TNG エピソードガイド
第85話「ヒューマン・アンドロイド・データ」
Data's Day
イントロダクション
データ:『第2副長※1個人日誌、宇宙暦 44390.1。ディストロム研究所※2サイバネティックス部門、ブルース・マドックス中佐※3へ通信書簡。マドックス中佐、先日の通信で指摘されていたとおり、あなたの研究には私のプログラム及びそのオペレーションに関する情報が不十分なようです。そこで中佐が御要望の私の一日の行動記録を、特に私が最近友情をどう捉えているかに重点をおいて御報告します。』 ブリッジ。 ライカーたちがターボリフトで来た。 データ:「ライカー中佐。交代は 15分後です。」 ライカー:「今日は特別だからな。花嫁の父をやるんじゃ早めに引けておいた方がいいだろう。」 「恐縮です。」 「緊張は。」 「私は緊張はしません。しかし、私が務める…介添え役には責任を感じています。」 「ふーん。報告することは?」 「特に異常ありません。ファレス中尉※4の陣痛が始まり、4時から医療室に入っているとのことです。艦は現在位置のままズコフ※5の到着を待ち、ティペル大使※6を迎えた後出発します。」 「ご苦労。交代しよう。」 「了解。」 「これよりデイシフト。」 明るくなる。 『マドックス中佐、感情とは実に複雑なもので…私も混乱することがしばしばです。』 データはターボリフトに入る。 廊下を歩くデータ。 『それでもやっと、特定状況における感情の動きは大体予測できるようになりました。』 ドアチャイムに手を伸ばす。 中にいる女性※7。「どうぞ。」 データ:「もうすぐ結婚式のリハーサルだ。」 「わかってる。データ、私やめることに決めたわ。」 「リハーサルはしたくない?」 「そうじゃなくて、結婚をやめるの。」 「わけを聞いていいかな?」 「…結婚は間違ってると思うの。」 「…オブライエンに対する気持ちが変わったのかい。」 「……結婚するって幸せなことだと思ってた、でも違うの。巨大なプレッシャーがのしかかってきて、胸が潰れるだけ。」 「…結婚をやめる方が幸せなんだね?」 「…そうよ。彼も、きっとそれでホッとすると思うわ? …データ? 私達を引き合わせてくれたのはあなたよ、感謝してる。心の底から。お願い、彼にはあなたから言ってくれないかしら。」 「ああ、いいよ。」 出ていくデータ。 部屋には着物や盆栽が飾られている。 テン・フォワードに入るデータ。 『オブライエンは常々こう言っていました。ケイコの、望むようにしてやりたいと。結婚中止がケイコの望みなら、当然オブライエンも喜ぶと思ったのです。』 中では結婚式の準備が進んでいる。 データ:「いい知らせだよ?」 オブライエン※8:「何です。」 「ケイコは、より幸せになる決断をしたんだ。彼女、結婚をやめたよ。」 「何だって? …結婚をやめる? 当日に? 俺に一言もなく? 冗談じゃない、そんな無責任なわがままが聞けるかってんだ!」 オブライエンは出ていった。 ラフォージ:「次回は、いい知らせは先に教えてくれよ。」 『マドックス中佐、どうやら私の感情に対する認識機能は、調整が必要なようです。』 |
※1: 吹き替えでは全て「主任パイロット」。データはパイロットではなく、艦長席から見てブリッジ左側の席はオペレーションズ・マネージャー (略してオプス) です。TOS と設定が変わったことを無視している可能性あり ※2: Daystrom Institute ディストロム科学技術研究所 (Daystrom Institute of Technology)。TNG第35話 "The Measure of a Man" 「人間の条件」など ※3: Commander Bruce Maddox TNG "The Measure of a Man" に登場 ※4: Lieutenant Juarez ※5: U.S.S.ジューコフ U.S.S. Zhukov アンバサダー級、NCC-26136。TNG第69話 "Hollow Pursuits" 「倒錯のホログラム・デッキ」より。一部資料や撮影用モデルでは「NCC-62136」になっているそうですが、アンバサダー級の数字としては明らかに大きすぎます。モデルでは "Zuhkov" というスペルミスもあるようです。TNG第63話 "Yesterday's Enterprise" 「亡霊戦艦エンタープライズ'C'」に登場した同クラスのエンタープライズ-C と比べて、ブリッジ部やディフレクター盤に違いが見られます ※6: Ambassador T'Pel ※7: ケイコ・イシカワ Keiko Ishikawa (ロザリンド・チャオ Rosalind Chao ドラマ「マッシュ MASH」、"After MASH" で、クリンガーの戦争花嫁として出演。以前からサブレギュラーの案がありました。TNG第74・75話 "The Best of Both Worlds, Part I and II" 「浮遊機械都市ボーグ(前)(後)」にシェルビー役で出演した、エリザベス・デネヒーの友人) 初登場。このシーン、頭に刺してるのは箸…? 声:深見梨加、旧ST6 マルタなど ※8: マイルズ・オブライエン Miles O'Brien (コルム・ミーニー Colm Meaney) TNG第80話 "Legacy" 「革命戦士イシャーラ・ヤー」以来の登場。声:辻親八 |
本編
データ:『第2副長個人日誌、補足。エンタープライズが任務に就いてから、今日で 1,550日目※9。ティペル大使を迎えることを除けば、4人が誕生日を迎え、人事異動が 2名、ヒンズー教の光の祭り※10があり、チェストーナメントが 2つ、中学の学芸会、昇進が 4人。いわゆる、普通の一日だ。』 エンタープライズは、アンバサダー級の船とランデブーしている。 廊下を歩いてきたデータは、転送室に入った。 ハッブル※11:「ズコフ、転送準備完了です。」 データ:「転送開始。」 一人の女性が転送されてきた。 データ:「大使、エンタープライズへようこそ。」 ティペル※12:「艦長にお会いしたいわ?」 すぐに出る。 2人はターボリフトにいる。 『私も感情的な影響を受けないという点では、ヴァルカン人の大使に近いのでしょう。しかし論理的思考能力が素晴らしいのに比べ、彼らの人生観はいささか偏っていると感じます。』 横目でティペルを見るデータ。 ピカードはドアチャイムに応えた。「どうぞ。」 作戦室に入るティペル。 ピカード:「ティペル大使。」 ティペルはヴァルカン・サインをした。「交渉に来ました。」 ピカード:「ようこそ本艦へ。こちらは副長の、ウィリアム・ライカー中佐です。」 「外してください。」 出ていくライカーとデータ。 ブリッジに出たライカー。「素敵な人だ。」 『ライカー中佐の声色で、私は彼が本当にそう言っているのではないと察しました。今までの経験では、実際は逆のことを言っている場合がほとんどですから。それにしても皮肉だけはなかなかマスターできません。』 データはターボリフトに入る。 ボリアンのモット※13。「切るとこなんかないよ。先週切ったばっかりだろう。」 鏡を見るラフォージ。「何? 先週ちゃんとやってくれないからまた来てやったんじゃないか。」 笑うモット。「かっこよくしたいんだろうが、髪型以外は俺の腕じゃあ無理だ。」 ラフォージ:「いいからさっさと仕事しなよ、全く。」 『親しみを込めた悪口。これもマスターの難しい言葉の使用法です。今回は、ラフォージ少佐で実験してみます。』 ラフォージ:「ようデータ。」 『ちなみに彼は私の親友です。』 ラフォージ:「お前も散髪か?」 データ:「私にその必要はないよ、愚か者。」 「何?!」 「私にその必要はないんだ。」 「愚か者?!」 「ふざけてみたんだ、悪意のない中傷だよ。本当にそう思って言っているわけじゃない。」 笑うラフォージ。「そうか? でも、艦長には言うなよ?」 データ:「わかった。…ジョーディ? …実を言うと、今朝のオブライエンの反応がまだ理解できないんだ。」 「うーん、そうか。奴はただ驚いただけさ。本当に怒ってるわけじゃない。奴だって、ケイコが本気じゃないことはわかってる。ちょっと腰が引けただけさ。」 「腰が引ける? 逃げ腰※14。重要な局面を前に確信を失い、不安になる様。」 「そうだ。大丈夫、心配すんなって。ケイコも考え直すさ。」 データは、後ろにいる異星人が変わった髪型をしているのに気づいた。髪色を変えている※15。「本当に?」 ラフォージ:「間違いないよ。」 「では、結婚式は中止にならないのかなあ。」 「俺を信じろ。二人は結婚する。早くプレゼントを選べよ。」 「フン。」 美容室を出て行くデータ。 『私とウォーフ大尉※16とはどこか似たところがあります。2人とも艦隊に救われた身の上だということ。それに、お互い人間社会に上手く馴染めないでいるのです。』 装置の前にいるウォーフ。後ろにいた家族は、そのレプリケーターでウサギのぬいぐるみを作り、持っていった。 レプリケーター室※17にデータが来た。「結婚式の贈り物かい?」 ウォーフ:「ああ。」 「…私も選ぶんだけど、手伝ってもらえないかな。」 「…いいとも。人間の結婚式は経験がある。」 ウォーフがコンピューターに触れると、さまざまなグラス類が表示されていく。「停止。」 「二人にこれを贈るのかい?」 「私の養父母が毎回こういう物を贈っていた。…しかし…物を贈るなんて、いかにも人間らしい。」 また表示を続けるウォーフ。「停止。」 「私の理解では、贈り物には送り主の個性が反映されるものだと思っていたが、これは君らしくないと思うよ?」 鳥型の器だ。「…実際に人間の結婚式に出席したことは。」 「まさか。」 「出席は名誉じゃないのかい?」 「うーん名誉だとは思う。しかし、人間のパーティというものはいつも何と言うかその…おしゃべりやら、ダンスやら、人が泣いたり。」 「ダンスか。」 医療室で診察されている妊婦がいる。 『私自身はドクター・クラッシャーの御世話になることはほとんどありません。バイオメカニカル維持装置※18の治癒機能がありますから。しかし私は、たびたび医療室を見学しさまざまな人間の相互関係を学ぶのです。』 診るのを終えたクラッシャー。 データ:「ドクター、お願いがあるんですが。」 「どうしたの、データ。」 「ダンスを教えてください。」 医療部員が通りかかり、データをオフィスに引き入れるクラッシャー。「何ですって?」 データ:「ダンスを教えて欲しいんです。」 「なぜ私に。」 「あなたの記録を拝見しました。『セントルイス・アカデミー※19、タップ・ジャズ部門第一位を受賞…』」 「わかった、わかったわ。」 「悪いことでも言いましたか?」 「そうじゃないけど、遠い昔のことなのよ。それに艦長に踊りが見たいなんて言われたら、困るわ?※20」 「駄目ということですね。」 止めるクラッシャー。「わかったわ。でも…このことは 2人だけの秘密にして?」 口にチャックの仕草をする。 データ:「わかりました。」 真似する。 ピカードの通信。『データ少佐、ブリッジに直行せよ。』 データ:「了解しました。」 出ていく。 微笑むクラッシャー。 ブリッジのピカード。「データ、中立地帯近くのロミュラン艦の配置から考えうる動きを予測しできれば、過去の記録もそろえて作戦室へ報告してくれ。」 データ:「…艦長、何か特に注意する区域はありますか。」 ティペルは首を振った。 ピカード:「…ない。では大使。副長、コースセット 130、マーク 246、ワープ7。」 ライカー:「しかし、中立地帯の目の前ですが?」 「そこへ行くんだ、副長。」 「コース入力しろ。」 『…私は感情に左右されず任務を遂行できる能力があって、幸運でした。そうでなければ急な中立地帯付近へのコース変更で、とても神経質になっていたでしょう。』 データは、指で台を叩いていたことに気づいた。 |
※9: 宇宙暦の百の位以下が一年間を表すとして無理矢理計算した場合、このエピソードの宇宙暦 (44390.1) は 2367年の 5月末になります。よって 1,550日前は 2364年2月末となりますが、TNG第7話 "Lonely Among Us" 「姿なき宇宙人」では同年後半とされたため、矛盾します。「公式な」発進の前から使用していたのかもしれません。なお記念銘板では宇宙暦 40759.5 に発進となっており、2363年10月頭に相当します ※10: Hindu Festival of Lights この年 (2367年) では、10月24日になるそうです (未確認) ※11: マギー・ハッブル Maggie Hubbell (エイプリル・グレイス April Grace) TNG第82話 "Future Imperfect" 「悪夢のホログラム」以来の登場。クレジットでは転送技師 (Transporter Technician)。LD などには「ティナ・ターナー」というキャラクター名で掲載されており、同名の歌手から (勝手に) つけた名前だと思われます。声はコンピューター役の磯辺さんが兼任、前回は高山みなみ ※12: ティペル大使 Ambassador T'Pel (シエラ・ピーシャー Sierra Pecheur) 声:藤夏子 ※13: Mot (シェリー・デサイ Shelly Desai) 美容室と共に初登場。クレジットでは V'Sal (ヴィサル、ヴセルとしている日本語資料あり) ですが名前は言及されておらず、ボリアンの理髪師が 2人もいることは考えにくいことから、エンサイクロペディアではモット (TNG第103話 "Ensign Ro" 「流浪のベイジョー星人」などに登場、俳優は別) と同一視しています。美容室 (理髪室、barber shop) も初登場。声はオブライエン役の辻さんが兼任 ※14: 腰が引ける=cold feet、逃げ腰=jitters ※15: この髪染め器は、TNG第43話 "Samaritan Snare" 「愚かなる欲望」などの機関スキャナーの使い回し ※16: 吹き替えでは全て「ウォーフ中尉」。第3シーズン以降、階級は大尉です ※17: レプリケーティング・センター Replicating Center 初登場 ※18: biomechanical maintenance program 吹き替えでは「バイオケミカル…」と言っているようです ※19: St. Louis Academy ※20: 原語では「もう『ダンシング・ドクター』("The Dancing Doctor") なんてこと知られたくないわ」 |
作戦室に入るデータ。 ピカード:「どうだ、君の分析では…現在のロミュラン艦隊の配置は何を想定して組まれている。」 データ:「船の配置は我々に外交的な圧力をかけつつ、中立地帯付近の連邦の警備を探るものです。」 「近い将来に変化がありそうか。」 「私は、90%の可能性でこの状態が続くと予測します。」 「ではデータ、彼らが懐柔的政策を採るような兆しが少しでもあるのか?」 「いいえ。」 ティペル:「警戒してくださるのは結構ですが、任務の計画変更は許されません。」 ピカード:「…艦隊本部もそう言っています。…しかし大佐がたったお一人で行かれるというのはどうも。」 ティペルに見られる。「…ご苦労だった。」 出ていくデータ。 ワープ航行中のエンタープライズ。 データは自室に戻り、レプリケーターの前に立った。「ネコの餌を頼む。…74番※21。」 実体化した器を手にし、床に置いた。すぐにネコのスポット※22が食べ始める。 デスクで操作を始めると、スポットが膝の上に飛び乗った。 データ:「コンピューター、全ての流体センサーの分析をしてくれ。」 コンピューター※23:『分析完了。システムは全て通常通りに機能しています。』 ドアチャイムに応える。「どうぞ?」 スポットを下ろすデータ。 オブライエン:「…今は、お邪魔ですか。」 「いや? さあどうぞ、座って?」 『友人が取り乱したときにはまず気を落ち着かせるのが有効だと、今までの経験で学んでいました。』 座ろうとしたが、落ち着きなく立ち上がるオブライエン。 データ:「何か、飲み物でもいかがかな?」 オブライエン:「ああいえ、結構です。…とにかくその、今朝の態度をお詫びしようと思って来たんです。」 「詫びる必要などない。私は気にしないし。クッションをあげようか、その椅子は少々固いかもしれない。」 「ああいえ。…大丈夫です。」 オブライエンは座った。 「音楽をかけようか。ブラームス※24か、オーレリア※25か…」 「いえ、結構です。ほんとに。……あの、実は御願いがあって来たんです。…ケイコのことで。…少佐から結婚を、納得させてください。」 「ケイコと話すのだったら、カウンセラーの方が適任だと思うが。」 「話してもらいましたが…駄目です。少佐は古い友達ですし、あなたの話なら聞くでしょう。私とは一言も。」 「何を言えばいいのかわからない。」 「何でもいいんですよ。お願いします、少佐。彼女は今現実から逃げているんです。…あなたのことは尊敬してますし、聞くと思うんです。」 データは何か言おうとしたが、口を閉じた。 立ち上がるオブライエン。 データ:「ケイコは……よく分析をせずに答えを出したのだろう。話してみるよ。」 オブライエン:「ああ、よかった。ありがとうございます。」 『マドックス中佐、今朝結婚しないと私に告げたときのケイコは、非常に落ち着いていました。だからこそ私が例を示して決断が間違いではないかと指摘すれば、容易に考え直すでしょう。』 『…彼女も感情に左右されない種類の人間で幸運でした。私にも、この任務はこなせそうです。』 廊下を歩くデータ。 怪訝な顔をするケイコ。「何て?」 データ:「君は決断を急いで、間違った結果を出したと思う。」 「どういうこと?」 「…幸せそうには見えない。」 「それは…。」 「君は結婚をやめることが君たちの幸せだと仮定したが、それは間違いだった。」 植物に装置を使うケイコ。「そんなに単純なことじゃないの。」 回り込むデータ。「君の行動が予想通りの結果を生まなかったのなら、もう一度決断までの過程を検証して、間違いを見つけるしかないと思うんだ。」 ケイコ:「私が何を決めたかくらいわかってるわ?」 「それはここでの問題じゃない。とにかく君は結論を急ぎすぎ、結果として無意識のうちにオブライエンの気持ちを傷つけた。」 「ああするしかなかったのよ! なぜ私を責めるの! …友達だと思ったのに。」 「私は友達だ。」 「じゃあほっといてちょうだい!」 「何か悪いことを…」 「いいからほっといて!」 ケイコは植物園※26の奥へ向かった。 『この状況を打破するには助言が必要です。私は、カウンセラーのトロイを訪ねました。』 『…私にとって、ディアナ・トロイは最も不可解な友人です。彼女の任務は他人の感情を知覚し導くことですから、感情のない私は彼女にとっても最も不可解な友人なのでしょう。』 お茶を入れたトロイ。 データ:「オブライエンは私に話し、ケイコはあなたと話した。なぜお互い話さないんです?」 笑うトロイ。「痛いところを突かれたわね? 上手くは答えられないけど、そのうち話すようになるわ。」 データ:「フン。…今朝からどうも混乱させられることばかりです。さまざまな結婚の価値観を集計してみましたが、ガイドとなるものはありません。」 「ガイドって何に使うの?」 「二人を助けるために、幸せな結婚とはどういうものかあらゆる資料から統計を取ったんです。」 「…ご苦労様。」 「統計は取れないんです。ガルヴィン5号星※27で成功した結婚だと呼ばれるのは、結婚後一年以内に子供が生まれる場合です。アンドリア人※28の結婚は 4人のグループでしますが、それは…」 「データ? あの二人を助ける方法を知りたい?」 うなずくデータ。 トロイ:「何もしないこと。これは二人で解決すべき問題なのよ?」 データ:「でも、私は友人です。困っている友は助けるべきではないのですか?」 「…そっとしておくのが一番の思いやりってことも、時にはあるのよ。」 「うん…あの二人は結婚するのが正解だと思いますか。」 「…わからないわ? 二人は愛し合ってるけど結婚は愛情だけでは無理。結婚って、自分自身を相手に分け与える契約なのよ。人生を分かち合って一緒に歳を取るの。」 「『一緒に歳を取る』。それは、結婚の絶対条件ですか?」 「普通はね、どうして?」 「私はアンドロイドですが、私もいつか結婚する可能性がないとは…限らない。」 「…あなたに結婚の意思があるなんて考えてもみなかったわ?」 「分け与えるものならもっているつもりですが、一緒に歳を取るのは不可能です。私は歳は取りませんから。」 「データ?」 横に座るトロイ。「あなたなら立派に結婚できるわ。」 通信が入る。『データ少佐、こちらティペル大使です。私の部屋へ来てください。』 データ:「了解しました。」 ティペルの部屋。 帽子を脱いだティペルは、部屋を歩いていた。ドアチャイムに応える。「入って?」 データに尋ねた。「この艦で第3位の権限をもってるわね。」 データ:「その通りです、大使。」 「この艦の防衛及び操縦システムに関する情報を要求します。アクセスコード、カッパ・アルファー・4601704。」 「そのコードは有効です。」 「ディフレクターシールドの強度は、最大出力の時どの程度なのですか?」 「情報の使用目的を教えてください。」 「あなたはただ答えればいいのです。」 「私には、秘密保全機能があります。重要な情報を引き出すには、艦長に報告する義務があります。…その御様子では、艦長への報告を望まれていないのですね?」 「情報が目的ではありません。あなたの保全機能を試したかったのですが、問題はないようです。もう用はありません、下がってよろしい。」 部屋を出たデータ。 『マドックス中佐、私は常々人間のもつ直感やひらめきにあこがれていました。ヴァルカン人は嘘がつけませんから、大使の言葉は真実と受け止めるべきなのですが。それでも私は、「不信感」を否定できませんでした。』 データはターボリフトに入る。 |
※21: ネコの餌 74番 feline supplement 74 ネコの餌は初登場 ※22: Spot 初登場 (導入はブレント・スパイナーのアイデア)。まだ名前は出てこず、TNG第99話 "In Theory" 「恋のセオリー」で初言及。種類はソマリですが、後にオレンジ色のトラネコに変わります (ついでに性別もオスからメスへ) ※23: 声:磯辺万沙子 ※24: Brahms ヨハネス・ブラームス (Johannes Brahms) ※25: Aurelia ※26: 初登場 ※27: Galvin V ※28: Andorians TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」など |
廊下を歩いてきたデータは、パネルに触れた。 コンピューター:『プログラム、クラッシャー4※29 再生中です。』 ホロデッキに入ると、髪を上げたクラッシャーがいた。「待ってたのよ。ねえどう思う、私が最初にレッスンを受けたスタジオを再生したの。」 データ:「ダンスがしやすそうですね。」 「…まず簡単なステップから。ステップ※30、ホップ。やってみて?」 タップダンスを真似するデータ。 クラッシャー:「続けて、そうよ? 上手いわ?」 データ:「踊れてますか。」 「まだまだ。…止まっていいわ。…じゃ次は…」 「ドクター。完成の形を見せていただければいいと思うんです。」 「……いいわよ?」 クラッシャーの動きに合わせてタップするデータ。 クラッシャー:「上手いじゃない。見て? …そう! トリプル。じゃ次。」 同じ動作を続けるデータを止める。「ストップ、データ。ほんとに何も習ったことないの? …じゃこれをやって?」 複雑なステップもこなしていくデータ。互いに円を描いて回る。 データは走る格好のままになった。 クラッシャー:「ストップ、データ! …悪くないわ。」 疲れている。「ええ、大したもんよ。」 データ:「では、ダンスを習得したんですね。」 「…ま基礎は合格にしとくわ。」 「ありがとうございます。これで結婚式の準備は万全だ。」 「結婚式?」 「…ケイコのです。」 「結婚式でやるなんて言わなかったじゃない。」 「…おかしいですか?」 「もちろんよ、タップダンスなんて踊る人いないわ?」 「…なぜです?」 「なぜって、それは…そう言われても困るけど、まあとにかく普通みんなが結婚式で踊るダンスを教えるわ? コンピューター? 曲は…『イズント・イット・ロマンティック』※31。」 音楽が流れ始めた。「さあ、さっきのに比べればこんなの簡単よ? 顔を上げて、私についてきて。ワン、トゥー、スリー、イン。」 つまずいてしまう。 クラッシャー:「違うの、待って。あーダメダメ、もっとゆっくり。ゆっくりね? あー! 曲を止めて。」 データ:「すいません。」 「どうなってるの、データ? タップはあんなに上手く踊れたのに。」 「あなたの足が見えないので、真似ができないんです。」 「ああ…わかったわ? じゃもう一度。…今度は、足を見ててね? コンピューター、曲を流して? さあ。…これは、真似してるだけじゃ駄目なの。私をリードして。」 「リードって何です?」 「パートナーをあなたが行きたい方へ導くの。」 「具体的な方法は。」 「ああ…。」 手を替えるクラッシャー。「こうするの。見ててね? …わかるでしょう、同じステップを繰り返すだけじゃないわ? 即興で作るの。…じゃあリードして。」 2人は手を入れ替えた。 クラッシャー:「上手いじゃない、顔上げて?」 天井を見るデータ。 クラッシャー:「私の目を見るの。…ちょっと引っ張りすぎ…。」 データ:「これは、なかなか組み合わせが多様で複雑なダンスですね。」 「あなた上手いわよ? 今度は、笑って? 心の底から楽しむのよ?」 口を開き、笑顔を作るデータ。 通信※32が入った。『ドクター・クラッシャー、医療室へお越しください。』 クラッシャー:「ファレス中尉のこと?」 『子宮の収縮が一分おきになりました、産まれそうです。」 「今すぐ行くわ。ごめんなさいね、ダンスの御相手はコンピューターに頼んで。」 笑顔をやめるデータ。 クラッシャー:「うーんと経験を積んどくといいわよ!」 出ていった。 データ:「そうします、ありがとうございました。コンピューター。ダンスのパートナーを頼む。女性だ。」 後ろにドレスを着た人物が現れた。 データ:「曲を流せ。」 近づいてくる女性と組むデータ。先ほどと同じ笑顔を作っている。 ブリッジ。 ターボリフトを降りるデータ。 ライカー:「首切りの役人が斧を振り下ろした瞬間…」 女性クルーの前で話している。 『ライカー中佐の気取らない仕草とユーモアのセンスは魅力的です。彼がクルーの間で人気があるのも当然でしょう。また彼は、恋愛のスペシャリストであるとの評判もあります。ユーモアとセックスのセンスは共通点があるのでしょうか。これは、更なる調査が必要です。』 女性を見ながら、下に来たライカー。 データ:「副長!」 ライカー:「…艦長、ブリッジへ。エンジン停止!」 操舵士官※33:「了解。」 ティペルと作戦室を出たピカード。 データ:「艦長、指定の座標に到着しました。」 ピカード:「位置はこのままだ。長距離スキャン。」 「艦長、中立地帯に船を発見しました。特定します。ロミュラン・ウォーバードです。」 「…警戒警報。…ウォーバードに呼びかけろ。」 持ち場についたウォーフ。「了解。返信があります。一文だけです。我々はこれより所定の座標へ進むと。」 ピカード:「コースセット。037、マーク 005、ワープ4。…これより中立地帯へ進む。」 ワープに入るエンタープライズ。 ウォーフ:「艦長、ウォーバードは位置を保っています。あと 3分で攻撃圏内に突入します。」 ピカード:「非常警報。」 ティペルに言う。「私のクルーを信じてください。命令なく相手を挑発することなどありません。」 ティペルはデータのコンソールを操作した。「この座標に停止しなさい。」 ライカー:「通常エンジンに切り替えろ。」 「宇宙チャンネルオン。」 ウォーフ:「チャンネルオン。」 向かってくるウォーバードの映像が切り替わり、ロミュラン艦の内部が映し出された。 ティペル:「私はティペル大使です。」 ロミュラン:『メンデック提督※34だ。』 「このような会合にまだ外交的しきたりはありません。能率を考え私が貴艦へ赴き交渉するのはいかがでしょう。」 メンデック:『結構。艦長、あなた方の防衛システムが稼働しているが?』 ピカード:「そちらもです。」 『別に責めているのではない。手の内を見せたと評価している。大使をお迎えすることができて光栄です。いつでも転送を開始してください。』 ティペル:「早速うかがいます。」 通信は終わった。 ティペル:「転送室に準備をさせてください。準備でき次第、あちらの船に移ります。」 ピカード:「ティペル大使。もう一度考えてくださいませんか。例えばエンタープライズへ、ロミュランの使節を招けばもちろん安全を保障しますし…」 「ピカード艦長、もう何度も言ったはずです。私の指示に従いなさい。」 ティペルはターボリフトへ向かった。 「ピカードからオブライエン。」 オブライエン:『オブライエンです。』 「ティペル大使をロミュラン艦に転送してくれ。」 制服の裾を伸ばすピカード。 『了解。』 「ウォーフ、大使が乗艦してもシグナルをロックしておけ? トラブルの兆しが見えたら呼び戻す。」 ウォーフ:「了解。…転送開始しました。…艦長!」 オブライエン:『緊急事態発生。シグナルが消えます。』 「オートシークエンサー※35、パワー増幅。」 データ:「コンピューター、オーバーライド開始。」 ライカー:「オブライエン、何が起こった!」 オブライエン:『パターンが消えます。再定着できません! …すいません、シグナル回収できませんでした。…大使は死亡しました。』 |
※29: Crusher 4 ホロデッキプログラム名 ※30: 原語では stomp (踏む) ※31: 「ロマンチックじゃない」 "Isn't It Romantic?" 映画「今晩は愛して頂戴ナ」(1932) のテーマ曲 ※32: 声はコンピューター役の磯辺さんが兼任。一部日本語資料では、クラッシャーの横などにいた看護婦 (医療部員) としていますが、エキストラでセリフはないため関連は不明 ※33: エキストラで名前は実際には設定されていませんが、LD などには「クリス・ドールマン」というキャラクター名で掲載されています。同名の格闘家から (勝手に) つけた名前だと思われます。原語では「少尉」と呼びかけている個所があります。声はオブライエン役の辻さんが兼任 ※34: Admiral Mendak (アラン・スカーフ Alan Scarfe TNG第143話 "Birthright, Part II" 「バースライト(後編)」のトカス (Tokath)、VOY第28話 "Resistance" 「レジスタンス」のオグリス (Augris) 役。ルーサ役バーバラ・マーチの夫) 声:中庸助 ※35: autosequencer |
エンタープライズはウォーバードと相対している。 データ:『第2副長個人日誌、補足。宇宙艦隊勤務の厳しさは皆覚悟していますが、やはりクルー※36を亡くす悲しさに慣れる者は一人もいないようです。こんなときになると、私は感情がないことを改めて痛感します。』 転送室で調査が行われている。 オブライエン:「シグナルのロックは完璧でした。転送段階に移ると、急に大使のパターンが壊れ始めて。すぐ緊急用手動コントロールに切り替えましたが、パターンの崩壊があまりに早くて。」 データ:「艦長。艦隊記録を調べても、このような事故は一件もありませんでした。バックアップや安全装置は、こういう事故を防ぐ設計ですから。」 ラフォージ:「転送室自体には、全く異常はありません。機関部の方も通常通りですし、バックアップもオートシークエンサーも全く異常ありませんでした。」 ピカード:「以前にここで誤作動があったことはあるか。」 オブライエン:「いいえ。転送コイルも先週交換したばかりですし。」 ライカー:「ロミュランからの妨害があった可能性は?」 「ないはずです。スクリーンはなく、動力障害も亜空間のゆがみもありません。」 ピカード:「このユニットは閉鎖し、再度システムチェック。更に全ての転送室でレベル1 の分析を行え。」 ラフォージ:「了解。」 クラッシャー:「大使の分子組織は、パターンが崩れてすぐ拡散しています。パッドの縁にわずかな組織片が残っていましたが、検死できるかはわかりません。」 ピカード:「……転送で……殉職とはな。…連邦最高の大使と謳われた方にはまるで似合わない最期だ。」 ウォーフの通信。『ブリッジから艦長。メンデック提督が艦長と話したいとのことです。』 出ていくピカード。 スクリーンに映るメンデック。『大使はどうなさった。何か問題か。』 ピカード:「事故がありました。ティペル大使は残念ながら転送室の事故で亡くなりました。」 『…事故の原因は何だ。』 「今も調査を継続中です。原因がわかり次第…」 『連邦は今回の会議に乗り気ではなかったということか。』 「それは違います。今回我々は、最高の準備と期待をもってこの場に臨んだのです。」 『素晴らしい演技だ。見事だよ。惑星連邦は我々ロミュランとの国交正常化に反対で、君は「事故」を起こすよう上層部に…指示を受けた。』 「それは誤解です。私は大使に成り代わって…会議に出席しあなた方との正式な外交関係を結ぶことを強く望んでおります。」 『抜け目はないな。我々はティペル以外とは交渉しないと知っていてか。…君には脱帽だよ、全く素晴らしい筋書きだった。…ではお互い中立地帯を離れよう。再び「事故」が、起こる前に。』 通信は終わった。 ピカード:「連邦の領域へ向かう。ワープ2。…発進。データ少佐、君が事故原因究明の責任者となって、コンピューターの記録を手始めに洗いざらい調べてくれ。ただの故障などと結果を出したら承知せんぞ?」 データ:「了解。」 『ピカード艦長の薦めで、私はサー・アーサー・コナン・ドイルの作品と出会い、その後私は作中人物の探偵、シャーロック・ホームズの大ファンとなりました。』 『…鋭く、細かい観察による謎解きが私を引きつけたのです。』 機関室でラフォージと調査を行うデータ。 転送室で何度も転送が繰り返される。 『ホームズの演繹的推理理論は、極めて実用的なものです。彼の言葉で言えば不可能なものを消去してゆき、残ったものはいかに突飛に見えても真実なのです。』 医療室に来たデータ。 クラッシャー:「ああ悪いけど、今はとてもダンスを教えてる余裕はないの。」 データ:「ダンスではありません。転送機のパッドに残っていた、ティペル大使の組織を調べたいんです。」 「それなら、いま調べてるわ?」 「…ではその組織の遺伝コードと、大使の最期の転送時の ID図形※37を比較してみましたか?」 「いいえ、普通そんなことはしないけどなぜ?」 「私の第六感というか、昆虫類の通達です。」 「…虫の知らせ※38って言いたいの?」 うなずくデータ。 クラッシャーは笑った。「わかったわ? コンピューター、ティペル大使の転送時の ID図形を呼び出してちょうだい。…出たわ。これは大使がエンタープライズに乗船したときの遺伝子構造。」 DNA が表示され、容器を挿入する。「これに、転送室で採取した体組織を付き合わせてみるわね?」 2つが並べられた。 クラッシャー:「ミトコンドリアの構造はほとんど同じ。ヌクレオチドの塩基も変化は見られないわ? うん、塩基対のつながりはわずかに食い違ってるわね。…化学的に言えば 2つは同じようだけど、転送室で採取した方はいろいろなところでほんの少しずつおかしいわ。複製機で作ったものみたい。」 データ:「…ドクターはその違いをどう説明されます?」 「…転送の再物質化の過程で、DNA が変化を起こしたとしか言えないわね。」 「しかし転送記録によればそんな事実はありません。」 「もしくはこの組織は大使のものではない。」 |
※36: 原語では「仲間、同僚 (comrade)」 ※37: 転送 ID 痕 transporter ID trace ※38: 原語では直感ということは言っておらず、データ「私は理由もなく、自然の鳥類を追いかけているのかもしれません」 クラッシャー「野生のガンを追う ("wild-goose chase" =「骨折り損、無駄骨」という意味) って言いたいの?」 |
作戦室のデータ。「調査の結果、唯一異常が認められたのは転送中の一時的なエネルギーシグナルの増幅です。…状況を考えた上で、第2の転送シグナルが働いて今回の事件になったと結論づけました。かなり突飛な結論ですが、唯一残った可能性です。」 ライカー:「第2のシグナルはどこから。」 「デヴォラス※39です。」 ラフォージ:「ロミュランの転送システムは、周波数が我々のと近いんです。少し調整すれば、我々の転送波※40をシミュレートすることは十分可能です。」 ピカード:「…つまり君ら、ロミュランが大使を連れ去ったというのか?」 データ:「ええ、またそれと同時に大使の立っていた転送パッドの上に…体組織の複製を送ったんです。」 ライカー:「機械の故障で、大使が死んだと思わせるために?」 「そうです。」 ピカード:「…ミスター・ウォーフ※16、デヴォラスの現在位置は。」 ウォーフ:『まだ中立地帯の中です。コース 079、マーク 125。速度、ワープ2 です。』 ライカー:「連れ去る気です。」 『この状況で最も安全で論理的なのは、艦隊本部に連絡しその指示を仰ぐことでした。しかし過去の例から言って、ピカード艦長がそうする可能性は 17%だと私は予測しました。』 立ち上がり、制服の裾を伸ばしたピカード。「非常警報、クルーは全員戦闘態勢につけ。」 ブリッジに入る。 ピカード:「コースセット、目標はロミュラン・ウォーバード。」 ライカー:「防御スクリーン。光子魚雷とフェイザー砲をスタンバイ。」 裾を伸ばす。 「速度、ワープ8。発進。」 ワープ中のエンタープライズ。 ピカード:「デヴォラスに呼びかけるんだ。」 ウォーフ:「了解。…返答ありません。」 データ:「デヴォラスはワープを中止しました。戦闘態勢に入っています。」 ピカード:「通常エンジンにしろ。」 「了解。」 速度を落とすエンタープライズ。 ウォーフ:「ウォーバードから通信です。」 ピカード:「ビューワーに出せ。」 メンデック:『艦長。お互い中立地帯を離れようと言ったはずだ…』 ピカード:「メンデック提督。我々の大使を捕らえているはずです。」 『誓って言うが、我が艦には囚われの者など一人も乗っていない。』 「転送機の『故障』の仕掛けはわかってるんです。そしてあなたが、大使を捕らえたことも。」 「艦長。右舷に、ロミュラン・ウォーバードが接近します。」 遮蔽を解除した、新たなウォーバード。 メンデック:『ここを立ち去りたまえ。今すぐ。』 立ち上がるピカード。「提督、連邦市民の命を守るのが私の責務です。目の前の誘拐行為は黙って見逃せません。」 メンデック:『君はことさらに事を荒立てる気かね…』 「メンデック提督、私は大使を取り戻すために必要なことなら何でもする覚悟です。」 『ポーカーのゲームでは、敵がただ虚勢を張っているのか本当に強いカードをもっているのかを推理せねばなりません。推理の決め手は掛け金だけでなく、相手の観察も大切です。ハッタリなのか、カードをもっているのか。』 メンデック:『…君は、ツイてるな。戦争を始める準備は、してこなかったな。』 手を挙げるメンデック。すると脇から、女性のロミュランが現れた。 ライカー:「大使。」 ヴァルカン人だったはずのティペルは言った。『ロミュラン副司令官、セレク※41です。』 ピカード:「スパイか。」 メンデック:『愛国者と呼んでくれ。彼女は長かった務めを終えて、ようやく帰ってきた。』 セレク:『艦長。あなたの、おかげです。』 『この通り、連邦の市民を捕らえているわけではない。彼女を我々に帰してくれたことは感謝する。しかし、私の忍耐にも限界がある。ゲームは終了だ。平和のうちにこの場から、立ち去れ。』 通信は終わった。 ウォーフ:「艦長。長距離スキャンが更に、3機のウォーバードの接近を捉えました。」 ライカー:「今度は戦争の準備ができていないとは言わないでしょう。」 ピカード:「撤退する。…連邦のテリトリーへ引き返せ、ワープ6。発進。」 後ろを向き、エンタープライズは去った。 植物園にいるケイコに、近づくデータ。「ケイコ、許して欲しいんだ。君を傷つけてしまった償いをしたいと考えていたんだが、どうしていいかわからない。」 ケイコ:「私に謝ることなんてないわ?」 「干渉するべきじゃなかった。とにかく、謝らせてくれ。」 「いいから、早く着替えてきて? すぐに式よ。…そうだ。」 「式?」 「…こっち! …花嫁の父に一番綺麗なカーネーションを取っといたのよ? もう心配しないで?」 「心配はしていない。混乱はしているが。」 笑うケイコ。 テン・フォワード。 日本風の音楽が流される中、列席者は皆礼服を着ている。データは着物姿のケイコの手を取った。 データの胸には、カーネーション。データに連れられてきたケイコは、オブライエンと向き合った。 受け取ったグラスを口にする。次はオブライエン。 腕を組む二人。 中央にいるピカード。「…まだ船が木で造られていた時代から…全ての船長はこのように、二人の乗組員の…婚礼を司るという幸せな特権を享受してきたんだ※42。…そこで、私も伝統に従って妻ケイコ・イシカワ、そして夫マイルズ・E・オブライエンの結婚の証人となり…」 『人間の感情にはまだまだ理解できないものがあります。怒り、憎しみ、恨み。しかし、愛されたいという欲望はよくわかります。』 オブライエンとケイコはキスした。拍手と歓声が上がる。 『…そして友情も。この 2つは理解できるのです。』 ピカードほか、一同から祝福を受けるオブライエン。「ありがとうございます。」 「おめでとう。」 データは、ケイコとダンスを踊る。自然な表情だ。 医療室。 赤ん坊が声を上げている。礼服のまま、そばに立っているピカード。 データが来た。「ドクターを捜してるんですが…」 ピカード:「シー。」 赤ちゃんを見るデータ。「ファレス中尉の子ですね?」 ピカード:「うーん、男の子だ。我々が危機に直面している間に、この小さな奇跡が起こったんだ。」 赤ん坊に手を伸ばし、笑う。「本艦へようこそ。」 データたちはブリッジに入った。 艦長席にいたウォーフ。「システム異常ありません。現在、アデルファス4号星※43に向かっています。機関部では、メインディフレクターの調整中。医療室から、ウンバト中尉※44が運動中あばら骨を 2本折ったと報告がありました。センサーは引き続き、ムラサキ・クエーサー※45の観測を続けています。」 データ:「ご苦労だった、交代しよう。」 「了解。」 『人間であることがただその身体に生まれつくということではなく、考え方や行動によって育まれるなら、私もいつか自分の人間性に出会えるでしょう。』 データ:「これよりナイトシフト。」 『その日までマドックス中佐、私は常に学び、変わり、成長し、今の私以上のものを求め続けます。』 暗くなるブリッジ。データは艦長席に座る。 エンタープライズは、ワープに入った。 |
※39: Devoras 吹き替えでは全て「ウォーバード」 ※40: 転送搬送波 transporter carrier wave ※41: セレク副司令官 Subcommander Selok ※42: ここまでのセリフは、TOS第9話 "Balance of Terror" 「宇宙基地SOS」においてカークが結婚式で述べたセリフと、似た内容です。共同脚色のロナルド・ムーアによるオマージュ。DS9第168話 'Til Death Do Us Part" 「偽りの契り」でも、ロス提督が使っています ※43: Adelphous IV ※44: Lieutenant Umbato ※45: Murasaki Quasar TOS第14話 "The Galileo Seven" 「ゴリラの惑星」ではムラサキ 312 (Murasaki 312) という (紫色ではない) 宇宙現象が登場しており、ムラサキ・クエーサーは一般名とも考えられます |
感想など
エピソードガイドではデータの話が 2話連続で、第4シーズンとしてはボーグ関連に続いて初めて取り上げることになりました。以前ひどい目に遭ったマドックスに宛てられ、データの視線で語られる異色作。でもこういう話であるからこそ、他のキャラクターを含めてきちんと描かれているのが面白いですね。DS9 でもサブレギュラーとなるケイコ・オブライエンなど初登場の重要要素も多く、初心者の方にもお勧めできると思います。日本のファンでは語り草になっている、結婚式はさておき…(着物の生地は何なんでしょう)。 原案者は前シーズンの頃から提案しており、当初は他のクルーにもスポットが当てられる予定でした。バーマンやピラーによって、いわゆるメインとなるロミュランの話が付け加えられています。マクファデンとスパイナーはダンスを練習し、そのシーンのセリフも考えています。あの「笑顔」は監督の案だそうです。 |