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TOS エピソードガイド
第9話「宇宙基地SOS」
Balance of Terror

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・イントロダクション
※1礼拝室※2
通信機そばのスイッチを押すクルー。ほかにも多数集まっており、ジャニス・ランド世話係※3が祭壇に火を灯す。
脇に立っているマッコイ。
カメラをセットしているスコットに近づくカーク。
スコット:「結婚式の模様は、全て中継しますからね。」
カーク:「よーし。」
マッコイ:「ブリッジから連絡がきてるよ?」
通信機に触れるカーク。「カークだ。」
スポック:『地球第2前哨基地※4からまだ応答ありません。第3基地も連絡が途絶えました。』
外を見るカーク。頭に飾りを着けた女性クルーが見える。
カーク:「じゃあ、第4基地へ針路を取れ。何かあったら、連絡しろ。」 中央に立った。
女性クルーと腕を組むスコット。結婚行進曲※5が流れる中、女性は待っていた男性の隣に立つ。
ひざまづき、目を閉じた。見守るカーク。
主役の二人は目を合わせた。
カーク:「人類が初めて船を造ったときから、船長には素晴らしい特権が与えられてきました。乗組員の結婚式を司る権利です※6。…本日はアンジェラ・マーティーニ※7とロバート・トムリンソン※8の、えー素晴らしい門出を祝うために、親しい皆さんにお忙しい中をお集まり願ったわけです。」
呼び出し音が鳴る。
カーク:「いかなる困難の…」
スールー:『非常警報、非常警報。…船長は直ちに、最寄りの通信機に出てください※9。』
立ち上がるクルー。
カーク:「どうした。」
スポック:『第4前哨基地から正体不明の宇宙船に攻撃されたと報告が入りました。』
「全速前進、緊急態勢に入る。」
スコットをはじめ、部屋を出て行くクルー。
マーティーニ:「私達どうなるの?」

廊下を走るクルー。
スールー:『全デッキ、非常警戒。全デッキ、非常警戒。』


※1: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 見えざる破壊者」の表題作になります

※2: chapel
転送室のセットを改装

※3: ジャニス・ランド秘書 (下士官) Yeoman Janice Rand
(グレース・リー・ホイットニー Grace Lee Whitney) 前話 "Charlie X" 「セイサス星から来た少年」に引き続き登場。声:此島愛子

※4: Earth Outpost Number 2

※5: リヒャルト・ワーグナーの結婚行進曲、「ローエングリン」の「婚礼の合唱」。単なる BGM ではなく、本当に部屋に流れているという設定のようです (脚本によれば、技師がスイッチを押す最初のシーンから再生が始まる)

※6: このセリフはオマージュ的に、後のシリーズの結婚式でも使われています (TNG第85話 "Data's Day" 「ヒューマン・アンドロイド・データ」でオブライエン&ケイコの式のピカード、DS9第168話 "'Til Death Do Us Part" 「偽りの契り」でシスコ&イエイツの式のロス)

※7: アンジェラ・マーティーニ少尉 Ensign Angela Martine
(バーバラ・バルダヴィン Barbara Baldavin TOS第79話 "Turnabout Intruder" 「変身! カーク船長の危機」のリザ (Lisa) 役) 初登場。声:野村道子

※8: ロバート・トムリンソン大尉 Lieutenant Robert Tomlinson
(スティーブン・マインズ Stephen Mines) 原語では特技官 (Specialist) という肩書きで呼ばれています。吹き替えでは「ラバー・トムソン」。声:中田浩二 (DVD・完全版ビデオ補完も継続)

※9: 原語では「船長はブリッジへお越し下さい」

・本編
『航星日誌、1709.2※10。ロミュラス※11・リーマス※12惑星とその他の惑星との間に設けられた中立地帯※13の付近をパトロール中、第4前哨基地から非常連絡が入った。エンタープライズ※14は直ちに調査および援助に向かう。』
ブリッジ。
ターボリフトを出たカークに報告するウフーラ。「依然として攻撃を受けてる模様ですが、連絡が途絶えました。」
船長席に座っていたスポック。「反応ありません。」
スールー:「現在、フルスピードです。」
スクリーンにはまだ何も見えない。
ナビゲーターのスタイルズ大尉※15。「8分後に、第4基地到着の予定。」
カーク:「スコッティ。」
スコット:「エンジンルームに、パワーアップするように指示しました。」
「…攻撃してきた宇宙船に関する報告は入ってないのか?」
ウフーラ:「正体はつかめません。」
スタイルズ:「誰が乗ってるかはわかってますよ。」
カーク:「…ミスター・スポック。中立地帯の付近を映してくれ。」
星図が表示された。左右を分断するように「中立地帯」の区域があり、右側には「ロミュラン宇宙帝国※16」とある。
カーク:「次、現在位置。」
星図の左側に点滅する点が現れる。中立地帯に沿って、番号のついたマークが並んでいる。
カーク:「全デッキに非常連絡。」
ウフーラ:「全デッキ、スタンバイしました。」
「こちら船長だ。今後いかなる場合も、常に冷静な判断を忘れないように。」 廊下で聞くクルー。「早まってはならん。科学主任から、話がある。」
スポック:「スクリーンによって既に諸君は知っていると思うが、当エンタープライズ※14は地球の前哨基地区域に向かって進行中である。」 基地に近づいていく光点。「その前方に横たわる中立地帯は文献にあるとおり、前世紀に地球とロミュラス惑星が戦いを交えた※17ときに設けられた。」

医療室で話を聞くマッコイたち。
スポック:『…この戦いは今から見れば、原始的な核兵器を使用して行われた。』

別の部屋のトムリンソンとマーティーニ。
スポック:『…また当時の宇宙船には空き部屋はなく、捕虜も出なかった※18。』

スポック:「…さらにお互いに敵船と直接映像で交信した者はいない※19。…それゆえお互いに、自分の敵の姿を見た者はいないわけだ。我々地球側はロミュラス星人※20は好戦的で、残酷だと想像している。当然彼らも我々をそう思っているだろう。…中立地帯は超空間通信※21によって決定し、設けられたものである。そしてその時の条件として、いずれかが中立地帯に侵入すれば宣戦布告と見なすと決められている。どうぞ。」
カーク:「今さら言う必要はないと思うが、今後の行動は全て私の責任となるのだ。…いかなる弁解も許されない。たとえどのような理由があろうとも、我々は中立地帯に侵入することを避けなければならない。宇宙戦争を回避するためにだ。前哨基地も本船も、戦いの手段ではない。それを忘れないように※22。以上。」
スタイルズ:「でも前哨基地は攻撃を受けたんですよ? ロミュラス星人を攻撃する理由は十分にあります…」
「攻撃してきたのがロミュラス星人であるとどうしてわかるんだ? それとも確実な証拠でもあるのかね。」
「奴らは船に巨大な猛禽類 (バード・オブ・プレイ) ※23を描いているんです。」
「歴史が専門だとは知らなかった。」
「家族の歴史です。当時宇宙局にスタイルズ大佐がいました。中佐が 2人、下級士官は何人も。全員あの戦争で殺されたんですよ。」
「君には、関係ないことだ。※24…昔のことだ。…間違えるな。」
「はい。」
スポック:「基地がセンサー有効範囲内に入りました。」
カーク:「最初に連絡してきたのは第2基地か。」
ウフーラ:「はい。その一時間後に第3基地からも入りました。」
スポック:「第2基地付近を走査、全く反応なしです。再び第3基地走査、あるのは破片と塵です。…完全に破壊されましたね。基地が建設されていた小惑星も…蒸発しています。」 イヤーレシーバーを外す。
船長席に戻るカーク。無言のスールーとスタイルズ。
カーク:「近くの司令部と連絡を取って、現在位置および状況を報告しろ。」
ウフーラ:「はい。」

「…全員を、戦闘配置につかせろ。」
スールー:「こちらブリッジ。…全員、戦闘配置につけ。こちらブリッジ。…船長命令、戦闘配置につけ。…全砲座に指令を出しました。」
「全フェイザーガンにエネルギー注入。最大限に上げろ。」
スタイルズ:「エネルギー注入。こちらブリッジ。エネルギーを最大限に上げろ。」

マーティーニ:「了解、フェイザーガンのエネルギーを最大限に上げます。」
フェイザー制御室の通信機を切るトムリンソン。「結婚式の日なのに、ツいてないよ。」
マーティーニ:「ほんとは助かったと思ってるんじゃない? でも私はあきらめないわよ。逃げたら、あなたを狙って発射するから※25。」
「そう思い通りにはいかないね。僕は君の上官なんだよ。…さ、仕事仕事。」

ブレンナー※26:「左舷砲座準備よし。」
フィールズ※27:「右舷※28および中央部砲座準備よし。」
マーティーニ:「ブリッジどうぞ、全砲座準備完了。」

スタイルズ:「第4基地まで後 5分足らずです。」
スポック:「第4基地をキャッチしました。まだ、破壊されていません。」
ウフーラ:「船長、第4基地からの連絡が入りました。音声を出します。」
乱れた音声が入る。『…こちら、第4基地。エンタープライズ※14どうぞ、こちらハンソン司令官※29です。』
カーク:「カーク船長だ。あと数分でそちらに着くがどうした。」
『第2基地をはじめとして、第3、第8も消えました。正体不明の武器で、完全に破壊されました※30。あんな武器は初めてです。防御スクリーンのエネルギーを最大にしましたが、何しろ恐ろしい破壊力で。最初の一発で防御スクリーンは、吹き飛びました。今度攻撃されたらもう絶対に助かりません。…エンタープライズ、聞こえますか。』
「攻撃した敵は、どんな船だ。特徴は。」
『はっきりわかりません。宇宙船という以外は。』
「敵船の現在位置はわかるか。」
『わかりません。攻撃が終わると、消えてしまいまして。…そちらがスクリーンに映ってきました。映像スイッチを入れてください。』
「よし、入れろ。」
ウフーラ:「入れました。」
燃えている室内の映像に切り替わった。
ハンソン:『…エンタープライズ、見えますか。司令室はここです。基地は小惑星の地下、一マイルの場所にあります。』 振り返ると、火傷を負っている。『ほとんどが頑丈な鉄でできています※31。…防御スクリーンがあってもこの状態です。見えますか!』
カーク:「ああ、映像に異常はない。それより敵のことは。」
『正体不明です。手がかりをつかみたいと思って交信を試みたんですが、突然攻撃してきました。…恐らく高エネルギープラズマを使った兵器です。…猛烈な破壊力です。そして、宇宙船は消えてしまいました。…でもきっとこの付近にいて、また現れるに違いありません。…エンタープライズ! 何か急速に接近してきます。…ものすごいスピードです。』
「スクリーンに映してみろ。」
『切り替えます。見えますか、エンタープライズ。見えますか! 見えてきました、ほら画面の中央です。』
中央に、宇宙船が姿を現した。
カーク:「防御用の武器は使えないのか。」
ハンソン:『使えません、破壊されて。無防備状態です!』
「敵と交信し、警告しろ。」
ウフーラ:「いくら発信しても、応答ありません。」
宇宙船は武器を発射した。巨大なエネルギーの球体だ。
画面一杯に迫る。
叫ぶハンソン。
閃光に包まれるスクリーン。目を閉じるカークとスポック。
ウフーラは声を上げた。
再び宇宙船は消えた※32
カークが目を開けると、スクリーンには何も映っていない。
スポック:「第4前哨基地…消え去りました。」
カーク:「敵船の現在位置は。」
「わかりません。…ほんの少し姿を見せただけで消えました。」
「発射の時だけか。姿を見せないと攻撃できんらしいな。」
「飛行物体の反応があります。敵船かもしれません。」
「映像エネルギー強化。」
スールー:「映像エネルギー強化※33。」
「…何も見えんな。…どういうことだ。」
スポック:「理論的には説明がつきますね。光の曲折を利用すれば、可能なはずですが。莫大なエネルギーが必要です。」
ウフーラ:「宇宙周波でコールしても、応答ありません。」
カーク:「中止してくれ※34。それから至急残りの前哨基地と連絡を取って、敵船の位置確認に協力を頼む。」
「はい。」
スポック:「飛行物体は針路を変えました。…まだ我々には気づいていない様子です。かなりスピードを落としています。」
カーク:「姿を消すためにエネルギーを使ってる。向こうの映像スクリーンも役に立たないだろう。そうなれば互角だ。」
「進行方向 111。…マーク 14。もし敵がこのまま進めば中立地帯です。そしてその向こうは、ロミュラスです。」
スポックを見るスタイルズとスールー。
カーク:「追跡しろ。」
スタイルズ:「横から攻撃に出ないんですか。」
「そうだ。君とミスター・スールーは、相手の動きを正確にキャッチしろ。同じコースを同じ速度でついていけ。…もし探知されても、自分の影だと思うかもしれない。わかったな。…それから私の直接命令がない限り、中立地帯に入ってはならん。」
スールー:「わかりました。」
「全デッキに戦闘態勢を解くように連絡しろ。」
「戦闘態勢を解くんですか。」
スタイルズ:「船長。船長は事態を軽視しすぎてるのではありませんか? …彼らは中立地帯に侵入して、我々の前哨基地を破壊したんですよ!」
カーク:「ミスター・スタイルズ。」
「そんな卑怯な奴らを放っておくんですか!」
「私の命令に従えないと言うのかね。」
「そうじゃありません。しかしただわたくしは本船にロミュラスのスパイが入り込んでる恐れがあると言いたいんです。」
スールー:「……同感ですね。…非常態勢を取っておくことを、私からも提案します。」
カーク:「…よろしい。非常態勢を維持する。」
「はい、わかりました。」
音が聞こえる。
ウフーラ:「通信を傍受しました。…敵船です。」
カーク:「合わせろ。」
「暗号のようですが。」
スポック:「発信源をキャッチしました。…焦点を固定できそうです。敵のブリッジです。」
カーク:「スクリーンに映せ。」
スクリーンを見つめるカーク。
室内の様子に切り替わった。制服を着たクルーが見える。
報告を受けた男の耳は、ヴァルカン人のように先が尖っていた。
立ち上がるスタイルズ。眉を上げるスポック。
スタイルズはスポックを見る。


※10: 吹き替えでは「0401.6012」。原語ではもちろん、全て「宇宙暦」とも言っています

※11: Romulus
初言及。「ロミラス」と訳されているようにも聞こえます

※12: Remus
初言及。ともにローマ神話に登場する双子の兄弟、ロムルスとレムスにちなんで。リーマスについては長らく描かれていませんでしたが、映画第10作 "Star Trek Nemesis" 「ネメシス/S.T.X」で扱われました

※13: Neutral Zone
ロミュラン中立ゾーン。初登場

※14: 吹き替えでは「エンタープライズ

※15: Lieutenant Stiles
(ポール・コミ Paul Comi) 吹き替えでは「スタイル」。声:近石真介 (DVD・完全版ビデオ補完も継続)

※16: Romulan Star Empire
初言及。通常はロミュラン帝国 (Romulan Empire) と呼ばれます。星図にはそのほか、セクター Z-6 (Sector Z-6) という表記も

※17: 地球・ロミュラン紛争 Earth-Romulan Conflict
現在一般的には「地球・ロミュラン戦争 (Earth-Romulan War)」または単に「ロミュラン戦争 (Romulan War)」と呼ばれます。原語では「100年前」と言っているため、2160年頃。以下スポックから詳しく語られる内容は、以降のシリーズ (特に ENT) の設定と比べると謎や矛盾も多く、さらに連邦設立の時期と重なっているためファンの興味をそそるものとなっています

※18: 吹き替えでは「したがって参戦した宇宙船は搭乗員ごと完全に破壊され、一人の負傷者も捕虜も出なかった」

※19: 吹き替えでは「さらにお互いに敵船を目撃した者はいない」。あとのスタイルズのセリフにもあるように、船自体の姿は見ています

※20: ロミュラン Romulans
初登場

※21: 今回の亜空間通信 (subspace radio) の訳語

※22: 原語では「覚えておいて欲しいが、この件に関する私の命令は厳格に守らなければならない。どのような行動や挑発があろうとも、中立地帯に侵入する適切な理由とは考えられない。我々は自己防衛を行う。しかし必要な場合は宇宙戦争を回避するために、前哨基地も本船も犠牲にすることになるだろう」

※23: 船名の由来。吹き替えでは、以降次のように訳されています。スタイルズ「決まってますよ。奴らは残酷な化けもんです」 カーク「地球人がそう思い込んでいるだけだ」「そうかもしれません。しかしあの時何人殺されたと思います。私の先祖もその中の一人です。これは歴史的な事実ですよ」

※24: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。完全版ビデオ (第1シーズンの一部) および DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※25: 原語では「こんな簡単に離せないわよ。あなたと結婚するんですから、いいわね。戦闘やフェイザー兵器があっても」

※26: Brenner
(シーン・モーガン Sean Morgan TOS第22話 "The Return of the Archons" 「ベータ・スリーの独裁者」などのオニール (O'Neil)、第53話 "The Ultimate Computer" 「恐怖のコンピューターM-5」のハーパー (Harper) 役) 名前は言及されておらず、脚本より。資料によってはモーガンはロミュランのクルーを演じていることになっています

※27: フィールズ機関士 Engineer Fields
(ジョン・アルント John Arndt) 初登場。名前は言及されていません

※28: 吹き替えでは順に「右舷」「前部」

※29: Commander Hansen
(ゲリー・ウォルバーグ Garry Walberg) 声:村越伊知郎、TAS マッコイなど

※30: 原語では「警告は受けましたが」とも言っています

※31: 吹き替えでは「司令室は御覧のように、基地の地下へ陥没しました。これ以上もちません」

※32: バード・オブ・プレイの映像は第4前哨基地からの中継だったはずなので、破壊された後にここで再び映るのは変だという指摘があります

※33: 原語では、どちらも「最大に拡大」

※34: 吹き替えでは「続けてくれ」

ブリッジ。
スポックはスタイルズたちの視線に気づいた。
カークはスタイルズのコンソールを叩き、集中するように指示する。「暗号は。」
ウフーラ:「今、解読機にかけてます。」
スタイルズ:「スポックがいるでしょ。」
カーク:「どういう意味だ、それは。」
「いえ、別に。」
「何と言った。」
「暗号解読機にかけなくても、ミスター・スポックに翻訳してもらえばいいと言ったまでです。」
「つまり君はミスター・スポックが、ロミュラス星のスパイだと言いたいのかね?」
「そりゃあどうですかね。」
「この際君に一つだけ忠告しておくが、現在このブリッジには個人的感情を持ち込む余地はないのだ。これだけ言えばわかるはずだ。」
「わかりました。」
自分のコンソールに向き直るスポック。
ウフーラ:「録音できました。お渡ししておきます。」
スポック:「ありがとう。」 チップ状のテープをコンピューターに入れ、再生させる。
スールー:「何か、視界に入ってきました。遥か彼方ですが。」
スクリーンに小さく移動する物体が見える。
スールー:「針路を変えています。」
カーク:「ピッタリついていけ。」
「了解。」
向きを変えるエンタープライズ。

宇宙船※35の下部船体には、巨大な猛禽類が描かれている。
先ほどカークたちが見たロミュラン司令官※36。「船体が見え始めた、早く調整しろ※37。」
ヘルメットを被った部下のロミュラン※38。「敵もいないのに無駄なエネルギーを、消費することは…」
司令官:「連絡を受けた地球の宇宙船が我々を追跡してくるのがわからんのか。」
「しかし間隔は全く同じですし、コースも同じですので。あれは我が宇宙船の影だと思われますが。」
「それが罠だ。地球の宇宙船に違いない。」
うなずくロミュラン。
バード・オブ・プレイは遮蔽された。
ロミュラン:「船体を隠しました。」
年老いたロミュランの百卒長※39が近づく。
司令官:「間もなく中立地帯へ入る。今はただ、無事に本国へ帰還できればいい。…敵の宇宙船に違いない。」
百卒長:「もしそうなら、なぜ攻撃してこんのだね。」
「我々の弱点を探ってるんだ、戦う前に。立場が逆なら私も同じことをする。」
別の部下、ディシアス※40が近づいた。「お呼びでしょうか、船長。」
司令官:「…なぜ基地に通信連絡した。沈黙を守れと言ったはずだ。」
「しかし暗号を使用しました。勝利を報告しただけであります※41。」
「その軽率さが勝利を台無しにするかもしれんのがわからんのか! …お前の階級を剥奪する、持ち場へ戻れ。」
敬礼し、離れるディシアス。
百卒長:「そう怒りたもうな。彼が反抗して、仲間が同調したらどうなると思う。…ただごとでは済まん。」
司令官:「私には船長としての責任がある。」
「君とはもう何年も一緒だが、未だに何を考えてるのかわからんよ。」
「よく考えてみたまえ。地球の宇宙船が攻撃をかけてくるまで、こちらからは手を出したくない。もし戦えば、我々が勝つことは明らかだ。その結果はどうなると思う。上層部は、地球征服に踏み切るに違いない。」
「たとえ全面戦争になろうとも地球を征服できればそれでいいではないか…」
「しかし私個人としては回避したい、戦えば多くの同胞を失うことになる。」
「上層部の命令であれば…服従以外にはない。」
「服従か、しかしだ。服従することによって、罪もない仲間が殺されていく。…悲劇だよ。やがて宇宙は愚か者たちの廃墟と化すかもしれん※42。…フン。心配するな。感傷に負けて義務をおろそかにするような私じゃないさ。私も軍人だよ。さあ、作戦を開始するか。」

エンタープライズ。
スールー:「針路を変えました。追跡します。」
スポック:「現在針路 111、マーク 14。元のコースに戻りました。中立地帯に向かってます。」
何もないスクリーンを見るカーク。「このまま進むとどうだ。」
スタイルズ:「一時間以内に、中立地帯に入ります。…もちろん引き返さない場合ですがね。」
カークはスタイルズを見た。
スコット:『前哨基地の破片と思われる物を回収しました。』
カーク:「会議室へ持ってこい、みんな集まってくれ。」
ターボリフトに入る一同。

丸みを帯びた物体を手にしているスポック。「これは、防御板※43の破片です※44。現在の地球では、最も固い物質とされていることは御存知でしょう。」
スポックが力を加えると、それはバラバラになった。「それが敵のプラズマエネルギーを受けて御覧のように、変質してしまいました。」
カーク:「続けて。」
「…敵の武器が優れていることは明らかで、現在の我々には防ぐ方法はありません。」
マッコイ:「そんなことを話してるんじゃない、いかなる作戦をとるかが問題だ。敵の出方次第で何億という地球人が危機にさらされるんだ。」
「彼らの優秀なことは証明されましたからね。」
カーク:「エンタープライズ※14が彼らと交戦して勝ちうる可能性は、理論的に果たしてあるだろうかね。」
スコット:「問題ありませんねえ、彼らのパワーはインパルスだけですよ。」
「では逃げ切れるか※45。」
スタイルズ:「地球人はそんなに情けないんですか。船長。」
「遠慮はいらんぞ、意見があるなら言いたまえ。」
「ただちに攻撃すべきだと思います。」
「ただちに。」
「奴らは中立地帯を越してきました、明らかに条約※46に違反しています。」
スールー:「いやしかし、敵の姿は見えないんだ。…どうやって狙いをつける気だ?」
「探知機を使うさ。…正確にはつかめないだろうが付近で爆発させれば…」
「しかしその間に敵の攻撃を受けたらどうする。」
「それでも構わん! 彼らが戻って我々が逃げたと報告したらどうなる。」
「エンタープライズが粉々になっても構わんって言うのか?」
「奴らはロミュラス星人だぞ? 弱味を見せたら最後、必ずつけいってくる。…今度はただの一隻ではなく、総動員して襲いかかってくるぞ? ミスター・スポック、それはあなたが一番よーく知ってるはずだ。だがあなたは、その問題を逸らしてきた! なぜだ! あなたがロミュラス星人だからか?」
カーク:「座りたまえ。」
スポック:「……賛成だ。攻撃に。」
スポックを見るスタイルズたち。
カーク:「…全面戦争を避けるために、攻撃するのか。」
マッコイ:「バカを言うな。戦いなど前世紀の遺物だ。顔を合わせたこともない相手となぜ戦わねばならんのだ。」
スタイルズ:「どんな相手かはわかっている。」
スポック:「そう、似たのがここにいるからな。ロミュラス星人は私がもつヴァルカン人の血筋の子孫かもしれない、私はその可能性が高いと思うがね。もしそうならば、なおさら攻撃は回避できない※47。」
マッコイ:「いかなる戦争も必ず回避できる。」
「彼らの場合はできない。ヴァルカンは地球同様、攻撃的で征服を好む時代があったんだぞ? 野蛮だ、地球の基準からしてもな。もし彼らがこの好戦的な考え方を残したままなら※48、弱味を見せることは絶対危険だと思う。」
「君には戦いを憎む気持ちはないのか。」
カーク:「……カークからブリッジへ。」
ウフーラ:『ブリッジです。』
「現在位置は。」
『コースに変化はなく、あと 21分で中立地帯に入ります。』
「司令部には状況を報告してるかね?」
『はい、しています。』
「指示はきたか。」
『最初の報告に対する指示は 3時間後でないと届きません。』
「よーし、わかった。コースをチェックしてくれ。」
スポック:「前方に、7等級の彗星です。敵船はそれに向かって方向を変えました。」
※49を手にするカーク。「イカルス4号※50彗星だ。構成物質は。」
スポック:「本体は多量のイオン化物質、尾は凍結した蒸気分子です。」
「たとえ目に見えなくてもある物体がその中を通過した場合はどうなる。」
「尾を引くので確認できます。」
スコット:「そりゃあいい。」
カーク:「またとないチャンスだ。全員攻撃態勢に入れ。」
警報が鳴る。会議室を出て行くスポックたち。
カーク:「負傷者を出さずに済むといいんだがね。」
マッコイ:「祈るほかない。これは大変な賭けだ。」

廊下を歩くカークたち。


※35: ロミュラン・バードオブプレイ Romulan bird-of-prey
初登場。ウォー・チャンによるデザイン・製作

※36: Romulan Commander
(マーク・レナード Mark Lenard TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」などのヴァルカン人サレック (Sarek)、映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」のクリンゴン人艦長 (Klingon captain) 役。1996年11月に死去) 名前は言及されておらず、肩書きは吹き替えでは「船長」。声:塩見竜介

※37: 原語では「遮蔽システム (cloaking system) に注意しろ」。遮蔽が言及されるのは初めてで、吹き替えでは「(船体・姿を) 隠す」と訳されています。今回エンタープライズは初めて遮蔽装置に出会ったような描写ですが、過去であるはずの ENT では何度も登場しています。ENT 第1シーズンでは似たような技術が出ても意図的に遮蔽という用語は避けていましたが、第2シーズン以降はロミュラン自身のものを含めて普通に使っています

※38: ロミュラン・スキャナーオペレーター Romulan scanner operator
(ロバート・チャドウィック Robert Chadwick)

※39: センチュリオン The Centurion
(ジョン・ウォーバートン John Warburton 1981年10月に死去) 名前は言及されておらず、肩書きは吹き替えでは「司令官」。百卒長はローマ帝国の階級です。エンサイクロペディアでは宇宙艦隊の大佐に相当すると書かれていますが、それは司令官が相当すると思われるので、中佐以下と考えるのが妥当でしょうね

※40: ディシウス Decius
(ローレンス・モンテーニュ Lawrence Montaigne TOS第34話 "Amok Time" 「バルカン星人の秘密」のストーン (Stonn) 役。ファン製作ムービー "Star Trek: Of Gods and Men" にもストーン役で出演) 名前は訳出されていません。TNG第82話 "Future Imperfect" 「悪夢のホログラム」で、ロミュラン・ウォーバードのディシアスが登場

※41: 原語では「政務長官 (Praetor) に」と言っていますが、ほかの個所を含めて訳出されていません。ローマ帝国の役職。「総督」「法務官」などと吹き替えされたこともあります

※42: 「悲劇だよ」の個所から、原語では「百卒長、私は帰還する前に船を破壊したいという欲求に駆られる」

※43: この protective shield は吹き替えでは「防御スクリーン」と、通常のディフレクターシールドと一緒の訳になってしまっています。単なる物理的な物で、そもそもシールドを「手にする」ことなどできません

※44: 原語では成分のロデニウム (rodinium) について触れています。初言及

※45: 前のスコットのセリフをよりどころにして、バード・オブ・プレイがワープ航行できず、それどころか当時のロミュランは超光速技術そのものをもっていないとする見解もあります。ですがこれには異論もあり、単に武器や遮蔽との併用はできないということを示唆しただけといった解釈もできます。ENT で登場した過去のロミュラン船は、明らかにワープドライブを備えていました。吹き替えでは、スコット「(勝ち目は) ありませんねえ、彼らは遥かに優れてますよ」 カーク「では引き下がるか」と、全く逆の意味になっています。そのため幸い (?) インパルス問題は関係なくなっています

※46: 吹き替えでは「平和条約」

※47: 「ロミュラス星人」の個所から、吹き替えでは「弱味を見せたらつけ込んでくるという話には賛成だね。そうなれば全面戦争は回避できない」。つまりヴァルカンとロミュランが同一起源ということを示唆する部分は、訳されていません

※48: 「ヴァルカンは」の個所から、吹き替えでは「あくまでも攻撃的で力だけに頼る、野蛮極まりない連中だぞ? …皆さん地球人と違ってな。彼らがこの態度を変えない限りは」

※49: 通常の資料として本が使われるのは、珍しい例です

※50: Icarus IV
蝋の翼で太陽に近づきすぎて墜落死した、ギリシャ神話の登場人物にちなんで

宇宙空間を進む彗星。
カークはブリッジでそれを見ていた。「攻撃準備を。」
スールー:「全て完了しました。」
スタイルズ:「フェイザーガン、エネルギー注入。スタンバイして合図を待て。」
スポック:「敵船は彗星の尾に向かって進行中。」
カーク:「尾に入る時間を正確に計算しろ。」
スタイルズ:「了解。計算機にかけます。」
「尾の中に入ると同時に、肉眼でもわかるはずだ。…その瞬間を待って、素早く側面に移動し狙い撃つ。いいな。」
スールー:「はい、わかりました。」
スポック:「さらに尾に接近しました。」
カーク:「よーし、見逃すな。」
拡大されるイカルス4号彗星の尾。

スコープを覗いている司令官。「彗星は素晴らしいなあ。宇宙に流れる奇跡の光だ。」
百卒長:「それより敵をどうする。」
「彗星に妨害されて、敵の探知機は用をなさなくなる。」
音が響いた。
ロミュラン:「やがて尾に入ります。」
百卒長:「…敵が我々を見失ったら、ただちに反転して攻撃態勢に入る。」
「もう御心配いりません。」
「…何?」
「ツケてきた影が消えました。」
「…尾から脱出するんだ、早く!」
揺れるバード・オブ・プレイ。

尾に入り、エンタープライズのスクリーンは真っ白になる。
スポック:「探知機の反応が鈍りました。」
カーク:「チャンスを待て。攻撃準備はいいか。」
スールー:「…準備完了です。」
「姿を現すのはほんの一瞬だ。」 乱れるスクリーン。「スタンバイ。」
前が晴れてきた。
スールー:「船長、見えません。」
スポック:「直前になって気づいたかな。」
カーク:「そうとしか考えられん。よし、方向転換。」
スールー:「方向転換。」
「実に機敏な相手だな。簡単な罠にはかからんぞ。よし、位置を推定して攻撃。」
スタイルズ:「こちらブリッジ、位置を推定して攻撃。」

トムリンソン:「第1砲座、発射。」
フィールズ:「第1砲座、発射!」
武器を発射するエンタープライズ※51
あちこちで爆発する。

揺れるバード・オブ・プレイ。天井から塵が降ってくる。

トムリンソン:「第2砲座、発射!」
フィールズ:「第2砲座、発射!」

見守るカーク。

気づいた百卒長は司令官を押しやった。天井から落ちてくる巨大な物体。
司令官は部下と共に物体をどける。「…全エネルギーを砲に注入しろ!」

操舵席の警報に気づくカーク。
スタイルズ:「どうしたんだ。」
スールー:「コントロール装置が故障だ。」
椅子の下のパネルを開けるスポック。中で火花を吹いている。
火を消した。「少し時間がかかります!」
スールー:「敵船が姿を現しました!」
バード・オブ・プレイが見えてきた。
カーク:「反撃してきた。…全速で後退※52!」
武器を発射するバード・オブ・プレイ。すぐに船は見えなくなる。
カーク:「もっと速く脱出できんのか!」
スールー:「駄目です、これでは間に合いません。」
大きくなる光球。
スールー:「もしあれをまともに食ったら、望みはありません※53。」
カーク:「残り時間は。」
スタイルズ:「あのスピードで来れば、あと 2分※54もかかりません。」
「…反撃できないのか。」
スポック:「ショートしましたので。」
走る技師。
クルーに命じるカーク。「これを宇宙レコーダーに記録して、すぐに排出しろ※55。」
ランド:「船長、航星日誌の記入は続けますか…」
「あとにしてくれ。…よろしい、記入を続けてくれ。」
「はい。」
スールー:「あと 20秒※56しかありません。」
さらに近づく光球。汗をかいているスタイルズ。
スールー:「船長! …だいぶ弱まってきました。」
スタイルズ:「やはり射程距離があったんだ。」
武器はスクリーン一杯に広がる。
スールー:「あと 5秒。4、3…」
カークに抱きつくランド。
スールー:「2、1…駄目です!」
大きく揺れるブリッジ。
カーク:「射程距離外だ。」

倒れたマーティーニに近づくトムリンソン。「大丈夫かい。」
マーティーニ:「ええ。」

トリコーダーを置くスポック。「攻撃可能になりました。」 スコープを覗く。「敵現在位置、111。マーク 14。」
カーク:「元のコースに戻ったな。」
「破壊したと思っているんでしょう。」
「いやあ、それほど甘くはないぞ。こちらの出方をうかがってるんだ。」
「針路変更なし。コース 111、マーク、14。」
振り返るスールー。
カーク:「さあ、もう一度観光だ。…ピッタリとツけよう。」

バード・オブ・プレイ。
うめき声を上げる百卒長の汗をぬぐう司令官。
ロミュラン:「船長、影が現れました。」
司令官:「よーし、姿を隠せ。」
「しかしもうエネルギーがあまり…」
「早くしろ!」
前に出るディシアス。「…敵の宇宙船が。そんなバカな!」
ロミュラン:「ピッタリツいてくる。」
司令官:「今度は敵も、別の手を考えているはずだ。」

エンタープライズ。
近づいたスポックを見るスタイルズ。「あと一分で、中立地帯です。」
マッコイ:「条約を破るつもりか?」
スポック:「敵が先に破った。」
「しかし、何の証拠も残してない。罠だよ。我々が先に破ったと言うつもりだ。」
「まだ入ったわけではありませんよ。」
カーク:「入る前に片をつけよう。入れば面倒になる。
全速前進、ワープスピードに切り替える。」
スールー:「ワープスピードに切り替えます。」
「フェイザーガン発射準備。」
スタイルズ:「この距離からですか?」
「…そう、敵のアキレス腱を狙うんだよ。敵は例の武器を使うときに姿を現す。それを誘うんだ。」
「しかしこの距離下では、ほとんど命中する可能性はありません。」
「そんなこと百も承知の上だ。発射準備は。」
「発射準備完了。」

尋ねるロミュラン。「どうします!」
司令官:「反撃してはいかん。逃げ込むんだ。」

ブリッジに音が響いた。
武器を発射するエンタープライズ。
また爆発が起こる。

揺れに耐える司令官たち。

スールー:「敵は中立地帯に入ります。」
カーク:「間に合わなかったか。司令部に連絡。事後承諾になるが…私の責任において、中立地帯に進入すると伝えろ。」
まだスクリーンでは爆発が続いている。
カーク:「あくまで追跡だ。攻撃続行。」

揺れるバード・オブ・プレイ。
ディシアス:「攻撃を続行してきます! …まだ反撃しないんですか!」
司令官:「百卒長が、いま息を引き取った。」
「船長、何とかしないと!」
「…ああ。待て。今すぐ撃っては敵の罠にはまって、エネルギーを消費するだけだ。それより、やられたように見せかけるんだ。」 立ち上がる司令官。「裏をかくんだ、必要以外の物は船外に廃棄しろ!」
「はい、わかりました。」
「いいか、百卒長の死体もだぞ。…許してくれ、百卒長。今となっては全てのものを利用しなければならん、生きるために。」

スポック:「探知機の反応は消えました。」
カーク:「撃ち方やめ。」
スールー:「前方に破片発見、命中です。」
「どうだろう。」
スポック:「残骸です。金属の細かい破片に、繊維に…死体もあります。しかし…。」
「何だ。」
「量が少ないですね。」
「何。」
「偽装かもしれません。我々を欺く、罠でしょう。」
「探知機の反応は。」
「ありません。移動物体なしです。見失ったんですよ。」


※51: フェイザーを発射したはずなのに、今回使われている映像は全て、後のエピソードでは光子魚雷として使われるものです。この段階では光子魚雷の設定自体がなかったという説もあります。位置を推定して一帯を爆発させる攻撃の描写からすると、本来は光子魚雷の方が適切かもしれません

※52: 原語では「緊急ワープスピードで」と言っています

※53: 原語では「もし一つでもフェイザーが動けば、一発で爆発させられます」

※54: 吹き替えでは「1分」

※55: 吹き替えでは「事態を記録して本部に送れ」

※56: 原語では「10秒」

停止しているエンタープライズ。
『航星日誌、1709.6※57。ついに中立地帯に入ったが、再び敵船を見失ってしまった。探知機には何の反応もなく、ロミュラス星人の宇宙船は全装置をストップさせて静かに攻撃のチャンスを狙っている。我がエンタープライズ※14も、敵のわずかな動きでもキャッチするため静止して待機する。』
暗いブリッジ。
スポック:「船長、今のうちにコントロール回線を直したいと思いますが。」
カーク:「よーし、やりたまえ。静かにな。」
スクリーンを見つめるカーク。

報告するディシアス。「船長、20サイクル※58経ちましたが反応なしです。…きっと退却したんですよ。付近にはいません。」
司令官:「シーッ。偽装は失敗だ。敵はいる。私にはわかる。」

エンタープライズ。
『航星日誌、補足。9時間47分経過したが反応はない。』
カークはベッドで横になっている
部屋にランドが来た。「…少しでも何かお食べになったら?」
首を振るカーク。
ランド:「じゃコーヒーでも。」
起き上がるカーク。「いや、ありがとう。ブリッジへ運んでくれ、すぐ行く。」
ランド:「はい。」
マッコイが入った。出ていくランド。
カーク:「どこかへのんびりと独り旅でもしたいな。任務や責任から解放されて、人生を楽しみたい。…なぜ私が…指揮を執らなきゃいかん。みんな息を詰めて、私の命令を待ってるんだ。万一…判断を間違えたら。」
マッコイ:「なあ、カーク…」
「いいんだ、答えを探してるわけじゃない。」
マッコイはカークの肩に手を置いた。「だが答えがあるんだ。たまに患者に言うことがある※59。宇宙のこの地帯には、地球と同じタイプの惑星が 300万もあると計算されている。そして更に彼方にはそれこそ無限に、我が銀河系と同じような星群が散らばっている。その中で、我々それぞれは一人ずつしかいないんだ。カークという名の一人を失うなよ※60。」
カークは出ていった。

ブリッジ。
パネルを閉めるスポック。無言のカークたち。
起き上がろうとしたスポックは、コンソールのスイッチを入れてしまった。音が鳴り出す。
スタイルズ:「何だ!」
カーク:「静かに。」
すぐに切るスポック。
カーク:「心配いらん。」

ロミュラン:「反応をキャッチしました!」
司令官:「…やはりいたか。よし、接近しろ。」

カーク:「エンジン始動。」
スポックを見るスタイルズ。
カーク:「逆をつけ、敵船との距離を保つんだ。」
スールー:「コースを変更します。」
スタイルズ:「接近してきました。」
カーク:「発射用意。発射!」
「フェイザーガン、攻撃開始。」
発射するエンタープライズ。爆発が続く。

被害が出るバード・オブ・プレイ。
ディシアス:「反撃しないんですか、なぜです!」
司令官:「敵の船長は私の作戦を知り尽くしている。…我々に燃料がないのを知っていて、わざと射程距離外にいるんだ。」
「我々が負けるなんて、信じられません! 最高の装備を誇るロミュラス星の宇宙船なのに!」
「…まあ待て。最後の手段を使えば、まだ勝てる望みはある。全員非常配置につかせろ、早く! これより核兵器による攻撃を行う。」
「しかしそれは、自爆用です※61。」
「ただちに発射準備だ、自動ヒューズをつけろ!」
「わかりました、船長。」

スールー:「船長、また破片です。」
カーク:「様子を見よう、撃ち方やめ。」
スポック:「物体接近中。」
「至急分析しろ。」
「前回と同じタイプですが、今度のは…金属製の箱が含まれています。」
※62破壊しろ! フェイザーガン発射※63!」
「フェイザーガン発射!」
スクリーンが真っ白になった。衝撃が襲う※64
明かりが落ちるブリッジ。
エンタープライズは姿勢を失う。

ディシアス:「やったぞ! 命中だ!」
司令官:「…さあ、帰還しよう。」
「…完全に消しましょう。船長、我々の任務をお忘れなく。」

カーク:「医療室。」
マッコイ:『どうぞ。』
「負傷者は。」
『今のところ 22名※65。船の外壁付近にいた者が、放射線で火傷を起こしてる。ま、それぐらいで済んでよかったよ。』
「わかった。…分析結果は。」
スポック:「相手の武器は核兵器ですね。100メートルの距離のところで、フェイザーが点火しました。」
「船の被害は。」
「オーバーロードによる回路のショートです。」
「武器の状況は。」
スコット:『残るは、前方のフェイザーだけです。』
「使えるのか。」
『ええ、でもトムリンソンが独りで切り盛りしていてクルーが足りません。』
スタイルズ:「フェイザーなら、以前担当したことがあります。」
カーク:「行け。ウフーラ大尉※66、彼の後を引き継げ。」
ウフーラ:「はい。」
クルーの通信が聞こえる。『第2回路、破損しています。』『了解。』
ナビゲーター席に座るウフーラ。
クルー:『各部署の被害状況を再度点検しろ。』
スポック:「発進可能です。一旦退却して修理を行いますか。」
カーク:「いやあ。中立地帯のこちら側に、敵をおびき寄せるんだ。ここに留まり、死んだ振りをしろ。」

報告するディシアス。「まだ、動きがありません。」
司令官:「※67我々自身も被害を (こうむ) った。」
「我々の任務は、敵を叩き潰すことです!」
「相手の船長はそうは思ってない。」
「中立地帯ならば、敵は入ってきません。…お嫌なら、私に指揮を執らせてください。」
「…戦うさ。だが指揮を執るのは私だ。」


エンタープライズ。
クリップボードを持ってフェイザー制御室に入るスポック。「被害状況を報告してくれ。」
スタイルズ:「ありません。」
「誰か助手をよこそうか。」
「…君の世話にはなりたくない、横から口を出さないでくれ。」
出ていくスポック。
音が響きだした。目を見開くスタイルズ。
「フェイザー冷却剤封入/危険」と書かれたそばの装置から、赤い気体が吹き出している。
スタイルズ:「トムリンソン、見ろ!」
近づくトムリンソン。

カークはスクリーンを見つめる。
スールー:「敵船が姿を現しました。」
カーク:「攻撃準備。前フェイザーガン。」
バード・オブ・プレイが見えてきた。
カーク:「発射! …発射!」 操舵席に触れる。「おい、早く発射しろ!」

廊下を歩いていたスポックは、カークの通信を耳にする。『発射! どうした、聞こえんのか!』
走って戻り出すスポック。
カーク:『発射!』

フェイザー制御室は、赤い気体で充満していた。
カーク:『発射! ミスター・トムリンソン※68、どうした! 発射だ!』
スタイルズはコンピューターに触れようとしたが、倒れた。
カーク:『ミスター・トムリンソン、発射だ!』
駆けつけたスポックがコンピューターを操作する。
カーク:『発射! ミスター・トムリンソン!』
スイッチに触れるスポック。
エンタープライズは武器を発射した。

叫ぶロミュランたち。大きく揺さぶられる。
真っ暗になった。

姿勢を失ったバード・オブ・プレイが、スクリーンに映っている。
カーク:「いつでも接近できるように準備を頼む。敵船と交信。スクリーンに出せ。」
ウフーラ:「映像スイッチを入れます。」
映し出されたバード・オブ・プレイのブリッジでは、煙が上がっていた。
振り返る司令官は、息をつく。
カーク:「船長※69、生存者を転送によって本船へ救助する。待機の準備をしてくれ。」
司令官:『いや、当船を捨てるわけにはいかん。…こんな状態で、君と会ったのは残念だ。…我々は同類だ。別の世界なら※70、友人になれたかもしれんのに。』
「なぜ、救助を拒んで死を選ぶんだ。」
『…これは私個人の問題ではない。ロミュラス星人としての義務だ。…もう一つ、最期の義務が残っている。』
司令官はフラフラと動き、コンピューターを操作した。部屋は傾き、爆音が響く。
倒れる司令官。
スクリーンには、宇宙空間だけが映し出された。

ベッドのスタイルズを診察しているマッコイ。
カーク:「身体に異常はないか。」
スポック:「どうも、ご心配かけました。」
「気分はどうだね。」
スタイルズ:「ああ、大丈夫です。しかしあの時ミスター・スポックが駆けつけてくれなかったら、助からなかったでしょう。あんなこと言った後なのにあなた…」
スポック:「有能なナビゲーター※71を亡くすと今後支障を来すからだ。私は個人的な感情など用はない。」
カーク:「…本船の犠牲者は何人だ。」
マッコイ:「一人だよ。トムリンソンだ。…今朝結婚するはずだったのになあ。フィアンセは今礼拝室にいるよ。」
ランドが医療室に入った。「司令部から今やっと回答が届きました。船長の判断で行動しろとのことです。」
スポックたちを見て、出ていくカーク。

独りでいるマーティーニ。カークが礼拝室に入った。
マーティーニは立ち上がる。涙の跡が見える。
カークに抱きついた。
カーク:「君には何と言ったらいいか。…彼の死を無駄にはしないつもりだ。」
マーティーニはうなずく。「これも任務です※72。」 出ていった。
カーク:『戦いはたくさんだ、いくら任務とはいえ人の命は大切にしたいものだ。』※73
部屋を後にし、廊下を歩くカーク。


※57: 吹き替えでは「0401.6016」

※58: cycle
ロミュランの時間単位。次のカークのセリフから、1サイクル=29.35分以下と推測されています。吹き替えでは「24サイクルに上げましたが」

※59: 吹き替えでは、カーク「慰めてくれなくてもいい」 マッコイ「慰めじゃない。一人の人間として言いたいんだ。地球人として」

※60: 「その中で」の個所から、吹き替えでは「それぞれ、生命をもっている。幸せに生きたいんだ。侵略者とは戦うべきだよ」

※61: 吹き替えでは「自殺行為になります」

※62: 吹き替えでは「核物質だ」と言っていますが、正体がわかるのはスポックが分析した後です

※63: 原語では「直射 (零距離射撃、fire point-blank)」を命じています

※64: カークとウフーラだけ、逆の方向に動いているという指摘があります

※65: 吹き替えでは「20名」

※66: 吹き替えでは「尉」。シリーズ中一貫して、ウフーラの階級は大尉です

※67: 吹き替えでは「今の攻撃で」と言っています

※68: 原語では全てスタイルズを呼んでいます

※69: 吹き替えで司令官を船長と訳していますが、カークは事情を知らないので実際に原語でも Captain と呼んでいます

※70: 吹き替えでは「種族も違うし住む世界も違うが」

※71: 吹き替えでは「パイロット」

※72: 原語では「大丈夫です」

※73: この心の声は、原語にはありません

・感想など
ヴァルカン、クリンゴン、ロミュランといえば、現在まで続くスタートレックの異星人主要3種族。そのうちロミュランが初登場するエピソードです。クリンゴンが「動」「陽」とするならば、ロミュランは「静」「陰」という印象がありますが、この話がその礎になったことは疑いようがありません。最初から単なる敵ではなく、司令官と百卒長はカークとマッコイの関係にも似た描写があることにも驚かされます。
眼下の敵」(1957) や「深く静かに潜航せよ」(58) といった潜水艦映画を元にしているため、後の設定と比べると不思議な描写がいくつか見受けられます (遮蔽はしているものの、移動すれば大まかな位置はわかる点など)。明らかなミスを犯すスポックも新鮮です。テーマがテーマだけに、あえて意訳したと思われる個所が結構多いですね。まだロミュランという訳語は使われていませんが、「星人」は別にしても、本来はロミュラス人という訳の方が正しいとも考えられます。サレック役のマーク・レナードが演じた印象的な無名の司令官は、孫娘という設定のロミュランがシャトナー作「カーク艦長の帰還」に登場します。


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