TOS エピソードガイド
第36話「惑星アルギリスの殺人鬼」
Wolf in the Fold
イントロダクション
※1※2踊る女性。手に楽器をつけている。 肌は露わだ。それを見つめる人々は、横になってリラックスしている者もいる。 スコット、マッコイ、チュニック姿のカークも片隅に座っていた。 スコット:「船長、アルギリス※3人が気に入りましたよ。」 カーク:「何とも結構な惑星だね?」 「ここの女の人はどれもみんなあれですか、つまり…」 「そうだよ、そうだ。…男性をみんな楽しませてくれる。」 マッコイ:「アルギリスは快楽の惑星とは聞いていたが、これほどいいところとは思わなかったな。」 踊り続けるアルギリス人。スコットは微笑んだままだ。 カーク:「あれが気に入ったか?」 スコット:「ええ。…いい女ですね。」 「よかった。このテーブルに呼んであるんだ。君に会わせようと思ってね。」 「さすがは、我が船長ってもんですね? …いつも部下を考える。」 舞台から降りてきた女性は、3人の前で踊り始めた。それを見つめる、別の席の男性。 スコットは目を離せない。アルギリス人は再び舞台に戻り、音楽は終わった。 台を叩くスコット。 カーク:「おい、ここじゃ拍手の代わりにライトを使うんだよ。」 中央のライトを明滅させる。 スコット:「いいじゃありませんか、船長。拍手なんて、どんな格好してやっても※4。」 笑う。 どの席もライトを使っている。 女性がカークのテーブルに向かったことを見ている男性。 カーク:「カーラ※5という人だ。」 男性は歩いていった。また、楽器の演奏者の一人※6もこちらを見ている。 スコット:「今夜はすごい霧だけど、私の カーラ:「全然ないわ? …ぜひ聞かせてちょうだい。」 「だったらゆっくり話をしよう。綺麗な女性と霧の中を散歩するのは、最高じゃないかい?」 「ハンサムな紳士とも※7。…参りましょうか?」 笑い、カーラの手を取るスコット。「…構わないでしょ? 出発の時間には戻りますよ?」 カーク:「置いていきやしないよ、ゆっくり楽しんでこい。」 2人は歩いていった。 カーク:「…これで肩の荷が下りた。」 マッコイ:「それは私の方だよ。これは治療の一つだ。…いいか、スコッティが隔壁に投げ出された爆発は、女性のせいだったんだからねえ。」 「とすると結局、肉体的には大丈夫なのか。」 「まあそういうことだ。実際問題としては、無視できない精神的ダメージが引き起こされたのかもしれない。例えば、女性という存在を全て憎むようになってしまう。」 「ここに来て治ったようだがねえ。」 「もちろん専門家の意見としては、船に帰されればアルギリスから引き離されたことで君を恨むだろうさ。だがそうなれば、女性を全て憎むことはなくなるだろうよ?※8」 「じゃとにかく、スコッティに関する限りはこれでいいわけだ。ドクター。」 「ん?」 「いいところがあるんだ…この向かい側にとびきりの女性がいるそうなんだが…」 「わかった、わかってます。よし行こうか?」 笑うカーク。マッコイと共に外へ向かう。 マッコイはグラスを女性※9に返した。 霧が立ちこめる外。 手を叩き、指差すカーク。「こっちだ、ドクター。」 マッコイ:「よし。」 悲鳴が聞こえた。向かう 2人。 倒れた女性がいる。脈を取るマッコイ。「死んでる!※10」 カーク:「刺されてるな、しかも何度も。」 うめき声が聞こえる。 そこには、血のついたナイフを持ったスコットが立っていた。 |
※1: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 パイリスの魔術師」収録「羊のなかの狼」になります ※2: TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」のダンスシーンの音楽 ※3: Argelius 原語では後に「アルギリス2号 (2号星、Argelius II)」と言及されます。アルギリス人=Argelians。初言及 ※4: 原語では「アバディーンの昔からのはしご酒好きに、拍手のやり方なんて教えなくてもいいですよ、船長」。あとの「私の ※5: Kara (タニア・レマーニ Tania Lemani) ※6: 名前は Tark (ジョセフ・バーナード Joseph Bernard 2006年4月に死去) ですが、言及されていません。「ターク」としている日本語資料もあります。声:雨森雅司 (資料では本名の雨森雅夫表記) ※7: 吹き替えでは、スコット「君のうちだったら、落ち着けるんじゃないのかい?」 カーラ「ええ。およろしければ」 ※8: 吹き替えではマッコイの「これは治療の一つだ」の後から、「チャーリーは女性渇望症にかかり暴れて壁に頭をぶつけたぐらいだからねえ」 カーク「とすると結局、神経が冒されたのか」「まあそういうことだ。これが高じてくると女性を求めようという気持ちから、ついにはその反対に女性という存在を憎むようになってしまう」「ここに来て治ったようだがねえ」「それは女性に接することができるようになったから、すでに神経は正常の方向に向かってるさ。…しかし今すぐ船に帰されれば、再発するよ?」。実際は「女性渇望症」という事実はなく、一人の女性に由来する何らかの原因 (部下の機関部員、もしくは振られたなど) による爆発で怪我をし、そのせいで女性を全て嫌うようになったかもしれないという意味 ※9: 給仕する女性 Serving girls (スザンヌ・ロッジ Suzanne Lodge) (マーリス・バーデット Marlys Burdette TOS第49話 "A Piece of the Action" 「宇宙犯罪シンジケート」のクラコの情婦 (Krako's gun moll) 役) セリフなし、ノンクレジット ※10: "She's dead, Jim." |
本編
エンタープライズが軌道上にいる惑星。 『航星日誌、宇宙暦 3614.9※11。我々は、スコットの神経症のため惑星アルギリスに立ち寄った。しかしスコットは、そこで女性殺人容疑を掛けられた。調査に当たったのはこの都市のヘンギスト※12市長だったが、捜査は一向に進まなかった。』 街並み。 部屋にいる男性。「何と申しましょうか、困りましたな惑星アルギリスでこんな事件が起こるとは。」 カーク:「我々も、大きなショックを受けております。」 「私の惑星リーゲル※13にはこのような事件の場合捜査官がたくさんおりますが、ここにはいないんですよ。」 マッコイ:「あなたはここの人じゃないんですか。」 「違います。アルギリスじゃ、行政官はほかの惑星から雇います。…ハ、ここにはあまり優れた人がおりませんでねえ。人がいいばっかりで。スコットさん、スコットさん? これ、これに見覚えはありませんか?」 ナイフを見せるヘンギスト。 スコット:「全然、覚えておりません…。」 「そいつは困りましたねえ。」 カーク:「スコッティ。女と酒場を出たのは覚えているね? …それからどうした。」 スコット:「…私達は、霧の中を歩いた。道が見えず、私が先に歩きました。…そしたら、そしたら後ろで悲鳴が。振り返ったまでは覚えていますが、それからどうなったかはわからないんですよ!」 「スコッティ、思い出すんだ!」 マッコイ:「カーク。……覚えてないと言うなら思い出せるわけがないだろう。」 「しかしことは重大だ、殺人事件だぞ。」 「君はまさかスコッティが。」 「それは調べなきゃわからんよ。」 「じゃ彼らに渡すのか。」 「ドクター、我々には外交関係という大切なことがある。しかも事件は現にこの惑星で起こり、ここの人たちがスコッティを調べたいと言っているんだからねえ。そうするしかあるまい。」 「しかしスコッティは正常な状態じゃないんだ。」 「…それはわかってるよ。」 ヘンギスト:「見込みはありませんね。何も覚えてないと言うんでしたら、しかし私の調べによると凶器にはスコットさんの指紋しか…」 「それはそうですが、酒場にはまだほかの人がいました。しかもスコットとカーラが出てゆく前に、2、3人が外へ出ているんですよ?」 「それは私も聞いておりますし、その人たちにも尋問をしてみました。しかし、一番容疑の深いのはやはり…」 「このような場合の、法律上の処置は。」 声が聞こえた。「アルギリスの法律は、愛です。」 そこにいた男性ザリス※14は、一緒に来た女性の手を取る。 ヘンギスト:「船長、こちらは行政長官です。長官、カーク船長にマッコイ先生です。」 ザリス:「これは私の妻、シーボ※15。」 「こちらがスコットさん。容疑の掛かってる人です。」 「うーん、そのような人には見えませんな。しかし、久方ぶりですね※16。…皆さん、200年昔の我々の黎明期にはこのような事件の真相を知る方法がありました。…一つ、それを使ってみましょう。」 マッコイ:「感情転移※17という方法ですか?」 「ご存知ですか?」 カーク:「ええ、聞いております。なくなったかと思いました。」 「私の妻は、実家が古くから伝わる旧家で今でもその方法を受け継いでいるんです。…皆さん、私のうちまでおいでになりませんか。」 ヘンギスト:「長官、この事件は私の役所で公式に取り扱ったらいかがでしょう。」 「もちろん公式に扱うが、この方法は私のうちでなければやれないんだ。…どうか、私のうちまでおいでになって下さい。家内の力で、真実を明らかにしましょう。…どうぞ。」 ついていく一同。 部屋に入るカーク。「…奥さんの感情転移という方法も結構ですが、しかし何しろスコットは犯行のあったときの記憶を失っているんです。…我々の船で調べるのがいけなかったら、心理分析者をここに呼んで調べてみてはいかがでしょうか。」 マッコイ:「長官、そうすれば特殊な装置でスコットの過去 24時間の行動がわかるんです。」 ヘンギスト:「長官、私はそれには反対です。…これはアルギリスの問題ですよ。」 ザリス:「妻は準備としてしばらくは瞑想しなければなりません。その間に、その心理分析をやってみるのも悪くありませんな。いいでしょう※18。」 カークはコミュニケーターを開いた。「エンタープライズ。」 エンタープライズ。 船長席のスポック。「エンタープライズ、スポックです。」 カーク:「この位置を確認し、心理分析機※19を持ってトレイシー大尉をよこしてくれ。」 チップ状のテープを手にするスポック。「そちらの位置を確認しました。」 カーク:「連絡以上。」 マッコイ:「長官、心理分析をする場合には一対一で行われねばなりませんが。」 ザリス:「うーん、この下に小さな部屋があります。そこでやっていただきましょう。船長、この殺人の恐るべきニュースは市民の間に広がり混乱を招いています。…すでに、他の惑星の宇宙船を締め出せとの声も聞かれるんです。」 酒を注いで渡す。 カーク:「それは残念ですな。…ここの皆さんはいい人ですし、戦略的にもここは宇宙の重要な基地です。」 「それはそうですねえ。付近※20に基地はありません。…では。」 ヘンギスト:「長官、ほかにも容疑者がおりますけどここに呼んで一緒に調べることにしましょう。」 「そうだな、そうしてくれ。この事件に関係のある者は、全員参加させることにしよう。」 向かうヘンギスト。そこに転送されてくる者がおり、目にする。 女性のクルーだ。挨拶を交わすヘンギスト。 トレイシー※21:「船長? トレイシー大尉出頭しました。」 カーク:「大尉、スコットの過去 24時間の行動を調べてもらいたい。」 「はい、どこで行いましょう。」 ザリス:「それでは、こちらへ。大尉さん。」 カーク:「スコッティ、トレイシー大尉に協力するんだぞ。…真相をはっきりさせるんだ。」 スコット:「そうなればいいんですが、こんなことはもうたくさんですよ…!」 向かうスコット、トレイシー、ザリス。 マッコイ:「船長、記憶をなくすからにはよくよくのことがあったんだなあ。」 カーク:「あるいは頭の傷、それが記憶力に何か災いしているんじゃあないかな。」 「もう一つ考えられる。」 「…何だ。」 「ヒステリー症だ。つまり人間はあまりにも強い罪悪感に襲われた場合、自己救済に記憶を失うんだ。」 ザリスが戻ってきて、シーボと手をつなぐ。「用意はいいかね?」 シーボ:「結構です。…ナイフを貸していただけますか?」 「いいとも。人間のほかに妻は関係のあるあらゆる物質から、真相を究明することができます。…お持ちですかな。」 カーク:「ナイフ? …いや。」 「しかしここに置いたんですが、ないんですよ。」 女性の悲鳴。駆け込むザリスたち。 シーボは立ったままだ。 地下の部屋でスコットが意識を失い、そばにトレイシーが倒れていた。 カーク:「スコッティ。」 マッコイ:「…死んでるよ※10。前のと同じだ。」 「ナイフか、何度も刺してるな。」 |
※11: 吹き替えでは「0408.3036」 ※12: ヘンギストさん (ミスター・ヘンギスト) Mr. Hengist (ジョン・フィードラー John Fiedler ドラマ「ミステリーゾーン」(1960, 62)、「事件記者コルチャック」(74〜75) に出演。2005年6月に死去) 声:千葉順二、DVD 補完では後藤哲夫 ※13: ライジェル4号星 Rigel IV 初言及。リーゲルは TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」など ※14: Jaris (チャールズ・マコーリー Charles Macauley TOS第22話 "The Return of the Archons" 「ベータ・スリーの独裁者」のランドルー (Landru) 役。1999年8月に死去) エンサイクロペディアなどでは Jarvis になっていますが、誤り。(行政) 長官=Prefect。胸のマークは、TOS第23話 "A Taste of Armageddon" 「コンピューター戦争」でメア 3号がつけていたものの使い回し。声:寺島幹夫、TNG スコットなど。DVD 補完では大木民夫、旧ST4 スポック、VOY ブースビー、新旧ST2 カーン、旧ST5 サイボック、叛乱 ドアティなど ※15: Sybo (ピラー・スーラット Pilar Seurat 2001年6月に死去) 声:渡辺典子 ※16: 吹き替えでは「病気ならね」 ※17: アルギリス感情接触 Argelian empathic contact ※18: 吹き替えでは、カークの「やってみましょう」というセリフとして訳されています ※19: 心理トライコーダー (心理トリコーダー) psychotricorder もちろん、トリコーダーと同じプロップ ※20: 原語では領域という意味で quadrant と言っていますが、現在では宇宙域の意味で使われる用語 ※21: カレン・トレイシー大尉 Lieutenant Karen Tracy (ヴァージニア・オルドリッジ Virginia Aldridge) ファーストネームは訳出されていません。吹き替えでの階級は「中尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます |
ソファーでうめくスコット。シーボは瞑想を続けている。 ザリス:「お飲みなさい。」 マッコイ:「ああ、ちょっと。」 「アルギリスの気付け薬ですよ。…よく効くし、害はありません。」 「飲んでごらん。」 意識をはっきりさせるスコット。「…大尉。…船長? 大尉は。」 カーク:「トレイシー大尉は殺された。…部屋には君しかいなかった。」 「殺された? でも、私は…」 「何をしてたんだ!」 「私は…腰掛けて…大尉は分析してました。…どうして私はここに?」 「…覚えてるのはそれだけか。」 「何だかわかりません、気を失ったんですよきっと…。」 マッコイ:「頭の傷が、原因かもしれん。」 カーク:「うん。…そうかもしれない。調べてくれ。」 スコット:「船長、私ではありませんよ。本当に私は何にも知らないんです!」 「下の部屋へ降りていく者はいなかった。長官、あそこにはほかに出入口がありますか。」 ザリス:「庭へ出るドアがありますが、長いこと閉めたままです。」 マッコイ:「あるいはそこから。」 カーク:「調べろ。」 戻ってきたヘンギスト。「長官、この 2人は犯行の晩あの酒場にいた人です。」 カーク:「2、3分前はどこにいました?」 「どうしたんですか、船長?」 「また女性が殺された。…地球人です。」 ザリス:「カーラと同じだ。」 ヘンギスト:「ああ…それは、恐ろしいことですね。君は、私の部下に呼ばれたときどこにいた。」 酒場にいた男。「とんでもない、私は人殺しなんかしませんよ。」 ヘンギスト:「…どうやって殺されました?」 カーク:「ナイフですが、それはなくなっています。」 「ああ、犯人を捜せたら。」 「君。…君は酒場のバンドマンだね? 女が踊ってるときにいた。」 バンドマン:「あれにはずーっと昔から踊らせていますよ。…私はあの子の父親です。長官、ここになぜ人殺しが起こるようになったんです。…犯人は必ず探し出さなゃあいけません。罰してやらなければ。」 もう一人の顔を見るカーク。「君は、君はスコットとカーラよりも先に酒場を出たな。」 ザリス:「本当かね? …君は誰だ。」 男:「カンタバ通り※22の、モーラ※23と言います。私は関係がありませんよ。」 カーク:「カーラを知ってるのか。」 バンドマン:「もちろん知っています。婚約していました。…ところが手に負えない奴でして、困ってたんです。娘に、妬いていました。」 ザリス:「…動機は十分にあるな。」 モーラ:「私は殺したりはしません。でも妬いていたのは事実です。愛してたんです。…それなのに、あいつがほかの男のテーブルに行ったから私は我慢できずに先に帰っただけです!」 カーク:「嫉妬は、よく殺人の動機になることです。」 ザリス:「その通りです。…では、感情転移で調べてみることにしましょう。」 モーラ:「私は人殺しなど、しておりません!」 「やがてわかることだ。」 戻ってきたマッコイ。「駄目だな、カーク。ドアを開けたか開けないか、トライコーダーでもはっきりわからない。」 モーラを指差すカーク。「まっすぐうちへ帰ったのか?」 ヘンギスト:「船長、私が質問してもよろしいですか?」 「やって下さいよ、黙ってることはない!」 ザリス:「船長、待って下さい。あなたは自分の部下を助けることにのみ一生懸命になっているように、お見受けするが? …アルギリスは宇宙船の基地です。あなた方は、この惑星が大切だとは思わないんですか?」 「しかし部下が殺人をやるとは、信じられません。有罪の証拠はなし。」 ヘンギスト:「でも、船長状況から考えて下さい。…両方とも死体のそばにはスコットさんしかいませんし、覚えてないの一点張りです。」 シーボ:「用意ができました。」 ザリス:「皆さん、かけて下さい。」 カーク:「ああ、お願いです。長官、人が スイッチを操作するザリス。全てのドアが閉まっていく。 ザリス:「これで完全です。」 スコット:「船長、こんな昔の儀式で有罪か無罪かを決めるんですか?」 呼び出しに応えるカーク。「カークだ。」 スポック:『スポックです、ちょっとお話が。』 「よし、ちょっと失礼します。」 隅に向かうカーク。「何だ、スポック。」 スポック:「そちらの状況を聞いてから考えましたが、私の意見ではアルギリスの感情転移というのも結構だとは思いますが、人命を左右するほど確かなものではないと思います。」 カーク:「それでどうしろと言うんだ。」 スポック:「我々がここにもっている分析機を使い、コンピューターを通じてはっきりさせたらいかがでしょう。」 カーク:「…ここの人にはそれなりの習わしと法律がある。ここにいる限りそれに従うことだよ。アルギリス人の法律によって、この事件は解決されなければならない。わかるな。」 スポック:「はい、わかりました。」 カーク:「…私もこんなことはしたくない、しかしそうするしかないんだ。以上だ。」 炎※24。 その周りを取り囲む一同。 シーボ:「では、始めます。この輪を崩さないで下さい。」 みな手をつないでいる。「そして皆様は、祭壇に燃える真実の炎に集中すること。」 シーボは目をつぶっている。「そうです、ここには何かあります。何か恐ろしいものが、うごめいています。恐怖、怒り、憎しみ。それは炎をむさぼる。ああ、ああ。ここには悪魔がいます。恐ろしい悪魔がいます。…渇望する心、生きている憎しみ。女性への飢えと憎しみ。…それは、それは不死身です! それは強く、耐え切れぬ太古の恐怖。…その名前は、ベラティス※25、ケスラ※26、レジャック※27! 光と、命をむさぼる。永遠にそれは渇望する! レジャック! レジャック!」 部屋が暗くなる。続く叫び声。 ライトがついた。目を見張るザリスたち。 その前で、シーボをスコットが支えていた。シーボの目は見開かれたままだ。 倒れるシーボ。その背中には、ナイフが突き刺さっていた。 スコットの手には、血。 カークは言った。「3人目だ。その度にスコッティだけがそばに。」 マッコイ:「確かに状況からするとその通りだがね。スコッティがこんなことをするわけがない。」 「普通じゃあね。しかし頭の傷が。」 スコット:「違いますよ。」 「私は困った。今度も記憶がないのか。」 ヘンギスト:「船長の言うとおり、スコットさんがやったことに間違いありません!」 「しかし病人だ。」 「証拠がありません。」 「それは証明できる、診察すれば。」 頭を押さえていたザリス。「皆さん! 静かに。…一体、誰がこんな残虐なことをしているんですか。」 カーク:「ですからそれを調べるんです。」 「スコットさん。」 スコット:「だから私ではありません。奥さんも、ほかの女性も殺してはいません!」 ヘンギスト:「自分がやったかどうかわからないだけですよ。…記憶喪失症です!」 カーク:「ヘンギストさん。…我々の宇宙船にはスコットの考えていることや潜在知識を詳しく調べてくれる、特殊な装置があります。…それにかければ、過去のこともはっきりしてきます。」 マッコイ:「宇宙船に行きましょう。…結局は、我々が求めているものはたった一つです。…真実ですよ。」 ザリス:「あなたは、本当に殺人のことを覚えてないと言うんですね。」 スコット:「はい。」 「それだったら、知らずに殺しているのかもしれません。…機械が教えてくれると言うんですね?」 カーク:「はっきりと、真相をね。」 「結構です。船へ参りましょう。そしてもし有罪ならば、こちらへ渡していただきます。昔から伝わる法律で裁きます。…それによれば、人殺しは拷問にかけた上死刑にします。法律は変わっていません。…おわかりでしょうな、スコットさん。」 スコット:「はい。わかっています。」 |
※22: Cantaba Street ※23: Morla (チャールズ・ディアコップ Charles Dierkop) 声:嶋俊介、TOS カイル、ムベンガ、旧ST5 マッコイなど。DVD 補完では小形満 ※24: TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」のライジェル7号星の音楽が使われていますが、新たに録音されたもの ※25: Beratis ※26: Kesla ※27: Redjac |
エンタープライズ。 『航星日誌、3615.4※28。スコットが殺人の容疑をかけられ、捜査はエンタープライズ※29で続けられることになった。』 ※30カーク:「証人は、この椅子に座ってここに手を置くように。…証言が事実と反した場合はただちに検知され…ここにあるコンピューターを通して、我々に知らされるようになっています。…ドクター・マッコイがスコットを診察した結果は既に入力済み。凶器は専門家に、分析させ…そのデータが入力されます※31。…では、早速始めましょう。」 会議室でうなずくザリス。 カーク:「スコット、君からだ。」 スイッチを入れる。「コンピューター、証人の確認。」 コンピューター※32:『回答、証人スコット少佐。ID番号、SE-19754-T※33。本人確認。』 「証人の健康状態は。」 『回答。容疑者の頭部に、最近強打された傷あり。外傷は治ったが、末梢神経に異常が見られる。』 「その末梢神経の異常というのは、記憶喪失の原因になりうるのか。」 『回答、なりえない。』 驚く一同。 マッコイ:「カーク、どういうことなんだ?」 カーク:「スコッティは本当に記憶がないのだろうか。」 スコット:「嘘じゃありませんよ。2件の事件に関しては何も覚えてないんです。」 「コンピューター、信憑性は。」 コンピューター:『証人の発言、真実。生理機能※34に、異常認められず。』 スコット:「船長、ミスター・ザリスの奥さんが殺されたときのことは覚えてます。」 カーク:「…よし、スコッティ。何があった。」 「みんなで手を握っていたら、明かりが消えて輪が崩れました。…その時、あの人の悲鳴が聞こえたのでとっさに駆け寄ろうとしたんですが…何かに、遮られたんです。」 「それは、人じゃないのか。」 「違います。あれは、人間じゃあない。…ひどく冷たくて、ムッとするような血生ぐさい臭いがしました。でも手を伸ばすと、何もないんです。まるで…わかりますよね。」 「コンピューター。」 コンピューター:『証人の発言、真実。生理機能に、異常認められず。』 「よかろう。ではもう一度聞く。スコッティ、シーボを殺したか。」 スコット:「殺してません! それは確かです!」 ヘンギスト:「前と同じじゃありませんか、そんな機械は当てになりません。」 カーク:「よーし嘘を言ってみろ、いくつだ。」 スコット:「ああ、22歳です。」 手を置いている場所が光った。 コンピューター:『不正確、不正確。発言に、誤りあり。』 黙るヘンギスト。 カーク:「明かりが消えた後だが、誰が手を握っていた?」 スコット:「片っぽはモーラ、片っぽは船長です。」 モーラ:「それは関係のないことです。あそこで明かりが消えた途端に、みんなは手を離したんですから。」 ヘンギスト:「スコットさんに間違いありませんよ、そばに立ってたしナイフは…」 ザリスを見る。「すいません、言わせて下さい。ナイフは刺さって手に血がついてました。」 カーク:「しかし殺さなかったと言ったとき、コンピューターはそれを認めてる。」 「ほかの 2件についちゃどうです。」 「スコット。…カーラを殺したか。」 スコット:「…覚えていません。」 「ではトレイシー大尉は。」 「…覚えていないんです!」 「コンピューター、信憑性を。」 コンピューター:『証人の発言、真実。…生理機能に、異常認められず。』※35 ザリス:「コンピューターはスコットさんが覚えてないと言えば、それは真実だと言うだけですな。」 ヘンギスト:「これじゃらちがあきませんな。」 カーク:「しかしここで証言が終わった後、心理分析機によって綿密にスコットの記憶を調べますし、そうすれば覚えていないことも明らかになってきます。それでしたら御満足でしょう?」 「それはその心理分析機というのに間違いがなくて、本当に真相が出てくればね。」 「間違いありません。全てのことが、明らかになります。…スコットは、元へ戻ってよし。反対はありませんね?」 「私はこんなことはどうも。」 ザリス:「ヘンギスト、私が承認してることだ。…協力するんだよ。」 「長官、それはわかってますがしかし私に言わせれば…」 「しばらくの間は機械が正確なものと信じて、船長の言うとおりに従おうじゃないかね。…しかしながら、最終的な決定はこの私にさせてもらいます。」 カーク:「それで結構です。…モーラさん、座って下さい。」 テープを入れ、証言席につくモーラ。 カーク:「カーラが殺されたとき、どこにいました?」 モーラ:「さあね。…うちへ帰る、途中だったでしょ。カッカしてましたから。」 スポック:「もしそれが激しい怒りであれば、殺人の動機になり得ます。」 「どんなに怒っても私は人殺しまではしません! …嘘じゃありませんよ? 私はカーラを殺しちゃいません。…私とカーラは、愛し合っていました。」 バンドマン:「そんなバカなことが! …奴が娘を好きだと言っても、娘は違う。あの子は惚れていなかった。…本人が言ったんだから間違いない。…モーラは嫉妬していつだって、2人でケンカしてたんです。」 カーク:「トレイシー大尉を殺したか。」 モーラ:「いいえ。」 「シーボを殺したか。」 「いいえ。」 「コンピューター、信憑性を。」 コンピューター:『容疑者の発言は、最初から最終まで真実。生理機能に、異常は認められず。』 「モーラさん、元に戻って結構ですよ。」 スイッチを切るカーク。「シーボは、妙なことを言っていたな。恐怖とか、死を…むさぼる。確かそうだった。…スポックこれは案外当たっているんじゃないかな? ここで仮にシーボが、本当に何か悪魔を本当に感じ取ったとしたらどうだろう。」 スポック:「アルギリスの女性の感覚は昔から優れていると、言われています。」 ザリス:「そうです、家内の直感は特に優れておりました。あれの言うことは、本当のことです。」 カーク:「それでは、正確に何と言っていましたっけ。『悪魔』とか、『太古の恐怖』とか。」 マッコイ:「その悪魔は『光と命を、むさぼる。』」 「ほかに意味のわからない言葉を並べていたね。」 「そうだ、『レジャック』。『ベラティス』、それから…『ケスラ』。」 「わからんな、初耳だよ。」 スポック:「でしたらそれを、コンピューターに聞けば?」 「そうだ。スポック、聞いてくれ。」 「コンピューター、言葉のバンク。…次の言葉の定義を。レジャック。」 コンピューター:『…回答、その言葉はなし。』 「こういう言葉はコンピューターには、蓄えられていないのか。」 『肯定。』 「固有名詞のバンクには。」 『回答、存在する。固有名詞。』 「定義。」 『レジャック。語源、地球。19世紀。言語、英語。女性殺しの、ニックネーム。別のニックネーム、切り裂きジャック※36。』 カーク:「……切り裂きジャック。」 ヘンギスト:「そんなバカな、数百年昔の人だ!」 バンドマン:「人間が何百年も生きられるはずありませんよ。」 ザリス:「確か家内は死ぬ前に、こう言いました。『それは、永遠に渇望する』ものだと。」 「しかし人間は死ぬものです。」 カーク:「そうです、全ての人間は死ぬし切り裂きジャックも人間だったら死んでいます。しかしあらゆる点から考えて、切り裂きジャックに符合します。こんなことはありうるんでしょうか、どうです! どうかね。」 スポック:「切り裂きジャックを、人間と考えれば彼が今生きているとは考えられません。しかし宇宙には人間より、長生きする生物がおりますから? …それだとすればね。」 「これまでの状況から考えて、殺した犯人は人間とは考えられない。あの神業は、人間以外のものに違いない。」 マッコイ:「死をむさぼり食うとか言ってたね。」 スポック:「その点では人間も同じですよ、我々は何でも殺して食べるんです※37。」 「それはそうだけど、死だけではない。恐怖もだ。…恐怖も食べる生物だ。」 「とすれば、それは人間以外の生物ということになりますね。…宇宙には感情を食べる生物が、いないわけではありません。いるとすれば最も強い感情、すなわち恐怖を食べると考えられます。」 ヘンギスト:「こんなことじゃ切りがありませんよ、誰かがつまり人間が 3人を殺してるんです。その容疑者も手元にいるんです! …なのに幽霊のせいにするんですか?」 カーク:「…いえ、それは幽霊ではありませんよ。人間でも幽霊でもない。スポック、可能性を追求してくれ。」 スポック:「コンピューター、我々の過去 5分間の話を総合し、関連させながら生物の形態について答えてもらいたい。質問、この銀河系には感情を栄養源として生きている生物がいるか?」 コンピューター:『惑星アルファ・カリーナ5号※38のドレラ※39は、愛の感情を栄養源にして生きている。…このような生物が存在する限りにおいて、恐怖の感情を栄養源にして生きている生物もいるはず。』 「コンピューター、そのような生物はどんな形をして生きているのか。」 『回答、普段は空気のような状態だが活動期は他の生物や形あるものに入り込むことができる。…大抵の場合、エネルギーの塊で非常に移動性に富んでいるのが特徴である。』 カーク:「コンピューター、それは形のある生物でもなることができるだろうか。」 『形になりうる。その例、アルファ・マジョリス1号※40の雲のようなメリタス※41がそれ。』 ヘンギスト:「バカバカしい、まるでおとぎ話だ!」 カーク:「いやあ私は実際に、メリタスを見た。普通の状態では、ガスのようだ。だが必要なら、形になる。…スポック、そういう生物が存在すると考えなければならんね?」 スポック:「そうです、実際に女殺しの切り裂きジャックは人の大勢いるところで女を殺しながら、目撃者が出ないんです。」 「姿がないんだな?」 「私の考えでは催眠スクリーンの可能性があります。被害者以外の全員には、犯人の存在が目に見えないかと※42。」 ザリス:「いやあ、しかしそんなことが。」 マッコイ:「ありえますとも。自然界にはそういう例がいくつかありますよ。」 ヘンギスト:「それは空想の世界ですよ、いまここに犯人がいるっていうのに雲をつかむような話だ。ああ、そんなこと言うのは…」 ザリス:「私はこのままコンピューターで、捜査を続けてもらいたいと思うんだ。君は座っていなさい。」 カーク:「…するとこういうことになる。…形のない生物で、それは恐怖という感情を食べる。そしてそれは人を殺すときには、形になる。」 スポック:「そして女性の方が男性よりも一層恐怖感をもちやすいから、女性を獲物にするのです。さらに最後には被害者の女性を殺してしまうんです。」 「コンピューター、犯罪史を調べてくれ。…切り裂きジャック以来、未解決の女性大量殺人事件を挙げてくれ。」 コンピューター:『回答、1932年、地球、中国、上海※43。7名、ナイフで刺される。1974年、地球、ソヴィエト、キエフ。5名、ナイフで刺される。…2105年、火星コロニー※44。8名の女性、ナイフで刺される。2156年、ヘリオポリス※45、アルファ・エリダニ2号※46。10名※47、ナイフで刺される。ほかに、多数の例あり。』 スポック:「船長、今の惑星はこのアルギリスと地球の間に一直線に並んでいます。」 カーク:「そうだ。我々が銀河系を動く度に、それは我々の後をついてくるんだ。コンピューター、固有名詞を探してもらいたい。ケスラと、それからベラティス。」 コンピューター:『回答。ケスラ、惑星デノーブ2号※48における未解決女性殺人事件犯※49のニックネーム。ベラティス、惑星リーゲル4号における未解決女性殺人犯のニックネーム。追加データ。リーゲル4号では、一年前に※50女性殺人事件発生。』 ヘンギストを見るカークとスポック。 カーク:「…リーゲル4号の人だね?」 ヘンギスト:「私のほかにたくさん来てますよ…?」 「しかしここでは君一人だ。…容疑者の椅子に座ってもらいましょうか?」 「嫌ですよ、そんな。」 ザリス:「協力するんだ。」 「おかしな話じゃありませんか、私があれに座るなんて。」 スポック:「あなたはここの市長さんですね、言わば全体を治める立場です。したがってあなたがその生物とすれば、ここの人々の盲点になるわけです。…違いますかな?」 マッコイ:「あなたが長官の家を出たときに、ナイフがなくなっていましたよ。」 カーク:「そしてその後すぐトレイシーが殺されたんだ。」 スポック:「…しかもその生物が恐怖を探すのは、ここがこのアルギリスが絶好の惑星だからです。快楽の惑星であり、ヒツジのようにおとなしい人しかおりません。…生物は言わばヒツジの群れに潜り込んだ、オオカミなのです。」 ヘンギスト:「だから私が犯人だなんて、ただ憶測してるだけじゃありませんか。」 カーク:「まあね。…スポック。凶器を調べろ。」 スポック:「コンピューター、凶器の分析結果の報告を。」 コンピューター:『回答、凶器の構成物質。』 モニターにナイフが表示される。『刃の部分は、ブリジウム※51よりなり。柄の部分の物質は、ミュリナイト※52。製造したる場所については柄のカーブと刃のカーブにより、探知することができる。』 「どこだ、製造の場所は。」 『アルガス川地方※53の人によって、作られた物。リーゲル4号。』 カーク:「…椅子に座りなさい。」 逃げ出そうとするヘンギスト。マッコイやスコットを押しのけ、カークに飛び蹴りした。 だが逆に殴られ、倒れた。 脈を取るマッコイ。「死んでるよ※54。」 カーク:「そんなことはない。」 ライトが暗くなった。 声が響く。『レジャック、レジャック、レジャック、レジャック…』 笑い声が消えない。 スポック:「コンピューターは言うことを聞かない。…生物に牛耳られてしまったのかもしれません。」 カーク:「すると宇宙船を、自由にされてしまうぞ。」 |
※28: 吹き替えでは「0408.3036-2」と、珍しい言い方になっています ※29: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※30: TOS の旧国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (CS版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です。この個所の旧吹き替えは全く異なった訳し方になっており、詳細は脚注※35 を参照 ※31: 吹き替えでは「そのデータを入力してあります」 ※32: コンピューター音声 Computer voice (メイジェル・バレット Majel Barrett) ノンクレジット。スコットが入れたテープが、アップの映像では消えています。声:DVD 補完では山川亜弥 ※33: "SE" の部分は訳出されていません ※34: 吹き替えでは「脈拍」となっていますが、明らかにもっと様々な要素から判断しているものと思われます ※35: 旧吹き替えではカットに伴い、前の航星日誌からここまでの間は全て日誌が続いています。映像的にはカットされていない途中の白字の部分も含め、カットの部分を説明したいわゆる「ナレーションベース」です。最後のコンピューターは映像と合っていますが、その他は次のように訳されています。『航星日誌、宇宙暦 0408.3036-2。惑星アルギリスにおける連続女性殺人事件の犯人捜査は、エンタープライズ号のコンピュータールームで行われることになった。このコンピューターには、あらゆるデータが記憶されている。そしてその判断によるとチャーリーの発言は全て真実であると結論づけられ、彼の記憶喪失は証明された。しかし第3 のザリス長官夫人シーボ殺害に関して、チャーリーはおぼろげながらある感覚的記憶をもっていたのである。それによるとチャーリーは例の儀式の最中、手を握り合っていた輪が光が消えた途端に崩れ、彼女の悲鳴が聞こえたのでその方向へ向かった。そうしたらそこで何かにぶつかったが、それは人間でもなければ形のあるものでもなく、何か生ぬるい感じのもの。血の臭いを発する、空気のように触覚によって感知することのできないものだったと言うのである。』 コンピューター『容疑者の発言、真実。脈拍に、異常認められず』。実際にはこの部屋は「コンピュータールーム」ではなく会議室です。LD では「ID番号」の辺りまでこの吹き替えのまま使われ、その後で原語+字幕になります ※36: Jack the Ripper 1888年、イギリスで起きた事件の殺人犯。吹き替えでは「ジャック・リパー」 ※37: 原語では「ベジタリアンであっても」とも言っています ※38: りゅうこつ座アルファ5号星 Alpha Carinae V アルファ・カリーナは別名カノープス、TOS第2話 "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」など ※39: drella ※40: アルファ・マジョリス1号星 Alpha Majoris I 実際には「マジョリス」だけで表される星座は存在せず、Alpha Canis Majoris (おおいぬ座アルファ=シリウス) と Alpha Ursae Majoris (おおぐま座アルファ=ドゥーベ) ならあります ※41: mellitus ※42: 吹き替えでは「と言うより私の考えでは、犯行の一瞬の間被害者以外を何かにしてしまうんではないかと」。これでは文意が通じない上、「何か」の直後に音声をカットしてつないだような形跡が聞き取れます (特に旧吹き替えだと顕著)。"blinds" に相当する語句を消した可能性があります ※43: 吹き替えでは「 ※44: Martian Colonies TOS第15話 "Court Martial" 「宇宙軍法会議」より。吹き替えでは「マルチアン」 ※45: Heliopolis ※46: エリダヌス座アルファ2号星 Alpha Eridani II アルファ・エリダニは別名アナルケル。一部資料では「アルファ・プロキシマ2号星 (Alpha Proxima II)」となっています ※47: 吹き替えでは「2名」 ※48: デネブ2号星 Deneb II デノーブは、はくちょう座アルファ星。初言及 ※49: 吹き替えでは「犯」は訳出されていません ※50: 吹き替えでは「一年前に再び」 ※51: boridium 初言及 ※52: murinite 吹き替えでは「ユリナイト」とも聞こえます ※53: Argus River region ※54: "He's dead, Jim." |
響き続ける笑い声。『レジャック、レジャック、レジャック、レジャック…』 マッコイはヘンギストの遺体を運ぶ。「手を貸してくれ。」 スポック:「駄目です、回路をふさがれてます。」 カーク:「オーディオを切ってくれ。」 スコット:「船長。」 モニターに、色とりどりの雲のようなものが映っている。 船長付下士官※55:「どうしたんでしょう…」 ザリス:「どうする気でしょう。」 カーク:「生物は、生命維持装置を含む全ての装置を自由に操作することができます。」 モーラ:「我々を殺す気ですか?」 スポック:「それにはまだ間があるでしょうね、生物は恐怖を食べるのです。それにこの宇宙船には 400人以上※56の人が乗っています。全員の恐怖を食べるには時間がかかりますよ。」 カーク:「船長より、全員に告ぐ。部署を離れるな、心配はない。以上だ。ドクター。精神弛緩剤はあるか。」 マッコイ:「たくさんあるよ? 全員を陽気にさせるぐらい、たっぷりあるはずだ。」 「よし。ただちに全員に打ってくれ。…全員が恐怖心を抱かなければ、その間にコンピューターから追い出すことができる。長官、ここにいれば安全です。…スポック、来てくれ。」 廊下を歩くカーク。「コンピューターに、数学の問題を解くように分析機が組み込んであるな?」 スポック:「ええ、でも生物に握られてしまっているから。」 「何かコンピューターでも簡単に解けない数学の問題はないかな。」 「あります。そしたらコンピューターはそれに集中しますね?」 「そういうわけだ。」 2人がターボリフトに入りきる前に、ドアが閉まりそうになった。 カーク:「危ない!」 スポック:「明らかにあの生物の仕業です。」 「らしいな。ブリッジ。」 「…降下※57してます!」 「手動に切り換える。」 動きが止まり、上に移動し始めた。 カーク:「ブリッジ。」 ブザーが響く。「次は生命維持装置でやられるぞ。」 スポック:「急がなきゃなりませんね。」 「だがすぐにはやらん。欲しいのは死ではなく恐怖心だ。」 到着した。 ブリッジに入る 2人。 スールー:「船長、生命維持装置がおかしいんです。」 修理が続いている様子を見ている、レズリーとハドレイ。 カーク:「よーし、部署についていろ。」 「はい。」 レジャック:『カーク船長、船長。何をしても無駄だぞ…』 カーク:「スイッチを切れ。」 『この宇宙船の者はやがてみんな死んでしまうんだぞ…』 笑うレジャック。 「おい、スイッチを切れ!」 スールー:「こんなに操作が効かないのは初めてですよ。」 「手動に切り換えろ。…全て手動に切り換えろ。」 「はい。」 回路に触れるスポック。 カーク:「…どうだ。」 スポック:「今のところは普通の状態に戻っていますが、長くは続きません。せいぜい 2、3時間です。」 「それだけあればよかろう。よし、やろう。」 パネルが閉じられた。 スールー:「どうするんです。」 カーク:「任せとけ。」 やってきた看護婦※58に尋ねるカーク。「弛緩剤か。」 看護婦:「そうです。」 「全員に打ってやれ。」 「はい。」 レジャック:『声を止めることはできない、何をしても無駄だ。…全ての回路を握っているのだ、黙らせようとしてもここまでは入って来れまい。手動式に切り換えてもそれには自ずから限界があるぞ。』 カーク:「スポック。」 スポック:「やっておりますが少し時間がかかります。」 「そうだろうな。」 レジャック:『やがて私が宇宙船を支配することになる。どんなに妨害しようとしてもそれは無駄だ…』 「宇宙船を破壊すればお前も破壊されるぞ!」 笑い声が強くなる。『私は死ぬことはない、この世に宇宙が生まれたときからそれが終わるまで生きていけるのだ!』 クルーにハイポスプレーを使っていく看護婦。打たれた士官は笑う。 レジャック:『その間は、お前たちの恐怖心を食い尽くしてやる。今度はナイフなど使わんぞ? このまま殺せるのだ!』 スポック:「さかんに恐怖心を煽っていますね。」 『ここから酸素をなくし窒息させてやる…』 ハイポスプレーを打たれるスールー。「船長、面白いですね。まるで地獄の声のようだ。」 立ち上がろうとするのを押さえるカーク。「部署についていろ。…ほかの部署も駄目になったらすぐに手動に切り換えてくれ。…いいか、恐れるなよ。」 笑うスールー。「薬をたくさん打ってるんです、怪物が現れたって※59怖くありませんよ…。」 一緒に笑う看護婦。 スポック:「完了。」 カーク:「やれ。」 「コンピューター、今度は数学の問題を解いてもらいたい。…円周率※60を最後まで、計算してもらいたいんだ。」 動き出すコンピューター。 レジャック:『いかん、いかん、いかん、いかん!』 スポック:「ご存知のように円周率の計算は、いつまで経っても終わることがありません。…コンピューターは全てその方に働き、ほかの方の働きを一切やめてしまいますからね。」 カーク:「そうすればコンピューターを悪用されずに済むな? アルギリス人が怖がっているだろう、行ってやらなければ。」 スポックも向かう。 スールー:「恐ろしいどころか愉快でしょうがないなあ…」 笑うクルーたち。 会議室に戻る 2人。 スコット:「船長…」 笑う。 カーク:「しかしコンピューターは、一つの問題だけをそんなに長い時間解こうとするだろうか。」 スポック:「抵抗はあるでしょうが、その試行は続けますよ。次から次へと、バンクに渡されて。」 マッコイ:「コンピューターから出たらどこかほかに現れるぞ?」 カーク:「薬はどうした。」 「もう後私と長官だけだ。」 レジャックの笑い声。ライトが少し暗くなったが、元に戻った。 動かなくなるザリスに、誰も気づかない。 スポック:「コンピューターが完全になりました。生物は出たようです。」 カーク:「どこへ行ったのかな。ドクター、弛緩剤を打ってない人の身体に入り込む可能性はあるかな?」 マッコイ:「あるとも、そうすりゃその人間は暴れ出す。」 「まだ打ってないのは君と長官だけか。」 「君もスポックもまだだ。」 「いや、私はこのままでいないと困るんだよ。君は打った方がいいぞ。」 「いや、私もこのままでいた方がいい。」 「命令だ。」 自分で使うマッコイ。すぐに笑い出す。 カーク:「長官、腕を出して…」 ザリスの声は変わっていた。「いかん、いかん、いかん! お前たちみんなを殺してやるぞ!」 ヴァルカン首つかみでザリスを倒すスポック。 すると直後、ヘンギストがまた動き出した。船長付下士官をナイフで羽交い締めにする。「みんな近寄るな、近寄るとこの女を殺してやるぞ。近寄るな!」 それでも笑う下士官。 マッコイ:「やめとけ危ないぞ、そんな物を振り回しちゃ。」 離された船長付下士官をつかむマッコイ。 カークはヘンギストを投げた。 ヘンギスト:「殺してやるぞ!」 スポックにハイポスプレーを使わながらも笑い続ける。「みんな殺してやるぞ。」 カーク:「転送室へ連れて行こう。」 「みんな…殺すぞ、殺すぞ、殺すぞみんな…。」 運ばれるヘンギスト。「殺してやる…殺してやる、殺してやる。」 その様子を廊下のクルーが微笑んで見ている。 転送室に運ばれるヘンギスト。「みんな殺してやる…」 カーク:「最大距離だ。フルパワーで最大限※61に分解し転送する。」 カイル※62:「ハハ、大丈夫ですよ船長? 任せて下さい…。」 コンソールを適当にいじる。 「スポック、やれ。」 ヘンギスト:「…みんな殺してやるぞ…」 カイルを押しのけるスポック。 ヘンギスト:「今に見ていろよ…」 転送されるヘンギスト。 カイル:「あんた、余計な御節介だぜ。ここは私の部署だ…。」 マッコイがやってきた。「長官は無事だったよ…。」 スコット:「…怪物はどうしました、惑星に送り返したんですか…?」 カーク:「いや、宇宙の彼方遠くへ転送したよ。しかも最大限※61にバラした。」 マッコイ:「でも死にゃあしないぞ?」 スポック:「かもしれないけど当分はあの意識のままが続くし、何十億というエネルギー※63に分かれたままで永遠に宇宙の中を浮遊するんだ。」 大きく笑うスコット。 カーク:「死んだも同じことだよ。…だいぶ御機嫌のようだね、スコッティ。」 スコット:「当たり前ですよ…私の無実がやっと晴れたんですからね…。」 「ドクター、この弛緩剤はいつまで効いてるんだ?」 マッコイ:「…さあね。5、6時間だろうな? みんなたっぷり注射したから…。」 「そういうことだな? …スポック、これから 5、6時間はみんな揃って御機嫌だ。これじゃ仕事にならんな?」 スポック:「船長、アルギリスへは休暇で来たんです。このチャンスを利用したらいかがでしょうね。」 「そうだ、それには思いつかなかった。いいアイデアだ。ああ知ってるところがあるんだがね、女の人がいて…」 マッコイ:「ああ、行こう行こう。」 スコット:「はいはい早く早く船長…」 カーク:「あんまりバカな真似をするんじゃないぞ? ミスター・スポック、とにかくブロンドの素晴らしく可愛い…」 スポックはカークを無言で見る。 カーク:「ああ。君は興味ないか。…では。」 外へ向かう。「行きましょう?」 みな、笑うカイルを残して出ていった。 |
※55: 名前は Tankris 船長付下士官 (世話係、秘書) Yeoman Tankris (ジュディ・マコンネル Judy McConnell) ですが、言及されていません。「タンクリス」としている資料もあります ※56: 原語では「440人近く」 ※57: 原語では「自然落下」 ※58: Nurse (ジュディ・シャーヴェン Judi Sherven) ※59: 原語では「超新星だって」 ※60: pi (π) ※61: 吹き替えでは「分子」 ※62: Kyle クレジットでは転送部長 Transporter Chief (ジョン・ウィンストン John Winston) 前話 "The Doomsday Machine" 「宇宙の巨大怪獣」に引き続き登場。ウィンストンは資料によっては、ノンクレジットでアルギリス人バーテンダー (Argelian bartender) を兼任していることになっていますが、未確認 ※63: 吹き替えでは「エネルギーは何十億という分子」 |
感想など
ヒッチコックの「サイコ」の原作者として知られる、ロバート・ブロックによる脚本の一つ。ほかにも切り裂きジャックを扱った作品を手がけており、「スリラー劇場」のエピソードにもなっています。スコットに主眼が置かれる珍しい話ですが、ジャック・ザ・リパーはイギリスなのでまさに打ってつけと言えるでしょうか。ほかにも登場人物がたくさん登場していかにも謎解きもののテイストになっていたり、コンピューターのセリフがとても多かったり、きちんと謎を提示するためか旧吹き替えでも中盤まで全くカットがなかったり、それに付随して本来の音声に被せてナレーションで説明する手法が取られていたり、最後は一転してシュールな笑いが見え隠れしたり、毛色が変わってますね。 今回の件は TNG にスコッティが登場した際にも触れられてましたね。原題は劇中でもスポックが使っていますが、バイロン卿の詩「セナケリブの破壊」の冒頭 ("The Assyrian came down like the wolf in the fold.") から。邦題は「アルギリウス」という表記も見受けられます。 |
第35話 "The Doomsday Machine" 「宇宙の巨大怪獣」 | 第37話 "The Changeling" 「超小型宇宙船ノーマッドの謎」 |