イントロダクション
司令官室にいるジェイク。「なぜキャシディとの結婚に反対だって?」 シスコ:「反対だとは言われなかった。すべきじゃないってことらしい。」 「同じだよ、預言者が口出しする問題じゃない。」 「私のことは全て関係ある。」 「……本人に話したの。」 「いや、彼女は勤務で 2、3日しないと戻らない予定だ。」 「戻ってきたらどう話すの。母である預言者サラから結婚を反対されたって言うの?」 「ジェイク、父さんを落ち込ませないでくれよ。」 キラから通信が入る。『大佐、カイ・ウィンが面会を求めています。』 シスコ:「…通してくれ。」 ジェイクと抱き合った。「また後でな。」 出ていくジェイク。 ランジェンたちと共にカイ・ウィン※1がやってきた。「選ばれし者、おめでとうございます。」 シスコ:「カイ・ウィン。」 「喜ばしいことです。この結婚式はベイジョーにとって極めて重要です。それがきちんと式に反映されているか確認すべく、こうして準備のお手伝いに参った次第です。」 「…大変ありがたいんですが、その必要はないでしょう。」 「好きでしていることですから遠慮はいりません。結婚式をヴェデク・テルナ※2に頼んだのはよくわかります。こちらが多忙なので遠慮なさったのでしょうが、伺ったからには…わたくしが式を執り行うのが筋だとご理解下さい。わたくしが話せば、ヴェデク・テルナは快く任せてくれるでしょう。ベイジョーにとっても大変喜ばしいことです。預言者たちもきっと祝福して下さるはず。…どうかなされましたか、選ばれし者? お悩みのようですね。」 「預言者のビジョンを受け取りました。」 「なるほど。」 「大変な試練に直面するという警告を受けました。」 「具体的には何と。」 「聞いてません。毎回明確なメッセージをくれるわけではない。」 「わたくしは直にお言葉を賜ったことはないのでわかりません。選ばれし者はこれまでも、預言者たちの求めるままに尽くしてこられた。では、試練に立ち向かう強さを賜るよう、お祈りしております。きっと役に立つはずです。失礼します。」 「どうも。」 キラがウィンを出迎える。「お部屋へご案内いたします。」 ウィン:「お願いしますよ?」 その時、ウィンはふらついた。 独りでいるウィン。心臓の鼓動。 プロムナードの神殿の前。 ランジェンのソルボー※3が立っている。「この女のパーは強い。」 ウィン:「何のことです。」 キラも現れた。「忠実なしもべとなる。」 うろたえるウィン。シスコが見下ろしていた。 ウィン:「預言者。」 ひざまずき、目を閉じる。「お言葉を賜るこの日を、待ちわびていました。わたくしの役目は何でしょう?」 シスコ:「シスコは迷っている。お前が復活をもたらすのだ。」 「復活。」 ソルボー:「ベイジョーの運命はお前次第。」 「わたくしの使命は。」 キラ:「ガイドが導く。」 「ガイド。」 シスコ:「いずれ現れる。」 「その目印は。」 ソルボー:「男は大地の知恵をもっている。」 「大地とは? …何のことでしょう。」 目を押さえるウィン。 キラ:「お前だけが復活をもたらす。」 シスコ:「ベイジョーの運命は、お前と共にあるのだ。」 現実に戻るウィン。 キラ:「カイ・ウィン、大丈夫ですか? どうされました。」 ウィン:「…預言者から、啓示を受けました。」 |
※1: Kai Winn (ルイーズ・フレッチャー Louise Fletcher) DS9第145話 "The Reckoning" 「善と悪の叫び」以来の登場。声:沢田敏子 ※2: Telna DS9第159話 "Covenant" 「裏切られた誓約」より。当時はランジェンでした ※3: Solbor (ジェームズ・オーティス James Otis) 名前は訳出されていません |
本編
ワープ航行中のブリーン船。 ウォーフ:「じき食事の時間だ。2人で扉の陰に隠れて待ち伏せしよう。そして入ってきたブリーン人に飛びつき、武器を奪う。」 エズリ:「ウォーフ? 落ち着いて。仮病を使ったり待ち伏せしたり。」 反論しようとするウォーフに、更に続ける。「冷静に考えればわかるでしょう? どっちも上手くいきっこない。」 「だがあきらめるのは早い。捕虜になった士官は何としても脱出を試みるのが義務だ。」 ドアの開く音。やってきたブリーン人は、持ってきたケースを一つずつ投げ渡した。 エズリ:「…本日のスペシャルはなーに?」 何も答えず、そのまま出ていくブリーン人たち。 不満なエズリ。「アルジーペースト※4。嬉しい。…ヘルメットを取ると、ブリーン人ってどんな顔かしら。」 ペーストを指で舐め始める。 ウォーフ:「誰も見たことはないし、話すところを聞いた者もいない。」 「モジャモジャかも。ブリーンって極寒の地なのよ?」 「確実に言えるのは…」 顔をしかめるエズリ。「料理下手ってこと?」 ウォーフ:「…危険な連中だ。領土侵犯は決して許さない。第二帝政時代、モウガ総裁※5は、ブリーン星を征服しようとクリンゴンの艦船を送ったが、二度と戻ってこなかった。…もう 3日飛び続けてるから、既にブリーン領域に入ってるはず。」 「かもね。でも連中が私たちをディープ・スペース・ナインに帰してくれるという可能性も、まだ捨てきれないわよ?」 「…君はユーモアがあるな。」 「でもないけど。」 「…ジャッジアも気持ちを高めるためにユーモアを使った。」 「あなたにあまり受けなかったけどね?」 「…君はジャッジアに似ている。」 「…部分的にはね。」 「……一度は、彼女を永遠に失ったと思ったが、私たち二人にはまだ…未来があるということだな。」 だがエズリは何も言わず、ペーストを口にする。 カーデシア・プライム。 ウェイユン※6が部屋に入る。 空のボトルと、いびき。あきれるウェイユン。 ウェイユンはゆっくりと部屋の中に入る。「ダマール?」 まだ、いびき。 ウェイユン:「起きろ!」 驚いて飛び起きるダマール※7。「ああ…何の用だ。」 髪も乱れている。 ウェイユン:「いくら連絡しても出ないので、起こしに来てあげたのですよ。」 「あ、ああ…夕べは仕事で遅かった。」 「ええ…そのようですね。」 手にした女性ものの服を投げ捨てるウェイユン。「身支度をしろ。午後に出発します。」 「…どこに行くんだ。」 「黙ってついてきなさい。」 「突然言われても困る。私は忙しい身だ。」 「デュカットのお手伝いか? …彼がここにいることを私が知らないとでも思っているのですか? ベイジョー人になりすまして、今度は何を企んでいるのやら。」 「聞いていない。」 「それでも彼に協力するとは、見上げた忠誠心。それが正しいものであれば、実に感動的だ。」 出ていくウェイユン。 ベッドから降りたダマールは、カナールを手に取る。鏡に映った自分を見つめた。 後ろを向き、酒を飲む。 カナールの瓶を置く、ベイジョー人に変装したガル・デュカット※8。「…船の手配は済んだのか?」 荷物を準備するダマール。「身分証も抜かりありません。」 デュカット:「結構。やはりお前は、頼りになる。」 ため息をつくダマール。 デュカット:「元気がないな。」 ダマール:「…別に?」 「かつての勇士ダマールは、どこへ行ってしまったのだ? 一隻の船で共にクリンゴン帝国に立ち向かったあの時の我が英雄は、どこに行った。」 「単純な時代でしたからね。」 「時代は過ぎ去ったとしても、あの頃のお前は過去ではない。今もお前の中に生きているはずだ。」 ダマールの腕をつかむデュカット。「再び強い自分を取り戻すのだ、ダマール。カーデシアには指導者が必要だ。」 「…あなたこそ指導者に復活すべきです!」 首を振るデュカット。「ううん。私には別の使命があると、パー・レイスは示されたのだ。…幸運を祈ってるぞ。」 手を差し出す。二人は固く握り合った。 ダマール:「…お互いに。」 デュカットはうなずいた。 DS9。 エアロックのドアが開き、乗客が降りてきた。 その中に、デュカットがいた。プロムナードを見渡し、歩いていく。 |
※4: 藻のペースト algae paste ※5: Chancellor Mow'ga ※6: Weyoun (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) 前話 "Penumbra" 「彷徨う心」に引き続き登場。声:内田直哉 ※7: Damar (ケイシー・ビッグス Casey Biggs) 前話 "Penumbra" に引き続き登場。声:古田信幸 ※8: Gul Dukat (マーク・アレイモ Marc Alaimo) 前話 "Penumbra" に引き続き登場。声:幹本雄之 |
キャシディ・イエイツ※9は頭に布を巻いている。「花嫁はナヴァタン※10のショールを身につけると、幸せになれるんですって。…どうしたの? 気に入らない?」 シスコ:「……素敵だよ。」 「じゃ笑顔を見せて。」 「…話がある。」 「嫌な予感がするのは、気のせいかしら…?」 「君に、黙っていたことがある。……数日前、預言者の一人が現れたんだ。…サラだった。」 「お母様ね? 何と言われたの?」 「…進むべき道について、警告を受けた。独りで行けと。…君は一緒に、歩めないんだ。」 「…なぜ?」 「理由は言わなかったが、警告を無視すれば悲しみが訪れると。」 「まるで脅しじゃないの。」 「いや。そういう口調ではなかった。心配している様子だった。一人の母親としてね。」 「……それでどうするつもり?」 「…預言者には未来が見えるんだ、はっきりね。彼女が心配するには、それなりの理由があるはずだ。」 「…私の質問に答えてない。」 「キャシディ。君を愛してる。心から君と一緒にいたい。」 「じゃあそうしましょう、ベン。」 「……できない。」 「…ああ…。」 「預言者に逆らうことはできないんだ。」 イエイツは布を外した。 シスコ:「頼む、キャシディ。わかって欲しい。」 立ち上がり、目を閉じるイエイツ。もらった「指輪」を外し、テーブルに置いた。 荷物を持ち、振り返りもせずに部屋を後にする。 ブリーン船。 寝ているエズリ。「いや…んー、んー…いやー! んー…」 起こすウォーフ。「エズリ!」 エズリ:「んー、いや!」 「もう大丈夫。悪い夢を見ただけだ。」 「ここはどこ?」 「まだブリーン船だ。」 「…私追われていたの。氷の洞窟を…」 「シーッ。」 「息苦しいほど寒くて寒くて。」 「もう心配ない。」 「どこまで追いかけてきて、後ろを振り向くと相手がそこにいた。…そしてついに、巨大なかぎ爪の男に捕まった。」 「ああ…ブリーン人にかぎ爪はない。」 「なぜわかるの? それに夢だったのよ? 夢は理屈の通らないことだらけ。」 「だから夢なんて忘れるのが一番だ。」 「だめよ、そんなの。夢は何かを暗示してるのよ? 一見無意味なことが重要な意味をもって、無意識に何かを伝えようとしている場合もある。とにかく、逃げたんだけど…行き止まりだったの。そして今にも殺されると思った瞬間、彼は手を挙げて、ヘルメットを外した。」 「…それで?」 「それが…ジュリアンだったの。」 「…ドクター・ベシアか。」 「…おかしいわよね。どういう意味かしら。」 「ドクターがブリーン人ってことさ。」 「…面白い。…洞窟は子宮の象徴ね。私の潜在意識が伝えようとしているのかも。生まれてから抑えてきた感情に面と向かえと。でも 9人のどの人生だか。」 「…馬鹿馬鹿しい。」 「私はカウンセラーよ? 夢判断は重要な仕事の内なの。」 「ジャッジアは夢の話などしなかった。」 「私は彼女とは違うもの。」 突然、ブリーン人たちがやってきた。持っている棒を突きつける。 彼らは何か機械音のような言語を話した。理解できない。 棒を突きつけるブリーン人。ウォーフは抵抗しようとするが、結局棒を身体に当てられ、強いショックを受ける。 エズリ:「ウォーフ!」 エズリも攻撃するブリーン人。 ウォーフだけ、そのまま連れられていった。 エズリ:「どこに連れていくの…!」 痛みをこらえるエズリ。 DS9。 ベイジョーの祭壇の前で祈っているウィン。「どうかこの卑しい身にご慈悲を。大いなる使命にふさわしいものとするため、わたくしに強さをお授け下さい……。」 ろうそくの火を吹き消す。 ソルボーが部屋に入る。「カイ・ウィン。」 ウィン:「はい?」 「ぜひカイにお目通り願いたいという者が来ております。」 「通しなさい。」 ソルボーは男を呼んだ。 それはデュカットだった。恐る恐る近づく。 ソルボー:「名前はアンジョル・テナン※11。レリケス※12からです。」 ウィン:「よく来ました。」 デュカット:「お目通り頂き、感謝いたします。」 出ていくソルボー。 ウィン:「ご用件は?」 デュカット:「お願いに参った次第で。豊穣がもたされるよう、ぜひともカイの祝福を頂きたいと。」 「お前、仕事は?」 「ああ、私はただの大地の子です、カイ・ウィン。」 目を見開くウィン。「…大地の子?」 デュカット:「農夫ですよ。モバを作り…」 ウィンはデュカットの耳を握った。ひざまずくデュカット。 ウィン:「強いパーをもっている、アンジョル。…お前を待っていました。」 デュカット:「あ…。」 |
※9: Kasidy Yates (ペニー・ジョンソン Penny Johnson) 前話 "Penumbra" に引き続き登場。声:弘中くみ子 ※10: Navatan ※11: Anjohl Tennan ※12: Relliketh DS9第36話 "Shadowplay" 「幻影の村」で言及 |
ソルボーが食器を運ぶ。 デュカット:「ああ、私がやります。ランジェンが一介の農夫にお茶を入れるなど、勿体ないことだ。」 ウィン:「どうぞ、遠慮しないで。」 「ああ…。誰も本気にしてくれないな。カイとお茶を飲んだなどと、近所の連中に話してもね。」 笑うウィン。「ご苦労様。」 デュカット:「どうも。」 ソルボーは出ていく。 ウィン:「お前のことを聞かせてちょうだい、アンジョル。豊穣の祈りのために来たのですね? 収穫状況は厳しいのですか?」 デュカット:「はい。去年はロガス葉枯れ病※13にやられちまって、畑は全滅しました。」 「大変でしたねえ。」 「レリケスの農家の大半が、やられちまったんで。」 「『そして大地は大いなる悪に汚される』。……古文書の言葉です、最期の日の預言、タルノット※14のね。」 「ああ…。」 「それで、病気について詳しい話を。」 「ああ…細菌を根絶する方法は一つ。病気が見つかったら、直ちに田畑を焼くしかありません。」 「それで?」 「その年は何も蒔かずに、大地を静かに休ませなければなりません。土を復活させるために必要なことなんで。」 「…復活。」 「そうすりゃ翌年、大地は再び実りをもたらす。」 「『大地を再生させるため、毒は一掃されなければならない』。」 「何ですか?」 「お前は祈りを捧げてますか?」 「ええ、毎日欠かさず。」 「預言者は答えをくれましたか? ビジョンや、夢の形で。」 「おお…そりゃあ預言者様の存在は、何度も身近に感じましたが…。具体的な啓示は何も。啓示はカイのような身分の高い方が授かるものです。」 「…そうですねえ。先日預言者から、お前が現れるという啓示を受けました。」 「……私?」 「お前は祝福を受けた。わたくしのガイドに選ばれたのです。」 「…ああ…どういうことでしょうか?」 「お前はベイジョーの復活のためにわたくしに力を貸すのです。」 「預言者が私らのような身分の低い者を選ぶはずがない。」 「もっと自分に自信をもちなさい、アンジョル。預言者を信じるのです。」 「…もちろん。」 「大丈夫。今に我々の役割がわかります。預言者の示される道を共に歩んで参りましょう。」 「ええ…。」 報告するキラ。「要するにですねえ、数日ではとても無理だと、チーフが。」 シスコ:「困るなあ。船の修理は明日終わるとマートク将軍に請け合った。」 「エンジニアクルーたちは休み返上で作業を続けているんですよ?」 「そりゃわかってる。…何というか事態が…ちょっと複雑になってきたんだ。」 「そのようですね。」 「実はな…また預言者が現れて、啓示を。キャシディとは、同じ道を歩むべきでないと警告された。」 「ああ、そうですか。そういうわけでしたか。お気の毒です。でも預言者はわけもなく無理を言うことはありません。」 「そのわけを言ってくれればなあ。」 「そうはいかないことはご存じでしょう? …大佐が求められていることは厳しくとも、必ず正しい道に導かれます。」 「今のところ。だが先はどうだか。…私はただの『使い』だ。預言者の願いを聞き届ける道具。夢や希望もある生身の人間だってことを忘れているんだ。預言者は、キャシディとの結婚は、間違いだと言うが…余計なお世話だね。」 「私は預言者に従います。大佐も正しい道を。」 ワープ中のジェムハダー船。 ジェムハダーと共に、ウェイユンが乗船している。 女性可変種※15がやってきた。 気づくウェイユン。「創設者。」 女性可変種:「集合地点まで何時間です。」 「36時間ほど。いや、実に素晴らしい計画です。戦局をこちらの有利にもちこめるでしょう。」 「だといいんですが。ああ…」 よろめく女性可変種。 「創設者!」 「…ダマールは…ほんとに信用できるんでしょうね。」 「問題はありますが、心配ご無用。時期がくれば私が処分いたします。」 「お願いしますよ? 彼が一番の悩みです。」 「快適に過ごせるよう、室温を下げましょう?」 出ていく女性可変種。 ブリーン船。 ウォーフは悪夢に悩まされていた。「戦え! …スト・ヴォ・コー……!」 エズリ:「ウォーフ!」 「ああ…よせ、やめろ! 彼女の思い出を汚しはしないぞう! あ…あ…」 「一体何をされたの?」 「アレキサンダー! ああ…」 「ウォーフ。目を覚まして!」 汗をぬぐうエズリ。 「ああ…エズリ。ああ…ああ…。あ…おお……。」 ウォーフは起きあがる。 「どこに連れて行かれたの?」 「…尋問室だ。おお…。記憶を探るため、皮質インプラントを使われたらしい。」 「一体何を探ろうとしてるの?」 「知るもんか。…意識を失っていた。」 「その方がよかったのよ?」 「もっと強く抵抗すればよかったんだ! うう…」 ウォーフを支えるエズリ。「気をつけて。」 ウォーフ:「あいつらには尊厳も何もない。」 「ウォーフ、座ってちょうだい。少し食べないと。」 ウォーフはエズリが差し出した、料理のケースを投げ飛ばした。「もう限界だ! 野獣のように檻に閉じこめられて。」 エズリ:「やめて。」 「クリンゴンなら捕虜より死を選ぶ!」 「どうするの? 私をおいて自殺する?」 「冗談言ってる場合じゃない!」 「そんな風に大見得を張ってる場合でもないでしょう?」 そこへ、またブリーン人がやってきた。抵抗しようとするウォーフも棒で倒され、更に攻撃を受ける。 エズリ:「やめて!」 今度はエズリが連れられていった。 執拗にウォーフを攻撃した後、ブリーン人たちは出ていった。 起きあがれないウォーフ。 |
※13: Rogath blight 「ロガス」は訳出されていません ※14: Talnot 「預言者」と吹き替え ※15: 女性流動体生物 Female Shapeshifter (サロメ・ジェンス Salome Jens) 前話 "Penumbra" に引き続き登場。声:宮寺智子 |
ウィンはボトルを差し出した。「もう少しいかが?」 デュカット:「どうも。素晴らしい。こんな美味いワインは初めてですよ。」 「占領前の年代物で、貴重な一本なのよ? 結婚のお祝いに、選ばれし者に差し上げるつもりだったの。」 「そりゃあ光栄です。そんな貴重品を頂けるとは、ありがたい。」 「選ばれし者に差し上げても、これほど喜んで下さったか。ベイジョー人ではないから。」 「そりゃそうだ。…預言者は、選ばれし者を通じてご自分を語ってきた。ですが彼は真の仲間でしょうか、果たして?」 「…いいえ。違います。」 「私は何度も、シスコが真のベイジョー人理解者か疑問をもちました。ですが、なぜ彼が、選ばれし者になったのかなどということに、私ごときが口を出すべきじゃない。」 「わたくしのガイドとして預言者はお前を選んだ。遠慮せずに話しなさい、アンジョル。」 「…選ばれし者は、占領時代を体験していません。カーデシアにどういう目に遭わされたのか、何も知らんのです。あの頃、ベイジョー人は心に無数の傷を負いました。私らを、理解できなくて、どう傷を癒すと言うんです。」 「まあ、わたくしもよく同じ疑問を抱きました。」 「…私が生き残ったのは全くの偶然なんです。」 「偶然。」 「…レジスタンスが、レリケスのカーデシア基地を破壊した時のことですがね? ガル・デュカットは、ベイジョー人 100人を一斉検挙し、私らを首都に送って、公開処刑を行うつもりだったんですよ。」 「…レリケスから 100人?」 「フフン。」 「それはいつのことです?」 「あれは丁度、大飢饉の前でした。全くの幸運で、私の乗った輸送船は労働キャンプに送られたんです。そして、数年後に知りました。輸送担当官が指令を読み違えたってね。」 笑うデュカット。 「彼の名前はプレナール※16。読み間違いではありません。」 「……なぜわかるんです。」 「ああ…当時わたくしはランジェンでした。そしてレジスタンスにもっと積極的な役割をもたせることが必要だと、ヴェデクを説得したのです。ヴェデクは聖室からジェムストーンを取る許しをくれました。わたくしはカーデシア人からわずかでも慈悲を得るべく、その宝石を賄賂として彼らに渡したのです。プレナールはその内の一人で、輸送船の目的地を変更してもらうのが狙いでした。」 デュカットは手を差し出した。「あなたは、命の恩人だ。あの時から、私たちの運命はつながっていた。」 ウィンは手を離した。微笑むデュカット。 模型の家。ドアチャイムが何度も鳴る。 ソファーに横になっているシスコ。「…はい。」 暗い部屋に入ったのはクワークだ。「荷物をお届けに参りました。あの……ご注文の品です。」 小さな箱を渡す。 シスコは受け取り、それを開けた。見事な指輪だ。 ため息をつくシスコ。 クワーク:「テレリアン・ダイヤ※17は滅多に手に入らない一品ですぜ? ご存じでしょうが返品はできません。」 シスコ:「ご苦労、クワーク。」 クワークは振り返った。「あの…そんな美しい物を無駄にするなんて罪ですよ、大佐。」 出ていくクワーク。シスコは箱を家の上に置いた。 ブリーン船。 エズリがブリーン人に連れられ、拘留室に戻される。倒れるエズリを抱きかかえるウォーフ。 エズリ:「力になりたいのよ、ガラック…」 ウォーフ:「ああ…。」 ベッドに下ろす。 「いえ、違う。ああ……兄弟だから言ってるわけじゃない。わかって…あなたには才能が…。ああ…ああ!」 ウォーフを見すえるエズリ。「ペーストはもう嫌…。」 また目を閉じるエズリ。「あなたとは違う、あなたとは違うのよ、ジョラン! 人殺しじゃない!」 ウォーフ:「シーッ…もう大丈夫だ。」 「…妻だったのに…なぜ私を無視するの? …愛してる。」 ウォーフはエズリを見つめた。 エズリ:「キスして。キスして、ジュリアン。」 驚くウォーフ。 DS9。 ウィンはベッドに横になっているが、眠ってはいない。チャイムが鳴る。 ウィン:「はい?」 ソルボー:『こんな時間に失礼いたします、カイ・ウィン。ですがアンジョルが何度も面会を求めていまして。』 「今行きます。」 起きあがり、寝室を出る。 デュカット:「カイ・ウィン。夜分申し訳ありません。」 隣に寝間着姿のソルボーがいる。 ウィン:「構いませんよ? お前は下がってなさい。」 ソルボー:「…仰せのままに。」 部屋を後にする。 デュカット:「それが実に不可思議なことが起きました。レリケスにいる弟と話をしたんですが、今朝弟が畑の見回りに出てみると、何と大地からモバの芽が出ていたと言うんです。」 喜ぶウィン。 デュカット:「先週種を蒔いたばかりだから、ありえないことです。カイ・ウィン、これはお告げですか?」 ウィン:「…ええ。確かですよ。預言者からのお告げです。弟さんの世話で、大地は豊かに実ると教えているのです。…お前はここに残るのが預言者の望み。わたくしのもとにいるのが使命です。」 手を握るデュカット。「では、素直に従いましょう、カイ・ウィン。」 ウィン:「アダミ※18と…。」 「アダミ。」 ウィンの顔に触れるデュカット。「何と麗しき名だ。」 手を離す。 ウィンは手を戻させた。「これが定め。預言者のお引き合わせです。」 二人は口づけを交わした。 |
※16: Prenar ※17: Terellian diamonds テレリア人は 4本腕の種族。TNG "Liaisons" 「イヤール星の使者」で言及 ※18: Adami ウィンの名 (ウィン・アダミ)。初言及 |
貨物室。 エアロックから出てくるイエイツ。「それで最後ね? キルビー※19に出発の最終チェックをお願い。」 応える部下。「了解。」 荷物を取るイエイツ。 そこへシスコがやってきた。早歩きでイエイツに近づく。「私が間違っていた。預言者の意思などどうでもいい。君と結婚したい。問題が起きたらその時だ。」 イエイツ:「…ベン、本気なの? また気が変わるなら今のうちに言って。」 「本気だ。君を愛してる。」 抱き合う二人。 イエイツ:「ああ…」 シスコ:「よし、急ごう。」 「どこに?」 「驚くぞう。」 笑うイエイツ。 ベシアは上級士官室に入った。既にキラたちがいる。 オブライエン:「どうにか間に合った。」 ベシア:「僕も 20分前に聞いた。」 グラスを渡すクワーク。「俺もさあ。参ったぜえ。」 ベシア:「どうも。」 「…全く人騒がせな大佐だ。」 「エズリたちは、出られないな。」 オブライエン:「今頃 2人で、祝いの品でも探してるかも。」 キラはクワークの差し出すグラスを断った。 クワーク:「ノーグ※20、飲むか?」 オドー:「いつもなら、こういう式に出る時私の方が仏頂面を注意されるんですがね。……あの二人が、ベイジョーの式を取りやめたのはなぜでしょう。預言者たちが許してくれるといいが。」 キラ:「そうね。」 笛が鳴らされる。ノーグが吹く、ボースン・パイプだ。 ロス提督※21と話していたシスコ。 ドアが開き、ドレスを着たイエイツがいる。 出迎えるジェイク。「とっても綺麗だ。」 イエイツ:「ありがとう。」 オドーはノーグに言う。「よかったぞ。」 ノーグ:「数分しか練習してないわりには、でしょ?」 並ぶ列席者。 シスコとイエイツの間に立つロス。「諸君、私の最も楽しい任務の一つは、提督の特権で部下の結婚式に立ち会うことです。本日、キャシディ・ダニエル・イエイツ※22と、ベンジャミン・ラファイエット・シスコの結婚を執り行う名誉を授かりました。キャシディ、汝はこの男を夫として受け入れ、死が二人を分かつまで愛し続けることを誓いますか?」 イエイツ:「誓います。」 「ベンジャミン、汝はこの女を妻として受け入れ、死が二人を分かつまで愛し続けることを誓いますか?」 イエイツを見るシスコ。「…誓います。」 見守るキラ。 ロス:「この指輪は、二人の愛の象徴となる物です。そして生涯、今日の誓いを守るための証です。」 イエイツはシスコに指輪をはめた。「指輪に誓って、結婚いたします。」 シスコも指輪を受け取り、それをイエイツの指にはめていく。「指輪に誓って。」 シスコの意識は飛んだ。心臓の鼓動。 預言者サラ※23:「この結婚は間違っていますよ、ベンジャミン?」 シスコ:「自分で決めたことだ!」 「お前の試練は近い。強くおなりなさい。」 「彼女は力の源だ。なぜわかってくれないんです。」 「強行すれば、悲しみが訪れるでしょう。」 「あなたが私の母親なら、愛という物をよくご存じのはずだ。キャシディがそばにいなければ私は幸せになれません。」 「お前の道は困難です。」 シスコを胸元に抱き寄せる、預言者サラ。「道を変えることは、できない。」 「わかってます。」 「…気をつけなさい、息子よ。」 シスコの動きが止まっていた。 ロス:「ベン?」 シスコ:「…指輪に誓って。」 はめ終えた。「結婚いたします。」 イエイツの手を握る。 「惑星連邦の名によって、この二人が夫婦になったことを、ここに宣言いたします。」 拍手が起こる。二人はキスをした。 喜ぶ一同。 ジェムハダー船。 ダマールがやってきた。「話がある。」 ウェイユン:「ああ…。」 「船がどこに向かっているのか、教えてくれ。」 「…もちろん。今お知らせしようと思っていたところでした。」 「どうだか。」 「ダマール、今まで状況を知らせず、誠に申し訳なかった。カーデシアのリーダーたるもの、当然我々の行動全て把握しておくべきです。きっと、お前も…喜んでくれるはず。」 ダマールの肩をつかむウェイユン。 ブリーン船。 ウォーフはエズリを見ていた。 エズリ:「いい加減にして。…何なのよ。ずっと押し黙ったままで。」 ウォーフ:「……本気で君を信じたのが馬鹿だった。」 「…一体それどういう意味?」 「君は私と君自身の名誉を汚した。」 「…意識を失ってる時に何か口走った?」 「いつから彼にそういう感情を。」 「彼って?」 「ドクター・ベシアだ。」 「え?」 「尋問から戻って君は奴の名前を呼んだ。」 「ほんと?」 「ああ! 奴を愛しているとね。」 「ジュリアンを? 愛してると言ったの?」 「否定したってだめだ。」 「ああ…ウォーフ? …聞いて? ジュリアンが素敵だってことは私も認めるわ? …確かにとても魅力的な人だけど、私は別に…」 「愛しているんだろ?」 「違うわ!?」 「じゃあなぜ奴の夢を。」 「…夢は無意味だと言ったのはあなたよ?」 「思い出したよ。ジャッジアも奴に同じ思いを抱いていた。」 「彼女と比べるのはやめて!」 ブリーン人たちがやってきた。機械音で何かを告げる。 転送で実体化するブリーン人とウォーフ、エズリ。 そこはウェイユン、ダマールのいるジェムハダー船だった。 ブリーン人に言うウェイユン。「やっとお会いできた。」 話すブリーン人。 ウェイユンは彼らの言葉を理解できるようだ。「手土産?」 ブリーン人の中にいる、ウォーフたちを目にする。「これはこれは。ようこそ。お前たちは歴史の目撃者だ。ドミニオンとブリーンの同盟誕生の、瞬間です。これで世界が変わる。」 ウォーフとエズリは顔を見合わせた。微笑むウェイユン。 |
※19: Kilby ※20: Nog (エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) DS9第165話 "Badda-Bing, Badda-Bang" 「アドリブ作戦で行こう!」以来の登場。声:落合弘治 ※21: Admiral Ross (Barry Jenner) DS9第166話 "Inter Arma Enim Silen Leges" 「闇からの指令」以来の登場。声:石波義人 ※22: Kasidy Danielle Yates ミドルネームは初言及 ※23: Sarah (Deborah Lacey) 前話 "Penumbra" に引き続き登場。声:羽鳥靖子 |
感想
最終章 2話目。今回も一連の流れの中で完結しない並行ストーリーが進むため、物足りないと感じる方がいるかもしれません。でも展開自体が面白いので、そうは思いませんでした。 何よりデュカットとウィンの接近ですね。この 2人は、それぞれ「悪役」(単なる悪役とも違いますが) だったわけですが、これまで関わることはありませんでした。それが最終章でついに一つになったんですね。何と恐ろしいキスシーン…(笑) その他、結婚しないかも? と思われていたシスコとイエイツは結局結ばれ、逆にウォーフとエズリは、その場にはいないベシアのことで揉めています。次からキャシディ・シスコになるんでしょうか? 当初は先週の "Penumbra" (半影) に続いて "Umbra" (本影) と名付けられていたエピソード (どちらも天文の「食」に関する用語)。月並みですが次回も楽しみです。 |
第167話 "Penumbra" 「彷徨う心」 | 第169話 "Strange Bedfellows" 「決別の行方」 |