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ディープスペースナイン エピソードガイド
第166話「闇からの指令」
Inter Arma Enim Silent Leges

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・イントロダクション
連邦、クリンゴン、ロミュランのシンボル。
上級士官室でキラが話している。「次の項目へ。第7項、ウォーバードの修理とメンテナンス。議員?」
クレタク※1:「我々の船の修理は常にクリンゴンと連邦の船の後回しにされてます。ディヴィディシーズ※2とジェノレックス※3は、3週間近く待たされ、その間に 10隻以上のクリンゴン船が修理に回ってるわ?」
オブライエン:「必要度に応じて優先順位を決め、修理のスケジュールを組んでるんですが。」
「毎回クリンゴンが最優先というのも妙ね?」
ウォーフ:「クリンゴン船はほかに比べ、損傷が激しい。常に果敢な攻撃を行うからです。」
「『無謀』な攻撃とも言うわね。」
「敵の領域まで攻め入らなければ、勝てる見込みはないでしょう…」
キラ:「やめて! ここは戦略会議の場じゃないのよ。チーフ、ウォーバード 2機をいつドックに入れられる?」
オブライエン:「明日入れるのは可能ですが、そうするとホーネット※4とロタラン※5の修理が遅れますねえ。しかるべき筋からマートク将軍に理由を説明してもらわないと。」
「…ウォーフ、志願してくれるわね、よろしく?」
オドー:「しかし、基地滞在中の問題もあります。現在基地にはクリンゴン船 2隻のクルーがいます。これだけ大勢のクリンゴン人とロミュラン人がプロムナードで顔をつき合わせるのは、できれば…避けたいんですが。」
クレタク:「クリンゴンの出航まで待ちましょう。我々の兵士はプロです。戦いに来たのであり、酒のためではありません。」
キラ:「今日は以上ね、じゃあ来週、同じ時間に。…議員はロミュラス星での会議に出席なさるんですよね?」
「ええ、代わりにヴェラル副司令官※6をよこします。」
「そうですか、お気をつけて。」
「どうも。」

ターボリフトを降り、笑うガラック※7。「あー…ええ、ロミュラス星ね。よーく覚えていますとも。とにかくあらゆるものが、灰色でしたねえ。建物も、服も、道行く人も。ロミュラン人の心臓が灰色だってご存じで? 本当です。あんな想像力の乏しい種族にはピッタリだ。」
ベシア:「…ロミュラスでの任務は、楽しくなかったようだな。君は、庭師として潜入したんだよね。※8
「本来の任務より、隠れ蓑の仕事の方が楽しかった数少ない例ですよ。」
「どんな任務だったんだ。」
「極秘任務ですから、それは言えません。さっきの話ですがねえ、ドクターは会議に何をしに行くんです?」
レプリマットのレプリケーターを操作するベシア。「ドミニオンの生物兵器について話すのと、ケトラセル・ホワイト・セミナーの議長。それに連邦の医療船を…」 カップの匂いをかぐ。「25隻ロミュランに提供する件の、打ち合わせにも出席するんだ。」
ガラック:「退屈そうだ。」
「悪かったな。『刺激的』な軍事問題を討議するのは、ロス提督と彼の部下だ。」
「なるほど。この機会を利用しない手はない。艦隊情報部は当然、この会議に誰か送り込むんでしょうな?」
「『送り込む』。」
「また。わかるでしょう。こんないいチャンスは滅多にない。この気に、ロミュラン側の真意を探り、軍事力を見極めておくんですよ。」
「同盟国だぞ、ガラック。このまま上手くいけば、ロミュランと友好関係が築けるかもしれないんだ。」
「ドクターは永遠の楽天家。」
「ああ、認めるよ。」
「何と嘆かわしい。ドクターのようなエリート士官の口から、平和と友情なんて陳腐な言葉は聞きたくないですよ。相手はあの、元敵の冷酷無比なロミュランなんですよう? だが、いつの日か、ドクターもこの宇宙のありのままを見すえてくれると信じていますよ。ただ夢を思い描くだけじゃなくね。」
「わかったよ。毎日もっと皮肉屋になれるよう努力するから、プレゼントをもらったら荒を見つけ出し、幸福の絶頂にも…不幸の種を探すよ。」
「それが本気ならどんなにいいか。」
微笑むベシア。

ベシアの部屋。
寝室に誰かの影が見える。
寝ていたベシアは気づいた。「ライト。」
窓際に座っていた人物を、ベシアは知っていた。「スローン※9。」
スローン:「やあ、ドクター。久しぶりだなあ。ゆっくり休んだか? セクション31※10 からの指令がある。」


※1: Cretak
(エイドリアン・バーボー Adrienne Barbeau) DS9第152話 "Shadows and Symbols" 「預言者の呪縛」以来の登場。俳優は以前のミーガン・コールから変わっています。声:定岡小百合 (継続)

※2: Dividices

※3: Genorex

※4: Hornet
U.S.S.ホーネット、ルネサンス級、NCC-45231。TNG第101話 "Redemption, Part II" 「クリンゴン帝国の危機(後編)」より

※5: 前回 DS9第157話 "Once More unto the Breach" 「今一度あの雄姿を」マートクやウォーフが乗ったのはチュタンでしたが、まだロタランも使っているんですね。前回は特殊任務のため、小型の船を使ったのかもしれません。なお訳出されていませんが、旗艦と言及されています

※6: Sub-commander Velal

※7: Garak
(アンドリュー・J・ロビンソン Andrew J. Robinson) DS9第162話 "The Emperor's New Cloak" 「平行世界に消えたゼク」以来の登場。声:大川透

※8: DS9第98話 "Broken Link" 「可変種の脅威 第二幕(前編)」より

※9: Sloan
(ウィリアム・サドラー William Sadler) セクション31 の上級メンバー。DS9第141話 "Inquisition" 「記憶なきスパイ」以来の登場。声:佐々木勝彦

※10: Section 31
秘密任務組織。DS9 "Inquisition" より

・本編
ベシアは飛び起きた。「その気になれば、30秒で保安部が飛んでくる。」
落ち着いているスローン。「残念だが、君は今この部屋の外とは連絡が取れない。」
ベシア:「叫んで助けを呼ぶ。」
「可能だなあ。だが君らしくない。叫ぶなんて自尊心が、許さないだろう。だが止めはしないよ。それも意外でいい。」
「何の用だ。」
「言っただろう。指令が下った。」
「あんたの部下じゃない。」
「君は試験にパスし、我々の組織に認められた。」
「そんなことは、頼んでない。」
「だが承認されたんだ。これから初仕事だぞう? どんな任務かワクワクしてるはずだが、それを見せるのは死んでも嫌なんだろ。だから、私から言おう。」
「ありがたいね。」
「セクション31 は、君が出席する会議に非常に興味をもっている。しかし、警備を取り仕切るのは、ロミュラン情報部のタル・シアーだ。水も漏らさぬ態勢だろう。情報収集用の各種装置を設置するのは不可能だ。結果として、生身の情報収集手段に頼るしかない。君だ。君の任務は、ロミュラン指導部のデータを集めること。ロミュラン政府全体のカルテを、作ってもらいたい。洒落でなくね。」
「同盟相手を、スパイするのか。」
「同盟相手の評価が、目的だ。この同盟は今だけのものだ。教えておこう。この戦争が終わったら、次々と起きるであろうことをね。ドミニオンがガンマ宇宙域に撤退し、カーデシア帝国は占領下に入る。クリンゴン帝国は戦後の復興に 10年を要する。当分大きな脅威とはなりえないな。つまり、アルファ宇宙域の覇権を争うのは、2つの勢力。連邦と、ロミュランだ。」
「まだ戦争は終わってないんだぞ。なのにもう次の戦争の準備か。」
「言うねえ。報告書もその切れで頼むぞ?」
「何度言えばわかるんだ、スローン。僕はやらないよ。」
「やるさあ。そういう男だ。根っから秘密が好きなんだよ。」 ドアを開けるスローン。「仕事でも、プライベートも遊びも。私も同じだ。わかるよ。秘密を知りたくてたまらない。それには方法は一つ。任務を受けるんだ。」 出ていった。
ベシアは引き出しからフェイザーを取りだし、後を追った。
廊下には誰もいない。
やってきた者に武器を向けるベシア。
だがそれはエズリだった。「ああ! ジュリアン、何? どうしたの?」

司令官室。
ベシア:「保安記録を調べても、スローンがどう入り込みどこへ行ったか全くわかりません。」
シスコ:「だろうな。これまでの経緯から見ると、セクション31 は痕跡を消すことに長けているようだからな。今日の午後、ロス提督にその話をした。提督も同意見だ。ロミュランの会議は重要だ。中止はできない。」
「僕はどうすれば。」
「艦隊本部は会議にドミニオンの生物兵器と、ケトラセル・ホワイトのエキスパートを送ると約束した。そのエキスパートとは君だ。行ってくれ。そしてその指令とやらを遂行するんだ。ロミュラン指導部の情報をいくつか集めて、そしてスローンからの接触を待つんだ。」
「スローンには、些細な情報も渡すべきじゃないと思うんですが。」
「私もそう思ったが、提督と話して、考えが変わったよ。この機会を利用し、こちらに有利な状況にもちこめるかもしれない。公式には、艦隊本部はセクション31 のような組織が存在していることに、驚きを禁じ得ないと言っている。徹底的に調査し、組織全体の正体を暴くとね。」
「非公式には。」
「…調査は一向に始まらず、うやむやにされようとしている。本部はセクション31 のことを本気にしていないか、誰かが彼らを守っているかだ。どちらにしろ、今回はその辺りのことを探るチャンスだ。利用しない手はない。」
「じゃ乗るんですね。僕がスローンの下で、働くと見せかけて。」
「その通りだ。会議期間中にスローンが接触してきたら、彼の考えを渋々ながらも認めた振りをするんだ。信じさせろ。協力する気になったと思わせるんだ。」
「それなら簡単です。僕がこの任務に興味津々だと思い込んでますからね。…それじゃ、荷造りします。ベレロフォン※11は、直出航ですから。」
「ドクター、もう一つだけ。決して気を抜くなよ。セクション31 は危険な組織だ。君が二重スパイだということを少しでも怪しまれたら…」
「わかってます。」
「うん。」
出ていくベシア。
シスコ:「突き止めてくれ。」


※11: Bellerophon
U.S.S.ベレロフォン。次項も参照

イントレピッド級の宇宙艦、U.S.S.ベレロフォン※12
食堂で青い酒が注がれている。
クレタク:「ロミュラン・エールでもいかが?」
ベシア:「頂きます、議員。」
ロス※13:「この酒の輸入禁止は、もう解除されたからな?」
「そういえば、禁制品でした。」
「フン、これも同盟関係の恩恵だな。」
だが口にしたロスは、咳き込んでしまった。
ベシア:「救護班、呼びますか。」
ロス:「いいよ。」
クレタク:「まさかロミュラン・エールは初めてじゃないでしょうねえ。」
「ですから…違法でした…。」
「お仲間はみんなたしなんでましたよ?」
笑うベシア。
ロス:「知っています。律儀に法を守ってたのは、艦隊でもかなりの少数派ですよ…」
クレタク:「ほかのものにしますか?」
「いや、結構。」
ベシア:「そう。『死ぬとは言うな。』」
「うん。」
クレタク:「妙な表現ね。どういう意味?」
ベシアが答えようとしたが、別の男が割って入った。「古い地球の詩から取ったものです。」 それはスローンだった。だがいつもとは違う服装だ。「ああ、口を挟んですいません。つい…聞こえたもんですから。私、古い文学が好きでして。今のフレーズ、『死ぬとは言うな』は、元は 19世紀の詩人の表現で、シェイクスピア、『ベニスの商人』※14に着想を得てる。それが、日常会話で使われるようになったのです。何があってもあきらめるなと、そういう意味です…。」
クレタク:「面白いわね。」
「ウェンデル・グリア※15。連邦地図作製局※16の、長官補佐をしてます。」
握手するロス。「よろしく。ロス提督だ。クレタク議員。」
スローン:「はじめまして、よろしく。」
「それにドクター・ベシア。」
「ああ、ディープ・スペース・ナインのドクターですね。お会いしたかったんですよ。」 握手するスローン。「ベイジョー星域について、伺いたいことが山ほどある。航行時の軌道のズレや、輸送路の件で、お時間頂けますか。いやあ、お邪魔でなければ。」
「どうぞ?」
2人は隅へ行く。
すぐ口調を戻すスローン。「周りに手札を見せないよう、気をつけるんだな。驚いた顔に気づかれず、運が良かった。」
ベシア:「代表団に潜り込んだんなら、僕は必要ないだろ。」
「いずれわかる。ロミュラスに着くまでに、仕事が山ほどあるぞ? 君の部屋にパッドがある。読むんだ。22時に部屋へ行く。」 肩を叩き、食堂を出て行くスローン。

会議室へ入るロス。「ミスター・グリアとは、用意周到なことだな。地図作製局には、勤続 15年のグリアという下級官吏が実在した。」
ベシア:「彼ならそれくらいの下調べはするでしょう。このまま会議に参加させるのは危険すぎます。ロミュラスの地を、踏ませるのさえ危ない。」
「だが今排除してしまえば、セクション31 に探りを入れるチャンスを失う。彼が参加できるのは、低レベルのブリーフィングやセミナーに限られてる。監視は難しくないはずだ。彼が来たということは、恐らく…単なる情報収集以上の重要任務があるということだ。何か企んでる。となれば、それが何なのか突き止めねばならない。このまま続行だ。」

ロミュランが立っている。
ベシア:「次を。」 人物のホログラムが切り替わった。「ネラル※17だ。元地方総督。現在はロミュラン帝国の法務官だ。ネラルの中央での出世は、1年ちょっと前に永続委員会で承認された。彼は家族をクリンゴンの襲撃で失ってる。およそ25年前だ。社会学と考古学に精通してる。好物はデルヴァン・プリン※18。そして、ペットのセトレス※19の名前は、ペンショー※20。」
スローン:「完璧だ。全て記憶できるというのは、工作員には有利だな。」 コンピューターを操作する。また別の人物に映像が切り替わった。
ベシア:「コヴァル※21。タル・シアーの議長だ。セクション31 は、去年のフジサキ中将※22の死に、彼が関わってるとみてるが証拠がない。」
「証拠はコヴァルの個人データベースに埋もれてるはずだ。今は手が出せないが間違いない。いいか、ドクター。艦隊情報部の副部長が、ただの食中毒で死ぬはずがない。手際は見事だった。まさに教科書通り。死因に不自然な点も、ロミュラン関与の証拠も全く見つからなかった。綺麗な仕事だ。彼の政治的立場は。」
「はっきりしない。タル・シアーのトップは、普通永続委員会に入るのに、彼は委員に選ばれてない。連邦との同盟に反対してるから、恐らく決定が保留になってるんだろう。委員会の態勢は同盟支持だ。」
「それで君の友人、クレタク議員に出番がくるわけだ。彼女は同盟支持派だ。空席に入れるよう、ロビー活動をしてる。コヴァルには別の噂もある。記録には書かれていないがね。彼は病気だ。テュヴァン症候群※23とかいうらしい。」
「その病気は知ってる。神経が冒され、発症は…ヴァルカン人、ロミュラン人、ライジェル人※24が主だ。まだ、治療法はない。」
「うん、もしコヴァルが病気を隠してるとしたら、弱みになる。それを使えば、委員への選出を阻止できるかもしれんな…」
「それで僕を呼んだのか? 診断のために? セクション31 には、自前の医者もいないっていうのか。」
「遺伝子強化された者はいないねえ。診断にはそれなりの機材が必要になる。会議への持ち込み許可は、到底出ないだろうからなあ。」
「僕も外から見るだけで、診断はできないね。」
「遺伝子強化された君のお仲間はすごかったじゃないか。ガル・ダマールは女を殺したと、彼の演説を見ただけで当てた。※25何とか、できるだろう。」 コヴァルの映像を消すスローン。
「コヴァルを追い落とすつもりなんだな。彼の病気を理由に、あんたがその工作をするんだろ。そんなことは百も承知だろうが、れっきとした主権国家の内政に干渉するのは、連邦憲章で明確に禁じられてるはずだ。」
「…君の推理は肯定も否定もしないが、代わりに言っておこう。コヴァルが権力の座に就いたら、連邦は大変な事態になる。彼は同盟破棄を委員会に働きかけ、そして…ドミニオンと単独和平を結ぼうとする。戦争の行方に、どう影響するかは言うまでもないだろ。」
「それで違法行為が正当化されると…」
「取り引きだ、ドクター。結果は、手段を正当化するって演説はやめておくから、君も常に正義を行うべきだって演説は割愛してくれ。どうせ我々の意見が一致することはない。時間を無駄にするのはよそうじゃないか。我々の任務は偵察だ。君に、それ以上の指令がくることはない。少し眠った方がいいな。午前6時には、ロミュラスの軌道に入るんだ。頭をすっきりさせといてくれよ?」 部屋を出て行くスローン。


※12: ヴォイジャーと同じイントレピッド級、NCC-74705。一部映像や、食堂、会議室のセットも使い回しです

※13: ロス提督 Admiral Ross
(Barry Jenner) DS9 "Shadows and Symbols" 以来の登場。声:石波義人

※14: "Merchant of Venice"

※15: Wendell Greer

※16: U.F.P. Department of Cartography

※17: Neral
(Hal Landon, Jr.) 「元 (地方) 総督」と言及されていることから、TNG第107・108話 "Unification, Part I and II" 「潜入! ロミュラン帝国(前)(後)」に登場したネラルと同一人物かもしれません。俳優はノーマン・ラージから変わっており、今回はかなり年取っているように見えますが…

※18: Delvan pudding

※19: set'leth

※20: Pensho

※21: Koval
(ジョン・フレック John Fleck TNG第98話 "The Mind's Eye" 「裏切りの序曲」のタイバック (Taibak)、DS9第47話 "The Search, Part I" 「ドミニオンの野望(前編)」のオーニサー (Ornithar)、VOY第125話 "Alice" 「アリスの誘惑」のアバドン (Abaddon)、ENT第1・2話 "Broken Bow, Part I and II" 「夢への旅立ち(前)(後)」などの Silik 役)

※22: Vice Admiral Fujisaki

※23: Tuvan Syndrome

※24: Rigelians
生理機能がヴァルカン人に似ているヒューマノイド種族。TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」より

※25: DS9第133話 "Statistical Probabilities" 「封じられた最終戦略」より。なおダマールは現在はレガートに昇進していますが、当時はまだガルだったので間違いではありません

惑星ロミュラス。
礼装※26姿の宇宙艦隊士官や、ロミュランたちが集まっている。
グラスを渡すロミュラン。「どうぞ。」
酒を注ぐベシアに、近づいてきたロミュラン。「ドクター・ジュリアン・ベシアか。」 コヴァルだ。
ベシア:「はい。」
「『クイックニング※27』という病気の種類を、初めて特定したと聞いているが。」
「そうです。ガンマ宇宙域の、ボラニス星※28でした。失礼ですがあなたは。」
「…コヴァルだ。」
「お会いできて光栄です。」
「なぜだ。」
「恐縮です。…ただ、挨拶の慣用句なんです。」
「地球人※29の言葉というのは、大抵意味がない。そのクイックニング・ウィルスを複製できるか?」
「かなり苦戦しています。正確な RNA配列を再現できないんです。それでワクチンが作れません。でもワクチンの代替物はできると思います…」
「ワクチンに興味はない。ウィルスのことが知りたい。クイックニングを広める方法を知っているか。」
「…おおよそは。」
「よし。君の講義を楽しみにしている。」 歩いていくコヴァル。
先ほどまでロスと話していたクレタクが近づく。「あなた、いい諜報員になれるわ。」
ベシア:「何ですって。」
「タル・シアーの議長は滅多に人に話しかけたりしないのよ? 特にその制服の人とはね。艦隊情報部はあなたをスカウトするべきだわ。」
「既に情報員かもしれませんよ?」
「…そうね、このホールにいる半分の人がスパイだとしても驚かないわね。」
「冗談ですよね。」
「今は口にすべきことじゃないけど、この同盟関係は一時的な休戦だと思ってる人が、どちらにも大勢いるわ。」
「あなたもですか?」
「同じことを聞きたいわね。」
「僕は同盟推進派ですから。でも議員は即答しませんでしたね。」
「…私は未来の予言はしないの。」
「コヴァル議長はどうなんです。」
「私が聞きたいわ、話したんでしょ? 私はこの半年、一言も。」
「あまり仲が良くないようですね。」
「考え方が違うの。」
「例えば。」
「……国家機密よ。」 離れるクレタク。
笑うベシア。「そうですよね。」

異星人の写真が表示されている。
ベシア:「ボラニス3号星の、成人女性です。顔にあざがありますが、これがクイックニングに感染した時の特徴です。まだ末期段階には入っていません。」 コヴァルが講義を聞いている。奥にはスローンもいる。「次のこの写真では、病変部分に壊死が起きているのが見られます。患者はこの時点では、完全に末期段階です。白血球の増加も特徴として見られます。」

ベシアに挨拶する参加者。「お疲れ様。」「よかったです。」
ベシア:「どうも、ありがとう。」
スローンもグリアの振りをして近づく。「勉強になりました。わかった気になりかけた。」
ベシア:「次は指人形で講義しましょうか?」 握手を続ける。「どうも、ありがとう。」
参加者:「名講義で。」
笑うスローン。「まだユーモアのセンスがあってよかった。一番前にいたのが誰か知ってるな?」 他の者はみんな出ていった。
ベシア:「ああ。今朝セッションの合間に話しかけてきた。クイックニングについて知りたがってる。ウィルスを複製できるかどうか、聞かれたよ。どう広めるかもね。」
「健康状態はどうだ。」
「聞いてなかったのか。」
「…聞いてたよ。コヴァルがクイックニングを欲しがってるんだろ? タル・シアーのトップが、生物兵器に興味をもつのは不思議じゃないんでねえ。首を伸ばして周りを見回してみろ。我々が相手にしてるのは聖人じゃない。質問に答えてくれ。」
「彼のまぶたは、多少下がり気味で、顔の筋肉が明らかに弱くなってる。恐らく、神経と筋肉の機能が落ちた結果だ。それに呼吸も、多少乱れてたな。」
「結論は。」
「テュヴァン症候群かもしれない。そうだとしても、かなり初期の段階だ。」
「…寿命はどの程度だ。」
「典型的な症例だとすると、10年から 15年後に、運動能力の低下が起き始めるだろうな。余命は、20年から 25年といったところか。」
「前触れなく、病状が急激に悪化するような例はあるか?」
「ありえるね。でも割合としては 5%以下だ。」
「どんなものが悪化の原因になりうる。」
「スローン、一体何が聞きたいんだ?」
「気にするな。ご苦労、ドクター。役に立ったよ。」 握手し、去るスローン。

ベレロフォンのロス。「信じがたいな。ロミュラン政府高官の暗殺もそうだが、その先のことも考えてみろ。次のタル・シアーのトップが、コヴァルよりましだという保証はどこにもないんだぞ?」
ベシア:「永続委員会の空席に誰が座るかが心配のようで、クレタクを望んでる風でした。」
「その点は同感だな。いらつくことも多いが、少なくとも愛国者だ。」
「コヴァルとどう違うんです。」
「私が見た艦隊情報部の報告を読めば君にもわかると思うが、コヴァルは地球にロミュランの旗が翻るのを見たくて仕方がない。これだけは間違いない。コヴァル議長に、法務官の右腕になられてはおおごとだ。スローンを拘束する手続きは取るが、それだけでことは解決しない。」
「つまり。」
「…この会議で、セクション31 の指示で動いている者がほかにもいるとは思わなかったか。我々の知るところではもう一人、奴の仲間がいる。」
「そういえば、私と彼の役目は偵察だけだと念を押してた。ということは、偵察に限定されていない別の工作員がいるのかもしれませんね。」
「しかし誰かはわからん。ベレロフォンのクルーかもしれない。」
「ロミュランかも。」
「何?」
「提督、このロミュラスに内通者がいる。そう思います。」
「どうしてだ。」
「2つあります。一つは、ロミュラン政府の内情に、スローンが詳しすぎることです。政治のプロセスにも通じています。二つ目は、スローンのコヴァル暗殺計画は、テュヴァン症候群が急速に悪化したと見せかけることですが、そうするにはコヴァルをナディオン放射に短時間でもさらすしかないんです。一番簡単なのは、彼をフェイザーリレー近くへ連れて行き、知られずに被爆させることです。スローンにはどうこじつけても、そんなことをするチャンスはありませんから、誰か別の者が、やるしかありません。」
「ロミュラン人か。」
「そうです。提督、ロミュランに早く警告しないと、手遅れになります。」
「だがセクション31 のことを、どうやってロミュランに説明する。スローンが連邦情報部の指示で動いていると思われたら、協力関係が危うくなる。同盟関係は終わる。しかも確たる証拠は何もない。」
「提督!」
「答えはノーだ。艦隊本部には知らせずに動いていたが、スローンを逮捕してから本部に状況を報告する。追って連絡するまで、君は待機してくれ。」
「わかりました。」 会議室を出ていくベシア。

ロミュラス軌道上に列をなしたウォーバードのそばを、航行するベレロフォン。
食堂でパッドを読んでいるベシア。
男女のクルー※30が話している。「…さあな。ジェペラ※31がオフィスへ報告書を持ってったら、デスクに突っ伏してたらしい。」
「原因は何かわかったの?」
「ドクター・フレイム※32は動脈瘤じゃないかって。まだ検査中だ。」 ベシアは、その言葉に注目する。
「動脈瘤? 今朝提督元気そうだったのに…」
「そういうもんなんだよ、突然…」
ベシアは 2人に振り返った。「どの提督のことだ!」
男性:「あ、ロス提督です。オフィスで倒れられて。」
「今どこだ。」
女性:「医療室です。」
すぐに向かうベシア。
女性士官の笑い声が響く。同席していたのはスローンだ。「やあ。」
ベシアは周りを見る。クルーの一人にぶつかった。
スローンを見て、そのまま外へ出る。


※26: 映画第9作 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」で初めて使われた、白い礼装

※27: The Quickening
DS9第96話 "The Quickening" 「星に死の満つる時」より。病気自体の名前はブライトと呼ばれており、その末期段階になることを "quicken" と表現していました

※28: ボラニス3号星 Boranis III
DS9 "The Quickening" で言及された惑星ですが、クイックニングに感染させられたのはテプラン星系にある惑星であり、ボラニス3号星はベシアの過去の任務についての言及で触れられただけです。このように明らかな不統一のミスは珍しいですね

※29: 「人間」と吹き替え

※30: 男性は Hickam (Joe Reynolds)、女性は ウィーラー Wheeler (Cynthia Graham ゲーム "Voyager: Elite Force" のエリザベス・レアード (Elizabeth Laird)/クリンゴン人役)。どちらも名前は言及されていません

※31: Jepella

※32: Dr. Frame

ロミュラス。
ベシア:「ベレロフォンのクルーも信用できないんです。ディープ・スペース・ナインにも連絡できない。保安上の問題で通信不能になってます。議員のほかに頼れる人がいない。助けて下さい。」
クレタク:「どうしろと?」
「いくつかの理由から、ロミュラン政府内にスローンの内通者がいると思われます。ロミュランの誰かがこの暗殺に手を貸すはずです。」
「…コヴァルは、議会に裏切り者がいると言ってた。艦隊情報部のスパイがいるって。」
「セクション31 は、情報部とは違います。」
「連邦の利益のために働く連邦市民なんでしょう? あなたたちに責任があるわ。」
「ええ、おっしゃる通りです。だから何としてでも連中を止めたいんです。コヴァルの症状は軽症だと思わせようとしましたが、既に指令を出しているのかもしれません。暗殺計画を阻止するには、ロミュラン側の内通者を見つけるしかないんです。」
「私に裏切り者を探せと?」
「スローンは、コヴァルの個人データベースがあると言ってました。そこにスパイ容疑者のリストが、含まれてる可能性が高い。何とか、そのデータベースのコピーを入手できませんか。そうすればそれを分析して容疑者を…」
「極秘文書をあなたに引き渡せと言ってるの?」
「300年の不信の歴史に幕を引き、暗殺阻止を手伝って下さいと言ってるんです! 議員、ここで協力し合って、間に横たわる深い溝に橋を架けないと、人が死ぬんです。僕らはその責任を負うことになる。手を貸して下さい。お願いします。」

ベレロフォン。
スローンがベシアの部屋に入った。「私に用か?」
ベシア:「ああ。コヴァルのことだが、テュヴァン症候群じゃないかもしれない。あの症状は、ほかの健康障害のせいかもしれない。」
「…話が違うじゃないか。」
「僕はロミュラン生理学の専門家じゃない。テュヴァン症候群の知識は、ほとんどヴァルカン人の症例から学んだものだ。」
「ヴァルカンとロミュランは、ほぼ同じと認識してたがね。」
「そうだ。だが、遺伝子上の重要な違いがいくつかある。ロミュラン生理学のデータを、調べれば調べるほど、診断が正しいかどうか自信がなくなってきたんだ。」
「どうすれば確実になる。」
「それは検査をするのが一番だが、議長が応じるわけがないな。」
「皮膚細胞のサンプルが手に入ったとしたらどうだ? それで分析できるか。」
「多分ね。でも、どうやって手に入れる…」
「お前の手のひらに、細胞粘着剤をつけろ。次に議長と握手する時、サンプルを手に入れろ。」
「……了解。」

ロミュラス。
ホールに入ってくるコヴァルを見るベシア。スローンが見張っている。
ベシアは近づいた。「コヴァル議長。またお会いできましたね。」 コヴァルも手を伸ばし、握手するベシア。「会議終了までに、またクイックニングについてお話ししますよ。」
コヴァル:「疑問点は君の講義で解決した。」
「お力になれたなら嬉しいです。」
「ドクター。別件で君と話がしたい。内密に。」
「いいですよ? 講堂が開いてると思います。」
「いや、もっと落ち着ける場所がある。そっちだ。」
向かうベシア。スローンが見ている。

狭い部屋に連れてこられるベシア。
コヴァル:「座れ。」
ドアが閉じ、ロックされた。
コヴァル:「…結局は座ることになる。おとなしく座ったらどうだ?」
ベシアはゆっくりと歩き、中央の椅子に座った。足を組む。
コヴァル:「さて、内密に話をしようか。」
ベシア:「何の話をするんです。」
「ここに来た目的だ。誰の命令か、協力者は誰か。余計な質問で時間を無駄につもりはない。」
ロミュランは様々な道具の入った箱を取り出す。
ベシアは抵抗しようとするが殴られ、一つの機械をこめかみに装着されてしまう。
コヴァル:「辛いものになるかどうかは君次第だ。どちらにしろ、全てをしゃべってもらう。」
作動し始める機械。



機械をつけられたベシアは、目が虚ろになっている。
コヴァルが戻ってきた。パッドを確認する。「残念ながら、君の脳には我々のスキャン技術は効果がないようだ。頭頂部の皮質に施された、遺伝子強化の影響だなあ。」
ベシア:「悪いね。」 外される機械。
「情報を得る方法はほかにもある。だが知りたいことを素直にしゃべってくれれば、全員の手間が大いに省けるんだがね。」
「まだ、何の質問もされてない。」
「何が聞きたいかはわかってるだろ。誰の指示で動いてる。なぜここへ来た。…連れてこい!」

何人ものロミュランが集まった部屋。
その前にはクレタク議員がいる。
ベシアも連れられてきた。
ロミュランの一人が話し始める。「ドクター・ジュリアン・ベシア。ここは、ロミュラン永続委員会の席上だ。発言は全て公式に記録される。」 それはネラルだ。「クレタク議員は、タル・シアーのデータベースに許可なくアクセスしようとした容疑で、告発されている。当委員会は、議員から驚くべき…話を聞いた。君がその話の重要人物だ。君の側からの証言を聞かせてもらいたい。」
ベシア:「……内容はショッキングかもしれません。連邦とロミュランの関係を損なうかもしれない。ですが真実です。数日前私は、コヴァル議長の…暗殺計画を知りました。」 部屋にはコヴァルもいる。「企んでる男の名前は、『スローン』。それしか、わかりません。彼が属している組織は、セクション31。彼らは自分たちを、連邦の守護者のように思ってますが、これは連邦の、正式な組織ではありません。スローンの企みが、明らかになってすぐに…クレタク議員に接触しました。暗殺阻止の協力を仰ぐためです。」
ネラル:「なぜ彼女に?」
「ほかに頼れる人がいなかった。ディープ・スペース・ナインとは連絡が取れず、ベレロフォンのクルーも信用できません。」
「だが、ロミュランの議員は信用できたというのか?」
「はい。考えに違いはあっても、尊敬しています。」
「…続けて。」
「いろいろと入り組んだ理由があって、ロミュラン政府に、セクション31 のスパイがいると確信し、議員にデータベースのコピーを頼んだ。内通者を見つけ、暗殺を阻止できると思いました。」
「クレタク議員。なぜまず、私に報告に来なかった?」
クレタク:「この話が漏れれば、両国の同盟は崩壊すると思い、自分で処理しようとしました。…間違っていました。」
「ああ、実に残念だ、キマラ※33。」
コヴァルが立ち上がった。「面白い話ですが、それが全てではない。もう一人証人を喚問してよろしいですか?」
うなずくネラル。
コヴァルは連絡を入れる。「囚人 527号を。」
連れられてきた男は、スローンだった。顔を怪我している。
コヴァル:「法務官、これがスローンという男です。ドクターと違い、この男にはデータ回収法が功を奏しました。ドクターと議員の発言のほとんどを裏づける証言をしていますが、一つ重大な相異がある。セクション31 などない。スローンは実際、艦隊情報部の所属です。違法組織の長などではまるでなく、単に連邦が雇っている工作員の一人なのです。キャリアは長く、その多くはまだわかっていません。しかしながら非常に面白い点が一つあった。彼は亡くなった、フジサキ中将の部下でした。師と仰いだ上官の死にショックを受け、中将はタル・シアーに殺されたと思い込んだ。彼には、中将の暗殺で我々が『一線を越えた』と、そう映ったのです。その表現だな? フジサキの死後、ジレンマにさいなまれた。連邦の法を犯さずに、どうすれば復讐できるか。そしてセクション31 をでっち上げた。誰の指示も受けない、独立の極秘機関。彼らが暗殺を行っても、艦隊情報部は責めを負いません。ご存じのように私は、テュヴァン症候群にかかっています。スローンはこれを知るに及び、病状の悪化に見せかけて殺すことを思いついた。そのためには医者が必要だ。スローンは、ドクター・ベシアをセクション31 に引き抜く振りをし…その後、スローンはずっと身を潜め、チャンスがくるのを待ち続けたのです。そしてこの会議のことを知った。ベシアが招待されるよう手配した。全て順調にいっていた。だが決定的なミスを犯した。自らロミュラスにやってきたのです。我々に正体が割れていることを知らなかった。代表団の中に彼を見つけた時、情報部が動いているとすぐにわかりました。だが私がわからないのは、なぜかだ。なぜわざわざ身元が割れる危険を冒した。」
スローン:「…計画の進行を確認するためと、お前が死ぬのを…見たかった!」 飛びかかろうとする。
「仕事の基本ルールを破ったな。私情を挟むのは厳禁だ。」
ネラル:「では暗殺計画はあったのだな?」
「間違いありません。ドクターと議員の関与も事実です。ドクターが私を殺そうとしたのか救おうとしたのか、それはわかりません。クレタク議員については、非常に野心的な女性だ。私が死ねば喜ぶことは間違いない。代わりに永続委員会の委員に選出されるとなれば、なおさらだ。」
クレタク:「でたらめだわ、コヴァル。あなたを救おうとしたのよ。」
「とすれば愚かすぎた。艦隊情報員の口車に乗り、国家反逆罪を犯したんだからな。」
周りの委員と話し合うネラル。「当委員会の結論として、クレタク議員は国家に対する反逆行為を行った罪で有罪。後日、判決を言い渡すものとする。ドクター・ベシアはベレロフォンへ強制送還。スローン氏は、タル・シアーの管理下におき、更に詳しく調査するものとする。」
スローン:「いやだー!」 素早くロミュランのディスラプターを奪い、コヴァルに向ける。
だが逆にコヴァルはスローンを撃った。スローンの身体は、消滅した。

ベレロフォン。
ベシアは部屋で考えていた。
起きあがる。

パッドを読んでいるロス。ドアチャイムが鳴る。「入れ。」
ベシア:「提督。」
「どうした。」
「気分は、どうですか。」
「良くなった。ドクター・フレイムに、しばらく休養するよう言われたが、書類は待ってくれないからな。何か用か?」
「質問があります。スローンはどこです。」
「彼は死んだ。」
ベシアはゆっくりと言った。「提督、スローンはどこです。」
ロス:「…この話を続けるなら、全部オフレコだ。」 コミュニケーターを外す。
ベシアも投げ置いた。
ロス:「君の質問に答える前に、聞かせてくれ。なぜわかった。」
ベシア:「コヴァルが言った人物像は別人だった。スローンとかけ離れてました。この僕の目を、百パーセント完全にくらませた人物が、簡単にロミュランに尻尾をつかまれるはずがない。別の筋書きがあったはずだ。それに、思い出したんです。スローンに共犯がいる可能性を臭わせたは、あれは…提督だった。暗殺計画を、ロミュランに知らせないと言ったのも提督だった。保安上、ディープ・スペース・ナインには連絡を取るなと命令したのも提督だった。そしていざスローンを逮捕する時になったら、提督は実に都合良く、動脈瘤で倒れ、僕は孤立無援。助けを求められるのはただ一人、クレタクだけ。提督がかんでいると考えれば、全て…つじつまが…合いました。彼はどこです。」
「知らない。」
「でも生きてる。そうですね?」
「フェイザービームが当たる直前に転送される手はずだった。それが成功したかどうかはわからない。」
「コヴァルはいつから連邦のスパイなんです。」
「彼はここ 1年以上、重要な軍事情報を連邦に流してくれている。いつセクション31 と関わりをもったかはわからない。」
「どちらにしても、ネズミがいるわけだ。ロミュラン政府のトップで、連邦の利益のため働くネズミが! 完璧だ。…提督のお友達は? クレタク議員です。彼女はどうなるんです。」
「議員は辞任だな。間違いなく。その後は投獄だろう。」
「処刑ですか。」
「違うといいな。」
「はめたんですよ! 議員は何もしていないのに、スローンが破滅させたんだ。なぜです!」 ロスの椅子を無理矢理回し、自分の方に向けるベシア。「同盟推進派だった。味方だったのに。」
立ち上がるロス。「いいや、そうじゃなかった。言っただろ、ジュリアン! 彼女は愛国者だ。ロミュランの利益になることなら、ドミニオンと手を組み単独和平も結びかねない。クレタクはその選択肢ももっていたんだ。現段階では、ドミニオンとしてもロミュランが手を組むと言えば二つ返事で OKするだろう。」
ベシア:「コヴァルをおいておくことで安全は確保されるわけだ。反連邦運動で暗殺されそうになった男が、それでも同盟を維持すべきだといえば説得力がある。」
「意図はそういうところだ。」
「提督はいつからセクション31 にいるんです。」
「私は違う。」
「へえ、一時的な同盟関係で?」
「そんなところだ。」
「…まるで疑問をもってないんですね。」
「苦渋の決断だ。だがこの 1年半、若い兵士らに死ねと命令し続けてきた。それよりはましだ。」
「言い訳ですね。しかも安っぽい。その兵士たちが命を犠牲にして守ろうとしたそのものを、あなたは踏みにじってるんですよ! 何とも思わないんですか!」
「インテル・アーマ・アイニム・シレント・レーガス。」
「『戦争になると、法律は沈黙する。※34』 キケロ※35だ。それが僕らですか! 24世紀のローマですか! シーザーが、絶対に過ちを犯さないと信じた、ローマ人と同じなんですか!」
「今の会話は、なかったことにしよう。」 コムバッジをつけるロス。「下がりたまえ。」
ベシアは記章を手にし、会議室を出た。

DS9。
寝ているベシア。
また部屋の中に人物がいる。ベシアは気づいた。
スローン:「こんばんは?」
ベシア:「拍手でもして欲しいか。アンコールのつもりか?」
「いやあ、礼を言いに来ただけだ。」
「何の。見事あんたの言いなりの人形になったからか?」
「いや、君の正義感にだ。元々だからこそ君を選んだんだ、ドクター。諜報活動というゲームが好きであっても、倫理観は失わない。極限の時も君は信念を曲げず、正しいことをした。敵に手を差し伸べ、真実を話した。暗殺を止めようとした。連邦には君のような男が必要だ。良心と信念の男がね。夜、よく眠れる男が。君のためにセクション31 は存在する。時に悪意の渦巻く宇宙から、君のような人々を…守らなければならないからだ。」
「共感して欲しいのか。世界を守るために、何て大きな重荷を背負ってるんだって、泣いて欲しいのか。」
微笑むスローン。「君と知り合えて、光栄だよ、ドクター。おやすみ。」 部屋を出ていく。
ベシアはテーブルのスイッチを押した。「ベシアより保安部。」
オドー:『オドーだ。』
「……何でもない。間違いだ。」 ベシアは横になり、ため息をついた。


※33: Kimara
クレクタの名 (キマラ・クレタク)。訳出されていません

※34: "Inter arma enim silent leges"
ラテン語。"In time of war, the law falls silent." 実際は "enim" は含まれていませんが、意味的には変わらないようです。原題

※35: Cicero
マルクス・トゥリウス・キケロ (Marcus Tullius Cicero、前106〜前43年)

・感想
前回の終わり方からして、必ず再登場するだろうと予想されたセクション31&スローン。最終話の直前にして、ロミュランも絡めた見事なエピソードに戻ってきました。ベシア、スローン、コヴァル、クレタク、そしてロス。それぞれが表と裏の顔を演じ、複雑なストーリーを形作っています。すぐに見直したくなる話ですね。クレタクは可哀想でしたが、彼女こそが危険だったというロス。単なるシスコの上官という立場から、今回でサブレギュラーとして一皮むけた気がします。
任務の特殊性・重要性を示すために、あえてヴォイジャーと同じイントレピッド級を使ったというベレロフォンも、短い時間ながらも彩りを添えています。


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