持しています。」
「その後交信はないか。」
ウフーラ:「ありません。」
スポックとマッコイがターボリフトに入ったのを確認するカーク。「スコットをここへ呼んでくれ。」
チェコフ:「船長、敵が接近してきました。」
スクリーンの中央に光点が見える。
カーク:「呼ばなくていい、私がやる。」
ウフーラ:「船長、また交信が始まったようです。今度は船内から信号を送っています。」
「発信源は。」
「拘禁室からです。」
「警備班。拘禁室の警備班。犯人の身体を調べてみろ。」

手術服を着て、ベッドで横になっているスポック。マッコイが操作する装置のチューブを、緑色の血液が流れ出した。
サレックの身体の上に、別の装置が置かれている。
マッコイ:「容態を報告。」
チャペル:「ミスター・スポックの血液増大率 200%。サレックの脈拍 324。血圧 90 から 40、低下してます。」
「それがいいのか悪いのか、わからなくてな。…殺菌処置をしよう。」
起き上がろうとするスポック。
チャペル:「ミスター・スポック!」
マッコイ:「どこへ行くつもりだ。」 チャペルに合図する。
スポック:「船長に用があります。」
「手術中に患者が動くことは許されないぞ?」
「敵の宇宙船の力が非常に強い原因がわかったんです。それを、知らせなければ…私しかわかりません。重要です…」
スポックはチャペルにハイポスプレーを打たれ、気を失った。
マッコイ:「お父さんの命も大切だ。」
手術を不安そうな顔で見つめるアマンダ。

調べられていたテレフは、ジョーセフスを倒した。だがもう一人にフェイザーを受け、麻痺する。
倒れると、触角が折れてしまった。中から小さな金属が出てくる。
それを手にし、通信機に触れるジョーセフス。

ブリッジのカーク。「カークだ。」
ジョーセフス:『警備班です。抵抗したので気絶させました。頭から出してるアンテナの中に、送信機がありました。』
チェコフ:「船長。敵の宇宙船は、コースとスピードを変えました。こちらへ向かってスピードは、ワープ8 です。」
カーク:「犯人を連れてきてくれ。転向機用意。非常態勢。フェイザー砲を、スタンバイしておけ。」
「はい。スクリーンオン。フェイザー、準備完了。」
「チェコフ、探知機についてくれ。」
「わかりました。」 スコープを覗くチェコフ。
スクリーンを光が横切った。船が揺れる。

医療室にも伝わる。手術を続けるマッコイ。

カーク:「チェコフ、目標は。」
チェコフ:「離れました、こちらに向きます。…また向かってきます。」
「通過時を狙って撃て。」
離れていく宇宙船。エンタープライズはフェイザーを発射する。
チェコフ:「ミスしました。」
カーク:「敵の武器は何だかわかるか。」
「ごく普通の、フェイザー砲のようです。」
「普通のフェイザー砲か、よーし。スピードはあるが型は小さいんだ。」
ウフーラ:「たくさんの通信が入ってます。乗客が事情を聞いてきてるんですが。」
「適当にごまかしておくんだ。混乱を招かないように上手く頼むぞ。」
「はい。」
チェコフ:「またやってきます。」
再び向かってくる敵船。

目を覚ましたスポックは、サレックを見る。
マッコイ:「もう一度こんなショックがあれば二人とも死んでしまうぞ。」


※41: 原語では「バーベル会議 (Babel Conference) の代表団の一人に襲われて重傷である」

※42: カークが刺されるシーンでは、左側ではなく右側に見えます

※43: Thelev
(ウィリアム・オコンネル William O'Connell) 声:肝付兼太

※44: DVD では前のカットと共に収録し直されており、それ以外の吹き替えでは「サレック」のみ

腕を押さえるカーク。またスクリーンを船が横切り、揺れた。
チェコフ:「コンピューターで、照準を合わせました。」
カーク:「命令次第、第2・第4・第6魚雷※45を発射。…できるだけ、広げて撃つように。」
「はい。」
「…発射。」
光子魚雷を連続発射するエンタープライズ。
チェコフ:「ミスしました、船長。敵のスピードが速すぎます。」

医療室にも揺れが襲う。
チャペル:「…心臓が止まりました。」
マッコイ:「心臓を刺激だ。」
「……効きません。」
「だったら、もう一つのポータブルのやつを持ってこい!」
心臓刺激器※46を渡すチャペル。
マッコイ:「こっちへエネルギーをよこすように機関室へ言ってくれ。」
チャペル:「はい。」

チェコフ:「第4スクリーン※47が弱っています。」
カーク:「補助エンジンだ。」
「切り替えました。…補助エンジン、始動。第4スクリーンは止まりそうです。…もう一度当たれば、完全にやられます。」
すぐに攻撃が来た。

マッコイは満足げな表情でチャペルを見た。

ブリッジに連れてこられるテレフ。保安部員の手を振り払う。
カーク:「なかなかやるな、こっちを破壊するつもりだ奴らは。」
テレフ:「我々は初めからその計画だよ。」
「お前は一体何者だ。」

揺れる中、チャペルから道具を受け取るマッコイ。

ウフーラ:「全てのデッキが損害を被ってます。」
カーク:「修理班に修理させろ。すぐにやれ。…敵にもフェイザー砲がある。我々と同じものだ。」
チェコフ:「第2スクリーンがやられました。」
「機関室、こちら船長。…左舷のエンジンを停止してくれ。」 ライトが落ちる。「次に命令したら、右舷も停止だ。以上だ。」
カークは汗をかいている。「何者だ。」
テレフ:「わかったって仕方があるまい。あんた方はもう死ぬ身だ。」
「お前はスパイだな? 整形手術をして、アンドリア人に化けた。そして惑星連盟の間に対立と混乱を引き起こすために、船内に潜り込んできた。」
「勝手に考えるがいいさ。」
「機関室。右舷※48エンジンを停止して次の命令を待て。」 さらに暗くなる。「…チェコフ。」
ナビゲーター席に戻るチェコフ。
テレフ:「…何をする気だ。」
カーク:「勝手に考えろ。」
チェコフ:「…我々は、完全に停止しました。…コースは維持しますか。」
「ほっとけ。フェイザー砲をスタンバイしておけ。」
「はい。フェイザー砲スタンバイ。」
ライトが落ちたまま、静止するエンタープライズ。
スクリーンの船を見るチェコフ。「敵もスピードを緩めてます。」
カーク:「こっちを見てる。我々が負けたと思ってるんだ。」
テレフ:「おびき寄せか。近づいたら撃つんだな?」
チェコフ:「…来ました!」 船が向かってくる。「…射程範囲、縮小。スピードはワープ1 に落ちています。」
カーク:「まだ撃つのは早すぎるぞ。」
「…照準位置完了。…距離、接近。…現在 7万5千キロです。」
「撃て!」
フェイザー※49を発射するエンタープライズ。スクリーンの敵船のところで、光が走った。
ガッツポーズするチェコフ。「命中です!」
収まる光。テレフは視線を落とす。
カーク:「非常態勢解除。…大尉、各周波数オープン。降伏するかもしれん。」
その時、ブリッジに明るい光が走った。目を押さえる一同。
大きな爆発が映る。
テレフ:「降伏するはずはない。自己破壊装置を備えていたんだ。」

医療室のモニター上で、数値が上がっていく。目を閉じるスポック。
アマンダは安心する。

カーク:「…大尉、本艦隊に捕虜を送るからそう連絡してくれ。」
ウフーラ:「はい。」
テレフ:「それは無駄なことだ。私も自動的に死ぬことになっている。毒を飲んでいる。別に苦しみはしないがこれには解毒剤がない。…今から約10分後には死ぬ。」
カーク:「医務室へ連れてゆけ。」
苦しみ出すテレフ。「時間の、計算が違っていた。」 絶命する。
カーク:「…らしいね。…チェコフ。あとを頼む。」

医療室に入るカーク。「ドクター。」
マッコイ:「これで船内を揺すぶるのは終わったのか?」
「スポックとサレックはどうだ。」
「さんざん揺すぶられたおかげでこっちは手元が狂って…」
「どうなんだ!」
病室から出てくるアマンダ。「船長? どうぞ。」
二人とも起き上がっていた。
マッコイ:「ヴァルカン人のスタミナのおかげだよ。手術が成功したのも。」
カーク:「ツイていたわけだね。」
スポック:「船長。あの敵の宇宙船は。」
「消滅したよ。自己破壊装置をもっていた。ドクター、テレフの身体を解剖室へ運んだからできるだけ早く調べてくれ。」
「オリオン※50の回し者だと思います。」
マッコイ:「オリオン?」
「情報によるとオリオンはコリードの資源を略奪しているそうです。」
カーク:「しかしなぜ我々を襲撃したんだ。」
サレック:「我々仲間同士で、戦争をさせるためですよ。」
「そして漁夫の利というわけか。我々惑星連盟の間で戦争をさせて、その間にコリードを征服するか。」
うなずくサレック。
スポック:「私のわからなかったのは敵のエネルギーです。宇宙船としてはあれほどエネルギーを出し切るものは、初めて見ました。結局自己破壊装置を備えてたからですね。初めから基地に戻るつもりはありませんから、攻撃用に百パーセントのエネルギーを使えたんですよ。それにしてもわからないのは、なぜ早くそこに気づかなかったのか。」
カーク:「心配事が、ほかにあったとか。」
アマンダは微笑んだ。サレックはスポックを見る。
スポック:「そんなことはありません。」

カーク:「とにかく、ありがとう。」
アマンダ:「あなたもでしょ? 息子に感謝しなきゃいけないはずよ?」
サレック:「…一体どうしてだね?」
「命の恩人ですもの。」
「…スポックはただ論理的な行動を取ったまでだよ。論理に感謝する必要はない。」
「論理、論理! 論理にはもう飽き飽き。その論理にどれだけ悩まされたかわかる?」
スポック:「感情的。そうですねえ。」
サレック:「アマンダはいつでもそうさ。」
「そうですか。なぜ結婚したんです?」
「当時は結婚するのが論理的と思ったからさ。」
うなずくスポック。顔を見合わせるカークとマッコイ。
サレックと指を合わせ、微笑むアマンダ。
カーク:「ドクター。ああいやいや、大丈夫だ。」
カークを支え、ベッドに寝かせるマッコイ。「そうはいかないよ。ドクターの言うことは素直に聞くものだ。あと 10日はジッと寝てなくちゃ。言うことを聞けば、2日でいいかもしれない。」
スポック:「ドクター、私は任務に戻ります。」
「君の任務は寝てることだ。」
カーク:「ドクター・マッコイ、今日はだいぶ嬉しそうだね?」
スポック:「本当ですね? そんな顔は久しぶりです。」
マッコイ:「うるさい!」
驚くスポックとチャペル。カークは何か言おうとしたが、口をつぐんだ。
マッコイ:「シーッ。」
スポックも無言だ。
マッコイは、微笑んだ。「いやあ、いい気持ちだ。2人とも私の言うなりだ、ヘ。」


※45: 吹き替えでは「第2・第3・第4魚雷」

※46: cardiostimulator

※47: 吹き替えでは「第4エンジン」。後の「第2スクリーン (シールドの意味)」は正しく訳されています

※48: 吹き替えでは、ここまでの右舷と左舷が逆になっています

※49: フェイザーを最初に発射したときは青色でしたが、ここでは紫色になっています。エネルギー出力の違いでしょうか?

※50: Orion
TOS "The Cage" より

・感想など
D・C・フォンタナ脚本による、サレック (サレク) とアマンダが揃って初登場するエピソードです。と言っても TOS シリーズ内で再登場するわけではなく、サレックは映画 (2・4・6) と TNG で 2回、アマンダは映画 ST4 で帰ってきます。各シーンの切り替わりが、かなり時間ギリギリという印象を受けるほど内容が詰まっており、スポックの過去や家族との描写という点においてもまさに必見ですね。
ほかにも初登場のアンドリア人、テレライト (テラライト) 人に加え、コリード (コリダン) は ENT で出てきます。終了 3分前まで全く言及されていない、オリオンが含まれてしまうネタバレ邦題はどうかと思いますが…。


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